(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051604
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】主材ペースト、及び歯科用アルギン酸塩印象材
(51)【国際特許分類】
A61K 6/90 20200101AFI20230404BHJP
【ＦＩ】
A61K6/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】ＯＬ
(21)【出願番号】P 2021162423
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】新関 尚史
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 裕紀
【テーマコード（参考）】
4C089
【Ｆターム（参考）】
4C089AA14
4C089BA16
4C089BC05
4C089BE16
4C089CA03
4C089CA06
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れる主材ペーストを提供すること。
【解決手段】歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、アルギン酸塩、水、及び０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩、を含有する、主材ペースト。
【選択図】なし
【解決手段】歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、アルギン酸塩、水、及び０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩、を含有する、主材ペースト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、
アルギン酸塩、水、及び
０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩、を含有する、
主材ペースト。
アルギン酸塩、水、及び
０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩、を含有する、
主材ペースト。
【請求項2】
前記カルボン酸塩は、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、及びソルビン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも１つである、
請求項１に記載の、主材ペースト。
請求項１に記載の、主材ペースト。
【請求項3】
請求項１又は２に記載の主材ペーストと、
ゲル化反応剤、及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペーストと、を有する、
歯科用アルギン酸塩印象材。
ゲル化反応剤、及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペーストと、を有する、
歯科用アルギン酸塩印象材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペースト、及び歯科用アルギン酸塩印象材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、補綴物を作製する際に、口腔内の印象を採得する印象材として、アルギン酸塩印象材が広く用いられている。アルギン酸塩印象材としては、アルギン酸塩及び水を含有する主材ペーストと、ゲル化反応剤及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペーストと、を有するアルギン酸塩印象材が知られている（例えば、特許文献１、２参照）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第２０１２／０６３６１８号
【特許文献2】国際公開第２０１４／０５００２８号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアルギン酸塩印象材では、保存期間が経過すると主材ペーストが劣化し、使用した際の初期硬化時間が遅延する等の保存安定性に問題がある。
【0005】
本発明の課題は、保存安定性に優れる主材ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る主材ペーストは、歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、アルギン酸塩、水、及び０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩、を含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、保存安定性に優れる主材ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
［主材ペースト］
本実施形態の主材ペーストは、後述する本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる。
本実施形態の主材ペーストは、後述する本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる。
【0010】
本明細書において、歯科用アルギン酸塩印象材は、水溶性のアルギン酸塩と石膏とを反応させると、不溶性のアルギン酸カルシウムが生成して硬化することを利用した、印象採得のための歯科用製剤である。また、主材ペーストは、歯科用アルギン酸塩印象材の基材を構成するペースト状の材である。
【0011】
主材ペーストは、アルギン酸塩と、水と、０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩を含む。
【0012】
アルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸のアルカリ金属塩、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸のアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、取り扱い容易性、後述する本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の物性等の観点から、アルギン酸のアルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸カリウムがさらに好ましい。
【0013】
なお、アルギン酸塩は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。二種以上を併用してもよい。
【0014】
また、アルギン酸塩の１質量％水溶液の２０℃における粘度は、０．００５Ｐａ・ｓ以上０．５Ｐａ・ｓ以下であることが好ましく、０．１Ｐａ・ｓ以上０．４Ｐａ・ｓ以下であることがさらに好ましい。アルギン酸塩の１質量％水溶液の２０℃における粘度が０．００５Ｐａ・ｓ以上であると、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象が破損しにくくなる。
【0015】
また、アルギン酸塩の１質量％水溶液の２０℃における粘度が０．４Ｐａ・ｓ以下であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなり、本実施形態の主材ペーストをアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0016】
主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば、１質量％以上２０質量％以下であり、好ましくは３質量％以上１８質量％以下、より好ましくは５質量％以上１５質量％以下である。
【0017】
主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量が、１質量％以上であると、本実施形態の主材ペーストを用いたアルギン酸塩印象材（以下、歯科用印象材という場合がある）を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象が破損しにくくなり、２０質量％以下であると、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0018】
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができ、次亜塩素酸ナトリウム等により殺菌処理されている水を用いてもよい。
【0019】
主材ペースト中の水の含有量は、特に限定されず、例えば、７５質量％以上９９質量％以下であり、好ましくは８０質量％以上９７質量％以下であり、より好ましくは８５質量％以上９５質量％以下であることがさらに好ましい。
【0020】
０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩（以下、カルボン酸塩という場合がある）は、ヒドロキシ基を持たない又は１～３個のヒドロキシ基を持ち、カルボキシ基の水素が１価のアルカリ金属で置換された基を少なくとも１個有する化合物である。
【0021】
ここで、カルボン酸塩を構成する１価のアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0022】
このようなカルボン酸塩は、例えば、プロピオン酸塩、ブタン酸塩、ペンタン酸塩、ヘキサン酸塩、オクタン酸塩等の飽和脂肪酸塩、２－ブテン酸塩、４－ペンテン酸塩、５－ヘキセン酸塩、５－オクテン酸塩、２，３－ブタジエン酸塩、２，４－ペンタジエン酸塩、２，４－ヘキサジエン酸塩、２，３－オクタジエン酸塩、５，７－オクタジエン酸塩等の不飽和脂肪酸塩、乳酸塩、ヒドロキシ酪酸塩、ヒドロキシ吉草酸塩等のヒドロキシ酸塩、安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩等の芳香族カルボン酸塩等、が挙げられる。
【0023】
なお、これらのカルボン酸塩を構成する炭素鎖は直鎖でも分岐でもよい。
【0024】
また、これらのカルボン酸塩は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのカルボン酸塩の中でも、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、及びソルビン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも１つであることが好ましい。
【0026】
主材ペースト中のカルボン酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば、０．０５質量％以上１０質量％以下であり、好ましくは０．０８質量％以上５質量％以下であり、より好ましくは０．１％以上２質量％以下である。
【0027】
主材ペースト中のカルボン酸塩の含有量が０．０５質量％以上であると、保存期間が経過しも主材ペーストが劣化しにくく、主材ペーストを使用した際の初期硬化時間が遅延しない等、主材ペーストの保存安定性を向上させることができる。主材ペースト中のカルボン酸塩の含有量が１０質量％以下であると、主材ペーストの粘度を低く抑制しながら、該粘度の低下を抑制することができる。
【0028】
２０℃における主材ペーストの粘度は、６Ｐａ・ｓ以上６０Ｐａ・ｓ以下であることが好ましく、８Ｐａ・ｓ以上５５Ｐａ・ｓ以下であることがより好ましい。６Ｐａ・ｓ以上であることにより印象精度が向上し、６０Ｐａ・ｓ以下であることにより、歯科用印象材の硬化体の強度が向上する。
【0029】
また、本実施形態の主材ペーストは、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、連合印象法に使用可能である。
【0030】
主材ペーストは、硬化遅延剤等をさらに含んでいてもよい。これにより、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材の操作時間が長くなる。
【0031】
硬化遅延剤としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。これらの硬化遅延剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0032】
主材ペースト中の硬化遅延剤の含有量は、特に限定されず、例えば、０．０１質量％以上１０質量％以下であり、好ましくは０．０５質量％以上５質量％以下であり、より好ましくは０．１質量％以上３質量％以下である。
【0033】
主材ペースト中の硬化遅延剤の含有量が０．０１質量％以上であると、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材の操作時間が長くなる、一方、主材ペースト中の硬化遅延剤の含有量が１０質量％以下であると、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材の初期硬化時間が短くなり、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材の硬化体の強度が向上する。
【0034】
主材ペーストは、本発明の目的を損なわない限り、その他の成分を含有してもよい。主材ペーストに含まれるその他の成分としては、充填剤、着色剤、防腐剤、消毒剤、香料、ｐＨ調整剤、界面活性剤等をさらに含んでいてもよい。
【0035】
充填剤を構成する材料としては、例えば、珪藻土、タルク、スメクタイト等の粘土鉱物、シリカ、アルミナ等の無機酸化物等が挙げられる。これらの充填剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0036】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0037】
主材ペーストの稠度は、特に限定されないが、３０ｍｍ以上であることが好ましい。主材ペーストの稠度が３０ｍｍ以上であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0038】
本実施形態の主材ペーストは、上述のように、アルギン酸塩、水、及び０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩、を含有する。これにより、本実施形態の主材ペーストは、保存期間が経過しても劣化しにくく、使用した際の初期硬化時間が遅延しない等、保存安定性の高い主材ペーストを得ることができる。
【0039】
また、本実施形態の主材ペーストは、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度にすることができ、低粘度のまま粘度の低下を抑制することができる。そのため、本実施形態の主材ペーストは、連合印象法（未硬化の２種の材料を重ね合わせる方法）に使用することが可能である。
【0040】
また、本実施形態の主材ペーストでは、上述のように、カルボン酸塩として、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、及びソルビン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも１つが用いられる。これにより、主材ペーストは保存期間経過後でもさらに劣化しにくく、初期硬化時間の遅延を抑制することができるため、保存安定性に優れた主材ペーストを得ることができる。
【0041】
［歯科用アルギン酸塩印象材］
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストと、を有する。
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストと、を有する。
【0042】
主材ペーストには、上述した本実施形態の主材ペーストが用いられる。具体的には、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材に含まれる主材ペーストには、上述のように、アルギン酸塩と、水と、０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩が含まれる。
【0043】
歯科用アルギン酸塩印象材中のアルギン酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば、０．２５～１５質量％であり、好ましくは２質量％以上１０質量％以下、より好ましくは３質量％以上８質量％以下である。
【0044】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中のアルギン酸塩の含有量が０．５質量％以上であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象が破損しにくくなる。一方、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中のアルギン酸塩の含有量が１０質量％以下であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0045】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中の水の含有量は、特に限定されず、例えば、４０質量％以上７５質量％以下であり、好ましくは４５質量％以上７０質量％以下であり、より好ましくは５０質量％以上６５質量％以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中のカルボン酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば、０．０１質量％以上７質量％以下であり、好ましくは０．０３質量％以上５質量％以下であり、より好ましくは０．０５％以上１．５質量％以下である。
【0047】
主材ペースト中のカルボン酸塩の含有量が０．０５質量％以上であると、保存期間が経過しも主材ペーストが劣化しにくく、主材ペーストを使用した際の初期硬化時間が遅延しない等、主材ペーストの保存安定性を向上させることができる。主材ペースト中のカルボン酸塩の含有量が１０質量％以下であると、主材ペーストの粘度を低く抑制しながら、該粘度の低下を抑制することができる。
【0048】
［硬化材ペースト］
硬化材ペーストは、主材ペーストに混合され、歯科用アルギン酸塩印象材を硬化させる材である。
硬化材ペーストは、主材ペーストに混合され、歯科用アルギン酸塩印象材を硬化させる材である。
【0049】
硬化材ペーストは、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む。
【0050】
ゲル化反応剤としては、２価以上の金属の化合物を用いることができる。
【0051】
２価以上の金属の化合物としては、特に限定されず、例えば、２価以上の金属及びその塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。これらは、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0052】
２価以上の金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、チタン、ジルコニウム、スズ等が挙げられる。
【0053】
２価以上の金属の塩としては、例えば、硫酸カルシウム二水和物（ＣａＳＯ４・２Ｈ２Ｏ）、硫酸カルシウム半水和物（ＣａＳＯ４・１／２Ｈ２Ｏ）、無水硫酸カルシウム（ＣａＳＯ４）等が挙げられる。
【0054】
２価以上の金属の酸化物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ等が挙げられる。
【0055】
２価以上の金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化鉄等が挙げられる。
【0056】
硬化材ペースト中のゲル化反応剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは１０質量％以上６０質量％以下である。硬化材ペースト中のゲル化反応剤の含有量が１０質量％以上であると、硬化材ペーストを用いた歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の強度が向上し、６０質量％以下であると、該歯科用印象材の操作時間が長くなる。
【0057】
難水溶性液状化合物としては、ゲル化反応剤をペースト化することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、炭化水素化合物、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーンオイル等が挙げられる。これらは、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0058】
本明細書において、難水溶性とは、２０℃における水１００ｇに対する溶解度が５ｇ以下であることを意味する。
【0059】
炭化水素化合物は、鎖式化合物及び環式化合物のいずれであってもよい。炭化水素化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、２，７－ジメチルオクタン、１－オクテン、シクロヘプタン、シクロノナン、ケロシン、流動パラフィン等が挙げられる。
【0060】
脂肪族アルコールは、飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アルコールのいずれであってもよい。脂肪族アルコールとしては、例えば、１－ヘキサノール、１－オクタノール、シトロネロール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0061】
芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、ｍ－クレゾール等が挙げられる。
【0062】
脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0063】
脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0064】
脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルのいずれであってもよい。
【0065】
脂肪酸エステルとしては、例えば、オクタン酸エチル、フタル酸ブチル、オレイン酸グリセリド、オリーブ油、ごま油、肝油、鯨油等が挙げられる。
【0066】
シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリフェニルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。
【0067】
硬化材ペースト中の難水溶性液状化合物の含有量は、１０質量％以上５０質量％以下であることが好ましく、１５質量％以上３０質量％以下であることがさらに好ましい。硬化材ペースト中の難水溶性液状化合物の含有量が１０質量％以上であると、該硬化材ペーストを用いた本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の操作性が向上し、５０質量％以下であると、該歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の強度が向上する。
【0068】
硬化材ペーストは、ポリブテンをさらに含むことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の硬化性が向上すると共に、該歯科用アルギン酸塩印象材の操作時間が長くなる。
【0069】
ポリブテンは、液状であることが好ましい。ポリブテンは、イソブテンと１－ブテンを共重合することにより、合成することができる。ポリブテンの数平均分子量は、３００～４０００であることが好ましい。
【0070】
硬化材ペースト中のポリブテンの含有量は、０．５質量％以上３０質量％以下であることが好ましく、１質量％以上２０質量％以下であることがさらに好ましい。硬化材ペースト中のポリブテンの含有量が０．５質量％以上３０質量％以下であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の操作性が向上する。
【0071】
硬化材ペーストは、硬化遅延剤をさらに含むことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の操作時間が長くなる。
【0072】
硬化遅延剤としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。これらの硬化遅延剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0073】
硬化材ペースト中の硬化遅延剤の含有量は、０．０１質量％以上１０質量％以下であることが好ましい。硬化材ペースト中の硬化遅延剤の含有量が０．０１質量％以上であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の操作時間が長くなり、１０質量％以下であると、該歯科用アルギン酸塩印象材の初期硬化時間が短くなり、該歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の強度が向上する。
【0074】
硬化材ペーストは、充填剤、硬化調整剤、界面活性剤、着色剤、防腐剤、消毒剤、香料、ｐＨ調整剤等をさらに含んでいてもよい。
【0075】
充填剤を構成する材料としては、例えば、珪藻土、タルク、スメクタイト等の粘土鉱物、シリカ、アルミナ等の無機酸化物等が挙げられる。これらの充填剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0076】
硬化調整剤としては、例えば、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等が挙げられる。これらの硬化調整剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0077】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、１種を単独で用いてもよく、又は２種以上を併用してもよい。
【0078】
硬化材ペーストの稠度は、特に限定されないが、３０ｍｍ以上であることが好ましい。硬化材ペーストの稠度が３０ｍｍ以上であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を従来のアルギン塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0079】
［本実施形態の歯科用印象材の使用方法］
本実施形態の歯科用印象材は、上述の主材ペーストと硬化材ペーストを練和して使用する。
本実施形態の歯科用印象材は、上述の主材ペーストと硬化材ペーストを練和して使用する。
【0080】
例えば、手動又は電動の押出装置を用いて、隔てられた包装容器に充填されている主材ペーストと、硬化材ペーストを押し出し、ノズルを通過することで練和された練和物を歯牙に適用する。
【0081】
包装容器としては、例えば、樹脂又は金属の成形品、樹脂又は金属の袋等が挙げられる。
【0082】
主材ペーストと硬化材ペーストを練和する際の主材ペーストの硬化材ペーストに対する質量比は、特に限定されず、例えば、１～５であり、好ましくは１～３であり、より好ましくは１～２である。
【0083】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、上述のように、本実施形態の主材ペーストと硬化材ペーストを有することで、本実施形態の主材ペーストの効果が得られる。すなわち、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材では、含まれる主材ペーストの保存安定性が高い（保存期間が経過しても劣化しにくい）ため、該主材ペーストを使用した際に歯科用アルギン酸塩印象材の初期硬化時間の遅延を抑制することができる。そのため、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材では、印象が破損しにくくなり、印象の精度が向上する。
【0084】
また、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材では、含まれる主材ペーストが、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、しかも低粘度のまま粘度の低下が抑制される。そのため、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、連合印象法に使用することが可能である。
【0085】
［連合印象材］
本実施形態の連合印象材は、上述した本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を用いることができる。本明細書において、連合印象材は、連合印象法（未硬化の２種の材料を重ね合わせる方法）により印象を行うための材である。
本実施形態の連合印象材は、上述した本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を用いることができる。本明細書において、連合印象材は、連合印象法（未硬化の２種の材料を重ね合わせる方法）により印象を行うための材である。
【0086】
本実施形態の連合印象材は、他のアルギン酸塩印象材と併用される。具体的には、歯牙等の印象採得対象に、他のアルギン酸塩印象材を適用した後、本実施形態を本実施形態の連合印象材を該対象に適用する。
【0087】
他のアルギン酸塩印象材としては、特に限定されないが、例えば、寒天・アルジネート連合印象法に用いられるアルギン酸塩印象材を用いることができる。
【0088】
他のアルギン酸塩印象材は、粉末タイプであってもよいし、アルギン酸塩と、水を含む主材ペーストと、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む硬化材ペーストを有するペーストタイプであってもよい。
【0089】
本実施形態の連合印象材と他のアルギン酸塩印象材との質量比は、特に限定されない。
【0090】
他のアルギン酸塩印象材としてペーストタイプのアルギン酸塩印象材を用いる場合、該アルギン酸塩印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度が３６ｍｍ未満である以外は、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材と同様である。
【0091】
本実施形態の連合印象材は、上述のように、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を用いることにより、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の効果が得られる。すなわち、本実施形態の連合印象材では、含まれる主材ペーストの保存安定性が高い（保存期間が経過しても劣化しにくい）ため、該主材ペーストを使用した際に歯科用アルギン酸塩印象材の初期硬化時間の遅延を抑制することができ、得られる印象が破損しにくくなる。
【0092】
また、本実施形態の連合印象材では、歯科用アルギン酸塩印象材に含まれる主材ペーストが、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、しかも低粘度のまま粘度の低下が抑制される。これにより、本実施形態の連合印象材では、連合印象法を用いた印象の精度を向上させることができる。
【実施例0093】
以下、本発明について、更に実施例を用いて説明する。なお、以下において、単位のない数、「部」又は「％」は、特に断りのない限り、質量基準である。実施例、比較例の評価は、以下の試験により行った。
【0094】
＜硬化材ペーストの調製＞
硫酸カルシウム４５部、流動パラフィン２３部、シリカ１２．５部、水酸化マグネシウム６部、ポリブテン４部、フッ化チタンカリウム３部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル３部、酸化亜鉛２部、及びリン酸三カリウム１．５部を混合して、硬化材ペーストを得た。硬化材ペーストの組成を表１に示す。
硫酸カルシウム４５部、流動パラフィン２３部、シリカ１２．５部、水酸化マグネシウム６部、ポリブテン４部、フッ化チタンカリウム３部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル３部、酸化亜鉛２部、及びリン酸三カリウム１．５部を混合して、硬化材ペーストを得た。硬化材ペーストの組成を表１に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
＜主材ペーストの調製＞
アルギン酸カリウム８部と、０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩と、硬化遅延剤としてピロリン酸カリウム０．２部を混合し、全体が１００部となるように蒸留水を加え、主材ペーストを得た。なお、使用したアルギン酸カリウムの１質量％水溶液の２０℃における粘度は、１４４ｍＰａ・ｓであった。
アルギン酸カリウム８部と、０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩と、硬化遅延剤としてピロリン酸カリウム０．２部を混合し、全体が１００部となるように蒸留水を加え、主材ペーストを得た。なお、使用したアルギン酸カリウムの１質量％水溶液の２０℃における粘度は、１４４ｍＰａ・ｓであった。
【0097】
＜保存性（粘度）＞
主材ペーストを保管前、及び、６０℃、相対湿度１００％の環境下で1週間保管した後、Ｅ型粘度計（東機産業社製、ＲＥ－８５）を用い、コーン角度３度、せん断速度５（１／ｓｅｃ）（回転数１０ｒｐｍ）、温度２０℃で粘度を測定し、主材ペーストの保存安定性を確認した。なお、保存安定性の評価は下記の基準で行った。
主材ペーストを保管前、及び、６０℃、相対湿度１００％の環境下で1週間保管した後、Ｅ型粘度計（東機産業社製、ＲＥ－８５）を用い、コーン角度３度、せん断速度５（１／ｓｅｃ）（回転数１０ｒｐｍ）、温度２０℃で粘度を測定し、主材ペーストの保存安定性を確認した。なお、保存安定性の評価は下記の基準で行った。
【0098】
〔評価基準〕
良：１０Ｐａ・ｓ以上５０Ｐａ・ｓ未満
不可：１０Ｐａ・ｓ未満又は５０Ｐａ・ｓ以上
良：１０Ｐａ・ｓ以上５０Ｐａ・ｓ未満
不可：１０Ｐａ・ｓ未満又は５０Ｐａ・ｓ以上
【0099】
＜初期硬化時間＞
主材ペーストを保管前、及び、６０℃、相対湿度１００％の環境下で1週間保管した後、主材ペーストと硬化材ペーストを質量比２：１で練和し、ＪＩＳ Ｔ ６５０５ 歯科用アルギン酸塩印象材の７．２ 初期硬化時間に準じて、歯科用アルギン酸塩印象材の初期硬化時間を測定した。なお、初期硬化時間の評価は下記の基準で行った。
主材ペーストを保管前、及び、６０℃、相対湿度１００％の環境下で1週間保管した後、主材ペーストと硬化材ペーストを質量比２：１で練和し、ＪＩＳ Ｔ ６５０５ 歯科用アルギン酸塩印象材の７．２ 初期硬化時間に準じて、歯科用アルギン酸塩印象材の初期硬化時間を測定した。なお、初期硬化時間の評価は下記の基準で行った。
【0100】
〔評価基準〕
良：５０ｓ以上１２０ｓ以下
不可：５０ｓ未満又は１２０ｓを超える
良：５０ｓ以上１２０ｓ以下
不可：５０ｓ未満又は１２０ｓを超える
【0101】
＜圧縮強さ＞
主材ペーストを保管前、及び、６０℃、相対湿度１００％の環境下で1週間保管した後、主材ペーストと硬化材ペーストを質量比２：１で練和し、３５℃の恒温水槽にて硬化体を作製し、オートグラフ（島津製作所社製、ＥＺ－２０）にてクロスヘッドスピード１００±２０Ｎ／ｍｉｎで硬化体が破断するまで測定し、圧縮強さを評価した。なお、圧縮強さの評価は下記の基準で行った。
主材ペーストを保管前、及び、６０℃、相対湿度１００％の環境下で1週間保管した後、主材ペーストと硬化材ペーストを質量比２：１で練和し、３５℃の恒温水槽にて硬化体を作製し、オートグラフ（島津製作所社製、ＥＺ－２０）にてクロスヘッドスピード１００±２０Ｎ／ｍｉｎで硬化体が破断するまで測定し、圧縮強さを評価した。なお、圧縮強さの評価は下記の基準で行った。
【0102】
〔評価基準〕
優：０．５０ＭＰａ以上
良：０．３５ＭＰａ以上０．５０ＭＰａ未満
不可：０．３５ＭＰａ未満
優：０．５０ＭＰａ以上
良：０．３５ＭＰａ以上０．５０ＭＰａ未満
不可：０．３５ＭＰａ未満
【0103】
以下、実施例及び比較例について、説明する。
【0104】
［実施例１］
カルボン酸塩として安息香酸ナトリウム１部を配合した主材ペーストについて、保存性（粘度）、初期硬化時間、圧縮強さを評価した。実施例１の組成及び評価結果を表２に示す。
カルボン酸塩として安息香酸ナトリウム１部を配合した主材ペーストについて、保存性（粘度）、初期硬化時間、圧縮強さを評価した。実施例１の組成及び評価結果を表２に示す。
【0105】
［実施例２］
安息香酸ナトリウムの配合量を０．１部とした以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例２の組成及び評価結果を表２に示す。
安息香酸ナトリウムの配合量を０．１部とした以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例２の組成及び評価結果を表２に示す。
【0106】
［実施例３］
安息香酸ナトリウムに替えて乳酸ナトリウム１部を配合した以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例３の組成及び評価結果を表２に示す。
安息香酸ナトリウムに替えて乳酸ナトリウム１部を配合した以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例３の組成及び評価結果を表２に示す。
【0107】
［実施例４］
安息香酸ナトリウムに替えてソルビン酸カリウム０．３部を配合した以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例４の組成及び評価結果を表２に示す。
安息香酸ナトリウムに替えてソルビン酸カリウム０．３部を配合した以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例４の組成及び評価結果を表２に示す。
【0108】
［実施例５］
さらに乳酸ナトリウム１部を加えた以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例５の組成及び評価結果を表２に示す。
さらに乳酸ナトリウム１部を加えた以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。実施例５の組成及び評価結果を表２に示す。
【0109】
［比較例１］
カルボン酸塩を配合しなかった以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。比較例１の組成及び評価結果を表２に示す。
カルボン酸塩を配合しなかった以外は、実施例１と同様に主材ペーストを調整し、評価した。比較例１の組成及び評価結果を表２に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表２より、アルギン酸塩、水、及び０個以上３個以下のヒドロキシ基を有する炭素数が３以上８以下のカルボン酸塩を含有する主材ペーストを用いた歯科用アルギン酸塩印象材は、保存安定性、初期硬化時間、圧縮強さのいずれも良好であった（実施例１～５）。
【0112】
これに対して、カルボン酸塩を含有する主材ペーストを用いた歯科用アルギン酸塩印象材は、保存安定性、初期硬化時間、圧縮強さのいずれも６０℃、１週間保管後１間経過後の結果が不良であった（比較例１）。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。