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  • 特開-不燃木材の個体管理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051199
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】不燃木材の個体管理方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20230101AFI20230404BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20230404BHJP
   G06Q 10/0833 20230101ALI20230404BHJP
   B27M 1/00 20060101ALI20230404BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G06Q10/06
G06Q50/02
G06Q10/08 306
B27M1/00 Z
G06K19/077 220
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161731
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】塚本 誠
(72)【発明者】
【氏名】大橋 春樹
【テーマコード(参考)】
2B250
5L049
【Fターム(参考)】
2B250AA31
2B250DA03
2B250FA47
2B250GA01
5L049AA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材1の個体を電子的に管理して、出荷後においても不燃木材1のトレーサビリティを可能にする不燃木材の個体管理方法を提供する。
【解決手段】ICタグ2とデータベース3とを用いて、木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材1の個体を管理する方法であって、ICタグ2には、データベース3で管理される、薬剤処理の対象木材1の個体を識別する個体識別番号が入力されている。ICタグ2は、対象木材1における、ICタグ2から個体識別番号を読み取り可能且つ発熱性試験においてICタグ2に用いられている樹脂の引火点に達しない位置に埋め込まれている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICタグとデータベースとを用いて、木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材の個体を管理する方法であって、
前記ICタグには、前記データベースで管理される、薬剤処理の対象木材の個体を識別する個体識別番号が入力されており、
前記ICタグは、前記対象木材における、前記ICタグから前記個体識別番号を読み取り可能且つISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験において該ICタグに用いられている樹脂の引火点に達しない位置に埋め込まれていることを特徴とする不燃木材の個体管理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記データベースには、前記個体識別番号毎に、薬剤処理前後における前記対象木材の重量及び薬剤処理条件の少なくとも一つの情報が入力されており、
前記ICタグから前記個体識別番号を読み取り、前記データベースにアクセスすることで、該個体識別番号に紐付けられた前記情報を確認することを特徴とする不燃木材の個体管理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ICタグは薬剤処理前の前記対象木材に埋め込まれることを特徴とする不燃木材の個体管理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項において、
前記ICタグは前記対象木材の表面から深さ10mm以上の位置に埋め込まれていることを特徴とする不燃木材の個体管理方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項において、
前記対象木材中の前記ICタグに用いられている樹脂量が該対象木材の表面積100cm当たり1.7g未満であることを特徴とする不燃木材の個体管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃木材の個体管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材の品質管理を目的として、木材のトレーサビリティを管理するシステムや方法が種々検討されている。例えば、特許文献1には、木材に取り付けられる無線ICタグを用いて、木材の産地等のトレーサビリティを管理する木材管理システム及び木材管理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-212833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、木材を薬剤処理して木材に不燃性を付与する不燃化処理を行う場合、不燃材料(不燃木材)の認定において、製造フローの管理を厳密に行うことが指定されている。例えば、薬剤処理の前後において、対象木材一本毎に重量変化を検査する必要がある。検査結果等の情報を、例えば、ロット番号に印刷する、木材にバーコードを印字する、木材にシールを貼付する等の方法で管理する場合、剥がれや現場での塗装等によって情報の読み取りができなくなるというおそれがある。また、不燃木材の施工後(出荷後)に、薬剤の溶脱、白華、塗装剥がれ等の問題が万が一発生した場合、そのロット番号や前記情報の読み取りが容易にできず、不具合の原因究明、製造仕様が同様の製品の検出、再発防止策の決定等の支障となっている。
【0005】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材の個体を電子的に管理して、出荷後においても不燃木材のトレーサビリティを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、不燃木材の個体を電子的に管理するために用いるICタグがISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験(コーンカロリーメータ試験)に耐え得るように、木材に埋め込む位置、樹脂含有量、入力データ等を工夫した。
【0007】
具体的には、第1の発明は、ICタグとデータベースとを用いて、木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材の個体を管理する方法(不燃木材の個体管理方法)であって、前記ICタグには、前記データベースで管理される、薬剤処理の対象木材の個体を識別する個体識別番号が入力されており、前記ICタグは、前記対象木材における、前記ICタグから前記個体識別番号を読み取り可能且つISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験において該ICタグに用いられている樹脂の引火点に達しない位置に埋め込まれていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明では、木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材の個体を電子的に管理するために、ICタグとデータベースとを用いる。ICタグには、薬剤処理の対象木材の個体を識別する個体識別番号が入力されている。個体識別番号はデータベースで管理される。また、ICタグは、対象木材において、読み取り可能な位置で、且つISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験においてICタグに用いられている樹脂の引火点に達しない位置に埋め込まれている。これにより、発熱性試験での加熱に起因するICタグの性能劣化や故障等の不具合の発生を抑制できる。その結果、不燃木材の出荷前だけでなく、施工後(出荷後)においても、ICタグから個体識別番号を正しく読み取ることができるため、不燃木材のトレーサビリティが可能になる。また、樹脂の引火に起因する不燃木材の不燃性能に悪影響を及ぼすことが回避される。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記データベースには、前記個体識別番号毎に、薬剤処理前後における前記対象木材の重量及び薬剤処理条件の少なくとも一つの情報が入力されており、前記ICタグから前記個体識別番号を読み取り、前記データベースにアクセスすることで、該個体識別番号に紐付けられた前記情報を確認することを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、データベースは、個体識別番号毎に、薬剤処理前後における対象木材の重量及び薬剤処理条件の少なくとも一つの情報が入力され、整理・管理された情報の集まり(これら情報を統一的に管理したファイル又は当該ファイルを管理するシステム。以下「情報群」ともいう。)になっている。そして、必要に応じて、不燃木材に埋め込まれたICタグから個体識別番号を読み取り、データベースにアクセスすることで、個体識別番号に紐付けられた前記情報群を確認できるため、不燃木材の一元管理が可能になる。前記情報群は、ICタグではなく、データベースに入力・記録されている。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記ICタグは薬剤処理前の前記対象木材に埋め込まれることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、ICタグは、前記発熱性試験においてICタグに用いられている樹脂の引火点に達しない位置に配置されているため、薬剤処理前に対象木材に埋め込まれる場合でも、発熱性試験での加熱に起因するICタグの性能劣化や故障等の不具合が抑制され、ICタグに用いられている樹脂の引火が発生し難い。
【0013】
第4の発明は、第1~第3のいずれか一つの発明において、前記ICタグは前記対象木材の表面から深さ10mm以上の位置に埋め込まれていることを特徴とする。
【0014】
第4の発明では、対象木材に埋め込まれるICタグの位置が特定される。ICタグの埋込位置が対象木材の表面から10mm以上離れていれば、ICタグに用いられている樹脂(使用樹脂)の引火点に到達しないため、使用樹脂(ICタグ)が不燃木材としての不燃性能に影響を及ぼすことがより一層回避される。また、前記発熱性試験での加熱に起因するICタグの性能劣化や故障等の不具合がより一層抑制される。これらにより、不燃木材としての性能を担保しつつ、トレーサビリティを可能とすることができる。
【0015】
第5の発明は、第1~第3のいずれか一つの発明において、前記対象木材中の前記ICタグに用いられている樹脂量が該対象木材の表面積100cm当たり1.7g未満であることを特徴とする。
【0016】
第5の発明では、対象木材中に埋め込まれたICタグの使用樹脂含有量が特定される。対象木材中のICタグにおいて、前記発熱性試験における対象木材の試験表面積100cm当たり1.7g未満の樹脂量であれば、仮に発熱性試験中に使用樹脂の引火点に達して使用樹脂が全焼したとしても、不燃性能の基準である総発熱量が8MJ/m以下となるため、使用樹脂(ICタグ)が不燃木材としての不燃性能に影響を及ぼすことがより一層回避される。これにより、不燃木材としての性能を担保できる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によると、木材に薬剤処理して不燃性を付与した不燃木材の個体を電子的に管理して、出荷後においても不燃木材のトレーサビリティが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係る不燃木材の個体管理方法の概略構成を示す図である。
図2図2は、図1中のII-II線に沿った不燃木材の断面図である。
図3図3は、不燃木材の個体管理方法の変形例を示す模式図であり、図1に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0020】
<不燃木材の個体管理方法>
図1は、本発明の実施形態に係る、木材に薬剤処理(不燃化処理)して不燃性を付与した不燃木材1(以下、薬剤処理の対象木材にも同一の符号を付して説明する。)の個体を管理する方法を示す。不燃木材1の個体管理方法は、不燃材料(不燃木材)の認定に必要な製造フローを厳密に管理すると共に、不燃木材の加工や施工時(つまり出荷後)においても製造フローの履歴を追跡可能に管理する(トレーサビリティ)方法(システム)である。不燃材料とは、ISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験において総発熱量が8MJ/m以下であると認定された材料をいう。不燃木材1の個体管理方法では、不燃木材1の個体を電子的に管理するために、情報記録媒体としてのICタグ2と、情報管理ファイル(そのファイルを管理するシステム)としてのデータベース3とを用いる。
【0021】
(ICタグ)
ICタグ2は、対象木材1の個体を管理するための識別番号(個体識別番号、ID情報)を入力して記録する電子タグ、RFタグ又は無線タグである。ICタグ2には、対象木材1の個体識別番号のみが入力されている。この点で、ICタグ2は個体識別番号専用のICタグともいえる。このように、不燃木材1の個体管理方法では、ICタグ2には、情報(データ)として対象木材1の個体識別番号のみ(1つのデータ)が記録できればよく、ICタグ2のデータ記録量は少なくてもよい。そのため、ICタグ2のサイズ(ICタグ2自体の大きさ)は小さくてもよい。また、後述するICタグ2の配置又はICタグ2に用いられている樹脂量の観点から、ICタグ2のサイズは小さいほうが好ましい。ICタグ2としては、例えば、長さ10mm、φ1mmの円柱状のもの、長さ15mm、幅20mm、厚み1mmの平板状のもの等が挙げられる。ICタグ2は、電波や電磁波を介して、読取り機(リーダ)4等によりデータを読み取ることができる。なお、ICタグ2はデータを読み書き可能なものでもよい。リーダ4は読み書き可能なリーダライタでもよい。なお、ICタグ2、リーダ(リーダライタ)4は市販品を使用できる。
【0022】
図1及び図2に示すように、ICタグ2は、対象木材1に埋め込まれている。そのため、ICタグ2に用いられている樹脂が対象木材1の不燃性能に悪影響を及ぼすことを回避する観点から、ICタグ2における樹脂量、つまり対象木材1中のICタグ2に用いられている樹脂量の範囲は少ないほうが好ましい(樹脂量は0g、つまり樹脂が含まれていなくてもよい)。対象木材1中のICタグ2に用いられている樹脂量の範囲(ICタグ2が複数設置される場合は、ICタグ2に用いられている樹脂量の合計)は、前記の観点から、対象木材1の表面積100cm当たり、好ましくは4.4g未満、より好ましくは3.3g未満、より一層好ましくは2.7g未満、さらに好ましくは1.9g未満、さらに一層好ましくは1.7g未満である。なお、対象木材1の表面積とは、例えば、ISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験における対象木材1の試験表面積をいう。対象木材1中のICタグ2に用いられている樹脂量(合計)が前記範囲にあれば、発熱性試験において、仮に樹脂単体が全焼したとしても、樹脂単体の総発熱量は8MJ/m以下になり得る。つまり、対象木材1にICタグ2が埋め込まれていても、そのICタグ2(中の樹脂)が、対象木材1の不燃性能(不燃材料の認定)に悪影響を及ぼすことを回避できる。
【0023】
ICタグ2は、薬剤処理前の対象木材1に埋め込まれる。対象木材1にICタグ2を埋め込む方法としては、例えば、薬剤処理前に、対象木材1の表面(木表面、木裏面、各側面)又は木口面を切削する又は掘り込むことによって凹部(有底穴)や溝等の埋込部(不図示)を形成し、この埋込部の底面部又はICタグ2の埋込方向中間部(底面部以外)にICタグ2を設置する方法等が挙げられる。具体例としては、対象木材1が製材品(ソリッド)の場合、木口面からICタグ2のサイズに合わせて所定深さに切削し、形成された凹部(埋込部)の底面部又は中間部にICタグ2を設置(固定)する。また、埋込部を埋めてICタグ2を被覆してもよく、埋込部に固着させてもよい。埋込部を埋める材料としては、対象木材1(その木質片)、不燃パテ等を用いることができる。さらに別の形態としては、ICタグ2が前記した円柱状の場合、例えば注射器を対象木材1に差し込み、対象木材1の内部に円柱状ICタグ2を直接挿入して埋め込むこともできる。
【0024】
また、ICタグ2は、対象木材1において、ICタグ2から個体識別番号を読み取り可能な位置であって、ISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験においてICタグ2に用いられている樹脂の引火点に到達しない位置に埋め込まれる。
【0025】
対象木材1における、ICタグ2から個体識別番号を読み取り可能な位置とは、対象木材1の表面又は木口面にリーダ4を接触又は近接させたときに、対象木材1に埋め込まれたICタグ2から個体識別番号を読み取り可能な深さ(対象木材1の厚み方向長さ、図2では上下縦方向長さ)位置をいう。ICタグ2から個体識別番号を読み取り可能な、対象木材1の表面からの深さD又は木口面からの深さL(図2参照)は、ICタグ2やリーダ4の種類や性能に応じて適宜決定すればよいが、例えば1mm~50mm程度である。
【0026】
対象木材1における、ISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験においてICタグ2に用いられている樹脂の引火点に到達しない位置とは、発熱性試験中(対象木材1の試験表面が輻射量50kW/mで20分間加熱されている間)に、ICタグ2に用いられている(対象木材1に含まれる)樹脂にかかる温度が、当該樹脂の引火点を超過しない深さ位置をいう。つまり、ICタグ2が前記深さ位置に埋め込まれていれば、発熱性試験で規定される所定時間及び所定輻射量で対象木材1の試験表面が加熱されても、ICタグ2への到達温度はICタグ2に用いられる樹脂の引火点を超えない。そのため、対象木材1にICタグ2が埋め込まれていても、そのICタグ2(中の樹脂)が、対象木材1の不燃性能(不燃材料の認定)に悪影響を及ぼすことを回避できると共に、加熱に起因するICタグ2の性能劣化や故障等の不具合発生も抑制できる。発熱性試験においてICタグ2に用いられている樹脂の引火点に到達しない、対象木材1の試験表面からの深さ(対象木材1の表面からの深さD又は木口面からの深さL)は、前記の観点から、好ましくは7.5mm以上、より好ましくは10mm以上、より一層好ましくは12.5mm以上、さらに好ましくは17.5mm以上、さらに一層好ましくは20mm以上である。なお、深さD,Lの上限は、対象木材1の厚さに応じて適宜決定すればよく、具体的には、対象木材1において試験表面になり得る表面及び木口面からの深さが何れも前記範囲になるように決定すればよい。
【0027】
ICタグ2は、後述する実施例に示されるように、不燃木材(対象木材)1の表面から深さ10mm以上50mm以下の位置に埋め込まれる、又は対象木材1中のICタグ2に用いられている樹脂量が対象木材1の表面積100cm当たり1.7g未満であることが好ましい。ICタグ2の埋込位置又は対象木材1中のICタグ2に用いられている樹脂量を前記範囲に特定することで、対象木材1の不燃性能及び個体識別番号の読み取り性能の低下をより一層回避できる。その結果、ICタグ2が埋め込まれた対象木材1の不燃材料の認定と、ICタグ2を利用した不燃木材1のトレーサビリティとが確実になる。
【0028】
なお、ICタグ2は、一つの対象木材1に少なくとも1つ設置されていればよく、1つであってもよく、複数(図1では4つ)であってもよい。ICタグ2の設置数は、個体識別番号を確実に読み取る観点から、複数設置されていることが好ましい。対象木材1におけるICタグ2の設置位置は、その後の加工、塗装、施工等に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、例えば、対象木材の表面、木口面等が挙げられる。
【0029】
(データベース)
データベース3は、コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の情報端末)を用いて作成、入力、記録される情報の集まり(情報群)をいう。具体的には、データベース3には、個体識別番号毎に紐付けされた、薬剤処理前後における対象木材の重量及び薬剤処理条件の少なくとも一つの情報が入力・整理された情報群が読み書き可能に記録されている。つまり、ICタグ2に入力された個体識別番号はデータベース3で個体管理情報の主キーとして管理される。
【0030】
薬剤処理前後における対象木材1の重量の差(「薬剤処理後の対象木材1の重量」-「薬剤処理前の対象木材1の重量」)から、薬剤の注入量を算出できる。薬剤処理条件としては、例えば、薬剤の種類、薬液(薬剤処理時)の温度、薬剤処理時の圧力、処理時間等が挙げられる。なお、必要に応じて、データベース3には、不燃木材1の出荷日、納材地等の販売管理情報;不燃木材1の出荷後に不燃木材1を加工、施工若しくは廃棄した場所又は日等の消費・廃棄情報等が記録されていてもよい。
【0031】
不燃木材1の個別情報は、データベース3にアクセスして、不燃木材1の個体識別番号を辿れば(入力すれば)すぐに確認できるため、万が一不具合が発生した場合でも、その原因把握や、同様の条件で製造された製品の特定が容易になる。
【0032】
(薬剤処理の対象木材)
薬剤処理の対象木材1は、特に限定されず、製材品(ソリッド);集成材、LVL(単板積層材)、合板等の木質材料等が挙げられる。対象木材1の形状は、特に限定されず、平板、角柱、丸柱等が挙げられる。対象木材1の厚さ(ICタグ2を埋め込む深さ方法の長さ)は、ICタグ2のサイズ、埋め込み位置等によって適宜選択できるため特に限定されないが、ICタグ2を埋め込む深さ(図2に示すD)を2倍した長さにICタグ2の該深さ方向の長さを足した合計長さ以上の厚みがあればよく、例えば20mm以上である。
【0033】
(不燃木材の個体管理方法の工程順序)
次に、不燃木材1の個体管理方法の工程順序(実施)について説明する。不燃木材1の個体管理方法は、ICタグ設置工程S1と、薬剤処理前の対象木材の重量測定工程S2と、薬剤処理条件の入力工程S3と、対象木材の薬剤処理工程S4と、薬剤処理後の対象木材の重量測定工程S5とを有する。
【0034】
(ICタグ設置工程S1)
まず、ICタグ2に薬剤処理の対象木材1一本毎の個体を識別する個体識別番号を入力する。その後、個体識別番号が入力されたICタグ2を対象木材1の特定位置に埋め込む。なお、ICタグ2が読み書き可能なものである場合、ICタグ2を対象木材1に埋め込んだ後に、例えばリーダライタを用いて、ICタグ2に個体識別番号を書き込み(入力)してもよい。
【0035】
(薬剤処理前の対象木材の重量測定工程S2)
工程S1後、薬剤処理前の対象木材1の重量を測定し、測定重量をデータベース3に入力する。
【0036】
(薬剤処理条件の入力工程S3)
工程S2後、薬剤の種類、薬液(薬剤処理時)の温度、薬剤処理時の圧力、処理時間等の薬剤処理条件をデータベース3に入力する。
【0037】
(対象木材の薬剤処理工程S4)
工程S3においてデータベース3に入力された薬剤処理条件に従い、対象木材1に薬剤処理(不燃化処理)を行う。なお、不燃化処理を施すための薬剤処理方法は、特に限定されず、通常一般に使用される方法(例えば、対象木材1を処理装置に搬入する方法等)を採用できる。薬剤処理工程は、特に限定されず、例えば、減圧工程(減圧度:-1MPa以上-0.7Mpa以下程度)で約2時間処理し、その後、加圧含浸工程(加圧度:0.7Mpa以上2MPa以下、処理温度:60以上90℃以下程度)で約9時間処理する方法等が挙げられる。なお、薬剤は、特に限定されず、一般に使用される化学薬剤を使用できる。
【0038】
(薬剤処理後の対象木材の重量測定工程S5)
工程S4後、薬剤処理後の対象木材1の重量を測定し、測定重量をデータベース3に入力する。このとき、データベース3において、薬剤注入量が自動的に計算されるように作成されていてもよい。
【0039】
(その他の工程)
不燃木材1の個体管理方法は、その他の工程として、出荷前情報の入力工程S6及び出荷後情報の入力工程S7の少なくとも一つをさらに有していてもよい。
【0040】
(出荷前情報の入力工程S6)
工程S5後であって不燃木材1の出荷前に、必要に応じて不燃木材1の出荷日、納材地等の販売管理情報をデータベース3に入力する。
【0041】
(出荷後情報の入力工程S7)
不燃木材1の出荷後に、不燃木材1を加工、施工若しくは廃棄した場所又は日等の消費・廃棄情報をデータベース3に入力する。
【0042】
(まとめ)
以上の工程順序により、不燃木材1の個体管理に必要な情報がデータベース3に個体識別番号毎に入力され、記録・管理される。これにより、薬剤処理を行う前に対象木材1の特定位置に埋め込まれたICタグ2と、ICタグ2に入力された個体識別番号に紐付けられた情報群を記録・管理するデータベース3とを用いて、薬剤注入(不燃化処理)、乾燥、加工、塗装までの製造工程での個別管理、出荷時の個別管理及び施工後の個別認識により、不燃木材1のトレーサビリティサービスが可能になる。具体的には、不燃木材1の出荷後(施工後)であっても、ICタグ2から不燃木材1の個体識別番号を読み取りさえすれば、個体識別番号に紐付けられた個別情報をデータベースにアクセスすることで容易に確認できる。その結果、不燃木材1の出荷後に万が一不具合が生じた場合であっても、そのロット番号の特定、原因把握、同様の条件で製造された製品特定等が容易になる。
【0043】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、ICタグ2には、不燃木材1の個体識別番号のみが入力されているが、これに限定されず、他の情報が入力されていてもよい。但し、不燃木材1の個体識別番号に紐付けられた薬剤処理前後の重量及び薬剤処理条件の少なくとも一つの情報はデータベース3で記録・管理される。
【0044】
上記実施形態では、工程毎にデータをデータベース3に入力しているが、各データを入力するタイミングは特に限定されず、各データはまとめて入力してもよく、複数回に分けて入力してもよい。
【0045】
上記実施形態では、ICタグ2から不燃木材1の個体識別番号をリーダ4で読み取り、その個体識別番号を例えばパーソナルコンピュータ等で作成されたデータベース3に入力して、不燃木材1の個別情報を確認する方法が採用されているが、これに限定されない。例えば、タブレット型端末、スマートフォン等の情報端末にデータベース3を作成すると共に、IDタグリーダのアプリ等を導入することで、図3に示すように、情報端末がデータベース3とリーダ4とを兼ね備える構成でもよい。具体的には、ICタグ2からの個体識別番号の読み取りと、データベース3への個体識別番号の入力とが一つの情報端末で処理、操作可能に構成されていてもよい。この場合、加工又は施工現場で、不燃木材1の個別情報が容易且つ早急に確認できる。
【実施例0046】
以下に、本開示を実施例に基づいて説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本開示の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本開示の範囲から除外するものではない。
【0047】
<木材表面からの各深さにおける到達温度の測定(ICタグの埋込深さの評価)>
薬剤処理の対象木材(試験片)として、10cm×10cmの試験表面と表1に示す厚さを有し、リン・窒素系難燃薬剤を注入した、不燃認定相当の不燃性能を有する不燃処理木材の平板を用い、ISO 5660-1:2002に準拠して発熱性試験を実施した。具体的には、発熱性試験中、各試験片の試験表面を輻射量50kW/mで20分間加熱し、その裏面の温度を熱電対で測定し、測定中の最大温度を、試験表面からの各深さにおける試験中の到達温度とした。その結果を表1に示す。
【0048】
続いて、ICタグに用いられる樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET、引火点:346℃)、ポリエチレン(PE、引火点:340℃)、ポリスチレン(PS、引火点:360℃)、ポリウレタン(PU、引火点:310℃)及びポリ塩化ビニル(PVC、引火点:391℃)を想定し、各樹脂の引火点に基づいて、対象木材へのICタグの埋込深さの評価を以下の評価基準に基づいて行った。その結果を表1に示す。
(評価基準)
〇:「樹脂の引火点>試験中の到達温度」となる試験表面からの深さ
×:「樹脂の引火点≦試験中の到達温度」となる試験表面からの深さ
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から、試験片の試験表面から深さ7.5mmにおける試験中の到達温度が引火点を超える樹脂(PU)があることが分かった。また、試験表面から深さ10mmにおける試験中の到達温度は何れの樹脂の引火点も超えないことが分かった。したがって、木材表面からの各深さにおける到達温度の点では、対象木材の表面から10mm以上の深さ位置にICタグを埋め込むことで、加熱に起因するICタグの性能劣化や故障等の不具合が抑制されると共に、対象木材の不燃性能(不燃材料の認定)に悪影響を及ぼすことを回避できると考えられる。
【0051】
<ICタグにおける樹脂量の評価>
PET、PE、PS、PU及びPVCについて、引火点を超えるときの単位発熱量を表2に示す。なお、各樹脂の単位発熱量は材料固有の値であり、文献参照値(出典:日本建築学会、「防火区画の設計施工パンフレット」)である。各樹脂の単位発熱量から、ISO 5660-1:2002に準拠した発熱性試験において樹脂単体の総発熱量が8MJ/m以下(不燃材料)となる、試験片の表面積(対象木材の表面積)100cm当たりの樹脂量を以下の数式(1)に基づいて求めた。その結果を表2に示す。
[数1]
対象木材の表面積100cm当たりの樹脂量[g/100cm]={8[MJ/m](不燃材料の総発熱量)/樹脂の単位発熱量[MJ/kg]}×10 (1)
【0052】
【表2】
【0053】
表2の結果から、試験片の表面積100cm当たりの樹脂量が1.7g未満であれば、仮に樹脂単体が全焼したとしても、何れの樹脂も、樹脂単体の総発熱量は8MJ/m以下となることが分かった。したがって、ICタグにおける樹脂量の合計が対象木材の表面積100cm当たり1.7g未満になるようにICタグの種類や埋込数を調整することで、対象木材の不燃性能(不燃材料の認定)に悪影響を及ぼすことを回避できると考えられる。
【0054】
表1及び表2の結果をふまえると、何れの樹脂が用いられたICタグを用いても、樹脂の引火に起因する対象木材の不燃性能(不燃材料の認定)の低下を抑制する観点から、好ましくは、ICタグの埋込深さを表面から10mm以上にするか、又はICタグ中の樹脂量(合計)を対象木材の表面積100cm当たり1.7g未満にすればよいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、不燃木材をICタグにより個別管理し、出荷後にもICタグから個体識別番号を読み取ることで、データベースで管理された個別情報を確認できる(不燃木材のトレーサビリティが可能になる)ため、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0056】
D 不燃木材(対象木材)の表面からの深さ
L 不燃木材(対象木材)の木口面からの深さ
1 不燃木材(対象木材)
2 ICタグ
3 データベース
4 リーダ
図1
図2
図3