IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ・デュポン株式会社の特許一覧 ▶ 廣瀬製紙株式会社の特許一覧 ▶ 豊通マテックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ポリイミド繊維紙 図1
  • 特開-ポリイミド繊維紙 図2
  • 特開-ポリイミド繊維紙 図3
  • 特開-ポリイミド繊維紙 図4
  • 特開-ポリイミド繊維紙 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051247
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ポリイミド繊維紙
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20230404BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20230404BHJP
   D21H 13/26 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H05K1/03 610N
F16L59/02
D21H13/26
H05K1/03 610T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161807
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591244199
【氏名又は名称】廣瀬製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509006303
【氏名又は名称】豊通マテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】中上 敦貴
(72)【発明者】
【氏名】町田 英明
(72)【発明者】
【氏名】植田 源
(72)【発明者】
【氏名】宮本 憲典
【テーマコード(参考)】
3H036
4L055
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB18
3H036AB20
3H036AB24
3H036AC03
3H036AE01
4L055AF34
4L055EA04
4L055EA08
4L055EA20
4L055EA21
4L055EA32
4L055EA40
4L055FA11
4L055FA20
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】仮止紙に含まれる水溶性高分子を残存させず、かつ難燃性や低アウトガス性の耐熱性を満足するポリイミド繊維紙を提供する。
【解決手段】非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維同士が同じく非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部によって相互に結合されていて、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維と非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部との合計100質量部に対して、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部を0.05~35質量部含むポリイミド繊維紙。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維同士が同じく非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部によって相互に結合されているポリイミド繊維紙。
【請求項2】
非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維と非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部との合計100質量部に対して、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部を0.05~35質量部含む、請求項1に記載のポリイミド繊維紙。
【請求項3】
熱重量分析において、50mL/minの流量で窒素を継続的に導入し、測定温度範囲:25℃~700℃、昇温速度:3℃/minの条件で測定した際、200℃時点の重量を基準として、基準点での重量からの5重量%減少温度が450℃以上である請求項1または請求項2に記載のポリイミド繊維紙。
【請求項4】
定常法により測定した熱伝導率が0.10W/m・K以下0.001W/m・K以上である請求項1から請求項3のいずれか一に記載のポリイミド繊維紙。
【請求項5】
定常法により測定した熱伝導率が0.04W/m・K以下0.001W/m・K以上である請求項1から請求項4のいずれか一に記載のポリイミド繊維紙。
【請求項6】
厚みが0.05mm~1.0mmの範囲で、UL94(6th 2018-05-30)V燃焼性試験に基づくUL94V燃焼性試験において、難燃性規格のV-0レベル相当を満足する、請求項1から請求項5のいずれか一に記載のポリイミド繊維紙。
【請求項7】
厚みが0.1mm~0.5mmである請求項6に記載のポリイミド繊維紙。
【請求項8】
非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積%である加熱炉において、360℃以上450℃以下の温度で加熱処理して得ることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一に記載のポリイミド繊維紙の製造方法。
【請求項9】
前記ポリイミド仮止紙の熱処理を、過熱水蒸気炉内で360℃以上450℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項8に記載のポリイミド繊維紙の製造方法。
【請求項10】
酸素20%/ヘリウム80%からなる混合気体中において、300℃で1時間加熱した際に発生する、ポリイミドのガラス転移温度よりも低い水溶性高分子の残渣に由来する分解ガス成分の総量が、全体の質量に対して0.1%以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一に記載のポリイミド繊維紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、後日提出する予定の国内優先権主張出願の基礎となるものである。
本発明は、非熱可塑性ポリイミド樹脂を用いたポリイミド繊維紙に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、電気絶縁性、耐熱性、耐寒性、難燃性、耐薬品性、機械特性に優れた素材であり、航空・宇宙用途から自動車、電子機器の幅広い分野で利用されている。また近年、軽量化や省スペース化が要求される宇宙機における断熱材料や、あるいは作動温度が高温化するパワーデバイスやヒーターにおける熱マネジメント材料としての需要が高まっている。しかしながら、ポリイミドフィルムは、断熱性能や、気体や液体の透過性といった点で熱マネジメント材料としての要求を十分に満足しておらず、これらの特性を改良した新規ポリイミド材料の開発が要請されていた。
【0003】
熱マネジメント材料としての特性を満たすポリイミド材料として、ポリイミドを繊維化し、紙状に加工したポリイミド繊維紙が挙げられる。例えば、特許文献1、特許文献2、に示される技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-97117
【特許文献2】特開2019-35157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術文献1では、ポリイミド樹脂からなる非熱可塑性不織布の製造方法が示されている。先行技術文献1の製造方法は、非熱可塑性ポリイミドの前駆体溶液を紡糸し、高速気流でひきとり、基材上に補足し、次いでイミド化を行うものである。しかしながら、この方法では特殊な製造装置を要し、均一な厚みを得ること、特に幅の広いシート製品を得ることは困難で高コストになると言う問題がある。
【0006】
また、先行技術文献2に示された非熱可塑性ポリイミドからなるポリイミド繊維紙の製造方法が示されている。先行技術文献2の製造方法は、第一に、非熱可塑性ポリイミドの削り出し短繊維を、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である材料である水溶性高分子溶液中に混合し、湿式抄紙することで、ポリイミド繊維紙の仮止紙を製造し、第二に、前記仮止紙にポリイミド前駆体溶液を分散させ、その後加熱してポリイミド前駆体溶液をイミド化させることで、ポリイミド繊維紙を得るものである。しかしながら、発明者らの検討によると、この製造方法では、イミド化に必要な温度帯で加熱すると、前記水溶性高分子が残存して製品の難燃性獲得を阻害してしまい、さらに製品を高温で使用した際には前記水溶性高分子の分解成分に由来する有害なアウトガスが発生するという問題があった。
また、前記水溶性高分子を残存させないために、製造工程においてより高温で加熱処理を行おうとすると、ポリイミド素材の酸化劣化に伴う熱分解が同時に進行してしまい、耐熱性を損なうという問題があった。
本発明は、上記した従来の課題を解決するためになされたものであり、仮止紙に含まれる水溶性高分子を残存させず、かつ難燃性や低アウトガス性の耐熱性を満足するポリイミド繊維紙を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に取り組むべく鋭意検討を行った結果、先行技術文献2に記述の、ポリイミド繊維紙の仮止紙にポリイミド前駆体溶液を分散させたものを、過熱水蒸気炉を用い、かつある特定の温度帯で加熱処理することで、先行技術文献2に記述の水溶性高分子の残渣を含まず、かつ十分な機械特性を示し、パワーデバイスやヒーター等の熱マネジメント材料として好適に用いることのできる新規ポリイミド繊維紙の発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。第一の発明として、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維同士が同じく非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部によって相互に結合されているポリイミド繊維紙を提供する。
【0009】
次に、第二の発明として、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維と非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部との合計100質量部に対して、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部を0.05~35質量部含むポリイミド繊維紙を提供する。
【0010】
次に、第三の発明として、熱重量分析において、50mL/minの流量で窒素を継続的に導入し、測定温度範囲:25℃~700℃、昇温速度:3℃/minの条件で測定した際、200℃時点の重量を基準として、基準点での重量からの5重量%減少温度が450℃以上であるポリイミド繊維紙を提供する。
【0011】
次に、第四の発明として、定常法により測定した熱伝導率が0.10W/m・K以下0.001W/m・K以上であるポリイミド繊維紙を提供する。
【0012】
次に、第五の発明として、定常法により測定した熱伝導率が0.04W/m・K以下0.001W/m・K以上であるポリイミド繊維紙を提供する。
【0013】
次に、第六の発明として、厚みが0.05mm~1.0mmの範囲で、UL94(6th 2018-05-30)V燃焼性試験に基づくUL94V燃焼性試験において、難燃性UL-94規格のV-0レベルを満足するポリイミド繊維紙を提供する。
【0014】
次に、第七の発明として、厚みが0.1mm~0.5mmであるポリイミド繊維紙を提供する。
【0015】
次に、第八の発明として、非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積%である加熱炉において、360℃以上450℃以下の温度で加熱処理して得ることを特徴とするポリイミド繊維紙の製造方法を提供する。
【0016】
次に、第九の発明として、非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、過熱水蒸気炉内で360℃以上450℃以下の温度で行うことを特徴とするポリイミド繊維紙の製造方法を提供する。
【0017】
次に、第十の発明として、酸素20%/ヘリウム80%からなる混合気体中において、300℃で1時間加熱した際に発生する、ポリイミドのガラス転移温度よりも低い水溶性高分子の残渣に由来する分解ガス成分の総量が、全体の質量に対して0.1%以下であることを特徴とするポリイミド繊維紙を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリイミド繊維紙は、紙状構造体として実用的に十分な強度を示し、かつポリイミド樹脂の有する耐熱性、耐寒性を保持しつつ、ポリイミドフィルムと比較して軽量性、通気性、断熱性能に優れる。加えて、5%重量減少温度が450℃以上であることで、加熱時のアウトガス発生量が抑制されるため、アウトガスによる周辺部材への汚染を低減できる。かつ、高温取扱時の人体へのアウトガス吸入量が少ないことで、作業者への健康被害の懸念を低減することができる。前記特徴により、ポリイミド繊維紙は、宇宙機用途におけるMLI(多層断熱材)や密閉空間における断熱材料として好適に用いることが出来る。
また本発明のポリイミド繊維紙は難燃性UL-94規格のV-0レベルを満足するため、構成材料の難燃性が求められる電子機器における熱マネジメント材料として好適に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ポリイミド繊維紙の構造を示す光学顕微鏡画像
図2】実施形態8における水溶性高分子とポリイミド前駆体成分を含んだポリイミド仮止紙を加熱処理するポリイミド繊維紙製造方法の一例を示すフロー図
図3】本発明のポリイミド仮止紙の加熱処理工程における第一の反応としてのポリイミド前駆体溶液のイミド化反応を示す概念図
図4】本発明のポリイミド仮止紙の加熱処理工程における第二の反応としての分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子の分解反応を示す概念図
図5】実施形態9における水溶性高分子とポリイミド前駆体成分を含んだポリイミド仮止紙を過熱水蒸気炉内にて加熱処理するポリイミド繊維紙製造方法の一例を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。以下の説明は、実施形態1は請求項1に、実施形態2は請求項2に、実施形態3は請求項3に、実施形態4は請求項4に、実施形態5は請求項5に、実施形態6は請求項6に、実施形態7は請求項7に、実施形態8は請求項8に、実施形態9は請求項9に、実施形態10は請求項10に、それぞれ対応する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<実施形態1>
【0021】
本実施形態は、主に請求項1に関する。
<実施形態1 概要>
【0022】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維同士が同じく非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部によって相互に結合されていることを特徴とする。
<実施形態1 構成>
【0023】
本実施形態のポリイミド繊維紙において、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部を用いることで、図1に示すように、通常困難であるポリイミドのような非熱可塑性短繊維同士を網目状に接合し、紙状構造体として実用的に十分な強度を有した繊維紙を得ることが出来る。またポリイミド繊維間の交点接合を、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部により行うことで、得られる繊維紙はポリイミド樹脂の持つ耐熱性、耐寒性を備え、前記特性が求められる環境において好適に用いることが出来る。
<実施形態2>
【0024】
本実施形態は、主に請求項2に関する。
<実施形態2 概要>
【0025】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維と非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部との合計100質量部に対して、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部を0.05~35質量部含むことを特徴とする。
<実施形態2 構成>
【0026】
本実施形態において、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維と非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部との合計100質量部に対して、これに含まれる非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部が0.05質量部を下回ると、紙状構造体として実用的に十分な強度を得られることが出来ないので、好ましくない。
一方、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる水飴様構造部が35質量部を上回ると、繊維間の空隙が埋められてしまうことで、得られるポリイミド繊維紙が断熱性を示さなくなるので、好ましくない。
<実施形態3>
【0027】
本実施形態は、主に請求項3に関する。
<実施形態3 概要>
【0028】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、熱重量分析において、50mL/minの流量で窒素を継続的に導入し、測定温度範囲:25℃~700℃、昇温速度:3℃/minの条件で測定した際、200℃時点の重量を基準として、基準点での重量からの5重量%減少温度が450℃以上であることを特徴とする。
<実施形態3 構成>
【0029】
本実施形態のポリイミド繊維紙の5%重量減少温度は、通常450℃以上の範囲であり、460℃以上が好ましく、470℃以上がより好ましく、480℃以上がさらに好ましい。
ポリイミド繊維紙の5%重量減少温度が450℃を下回ると、得られるポリイミド繊維紙を加熱した際にアウトガスが生じ、さらに前記アウトガス成分は引火性であることから、難燃性を示さなくなるので、好ましくない。
ポリイミド繊維紙の5%重量減少温度を450℃以上、好ましくは480℃以上とすることで、低アウトガス性が要求される宇宙機の断熱材や、難燃性が要求される電子機器の熱マネジメント材料として好適に用いることが出来る。
<実施形態4>
【0030】
本実施形態は、主に請求項4に関する。
<実施形態4 概要>
【0031】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、定常法により測定した熱伝導率が0.10W/m・K以下0.001W/m・K以上であることを特徴とする。
<実施形態3 構成>
【0032】
定常法により測定したポリイミド繊維紙の熱伝導率が0.10W/m・Kを上回ると、得られるポリイミド繊維紙を断熱材として使用した際に、期待される断熱性能を発揮できない場合があり、所望の断熱性能を得るために、例えば、複数枚のポリイミド繊維紙を重ねて使用するなどが必要となり、その場合、断熱材層として高コストになる他、断熱材層厚みが厚膜化することで、省スペース化が求められる電子機器等への使用に好ましくない。
<実施形態5>
【0033】
本実施形態は、主に請求項5に関する。
<実施形態5 概要>
【0034】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、定常法により測定した熱伝導率が0.04W/m・K以下0.001W/m・K以上であることを特徴とする。
<実施形態5 構成>
【0035】
本実施形態のポリイミド繊維紙の熱伝導率は、通常0.04W/m・K以下0.001W/m・K以上の範囲であり、0.03W/m・K以下0.001W/m・K以上が好ましい。
熱伝導率を0.04W/m・K以下0.001W/m・K以上の範囲内とすることで、ポリイミド素材の高い耐熱性を保持しつつ、ポリイミドフィルムと比較して断熱性能、軽量性に優れた、断熱材または熱マネジメント材料として、宇宙機や、電子機器、ヒーター用途に好適に用いることが出来る。
<実施形態6>
【0036】
本実施形態は、主に請求項6に関する。
<実施形態6 概要>
【0037】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、厚みが0.05mm~1.0mmの範囲で、UL94(6th 2018-05-30)V燃焼性試験に基づくUL94V燃焼性試験において、難燃性UL-94規格のV-0レベル相当を満足することを特徴とする。
<実施形態6 構成>
【0038】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、通常、厚みが0.05mm~1.0mmの範囲で、UL94(6th 2018-05-30)V燃焼性試験に基づくUL94V燃焼性試験において、難燃性UL-94規格のV-0レベルを満足する。
前記難燃性UL-94規格のV-0を満足することで、電子機器内において、断熱材や発生する熱の熱流を制御する熱マネジメント材料として好適に用いることが出来る。
<実施形態7>
【0039】
本実施形態は、主に請求項7に関する。
<実施形態7 概要>
【0040】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、厚みが0.1mm~0.5mmであることを特徴とする。
<実施形態7 構成>
【0041】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、通常、厚みが0.05mm~1.0mmの範囲であり、0.1mm~0.6mmの範囲が好ましく、0.1mm~0.5mmの範囲が特に好ましい。
厚みを0.05mm~1.0mmの範囲内とすることで、小型化が進み、スペースが限られる電子機器における、断熱材や熱マネジメント材料として好適に用いることが出来る。
<実施形態8>
【0042】
本実施形態は、主に請求項8に関する。
<実施形態8 概要>
【0043】
本実施形態における発明は、非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積%である1気圧環境下の加熱炉において、360℃以上450℃以下の温度で加熱処理してポリイミド繊維紙を製造する方法である。
<実施形態8 構成>
【0044】
前記非熱可塑性ポリイミドは、芳香族ジアミン成分と酸無水物成分から構成される。前記芳香族ジアミン成分は、次式(化1)で表されるパラフェニレンジアミン、および次式(化2)で表される4,4'-ジアミノジフェニルエーテルのうち、少なくとも1種類以上を構成要素として含む。
【0045】
【化1】
【0046】
【化2】
【0047】
芳香族ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル以外のものを含んでいてもよく、例えば、以下の構造式(化3)で表される化合物群。
【0048】
【化3】
【0049】
この構造式中RはOCHを示し、XはO、CHまたはSOを表す。メタフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、ベンジジン、3,3'-ジメトキシベンジジン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0050】
前記酸無水物成分は、次式(化4)で表されるピロメリット酸二無水物、および次式(化5)で表される3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のうち、少なくとも1種類以上を構成要素として含む。
【0051】
【化4】
【0052】
【化5】
【0053】
酸無水物成分として、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外のものを含んでいてもよく、例えば、以下の構造式(化6)で表される化合物群。
【0054】
【化6】
【0055】
この構造式中XはOまたはCOを表す。2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸無水物などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0056】
非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙は既知の技術、例えば特許文献「特開2019-35157号」に示される技術を用いて作製することが可能である。
<実施形態8 ポリイミド仮止紙の加熱処理工程の説明>
【0057】
図2に示すように、「ポリイミド仮止紙の加熱処理工程(加熱処理ステップ(0202))」は、ポリイミド仮止紙形成ステップ(0201)で形成した非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積%である1気圧環境下の加熱炉において、360℃以上450℃以下の温度で加熱処理してポリイミド繊維紙を得る工程である。前記温度範囲で加熱処理を行うことで、図3に示すように、第一の反応(0303)として、ポリイミド前駆体溶液(0301)のイミド化反応による水飴様構造部であるイミド化成分(0304)が生じ、ポリイミド短繊維同士を接着固定させることで、十分な機械強度を示すポリイミド繊維紙を得ることが出来る。なお、図3における符号(0302)は水溶性高分子を示している。次に、図4に示すように、第二の反応(0403)として、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子(0401)の分解反応が生じ、この水溶性高分子(0401)の除去を行うことで、ポリイミド前駆体溶液の水飴様構造部であるイミド化成分(0404)による耐熱性の高いポリイミド繊維紙を得ることが出来る。
【0058】
前項の加熱処理工程は、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積である加熱炉で処理することが好ましい。加熱炉内の酸素比率が前記範囲を上回ると、本来黄土色であるポリイミド繊維紙表面の酸化が進行し、黒色化するため、検査工程において異物等の欠陥検出が困難になるため、好ましくない。加熱炉内の酸素比率を、前記範囲内とすることで、表面の黒化変色が生じず、異物等の欠陥を検査工程において容易に検出可能なポリイミド繊維紙を得ることが出来る。
また、前項の第一、第二の反応は共に200℃以上で生じることから、加熱処理工程の加熱温度は200℃以上が好ましく、さらに速やかに、かつ定量的に反応を進行させるために300℃以上がさらに好ましく、360℃以上が特に好ましい。一方で、高温での加熱処理は、ポリイミド素材の熱分解を生じさせることから、500℃以下が好ましく、450℃以下がさらに好ましい。
<実施形態9>
【0059】
本実施形態は、主に請求項9に関する。
<実施形態9 概要>
【0060】
本実施形態における発明は、非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積%である1気圧環境下の過熱水蒸気炉内にて360℃以上450℃以下の温度で加熱処理してポリイミド繊維紙を製造する方法である。前記ポリイミド仮止紙の作製については、実施形態8においてすでに説明済みであるから、本実施形態においては省略する。
<実施形態9 ポリイミド仮止紙の過熱水蒸気炉内における加熱処理工程の説明>
【0061】
図5に示すように、「ポリイミド仮止紙の過熱水蒸気炉内における加熱処理工程(加熱水蒸気処理ステップ(0502))」は、ポリイミド仮止紙形成ステップ(0501)で形成した非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるポリイミド仮止紙を、容積に対して酸素比率が0.0~1.0体積%である1気圧環境下の過熱水蒸気炉内において360℃以上450℃以下の温度で加熱処理してポリイミド繊維紙を得る工程である。前記温度範囲で加熱処理を行うことで、図3に示すように、第一の反応(0303)として、ポリイミド前駆体溶液(0301)のイミド化反応による水飴様構造部であるイミド化成分(0304)が生じ、ポリイミド短繊維同士を接着固定させることで、十分な機械強度を示すポリイミド繊維紙を得ることが出来る。次に、図4に示すように、第二の反応(0403)として、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子(0401)の分解反応が生じ、この水溶性高分子(0401)の除去を行うことで、ポリイミド前駆体溶液の水飴様構造部であるイミド化成分(0404)による耐熱性の高いポリイミド繊維紙を得ることが出来る。
【0062】
過熱水蒸気炉を用いた加熱処理は、前項の第一、第二の反応は共に200℃以上で生じることから、200℃以上が好ましく、さらに速やかに、かつ定量的に反応を進行させるために300℃以上がさらに好ましく、360℃以上が特に好ましい。一方で、高温での加熱処理は、ポリイミド素材の熱分解を生じさせることから、500℃以下が好ましく、450℃以下がさらに好ましい。
【0063】
過熱水蒸気炉を用いた加熱処理の処理時間は、通常2分以上8分以下であり、十分なキュア効果を得つつ、材料への過度な熱負荷による分解を防ぐために、3分以上6分以下がさらに好ましい。過熱水蒸気炉は100℃以上に加熱された水蒸気を利用した加熱炉であり、空気中での加熱と比較して、より比熱の大きい水分による加熱であるため熱効率が高く、かつ炉内は水蒸気で満たされ無酸素に近い状態となるため、加熱処理中の材料の酸化劣化が生じにくく、本発明におけるポリイミド繊維紙の製造方法に好適に用いることが出来る。
<実施形態10>
【0064】
本実施形態は、主に請求項10に関する。
<実施形態10 概要>
【0065】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、酸素20%/ヘリウム80%からなる混合気体中において、300℃で1時間加熱した際に発生する、ポリイミドのガラス転移温度よりも低い水溶性高分子の残渣に由来する分解ガス成分の総量が、全体の質量に対して0.1%以下であることを特徴とする。
<実施形態10 構成>
【0066】
本実施形態のポリイミド繊維紙は、酸素20%/ヘリウム80%からなる混合気体中において、300℃で1時間加熱した際にガスクロマトグラフィーで検出される、ポリイミドのガラス転移温度よりも低い水溶性高分子の残渣に由来する分解ガス成分の総量が、ポリイミド繊維紙の質量に対して、通常0.1%以下であり、0.05%以下がさらに好ましく、0.02%以下が特に好ましい。
ポリイミド繊維紙を高温で加熱した際に、水溶性高分子の残渣に由来する分解ガス成分の総量が、ポリイミド繊維紙の質量に対して、0.1%を上回ると、分解ガスが多量に生じる。この分解ガスは可燃性ガスであるから、ポリイミド繊維紙としてUL94V規格における難燃性を満たさなくなり、難燃性が要求される電子機器等へ好適に用いることが出来ない。
前記水溶性高分子の残渣に由来する分解ガス成分の総量をポリイミド繊維紙の質量に対して、0.1%以内とすることで、ポリイミド繊維紙が難燃性を示すことから、難燃性が要求される電子機器へ好適に用いることが出来る。その他に、高温加熱時にアウトガスが生じにくくなることから、低アウトガス性が要求される宇宙機用途に好適に用いることが出来る。
【0067】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例0068】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【0069】
実施例中の各特性は、次の方法で評価した。
(1)5重量%減少温度
機器:TGA-50(商品名、島津製作所製)を使用し、測定温度範囲:25~700℃、昇温速度:3℃/minの条件で測定することにより得られるTGAチャートにおいて、200℃時点の重量を基準として、基準点での重量から5重量%減少する温度を求め、この値を5重量%減少温度と定義した。
(2)熱伝導率
機器:KES-F7サーモラボ(商品名、カトーテックス製)を使用し、定常法により熱伝導率を測定した。
(3)厚み
ダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。
(4)引張強度
15mm×約250mmの試料片を、180mmの間隔に設定した張力試験機(引張圧出試験機:SVZ-50NA型、加重計:SL-6001型(商品名、今田製作所製))を用いて抗張力を測定した。
(5)UL94V燃焼性試験
UL94(6th 2018-05-30)"STANDARD FOR SAFETY -Tests for Flammability of Plastic Materials for Parts in Devives and Appliances-"に準拠し、UL94垂直燃焼性試験を実施し、判定条件に基づき決定される燃焼性を、V-0クラス相当は「V-0」、V-1クラス相当は「V-1」、V-2クラス相当は「V-2」、不合格は「×」と記載した。
【0070】
[実施例1]
既知の技術(特開2019-35157号)を用いて作製される、非熱可塑性ポリイミドの削り出し繊維と、ポリイミド前駆体溶液と、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低温である水溶性高分子と、からなるロール状のポリイミド仮止紙を、380℃の蒸気生成温度に設定した過熱水蒸気炉にて0.5kgfの張力を掛けた状態で、炉内で5分間加熱される速度で搬送し、ポリイミド繊維紙を得た。このポリイミド繊維紙は黄土色であった。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同様の手順で得たポリイミド仮止紙を、380℃の蒸気生成温度に設定された過熱水蒸気炉にて0.5kgfの張力を掛けた状態で、炉内で5分間加熱される速度で搬送した。得られたポリイミド繊維紙を10.4MPaの圧力で10分間プレスして、薄膜化したポリイミド繊維紙を得た。このポリイミド繊維紙は黄土色であった。
【0072】
[比較例1]
過熱水蒸気炉内の蒸気生成温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の手順で、ポリイミド繊維紙を得た。このポリイミド繊維紙は黄土色であった。
【0073】
[比較例2]
実施例1と同様の手順で得たポリイミド仮止紙を、420℃に設定されたオーブンの中で、大気中、6分間加熱することでポリイミド繊維紙を得た。得られたポリイミド繊維紙は黒色であった。
【0074】
【表1】
【0075】
上記実施例1、2の結果から、本発明のポリイミド繊維紙は、過熱水蒸気炉内において特定の温度範囲で加熱処理することで、実用的に十分な強度を持つ紙状構造体であり、かつ高い耐熱性と難燃性を両立しつつ、優れた断熱性能を示す繊維紙であることが確認された。
(産業上の利用の可能性)
【0076】
本発明のポリイミド繊維紙は、ポリイミド素材由来の難燃性、耐熱性および低アウトガス性に優れ、かつ一般的なポリイミド素材であるポリイミドフィルムよりも断熱性能、通気性および柔軟性に優れるため、宇宙機における断熱材、作動温度が高温であるパワーデバイス等の断熱材、電子機器における熱マネジメント材料用途において好適に用いることが出来る。
【符号の説明】
【0077】
0202 加熱処理工程
0301 ポリイミド前駆体溶液
0302 水溶性高分子
0304 ポリイミド前駆体溶液のイミド化成分
0401 水溶性高分子
0404 ポリイミド前駆体溶液のイミド化成分
0502 加熱水蒸気処理工程
図1
図2
図3
図4
図5