(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051163
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】回転検出器
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
G01D5/245 W
G01D5/245 110M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161665
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521251039
【氏名又は名称】小関 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】小関 栄男
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA43
2F077CC02
2F077NN04
2F077NN17
2F077PP13
(57)【要約】
【課題】複数の磁界発生源を用いて高周期の交番磁界を効率よく磁性ワイヤに印加することにより小型化が図られた回転検出器を提供する。
【解決手段】回転検出器100は、回転体110の回転運動を、1つの発電センサ120を用いて検出する。発電センサは磁性ワイヤ121とコイル122とを備え、磁性ワイヤは回転体の半径方向に配置され、回転体は支持体111と複数の磁界発生源112とを備え、複数の磁界発生源の各々は、着磁方向が回転体の回転軸方向と平行で、隣り合う2つの磁界発生源の着磁方向が異なり、磁界発生源は、磁性ワイヤに近接したときに、磁性ワイヤの中央部121aから第1端部121bまでのうち、少なくとも一部の領域と回転軸方向に対向し、磁性ワイヤに近接している磁界発生源の、支持体への取付け面は、磁性ワイヤの第2端部121c側にある。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転運動を、1つの発電センサを用いて検出する回転検出器であって、
前記発電センサは、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを備え、
前記磁性ワイヤは、前記回転体の半径方向に配置され、
前記回転体は、軟磁性体から成る1つの支持体と、前記支持体に対して周方向等間隔に取り付けられた複数の磁界発生源とを備え、
前記複数の磁界発生源の各々は、N極及びS極の対を有し、着磁方向が前記回転体の回転軸方向と平行で、隣り合う2つの前記磁界発生源の着磁方向が異なり、
前記複数の磁界発生源の回転軌跡の外周側直径は、前記磁性ワイヤの長さよりも大きく、前記磁界発生源は、前記磁性ワイヤに近接したときに、前記磁性ワイヤの軸方向中央部から軸方向第1端部までのうち、少なくとも一部の領域と回転軸方向に対向し、
前記磁性ワイヤに近接している前記磁界発生源の、前記支持体への取付け面は、前記磁性ワイヤの軸方向第2端部側にあり、
前記磁性ワイヤに近接している前記磁界発生源の前記支持体への取付け面から当該磁界発生源へと向かう方向は、前記磁性ワイヤの前記軸方向第2端部から前記軸方向第1端部へと向かう方向と同じである、
回転検出器。
【請求項2】
前記支持体が径方向に突出したつば部を備える、請求項1に記載の回転検出器。
【請求項3】
前記磁性ワイヤが、前記回転体の回転軸と交差するように配置されている、請求項1に記載の回転検出器。
【請求項4】
前記複数の磁界発生源が、同じ形状の複数の磁石である、請求項1に記載の回転検出器。
【請求項5】
前記複数の磁界発生源が、リング状の硬磁性体が多極着磁されてなる1つの磁石である、請求項1に記載の回転検出器。
【請求項6】
前記発電センサから信号が出力されたときの前記磁界発生源からの磁界を検出する磁気センサと、
前記発電センサ及び前記磁気センサが出力する信号に基づき、前記回転体の回転数及び回転方向を求める回路と
をさらに備える請求項1に記載の回転検出器。
【請求項7】
前記発電センサと前記磁気センサと前記回路とが同一基板に搭載されている、請求項6に記載の回転検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電センサを用いて回転体の回転運動を検出する回転検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
大バルクハウゼン効果(大バルクハウゼンジャンプ)を有する磁性ワイヤは、ウィーガンドワイヤ又はパルスワイヤの名で知られている。この磁性ワイヤは、芯部とその芯部を取り囲むように設けられた表皮部とを備えている。芯部及び表皮部の一方は弱い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト(軟磁性)層であり、芯部及び表皮部の他方は強い磁界を与えないと磁化方向が反転しないハード(硬磁性)層である。
ハード層とソフト層がワイヤの軸方向に沿って同じ向きに磁化されているときに、その磁化方向とは反対方向の外部磁界強度が増加してソフト層の磁化方向が反転する磁界強度に達すると、ソフト層の磁化方向が反転する。このとき、大バルクハウゼン効果が発現し、当該磁性ワイヤに巻かれたコイルにパルス信号が誘発される。ソフト層の磁化方向が反転するときの磁界強度を本明細書では「動作磁界」と呼ぶ。また、磁性ワイヤとコイルとをまとめて発電センサと呼ぶ。
上述の外部磁界強度がさらに増加し、ハード層の磁化方向が反転する磁界強度に達すると、ハード層の磁化方向が反転する。ハード層の磁化方向が反転するときの磁界強度を本明細書では「安定化磁界」と呼ぶ。
大バルクハウゼン効果が発現するためには、ハード層とソフト層の磁化方向が一致していることを前提として、ソフト層のみ磁化方向が反転することが必要である。ハード層とソフト層の磁化方向が不一致の状態で、ソフト層のみ磁化方向が反転したとしても、パルス信号は生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さい。
【0003】
この磁性ワイヤによる出力電圧は、磁界の変化スピードにかかわらず一定であり、入力磁界に対するヒステリシス特性を持つためチャタリングがないなどの特徴を有する。そのため、この磁性ワイヤは、磁石及びカウンタ回路と組み合わせて、位置検出器などにも使用される。また、外部電力の供給なく、磁性ワイヤの出力エネルギーにより周辺回路も含めて動作させる事ができる。
【0004】
発電センサに交番磁界が与えられた場合、1周期に対して正パルス信号1つ及び負パルス信号1つの計2つのパルス信号が発生する。磁界の発生源としての磁石を回転体とし、回転体である磁石と発電センサとの位置関係により発電センサに与えられる磁界が変化するようにすることで、回転体の回転を検出することができる。
しかし、1つの発電センサを用いるのみでは、回転体の回転方向が変化した場合に回転方向の識別がつかない。特許文献1の
図1に見られるように、複数の発電センサを用いれば回転方向を識別することができるが、検出器のサイズ及びコストの増加につながる。
特許文献2には、1つの発電センサと、発電センサではない別のセンサ要素とを用いることが記載されている。同文献にはさらに、1つの磁石(2極)を用いた場合と複数の磁石(多極)を用いて分解能を向上させることが記載されている。
また、1つの磁石による検出(特許文献2の
図2)の構造例として、特許文献3の
図1が挙げられる。2極磁石と発電センサを対向させる構造は発電センサの全長まで径を小さくできるので小型化に向く。分解能を上げる(特許文献2の
図3)ための構造例として、特許文献4の
図1が挙げられる。この種の回転検出器の主な用途に1回転単位の回転数の検出がある。発電センサを用いた回転検出器は本来出力されるはずのパルス信号が場合によっては、出力されないという問題があり、1回転当たり2パルスしか出力されない1つの磁石(2極)の構造では通常は精度が不足し、回転数の検出が正しくできない。
特許文献5には、発電センサ内のコイルに電流を流し磁界を発生させて、出力状態をモニタすることで発電センサ内の磁性ワイヤの磁化方向を判別することが記載されている。同文献では、このような磁化方向の判別により、1つの磁石を用いる場合でも回転数を識別することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5511748号公報
【特許文献2】特許第4712390号公報
【特許文献3】米国特許第9,528,856号公報
【特許文献4】米国特許第8,283,914号公報
【特許文献5】特許第5730809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転の検出に際し、複数の発電センサを用いることは、検出器自体のサイズ増加につながりやすい。他方、発電センサが1つであったとしても、発電センサ内の磁性ワイヤの磁化方向を判別することは、処理が複雑となる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、1つの発電センサと複数の磁界発生源とを用いて高周期の交番磁界を効率よく磁性ワイヤに印加することにより小型化が図られた回転検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
回転検出器は、回転体の回転運動を、1つの発電センサを用いて検出する。前記発電センサは、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを備え、前記磁性ワイヤは、前記回転体の半径方向に配置され、前記回転体は、軟磁性体から成る1つの支持体と、前記支持体に対して周方向等間隔に取り付けられた複数の磁界発生源とを備え、前記複数の磁界発生源の各々は、N極及びS極の対を有し、着磁方向が前記回転体の回転軸方向と平行で、隣り合う2つの前記磁界発生源の着磁方向が異なり、前記複数の磁界発生源の回転軌跡の外周側直径は、前記磁性ワイヤの長さよりも大きく、前記磁界発生源は、前記磁性ワイヤに近接したときに、前記磁性ワイヤの軸方向中央部から軸方向第1端部までのうち、少なくとも一部の領域と回転軸方向に対向し、前記磁性ワイヤに近接している前記磁界発生源の、前記支持体への取付け面は、前記磁性ワイヤの軸方向第2端部側にあり、前記磁性ワイヤに近接している前記磁界発生源の前記支持体への取付け面から当該磁界発生源へと向かう方向は、前記磁性ワイヤの前記軸方向第2端部から前記軸方向第1端部へと向かう方向と同じである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の磁界発生源を用いて高周期の交番磁界を効率よく磁性ワイヤに印加することにより小型化が図られた回転検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】第1実施形態に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図1B】第1実施形態に基づく回転検出器の断面図である。
【
図2A】第1実施形態の磁性ワイヤと回転体を示す断面図による説明図である。
【
図2B】第1実施形態の磁気シミュレ―ション図である。
【
図2C】第1実施形態の磁性ワイヤと回転体の位置関係を示す説明図である。
【
図2D】第1実施形態の変形例における磁性ワイヤと回転体の位置関係を示す説明図である。
【
図4A】第2実施形態に基づく支持体の斜視図である。
【
図4B】第2実施形態に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図4C】第2実施形態の磁性ワイヤと回転体を示す断面図による説明図である
【
図4D】第2実施形態の磁気シミュレ―ションの図である
【
図5A】第2実施形態の変形例に基づく支持体の斜視図である。
【
図5B】第2実施形態の変形例に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図6】第3実施形態に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図7】第3実施形態の変形例に係る多極着磁された磁石の斜視図である。
【
図8A】第4実施形態に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図8B】第4実施形態に基づく回転検出器の上面図である。
【
図9A】第4実施形態に係る発電センサに印加される磁界と出力信号を示す説明図である。
【
図9B】第4実施形態に係る磁気センサに印加される磁界と出力信号を示す説明図である。
【
図9C】第4実施形態に係る発電センサの検出結果と磁気センサの検出結果との組み合わせを示す説明図である。
【
図9D】第4実施形態に基づく発電センサと磁気センサの同期と出力信号の回転座標を示す説明図である。
【
図9E】出力信号のカウント数を示す説明図である。
【
図10A】第4実施形態の変形例に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図10B】第4実施形態の変形例に基づく回転検出器の上面図である。
【
図11A】第4実施形態の変形例に基づく発電センサに印加される磁界と出力信号を示す説明図である。
【
図11B】第4実施形態の変形例に基づく磁気センサに印加される磁界と出力信号を示す説明図である。
【
図11C】第4実施形態の変形例に係る発電センサ、第1磁気センサ及び第2磁気センサの検出結果の組み合わせを示す説明図である。
【
図12A】第5実施形態に基づく回転検出器の斜視図である。
【
図12B】第5実施形態に基づく回転検出器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
図1A及び
図1Bに、第1実施形態に基づく回転検出器100を示す。回転検出器100は、回転運動する回転体110と1つの発電センサ120とを備えている。
回転体110は、軟磁性体から成る1つのリング状の支持体111と、磁界発生源である複数の磁石112とを備える。複数の磁石112は、支持体111の外周面に対して周方向等間隔に固定されている。固定方法の例として、埋込み、嵌合及び接着がある。磁石112は、回転体110の軸線方向113(
図1Bの紙面上下方向)に着磁されており、N極及びS極の対を有する。磁石112は、回転体110の軸線方向上側に磁極面112aを有する。なお、この磁極面112aは支持体111の軸線方向上側面と段差がない方が好ましい。複数の磁石112は、隣り合う磁極面112aが異極となるように配置されている。回転体110は、上下方向に延びる軸線113を回転軸として回転する。
【0013】
発電センサ120は大バルクハウゼン現象を発現する磁性ワイヤ121と、磁性ワイヤ121に巻回されたコイル122とを有する。磁性ワイヤ121は、回転体110の半径方向に配置される。回転体110に取り付けられた磁石112の回転軌跡の外周側直径は、磁性ワイヤ長121Lよりも大きい。磁性ワイヤ121は、軸方向中央部121aと、軸方向第1端部121b及び軸方向第2端部121cとを有する。磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aは、軸113に対して、回転体110の径方向にオフセットしている。オフセット量を符号OF1により示す。軸方向第1端部121b及び軸方向第2端部121cはそれぞれ、回転体110の半径方向外側及び内側に位置する。回転体110の回転運動に伴う磁石112の運動方向は、磁性ワイヤ121の軸方向に対して垂直であり、磁極面112aは、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aから軸方向第1端部121bまでのうち、少なくとも一部の領域(「第1領域」と呼ぶ。)の下方を通過する。同時に、支持体111は、磁性ワイヤ121のうち、上記第1領域の径方向内側に隣接する領域(「第2領域」と呼ぶ。)の下方を通過する。これによって、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aから軸方向第1端部121bまでの領域に磁石112からの磁界が効率よく印加される一方、磁性ワイヤ121の軸方向第2端部121cには動作磁界以上の磁界が印加されることはない。
【0014】
図1A及び
図1Bのように磁石112がリング状の支持体111の外周方向に沿って等間隔に20個設けられている場合、コイル122には、回転体110の正転一回転につき正のパルス信号が10回、負のパルス信号が10回誘発される。また、回転体110の反転一回転につき正のパルス信号が10回、負のパルス信号が10回誘発される。
この回転検出器100は、回転体110が中空型タイプの回転検出器である。磁石112は回転体110の外周部にあり、発電センサ120は回転体110の外周部と回転軸方向に対向する。そのため、回転体110の外径を基準とした、発電センサ120の径方向外側へのはみだし量が少なく、検出器全体の外径を必要最低限に抑えられ、小型である。また、検出回路を構成する電子部品が搭載される基板(不図示)の上に発電センサを横置きすることができ、実装の安定性が高い。
【0015】
磁性ワイヤ121と回転体110との位置関係をさらに詳しく説明する。
図2Aに示すように、回転体110が回転運動すると、磁界を発生させる各磁石112の磁極面112aが、磁性ワイヤ121の上記第1領域の下方を通過する。支持体111は、磁性ワイヤ121の上記第2領域の下方を通過する。
図2Bに、支持体111及び磁石112と磁性ワイヤ121とによる磁気シミュレーション結果を示す。支持体111が軟磁性であり、その集磁効果及びシールド効果により、磁石112に対向する磁性ワイヤ121の軸方向第1端部121b側に対し集中的に磁界が印加される。軸方向第1端部121bに対して磁界が局所的に印加されると、磁性ワイヤ121において軸方向第1端部121bから軸方向第2端部121cへ向かって反転磁界が伝搬し、磁性ワイヤ全体に単一の磁区が形成される。
【0016】
次に、
図2Cを参照しながら、支持体111と軸方向第2端部121cとの間隔が磁石112と軸方向第2端部121cとの間隔よりも小さい場合の追加効果について説明する。支持体111の磁石取付け面111bは、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aから軸方向第1端部121bまでの領域の下方にある。また、支持体111における、磁石取付け面111bと径方向に対向する支持体面111cは、磁性ワイヤ121の軸中央部121aから軸方向第2端部121cまでの領域の下方にある。
【0017】
磁界発生源112の支持体111への取付け面111bから当該磁界発生源へと向かう方向は、径方向外側方向である。また、磁性ワイヤ121の軸方向第2端部121cから軸方向第1端部121bへと向かう方向も径方向外側方向である。
【0018】
このとき、磁性ワイヤ121と磁石112と軟磁性体による支持体111とにより、
図2Cにおいて矢印で示すような磁気回路が構成される。よって、磁性ワイヤの両端部へ磁界を印加する従来の手法よりも広い範囲で、また磁性ワイヤ全体に磁界を印加するのと同じように安定化磁界が磁性ワイヤに印加される。そのため、単一の磁区が磁性ワイヤ全体に形成され、高出力のパルス信号が得られる。
【0019】
これに対し、
図3に、軟磁性体による支持体111に代えて非磁性体による支持体191及び磁石112と磁性ワイヤ121とによる磁気シミュレーション結果を示す。
図2Bとは異なり、軸方向第1端部121bに加え軸方向中央部121aや第2端部121cにも磁界が印加される。そのため、磁性ワイヤ全体にわたる単一の磁区が形成されにくくなる。
【0020】
また、
図2Dに示すように、支持体111の径方向寸法を径方向内側に向かって大きくし、支持体面111cと、磁性ワイヤ121の軸方向第2端部121cとの径方向位置が略同じになるようにしてもよい。この場合、磁気回路の磁気抵抗がより小さくなり、印加磁界がワイヤ全体により伝搬しやすくなって、パルス信号の出力がさらに高まる。
【0021】
[第2実施形態]
図4A及び
図4Bに、第2実施形態に係る回転検出器200を示す。
図1A及び
図1Bと同じ要素には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
回転検出器200は、回転運動する回転体210を有する。回転体210は、軟磁性体から成る1つのリング状の支持体211を備える。支持体211は、回転軸方向下端部から径方向外側に突出したつば部211aを外周全体にわたり有する。複数の磁石112は、支持体211の外周面とつば部211aの上面とに対し、周方向等間隔で固定されている。つば部211aのバックヨーク効果(後述)により、発電センサ120と磁極面2112aとの間の回転軸方向のギャップHの許容範囲が第1実施形態に比べて広がる。つまり、設計上の自由度が増し、さらに好ましい状態となる。
【0022】
図4Cに、支持体211及び磁石112と磁性ワイヤ121との位置関係を示す。また、
図4Dに、支持体211及び磁石112と磁性ワイヤ121とによる磁気シミュレーション結果を示す。磁石112の磁極面112aとは反対側の磁極面112bにつば部211aが取り付けられている。そのため、つば部211aによる集磁効果、すなわちつば部のバックヨーク機能により、磁石112の磁極境界線は符号112c(点線)から符号112d(実線)へと、つば部211a側にシフトしているのが分かる。このようなバックヨークの効果により、磁極面112aからの漏洩磁界がつば部のない支持体111による漏洩磁界に比べて増加する。したがって、発電センサ120と磁極面112aとのギャップHの許容範囲が広がり、磁石の大きさ、材質等の選択の自由度が増し、さらに取付けの安定性も向上する。
【0023】
[第2実施形態の変形例]
図5A及び
図5Bに、第2実施形態の変形例に係る回転検出器200-1を示す。回転体210-1は、軟磁性体から成るリング状の1つの支持体211-1を有する。この支持体211-1は、回転軸方向下端部から径方向内側に突出したつば部211-1aを内周全体にわたり有する。複数の磁石112は、支持体211-1の内周面とつば部211-1aの上面とに対し、周方向等間隔に固定されている。支持体211-1に取り付けられた磁石112の回転軌跡の外周側直径は、磁性ワイヤ長121Lよりも大きい。
【0024】
つば部が外周面にある実施形態とは異なり、軸方向第1端部121b及び軸方向第2端部121cはそれぞれ、回転体210-1の半径方向内側及び外側に位置する。回転体210-1の回転運動により、磁石112の運動方向は、磁性ワイヤ121の軸方向に対して垂直であり、磁極面112aは、磁性ワイヤの軸方向中央部121aから第1端部121bまでのうち、少なくとも一部の領域(「第1領域」と呼ぶ。)の下方を通過する。同時に、支持体211-1は、磁性ワイヤ121のうち、上記第1領域の径方向外側に隣接する領域(「第2領域」と呼ぶ。)の下方を通過する。これによって、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aから軸方向第1端部121bまでの領域に磁石112からの磁界が効率よく印加される一方、磁性ワイヤ121の軸方向第2端部121c側には動作磁界以上の磁界が印加されることはない。
本例の回転検出器は、第4及び第5の実施形態と同様に中空型タイプであるが、磁石112と支持体との位置関係が異なり、中空部の径方向寸法を大きく取りたい場合に有利な構造となる。
【0025】
磁界発生源112の支持体211-1の本体部への取付け面211-1bから当該磁界発生源へと向かう方向は、径方向内側方向である。また、磁性ワイヤ121の軸方向第2端部121cから軸方向第1端部121bへと向かう方向も径方向内側方向である。
【0026】
複数のNS極対の磁界発生源である複数の磁石112は、
図2A及び
図4Cにおいては、紙面奥側及び手前側にも配置されている。支持体111及び211による集磁効果により磁性ワイヤ121の軸方向第1端部121bに磁界が印加されることで、隣接する磁石間で発生する磁気干渉が磁性ワイヤ121に与える影響も軽減される。よって、隣接する磁界発生源同士を近接させ、磁石の極数密度を高くすることが可能である。換言すれば、回転検出器の小型化が図られる。
【0027】
[第3実施形態]
図6に示すように、回転検出器300の回転体310は、軸方向下端部から径方向外側に突出したつば部が備わったリング状の支持体311と、その外周面に周方向等間隔に固定された複数の磁石112とを有する。そして、回転を司る装置のシャフト314が回転体310の軸線113上に取り付けられている。このように回転体310をシャフト型タイプとすることができる。シャフト314の材料は非磁性体であっても磁性体であってもよい。磁性ワイヤ121の軸方向一端部に磁界を印加する一方、磁性ワイヤの軸方向両端部又は磁性ワイヤ全体に対して、強度の等しい磁界を印加する必要がないため、このようなシャフト型タイプの構造も可能であり自由度が高い。
【0028】
図7に示すような、1つのリング状の硬磁性体に多極着磁を施した磁石112-1を、複数の磁界発生源として用いることも可能である。所定の着磁ピッチλに相当する面積を持つ着磁ヨークにより、磁石112-1の素材であるリング状の硬磁性体材料の軸方向上面及び軸方向下面に同時着磁を行うと、軸線113の方向に着磁され、硬磁性体材料の上面及び下面に磁極が現れて、磁石112-1が作られる。このように多極着磁されてなる1つの磁石112-1を、支持体111、211、211-1又は円盤状の支持体311に固定すればよい。
【0029】
[第4実施形態]
図8A及び
図8Bに、第4実施形態に基づく多回転検出機能を持つ回転検出器400を示す。検出器400は、回転する回転体410と1つの発電センサ120とを備えている。回転体410は、軟磁性体からなり、外周面につば部が設けられた略正方形板状の支持体411と、磁界発生源となる4つの磁石112とを有する。4つの磁石112は、支持体411の4つの辺部に周方向等間隔に配置されている。また、回転体410の軸線113にはシャフト414が取り付けられている。磁石112は、軸線113の方向に着磁されており、N極及びS極の対を有し、隣り合う2つの磁石112は着磁方向が異なる。外周面がアーク形状の磁石を図示しているが、C型形状、直方体形状等の磁石を用いることも可能である。
【0030】
発電センサ120は、大バルクハウゼン現象を発現する磁性ワイヤ121と、磁性ワイヤ121に巻回されたコイル122を有する。磁性ワイヤ121は、回転体411の半径方向に位置し、さらに軸線113と交差している。回転体411に取り付けられた磁石112の回転軌跡の外周側直径は、磁性ワイヤ121の長さよりも大きい。
回転体410の回転運動により、磁石112の磁極面112aは、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aから軸方向第1端部121bまでのうち、少なくとも一部の領域(「第1領域」と呼ぶ。)の下方を通過する。支持体411とシャフト414は、磁性ワイヤ121のうち、上記第1領域の径方向内側に隣接する領域(「第2領域」と呼ぶ。)の下方を通過する。また、磁性ワイヤ121が軸線113と交差しているものの、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aから軸方向第2端部121cまでの領域の下方を、磁石112の磁極面112aが通過することはない。
【0031】
以上の構造により、回転体410が1回転すると、磁性ワイヤ121の軸方向中央部121aと軸方向第1端部121bとの間の領域に、2周期の均等な交番磁界が印加される。
磁界発生源が4つの場合においては、この構造によって回転体の外径を最も小さくできる。磁界発生源が6つの場合、第2端部121cに近接する或る磁石の磁極と、その磁石と径方向に対向する別の磁石の、第1端部121bに近接する磁極とは、異極とすることができる。この場合にはさらに回転体の外径を小さくして磁石112が第2端部121cの下方を通過するようにしても、均等な交番磁界の印加が可能である。
【0032】
回転検出器400はさらに、一つの磁気センサ440を備えている。磁気センサ440は、発電センサ120がパルス信号を出力したときに、磁界発生源からの磁界を判定できる位置に配置されている。
4つの磁石112のうち、ある磁石(「第1磁石」と呼ぶ)が磁性ワイヤ121の近傍を通過することで、磁性ワイヤ112に安定化磁界が印加されることになる。続いて、第1磁石に隣接する第2磁石が近づいてきたときに、上述の安定化磁界とは逆方向の動作磁界が磁性ワイヤ112に印加され、発電センサ120がパルス信号を出力する。
磁気センサ440は、
図8Bに示すように、磁性ワイヤの軸方向と所定角度をなすように配置されている。この所定角度は、凡そ45度である。あるいは、所定角度は、約135度、約225度、又は約315度でもよい。
【0033】
[多回転機能の説明]
次に、多回転検出機能を持った検出器について説明する。電源投入時の正確な位置検出には、1回転内アブソリュート角度検出器が使われる。発電センサは、電源遮断時の1回転単位の粗検出に利用される。発電センサは、交番磁界1周期に対して正負各1パルスの計2パルスを出力するが、このパルスだけでは正転・逆転の判別が不可能である。そこで、以下に示す方法が従来用いられている。
1)発電センサの数を増やして位相差信号を得る方法
2)別の検出手段を追加する方法
前者は、発電センサが複数必要である。後者は、特許文献2に記載されているように、発電センサ1個と追加のセンサ要素とにより達成できる。
【0034】
1つの発電センサを使用する場合、十分なレベルのパルス信号を得るために、安定化磁界と動作磁界とが決められた順序で磁性ワイヤに印加される必要がある。回転体の正転時に磁性ワイヤに対し、動作磁界が印加されてパルス信号が出力された直後に回転体が逆転すると、上記順序が守られないために、回転検出に必要なパルス信号が1回分抜けてしまう。その場合、誤差が±180°を超え、正しい回転量検出はできない。
【0035】
交番磁界の多周期化と検出器の小型化との両立がこれまでは難しかった。しかし、
図8A及び
図8Bに示したように、磁界発生源の数を4つとし、1回転あたり2周期の交番磁界が磁性ワイヤに印加されるようにすることができる。つまり、多回転検出機能を備え、小型で、コストが低く、パルス信号の出力が安定した検出器が得られる。以下に、その形態を詳しく説明する。
【0036】
[回転数、回転方向を判定する方法]
図8Bにおいて、回転体410の右回転を正転、左回転を反転とする。
図9Aに、回転時に発電センサ120に印加される磁界Haを示す。また、正転時に発電センサ120に生じる正パルス信号を符号Pで示し、信号Pの出力の前提となる安定化磁界を符号Psで示し、負パルス信号を符号Nで示し、信号Nの出力の前提となる安定化磁界を符号Nsで示す。安定化磁界は±H2、動作磁界は±H1とする。反転時の出力は正転時と同一符号で示すが、正転時は白塗り、反転時は黒塗りで示す。
永久磁石112から発電センサ120に印加される磁界は、1回転2周期の交番磁界となる。よって、発電センサ120は、正転1回転につき正負(P,N)の信号を2回出力し、反転1回転についても、正転時と同じように正負(P,N)の信号を2回出力する。
【0037】
図9Bに、磁気センサ440に印加される磁界Hbを一点鎖線で示す。磁気センサ440は、前述のとおり、回転軸113に関して軸方向第1端部121bと凡そ45度をなすように配置されている。そのため、交番磁界Hbは、
図9Aに示した交番磁界Haより45°位相がずれる。磁気センサ440として、例えばホール素子、磁気抵抗効果素子(SV-GMR、TMR)のようにNS極(図におけるプラス及びマイナス)を判別できる磁気センサを使用することができる。この場合、発電センサ120から、正転の2つのP信号、反転の2つのN信号が出力されると、磁気センサ440からマイナス磁界を検出した信号が出力される。これを図中の白塗り及び黒塗りの三角形で示す。また、発電センサ120から、正転の2つのN信号、反転の2つのP信号が出力されると、磁気センサ440からはプラス磁界を検出した信号が出力される。これを図中の白塗り及び黒塗りの四角形で示す。
図9Cに、発電センサ120の出力信号と磁気センサ440の検出信号との組み合わせを示す。
【0038】
図9Dに回転座標を示す。正パルス信号Pが出力されてから、回転体410が符号Rに示すように右回転し、次の信号N´が検出されるまでの回転角度は、+90度である。その一方で、正パルス信号Pが出力された直後に回転体410が符号Lに示すように左回転した場合、次の信号は信号Nであることが期待される。しかし、安定化磁界Nsを経ていないことから、信号Nは出力されないか、あるいは出力されたとしても非常に小さく、評価することが困難である。よって、次の、評価できる信号P´の左回転信号が出力されるまでの回転角度は、約-(90度+α)となる。このように正転、反転の双方において安定化磁界が印加されない回転運動が起きても、同一信号で重複する範囲が発生しない。また、判定できる位置の範囲は360度未満となり、回転体410の回転数を正確に検出することができる。
【0039】
回転体410の回転方向を判定する方法について、理解を容易にするため、一例として連続する信号を2つとして説明する。
判定は、メモリを含む信号処理回路(不図示)により行われる。この信号処理回路は、識別機能と参照機能と演算機能とを有する。まず、信号処理回路は、識別機能により、発電センサ120からの信号を、P、P’、N、及びN’の4つのいずれかとして識別する。次に、信号処理回路は、参照機能にて、回転数及び回転方向の計数を開始する初期状態で記憶された1つ前の(前状態)履歴信号と、その後の回転に伴う信号(新状態)とを順次、メモリに書き込む。信号処理回路は、メモリに格納された過去と現在の連続する2つの信号を、予め設定した4種類のコード化したテーブルで検索し、一致したカウント値を返す。このテーブルの一例は
図9Eに示す。信号処理回路は、信号が入力される毎に検索を行い、その結果のカウント値を演算機能にて、順次加減算する。加減算された数値は、その時点での回転数と回転方向を表すことになる。信号Nと信号Pとの間に規準位置を設定し、
図9Eに示したようなテーブルを用いることで、回転体410の回転方向及び回転数を正確にカウントできる。
【0040】
[1回転内の位置と回転数を同期する方法]
回転検出器をモーターの多回転用として用いる場合、モーター駆動システムの停電中は、
図9Eを参照しながら先に述べた方法で回転数を検出する。モーター駆動システムの起動時には、信号P、P´、N、及びN´は、1回転にそれぞれ2箇所存在するため、2つの領域の二者択一となり、回転数を特定できない。そのため、回転数カウンタの基準位置からの変位角度を判別する必要がある。そこで、1回転アブソリュート型の位置センサを外付けすることで、どの領域に位置しているかを判別し、回転数を特定することができる。
【0041】
[第4実施形態の変形例]
図10A及び
図10Bに示すように、第4実施形態の変形例として、中空タイプでも多回転機能が提供できる。回転検出器400-1は、回転体410-1と1つの発電センサ120と2つの磁気センサ440及び441とを備える。回転体410-1は、軟磁性体からなり、外周面につば部を備えたリング状の支持体411-1と、支持体411-1の外周面に周方向等間隔に固定された4つの磁石112とを有する。発電センサ120は、磁性ワイヤ121とコイル122とを備える。
【0042】
前述の第4実施形態では、磁性ワイヤ121より周方向で凡そ45°離れた位置にある1つの磁気センサ440により、発電センサ120の正転・反転各4つ、計8つの信号をカバーできる。これは、周方向等間隔に配置された磁界発生源どうしがある程度、近接しており、正転・反転の両方において1つの磁気センサ440だけで検出できる十分な磁界が磁気センサ440に印加されるためである。しかし、第1実施形態又は第2実施形態のような中空タイプにおいて4つの磁石が設けられる場合には、磁石どうしが近接していない場合がある。そのような場合について以下に説明する。
【0043】
図10Aにおいて発電センサ120がパルス信号を出力するのは、4つの磁石112のうち、ある磁石が磁性ワイヤ121の近傍を通過したのち、次の磁石が近づいて反転磁界が徐々に強まりつつ動作磁界が印加されるときである。パルス信号が出力される際の回転体410-1の回転位置は、正転時に発電センサ120が正パルス信号Pと負パルス信号Nを出力する回転位置と、反転時に発電センサ120が正パルス信号Pと負パルス信号Nを出力する位置の計8か所ある。
この8か所に対応して、磁界発生源の磁界を検出できるように第1磁気センサ440と第2磁気センサ441とが配置される。第1磁気センサ440が正転時の磁界を、第2磁気センサ441が反転時の磁界を検出できるように、それぞれの磁気センサを-20度、+20度の位相でずらして配置する。
図10Bに示すように、第1磁気センサ440は、一つの磁石112(第1磁石と呼ぶ)が磁性ワイヤ121の真下に来たときに第1磁石の時計方向に隣接する別の磁石から反時計方向に少し離れた位置に配置され、第2磁気センサ441は、第1磁石から時計方向に少し離れた位置に配置される。第1磁気センサ及び第2磁気センサの配置は、磁石の材質、大きさ等に応じて適宜定めればよい。
図10Bにおいて、回転体410の右回転を正転、左回転を反転とする。第1磁気センサ440は、正転時の発電センサ120の信号識別を担い、第2磁気センサ441は反転時の発電センサ120の信号識別を担う。
図10Bの3時方向を0度とすると、発電センサ120は0度の位置にあり、第1磁気センサ440は+70度の位置にあり、第2磁気センサ441は+20度の位置にある。磁性ワイヤが0度位置にあり、両磁気センサが0度から90度の領域に配置されているが、その他3つの領域(90度から180度の領域、180度から270度の領域、及び270度から360度の領域)のいずれかに配置されても良い。
【0044】
図11Aに、回転体410-1の回転時に発電センサ120に印加される磁界Haを点線で示す。同図において、正転時に発電センサ120に生じる正パルス信号を符号Pで示し、信号Pの出力の前提となる安定化磁界を符号Psで示し、負パルス信号を符号Nで示し、信号Nの出力の前提となる安定化磁界を符号Nsで示す。安定化磁界は±H2、動作磁界は±H1とし、反転時の出力は正転時と同一符号で示すが、正転時は白塗り、反転は黒塗りで示す。磁石112から発電センサ120に印加される磁界は、1回転2周期の交番磁界となる。よって発電センサ120の信号は、正転1回転で正負(P,N)の信号が各2回出力され、反転1回転でも、正転時と同じように正負(P,N)の信号が各2回出力される。
【0045】
図11Bに、第1磁気センサ440に印加される磁界Hbを二点鎖線で示し、第2磁気センサ441に印加される磁界Hcを一点鎖線で示す。前述のとおり、第1磁気センサ440と第2磁気センサ441は、発電センサ120より周方向に距離を置いて配置されている。そのため、交番磁界Hb及びHcは、
図11Aに示した交番磁界Haとは位相がずれる。
磁気センサ440及び441として、例えばホール素子、磁気抵抗効果素子(SV-GMR、TMR)のように、NS極(図におけるプラス及びマイナス)を判別できる磁気センサを使用することができる。
発電センサ120から正転の2つのP信号が出力されたとき、第1磁気センサ440からマイナス磁界の検出信号が出力される(図中の白抜きの三角形)。発電センサ120から正転の2つのN信号が出力されたときには、第1磁気センサ440からプラス磁界の検出信号が出力される(図中の白抜きの四角形)。
発電センサ120から反転の2つのP信号が出力されたとき、第2磁気センサ441からプラス磁界の検出信号が出力される(図中の黒塗りの四角形)。発電センサ120から反転の2つのN信号が出力されたときには、第2磁気センサ441からマイナス磁界の検出信号が出力される(図中の黒塗りの三角形)。
第1磁気センサ440及び第2磁気センサ441の検出信号を発電センサ120の出力信号と組み合わせることで、
図11Cに示すように、識別されたP、P´、N及びN´の4種類の信号となる。この4種類の信号にて、上述した[回転数、回転方向を判定する方法]及び[1回転内の位置と回転数を同期する方法]に従って操作すれば、この検出器400-1をモーターの多回転用として用いることができる。
【0046】
[回路の他の実施例]
各実施形態の回転検出器は、磁性ワイヤを備えた発電センサを使用している。そのため、その大バルクハウゼン効果による出力信号は、既に知られているように起電力であり、電源として活用できる。すなわち、発電センサの出力を整流器とコンデンサーにて処理する機能を追加することで、第1から第4の実施形態の回転検出器を例えばメーター(流量、水道、風量、ガス)に用いることができる。このような1回転以内の回転角度の同期が必要ない用途において、電源あるいはバッテリーを使用しなくて済む。さらに発電センサによる電力を利用してデータを無線で送ることも可能である。第4実施形態の回転検出器では、発電センサから回路と磁気センサに電力を供給することで、モーターの多回転位置検出器のバッテリーレス化に応用可能である。
【0047】
[第5実施形態]
第4実施形態及び第4実施形態の変形例において、発電センサと磁気センサ及び上記の回路を同一基板に搭載できる。
図12A及び
図12Bに、第5実施形態に係る回転検出器400-2を示す。発電センサ120は、パッケージ123に収納され樹脂等で固定され、そのパッケージ両端にはコイル122と結線された2つの端子124a及び124bが設けられ、両端子が基板500の面500aに搭載されている。磁性ワイヤ121の軸方向第1端部121bと時計方向で45°離れた磁気センサ440は、同じ基板面500aに搭載されている。さらにメモリを含む信号処理回路600が同じ基板面500aに搭載されている。また基板より信号を取り出すためコネクター700も搭載されている。さらに基板500を両面基板とすれば、これらの回路を反対側の基板面500bへ実装することもできる。また、基板面500bと対向する回転体410の面に他の検出媒体(不図示)を設け、その媒体を検出する1回転アブソリュート型の位置センサ(不図示)を基板面500bに搭載することが出来る。このように本発明の構造は、回転検出器に必要な電子部品を同一基板に搭載できる利点がある。
【0048】
[作用及び効果]
これまでに述べた実施形態の作用及び効果について改めて説明する。
磁界発生源が発電センサに近接したときに、発電センサ内の磁性ワイヤの軸方向第1端部側には磁界が印加されるが、軸方向第2端部側は磁界発生源に対向していないために磁界が印加されない。これにより、軸方向第1端部から軸方向第2端部へ向かって磁区の一斉反転を引き起こせるため磁気誘導ヨークを必要とせず、磁性ワイヤの両端に磁界を印加する方法と同じように単一の磁区が磁性ワイヤ全体に形成される。これにより発電センサからの高出力のパルス信号が得られる。
【0049】
磁性ワイヤにおいて磁界発生源と対向する部分の軸方向寸法は磁性ワイヤの長さの半分以下であり、磁性ワイヤの線長全体に磁界を印加する方法において必要となる比較的大きな磁石が本発明の実施形態においては不要である。また、磁石の材質を適宜定めることで、安定化磁界が印加できる薄さまで磁石を小さくすることができる。支持体につば部を備えることで磁界発生源をつば部の表面と、つば部に接する支持体の外周面との2面に取り付けることができる。そのため、磁界発生源と磁性ワイヤとの軸方向ギャップの調整範囲が広くなり、取付けの安定度が向上し耐久性があることから出力に安定性が生まれる。
【0050】
印加される磁界が磁性ワイヤの軸端片側であり、磁界が印加されない側の軸端では軟磁性体部が磁力を集磁することと相まって、隣接した異極の磁界発生源どうしの磁気干渉が磁性ワイヤに与える影響が軽減される。そのため、複数の磁界発生源を接近させて配置することができる。磁界発生源の極数密度(回転体の外周長あたりの極数)を高めることが可能で、回転体の外周を短くすることができる。換言すれば検出器の全体構造が小型になる。
【0051】
磁性ワイヤの両端部又は全体に強度の等しい磁界を印加する必要がないため、配置の自由度が高い。中空型、シャフト型のいずれでも、回転検出器として適応できる。中空型においては、回転検出器の内径を大きく取りたい場合は、発電センサを外周側に配置し、外径を小さくしたい場合は、発電センサを内周側に配置することができる。つまり、設計の自由度がある。
【0052】
配置の自由度という点では、磁性ワイヤを回転体の回転軸と直交するように配置することができる。この場合、シャフト型タイプの回転検出器となる。1回転につき2周期以上の交番磁界が印加される一層の小型化(特に径方向寸法の小型化)を図ることができる。また、磁性ワイヤに巻回されたコイルに誘発される信号の安定性を高めることができる。
【0053】
さらに、回転検出器に必要な電子部品を同一基板に搭載できる利点がある。
【0054】
これまでに説明した実施形態に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
回転体の回転運動を、1つの発電センサを用いて検出する回転検出器であって、
前記発電センサは、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを備え、
前記磁性ワイヤは、前記回転体の半径方向に配置され、
前記回転体は、軟磁性体から成る1つの支持体と、前記支持体に対して周方向等間隔に取り付けられた複数の磁界発生源とを備え、
前記複数の磁界発生源の各々は、N極及びS極の対を有し、着磁方向が前記回転体の回転軸方向と平行で、隣り合う2つの前記磁界発生源の着磁方向が異なり、
前記複数の磁界発生源の回転軌跡の外周側直径は、前記磁性ワイヤの長さよりも大きく、前記磁界発生源は、前記磁性ワイヤに近接したときに、前記磁性ワイヤの軸方向中央部から軸方向第1端部までのうち、少なくとも一部の領域と回転軸方向に対向し、
前記磁性ワイヤに近接している前記磁界発生源の、前記支持体への取付け面は、前記磁性ワイヤの軸方向第2端部側にある、
前記磁性ワイヤに近接している前記磁界発生源の前記支持体への取付け面から当該磁界発生源へと向かう方向は、前記磁性ワイヤの前記軸方向第2端部から前記軸方向第1端部へと向かう方向と同じである、
回転検出器。
[付記2]
前記支持体が径方向に突出したつば部を備える、付記1に記載の回転検出器。
[付記3]
前記磁性ワイヤが、前記回転体の回転軸と交差するように配置されている、付記1に記載の回転検出器。
[付記4]
前記複数の磁界発生源が、同じ形状の複数の磁石である、付記1に記載の回転検出器。
[付記5]
前記複数の磁界発生源が、リング状の硬磁性体が多極着磁されてなる1つの磁石である、付記1に記載の回転検出器。
[付記6]
前記発電センサから信号が出力されたときの前記磁界発生源からの磁界を検出する磁気センサと、
前記発電センサ及び前記磁気センサが出力する信号に基づき、前記回転体の回転数及び回転方向を求める回路と
をさらに備える付記1に記載の回転検出器。
[付記7]
前記発電センサと前記磁気センサと前記回路とが同一基板に搭載されている、付記6に記載の回転検出器。
【0055】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
100、200、200-1、300、400、400-1、400-2 回転検出器
110、210、210-1、310、410、410-1 回転体
111、211、211-1、311、411、411-1 支持体
112 磁界発生源
120 発電センサ
121 磁性ワイヤ
122 コイル
211a、211-1a つば部
440、441 磁気センサ
500 基板
600 信号処理回路
700 コネクター