(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051166
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】充填材、充填材を含む構造体及び充填材を含む構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20230404BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20230404BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20230404BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E02D3/12 101
C09K17/06 P
C09K17/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161677
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】小阪 健次
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
【テーマコード(参考)】
2D040
2E176
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040AB01
2D040CA10
2D040CB03
2E176AA01
2E176BB13
4H026CA02
4H026CB02
4H026CB03
4H026CB05
4H026CC03
(57)【要約】
【課題】水との接触により難水溶性塩を生成することにより、構造体を緻密化し、構造体を長期に安定した状態に保持することができる充填材を提供する。
【解決手段】本発明に係る充填材は、樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物を含む第1の樹脂材料と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物を含む第2の樹脂材料とを備え、前記陽イオンを放出可能な化合物により放出される陽イオンと、前記陰イオンを放出可能な化合物により放出される陰イオンとの反応により、難水溶性塩を生成可能であり、前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とが接触していない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物を含む第1の樹脂材料と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物を含む第2の樹脂材料とを備え、
前記陽イオンを放出可能な化合物により放出される陽イオンと、前記陰イオンを放出可能な化合物により放出される陰イオンとの反応により、難水溶性塩を生成可能であり、
前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とが接触していない、充填材。
【請求項2】
前記陽イオンを放出可能な化合物が、カルシウムイオンを放出可能な化合物であり、
前記陰イオンを放出可能な化合物が、炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物である、請求項1に記載の充填材。
【請求項3】
前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであり、
前記陰イオンを放出可能な化合物が、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである、請求項1又は2に記載の充填材。
【請求項4】
前記第1の樹脂材料が、硬化可能な第1の硬化性樹脂材料であり、
前記第2の樹脂材料が、硬化可能な第2の硬化性樹脂材料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項5】
前記第1の樹脂材料がペレットであり、
前記第2の樹脂材料がペレットである、請求項1~4のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項6】
複数の孔を有する充填対象物質と、
請求項1~5のいずれか1項に記載の充填材とを備え、
前記複数の孔内に、前記充填材が配置されており、
前記第1の樹脂材料が配置された孔と、前記第2の樹脂材料が配置された孔とが異なり、前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とが接触していない、充填材を含む構造体。
【請求項7】
前記複数の孔の間隔が、100mm以上2000mm以下である、請求項6に記載の充填材を含む構造体。
【請求項8】
前記充填対象物質が、地盤又はコンクリートである、請求項6又は7に記載の充填材を含む構造体。
【請求項9】
複数の孔を有する充填対象物質における前記複数の孔内に、請求項1~5のいずれか1項に記載の充填材を配置する工程を備え、
前記第1の樹脂材料が配置される孔と、前記第2の樹脂材料が配置される孔とを異ならせることで、前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とを接触させない、充填材を含む構造体の製造方法。
【請求項10】
前記複数の孔の間隔が、100mm以上2000mm以下である、請求項9に記載の充填材を含む構造体の製造方法。
【請求項11】
充填対象物質に複数の孔を開けて、前記複数の孔を有する充填対象物質を形成する工程をさらに備える、請求項9又は10に記載の充填材を含む構造体の製造方法。
【請求項12】
前記充填対象物質が、地盤又はコンクリートである、請求項9~11のいずれか1項に記載の充填材を含む構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤又はコンクリート等に用いることができる充填材に関する。また、本発明は、充填材を含む構造体及び充填材を含む構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁及びトンネル等の構造物では、建築時に施工不良が生じたり、建築されてから長期間経過したりすると、ひび割れ及びジャンカ等が生じることがある。ひび割れ及びジャンカ等が発生した構造物では、構造物の強度が低下する。構造物の多くは、交通及び輸送等の社会基盤インフラを担っているため、建替えや取り壊しを安易に行うことができない。また、インフラ機能を停止させての大規模な補修又は補強は、困難である。
【0003】
このため、構造物のひび割れ部分やジャンカ部分に、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂を含む充填材を注入し、該硬化性樹脂を硬化させる方法が行われることがある(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
また、地震等により地盤に亀裂が生じることがある。地盤における亀裂を修復したり、地盤の強度を高めたりするために、セメント系固化剤等の地盤改良剤が用いられている(例えば、特許文献4~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-031661号公報
【特許文献2】特開2018-104996号公報
【特許文献3】特開2015-030987号公報
【特許文献4】WO2011/027890A1
【特許文献5】特開2014-185428号公報
【特許文献6】特開2018-141266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の充填材を用いて、コンクリート構造物の補修や補強、及び地盤の修復や強化を行った場合に、ある程度の期間が経過するまでは、補修などを行った箇所の強度を高めることができる。
【0007】
しかしながら、エポキシ樹脂等を含む従来のコンクリート用充填材では、雨水及びコンクリートに付着した水分等によって、硬化したエポキシ樹脂が徐々に劣化して、充填材と構造物表面との界面において、界面剥離が生じることがある。また、季節変動や繰り返しの振動及び伸縮によっても、充填材と構造物表面との界面において、界面剥離が生じることがある。このため、従来の充填材では、補修した箇所の強度が徐々に低下し、補修から長期間経過すると(例えば、補修から20年~50年経過後)、再度の補修が必要となる。
【0008】
また、セメント系固化剤等の従来の地盤改良剤についても、地盤改良剤の使用から長期間経過すると(例えば、使用から20年~50年経過後)、再度の使用が必要となる。
【0009】
従来、地盤や既設のコンクリート構造物を長期間にわたり自己治癒的に修復や強化する方法は知られていない。
【0010】
本発明の目的は、水との接触により難水溶性塩を生成することにより、構造体を緻密化し、構造体を長期に安定した状態に保持することができる充填材を提供することである。また、本発明の目的は、水との接触により難水溶性塩を生成することにより、構造体を緻密化し、構造体を長期に安定した状態に保持することができる充填材を含む構造体及び充填材を含む構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の広い局面によれば、樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物を含む第1の樹脂材料と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物を含む第2の樹脂材料とを備え、前記陽イオンを放出可能な化合物により放出される陽イオンと、前記陰イオンを放出可能な化合物により放出される陰イオンとの反応により、難水溶性塩を生成可能であり、前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とが接触していない、充填材が提供される。
【0012】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記陽イオンを放出可能な化合物が、カルシウムイオンを放出可能な化合物であり、前記陰イオンを放出可能な化合物が、炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物である。
【0013】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであり、前記陰イオンを放出可能な化合物が、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである。
【0014】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記第1の樹脂材料が、硬化可能な第1の硬化性樹脂材料であり、前記第2の樹脂材料が、硬化可能な第2の硬化性樹脂材料である。
【0015】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記第1の樹脂材料がペレットであり、前記第2の樹脂材料がペレットである。
【0016】
また、本発明の広い局面によれば、複数の孔を有する充填対象物質と、上述した充填材とを備え、前記複数の孔内に、前記充填材が配置されており、前記第1の樹脂材料が配置された孔と、前記第2の樹脂材料が配置された孔とが異なり、前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とが接触していない、充填材を含む構造体が提供される。
【0017】
本発明に係る充填材を含む構造体のある特定の局面では、前記複数の孔の間隔が、100mm以上2000mm以下である。
【0018】
本発明に係る充填材を含む構造体のある特定の局面では、前記充填対象物質が、地盤又はコンクリートである。
【0019】
また、本発明の広い局面によれば、複数の孔を有する充填対象物質における前記複数の孔内に、上述した充填材を配置する工程を備え、前記第1の樹脂材料が配置される孔と、前記第2の樹脂材料が配置される孔とを異ならせることで、前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とを接触させない、充填材を含む構造体の製造方法が提供される。
【0020】
本発明に係る充填材を含む構造体の製造方法のある特定の局面では、前記複数の孔の間隔が、100mm以上2000mm以下である。
【0021】
本発明に係る充填材を含む構造体の製造方法のある特定の局面では、該製造方法は、充填対象物質に複数の孔を開けて、前記複数の孔を有する充填対象物質を形成する工程をさらに備える。
【0022】
本発明に係る充填材を含む構造体の製造方法のある特定の局面では、前記充填対象物質が、地盤又はコンクリートである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る充填材は、樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物を含む第1の樹脂材料と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物を含む第2の樹脂材料とを備える。本発明に係る充填材では、上記陽イオンを放出可能な化合物により放出される陽イオンと、上記陰イオンを放出可能な化合物により放出される陰イオンとの反応により、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係る充填材では、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とが接触していない。本発明に係る充填材では、上記の構成が備えられているので、水との接触により難水溶性塩を生成することにより、構造体を緻密化し、構造体を長期に安定した状態に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る充填材を含む構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0026】
(充填材)
本発明に係る充填材は、樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物(第1の化合物)を含む第1の樹脂材料と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物(第2の化合物)を含む第2の樹脂材料とを備える。本発明に係る充填材は、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とを備えるセット品である。本発明に係る充填材は、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とを備える充填材キットである。
【0027】
本発明に係る充填材では、上記陽イオンを放出可能な化合物により放出される陽イオンと、上記陰イオンを放出可能な化合物により放出される陰イオンとの反応により、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係る充填材は、難水溶性塩生成用充填材である。
【0028】
本発明に係る充填材では、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とが接触していない。本発明に係る充填材では、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とが間隔を隔てている。本発明に係る充填材では、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とが接触しないように配置されている。
【0029】
本発明に係る充填材では、上記の構成が備えられているので、水との接触により難水溶性塩を生成することにより、構造体を緻密化し、構造体を長期に安定した状態に保持することができる。より具体的には、地盤及びコンクリート等の充填対象物質の孔(空隙部)に充填材が充填された状態で、充填材が水と接触することにより、難水溶性塩が生成され、コンクリーションが形成される。これにより、充填対象物質の内部を緻密化し、長期に安定した状態を保持することができる。本発明は、予防保全に寄与する。
【0030】
本発明に係る充填材は、地盤又はコンクリートに好適に用いられる。本発明に係る充填材は、地盤又はコンクリート用充填材であることが好ましい。本発明に係る充填材は、地盤に用いられてもよく、コンクリートに用いられてもよい。また、本発明に係る充填材は、地盤内の砂、岩石及び骨材等の重なり合った隙間にも適用できる。
【0031】
なお、本明細書において、「難水溶性塩」とは、難水溶性塩1gを水100g中に入れ、20℃で10分間保持したときに、水に溶ける難水溶性塩が0.1g以下であることを意味する。
【0032】
上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、及び水酸化鉄等が挙げられる。
【0033】
構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0034】
上記充填材において、上記第1の樹脂材料は、容器(第1の容器)中に収容されていてもよい。上記充填材において、上記第2の樹脂材料は、容器(第2の容器)中に収容されていてもよい。上記第1の容器と上記第2の容器とは、別の容器であってもよく、1つの一体化された容器であってもよい。1つの一体化された容器は、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とを接触させないための仕切り部を有していてもよい。
【0035】
以下、本発明に係る充填材に用いられる各成分の詳細などを説明する。
【0036】
<樹脂材料>
上記充填材は、樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物を含む第1の樹脂材料と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物を含む第2の樹脂材料とを備える。以下、上記第1の樹脂材料及び上記第2の樹脂材料をそれぞれ、単に「樹脂材料」と呼ぶことがある。
【0037】
上記樹脂材料は、硬化性樹脂材料であってもよく、熱可塑性樹脂材料であってもよい。上記樹脂材料は、硬化性樹脂を含んでいてもよく、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。上記硬化性材料は、硬化可能である。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記樹脂材料は、硬化性材料であることが好ましい。上記第1の樹脂材料は、硬化可能な第1の硬化性材料であることが好ましい。上記第2の樹脂材料は、硬化可能な第2の硬化性材料であることが好ましい。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記樹脂材料は、硬化性樹脂を含むことが好ましい。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記樹脂材料は、熱硬化性材料であることが好ましい。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記第1,第2の樹脂材料はそれぞれ、熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。上記第1,第2の樹脂材料はそれぞれ、硬化物を含んでいてもよい。上記硬化物は、硬化性樹脂が硬化した硬化物である。
【0038】
上記硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリウレア樹脂等が挙げられる。上記硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が用いられてもよい。
【0039】
構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0040】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィンエラストマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル樹脂(PMMA)、及びアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が用いられてもよい。
【0041】
構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂又はポリオレフィンエラストマーであることが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0042】
<陽イオンを放出可能な化合物及び陰イオンを放出可能な化合物>
上記樹脂材料は、陽イオンを放出可能な化合物又は陰イオンを放出可能な化合物を含む。上記陽イオンを放出可能な化合物により放出される陽イオンと、上記陰イオンを放出可能な化合物により放出される陰イオンとの反応により、難水溶性塩を生成可能である。上記陽イオンを放出可能な化合物と上記陰イオンを放出可能な化合物とは、難水溶性塩を生成可能である。
【0043】
陽イオンを放出可能な化合物又は陰イオンを放出可能な化合物としては、無機塩、イオン交換性樹脂、及びイオン錯体等が挙げられる。
【0044】
上記陽イオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陽イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、カルシウムイオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0046】
上記陰イオンを放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記陰イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0048】
上記第1の樹脂材料において、上記樹脂100重量部に対して、上記陽イオンを放出可能な化合物の含有量は、好ましくは10重量部以上、より好ましくは25重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。上記陽イオンを放出可能な化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩がより一層良好に生成される。
【0049】
上記第2の樹脂材料において、上記樹脂100重量部に対して、上記陰イオンを放出可能な化合物の含有量は、好ましくは10重量部以上、より好ましくは25重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。上記陰イオンを放出可能な化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩がより一層良好に生成される。
【0050】
上記充填材において、上記第1の樹脂材料の重量の上記第2の樹脂材料の重量に対する比(第1の樹脂材料の重量/第2の樹脂材料の重量)は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下である。上記比が上記下限以上及び上記上限以下であると、難水溶性塩がより一層良好に生成される。
【0051】
<他の成分>
上記充填材及び上記樹脂材料は、必要に応じて、上記樹脂、上記陽イオンを放出可能な化合物及び上記陰イオンを放出可能な化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、硬化剤、チクソ付与材、及び酸化防止剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
<充填材の他の詳細>
上記樹脂と、陽イオンを放出可能な化合物又は陰イオンを放出可能な化合物とを混合することにより、樹脂材料を得ることができる。混合に、押出機やブレンダーを用いてもよい。
【0053】
上記樹脂材料の性状は特に限定されない。上記樹脂材料は、液状であってもよく、固体状であってもよい。上記液状にはペースト状も含まれる。
【0054】
充填材の取扱性をより一層高める観点、充填対象物質に対する充填をより一層容易にする観点からは、上記樹脂材料は、固体状であることが好ましく、ペレットであることが好ましい。また、固体状の樹脂材料又はペレットの使用により、構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高めることができる。また、ペレットは、必要な箇所に必要量充填しやすい。
【0055】
上記充填材において、上記第1の樹脂材料と、上記第2の樹脂材料とは、接触することなく配置されている。上記充填材において、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料との間隔は、好ましくは0mmを超え、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは100mm以上、特に好ましくは150mm以上であり、好ましくは2000mm以下、より好ましくは1000mm以下である。上記間隔が上記下限以上及び上記上限以下であると、充填材の取扱性がより一層高くなり、意図しない難水溶性塩の形成が抑えられる。したがって、構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高めることができる。上記間隔は、隣り合う樹脂材料の表面間距離である。
【0056】
(充填材を含む構造体及び充填材を含む構造体の製造方法)
本発明に係る充填材を含む構造体は、複数の孔を有する充填対象物質と、上記充填材とを備える。本発明に係る充填材を含む構造体では、上記複数の孔内に、上記充填材が配置されている。本発明に係る充填材を含む構造体では、上記第1の樹脂材料が配置された孔と、上記第2の樹脂材料が配置された孔とが異なり、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とが接触していない。
【0057】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る充填材を含む構造体の断面図である。
【0058】
充填材を含む構造体1は、複数の孔11aを有する充填対象物質11と、充填材12とを備える。充填対象物質11は、例えば、地盤又はコンクリートである。
【0059】
充填材を含む構造体1では、複数の孔11a内に、充填材12が配置されている。充填材12は、樹脂及び陽イオンを放出可能な化合物を含む第1の樹脂材料21と、樹脂及び陰イオンを放出可能な化合物を含む第2の樹脂材料22とを備える。充填材を含む構造体1では、第1の樹脂材料21が配置された孔11aと、上記第2の樹脂材料22が配置された孔11aとが異なり、第1の樹脂材料21と上記第2の樹脂材料22とが接触していない。
【0060】
充填材を含む構造体1では、第1の樹脂材料21と、第2の樹脂材料22とが、等間隔で、交互に並んで配置されている。
【0061】
本発明に係る充填材を含む構造体の製造方法は、複数の孔を有する充填対象物質における上記複数の孔内に、上記充填材を配置する工程を備える。本発明に係る充填材を含む構造体の製造方法では、上記第1の樹脂材料が配置される孔と、上記第2の樹脂材料が配置される孔とを異ならせることで、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とを接触させない。
【0062】
また、上記充填材を含む構造体の製造方法は、充填対象物質に複数の孔を開けて、上記複数の孔を有する充填対象物質を形成する工程を備えることが好ましい。この場合には、複数の孔の間隔、及び、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料との間隔を適度な範囲に容易に調整できる。また、充填対象物質における充填材の充填性を高めることができる。上記工程において、ボーリングにより孔を開けてもよい。
【0063】
上記充填材を含む構造体において、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料とが接触してないことにより、互いのイオンが水を媒体に移動し、出会ったポイントで難水溶性塩が形成されるため、コンクリーションを広い範囲で形成することができる。上記充填材を含む構造体において、上記充填対象物質内に至った水又は湿気により、上記陽イオンを放出可能な化合物により陽イオンが放出され、上記陰イオンを放出可能な化合物により陰イオンが放出されることが好ましい。この結果、上記陽イオンと上記引イオンとの反応により、上記充填対象物質内において、難水溶性塩が生成されることが好ましい。
【0064】
構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記充填材を含む構造体において、上記第1,第2の樹脂材料がそれぞれ、硬化性樹脂材料であることが好ましい。構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高める観点からは、上記第1,第2の樹脂材料は、硬化前に、複数の孔内に配置されることが好ましい。上記第1,第2の樹脂材料は硬化可能な状態で、複数の孔内に配置されることが好ましい。上記第1,第2の樹脂材料は、硬化後又は硬化した状態で、複数の孔内に配置されてもよい。複数の孔内に配置された上記第1,第2の樹脂材料は、硬化物であってもよい。
【0065】
上記複数の孔の間隔は、好ましくは100mm以上、より好ましくは150mm以上であり、好ましくは2000mm以下、より好ましくは1000mm以下である。上記充填材を含む構造体において、上記第1の樹脂材料と上記第2の樹脂材料との間隔は、好ましくは100mm以上、より好ましくは150mm以上であり、好ましくは2000mm以下、より好ましくは1000mm以下である。上記間隔が上記下限以上及び上記上限以下であると、より一層適度にかつ広範囲にて難水溶性塩が形成されるため、コンクリーションを広い範囲で形成することができる。したがって、構造体をより一層緻密化し、構造体の長期安定性をより一層高めることができる。上記間隔は、隣り合う孔の表面間距離、及び、隣り合う樹脂材料の表面間距離である(
図1のS)。上記間隔は、平均間隔であることが好ましい。
【0066】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0067】
以下の材料を用意した。
【0068】
硬化性樹脂(A):積水化学工業社製「インフラガード CRJ」(エポキシ樹脂)
硬化性樹脂(B):日本ユピカ社製「2120」(不飽和ポリエステル)
熱可塑性樹脂(A):LDPE日本ポリエチレン社製「ノバテックLF441MD」(ポリエチレン)
陽イオンを放出可能な化合物:塩化カルシウム、酸化カルシウム
陰イオンを放出可能な化合物:炭酸水素ナトリウム
硬化剤:日本油脂社製「パーメックN」
ガラス粒子:アズワン社製「ガラスビーズ ASGB-60」
【0069】
(実施例1)
(1)充填材の作製
硬化性樹脂(A)100重量部に、塩化カルシウム100重量部を混合分散させて、硬化を行い、円柱状の第1の樹脂材料(直径20mm、高さ約25mm)を得た。
【0070】
硬化性樹脂(A)100重量部に、炭酸水素ナトリウム100重量部を混合分散させて、硬化を行い、円柱状の第2の樹脂材料(直径20mm、高さ約25mm)を得た。
【0071】
得られた第1,第2の樹脂材料を備え、かつ第1,第2の樹脂材料が接触していない充填材(セット品/キット)を得た。
【0072】
(2)充填材を含む構造体の作製
高さ180mm×幅180mm×奥行30mmのアクリル水槽中にガラス粒子を充填した。得られた第1の樹脂材料及び得られた第2の樹脂材料を、ガラス粒子が充填されたアクリル水槽の対角線上に、150mmの間隔をあけて配置した。得られた充填材を含む構造体において、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料とを接触させなかった。
【0073】
(3)難水溶性塩の形成確認
アクリル水槽中に充填したガラス粒子が浸るように、ガラス粒子の最表層の上面まで水を加えた。
【0074】
1カ月静置した後、第1,第2の樹脂材料の間で、充填したガラス粒子と一体化した炭酸カルシウム(難水溶性塩)が観察された。
【0075】
(実施例2)
(1)充填材の作製
硬化性樹脂(B)100重量部に、塩化カルシウム50重量部を混合分散させて、液状の第1の樹脂材料を得た。
【0076】
硬化性樹脂(B)100重量部に、炭酸水素ナトリウム50重量部を混合分散させて、液状の第2の樹脂材料を得た。
【0077】
得られた第1,第2の樹脂材料を備え、かつ第1,第2の樹脂材料が接触していない充填材(セット品/キット)を得た。
【0078】
(2)充填材を含む構造体の作製
高さ150mm×幅150mm×奥行150mmの砂岩ブロックに、表面より直径10mm深さ100mmの穴を、対角線上に100mmの距離をとって2か所開けた。
【0079】
得られた第1の樹脂材料及び得られた第2の樹脂材料それぞれに硬化剤(パーメックN)1重量部を加え撹拌混合後、2か所の穴にそれぞれ注入して配置、硬化した。すなわち、一方の穴に得られた第1の樹脂材料を配置し、他方の穴に得られた第2の樹脂材料を配置した。得られた充填材を含む構造体において、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料とを接触させなかった。
【0080】
(3)難水溶性塩の形成確認
得られた充填材を含む構造体において、水を入れた金属バット内に上記砂岩ブロックを半浸漬させ、状態変化を観察した。
【0081】
2カ月静置した後、上記砂岩ブロックの中心部に、難水溶性塩として、炭酸カルシウムの生成が観察された。
【0082】
(実施例3)
(1)充填材の作製
熱可塑性樹脂(A)100重量部と塩化カルシウム30重量部とを、2軸押出機を用いて170℃で溶融混錬し、ペレットにし、第1の樹脂材料(ペレット、直径3mm、長さ5mm)を得た。
【0083】
熱可塑性樹脂(A)100重量部と炭酸水素ナトリウム30重量部とを、2軸押出機を用いて170℃で溶融混錬し、ペレットにし、第2の樹脂材料(ペレット、直径3mm、長さ5mm)を得た。
【0084】
得られた第1,第2の樹脂材料を備え、かつ第1,第2の樹脂材料が接触していない充填材(セット品/キット)を得た。
【0085】
(2)充填材を含む構造体の作製
実施例1と同じアクリル水槽中にガラス粒子を充填し、得られた第1の樹脂材料のペレット20粒及び得られた第2の樹脂材料のペレット20粒を、アクリル水槽の対角線上に150mmの間隔をあけて配置した。得られた充填材を含む構造体において、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料とを接触させなかった。
【0086】
(3)難水溶性塩の形成確認
アクリル水槽中に充填したガラス粒子が浸るように、ガラス粒子の最表層の上面まで水を加えた。
【0087】
3カ月静置した後、第1,第2の樹脂材料の間で、充填したガラス粒子と一体化した炭酸カルシウム(難水溶性塩)が観察された。
【0088】
(比較例1)
(1)充填材を含む構造体の作製
硬化性樹脂(A)100重量部に、塩化カルシウム100重量部を混合分散させて、硬化を行い、円柱状の第1の樹脂材料(直径20mm、高さ約25mm)を得た。
【0089】
高さ180mm×幅180mm×奥行30mmのアクリル水槽中にガラス粒子を充填した。得られた第1の樹脂材料を、ガラス粒子が充填されたアクリル水槽の対角線上に配置した。
【0090】
硬化性樹脂(A)100重量部に、炭酸水素ナトリウム100重量部を混合分散させて、硬化を行い、円柱状の第2の樹脂材料(直径20mm、高さ約25mm)を得た。
【0091】
得られた第2の樹脂材料を、第1の樹脂材料が配置されたアクリル水槽の対角線上に配置した。このとき、得られた第1の樹脂材料及び得られた第2の樹脂材料を接触させた。
【0092】
(2)難水溶性塩の形成確認
アクリル水槽中に充填したガラス粒子が浸るように、ガラス粒子の最表層の上面まで水を加えた。
【0093】
1カ月静置した後、第1,第2の樹脂材料の間で、充填したガラス粒子と一体化した炭酸カルシウム(難水溶性塩)が観察された。しかし、比較例1にて生成された難水溶性塩の大きさは、実施例1にて生成された難水溶性塩の大きさの1/4程度であった。
【0094】
(比較例2)
(1)充填材を含む構造体の作製
熱可塑性樹脂(A)100重量部と塩化カルシウム30重量部とを、2軸押出機を用いて170℃で溶融混錬し、ペレットにし、第1の樹脂材料(ペレット、直径3mm、長さ5mm)を得た。
【0095】
実施例1と同じアクリル水槽中にガラス粒子を充填し、得られた第1の樹脂材料のペレット20粒を、アクリル水槽の対角線上に配置した。
【0096】
熱可塑性樹脂(A)100重量部と炭酸水素ナトリウム30重量部とを、2軸押出機を用いて170℃で溶融混錬し、ペレットにし、第2の樹脂材料(ペレット、直径3mm、長さ5mm)を得た。
【0097】
得られた第2の樹脂材料を、第1の樹脂材料が配置されたアクリル水槽の対角線上に配置した。このとき、得られた第1の樹脂材料及び得られた第2の樹脂材料を接触させた。
【0098】
(3)難水溶性塩の形成確認
アクリル水槽中に充填したガラス粒子が浸るように、ガラス粒子の最表層の上面まで水を加えた。
【0099】
3カ月静置した後、第1,第2の樹脂材料の間で、充填したガラス粒子と一体化した炭酸カルシウム(難水溶性塩)が観察された。しかし、比較例2にて生成された難水溶性塩の大きさは、実施例3にて生成された難水溶性塩の大きさの1/2以下であった。
【符号の説明】
【0100】
1…充填材を含む構造体
11…充填対象物質
11a…孔
12…充填材
21…第1の樹脂材料
22…第2の樹脂材料