(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051438
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230404BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230404BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20230404BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/485
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162105
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久男
(72)【発明者】
【氏名】脇谷 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】坂元 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】川口 昂彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 智也
(72)【発明者】
【氏名】平井 慈人
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072DD05
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ08
4G072JJ46
4G072LL11
4G072MM02
4G072MM26
4G072MM31
4G072MM36
4G072QQ09
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT01
4G072UU30
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB11
5H050CB29
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】大容量であり、かつ、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られるリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を提供する
【解決手段】シリコンの二次粒子と、シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部を覆うLi4Ti5-xMxO12(Mは、Zr及びSiの少なくとも1つを示し、xは、0≦x≦3.0を満足する)のコーティングとを有する、リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの二次粒子と、前記シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部を覆うLi4Ti5-xMxO12(Mは、Zr及びSiの少なくとも1つを示し、xは、0≦x≦3.0を満足する)のコーティングとを有する、リチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記シリコンの一次粒子径が、0.05μm~1.0μmである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記シリコンの二次粒子径が、0.5μm~10.0μmである、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項4】
前記シリコンに対する前記Li4Ti5-xMxO12の質量比率が、5質量%~30質量%である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項5】
集電体と、前記集電体上に設けられた請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料とを含む、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
正極と、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質とを備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法であって、
Li4Ti5-xMxO12前駆体を得る工程と、
凝集剤を含む溶媒にシリコン粉末を分散させて、シリコンの二次粒子を含むシリコン分散体を得る工程と、
前記Li4Ti5-xMxO12前駆体と、前記シリコン分散体とを混合して、分散体複合物を得る工程と、
前記分散体複合物に加熱処理を施す工程と
を含む、リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項8】
前記凝集剤が、カルボン酸エステル及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含む、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項9】
前記粉末中の前記シリコンの一次粒子径が、0.05μm~1.0μmである、請求項7又は請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン分散体中の前記シリコンの二次粒子径が、0.5μm~10.0μmである、請求項7~請求項9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末等のモバイル機器等の様々な用途で広く用いられている。そのようなリチウムイオン二次電池は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述のようなモバイル機器等の高性能化に伴い、より大容量であり、かつ、より高いサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池のニーズが高まっている。特許文献1等を始めとして、リチウムイオン二次電池に関する技術が従来から検討されているが、大容量化、及び高サイクル特性を達成するための技術が十分でないのが現状である。
【0005】
本開示は、このような状況を鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、容量密度が大きく、かつ、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られるリチウムイオン二次電池用負極材料を提供することである。
また、本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記リチウムイオン二次電池用負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極を提供することである。
また、本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記リチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することである。
また、本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> シリコンの二次粒子と、シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部を覆うLi4Ti5-xMxO12(Mは、Zr及びSiの少なくとも1つを示し、xは、0≦x≦3.0を満足する)のコーティングとを有する、リチウムイオン二次電池用負極材料。
<2> シリコンの一次粒子径が、0.05μm~1.0μmである、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
<3> シリコンの二次粒子径が、0.5μm~10.0μmである、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
<4> シリコンに対するLi4Ti5-xMxO12の質量比率が、5質量%~30質量%である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
<5> 集電体と、集電体上に設けられた<1>~<4>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料とを含む、リチウムイオン二次電池用負極。
<6> 正極と、<5>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質とを備える、リチウムイオン二次電池。
<7> <1>~<4>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法であって、
Li4Ti5-xMxO12前駆体を得る工程と、
凝集剤を含む溶媒にシリコン粉末を分散させて、シリコンの二次粒子を含むシリコン分散体を得る工程と、
Li4Ti5-xMxO12前駆体と、シリコン分散体とを混合して、分散体複合物を得る工程と、
分散体複合物に加熱処理を施す工程と
を含む、リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
<8> 凝集剤が、カルボン酸エステル及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含むである、<7>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
<9> 粉末中のシリコンの一次粒子径が、0.05μm~1.0μmである、<7>又は<8>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
<10> シリコン分散体中のシリコンの二次粒子径が、0.5μm~10.0μmである、<7>~<9>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、容量密度が大きく、かつ、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られるリチウムイオン二次電池用負極材料が提供される。
また、本開示の他の実施形態によれば、上記リチウムイオン二次電池用負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
また、本開示の他の実施形態によれば、上記リチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池が提供される。
また、本開示の他の実施形態によれば、上記リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、シリコンの一次粒子が凝集して形成した二次粒子の一例を示すSEM像である。
【
図2】
図2は、容量密度及びサイクル特性の評価結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法の詳細を説明する。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
<リチウムイオン二次電池用負極材料>
本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極材料は、シリコンの二次粒子と、シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部を覆うLi4Ti5-xMxO12(Mは、Zr及びSiの少なくとも1つを示し、xは、0≦x≦3.0を満足する)のコーティングとを有する。
「シリコンの二次粒子」は、一部が酸化されたシリコンの二次粒子であってもよい。
【0012】
リチウムイオン二次電池を大容量化するため、リチウムイオン二次電池用負極材料には、容量密度が高いことが求められる。容量密度が大きいほど、多くの電荷を蓄積することができる。
また、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高めるため、リチウムイオン二次電池用負極材料には、高サイクル特性が求められる。また、サイクル特性が高い程、多くの回数の充放電を繰り返すことができる。
【0013】
従来のリチウムイオン二次電池には、負極材料としてグラファイトがよく用いられている。しかし、グラファイトの容量密度は、リチウムと比較して容量密度が1/10程度と小さいため、大容量化を図るべく、グラファイトに代わる負極材料が求められている。
【0014】
グラファイトに代わる負極材料として、シリコンが挙げられる。シリコンはグラファイトの10倍以上の容量密度を有する(グラファイトの理論電気容量:372mAh/g、シリコンの理論電気容量:4200mAh/g)。しかし、シリコン中にリチウムイオンが挿入及び離脱する(すなわち、充放電)際の体積変化率が400%以上である。そのため、単にシリコンを負極材料として用いたとしても、充放電に伴う大きな体積変化により、シリコンへのクラックの発生、負極からのシリコンの剥離等の問題が生じ、サイクル特性の向上が難しいことがある。
また、シリコンは酸素、電解質等と反応して酸化反応を起こすことがあり、サイクル特性の向上が更に困難になることがある。
【0015】
他の負極材料として、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム)が挙げられる。Li4Ti5O12は体積変化が非常に小さく、サイクル特性(充放電特性)が良好であるが、容量密度が小さい(Li4Ti5O12の理論電気容量:175mAh/g)という問題がある。そのため、単にLi4Ti5O12を負極材料として用いたとしても、大容量化を達成することは難しい。
【0016】
更に、異なる負極材料を単に組み合わせて用いたとしても、容量密度及びサイクル特性の両方を高めることは、困難であることが多い。
【0017】
これに対し、本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極材料では、異なる負極材料として、シリコン及びLi4Ti5-xMxO12を用い、かつ、これらの負極材料の形態を制御することにより、容量密度及びサイクル特性の両方を高めることができる。具体的には、容量密度が高いシリコンを二次粒子の形態で用い、かつ、シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部を覆うコーティングとしてLi4Ti5-xMxO12を用いている。シリコンを二次粒子の形態とする(すなわち、多孔質化する)ことにより、充放電に伴う体積変化を抑制し、更に、体積変化が小さいLi4Ti5-xMxO12でシリコンの二次粒子をコーティングすることで、体積変化に起因するクラックの発生、剥離等を低減することができる。更に、Li4Ti5-xMxO12のコーティングにより、シリコンの酸化反応を抑制することができる。
以上のように、本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極材料は、シリコン及びLi4Ti5-xMxO12という2つの負極材料をその形態をも考慮して組み合わせた複合材料であり、容量密度及びサイクル特性の両方を高めることができる。
【0018】
Li4Ti5-xMxO12(以下、「LTO」と呼ぶことがある)のコーティングがシリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部を覆っていることは、例えば、SEM-EDS(分析型走査電子顕微鏡)を用いて、リチウムイオン二次電池用負極材料を観察することにより確認することができる。
【0019】
Li4Ti5-xMxO12において、Mは、Zr及びSiの少なくとも1つである。また、xは、0≦x≦3.0を満足する。大容量化及び高サイクル特性の観点から、xの上限は2.0であることが好ましく、0.1であることがより好ましい。また、大容量化及び高サイクル特性の観点から、xは小さい程好ましく、0であることが最も好ましい。
また、MがZr及びSiである場合、コーティング膜の緻密性とイオン伝導性等の観点から、ZrとSiとのモル比は、2:1~1:2であることが好ましく、1:1~2:3であることがより好ましい。
【0020】
シリコンの一次粒子径は特に限定されないが、大容量化及び高サイクル特性の観点から、0.05μm~1.0μmであることが好ましく、0.1μm~1.0μmであることがより好ましく、0.1μm~0.5μmであることが更に好ましく、0.1μm~0.3μmであることがより更に好ましい。
シリコンの一次粒子径の測定は、以下のようにして行う。
SEM(走査電子顕微鏡)を用いてシリコンの一次粒子を観察し、インターセプト法によりシリコンの一次粒子500個の粒子径を求める。得られた粒子径の平均をシリコンの一次粒子径とする。
【0021】
シリコンの二次粒子径は特に限定されないが、大容量化及び高サイクル特性の観点から、0.5μm~10.0であることが好ましく、1.0μm~5.0μmであることがより好ましく、1.0μm~3.0μmであることが更に好ましく、1.0μm~2.0μmであることがより更に好ましい。
シリコンの二次粒子径の測定は、以下のようにして行う。
SEMを用いてシリコンの二次粒子を観察し、インターセプト法によりシリコンの二次粒子500個の粒子径を求める。得られた粒子径の平均をシリコンの二次粒子径とする。
【0022】
シリコンに対するLi4Ti5-xMxO12の質量比率は、5質量%~30質量%であることが好ましく、5質量%~15質量%であることがより好ましく、5質量%~10質量%であることが更に好ましい。
詳細を後述するように、リチウムイオン二次電池用負極材料を作製する際、シリコン分散体と、Li4Ti5-xMxO12前駆体とを複合化するが、このときのシリコンの質量とLi4Ti5-xMxO12の質量(すなわち、仕込みの質量)から、上記質量比率を求めてよい。
【0023】
<リチウムイオン二次電池用負極>
リチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体上に設けられた本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極材料とを含む。
【0024】
集電体の材質及び形状については特に限定されず、集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、ポーラスメタル(発泡メタル)及びカーボンペーパーが挙げられる。集電体の形状としては、特に限定されず、例えば、箔状、穴開け箔状及びメッシュ状が挙げられる。
【0025】
リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、リチウムイオン二次電池用負極材料、有機結着剤、バインダー、溶剤又は水等の溶媒、及び必要により増粘剤、導電助剤、従来知られている炭素系負極材料等を混合した塗布液を調製し、この塗布液を集電体に付与(塗布)した後、溶剤又は水を乾燥し、加圧成形して負極材層を形成することにより得られる。一般に、有機結着剤及び溶媒等と混練して、シート状、ペレット状等の形状に成形される。塗布駅に含まれる上記材料としては、公知のものを用いることができる。
【0026】
<リチウムイオン二次電池>
本開示に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」と呼ぶことがある)と、電解質とを備える。
【0027】
正極材料は、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な化合物であればよく、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、及びマンガン酸リチウム(LiMnO2)が挙げられる。
【0028】
正極は、負極において上述したのと同様の方法で作製することができる。
【0029】
リチウムイオン二次電池に用いられる電解液は、特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、電解液として、有機溶剤に電解質を溶解させた溶液を用いることにより、非水系リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0030】
電解質としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiClF4、LiAsF6、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCl、LiI等が挙げられる。
【0031】
有機溶剤としては、電解質を溶解できればよく、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン及び2-メチルテトラヒドロフランが挙げられる。
【0032】
リチウムイオン二次電池は必要に応じてセパレータを更に備えていてもよい。
負極は、例えば、セパレータを介して正極を対向して配置し、電解質を含む電解液を注入することにより、リチウムイオン二次電池とすることができる。
【0033】
セパレータは、公知の各種セパレータを用いることができる。セパレータの具体例としては、紙製セパレータ、ポリプロピレン製セパレータ、ポリエチレン製セパレータ、ポリカーボネート製セパレータ、ガラス繊維製セパレータ等が挙げられる。
【0034】
リチウムイオン二次電池の製造方法としては、例えば、まず正極と負極の2つの電極を、セパレータを介して捲回する。得られたスパイラル状の捲回群を電池缶に挿入し、予め負極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池缶底に溶接する。得られた電池缶に電解液を注入し、更に予め正極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池の蓋に溶接し、蓋を絶縁性のガスケットを介して電池缶の上部に配置し、蓋と電池缶とが接した部分をかしめて密閉することによって電池を得る。
【0035】
リチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されず、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池等のリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0036】
以上に説明したリチウムイオン二次電池は、本開示に係るリチウムイオン二次電池の一例であり、リチウムイオン二次電池は、全固体リチウムイオン二次電池であってもよい。すなわち、本開示係るリチウムイオン二次電池用負極材料は、全固体リチウムイオン二次電池にも好適に用いることができる。
【0037】
<リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法>
本開示に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法は、
Li4Ti5-xMxO12前駆体を得る工程と、
凝集剤を含む溶媒にシリコン粉末を分散させて、シリコンの二次粒子を含むシリコン分散体を得る工程と、
Li4Ti5-xMxO12前駆体と、シリコン分散体とを混合して、分散体複合物を得る工程と、
分散体複合物に加熱処理を施す工程と
を含む。
以下、Li4Ti5-xMxO12前駆体を「LTO前駆体」と呼ぶことがある。
【0038】
[LTO前駆体を得る工程]
本工程では、Li4Ti5-xMxO12前駆体を得る。
【0039】
Li4Ti5-xMxO12前駆体を得る方法は特に限定されないが、例えば、Ti前駆体及びLi前駆体を別個に調製し、Ti前駆体と、Li前駆体とを混合及び反応することにより、LTO前駆体を得てよい。以下、具体的に説明する。
【0040】
(Ti前駆体の作製)
チタンアルコキシドをアルコールに加えて得られた混合物を還流する。
チタンアルコキシドとして、例えば、チタンテトラエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド等が挙げられる。
アルコールとして、例えば、1-ブタノール、イソブタノール、2-メトキシエタノール、2-アミノエタノール等が挙げられる。側鎖が小さなチタンアルコキシド(例えば、チタンテトラエトキシド)を用いる場合、更に炭素数が大きなアルコール中で還流することで側鎖の部分置換、すなわち、部分加水分解が容易となる。
還流温度は溶媒の種類によって決まるが、還流時間は特に限定されず、例えば、1時間~10時間還流を行ってよい。
【0041】
次いで、カルボン酸を還流後の溶液に加え、アルコキシドとのキレート化反応を行う。
カルボン酸に対するチタンアルコキシドのモル比率は、1であることが好ましい。
カルボン酸として、例えば、酢酸、ギ酸、オレイン酸、マレイン酸等が挙げられる。
還流温度は用いる溶媒により決定されるが、反応時間は、例えば、0.5時間~10時間であってよい。
【0042】
次いで、水とアルコールをキレート化反応後の溶液に加え、部分加水分解を行う。
水に対する、チタニウムアルコキシドのモル比は、0.5~1.0であることが好ましい。
アルコールとして、例えば、1-ブタノール、イソブタノール、2-メトキシエタノール、2-アミノエタノール等が挙げられる。
反応条件は特に限定されず、例えば、0℃~10℃の温度で、1時間~5時間であってよい。
【0043】
以上のようにして、チタンアルコキシドに化学修飾制御及び部分加水分解を施し、TiO6八面体からなる重合度の高いオリゴマーを生成することで、Ti前駆体が得られる。LTOの結晶構造に類似した酸素配位多面体をTi前駆体中で実現することができる。
【0044】
(Li前駆体の作製)
リチウムをアルコキシアルコールに加えて得られた混合物を還流する。
アルコキシアルコールとして、例えば、2-メトキシメタノール、2-エトキシエタノール、2-アミノエタノール等が挙げられる。
還流温度は用いる溶媒によって決定されるが、還流時間は、例えば、1時間~5時間であってよい。
以上のようにして、Li前駆体が得られる。
【0045】
(Ti前駆体とLi前駆体との反応)
Ti前駆体とLi前駆体とを混合して得られた混合物を撹拌する。
リチウム及びチタンのモル比は、例えば、4:5であってよいが、リチウムイオンのキレート化を促進する観点から、リチウムの物質量は、チタンの物質量に対して過剰であることが好ましく、例えば、4.8:5(リチウムが20%過剰)であってよい。
反応条件は特に限定されず、例えば、25℃~50℃の温度で、1時間~10時間撹拌を行ってよい。
【0046】
次いで、撹拌後の反応物を還流する。これにより、リチウムイオンのキレート化が進行し、LTO前駆体を得ることができる。
還流温度は用いる溶媒により決定され、還流時間は、例えば、0.5時間~5時間であってよい。
【0047】
[シリコン分散体を得る工程]
本工程では、凝集剤を含む溶媒にシリコン粉末を分散させて、シリコンの二次粒子を含むシリコン分散体を得る。
【0048】
シリコン粉末として、例えば、ボールミル法(0.5mmφZrO2ボール)で1時間粉砕したもの(例えば、一次粒子径:84nm)を用いてよい。
【0049】
シリコン粉末を、凝集剤を含むアルコール(溶媒)に加えて得られた混合物を撹拌する。
アルコールとして、例えば、1-ブタノール、イソブタノール、2-メトキシエタノール、2-アミノエタノール等が挙げられる。
凝集剤は、シリコン粉末の凝集、すなわち、シリコンの二次粒子の形成を制御する。凝集剤として、例えば、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル、シランカップリング剤等が挙げられる。
撹拌条件は特に限定されず、例えば、25℃~50℃の温度で、1時間~10時間撹拌を行ってよい。
【0050】
以上のようにして、シリコンを凝集させて二次粒子を形成し、シリコンの二次粒子を含むシリコン分散体を得ることができる。このようにして形成されたシリコンの二次粒子は、LTOの全てが内部に浸透することなく、二次粒子の表面の少なくとも一部にLTOのコーティングが形成されるように、多孔質構造が適切に制御されている。これにより、容量密度が高く、かつ、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材料を得ることができる。
【0051】
[分散体複合物を得る工程]
本工程では、LTO分散体とシリコン分散体とを混合して、分散体混合物を得る。
LTO前駆体とシリコン分散体との複合化比率は、所望のリチウムイオン二次電池用負極材料が得られるように適宜調整してよい。
【0052】
[分散体複合物を加熱する工程]
本工程では、分散体複合物に加熱処理を施す。ここでいう「加熱処理」は、分散体複合物の加熱、上記加熱後の乾燥、及び上記乾燥後の焼成を含む。
【0053】
分散体複合物の乾燥・加熱条件は特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を蒸発させながら分散体複合物を乾燥・加熱してよい。この加熱の過程で、シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部にLTOのコーティングが施される。また、ロータリーエバポレーターの回転により、転動造粒が行われる。
加熱温度は用いた溶媒の蒸発温度により決定されるが、例えば、80℃~120℃であってよく、加熱時間は、例えば、3時間~10時間であってよい。加熱は、温度を変化させて、数段階(例えば、2段階)で行ってもよい。
また、乾燥・加熱方法は噴霧乾燥法を用いてもよい。乾燥・加熱の過程で、LTOの結晶化が一部進行することもある。
【0054】
次いで、乾燥して得られた乾燥物を焼成する。これにより、LTOの結晶化が完結し、リチウムイオン二次電池用負極材料を得ることができる。
焼成条件は特に限定されず、例えば、500℃~800℃の温度で、例えば、1時間~10時間焼成してよい。
【0055】
凝集剤は、シリコンの一次粒子を好ましく粗凝集させる観点から、カルボン酸エステル及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0056】
上記粉末中のシリコンの一次粒子径は特に限定されないが、シリコンの二次粒子内の細孔径を制御して粗凝集させる観点から、0.05μm~1.0μmであることが好ましく、0.05μm~0.5μmであることがより好ましく、0.05μm~0.2μmであることが更に好ましい。
上記粉末中のシリコンの一次粒子径の測定は、以下のようにして行う。
シリコン粉末のXRD測定を行い、Scherrerの式からシリコンの結晶子径を算出する。Scherrerの式から得られた結晶子径をシリコンの一次粒子径とする。
【0057】
シリコン分散体中のシリコンの二次粒子径は特に限定されないが、大容量化及び高サイクル特性の観点から、0.5μm~10.0μmであることが好ましく、0.5μm~5.0μmであることがより好ましく、0.5μm~2.0μmであることが更に好ましく、0.5μm~1.0μmであることがより更に好ましい。
シリコン分散体中のシリコンの二次粒子径は、動的光散乱法、沈降法又は画像解析法により測定される。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。但し、本開示は、これらの実施例に限定されない。
【0059】
<実施例1>
以下のようにして、リチウムイオン二次電池用負極材料を作製した。
【0060】
[LTO前駆体を得る工程]
(Ti前駆体の調製)
チタンアルコキシド4.88gを1-ブタノール79gに加えて得られた混合物を、118℃で1時間還流した。
【0061】
次いで、酢酸1gを還流後の反応物に加え、室温で2時間撹拌した。
【0062】
次いで、水0.15gと1-ブタノール2gを撹拌後の反応物に加え、5℃の冷却装置中で反応物物を2時間撹拌した。以上のようにして、Ti前駆体を得た。
【0063】
(Li前駆体の作製)
リチウム0.131gを2-メトキシメタノール96.5gに加えて得られた混合物を125℃で5時間還流した。以上のようにして、Li前駆体を得た。
【0064】
(Ti前駆体とLi前駆体との反応)
Li前駆体をビュレットに入れ、Ti前駆体にゆっくりと滴下し、Ti前駆体とLi前駆体とを反応した。得られた反応物を、5℃の冷却装置中で12時間撹拌した。
Ti前駆体とLi前駆体とを反応する際、リチウム及びチタンのモル比が、4.8:5(リチウムが20%過剰)となるようにした。
【0065】
次いで、撹拌後の反応物を118℃で2時間還流した。以上のようにして、LTO前駆体を得た。
[シリコン分散体を得る工程]
遊星ミル(0.5mmφZrO2ボール)で1時間粉砕してシリコン粉末(一次粒子径:84nm)を得た。その際、遊星ミル用ポットに体積比1:1でZrO2ボールを充填し、回転速度は500rpmとした。また、シリコン粉末の酸化を抑制するため、遊星ミル用ポットにシリコン粉末を入れる際、グローブボックス中で行った。
シリコンの一次粒子径は、以下のようにして測定した。
シリコン粉末のXRD測定を行い、Scherrerの式からシリコンの結晶子径を算出した。得られた結晶子径をシリコンの一次粒子径とした。
【0066】
シリコン粉末1gを、酢酸ブチル0.01モルを含む1-ブタノール100mLに加えて混合物を得た。得られた混合物を12時間撹拌した。以上のようにして、シリコンの二次粒子を含むシリコン分散体を得た。
【0067】
大塚電子社製の粒径測定装置「ELS-800」を用いて、動的光散乱法により、シリコン分散体中のシリコンの二次粒子径を測定したところ、0.3μmであった。
【0068】
[分散体複合物を得る工程]
Si粉末1gに対してLTOが結晶化後に約15mgとなる割合を計算し、その割合でLTO前駆体溶液(溶媒として1-ブタノールを加えて0.017Mに調製)とシリコン分散体(82g)とを混合した。そして、LTO前駆体とシリコン分散体とを反応させて、分散体複合物を得た。
【0069】
[分散体混合物を加熱する工程]
例えば、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を蒸発させながら分散体混合物を加熱した。加熱は2段階で行い、1段階目では、120℃で2時間加熱し、2段階目では、140℃で2時間加熱した。
【0070】
次いで、加熱後の分散体混合物を大気中で乾燥した。加熱は2段階で行い、1段階目では、120℃で2時間加熱し、2段階目では、170℃で2時間加熱した。
【0071】
次いで、乾燥して得られた乾燥物を700℃で3時間焼成した。以上のようにして、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、「実施例1の負極材料」と呼ぶことがある)を得た。
【0072】
実施例1の負極材料について、日本電子社製のSEMを用いてSEM観察を行ったところ、
図1に示すように、シリコンの一次粒子が凝集して二次粒子が形成されていることが確認された。
また、実施例1の負極材料について、SEM-EDS測定を行ったところ、シリコンの二次粒子の表面の少なくとも一部をLTOのコーティングが覆っていることが確認された。
また、得られた負極材料のXRD測定結果からLTOのコーティングが、Li
4Ti
5O
12の組成を有することが確認された。
【0073】
実施例1の負極材料について、ブルカー社製のX線回折装置「D8」を用いてXRD測定を行ったところ、シリコン及びLTOに基づく回折が見られ、シリコンとLTOとの複合材料である負極材料の作製に成功していることが確認された。
【0074】
負極材料のシリコンの一次粒子径は、0.08μmであった。シリコンの一次粒子径の測定は、以下のようにして行った。
シリコンの一次粒子径は、XRD回折装置を用いてScherrerの式から算出した。
【0075】
負極材料のシリコンの二次粒子径は、0.5μmであった。シリコンの二次粒子径の測定は、以下のようにして行った。
SEMを用いてシリコンの二次粒子を観察し、インターセプト法によりシリコンの二次粒子500個の粒子径を求めた。得られた粒子径の平均をシリコンの二次粒子径とした。
【0076】
<比較例1>
比較例1のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、「比較例1の負極材料」と呼ぶことがある)として、多孔質シリコンを用いた。多孔質シリコンは、陽極酸化により作製した。
【0077】
<容量密度及びサイクル特性の評価>
実施例1及び比較例1の負極材料を用いて、以下の要領でハーフセルを作製した。
【0078】
得られた負極材料と、導電助剤であるケッチェンブラック(KB)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)バインダーを合わせて攪拌し、スラリーを調製した。スラリーを銅箔上に垂らし、アプリケーターを用いて均一に塗布し、これを3回行い均一な膜とした。この膜を120℃で8時間乾燥させて150μm厚の負極膜を作製した。
負極材料と14mmφに打ち抜いた金属リチウム箔との間にセパレータ(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1:1のマイクロポーラスフィルム)で挟み込んで積層し、電解液(1MのLiPF6溶液)を加えて密封することにより、ハーフセルを作製した。
【0079】
作製したハーフセルを用いて、25℃において、以下の要領で容量密度及びサイクル特性を測定した。上限電圧を3.0Vとして定電流値100μA(0.1C)で定電流充電を行った。その後、下限電圧0Vとして、100μAで定電流放電を行った。このサイクルを45回繰り返した。
【0080】
【0081】
図2に示すように、実施例1の負極材料を用いたハーフセルは、容量密度が高く、また、サイクル特性に優れていた。これに対して、比較例1の負極材料を用いたハーフセルは、実施例1と比較して、容量密度が低く、また、サイクル特性も劣っていた。