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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051669
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ワッシャ及び締結構造、締結解除方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/00 20060101AFI20230404BHJP
   F16B 39/282 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
F16B37/00 D
F16B39/282 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213782
(22)【出願日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2021162361
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517066179
【氏名又は名称】ボルトエンジニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 洋
(57)【要約】
【課題】締結状態では緩まず、メンテナンスなどのために簡単に緩めることができる。
【解決手段】ねじ棒12の先端部分にワッシャ2を挟んでナット1を適用して取付対象物11を被取付部材13に固定する締結構造である。ナット1は、締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように形成されている斜面部1Aaを円周方向に沿って有する第1面1Aを備え、ワッシャ2は、第1面1Aの斜面部1Aaに対応して形成される斜面部2Aaを円周方向に沿って有する第2面2Aを備える。ワッシャ2とナット1とは、第1面1Aの斜面部と第2面2Aの斜面部とが噛み合うように上下に重ね合わせて取り付けられ、ナット1及びワッシャ2の外形は、第1面1Aの斜面部1Aaと第2面2Aの斜面部2Aaとが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、円周方向において一致する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付対象物を取り付けるためのねじ棒を被取付部材の取付穴に貫通させて前記ねじ棒の先端部分を突出させ、前記先端部分にワッシャを挟んでナットを適用して前記取付対象物を前記被取付部材に固定する締結構造であって、
前記ナットは、前記ナットの締め付け回転方向に向かって徐々に徐々に高さが低くなるように形成されている斜面部を円周方向に沿って有する第1面を備え、
前記ワッシャは、前記ナットにおける第1面の斜面部に対応して形成される斜面部を円周方向に沿って有する第2面を備え、
前記ワッシャとナットとは、前記第1面の斜面部と前記第2面の斜面部とが互いに噛み合うように上下に重ね合わせて取り付けられ、
前記ナット及びワッシャの外形は、前記第1面の斜面部と前記第2面の斜面部とが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、円周方向において一致するように形成されている、
ことを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記第1面及び第2面は、同一形状の斜面部を1つ、2つ、3つあるいは6つずつ有するものである、請求項1記載の締結構造。
【請求項3】
前記ナット及びワッシャは、断面六角形で、外形が同寸法である、請求項1又は2記載の締結構造。
【請求項4】
前記ワッシャは、前記第2面とは反対側の面は、中央部に向かって徐々に凹んでいる円錐凹部形状に形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の締結構造。
【請求項5】
前記斜面部は、最も低い位置と最も高い位置との高低差が斜面数に応じてねじピッチの1/斜面数よりより大きくなっている、請求項1~4のいずれか1項に記載の締結構造。
【請求項6】
前記斜面部の斜面は、前記ねじ棒の軸線を中心にして、円周方向に沿って同じ傾斜角度を維持しながら螺旋状に形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の締結構造。
【請求項7】
前記ワッシャ又は前記ナットの一方又は両方の斜面部の外周面は、前記ワッシャ又は前記ナットの平行対辺幅と同じ大きさの径の湾曲面とされ、
前記湾曲面は、前記斜面部の最も低い位置付近から立ち上がっている、請求項1~6のいずれか1項に記載の締結構造。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の締結構造における締結解除方法であって、
ナット及びワッシャの外周部に係合する係合部と、前記係合部に連接される把持部とを有する工具を用い、
前記工具の係合部を前記ナットの外周部に係合させて、前記ナットを一旦締め付け回転方向へ回転し、前記ナット及び前記ワッシャの外形が、円周方向において一致している状態にする工程と、
前記工程に続いて、前記工具の係合部を、前記ナットに加えて前記ワッシャにも係合させ、前記ナット及び前記ワッシャを一緒に緩め方向に回転させる工程とを有する、ことを特徴とする締結解除方法。
【請求項9】
取付対象物を被取付部材にボルト又はナットを用いて取り付ける場合に、前記ボルト頭部又は前記ナットと前記取付対象物との間に設けられるワッシャであって、
重ねた状態で用いられる第1及び第2の部材からなり、
前記第1部材は、前記ナットの締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように形成されている斜面部を円周方向に沿って有する第1面を備え、
前記第2部材は、前記ナットにおける第1面の斜面部に対応して形成される斜面部を円周方向に沿って有する第2面を備え、
前記第1面の斜面部と前記第2面の斜面部とが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、前記第1及び第2部材の外形は、円周方向において一致するように形成されている、
ことを特徴とするワッシャ。
【請求項10】
取付対象物を被取付部材にボルト又はナットを用いて取り付ける場合に、前記ボルト頭部又は前記ナットと前記取付対象物との間にワッシャが設けられる締結構造であって、
前記ワッシャは、重ねた状態で用いられる第1及び第2の部材を備え、
前記第1部材は、円周方向に沿って斜面部が、前記ナットの締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように形成されている第1面を備え、
前記第2部材は、円周方向に沿って斜面部が前記ナットにおける第1面の斜面に対応して形成され前記ナットの第1面に接触する第2面を備え、
前記第1面と第2面とが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、前記第1及び第2部材の外形は、円周方向において一致するように形成されている、
ことを特徴とする締結構造。
【請求項11】
請求項10に記載の締結構造における締結解除方法であって、
ボルト頭部又はナット、及びワッシャの外周部に係合する係合部と、前記係合部に連接される把持部とを有する工具を用い、
工具の係合部を、前記ボルト頭部又はナット、及び前記第1及び第2の部材のうち前記ボルト頭部又は前記ナット側にある部材に係合させ、前記ボルト頭部又はナット及び前記ボルト頭部又はナット側にある部材を一旦締め付け回転方向へ回し、前記第1及び第2の部材の外形が、円周方向において一致している状態にする工程と、
前記工程に続いて、前記工具の係合部を、前記ボルト頭部又はナットと前記第1及び第2の部材とに係合させ、前記ボルト頭部又はナットと前記第1及び第2の部材とを緩め方向に回転させる工程とを有する、ことを特徴とする締結解除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワッシャ及び締結構造、締結解除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昔から緩み止めに関して、スプリングワッシャを用いる方法、ダブルナットを用いる方法、ナットとボルトに割ピンを貫通させる方法、など数多くの工夫がなされて実用に供されているが、効果が不十分で振動等により緩みが生じたり、機構や加工が複雑で高価なものであったりする。
【0003】
そこで、ナット内面に設けた孔にロックピンを貫入することでナット内面を押し拡げて緩み止め圧力を発生させるロック用ピン機構や、ナット内面から少し離した位置に斜めに貫通したロックピン挿入孔をあけ、ロックピン挿入孔の長さよりも少し長くかつ先端を尖らせたロックピンを挿入後にボルトの雄ねじ部に当該ナットを手で回してはめ込み締めていきワッシャまで到達後に、レンチ等の市販工具を用いて強く締め込むことで二つのワッシャ間に挟まれた固定対象物が固定され、さらに締め込むとロックピンがワッシャに押されてロックピン先端が雄ねじ部にしっかりと接することで雄ねじ部を押して緩み止め効果が生じ、より強く締め込むとロックピン先端が雄ねじ部に杭のごとく食い込むことにより緩み止め効果がさらに大きくなるロック用ピン機構が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-293793号公報
【特許文献2】特開2011-179679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2記載のものは、ナット内面を押し広げることで固定したり、ロックピン先端をボルトのねじ棒に食い込ませて固定したりするので、メンテナンスなどの場合に、ナットを緩めると、前記ねじ棒のねじ部分が損傷され、再利用することができなくなる。
【0006】
本発明は、締結状態では緩まず、メンテナンスなどの場合に簡単に緩めることができ、ねじ棒、ナット、ワッシャなどの再利用が可能である、ワッシャ及び締結構造、締結解除方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、取付対象物を取り付けるためのねじ棒を被取付部材の取付穴に貫通させて前記ねじ棒の先端部分を突出させ、前記先端部分にワッシャを挟んでナットを適用して前記取付対象物を前記被取付部材に固定する締結構造であって、前記ナットは、前記ナットの締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように形成されている斜面部を円周方向に沿って有する第1面を備え、前記ワッシャは、前記ナットにおける第1面の斜面部に対応して形成される斜面部を円周方向に沿って有する第2面を備え、前記ワッシャとナットとは、前記第1面の斜面部と前記第2面の斜面部とが互いに噛み合うように上下に重ね合わせて取り付けられ、前記ナット及びワッシャの外形は、前記第1面の斜面部と前記第2面の斜面部とが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、円周方向において一致するように形成されている、ことを特徴とする。
【0008】
ここで、「円周方向において一致する」とは、斜面部の斜面同士は位相が合っており、ナットとワッシャを重ねると二つの斜面部は隙間なくぴったり重なり、外観上あたかも一つのナットであるかのように見えることを意味し、例えば断面六角形のナットとワッシャであれば、外形を形成する、6つの角部も同じ位置で重なり合うことになる。
【0009】
このようにすれば、ナットとワッシャとの接触面は、対応する所定形状の斜面が形成される斜面部を有するので、ナットとワッシャが上下に重ね合わされた状態で、前記斜面部の働きによって、激しい振動を受けても緩まず、締結状態は維持される。一方、締結を解除したいときには、ワッシャとナットを一緒に回転することで、ねじ棒、ナット、ワッシャなどを傷つけることなく、緩めることができ、締結状態が簡単に解除される。よって、ねじ棒、ナット、ワッシャなどの構成要素の再利用が可能である。
【0010】
この場合、請求項2に記載のように、前記第1面及び第2面は、同一形状の斜面部を1つ、2つ、3つあるいは6つずつ有するものである、ことが望ましい。つまり、6を割り切れる数だけの斜面部を有する、ことが望ましい。
【0011】
請求項3に記載のように、前記ナット及びワッシャは、断面六角形で、外形が同寸法である、ことが望ましい。
【0012】
請求項4に記載のように、前記ワッシャは、前記第2面とは反対側の面は、中央部に向かって徐々に凹んでいる円錐凹部形状に形成されている、ことが望ましい。
【0013】
請求項5に記載のように、前記斜面部は、最も低い位置と最も高い位置との高低差が斜面数に応じてねじピッチの1/斜面数より大きくなっている、ことが望ましい。すなわち、例えば斜面が1つの場合は1/1(=1)、2つの場合は1/2,3つの場合は1/3、6つの場合は1/6よりそれぞれ大きくなっている、ことが望ましい。
【0014】
請求項6に記載のように、前記斜面部の斜面は、前記ねじ棒の軸線を中心にして、円周方向に沿って同じ傾斜角度を維持しながら螺旋状に形成されている、ことが望ましい。
【0015】
請求項7に記載のように、前記ワッシャ又は前記ナットの一方又は両方の斜面部の外周面は、前記ワッシャ又は前記ナットの平行対辺幅と同じ大きさの径の湾曲面とされ、前記湾曲面は、前記斜面部の最も低い位置付近から立ち上がっている、ことが望ましい。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項1~7のいずれか1項に記載の締結構造における締結解除方法であって、ナット及びワッシャの外周部に係合する係合部と、前記係合部に連接される把持部とを有する工具を用い、前記工具の係合部を前記ナットの外周部に係合させて、前記ナットを一旦締め付け回転方向へ回転し、前記ナット及び前記ワッシャの外形が、円周方向において一致している状態にする工程と、前記工程に続いて、前記工具の係合部を、前記ナットに加えて前記ワッシャにも係合させ、前記ナット及び前記ワッシャを一緒に緩め方向に回転させる工程とを有する、ことを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項9の発明は、取付対象物を被取付部材にボルト又はナットを用いて取り付ける場合に、前記ボルト頭部又は前記ナットと前記取付対象物との間に設けられるワッシャであって、重ねた状態で用いられる第1及び第2の部材からなり、前記第1部材は、前記ナットの締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように形成されている斜面部を円周方向に沿って有する第1面を備え、前記第2部材は、前記ナットにおける第1面の斜面部に対応して形成される斜面部を円周方向に沿って有する第2面を備え、前記第1面の斜面部と前記第2面の斜面部とが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、前記第1及び第2部材の外形は、円周方向において一致するように形成されている、ことを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、取付対象物を被取付部材にボルト又はナットを用いて取り付ける場合に、前記ボルト頭部又は前記ナットと前記取付対象物との間にワッシャが設けられる締結構造であって、前記ワッシャは、重ねた状態で用いられる第1及び第2の部材を備え、前記第1部材は、円周方向に沿って斜面部が、前記ナットの締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように形成されている第1面を備え、前記第2部材は、円周方向に沿って斜面部が前記ナットにおける第1面の斜面に対応して形成され前記ナットの第1面に接触する第2面を備え、前記第1面と第2面とが隙間なく噛み合うように上下に重ね合わせた状態で、前記第1及び第2部材の外形は、円周方向において一致するように形成されている、ことを特徴とする。
【0019】
請求項11の発明は、請求項10に記載の締結構造における締結解除方法であって、ボルト頭部又はナット、及びワッシャの外周部に係合する係合部と、前記係合部に連接される把持部とを有する工具を用い、工具の係合部を、前記ボルト頭部又はナット、及び前記第1及び第2の部材のうち前記ボルト頭部又は前記ナット側にある部材に係合させ、前記ボルト頭部又はナット及び前記ボルト頭部又はナット側にある部材を一旦締め付け回転方向へ回し、前記第1及び第2の部材の外形が、円周方向において一致している状態にする工程と、前記工程に続いて、前記工具の係合部を、前記ボルト頭部又はナットと前記第1及び第2の部材とに係合させ、前記ボルト頭部又はナットと前記第1及び第2の部材とを緩め方向に回転させる工程とを有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、円周方向に延び所定形状の斜面を形成している斜面部を利用し、ボルト頭部又はナットの接触面とワッシャの接触面とを形成するようにしているので、前記斜面部の作用により、激しい振動を受けても緩まず、締結を解除したいときには、ボルト頭部やナットなどを簡単に緩めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)はナットとワッシャとを組み合わせてなる、本発明に係る締結構造を示す図、(b)はナットとワッシャのみを示す図である。
図2】前記締結構造(斜面部が2つの場合の締結構造)に用いるナットを示し、(a)は上側から見た斜視図、(b)は下側から見た斜視図である。
図3】ナットについて斜面部が1つの場合の説明図である。
図4】前記締結構造(斜面部が3つの場合の締結構造)に用いるナットを示し、(a)は上側から見た斜視図、(b)は下側から見た斜視図である。
図5】前記締結構造(斜面部が2つの場合の締結構造)に用いるワッシャを示し、(a)は上側から見た斜視図、(b)は下側から見た斜視図である。
図6】前記締結構造(斜面部が3つの場合の締結構造)に用いるワッシャを示し、(a)は上側から見た斜視図、(b)は下側から見た斜視図である。
図7】ワッシャの下部に丸いふち(円盤部)設けた場合に実施例(斜面部が2つの場合の締結構造)を示し、図7(a)(b)は図5(a)(b)と同様の図である。
図8】ワッシャの下部に丸いふち(円盤部)設けた場合に実施例(斜面部が3つの場合の締結構造)を示し、図8(a)(b)は図5(a)(b)と同様の図である。
図9】斜面部の数が2つの場合の回転による位置変化によるワッシャの緩み難さの説明のための斜視図であると同時に図10の論理的な説明図である。
図10】前記締結構造に用いるワッシャの緩み難さの位置変化を示す図である。
図11】2つのワッシャを用いる締結構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面に沿って説明する。
図1(a)はナットとワッシャとを組み合わせてなる、本発明に係る締結構造を示す図、図1(b)はナットとワッシャのみを示す図、図2は前記締結構造(斜面部が2つの場合の締結構造)に用いるナットを示し、図2(a)は上側から見た斜視図、図2(b)は下側から見た斜視図である。
【0023】
図1(a)(b)に示すように、本発明に係る締結構造の一例は、被取付部材13に取付対象物11を取り付けるために被取付部材13から延びるねじ棒12(例えば、ボルトのねじ棒部分)を、取付対象物11の取付穴を貫通させて取付対象物11の表面11a(被取付部材13側と接する表面とは反対側の表面)からねじ棒12の先端部分(先端ねじ棒部分)を突出させ、その先端部分にナット1を、ワッシャ2を挟んで適用して取付対象物11を被取付部材13に固定する構造である。
【0024】
ナット1は、図2(a)(b)に示すように、ワッシャ2と重なり合い接触する側の面1A(第1面)に、ナット1の締め付け回転方向に向かって徐々に高さが低くなるように2つの斜面部1Aa,1Aaを円周方向に沿って形成されている。1つの斜面部1Aaが、1つの斜面を形成している。
【0025】
2つの斜面部1Aa,1Aaは、斜面傾斜角度と斜面面積は同じで、円周方向において位相がずれているが、同じ形状である。つまり、ナット1の面1Aにおいて、全体の1/2ずつが、真っすぐな傾斜角度の斜面を有する斜面部1Aa,1Aaとして形成されている。2つの斜面部1Aa,1Aaは同じ形状であるが、形は相対的になっていて、一方の斜面(斜面部1Aa)の最低位置が他方の斜面の最高位置となっている。
【0026】
斜面部1Aaが2つである場合には、斜面部1Aaの境界(境い目)は2つあるので、2つの段差が形成される。2つの段差の高さと形状とは同じである。よって、例えば2つのナット1の同じ面1A(第1面)同士を、隙間なくぴったりと重なるように接触させることができる。
【0027】
図2(b)において、ナット1の前側半分に形成される斜面部1Aaに基づいてさらに説明すると、A部が(斜面部1Aaの)斜面で最も低い位置にあり、B部が斜面で最も高い位置にある。斜面開始位置は、断面六角形の平行対辺の丁度中央位置にしているが、ナット1の面1A全体の1/2ずつが、真っすぐな傾斜角度の斜面を有する同じ形状の斜面部1Aa,1Aaであれば、図2(b)に示す場合とは別の位置から斜面部1Aa,1Aaの斜面を開始してもかまわない。
【0028】
A部からB部に向かう斜面の傾斜角度(=α°)は、A部とB部の平均的な高低差がねじ棒12のねじピッチの必ず1/2(斜面部の数が1つのときは1/1(=1)、3つのときは1/3、6つのときは1/6)より大きくなるようにしている。ここで、平均的な高低差とは、厳密に言えば、斜面部1Aaの内周側の段差と外周側の段差には僅かに高さの差が生じるので、その平均値の意味である。
【0029】
なお、前記実施の形態では、斜面部1Aaの斜面はA部からB部に向かって直線的な定角度の上昇平面で形成されているが、ねじ棒12の軸線を中心にして、斜面を円周方向(円弧方向)に沿って同じ傾斜角度を維持しながら螺旋状に形成するようにしてもよい。この場合には、斜面部の斜面が円周方向に沿った湾曲面となる。このような斜面形状を有するナットやワッシャは、例えば3Dプリンターを利用して製造することができる。
【0030】
また、斜面部の数は、2つに限定されず、例えば六角ナットの場合には、6を割れる数であればよく、1つでも3つでも6でもよい。1つの場合は、例えば図2(b)において、B部分に段差が形成されるが、図3に示すように、ナット1’の面1Abにおいて全体について斜面傾斜角度を一定に保ちながらB部において面一になるように平行に下方に下げれば、B部分における段差をほとんどなくすことができる。
【0031】
つまり、図2(b)における斜面部1Aa,1Aa同士がB部において一様に連結され、結果として、図3に示すように、あたかも円周方向に沿って斜面が連続して1つの傾斜部1Abしか存在しないようになる。このような場合を、面1A’における「斜面部の数は1つである」と、この明細書においては称することとする。
【0032】
斜面部が1つの場合、A部の段差高さtは斜面部が2つの場合(図2(b)参照)のときの段差の2倍となる。図3ではD部はC部よりも高さが高くなるので、D部ではナットの厚さがC部より厚くなることになる。これに対して、2つの斜面部1Aa,1Aaを有する図2(b)の場合にはD部とC部は同じ高さ(ナットの厚さが同じ)である。
【0033】
なお、図4(a)(b)に斜面部が3つの場合のナット21を示す。3つの傾斜部21Aa,21Aa,21Aaをナット21の面21Aに有する。
【0034】
一方、ワッシャ2にも、図5(a)に示すように、ナット1と接触する側の面(第2面)には、ナット1の接触側と全く同じ形状で同じ傾斜角度を持つ2つの斜面部2Aa,2Aaが同様に形成されている。断面六角形の外形との関係で斜面部2Aa,2Aaの傾斜開始位置もナット1側の斜面部1Aa,1Aaと同じであるので、ナット1とワッシャ2との斜面部1Aa,1Aa,2Aa,2Aa同士を接触させて重ねると、ナット1とワッシャ2とは隙間なく重なる。これは、斜面部1Aa,1Aa,2Aa,2Aaの位置は、ナット1とワッシャ2との間で位相を合わせてあるからである。
【0035】
ナット1とワッシャ2とは、いずれも断面六角形で、外形が同寸法であるが、ワッシャ2は、斜面部2Aa,2Aaを有する円筒状の係合部2Aが断面六角形状のワッシャ本体2B上に設けられたものである。ナット1との合わせ面(接触面)を形成する係合部2Aは、ワッシャ2平行対辺幅AFと同じ大きさの外径rを有する円筒状で、斜面部2Aaの最も低い位置付近からワッシャ本体2Bより立ち上がっている(図5(a)参照)。
【0036】
斜面部が形成される部分の外周面を、円筒状に丸く加工して湾曲面としているが、ワッシャ2側ではなく、ナット1側の斜面部1Aaが形成される部分の外周面を湾曲面としてもよいし、ワッシャ2側とナット1側との傾斜部が形成される部分両方の外周面を湾曲面に加工するようにしてもよい。
【0037】
ワッシャ2の裏面2Baは、フラットな平面ではなく、図5(b)に示すように、ワッシャ2の外周部から中心部に向かって徐々にテーパー状に凹んでいる凹部形状、つまり円錐凹部形状に凹んでいる。
【0038】
つまり、裏面2Baは、中央側に近づくほど、僅かに凹んでいることになる。よって、例えばワッシャ2を水平面上に置いた場合には、外周部分だけが水平面に接触し、中央部は水平面から浮いた状態で水平面には接触しないことになる。
【0039】
このような裏面2Baの凹みの大きさは、ナット1を回転させて締め付けて行くに従い、ナット下面に押されて、徐々に小さくなって行くが、最終的にナット1が、ねじ棒12(ボルト)に対する規定の締付け力に達したときに、ゼロとなる(=ワッシャ2の、中央部分も含めて全面が水平面に接触する)ように設定されるのが望ましい。
【0040】
なお、図6(a)(b)に斜面部が3つの場合のワッシャ22を示す。図4(a)(b)に示す、斜面部が3つのナット21に対応し、3つの傾斜部22Aa,22Aa,22Aaを係合部22Aに有する。係合部22Aはワッシャ本体22Bの上側に設けられている。
【0041】
このような凹みを形成するテーパー角度の大きさは、ワッシャ2の厚さと材質を考慮して決定されている。ワッシャが、例えばM16用で、焼入れ炭素鋼で形成され、厚さが4mmであれば、テーパー角度は約0.5°と僅かである。これは、手で感じ取れるかどうかの大きさである。
【0042】
また、ワッシャ2は係合部2Aがワッシャ本体2B上に設けられたものであるが、図7(a)(b)に示すワッシャ23のように、断面六角形状のワッシャ本体22Bの下部にワッシャ22と一体になった丸いふち、つまり環状の円盤部23Cを付け、この円盤部23Cの下面に、円錐凹部形状の凹みである凹部23Caを形成することもできる。
【0043】
このようにすれば、ナットを締めるときに、ワッシャの外形が断面六角形の場合よりも大きく、ワッシャ(円盤部23C)が接触することになる取付対象物の表面を傷めにくくなる。このことは、実験で確認されている。円盤部23Cの径は、ナット1即ちワッシャ2の角部・角部の間隔と同じかそれ以上の長さとされる。なお、図7(a)(b)に示すワッシャ23と同様な構造で、係合部24Aが、3つの傾斜部24Aa,24Aa,24Aaを有するワッシャ24を、図8(a)(b)に示す。係合部24Aはワッシャ本体24Bの上側に設けられ、凹部24Caを有する円盤部24Cを備える。
【0044】
続いて、前記締結構造において、ナットが緩むのを防止する原理について説明する。
図1に示すように、ナット1及びワッシャ2を用いて締め付けた状態で、振動を受けると、ねじ棒12側は回らないとして、ナット1が(反時計回り方向に)回転して緩もうとする。
【0045】
ナット1とワッシャ2は、図1に示すように組付けられて一体化しているので、もしナット1とワッシャ2とが一緒に回転してしまうと、緩み止めの効果は発揮されない。しかし、図1に示す締結構造であれば、ワッシャ2は回転せず、ナット1だけが回転しようとするのである。
【0046】
その理由は、ナット1とワッシャ2の接触面の最大径は、図5(a)に示す通り、rである。その一方、ワッシャ2が取付対象物11に接触する面(裏面)の最大径はRである。振動でナット1がワッシャ2に対して先に回転するか、ワッシャ2が面に対して先に回るかは、摩擦係数が同じであれば、それぞれの有効摩擦径の大小によって優劣が決まる。
【0047】
この実施の形態では、R>rだから、ワッシャ2が面にしがみつく力(つまり、滑らない・回らない)が勝つために、ワッシャ2は滑ったり回転したりせず、ナット1が先に回転する。
【0048】
さらに、ワッシャ2の裏面が中心に向かって徐々にテーパー状に凹んでいる、傾斜角度の小さな円錐凹部形状になっているから、ナット1の締付け力が小さいときには断面六角形状のワッシャ2の6つの角部の部分だけが面に接触することになる。強い力で締付けられるに従い、ワッシャ2の裏面全体が徐々に面に接触するが、こうなったときの裏面の有効摩擦径は寸法Rと寸法rとのほぼ平均値となる。一方、ワッシャ2のナット1に接触する側の有効摩擦径は寸法rとワッシャ内径との平均値だから、前者の数値がやはり大きくなる。即ち、ワッシャ2は滑り回らない。
【0049】
このように、図5において、ワッシャ2の表面(斜面部2Aa)と裏面2Baで摩擦係数がほぼ同じという条件下でR>rの関係を利用している。しかし、表面側だけに、裏面2Baに比べて摩擦係数が非常に小さくなる表面処理(例えば、フッ素樹脂を焼き付けたり塗布したりして)を施すことにより、係合部2Aを形成するための環状加工その物をなくし、図2~4に示すナットの場合と同様に、ワッシャ本体2B上に直接斜面部を形成することもできる。ただ、強い力で締め付けると表面処理は剥げ落ちがちである。
【0050】
なお、ワッシャ裏面には凹んでいるために、鉄で作ればワッシャは弾性体なので、ワッシャ1の外周部分の面への押し付け力が内径部分での押し付け力よりも強く面に接触することになる。これは裏面の幾何学的な先の計算による有効摩擦径(=寸法Rとワッシャの内径のほぼ平均値)を相対的に一層大きくする効果を与えるので、ワッシャ1が回るまいと面にしがみつく摩擦力を一層高める。このことは、M16のナットの実験により、ワッシャが回らないことは確認している。
【0051】
ワッシャ2が回転しないとなると、振動などでナット1がワッシャ表面に対して緩む方向(反時計回り方向)に回ることになるが、ナット1とワッシャ2間で接触している斜面部の効果で、ナット1が回ろうとすると、ワッシャ2を面に強く押し付けることになる。言い換えれば、ねじ棒(ボルト)を、締め付け時よりも一層強く締め付けるのと同じ効果になる。従ってナット1が緩むことがない。
【0052】
M16用の試作品を製造し、ナットをトルク30Nmで締め付けたときの振動試験では、通常のナットは約数千回の揺れを受けると緩んでしまうが、同条件の試験で本発明品は約100万回の揺れに対しても全く緩まないのが確かめられている。そして、緩めるときには25~40Nm近辺のトルクで簡単に緩めることができた。
【0053】
ナット1を締め付けたときには、ナット1とワッシャ2の接触面はどの面においても均一な同じ大きさの押し付け力となる。しかし、一旦振動でナット2が緩みかけたときの挙動は、ナット・ワッシャ双方の接触斜面の方向はA部からB部に向かって直線方向に上昇するのに対して、緩もうとするナットの回転方向は常に円弧の接線方向となるので、ナットとワッシャの接触面において、互いが滑る相対的な角度は接触位置によって異なることになる。
【0054】
例えば図9に示すように、斜面が開始する最低位置(図9でθ=0°)では、円弧に対する接線方向の斜度は0°だから、緩み難さには寄与しない。他方でθ=90°の位置では接線方向と斜面の方向が同一になるから、この部分の斜度は最大となり、α°となる。つまり、最も緩み難い斜度となる。
【0055】
図10は、斜面部の数が2つの場合の斜面の最も低い位置(図2(b)のA部)を0°とし、最も高い位置(図2(b)のB部)を180°として、ワッシャの緩み難さ位置変化を、M16(ねじピッチ2mm)用のワッシャで斜面角度3.5°である場合を理論計算したものである。
【0056】
この図10で、「緩み難さ倍率」とは、その位置での斜面角度を保ったままでもし円弧を一周した場合に発生する斜面の理論的段差HをねじピッチPで除したもの(=H/P)である。この値が1.0のとき、段差はねじピッチと同等になるので、その位置が、ナットが緩むか緩まないかの境界となる。
【0057】
値が1.0以下の位置なら接触面で緩み止めの効果は発揮しない。図10から見て開始位置から30°辺りまでと、180°の最高位置から150°辺りまでは1.0以下だから、緩み止め効果に寄与せず、30°から150°の辺りまでが倍率が1.0以上なので緩み止め効果を発揮し、90°の位置が倍率2.0近くとなって最高の緩み止め効果を発揮していることになる。
【0058】
ところで、ナット1を締め付ける場合は、一般的な工具、ボルト頭部又はナット、及びワッシャの外周部に係合する係合部と、前記係合部に連接される把持部とを有する工具、例えば6角スパナ(あるいは12角スパナ)を使い、ナット1を締め付け回転方向へ回転すればよい。
【0059】
通常のナットの締付けと同じである。ナット1とワッシャ2との間には段差があるので、ナット1だけを回転しても自動的にワッシャ2も一緒に連れ回って締め付けられる。重なっているから、ナット1とワッシャ2の両方にスパナを掛けて一体に回転することも可能である。
【0060】
緩める場合には、ナット1だけを回転しても緩まない。ナット1とワッシャ2の両方にスパナをかけて両方を同時に緩め方向へ回転する必要がある。締付け当初はナット1とワッシャ2の位置が重なっているが、時間の経過などにより振動を受けてナット1とワッシャ2の位置が円周方向においてずれた場合には、スパナがナット1には掛かるが、ワッシャ2にはかからないという状態が生じうる。このような状態では緩めることができない。
【0061】
このような場合には、スパナでナット1を一旦締め付け方向へ回転し、ワッシャ2の外形とナット1の外形を一致させて合わせると、スパナはストンと落下しナット1とワッシャ2の両方にかかるので、ナット1とワッシャ2とをあわせて緩め方向へ回転すればよい。即ち、ナット2を、一旦締め方向へ回転してから改めて緩めるという二段階の手順を取る必要がある。
【0062】
このように、ナット1とワッシャ2とを一緒に回転することで、ねじ棒、ナット、ワッシャなどを傷つけることなく、緩めることができ、締結状態が簡単に解除されるので、ねじ棒、ナット、ワッシャなどの構成要素を再利用することができる。
【0063】
前述した実施の形態では、斜面部を有するナットとワッシャとの組合せの締結構造であるが、本発明はそれに限らず、図11に示すように、斜面部を有するワッシャ(図5参照)を、2つを組み合わせて平ワッシャ状とし、通常の平ワッシャと同様に使用する場合に、同様の効果が得られる。13は通常のナットである。
【0064】
即ち、図5に示すワッシャ2,2を2つ作り、傾斜部2Aa,2Aaが形成されている面(第2面)同士を接触させて合わせると、2つ一組で、外形が断面六角形のワッシャができる。斜面部2Aaに粘着剤をつければ、一体となり一つのワッシャ(本発明ワッシャ)として扱える。
【0065】
こうすれば、市販の通常の六角ナットや六角ボルトの頭部の下に本発明を挟んで使えば、前述した実施の形態と同様に、ナットやボルトの緩み止め効果が得られる。なお、ボルト頭部やナットに接触する側のワッシャの裏面は、中央部が凹んだ円錐凹部形状の面とすることなく、フラットな平面とすることも可能である。
【0066】
そして、ナットを締め付けるときに、ナットとワッシャの位相を合わせてスパナなどの工具で、一体で締め付ける。振動でナットの位置がずれても、ナットを締め戻してワッシャと位相を合わせれば、一体で緩めることができる。
【符号の説明】
【0067】
1,1,13,21 ナット
1A,1A’,21A 面
1Aa,1Ab,21Aa 斜面部
2,22,23,24 ワッシャ
2A,22A,23A,24A 係合部
2Aa,22Aa,23Aa,24Aa 斜面部
2B,22B,23B,24B ワッシャ本体
23C,24C 円盤部
2Ba,23Ca,24Ca 裏面
11 取付対象物
11a 表面
12 ねじ棒
13 被取付部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11