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特開2023-51409ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051409
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/083 20060101AFI20230404BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20230404BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20230404BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20230404BHJP
【FI】
A61C13/083
A61K6/818
C04B35/488
A61C5/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162046
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 祐大
(72)【発明者】
【氏名】▲松▼本 篤志
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089BA05
4C089CA05
4C159GG04
4C159GG08
4C159GG13
4C159GG15
4C159RR11
4C159RR17
4C159SS01
4C159TT02
(57)【要約】
【課題】ジルコニア仮焼体を切削加工及び焼成をすることなく、簡便に焼成による変形の有無を評価できる方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも2つの層を有するジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程と、前記着色工程で着色されたジルコニア仮焼体の各層の色差を評価する工程と、を含む、ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。ある実施形態では、ジルコニア仮焼体は、ジルコニアブランクであることが好ましい。他の実施形態では、ジルコニア仮焼体が、歯科用補綴物の形状を有する加工体であることが好ましい。さらに、他の実施形態では、少なくとも2つの層が、異なるBET比表面積を有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの層を有するジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程と、
前記着色工程で着色されたジルコニア仮焼体の各層の色差を評価する工程と、を含む、
ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
【請求項2】
前記ジルコニア仮焼体が、ジルコニアブランクである、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
【請求項3】
前記ジルコニア仮焼体が、歯科用補綴物の形状を有する加工体である、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
【請求項4】
前記ジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程が、着色溶液への浸漬、又は着色溶液の塗布によって行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
【請求項5】
請求項2に記載の評価方法により評価されたジルコニアブランクを加工し、歯科用補綴物を作製する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の評価方法により評価したジルコニア仮焼体又はその加工体を焼成する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用製品(例えば、代表的な被覆冠、差し歯等の歯科用補綴物、歯列矯正用製品、歯科インプラント用製品)としては、金属がよく用いられていた。しかしながら、金属は天然歯と色が明確に異なり、審美性に欠けるという欠点を有すると共に、金属の溶出によるアレルギーを発症することもあった。そこで、金属の使用に伴う問題を解決するため、金属の代替材料として、酸化アルミニウム(アルミナ)又は酸化ジルコニウム(ジルコニア)等のセラミックス材料が歯科用製品に使用され始めている。特に、ジルコニアは、強度において優れ、審美性も比較的優れるため、特に近年の低価格化も相まって需要が高まっている。
【0003】
ジルコニアを用いて歯科用製品を作製するためには、理想的な焼結体が得られる温度より400℃から700℃程度低い温度で半焼結させたジルコニア仮焼体である被切削加工体から、CAD/CAM装置を用いて歯科用補綴物の形状を削り出し、削り出されたジルコニア加工体を最高焼成温度1400℃から1650℃で係留し、焼結させる。ジルコニア仮焼体である被切削加工体は、円盤形状等の形状を有し、ジルコニアブランクと称される。歯科用補綴物を天然歯の外観に近づける点から、複数の層を積層した多層構造を備えるジルコニアブランクも開発されている。
【0004】
現在、歯科業界で流通している多層構造を備えるジルコニアブランクは、各層の組成が異なっている。ジルコニアを焼成して焼結体にする場合、各層が焼成によって収縮する。ここで、複数の層の各層の組成が異なることに起因して、各層の焼成時の収縮率(以下、「焼成収縮率」ともいう。)が異なる場合があった。例えば、ジルコニアブランクにおけるエナメル層に相当する層と、歯の歯肉付近に相当するボディ層の焼成収縮率が異なることがあった。各層の焼成収縮率が大きく異なる場合、焼成時に変形又は割れが生じ、不均一で複雑な変形に起因して、歯科用製品の歯に対する適合性に大きな影響を与えて問題となっていた。また、ジルコニアブランクは外観が白一色であるため、各層の識別が困難な上、各層の収縮率の差があるか否か、目視だけでは判断することが難しい。そこで、焼成による変形を評価できる方法が求められていた。焼成による変形の評価方法としては、例えば、特許文献1、2に開示される方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、各層のイットリア量が異なる多層構造を備えるジルコニアブランクについて、焼成による変形の評価方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、多層構造を備えるジルコニアブランクについて、焼成による変形を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-163246号公報
【特許文献2】特開2020-75858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が検討したところ、特許文献1の評価方法では、仮焼体であるジルコニアブランクから6本ブリッジを切削加工し、焼成しなければならず、1つの試料ごとに両方の工程を行うため、多大な手間がかかるという課題あった。特に、4本以上の歯牙が連なった形状であるロングスパンブリッジでは、切削加工によって切り出す容量が大きくなり、焼成により変形した場合にブランクの損失が大きく、特許文献1の方法では、焼成による変形の評価に大きな容量を使用するため、手間がかかることに加えて、生産性も著しく低下していた。また、特許文献2の評価方法では、ジルコニアブランクから直方体形状の試料を切り出し、1500℃で2時間焼成しなければならない。そのため、特許文献1と同様に加工と焼成の工程で時間を要する上、評価にジルコニアブランクの一部を使用することから、ジルコニアブランクから取得できる歯科用補綴物の加工本数が低下し、生産性が低いという課題があった。
【0009】
本発明は、ジルコニア仮焼体を切削加工及び焼成をすることなく、簡便に焼成による変形の程度を評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するためにジルコニア仮焼体の着色の程度の差により焼成時の変形の程度に差が生じることに着目し、鋭意研究を重ねた結果、ジルコニア仮焼体を着色してジルコニア仮焼体の色差を評価することにより、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]少なくとも2つの層を有するジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程と、
前記着色工程で着色されたジルコニア仮焼体の各層の色差を評価する工程と、を含む、
ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
[2]前記ジルコニア仮焼体が、ジルコニアブランクである、[1]に記載のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
[3]前記ジルコニア仮焼体が、歯科用補綴物の形状を有する加工体である、[1]に記載のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
[4]前記ジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程が、着色溶液への浸漬、又は着色溶液の塗布によって行われる、[1]~[3]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法。
[5][2]に記載の評価方法により評価されたジルコニアブランクを加工し、歯科用補綴物を作製する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の評価方法により評価したジルコニア仮焼体又はその加工体を焼成する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジルコニア仮焼体を切削加工及び焼成をすることなく、簡便にジルコニアブランクの焼成による変形の程度を評価することができる。特に、口腔内での装着時に特に高度な適合性が求められるインプラント、ロングスパンブリッジ等の複数の補綴物が連なった形状の歯科用製品を作製する場合に、切削加工及び焼成をすることなく、焼成による変形を評価することができ、工業的生産性に優れ、工業的に有利である。また、本発明によれば、歯科技工所等で保有している複数種類のブランクを、加工する補綴物の形状(単冠、ロングスパンブリッジ等)に合わせて適切(効果的)に割り当てることができる。そのため、切削加工したが焼成変形によって使用できないというブランクの損失を大幅に改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法は少なくとも2つの層を有するジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程と、前記工程で着色されたジルコニア仮焼体の各層の色差を評価する工程と、を含む。本発明の評価方法は、少なくとも2つの層を有する多層構造を備えるジルコニア仮焼体を評価対象とする。「少なくとも2つの層」とは、組成が異なる領域を2つ以上有していればよく、組成が異なることに起因して特性が異なるものも含まれ、層間(組成が異なる2つの領域の間)に各層(組成が異なる2つの領域)の組成が混じり合った移行部を有していてもよい。ジルコニア仮焼体の層の数は、2層以上であれば特に限定されず、3層、4層、5層、6層であってもよく、7層以上であってもよい。
【0014】
変形の評価対象の「焼成」とは、1400℃から1650℃の範囲に含まれる温度を最高焼成温度とする焼成を意味する。
【0015】
ジルコニア仮焼体は、歯科用製品(例えば、歯科用補綴物等)の形状に加工した加工体であってもよく、加工前のブランクであってもよい。ジルコニア仮焼体は、ジルコニア仮焼体はジルコニア(ZrO2:酸化ジルコニウム)を主成分とし、ジルコニア粒子(粉末)が完全には焼結していない状態でブロック化したものを意味する。主成分とは、50質量%以上であればよい。本発明に係るジルコニア仮焼体におけるジルコニアの含有率は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。ジルコニア仮焼体の密度は2.7g/cm以上が好ましい。また、ジルコニア仮焼体の密度は4.0g/cm以下が好ましく、3.8g/cm以下がより好ましく、3.6g/cm以下がさらに好ましい。この密度範囲にあると成形加工を容易に行うことができる。仮焼体の密度は、例えば、(仮焼体の質量)/(仮焼体の体積)として算出することができる。
【0016】
また、ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、15~70MPaが好ましく、18~60MPaがより好ましく、20~50MPaがさらに好ましい。前記曲げ強さは、厚み5mm×幅10mm×長さ50mmの試験片を用い、試験片のサイズ以外はISO 6872:2015に準拠して測定することができる。該試験片の面及びC面(試験片の角を45°の角度で面取りした面)は、600番のサンドペーパーで長手方向に面仕上げする。該試験片は、最も広い面が鉛直方向(荷重方向)を向くように配置する。曲げ試験測定において、スパンは30mm、クロスヘッドスピードは0.5mm/分とする。
【0017】
ある好適な実施形態としては、ジルコニア仮焼体が、ジルコニアブランクである、ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法が挙げられる。ジルコニアブランクの形状は、ディスク形状であってもよく、ブロック形状であってもよい。また、「ブランク」とは、切断、カービング、又は切削加工することによって、歯科用製品(例えば、歯科用補綴物等)の形状を取得することが可能な材料のソリッドブロックのことをいう。言い換えると、「ブランク」とは、所望の歯科用製品の形状に加工する前の、所定の形状(例えば、ディスク形状、ブロック形状)を有する被加工体を意味する。
【0018】
ジルコニアブランクを評価対象とすることによって、切削加工及び焼成によってジルコニア焼結体を得る前に、歯科用製品(例えば、歯科用補綴物等)の形状への加工及び焼成後に変形が大きく、使用できないものを加工前に破棄することができ、不要な加工及び焼成を減らすことができる。また、歯科技工所等で、焼成による変形が小さいものはロングスパンブリッジ用、焼成による変形が大きいものは単冠用に割り当てることもできる。また、焼成による変形が生じるジルコニアブランクを検出できるという点から、ジルコニアブランクの製造における歩留まりを改善でき、工業的に有利である。
【0019】
少なくとも2つの層を有するジルコニア仮焼体において、少なくとも2つの層は、ジルコニア粉末の相転移を抑制可能な安定化剤(以下、「安定化剤」ともいう。)を含んでいてもよい。ある実施形態では、少なくとも2つの層は、安定化剤の含有率が異なる。安定化剤の含有率が異なるとは、層同士の安定化剤の含有率の差が、ジルコニアと安定化剤の合計mol数に対して、0.1mol%以上であってもよい。他の実施形態では、少なくとも2つの層は、安定化剤の種類が異なる。さらに他の実施形態では、安定化剤の種類及び含有率が異なる。別の他の実施形態では、少なくとも2つの層は、焼成後の焼結体の全光線透過率が異なるものであってもよい。焼成後の焼結体の全光線透過率が異なるとは、焼成後の焼結体の層同士の全光線透過率の差が0.1%以上であってもよい。焼成後の焼結体の各層において、全光線透過率は、特に限定されず、15%以上60%以下であってもよく、18%以上55%以下であってもよく、20%以上50%以下であってもよい。全光線透過率は、焼結体の厚さ1.0mmの試料において、JIS K 7361-1:1997に準拠してD65光源を用いて測定した値である。全光線透過率の測定方法は、厚さ1mmの試料を作製し、公知の測定装置(例えば、商品名「濁度計 NDH2000」(日本電色工業株式会社製)等)を用いて測定できる。また、他の実施形態では、少なくとも2つの層は、焼成後の焼結体の厚さ1.0mmの試料における波長600nmの全光線透過率(以下、「波長600nmの全光線透過率」ともいう。)が異なるものであってもよい。波長600nmの全光線透過率が異なるとは、焼成後の焼結体の層同士の前記波長600nmの全光線透過率の差が0.1%以上であってもよい。焼成後の焼結体の各層において、波長600nmの全光線透過率は、特に限定されず、15%以上60%以下であってもよく、18%以上55%以下であってもよく、20%以上50%以下であってもよい。波長600nmの全光線透過率は、厚さ1.0mmの焼結体の試料を用いて、公知の分光光度計(例えば、商品名「紫外可視分光光度計UV-3600i Plus」株式会社島津製作所製等)を用いて測定できる。さらに、別の他の実施形態では、少なくとも2つの層は、ジルコニア中の単斜晶系の割合fmが異なるものであってもよい。ジルコニア中の単斜晶系の割合fmが異なるとは、後記する数式(2)で算出される層同士のジルコニア中の単斜晶系の割合fmの差が、1%以上であってもよい。
【0020】
前記安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア(Y23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化ランタン(La23)、酸化エルビウム(Er23)、酸化プラセオジム(Pr611)、酸化サマリウム(Sm23)、酸化ユウロピウム(Eu23)及び酸化ツリウム(Tm23)等の酸化物が挙げられる。安定化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明のジルコニア仮焼体における安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。本発明のジルコニア仮焼体において、該安定化剤の含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計mol数に対して、0.1~18mol%が好ましく、1~15mol%がより好ましく、2~8mol%がさらに好ましい。
【0021】
ある実施形態においては、最終的に得られるジルコニア焼結体である歯科用補綴物の機械的強度及び透光性の観点から、ジルコニア仮焼体は、安定化剤としてイットリアを含むことが好ましい。イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対して、3.0mol%以上が好ましく、3.5mol%以上がより好ましく、3.8mol%以上がさらに好ましく、4.0mol%以上が特に好ましい。イットリアの含有率が3.0mol%以上の場合、ジルコニア焼結体の透光性を高めることができる。また、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対して、7.5mol%以下が好ましく、7.0mol%以下がより好ましく、6.5mol%以下がさらに好ましく、6.0mol%以下が特に好ましい。イットリアの含有率が7.5mol%以下の場合、最終的に得られるジルコニア焼結体である歯科用補綴物の機械的強度の低下を抑制できる。ジルコニア仮焼体における各層のイットリアの含有率は、層間の含有率が異なり、かつ各層が想定する天然歯の層(エナメル質、象牙質、歯髄等)に対応するように、前記した範囲内で適宜調整できる。
【0022】
本発明の方法で評価する対象(ブランク等)は、少なくとも2つの層のBET比表面積が異なっていてもよく、同じであってもよい。BET比表面積が異なる場合は、BET比表面積の違いにより、着色剤のブランク等への含浸の度合いが異なり、着色後の色差が生じる。BET比表面積が同じ場合は、BET比表面積が同じであることにより、着色剤のブランク等への含浸の度合いが同じであり、着色後の色差が生じない。BET比表面積の違いが大きくなるに従い、色差も大きくなり、変形の程度を予測することができる。BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準拠して測定できる。
【0023】
本発明のジルコニア仮焼体は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、バインダ、着色剤(顔料、及び複合顔料を含む)、蛍光剤、アルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2)、シリカ(SiO2)等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。本発明の方法で評価する対象(ブランク等)は、少なくとも2つの層の添加剤の種類が異なっていてもよく、添加剤の含有率が異なっていてもよい。
【0024】
前記バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル系バインダ、ワックス系バインダ(パラフィンワックス等)、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂、ステアリン酸等が挙げられる。
【0025】
前記顔料としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物(具体的には、NiO、Cr23等)が挙げられ、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物が好ましく、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物がより好ましい。また、本発明のジルコニア仮焼体は、酸化エルビウム(Er23)を含まないものであってもよい。前記複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O2、Fe(Fe,Cr)24、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)24・ZrSiO4、(Co,Zn)Al24等の複合酸化物が挙げられる。蛍光剤としては、例えば、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y23:Eu、YAG:Ce、ZnGa24:Zn、BaMgAl1017:Eu等が挙げられる。
【0026】
ジルコニア仮焼体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。ジルコニア仮焼体の製造方法としては、例えば、国際公開第2021/100876号に記載の方法を使用できる。ジルコニア仮焼体の製造方法としては、具体的には、ジルコニア組成物を成形して成形体とする成形工程、及び該成形工程で作製した成形体を、ジルコニア粒子が焼結に至らない温度で焼成(即ち仮焼)して作製する工程(仮焼工程)を含む製造方法が挙げられる。
【0027】
成形工程に用いるジルコニア組成物は、例えば、ジルコニア粉末を含み、さらに必要に応じてジルコニア粉末の相転移を抑制可能な安定化剤、を含むものであってもよい。好適な実施形態としては、ジルコニア組成物は、ジルコニア粉末と、ジルコニア粉末の相転移を抑制可能な安定化剤と、を含むものが挙げられる。
【0028】
ある実施形態では、成形工程に用いる前記安定化剤を含むジルコニア組成物において、安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていないものであってもよい。安定化剤の一部がジルコニアに固溶されていないことは、例えば、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンによって確認できる。ジルコニア組成物のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、ジルコニア組成物中においてジルコニアに固溶されていない安定化剤が存在していることになる。安定化剤の全量が固溶された場合には、基本的に、XRDパターンにおいて安定化剤に由来するピークは確認されない。ただし、安定化剤の結晶状態等の条件によっては、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合であっても、安定化剤がジルコニアに固溶されていないこともあり得る。ジルコニアの主たる結晶系が正方晶系及び/又は立方晶系であり、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合には、安定化剤の大部分(基本的に全部)はジルコニアに固溶しているものと考えられる。
【0029】
前記安定化剤を含むジルコニア組成物において、安定化剤がイットリアである場合、ジルコニア組成物におけるジルコニアに固溶されていないイットリア(以下、「未固溶イットリア」という)の存在率fyは、以下の数式(1)に基づいて算出することができる。
【0030】
【数1】
上記数式(1)において、Iy(111)は、CuKα線によるXRDパターンにおける2θ=29°付近のイットリアの(111)面のピーク強度を示す。Im(111)及びIm(11-1)は、ジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示す。It(111)は、ジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示す。Ic(111)は、ジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【0031】
前記安定化剤を含むジルコニア組成物において、安定化剤がイットリアである他のある実施形態では、未固溶イットリアの存在率fyは、0%より大きいと好ましく、1%以上であることがより好ましく、2%以上であることがさらに好ましく、3%以上であることがよりさらに好ましい。未固溶イットリアの存在率fyの好ましい上限は、ジルコニア組成物におけるイットリアの含有率に依存する。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計mol数に対して7.5mol%以下であるとき、短時間で通常の焼成と同じ透光性が得られる観点から、fyは15%以下とすることができる。例えば、イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計mol数に対して3.0mol%以上4.5mol%以下であるとき、fyは7%以下とすることができる。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計mol数に対して4.5mol%超6mol%以下であるとき、fyは10%以下とすることができる。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計mol数に対して6mol%超7.5mol%以下であるとき、fyは11%以下とすることができる。
【0032】
また、他のある実施形態では、前記安定化剤を含むジルコニア組成物において、ジルコニアの主たる結晶系は単斜晶系であることが好ましい。「主たる結晶系が単斜晶系である」とは、ジルコニア中のすべての結晶系(単斜晶系、正方晶系及び立方晶系)の総量に対して、CuKα線によるXRDピークに基づいて以下の数式(2)で算出される、ジルコニア中の単斜晶系の割合fmが55%以上の割合を占めるものを指す。なお、数式(2)における各記号の意味は数式(1)と同じである。本発明のジルコニア組成物において、ジルコニア中の単斜晶系の割合fmは55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることがよりさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましく、95%以上であることが最も好ましい。ジルコニア組成物における主たる結晶系は、変速温度の高温化及び焼成時間の短縮化に寄与できる。
【0033】
【数2】
【0034】
ジルコニア組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。ジルコニア組成物の製造方法としては、例えば、国際公開第2019/026811号に記載の方法、国際公開第2021/100876号に記載の方法を使用できる。ジルコニア組成物の製造方法としては、具体的には、ジルコニア粉末と安定化剤とを所定の割合で混合して混合物を作製する(混合工程)、及び該混合物を所望のジルコニア粒子の平均粒子径となるまで、さらに必要に応じて所望のジルコニア粉末のBET比表面積となるまで、粉砕する工程を含む製造方法が挙げられる。混合工程及び/又は粉砕工程後、ジルコニア組成物をスプレードライヤ等による噴霧乾燥で乾燥させて、ジルコニア組成物を顆粒形態に成形することもできる(乾燥工程)。
【0035】
粉砕工程後におけるジルコニア粒子の平均粒子径は、0.06μm以上0.45μm以下の範囲になることが好ましい。該平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定方法によって測定することができる。平均粒子径は、具体的には、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0036】
粉砕工程後におけるジルコニア粉末のBET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準拠して測定したとき、6.5m/g以上であることが好ましく、6.8m/g以上であることがより好ましく、7.0m/g以上であることがさらに好ましい。6.5m/g以上であることで、焼成後に焼結体が白濁することを防ぐことができる。また、当該BET比表面積は、30m/g以下であることが好ましく、25m/g以下であることがより好ましく、20m/g以下であることがさらに好ましい。30m/g以下であることで、焼成炉内の温度ムラの影響を受けにくくなる。
【0037】
ジルコニア組成物の成形方法は、例えば、プレス成形、射出成形、光造形法等の成形方法が挙げられる。また、多段階的な成形を行ってもよい。例えば、ジルコニア組成物をプレス成形した後に、さらにCIP処理を施したものでもよい。上述したバインダ、着色剤などの添加物は、各工程において適宜添加することができる。
【0038】
仮焼工程では、上記のようにして得られた成形体をジルコニア粒子が焼結に至らない温度で焼成する。例えば、焼成温度(仮焼温度)は700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましい。また、焼成温度は、1200℃以下であることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましく、1000℃以下であることがさらに好ましく、980℃以下であることがよりさらに好ましく、950℃以下であることが特に好ましい。焼成は大気下で行うことができる。仮焼工程を行うことにより、安定化剤の一部をジルコニアに固溶させたり、後の焼結工程において安定化剤を固溶させやすくしたり、ジルコニア焼結体の性状を改善したりすることができると考えられる。ある実施形態では、仮焼工程における焼成条件は、焼成後冷却したときのジルコニアの主たる結晶系が、上述のように正方晶系及び立方晶系とならない条件であることが好ましい。他の実施形態では、仮焼工程における焼成条件は、少なくとも一部の安定化剤がジルコニアに固溶しないような条件であることが好ましい。
【0039】
他の好適な実施形態としては、ジルコニア仮焼体が、歯科用補綴物の形状を有する加工体である、ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法が挙げられる。歯科用補綴物の形状を有する加工体は、ジルコニア仮焼体であるジルコニアブランクを切削加工することにより、作製できる。歯科用補綴物の形状を有する加工体は、例えば、市販のCAD/CAMシステムを用いて作製できる。歯科用補綴物としては、例えば、クラウン、ロングスパンブリッジ等が挙げられる。本発明の評価方法は、切削加工の有無に関係なく、焼成による変形を評価できるため、焼成によってジルコニア焼結体を得る前に、歯科用製品(例えば、歯科用補綴物等)の形状に加工したものを、評価対象とすることもできる。歯科用補綴物の形状に加工したジルコニア仮焼体を評価対象とすることによって、焼成後に変形が大きく、使用できないものを焼成前に破棄することができ、不要な焼成を減らすことができ、工業的に有利である。
【0040】
ジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程は、ジルコニア仮焼体を着色溶液に浸漬する、又は着色溶液をジルコニア仮焼体に塗布することによって行われる。
【0041】
ジルコニア仮焼体を着色する着色剤は、ジルコニア仮焼体の焼成により脱色する着色剤であってもよく、焼成により脱色しない着色剤であってもよい。焼成により脱色する着色剤の「脱色」は、着色剤とジルコニア仮焼体を700℃以上で焼成した場合に、着色前のジルコニア仮焼体と焼成後のジルコニア仮焼体の色差ΔEabを求め、ほぼ0(好ましくは、0.50未満)であることを意味する。色差ΔEabの測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。ジルコニア仮焼体が、歯科用補綴物の形状を有する加工体である実施形態では、着色剤は、焼成により脱色する着色剤が好適に使用される。
【0042】
焼成により脱色する着色剤としては、人体に対する安全性の点から、食用色素が好ましく、沸点が400℃以下であることがより好ましい。このような食用色素の具体例としては、黄色4号(タートラジン)、黄色5号(サンセットイエローFCF)、赤色2号(アマランス)、赤色102号(ニューコクシン)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、青色2号(インジゴカルミン)、緑色3号(ファストグリーンFCF)、赤色102号(ニューコクシン)等の芳香族基を2個以上含有し、発色団としてケチミド基又はアゾ基を有し、助色団としてスルホン基を含有する有機色素;アシッドレッド289、ブロモピロガロールレッド、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン6GP、ローダミン3GO、ローダミン123、エオシン、エオシンB、エオシンY、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート等のキサンテンを母核とする縮合芳香族基を含有する有機色素(キサンテン系色素);コチニール色素(カルミン酸色素)等が挙げられる。焼成により脱色する着色剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0043】
焼成により脱色しない着色剤としては、歯科用セラミックス材料の着色に使用される公知の着色剤を使用でき、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、Luxenジルコニアカラーリキッド(株式会社ジオメディ製)等が使用できる。焼成により脱色しない着色剤を使用する場合には、例えば、着色剤が評価対象(ディスク等)の内部まで染み込まないように評価対象(ディスク等)のごく表面のみに着色剤を含浸させることにより、着色評価後も着色剤の影響を受けずに評価対象(ディスク等)を補綴物の作製に使用することが可能である。
【0044】
ジルコニア仮焼体を着色溶液に浸漬する方法、及び着色溶液をジルコニア仮焼体に塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法が使用できる。これらの方法では、ジルコニア仮焼体を所望の色に着色できればよく、着色溶液の濃度、浸漬時間、塗布方法等は限定されない。
【0045】
ジルコニア仮焼体を着色剤で着色する着色工程によって得られた、評価対象となる着色後のジルコニア仮焼体(以下、「着色ジルコニア仮焼体」ともいう。)の色調は、特に限定されないが、焼成による変形の程度を色差から評価しやすい点から、L表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L色空間)によるLとしては、40.0~99.0であることが好ましく、55.0~95.0であることがより好ましく、70.0~93.0であることがさらに好ましい。aとしては、-50.0~70.0であることが好ましく、-30.0~50.0であることがより好ましく、-10.0~30.0であることがさらに好ましい。bとしては、-40.0~60.0であることが好ましく、-20.0~40.0であることがより好ましく、-15.0~35.0であることがさらに好ましい。L表色系による色調の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。L表色系による色調の測定方法には、公知の方法及び装置を使用できる。
【0046】
着色ジルコニア仮焼体(好適には、着色ジルコニアブランク)の各層の色差を評価する工程(以下、「色差の評価工程」ともいう。)は、色差を目視で判断することもできる。着色ジルコニア仮焼体の各層の色差が大きくなるほど歯列模型への適合性又は口腔内での装着時の適合性が低くなり、補綴物として実用的ではなくなる。ある実施形態としては、色差の評価工程が、各層の色差を目視で判断する、ジルコニア仮焼体の焼成による変形の評価方法(X-1)が挙げられる。
【0047】
他の実施形態(X-2)としては、着色ジルコニア仮焼体(好適には、着色ジルコニアブランク)の各層の色差ΔEabを、分光測色計(商品名「クリスタルアイ」)等の色差の測定装置を用いて測定する評価方法が挙げられる。分光測色計を用いた測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。着色ジルコニア仮焼体の各層の色差ΔEabが大きくなるほど歯列模型への適合性又は口腔内での装着時の適合性が低くなり、補綴物として実用的ではなくなる。また、実施形態(X-2)としては、例えば、以下の評価基準に基づいて各層の色差を評価する方法が挙げられる。
色差ΔEabが0.7以下の場合、4本以上(例えば、6本)の歯牙が連なった形状であるロングスパンブリッジに適用できる;
色差ΔEabが0.7超1.4未満の場合、3本ブリッジに適用できる;
色差ΔEabが1.4以上2.2未満の場合、単冠に適用できる;
色差ΔEabが2.2以上4.0未満の場合、単冠であっても使用を推奨し難い;
色差ΔEabが4.0以上の場合、ロングスパンブリッジ、3本ブリッジ、及び単冠のいずれにも適用できない。
なお、上記判断基準の「色差ΔEab」は、いずれか2層の最大値を意味する。すなわち、各層の中から、「色差ΔEab」として最大の値を与える2層の組み合わせを選択し、当該2層に基づいて計算して得られる値である。
【0048】
また、実施形態(X-2)において、同じ着色ジルコニア仮焼体(好適には、着色ジルコニアブランク)を評価対象とした場合においても、使用する着色剤の種類及び使用量、及び含浸時間等の条件に応じて、色差の評価基準を変更した変形例も本発明に含む。例えば、ある実施形態としては、実施形態(X-2)の前記評価基準の色差ΔEabについて、すべて上限値及び/又は下限値を0.1~5の範囲で増減させてもよく、0.5~3の範囲で増減させてもよい。このような変形例も使用できる理由は、色差ΔEab(いずれか2層の最大値)が大きくなるほど歯列模型への適合性又は口腔内での装着時の適合性が低くなるという傾向があることが見いだされたため、着色剤、含浸時間等の条件を変更した場合にも、複数の着色ジルコニア仮焼体(好適には、着色ジルコニアブランク)の色差ΔEabを測定することによって、前記傾向に応じて相対的に評価することができるためである。前記変形例は、評価対象の着色ジルコニア仮焼体のサンプル群の数等に応じて、歯列模型への適用性又は口腔内での装着時の適合性を相対的に評価及び選択するために、本発明の評価方法として使用できる。
【0049】
本発明の評価方法では、前記色差ΔEabを評価することによって、切削加工する前に、ジルコニア仮焼体において、焼成による変形の程度を判断できる。これによって、例えば、4本以上(例えば、6本)の歯牙が連なった形状であるロングスパンブリッジ等の歯科用補綴物の用途では、ジルコニアブランクから切削加工によって切り出す容量が大きいため、切削加工及び焼成する前に、ジルコニアブランクの状態で焼成後の変形が大きいものを簡便に検出することができ、工業的に有利である。
【0050】
従来技術では、焼成による変形を評価する際、加工体を用いることを前提とし、それを焼成して評価しており(特許文献1、2)、加工する前の被加工体であるジルコニアブランクの状態で、焼成後の変更を評価する着想が存在しなかった。そのため、例えば、ジルコニア仮焼体がジルコニアブランクである場合、ジルコニアブランクの色差は加工前の外観であるため、ジルコニアブランクの切削加工と加工体の焼成の2工程を経ないにもかかわらず、加工体の焼成後の変形について、色差によって焼成による変形を切削加工前に評価できるとは到底考えられなかった。
【0051】
他の実施形態としては、前記したいずれかの評価方法より評価されたジルコニアブランクを加工し、歯科用補綴物を作製する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法が挙げられる。歯科用補綴物は、特に限定されず、市販のCAD/CAMシステム(例えば、歯科用CAD/CAMマシンDWX-52D、DWX-52DCi(ローランドディー.ジー.株式会社製)などを含むカタナ(登録商標)CAD/CAMシステム等)を使用して作製できる。
【0052】
ジルコニア仮焼体又はその加工体を焼成する最高焼成温度としては、1400℃から1650℃が挙げられる。最高焼成温度は、1420℃以上が好ましく、1450℃以上がより好ましい。また、最高焼成温度は、1620℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。最高焼成温度での係留時間は、特に限定されず、10分~4時間であってもよく、15分~3時間であってもよく、30分~2.5時間であってもよい。焼成には、公知の焼成炉を使用できる。焼成に用いる焼成炉は大気炉であり、箱型炉、ルツボ炉、管状炉、炉底昇降炉、連続炉、ロータリーキルンでもよく、抵抗加熱炉、誘導加熱炉、直通電型電気炉、IH炉,高周波炉、マイクロ波炉を用いてもよく、発熱体に金属発熱体、炭化ケイ素、二ケイ化モリブデン、ランタンクロマ糸、モリブデン、カーボン、タングステン等が用いられ、SiCを発熱体サセプターとして用いてもよい。これらのいずれか2つ以上を組み合わせた焼成炉でもよい。市販の歯科技工用ポーセレン焼成炉としては、例えば、ノリタケ カタナ(登録商標)F-1N(SKメディカル電子株式会社製)等を使用できる。昇温速度、及び降温速度は、各焼成炉の使用条件に応じて適宜設定できる。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0054】
[ジルコニアブランクのBET比表面積の測定]
仮焼体であるジルコニアブランクのBET比表面積は、BET1点法(流動法)の窒素吸着により測定した。ジルコニア仮焼体を直径1mm程度の大きさになるように粉砕し、測定用試料を得た。測定装置にはガス吸着式比表面積測定装置(装置名:Macsorb(登録商標)1201、株式会社マウンテック製)を用いて、JIS Z 8830:2013に準じて測定した(n=1)。測定に先立ち、120℃で5分間加熱の脱気処理を行うことにより、粉末の測定用試料を前処理してから測定した。
【0055】
[ジルコニアブランクの着色]
[実施例1~7]
実施例1~7では着色溶液として食用赤色102号(共立食品株式会社製)を使用した。実施例1では、精製水中に、食用赤色102号を0.3質量%添加し、マグネットスターラーにて30分間混合し、着色溶液を作製した。次に、ブランク全体が浸るようにブランク1(下記表1に記載されるように3層の多層構造を備えるジルコニアブランク)を着色溶液に1秒間浸漬した後、30分間室内で乾燥させて、着色ジルコニアブランクを得た。
実施例2~7では、ブランク1に代えてそれぞれ、ブランク2~7(下記表1に記載されるように多層構造を備えるジルコニアブランク)を使用する以外は、実施例1と同様にして、着色ジルコニアブランクを得た。
【0056】
[色差の測定]
着色ジルコニアブランクの側面(各層を積層した積層方向の断面)にて、オリンパス株式会社製の分光測色計(商品名「クリスタルアイ」)を用いて、光源:7band LED光源、白背景にて、L表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L色空間)による色度を測定し、明度指数L、色座標a、bを用いて、着色ジルコニアブランクが有する複数の層について、L表色系における各層のL値を測定したのち、下記式(1)より各層間の色差ΔEabを算出した。結果を表1に示す。
ΔEab={(ΔL+(Δa+(Δb1/2 (1)
(式中、ΔLは2層間の明度指数Lの差を表し、Δa及びΔbは、それぞれ2層間の色座標a、bの差を表す。)
(なお、上記判断基準の「色差ΔEab」は、いずれか2層の最大値を意味する。すなわち、各層の中から、「色差ΔEab」として最大の値を与える2層の組み合わせを選択し、当該2層に基づいて計算して得られる値である。)
【0057】
<焼成による変形の程度の色差による評価基準>
得られた色差ΔEabの値により、以下の基準で評価ができる。
色差ΔEabが0.7以下の場合、ロングスパンブリッジに適用できる;
色差ΔEabが0.7超1.4未満の場合、3本ブリッジに適用できる;
色差ΔEabが1.4以上2.2未満の場合、単冠に適用できる;
色差ΔEabが2.2以上4.0未満の場合、単冠であっても使用を推奨し難い;
色差ΔEabが4.0以上の場合、ロングスパンブリッジ、3本ブリッジ、及び単冠のいずれにも適用できない。
【0058】
[焼成による変形の程度の確認]
次に、実施例1~7で得た各着色ジルコニアブランクから、ロングスパンブリッジ、3本ブリッジ、単冠の3種類をそれぞれ作製し、歯列模型にはめて、適合性を確認した。適合性の基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
<焼成による変形の程度の評価基準>
5:ロングスパンブリッジの使用に好ましい
4:3本ブリッジの使用に好ましい
3:単冠の使用に好ましい
2:適合性が低い
1:臨床使用が困難
【0059】
焼成による変形の程度の確認したところ、実施例1で評価した試料はロングスパンブリッジの使用に好ましく、実施例2及び7で評価した試料は3本ブリッジの使用に好ましく、実施例3及び6で評価した試料は単冠の使用に好ましいことが確認された。一方、実施例4で評価した試料は、適合性が低かった。「適合性が低い」とは、得られた切削加工体(歯科用補綴物)は適合調整や咬合調整をすれば使用可能であるものの、装着時に適合調整及び咬合調整に時間を要し、歯科医院での歯科医師への作業負担がかかり、歯科医院で前記調整を行う場合には患者にも長時間の負担(長時間に亘る診察台での着席等)がかかるため、推奨し難いものを意味する。実施例5で評価した試料は、臨床使用が困難であった。「臨床使用が困難」とは、口腔内での装着時に得られた切削加工体(歯科用補綴物)のがたつきが激しいために適合調整及び咬合調整を行ったとしても使用不可と判断するレベルのものを意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
上記のように、着色ジルコニアブランクの色差(いずれか2層の色差の最大値)が大きいほど、焼成による変形の程度が大きく、歯列模型への適合性が低くなることが確認された。すなわち、本発明の色差を基準とした評価方法により、ジルコニア仮焼体を切削加工及び焼成をすることなく、多くの種類のディスクから、より好ましい用途を選択することができ、効率的に歯科用補綴物を作製できることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の評価方法は、多層構造を備えるジルコニアブランク等に利用することができる。