(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051540
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】フォルステライト粉体及びフォルステライト粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/20 20060101AFI20230404BHJP
C01B 33/22 20060101ALI20230404BHJP
B01J 2/16 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C04B35/20
C01B33/22
B01J2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162311
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】江川 鎮永
(72)【発明者】
【氏名】碇 和正
(72)【発明者】
【氏名】上山 俊彦
【テーマコード(参考)】
4G004
4G073
【Fターム(参考)】
4G004KA01
4G073BA10
4G073BA63
4G073BB34
4G073BB41
4G073BD21
4G073CC06
4G073FA30
4G073FB05
4G073FB13
4G073FC08
4G073FD01
4G073FD02
4G073FD21
4G073FD23
4G073FD25
4G073GA03
4G073GA11
4G073GA12
4G073GA40
4G073GB02
4G073UB11
(57)【要約】
【課題】粉塵が生じにくく、かつ、粉体移送に適したフォルステライト粉末を提供する。
【解決手段】フォルステライト粉体において、体積基準粒度分布の累積頻度が50%である粒子径D
50を20~50μmにし、さらに、各粒子の長軸径を短軸径で除して得られるアスペクト比を1.15以下とし、かつ、前記各粒子の平均円形度を0.85以上にする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積基準粒度分布の累積頻度が50%である粒子径D50が20~50μmであり、
それぞれの粒子の長軸径を短軸径で除して得られる平均アスペクト比が1.15以下であり、
前記粒子の平均円形度が0.85以上である、フォルステライト粉体。
【請求項2】
前記フォルステライト粉体に含まれるナトリウム含有量が1~300ppmである、請求項1に記載のフォルステライト粉体。
【請求項3】
前記フォルステライト粉体に含まれるナトリウム及びカリウムの合計含有量が1~350ppmである、請求項1に記載のフォルステライト粉体。
【請求項4】
マグネシウムを含有する化合物、ケイ素を含有する化合物、及び分散剤から原料スラリーを得る原料スラリー作製工程と、
前記原料スラリーを造粒乾燥して乾燥体を得る造粒乾燥工程と、
前記乾燥体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、
前記焼成体を解砕してフォルステライト粉体を得る解砕工程と、
を含み、
前記原料スラリー作製工程において用いる前記分散剤の吸着官能基はアニオン系であって、前記解砕工程後に得られるフォルステライト粉体の、体積基準粒度分布の累積頻度が50%である粒子径D50が20~50μm、それぞれの粒子の長軸径を短軸径で除して得られる平均アスペクト比が1.15以下、かつ、前記粒子の平均円形度が0.85以上となるよう前記原料スラリー作製工程を行う、フォルステライト粉体の製造方法。
【請求項5】
前記マグネシウムを含有する化合物のBET値が20m2/g以下である、請求項4に記載のフォルスライト粉体の製造方法。
【請求項6】
前記解砕工程後に得られるフォルステライト粉体に含まれるナトリウム含有量が1~300ppmとなるよう前記原料スラリー作製工程を行う、請求項4又は5に記載のフォルステライト粉体の製造方法。
【請求項7】
前記解砕工程後に得られるフォルステライト粉体に含まれるナトリウム及びカリウムの合計含有量が1~350ppmとなるよう前記原料スラリー作製工程を行う、請求項4又は5に記載のフォルステライト粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォルステライト粉体及びフォルステライト粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォルステライト粉体は電子デバイス部品などの用途で広く利用されている。近年のフォルステライト粒子は、その焼結性を高めるために、粒子径を小さくすることが求められている。例えば、特許文献1には、平均一次粒子径が0.05~0.15μmのフォルステライト粉体が開示されている。また、特許文献2には、体積基準での平均粒子径(D50)が0.1~10.0μmであるフォルステライト粉末を使用して、固体電解質材料の支持体に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-327470号公報
【特許文献2】特開2005-93241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に開示されるフォルステライト粉体の粒子径は10μm以下と小さいため、これら大きさのフォルステライト粉末を用いると粉塵が発生しうる。そのため、フォルステライト粉体を原材料に用いる電子デバイス部品などの製造設備において、粉塵を抑制するための設備対応が必要となる。本発明者らは、粉塵の発生を抑制するためには、輸送する際の粒子径が大きく、通常の輸送の際に型崩れのしにくい粉体であれば、フォルステライト粉体による粉塵発生を抑制することが可能になると考え、従来知られている粉末よりも大きい、粒子径20~50μmのフォルステライト粉体を製造することを検討した。
【0005】
ところで、フォルステライト粉体を工業的に製造、消費するためには、少なくともフォルステライト粉体を装置から別の反応装置等に供給する工程が発生する。さらに、生産した粉末は輸送用の容器に供給して出荷する必要がある。こうした容器への供給の際には、例えば樋などを用いて行うことになる。樋を用いて移送するには、粉末として立方体や直方体であるよりは、球状の粉体である必要がある。上記粒子径のフォルステライト粉体の製造を本発明者らが試みたところ、フォルステライト粉体の角張りが比較的大きくなり、フォルステライト粉体の移送に支障が生じうることを新たな課題として認識した。
【0006】
そこで本発明は、上述した粉塵が生じにくく、かつ、粉体移送に適したフォルステライト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討し、フォルステライト粉体の粒子径、アスペクト比及び円形度の粒子条件を適正化することにより、上記課題を解決できることを知見した。また、本発明者らは、原料スラリー作製工程において適切な分散剤を選択しつつ、その後、原料スラリーを造粒乾燥することでこのフォルステライト粉体を製造できることを知見した。上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
[1]体積基準粒度分布の累積頻度が50%である粒子径D50が20~50μmであり、
それぞれの粒子の長軸径を短軸径で除して得られる平均アスペクト比が1.15以下であり、
前記粒子の平均円形度が0.85以上である、フォルステライト粉体。
【0009】
[2]前記フォルステライト粉体に含まれるナトリウム含有量が1~300ppmである、上記[1]に記載のフォルステライト粉体。
【0010】
[3]前記フォルステライト粉体に含まれるナトリウム及びカリウムの合計含有量が1~350ppmである、上記[1]に記載のフォルステライト粉体。
【0011】
[4]マグネシウムを含有する化合物、ケイ素を含有する化合物及び分散剤から原料スラリーを得る原料スラリー作製工程と、
前記原料スラリーを造粒乾燥して乾燥体を得る造粒乾燥工程と、
前記乾燥体を焼成して焼成体を得る焼成工程と、
前記焼成体を解砕してフォルステライト粉体を得る解砕工程と、
を含み、
前記原料スラリー作製工程において用いる前記分散剤の吸着官能基はアニオン系であって、前記解砕工程後に得られるフォルステライト粉体の、体積基準粒度分布の累積頻度が50%である粒子径D50が20~50μm、それぞれの粒子の長軸径を短軸径で除して得られる平均アスペクト比が1.15以下、かつ、前記粒子の平均円形度が0.85以上となるよう前記原料スラリー作製工程を行う、フォルステライト粉体の製造方法
【0012】
[5]前記マグネシウムを含有する化合物のBET値が20m2/g以下である、上記[4]に記載のフォルスライト粉体の製造方法。
【0013】
[6]前記解砕工程後に得られるフォルステライト粉体に含まれるナトリウム含有量が1~300ppmとなるよう前記原料スラリー作製工程を行う、上記[4]又は[5]に記載のフォルステライト粉体の製造方法。
【0014】
[7]前記解砕工程後に得られるフォルステライト粉体に含まれるナトリウム及びカリウムの合計含有量が1~350ppmとなるよう前記原料スラリー作製工程を行う、上記[4]又は[5]に記載のフォルステライト粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粉塵が生じにくく、かつ、粉体移送に適したフォルステライト粉体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】フォルステライト粉体におけるアスペクト比を説明するための模式図である。
【
図2】本発明に従うフォルステライト粉体の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】実施例1に係る粉体のSEM像(倍率250倍)である。
【
図4】実施例2に係る粉体のSEM像(倍率250倍)である。
【
図5】実施例3に係る粉体のSEM像(倍率250倍)である。
【
図6】実施例4に係る粉体のSEM像(倍率250倍)である。
【
図7】比較例1に係る粉体のSEM像(倍率250倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0018】
(定義)
<粒子径>
本明細書において、粒子径はレーザ回折式粒度分布測定装置により得られる体積基準の累積体積分布曲線に基づき定め、累積頻度が50%となる粒子径(球相当径)をD50とし、同様に累積頻度が10%となる粒子径をD10とする。なお、後述の実施例では外部ホモジナイザー処理を行ってさらに粒度分布測定を行い、累積頻度がそれぞれ50%、10%となる粒子径(球相当径)d50、d10をそれぞれ求めた。外部ホモジナイザー処理は外力によるフォルステライト粉体の崩れやすさを評価する目的であるため、本明細書におけるフォルステライト粉体の粒度分布は、外部ホモジナイザー処理をする前の値であるD50、D10を採用する。また、本明細書の実施例における粒子径の値は、レーザ回折散乱式粒子径分布測定器(日機装株式会社製 MT3300EXII)を用いた測定値を採用し、測定条件は粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率を1.33、計算モードをMT3000IIとした。以降、特に断りのない限り、本明細書において、D10、D50、D90、d10、d50、d90はすべて体積基準の粒度分布であり、大文字Dは外部ホモジナイザー処理前の粒度分布を参照し、小文字dは外部ホモジナイザー処理後の粒度分布を参照する。
【0019】
<アルカリ金属含有量>
本明細書におけるフォルステライト粉体に含まれるアルカリ金属含有量は、原子吸光分析法による。本明細書では、以下の測定手順及び測定条件でアルカリ金属であるナトリウム(Na)及びカリウム(K)の含有量をそれぞれ測定した。まず、サンプルを秤量し、秤量したサンプルに塩酸10mL及びフッ化水素酸5mLを添加し、加熱溶解する。次いで、溶解した液体を蒸発させて、乾固させる。その後、乾固したサンプルの壁面を超純水で洗浄し、再度、塩酸15mLで溶解させる。溶解したサンプルを、株式会社日立ハイテクサイエンス製偏光ゼーマン原子吸光光度計ZA3300型を用いて測定した。測定はアセチレン-空気を用いたフレーム法とし、イオン干渉抑制剤は不使用とした
【0020】
<粒子形状測定>
本明細書における平均アスペクト比及び平均円形度は、フォルステライト粉体の長軸径及び短軸径を、フォルステライト粉体のSEM像を画像解析することにより評価する。まず、SEM像からフォルステライト粉体における各粒子の長軸径と短軸径(
図1参照)を自動で算出し、長軸径を短軸径で除して得られるアスペクト比(長軸径/短軸径の比の値)をそれぞれ求め、平均値を「粒子の平均アスペクト比」として採用する。「粒子の平均円形度」は、アスペクト比を算出する際に測定した粒子から下記式に従いそれぞれの粒子を算出したものの平均値を用いて算出した。
円形度=4π×(面積)/(周囲長)
2
なお、本明細書において、各パラメータはSEM像(使用画像の倍率:250倍)から求めた。解析ソフトには、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMountech社製Mac-View(バージョン4)を使用し、この解析ソフトの「簡単取り込みツール」を使用し、取得モードを非球形とした。取り込まれた粒子の画像に対して、視野が縁の部分で切れておらず、フェレ径5μm以上の粒子を100個選択し、解析ソフトで検出感度を15として、第一段階の解析を行った。そののち、フェレ径5~15μmの場合は、より粒子境界を鮮明にするため、解析ソフトの検出感度を上げ、解析ソフトの検出感度を10にして解析を行った。また、チェック項目は「他粒子との衝突判定をする」、「推測点をプロットする」、「粒子のスムージングを行う」とした。粒子測定個数は100個とし、取得可能な粒子の形状を順次評価した。
【0021】
(フォルステライト粉体)
本発明の一実施形態に従うフォルステライト粉体は、体積基準粒度分布の累積頻度が50%である粒子径D50が20μm以上50μm以下(以下、単に20~50μmなどと記載する。)であり、それぞれの粒子の長軸径を短軸径で除して得られる平均アスペクト比が1.15以下であり、それぞれの粒子の平均円形度が0.85以上である。なお、本明細書で開示するケイ素とマグネシウムを含む化合物がフォルステライト(2MgO・SiO2(Mg2SiO4と表示される場合もある))であるか否かの判定は、X線回折により行うことができる。具体的には、株式会社リガク製のUltimaIV回折装置を用い、管球をCu管球とし、Cu-Kα線を用いて2θ=10~90°の範囲で測定された回折線とフォルステライトとしてデータベースに登録されている回折ピークとを解析ソフトを用いて比較することにより確認することができる。
【0022】
以下、各構成の詳細を順次説明する。
【0023】
<粒子径D50>
本実施形態に従うフォルステライト粉体において、体積基準粒度分布の累積50%である粒子径D50は20~50μmである。粒子径D50が20μm未満であると、細かい粉末が舞い上がりやすくなり、回収が困難になり収率が低下するので好ましくない。また、粉塵が生じやすくなるため、粒子径D50の下限を20μmに規制する。一方、粒子径D50を50μm超に設定しようとしても、乾燥時に十分に乾燥できず、水分が粉末中に残存し、取り扱いしやすい粉末とするために追加乾燥が必要になるので好ましくない。粒子の取り扱いやすさを考慮すれば、粒子径D50は25μm以上もしくは45μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以上もしくは40μm以下であること好ましい。
【0024】
また、本実施形態に従うフォルステライト粉体において、体積基準粒度分布の累積10%である粒子径D10は15μm以上30μm以下であることが好ましい。さらに、粒子径D10は20μm以上25μm以下であることが好ましい。D10が15μm以上であれば、細かい粉末が舞い上がりやすくなり、回収が困難になり収率が低下する懸念が減少する。また、30μm以下であれば、乾燥不足の懸念が減少する。
【0025】
<累積頻度>
また、本実施形態に従うフォルステライト粉体において、粒子径が20μm未満の累積頻度は15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましい。この値が大きい場合には微粒子の存在割合が高いことを意味し、輸送時に粉末が舞い上がり、次工程に移す際に長時間を有し、効率が悪くなるおそれが生ずるので、20μm未満の累積頻度は15%以下が好ましい。下限は限定されないが、工業的生産性を考慮すると粒子径が20μm未満の累積頻度の下限は1%とすることができる。
【0026】
<アスペクト比>
次に、本実施形態に従うフォルステライト粉体において、平均アスペクト比を1.15以下とする。平均アスペクト比が1.15を超えると、粒子の流動性の指標となるCarrの流動指数における圧縮度(ゆるめのかさ密度と固めのかさ密度に対する固めかさ密度の比)が大きくなり、粒子の流動性が低くなるので、粉体の移送取り扱いが容易になると考えられ適当である。より好ましくは、平均アスペクト比は1.12以下が好ましく、1.10以下であることがより好ましい。なお、平均アスペクト比は、長径と短径が同じとなる球形であれば理論上1.00であり、平均アスペクト比は1.00に近いほど好ましい。
【0027】
<円形度>
本実施形態に従うフォルステライト粉体における、粒子の平均円形度は0.85以上とする。平均円形度が0.85未満だと、粒子の投影図が円形からは乖離した形状であることを示しており、粉末の移送に支障が生じるため好ましくない。この目的のため、フォルステライト粉体の粉末の平均円形度は0.90以上が好ましい。なお、円形度の上限は理論上1.00であり、円形度は1.00に近いほど好ましい。
【0028】
<アルカリ金属含有量>
フォルステライト粉体は、製品出荷段階において、分散媒と粉末を混合したスラリーの形態で輸送されることがある。フォルステライト粉体をスラリー輸送するためには、シェアなどによる外力により粉体が崩れないことが望まれる。粉体が崩れにくければ、粉体表面積が一定となり、粉体に対する溶媒和の変化がないためである。これは粉末と溶媒を混合して塗布するためのペーストとする際にも同様のことがいえ、粉末が崩壊することにより生じた微細な粒子が多く含まれてしまうと、ペーストの粘度が不安定になる場合がある。ペースト粘度が不安定になると、塗布の際の調整が非常に困難になるので、生産性に著しい悪影響を与えることになるので適当ではない。
本発明者らは、フォルステライト粉体に含まれるアルカリ金属、特にナトリウム含有量又はナトリウム及びカリウムの合計含有量が少ないほど、外力を受けても粉体が崩れにくいことを知見した。そのため、本実施形態に従うフォルステライト粉体に含まれるナトリウム含有量が1~300ppmであることが好ましく、250ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。本実施形態に従うフォルステライト粉体に含まれるナトリウム及びカリウムの合計含有量が1~350ppmであることが好ましく、300ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましく、15ppm以下であることが特に好ましい。なお、フォルステライト粉体に含まれるナトリウム及びカリウムは、フォルステライト粉体の製造時の不純物に由来すると考えられ、特に分散剤の影響が大きいと考えられる。
【0029】
<一般式>
また、本実施形態に従うフォルステライト粉体は一般式MgxSiyO4-zで表すことができ、通常、x、y、zの範囲は次のとおりとなる。
x:1.90~2.15
y:0.85~1.10
z:-0.5~0.5
さらにx+y=2.8~3.2になるものが好ましい。
【0030】
次に、
図2のフローチャートを参照しつつ、上述した本発明に従うフォルステライト粉体の製造方法を説明する。このフォルステライト粉体の製造方法は、マグネシウムを含有する化合物、ケイ素を含有する化合物及び分散剤から原料スラリーを得る原料スラリー作製工程S10と、この原料スラリーを造粒乾燥して乾燥体を得る造粒乾燥工程S20と、この乾燥体を焼成して焼成体を得る焼成工程S30と、この焼成体を解砕してフォルステライト粉体を得る解砕工程S40と、を少なくとも含む。そして、原料スラリー作製工程S10において用いる分散剤の吸着官能基はアニオン系であって、解砕工程S40後に得られるフォルステライト粉体の粒子径D
50が20~50μm、平均アスペクト比が1.15以下、かつ、平均円形度が0.85以上となるよう原料スラリー作製工程S10を行う。以下、各工程を順次説明する。
【0031】
<原料スラリー作製工程>
原料スラリー作製工程S10は、秤量工程及び湿式粉砕工程を含んでよい。秤量工程では、目的の組成のフォルステライトが生成されるように所定の成分原料を秤量すればよい。成分原料は、フォルステライト粉体の製造に一般的に使用されるものを好適に使用することができる。
ここで、原料として用いるマグネシウムもしくはケイ素を含有する化合物は、天然鉱物原料を使用してもよいし、工業的に供給されている原料のいずれも使用することができる。天然鉱物原料であればタルク(3MgO・4SiO2・H2O)、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、マグネシア(MgO)に長石(K2O・Al2O3・6SiO2)及び炭酸バリウム(BaCO3)を使用する方法、などが知られているが、この方法を用いる場合には不純物の管理が必要になる場合がある。工業原料を用いる場合は、水溶性である塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウムの無機酸塩、クエン酸マグネシウム、グリコール酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、マロン酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどのマグネシウムの有機酸塩や、難溶性である酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムのいずれも使用することできる。不純物管理の観点からは、不純物の混入の恐れの少ない水酸化物もしくは酸化物、取り扱いの容易さからより適当なものは酸化物である、酸化マグネシウムがよい。また、ケイ素を含有する化合物としては、水ガラスやコライダルシリカ、溶融シリカなどを使用することができる。マグネシウムを含有する化合物、ケイ素を含有する化合物のいずれにおいても、後の工程において混合して造粒体を形成するので、水に対して不溶性の原料を選択することが好ましい。なお、次工程で得る原料スラリーの粘度を適正化するため、マグネシウムを含有する化合物のBET一点法により算出されるBET値は、20m2/g以下のものを採用することが好ましい。
【0032】
秤量工程に続き、湿式粉砕工程を行うことが好ましい。湿式粉砕工程では、所定量を秤量した各成分原料を純水と混合してスラリーを得ればよい。当該原料スラリーにおける粉末の固形分濃度は、25質量%以上であれば良好な特性を有するフォルステライト粉末を得ることができる。さらに、乾燥効率の観点からは、当該原料スラリーにおける粉末の固形分濃度は40質量%以上が望ましい。もっとも、原料スラリーにおける粉末の固形分濃度が50質量%以上となると、スラリーの粘度が高くなり、原料の粉砕が困難になる。そこで、原料スラリーにおける粉末の固形分濃度が50質量%以上の場合は、原料スラリーへ分散剤を添加することが望ましい。こうした分散剤としては、吸着官能基がアニオン系(カルボキシ基、スルホ基等)であることが望ましい。電子密度の大きいカルボン酸塩基であればオリゴマーの形態であることが好ましく、主鎖側鎖共にカルボン酸塩基である。電子密度の小さいカルボン酸であれば、ポリマーの形態であることが好ましく、主鎖にカルボン酸を有し、側鎖はカルボン酸塩基を好ましく用いることができる。しかしながら、上述した分散剤は例示であって、分散剤の吸着官能基がアニオン系であることが好ましく、適宜好適な分散剤を用いてもよい。
【0033】
湿式粉砕は特に制限されないが、ビーズミルで行うことが好ましい。粉砕メディアの素材は、機械的強度の高いものならば、特段の制限なく使用可能である。具体的には、強度が高いZrビーズが好ましい。ビーズ径が直径2.0mm以下であると粉砕効率を担保できるので好ましい。
【0034】
ここで、分散剤に含まれるナトリウム、カリウムの量が特に多くなってしまうと、フォルステライトとした際にもアルカリ含有量が高くなりすぎてしまうので適切ではない場合がある。分散液中におけるアルカリ含有量は1000ppm未満とすれば、形成されたフォルステライトを移送する際において、流動性が確保でき、好ましいことを本発明者らは知見した。
【0035】
湿式粉砕後の原料スラリーは、累積粒径D90が10.0μm以下であれば、詳細を後述する焼成工程S30において、フォルステライト相以外の異相が生成することが少ないので好ましい。原料スラリーの粒度分布の累積粒径D90が10.0μm以下であれば、後述する焼成によって得られる造粒物内の部位による組成の偏りが少ないので、異相の生成が抑制される傾向がある。そして、累積粒径D90は小さい程好ましいが、8.0μm以上とすれば、過剰な粉砕とはならず、ZrビーズからのZr成分混入を抑制することができるので好ましい。当該観点から、原料スラリーの累積粒径D90は8.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。
【0036】
<造粒乾燥工程>
造粒乾燥工程S20では、湿式処理後の原料スラリーを乾燥することが好ましい。乾燥し、造粒させる方法としては、造粒と乾燥が同時に行いうる方法であれば、特に制限はないが、スプレードライヤーやフリーズドライ法などが例示でき、スプレードライ法を採用することが好ましい。スプレードライ法を用いると、粒子径が大きく、かつ、円形な粒子が得られるためである。乾燥する際の乾燥温度は180℃以上350℃以下、好ましくは200℃以上275℃以下とする。この範囲を極端に外れた状態で乾燥させると、乾燥しきらずに粉末中に水分が残るおそれが生じうる。スプレードライ法を用いることで、粒子径D50が40μm程度の粉体を得ることができる。
【0037】
<焼成工程>
続く焼成工程S30では作製した粉末状の乾燥体を、焼成炉などを用いて焼成する。焼成炉は、熱源として電気式又はガス式のシャトルキルン、ローラハースキルン、ロータリーキルンなど従来公知のものが使用できる。焼成温度は、フォルステライト粉末を構成する粒子の粒子内部の充填率を上げる観点から1250℃以上1400℃以下の範囲が望ましい。また、不純物(異相)の少ないフォルステライトとするには焼成温度は1280℃以上が好ましい。また、焼成温度が1350℃以下であると焼成後の造粒物の解砕が容易となるため好ましい。また、焼成時の昇温速度は10℃/min以下がよく、焼成の雰囲気は大気中で行うのがよい。そして、炉内や焼成容器内を開放系とし、成分原料から発生してくるガス成分を除去できるような構造としながら昇温することが好ましい。また、炉内の空気を清浄なものとするため、外気を取り込んで炉内を通気できるような機構を備えていてもよい。なお、本明細書において開放系とは、炉内や焼成容器内が密閉されておらず、雰囲気である気体の流入出が可能な反応系を指す。
【0038】
<解砕工程>
次に、解砕工程S40では、作製した焼成体を粉砕する。より詳細には、焼成物を乾式粉砕することが好ましい。焼成物を粉砕する装置としてはインパクトミル、サンプルミル、ヘンシェルミキサーなどを用いることができ、これらの中でもヘンシェルミキサーが好適である。ヘンシェルミキサーの回転数としては、20L容量のヘンシェルミキサーを用いる場合で例示すると、700rpm以上2800rpm以下の範囲が好ましい。この数値は、スケールの増大や縮小によって、適宜調整すべきである。なお、ヘンシェルミキサーの回転数と粉砕時間は、焼成工程S30における焼成温度と焼成時間とに関連し、焼成温度が高くまた焼成時間が長いほど、ヘンシェルミキサーの回転数を大きく、粉砕時間を長くすることが望ましい。解砕工程S40を経て、本発明の一実施形態に従うフォルステライト粉体を製造することができる。なお、上述した各工程は一態様を説明したに過ぎず、任意の工程をさらに行ってもよい。
【実施例0039】
(実施例1)
以下に詳述する(1)原料スラリーの作製、(2)造粒乾燥、(3)焼成、(4)解砕の各工程を経て、実施例1に係るフォルステライト粉体を作製した。
【0040】
(1)原料スラリーの作製
はじめに、下記原料を秤量した後、ビーズミル(アシザワ・ファインテック株式会社製スターミルAMS1型、容量1.2リットル)を使用して原料スラリーを作製した。具体的な手順は以下のとおりである。
<1>MgO(神島化学工業株式会社製工業用)を2900g(BET:8m2/g)、SiO2(龍森株式会社製工業用)を2100g、純水を4090g、分散剤であるポリカルボン酸アンモニウム塩基(商品名カオーセラ2110(登録商標)、花王株式会社製工業用、吸着官能基:カルボン酸塩基、形態:オリゴマー、含有するナトリウム量が1ppm未満、およびカリウムが1ppm未満である)を1750g秤量した。
<2>ビーズミルのベッセル内に、直径1.75mmのZrO2ビーズを3800g投入した。
<3>純水と上記ポリカルボン酸アンモニウム塩基(商品名カオーセラ2110(登録商標)、花王株式会社製工業用)とをバッファータンク内で混合した。そして、当該溶液を、ポンプを用いてビーズミル内に循環させた。
<4>バッファータンク内の溶液を攪拌しながら、ここへ、上記で秤量したMgO、SiO2を投入した。
<5>ビーズミルを700rpmで回転させ、投入したMgO、SiO2を100分間粉砕して、原料スラリーを作製した。
【0041】
(2)乾燥、造粒
作製した原料スラリーを、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥した。具体的には、まず、噴霧乾燥に先立ち、この原料スラリーへさらに純水を添加することで、MgOとSiO2を合計した粉体の固形分濃度を50質量%に調整した。その後、スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製L-12型スプレードライヤー)のディスク回転数を20000rpm、乾燥用熱風温度を入り口温度で225℃、原料スラリーの供給速度を12kg/hの条件とし、原料スラリーを噴霧乾燥して、乾燥体を得た。
【0042】
(3)焼成
乾燥体を焼成するために、角型さやを使用した。具体的にはまず、角型さや(縦・横30cm、高さ10cm)に、前記造粒物2500gを仕込んだ。そして、大気中で25℃から800℃まで3℃/minで昇温し、さらに800℃から1300℃まで1.5℃/minで昇温し、その後1300℃で2時間保持した後、自然降温した。こうして、焼成体を得た。
【0043】
(4)解砕
焼成体の解砕にはヘンシェルミキサーを使用した。具体的にはまず、ヘンシェルミキサーへ、前記焼成粉4500gを装填した。次いで、ヘンシェルミキサーの回転数を1400rpmとし、2分間の解砕を行った。こうして、実施例1に係るフォルステライト粉体を得た。
【0044】
(実施例2)
実施例1では商品名カオーセラ2110(登録商標)のポリカルボン酸アンモニウム塩基用いていたところ、実施例2ではポリカルボン酸アンモニウム塩基(商品名マリアリム(登録商標)、日油株式会社製工業用、吸着官能基:カルボキシ基、形態:ポリマー、主鎖:カルボキシ基、側鎖:カルボン酸アンモニウム塩基、含有するナトリウム量は1~20ppm、カリウム量は10ppm未満である)を用いた。その他の製造条件は実施例1と同様にして、実施例2に係るフォルステライト粉体を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例1では商品名カオーセラ2110(登録商標)のポリカルボン酸アンモニウム塩基を用いていたところ、実施例3ではポリカルボン酸系分散剤(吸着官能基:カルボキシ基、形態:ポリマー、主鎖:カルボキシ基、側鎖:カルボン酸ナトリウム塩基、含有するナトリウム量が5000~10000ppmであり、カリウム量が50ppmである)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るフォルステライト粉体を得た。
【0046】
(実施例4)
実施例2と同条件でまず原料スラリーを作製した。次いで、造粒乾燥に先立ち、原料スラリーに水酸化ナトリウム(ナトリウム量:120ppm)を添加した。原料スラリー内におけるナトリウム量を調製することで、造粒後に含まれる粒子内のナトリウム量を調整するためである。スラリー内に水酸化ナトリウム水溶液を加えることで、ナトリウムイオンがスラリー内で均一になる。その他の条件は実施例2と同様にして、実施例4に係るフォルステライト粉体を得た。
【0047】
(比較例1)
実施例2と同条件でまず原料スラリーを作製した。次いで、造粒乾燥に先立ち、実施例4と同様の目的で、原料スラリーに水酸化ナトリウム(ナトリウム量:1000ppm)を添加した。その他の条件は実施例2と同様にして、比較例1に係るフォルステライト粉体を得た。
【0048】
(比較例2)
実施例1では商品名カオーセラ2110(登録商標)のポリカルボン酸アンモニウム塩基を用いていたところ、比較例2では、商品名アロン(登録商標、東亜合成株式会社製工業用)のポリカルボン酸塩基系分散剤を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係るフォルステライト粉体の作製を試みた。しかしながら、原料スラリーが固化してしまい、噴霧乾燥を行うことができず、フォルステライト粉体を得ることができなかった。
【0049】
(比較例3)
実施例1では商品名カオーセラ2110(登録商標)のポリカルボン酸アンモニウム塩基を用いていたところ、比較例3では、商品名ルナックo-LL-V(登録商標、花王株式会社製工業用)のカルボン酸系分散剤を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3に係るフォルステライト粉体を試みた。しかしながら、比較例2と同様に原料スラリーが固化してしまい、噴霧乾燥を行うことができず、フォルステライト粉体を得ることができなかった。
【0050】
(比較例4)
実施例1では商品名カオーセラ2110(登録商標)のポリカルボン酸アンモニウム塩基を用いていたところ、比較例4では、商品名エスリームAD3172M(登録商標、日油株式会社製工業用)の吸着官能基がカチオン系の分散剤を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4に係るフォルステライト粉体を試みた。しかしながら、比較例2と同様に原料スラリーが固化してしまい、噴霧乾燥を行うことができず、フォルステライト粉体を得ることができなかった。
【0051】
(比較例5)
実施例1では商品名カオーセラ2110(登録商標)のポリカルボン酸アンモニウム塩基を用いていたところ、比較例5では、商品名SNウェット366(サンノプコ株式会社株式会社製工業用)の吸着官能基がノニオン系の分散剤を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例5に係るフォルステライト粉体を試みた。しかしながら、比較例2と同様に原料スラリーが固化してしまい、噴霧乾燥を行うことができず、フォルステライト粉体を得ることができなかった。
【0052】
(比較例6)
実施例1ではBET値8m2/gの酸化マグネシウムを用いていたところ、比較例6ではこれをBET値125m2/gの酸化マグネシウム変更した以外は実施例1と同様にして、原料スラリーの作製を試みた。しかしながら作成した原料スラリーは粘度が高すぎ、噴霧を行うことができず、スプレードライヤーで乾燥することができなかった。
【0053】
実施例1~実施例4、比較例1~比較例6における製造条件と、噴霧可否に基づく作製結果とを表1に記載した。
【0054】
【0055】
(評価1:粒度分布測定)
実施例1~実施例4及び比較例1に係るフォルステライト粉体のそれぞれについて、レーザ回折散乱式粒子径分布測定器(日機装株式会社製 MT3300EXII)を用いて粒度分布を測定した。測定条件は粒子屈折率を2.40、溶媒屈折率1.33、計算モードMT3000IIとした。また、各フォルステライト粉体の崩れやすさを評価するため、超音波出力300μA、30秒を4回の条件で外部ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所 US-600TCVP)処理を行った後、上述の測定器及び測定条件を用いて粒度分布を測定した。測定結果のうち、粒子径D10、D50、20μm未満の累積頻度を表2に示す。また、外部ホモジナイザー処理に伴う粒子径d10、d50と、外部ホモジナイザー処理前後での変化率も表2に示した。
【0056】
(評価2:アルカリ金属含有量)
実施例1~実施例4及び比較例1に係るフォルステライト粉体のそれぞれについて、アルカリ金属含有量を原子吸光分析により評価した。原子吸光分析による評価条件の詳細は前述のとおりである。結果を表2に示す。
【0057】
(評価3:粒子形状)
実施例1~実施例4及び比較例1に係るフォルステライト粉体のそれぞれについてSEM像を取得し、平均アスペクト比及び平均円形度をそれぞれ求めた。実施例1~実施例4及び比較例1のSEM像(倍率250倍)を
図3、
図4、
図5、
図6、
図7にそれぞれ示す。また、なお、SEM像からの画像解析方法は前述したとおりである。結果を表2に示す。
【0058】
(評価4:圧縮度)
実施例1~実施例4及び比較例1に係るフォルステライト粉体のそれぞれについて、ホソカワミクロン社製パウダーテスター(PT-X型)を用いて、流動性指数(Carrの流動性指数における圧縮度)を測定した。結果を表2に示す。なお、Carrの流動性指数は、粉体技術ポケットブック、林恒美、株式会社工業調査会、p.462、1992年に記載の値から採用した。圧縮度31%未満であれば、粉体移送が容易と評価できる。
【0059】
(評価5:移送評価)
実施例1~実施例4及び比較例1に係るフォルステライト粉体のそれぞれについて、移送可能かと、スラリー作成可能かを評価した。結果を表2、表3に示す。表2、3中、以下の基準で分類した。なお、スラリー作成を評価する際には、一定の割合で溶媒と混合して各フォルステライト粉体をスラリー化とすることにより評価した。
・移送
○:フォルステライト粉体の定量的な移送が可能であった。
×:フォルテライト粉体の定量的な移送が困難、問題を生じた。
【0060】
(評価6:フォルステライト判定)
実施例1~実施例4及び比較例1に係る粉体がフォルステライトであるかどうか、前述した株式会社リガク製のUltimaIV回折装置を用いてX線回折図を取得して判定した。回折ピークから、いずれもフォルステライトであることを確認した。代表例として、実施例1から得られたX線回折図を
図8に記載した。
【0061】
【0062】
【0063】
(評価結果及び考察)
まず、粒子径D50が20μm以上で粉体移送をするためには、平均アスペクト比が1.15以下、かつ、平均円形度が0.85以上であることが必要であった。このことは、無荷重時の流動性を示すCarrの流動性指数における「圧縮度」の値からも支持される。
【0064】
さらに、各フォルステライト粉体のアルカリ金属含有量によって、外部ホモジナイザー処理有無による粒度分布の変化率に有意な違いが生ずることが確認された。アルカリ金属含有量の合計が12ppm以下(実施例1、2)であると、粒子径D10、D50の変化率は5%以下であり、外部ホモジナイザー処理前後で粒子径20μm未満の累積頻度の変化率も2%未満で、ほぼ変化なしと評価できる。次に、アルカリ金属含有量36ppmである実施例4では、粒子径D10の変化率は18%、D50の変化率は6%であり、外部ホモジナイザー処理により、粒子径がわずかに低下することが確認できる。また、粒子径20μm未満の累積頻度は5%程度の変化であり、微粒子の割合が若干増加したといえる。また、アルカリ金属量251ppmである実施例3では、粒子径D10の変化率は36%であり、D50の変化率は12%であり、外部ホモジナイザー処理により、粒子系が低下することが確認された。また、粒子径20μm未満の累積頻度は、8%程度の変化であり、微粒子割合が増加したことも確認された。そして、アルカリ金属含有量375ppmである比較例1では、粒子径D10の変化率は43%、D50の変化率は26%であり、外部ホモジナイザー処理により、粒子系が大幅に低下することが確認された。また、粒子径20μm未満の累積頻度は15.3%の変化であり、外部ホモジナイザー処理後には31.0%の累積頻度となっていたため、微粒子割合は大幅に増加していた。したがって、フォルステライト粉体に含まれるアルカリ金属含有量が少ないほど、外力が加わっても粉体が崩れにくく、さらに、微粒子割合の調整も可能であり、スラリー輸送に適した粉体作製が可能である。