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特開2023-51312腸管における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤、消化器又は呼吸器感染症の予防又は緩和剤、腸管バリア機能の増強剤、及び、病原体の増殖又は発育の抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051312
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】腸管における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤、消化器又は呼吸器感染症の予防又は緩和剤、腸管バリア機能の増強剤、及び、病原体の増殖又は発育の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20230404BHJP
   A61K 36/8998 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230404BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20230404BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K36/8998
A61P1/14
A61P31/00
A23L7/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161893
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 夏希
(72)【発明者】
【氏名】森川 琢海
(72)【発明者】
【氏名】高野 晃
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】神谷 智康
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD48
4B018MD61
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF06
4B018MF07
4B023LC09
4B023LE30
4B023LG05
4B023LP14
4B023LP20
4C088AB73
4C088AC05
4C088BA07
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA69
4C088ZB32
(57)【要約】
【課題】腸内に生息する酪酸菌や酢酸菌等の短鎖脂肪酸産生菌を効果的に増殖、安全に摂取できる成分を提供すること。
【解決手段】本発明は、大麦緑葉を有効成分として含有する、腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤を提供する。本発明は、腸内における短鎖脂肪酸産生菌を効果的に増殖して、呼吸器又は消化器感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能の増強剤、病原体の増殖又は発育の抑制に寄与する。また本発明の剤は腐敗産物産生菌の増殖抑制剤として使用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤。
【請求項2】
大麦緑葉を含有することを特徴とする、消化器又は呼吸器感染症の予防又は緩和剤。
【請求項3】
大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸管バリア機能の増強剤。
【請求項4】
大麦緑葉を含有することを特徴とする、病原体の増殖又は発育の抑制剤。
【請求項5】
大麦緑葉を含有することを特徴とする、腐敗産物産生菌の増殖抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤、消化器又は呼吸器感染症の予防又は緩和剤、腸管バリア機能の増強剤、及び、病原体の増殖又は発育の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酪酸や酢酸等の短鎖脂肪酸は、腸管内を酸性に保ち、腸の蠕動運動や腸管からの水の分泌を促進するほか、感染防御に寄与することが知られている。例えば酪酸は大腸粘膜上皮細胞にエネルギーを提供する非常に重要な栄養素であることが知られており、宿主の遺伝子発現、細胞分化、腸組織発生、免疫調節、酸化ストレス低下、及び下痢コントロールなど、腸内のみならず種々の機能を調節する細胞メディエーターである。
腸管は、摂取された食物を吸収する一方、病原細菌などの不要な物質を適切に排除する腸管バリア機能を備えている。腸管バリア機能はタイトジャンクション等の物理的バリア、腸内細菌などの環境バリア、抗菌ペプチドや免疫細胞等の生物的バリアが挙げられる。酪酸は大腸粘膜上皮の主要なエネルギー源として大腸の正常な機能を維持するのに重要であるほか、腸の粘膜上皮細胞の代謝を促して酸素を消費させ、大腸管内を嫌気状態に保つことで病原細菌の増殖を抑制すると考えられている。その他、酪酸は、タイトジャンクションを増強したり、制御性T細胞の分化を促進して腸管バリア機能の維持に寄与している。また腸管で産生された酢酸による大腸菌感染症の抑制効果も知られている(非特許文献1)。
近年、新型コロナウイルス等の感染拡大により、呼吸器や消化器の感染症の予防や改善に寄与する免疫機構として酪酸生成細菌(以下、「酪酸菌」ともいう。)等の短鎖脂肪酸産生菌に関する研究が活発化している。
酪酸菌は、健康な人間の腸内細菌叢に遍在し、食物繊維の嫌気性細菌発酵の最終産物として酪酸を生成する、酸化ストレスに非常に敏感なバクテリアである。酪酸菌の腸管での減少は、新型コロナウイルスへの感染や重篤化のリスクの増加に繋がると考えられている(非特許文献2~4)。酪酸は炎症に対する重要な保護分子であり、ウイルス感染等による腸内毒素症を軽減すると考えられている(非特許文献2)。また新型コロナウイルス患者の腸内細菌叢の組成には新型コロナウイルス依存性の変化が見られ、Roseburia 、Faecalibacterium 、Coprococcus等の酪酸菌が減少し、それによって新型コロナウイルス症状が悪化すると考えられている(非特許文献3)。また呼吸器感染症に罹患しているヒトは罹患していないヒトと比べて、主要な酪酸菌であるFaecalibacterium prausnitzii、Roseburia intestinalisが減少していることが知られている(非特許文献4)。酪酸は抗原特異的なCD8陽性T細胞を活性化し、抗ウイルス能の増強、死亡率の抑制、感染による症状の軽減が認められる(非特許文献5)。更に、鼻水やのどの痛みなどの症状が現れるウイルス性呼吸器感染症の発症リスクは、腸に酪酸菌が少ない方が、多いときより5倍高くなると言われている(非特許文献6、7)。
【0003】
更に、酪酸菌や酢酸菌等の短鎖脂肪酸産生菌の増殖は口腔免疫機能や分泌型免疫グロブリンAの増加に関係していることと考えられる(非特許文献8、9)。
【0004】
またインドール産生菌増殖を抑制することで腸内環境の改善、腸管バリア機能の増強などの利点があることが知られている。
【0005】
一方、大麦緑葉は、活性酸素除去作用などの様々な生理活性を有することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-321735号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本食品微生物学会雑誌、Jpn. J. Food Microbiol.,36(1) p32-35, 2019
【非特許文献2】" New Insights Into the Physiopathology of COVID-19: SARS-CoV-2-Associated Gastrointestinal Illness" Frontiers in Medicine 2021 vol.8 Published online 2021 Feb 18、 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2021.640073/full、2021年8月3日検索
【非特許文献3】“Analysis of the intestinal microbiota in COVID-19 patients and its correlation with the inflammatory factor IL-18. Med Microecol. (2020) Vol.5”,https://www.researchgate.net/publication/347130206_Analysis_of_the_intestinal_microbiota_in_COVID-19_patients_and_its_correlation_with_the_inflammatory_factor_IL-18/fulltext/5fddbd7e299bf1408822c631/Analysis-of-the-intestinal-microbiota-in-COVID-19-patients-and-its-correlation-with-the-inflammatory-factor-IL-18.pdf?origin=publication_detail, 2021年8月3日検索
【非特許文献4】Gastroenterology. 2020;159(3):944-955.
【非特許文献5】Immunity. 2018;48(5):992-1005.
【非特許文献6】介護ポストセブン、https://www.news-postseven.com/kaigo/79333、2021年8月3日検索
【非特許文献7】Blood. 2018;131(26):2978-2986.
【非特許文献8】Gut Microbial Metabolites Fuel Host Antibody Responses、Cell Host Microbe. 2016 Aug 10; 20(2): 202-214. Published online 2016 Jul 28、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4982788/ 、2021年9月19日検索
【非特許文献9】The Salivary IgA Flow Rate Is Increased by High Concentrations of Short-Chain Fatty Acids in the Cecum of Rats Ingesting Fructooligosaccharides、Nutrients 2016, 8(8), 500、Published: 17 August 2016 、https://www.mdpi.com/2072-6643/8/8/500、2021年9月19日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上より、感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能増強、病原体の増殖又は発育の抑制の観点から、腸内に生息する酪酸菌や酢酸菌である短鎖脂肪酸産生菌を効果的に増殖でき、安全に摂取できる成分が望まれている。
また、インドール等の腐敗産物産生菌の増殖を効果的に抑制でき、安全に摂取できる成分が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、大麦緑葉のもつ機能について研究する中で、大麦緑葉がヒト等の哺乳類の腸内においてRoseburia 、Faecalibacterium 、Coprococcusといった酪酸菌やParaprevotellaといった酢酸菌を効果的に増殖でき、ウイルス性呼吸器感染症等の感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能の増強、病原体の増殖又は発育の抑制に寄与しうることを見いだし、本発明を完成するに至った。また本発明者は、大麦緑葉がインドール産生菌であるAnaerotruncusの増殖を効果的に抑制でき、腸内の腐敗産物産生の減少につながることも見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤。
[2]短鎖脂肪酸産生菌が酪酸菌及び酢酸菌から選ばれる少なくとも一種を含む[1]に記載の剤。
[3]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における酪酸菌の増殖促進剤。
[4]酪酸菌が、Coprococcus属の細菌、Anaerostipes属の細菌、Roseburia属の細菌及びFaecalibacterium属の細菌から選ばれる少なくとも一種を含む[3]に記載の剤。
[5]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における酢酸菌の増殖促進剤。
[6]酢酸菌が、Paraprevotella属の細菌を含む[5]に記載の剤。
[7]大麦緑葉を含有することを特徴とする、消化器感染症の予防又は緩和剤。
[8]大麦緑葉を含有することを特徴とする、呼吸器感染症の予防又は緩和剤。
[9]大麦緑葉を含有することを特徴とする、ウイルス性呼吸器又は消化器感染症の予防又は緩和剤。
[10]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸管バリア機能の増強剤。
[11]大麦緑葉を含有することを特徴とする、病原体の増殖又は発育の抑制剤。
[12]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腐敗産物産生菌の増殖抑制剤。
[13]腐敗産物産生菌が、インドール産生菌を含む[12]に記載の剤。
[14]大麦緑葉を含有することを特徴とする、インドール産生菌の増殖抑制剤。
[15]インドール産生菌が、Anaerotruncus属の細菌を含む[14]に記載の剤。
[16]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖を助けるために用いる組成物。
[17]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における酪酸菌の増殖を助けるために用いる組成物。
[18]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸内における酢酸菌の増殖を助けるために用いる組成物。
[19]大麦緑葉を含有することを特徴とする、消化器感染症の予防又は緩和を助けるために用いる組成物。
[20]大麦緑葉を含有することを特徴とする、呼吸器感染症の予防又は緩和を助けるために用いる組成物。
[21]大麦緑葉を含有することを特徴とする、ウイルス性呼吸器又は消化器感染症の予防又は緩和を助けるために用いる組成物。
[22]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腸管バリア機能の増強を助けるために用いる組成物。
[23]大麦緑葉を含有することを特徴とする、病原体の増殖又は発育の抑制を助けるために用いる組成物。
[24]大麦緑葉を含有することを特徴とする、腐敗産物産生菌の増殖抑制を助けるために用いる組成物。
[25]大麦緑葉を含有することを特徴とする、インドール産生菌の増殖抑制を助けるために用いる組成物。
[26]大麦緑葉を含有し、腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[27]大麦緑葉を含有し、腸内における酪酸菌の増殖に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[28]大麦緑葉を含有し、腸内における酢酸菌の増殖に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[29]大麦緑葉を含有し、消化器感染症の予防又は緩和に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[30]大麦緑葉を含有し、呼吸器感染症の予防又は緩和に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[31]大麦緑葉を含有し、ウイルス性呼吸器又は消化器感染症の予防又は緩和に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[32]大麦緑葉を含有し、腸管バリア機能の増強に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[33]大麦緑葉を含有し、病原体の増殖又は発育の抑制に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[34]大麦緑葉を含有し、腐敗産物産生菌の増殖抑制に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[35]大麦緑葉を含有し、インドール産生菌の増殖抑制に役立つ旨の表示を付したことを特徴とする組成物。
[36]大麦若葉を含有し、「(大)腸内における短鎖脂肪酸産生菌を増殖させる」、「(大)腸内における短鎖脂肪酸産生菌増殖に役立つ」、「(大)腸内における短鎖脂肪酸産生菌増殖を助ける」、「腸内における酪酸菌を増殖させる」、「腸内における酪酸菌増殖に役立つ」、「腸内における酪酸菌増殖を助ける」、「(大)腸内における酪酸菌を増殖させる」、「(大)腸内における酪酸菌増殖に役立つ」、「(大)腸内における酪酸菌増殖を助ける」、「(大)腸内における酢酸菌を増殖させる」、「(大)腸内における酢酸菌増殖に役立つ」、「(大)腸内における酢酸菌増殖を助ける」、「短鎖脂肪酸産生菌により腸内環境を改善する」、「短鎖脂肪酸産生菌により腸内環境の改善に役立つ」、「短鎖脂肪酸産生菌により腸内環境の改善を助ける」、「正常な免疫機能を維持する」、「正常な免疫機能の維持に役立つ」、「正常な免疫機能の維持を助ける」、「正常な粘膜免疫機能を維持する」、「正常な粘膜免疫機能の維持に役立つ」、「正常な粘膜免疫機能の維持を助ける」、「正常な口腔免疫機能を維持する」、「正常な口腔免疫機能の維持に役立つ」、「正常な口腔免疫機能の維持を助ける」、「正常な口腔粘膜免疫機能を維持する」、「正常な口腔粘膜免疫機能の維持に役立つ」、「正常な口腔粘膜免疫機能の維持を助ける」、「腸管バリア機能の増強」、「腸管バリア機能の増強に役立つ」、「腸管バリア機能の増強を助ける」、「腸管バリア機能の維持」、「腸管バリア機能の維持に役立つ」、「腸管バリア機能の維持を助ける」、「腸のバリア機能の増強」、「腸のバリア機能の増強に役立つ」、「腸のバリア機能の増強を助ける」、「腸のバリア機能の維持」、「腸のバリア機能の維持に役立つ」、「腸のバリア機能の維持を助ける」、「身体のバリア機能の増強」、「身体のバリア機能の増強に役立つ」、「身体のバリア機能の増強を助ける」、「身体のバリア機能の維持」、「身体のバリア機能の維持に役立つ」、「身体のバリア機能の維持を助ける」、「呼吸器感染症の予防又は緩和」、「呼吸器感染症の予防又は緩和に役立つ」、「呼吸器感染症の予防又は緩和を助ける」、「消化器感染症の予防又は緩和」、「消化器感染症の予防又は緩和に役立つ」、「消化器感染症の予防又は緩和を助ける」、「ウイルス感染の予防又は緩和」、「ウイルス感染の予防又は緩和に役立つ」、「ウイルス感染の予防又は緩和を助ける」、「病原体感染の予防又は緩和」、「病原体感染の予防又は緩和に役立つ」、「病原体感染の予防又は緩和を助ける」、「病原体の増殖又は発育の抑制」、「病原体の増殖又は発育の抑制に役立つ」、「病原体の増殖又は発育の抑制を助ける」、「腐敗産物産生菌の増殖抑制」、「腐敗産物産生菌の増殖抑制に役立つ」及び「腐敗産物産生菌の増殖抑制を助ける」からなる群から選択される1以上の機能の表示を付したことを特徴とする組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腸内の酪酸菌や酢酸菌を効果的に増殖でき、ウイルス性呼吸器感染症等の呼吸器感染症、ウイルス性消化器感染症等の消化器感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能の増強、病原体の増殖又は発育の抑制を図ることができる。また本発明によれば、インドール産生菌の増殖を効果的に抑制でき、腸内の腐敗産物産生の減少につながる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の剤は、大麦緑葉を含有することを特徴とする。
本発明の剤は、腸内の酪酸産生菌(以下、「酪酸菌」ともいう。)や酢酸産生菌(以下、「酢酸菌」ともいう。)等の短鎖脂肪酸産生菌を効果的に増殖させることができ、日常的に継続して経口摂取することにより、ウイルス性呼吸器感染症等の呼吸器感染症やウイルス性消化器感染症等の消化器感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能の増強、病原体の増殖又は発育の抑制を図ることができる。
本発明において、腸内の酪酸菌増殖は、大腸管腔内における酪酸菌の増殖の促進であることが好ましく、腸内の酢酸菌増殖は、大腸管腔内における酪酸菌の増殖の促進であることが好ましい。
【0013】
本発明における呼吸器感染症の予防又は緩和とは、腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進に起因して、呼吸器感染症の症状が改善したり、症状が現れないことや現れてもごく軽いことを含む概念である。呼吸器感染症とは、感冒、上気道炎、気管支炎や肺炎などの下気道炎が挙げられるほか、それらに伴う鼻汁、鼻閉、のどの痛み、咳、関節痛、腹痛、全身の発熱、倦怠感、悪寒、下痢、吐き気、嘔吐などが挙げられる。
また呼吸器感染症としてはウイルス性のもの及び細菌性のものがあり、ウイルス性のものは、ウイルス感染に起因した上記各種症状が挙げられる。原因ウイルスとしてはコロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス等が知られている。細菌性のものとしては肺炎球菌による肺炎が知られている。
【0014】
本発明における消化器感染症の予防又は緩和とは、腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進に起因して、消化器感染症の症状が改善したり、症状が現れないことや現れてもごく軽いことを含む概念である。消化器感染症の例としては胃腸炎が挙げられ、症状としては、腹痛、下痢、嘔吐といった胃腸障害や発熱等が挙げられる。腸内の感染症の原因としては、サルモネラ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、赤痢菌、病原性大腸菌、カンピロバクター、ウェルシュ菌、セレウス菌、ノロウイルス(SRSV)、ロタウィルスが知られている。またコロナウイルスも下痢症状等の胃腸炎症状を起こすことが知られている。
【0015】
本発明における腸管バリア機能の増強とは、腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進に起因して、腸管における病原細菌や病原ウイルスを排除する機能が強化されることをいう。腸管バリア機能強化の例としては、例えば、酪酸菌の生成する酪酸により、大腸細胞にエネルギーを供給し、代謝を促進して、大腸上皮粘膜などの大腸機能を正常に保つほか、酪酸生成等を通じて病原細菌の増殖を抑制することや、酪酸菌の生成する酪酸により、タイトジャンクションを増強したり、制御性T細胞の分化を促進して腸管バリア機能の維持に寄与する等の機能が挙げられる。また酢酸菌の生成する酢酸により、大腸菌などの感染を防止する機能も挙げられる。
【0016】
本発明における病原体の増殖又は発育の抑制剤としては、腸内の酪酸菌や酢酸菌の増殖促進に起因して、病原体の増殖又は発育を抑制することが挙げられる。病原体としては、呼吸器においては、ウイルス性のものは、ウイルス感染に起因した上記各種症状が挙げられる。原因ウイルスとしてはコロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス等が知られている。細菌性のものとしては肺炎球菌などが挙げられる。また消化器においては、サルモネラ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、赤痢菌、病原性大腸菌、カンピロバクター、ウェルシュ菌、セレウス菌、ノロウイルス(SRSV)、ロタウィルス、コロナウイルス等が挙げられる。
【0017】
腐敗産物は、糞便の悪臭の原因と言われ、腸内環境の悪化を示す指標として知られている。腐敗産物としては、インドールやスカトール等が挙げられ、インドールであることが好ましい。インドール産生菌としては、Anaerotruncus属、Escherichia coliが知られている。
【0018】
(短鎖脂肪酸産生菌)
短鎖脂肪酸産生菌とは腸内で酪酸や酢酸などの短鎖脂肪酸を産生する細菌をいう。本発明において短鎖脂肪酸には乳酸は含まれない。短鎖脂肪酸産生菌のうち、酪酸菌は、酪酸を産生する細菌であり、具体的には、Coprococcus属の細菌、Marvinbryantia属の細菌、Anaerostipes属の細菌、Roseburia属の細菌、Faecalibacterium属の細菌等が挙げられる。また短鎖脂肪酸産生菌のうち、酢酸菌としては、Paraprevotella属の細菌などが挙げられる。
増殖対象である短鎖脂肪酸産生菌は酪酸菌又は酢酸菌であることが好ましく、とりわけ酪酸菌であることが、呼吸器や消化器の感染症の予防や改善に高い効果が期待される点や、腸管バリア機能の増強に高い効果が期待される点で好ましい。酪酸菌の場合、増殖対象となる酪酸菌がCoprococcus属の細菌、Anaerostipes属の細菌、Roseburia属の細菌及びFaecalibacterium属の細菌から選ばれる少なくとも一種を含むことが、本発明の剤によるヒトにおける酪酸菌増殖促進効果が高い点で好ましく、Roseburia属の細菌、Faecalibacterium属の細菌から選ばれる少なくとも一種を含むことが特に好ましい。また、Coprococcus属の細菌、Roseburia属の細菌及びFaecalibacterium属の細菌から選ばれる少なくとも一種を含むことは、新型コロナウイルス等のウイルス感染に起因した腸内細菌叢の変化を防止又は緩和し、呼吸器や消化器等における症状の改善や症状悪化の予防を図る点からも好ましい。
【0019】
(大麦緑葉)
本実施形態は、大麦緑葉を有効成分とする。大麦(Hordeum vulgare L.)は、中央アジア原産とされ、イネ科に属する一年生又は越年生草本であり、穂形により、二条大麦や六条大麦などに大別される。この大麦には、水溶性食物繊維である大麦β-グルカンや、不溶性食物繊維が豊富に含まれている。本発明の剤に用いられる大麦緑葉に用いる大麦品種としては、通常入手可能なものであれば特に限定されず、二条大麦や六条大麦などのいずれの品種の大麦緑葉を用いてもよい。また、緑葉と共に茎を含んでいてもよい。
【0020】
緑葉はいずれの収穫時期に収穫されたものであってもよく、特に限定されないが、例えば、成熟期前、すなわち、分けつ開始期から出穂開始前期に収穫されたものであることが好ましい。具体的には、品種の違いによっても異なるが、一般に、背丈が10cm以上、好ましくは10~90cm程度、特に好ましくは20~80cm程度、とりわけ30~70cm程度である大麦から、緑葉を収穫することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
緑葉は、収穫後、直ちに粉末化することが好ましい。粉末化までに時間を要する場合、緑葉の変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵することが好ましい。
【0022】
本発明に用いる大麦緑葉としては、大麦緑葉より得られる各種の加工物を用いることができる。例えば、大麦緑葉粉末を用いてもよく、大麦緑葉の発酵物を用いてもよいが、本発明の効果が特に優れる観点から、大麦緑葉粉末を用いることが特に好ましい。大麦緑葉粉末とは、大麦の緑葉を加工して乾燥粉末化したものを意味する。大麦緑葉粉末としては、例えば、緑葉を粉砕して乾燥粉末化したもの(緑葉の粉砕末)や緑葉の搾汁を乾燥粉末化したもの(緑葉の搾汁末)、緑葉の抽出物を乾燥粉末化したもの(緑葉のエキス末)等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の大麦緑葉粉末としては、本発明の効果が特に優れる観点から、大麦緑葉の粉砕末を用いることが特に好ましい。
【0023】
大麦緑葉の粉砕末としては、粉末化するに際して、粉砕処理に加えて、各種の処理に供したものを用いてもよい。そのような処理として、例えば、乾燥処理、ブランチング処理、殺菌処理、細片処理などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
例えば、乾燥処理及び粉砕処理を組み合わせることにより、緑葉を乾燥粉末化することができる。乾燥処理及び粉砕処理は同時に行ってもよく、又はいずれを先に行ってもよいが、乾燥処理を先に行った後に粉砕処理を行うことが好ましい。緑葉を乾燥粉末化するに際して、さらに必要に応じて、ブランチング処理、殺菌処理などの処理から選ばれる1種又は2種以上の処理を組み合わせて行ってもよい。また、粉砕処理を行う回数は特に限定されず、粗粉砕処理を行った後に、より細かく粉砕する微粉砕処理を行うなどのように、1回又は2回以上の処理として実施してもよい。
【0025】
ブランチング処理は緑葉の緑色を鮮やかに保つための処理であり、ブランチング処理の方法としては、熱水処理や蒸煮処理などが挙げられる。
【0026】
熱水処理としては、例えば、70~100℃、好ましくは80~100℃の熱水で、緑葉を60~240秒間、好ましくは90~180秒間処理する方法などが挙げられる。また、熱水処理に際して、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩や炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩を用いることが好ましく、炭酸水素の塩を熱水に溶解することにより、緑葉の緑色をより鮮やかにすることができる。
【0027】
蒸煮処理としては、常圧又は加圧下において、緑葉を水蒸気により蒸煮する処理と冷却する処理とを繰り返す間歇的蒸煮処理が好ましい。間歇的蒸煮処理において、水蒸気により蒸煮する処理は、例えば、20~40秒間、好ましくは30秒間行われる。蒸煮処理後の冷却処理は、直ちに行われることが好ましく、その方法は特に限定されないが、冷水への浸漬、冷蔵、冷風による冷却、温風による気化冷却、温風と冷風とを組み合わせた気化冷却などが用いられる。このうち温風と冷風とを組み合わせた気化冷却が好ましい。このような冷却処理は、緑葉の品温が、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下となるように行われる。また、ビタミン、ミネラル、葉緑素などの栄養成分に富んだ緑葉の粉末を製造するためには、間歇的蒸煮処理を2~5回繰り返すことが好ましい。
【0028】
殺菌処理は当業者に通常知られている殺菌処理であれば特に限定されないが、例えば、温度、圧力、電磁波、薬剤などを用いて物理的又は化学的に微生物を殺滅させる処理であるということができる。
【0029】
乾燥処理及び粉砕処理に追加してブランチング処理を行う場合、ブランチング処理は乾燥処理の前に行われることが好ましい。また、乾燥処理及び粉砕処理に追加して殺菌処理を行う場合、殺菌処理は、乾燥処理の後か、粉砕処理の前又は後に行われることが好ましい。
【0030】
乾燥処理は特に限定されないが、例えば、緑葉の水分含量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥する処理が挙げられる。乾燥処理は、例えば、熱風乾燥、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥などの当業者に公知の任意の方法により行われ得る。加熱による乾燥は、例えば、40℃~140℃、好ましくは80~130℃にて加温により緑葉が変色しない温度及び時間で行われ得る。乾燥処理としては凍結乾燥処理であってもよいが、本発明の効果が特に優れる観点から、加熱による乾燥処理の方が好ましい。
【0031】
大麦緑葉の搾汁末としては、例えば、緑葉の搾汁を低温濃縮して固形分を濃縮し、当該濃縮液を凍結乾燥又は噴霧乾燥することによって得たものを用いてもよい。
【0032】
短鎖脂肪酸産生菌増殖効果や腐敗産物産生菌増殖抑制効果を高めるため、大麦緑葉として大麦緑葉粉末を用いる場合には、とりわけ以下のいずれかの構成を有することが好ましい。
【0033】
本発明で用いる大麦緑葉粉末は、メディアン径が5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0034】
メディアン径は、粉体の粒度分布の累積50%となる粒径を意味し、具体的には、後述する実施例に記載があるとおり、レーザー回析散乱光式粒度分布測定装置であるセイシン企業社製のLMS-300又はLMS-350を用いて測定される粒度分布の累積50%(×50)の粒径である。
【0035】
また、本発明で用いる大麦緑葉は、本発明の効果をより享受できる点から、食物繊維を、10質量%以上含んでいることが好ましく、20質量%以上含んでいることがより好ましく、30質量%以上含んでいることがさらに好ましい。その上限は、例えば、80質量%であってもよい。ここでいう食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の合計量である。
食物繊維の量はプロスキー法で測定する。
【0036】
また、本発明で用いる大麦緑葉は、本発明の効果をより享受できる点から、不溶性食物繊維を、5質量%以上含んでいることが好ましく、10質量%以上含んでいることがより好ましく、20質量%以上含んでいることがさらに好ましい。その上限は、例えば、70質量%であってもよい。
不溶性食物繊維の量はプロスキー変法で測定する。
【0037】
食物繊維量や不溶性食物繊維量を上記範囲とするためには、大麦緑葉の製造方法において、搾汁や抽出を行わず、大麦緑葉を粉砕することによって大麦緑葉粉末を調整すればよい。
【0038】
(本発明の剤)
本発明の剤は、例えば、医薬品(医薬部外品を含む)や、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の所定機関より効能の表示が認められた機能性食品などのいわゆる健康食品等として用いることができる。
【0039】
本発明の腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖促進剤は、大麦緑葉を含有し、腸内における短鎖脂肪酸産生菌増殖、消化器感染症の予防又は緩和(改善)、呼吸器感染症の予防又は緩和(改善)、腸管バリア機能増強、病原体の増殖又は発育の抑制、腐敗産物産生菌増殖抑制のために用いられる点において、製品として他の製品と区別することができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、本発明に係る製品の本体、包装、説明書、宣伝物(広告媒体)のいずれかに、腸内における酪酸菌又は酢酸菌の増殖の機能を表示したものが本発明の範囲に含まれる。また、一般的な食品であっても、用途を示唆して製造販売されるものは本発明の範囲に含まれる。例えば、腸内における酪酸菌又は酢酸菌の増殖促進を示す論文等を機能性の科学的根拠とし、大麦緑葉又は大麦緑葉に由来する成分(食物繊維等)を機能性関与成分とする機能性表示食品であって、腸内における酪酸菌又は酢酸菌の増殖や酪酸菌又は酢酸菌の増殖に起因した効果を届出表示とする機能性表示食品も本発明の範囲に含まれる。腸内における酪酸菌又は酢酸菌の増殖促進を示す論文等を機能性の科学的根拠とし、大麦緑葉又は大麦緑葉に由来する成分(食物繊維等)を機能性関与成分とする機能性表示食品であって、呼吸器感染症や消化器感染症の予防又は緩和(改善)、腸管バリア機能増強、又は病原体の増殖又は発育の抑制、腐敗産物産生菌増殖抑制を届出表示とする機能性表示食品も本発明の範囲に含まれる。また、例えば、酪酸菌増殖を示す論文等を機能性の科学的根拠とし、大麦緑葉又は大麦緑葉に由来する成分を機能性関与成分とする機能性表示食品であって、免疫機能の維持及び/又は向上に関する機能性を届出表示とする機能性表示食品も本発明の範囲に含まれる。
【0040】
具体的に、いわゆる健康食品においては、「(大)腸内における短鎖脂肪酸産生菌を増殖させる」、「(大)腸内における短鎖脂肪酸産生菌増殖に役立つ」、「(大)腸内における短鎖脂肪酸産生菌増殖を助ける」、「腸内における酪酸菌を増殖させる」、「腸内における酪酸菌増殖に役立つ」、「腸内における酪酸菌増殖を助ける」、「(大)腸内における酪酸菌を増殖させる」、「(大)腸内における酪酸菌増殖に役立つ」、「(大)腸内における酪酸菌増殖を助ける」、「(大)腸内における酢酸菌を増殖させる」、「(大)腸内における酢酸菌増殖に役立つ」、「(大)腸内における酢酸菌増殖を助ける」、「短鎖脂肪酸産生菌により腸内環境を改善する」、「短鎖脂肪酸産生菌により腸内環境の改善に役立つ」、「短鎖脂肪酸産生菌により腸内環境の改善を助ける」、「正常な免疫機能を維持する」、「正常な免疫機能の維持に役立つ」、「正常な免疫機能の維持を助ける」、「正常な粘膜免疫機能を維持する」、「正常な粘膜免疫機能の維持に役立つ」、「正常な粘膜免疫機能の維持を助ける」、「正常な口腔免疫機能を維持する」、「正常な口腔免疫機能の維持に役立つ」、「正常な口腔免疫機能の維持を助ける」、「正常な口腔粘膜免疫機能を維持する」、「正常な口腔粘膜免疫機能の維持に役立つ」、「正常な口腔粘膜免疫機能の維持を助ける」、「腸管バリア機能の増強」、「腸管バリア機能の増強に役立つ」、「腸管バリア機能の増強を助ける」、「腸管バリア機能の維持」、「腸管バリア機能の維持に役立つ」、「腸管バリア機能の維持を助ける」、「腸のバリア機能の増強」、「腸のバリア機能の増強に役立つ」、「腸のバリア機能の増強を助ける」、「腸のバリア機能の維持」、「腸のバリア機能の維持に役立つ」、「腸のバリア機能の維持を助ける」、「身体のバリア機能の増強」、「身体のバリア機能の増強に役立つ」、「身体のバリア機能の増強を助ける」、「身体のバリア機能の維持」、「身体のバリア機能の維持に役立つ」、「身体のバリア機能の維持を助ける」、「呼吸器感染症の予防又は緩和」、「呼吸器感染症の予防又は緩和に役立つ」、「呼吸器感染症の予防又は緩和を助ける」、「消化器感染症の予防又は緩和」、「消化器感染症の予防又は緩和に役立つ」、「消化器感染症の予防又は緩和を助ける」、「ウイルス感染の予防又は緩和」、「ウイルス感染の予防又は緩和に役立つ」、「ウイルス感染の予防又は緩和を助ける」、「病原体感染の予防又は緩和」、「病原体感染の予防又は緩和に役立つ」、「病原体感染の予防又は緩和を助ける」、「病原体の増殖又は発育の抑制」、「病原体の増殖又は発育の抑制に役立つ」、「病原体の増殖又は発育の抑制を助ける」、「腐敗産物産生菌の増殖抑制」、「腐敗産物産生菌の増殖抑制に役立つ」、「腐敗産物産生菌の増殖抑制を助ける」、等を表示したものを例示することができる。
【0041】
本発明の剤の形態としては、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル錠状、スティック状等を挙げることができる。アイス、ゼリー、クッキー、ケーキ、チョコレート、ペットボトル飲料等の形態であってもよい。これらの中でも、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、丸状、チュアブル錠状の形態が好ましく、粉末状、顆粒状が特に好ましい。
【0042】
本発明の剤を錠状、丸状、チュアブル錠状とする場合、賦形剤、滑沢剤、流動化剤のいずれか1種以上を添加することが好ましい。これにより、成型性が高められ、製造された剤の保存安定性が向上する。特に、賦形剤及び滑沢剤を使用することで保存安定性をより高めることができる。
【0043】
本発明の剤における大麦緑葉の含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。例えば、本発明の剤中に、乾燥質量換算で、大麦緑葉を0.01~100質量%含有させることができ、0.1~100質量%含有させることが好ましく、1~100質量%含有させることがより好ましい。
【0044】
本発明の剤における大麦緑葉由来食物繊維の含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。例えば、本発明の剤中に、乾燥質量換算で、大麦緑葉由来食物繊維を0.01~80質量%含有させることができ、0.1~75質量%含有させることが好ましく、1~70質量%含有させることがより好ましい。
【0045】
本発明における大麦緑葉の摂取量としては特に制限はないが、その短鎖脂肪酸産生菌増殖促進効果をより効果的に享受できる点から、大麦緑葉の摂取量が、成人の1日当たり、0.25g以上となるように摂取することが好ましく、0.5g以上となるように摂取することがより好ましく、1.0g以上となるように摂取することがさらに好ましい。その上限は、例えば、30gであり、好ましくは20gであり、より好ましくは10gである。
【0046】
また、本発明における大麦緑葉由来食物繊維の摂取量としては特に制限はないが、その効果をより効果的に享受できる点から、大麦緑葉由来食物繊維の摂取量が、成人の1日当たり、0.125g以上となるように摂取することが好ましく、0.25g以上となるように摂取することがより好ましく、0.5g以上となるように摂取することがさらに好ましい。その上限は、例えば、15gであり、好ましくは10gであり、より好ましくは5gである。
【0047】
本発明の剤は、大麦緑葉や大麦緑葉由来食物繊維の1日の摂取量が上記摂取量となるように適宜設計すればよく、1回で上記摂取量を摂取する態様であってもよいし、複数回に分けて上記摂取量を摂取する態様であってもよい。すなわち、例えば、1つの容器に、又は2~4の複数の容器に分けて、1日分として収容することができる。
【0048】
本発明の剤は、ヒト等の哺乳類に適用されることが好ましく、とりわけヒト対象であることが好ましい。ヒトに適用されることにより、ヒトの腸内において、本発明の剤による、Roseburia 、Faecalibacterium、Coprococcus、Anaerostipesといった酪酸産生に有効な酪酸菌が特に効果的に増殖促進されるためである。またParaprevotellaといった酢酸菌を効果的に増殖できる。これらのことから、本発明では腸内における短鎖脂肪酸産生菌の増殖や低下の防止それらによる酪酸や酢酸の腸内での増加に起因して、消化器感染症や呼吸器感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能の増強、病原体の増殖又は発育の抑制に寄与しうる。また、本発明の剤は、ヒト等の哺乳類の腸内においてインドール産生菌であるAnaerotruncusの増殖を効果的に抑制でき、腸内の腐敗産物産生の減少につながる。
【0049】
本発明の剤は、必要に応じて、大麦緑葉以外の他の成分を添加して、公知の方法によって製造することができる。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。しかし本発明の範囲はかかる実施例に限定されない。以下、特に断らない場合「%」は質量%、「部」は質量部を表す。
【0051】
[大麦緑葉粉末の製造]
原料として、背丈が約30cmで刈り取った大麦の地上部(葉及び茎)を用いた。これを水洗いし、付着した泥などを除去し、5~10cm程度の大きさに切断する前処理を行った。前処理した茎及び葉を、90~100℃の熱湯で90秒間~120秒間、1回のみブランチング処理し、その後、冷水で冷却した。続いて、得られた茎及び葉を、水分量が5質量%以下となるまで、乾燥機中で、20分間~180分間、80℃~130℃の温風にて乾燥させた。乾燥した茎葉を約1mmの大きさに粗粉砕処理した。得られた大麦の茎及び葉をジェットミル粉砕機を用いて供給条件、吐出圧力を上記範囲内で調製して微粉砕処理し、水分量5質量%以下の大麦緑葉粉末(粉砕末)を製造した。
【0052】
(食物繊維量)
食品表示基準別添(栄養素等の分析方法等)に記載されているプロスキー法(酵素-重量法)で分析した。
【0053】
(臨床試験)
試験デザイン:プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較法
対象:健常成人男女(解析対象者55名(男性12名・女性43名)、20歳以上65歳未満)
試験方法:被験者を2群に分け、実施例1である被験食品及び比較例1である対照食品のいずれかを4週間摂取させ、摂取前及び摂取4週間後の糞便中の腸内細菌の占有率を測定した。
なお、整腸剤や便秘薬(下剤を含む)等の常用者や抗生物質を検査2週間以内に摂取したもの等、本試験に不適とみられるものは被験者から除外した。また試験期間中には乳酸菌・ビフィズス菌・納豆菌などの生菌類含有食品,オリゴ糖・食物繊維を強化した食品,便秘改善によいとされる健康食品類及び糖アルコール多量含有食品の摂取は控えてもらった。
実施例1である被験食品には、上記で製造した大麦緑葉粉末(食物繊維量47.1質量%、メディアン径約20μm)にマルトースを混合し、造粒した粉末飲料を使用した。比較例1である対照食品には,大麦緑葉粉末を含まず、マルトースに着色料と香料を用いて被験食品と外観を区別できないよう調製した粉末飲料を使用した。被験食品に含まれる大麦緑葉由来食物繊維は1日摂取目安量あたり0.7 g と算出された。
摂取方法:各被験者に試験食品を適量の水またはお湯に溶かして毎日、1日摂取目安量にて摂取させた。
回収した糞便はDNA抽出まで冷凍にて保管した。次いで、冷蔵条件にて粉砕した。粉砕した検体から、QuickGene-810 system及びQuickGene DNA tissue kit(KURABO)にてDNAを抽出した。
以下、イルミナ株式会社が提供する” 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation”に従った。
得られた細菌DNAを鋳型としてPCR(1回目)を行った。PCR領域は16S rDNAのV3及びV4とし、プライマー及びPCR条件は上記プロトコールを参照した。PCR後、成否を電気泳動で確認した。PCR増幅が確認できた検体を、NucleoFast 96 (TaKaRa)を用いて精製した。
上記プロトコールに準拠してPCR(2回目)を行った。PCR産物の総量は40 μLとした。プライマー及びPCR条件は上記プロトコールを参照した。PCR産物全量を用いて、SequalPrep Normalization Plate Kit(Life Technologies)を用いてPCR産物の精製を行った。
各PCR産物10 μLずつを1プレート毎に回収して(960 μL/plate)、1.5 mLマイクロチューブ内でよく混合し、2等分して(480 μL/tube)、各チューブにAMPure XP beads溶液(BECKMAN COULTER社)を900 μL加えてよく混合した。2分間静置後、マグネットスタンドを用いてDNAをバインドしたビーズを吸着させた。上清を廃棄後、80 質量%エタノールで2回洗浄後、50 μL/plateのTris bufferでDNAを溶出させた。KAPA Library Quantification Kits (日本ジェネティクス)を用いて最終的なDNA濃度確認を行った。
4nMに調製したサンプルに関しては,サンプル量に対し1/3量の0.4N NaOH水溶液を用いて室温で5分間静置し変性後,MiSeq Reagent Kit v3 600 Cycle(イルミナ)及びMiseqにて遺伝子配列の取得を行った。
取得した遺伝子情報の解析は,Linux(登録商標)環境下にてQiime(Quantitative Insights Into Microbial Ecology)を用いて行った。まず,Fast Length Adjustment of Short reads (FLASH)( http://www.cbcb.umd.edu/software/flash)によりペアエンドで取得された配列を,maximam mismatch ratio 0.4の条件で連結した。続いて,split_libraries_fastq.py (http://qiime.org/scripts/split_libraries.html)を用いて連結した配列のクオリティチェックを行った。その後,USEARCH (http://www.drive5.com/usearch/)を実行し,配列のクラスタリング及び菌株同定を行った。なお,相同性は97%以上とした。菌株同定のデータベースはGreengenes database 13_8(http://qiime.org/home_static/dataFiles.html)を利用した。
上記の解析結果を、属レベルでの菌占有率(%)として表した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示す通り、摂取前からの変化値において酪酸菌であるRoseburia,Faecalibacterium, Anaerostipes 、Coprococcus,酢酸菌であるParaprevotella で実施例1の被験食品群が比較例1の対照食品群と比較して高値を示した。またインドール産生菌であるAnaerotruncusで実施例1の被験食品群が比較例1の対照食品群と比較して低値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の剤は、ヒト等の哺乳類の腸内においてRoseburia 、Faecalibacterium 、Coprococcusといった酪酸菌やParaprevotellaといった酢酸菌を効果的に増殖でき、ウィルス性呼吸器又は消化器感染症等の呼吸器又は消化器感染症の予防又は緩和、腸管バリア機能の増強、病原体の増殖又は発育の抑制に寄与しうる。また、本発明の剤は、ヒト等の哺乳類の腸内においてインドール産生菌であるAnaerotruncusの増殖を効果的に抑制でき、腸内の腐敗産物産生の減少につながる。