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特開2023-51248船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、性能評価プログラム、及び性能評価システム
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  • 特開-船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、性能評価プログラム、及び性能評価システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051248
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、性能評価プログラム、及び性能評価システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 71/10 20200101AFI20230404BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B63B71/10
B63B49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161814
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】枌原 直人
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
(57)【要約】
【課題】外乱修正を適切に行い実船モニタリング解析による船舶の性能評価精度を高めることができる船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、プログラム、及びシステムを提供すること。
【解決手段】船舶の航海データから実船モニタリング解析のための実船データを取得するステップS1と、船舶のプロペラ単独性能と外力応答を取得するステップS2と、取得した実船データに基づいて船舶のプロペラ単独性能と外力応答を用いて船舶の平水中性能への外乱修正を行うステップS3と、外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別を行うステップS4と、外乱修正ができない実船データがある場合に実船データとプロペラ単独性能とに基づいてチューニングを行うステップS5と、外乱修正ができた外乱修正データ、及びチューニングを行ったチューニング外乱修正データの少なくとも一方を外乱修正済データとして出力するステップS6を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の性能を実船モニタリング解析により評価する方法であって、
船舶の航海データから前記実船モニタリング解析のための実船データを取得する実船データ取得ステップと、
前記船舶のプロペラ単独性能と外力応答を取得する関連性能取得ステップと、
取得した前記実船データに基づいて前記船舶の前記プロペラ単独性能と前記外力応答を用いて前記船舶の平水中性能への前記外乱修正を行う外乱修正ステップと、
前記外乱修正ができない前記実船データがあるか否かの判別を行う外乱修正判別ステップと、
前記外乱修正ができない前記実船データがある場合に前記実船データと前記プロペラ単独性能とに基づいてチューニングを行うチューニングステップと、
前記外乱修正ができた外乱修正データ、及び前記チューニングを行ったチューニング外乱修正データの少なくとも一方を外乱修正済データとして出力する外乱修正済データ出力ステップを備えることを特徴とする船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項2】
前記船舶の性能の事前推定データを取得する事前推定性能取得ステップと、取得した前記事前推定データと前記外乱修正済データ出力ステップで出力される前記外乱修正済データとを用いてデータ同化を行うデータ同化ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項3】
前記外乱修正判別ステップにおける前記外乱修正ができない前記実船データがあるか否かの前記判別は、前記実船データに基づいてトルク係数を算出し、前記プロペラ単独性能と比較することにより行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項4】
前記実船データに基づいて算出したトルク係数KQmeasと、前記プロペラ単独性能としてのトルク係数Kとのグラフ上の交点に基づいて前記外乱修正ができない前記実船データがあるか否かの前記判別を行うことを特徴とする請求項3に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項5】
前記チューニングステップは、前記実船データに対してチューニングパラメータを設定するチューニングパラメータ設定ステップと、設定された前記チューニングパラメータを用いた前記外乱修正を行うチューニング外乱修正ステップと、所定数の前記実船データにおいて前記外乱修正が成功したかを判別する外乱修正成功判別ステップと、前記所定数が成功した場合に残差を計算する残差計算ステップと、設定された前記チューニングパラメータに対して計算を終了したかを判別する計算終了判別ステップと、前記外乱修正成功判別ステップ又は前記計算終了判別ステップで否定された場合に前記チューニングパラメータを更新するチューニングパラメータ更新ステップを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のうちの1項に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項6】
前記外乱修正ができない場合に、前記トルク係数の式を構成するパラメータごとの前記チューニングパラメータを用いて前記トルク係数を算出して前記外乱修正を行い、最適な前記チューニングパラメータを探索することを特徴とする請求項3又は請求項4を選択する請求項5に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項7】
前記チューニングパラメータを用いて前記トルク係数を算出するに当たり式(1)を用いて算出することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【数1】
Qmeas :トルク係数
meas :馬力(計測値)
ηM :主機伝達効率
ηR :プロペラ効率比
ρs :海水密度
γ :チューニングパラメータ
meas :回転数(計測値)
p :プロペラ直径
【請求項8】
前記チューニングパラメータを用いて前記トルク係数を算出するに当たり、前記パラメータごとの前記チューニングパラメータを1つに設定する場合は、式(1)から式(3)のいずれか一つを用い、2つに設定する場合は、式(4)から式(6)のいずれか一つを用い、3つに設定する場合は、式(7)を用いて算出する、又は式(1)から式(7)を組み合わせて算出することを特徴とする請求項6に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
Qmeas :トルク係数
meas :馬力(計測値)
ηM :主機伝達効率
ηR :プロペラ効率比
ρs :海水密度
γ、CKQ、CDP :チューニングパラメータ
meas :回転数(計測値)
p :プロペラ直径
【請求項9】
最適な前記チューニングパラメータの探索は、有効伴流係数の残差が最小となる前記チューニングパラメータを選出することにより行うことを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項10】
前記有効伴流係数の残差の算出は、式(8)に基づいて行うことを特徴とする請求項9に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【数8】
R :残差
1-w :有効伴流係数
(1-wi est :簡易推定による1-w
(1-wi inter :中間出力としての1-w
N :データ数
【請求項11】
前記データ同化ステップで用いられる前記外乱修正済データは、主機出力及び主機回転数の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項12】
前記データ同化ステップで用いられる前記事前推定データは、前記船舶の模型試験、数値流体力学(CFD)、簡易性能推定、及び試運転データのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項2又は請求項11に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法。
【請求項13】
船舶の性能を実船モニタリング解析により評価するプログラムであって、
コンピュータに、
請求項1に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法における、
前記実船データ取得ステップと、前記関連性能取得ステップと、前記外乱修正ステップと、前記外乱修正判別ステップと、前記チューニングステップと、前記外乱修正済データ出力ステップを実行させることを特徴とする船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、請求項2に記載の前記データ同化ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項13に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラム。
【請求項15】
前記コンピュータに、請求項5に記載の前記チューニングパラメータ設定ステップと、前記チューニング外乱修正ステップと、前記外乱
修正成功判別ステップと、前記残差計算ステップと、前記計算終了判別ステップと、前記チューニングパラメータ更新ステップを実行させることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラム。
【請求項16】
請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラムを実行するシステムであって、
前記コンピュータと、前記実船モニタリング解析用の前記実船データを取得するためのデータ取得手段と、少なくとも前記外乱修正済データを出力する出力手段とを備えることを特徴とする実船モニタリング解析による性能評価システム。
【請求項17】
前記出力手段が、前記データ同化の結果を出力することを特徴とする請求項14を選択する請求項16に記載の実船モニタリング解析による性能評価システム。
【請求項18】
前記データ取得手段及び前記出力手段の少なくとも一方を情報通信網に接続して構成し、前記実船データの取得、前記外乱修正済データの出力、及び前記データ同化の結果の出力の少なくとも一つを、前記情報通信網を介して行うことを特徴とする請求項16又は請求項17に記載の実船モニタリング解析による性能評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の性能を実船モニタリング解析により評価する、船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、性能評価プログラム、及び性能評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の運航状況及び周辺環境に関するデータを計測し、取得したデータを解析し、解析結果に基づいて船舶の性能を取得する実船モニタリングが行われている。
実船モニタリングによる平水中性能の評価においては、風速又は風速と波高について閾値を設定することにより、波、風の影響が小さいと見做せる状況での計測データを抽出し、外乱修正を実施せずに抽出したデータに対するカーブフィッティングにより性能を推定することが行われてきた。また、外乱修正により波、風の影響を除去する際、使用するプロペラ単独性能データの精度が不十分な場合に、適切なプロペラ作動点が得られないという問題があった。
また、特許文献1には、船舶航行時の周囲の海気象データを取得する通信装置と、平水の影響下での船の平水中性能、波浪の影響下での船の波浪中性能、及び風の影響下での船の風中性能のそれぞれの個船性能を記憶する個船性能データベースと、通信装置で取得した海気象データ、個船性能データベースに記憶した、平水中性能、波浪中性能、及び風中性能に基づいて、航海での燃料消費量である燃費が最小となる状態を推定する最適状態推定手段とを備える運航支援装置が開示されている。
また、特許文献2には、評価対象の船舶の性能評価を依頼するための船舶条件及び評価情報条件を入力する条件入力手段と、船舶条件及び評価情報条件に基づいて実海域での船舶の評価を行う評価手段と、評価手段を用いた評価結果を、依頼を行った依頼者に提供する評価結果提供手段とを備えた船舶性能評価・提供システムが開示されている。
また、特許文献3には、船舶の過去の運航実績データに基づいて作成され、船舶の航行状態量を目的変数とし、航行状態量に影響を与える複数の関連要素を説明変数とする1つまたは複数の回帰分析モデルを用いて、各々の関連要素の想定値を含む運航条件における船舶の航行状態量を推定するデータ推定部と、船舶の1つまたは複数の物理モデルを用いて、運航条件における船舶の航行状態量を推定する理論推定部と、データ推定部の推定結果と理論推定部の推定結果とに基づいて、運航条件における船舶の航行状態量の推定値を算出する推定統合部を備える船舶性能推定装置が開示されている。
また、特許文献4には、船舶において継続的に計測される或る物理量を示す一連の計測データを或る系列の計測データとして取得する計測データ取得手段と、或る系列の信頼度を、或る系列の信頼度を評価するための基準に従い評価し、当該評価の結果を示す信頼度データを、或る系列の計測データの各々に対応付けるデータ系列評価手段とを備えるデータ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-107488号公報
【特許文献2】特開2021-107785号公報
【特許文献3】特開2020-104699号公報
【特許文献4】国際公開第2017/115409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外乱修正を実施せずに抽出したデータに対するカーブフィッティングにより性能を推定する手法は、簡便であるが閾値を適切に設定する必要があり、実際は恣意性が入り容易ではない。
また、特許文献1~4は、外乱修正できないデータがある場合に、その外乱修正できないデータをどのように修正するかを開示するものではない。
そこで本発明は、外乱修正を適切に行い実船モニタリング解析による船舶の性能評価精度を高めることができる船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、性能評価プログラム、及び性能評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に対応した船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法においては、船舶の性能を実船モニタリング解析により評価する方法であって、船舶の航海データから実船モニタリング解析のための実船データを取得する実船データ取得ステップと、船舶のプロペラ単独性能と外力応答を取得する関連性能取得ステップと、取得した実船データに基づいて船舶のプロペラ単独性能と外力応答を用いて船舶の平水中性能への外乱修正を行う外乱修正ステップと、外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別を行う外乱修正判別ステップと、外乱修正ができない実船データがある場合に実船データとプロペラ単独性能とに基づいてチューニングを行うチューニングステップと、外乱修正ができた外乱修正データ、及びチューニングを行ったチューニング外乱修正データの少なくとも一方を外乱修正済データとして出力する外乱修正済データ出力ステップを備えることを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、実船データやプロペラ単独性能の精度不足等により平水中性能への外乱修正ができない場合は、チューニングを行って外乱修正できるため、外乱修正を適切に行い実船モニタリング解析による船舶の性能評価精度を高めることができる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、船舶の性能の事前推定データを取得する事前推定性能取得ステップと、取得した事前推定データと外乱修正済データ出力ステップで出力される外乱修正済データとを用いてデータ同化を行うデータ同化ステップをさらに備えることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、外乱修正済データを用いてデータ同化により、水槽試験や数値計算等により予め求めた事前推定データの精度を向上させることができる。
【0007】
請求項3記載の本発明は、外乱修正判別ステップにおける外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別は、実船データに基づいてトルク係数を算出し、プロペラ単独性能と比較することにより行うことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、算出したトルク係数とプロペラ単独性能との比較により、外乱修正の可否を簡便に判別することができる。
【0008】
請求項4記載の本発明は、実船データに基づいて算出したトルク係数KQmeasと、プロペラ単独性能としてのトルク係数Kとのグラフ上の交点に基づいて外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別を行うことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、外乱修正の可否を、トルク係数を用いて有意なプロペラ作動点が求められるか否かによって判別することができる。
【0009】
請求項5記載の本発明は、チューニングステップは、実船データに対してチューニングパラメータを設定するチューニングパラメータ設定ステップと、設定されたチューニングパラメータを用いた外乱修正を行うチューニング外乱修正ステップと、所定数の実船データにおいて外乱修正が成功したかを判別する外乱修正成功判別ステップと、所定数が成功した場合に残差を計算する残差計算ステップと、設定されたチューニングパラメータに対して計算を終了したかを判別する計算終了判別ステップと、外乱修正成功判別ステップ又は計算終了判別ステップで否定された場合にチューニングパラメータを更新するチューニングパラメータ更新ステップを含むことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、チューニング外乱修正データを求めるための最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0010】
請求項6記載の本発明は、外乱修正ができない場合に、トルク係数の式を構成するパラメータごとのチューニングパラメータを用いてトルク係数を算出して外乱修正を行い、最適なチューニングパラメータを探索することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、トルク係数の式で用いられるパラメータごとのチューニングパラメータにより、外乱修正に最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0011】
請求項7記載の本発明は、チューニングパラメータを用いてトルク係数を算出するに当たり式(1)を用いて算出することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、チューニングパラメータを用いてトルク係数を適切に算出して外乱修正を行うことができる。
【数1】
Qmeas :トルク係数
meas :馬力(計測値)
ηM :主機伝達効率
ηR :プロペラ効率比
ρs :海水密度
γ :チューニングパラメータ
meas :回転数(計測値)
p :プロペラ直径
【0012】
請求項8記載の本発明は、チューニングパラメータを用いてトルク係数を算出するに当たり、パラメータごとのチューニングパラメータを1つに設定する場合は、式(1)から式(3)のいずれか一つを用い、2つに設定する場合は、式(4)から式(6)のいずれか一つを用い、3つに設定する場合は、式(7)を用いて算出する、又は式(1)から式(7)を組み合わせて算出することを特徴とする。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
Qmeas :トルク係数
meas :馬力(計測値)
ηM :主機伝達効率
ηR :プロペラ効率比
ρs :海水密度
γ、CKQ、CDP :チューニングパラメータ
meas :回転数(計測値)
p :プロペラ直径
請求項8に記載の本発明によれば、チューニングパラメータを設定する数に応じトルク係数を適切に算出して外乱修正を行うことができる。
【0013】
請求項9記載の本発明は、最適なチューニングパラメータの探索は、有効伴流係数の残差が最小となるチューニングパラメータを選出することにより行うことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、トルク係数を算出するための最適なチューニングパラメータを適切に求めることができる。
【0014】
請求項10記載の本発明は、有効伴流係数の残差の算出は、式(8)に基づいて行うことを特徴とする。
【数8】
R :残差
1-w :有効伴流係数
(1-wi est :簡易推定による1-w
(1-wi inter :中間出力としての1-w
N :データ数
請求項10に記載の本発明によれば、有効伴流係数の残差を正確に求めることができる。
【0015】
請求項11記載の本発明は、データ同化ステップで用いられる外乱修正済データは、主機出力及び主機回転数の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、船舶の性能評価において一般的な主機出力や主機回転数を外乱修正済データとしてデータ同化に用いることができる。
【0016】
請求項12記載の本発明は、データ同化ステップで用いられる事前推定データは、船舶の模型試験、数値流体力学(CFD)、簡易性能推定、及び試運転データのいずれか一つを含むことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、船舶の模型試験、数値流体力学計算、簡易性能推定、又は試運転によって得られた事前推定データの精度を、データ同化により向上させることができる。
【0017】
請求項13記載に対応した船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラムにおいては、船舶の性能を実船モニタリング解析により評価するプログラムであって、コンピュータに、船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法における、実船データ取得ステップと、関連性能取得ステップと、外乱修正ステップと、外乱修正判別ステップと、チューニングステップと、外乱修正済データ出力ステップを実行させることを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、チューニングによる外乱修正等をコンピュータが実行することで適切に行い、精度の高い実船モニタリング解析による船舶の性能評価を迅速かつ正確に行うことができる。
【0018】
請求項14記載の本発明は、コンピュータに、データ同化ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、外乱修正済データを用いてデータ同化をコンピュータに実行させて、水槽試験や数値計算等により予め求めた事前推定データの精度を向上させることができる。
【0019】
請求項15記載の本発明は、コンピュータに、請求項5に記載のチューニングパラメータ設定ステップと、チューニング外乱修正ステップと、外乱修正成功判別ステップと、残差計算ステップと、計算終了判別ステップと、チューニングパラメータ更新ステップを実行させることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、チューニングステップをコンピュータが実行することで、迅速かつ正確にチューニング外乱修正データを求めるための最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0020】
請求項16記載に対応した実船モニタリング解析による性能評価システムは、船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラムを実行するシステムであって、コンピュータと、実船モニタリング解析用の実船データを取得するためのデータ取得手段と、少なくとも外乱修正済データを出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、最適なチューニングパラメータの探索、チューニングによる外乱修正、外乱修正済データの出力、及びデータ同化等を行えるシステムを提供することができる。
【0021】
請求項17記載の本発明は、出力手段が、データ同化の結果を出力することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、システムの利用者は、外乱修正済データと事前推定データのデータ同化の結果を簡便に得ることができる。
【0022】
請求項18記載の本発明は、データ取得手段及び出力手段の少なくとも一方を情報通信網に接続して構成し、実船データの取得、外乱修正済データの出力、及びデータ同化の結果の出力の少なくとも一つを、情報通信網を介して行うことを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、遠隔地との情報のやり取りを情報通信網を介してスムーズに行えるため、システムの利便性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法によれば、実船データやプロペラ単独性能の精度不足等により平水中性能への外乱修正ができない場合は、チューニングを行って外乱修正できるため、外乱修正を適切に行い実船モニタリング解析による船舶の性能評価精度を高めることができる。
【0024】
また、船舶の性能の事前推定データを取得する事前推定性能取得ステップと、取得した事前推定データと外乱修正済データ出力ステップで出力される外乱修正済データとを用いてデータ同化を行うデータ同化ステップをさらに備える場合には、外乱修正済データを用いてデータ同化により、水槽試験や数値計算等により予め求めた事前推定データの精度を向上させることができる。
【0025】
また、外乱修正判別ステップにおける外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別は、実船データに基づいてトルク係数を算出し、プロペラ単独性能と比較することにより行う場合には、算出したトルク係数とプロペラ単独性能との比較により、外乱修正の可否を簡便に判別することができる。
【0026】
また、実船データに基づいて算出したトルク係数KQmeasと、プロペラ単独性能としてのトルク係数Kとのグラフ上の交点に基づいて外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別を行う場合には、外乱修正の可否を、トルク係数を用いて有意なプロペラ作動点が求められるか否かによって判別することができる。
【0027】
また、チューニングステップは、実船データに対してチューニングパラメータを設定するチューニングパラメータ設定ステップと、設定されたチューニングパラメータを用いた外乱修正を行うチューニング外乱修正ステップと、所定数の実船データにおいて外乱修正が成功したかを判別する外乱修正成功判別ステップと、所定数が成功した場合に残差を計算する残差計算ステップと、設定されたチューニングパラメータに対して計算を終了したかを判別する計算終了判別ステップと、外乱修正成功判別ステップ又は計算終了判別ステップで否定された場合にチューニングパラメータを更新するチューニングパラメータ更新ステップを含む場合には、チューニング外乱修正データを求めるための最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0028】
また、外乱修正ができない場合に、トルク係数の式を構成するパラメータごとのチューニングパラメータを用いてトルク係数を算出して外乱修正を行い、最適なチューニングパラメータを探索する場合には、トルク係数の式で用いられるパラメータごとのチューニングパラメータにより、外乱修正に最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0029】
また、チューニングパラメータを用いてトルク係数を算出するに当たり式(1)を用いて算出する場合には、チューニングパラメータを用いてトルク係数を適切に算出して外乱修正を行うことができる。
【0030】
また、チューニングパラメータを用いてトルク係数を算出するに当たり、パラメータごとのチューニングパラメータを1つに設定する場合は、式(1)から式(3)のいずれか一つを用い、2つに設定する場合は、式(4)から式(6)のいずれか一つを用い、3つに設定する場合は、式(7)を用いて算出する、又は式(1)から式(7)を組み合わせて算出する場合には、チューニングパラメータを設定する数に応じトルク係数を適切に算出して外乱修正を行うことができる。
【0031】
また、最適なチューニングパラメータの探索は、有効伴流係数の残差が最小となるチューニングパラメータを選出することにより行う場合には、トルク係数を算出するための最適なチューニングパラメータを適切に求めることができる。
【0032】
また、有効伴流係数の残差の算出は、式(8)に基づいて行う場合には、有効伴流係数の残差を正確に求めることができる。
【0033】
また、データ同化ステップで用いられる外乱修正済データは、主機出力及び主機回転数の少なくとも一方を含む場合には、船舶の性能評価において一般的な主機出力や主機回転数を外乱修正済データとしてデータ同化に用いることができる。
【0034】
また、データ同化ステップで用いられる事前推定データは、船舶の模型試験、数値流体力学(CFD)、簡易性能推定、及び試運転データのいずれか一つを含む場合には、船舶の模型試験、数値流体力学計算、簡易性能推定、又は試運転によって得られた事前推定データの精度を、データ同化により向上させることができる。
【0035】
また、本発明の船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラムによれば、チューニングによる外乱修正等をコンピュータが実行することで適切に行い、精度の高い実船モニタリング解析による船舶の性能評価を迅速かつ正確に行うことができる。
【0036】
また、コンピュータに、データ同化ステップをさらに実行させる場合には、外乱修正済データを用いてデータ同化をコンピュータに実行させて、水槽試験や数値計算等により予め求めた事前推定データの精度を向上させることができる。
【0037】
また、コンピュータに、チューニングパラメータ設定ステップと、チューニング外乱修正ステップと、外乱修正成功判別ステップと、残差計算ステップと、計算終了判別ステップと、チューニングパラメータ更新ステップを実行させる場合には、チューニングステップをコンピュータが実行することで、迅速かつ正確にチューニング外乱修正データを求めるための最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0038】
また、本発明の実船モニタリング解析による性能評価システムによれば、最適なチューニングパラメータの探索、チューニングによる外乱修正、外乱修正済データの出力、及びデータ同化等を行えるシステムを提供することができる。
【0039】
また、出力手段が、データ同化の結果を出力する場合には、システムの利用者は、外乱修正済データと事前推定データのデータ同化の結果を簡便に得ることができる。
【0040】
また、データ取得手段及び出力手段の少なくとも一方を情報通信網に接続して構成し、実船データの取得、外乱修正済データの出力、及びデータ同化の結果の出力の少なくとも一つを、情報通信網を介して行う場合には、遠隔地との情報のやり取りを情報通信網を介してスムーズに行えるため、システムの利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の実施形態における船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法のフロー図
図2】同実船モニタリング解析による性能評価システムの構成図
図3】同前処理コンピュータと解析コンピュータの役割分担を示すフロー図
図4】同平水中への外乱修正のイメージ図
図5】同外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別にプロペラ作動点を利用する例を示す図
図6】同外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別にプロペラ作動点を利用する例を示す図
図7】同解析コンピュータによるチューニングパラメータ探索のフロー図
図8】同選出した最適なチューニングパラメータを適用してプロペラ作動点を求めた例を示す図
図9】同データ同化のイメージ図
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態における船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法、性能評価プログラム、及び性能評価システムについて説明する。
図1は船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法のフロー図、図2は実船モニタリング解析による性能評価システムの構成図、図3は前処理コンピュータと解析コンピュータの役割分担を示すフロー図である。
性能評価システムは、前処理コンピュータ10A及び解析コンピュータ10Bを有するコンピュータ10と、実船モニタリング解析用の実船データや関連性能等を取得するためのデータ取得手段20と、出力手段30と、プロペラ単独性能導出手段40と、外力応答導出手段50と、事前推定性能導出手段60を備えている。コンピュータ10及び各手段は、インターネット等の情報通信網70に接続されており、各船舶A~Z、及び利用者X、Yは、情報通信網70を介してコンピュータ10や各手段とデータの送受信を行うことができる。
例えば、利用者X、Yが船社や舶用メーカー等、実船モニタリング解析において、高精度なプロペラ単独性能データを利用できない立場にあっても、船舶A~Zで得られた航海データや実船データを基に、合理的な範囲で外乱修正が情報通信網70を介して実行可能となり、船舶A~Zの平水中性能の評価が実施できる。
解析コンピュータ10Bには性能評価プログラムがインストールされており、性能評価プログラムは、船舶の性能を実船モニタリング解析により評価する性能評価方法の各ステップを実行する。
【0043】
性能評価システムを用いた性能評価方法においては、まず、取得した船舶の航海データに基づいて前処理コンピュータ10Aが実船モニタリング解析のための実船データを導出する。そして、実船データをデータ取得手段20を介して取得する(S1:実船データ取得ステップ)。取得した実船データは解析コンピュータ10Bへ送信される。船舶の航海データは、運航性能や遭遇した気象海象等であり、各種センサーA~Z等を使用して運航中の船舶A~Zから収集する。実船データは、主機回転数や主機出力等である。
また、プロペラ単独性能導出手段40及び外力応答導出手段50を用いて、船舶のプロペラ単独性能と外力応答を導出したものを関連性能として、データ取得手段20を介して取得する(S2:関連性能取得ステップ)。取得したプロペラ単独性能及び外力応答は解析コンピュータ10Bに読み込まれる。水槽試験等を利用したプロペラ単独性能導出手段40により導出されるプロペラ単独性能は、前進係数Jに対する推力係数K、トルク係数K、プロペラ単独効率EtaOの応答を示したものである。外力応答は、波や風の影響により船体の抵抗がどの程度変化するかを示したものであり、外力応答導出手段50を用いて得ることができる。外力応答導出手段50は、例えば数値計算や水槽試験等に基づいて外力応答を導出する。
【0044】
次に、解析コンピュータ10Bは、受信した実船データに基づいて、船舶のプロペラ単独性能と外力応答を用いて、船舶の平水中性能への外乱修正を行う(S3:外乱修正ステップ)。
ここで、図4は平水中への外乱修正のイメージ図であり、図4(a)は主機回転数と主機出力の修正値の算出式を示し、図4(b)は主機回転数の外乱修正のイメージを示し、図4(c)は主機出力の外乱修正のイメージを示している。
評価海象における性能評価のため、実船データの主機回転数及び主機出力について、平水中性能への外乱修正を行う。なお、評価海象は、波や風のない平水中とすることが最も多いが、波や風のある海象とすることもできる。
図4(a)に示すように、主機回転数の修正値Ncorrは、計測値をNmeas、修正量をΔNとすると、Ncorr=Nmeas-ΔNで求めることができ、主機出力の修正値Pcorrは、計測値をPmeas、修正量をΔPとすると、Pcorr=Pmeas-ΔPで求めることができる。
そして、修正値の算出結果を表した図4(b)、(c)より、外乱修正後における任意の船速での主機回転数及び主機出力を把握することができる。
【0045】
図1に示すように、解析コンピュータ10Bは、外乱修正ステップS3の後、外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別を行う(S4:外乱修正判別ステップ)。
ここで、図5図6は外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別にプロペラ作動点を利用する例を示す図である。
外乱修正判別ステップS4における判別は、実船データに基づいてトルク係数を算出し、プロペラ単独性能と比較すること等により行うことができる。これにより、外乱修正の可否を簡便に判別できる。トルク係数は下式(9)で算出される。
【数9】
Qmeasはトルク係数、Pmeasは馬力(計測値)、ηMは主機伝達効率、ηRはプロペラ効率比、ρsは海水密度、Nmeasは回転数(計測値)、Dpはプロペラ直径である。主機伝達効率ηM、プロペラ効率比ηR、及びプロペラ直径Dpは、船舶に固有の値である。
図5の例では、前進係数J、推力係数K、トルク係数K、及びプロペラ単独効率EtaOは、全て正の値となっており、J-10Kの曲線と10KQmeasとの交点を有意なプロペラ作動点として求められる。そして、トルク係数10KQmeasに対応する前進係数Jを求めることで、外乱修正を行うことができる。なお、前進係数Jに基づいて、プロペラのスラストや前進速度、またトルク係数K以外にもスラスト係数を知ることが可能となる。
一方、図6の例では、図6(a)においてはトルク係数KQmeasが大きすぎてプロペラ作動点が存在せず、図6(b)においてはトルク係数KQmeasが小さすぎて推力係数KT及びプロペラ単独効率EtaOの値が負になってしまう。このようにトルク係数KQmeasが過大又は過小な場合は、有意なプロペラ作動点が見つからず、このままでは外乱修正を行えない。トルク係数KQmeasが過大又は過小となる原因としては、計測値の精度不足、船体固有値の精度不足、又はプロペラ単独性能の精度不足が考えられるが、船社、メーカー、気象予報会社など、高精度なデータを保有する造船所以外の立場においては、一般的に起こり得るものである。
このように、実船データに基づいて算出したトルク係数KQmeasと、プロペラ単独性能としてのトルク係数Kとのグラフ上の交点に基づいて外乱修正ができない実船データがあるか否かの判別を行うことで、外乱修正の可否を、トルク係数を用いて有意なプロペラ作動点が求められるか否かによって判別することができる。
【0046】
図1に示すように、解析コンピュータ10Bが、外乱修正判別ステップS4において、外乱修正ができない実船データはない(no)と判別した場合は、出力手段30が、外乱修正ができた外乱修正データを外乱修正済データとして出力する(S6:外乱修正済データ出力ステップ)。
一方、解析コンピュータ10Bは、外乱修正判別ステップS4において、外乱修正ができない実船データがある(yes)と判別した場合は、実船データとプロペラ単独性能とに基づいてチューニングを行う(S5:チューニングステップ)。出力手段30は、チューニングを行ったチューニング外乱修正データを、外乱修正済データ出力ステップS6において外乱修正済データとして出力する。
チューニングステップS5においては、トルク係数算出時にチューニングパラメータを導入する。チューニングパラメータを用いてトルク係数を算出するに当たっては、例えば下式(1)を用いる。式(1)を用いることで、チューニングパラメータを用いてトルク係数を適切に算出して外乱修正を行うことができる。これにより、中高速ディーゼル機関や電気推進等で使用されるギアによる回転数の変換も、ギア比の情報が無くてもチューニング可能となり、その値も求まる。
【数1】
Qmeasはトルク係数、Pmeasは馬力(計測値)、ηMは主機伝達効率、ηRはプロペラ効率比、ρsは海水密度、Cγはチューニングパラメータ、Nmeasは回転数(計測値)、Dpはプロペラ直径である。
【0047】
ここで、チューニングステップS5について図7を用いて説明する。図7は解析コンピュータ10Bによるチューニングパラメータ探索のフロー図である。
まず、実船データに対してチューニングパラメータを設定する(S11:チューニングパラメータ設定ステップ)。
チューニングパラメータ設定ステップS11においては、トルク係数の式を構成するパラメータごとのチューニングパラメータを設定する。パラメータごとのチューニングパラメータを1つに設定する場合は、式(1)、下式(2)又は下式(3)を用いる。チューニングパラメータを2つに設定する場合は、下式(4)から下式(6)のいずれか一つを用いる。チューニングパラメータを3つに設定する場合は、下式(7)を用いて算出するか、式(1)から式(7)を組み合わせて算出する。これにより、チューニングパラメータを設定する数に応じトルク係数を適切に算出して外乱修正を行うことができる。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
Qmeasはトルク係数、Pmeasは馬力(計測値)、ηMは主機伝達効率、ηRはプロペラ効率比、ρsは海水密度、Cγは回転数に関係し分母で3乗に関係するチューニングパラメータ、CKQは分母もしくは分子の1乗に関係するチューニングパラメータ、CDPはプロペラ直径に関係し、分母で5乗に関係するチューニングパラメータ、Nmeasは回転数(計測値)、Dpはプロペラ直径である。
チューニングパラメータは、未知パラメータに対して設定する。よって、チューニングパラメータの数を幾つに設定するかは、未知パラメータの数に拠る。例えば、未知パラメータが主機回転数とプロペラ直径に関係する場合は、チューニングパラメータの数は、CγとCDPの2つに設定する。
【0048】
次に、設定されたチューニングパラメータを用いた外乱修正を行う(S12:チューニング外乱修正ステップ)。チューニングパラメータは複数準備しておき、全てのパラメータを使って外乱修正を行う。チューニング外乱修正ステップS12における外乱修正は、トルク係数算出時にチューニングパラメータを導入する以外は、上述の外乱修正ステップS3と同様に行う。
次に、所定数の実船データにおいて外乱修正が成功したかを判別する(S13:外乱修正成功判別ステップ)。所定数は、設定したチューニングパラメータが適切か否かを信頼性よく判断できるための十分な数を考慮して定める。
外乱修正成功判別ステップS13において、所定数の実船データにおいて外乱修正が成功していない(no)と判別した場合は、チューニングパラメータを更新し(チューニングパラメータ更新ステップS16)、チューニングパラメータ設定ステップS11に戻り、更新したチューニングパラメータを実船データに対して設定する。外乱修正が成功していないと判別した場合に行われるチューニングパラメータ更新ステップS16では、チューニングパラメータの種類(Cγ、CKQ、CDP)は変えずに設定値だけが変更される。
【0049】
一方、外乱修正成功判別ステップS13において、所定数の実船データにおいて外乱修正が成功した(yes)と判別した場合は、残差を計算する(S14:残差計算ステップ)。
例えば有効伴流係数の残差を計算する場合は、下式(8)に基づいて算出する。これにより、有効伴流係数の残差を正確に求めることができる。
【数8】
Rは残差、1-wは有効伴流係数、(1-wi estは簡易推定による1-w、(1-wi interは中間出力としての1-w、Nはデータ数である。
【0050】
残差計算ステップS14の後、設定された全てのチューニングパラメータに対して計算を終了したか否かを判別する(S15:計算終了判別ステップ)。
計算終了判別ステップS15において、設定された全てのチューニングパラメータに対して計算を終了していない(no)と判別した場合は、チューニングパラメータ更新ステップS16に移行してチューニングパラメータを更新した後、チューニングパラメータ設定ステップS11に戻り、更新したチューニングパラメータを実船データに対して設定する。計算が終了していないと判別した場合に行われるチューニングパラメータ更新ステップS16では、チューニングパラメータの種類が変更される。なお、チューニングパラメータ設定ステップS11においてチューニングパラメータを1つに設定した場合は、チューニングパラメータの種類が1つだけなので、計算終了判別ステップS15において計算が終了していないと判別される場合はない。
一方、計算終了判別ステップS15において、設定された全てのチューニングパラメータに対して計算を終了した(yes)と判別した場合は、最適なチューニングパラメータを選出する(S17:最適チューニングパラメータ選出ステップ)。
最適チューニングパラメータ選出ステップS17においては、例えば有効伴流係数の残差が最小となるチューニングパラメータを選出する。これにより、トルク係数を算出するための最適なチューニングパラメータを適切に求めることができる。
このように、チューニングステップS5が、チューニングパラメータ設定ステップS11、チューニング外乱修正ステップS12、外乱修正成功判別ステップS13、残差計算ステップS14、計算終了判別ステップS15、及びチューニングパラメータ更新ステップS16を含むことで、チューニング外乱修正データを求めるための最適なチューニングパラメータを得ることができる。
また、トルク係数の式を構成するパラメータごとのチューニングパラメータを用いてトルク係数を算出して外乱修正を行い、最適なチューニングパラメータを探索することで、トルク係数の式で用いられるパラメータごとのチューニングパラメータにより、外乱修正に最適なチューニングパラメータを得ることができる。
【0051】
図8は選出した最適なチューニングパラメータを適用してプロペラ作動点を求めた例を示す図である。
図8(a)に示すようにトルク係数KQmeasが過小で有意なプロペラ作動点が得られない場合は、図8(b)に示すように残差計算を行い残差が最小となるチューニングパラメータを評価し、トルク係数算出時に最適なチューニングパラメータを導入することで、図8(c)に示すように適切なトルク係数KQmeasによって有意なプロペラ作動点を得ることができる。
このように、実船データやプロペラ単独性能の精度不足等により平水中性能への外乱修正ができない場合は、チューニングを行って外乱修正することで、外乱修正を適切に行い実船モニタリング解析による船舶の性能評価精度を高めることができる。
【0052】
図1に示すように、外乱修正済データ出力ステップS6の後は、データ同化ステップS8を行う。
データ同化ステップS8を実行する前には、事前推定性能導出手段60により導出した船舶の性能の事前推定データを取得する(S7:事前推定性能取得ステップ)。取得した事前推定データは解析コンピュータ10Bに読み込まれる。事前推定データは、船舶の模型試験(水槽試験)、数値流体力学(CFD)計算、簡易性能推定、又は試運転等を行い、事前推定性能導出手段60を用いて予め取得した予測性能データである。
データ同化ステップS8で用いられる事前推定データが、船舶の模型試験、数値流体力学(CFD)、簡易性能推定、及び試運転データのいずれか一つを含むことで、船舶の模型試験、数値流体力学計算、簡易性能推定、又は試運転によって得られた事前推定データの精度を、データ同化により向上させることができる。
【0053】
解析コンピュータ10Bは、データ同化ステップS8において、事前推定性能取得ステップS7で取得した事前推定データと、外乱修正済データ出力ステップS6で出力された外乱修正済データを用いて、データ同化を行う。これにより、水槽試験や数値計算等により予め求めた事前推定データの精度を向上させることができる。
また、データ同化ステップS8で用いられる外乱修正済データが、主機出力及び主機回転数の少なくとも一方を含む場合には、船舶の性能評価において一般的な主機出力や主機回転数を外乱修正済データとしてデータ同化に用いることができる。
ここで、図9はデータ同化のイメージ図であり、図9(a)は主機回転数のデータ同化を示し、図9(b)は主機出力のデータ同化を示している。
外乱修正済データを用い、予測値に対して計測値(外乱修正結果)を適用してデータ同化を行い修正値を得ることで、予測値の精度が向上し事前推定データを高精度化することができる。
データ同化ステップS8の後、出力手段30は、データ同化の結果を出力する(S9:結果出力ステップ)。これにより、システムの利用者X、Yは、外乱修正済データと事前推定データのデータ同化の結果としての高精度性能データを簡便に得ることができる。
また、データ取得手段20と出力手段30は情報通信網70に接続して構成されているため、実船データの取得、外乱修正済データの出力、及びデータ同化の結果の出力の少なくとも一つを、情報通信網70を介して行うことができる。これにより、遠隔地との情報のやり取りを情報通信網70を介してスムーズに行えるため、システムの利便性を向上させることができる。
【0054】
以上説明したように、船舶の実船モニタリング解析による性能評価方法によれば、実船データやプロペラ単独性能の精度不足等により平水中性能への外乱修正ができない場合は、チューニングを行って外乱修正できるため、実船モニタリング解析による船舶の性能評価精度を高めることができる。また、データ同化により事前推定データの精度を向上させることができる。
また、船舶の実船モニタリング解析による性能評価プログラムを用い、解析コンピュータ10Bに、実船データ取得ステップS1と、関連性能取得ステップS2と、外乱修正ステップS3と、外乱修正判別ステップS4と、チューニングステップS5と、外乱修正済データ出力ステップS6を実行させることで、チューニングによる外乱修正等を解析コンピュータ10Bが適切に行い、精度の高い実船モニタリング解析による船舶の性能評価を迅速かつ正確に行うことができる。
また、解析コンピュータ10Bに、データ同化ステップS8をさらに実行させることで、水槽試験や数値計算等により予め求めた事前推定データの精度を向上することができる。
また、解析コンピュータ10Bに、チューニングパラメータ設定ステップS11と、チューニング外乱修正ステップS12と、外乱修正成功判別ステップS13と、残差計算ステップS14と、計算終了判別ステップS15と、チューニングパラメータ更新ステップS16を実行させることで、迅速かつ正確にチューニング外乱修正データを求めるための最適なチューニングパラメータを得ることができる。
また、実船モニタリング解析による性能評価システムが、解析コンピュータ10B、データ取得手段20、及び出力手段30を備え、性能評価プログラムを実行することで、最適なチューニングパラメータの探索、チューニングによる外乱修正、外乱修正済データの出力、及びデータ同化等を行えるシステムを提供することができる。
なお、上記の実施形態では、前処理コンピュータ10Aと解析コンピュータ10Bを別々のコンピュータとして説明をしたが、同一のコンピュータとすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明を適用することで、船社や舶用メーカー、気象予測会社など、高精度なデータを保有していない事業者においても実用的精度で外乱修正を行うことができるため、実船モニタリング解析のハードルが下がり、実船モニタリング解析の一層の普及に寄与する。また、本発明は、実船性能だけでなく、プロペラや塗料性能の評価、ウェザールーティングの検証にも役立てることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 コンピュータ
20 データ取得手段
30 出力手段
70 情報通信網
S1 実船データ取得ステップ
S2 関連性能取得ステップ
S3 外乱修正ステップ
S4 外乱修正判別ステップ
S5 チューニングステップ
S6 外乱修正済データ出力ステップ
S7 事前推定性能取得ステップ
S8 データ同化ステップ
S11 チューニングパラメータ設定ステップ
S12 チューニング外乱修正ステップ
S13 外乱修正成功判別ステップ
S14 残差計算ステップ
S15 計算終了判別ステップ
S16 チューニングパラメータ更新ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9