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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051249
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】トランスファ装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/344 20060101AFI20230404BHJP
   F16H 3/093 20060101ALI20230404BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20230404BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20230404BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20230404BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20230404BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20230404BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20230404BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20230404BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20230404BHJP
【FI】
B60K17/344 B ZHV
F16H3/093
B60K17/04 G
B60K6/52
B60K6/48
B60K6/54
B60K6/36
B60K6/387
B60K6/40
B60K6/442
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161815
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 拓紀
(72)【発明者】
【氏名】神谷 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】深谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 篤
(72)【発明者】
【氏名】大澤 英也
(72)【発明者】
【氏名】藤峰 卓也
(72)【発明者】
【氏名】河邉 真人
(72)【発明者】
【氏名】塩入 康司
【テーマコード(参考)】
3D039
3D043
3D202
3J528
【Fターム(参考)】
3D039AA03
3D039AB01
3D039AB27
3D043AA06
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA05
3D043EA17
3D043EA35
3D043EA39
3D043EA42
3D043EB02
3D043EB03
3D043EB07
3D043EB12
3D043EC01
3D202AA02
3D202AA08
3D202EE13
3D202EE16
3D202EE22
3D202FF04
3D202FF12
3J528EA25
3J528EB25
3J528EB33
3J528EB37
3J528EB62
3J528EB63
3J528EB67
3J528EB74
3J528FA06
3J528FB13
3J528FB14
3J528FC32
3J528FC42
3J528FC52
3J528FC66
3J528GA04
3J528HA23
3J528JE02
3J528JJ02
(57)【要約】
【課題】回転電機による走行性能を向上し、かつ車両搭載性の低下を防ぐことが可能なトランスファ装置を提供する。
【解決手段】トランスファ装置1は、入力軸21と、入力軸21の回転により回転されるカウンタ軸22と、後輪側出力軸23Rと、前輪側出力軸23Fと、カウンタ軸22の回転を変速して後輪側出力軸23Rに伝達する変速機構28と、後輪側出力軸23Rと前輪側出力軸23Fとを係合可能な係合機構29と、モータ3と、モータ3により駆動されるモータ出力軸24と、モータ出力軸24の回転を減速してカウンタ軸22に伝達するモータカウンタ軸25と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の回転を変速する変速機に駆動連結されるトランスファ装置において、
前記変速機に駆動連結された第1軸部材と、
前記第1軸部材と平行に配置され、前記第1軸部材の回転により回転される第2軸部材と、
前記第2軸部材と平行に配置され、前輪に駆動連結される第1伝達軸と後輪に駆動連結される第2伝達軸との一方に駆動連結された第3軸部材と、
前記第3軸部材と同軸上に配置され、前記第1伝達軸と前記第2伝達軸との他方に駆動連結された第4軸部材と、
第1速段又は前記第1速段より高速な第2速段を形成し、前記第2軸部材の回転を変速して前記第3軸部材に伝達する変速機構と、
前記第3軸部材と前記第4軸部材とを係合可能な係合機構と、
回転電機と、
前記回転電機と同軸上に配置され、前記回転電機により駆動される第5軸部材と、
前記第2軸部材及び前記第5軸部材と平行に配置され、前記第5軸部材の回転を減速して前記第2軸部材に伝達する第6軸部材と、を備える、
トランスファ装置。
【請求項2】
前記第5軸部材に固定された第1ギヤと、
前記第6軸部材に固定され、前記第1ギヤに噛合し、かつ前記第1ギヤよりも歯数が多い第2ギヤと、
前記第6軸部材に固定された第3ギヤと、
前記第2軸部材に固定され、前記第3ギヤに噛合し、かつ前記第3ギヤよりも歯数が多い第4ギヤと、を備える、
請求項1に記載のトランスファ装置。
【請求項3】
前記第6軸部材は、前記トランスファ装置が車両に搭載された状態で、前記トランスファ装置を軸方向から視て、前記第5軸部材よりも鉛直下方に配置された、
請求項1又は2に記載のトランスファ装置。
【請求項4】
ケースに封入された油の油面は、前記第6軸部材の中心よりも鉛直下方となるように設定されている、
請求項3に記載のトランスファ装置。
【請求項5】
移動部材の位置が切換えられることにより、前記変速機構の変速段と前記係合機構の係合状態とを切替える切替機構を備え、
前記切替機構は、前記第3軸部材と前記6軸部材との間に配置された、
請求項3又は4に記載のトランスファ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の回転を変速して前輪と後輪とに伝達可能なトランスファ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪駆動の車両においては、エンジンの回転を変速機で変速し、その変速機の回転を前輪及び後輪の両方又は一方に選択的に伝達すると共にLo/Hi切換して伝達するトランスファ装置が用いられている。また、このような四輪駆動の車両にあって、車両の燃費向上のため、トランスファ装置にモータジェネレータを取付け、ハイブリッド走行やEV走行を可能にしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-196413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のものは、変速機に駆動連結される入力軸(62)と、入力軸の回転を減速して伝達するカウンタ軸(64)と、前後のプロペラシャフトに駆動連結される出力軸(71)とを有しており、モータジェネレータ(50)の入力軸(69)に設けられたドライブギヤ(70)がカウンタ軸のドリブンギヤ(68)に噛合している。しかしながら、このような構造で、モータジェネレータによる走行性能(EV走行性能やアシスト走行性能)を向上しようとすると、モータジェネレータを大型化する必要が生じ、車両搭載性が低下してしまう。
【0005】
そこで本発明は、回転電機による走行性能を向上し、かつ車両搭載性の低下を防ぐことが可能なトランスファ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様としてのトランスファ装置は、
駆動源の回転を変速する変速機に駆動連結されるトランスファ装置において、
前記変速機に駆動連結された第1軸部材と、
前記第1軸部材と平行に配置され、前記第1軸部材の回転により回転される第2軸部材と、
前記第2軸部材と平行に配置され、前輪に駆動連結される第1伝達軸と後輪に駆動連結される第2伝達軸との一方に駆動連結された第3軸部材と、
前記第3軸部材と同軸上に配置され、前記第1伝達軸と前記第2伝達軸との他方に駆動連結された第4軸部材と、
第1速段又は前記第1速段より高速な第2速段を形成し、前記第2軸部材の回転を変速して前記第3軸部材に伝達する変速機構と、
前記第3軸部材と前記第4軸部材とを係合可能な係合機構と、
回転電機と、
前記回転電機と同軸上に配置され、前記回転電機により駆動される第5軸部材と、
前記第2軸部材及び前記第5軸部材と平行に配置され、前記第5軸部材の回転を減速して前記第2軸部材に伝達する第6軸部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、第6軸部材によって回転電機の回転を減速して第2軸部材に伝達できるので、回転電機の大型化を招くことなく、回転電機による走行性能を向上することができ、かつ車両搭載性の低下も防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態に係る車両を示す概略模式図。
図2】第1の実施の形態に係るトランスファ装置を示すスケルトン図。
図3】第1の実施の形態に係るトランスファ装置を車両の後方側から視た状態を示す概略模式図。
図4】第2の実施の形態に係るトランスファ装置を示すスケルトン図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施の形態>
以下、第1の実施の形態を図1乃至図3に沿って説明する。まず、図1を用い、第1の実施の形態に係るハイブリッド車両の一例を説明する。
【0010】
[ハイブリット車両の構成]
図1に示すように、第1の実施の形態に係るハイブリッド車両である車両100は、四輪駆動の車両であり、矢印Aで示す前方側にエンジン(E/G)(駆動源)10と、該エンジン10の回転を変速する変速機(T/M)11とを搭載している。また、その変速機11の出力軸11aには、詳しくは後述する、変速機11の出力回転を変速しつつ、第2伝達軸としての後輪側プロペラシャフト13に、又は第1伝達軸としての前輪側プロペラシャフト12及び後輪側プロペラシャフト13の両方に駆動力を伝達するトランスファ装置1が備えられている。トランスファ装置1は、詳しくは後述するようにトランスファ機構2と、回転電機であるモータジェネレータ(以下、単に「モータ」という)3とを、ケース5に収納する形で備えている。モータ3は、図示を省略したバッテリに接続され、バッテリの電力により力行可能であり、かつ回生してバッテリに充電することも可能に構成されている。
【0011】
なお、変速機11は、本実施の形態では、例えばシフト操作を電動で行うことで変速を行う自動変速機を用いているが、これに限らず、プラネタリギヤと摩擦クラッチを用いて変速する有段式の自動変速機、ベルト式無段変速機(CVT)等であってもよく、さらには、手動変速機であってもよく、要するにどのような変速機であってもよい。
【0012】
上記前輪側プロペラシャフト(第1伝達軸)12は、ディファレンシャル装置であるフロントデフ14に駆動連結され、さらにフロントデフ14から左右ドライブシャフト16L,16Rを介して左右の車輪である前輪17L,17Rに駆動連結されている。一方の後輪側プロペラシャフト(第2伝達軸)13は、ディファレンシャル装置であるリヤデフ15に駆動連結され、さらにリヤデフ15から左右ドライブシャフト18L,18Rを介して左右の車輪である後輪19L,19Rに駆動連結されている。
【0013】
従って、本車両100では、エンジン10の駆動回転を変速機11で変速し、さらに、トランスファ装置1で変速しつつモータ3によりアシスト或いは回生し、そのトランスファ装置1の出力回転を、後輪19L,19Rだけに伝達する所謂FR(フロントエンジン・リヤドライブ)状態での二輪駆動のハイブリッド走行、或いは前輪17L,17R及び後輪19L,19Rに伝達する四輪駆動のハイブリッド走行を可能としている。さらに、エンジン10を停止し、変速機11をニュートラル状態にすることで、トランスファ装置1のモータ3の出力回転を、後輪19L,19Rだけに伝達する二輪駆動のEV走行、或いは前輪17L,17R及び後輪19L,19Rに伝達する四輪駆動のEV走行も可能としている。なお、変速機11の変速機構自体をニュートラル状態とせずとも、変速機11においてエンジン10との駆動力の伝達経路を断接するクラッチをアクチュエータで駆動して解放し、それによりエンジン10を駆動系から切り離してEV走行を可能にするものであっても構わない。
【0014】
[トランスファ装置の構成]
続いて、第1の実施の形態に係るトランスファ装置1の構成について図2及び図3を用いて説明する。トランスファ装置1は、上述したようにトランスファ機構2と、モータ3と、モータ3の回転をトランスファ機構2に伝達するモータ回転伝達部4とを備えて構成されている。
【0015】
また、トランスファ機構2には、第1速段としての低速段(Lo)と、第1変速段よりも高速な第2速段としての高速段(Hi)とを形成可能な変速機構28が備えられている。また、トランスファ機構2には、係合することで前輪側プロペラシャフト12及び後輪側プロペラシャフト13を駆動連結して四輪駆動の状態に、解放することで後輪側プロペラシャフト13から前輪側プロペラシャフト12の駆動連結を切離して二輪駆動の状態に、切替可能な係合機構29を備えている。そして、トランスファ機構2には、変速機構28の変速段と係合機構29の係合状態とを切替える切替機構40が備えられている。
【0016】
車両100は、運転席と助手席の間のフロアパネルが車室内側に向けて上方に膨らんで形成されているフロアトンネル101が、車両100の前後方向に沿って形成されている。そして、図3に示すように、フロアトンネル101の下方には、下方に行くほど幅が広がるフロアトンネル101の内部空間が形成されており、トランスファ装置1は、そのケース5の上部がフロアトンネル101の内部空間に収まるように配置されている。さらに、トランスファ装置1は、そのケース5の最下端が車両100に設定された設計上の最低地上高Lhよりも上方となるように配置されている。なお、本明細書中において「下方」とは、鉛直下方(鉛直方向における下方)のことを指す。また、鉛直方向とは、トランスファ装置1が車両100に搭載された状態での鉛直方向を指す。また、図3は車両の後方からトランスファ装置を視た図で、図3中に示すX1-X2方向は左右方向を指し、Y1-Y2方向は上下方向を指す。
【0017】
詳細には、図2に示すように、トランスファ機構2において、第1軸AX1上には(図3参照)、上記変速機11の出力軸11aに駆動連結される第1軸部材としての入力軸21が回転自在に配置されている。この入力軸(第1軸部材)21には、第5ギヤとしてのドライブギヤG1が回転不能に固定されており、該ドライブギヤG1は、後述のカウンタ軸22のドリブンギヤG2に噛合して、ギヤ列31を構成している。
【0018】
上記第1軸AX1と平行で、かつ第1軸AX1よりも下方に配置された第2軸AX2上には(図3参照)、上記ギヤ列31を介して入力軸21の回転により回転される第2軸部材としてのカウンタ軸22が回転自在に配置されている。カウンタ軸22には、ドリブンギヤG2が回転不能に固定されており、さらに、大径ギヤG3及び小径ギヤG5も回転不能に固定されている。大径ギヤG3は、後述の変速機構28の高速段ギヤG4に噛合してギヤ列32を構成しており、小径ギヤG5は、後述の変速機構28の低速段ギヤG6に噛合してギヤ列33を構成している。なお、第2軸AX2は、第1軸AX1よりも下方で、後述する第3軸AX3よりも上方に配置された軸であって、第1軸AX1よりもフロアトンネル101の右側の壁に接近するように、フロアトンネル101の内部空間のやや右側に偏倚している。
【0019】
上記第1軸AX1及び上記第2軸AX2と平行で、かつ第2軸AX2よりも下方に配置された第3軸AX3上には(図3参照)、第3軸部材としての後輪側出力軸23Rと、その同軸上に第4軸部材としての前輪側出力軸23Fと、変速機構28と、係合機構29とが配置されている。後輪側出力軸23Rには、変速機構28の出力ドッグDOが回転不能に固定されている。そして、後輪側出力軸23Rには第1伝達軸と第2伝達軸との一方である後輪側プロペラシャフト13が駆動連結され、前輪側出力軸23Fには第1伝達軸と第2伝達軸との他方である前輪側プロペラシャフト12が駆動連結されている。なお、本実施の形態では、後輪側出力軸23Rが後述の変速機構28を介して第2軸部材に駆動連結される第3軸部材、前輪側出力軸23Fが第3軸部材に後述の係合機構29を介して駆動連結される第4軸部材であるものを一例として説明しているが、その逆であっても構わない。この場合、後輪側プロペラシャフト13は第1伝達軸と第2伝達軸との他方となり、前輪側プロペラシャフト12は第1伝達軸と第2伝達軸との一方となる。
【0020】
なお、第3軸AX3は、第2軸AX2よりも下方に配置された軸であって、第2軸AX2よりもフロアトンネル101の右側の壁に接近するように、フロアトンネル101の内部空間のやや右側に偏倚している。従って、第1軸AX1、第2軸AX2、第3軸AX3は、フロアトンネル101の右側の壁に沿って、上部から右下方に斜めに略直線状に配置されている。
【0021】
変速機構28は、上記高速段ギヤG4と、その高速段ギヤG4に固定された高速段ドッグDHと、上記低速段ギヤG6と、その低速段ギヤG6に固定された低速段ドッグDLと、上記出力ドッグDOと、出力ドッグDOに噛合して軸方向に移動可能な第1スリーブSL1と、を備えており、低速段ドッグDLと出力ドッグDOと第1スリーブSL1とで低速段ドッグクラッチCLを、高速段ドッグDHと出力ドッグDOと第1スリーブSL1とで高速段ドッグクラッチCHを、それぞれ構成している。即ち、第1スリーブSL1は、詳しくは後述する切替機構40によって、低速段ドッグDLと出力ドッグDOとの両方に噛合する低速段位置に移動されることで低速段ドッグクラッチCLを係合し、ギヤ列33を用いた大きいギヤ比の動力伝達経路である低速段を形成する。また、第1スリーブSL1は、高速段ドッグDHと出力ドッグDOとの両方に噛合する高速段位置に移動されることで高速段ドッグクラッチCHを係合し、ギヤ列32を用いたギヤ列33より小さいギヤ比の動力伝達経路である高速段を形成する。従って、変速機構28は、カウンタ軸22の回転を低速段又は高速段で変速して後輪側出力軸23Rに伝達し、或いは後述の係合機構29の係合により後輪側出力軸23R及び前輪側出力軸23Fに伝達する。
【0022】
係合機構29は、後輪側出力軸23Rに固定された後輪側ドッグDRと、前輪側出力軸23Fに固定された前輪側ドッグDFと、軸方向に移動可能な第2スリーブSL2と、を備えて、四輪駆動クラッチCAを構成している。即ち、第2スリーブSL2は、詳しくは後述する切替機構40によって、後輪側ドッグDRだけに噛合して四輪駆動クラッチCAを解放した二輪駆動位置と、後輪側ドッグDR及び前輪側ドッグDFの両方に噛合して四輪駆動クラッチCAを係合した四輪駆動位置と、に移動される。これにより、第2スリーブSL2は、後輪側出力軸23Rと前輪側出力軸23Fとを係合可能(係合又は解放可能)に構成されている。つまり係合機構29は、変速機構28から後輪側出力軸23Rに回転が伝達される二輪駆動の状態と、変速機構28から後輪側出力軸23Rに回転が伝達され、さらに係合機構29を介して前輪側出力軸23Fにも回転が伝達される四輪駆動の状態とを切替える。
【0023】
切替機構40は、運転席に向かって延びるように配置されたトランスファレバー51に連結された連結部41と、連結部41に連結されて軸方向に移動可能な移動部材としての移動軸42と、移動軸42に固定されると共に上記第1スリーブSL1に係合される第1シフトフォーク44と、移動軸42に固定されると共に上記第2スリーブSL2に係合される第2シフトフォーク43と、を備えて構成されており、変速機構28の変速段と係合機構29の係合状態(係合又は解放した状態)とを切替える。
【0024】
この切替機構40は、図3に示すように、後輪側出力軸23Rと前輪側出力軸23Fとが配置される第3軸AX3の側方に配置されており、移動軸42は後輪側出力軸23Rと前輪側出力軸23Fとに平行に配置されている。さらに、切替機構40は、カウンタ軸22が配置される第2軸AX2の下方に配置されている。つまり、切替機構40は、後輪側出力軸23R(第3軸AX3)と後述するモータカウンタ軸25(第5軸AX5)との間にあるスペースに配置されている。これにより、トランスファ装置1の大型化を防ぎつつ、トランスファレバー51を車両100(フロアトンネル101)の幅方向の中央に配置することを容易にしている。
【0025】
トランスファレバー51が二輪駆動かつ高速段の位置に操作されると、切替機構40によって、第1スリーブSL1を図2中右側の上記高速段ドッグクラッチCHを係合する位置に、かつ第2スリーブSL2も図2中右側の上記四輪駆動クラッチCAを解放する位置に、それぞれの位置を設定する。これにより、トランスファ装置1は、高速段かつ二輪駆動の状態に設定される。つまり、この状態では、エンジン10の駆動力を変速機11で変速し、さらにトランスファ装置1で高速段に変速しつつ後輪19L,19Rに伝達する。なお、詳しくは後述するモータ3の駆動回転も、高速段かつ二輪駆動の状態で後輪19L,19Rに伝達し、非駆動時(コースト時)には、高速段かつ二輪駆動の状態で後輪19L,19Rからの回転を回生する。
【0026】
また、トランスファレバー51が四輪駆動かつ高速段の位置に操作されると、切替機構40によって、第1スリーブSL1を図2中右側の上記高速段ドッグクラッチCHを係合する位置に、かつ第2スリーブSL2は図2中左側の上記四輪駆動クラッチCAを係合する位置に、それぞれの位置を設定する。これにより、トランスファ装置1は、高速段かつ四輪駆動の状態に設定される。つまり、この状態では、エンジン10の駆動力を変速機11で変速し、さらにトランスファ装置1で高速段に変速しつつ後輪19L,19R及び前輪17L,17Rに伝達する。なお、詳しくは後述するモータ3の駆動回転も、高速段かつ四輪駆動の状態で後輪19L,19R及び前輪17L,17Rに伝達し、非駆動時(コースト時)には、高速段かつ四輪駆動の状態で後輪19L,19R及び前輪17L,17Rからの回転を回生する。
【0027】
そして、トランスファレバー51が四輪駆動かつ低速段の位置に操作されると、切替機構40によって、第1スリーブSL1を図2中左側の上記低速段ドッグクラッチCLを係合する位置に、かつ第2スリーブSL2を図2中左側の上記四輪駆動クラッチCAを係合する位置に、それぞれの位置を設定する。これにより、トランスファ装置1は、低速段かつ四輪駆動の状態に設定される。つまり、この状態では、エンジン10の駆動力を変速機11で変速し、さらにトランスファ装置1で低速段に変速しつつ後輪19L,19R及び前輪17L,17Rに伝達する。なお、詳しくは後述するモータ3の駆動回転も、低速段かつ四輪駆動の状態で後輪19L,19R及び前輪17L,17Rに伝達し、非駆動時(コースト時)には、低速段かつ四輪駆動の状態で後輪19L,19R及び前輪17L,17Rからの回転を回生する。
【0028】
[モータ及びモータ回転伝達部の構成]
ついで、第1の実施の形態におけるモータ3と、その回転をトランスファ機構2に伝達するモータ回転伝達部4との構成について図2及び図3を用いて説明する。モータ3は、トランスファ機構2にモータ回転伝達部4によって駆動連結されており、モータ回転伝達部4は、第5軸部材としてのモータ出力軸24、第1ギヤとしてのモータ出力ギヤG7、第6軸部材としてのモータカウンタ軸25、第2ギヤとしての大径ギヤG8、及び第3ギヤとしての小径ギヤG9を有して構成されている。
【0029】
詳細には、第4軸AX4は、上記第1軸AX1乃至第3軸AX3と平行で、かつ第1軸AX1よりも下方で第2軸AXの側方に配置されている。その第4軸AX4上には(図3参照)、モータ3と、その同軸上に、モータ3の図示を省略したロータに駆動連結され、モータ3により駆動されるモータ出力軸24と、モータ出力軸24に回転不能に固定されたモータ出力ギヤG7とが配置されている。該モータ出力ギヤG7は、後述のモータカウンタ軸25の大径ギヤG8に噛合して、ギヤ列34を構成している。
【0030】
第5軸AX5は、上記第1軸AX1乃至第4軸AX4と平行で、かつ第2軸AX2及び第4軸AX4よりも下方に配置されている。その第5軸AX5上には(図3参照)、上記ギヤ列34を介してモータ3の回転により回転されるモータカウンタ軸25が回転自在に配置されている。モータカウンタ軸25には、上記モータ出力ギヤG7よりも歯数が多い大径ギヤG8が回転不能に固定されており、さらに、小径ギヤG9も回転不能に固定されている。大径ギヤG8は、上記モータ出力ギヤG7に噛合してギヤ列34を構成している。小径ギヤG9は、上記カウンタ軸22に固定され、小径ギヤG9よりも歯数が多い第4ギヤとしてのドリブンギヤG2に噛合してギヤ列35を構成している。
【0031】
なお、第5軸AX5は、第2軸AX2よりも下方に配置された軸位置であって、第3軸AX3と同程度の高さ位置に配置され、第2軸AX2よりも左側に位置している。つまり、第2軸AX2を含む鉛直面に対して、第5軸AX5は第3軸AX3と反対側に位置しており、第1軸AX1の下方に配置されている。さらに、第4軸AX4は、第1軸AX1よりも下方で、第5軸AX5よりも上方で、第2軸AX2の左側に配置されている。つまり、第4軸AX4は、第1軸AX1と第5軸AX5の間に配置され、第1軸AX1、第4軸AX4、第5軸AX5は、上下方向に沿って、上部から下方に略直線状に配置されている。
【0032】
本第1の実施の形態に係るトランスファ装置1では、モータ出力ギヤG7と大径ギヤG8とで構成されるギヤ列34は、モータ3の回転(モータ出力軸24の回転)を減速してモータカウンタ軸25に伝達する。さらに、小径ギヤG9とドリブンギヤG2とで構成されるギヤ列35は、モータカウンタ軸25の回転を減速してカウンタ軸22に伝達する。従って、モータ3の回転は、ギヤ列34とギヤ列35との2段で減速されて、カウンタ軸22に伝達される。
【0033】
なお、図2においては、入力軸21に固定されたドライブギヤG1と、モータカウンタ軸25に固定された小径ギヤG9とが軸方向に異なる位置に配置された形で示されているが、図3に示すように、ドライブギヤG1と小径ギヤG9とは軸方向から視て重ならない大きさであるため、径方向から視て軸方向に重なる位置に配置することができる。
【0034】
また、本トランスファ装置1においては、ケース5の内部に潤滑油(冷却油)としての油が封入されており、各ギヤの掻き上げ等によって各部に潤滑油が供給される。この油の油面高さは、図3に示すように、車両100が例えば長期に亘って運転されず、油がケース5の下方に溜まった状態で油面Hの高さとなる。この油面Hの高さは、モータカウンタ軸25の中心(第5軸AX5)よりも下方となるように、封入される油量が設定されている。これにより、車両100の運転時にあって、モータ3が回転するときに、モータ3が油に浸かることがなく、モータ3の攪拌ロスが低減され、車両の燃費(電費)向上が図れている。
【0035】
以上説明したように、モータ回転伝達部4にモータカウンタ軸25を設けることで、モータ3の回転を大きく減速してカウンタ軸22に伝達できるので、モータ3の駆動力によるアシスト走行やEV走行の走行性能を向上すべくモータ3による大きな駆動トルクが必要となっても、モータ3を大型化する必要がなく、つまり走行性能を向上できるものでありながら、トランスファ装置1全体として小型化ができて車両搭載性の低下を防ぐことができる。
【0036】
また、入力軸21に固定されるドライブギヤG1と、モータカウンタ軸25に固定される小径ギヤG9とを、カウンタ軸22に固定されたドリブンギヤG2に共通化して噛合させるので、例えば特開2015-196413号公報のように、カウンタ軸と入力軸とを駆動連結するギヤ列と、カウンタ軸とモータ出力軸とを駆動連結するギヤ列とを別々に設ける場合に比して、軸方向のコンパクト化を図ることができ、トランスファ装置1の車両搭載性の低下を防ぐことができる。特に、上述したようにギヤ列31とギヤ列35とは、少なくとも一部を軸方向の同じ位置に重ねて配置することができるので、さらに軸方向のコンパクト化を図ることができる。これにより、トランスファ装置1の後方側(入力軸21の入力側とは軸方向反対側)にモータ3を配置する空間を確保することも可能となっている。なお、入力軸21は、既存のトランスファ装置と同じ形状であるため、部品として流用することができ、コストダウンも可能としている。
【0037】
また、図3に示すように、モータカウンタ軸25(第5軸AX5)をモータ出力軸24(第4軸AX4)よりも下方に配置されているため、換言すると、モータ3が、上下方向において、入力軸21(第1軸AX1)とモータカウンタ軸25(第5軸AX5)との間の第4軸AX4上に配置されているため、最低地上高Lhよりも下方に突出することなく、例えばモータ3を第5軸AX5のように下方に配置する場合よりも、モータ3の外径を大きくすることができる。
【0038】
そして、切替機構40は、図3に示すように、後輪側出力軸23R(第3軸AX3)とモータカウンタ軸25(第5軸AX5)との間に配置されているので、例えば後輪側出力軸23R(第3軸AX3)の上方に配置する場合に比してトランスファレバー51の取り回しによるトランスファ装置1の大型化を防ぎつつ、トランスファレバー51を車両100(フロアトンネル101)の幅方向の中央に配置することを容易にすることができる。
【0039】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図4を用いて説明する。なお、本第2の実施の形態においては、上記第1の実施の形態と同様な部分に同符号を付して、その説明を省略する。
【0040】
本第2の実施の形態に係るトランスファ装置1は、上記第1の実施の形態に比して、変速機構28の変速段及び係合機構29の係合状態を切替える切替機構140を変更したものである。即ち、切替機構140は、上記切替機構40に比して、トランスファレバー51を無くし(図2参照)、電動により駆動するアクチュエータ141によって変速機構28の変速段及び係合機構29の係合状態を切替えるものである。
【0041】
詳細には、切替機構140は、移動軸142を移動させる駆動力を発生させるアクチュエータ141と、軸方向に移動可能な移動軸42と、アクチュエータ141の駆動力を移動軸142に伝達するボールねじ機構145と、移動軸142に固定されると共に上記第1スリーブSL1に係合される第1シフトフォーク144と、移動軸142に固定されると共に上記第2スリーブSL2に係合される第2シフトフォーク143と、を備えて構成されている。この切替機構140も、同様に、後輪側出力軸23R(第3軸AX3)とモータカウンタ軸25(第5軸AX5)との間にあるスペースに配置されている。
【0042】
不図示の運転席に配置されたトランスファスイッチにより、二輪駆動かつ高速段となるように指令操作されると、切替機構140によって、第1スリーブSL1を図中右側の上記高速段ドッグクラッチCHを係合する位置に、かつ第2スリーブSL2も図中右側の上記四輪駆動クラッチCAを解放する位置に、それぞれの位置を設定する。これにより、トランスファ装置1は、高速段かつ二輪駆動の状態に設定される。
【0043】
また、不図示の運転席に配置されたトランスファスイッチにより、四輪駆動かつ高速段となるように指令操作されると、切替機構140によって、第1スリーブSL1を図中右側の上記高速段ドッグクラッチCHを係合する位置に、かつ第2スリーブSL2は図中左側の上記四輪駆動クラッチCAを係合する位置に、それぞれの位置を設定する。これにより、トランスファ装置1は、高速段かつ四輪駆動の状態に設定される。
【0044】
そして、不図示の運転席に配置されたトランスファスイッチにより、四輪駆動かつ低速段となるように指令操作されると、切替機構140によって、第1スリーブSL1を図中左側の上記低速段ドッグクラッチCLを係合する位置に、かつ第2スリーブSL2を図中左側の上記四輪駆動クラッチCAを係合する位置に、それぞれの位置を設定する。これにより、トランスファ装置1は、低速段かつ四輪駆動の状態に設定される。
【0045】
このようにトランスファレバー51を無くして、アクチュエータ141により移動軸142を駆動する切替機構140では、アクチュエータ141やその駆動力を伝達するボールねじ機構145などを備えるため、切替機構140として大型化する可能性があるが、後輪側出力軸23R(第3軸AX3)とモータカウンタ軸25(第5軸AX5)との間にあるスペースに配置することで、トランスファ装置1の大型化を防ぐことができる。
【0046】
<他の実施の形態の可能性>
なお、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、入力軸21がカウンタ軸22及び変速機構28を介して後輪側出力軸23Rに駆動連結された所謂FRタイプをベースとするためのトランスファ装置1を説明したが、これに限らず、入力軸21がカウンタ軸22及び変速機構28を介して前輪側出力軸23Fに駆動連結された所謂FFタイプをベースとするためのトランスファ装置であってもよい。
【0047】
また、第1及び第2の実施の形態においては、モータ出力軸24からカウンタ軸22までにおいて、モータ3の回転をギヤ列34とギヤ列35との両方で減速するものを説明したが、どちらか一方のギヤ列だけで減速するものでもよく、その場合、少なくとも一方のギヤ列で減速できる分、モータ3の大型化を防ぐことができる。
【0048】
また、第1及び第2の実施の形態においては、ドライブギヤG1と小径ギヤG9とが同じドリブンギヤG2に噛合して共通化したものを説明したが、これに限らず、ギヤ列31とギヤ列35とを軸方向の別の場所に分けて配置し、つまり共通化しないものであってもよい。
【0049】
また、第1及び第2の実施の形態において説明した第1軸AX1~第5軸AX5の上下方向の配置は、これに限らず、最低地上高Lhよりも下方に突出しない範囲内で、適宜に配置換えしても構わない。
【0050】
また、第1及び第2の実施の形態においては、切替機構を、後輪側出力軸23R(第3軸AX3)とモータカウンタ軸25(第5軸AX5)との間に配置したものを説明したが、フロアトンネル101との距離に余裕がある車両では、切替機構を例えば後輪側出力軸23Rの上方で、かつカウンタ軸22の側方となる位置に配置しても構わない。
【0051】
また、第1及び第2の実施の形態において説明した最低地上高Lhは、水平方向に直線状に設定されたものを説明したが、これに限らず、例えば車両100のロール等を考慮して、正面視で円弧状となる最低地上高が設定されたものでもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…トランスファ装置/3…回転電機(モータ)/10…駆動源(エンジン)/11…変速機/12…第1伝達軸(前輪側プロペラシャフト)/13…第2伝達軸(後輪側プロペラシャフト)/21…第1軸部材(入力軸)/22…第2軸部材(カウンタ軸)/23R…第3軸部材(後輪側出力軸)/23F…第4軸部材(前輪側出力軸)/24…第5軸部材(モータ出力軸)/25…第6軸部材(モータカウンタ軸)/28…変速機構/29…係合機構/40…切替機構/42…移動部材(移動軸)/140…切替機構/142…移動部材(移動軸)/G2…第4ギヤ(ドリブンギヤ)/G7…第1ギヤ(モータ出力ギヤ)/G8…第2ギヤ(大径ギヤ)/G9…第3ギヤ(小径ギヤ)
図1
図2
図3
図4