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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051596
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/70 20200101AFI20230404BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20230404BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20230404BHJP
   A61K 6/889 20200101ALI20230404BHJP
【FI】
A61K6/70
A61K6/887
A61K6/836
A61K6/889
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162412
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】志田 円造
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏治
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BA11
4C089BA14
4C089BE02
4C089BE03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】X線造影性と保存安定性を両立する歯科用組成物を提供する。
【解決手段】酸性成分、及び、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末、を含有する、歯科用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性成分、及び、
原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末、を含有する、
歯科用組成物。
【請求項2】
前記フッ化ランタノイド粉末が、フッ化ランタン粉末、フッ化セリウム粉末、フッ化プラセオジム、又はフッ化ネオジム粉末である、
請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記酸性成分が、ポリカルボン酸である、
請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記歯科用組成物がペースト状である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
更に、アルミノシリケートガラスを含有する、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
第1剤及び第2剤を含有する歯科用組成物であって、
前記第1剤は、
酸性成分、及び、
原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末、を含有する、
歯科用組成物。
【請求項7】
前記フッ化ランタノイド粉末が、フッ化ランタン粉末、フッ化セリウム粉末、フッ化プラセオジム、又はフッ化ネオジム粉末であり、
前記第1剤は、さらにポリアクリル酸、を含有し、
前記第2剤は、
アルミノシリケートガラスと、(メタ)アクリレートと、を含有する、
請求項6に記載の歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用組成物からなる歯科材料を用いて口腔内の補綴を行った際、材料の位置を確認できるように、歯科用組成物にX線造影性(不透過性)が求められている。
【0003】
X線造影性を示す物質としては、例えば、三フッ化イッテルビウム(例えば、特許文献1参照)、バリウムガラス(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7-76164号公報
【特許文献2】特開2000-102548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、歯科用組成物の中には酸性成分を含むものがあり、同一の剤に、酸性成分及び三フッ化イッテルビウムやバリウムガラスを共存させると保存中に反応が起き、使用時に適切に使用できないという保存安定性の問題がある。
【0006】
本発明の課題は、X線不透過性と保存安定性を両立する歯科用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る歯科用組成物は、酸性成分、及び、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末、を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、X線不透過性と保存安定性を両立する歯科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0010】
本実施形態に係る歯科用組成物は、酸性成分、及び、フッ化ランタノイド粉末、を含有する。
【0011】
本明細書において、歯科用組成物とは、歯科材料に用いられる組成物を示す。
【0012】
本実施形態の歯科用組成物に含まれる酸性成分は、酸基を有し、水に溶けると酸性(pH7.0未満)になる成分である。酸性成分としては、特に限定されず、無機酸、有機酸が使用できる。
【0013】
無機酸としては、例えば、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸などが挙げられる。これらの中でも、人体に対する安全性の観点から、リン酸が好ましい。
【0014】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、安息香酸などのモノカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸、フタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、ヘミメラニン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、アグリン酸、クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸などのトリカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、又はピロメリット酸、メリット酸などのマルチカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、及びポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、重合性が高く、歯科用組成物の充填性又は接着性を向上させる観点から、ポリカルボン酸が好ましい。また、歯科用組成物中でフッ化ランタノイド粉末の酸化反応を和らげる観点から、酸性成分として酒石酸を含有することが好ましい。
【0016】
ポリカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、α-β不飽和モノカルボン酸あるいはα-β不飽和ジカルボン酸の単独重合体及び共重合体が挙げられる。
【0017】
単独重合体及び共重合体を構成するα-β不飽和モノカルボン酸又はα-β不飽和ジカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸が挙げられる。
【0018】
これらのポリカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらのポリカルボン酸の中でも、歯科用組成物の充填性又は接着性を更に向上させる観点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸が好ましく、より好ましくはポリアクリル酸である。
【0019】
ポリカルボン酸の重量平均分子量としては、特に限定されないが、5000以上40000以下であることが好ましい。ポリカルボン酸は、通常は液体成分に配合されるが、粉成分に配合されてもよい。
【0020】
酸性成分の含有量は、特に限定されない。酸性成分の含有量としては、例えば、歯科用組成物中に1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは7質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上35質量%以下である。歯科用組成物中の酸性成分の含有量が1質量%以上50質量%以下であると、歯科用組成物をペースト状にすることができるため、歯科用組成物としての扱いが容易になる。
【0021】
本実施形態の歯科用組成物に含まれるフッ化ランタノイド粉末は、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末である。
【0022】
本明細書において、フッ化ランタノイド粉末は、フッ化ランタノイドの形態が粉末(又は粉体)であることを示す。歯科用組成物中のフッ化ランタノイドの形態が粉末であることにより、フッ化ランタノイドが歯科用組成物に配合しやすくなる。
【0023】
フッ化ランタノイド粉末の粒径は、500μm以下であり、好ましくは0.01μm以上150μm以下、より好ましくは0.05μm以上100μm以下、更に好ましくは0.1μm以上25μm以下である。ここで、粒径、メジアン径(d50)で定義される平均粒径を意味する。
【0024】
フッ化ランタノイド粉末の粒径が500μm以下であると、歯科用組成物の硬化体の強度の低下が抑制され、150μm以下であると沈殿、液分離を防止することができる。また、フッ化ランタノイド粉末の粒径が100μm以下であると、歯科用組成物の充填性及び操作性を向上させることができ、25μm以下であると、合着材に配合した場合に被膜が厚すぎることによる補綴物の浮き上がりを避けることができる。
【0025】
原子番号が66以下のランタノイドは、原子番号が57~66までのランタノイドである。具体的には、La(ランタン)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)である。
【0026】
これらの原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
これらの中でも、歯科用組成物中の耐酸性が高く、高いX線造影性を有する観点から、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムの少なくとも1種のランタノイドのフッ化物粉末(フッ化ランタン、フッ化セリウム、フッ化プラセオジム、及びフッ化ネオジム)が好ましい。更に、歯科用組成物の製品コストの観点からフッ化ランタン、フッ化セリウム、フッ化ネオジムがより好ましい。
【0028】
フッ化ランタノイド粉末の含有量は、特に限定されない。フッ化ランタノイド粉末の含有量としては、例えば、歯科用組成物中に1質量%以上90質量%以下であり、好ましくは5質量%以上75質量%以下、より好ましくは10質量%以上45質量%以下である。
【0029】
歯科用組成物中のフッ化ランタノイド粉末の含有量が1質量%以上であることにより、フッ化ランタノイド粉末のX線造影剤としての効果が高くなる。また、歯科用組成物中のフッ化ランタノイド粉末の含有量が90質量%以下であることにより、歯科用組成物中の他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0030】
フッ化ランタノイド粉末の酸性成分に対する質量比は、特に限定されないが、例えば、1質量%以上400質量%以下であり、好ましくは1質量%以上300質量%以下、より好ましくは10~200質量%である。
【0031】
酸性成分に対するフッ化ランタノイド粉末の質量比が1質量%以上であると、フッ化ランタノイド粉末のX線造影剤としての効果が高くなる。また、酸性成分に対するフッ化ランタノイド粉末の質量比が400質量%以下であると、酸性成分を含む他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0032】
なお、X線造影性が得られるバリウムガラスや、原子番号が66を超えるフッ化ランタノイド(例えば、フッ化イッテルビウム)は、酸性成分が含まれる歯科用組成物に用いられた場合、酸性成分と反応し、一定期間保存後に硬化してしまうため、使用できなくなる。また、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムを含むガラスを、同じ条件で用いても、ガラス部分が酸性成分と反応し、保存後に使用できなくなる。
【0033】
これに対して、本実施形態の歯科用組成物では、酸性成分、及び、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末を用いることにより、酸性環境下の保存性を向上させることができる。また、本実施形態の歯科用組成物では、酸性環境下の保存性が向上することで、フッ化ランタノイド粉末のX線造影剤としての機能が維持され、高いX線造影性を維持することができる。
【0034】
本実施形態の歯科用組成物は、更に、フッ化ランタノイド粉末以外の充填材(フィラー)を含有していてもよい。このようなフィラーは、特に限定されないが、アルミノシリケートガラスであることが好ましく、より好ましくはフルオロアルミノシリケートガラスである。ここで、フルオロアルミノシリケートガラスは、アルミニウム及びケイ素の酸フッ化物ガラスであり、フッ素徐放性を付与することができるガラスである。
【0035】
フルオロアルミノシリケートガラスの組成としては、特に限定されず、例えば、イオンの質量比で、ケイ素10質量%以上33質量%以下、アルミニウム4質量%以上30質量%以下、アルカリ土類金属5質量%以上36質量%以下、アルカリ金属0質量%以上10質量%以下、リン0.2質量%以上16質量%以下、フッ素2質量%以上40質量%以下、残量が酸素である。
【0036】
なお、フルオロアルミノシリケートガラス中の、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムが好ましい。また、アルカリ金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウムが好ましく、中でもナトリウムがより好ましい。更に必要に応じて、上記アルミニウムの一部をチタン、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタン等で置き換えたものも使用可能である。
【0037】
このようなフルオロアルミノシリケートガラスは、例えば、シリカ、アルミナ、フルオライト、クリオライト、フッ化アルミニウム等の金属化合物を混合し、1100~1300℃で焼結し、次いで粉砕する方法、或いはゾルゲル法などにより製造できる。無機充填剤は、シランカップリング剤等の表面処理剤を用いて公知の方法で表面処理して使用に供することもできる。
【0038】
シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0039】
また、フルオロアルミノシリケートガラスは、他の成分との練和性を向上させる目的で、該フルアオロアルミノシリケートガラスを高分子化合物等でコーティングしてもよい。
【0040】
アルミノシリケートガラスの含有量は、特に限定されない。フルオロアルミノシリケートガラスの含有量としては、例えば、歯科用組成物中に1質量%以上40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上35質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
【0041】
フルオロアルミノシリケートガラスの歯科用組成物中の含有量が、1質量%以上であると、歯科用組成物にフッ素徐放性を付与することができる。また、フルオロアルミノシリケートガラスの歯科用組成物中の含有量が、40質量%以下であると、歯科用組成物中の他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0042】
本実施形態の歯科用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、その他の成分を含有してもよい。歯科用組成物に含まれるその他の成分としては、例えば、重合性単量体、重合開始剤、重合禁止剤、フィラー、溶媒が挙げられる。
【0043】
重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、重合性単量体は、ラジカル重合性単量体であることが好ましく、(メタ)アクリレートであることが更に好ましい。
【0044】
本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイルオキシ基を1個以上有する。また、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、メタクリロイルオキシ基及び/又はアクリロイルオキシ基を意味する。
【0045】
ラジカル重合性単量体としては、例えば、α-シアノアクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル、α-ハロアクリル酸エステル、クロトン酸エステル、桂皮酸エステル、ソルビン酸エステル、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル、ビニルエーテル、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルが更に好ましい。
【0046】
一官能性のラジカル重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0047】
二官能性のラジカル重合性単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
三官能性以上のラジカル重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N'-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0049】
これら重合性単量体トは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0050】
歯科用組成物中の重合性単量体の含有量は、特に限定されず、例えば、歯科用組成物中に0.1質量%以上50質量%以下にすることができ、好ましくは0.5質量%以上35質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上25質量%以下である。歯科用組成物中の重合性単量体の含有量が0.1質量%以上であると、歯科用組成物の歯質に対する接着性が更に向上し、50質量%以下であると、歯科用組成物中の他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0051】
重合開始剤としては、例えば、化学重合開始剤及び光重合開始剤が挙げられる。
【0052】
化学重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、チオ尿素誘導体、バナジウム化合物、第3級アミン、有機過酸化物を用いることができる。
【0053】
チオ尿素誘導体は、化学重合開始剤の中でも、還元剤として機能する。
【0054】
チオ尿素誘導体としては、特に限定されず、例えば、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、N-プロピルチオ尿素、N-ブチルチオ尿素、N-ラウリルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-シクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジプロピルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、N,N-ジラウリルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素、1-(2-テトラヒドロフルフリル)-2-チオ尿素、N-tert-ブチル-N'-イソプロピルチオ尿素、2-ピリジルチオ尿素等が挙げられる。
【0055】
これらのチオ尿素誘導体、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性を向上させる点で、N-ベンゾイルチオ尿素が好ましい。
【0056】
歯科用組成物中のチオ尿素誘導体の含有量は、特に限定されないが、歯科用組成物中に0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。歯科用組成物中のチオ尿素誘導体の含有量が0.1質量%以上であると、歯科用組成物の硬化性が更に向上し、10質量%以下であると、歯科用組成物におけるチオ尿素誘導体の(メタ)アクリレートに対する溶解性が向上する。
【0057】
バナジウム化合物は、化学重合開始剤の中でも還元剤として機能する。
【0058】
バナジウム化合物としては、特に限定されず、例えば、シュウ酸オキソバナジウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート等が挙げられ、二種以上併用してもよい。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性の点で、バナジルアセチルアセトネートが好ましい。
【0059】
歯科用組成物中のバナジウム化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.0015質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.002質量%以上3質量%以下である。歯科用組成物中のバナジウム化合物の含有量が0.001質量%以上であると、歯科用組成物の硬化性が更に向上し、10質量%以下であると、歯科用組成物の保存安定性が更に向上する。
【0060】
第3級アミンは、化学重合開始剤の中でも、還元剤として機能する。
【0061】
第3級アミンは、特に限定されず、例えば、第3級脂肪族アミン、第3級芳香族アミンが挙げられる。
【0062】
第3級脂肪族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0063】
第3級芳香族アミンとしては、例えば、p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル、7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン、N,N,2,4-テトラメチルアニリン、N,N-ジエチル-2,4,6-トリメチルアニリン等が挙げられる。
【0064】
第3級アミンは、これらの中でも、第3級芳香族アミンが好ましく、より好ましくはp-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルである。
【0065】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルとしては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、p-ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0066】
これらの第3級アミンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
有機過酸化物は、化学重合開始剤の中でも、酸化剤として機能する。
【0068】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、p-ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、p-メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0069】
これらの有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性の点で、クメンヒドロペルオキシドが好ましい。
【0070】
歯科用組成物中の有機過酸化物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。歯科用組成物中の有機過酸化物の含有量が0.01質量%以上であると、歯科用組成物の硬化性が更に向上し、10質量%以下であると、歯科用組成物の操作余裕時間が長くなる。
【0071】
光重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、カンファーキノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0072】
これらの光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性を向上させる点で、カンファーキノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドが好ましい。
【0073】
歯科用組成物中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.005質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上33質量%以下である。歯科用組成物中の光重合開始剤の含有量が0.001質量%以上であると、歯科用組成物の硬化性が更に向上し、10質量%以下であると、歯科用組成物の保存安定性が更に向上する。
【0074】
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。
【0075】
これらの重合禁止剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性を向上させる点で、ジブチルヒドロキシトルエンが好ましい。
【0076】
歯科用組成物中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、含有する場合は0.001質量%以上5質量%以下にすればよく、好ましくは0.005質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。歯科用組成物中の重合禁止剤の含有量が0.001質量%以上5質量%以下であると、歯科用組成物の保存安定性が向上する。
【0077】
粘度調整剤としては、特に限定されず、例えば、粒径が0.07μm以下であり、好ましくは0.5μm以上0.05μm以下の微細フィラーが用いられる。このような微細フィラーとしては、例えば、シリカ微粉末、アルミナ微粉末、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)が挙げられる。これらの粘度調整剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0078】
粘度調整剤の配合量は、特に限定されず、例えば、歯科用組成物中に0.01質量%以上25質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下である。歯科用組成物中の粘度調整剤の配合量が0.01質量%以上15質量%以下であると、歯科用組成物の硬化物の機械的強度が向上し、表面滑沢性の低下が抑制される。
【0079】
溶媒は、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒が挙げられる。
【0080】
有機溶媒としては、例えば、エタノール、アセトン、プロパノール、グリセリン等が挙げられる。
【0081】
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酸化物粉末と反応せず、歯科用組成物の歯質に対する濡れ性を向上させる観点からグリセリンを水に混合した溶媒が好ましい。
【0082】
溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、歯科用組成物中に5質量%以上50質量%以下であり、好ましくは10質量%以上40質量%以下、より好ましくは20質量%以上35質量%以下である。
【0083】
本実施形態の歯科用組成物は、第1剤及び第2剤を含有する歯科用組成物として構成してもよい。
【0084】
第1剤は、酸性成分と、上述のフッ化ランタノイド粉末、を含有する剤、を含有する。
【0085】
第1剤中の酸性成分としては、特に限定されないが、例えば、上述の酸性成分が用られる。具体的には、第1剤中の酸性成分は、上述のポリカルボン酸であり、好ましくは上述のポリアクリル酸である。
【0086】
第1剤中の酸性成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤中に1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは7質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上35質量%以下である。第1剤中の酸性成分の含有量が1質量%以上50質量%以下であると、他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0087】
第1剤中のフッ化ランタノイド粉末としては、特に限定されないが、上述のフッ化ランタノイド粉末が用いられる。具体的には、第1剤中のフッ化ランタノイド粉末は、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末であり、好ましくは、上述のランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムの少なくとも1種のランタノイドのフッ化物粉末である。
【0088】
第1剤中のフッ化ランタノイド粉末の含有量は、特に限定されない。フッ化ランタノイド粉末の含有量としては、例えば、第1剤中に1質量%以上90質量%以下であり、好ましくは5質量%以上75質量%以下、より好ましくは10質量%以上45質量%以下である。
【0089】
第1剤中のフッ化ランタノイド粉末の含有量が1質量%以上であることにより、フッ化ランタノイド粉末のX線造影剤としての効果が高くなる。また、第1剤中のフッ化ランタノイド粉末の含有量が90質量%以下であることにより、第1剤中の他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0090】
また、第1剤は、その他の成分として、上述の重合開始剤、粘度調整剤、溶媒を含有することができる。
【0091】
このような、第1剤としては、例えば、上述の歯科用組成物を構成する剤を用いることができる。
【0092】
第1剤は、ポリカルボン酸を含有することで、ペースト状にすることができる。そのため、第1剤は、歯科用組成物を構成する剤として扱いが容易になる。
【0093】
第2剤は、アルミノシリケートガラスと、(メタ)アクリレートと、を含有する。
【0094】
第2剤中のアルミノシリケートガラスとしては、特に限定されないが、例えば、上述のアルミノシリケートガラスが用いられる。具体的には、第2剤中のアルミノシリケートガラスは、上述のアルミノシリケートガラスであり、好ましくはフルオロアルミノシリケートガラスである。
【0095】
第2剤中のアルミノシリケートガラスの含有量は、特に限定されない。フルオロアルミノシリケートガラスの含有量としては、例えば、第2剤中に10質量%以上85質量%以下であり、好ましくは15質量%以上80質量%以下、より好ましくは20質量%以上75質量%以下である。
【0096】
フルオロアルミノシリケートガラスの第2剤中の含有量が10質量%以上であると、第2剤を含む歯科用組成物に十分なフッ素徐放性を付与することができる。また、フルオロアルミノシリケートガラスの第2剤中の含有量が85質量%以下であると、歯科用組成物中の他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0097】
第2剤中の(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、上述のその他の成分に含まれる重合性単量体が用いられる。具体的には、第2剤中の(メタ)アクリレートは、上述のその他の成分である重合性単量体であり、好ましくは上述の(メタ)アクリレートである。
【0098】
第2剤中の(メタ)アクリレートの含有量は、特に限定されず、例えば、第2剤中に0.1質量%以上50質量%以下にすることができ、好ましくは0.5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。第2剤中の重合性単量体の含有量が0.1質量%以上であると、第2剤を含む歯科用組成物の歯質に対する接着性が更に向上し、50質量%以下であると、歯科用組成物中の他成分の配合量を確保でき、歯科用組成物としての物性が向上する。
【0099】
また、第2剤は、その他の成分として、上述の重合開始剤、粘度調整剤、溶媒を含有することができる。
【0100】
第2剤は、(メタ)アクリレートを含有することで、ペースト状にすることができる。そのため、第2剤は、歯科用組成物を構成する他の剤として扱いが容易になる。
【0101】
本実施形態の歯科用組成物の第1剤と第2剤の質量比は、通常、10:1~1:10であり、好ましくは1:5~5:1であり、より好ましくは1:3~3:1である。第1剤と第2剤の質量比が10:1~1:10であることにより、組成物中の反応成分の比率が適切となり、物性の向上に寄与する。
【0102】
本実施形態の歯科用組成物では、第1剤と第2剤を練和して用いることができる。
【0103】
本実施形態では、上述のように、歯科用組成物が第1剤及び第2剤を含む場合にも、第1剤が、酸性成分、及び、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末を用いることにより、酸性環境下の保存性を向上させることができる。
【0104】
本実施形態の歯科用組成物の用途は、特に限定されないが、例えば、各種歯科材料に用いることができる。ここで、歯科材料としては、例えば、歯科用セメント、歯科用接着剤、歯科用仮封材、歯科用プライマー、歯科用コート材、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用レジン材料、歯科用暫間修復材、歯科用充填剤、歯磨剤などが挙げられる。これらの中でも、歯科用セメントに好適に用いられる。
【実施例0105】
以下、本発明について、更に実施例を用いて説明する。なお、以下において、単位のない数値又は「%」は、特に断りのない限り、質量基準(質量%)である。
【0106】
<第1剤の調製>
[実施例1~6、比較例1、2]
表1に示す組成(質量%)で、X線造影剤、酸性成分、重合開始剤、粘度調整剤、及び溶媒(水)を混合し、第1剤のペースト(以下第1ペーストという)を得た。
【0107】
<第2剤の調製>
[配合例1、2]
表2に示組成(質量%)で、フルオロアルミノシリケートガラス、重合性単量体、重合禁止剤、粘度調整剤、及び溶媒(水)を混合し、第2剤のペースト(以下、第2ペーストという)2を得た。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
第1ペーストについて、下記のように保存安定性を確認した。
【0111】
<保存安定性>
第1ペースト約2gを練和紙に取り、約15秒間、プラスチックのヘラを使用して練和紙を広く使ってペーストを練和してほぐす。ほぐしたペーストを稠度測定用のガラス管(内径10mm、0.5mLの位置に標線のついたもの)を用いて計量し、プラスチックシート上に静かに押し出す。
【0112】
この上にプラスチックシート、ガラス板(重量約20g)及びおもり(重量約100g)をのせ、その合計が120±0.5gになるようにし、荷重時から2分を経過したとき、おもり及びガラス板を除き、広がった試料の長径及び短径の平均を採って初期稠度とする。
【0113】
作成した第1ペーストを以下の基準で評価し、評価がAの場合は保存性が良好と判断し、評価がBの場合は保存性が不良と判断する。保存安定性の結果を、表1に示す。
【0114】
〔評価基準〕
A:作成直後の稠度が25mm以上であり、作成から23℃下で2週間静置した後の稠度を再測定し、初期値の80%以上である。
B:作成直後の稠度が25mm未満である、又は作成から23℃下で2週間静置した後の稠度を再測定したときに初期値の80%未満である。
【0115】
第1ペースト、第2ペーストを質量比1:1で混合練和し、硬化体を得た。得られた硬化体について、下記のようにX線造影性を確認した。なお、実施例1~5、比較例1、2のX線造影性は、第1ペーストとして実施例1~5に第2ペーストとして配合例1を混合したもののX線造影性を示す。また、実施例6のX線造影性は、第1ペーストとして実施例6に第2ペーストとして配合例2を混合したものX線造影性を示す。
【0116】
<X線造影性>
JIS Z 4711に規定する診断用一体型X線発生装置又は管電圧65±5kVで作動可能で、厚さ1.5mmのアルミニウム板を全透過する能力をもつものとして、デジタルX線ユニット又は単相歯科用X線ユニットを用いる。
【0117】
X線センサ咬合撮影用フィルムの大きさで、デジタルX線ユニットを用いるために校正する(例えば、電荷結合素子(CCD)、輝尽性蛍光板(イメージプレート)、及び適切なソフトウェア付き単相歯科用X線ユニットとともに用いるために校正されたものを用いる)。更に、階調解析ができるソフトウェアとして、階調解析に適するソフトウェアを用いる。
【0118】
アルミニウムステップウェッジとして、質量分率98%以上の純度(銅の質量分率0.1%未満,鉄の質量分率1.0%未満)のアルミニウム製であって、全体の寸法が長さ50×幅20mm、厚さが0.50±0.01mmごとの等間隔階段状で0.5~5.0mmの厚さ範囲をもつものを用いる。ウェッジは、すべての厚さの階段面がX線フィルムに対して平行で、かつX線に対して垂直にする。
【0119】
型として、直径15±1mmで、厚さ1.0±0.1mm又は1.00±0.01mmの試験片を作製できるものを用いる。フィルムとして、透明で、厚さ50±30μmのもの(例えば,ポリエステル製で、試料に粘着せず、ざらつきのないもの)を用いる。スライドグラス又はプレートとして、ガラス製、ステンレス鋼製又は平滑で堅い他の材料でできたものを用いる。
【0120】
恒温恒湿器として、37±1℃の温度、50%以上の湿度を維持できるものを用いる。マイクロメータ又は同等のものとして、JIS B 7502に規定するもので、読み取り値0.01mm以上のものを用いる。クランプとして、クリップ又は同等のもの(例えば、セメント硬化中、型を保持できるのもの)を用いる。
【0121】
研磨紙として、JIS R 6252又はJIS R 6253に適合するもの(P2000又はP2500)を用いる。鉛シートとして、厚さ2.0mm以上のものを用いる。更に、光照射器を用いる。
【0122】
スライドグラス又はプレートの上にフィルムを載せ、その上に型を置く。セメント練和物を押し出し、少し過剰に型に填入する。そのセメントの上にフィルムを置き、これにスライドグラス又はプレートを被せ、余剰のセメントを押し出す。これをクランプで加圧する。練和開始から3分後に一体物を37±1℃に保った恒温恒湿器に30分間入れる。
【0123】
型から試験片を取り出し、マイクロメータを用いて円板の中心付近の厚さを測定する。厚さが1.0±0.1mmの試験片だけを採用する。試験片が厚過ぎる場合には、研磨紙を用いて,規定された厚さになるまで研磨してもよい。試験片を23±1℃の蒸留水又は精製水に入れ、7日間以内に試験する。試験片の乾燥を防ぐために、試験片を水中から取り出してから30分以内に試験する。
【0124】
測定手順として、撮像の前に、デジタルX線機器のソフトウェアを用いて,自動濃度補正機能を無効にする。試験片の厚さ(TS)を、マイクロメータを用いて0.01mの精度で測定する。X線センサを鉛シートの上に置く。センサ中央部に、試験片及びステップウェッジを置く。自動濃度補正機能を用いず、カソードーX線センサ間距離を400mmにして、試験片及びステップウェッジにX線を照射する。
【0125】
照射時間を変えて照射を繰り返し、鮮明な像を得る。デジタル画像ファイルを、グレイ値の解析ができるソフトウェアへ転送する。グレイ値の解析ができるソフトウェアの計測ツールを用いて、試験片画像中に長方形領域を定め、その領域内の平均グレイ値を測定する。次に、ステップウェッジの各ステップ画像について、この手順を行う。
【0126】
ステップウェッジの階段ごとのグレイ値を各階段の厚さに対してプロットして、アルミニウム厚さとグレイ値との関係を求める。厚さTSの試験片のグレイ値に対するアルミニウム厚さ(Ta)を求める。試験片の単位厚さ(1.0mm)のX線造影性(アルミニウム相当)の値は、Ta、TSによって除して求める。X線造影性の結果は、表1に示す。
【0127】
表1より、酸性成分、及び、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末、を含有する剤、を含む、歯科用組成物(第1剤及び第2剤)(実施例1~5、実施例6)は、保存安定性及びX線造影性のいずれも良好であった。
【0128】
これに対して、原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末を含まない場合、及び原子番号が66以下のランタノイドのフッ化物粉末からなる群から選ばれる少なくとも1つのフッ化ランタノイド粉末の代わりにフッ化イッテルビウムを含む場合は、保存安定性が不良であった(比較例1、2)。
【0129】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。