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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051544
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】衛生設備用部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 33/24 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
C04B33/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162317
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 俊徳
(72)【発明者】
【氏名】中野 慶紀
(72)【発明者】
【氏名】西田 麻里江
(57)【要約】
【課題】焼成物である新規な衛生設備用部材を提供する。
【解決手段】衛生設備用部材は、第1の焼成体と、第2の焼成体と、を備え、前記第1の焼成体の吸水率は、前記第2の焼成体の吸水率よりも小さく、前記第1の焼成体は、水を受けるための水受け面と、前記第2の焼成体の第2の当接面に当接する第1の当接面と、を備え、前記第2の焼成体は、前記衛生設備用部材の外観を構成する意匠面と、前記第1の焼成体の前記第1の当接面に当接する前記第2の当接面と、を備え、前記第1の当接面と前記第2の当接面とが互いに当接し合うことによって、前記第1の焼成体と前記第2の焼成体とが互いに固定されてもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生設備用部材であって、
第1の焼成体と、
第2の焼成体と、を備え、
前記第1の焼成体の吸水率は、前記第2の焼成体の吸水率よりも小さく、
前記第1の焼成体は、水を受けるための水受け面と、前記第2の焼成体の第2の当接面に当接する第1の当接面と、を備え、
前記第2の焼成体は、前記衛生設備用部材の外観を構成する意匠面と、前記第1の焼成体の前記第1の当接面に当接する前記第2の当接面と、を備え、
前記第1の当接面と前記第2の当接面とが互いに当接し合うことによって、前記第1の焼成体と前記第2の焼成体とが互いに固定されている、
衛生設備用部材。
【請求項2】
前記第1の当接面は、方向の第1側の面であり、
前記第2の当接面は、前記方向の第2側であって、前記第1側の反対側である前記第2側の面であり、
前記方向は、第1の部材から前記第1の焼成体を形成するための焼成時に前記第1の部材が収縮する方向である、請求項1に記載の衛生設備用部材。
【請求項3】
前記第1の焼成体は、さらに、前記第2の焼成体の第4の当接面に当接する第3の当接面を備え、
前記第2の焼成体は、さらに、前記第1の焼成体の前記第3の当接面に当接する前記第4の当接面を備える、請求項1又は2に記載の衛生設備用部材。
【請求項4】
前記第1の当接面と前記第3の当接面とは直交し、
前記第2の当接面と前記第4の当接面とは直交する、請求項3に記載の衛生設備用部材。
【請求項5】
前記第1の当接面と前記第3の当接面とは連続し、
前記第2の当接面と前記第4の当接面とは連続する、請求項3又は4に記載の衛生設備用部材。
【請求項6】
前記第1の当接面は、第1の方向の第1側の面であり、
前記第2の当接面は、前記第1の方向の第2側であって、前記第1側の反対側である前記第2側の面であり、
前記第1の方向は、第1の部材から前記第1の焼成体を形成するための焼成時に前記第1の部材が収縮する方向であり、
前記第3の当接面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向の第3側の面であり、
前記第4の当接面は、前記第2の方向の第4側であって、前記第3側の反対側である前記第4側の面である、請求項3から5のいずれか一項に記載の衛生設備用部材。
【請求項7】
前記第1の方向は、水平方向であり、
前記第2の方向は、鉛直方向である、請求項6に記載の衛生設備用部材。
【請求項8】
前記第1の焼成体は、さらに、
前記第1の当接面を備える第1壁を備え、
前記第2の焼成体は、さらに、
前記第2の当接面を備える第2壁と、
前記第2壁と共に前記第1壁を挟み込む第3壁と、を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の衛生設備用部材。
【請求項9】
前記第1壁と前記第3壁との間には空隙が存在する、請求項8に記載の衛生設備用部材。
【請求項10】
前記第1の焼成体の前記吸水率は、0%以上、且つ1%以下の範囲内であり、
前記第2の焼成体の前記吸水率は、5%以上、且つ20%以下の範囲内である、請求項1~9のいずれか一項に記載の衛生設備用部材。
【請求項11】
さらに、前記第1の当接面と前記第2の当接面との間に接着材を備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の衛生設備用部材。
【請求項12】
衛生設備用部材の製造方法であって、
第1の部材と、焼成時の収縮率が前記第1の部材より小さい第2の部材と、を準備すること、及び、
前記第1の部材と前記第2の部材とを焼成することによって、前記第1の部材から第1の焼成体を形成し、前記第2の部材から第2の焼成体を形成すること、を備え、
前記第1の部材が焼成時に第2の部材よりも大きく収縮することによって、前記第1の焼成体と前記第2の焼成体とが互いに当接し合うことによって、前記第1の焼成体と前記第2の焼成体とが互い固定される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、衛生設備用部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、衛生設備用部材の一例である洋風便器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-65640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衛生設備用部材は、例えば、材料部材を焼成することによって形成される。本明細書では、焼成物である新規な衛生設備用部材と、焼成によって形成される衛生設備用部材の新規な製造方法と、を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される衛生設備用部材は、第1の焼成体と、第2の焼成体と、を備え、前記第1の焼成体の吸水率は、前記第2の焼成体の吸水率よりも小さく、前記第1の焼成体は、水を受けるための水受け面と、前記第2の焼成体の第2の当接面に当接する第1の当接面と、を備え、前記第2の焼成体は、前記衛生設備用部材の外観を構成する意匠面と、前記第1の焼成体の前記第1の当接面に当接する前記第2の当接面と、を備え、前記第1の当接面と前記第2の当接面とが互いに当接し合うことによって、前記第1の焼成体と前記第2の焼成体とが互いに固定されてもよい。
【0006】
本明細書によって開示される衛生設備用部材の製造方法は、第1の部材と、焼成時の収縮率が前記第1の部材より小さい第2の部材と、を準備すること、及び、前記第1の部材と前記第2の部材とを焼成することによって、前記第1の部材から第1の焼成体を形成し、前記第2の部材から第2の焼成体を形成すること、を備え、前記第1の部材が焼成時に収縮することによって、前記第1の部材と前記第2の部材とが互いに当接し合うことによって、前記第1の焼成体と前記第2の焼成体とが互い固定されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】衛生設備用部材の外観を示す斜視図。
図2図1のII-II線で切断したときの端面図。
図3】衛生設備用部材を製造する手順を示すフロー図。
図4】第2実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図5】第3実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図6】第4実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図7】第5実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図8】第6実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図9】第7実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図10】第8実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図11】第9実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図12】第10実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図13】第11実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図14】第12実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図15】第13実施形態の衛生設備用部材の外観を示す斜視図。
図16図15のXVI-XVI線で切断したときの端面図を示す。
図17】第14実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図18】第15実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図19】第16実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図20】第17実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図21】第18実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図22】第19実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図23】第20実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図24】第21実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図25】第22実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図26】第23実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図27】第24実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図28】第25実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
図29】第26実施形態の衛生設備用部材の端面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明する各実施形態では、「上」、「下」、「内」、「外」は、それぞれ、衛生設備用部材の鉛直方向における上向き側、下向き側、水平方向における内向き側、外向き側を意味する。
【0009】
(第1実施形態)
(衛生設備用部材10の構成:図1及び図2
図1及び図2を参照して、衛生設備用部材10を説明する。本実施形態では、衛生設備用部材10は、衛生陶器であり、より具体的には、洋風の大便器である。別の実施形態では、衛生設備用部材10は、後述の第2実施形態で説明する洗面台であってもよい。さらに別の実施形態では、衛生設備用部材10は、小便器、洗面器、浴槽、キッチンシンク等であってもよい。
【0010】
衛生設備用部材10は、第1の焼成体12と第2の焼成体14とを備える。第1の焼成体12は、鉢形状の部材である。第1の焼成体12は、便器内を洗浄するための洗浄水が流れる水受け面10aを備える。第1の焼成体12は、さらに、底壁12aと側壁12bとを備える。水受け面10aは、底壁12a及び側壁12bによって画定される。底壁12aには、洗浄水及び排泄物を排出するための排水口10cが形成されている。側壁12bは、底壁12aから上方へ向かって延びている。側壁12bは、第2の焼成体14に当接する第1の当接面c1と、第2の焼成体14に当接する第3の当接面c3と、を備える。
【0011】
第2の焼成体14は、衛生設備用部材10の意匠面10bを備える。「意匠面」は、衛生設備用部材10の外観を構成する面、換言すると、衛生設備用部材10のユーザが視認可能な面である。第2の焼成体14は、概して筒状のカバー部材である。第2の焼成体14は、第1の焼成体12の上端部と外側面とを覆う。第2の焼成体14は、内壁14aと上壁14bと外壁14cとを備える。意匠面10bは、上壁14b及び外壁14cによって画定される。上壁14bは、第1の焼成体12の上方に位置する。外壁14cは、第1の焼成体12の側壁12bよりも外側に位置し、上壁14bから下方に延びる。内壁14aは、第1の焼成体12の側壁12bよりも内側に位置し、上壁14bから下方に延びる。従って、第2の焼成体14は、内壁14aと外壁14cとによって、第1の焼成体12の側壁12bを挟み込む。第2の焼成体14の外壁14cと、第1の焼成体12の側壁12bと、の間には空隙が存在する。
【0012】
内壁14aは、第1の焼成体12の第1の当接面c1に当接する第2の当接面c2を備える。上壁14bは、第1の焼成体12の第3の当接面c3に当接する第4の当接面c4を備える。第1の当接面c1と第2の当接面c2と互いに当接し合うことによって、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに固定されている。第3の当接面c3と第4の当接面c4とが互いに当接し合うことによって、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに固定されている。
【0013】
第1の焼成体12は、第1のセラミック部材を焼成することによって形成される。第2の焼成体14は、第2のセラミック部材を焼成することによって形成される。第1及び第2のセラミック部材は、焼成時に収縮する。第1及び第2のセラミック部材の収縮方向は、主に、水平方向である。
【0014】
本実施形態では、第1のセラミック部材は、VC(Vitreous Chinaの略)である。第1のセラミック部材のセラミック材料は、例えば、陶磁器質材料、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等を含む。第1のセラミック部材を構成する各材料の配合比は、第1の焼成体12に求められる吸水率に応じて適宜選択される。第1のセラミック部材は、主に、二酸化ケイ素を55~75質量部と、アルミナを20~40質量部とを含む。第1の焼成体12は、水受け面10aを備えるので、比較的に小さい吸水率(即ち第2の焼成体14よりも小さい吸水率)を有することが好ましい。第1の焼成体12の吸水率が比較的に小さいということは、第1のセラミック部材の焼成時の収縮率が比較的に大きい(即ち第2のセラミック部材の収縮率よりも大きい)ことを意味する。
【0015】
本実施形態では、第2のセラミック部材は、FC(Fire Clayの略)又はFFC(Fine Fire Clayの略)である。第2のセラミック部材のセラミック材料は、例えば、陶磁器質材料、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等を含む。第2のセラミック部材を構成する各材料の配合比は、第1のセラミック部材を構成する各材料の配合比とは異なる。具体的には、第2の焼成体14の吸水率が第1の焼成体12の吸水率よりも大きくなるように配合比が調製されている。第2のセラミック部材は、主に、二酸化ケイ素を25~55質量部と、アルミナを40~70質量部とを含む。第2の焼成体14の吸水率が比較的に大きいということは、第2のセラミック部材の焼成時の収縮率が比較的に小さい(即ち第1のセラミック部材の収縮率よりも小さい)ことを意味する。
【0016】
吸水率は、次のように測定できる。焼成後の試験片を100℃で24時間以上乾燥後に、試験片の質量(即ち乾燥質量)を測定する。その後、試験片を常温水中に24時間浸した後に、試験片の質量(即ち吸水質量)を測定する。そして、式「吸水率(%)={(吸水質量-乾燥質量)/乾燥質量}×100」によって吸水率を求める。3つの試験片について測定し、その平均値を測定値とする。
【0017】
収縮率は、次のように測定できる。焼成前の試験片を40~50℃で16時間以上乾燥し、試験片の乾燥素地寸法を測定する。その後、試験片を1200~1300℃で24時間焼成し、試験片の焼成素地寸法を測定する。そして、式「収縮率(%)={(乾燥素地寸法-焼成素地寸法)/乾燥素地寸法}×100」によって収縮率を求める。3つの試験片について測定し、その平均値を測定値とする。
【0018】
第1の焼成体12を形成するための第1のセラミック部材(即ちVC)は、焼成時に比較的大きく収縮する。このために、第1の焼成体12を構成する粒子同士が密になっており、この結果、第1の焼成体12の吸水率は極めて低い。そのため、第1の焼成体12は、水を受ける用途に適している。第2の焼成体14を形成するための第2のセラミック部材(即ちFC又はFFC)は、焼成時にあまり収縮しない。従って、例えば、シャープな形状を有する第2のセラミック部材を準備すれば、その形状をある程度維持しながら第2の焼成体14を形成することができる。このために、意匠性に優れている第2の焼成体14を形成することができる。変形例では、第1の焼成体12がFC又はFFCであり、第2の焼成体14がVCであってもよい。
【0019】
各焼成体12,14の吸水率について説明する。第1の焼成体12の吸水率は、約0%以上、且つ約1%以下の範囲である。このような吸水率の範囲であれば、水を受ける用途に適している。変形例では、第1の焼成体12の吸水率が1%より大きくてもよい。第2の焼成体14の吸水率は、約5%以上、且つ約20%以下の範囲である。このような吸水率の範囲であれば、焼成の前後で形状が変化しにくく、意匠性を出す用途に適している。第2の焼成体14の吸水率は、約5%以上、且つ約15%以下の範囲であると好ましく、約10%以上、且つ約15%以下の範囲であるとより好ましい。変形例では、第2の焼成体14の吸水率が5%より小さくてもよいし20%より大きくてもよい。
【0020】
(衛生設備用部材10の製造方法:図3
図3を参照して、衛生設備用部材10の製造方法を説明する。まず、図3の上図に示すように、第1のセラミック部材22及び第2のセラミック部材24が準備される。各セラミック部材22,24は、以下のように成形される。各セラミック部材22,24のセラミック材料は上述した通りである。各セラミック部材22,24を作製する原料としては、長石、陶石、カオリン、粘土、アルミナ、珪石等が挙げられる。各原料が第1の所定割合で配合されたものに対して所定量の水が加えられ、その後、ボールミル等で粉砕されることによって、第1のセラミック部材22用の素地スラリーが調製される。各原料が第1の所定割合とは異なる第2の所定割合で配合されたものに対して、所定量の水が加えられ、その後、ボールミル等で粉砕されることによって、第2のセラミック部材24用の素地スラリーが調製される。第1のセラミック部材22用の素地スラリーが第1の型に封入され、第1のセラミック部材22が成形される。第2のセラミック部材24用の素地スラリーが第2の型に封入され、第2のセラミック部材24が成形される。そして、各セラミック部材22,24は45~50℃で乾燥される。
【0021】
次いで、第1のセラミック部材22の側壁22bの内側面d1に接着材が塗布されると共に、第1のセラミック部材22の側壁22bの上面d3に接着材が塗布される。当該接着材は、例えば、釉薬、陶磁器質材料、ガラス材料、低融点フリット、金属ろう材等である。その後、第1のセラミック部材22が焼き台26上に載置される。第2のセラミック部材24の内壁24aの外側面d2に接着材が塗布されると共に、第2のセラミック部材24の上壁24bの下面d4に接着材が塗布される。その後、第2のセラミック部材24の内壁24a及び外壁24cが第1のセラミック部材22の側壁22bを挟み込むように、第2のセラミック部材24が第1のセラミック部材22上に載置される。
【0022】
次いで、第1のセラミック部材22と第2のセラミック部材24とが同時に焼成される。これにより、図3の下図に示すように、第1のセラミック部材22から第1の焼成体12が形成され、第2のセラミック部材24から第2の焼成体14が形成される。この際に、第1及び第2のセラミック部材22,24のそれぞれは、水平方向及び鉛直方向に収縮する。第1のセラミック部材22は、第2のセラミック部材24と比べて、大きく収縮する。これにより、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに当接し合う。
【0023】
具体的には、第1のセラミック部材22が水平方向の内向きに収縮することによって、第1のセラミック部材22の側壁22bの内側面d1に相当する第1の焼成体12の側壁12bの第1の当接面c1と、第2のセラミック部材24の内壁24aの外側面d2に相当する第2の焼成体14の内壁14aの第2の当接面c2と、が当接する。即ち、第1の焼成体12の側壁12bと第2の焼成体14の内壁14aとが嵌合する。これにより、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに固定される。さらに、内側面d1及び外側面d2に塗布された接着材によって、第1の当接面c1及び第2の当接面c2が接着される。従って、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに強固に固定される。
【0024】
さらに、第1のセラミック部材22の側壁22bの上面d3に相当する第1の焼成体12の側壁12bの第3の当接面c3と、第2のセラミック部材24の上壁24bの下面d4に相当する第2の焼成体14の上壁14bの第4の当接面c4と、が当接する。上面d3及び下面d4に塗布された接着材によって、第3の当接面c3及び第4の当接面c4が接着される。従って、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに強固に固定される。以上により、衛生設備用部材10が製造される。
【0025】
特に、本実施形態では、第1の当接面c1と第3の当接面c3とが直交しており、第2の当接面c2と第4の当接面c4とが直交している。このように、2つの当接面が直交する構成を採用すると、2つの当接面が直交しない構成と比べて、第1の焼成体12と第2の焼成体14とを強固に固定し得る。変形例では、第1の当接面c1と第3の当接面c3とが直交していなくてもよいし、第2の当接面c2と第4の当接面c4とが直交していなくてもよい。さらに、第1の当接面c1と第3の当接面c3とが連続しており、第2の当接面c2と第4の当接面c4とが連続している。このように、2つの当接面が連続する構成を採用すると、2つの当接面が連続しない構成と比べて、第1の焼成体12と第2の焼成体14とを強固に固定し得る。変形例では、第1の当接面c1と第3の当接面c3とが連続しなくてもよいし、第2の当接面c2と第4の当接面c4とが連続しなくてもよい。
【0026】
焼成時に第1及び第2のセラミック部材を嵌合させない比較例を想定する。特に、第1及び第2のセラミック部材が別々に焼成される第1の比較例と、第1及び第2のセラミック部材が同時に焼成される第2の比較例と、を想定する。第1の比較例では、第1及び第2のセラミック部材が別々に焼成された後に、各焼成体の間に接着材が塗布されて、各焼成体が接着される。第1の比較例では、各焼成体を形成するために2回の焼成が必要である。第2の比較例では、焼成時に嵌合しない構造を有する第1及び第2のセラミック部材の間に接着材が塗布された状態において、第1及び第2のセラミック部材が同時に焼成される。この場合、各焼成体を形成するために1回の焼成で済む。しかしながら、焼成時における各セラミック部材の収縮差があるので、各セラミック部材の接合面に歪み及びキレが生じ、接着強度が低くなる。
【0027】
本実施形態では、各セラミック部材22,24が同時に焼成されるので、各焼成体12,14を形成するために1回の焼成で済む。そして、焼成時に各セラミック部材22,24が嵌合する。即ち、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが嵌合する。これにより、仮に各セラミック部材22,24の接合面に歪み及びキレが生じても、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いに強固に固定される。
【0028】
(対応関係)
水平方向、鉛直方向が、それぞれ、「第1の方向」、「第2の方向」の一例である。水平方向の内向き側、外向き側が、それぞれ、「第1側」、「第2側」の一例である。鉛直方向の下向き側、上向き側が、それぞれ、「第3側」、「第4側」の一例である。第1の焼成体12の側壁12b、第2の焼成体14の内壁14a、外壁14cが、それぞれ、「第1壁」、「第2壁」、「第3壁」の一例である。
【0029】
(第2実施形態)
以下、図4図14を参照して、第1実施形態とは異なる構造を有する洋風便器である衛生設備用部材10の第2~第12実施形態を説明する。図4図14では、基本的には、第1実施形態と同じ符号を付している。特に、水平方向の内向きと外向きとで当接する各当接面を符号c1,c2で表現し、鉛直方向の上向きと下向きとで当接する各当接面を符号c3,c4で表現する。
【0030】
第2実施形態では、図4に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bの上端部は、内方に突出する。第1の当接面c1は、当該突出部分に位置する。
【0031】
(第3実施形態)
第3実施形態では、図5に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bは、その中間部分において、外方に延びる段差を有する。この場合、側壁12bの当該段差部分の上面が第3の当接面c3であり、第2の焼成体14の内壁14aの下面が第4の当接面c4である。特に、本実施形態では、第1の焼成体12の側壁12bの最も内側の面と、第2の焼成体14の内壁14aの内側面と、が同一平面上に位置する。この構成によると、水受け面10a側に段差が形成されないので、ユーザが清掃しやすい。
【0032】
(第4実施形態)
第4実施形態では、図6に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bの上端部は、内方に突出する。第2の焼成体14の内壁14aの下端部は、外方に突出する。側壁12bの第5の当接面c5と内壁14aの第6の当接面c6とが当接する。この構成によると、2か所で当接する構成(例えば第1実施形態)と比べると、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いにより強固に固定され得る。
【0033】
(第5実施形態)
第5実施形態では、図7に示されるように、第2の焼成体14の内壁14aの上端部は、内方に突出する。当該突出部分は、水受け面10aからの水撥ねを防ぐことができる。
【0034】
(第6実施形態)
第6実施形態では、図8に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bは、底壁12aから上方に向かって真っすぐ伸びる部分と、当該部分から外方に分岐して延びる第1の分岐部分と、を備える。第2の焼成体14の外壁14cは、その上端から下方に向かって真っすぐ伸びる部分と、当該部分から内方に分岐して延びる第2の分岐部分と、を備える。第1の分岐部分の第1の当接面c1と第2の分岐部分の第2の当接面c2とが当接する。第1の分岐部分の第3の当接面c3と第2の分岐部分の第4の当接面c4とが当接する。
【0035】
(第7実施形態)
第7実施形態では、図9に示されるように、第1の焼成体12と第2の焼成体14とは、衛生設備用部材10の下端部で嵌合する。第1の焼成体12の底壁12aは、下方に突出する部分を備える。第2の焼成体14は、外壁14cの下端部から内方に延びる下壁14dを備える。底壁12aの突出部分の第1の当接面c1と、下壁14dの第2の当接面c2と、が当接する。底壁12aの突出部分の第3の当接面c3と、下壁14dの第4の当接面c4とが当接する。
【0036】
(第8実施形態)
第8実施形態では、図10に示されるように、第1の焼成体12は、側壁12bの上端部から外方に延びる上壁12cを備える。上壁12cの外端部は、下方に突出する。上壁12cの第1の当接面c1と外壁14cの第2の当接面c2とが当接する。上壁12cの第3の当接面c3と外壁14cの第4の当接面c4とが当接する。
【0037】
(第9実施形態)
第9実施形態では、図11に示されるように、第1の焼成体12及び第2の焼成体14は、第8実施形態(即ち図10)の構造に加えて、それぞれの上端部が嵌まり合う構造を備える。
【0038】
(第10実施形態)
第10実施形態では、図12に示されるように、第1の焼成体12及び第2の焼成体14は、第8実施形態の構造(即ち図10)に加えて、第1の焼成体12の最も外側の側面と、第2の焼成体14の最も外側の側面と、が同一平面上に位置する。
【0039】
(第11実施形態)
第11実施形態では、図13に示されるように、第2の焼成体14は、第10実施形態(即ち図12)の構造に加えて、第1の焼成体12に挟まれている部分において第1の厚みを有し、第1の焼成体12に挟まれていない部分において第1の厚みよりも大きい第2の厚みを有する。
【0040】
(第12実施形態)
第12実施形態では、図14に示されるように、第2の焼成体14は、第11実施形態(即ち図13)の構造に加えて、その上部において、第1の焼成体12を挟み込むように構成されている。第1の焼成体12の最上面と、第2の焼成体14の最上面と、は同一平面上に位置する。
【0041】
(第13実施形態)
図15及び図16を参照して、第13実施形態の衛生設備用部材30を説明する。衛生設備用部材30は、第1実施形態の洋風の大便器に代えて、洗面台である。衛生設備用部材30は、水受け面30aと意匠面30bと排水口30cと給水口30dとを備える。
【0042】
図16に示されるように、第1の焼成体12は、底壁12aと側壁12bとを備える。側壁12bは、外方に延びる段差を有する。第2の焼成体14は、内壁14aと上壁14bとを備える。第1の焼成体12の側壁12bの内側面と第2の焼成体14の内壁14aの内側面とは、同一平面上に位置する。この構成によると、水受け面30a側に段差ができないので、ユーザが清掃しやすい。側壁12bの第1の当接面c1と内壁14aの第2の当接面c2とが当接する。側壁12bの第3の当接面c3と内壁14aの第4の当接面c4とが当接する。
【0043】
(第14実施形態)
以下、図17図29を参照して、第1実施形態とは異なる構造を有する洗面台である衛生設備用部材30の第14~第26実施形態を説明する。図17図29では、基本的には、第13実施形態と同じ符号を付している。特に、水平方向の内向きと外向きとで当接する各当接面を符号c1,c2で表現し、鉛直方向の上向きと下向きとで当接する各当接面を符号c3,c4で表現する。
【0044】
第14実施形態では、図17に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bは、段差を有していない。
【0045】
(第15実施形態)
第15実施形態では、図18に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bの上端部は、内方に突出する。第1の当接面c1は、当該突出部分に位置する。
【0046】
(第16実施形態)
第16実施形態では、図19に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bの上端部は、内方に突出する。第2の焼成体14の内壁14aの下端部は、外方に突出する。側壁12bの第5の当接面c5と内壁14aの第6の当接面c6とが当接する。この構成によると、2か所で当接する構成(例えば第13実施形態)と比べると、第1の焼成体12と第2の焼成体14とが互いにより強固に固定され得る。
【0047】
(第17実施形態)
第17実施形態では、図20に示されるように、第2の焼成体14の内壁14aの上端部は、内方に突出する。当該突出部分は、水受け面10aからの水撥ねを防ぐことができる。
【0048】
(第18実施形態)
第18実施形態では、図21に示されるように、第1の焼成体12と第2の焼成体14とは、衛生設備用部材30の下端部で嵌合する。第1の焼成体12は、さらに、側壁12bの外側に位置する側壁12gを備える。第2の焼成体14は、さらに、上壁14bから下方に延びる外壁14cを備える。外壁14cは、内方に延びる段差を有する。側壁12gの第1の当接面c1と外壁14cの第2の当接面c2とが当接する。側壁12gの第3の当接面c3と外壁14cの第4の当接面c4とが当接する。
【0049】
(第19実施形態)
第19実施形態では、図22に示されるように、第1の焼成体12の底壁12aは、下方に突出する。第2の焼成体14は、さらに、外壁14cの下端部から内方に延びる下壁14dを備える。下壁14dの内端部は、上方に突出する。底壁12aの突出部分の第1の当接面c1と下壁14dの突出部分の第2の当接面c2とが当接する。底壁12aの第3の当接面c3と下壁14dの突出部分の第4の当接面c4とが当接する。
【0050】
(第20実施形態)
第20実施形態では、図23に示されるように、第1の焼成体12の側壁12bの上面には、複数個(本実施形態では二個)の窪み12dが形成されている。第2の焼成体14の上壁14bの下面には、複数個(本実施形態では二個)の突起14eが形成されている。焼成前の状態では、第1のセラミック部材の各窪み12dは、第2のセラミック部材の各突起14eよりも大きい。従って、各突起14eを各窪み12dに挿入することができる。各突起14eが各窪み12dに挿入された状態において、第1及び第2のセラミック部材が焼成される。この際に、第1のセラミック部材が大きく収縮するので、各窪み12dが小さくなる。この結果、各突起14eが各窪み12dに強く嵌まり込んだ状態になる。本実施形態では、第1の焼成体12の各窪み12dを画定する面が「第1の当接面」の一例であり、第2の焼成体14の各突起14eを画定する面が「第2の当接面」の一例である。便器についても、本実施形態と同様の構造が採用されてもよい。
【0051】
(第21実施形態)
第21実施形態では、図24に示されるように、第1の焼成体12は、さらに、側壁12bの上端部から外方に延びる上壁12eと、上壁12eの外端部から下方に延びる側壁12fと、を備える。第2の焼成体14は、さらに、上壁14bの内端部から下方に延びる外壁14cと、外壁14cの下端部から内方に延びる下壁14fと、下壁14fの内端部から上方に延びる内壁14gと、を備える。側壁12fは、外壁14cと内壁14gとによって挟まれている。側壁12fの第1の当接面c1と内壁14gの第2の当接面c2とが当接する。上壁12eの第3の当接面c3と内壁14gの第4の当接面c4とが当接する。
【0052】
(第22実施形態)
第22実施形態では、図25に示されるように、第2の焼成体14は、外壁14cのみによって構成される。側壁12fの第1の当接面c1と外壁14cの第2の当接面c2とが当接する。上壁12eの第3の当接面c3と外壁14cの第4の当接面c4とが当接する。
【0053】
(第23実施形態)
第23実施形態では、図26に示されるように、第1の焼成体12及び第2の焼成体14は、第22実施形態の構造(即ち図25)に加えて、第1の焼成体12の最も外側の側面と、第2の焼成体14の最も外側の側面と、が同一平面上に位置する。
【0054】
(第24実施形態)
第24実施形態では、図27に示されるように、第2の焼成体14は、第23実施形態(即ち図26)の構造に加えて、第1の焼成体12に挟まれている部分において第1の厚みを有し、第1の焼成体12に挟まれていない部分において第1の厚みよりも大きい第2の厚みを有する。
【0055】
(第25実施形態)
第25実施形態では、図28に示されるように、第2の焼成体14は、第24実施形態(即ち図27)の構造に加えて、その上部において、第1の焼成体12を挟み込むように構成されている。第1の焼成体12の最上面と、第2の焼成体14の最上面と、は同一平面上に位置する。
【0056】
(第26実施形態)
第26実施形態では、図29に示されるように、第1の焼成体12及び第2の焼成体14は、第22実施形態(即ち図25)の構造に加えて、それぞれの上端部が嵌まり合う構造を備える。
【0057】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明した。これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0058】
本明細書、及び図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書及び図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0059】
10、30:衛生設備用部材、10a、30a:水受け面、10b、30b:意匠面、12:第1の焼成体、12a:底壁、12b:側壁、14:第2の焼成体、14a:内壁、14b:上壁、14c;外壁、22:第1のセラミック部材、24:第2のセラミック部材、c1:第1の当接面、c2:第2の当接面、c3:第3の当接面、c4:第4の当接面、d1:内側面、d2:外側面、d3:上面、d4:下面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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