(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005127
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】軸受の異物侵入防止構造とその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/76 20060101AFI20230111BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20230111BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F16C33/76 A
F16C33/58
F16C33/78 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106848
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡村 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 研
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB13
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CC01
3J216CC14
3J216CC33
3J216CC42
3J216CC48
3J216CC70
3J216DA11
3J701AA12
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA51
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA73
3J701DA02
3J701DA05
3J701EA02
3J701FA60
3J701GA02
3J701XB03
3J701XB18
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】簡単な加工によって軸受の内部に異物が侵入するのを防止することができる軸受の異物侵入防止構造とその製造方法を提供する。
【解決手段】異物侵入防止構造12は、軸受3と後蓋9とが接触する接触部の摩耗によって発生する異物Sが、軸受3に侵入するのを防止する構造である。異物侵入防止構造12は、後蓋9の外周部に近い領域で軸受3と後蓋9とが接触する外側接触部9bと、後蓋9の内周部に近い領域で軸受3と後蓋9とが接触する内側接触部14とを備え、内側接触部14は外側接触部9bよりも接触面圧が高い。異物侵入防止構造12は、後蓋9の外周部に近い領域と後蓋9の内周部に近い領域との間で、異物Sを収集部13が収集する。内側接触部14は、外側接触部9bよりも高く形成されている。内側接触部14は、外側接触部9bよりも10μm以上30μm以下の範囲内で高く形成されている。内側接触部14は、後蓋9の表面に形成された硬質膜である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受と接触部材とが接触する接触部の摩耗によって発生する異物が、この軸受に侵入するのを防止する軸受の異物侵入防止構造であって、
前記接触部材の外周部に近い領域で、前記軸受とこの接触部材とが接触する外側接触部と、
前記接触部材の内周部に近い領域で、前記軸受とこの接触部材とが接触する内側接触部とを備え、
前記内側接触部は、前記外側接触部よりも接触面圧が高いこと、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受の異物侵入防止構造において、
前記接触部材の外周部に近い領域とこの接触部材の内周部に近い領域との間で、前記異物を収集する収集部を備えること、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の軸受の異物侵入防止構造において、
前記内側接触部は、前記外側接触部よりも高く形成されていること、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造において、
前記内側接触部は、前記外側接触部よりも10μm以上30μm以下の範囲内で高く形成されていること、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造において、
前記内側接触部は、前記接触部材の表面に形成された硬質膜であること、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造において、
前記接触部材は、前記軸受の内輪と接触する後蓋又は油切りであること、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造。
【請求項7】
軸受に異物が侵入するのを防止する軸受の異物侵入防止構造の製造方法であって、
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造の前記内側接触部を形成するために、前記接触部材に硬質膜を形成する硬質膜形成工程を含むこと、
を特徴とする軸受の異物侵入防止構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受と接触部材とが接触する接触部の摩耗によって発生する異物が、この軸受に侵入するのを防止する軸受の異物侵入防止構造とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車軸軸受装置(以下、従来技術1という)は、軸受の内輪の内径以上でこの内輪の内径の1.2倍以下の範囲に、軸受のつば部端面と後蓋との接触面を設け、この接触面の外方に環状溝を形成したり、内輪と後蓋との間に弾性シール材を挟み込んだりしている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、軸受の内輪のつば部端面と後蓋との接触面の摩耗によって発生するフレッチング摩耗粉を環状溝に閉じ込めたり、このフレッチング摩耗粉が軸受側に流出するのを弾性シール部材によって抑制したりしている。
【0003】
従来の鉄道車両用軸受装置(以下、従来技術2という)は、軸受の内輪と後蓋とが直接接触しないように、軸受の内輪と後蓋との間に環状スペーサを嵌合させている(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2では、軸受の内輪と後蓋との間に環状スペーサを挿入することによって、軸受の内輪と後蓋とが接触してフレッチング摩耗粉が発生するのを抑制している。
【0004】
従来の鉄道車両用軸受装置(以下、従来技術3という)は、軸受の内輪と後蓋又は油切りとが接触する接触面の接触面圧が最も高くなる領域に、フレッチング摩耗粉を収集する収集溝を設けている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3では、軸受の内輪と後蓋又は油切りとの接触面の摩耗によって発生するフレッチング摩耗粉を、環状の収集溝によってトラップして、この接触面に沿って外径方向にフレッチング摩耗粉が移動するのを収集溝によって阻止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1では、軸受の内輪と後蓋との間に弾性シール材を挿入しており、従来技術2では軸受の内輪と後蓋との間に環状スペーサを嵌合させている。このため、従来技術1,2では、車軸軸受を構成する部品点数が増え、誤組立の原因となりえる。また、従来技術1では、軸受のつば部端面と後蓋との接触面の外方に環状溝を形成しており、従来技術3では軸受の内輪と後蓋又は油切りとが接触する接触面の接触面圧が最も高くなる領域に収集溝を形成している。このため、従来技術1,3では、環状溝や収集溝の内径側で発生したフレッチング摩耗粉をトラップすることはできるが、外径側で発生したフレッチング摩耗粉をトラップすることができなかった。
【0009】
この発明の課題は、簡単な加工によって軸受の内部に異物が侵入するのを防止することができる軸受の異物侵入防止構造とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図4に示すように、軸受(3)と接触部材(9)とが接触する接触部の摩耗によって発生する異物(S)が、この軸受に侵入するのを防止する軸受の異物侵入防止構造であって、前記接触部材の外周部(9d)に近い領域で、前記軸受とこの接触部材とが接触する外側接触部(9b)と、前記接触部材の内周部(9c)に近い領域で、前記軸受とこの接触部材とが接触する内側接触部(14)とを備え、前記内側接触部は、前記外側接触部よりも接触面圧が高いことを特徴とする軸受の異物侵入防止構造(12)である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の軸受の異物侵入防止構造において、前記接触部材の外周部に近い領域とこの接触部材の内周部に近い領域との間で、前記異物を収集する収集部(13)を備えることを特徴とする軸受の異物侵入防止構造である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の軸受の異物侵入防止構造において、前記内側接触部は、前記外側接触部よりも高く形成されていることを特徴とする軸受の異物侵入防止構造である。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造において、前記内側接触部は、前記外側接触部よりも10μm以上30μm以下の範囲内で高く形成されていることを特徴とする軸受の異物侵入防止構造である。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造において、前記内側接触部は、前記接触部材の表面に形成された硬質膜であることを特徴とする軸受の異物侵入防止構造である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造において、
図1に示すように、前記接触部材は、前記軸受の内輪と接触する後蓋(9)又は油切り(8)であることを特徴とする軸受の異物侵入防止構造である。
【0016】
請求項7の発明は、軸受(3)に異物(S)が侵入するのを防止する軸受の異物侵入防止構造の製造方法であって、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の軸受の異物侵入防止構造(12)の前記内側接触部(14)を形成するために、前記接触部材(9)に硬質膜を形成する硬質膜形成工程(#120)を含むことを特徴とする軸受の異物侵入防止構造の製造方法(#100)である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、簡単な加工によって軸受の内部に異物が侵入するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造を備える軸受組立体を概略的に示す縦断面図である。
【
図2】この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造を備える後蓋の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のII-IIB線で切断した状態を示す断面図である。
【
図3】
図2(B)のIII部分を拡大して示す断面図である。
【
図4】この実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】この実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造の後蓋の端面の部分拡大図及び圧力分布を示す模式図であり、(A)は後蓋の端面の部分拡大図であり、(B)は後蓋の端面の圧力分布を示すグラフである。
【
図6】この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造の製造方法を説明するための工程図である。
【
図7】この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造を備える後蓋を反軸端側に圧入した状態を模式的に示す縦断面図であり、(A)は異物侵入防止構造が存在する場合の縦断面図であり、(B)は異物侵入防止構造が存在しない場合の縦断面図である。
【
図8】この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造を備える後蓋が圧入される車軸が撓んだ状態を模式的に示す縦断面図であり、(A)は異物侵入防止構造が存在する場合の縦断面図であり、(B)は異物侵入防止構造が存在しない場合の縦断面図である。
【
図9】従来例に係る後蓋(被膜0μm)の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
【
図10】実施例1に係る後蓋(被膜10μm)の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
【
図11】実施例2に係る後蓋(被膜20μm)の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
【
図12】実施例3に係る後蓋(被膜30μm)の有限要素解析による結果を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に示す車軸1は、中心軸Oを中心として回転する部材である。車軸1は、例えば、鉄道車両の左右一対の車輪がこの車軸1の両端部側に圧入され取り付けられており、この車輪と一体となって回転する。車軸1は、
図1に示すように、ジャーナル部1aと、ちりよけ座1bと、輪座1cと、中径部1dと、溝部1eなどを備えている。ジャーナル部1aは、軸受3によって支持される部分であり、鉄道車両の車体荷重を支持する。ジャーナル部1aは、このジャーナル部1aの外周面に軸受3の内輪3dの内周面が嵌め込まれている。ちりよけ座1bは、後蓋9が装着される部分である。ちりよけ座1bは、車軸1の反軸端側(車軸1の端部とは反対側(
図1に示す輪座1c側))に形成されており、ちりよけ座1bの外周面に後蓋9の内周面9cが圧入され嵌め込まれている。輪座1cは、車輪が装着される部分である。輪座1cは、車輪のボス穴の内周面が圧入され嵌め込まれており車軸1の所定の位置に車輪を固定する。中径部1dは、ジャーナル部1aと輪座1cとの間に形成された段部である。溝部1eは、車軸1の中心軸Oと平行にこの車軸1の端部に所定の深さ及び長さで形成された凹部である。
【0020】
軸受組立体2は、軸受3の主要構成部分を組み立てた部材である。軸受組立体2は、例えば、鉄道車両の軸箱に収容された状態で、台車の台車枠の所定の位置に保持されている。軸受組立体2は、
図1に示すように、軸受3と、軸端ナット4と、小蓋5と、緩み止めボルト6と、密封構造7などを備えている。軸受組立体2は、例えば、グリースなどの潤滑剤が内部に充填された状態で密封されている。
【0021】
軸受3は、車軸1を回転自在に支持する部材である。
図1に示す軸受3は、車軸1の両端部を回転自在に支持する転がり軸受である。軸受3は、外輪3cと内輪3dとの間で転がる転動体3aと、この転動体3aを等間隔に保持する保持器3bと、軸箱側に固定される外輪3cと、車軸1と一体となって回転する内輪3dと、この内輪3dの外側端部に一体に形成されてアキシアル荷重を受けるつば3eと、左右の内輪3d間に挿入されてこれらの隙間及び与圧を調整する間座3fと、後蓋9側の端面9aと対向し端面9aと接触する平坦な端面(接触面)3gと、端面3gの外周部に近い側で後蓋9側の外側接触部9bと接触する外側接触部3hと、端面3gの内周部に近い側で後蓋9側の内側接触部14と接触する内側接触部3iなどを備えている。
図1に示す軸受3は、転動体3aとして円すいころを2列配置した複列円すいころ軸受であり、車軸1のジャーナル部1aの外周面に嵌め合わされている。
図1に示す軸受3は、例えば、軸方向のアキシアル荷重を内輪3dのつばで受ける複列円すいころ軸受である。軸受3は、例えば、内輪3dがJIS G 4053 機械構造用合金鋼鋼材に規定されており、浸炭焼入れされたニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM420)である。
【0022】
軸端ナット4は、後蓋9との間に油切り8及び軸受3を挟み込むことによってこの軸受3を所定の位置に位置決めし固定する部材である。軸端ナット4は、外観が円環状の部材であり、車軸1の端部に形成された雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部が内周面に形成されており、この車軸1の端部に着脱自在に装着されている。軸端ナット4は、車軸1の雄ねじ部に締め付けることによって、軸受3、油切り8及び後蓋9に与圧を作用させる。軸端ナット4は、車軸1の長さ方向に押圧力(加圧力)を作用させることによって、軸受3の内輪3dの端面3gと後蓋9の端面9aとを密着させるとともに、軸受3の内輪3dの端面3gと油切り8の端面8aとを密着させる。
【0023】
小蓋5は、車軸1と嵌合する部材である。小蓋5は、外観が円環状の金属製の部材である。小蓋5は、内周部から突出して車軸1の溝部1eと嵌合する突起部5aを備えている。小蓋5は、車軸1の溝部1eに突起部5aを嵌合させることによって車軸1と一体となって回転する。
【0024】
緩み止めボルト6は、軸端ナット4の緩みを防止する部材である。緩み止めボルト6は、軸端ナット4の端面に所定の深さで形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を先端部に備えている。緩み止めボルト6は、小蓋5の貫通孔を貫通して軸端ナット4に着脱自在に装着されており、小蓋5の突起部5aを車軸1の溝部1eと嵌合させた状態で軸端ナット4と小蓋5とを一体化させて、軸端ナット4の回転を阻止する。
【0025】
密封構造7は、軸受組立体2を密封する構造である。密封構造7は、軸受組立体2の内部に軸受3を収容した状態でこの軸受組立体2の内部を密封し、軸受3内の潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止するとともに、軸受3内に外部から異物が侵入するのを防止する。密封構造7は、油切り(スリンガ(フリンガ))8と、後蓋9と、シールケース10A,10Bと、オイルシール11A,11Bと、異物侵入防止構造12などを備えている。密封構造7は、油切り8、後蓋9、シールケース10A,10B、オイルシール11A,11B及び異物侵入防止構造12などの各構成部材を組み合わせることによって、軸受3の内部から外部に潤滑剤が漏れ出すのを防止するとともに、軸受3の内部に外部から異物が侵入するのを防止する。
【0026】
油切り8は、軸受3の内部から軸端側に向かって潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止する部材である。油切り8は、外観が円筒状の金属製の部材である。油切り8は、端面8aと、内周面(内径面)8bと、外周面(外径面)8cなどを備えている。油切り8は、この油切り8の内周面8bが車軸1のジャーナル部1aの外周面に圧入されて車軸1と一体となって回転可能に嵌合しており、軸端ナット4と軸受3の内輪3dとの間に挟み込まれている。
【0027】
端面8aは、軸受3側の端面3gと対向する部分である。端面8aは、端面3gと同様に平坦に形成されており、内輪3d側の端面3gと接触する接触面である。内周面8bは、車軸1と嵌合する側の表面である。内周面8bは、車軸1のジャーナル部1aの外周面と嵌合する嵌合面である。外周面8cは、車軸1と嵌合する側とは反対側の表面である。外周面8cは、シールケース10Aの端部の内周面と非接触で対向する対向面8dと、オイルシール11Aの先端部(リップ)が摺動する摺動面8eとを備えている。
【0028】
図1~
図5に示す後蓋9は、軸受3の内部から反軸端側に向かって潤滑剤が外部に漏れ出すのを防止するする部材である。後蓋9は、外観が円筒状の金属製の部材である。後蓋9は、
図1及び
図3に示すように、この後蓋9の内周面9cが車軸1のちりよけ座1bの外周面に圧入されて、車軸1と一体となって回転可能に嵌合する回転体である。後蓋9は、車軸1の軸端側から圧入されたときに嵌合面9eと嵌合面9fとの間の段部が、車軸1のちりよけ座1bと中径部1dとの間の段部に引っ掛かることによって、車軸1の所定位置に位置決めされる。後蓋9は、
図1に示すように、油切り8との間に軸受3の内輪3dを挟み込むことによって、軸受3を車軸1の所定の位置に位置決めするとともに軸受3に与圧(押圧力)を作用させる。後蓋9は、
図1及び
図3に示すように、軸受3と接触する接触部材であり、軸受3の内輪3dと接触している。後蓋9は、
図1~
図5に示す端面9aと、
図4及び
図5に示す外側接触部9bと、
図1~
図5に示す内周面(内径面)9cと、外周面(外径面)9dなどを備えている。後蓋9は、例えば、内輪3dよりも低剛性(柔らかい)であり、焼きならしされた機械構造用炭素鋼(S45C)である。
【0029】
図1~
図5に示す端面9aは、軸受3の内輪3d側の端面3gと対向する表面である。端面9aは、
図3に示すように、内輪3d側の端面3gと同様に平坦に形成されており、内輪3dの端面3gと接触する接触面である。
図4及び
図5に示す外側接触部9bは、内輪3d側の外側接触部3hと接触する部分である。外側接触部9bは、
図4に示すように、端面9aの外周部に近い側で、軸受3の内輪3d側の外側接触部3hと接触する。外側接触部9bは、
図4及び
図5に示すように、後蓋9の外周部に近い領域で、軸受3と後蓋9とが接触する接触面である。
【0030】
図1~
図5に示す内周面9cは、車軸1と嵌合する側の表面である。内周面9cは、
図1及び
図3に示すように、ちりよけ座1bの軸端側の傾斜面と嵌合する嵌合面9eと、中径部1dの軸端側の円周面と嵌合する嵌合面9fと、車軸1のちりよけ座1bの軸端側の傾斜面との間に隙間を形成し車軸1とは嵌合しない非嵌合面9gとを備えている。
図1~
図5に示す外周面9dは、車軸1と嵌合する側とは反対側の表面である。外周面9dは、
図1及び
図3に示すシールケース10Bの端部の内周面と非接触で対向する対向面9hと、
図3に示すオイルシール11Bのリップ(先端部)11aが摺動する摺動面9iとを備えている。
【0031】
図1に示すシールケース10Aは、軸受3と油切り8との間から軸受3の内部の潤滑剤が軸端側に向かって外部に漏れ出すのを防止する部材である。シールケース10Bは、軸受3と後蓋9との間から軸受3の内部の潤滑剤が反軸端側に向かって外部に漏れ出すのを防止する部材である。シールケース10A,10Bは、外観が円筒状の金属製の薄肉部材である。シールケース10Aは、軸受3の外輪3cと油切り8との間に装着されている。シールケース10Aは、このシールケース10Aの一方の端部の外周面が外輪3cの内周面と密着し、このシールケース10Aの他方の端部の内周面が油切り8の対向面8dと隙間をあけて対向する。シールケース10Bは、軸受3の外輪3cと後蓋9との間に装着されている。シールケース10Bは、このシールケース10Bの一方の端部の外周面が外輪3cの内周面と密着し、このシールケース10Bの他方の端部の内周面が後蓋9の対向面9hと隙間をあけて対向する。
【0032】
オイルシール11Aは、油切り8とシールケース10Aとの間を密封する部材であり、オイルシール11Bは後蓋9とシールケース10Bとの間を密封する部材である。オイルシール11Aは、油切り8の外周面8cとシールケース10Aの内周面との間に挟み込まれており、オイルシール11Bは後蓋9の外周面9dとシールケース10Bの内周面との間に挟み込まれている。オイルシール11Bは、
図3に示すように、後蓋9の摺動面9iと摺動するリップ11aを備えており、オイルシール11Aも油切り8の摺動面8eと摺動するリップ11aと同一構造のリップを備えている。オイルシール11A,11Bは、軸受組立体2の内部から外部に潤滑剤が漏れ出すのを防止するとともに軸受組立体2の外部から内部に異物が侵入するのを防止する。
【0033】
図1~
図5に示す異物侵入防止構造12は、軸受3に異物Sが侵入するのを防止する構造である。異物侵入防止構造12は、軸受3と後蓋9とが接触する接触部の摩耗によって発生する異物Sが軸受3に侵入するのを防止する。異物侵入防止構造12は、
図2~
図5に示すように、収集部13と内側接触部14などを備えている。異物侵入防止構造12は、
図4に示すように、内輪3d側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14との間に発生する異物Sが軸受3内に侵入するのを防止する。ここで、異物Sは、例えば、車軸1に曲げモーメントが作用して車軸1の端部が撓み、内輪3d側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14とに繰り返し応力が発生したときに、内側接触部3i及び内側接触部14から発生する摩耗粉(フレッチング摩耗粉)である。
【0034】
図2~
図5に示す収集部13は、異物Sを収集する部分である。収集部13は、後蓋9の外周部に近い領域と後蓋9の内周部に近い領域との間で、異物Sを収集する。収集部13は、
図4に示すように、内輪3dの内側接触部3iと後蓋9の内側接触部14との摩耗によって発生する異物Sを収集する。収集部13は、
図4及び
図5に示すように、後蓋9の外側接触部9bと内側接触部14との間の後蓋9の端面9aに形成されている。収集部13は、
図5に示すように、後蓋9側の端面9aの接触面圧が比較的低くなる領域と、後蓋9側の端面9aの接触面圧が比較的高くなる領域との間に形成されている。収集部13は、
図2~
図4に示すように、異物Sを収集する切欠溝(凹部)であり、
図2(A)に示すように後蓋9の端面9aの円周方向に沿って形成されている環状溝である。収集部13は、
図4に示すように、後蓋9の外側接触部9bと内側接触部14との間に形成することによって、これらの間の微小空間内で発生する異物Sを捕集し、この微小空間内から軸受3内に異物Sが侵入するのを抑制する。
【0035】
収集部13は、
図2に示すように、後蓋9の中心軸(車軸1の中心軸O)を中心として、端面9aの円周方向に沿って内径φ
11及び外径φ
12で連続して形成されている。
図4に示す収集部13の深さDは、0.2mm未満であると異物Sを収集できなくなる問題があり、5.0mmを超えると後蓋9の端面9aの強度低下の問題があるため、0.2mm以上5.0mm以下に形成することが好ましい。収集部13は、
図4に示すように、この収集部13に異物Sを導く開口部13aと、後蓋9の端面9aに対して略直交する壁部13bと、後蓋9の端面9aに対して略直交し壁部13bと対向する壁部13cと、後蓋9の端面9aに対して略平行であり壁部13b,13cに対して略直交する底部13dと、壁部13b,13cと後蓋9の端面9aとが交わる部分に形成された丸み部13eと、壁部13b,13cと底部13dとが交わる部分に形成された丸み部13fなどを備えている。収集部13は、例えば、切削などの機械加工又は鋳造などの成型加工によって、後蓋9の端面9aに形成される。
【0036】
図2~
図5に示す内側接触部14は、軸受3側の内側接触部3iと接触する部分である。内側接触部14は、
図4に示すように、端面9aの内周部に近い側で、軸受3の内輪3d側の内側接触部3iと接触する。内側接触部14は、
図4及び
図5に示すように、収集部13よりも後蓋9の内周部に近い領域で、軸受3と後蓋9とが接触する接触面である。内側接触部14は、内輪3dの端面3gと接触する側のこの内側接触部14の表面が平坦面に形成されている。内側接触部14は、
図2(A)に示すように、後蓋9の中心軸(車軸1の中心軸O)を中心として、端面9aの円周方向に沿って内径φ
21及び外径φ
22で連続して形成されている。内側接触部14は、
図4及び
図5(A)に示すように、外側接触部9bよりも高く形成されている。内側接触部14は、
図3~
図5に示すように、後蓋9の端面9aから突出した突出部であり、
図2(A)に示すように後蓋9の端面9aの円周方向に沿って形成されている円環状の凸部である。内側接触部14は、
図5(B)に示すように、押圧力(加圧力)を作用させて内輪3dと後蓋9とを密着させたときに、外側接触部9bよりも接触面圧が高くなる。内側接触部14は、この内側接触部14と内輪3d側の内側接触部3iとの間の接触面圧が高くなると、
図4に示すように後蓋9側の端面9aを弾性変形させることによって、後蓋9側の外側接触部9bと内輪3d側の外側接触部9bとを低い接触面圧で接触させる。
【0037】
内側接触部14は、後蓋9の端面9aに形成され硬質膜である。内側接触部14は、後蓋9の端面9aを処理対象面として表面処理されて所定の厚さで形成される。内側接触部14は、例えば、硬さHV750以上のクロムめっき皮膜である硬質クロムめっきなどによって形成される。内側接触部14は、
図2~
図5に示すように、後蓋9の端面9aの内周部に近い側の領域に所定の厚さで形成されている。内側接触部14は、例えば、後蓋9の端面9aを数十ミクロン程度の硬質膜で被膜することによって形成されている。内側接触部14は、この内側接触部14の高さが10μm未満であるときには、後蓋9側の外側接触部9bと内輪3d側の外側接触部3hとの間の接触面圧が高くなり、これらの間の摩耗によって発生する異物Sが軸受3に侵入する可能性がある。一方、内側接触部14は、この内側接触部14の高さが30μmを超えるときには、後蓋9側の外側接触部9bと内輪3d側の外側接触部3hとの接触が困難になり、内側接触部14と内輪3d側の内側接触部3iとの間の摩耗によって発生する異物Sが、外側接触部9bと外側接触部3hとの間を通過して軸受3に侵入する可能性がある。このため、内側接触部14は、外側接触部9bよりも10μm以上30μm以下の範囲内で高く形成することが好ましく、外側接触部9bよりも10μm以上20μm以下の範囲内で高く形成することが特に好ましい。
【0038】
次に、この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造の製造方法を説明する。
図6に示す異物侵入防止構造の製造方法#100は、軸受3に異物Sが侵入するのを防止する軸受3の異物侵入防止構造12を製造する方法である。異物侵入防止構造の製造方法#100は、平面研削工程#110と硬質膜形成工程#120とを含む。平面研削工程#110は、後蓋9の端面9aを平面研削する工程である。平滑化加工工程#110では、平面研削盤の砥石を使用して後蓋9の端面9aを研削して平滑化し平坦面に形成する。
【0039】
硬質膜形成工程#120は、異物侵入防止構造12の内側接触部14を形成するために、後蓋9に硬質膜を形成する工程である。硬質膜形成工程では、外部電源を用いて後蓋9の端面9aに金属イオンの還元反応を生じさせて金属を析出させる電気めっき(電解めっき)のような表面処理方法によって、後蓋9の端面9aに硬質膜を形成することで内側接触部14を形成する。硬質膜形成工程では、例えば、膜厚10μm以上30μm以下の範囲内で、硬さHV750以上のクロムめっき皮膜である硬質クロムめっきを形成する。
【0040】
次に、この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造の作用について説明する。
図1に示す軸受組立体2を車軸1に組み立てるときに、例えば200kNの押圧力(加圧力)を作用させて軸受3の内輪3d及び後蓋9を車軸1に圧入して、内輪3dと後蓋9とを密着させる。
図7(A)(B)に示すように、後蓋9を車軸1に圧入すると後蓋9の反軸端側が変形して、後蓋9が反った状態で車軸1に後蓋9が装着される。
図7(B)に示すように、後蓋9に異物侵入防止構造12が存在しない場合には、後蓋9側の端面9aが軸受3側の端面3gと部分的に偏って接触し、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が高くなる。その結果、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとが強く接触して、これらの外側接触部3h,9bの摩耗によってフレッチング摩耗粉が発生し、外側接触部3hと外側接触部9bとの間からフレッチング摩耗粉が外部に侵出して軸受3に混入する場合がある。
【0041】
一方、
図7(A)に示すように、後蓋9に異物侵入防止構造12が存在する場合には、軸受3側の端面3gと後蓋9側の端面9aとの間に内側接触部14が挟み込まれるため、軸受3側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14とが強く密着する。このため、
図5(B)に示すように、軸受3側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14とが比較的強く接触し、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとが比較的弱く接触する。その結果、異物侵入防止構造12が存在しない場合に比べて、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が低くなる。このため、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの摩耗によるフレッチング摩耗粉の発生が抑制される。
【0042】
図8(A)(B)に示すように、車両が軌道上を走行して車軸1が回転するときに、車軸1に曲げモーメントMが作用すると車軸1の軸端側が撓む。
図8(B)に示すように、後蓋9に異物侵入防止構造12が存在しない場合には、
図7(B)に示すように後蓋9を車軸1に圧入すると、後蓋9の反軸端側が変形する。この状態で、
図8(B)に示すように、車軸1に曲げモーメントMが作用して車軸1が撓むと、後蓋9の外側接触部9bが下方に位置したときに、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧がより一層高くなる。その結果、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとに繰り返し応力が作用して、外側接触部3hと外側接触部9bとの摩耗によってフレッチング摩耗粉が発生する。
【0043】
一方、
図8(A)に示すように、後蓋9に異物侵入防止構造12が存在する場合には、
図7(A)に示すように後蓋9を車軸1に圧入したときに、異物侵入防止構造12が存在しない場合に比べて、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が低くなっている。この状態で、
図8(A)に示すように、車軸1に曲げモーメントMが作用して車軸1が撓むと、後蓋9の外側接触部9bが下方に位置したときに、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が上昇する。しかし、異物侵入防止構造12が存在する場合には、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が低い状態から高い状態に僅かに変化するだけである。このため、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧の過度な上昇が抑制されて、外側接触部3hと外側接触部9bとの摩耗によるフレッチング摩耗粉の発生が抑制される。
【0044】
また、
図8(A)に示すように、車軸1に曲げモーメントMが作用して車軸1が撓むと、後蓋9の外側接触部9bが上方に位置したときに、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が低下する。しかし、
図7(A)に示すように異物侵入防止構造12が存在する場合には、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧が高い状態から低い状態に僅かに変化するだけである。このため、軸受3側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間の接触面圧の過度な下降が抑制されて、外側接触部3hと外側接触部9bとの接触状態が維持され、これらの間からフレッチング摩耗粉が侵出するのが抑制される。
【0045】
図4に示す車軸1が回転すると、軸受3の内輪3d側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14との間でフレッチング摩耗が発生し、フレッチング摩耗粉のような異物Sが発生して、内輪3d及び後蓋9の外径側に向かって異物Sが移動する。このとき、内輪3d側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとで内輪3dと後蓋9とが僅かに接触しているため、これらの間を異物Sが通過して外部に侵出するのが抑制されて、外側接触部3h,9bと内側接触部3i,14との間の異物Sが収集部13に収集される。その結果、異物Sが軸受3内に混入するのが抑制される。
【0046】
この発明の実施形態に係る軸受の異物侵入防止構造とその製造方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、後蓋9の外周部に近い領域で、軸受3と後蓋9とが外側接触部3h,9bで接触し、後蓋9の内周部に近い領域で、軸受3と後蓋9とが内側接触部3i,14で接触し、内側接触部3i,14が外側接触部3h,9bよりも接触面圧が高い。このため、内側接触部14の接触力が外側接触部9bの接触力よりも大きくなり、外側接触部9bからフレッチング摩耗粉が発生するのを抑制することができる。また、後蓋9側の外側接触部9bと軸受3側の外側接触部3hとが僅かに接触するため、内側接触部14で発生したフレッチング摩耗粉のような異物Sが、外側接触部9bと外側接触部3hとの間から軸受3に侵入して、軸受3に混入するのを抑制することができる。
【0047】
(2) この実施形態では、後蓋9の外周部に近い領域と後蓋9の内周部に近い領域との間で、異物Sを収集部13が収集する。このため、内側接触部14から発生するフレッチング摩耗粉を、外側接触部9bと内側接触部14との間の収集部13によってトラップすることができる。例えば、内輪3dと後蓋9とが接触する接触部よりも内径側に環状溝のような収集部13を設けることによって、フレッチング摩耗粉を収集部13によってトラップすることができる。
【0048】
(3) この実施形態では、内側接触部14が外側接触部9bよりも高く形成されている。このため、加圧力を作用させて内輪3dと後蓋9とを密着させたときに、内輪3d側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14との接触面圧を高くすることによって、内輪3d側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの接触面圧を低下させることができる。その結果、内輪3d側の外側接触部3hと後蓋9側の外側接触部9bとの間でフレッチング摩耗粉が発生するのを抑制することができる。また、内輪3d側の内側接触部3iと後蓋9側の内側接触部14との間で発生するフレッチング摩耗粉については、収集部13によって捕集することができる。
【0049】
(4) この実施形態では、内側接触部14が外側接触部9bよりも10μm以上30μm以下の範囲内で高く形成されている。このため、後蓋9側の外側接触部9bと内輪3d側の外側接触部3hとの間の接触面圧が高くなるのを抑制することができ、これらの間から発生する異物Sが軸受3に侵入するのを防ぐことができる。また、後蓋9側の外側接触部9bと内輪3d側の外側接触部3hとが僅かに接触させた状態になるため、後蓋9側の内側接触部14と内輪3d側の内側接触部3iとの間から発生するフレッチング摩耗粉が、外側接触部9bと外側接触部3hとの間を通過して軸受3に侵入するのを抑制することができる。
【0050】
(5) この実施形態では、内側接触部14が後蓋9の表面に形成された硬質膜である。このため、収集部13よりも内径側の後蓋9の端面9aに被膜を施すことによって、内径側の接触力を外径側よりも高くすることができる。その結果、フレッチング摩耗を内径側で発生させ、フレッチング摩耗粉を収集部13によってトラップすることができる。また、皮膜処理によってフレッチング摩耗の発生自体も抑制することができる。
【0051】
(6) この実施形態では、後蓋9が軸受3の内輪3dと接触する。このため、後蓋9に簡単な加工を施すだけで、フレッチング摩耗粉の発生を抑制することができ、フレッチング摩耗粉が軸受3の内部に侵入するのを防止することができる。
【0052】
(7) この実施形態では、硬質膜形成工程において異物侵入防止構造12の内側接触部14を形成するために、後蓋9に硬質膜を形成する。このため、表面処理加工によって後蓋9に内側接触部14を任意の厚さで簡単に薄膜を形成することができる。
【実施例0053】
図9~
図12に示す従来例及び実施例1~3に係る後蓋を備える軸受組立体について有限要素解析を実施した。
図9~
図12は、
図2~
図5に示す後蓋9の内側接触部14の被膜の膜厚を0~30μmの範囲内で変化させたときの有限要素解析による結果を示すコンター図である。
図9に示す従来例は、後蓋9の内径側に被膜を形成しなかった場合(被膜0μm)の解析結果である。従来例1では、
図9に示すように、内輪3dの内径側と後蓋9の内径側とが接触しておらず、内輪3dの外径側と後蓋9の外径側でのみ接触しており、これらの間で接触面圧が高くなっている。このため、内輪3dの外径側と後蓋9の外径側とが接触する接触部で発生するフレッチング摩耗粉が、軸受3に混入するのを防止することができない。
【0054】
一方、
図10~
図12に示す実施例1~3は、
図2~
図5に示す実施形態に係る後蓋9に対応する。
図10に示す実施例1は、後蓋9の内径側に被膜10μmを形成した場合の解析結果である。実施例1では、
図10に示すように、内輪3dの外径側と後蓋9の外径側との接触面圧が高くなっているが、従来例に比べて内輪3dの内径側と後蓋9の内径側との接触面圧も高くなっている。このため、内輪3dの内径側と後蓋9の内径側とが接触する接触部で発生するフレッチング摩耗粉が、内輪3dの外径側と後蓋9の外径側との間を通過して、軸受3に混入するのを防止することができる。また、後蓋9の内径側と外径側との間でフレッチング摩耗粉を収集部13によって捕集することができる。なお、後蓋9に被膜10μm未満で形成した場合には、従来例と同様に内輪3dの外径側と後蓋9の外径側でのみ接触するため、フレッチング摩耗粉が軸受3に混入するのを防止することができない。
【0055】
図11に示す実施例2は、後蓋9の内径側に被膜20μmを形成した場合の解析結果である。実施例2では、
図11に示すように、実施例1に比べて内輪3dの内径側と後蓋9側の内径側との接触面圧が高くなり、実施例1に比べて内輪3dの外径側と後蓋9の外径側との接触面圧が低くなっている。このため、実施例1に比べてフレッチング摩耗粉が軸受3に混入するのをより一層防止することができる。
【0056】
図12に示す実施例3は、後蓋9の内径側に被膜30μmを形成した場合の解析結果である。実施例3では、
図12に示すように、実施例2に比べて内輪3dの内径側と後蓋9の内径側との接触面圧がさらに高くなり、実施例2に比べて内輪3dの外径側と後蓋9の外径側との接触面圧がさらに低くなっている。このため、内輪3dの内径側と後蓋9の内径側とが接触する接触部で発生するフレッチング摩耗粉が、内輪3dの外径側と後蓋9の外径側との間を通過して、軸受3に混入するのを防止することができる。なお、後蓋9に被膜30μmを超えて形成した場合には、内輪3dの内径側と後蓋9の内径側でのみ接触するため、内輪3dの外径側と後蓋9の外径側との間をフレッチング摩耗粉が通過して、軸受3に混入するのを防止することができない。以上より、10μm以上30μm以下の範囲内で被膜を形成する場合には、フレッチング摩耗の混入を防ぐことが確認され、10μm以上20μm以下の範囲内で被膜を形成する場合には、フレッチング摩耗の混入を最も効果的に防ぐことが確認された。
【0057】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、鉄道車両用車軸軸受の異物侵入防止構造12である場合を例に挙げて説明したが、鉄道車両の軸受3にこの発明を限定するものではない。例えば、発電所のタービンなどの回転軸を支持する軸受の異物侵入防止構造や、車軸1を駆動する主電動機の軸受の異物侵入防止構造についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、軸受3がころ軸受である場合について説明したが、軸受3が玉軸受である場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、軸受3が複列円すいころ軸受である場合を例に挙げて説明したが、複列円筒ころ軸受又は球面ころ軸受などについても、この発明を適用することができる。
【0058】
(2) この実施形態では、軸受3と接触する接触部材が後蓋9である場合を例に挙げて説明したが、この接触部材が油切り8である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、車軸1の端部の雄ねじ部と噛み合う軸端ナット4を備える軸受組立体2を例に挙げて説明したが、油切り8を抑える前蓋を車軸1の端部に固定ボルトによって固定する軸受組立体についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、後蓋9の外周部に近い領域と後蓋9の内周部に近い領域との間で、収集部13によって異物Sを収集する場合を例に挙げて説明したが、収集部13を省略してこれらの領域の間で異物Sを閉じ込める場合についても、この発明を適用することができる。
【0059】
(3) この実施形態では、後蓋9側のみに収集部13を形成する場合を例に挙げて説明したが、内輪3d側にのみ収集部13を形成する場合や、内輪3d側及び後蓋9側の双方に収集部13を形成する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、後蓋9側のみに内側接触部14を形成する場合を例に挙げて説明したが、内輪3d側のみに内側接触部14を形成する場合や、内輪3d側及び後蓋9側の双方に内側接触部14を形成する場合についても、この発明を適用することができる。同様に、隣り合う部材が接触する接触部の摩耗によって発生する異物Sが軸受3に侵入するのを、隣り合う部材の一方又は双方の部材の表面に形成された異物侵入防止構造12によって防止する場合についても、この発明を適用することができる。
【0060】
(4) この実施形態では、電気めっきによって後蓋9の端面9aに硬質膜を形成し内側接触部14を形成する場合を例に挙げて説明したが、真空めっき又は気相めっきなどの表面処理方法によって、後蓋9の端面9aに硬質膜を形成し内側接触部14を形成する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、空めっき又は気相めっきの場合には、目的とする物質の薄膜を後蓋9の端面9aに気相中で堆積する気相堆積法によって形成することができる。この場合には、目的とする物質の薄膜を気相内の化学反応によって物質の表面に堆積する化学気相成長(Chemical Vapor Deposition(CVD))、又は目的とする物質の薄膜を気相内の物理的手法によって物質の表面に堆積する物理気相成長(Physical Vapor Deposition(PDV))などの気相堆積法によって内側接触部14を形成することができる。また、この実施形態では、表面処理方法によって内側接触部14を形成する場合を例に挙げて説明したが、放電加工や機械加工によって内側接触部14を形成する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、内側接触部14を硬質クロムめっきによって形成する場合を例に挙げて説明したが、内側接触部14を硬質クロムめっきにこの発明を限定するものではない。例えば、ダイヤモンド、ダイヤモンド状炭素、チタン、ケイ素、クロム又はタングステンを含有する硬質膜によって内側接触部14を形成することもできる。また、ダイヤモンドのsp3結合とグラファイトのsp2結合の両者を炭素原子の骨格構造としたアモルファス炭素膜である高硬度、高耐摩耗性及び低摩擦係数のダイヤモンド状炭素(ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-Like Carbon(DLC)))の硬質膜によって内側接触部14を形成することもできる。さらに、チタン、ケイ素、クロム又はタングステンを含有する膜として、TiN,TiAlN,SiN,CrN,TiAlBN,W2N,WNなどの窒化物又はTiC,SiC,CrC,WCなどの炭化物、又はこれらを複合化した硬質膜などによって内側接触部14を形成することもできる。