(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051748
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】電力変換装置、電流検出器の異常判断方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230404BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122822
(22)【出願日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2021161954
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】秋田 佳稔
【テーマコード(参考)】
5H006
5H770
【Fターム(参考)】
5H006BB05
5H006CA01
5H006CB01
5H006CB08
5H006CC08
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC02
5H006DC05
5H006FA02
5H770AA29
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA33
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA07Z
5H770KA01Z
5H770LA02Y
5H770LB05
5H770LB10
(57)【要約】
【課題】負荷不平衡や電流脈動があっても電流検出器の異常を正しく判定できる、電力変換装置の提供。
【解決手段】電力変換装置は、電流検出器34~36と、電流検出値I
U~I
Wの第1の総和I
I0を計算する加算部721と、第1の積D
U~D
Wを計算する乗算器722U~722Wと、第1の積の高調波成分を除去するフィルタ723U~723Wと、第2の積I
VI
W~I
UI
Vを計算する乗算器724CU~724CWと、第2の総和(I
UI
V+I
VI
W+I
WI
U)を計算する加算器725Cと、第2の総和の高調波成分を除去するフィルタ726Cと、自乗I
U
2~I
W
2を計算する乗算器724U~724Wと、第3の総和(I
U
2+I
V
2+I
W
2)を計算する加算器725と、第3の総和の高調波成分を除去するフィルタ726と、フィルタ出力F
U~F
W,K
I,H
Iに基づく異常度合いにより電流検出器の異常を判断する異常判断部727と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と負荷装置との間に設けられる電力変換装置であって、
前記交流電源と前記電力変換装置との間、または、前記電力変換装置と前記負荷装置との間に流れる複数相の交流電流を、相毎に検出する複数の電流検出器と、
複数の前記電流検出器が検出した複数相の電流検出値の第1の総和を計算する第1の加算部と、
前記第1の総和と前記電流検出値との積である第1の積を、前記複数相の各々について計算する第1の乗算部と、
複数の前記第1の積に含まれる高調波成分をそれぞれ低減または除去する第1のフィルタと、
相の異なる2つの前記電流検出値の積である第2の積をそれぞれ計算する第2の乗算部と、
複数の前記第2の積についての第2の総和を計算する第2の加算部と、
前記第2の総和に含まれる高調波成分を減少または除去する第2のフィルタと、
前記電流検出値の自乗を相毎にそれぞれ計算する第3の乗算部と、
複数の前記自乗についての第3の総和を計算する第3の加算部と、
前記第3の総和に含まれる高調波成分を低減または除去する第3のフィルタと、
前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて複数の前記電流検出器の異常度合いをそれぞれ生成し、前記異常度合いに基づいて前記電流検出器の異常を判断する異常判断部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて、複数の前記異常度合いであって、複数の相に関しての総和が常にゼロとなるように設定される相対的異常度を、それぞれ計算する第1の演算部をさらに備え、
前記異常判断部は、
複数の前記相対的異常度の各々の絶対値の内の最大値が、予め設定した異常判定閾値よりも大きい場合に、複数の前記電流検出器の少なくとも一つが異常であると判断する、電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記異常判断部は、
複数の前記相対的異常度を、類似度の高い2つの要素と、それら2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できるか否かを判定し、
分類できる場合には、複数の前記電流検出器の1つのみが異常であると判断し、
分類できない場合には、2以上の前記電流検出器が異常であると判断する、電力変換装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記異常判断部は、
複数の前記相対的異常度の各々の絶対値の大きさを比較し、絶対値が最大である前記相対的異常度に対応する前記電流検出器が異常であると判断する、電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
複数の前記電流検出器が正常な場合における検出ゲインの平均値と電流振幅との第3の積が、前記交流電源または前記負荷装置の運転条件と関連付けて記憶される記憶部と、
前記第2のフィルタおよび前記第3のフィルタの出力に基づいて、複数の前記電流検出器の検出ゲインの平均値と電流振幅との積に相当する物理量を計算する第2の演算部と、
前記第3の積、前記運転条件と同一運転条件において前記第2の演算部により計算される前記物理量、前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて、複数の前記異常度合いの絶対量を表す絶対異常度をそれぞれ計算する第3の演算部と、をさらに備え、
前記異常判断部は、複数の前記絶対異常度に基づいて複数の前記電流検出器の異常を判断する、電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて、複数の前記電流検出器のそれぞれの異常度合いを表し、かつ、複数の相に関しての総和が常にゼロとなるように設定される相対的異常度をそれぞれ計算する第4の演算部をさらに備え、
前記第3の演算部は、
前記第2の演算部で計算される前記物理量と前記第3の積との比、および、前記第4の演算部で計算される前記相対的異常度に基づいて、複数の前記絶対異常度を計算する、電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
複数の前記電流検出器に流れる交流電流の周波数に応じて、前記第1のフィルタ、前記第2のフィルタおよび前記第3のフィルタの内の少なくとも1つのフィルタ設定を変更する、電力変換装置。
【請求項8】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記電流検出器に流れる前記交流電流の大きさに応じて、前記異常判定閾値を変更する、電力変換装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換装置において、
複数の前記電流検出器の少なくとも一つに関して、前記電流検出値に含まれる直流成分を除去または減少させる第4のフィルタをさらに備え、
前記電流検出値に代えて前記第4のフィルタの出力を用いる、電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記異常判断部が前記電流検出器の異常を判断した場合に、異常と判断されていない前記電流検出器の電流検出値に基づいて、異常と判断された前記電流検出器が正常であると仮定した場合の電流検出値を推定する出力推定部をさらに備え、
異常と判断されていない前記電流検出器の電流検出値と、前記出力推定部で推定した電流検出値とに基づいて、運転動作を継続する、電力変換装置。
【請求項11】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記異常判断部が前記電流検出器の異常を判断した場合に、複数の前記電流検出器の前記絶対異常度と複数の前記電流検出器の電流検出値とに基づいて、前記電流検出器が正常であると仮定した場合の電流検出値をそれぞれ推定する出力推定部をさらに備え、
前記電流検出器の電流検出値に代えて、前記出力推定部で推定した複数の電流検出値に基づいて、運転動作を継続する、電力変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記異常判断部が前記電流検出器の異常を判断した場合に異常情報を提示する情報提示部を、さらに備える電力変換装置。
【請求項13】
請求項1に記載の電力変換装置において、
異常情報を提示する情報提示部を、さらに備え、
前記異常判断部は、
複数の前記異常度合いの履歴を生成し、
前記履歴に基づいて前記電流検出器の異常発生までの期間を予測し、
予測結果を前記異常情報として前記情報提示部に提示させる、電力変換装置。
【請求項14】
交流電源と前記交流電源の電力が供給される負荷装置との間に流れる複数相の電流を、相毎に検出する電流検出器の異常判断方法であって、
複数の前記電流検出器によりそれぞれ検出された電流検出値の第1の総和を計算し、
前記第1の総和と前記電流検出値との積である第1の積を、前記複数相の各々について計算し、
複数の前記第1の積にフィルタ処理を施して高調波成分をそれぞれ低減または除去し、
相の異なる2つの前記電流検出値の積である第2の積をそれぞれ計算し、
複数の前記第2の積についての第2の総和を計算し、
前記第2の総和にフィルタ処理を施して高調波成分を減少または除去し、
前記電流検出値の自乗を相毎にそれぞれ計算し、
複数の前記自乗についての第3の総和を計算し、
前記第3の総和にフィルタ処理を施して高調波成分を低減または除去し、
複数の前記第1の積のフィルタ処理結果と、前記第2の総和のフィルタ処理結果と、前記第3の総和のフィルタ処理結果とに基づいて複数の前記電流検出器の異常度合いをそれぞれ生成し、
前記異常度合いに基づいて前記電流検出器の異常を判断する、電流検出器の異常判断方法。
【請求項15】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記複数相における電流値および電圧値のうち少なくとも1つに基づき前記複数相を通過する電力の推定値を演算する電力演算部と、
複数の前記電流検出器が正常な場合における前記電力の推定値が、前記交流電源および前記負荷装置の少なくとも一方の運転条件と関連付けて記憶される記憶部と、
前記運転条件と関連付けて前記記憶部に記憶されている前記電力の推定値と、前記運転条件と同一運転条件において前記電力演算部により演算される前記電力の推定値との比に基づいて、複数の前記電流検出器の検出ゲインの平均値に相当する第2の物理量を計算する第5の演算部と、
前記第2の物理量、前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて、複数の前記異常度合いの絶対量を表す絶対異常度をそれぞれ計算する第6の演算部と、をさらに備え、
前記異常判断部は、複数の前記絶対異常度に基づいて複数の前記電流検出器の異常を判断する、電力変換装置。
【請求項16】
請求項15に記載の電力変換装置において、
前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて、複数の前記電流検出器のそれぞれの異常度合いを表し、かつ、複数の相に関しての総和が常にゼロとなるように設定される相対的異常度をそれぞれ計算する第7の演算部をさらに備え、
前記第6の演算部は、
前記第2の物理量および前記第7の演算部で計算される前記相対的異常度に基づいて、複数の前記絶対異常度を計算する、電力変換装置。
【請求項17】
請求項15に記載の電力変換装置において、
前記異常判断部が前記電流検出器の異常を判断した場合に、複数の前記電流検出器の前記絶対異常度と複数の前記電流検出器の電流検出値とに基づいて、前記電流検出器が正常であると仮定した場合の電流検出値をそれぞれ推定する出力推定部をさらに備え、
前記電流検出器の電流検出値に代えて、前記出力推定部で推定した複数の電流検出値に基づいて、運転動作を継続する、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、および、電流検出器の異常判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電源の電力を可変電圧可変周波数の電力に変換する電力変換装置が知られている。電力変換装置は、電源と電力変換装置との間に流れる電流を測定する電流検出器を備え、電流が所定の値となるように制御する。また、電力変換装置は、電力変換装置と負荷装置との間に流れる電流を測定する電流検出器を備え、電流が所定の値となるように制御する。電力変換装置と電動機との間に流れる電流を検出する電流検出器や、電力変換装置と電源との間に流れる電流を検出する電流検出器は、電力変換装置の電流を制御するために必須なものである。そのため、電流検出器の異常はシステムの動作の不安定をもたらし、最悪の場合にはシステムの計画外停止をもたらすおそれがある。
【0003】
電力変換装置と電動機との間に流れる電流を検出する電流検出器の健全性を確認するための技術として、次のような方法が知られている。例えば、電力変換装置と電動機との間に流れる各相の電流を検出し、各相の電流実効値を他相の電流実効値と比較することにより異常が発生した相を判定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、3相電流検出値の総和がゼロであるか否かを判定し、この判定結果において3相電流の総和がゼロではない場合に、各相の電流値比較あるいは符号判定により電流検出器の異常が発生した相を判定する方法が知られている(例えば特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3737370号公報
【特許文献2】特開2005-94912号公報
【特許文献3】特開2006-50702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、平衡3相負荷が接続された場合に異常が発生した相を判定可能である。しかし、3相負荷が不平衡の場合には、負荷が小さい相に多くの電流が流れて3相電流実効値が不一致となる。そのため、電流検出器が正常な場合において、電流検出器の異常を誤検出するおそれがある。
また、特許文献2および特許文献3に記載の技術においては、電流波形の基本波成分の大きさと比べて無視できない大きさの電流脈動が電流波形に含まれている場合に、電流脈動により電流検出器の異常を誤検出するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様による電力変換装置は、交流電源と負荷装置との間に設けられる電力変換装置であって、前記交流電源と前記電力変換装置との間、または、前記電力変換装置と前記負荷装置との間に流れる複数相の交流電流を、相毎に検出する複数の電流検出器と、複数の前記電流検出器が検出した複数相の電流検出値の第1の総和を計算する第1の加算部と、前記第1の総和と前記電流検出値との積である第1の積を、前記複数相の各々について計算する第1の乗算部と、複数の前記第1の積に含まれる高調波成分をそれぞれ低減または除去する第1のフィルタと、相の異なる2つの前記電流検出値の積である第2の積をそれぞれ計算する第2の乗算部と、複数の前記第2の積についての第2の総和を計算する第2の加算部と、前記第2の総和に含まれる高調波成分を減少または除去する第2のフィルタと、前記電流検出値の自乗を相毎にそれぞれ計算する第3の乗算部と、複数の前記自乗についての第3の総和を計算する第3の加算部と、前記第3の総和に含まれる高調波成分を低減または除去する第3のフィルタと、前記第1のフィルタの出力、前記第2のフィルタの出力および前記第3のフィルタの出力に基づいて複数の前記電流検出器の異常度合いをそれぞれ生成し、前記異常度合いに基づいて前記電流検出器の異常を判断する異常判断部と、を備える。
本発明の態様による電流検出器の異常判断方法は、交流電源と前記交流電源の電力が供給される負荷装置との間に流れる複数相の電流を、相毎に検出する電流検出器の異常判断方法であって、複数の前記電流検出器によりそれぞれ検出された電流検出値の第1の総和を計算し、前記第1の総和と前記電流検出値との積である第1の積を、前記複数相の各々について計算し、複数の前記第1の積にフィルタ処理を施して高調波成分をそれぞれ低減または除去し、相の異なる2つの前記電流検出値の積である第2の積をそれぞれ計算し、複数の前記第2の積についての第2の総和を計算し、前記第2の総和にフィルタ処理を施して高調波成分を減少または除去し、前記電流検出値の自乗を相毎にそれぞれ計算し、複数の前記自乗についての第3の総和を計算し、前記第3の総和にフィルタ処理を施して高調波成分を低減または除去し、複数の前記第1の積のフィルタ処理結果と、前記第2の総和のフィルタ処理結果と、前記第3の総和のフィルタ処理結果とに基づいて複数の前記電流検出器の異常度合いをそれぞれ生成し、前記異常度合いに基づいて前記電流検出器の異常を判断する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷不平衡や電流脈動があっても電流検出器の異常を正しく判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、コンバータユニットに設けられた3つのコンバータ電力変換部を示す図である。
【
図3】
図3は、インバータユニットに設けられた3つのインバータ電力変換部を示す図である。
【
図4】
図4は、コンバータ側異常判断器の詳細を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、インバータ側異常判断器の詳細を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、異常判断部における各種処理を説明するブロック図である。
【
図7】
図7は、
図6の異常判断部における異常判断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、ステップS106の処理の具体例である例1~9を示す図である。
【
図9】
図9は、ステップS106の処理の具体例である例10~13を示す図である。
【
図10】
図10は、電流波形と異常判断動作との関係を説明する例14~17を示す図である。
【
図11】
図11は、電流波形と異常判断動作との関係を説明する例18~21を示す図である。
【
図20】
図20は、第2の実施の形態に係る電力変換装置の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、第2の実施の形態に係る電力変換装置のインバータ側異常判断器のブロック図である。
【
図22】
図22は、電力変換装置における異常判断部の詳細を示すブロック図である。
【
図23】
図23は、第2の実施の形態における異常判断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、ステップS205~S213の処理の具体例である例22,23を示す図である。
【
図25】
図25は、ステップS205~S213の処理の具体例である例24,25を示す図である。
【
図30】
図30は、本発明の第3の実施の形態におけるコンバータ側異常判断器の構成の一例を示すブロック図である。
【
図31】
図31は、本発明の第3の実施の形態におけるインバータ側異常判断器の構成の一例を示すブロック図である。
【
図32】
図32は、第3の実施の形態における出力波形例を示す図である。
【
図33】
図33は、第4の実施の形態の電力変換装置の一例を示す図である。
【
図34】
図34は、第5の実施の形態の電力変換装置の一例を示す図である。
【
図35】
図35は、コンバータ側出力推定器およびインバータ側出力推定器を含む一部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図36】
図36は、第5の実施の形態の変形例を説明する図である。
【
図37】
図37は、電力変換装置を備えない構成における異常判断を説明する図である。
【
図39】
図39は、第2の実施の形態の変形例に係る電力変換装置の一例を示す図である。
【
図40】
図40は、第2の実施の形態の変形例に係る電力変換装置のインバータ側異常判断器における異常判断部のブロック図である。
【
図41】
図41は、第2の実施の形態の変形例に係る電力変換装置のコンバータ側異常判断器における異常判断部のブロック図である。
【
図42】
図42は、電動機の速度、速度変化率(加速度)および負荷の時間変化の一例を示す図である。
【
図43】
図43は、第2の実施の形態の変形例における異常判断処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。実施の形態は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。また、実施の形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが、発明の解決手段に必須であるとは限らない。同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0011】
-第1の実施の形態-
本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置について、
図1~19を参照して説明する。
図1は、第1の実施の形態の電力変換装置100の構成の一例を示す図である。電力変換装置100は、交流電源1から交流電力が入力され、コンバータユニット2およびインバータユニット3により変換された交流電力を電動機4に出力する。
図1において、電力変換装置100は、コンバータユニット2と、インバータユニット3と、コンバータ制御装置5と、インバータ制御装置6とを備えている。また、電力変換装置100は、コンバータ側異常判断器71、インバータ側異常判断器72、表示器73を備えている。
【0012】
コンバータユニット(コンバータともいう)2は、交流電源1からの交流電力を入力して、直流電力に変換する。インバータユニット(インバータともいう)3は、コンバータユニット2が出力する直流電力を所望の電圧と周波数の交流電力に変換する。なお、この変換された交流電力で電動機4は駆動される。電動機4は速度検出器7を備えている。コンバータ制御装置5は、コンバータユニット2を制御する。インバータ制御装置6は、インバータユニット3を制御する。
【0013】
《コンバータユニット2》
図1,2に示すように、コンバータユニット2は、R相、S相およびT相に対応して3つのコンバータ電力変換部21R,21S,21Tと、P配線40と、C配線41と、N配線42と、コンバータP側平滑コンデンサ22(平滑コンデンサ)と、コンバータN側平滑コンデンサ23(平滑コンデンサ)と、コンバータP側直流電圧検出器24と、コンバータN側直流電圧検出器25と、R相電流検出器26と、S相電流検出器27と、T相電流検出器28とを備えている。3つのコンバータ電力変換部21R,21S,21Tは、
図2に示すように接続されている。
【0014】
コンバータユニット2は、いわゆる3レベルコンバータであり、コンバータ電力変換部21に入力した交流電力を、正の電位(第1電位)レベルと、中性点(零)電位(第2電位)レベルと、負の電位(第3電位)レベルとの直流電力に変換する。正の電位レベルはP配線40で接続され、中性点電位レベルはC配線41で接続され、負の電位レベルはN配線42で接続されている。コンバータP側平滑コンデンサ22は、P配線40とC配線41との間の直流電圧の変動を抑制する。コンバータN側平滑コンデンサ23は、C配線41とN配線42との間の直流電圧の変動を抑制する。コンバータP側直流電圧検出器24は、コンバータP側平滑コンデンサ22の端子間電圧を測定する。コンバータN側直流電圧検出器25は、コンバータN側平滑コンデンサ23の端子間電圧を測定する。
【0015】
各コンバータ電力変換部21R,21S,21Tは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなる4個のトランジスタと、6個のダイオードで構成されている。4個のトランジスタ(第1~第4トランジスタ)は、P配線40とN配線42との間に直列に接続されている。第1~第4トランジスタには、それぞれ逆並列のダイオード(第1~第4ダイオード)が接続されている。第1~第4トランジスタに内在する寄生ダイオードがある場合には、逆並列のダイオード(第1~第4ダイオード)は寄生ダイオードで兼用してもよい。
【0016】
第1トランジスタのコレクタは、P配線40に接続されている。第4トランジスタのエミッタは、N配線42に接続されている。第5ダイオードと第6ダイオードは直列に接続され、第5ダイオードのカソードは、第1トランジスタと第2トランジスタの接続点に接続されている。第6ダイオードのアノードは、第3トランジスタと第4トランジスタの接続点に接続されている。第5ダイオードのアノードと第6ダイオードのカソードの接続点は、C配線41に接続されている。
【0017】
図2に示すように、R相の電力線は、コンバータ電力変換部21Rの第2トランジスタと第3トランジスタの接続点に接続されている。S相の電力線は、コンバータ電力変換部21Sの第2トランジスタと第3トランジスタの接続点に接続されている。T相の電力線は、コンバータ電力変換部21Tの第2トランジスタと第3トランジスタの接続点に接続されている。ただし、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tの直流の電力線であるP配線40、C配線41、N配線42は、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tで共用されている。
【0018】
上述のように、交流電源1である3相交流のR相、S相、T相は、対応する各コンバータ電力変換部21R,21S,21Tに別々に入力しているが、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tで変換された直流電力側は共用化して用いられている。すなわち、R相、S相、T相の3相交流電力(電圧)は、一つの直流電力(電圧)に変換される。3つのコンバータ電力変換部21R,21S,21Tは、コンバータ制御装置5によって統合的に制御されている。
【0019】
コンバータユニット2には、上述のようにR相電流検出器26、S相電流検出器27、T相電流検出器28が備えられ、それらが3相交流のR相、S相、T相に流れる電流を検出している。各電流検出器26,27,28で検出された電流検出値IR,IS,ITの信号は、コンバータ側異常判断器71とコンバータ制御装置5に入力される。直流電圧検出器24,25により検出された電圧検出値の信号は、コンバータ制御装置5に入力される。
【0020】
《インバータユニット3》
図1,3に示すように、インバータユニット3は、3つのインバータ電力変換部31U,31V,31Wと、P配線40と、C配線41と、N配線42と、インバータP側平滑コンデンサ32と、インバータN側平滑コンデンサ33と、U相電流検出器34と、V相電流検出器35と、W相電流検出器36とを備えている。インバータユニット3は、いわゆる3レベルインバータであり、正の電位(第1電位)レベルと、中性点(零)電位(第2電位)レベルと、負の電位(第3電位)レベルとの直流電力を、電動機4用の交流電力に変換する。インバータユニット3とコンバータユニット2との正の電位レベルはP配線40で接続され、中性点電位レベルはC配線41で接続され、負の電位レベルはN配線42で接続されている。
【0021】
各インバータ電力変換部31U,31V,31Wは、IGBTからなる4個のトランジスタと、6個のダイオードで構成されている。インバータ電力変換部31U,31V,31WのIGBTからなる4個のトランジスタと6個のダイオードとを備えた構成は、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tの4個のトランジスタと6個のダイオードを備えた構成と、実質的に同一の構成である。そのため、ここでは重複する説明は省略する。
【0022】
3つのコンバータ電力変換部21R,21S,21Tが3相交流電力(電圧)から直流電力(電圧)を生成するのに対して、3つのインバータ電力変換部31U,31V,31Wは、直流電力(電圧)から3相(U相、V相、W相)交流電力(電圧)を生成する。なお、R相、S相、T相の3相交流電力(電圧)と、U相、V相、W相の3相交流電力(電圧)とは、電圧や周波数が異なる。
【0023】
3つのインバータ電力変換部31U,31V,31Wは、インバータ制御装置6によって統合的に制御されている。インバータユニット3には、前述したように、U相電流検出器34、V相電流検出器35、W相電流検出器36が備えられ、それらが3相交流のU相、V相、W相に流れる電流を検出している。電流検出器34,35,36で検出された電流検出値IU,IV,IWの信号は、インバータ側異常判断器72とインバータ制御装置6に入力される。インバータ電力変換部31U,31V,31Wの出力は、電力変換装置100としての出力である。電力変換装置100の出力は、3相電動機である電動機4に直結される。
【0024】
《コンバータ制御装置5》
図1において、コンバータ制御装置5は、直流電圧指令発生器51と、直流電圧制御器52と、電流制御器53と、パルス生成器54とを備えて構成されている。直流電圧指令発生器51は、コンバータユニット2から出力させる直流電圧の電圧値を示す直流電圧指令値を生成して、直流電圧制御器52に出力する。直流電圧制御器52には、直流電圧指令発生器51からの直流電圧指令値と、直流電圧検出器24の検出したコンバータP側平滑コンデンサ22の端子間電圧と、直流電圧検出器25の検出したコンバータN側平滑コンデンサ23の端子間電圧とが入力される。
【0025】
直流電圧制御器52は、直流電圧指令発生器51からの直流電圧指令値と、直流電圧検出器24,25からの端子間電圧値とに基づいてコンバータ出力電流指令値を演算し、演算結果を電流制御器53に出力する。具体的には、直流電圧制御器52は、直流電圧検出器24,25のそれぞれから入力される直流電圧の検出値の合計値が直流電圧指令値と一致するように、コンバータ出力電流指令値を演算する。
【0026】
電流制御器53には、直流電圧制御器52からのコンバータ出力電流指令値と、電流検出器26,27,28で検出された電流検出値IR,IS,ITとが入力される。電流制御器53は、電流検出器26,27,28から出力されるコンバータ出力電流に対応する電流検出値が、直流電圧制御器52から入力されるコンバータ出力電流指令値と一致するようにコンバータ電圧指令値を演算し、コンバータ電圧指令値をパルス生成器54に出力する。
【0027】
パルス生成器54は、入力されるコンバータ電圧指令値に基づいて、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tの各スイッチング素子をオン・オフ制御するためのパルス信号を生成し、生成したパルス信号をコンバータ電力変換部21に出力する。具体的には、パルス生成器54は、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tによる出力電圧が、電流制御器53から入力されるコンバータ出力電圧指令値に一致するように、オン・オフ制御のパルス信号を生成する。
【0028】
上述のように、コンバータ制御装置5は、コンバータユニット2において交流電力から変換される直流電力が所望の値となるように前記した各種演算処理を行い、コンバータ電力変換部21R,21S,21Tを制御する信号を出力する。
【0029】
《インバータ制御装置6》
図1において、インバータ制御装置6は、速度指令発生器61と、速度制御器62と、電流制御器63と、パルス生成器64とを備えて構成されている。速度指令発生器61は、電動機4を動作させる速度を示す速度指令値を速度制御器62に出力する。速度制御器62には、速度指令発生器61からの速度指令値と、速度検出器7が検出した電動機4の速度検出値とが入力される。
【0030】
速度制御器62は、電動機4に付随して備えられた速度検出器7から入力される速度検出値が、速度指令発生器61から入力される速度指令値と一致するようにインバータ出力電流指令値を演算し、インバータ出力電流指令値を電流制御器63に出力する。電流制御器63には、3相交流の出力電流を検出する電流検出器34,35,36からのインバータ出力電流検出値(電流検出値IU,IV,IW)と、速度制御器62からのインバータ出力電流指令値とが入力される。電流制御器63は、インバータ出力電流検出値(電流検出値IU,IV,IW)がインバータ出力電流指令値と一致するようにインバータ電圧指令値を演算し、そのインバータ電圧指令値をパルス生成器64に出力する。
【0031】
パルス生成器64は、入力されるインバータ出力電圧指令値に基づいて、インバータ電力変換部31U,31V,31Wの各スイッチング素子をオン・オフ制御するためのパルス信号を生成する。具体的には、パルス生成器64は、インバータ電力変換部31による出力電圧が、電流制御器63から入力されるインバータ出力電圧指令値に一致するように、オン・オフ制御のパルス信号を生成する。
【0032】
上述のように、インバータ制御装置6は、インバータユニット3において、電動機4の出力トルクや速度が所望の特性を満たすようにインバータ電力変換部31U,31V,31Wを制御する。
【0033】
<電力変換装置100における異常判断に関わる構成>
図1において、電力変換装置100は、異常判断に関わる構成として、コンバータ側異常判断器71と、インバータ側異常判断器72と、表示器73とを備える。表示器73には、コンバータ側異常判断器71の出力信号およびインバータ側異常判断器72の出力信号が入力される。
【0034】
詳細な説明は後述するが、コンバータ側異常判断器71は、R相、S相、T相の3相交流の電流検出器26,27,28から入力される電流検出値IR,IS,ITに基づいて、電流検出器26,27,28に異常があるか否かを判断する。また、インバータ側異常判断器72は、U相、V相、W相の3相交流の電流検出器34,35,36から入力される電流検出値IU,IV,IWに基づいて、電流検出器34,35,36に異常があるか否かを判断する。なお、コンバータ側異常判断器71およびインバータ側異常判断器72の処理は、例えば、図示しないプロセッサが、メモリに格納されたプログラムを実行することにより構成されている。
【0035】
表示器73は、例えば、液晶ディスプレイ等の情報を表示可能な表示装置で構成され、コンバータ側異常判断器71およびインバータ側異常判断器72の判断情報や、その他の各種情報を表示する。
【0036】
《コンバータ側異常判断器71》
図4は、コンバータ側異常判断器71の詳細を示すブロック図である。コンバータ側異常判断器71は、加算器711、乗算器712R,712S,712T、フィルタ713R,713S,713T、乗算器714R,714S,714T、加算器715、フィルタ716、乗算器714CR,714CS,714CT、加算器715C、フィルタ716C、および異常判断部717を備えている。
【0037】
R相電流検出器26で検出された電流検出値IRは、加算器711および乗算器712R,714R,714CT,714CSのそれぞれに入力される。S相電流検出器27で検出された電流検出値ISは、加算器711、乗算器712Sおよび乗算器714S,714CT,714CRのそれぞれに入力される。T相電流検出器28で検出された電流検出値ITは、加算器711、乗算器712Tおよび乗算器714T,714CR,714CSのそれぞれに入力される。
【0038】
加算器711は、電流検出値IR,IS,ITの総和IC0(=IR+IS+IT)を算出する。算出された総和IC0は、乗算器712R,712S,712Tのそれぞれに入力される。乗算器712Rは、電流検出値IRと総和IC0との積DRを算出する。乗算器712Sは、電流検出値ISと総和IC0との積DSを算出する。乗算器712Tは、電流検出値ITと総和IC0との積DTを算出する。乗算器712R,712S,712Tから出力された積DR,DS,DTは、各々対応する相のフィルタ713R,713S,713Tに入力される。フィルタ713Rは、積DRから高周波成分を低減または除去してFRを出力する。なお、異常判断部717におけるフィルタ713R,713S,713T,716および716Cは、入力信号に含まれる高周波成分を低減または除去するものであるが、以下では単に「除去する」と記載する。フィルタ713Sは、積DSから高周波成分を除去してFSを出力する。フィルタ713Tは、積DTから高周波成分を除去してFTを出力する。フィルタ713R,713S,713Tから出力されたFR,FS,FTは、異常判断部717へ入力される。
【0039】
乗算器714Rの第1入力端子および第2入力端子には電流検出値IRがそれぞれ入力され、それらの入力の積すなわち電流検出値IRの自乗IR
2が乗算器714Rから出力される。乗算器714Sの第1入力端子および第2入力端子には電流検出値ISがそれぞれ入力され、それらの入力の積すなわち電流検出値ISの自乗IS
2が乗算器714Sから出力される。乗算器714Tの第1入力端子および第2入力端子には電流検出値ITがそれぞれ入力され、それらの入力の積すなわち電流検出値ITの自乗IT
2が乗算器714Tから出力される。乗算器714R,714S,714Tから出力された自乗IR
2,IS
2,IT
2は加算器715に入力される。加算器715は、3つの自乗IR
2,IS
2,IT
2の総和(IR
2+IS
2+IT
2)を出力する。加算器715の出力(IR
2+IS
2+IT
2)はフィルタ716に入力される。フィルタ716は、総和(IR
2+IS
2+IT
2)から高周波成分を除去して、総和(IR
2+IS
2+IT
2)の直流成分であるHCを異常判断部717へ出力する。
【0040】
電流検出値IR,ISが入力される乗算器714CTは、それらの積IRISを出力する。電流検出値IS,ITが入力される乗算器714CRは、それらの積ISITを出力する。電流検出値IT,IRが入力される乗算器714CSは、それらの積ITIRを出力する。乗算器714CR,714CS,714CTから出力された積ISIT,ITIR,IRISは、それぞれ加算器715Cに入力さる。加算器715Cは、3つの積ISIT,ITIR,IRISの総和(ISIT+ITIR+IRIS)を出力する。加算器715Cの出力(ISIT+ITIR+IRIS)はフィルタ716Cに入力される。フィルタ716Cは、総和(ISIT+ITIR+IRIS)から高周波成分を除去して、総和(ISIT+ITIR+IRIS)の直流成分であるKCを異常判断部717へ出力する。
【0041】
異常判断部717は、入力されたFR,FS,FT,HC,KCに基づいて、電流検出器26,27,28に異常があるか否かを判断する。なお、異常判断部717における異常の総合的な判断についての詳細は、後述する。
【0042】
《インバータ側異常判断器72》
図5は、インバータ側異常判断器72の詳細を示すブロック図である。インバータ側異常判断器72は、加算器721、乗算器722U,722V,722W、フィルタ723U,723V,723W、乗算器724U,724V,724W、加算器725、フィルタ726、乗算器724CU,724CV,724CW、加算器725C、フィルタ726Cおよび異常判断部727を備えている。
【0043】
U相電流検出器34で検出された電流検出値IUは、加算器721および乗算器722U,724U,724CV,724CWのそれぞれに入力される。V相電流検出器35で検出された電流検出値IVは、加算器721および乗算器722V,724V,724CW,724CUのそれぞれに入力される。W相電流検出器36で検出された電流検出値IWは、加算器721および乗算器722W,724W,724CU,724CVのそれぞれに入力される。
【0044】
加算器721は、電流検出値IU,IV,IWの総和II0(=IU+IV+IW)を算出する。算出された総和II0は、乗算器722U,722V,722Wのそれぞれに入力される。乗算器722Uは、電流検出値IUと総和II0との積DUを算出する。乗算器722Vは、電流検出値IVと総和II0との積DVを算出する。乗算器722Wは、電流検出値IWと総和II0との積DWを算出する。乗算器722U,722V,722Wから出力された積DU,DV,DWは、各々対応する相のフィルタ723U,723V,723Wに入力される。
【0045】
フィルタ723Uは、積DUから高周波成分を低減または除去してFUを出力する。なお、異常判断部727におけるフィルタ723U,723V,723W,726および726Cは、入力信号に含まれる高周波成分を低減または除去するものであるが、以下では単に「除去する」と記載する。フィルタ723Vは、積DVから高周波成分を除去してFVを出力する。フィルタ723Wは、積DWから高周波成分を除去してFWを出力する。フィルタ723U,723V,723Wから出力されたFU,FV,FWは、異常判断部727へ入力される。
【0046】
乗算器724Uの第1入力端子および第2入力端子には電流検出値IUがそれぞれ入力され、それらの入力の積すなわち電流検出値IUの自乗IU
2が乗算器724Uから出力される。乗算器724Vの第1入力端子および第2入力端子にはそれぞれ電流検出値IVが入力され、それらの入力の積すなわち電流検出値IVの自乗IV
2が乗算器724Vから出力される。乗算器724Wの第1入力端子および第2入力端子にはそれぞれ電流検出値IWが入力され、それらの入力の積すなわち電流検出値IWの自乗IW
2が乗算器724Wから出力される。乗算器724U,724V,724Wから出力された自乗IU
2,IV
2,IW
2は、それぞれ加算器725に入力される。加算器725は、3つの自乗IU
2,IV
2,IW
2の総和(IU
2+IV
2+IW
2)を出力する。加算器725の出力(IU
2+IV
2+IW
2)はフィルタ726に入力される。フィルタ726は、総和(IU
2+IV
2+IW
2)から高周波成分を除去して総和(IU
2+IV
2+IW
2)の直流成分であるHIを異常判断部727へ出力する。
【0047】
電流検出値IU,IVが入力される乗算器724CWは、それらの入力の積IUIVを出力する。電流検出値IV,IWが入力される乗算器724CUは、それらの入力の積IVIWを出力する。電流検出値IW,IUが入力される乗算器724CVは、それらの入力の積IWIUを出力する。乗算器724CU,724CV,724CWから出力された積IVIW,IWIU,IUIVは、それぞれ加算器725Cに入力さる。加算器725Cは、3つの積IVIW,IWIU,IUIVの総和(IVIW+IWIU+IUIV)を出力する。加算器725Cの出力(IVIW+IWIU+IUIV)はフィルタ726Cに入力される。フィルタ726Cは、総和(IUIV+IVIW+IWIU)から高周波成分を除去して総和(IUIV+IVIW+IWIU)の直流成分であるKIを異常判断部727へ出力する。
【0048】
異常判断部727は、入力されたFU,FV,FW,HI,KIに基づいて、電流検出器34,35,36に異常があるか否かを判断する。なお、異常判断部727における異常判断の詳細については、後述する。
【0049】
<異常判断器71、72における各処理の詳細説明>
図4,5に示したコンバータ側異常判断器71およびインバータ側異常判断器72における各構成の処理について、より詳細に説明する。コンバータ側の電流検出器26,27,28の電流検出値I
R,I
S,I
Tと電流値の真値I
RT,I
ST,I
TTとの関係は、次式(1)~(3)で表せる。なお、G
R、G
S、G
Tは電流検出器26,27,28における検出ゲインを表す。
I
R=I
RT×G
R …(1)
I
S=I
ST×G
S …(2)
I
T=I
TT×G
T …(3)
【0050】
同様に、インバータ側の電流検出器34,35,36の電流検出値IU,IV,IWと電流値の真値IUT,IVT,IWTとの関係は、次式(4)~(6)で表せる。なお、GU,GV,GWは電流検出器34,35,36における検出ゲインを表す。
IU=IUT×GU …(4)
IV=IVT×GV …(5)
IW=IWT×GW …(6)
【0051】
また、実際に流れている電流の真値IRT,IST,ITTおよびIUT,IVT,IWTに関しては、キルヒホッフ電流則より次式(7)~(8)が成り立つ。
IRT+IST+ITT=0 …(7)
IUT+IVT+IWT=0 …(8)
【0052】
《電流検出器34,35,36に関する各種の量についての説明》
まず、インバータ側異常判断器72における異常判断の動作を説明する前に、電流検出器34,35,36の異常に関する各種の量について説明する。
図4に示したコンバータ側異常判断器71と、
図5に示したインバータ側異常判断器72とは類似の構成を有しているので、以下では、異常判断器71,72における各処理の詳細説明に関して、インバータ側異常判断器72を代表として説明する。なお、説明は省略するが、コンバータ側異常判断器71に関連する関係式についても、以下に記載のインバータ側異常判断器72に関連する関係式において添え字U,V,WをR,S,Tに置き換えることで、同様に説明できる。
【0053】
U相,V相,W相の電流真値IUT,IVT,IWTは、例えば、電流真値の波形が正弦波であって、電流真値の振幅が3相ともにIIAで、各相の電流真値の正弦波波形の位相差が2π/3(ラジアン)である場合には、次式(9)~(11)で表される。
IUT=IIA×cos(ωt) …(9)
IVT=IIA×cos(ωt-2π/3) …(10)
IWT=IIA×cos(ωt-4π/3) …(11)
ただし、IIAは前述したように電流振幅、tは時間、ω=2πfは角周波数(fは周波数)である。
【0054】
また、式(4)~(6)および式(9)~(11)より、U相,V相,W相の電流検出値IU,IV,IWは式(12)~式(14)で表される。
IU=GUIIA×cos(ωt) …(12)
IV=GVIIA×cos(ωt-2π/3) …(13)
IW=GWIIA×cos(ωt-4π/3) …(14)
【0055】
電流検出器34,35,36のすべてが正常な場合には、検出ゲインGU,GV,GWの値は1となり、各電流検出器34,35,36の検出値IU,IV,IWと、真値IUT,IVT,IWTとは等しくなる。一方、電流検出器34,35,36が異常な場合(例えば、検出ゲイン異常が発生した場合)には、検出値IU,IV,IWと真値IUT,IVT,IWTとが一致せず、検出ゲインGU,GV,GWの値は1以外(例えば、0.9や1.1)となる。電流検出器34,35,36が正常か異常かは、検出ゲインGU,GV,GWの値で判断することができる。
【0056】
(絶対異常度AU,AV,AWの導入)
ここで、電流検出器34,35,36の絶対的な異常度合いを示す情報として、絶対異常度AU,AV,AWを導入する。
[定義]
絶対異常度AU,AV,AWは、検出ゲインGU,GV,GWに対して次式(15)~(17)が成立するように定義される。
GU=1+AU …(15)
GV=1+AV …(16)
GW=1+AW …(17)
【0057】
絶対異常度AU,AV,AWが0の場合は、対応する検出ゲインGU,GV,GWが1となり、電流検出器34,35,36が正常であることを表している。一方、絶対異常度AU,AV,AWが0以外の値の場合は、対応する検出ゲインGU,GV,GWが1以外の値となり、電流検出器34,35,36が異常であることを表している。したがって、絶対異常度AU,AV,AWは、それらの値が0から離れるほど異常の影響が大きいという、異常度合いを表す情報である。
【0058】
絶対異常度AU,AV,AWを用いると、上述した式(12)~(14)で示した電流検出値IU,IV,IWは、次式(18)~(20)で表される。
IU=(1+AU)×IIA×cos(ωt) …(18)
IV=(1+AV)×IIA×cos(ωt-2π/3) …(19)
IW=(1+AW)×IIA×cos(ωt-4π/3) …(20)
【0059】
ここで、U相電流検出器34とV相電流検出器35とW相電流検出器36の全てが正常である場合にはGU=GV=GW=1であるので、次式(21)が成立する。
GU+GV+GW=3 …(21)
一方、U相電流検出器34、V相電流検出器35およびW相電流検出器36のうち1つが異常である場合、「GU≠1かつGV=GW=1」、「GV≠1かつGU=GW=1」および「GW≠1かつGU=GV=1」のいずれかであるので、式(21)が成立せずGU+GV+GW≠3となる。
また、U相電流検出器34とV相電流検出器35とW相電流検出器36のうち2つまたは3つが異常である場合、GU+GV+GW=3またはGU+GV+GW≠3のいずれかとなる。なお、GU+GV+GW=3は、異常な電流検出器の検出ゲインの1からのズレが打ち消しあった場合に成り立つものである。ズレが打ち消しあわない場合には、GU+GV+GW≠3となる。
【0060】
(相対検出ゲインGU0,GV0,GW0の導入)
ここで、ゲインの和が常に3になるような相対検出ゲインGU0,GV0,GW0および変数BIを新たに導入する。
[定義]
相対検出ゲインGU0,GV0,GW0および変数BIは、次式(22),(23)~(25)が成立するように設定される量である、と定義される。
GU0+GV0+GW0=3 …(22)
IU=GU0BI×cos(ωt) …(23)
IV=GV0BI×cos(ωt-2π/3) …(24)
IW=GW0BI×cos(ωt-4π/3) …(25)
【0061】
式(23)~(25)および式(12)~(14)の比較より、検出ゲインGU,GV,GWと相対検出ゲインGU0,GV0,GW0との間には、次式(26)~(28)が成立する。
GU0BI=GUIIA …(26)
GV0BI=GVIIA …(27)
GW0BI=GWIIA …(28)
式(26)~(28)および式(22)より、変数BIは、検出ゲインGU,GV,GW,および電流振幅IIAを用いて、次式(29)で表される。
BI=(GU+GV+GW)×IIA/(GU0+GV0+GW0)
=(GU+GV+GW)×IIA/3 …(29)
【0062】
(相対異常度AU0,AV0,AW0の導入)
ここで、電流検出器34,35,36の相対異常度AU0,AV0,AW0を導入する。
[定義]
相対異常度AU0,AV0,AW0は、次式(30)~(32)が成立するように設定される量である、と定義する。
GU0=1+AU0 …(30)
GV0=1+AV0 …(31)
GW0=1+AW0 …(32)
【0063】
上記の相対異常度AU0,AV0,AW0を用いると、前述した式(23)~(25)は次式(33)~(35)で表される。
IU=(1+AU0)×BI×cos(ωt) …(33)
IV=(1+AV0)×BI×cos(ωt-2π/3) …(34)
IW=(1+AW0)×BI×cos(ωt-4π/3) …(35)
また、式(22)および式(30)~(32)より、相対異常度AU0,AV0,AW0の和に関して次式(36)が成立する。
AU0+AV0+AW0=0 …(36)
したがって,相対異常度AU0,AV0,AW0とは、異常度合いを表す絶対異常度AU,AV,AWを式(36)が成立するように規格化したものであるといえる。
【0064】
一方、絶対異常度AU,AV,AWに関しては、電流検出器34,35,36の全てが正常である場合(GU=GV=GW=1)は、式(15)~(17)および式(21)よりAU+AV+AW=0となるが、電流検出器34,35,36のうち1つ以上が異常である場合は、AU+AV+AW=0またはAU+AV+AW≠0のいずれかとなる。
【0065】
《インバータ側異常判断器72の動作》
前述したように、
図4に示したコンバータ側異常判断器71と、
図5に示したインバータ側異常判断器72とは類似の構成になっているので、インバータ側異常判断器72およびコンバータ側異常判断器71の動作に関して、
図5のインバータ側異常判断器72を代表として説明する。なお、以下ではインバータ側異常判断器72の動作について説明するが、添え字U,V,WをR,S,Tに置き換えることで、コンバータ側異常判断器71の動作についても同様に説明できる。
【0066】
前述した式(9)~(11)に示す電流が流れている場合について、インバータ側異常判断器72における各出力I
I0,D
U,D
V,D
W,F
U,F
V,F
W,I
U
2+I
V
2+I
W
2,H
I,I
UI
V+I
VI
W+I
WI
UおよびK
Iについて説明する。
まず、
図5の加算器721から出力される総和I
I0(=I
U+I
V+I
W)は、次式(37)で表される。
I
I0=I
U+I
V+I
W
=B
I×(A
U0×cos(ωt)+A
V0×cos(ωt-2π/3)
+A
W0×cos(ωt-4π/3)) …(37)
【0067】
乗算器722U,722V,722Wの出力DU,DV,DWは次式(38)~(40)で表される。なお、式(38)~(40)において、記号√(X)はX1/2を表しており、以下、同様である。
DU=(IU+IV+IW)×IU
=1/2×BI
2AU0×(1+AU0)×(1+cos(2ωt))
-1/4×BI
2AV0×(1+AU0)×(1+cos(2ωt)-√(3)×sin(2ωt))
-1/4×BI
2AW0×(1+AU0)×(1+cos(2ωt)+√(3)×sin(2ωt))
…(38)
DV=(IU+IV+IW)×IV
=-1/4×BI
2AU0×(1+AV0)×(1+cos(2ωt)-√(3)×sin(2ωt))
+1/2×BI
2AV0×(1+AV0)×(1+cos(2ωt-4π/3))
-1/4×BI
2AW0×(1+AV0)×(1-2×cos(2ωt))
…(39)
DW=(IU+IV+IW)×IW
=-1/4×BI
2AU0×(1+AW0)×(1+cos(2ωt)+√(3)×sin(2ωt))
-1/4×BI
2AV0×(1+AW0)×(1-2×cos(2ωt))
+1/2×BI
2AW0×(1+AW0)×(1+cos(2ωt-8π/3))
…(40)
【0068】
フィルタ723U,723V,723Wは、入力されるDU、DV、DWに対してそれらに含まれる高周波成分を除去するフィルタ処理を行い、DU、DV、DWの直流成分であるFU,FV,FWを出力するものである。式(38)~(40)で表されるDU、DV、DWに対して、高周波成分を除去するフィルタ処理を行うと、すなわち、三角関数の周期変化分を除去すると、フィルタ723U,723V,723Wの出力FU,FV,FWは次式(41)~(43)で表される。
FU=1/4×BI
2×(2AU0-AV0-AW0)×(1+AU0) …(41)
FV=1/4×BI
2×(2AV0-AW0-AU0)×(1+AV0) …(42)
FW=1/4×BI
2×(2AW0-AU0-AV0)×(1+AW0) …(43)
さらに,式(41)~(43)に前述した式(36)を代入して整理すると、フィルタ723U,723V,723Wの出力FU,FV,FWは次式(44)~式(46)で表される。
FU=3/4×BI
2AU0×(1+AU0) …(44)
FV=3/4×BI
2AV0×(1+AV0) …(45)
FW=3/4×BI
2AW0×(1+AW0) …(46)
【0069】
加算器725の出力(IU
2+IV
2+IW
2)は次式(47)で表される。
IU
2+IV
2+IW
2=BI
2×(1+AU0)2×(1+cos(2ωt))/2
+BI
2×(1+AV0)2×(1+cos(2ωt-4π/3))/2
+BI
2×(1+AW0)2×(1+cos(2ωt-8π/3))/2
…(47)
【0070】
フィルタ726は、入力されるIU
2+IV
2+IW
2に対してそれらに含まれる高周波成分を除去するフィルタ処理を行い、IU
2+IV
2+IW
2の直流成分であるHIを出力する。前記の式(47)で表されるIU
2+IV
2+IW
2に対して、高周波成分を除去するフィルタ処理を行うと、すなわち、三角関数の周期変化分を除去すると、第2系統のフィルタ726の出力HIは次式(48)で表される。なお、計算過程において前述の式(36)を用いた。
HI=3/2×BI
2+1/2×BI
2×(AU0
2+AV0
2+AW0
2) …(48)
【0071】
加算器725Cの出力(IUIV+IVIW+IWIU)は次式(49)で表される。
IUIV+IVIW+IWIU
=-1/4×BI
2×(1+AU0)×(1+AV0)×(1+cos(2ωt)-√(3)×sin(2ωt))
-1/4×BI
2×(1+AV0)×(1+AW0)×(1+2×cos(2ωt))
-1/4×BI
2×(1+AW0)×(1+AU0)×(1+cos(2ωt)+√(3)×sin(2ωt))
…(49)
【0072】
フィルタ726Cは、入力されるIUIV+IVIW+IWIUに対してそれらに含まれる高周波成分を除去するフィルタ処理を行い、IUIV+IVIW+IWIUの直流成分であるKIを出力する。前記の式(49)で表されるIUIV+IVIW+IWIUに対して、高周波成分を除去するフィルタ処理を行うと、すなわち、三角関数の周期変化分を除去すると、フィルタ726Cの出力KIは次式(50)で表される。なお、計算過程において前述の式(36)を用いた。
KI=-3/4×BI
2-1/4×BI
2×(AU0AV0+AV0AW0+AW0AU0) …(50)
【0073】
《異常判断部727における処理》
図5に示すインバータ側異常判断器72の異常判断部727における異常判断処理では、以下に説明する規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0が用いられる。
図6は、異常判断部727における各種処理を説明するブロック図である。異常判断部727は、規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0に関係する演算処理を行う演算部7271~7275を備えている。異常判断部727は、フィルタ723U,723V,723W,726,726Cから出力される直流成分F
U,F
V,F
W,H
I,K
Iに基づいて、規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0を算出する。
【0074】
<演算部7271>
前述のHIに関する式(48)およびKIに関する式(50)のそれぞれを前述した式(36)を用いて整理すると、次式(51),(52)が得られる。
2×HI=3×BI
2+2×BI
2×(AV0
2+AW0
2+AV0AW0) …(51)
8×KI=-6×BI
2+2×BI
2×(AV0
2+AW0
2+AV0AW0) …(52)
式(51),式(52)より,相対異常度AU0,AV0,AW0を消去すると次式(53)が成立する。
BI
2=(2HI-8KI)/9 …(53)
すなわち、演算部7271は、フィルタ726,726Cから入力された直流成分HI,KIから、式(53)によりBI
2を算出する。
【0075】
<演算部7272~7274>
前述の式(44)~(46)のそれぞれを整理すると、次式(54)~(56)に示すように相対異常度AU0,AV0,AW0に関する2次方程式がそれぞれ得られる。
3BI
2AU0
2+3BI
2AU0-4FU=0 …(54)
3BI
2AV0
2+3BI
2AV0-4FV=0 …(55)
3BI
2AW0
2+3BI
2AW0-4FW=0 …(56)
式(54)~(56)のそれぞれに2次方程式の解の公式を適用して求めた解をAU0C,AV0C,AW0Cとすると、AU0C,AV0C,AW0Cは次式(57)~(59)で与えられる。
AU0C=(-3BI
2+√(9BI
4+48BI
2FU))/(6BI
2) …(57)
AV0C=(-3BI
2+√(9BI
4+48BI
2FV))/(6BI
2) …(58)
AW0C=(-3BI
2+√(9BI
4+48BI
2FW))/(6BI
2) …(59)
式(57)~(59)で計算されるAU0C,AV0C,AW0C(相対異常度AU0,AV0,AW0の計算値)を、ここでは異常度計算値と呼ぶことにする。前述のように(例えば、式(33)~(35))、電流が正弦波電流であることを前提としているので、式(57)~(59)で計算される異常度計算値AU0C,AV0C,AW0Cは、電流脈動が無い理想状態におけるU相,V相,W相の異常度を表している。
【0076】
図6において、演算部7272は、フィルタ723Uから入力される直流成分F
Uと演算部7271で算出されるB
I
2とに基づいて、式(57)によりU相の異常度合いを表す異常度計算値A
U0Cを算出する。演算部7273は、直流成分F
VとB
I
2とに基づいて、式(58)によりV相の異常度合いを表す異常度計算値A
V0Cを算出する。演算部7274は、直流成分F
WとB
I
2とに基づいて、式(59)によりW相の異常度合いを表す異常度計算値A
W0Cを算出する。
【0077】
なお、2次方程式の解の公式において√の直前の符号はプラスまたはマイナスであるが、式(57)~(59)ではプラスとした。例えば、異常度ゼロの場合には、式(57)の右辺はゼロとならなければならない。異常度ゼロの場合、式(44)で計算されるFUはゼロとなる。仮に、式(57)の√の直前の符号はマイナスとした場合、式(57)の右辺の分子(-3BI
2-√(9BI
4+48BI
2FU))はゼロにならない。
【0078】
<演算部7275>
異常度計算値AU0C,AV0C,AW0Cは、電流脈動が無い理想状態におけるU相,V相,W相の異常度を表しているので、電流波形に脈動成分が含まれない場合には、異常度計算値AU0C,AV0C,AW0Cの和は、相対異常度AU0,AV0,AW0の場合と同様にゼロとなる。すなわち、電流波形に脈動成分が含まれない場合はAU0C+AV0C+AW0C=0となる。一方、電流波形に脈動成分が含まれる場合はAU0C+AV0C+AW0C>0となる。
【0079】
(規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0の導入)
そこで、次式(60)が成立するような規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を新たに導入する。
[定義]
規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0は、次式(60)~(63)が成立するように設定される量である、と定義する。
AU0C0+AV0C0+AW0C0=0 …(60)
AU0C0=AU0C-(AU0C+AV0C+AW0C)/3 …(61)
AV0C0=AV0C-(AU0C+AV0C+AW0C)/3 …(62)
AW0C0=AW0C-(AU0C+AV0C+AW0C)/3 …(63)
【0080】
各式(61)~(63)の右辺第2項は、式(60)を満たすようにするための異常度計算値AU0C,AV0C,AW0Cに対する補正項と考えることができる。電流波形に脈動成分が含まれAU0C+AV0C+AW0C>0である場合でも、規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0であればAU0C0+AV0C0+AW0C0=0が成立している。
【0081】
図6の演算部7275は、演算部7272~7274で算出された異常度計算値A
U0C,A
V0C,A
W0Cに基づいて、式(61)~(63)により規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0を算出する。
【0082】
なお、電動機4の運転周波数が可変などの理由により電流検出器に流れる電流が可変周波数である場合には、インバータ側異常判断器72は、
図5で用いられているフィルタの時定数(またはカットオフ周波数)を、電動機4の運転周波数が低速なときでもフィルタ入力に含まれる交流成分を大きく除去できるように、運転周波数に応じて可変とすることが望ましい。
図1では記載を省略したが、インバータ側異常判断器72には、運転周波数の情報(速度情報)として、速度指令発生器61から速度指令が入力される。また、速度指令に代えて、速度検出器7で検出した電動機4の速度検出値を用いても良い。
あるいは、低速運転時においてもフィルタ入力に含まれる交流成分を大きく減少させるようにフィルタの時定数を予め設定してもよい。また、電動機4の運転周波数が極めて低速である場合、フィルタの時定数が極めて大きくなるため、電動機4の運転周波数が低速である場合には後述の異常判断を行わないようにしてもよい。
【0083】
<異常判断部727における異常判断処理>
図7は、
図6の異常判断部727における異常判断処理の一例を示すフローチャートである。以下では、
図7のフローチャートにしたがって異常判断処理の手順を説明する。
【0084】
《ステップS101》
異常判断部727における異常判断処理が開始されると、ステップS101に進む。ステップS101では、異常判断部727は、電流検出器34,35,36で検出される電流検出値IU,IV,IWのすべてがゼロであるか否かを判定する。異常判断部727は、電流検出値IU,IV,IWのすべてがゼロである(Yes)と判定すると、ステップS102に進む。一方、電流検出値IU,IV,IWの少なくとも一つがゼロでない場合(No)には、ステップS101からステップS103へ進む。
【0085】
《ステップS102》
ステップS101からステップS102へ進んだ場合には、ステップS102において、インバータ電力変換部31U,31V,31Wに異常があると判断する。そして、異常判断部727は、インバータ電力変換部31U,31V,31Wに異常があることを示す情報(例えば、「電力変換部異常」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。ステップS102の処理が終了したならば、ステップS115に進む。なお、ステップS115の処理については、後述する。
【0086】
《ステップS103》
ステップS103では、異常判断部727は、電流検出器34,35,36から出力される電流検出値IU,IV,IWのいずれかが継続的にゼロ(またはゼロに近い値)を出力しているか否かを判定する。ステップS103で、電流検出値IU,IV,IWのいずれかが継続的にゼロである(Yes)と判定されると、ステップS104へ進む。一方、ステップS103において、電流検出値IU,IV,IWのいずれも継続的にゼロでない(No)と判定されると、ステップS105へ進む。
【0087】
《ステップS104》
ステップS103でYesと判定された場合には、例えば、電流検出器34,35,36が利用している電流検出を行うための電流検出ループ(電流検出を行うための配線)に、断線や緩みなどによる異常が発生したと考えられる。ステップS103からステップS104へ進んだ場合には、ステップS104において、電流検出ループに異常があることを示す情報(例えば、「電流検出ループ異常」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。ステップS104の処理が終了したならば、ステップS115に進む。なお、ステップS115の処理については、後述する。
【0088】
《ステップS105》
ステップS105では、異常判断部727は、前述した演算部7271~7275による演算処理を行い規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を計算する。
【0089】
《ステップS106》
ステップS106はすべての電流検出器34~36が正常か否かを判定するステップであり、異常判断部727は、算出した規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0に関して、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の内の最大値が予め定めた所定値α(例えば、後述する3%)より大きいか否かを判定する。すなわち,式(64)が成立するか否かを判定する。なお、MAX(a,b,c)は値a,b,cの内で最大のものを表す。
MAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|) > 所定値α …(64)
【0090】
ステップS106において式(64)が成立する(Yes)と判定されると、ステップS106からステップS107へ進む。一方、ステップS106において式(64)が成立しない(No)と判定されると、すなわち、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の全てが所定値α以下の場合、ステップS106からステップS116へ進む。なお、ステップS116の処理については、後述する。
【0091】
《ステップS107》
ステップS107では、異常判断部727は、次式(65)が成立するか否かを判定する。ここで、[MAX]はMAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)を、[MIN]はMIN(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)を表す。なお、MIN(a,b,c)は値a,b,cの内で最小のものを表す。所定値βは予め設定された値(例えば、後述する50%)である。
([MAX]-2×[MIN])/[MAX] > 所定値β …(65)
ステップS107において式(65)が成立する(Yes)と判定されると、ステップS107からステップS108へ進む。一方、式(65)が成立しない(No)と判定されると、ステップS107からステップS109へ進む。なお、詳細は後述するが、式(65)は、3つの電流検出器34~36の内の2個以上が異常であるか否かを判定する式であり、式(65)が成立しない場合(No)には1個だけが異常で、式(65)が成立する場合(Yes)には2または3個が異常であると判定される。
【0092】
なお、上述した所定値α,βは、一定または可変のいずれであっても良い。例えば、原理上、電流=0の場合には電流検出器の異常度合いが見えなくなり、異常診断が困難になる。そのような電流値が小さい場合に誤判断しないように、検出電流値IU,IV,IWの大きさに応じて所定値α,βを可変にしてもよい。
【0093】
《ステップS108》
ステップS108では、異常判断部727は、電流検出器34,35,36の内の複数が異常であると判断し、複数の電流検出器に異常があることを示す情報(例えば、「複数電流検出器異常」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。ステップS108の処理が終了したならば、ステップS115に進む。
【0094】
なお、複数の電流検出器34,35,36の異常度の平均値が0、すなわち、相対異常度AU0,AV0,AW0の計算値の平均値が0(すなわち、(AU0C+AV0C+AW0C)/3=0)、であると仮定した場合、式(61)~(63)からAU0C0=AU0C、AV0C0=AV0C、AW0C0=AW0Cが得られる。そのため、異常度の推定値AU1,AV1,AW1は規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を用いてAU1=AU0C0,AV1=AV0C0,AW1=AW0C0のように表すことができる。
【0095】
《ステップS109》
ステップS109では、異常判断部727は、MAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)が、|AU0C0|と等しいか否かを判定する。すなわち、式(66)が成立するか否かを判定する。
MAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)=|AU0C0| …(66)
ステップS109において式(66)が成立する(Yes)と判定されると、ステップS109からステップS110へ進む。一方、式(66)が成立しない(No)と判定されると、ステップS109からステップS111へ進む。
【0096】
《ステップS110》
ステップS110では、異常判断部727は、U相電流検出器34の異常と判断し、U相電流検出器34に異常があることを示す情報(例えば、「U相電流検出器異常」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。ステップS110の処理が終了したならば、ステップS115へ進む。
なお、V相電流検出器35およびW相電流検出器36の異常度の推定値AV1,AW1がAV1=AW1=0であると仮定した場合、U相電流検出器34の異常度の推定値AU1は次式(67)で計算することができる。
AU1=(3×AU0C0)/(2-AU0C0) …(67)
【0097】
式(67)は、例えば、以下のようにして推定することができる。前述した式(26)、(29)から式(67a)が得られる。
GU=GU0×(GU+GV+GW)/3 …(67a)
式(67a)は、絶対異常度AU,AV,AWおよび相対異常度AU0を用いて表すと次式(67b)となる。
1+AU=(1+AU0)×(AU+AV+AW+3)/3 …(67b)
AV=AW=0であると仮定した場合、次式(67c)が得られる。
1+AU=(1+AU0)×(AU+3)/3
AU=(3×AU0)/(2-AU0) …(67c)
式(67c)の右辺の相対異常度AU0の代わりに規格化異常度計算値AU0C0を用いたものを異常度AUの推定値であるとすれば、上述した式(67)が得られる。
【0098】
なお、ステップS107の式(65)は、3つの要素(AU0C0,AV0C0,AW0C0)を類似度の高い2つの要素と、それら2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できるか否かを判定する式である。式(65)は判定方法の一例であって、式(65)を用いる代わりに、例えば、任意のクラスタリング分析手法を用いて同様の判定を行うようにしても良い。
【0099】
《ステップS111》
ステップS111では、異常判断部727は、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の内で最大のものが|AV0C0|であるか否か、すなわち、式(68)が成立するか否かを判定する。
MAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)=|AV0C0| …(68)
ステップS111において式(68)が成立する(Yes)と判定されると、ステップS111からステップS112へ進む。一方、式(68)が成立しない(No)と判定されると、ステップS111からステップS113へ進む。
【0100】
《ステップS112》
ステップS112では、異常判断部727は、V相電流検出器35の異常と判断し、V相電流検出器35に異常があることを示す情報(例えば、「V相電流検出器異常」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。ステップS112の処理が終了したならば、ステップS115へ進む。
なお、U相電流検出器34およびW相電流検出器36の異常度の推定値AU1,AW1がAU1=AW1=0であると仮定した場合、V相電流検出器35の異常度の推定値AV1は次式(69)で計算することができる。式(69)は、上述した式(67)の場合と同様にして得られる。
AV1=(3×AV0C0)/(2-AV0C0) …(69)
【0101】
《ステップS113》
ステップS113では、異常判断部727は、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の内で最大のものが|AW0C0|であるか否か、すなわち、式(70)が成立するか否かを判定する。
MAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)=|AW0C0| …(70)
ステップS113において式(70)が成立すると判定(Yes)されると、ステップS113からステップS114へ進む。一方、式(70)が成立しないと判定(No)されると、ステップS113からステップS116へ進む。
【0102】
《ステップS114》
ステップS114では、異常判断部727は、W相電流検出器36の異常と判断し、W相電流検出器36に異常があることを示す情報(例えば、「W相電流検出器異常」)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。ステップS114の処理が終了したならば、ステップS115へ進む。
なお、U相電流検出器34およびV相電流検出器35の異常度の推定値AU1,AV1がAU1=AV1=0であると仮定した場合、W相電流検出器36の異常度の推定値AW1は次式(71)で表される。式(71)は、上述した式(67)の場合と同様にして得られる。
AW1=(3×AW0C0)/(2-AW0C0) …(71)
【0103】
《ステップS115》
ステップS115では、ステップS102、ステップS104、ステップS108、ステップS110、ステップS112、ステップS114の後を受けて、次の処理が実行される。ステップS115では、異常判断部727は、ユーザに点検を促す情報(例えば、「異常箇所を点検及び交換してください」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。そして、一連の異常判断処理を終了する。
【0104】
《ステップS116》
ステップS116では、異常判断部727は、U相電流検出器34、V相電流検出器35、W相電流検出器36のすべての電流検出器が正常であると判断する。なお、この場合は、すべての電流検出器34~36が正常であることを表示器73に表示する必要はないが、もちろん表示しても構わない。そして、一連の異常判断処理を終了する。
【0105】
《フローチャートの処理の補足説明》
ここで、フローチャートにおける判定処理(ステップS106,S107,S109,S111,S113)について、補足説明を付け加える。
<ステップS106>
ステップS106の処理の具体例を、
図8,9に示す例1~例13を参照して説明する。まず、異常な電流検出器が1個の場合についての計算結果を、例1~例3を用いて説明する。
図8の例1では、G
U=0.94,G
V=1,G
W=1であって、U相電流検出器34のみが異常な場合である。この場合、規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0として、A
U0C0=-4.08%,A
V0C0=2.04%,A
W0C0=2.04%が出力される。したがって、式(64)の左辺のMAX(|A
U0C0|,|A
V0C0|,|A
W0C0|)は4.08%となる。同様にして,
図8の例2および例3では、式(64)の左辺は10.53%となる。このように、電流検出器の異常度が大きくなると、式(64)の左辺は大きな値となる。なお、例3では、正常な電流検出器34,35の個体差によりG
UおよびG
Wがちょうど100%ではない。
【0106】
次に、異常な電流検出器が2個の場合について例4~例9を用いて説明する。例4と例5は,GU<100%かつGW>100%かつ(GU+GW)/2=100%の異常である。例4と例5を比較すると、電流検出器の異常度が大きいほど、式(64)の左辺がより大きな値となることが分かる。また、例6と例7は、GU<100%かつGW>100%かつ(GU+GW)/2<100%の異常である。例6と例7を比較すると、電流検出器の異常度が大きいほど、式(64)の左辺はより大きな値となる。また、例8と例9は,GU<100%かつGW<100%の異常である。この場合も、電流検出器の異常度が大きくなるほど、式(64)の左辺がより大きな値となることが分かる。
【0107】
次に、異常な電流検出器が3個の場合について、
図9の例10および例11を用いて説明する。例10と例11は、G
U<100%かつG
V>100%かつG
W>100%の異常である。例10と例11を比較すると、電流検出器の異常度が大きい例11の方が、式(64)の左辺が大きな値となる。
【0108】
最後に、異常電流検出器が0個の場合について、
図9の例12および例13を用いて説明する。例12ではG
U=1,G
V=1,G
W=1であり、式(64)の左辺の値は0となる。一方、正常な電流検出器34,36間に個体差がある例13の場合、式(64)の左辺の値は0.1%となり、0より若干大きな値となる。
【0109】
上述のように、異常な電流検出器が0個の場合には式(64)の左辺は0または0に近い値となり、異常な電流検出器が1個以上の場合には、式(64)の左辺が0よりも大きな値となる。さらに、異常な電流検出器が1個以上の場合には、電流検出器の異常度が大きいほど式(64)の左辺が大きな値となる。したがって、ステップS106では、式(64)の左辺であるMAX(|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|)を所定値(適当な閾値で、例えば、上述の場合には3%)と比較することで、電流検出器の異常の有無を判定することができる。
【0110】
<ステップS107>
前述したように、ステップS107における式(65)は,3つの要素(A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0)を類似度の高い2つの要素と、それら2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できるか否かを判定する式である。以下では、式(65)を判定式とした理由について、具体的な数値(
図8,9に示す例1~例11)を用いて説明する。
ステップS107の判定式を再度記載すると以下の通りである。
([MAX]-2×[MIN])/[MAX] > 所定値β …(65)
ただし、[MAX]=MAX(|A
U0C0|,|A
V0C0|,|A
W0C0|)、[MIN]=MIN(|A
U0C0|,|A
V0C0|,|A
W0C0|)である。
【0111】
まず、異常な電流検出器が1個の場合について例1~例3を用いて説明する。規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0は、式(60)に示す「AU0C0+AV0C0+AW0C0=0」が成立する。そのため、例1の場合には、AU0C0=-2×AV0C0=-2×AW0C0となり、式(65)の左辺は0となる。同様に考えると、例2の場合も、式(65)の左辺は0となる。
【0112】
いずれの場合も、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の値の大きさは、(異常、正常、正常)=(大、小、小)となり、「大=2×小」が成り立っている。この場合、「(大-2×小)/大」という量(すなわち、式(65)の左辺)は、0になる。また、正常な電流検出器に個体差がある例3の場合には、(正常、正常、異常、)=(5.16%、5.37%、10.35%)=(小、小’、大)となり、「大≒2×小」となっている。この場合、「(大-2×小)/大」という量は、0ではないが100%と比べて非常に小さな値となる。例3では、(10.53%-2×5.16%)/10.53%≒0.020で2%となっている。
以上をまとめると、異常な電流検出器が1個の場合には、「(大-2×小)/大」という量(すなわち、式(65)の左辺)は0%、または、100%と比べて非常に小さな値となる。
【0113】
異常な電流検出器が2個の場合について、例4~例9を用いて説明する。例4と例5は、GU<100%かつGW>100%かつ(GU+GW)/2=100%の異常である。例4と例5では、式(65)の左辺の値は100%となる。例6および例7は、GU<100%かつGW>100%かつ(GU+GW)/2<100%の異常であり、式(65)の左辺の値は75%となる。
【0114】
例4~7のいずれにおいても、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の値は、(異常、正常、異常’)=(大、小、大または大’)である。さらに、例4,5の場合は、小=|AV0C0|=0、大=|AU0C0|=|AW0C0|であって、「(大-2×小)/大」という量、すなわち式(65)の左辺は、100%となる。また、例6,7の場合には、「大=|AU0C0|」、「小=|AW0C0|」であって、「大>(5×小)」のような大小関係が成り立っている。ここで、「大>(5×小)」、すなわち「小<(大/5)」である場合には、次式が成り立つ。
(大-2×小)>(大-2×(大/5))=(3/5)×大
このとき、「(大-2×小)/大」、すなわち式(65)の左辺は、3/5(=60%)よりも大きな値となる。
【0115】
また、例8および例9は、電流検出器34,36が異常であって、GU<100%かつGW<100%かつGU=GWの場合であり、式(65)の左辺の値は0となる。この場合、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の値は、(異常、正常、異常)=(小、大、小)となり、「大=(2×小)」である。その結果、上述した例1,2の場合と同様に、「(大-2×小)/大」という量(すなわち、式(65)の左辺)は、0%になる。
以上をまとめると、異常な電流検出器が2個の場合には、「(大-2×小)/大」という量(すなわち、式(65)の左辺)は、例8,9の場合を除いて、60%よりも大きな値となる。
【0116】
異常な電流検出器が3個の場合について例10および例11を用いて説明する。例10および例11は、GU<100%かつGV>100%かつGW>100%の異常であり、式(65)の左辺は33.3%となる。この場合、|AU0C0|,|AV0C0|,|AW0C0|の値は、大、中、小となり、「大=(3×小)」になっている。このとき、「(大-2×小)/大」という量、すなわち式(65)の左辺は、「(3×小-2×小)/3×小=33.3%」となる。
【0117】
以上より、異常な電流検出器が2個以上の例4~例7,例10,例11では、「(大-2×小)/大=([MAX]-2×[MIN])/[MAX]」という量、すなわち式(65)の左辺は、0%よりも十分大きな値となる。適当な所定値βに対して「([MAX]-2×[MIN])/[MAX]」が適当な所定値βよりも大きいという、式(65)を判定条件に採用することにより、3個の電流検出器の内の複数が異常であるか否かを判定することが可能となる。
図8,9に示す例を参考にすると、所定値βは例えば20%に設定すれば良い。
【0118】
上述したように、ステップS107における式(65)は,3つの要素(A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0)を類似度の高い2つの要素と、それら2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できるか否かを判定する式である。分類できる場合には式(65)の左辺は小さな値となり、3つの要素の類似度が低い場合には式(65)は大きな値となる。したがって、例8や例9のように、3個ある電流検出器のうち2個の異常な電流検出器が同一異常度となる場合にも、式(65)の左辺は小さな値(
図8ではゼロ)となり、原理的には異常な電流検出器の数が1個であると誤検出する可能性がある。しかし、3個ある電流検出器のうち、2個が同一異常度の異常に同時になる可能性は非常に低いので、式(65)を用いて判定を行っても、実用上は誤検出することなく異常判定を行うことができる。
【0119】
なお、3つの要素(AU0C0,AV0C0,AW0C0)を類似度の高い2つの要素と、それら2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できるか否かを判定する式は、上述した式(65)に限定されるものではない。上述した例では、3つの要素(AU0C0,AV0C0,AW0C0)を類似度の高い2つの要素と、前記2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できる場合(例1,例2の場合)に式(65)は小さな値となり、3つの要素の類似度が低い場合(例4~例7,例10,例11の場合)に式(65)は大きな値となる。そのため、例1,例2の場合と、例4~例7,例10,例11の場合とで値が大きく異なる判定式であれば、式(65)に代えて用いることができる。
【0120】
<ステップS109,ステップS111,ステップS113>
ステップS109,ステップS111,ステップS113の処理の具体例を、異常な電流検出器が1個の場合の
図8の例1~例3を用いて説明する。
【0121】
例1はU相電流検出器34が異常な場合であり、|AU0C0|=4.08%,|AV0C0|=2.04%,|AW0C0|=2.04%となるので、式(66)が成立する。したがって、ステップS109ではYESと判定され、ステップS110においてU相電流検出器34の異常が報知される。
【0122】
例2はV相電流検出器35が異常な場合であり、|AU0C0|=5.26%,|AV0C0|=10.53%,|AW0C0|=5.26%となるので、ステップS109における式(66)は成立せず、ステップS111における式(68)が成立する。したがって、ステップS109でNOと判定された後にステップS111においてYESと判定され、ステップS112においてV相電流検出器35の異常が報知される。
【0123】
例3はW相電流検出器36が異常な場合であり、|AU0C0|=5.16%,|AV0C0|=5.37%,|AW0C0|=10.53%となるので、ステップS109の式(66)およびステップS111の式(68)は成立せず、式(70)が成立する。したがって、ステップS109およびステップS111ではNOと判定された後、ステップS113でYESと判定され、ステップS114においてW相電流検出器36の異常が報知される。
【0124】
以上のように、
図7のフローチャートにおいて、ステップS109~ステップS114における工程では、複数の絶対値(|A
U0C0|,|A
V0C0|,|A
W0C0|)を互いに比較して、最大値である絶対値に対応する相の電流検出器が異常であると判断する処理が行われる。
【0125】
<フローチャートの変形例>
上述した
図7のフローチャートの異常判断処理では、ステップS106において全ての電流検出器34~36が正常か否かを判定し、さらに詳細に異常判断を行うために、ステップS107~S114の処理を設けている。もちろん、全ての電流検出器34~36が正常か否かだけを判定するのであれば、ステップS107~S114の処理を省略しても構わない。厳密さは低減するが、簡易的な判断であり、判定時間が軽減し、迅速な対応が可能となる。
【0126】
また、
図7のフローチャートにおいて、ステップS107およびS108を省略しても良い。この場合、ステップS109がYesであれば最も異常度が高い電流検出器はU相電流検出器34と判断し、ステップS111がYesであれば最も異常度が高い電流検出器はV相電流検出器35と判断し、ステップS113がYesであれば最も異常度が高い電流検出器はW相電流検出器36と判断する。この場合には、ステップS107でYesになる条件の場合であっても、最も異常度が高い電流検出器を判別することができる。
【0127】
《電流波形とフィルタ723U,723V,723Wの出力および異常判断動作》
ここでは、具体的な電流波形を例示し、電流波形とフィルタ723U,723V,723Wの出力F
U,F
V,F
Wおよび異常判断動作との関係について説明する。
図10,11は、後述の
図12~
図19に示す波形例で用いた解析条件、および、波形例に基づき各電流検出器ゲインなどを計算した結果を示す。
図10,11における計算では、一例として、ステップS105で用いる式(64)の右辺の所定値αを3%とし、ステップS107で用いる式(65)の右辺の所定値βを50%とした。
【0128】
(例14、
図12)
図10の例14は、1つの電流検出器(U相電流検出器34)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例14では、U相電流検出器34が検出ゲインG
U=94%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が平衡である。
図12は、例14の場合における電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0、乗算器722U~722Wの出力D
U、D
V,D
Wおよびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。
【0129】
図12の上段のグラフは、電流検出値I
U,I
V,I
Wおよび出力I
I0(=I
U+I
V+I
W)の時間変化を示す。
図12の下段のグラフは、乗算器722U,722V,722Wの各出力D
U,D
V,D
Wと、フィルタ723U,723V,723Wの各出力F
U,F
V,F
Wの時間変化を示す。
図12に示すように、出力I
I0は0でない電流値で変動している。また、フィルタ723Uの出力F
Uは負側に比較的に大きな値を示し、フィルタ723Vおよび723Wの出力F
V,F
Wは、正側に所定の同一値を示している。
【0130】
図12に示す波形例に対して特許文献1に記載の技術を適用すると、実効値は、
図10の「公知例手法に基づく実効値」の欄に記載のような値となる。一方、本実施の形態の場合には、
図10の例14に示すように式(65)の左辺は0%となり、さらに、A
U0C0=-4.08%,A
V0C0=A
W0C0=2.04%が算出され式(66)が成立するので、U相電流検出器34の異常と推定される。また、式(67)に基づき異常度の推定値A
U1を計算するとA
U1=-6.00%となり、U相電流検出器34の異常を正しく判定できる。
【0131】
(例15、
図13)
図10の例15および
図13について説明する。例15は、1つの電流検出器(U相電流検出器34)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例15は、例14の場合と同様に、U相電流検出器34が検出ゲインG
U=94%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が平衡であるが、基本波電流波形に電流脈動(ホワイトガウスノイズ)が含まれている点が、例14の場合と異なる。なお、ホワイトガウスノイズの標準偏差は基本波電流振幅の10%とした。
【0132】
図13は、例15の場合における電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0およびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。電流脈動が含まれる場合であっても、出力F
U,F
V,F
Wの波形は電流脈動が含まれない例14の場合と同様であることが分かる。なお、電流脈動が含まれる例15では、乗算器722U~722Wの出力D
U、D
V,D
Wは脈動の時間的な変化が激しく記載が困難なので、D
U,D
V,D
Wの波形の記載を省略した。
【0133】
図13に示す波形例に対して式(65)の左辺を計算すると、
図10の例15に示すように1.92%となり、さらに、A
U0C0=-4.17%,A
V0C0=2.13%,A
W0C0=2.05%が算出され式(66)が成立するので、U相電流検出器34の異常と推定される。また、式(67)に基づき異常度の推定値A
U1を計算するとA
U1=-6.13%となり、U相電流検出器34の異常を正しく判定できる。
【0134】
(例16、
図14)
図10の例16および
図14について説明する。例16は、全ての電流検出器34,35,36が正常な場合の解析条件および計算結果を示している。例16では、電流検出器34,35,36はG
U=G
V=G
W=100%で、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が不平衡である。不平衡については、U相負荷がV相負荷およびW相負荷の88%である。
図14は、例16の場合における電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0、乗算器722U~722Wの出力D
U,D
V,D
Wおよびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。
【0135】
図14の波形例からも分かるように、負荷が小さいU相の電流検出値I
Uが、負荷が大きいV相およびW相の電流検出値I
VおよびI
Wと比べて大きくなっている。例16で算出される規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0に基づくと、式(64)の左辺のMAX(|A
U0C0|,|A
V0C0|,|A
W0C0|)は0となり全ての電流検出器34,35,36は正常であると判定され、電流検出器が正常であることが正しく判定できる。
【0136】
なお、第1の実施の形態の特徴と効果を示すために、特許文献1の手法を適用した場合と比較してみる。
図14で示した条件の基に、特許文献1の手法に基づく実効値を求めると、
図10の「公知例手法に基づく実効値」の欄に記載のような値となる。そのため、この算出された実効値に基づいて判断すると、他相よりも電流実効値が大きいU相電流検出器34が異常であると誤判断する可能性がある。
【0137】
(例17、
図15)
図10の例17および
図15について説明する。例17は、1つの電流検出器(V相電流検出器35)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例17では、V相電流検出器35が検出ゲインG
V=106%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が不平衡である。不平衡については、U相負荷がV相負荷およびW相負荷の88%である。
図15は、例17の場合における、電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0、乗算器722U~722Wの出力D
U、D
V,D
Wおよびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。
【0138】
図15に示す波形例に対して式(65)の左辺を計算すると、
図10の例15に示すように13.25%となり、さらに、A
U0C0=-2.13%,A
V0C0=3.77%,A
W0C0=-1.63%が算出され式(68)が成立するので、V相電流検出器35の異常と推定される。また、式(69)に基づき異常度の推定値A
V1を計算するとA
V1=5.76%となり、V相電流検出器35の異常を正しく判定できる。
【0139】
なお、第1の実施の形態の特徴と効果を示すために、特許文献1の手法を適用した場合と比較してみる。
図15で示した条件の基に、特許文献1の手法に基づく実効値を求めると、
図10の「公知例手法に基づく実効値」の欄に記載のような値となる。そのため、この算出された実効値に基づいて判断すると、他相よりも電流実効値が小さいW相電流検出器36が異常であると誤判断する可能性がある。
【0140】
(例18、
図16)
図11の例18および
図16について説明する。例18は、1つの電流検出器(V相電流検出器35)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例18では、V相電流検出器35が検出ゲインG
V=106%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が不平衡で、かつ、基本波電流波形に電流脈動(ホワイトガウスノイズ)が含まれている。なお、不平衡についてはU相負荷がV相負荷およびW相負荷の88%であって、ホワイトガウスノイズの標準偏差は基本波電流振幅の10%とした。
【0141】
図16は、例18の場合における、電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0およびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。なお、電流脈動が含まれる例18では、乗算器722U~722Wの出力D
U,D
V,D
Wは脈動の時間的な変化が激しく記載が困難なので、D
U,D
V,D
Wの波形の記載を省略した。
【0142】
図16に示す波形例に対して式(65)の左辺を計算すると、
図11の例18に示すように17.89%となり、さらに、A
U0C0=-2.26%,A
V0C0=3.83%,A
W0C0=-1.57%が算出され式(68)が成立するので、V相電流検出器35の異常と推定される。また、式(69)に基づき異常度の推定値A
V1を計算するとA
V1=5.86%となり、V相電流検出器35の異常を正しく判定できる。
【0143】
なお、第1の実施の形態の特徴と効果を示すために、特許文献1の手法を適用した場合と比較してみる。
図16で示した条件の基に、特許文献1の手法に基づく実効値を求めると、
図11の「公知例手法に基づく実効値」の欄に記載のような値となる。そのため、この算出された実効値に基づいて判断すると、他相よりも電流実効値が小さいW相電流検出器36が異常であると誤判断する可能性がある。
【0144】
(例19、
図17)
図11の例19および
図17について説明する。例19は、2つの電流検出器(U相電流検出器34、W相電流検出器36)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例19では、U相電流検出器34が検出ゲインG
U=94%で異常、V相電流検出器35が検出ゲインG
V=100%で正常、W相電流検出器36が検出ゲインG
W=106%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が平衡で、かつ、基本波電流波形に電流脈動(ホワイトガウスノイズ)が含まれている。なお、ホワイトガウスノイズの標準偏差は基本波電流振幅の10%とした。
【0145】
図17は、例19の場合における電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0およびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。なお、電流脈動が含まれる例19では、乗算器722U~722Wの出力D
U,D
V,D
Wは脈動の時間的な変化が激しく記載が困難なので、D
U,D
V,D
Wの波形の記載を省略した。
【0146】
図17に示す波形例に対して式(65)の左辺を計算すると、
図11の例19に示すように所定値β=50%よりも大きな95.05%となるので、
図7のステップS107でYESと判定され、複数の電流検出器が異常であると推定される。さらに、A
U0C0=-6.06%,A
V0C0=0.12%,A
W0C0=5.94%が算出され相対異常度を表す規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0の平均値が0となる。そのため、前述のステップS108で説明したようにA
U1=A
U0C0=-6.06%,A
V1=A
V0C0=0.12%,A
W1=A
W0C0=5.94%と表され、電流脈動が大きい場合であっても少ない誤差で推定できる。
【0147】
(例20、
図18)
図11の例20および
図18について説明する。例20は、2つの電流検出器(U相電流検出器34、W相電流検出器36)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例20では、U相電流検出器34が検出ゲインG
U=94%で異常、W相電流検出器36が検出ゲインG
W=106%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が不平衡である。なお、不平衡についてはU相負荷がV相負荷およびW相負荷の88%である。
図18は、例20の場合における電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0、乗算器722U~722Wの出力D
U,D
V,D
Wおよびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。
【0148】
図18に示す波形例に対して式(65)の左辺を計算すると、
図11の例20に示すように所定値β=50%よりも大きな84.33%となるので、
図7のステップS107でYESと判定され、複数の電流検出器が異常であると推定される。さらに、A
U0C0=-6.56%,A
V0C0=0.51%,A
W0C0=6.04%が算出され相対異常度を表す規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0の平均値は0とみなすことができる。そのため、前述のステップS108で説明したようにA
U1=A
U0C0=-6.56%,A
V1=A
V0C0=0.51%,A
W1=A
W0C0=6.04%と表され、3相負荷の不平衡が大きい場合であっても少ない誤差で推定できる。
【0149】
なお、第1の実施の形態の特徴と効果を示すために、特許文献1の手法を適用した場合と比較してみる。
図18で示した条件の基に、特許文献1の手法に基づく実効値を求めると、
図11の「公知例手法に基づく実効値」の欄に記載のような値となる。そのため、この算出された実効値に基づいて判断すると、他相よりも電流実効値が大きいW相電流検出器36が異常であると誤判断する可能性がある。
【0150】
(例21、
図19)
図11の例21および
図19について説明する。例21は、2つの電流検出器(U相電流検出器34、W相電流検出器36)が異常な場合の解析条件および計算結果を示している。例21では、U相電流検出器34が検出ゲインG
U=94%で異常、W相電流検出器36が検出ゲインG
W=106%で異常、かつ、電動機4の3相負荷(Y結線)が不平衡で、かつ、基本波電流波形に電流脈動(ホワイトガウスノイズ)が含まれている。なお、不平衡についてはU相負荷がV相負荷およびW相負荷の88%であって、ホワイトガウスノイズの標準偏差は基本波電流振幅の10%とした。
【0151】
図19は、例21の場合における電流検出値I
U,I
V,I
W、加算器721の出力I
I0およびフィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
Wの波形例を示す図である。なお、電流脈動が含まれる例21では、乗算器722U~722Wの出力D
U,D
V,D
Wは脈動の時間的な変化が激しく記載が困難なので、D
U,D
V,D
Wの波形の記載を省略した。
【0152】
図19に示す波形例に対して式(65)の左辺を計算すると、
図11の例21に示すように所定値β=50%よりも大きな81.53%となるので、
図7のステップS107でYESと判定され、複数の電流検出器が異常であると推定される。さらに、A
U0C0=-6.61%,A
V0C0=0.61%,A
W0C0=6.00%が算出され相対異常度を表す規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0の平均値が0となる。そのため、前述のステップS108で説明したようにA
U1=A
U0C0=-6.61%,A
V1=A
V0C0=0.61%,A
W1=A
W0C0=6.00%と表され、3相負荷の不平衡および電流脈動が大きい場合であっても少ない誤差で推定できる。
【0153】
なお、第1の実施の形態の特徴と効果を示すために、特許文献1の手法を適用した場合と比較してみる。
図19で示した条件の基に、特許文献1の手法に基づく実効値を求めると、
図11の「公知例手法に基づく実効値」の欄に記載のような値となる。そのため、この算出された実効値に基づいて判断すると、他相よりも電流実効値が大きいW相電流検出器36が異常であると誤判断する可能性がある。
【0154】
(3相不平衡に対する効果)
例14~21からも分かるように、上述した第1の実施の形態では、式(57)~式(59)の計算で用いられるF
U,F
V,F
Wの絶対値|F
U|,|F
V|,|F
W|は、I
U,I
V,I
WとI
I0との位相差が0度または180度に近づくと大きな値となり(例えば、例14の
図12)I
U,I
V,I
WとI
I0との位相差が90度または270度に近づくと小さな値となる(例えば、例16の
図14)。このように、3相不平衡が生じた場合であっても、3相平衡である場合に対するI
U,I
V,I
W,I
I0の位相変化量は小さいため、本実施の形態における異常判断によれば、3相不平衡が生じた場合であっても上述のように正しく判断できる。
【0155】
一方、特許文献1に記載の手法では実効値に基づいて異常判断を行っているが、3相負荷が不平衡である場合には負荷が少ない相に多くの電流が流れて実効値が大きくなるので、3相不平衡が生じた場合には上述したように誤判断する可能性がある。
【0156】
(電流脈動に対する効果)
図5に示すように、フィルタ723U,723V,723Wにより電流波形の基本波周波数を含む交流成分を除去するため、電流波形に大きな電流脈動成分が含まれる場合や電流波形の基本波周波数と電流脈動の周波数が近接している場合であっても、脈動成分を十分に除去したF
U,F
V,F
Wに基づき異常判断するため、正しく判定できる。
【0157】
(第1の実施の形態における作用効果のまとめ)
第1の実施の形態に係る電力変換装置100では、乗算器722U,722V,722Wの出力、すなわち、電流検出値IU,IV,IWと電流検出値の総和II0との積DU,DV,DWを用いることにより、電力変換装置100に接続される3相負荷(電動機4)が不平衡であっても、電力変換装置100における電流検出器の異常を適切に検出できる。
【0158】
また、フィルタ723U,723V,723W,726,726Cは電流波形の基本波周波数を含む交流成分を除去するため、電流脈動の大きさが電流波形の基本波と比べて無視できない大きさである場合や、電流脈動の周波数が電流波形の基本波周波数と近接している場合であっても、電流脈動を十分に除去できる。そのため、交流電流に電流脈動成分が多く含まれる場合や電流基本波周波数と近い周波数の電流脈動が含まれる場合であっても、電力変換装置100における電流検出器の異常を適切に検出できる。
【0159】
さらに、フィルタ723U,723V,723Wの出力FU,FV,FW、フィルタ726の出力HIおよびフィルタ726Cの出力KIに基づいて、相対異常度AU0,AV0,AW0の推定値である規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を計算することで、複数の電流検出器34,35,36の異常をそれぞれ判断することができる。また、規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を少ない誤差で計算することができる。
【0160】
また、電流検出器の異常度合いを推定できるので、推定される異常度合いが電流検出器異常と判断される所定の閾値を超えるまでの期間、すなわち、異常発生までの期間を予測することが可能となり、異常発生の予防や異常発生時の対応の準備を予め行うことができる。
【0161】
また、異常のある電流検出器の点検、交換を推奨する表示を行うようにしたので、電力変換装置100が電流検出器の異常によるトリップなどの計画外停止が生じる前に、電流検出器の劣化進行に伴う電流検出器の点検および交換を行うように仕向けることができる。
【0162】
なお、上記では、インバータ側異常判断器72の構成を例に作用効果を説明したが、コンバータ側異常判断器71についても同様の作用効果を生じる。
【0163】
-第2の実施の形態-
上述した第1の実施の形態では、電流検出器34,35,36の電流検出値IU,IV,IWに基づいて相対異常度である規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を算出し、算出した規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0に基づいて異常な電流検出器を判定するようにした。一方、以下に説明する第2の実施の形態では、絶対異常度を算出し、算出した絶対異常度に基づいて異常な電流検出器を判定する。
【0164】
図20は、本発明の第2の実施の形態に係る電力変換装置101の構成の一例を示す図である。なお、
図20において、
図1に示す第1の実施の形態に係る電力変換装置100と同様な構成については同一の符号を付した。
【0165】
第2の実施の形態の電力変換装置101は、主に、以下の構成が第1の実施の形態の電力変換装置100と異なる。コンバータ側異常判断器71には、コンバータ制御装置5から交流電源1の運転条件に関する信号が入力される。電源運転条件に関する信号は、例えば、有効電流、無効電流、パルス指令、直流電圧検出器24,25のそれぞれから入力される直流電圧の検出値などを含む。また、インバータ側異常判断器72には、インバータ制御装置6から電動機4の運転条件に関する信号が入力される。電動機運転条件に関する信号は、例えば、電動機4の速度、電動機4の励磁電流、トルク電流、パルス指令、直流電圧検出器24,25のそれぞれから入力される直流電圧の検出値などを含む。
【0166】
なお、第2の実施の形態においても、
図20に示すコンバータ側異常判断器71とインバータ側異常判断器72とは類似の構成を有しているので、第1の実施の形態の場合と同様にインバータ側異常判断器72を代表として説明する。なお、説明は省略するが、コンバータ側異常判断器71に関連する構成や関係式についても、以下に記載のインバータ側異常判断器72に関連する構成や関係式において添え字U,V,WをR,S,Tに置き換えることで、同様に説明できる。
【0167】
図21は、第2の実施の形態に係る電力変換装置101のインバータ側異常判断器72のブロック図である。第2の実施の形態では、インバータ制御装置6から異常判断部727へ、電動機運転条件に関する信号S
Iが入力される。さらに、後述するように、異常判断部727の構成が、
図6に示した第1の実施の形態の異常判断部727と異なっている。
【0168】
図22は、電力変換装置101における異常判断部727の詳細を示すブロック図である。異常判断部727は、第1の実施の形態に記載の異常判断部727(
図6参照)が備える演算部7271~7275に加えて、演算部7276,7279,7280、運転条件判断部7277および記憶部7278を備えている。異常判断部727には、
図21に示すフィルタ723U,723V,723W,726,726Cから出力される直流成分F
U,F
V,F
W,H
I,K
Iと、電流検出値I
U,I
V,I
Wと電動機運転条件(電動機運転条件に関する信号)S
Iが入力される。
【0169】
<演算部7276>
演算部7271~7275は、
図6に記載の演算部7271~7275と同一の演算処理を行い、入力された直流成分F
U,F
V,F
W,H
I,K
Iに基づいて規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0が算出される。前述したように、演算部7271は、H
I,K
Iに基づいて「B
I
2=(2H
I-8K
I)/9」を算出する。演算部7276は、演算部7271から出力B
I
2が入力され、次式(72)で表されるB
Iを出力する。
B
I=√(2H
I-8K
I)/3 …(72)
【0170】
<記憶部7278>
ここで、時刻t=t1おいて、全ての電流検出器34,35,36の状態が正常であると仮定する。すなわち、時刻t=t1おいては、GU=GV=GW=1(=100%)であると仮定する。なお、以下では、時刻t1を基準時刻t1と呼ぶことにする。前述した式(29)にGU=GV=GW=1を代入すると、出力BI(t1)と電流振幅IIA(t1)との関係は次式(73)で表される。出力BI(t1)は基準時刻t1における出力BIであり、電流振幅IIA(t1)は基準時刻t1における電流振幅IIAである。
BI=(GU+GV+GW)×IIA/3 …(29)
BI(t1)=IIA(t1) …(73)
記憶部7278には、基準時刻t1における出力BI(t1)が、基準時刻t1における電動機運転条件SI(t1)と関連付けて記憶される。
【0171】
<運転条件判断部7277>
運転条件判断部7277には、インバータ制御装置6からの電動機運転条件SI(t)、および、演算部7276で算出されたBI(t)がそれぞれ入力される。運転条件判断部7277は、入力された電動機運転条件SI(t)と記憶部7278に記憶されているBI(t1)の電動機運転条件SI(t1)とが同一運転条件であるか否かを判定する。SI(t)=SI(t1)であった場合には、判定結果SD=YESと記憶部7278に記憶されているBI(t1)とを出力する。一方、SI(t)≠SI(t1)であった場合、または、記憶部7278にBI(t1)が記憶されていない場合には、判定結果SD=NOのみを出力する。
【0172】
<演算部7279>
演算部7279には、演算部7276で算出されたBI(t)と、運転条件判断部7277から出力されたBI(t1)とが入力される。演算部7279は、BI(t)とBI(t1)とに基づいて、後述する式(75)で表されるJ(t)を算出し、算出されたJ(t)を出力する。
【0173】
任意の時刻tにおいて、電流検出器は正常または異常のいずれかであると仮定する。ここで、任意の時刻tにおける出力BI(t)を、上述した基準時刻t1における正常時の出力BI(t1)を用いて次式(74a)のように表す。
BI(t)=J(t)×BI(t1) …(74a)
【0174】
式(73),(74a)から、任意の時刻tにおける出力BI(t)は、電流振幅IIAを用いて次式(74b)のように表される。式(74b)における係数J(t)は、基準時刻t1における正常時の出力BI(t1)を用いて式(75)で算出される量である。すなわち、式(74b)におけるJ(t)は、すべての電流検出器が正常である基準時刻t1における出力BI(t1)を基準とする、出力BI(t)の割合を表す係数である。
BI(t)=J(t)×IIA(t1) …(74b)
J(t)=BI(t)/BI(t1) …(75)
【0175】
ここで、ある時刻t2において、その時の電動機運転条件SI(t2)が、基準時刻t1の電動機運転条件SI(t1)と等しいと仮定すると、IIA(t2)=IIA(t1)が成立する。時刻t2におけるJ(t2)は式(75)でt=t2と書き換えたものであるが、その時の右辺の分子=BI(t2)は、上記の式(29)を用いることにより次式(76a)となる。
BI(t2)=(GU(t2)+GV(t2)+GW(t2))×IIA(t2)/3 …(76a)
【0176】
また、式(75)の右辺の分母=BI(t1)は、式(73)よりIIA(t1)で置き換えることができる。その結果、時刻t2におけるJ(t2)については、式(76b)が成立する。
J(t2)=(GU(t2)+GV(t2)+GW(t2))/3 …(76b)
すなわち、基準時刻t1の正常状態におけるBI(t1)と、基準時刻t1と電動機運転条件が等しい(SI(t2)=SI(t1))ある時刻t2におけるBI(t2)を式(75)に代入して求まるJ(t2)とにより、時刻t2における検出ゲインGU(t2),GV(t2),GW(t2)の平均値を算出することができる。
【0177】
<演算部7280>
演算部7280には、演算部7275で算出された規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)と、演算部7279で算出されたJ(t)とが入力される。演算部7280は、規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)とJ(t)とに基づいて、後述する式(77)~(79)で表される、時刻tにおける絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)を算出する。
【0178】
前述したように、式(75)で表されるJ(t)は、検出ゲインGU(t),GV(t),GW(t)の平均値を表している。ところで、前述した式(26),(29)から、検出ゲインGUは「GU=GU0×(GU+GV+GW)/3」のように表すことができる。そして、「ゲイン=(異常度+1)」の関係があるので、時刻tにおける電流検出器34,35,36の絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)は、規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)およびJ(t)を用いて次式(77)~(79)で算出できる。
AU2(t)=(AU0C0(t)+1)×J(t)-1 …(77)
AV2(t)=(AV0C0(t)+1)×J(t)-1 …(78)
AW2(t)=(AW0C0(t)+1)×J(t)-1 …(79)
【0179】
したがって、全ての電流検出器34,35,36が正常な場合のBI(t1)を予め記憶させておき、時刻t1と運転条件が等しい時刻tにおけるBI(t)を用いて式(75)によりJ(t)が計算できれば、時刻tにおける各電流検出器34,35,36の絶対異常度を計算することができる。
【0180】
<異常判断部727の処理動作について>
図23は、
図22の異常判断部727における異常判断処理の一例を示すフローチャートである。以下では、
図23のフローチャートにしたがって異常判断処理の手順を説明する。
【0181】
《ステップS201~S204》
ステップS201~S204の処理は、
図7のステップS101~S104と同様の処理である。すなわち、ステップS101~S104をステップS201~S204に読み替えれば良く、ここでは説明を省略する。
【0182】
《ステップS205》
ステップS205では、異常判断部727は、演算部7271~7275による現在の時刻tにおける規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)の算出と、演算部7276によるBI(t)の算出を行う。
【0183】
《ステップS206》
ステップS206では、異常判断部727は、運転条件判断部7277から出力された判定結果SDがYESかNOかを判定し、SD=YESの場合にはステップS207へ進み、SD=NOの場合には一連の異常判断処理を終了する。
【0184】
《ステップS207》
ステップS207では、異常判断部727は、演算部7279,7280によりJ(t),AU2(t),AV2(t),AW2(t)を計算する。
【0185】
《ステップS208》
ステップS208では、異常判断部727は、ステップS207で計算した絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)の絶対値|AU2(t)|,|AV2(t)|,|AW2(t)|の全てが、事前に定めた所定値γより大きいか否かを判定する。すなわち、電流検出器34,35,36のそれぞれが異常であることを示す次式(80)~(82)の全てが、不成立か否かを判定する。
|AU2|>所定値γ …(80)
|AV2|>所定値γ …(81)
|AW2|>所定値γ …(82)
全てが不成立(YES)である場合には全ての電流検出器34,35,36が正常と判断し、ステップS215へ進む。一方、ステップS209において式(80)~(82)のいずれか一つが成立すると判定されると、ステップS210へ進む。
【0186】
《ステップS209》
ステップS209では、異常判断部727は、式(80)~(82)の内の1つだけが成立するか否かを、すなわち、電流検出器34,35,36の内のいずれか1つだけが異常であるか否かを判定する。ステップS209でYESと判定されると、ステップS210へ進む。一方、次式(80)~(82)の内の2つまたは3つが成立する場合には、ステップS209でNOと判定されてステップS211へ進む。
【0187】
《ステップS210》
ステップS210では、異常判断部727は、1つの相の電流検出器が異常と判断し、異常を示す異常情報、例えば、「U相電流検出器異常」または「V相電流検出器異常」または「W相電流検出器異常」という表示を表示器73に表示させる。なお、異常判断部727は、式(80)のみが成立する場合はU相電流検出器34の異常と判断し、式(81)のみが成立する場合はV相電流検出器35の異常と判断し、式(82)のみが成立する場合はW相電流検出器36の異常と判断する。その後、ステップS214へ進む。
【0188】
《ステップS211》
ステップS211では、異常判断部727は、式(80)~(82)の内の2つが成立するか否かを、すなわち、電流検出器34,35,36の内のいずれか2つが異常であるか否かを判定する。ステップS211でYESと判定されると、ステップS212へ進む。一方、式(80)~(82)の全てが成立する場合には、ステップS211でNOと判定されてステップS213へ進む。
【0189】
《ステップS212》
ステップS212では、異常判断部727は、2つの相の電流検出器の異常と判断し、異常を示す情報、例えば、「U相電流検出器およびV相電流検出器異常」または「U相電流検出器およびW相電流検出器異常」または「V相電流検出器およびW相電流検出器異常」という表示を、表示器73に表示させる。なお、異常判断部727は、式(80)と式(81)が成立する場合はU相電流検出器34およびV相電流検出器35の異常と判断し、式(80)と式(82)が成立する場合はU相電流検出器34およびW相電流検出器36の異常と判断し、式(81)と式(82)が成立する場合はV相電流検出器35およびW相電流検出器36の異常と判断する。その後、ステップS214へ進む。
【0190】
《ステップS213》
ステップS213では、異常判断部727は、3つの相の電流検出器34,35,36の異常と判断し、異常を示す情報、例えば、「U相,V相およびW相電流検出器異常」という表示を表示器73に表示させる。その後の、ステップS214へ進む。
【0191】
《ステップS214》
ステップS214では、ステップS202、ステップS204、ステップS210、ステップS212、ステップS213の後を受けて、次の処理が実行される。
ステップS214では、異常判断部727は、ユーザに点検を促す情報(例えば、「異常箇所を点検及び交換してください」という表示)を表示器73に表示させる指令を、表示器73へ出力する。そして、一連の異常判断処理を終了する。
【0192】
《ステップS215》
ステップS215では、異常判断部727は、U相電流検出器34、V相電流検出器35、W相電流検出器36のすべてが正常であると判断する。なお、この場合は、すべての電流検出器34,35,36が正常であることを表示器73に表示する必要はないが、もちろん表示しても構わない。そして、一連の異常判断処理を終了する。
【0193】
なお、
図23に示す一連の異常判断処理は、例えば、所定の時間間隔で実行される。また、記憶部7278へのB
I(t
1)および電動機運転条件S
I(t
1)の記憶は、例えば、運転開始前に、予め所定のB
Iおよび電動機運転条件S
Iを記憶させる。または、
図23のステップS215に、運転条件判断部7277に入力されるS
I(t)およびB
I(t)を記憶部7278に記憶させる処理を追加して、運転開始後のまだ正常であるタイミングt
1において取得される電動機運転条件S
I(t
1)とB
I(t
1)とを、記憶部7278に記憶させるようにしても良い。
【0194】
<ステップS205~S213の処理の補足説明>
ここで、
図23のフローチャートにおけるステップS205~S213についての補足を、
図24,25に示す例22~25を用いて説明する。
【0195】
(1個の電流検出器が異常の場合)
まず、異常な電流検出器が1個の場合の例22について、
図24および
図26を参照して説明する。例22では、
図26に示すようにU相電流検出器34が時間変化とともに徐々に劣化して、時刻t=t
2で絶対異常度A
UがA
U=-15%となる場合を考える。
図26の絶対異常度A
U,A
V,A
Wは、前述の式(18)~(20)から分かるように電流振幅I
IAが既知でない限り観測できない。一方、
図26の規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0については、演算部7275により算出される。また、
図26のJについてもB
I(t
1)を記憶部7278に記憶させておくことにより、演算部7279で計算できる。
【0196】
図26に示すように、絶対異常度A
U,A
V,A
Wは時刻t
1ではすべて0%であり、その後、U相のA
Uだけが低下する。A
Uの低下により規格化異常度計算値A
U0C0(t)は低下し、規格化異常度計算値A
V0C0(t),A
W0C0(t)は上昇する。また、時刻t
1において100%であったJ(t)も、A
Uの低下と共に100%から減少する。
図26の時刻t
2における規格化異常度計算値A
U0C0(t
2),A
V0C0(t
2),A
W0C0(t
2)およびJ(t
2)の計算結果は、
図24の例22に示すようにA
U0C0(t
2)=-10.53%,A
V0C0(t
2)=A
W0C0(t
2)=5.26%およびJ(t
2)=0.95となる。これらに基づく演算部7280の演算結果はA
U2=-15%,A
V2=0%,A
W2=0%となり、前提とした絶対異常度A
U,A
V,A
Wと等しく、異常度を正しく計算できていることが分かる。
【0197】
(2個の電流検出器が異常の場合)
次に、異常な電流検出器が2個の場合の例23について、
図24および
図27を用いて説明する。
図27に示す例では、時刻t
1においては全ての電流検出器34,35,36が正常である。しかし、その後、U相電流検出器34とV相電流検出器35とが異常を示し、絶対異常度A
U,A
Vが時間変化とともに徐々に低下し、時刻t
2においてA
U=-10%,A
V=-5%となる。その結果、演算部7275で算出される規格化異常度計算値A
U0C0(t),A
V0C0(t),A
W0C0(t)、および、演算部7279で算出されるJ(t)は、それぞれ
図27に示すように変化する。
【0198】
時刻t2においてAU=-10%,AV=-5%となったとき、計算される規格化異常度計算値AU0C0(t2),AV0C0(t2),AW0C0(t2)およびJ(t2)は、それぞれAU0C0(t2)=-5.26%,AV0C0(t2)=0%,AW0C0(t2)=5.26%およびJ(t2)=0.95となる。これらに基づく演算部7280の演算結果はAU2=-10%,AV2=-5%,AW2=0%となり、前提とした絶対異常度AU,AV,AWと等しく、異常度を正しく計算できていることが分かる。
【0199】
(3個の電流検出器が異常の場合)
異常な電流検出器が3個の場合の例24について、
図25および
図28を用いて説明する。
図28に示すように、時刻t
1以後に全ての電流検出器34,35,36が異常を示し、時間変化とともに絶対異常度A
Uが徐々に低下するとともに絶対異常度A
V,A
Wが徐々に上昇し、時刻t
2においてA
U=-10%,A
V=5%,A
W=20%となる。その結果、演算部7275で算出される規格化異常度計算値A
U0C0(t),A
V0C0(t),A
W0C0(t)、および、演算部7279で算出されるJ(t)は、それぞれ
図28に示すように変化する。
【0200】
時刻t2においてAU=-10%,AV=5%,AW=20%となったとき、計算される規格化異常度計算値AU0C0(t2),AV0C0(t2),AW0C0(t2)およびJ(t2)は、それぞれAU0C0(t2)=-14.29%,AV0C0(t2)=0%,AW0C0(t2)=14.29%およびJ(t2)=1.05となる。これらに基づく演算部7280の演算結果はAU2=-10%,AV2=5%,AW2=20%となり、前提とした絶対異常度AU,AV,AWと等しく、異常度を正しく計算できていることが分かる。
【0201】
異常な電流検出器が3個の場合の他の例である例25について、
図25および
図29を用いて説明する。
図29に示すように、時刻t
1以後に全ての電流検出器34,35,36が異常を示し、時間変化とともに絶対異常度A
U,A
V,A
Wが徐々に低下し、時刻t
2においてA
U=A
V=A
W=-10%となる。
【0202】
時刻t2においてAU=AV=AW=-10%となったとき、計算される規格化異常度計算値AU0C0(t2),AV0C0(t2),AW0C0(t2)およびJ(t2)は、AU0C0(t2)=AV0C0(t2)=AW0C0(t2)=0%およびJ(t2)=0.9となる。これらに基づく演算部7280の演算結果はAU2=AV2=AW2=-10%となり、前提とした絶対異常度AU,AV,AWと等しく、異常度を正しく計算できていることが分かる。
【0203】
上述した式(27)により算出されるBIは、複数の電流検出器の検出ゲインの平均値に比例する量である。そのため、電流検出器34,35,36が正常な場合のBI(t1)を予め記憶させておき、BI(t1)の電動機運転条件と等しい運転条件の計算値BI(t)を用いて計算されるJ(t)は、正常な場合を基準とした現在(時刻t)の検出ゲインの平均値の変化度合いを表している。よって、絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2は、J(t)と相対異常度である規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)とに基づいて、式(77)~(79)により計算することができる。
【0204】
このように、第2の実施の形態では、記憶部7278に記憶させたBI(t1)に基づいてJ(t)を算出し、J(t)と規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)とに基づいて絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2を算出する。そのため、1つまたは複数の電流検出器が異常になった場合においても、絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2を高精度に計算でき、算出された推定値AU2,AV2,AW2を用いることで電流検出器34,35,36の異常を精度良く判断することができる。
【0205】
なお、コンバータユニット2に設けられた電流検出器26,27,28の異常度に関しても、上述した電流検出器34,35,36の異常度の場合と同様の処理が行われ、同様の作用効果を奏することができる。
【0206】
《表示器の表示による異常発生の予防と対応》
上述した第2の実施の形態においては、電流検出器の異常度の情報である絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2を式(77)~(79)により高精度に算出することができるので、算出した絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2を表示器73に表示させてもよい。その結果、異常発生の予兆を前もって把握することができ、異常発生の予防や、異常発生時の対応の準備を予め行うことができる。
【0207】
また、以下のように異常の発生を予測するようにしても良い。異常判断部727は、式(80)~(82)により異常と判断される前の電流検出器34,35,36の異常度合いの履歴、例えば、絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)の絶対値|AU2(t)|,|AV2(t)|,|AW2(t)|や前述した規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0の時系列データである履歴を記憶する。そして、記憶した履歴に基づいて、現時点から異常度合いが予め設定した異常判断の閾値(所定値γや所定値α)を超えるまでの期間、すなわち、異常発生までの期間を予測し、その予測結果を表示器73に表示させるようにしても良い。その結果、異常発生の予兆を前もって把握することができ、異常発生の予防や、異常発生時の対応の準備を予め行うことができる。
【0208】
なお、上記説明では、インバータ側異常判断器72を例に説明したが、コンバータ側異常判断器71に関しても同様の構成とすることができる。
【0209】
-第3の実施の形態-
本発明の第3の実施の形態に係る電力変換装置について、
図30~32を参照して説明する。
図30は、本発明の第3の実施の形態に係る電力変換装置のコンバータ側異常判断器71Dの構成の一例を示すブロック図である。また、
図31は、本発明の第3の実施の形態に係る電力変換装置のインバータ側異常判断器72Dの構成の一例を示すブロック図である。なお、電力変換装置におけるコンバータ側異常判断器71Dおよびインバータ側異常判断器72D以外の他の構成に関しては、
図1に記載の電力変換装置100と同様であり、図示を省略した。
【0210】
図30に示すコンバータ側異常判断器71Dは、
図4に示したコンバータ側異常判断器71にフィルタ718R,718S,718Tおよび加減算器719R,719S,719Tを追加した構成になっている。同様に、
図31に示すインバータ側異常判断器72Dは、
図5に示したインバータ側異常判断器72にフィルタ728U,728V,728Wおよび加減算器729U,729V,729Wを追加した構成になっている。したがって、以下では、代表して、
図31に示すインバータ側異常判断器72Dを例に説明する。
【0211】
インバータ側異常判断器72Dにおいて、フィルタ728U,728V,728Wには、それぞれ3相交流の対応する相の電流検出値IU,IV,IWが入力される。加減算器729U,729V,729Wの第1入力端子には、それぞれ3相交流の対応する相の電流検出値IU,IV,IWが入力される。加減算器729Uの第2入力端子には、フィルタ728Uの出力IUDCが入力される。加減算器729Vの第2入力端子には、フィルタ728Vの出力IVDCが入力される。加減算器729Wの第2入力端子には、フィルタ728Wの出力IWDCが入力される。各加減算器729U,729V,729Wからは、第1入力端子の入力から第2入力端子の入力を減算した信号IUA,IVA,IWAがそれぞれ出力される。
【0212】
加減算器729Uの出力IUAは、加算器721Dおよび乗算器722U,724U,724CW,724CVのそれぞれに入力される。加減算器729Vの出力IVAは、加算器721Dおよび乗算器722V,724V,724CW,724CUのそれぞれに入力される。加減算器729Wの出力IWAは、加算器721Dおよび乗算器722W,724W,724CU,724CVのそれぞれに入力される。
【0213】
インバータ側異常判断器72Dの他の構成は、
図5に示したインバータ側異常判断器72と同じである。なお、インバータ側異常判断器72Dにおける異常判断部727Dは、第1の実施の形態の
図7に示す異常判断処理、または、第2の実施の形態の
図23に示す異常判断処理のいずれかの処理を行う。なお、コンバータ側異常判断器71Dにおける異常判断部717Dの場合も同様である。
【0214】
次に、
図31において、新たに追加されたフィルタ728U,728V,728Wおよび加減算器729U,729V,729Wの動作について説明する。フィルタ728Uは、入力波形(交流の電流検出値I
U)に含まれる交流成分を除去し、入力波形に含まれる直流成分I
UDCを出力する。フィルタ728V,728Wのそれぞれについても同様に、電流検出値I
V,I
Wに含まれる交流成分を除去し直流成分I
VDC,I
WDCをそれぞれ出力する。
【0215】
加減算器729Uは、入力された電流検出値IUからオフセット成分であるIUDCを減算し、電流検出値IUに含まれる交流成分IUAを出力する。加減算器729V,729Wのそれぞれについても同様に、電流検出値IV,IWからオフセット成分であるIVDC,IWDCを減算し、電流検出値IV,IWに含まれる交流成分IVA,IWAを出力する。
【0216】
<電流波形例>
図32は、フィルタ728Uおよび加減算器729Uの出力波形例を示す図である。
図32に示すように、U相電流検出器34の電流検出値I
Uはプラス方向にオフセットしている。この波形の電流検出値I
Uがフィルタ728Uに入力されると、交流成分が除去されたオフセット成分I
UDCがフィルタ728Uから出力される。加減算器729Uにおいて電流検出値I
Uからオフセット成分I
UDCを減算すると、電流検出値I
Uからオフセット成分が除去された交流成分I
UAが得られる。図示は省略するが、V相におけるI
V,I
VDC,I
VAや、W相におけるI
W,I
WDC,I
WAについても同様である。
【0217】
上述のように、第3の実施の形態では、電流検出値I
U,I
V,I
Wに含まれるオフセット成分(直流成分)I
UDC,I
VDC,I
WDCを除去した交流成分I
UA,I
VA,I
WAに対して、第1の実施の形態の
図5の場合と同様の処理を行うようにした。そのため、電流検出値I
U,I
V,I
Wに直流成分が含まれている場合であっても、電流検出器34,35,36の検出ゲイン異常の異常度合い(絶対異常度または相対異常度)を高精度に検出することができる。
【0218】
《電流検出値に含まれるオフセット成分を除去する他の例》
第3の実施の形態の
図31のインバータ側異常判断器72Dにおいては、電流検出値I
U,I
V,I
Wに含まれるオフセット成分を除去するために、フィルタ728U,728V,728Wおよび加減算器729U,729V,729Wを用いている。ただし、電流検出値I
U,I
V,I
Wに含まれるオフセット成分を除去するためであれば、前記の構成に限定されず、例えば、フィルタ728U,728V,728Wと加減算器729U,729V,729Wの代りに、ハイパスフィルタなどを用いて直流(オフセット成分)以外の周波数を通すようにしてもよい。
【0219】
-第4の実施の形態-
本発明の第4の実施の形態に係る電力変換装置について、
図33を参照して説明する。
図33は、第4の実施の形態の電力変換装置102の構成の一例を示す図である。なお、
図33において、
図1に示す第1の実施の形態に係る電力変換装置100と同様な構成については同一の符号を付す。電力変換装置102では、
図1に示した電力変換装置100における3レベルのコンバータユニット2およびインバータユニット3を、
図33に示す2レベルのコンバータユニット2Bおよびインバータユニット3Bに置き換えている。
【0220】
《2レベルのコンバータユニット2B》
図33の電力変換装置102においては、2レベルのコンバータユニット2Bとインバータユニット3Bとしているため、各コンバータユニット2Bとインバータユニット3Bの回路が簡略化される。例えば、トランジスタ数が削減されるとともに、
図1における中性点(零)電位のC配線(41)が不要となり、正の電位のP配線40と負の電位のN配線42のみとなっている。
図1におけるC配線41は無いので、直流電圧を検出する直流電圧検出器は、コンバータ側の平滑コンデンサ22,23の電極間の電位を検出する1台の直流電圧検出器29によって構成されている。
【0221】
コンバータユニット2Bにおけるコンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTは、IGBTからなる2個のトランジスタと2個のダイオードで構成されている。2個のトランジスタは直列に接続されており、第1トランジスタのコレクタがP配線40に接続され、第2トランジスタのエミッタがN配線42に接続されている。2個のトランジスタのそれぞれには、逆並列にダイオードが接続されている。
【0222】
なお、
図33では、3つのコンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTの内の1つ(コンバータ電力変換部21BS)のみしか図示されていないが、実際には、3相交流のR相、S相、T相に対応して3つのコンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTが備えられている。
図33においては、S相の電力線がコンバータ電力変換部21BSの第1トランジスタと第2トランジスタの接続点に接続され、コンバータ電力変換部21BSにS相の電力が入力している。
【0223】
図33には図示していないが、R相の電力線がコンバータ電力変換部21BRの第1トランジスタと第2トランジスタの接続点に接続され、コンバータ電力変換部21BRにR相の電力が入力している。同様に、図示していないが、T相の電力線がコンバータ電力変換部21BTの第1トランジスタと第2トランジスタの接続点に接続され、コンバータ電力変換部21BTにT相の電力が入力している。ただし、3つのコンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTの直流の電力線であるP配線40、N配線42は、コンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTにおいて共用されている。
【0224】
交流電源1の3相交流のR相、S相、T相は、3つのコンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTに別々に入力しているが、コンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTで変換された直流電力側は共用化して用いられている。すなわち、R相、S相、T相の3相交流電力(電圧)は、共通の一つの直流電力(電圧)に変換される。3つのコンバータ電力変換部21BR,21BS,21BTは、コンバータ制御装置5によって統合的に制御されている。
【0225】
コンバータユニット2Bには、R相電流検出器26,S相電流検出器27およびT相電流検出器28が備えられ、それぞれ3相交流のR相、S相、T相に流れる電流を検出している。また、
図33に示すコンバータユニット2Bにおける平滑コンデンサ22,23は、
図1に示したコンバータユニット2における平滑コンデンサ22と平滑コンデンサ23をそのまま継承して表記したものであるが、C配線41(中性点電位)が無いので、平滑コンデンサ22と平滑コンデンサ23を1個のコンデンサにまとめてもよい。なお、
図33に示すように、平滑コンデンサ22と平滑コンデンサ23を直列接続した場合には、一体化したコンデンサとしての静電容量は低下するが、一体化したコンデンサの両端の電圧の耐圧は上昇する。
【0226】
《2レベルのインバータユニット3B》
図33において、インバータユニット3Bは、
図1における3レベルのインバータユニット3を2レベルのインバータユニットに置き換えたものである。2レベルのインバータユニット3Bの構成は、
図33における2レベルのコンバータユニット2Bと共通する変更であり、また、構成であるので、重複する説明は省略する。
【0227】
《電力変換装置102》
図33に示した電力変換装置102において、コンバータユニット2Bおよびインバータユニット3B以外の他の構成は、
図1に示す第1の実施の形態の電力変換装置100と概ね同一であるので、重複する説明は、適宜、省略する。電力変換装置102は、前記したように、2レベルのコンバータユニット2Bとインバータユニット3Bとを備えている。3レベルと2レベルの変換方式(パルス波形)の違いにより電流脈動が異なるが、電力変換装置102においても、コンバータ側異常判断器71が、電流検出器26,27,28の電流検出値に基づいて第1の実施の形態の場合と同様の処理を行うことにより、電流検出器26,27,28の異常を適切に判断することができる。また、インバータ側異常判断器72が、電流検出器34,35,36の電流検出値に基づいて第1の実施の形態の場合と同様な処理を行うことにより、電流検出器34,35,36の異常を適切に判断することができる。
【0228】
上述したように、第4の実施の形態では、電力変換装置102が2レベルのコンバータユニット2Bとインバータユニット3Bを備え場合においても、電流検出器34,35,36の異常を適切に判断することができる。また、2レベルのコンバータユニット2Bとインバータユニット3Bとすることで、コンバータユニット2Bおよびインバータユニット3Bの回路構成の簡素化を図ることができる。
【0229】
-第5の実施の形態-
本発明の第5の実施の形態に係る電力変換装置について、
図34,35を参照して説明する。
図34は、第5の実施の形態の電力変換装置103の構成の一例を示す図である。なお、
図34において、
図1に示す第1の実施の形態に係る電力変換装置100と同様な構成については同一の符号を付す。第5の実施の形態に係る電力変換装置103は、第1の実施の形態に係る電力変換装置100において、新たにコンバータ側出力推定器74とインバータ側出力推定器75を備えるようにしたものである。
【0230】
コンバータ側出力推定器74は、3相交流のR相、S相、T相に対応する複数の電流検出器26,27,28からの電流検出値IR,IS,ITに基づいて、異常を示す電流検出器が正常な場合に検出されるべき本来の電流検出値を推定する。
【0231】
コンバータ側出力推定器74における本来の電流検出値を推定する方法としては、前述の式(2),(3)で示した関係、すなわち、各電流検出器が正常な状態であれば、コンバータ側の電流検出器26,27,28の電流検出値を加算した合成電流値はゼロとなるという関係を利用する。この合成電流値はゼロとなるという関係によって、いずれか一つの電流検出器が異常である場合には、健全な側の2つの電流検出器の電流検出値を加算した値をゼロから減算することにより、異常な電流検出器の正確な電流検出値を推定することができる。
【0232】
<コンバータ側出力推定器74の構成例>
次に、コンバータ側出力推定器74の具体的な構成および動作の一例を説明する。
図35は、コンバータ側出力推定器74およびインバータ側出力推定器75を含む一部の構成の一例を示すブロック図である。
図35のブロック図は、コンバータ側出力推定器74とコンバータ側異常判断器71とコンバータ制御装置5との関係、および、インバータ側出力推定器75とインバータ側異常判断器72とインバータ制御装置6との関係を示している。なお、
図35は、T相電流検出器28およびW相電流検出器36に異常がある場合を例示したものである。
【0233】
コンバータ側異常判断器71には、電流検出器26,27,28の電流検出値IR,IS,ITが入力される。コンバータ側異常判断器71は、電流検出値IR,IS,ITを加算した合成電流値がゼロか否かで、電流検出器26~28のいずれかに異常が生じているか否かを判定する。コンバータ側異常判断器71は、電流検出器26~28のいずれかが異常であると判定すると、異常な電流検出器を示す異常情報をコンバータ側出力推定器74へ出力する。ここでは、T相電流検出器28が異常であると仮定しているので、T相電流検出器28が異常であることを示すIT異常情報が出力される。
【0234】
コンバータ側出力推定器74は、I
T異常情報が入力されている場合には、R相電流検出器26の電流検出値I
RとS相電流検出器27の電流検出値I
Sとの和をゼロから減算して、T相電流検出器28が正常な場合に検出されると推定される推定値I
THを算出する。そして、算出された推定値I
THを、コンバータ側出力推定器74の選択部74aに入力する。T相電流検出器28の電流検出値I
Tおよび推定値I
THが入力される選択部74aは、I
T異常情報の入力がある場合には推定値I
THを選択して出力し、I
T異常情報の入力がない場合には電流検出値I
Tを選択して出力する。そして、コンバータ側出力推定器74は、I
T異常情報が入力されている場合には、
図35に示すように、電流検出値I
R,I
Sおよび推定値I
THをコンバータ制御装置5へ出力する。一方、I
T異常情報が入力されていない場合には、コンバータ側出力推定器74は、電流検出値I
R,I
S,I
Tをコンバータ制御装置5へ出力する。
【0235】
このような構成により、T相電流検出器28に異常があった場合においても、電流検出値ITに代えて、適切な推定値ITHを出力することができる。その結果、出力される電流検出値IR,ISおよび推定値ITHに基づいて、例えば、後述するような「しのぎ運転」を行うことができる。なお、R相電流検出器26またはS相電流検出器27に異常がある場合においても同様の処理動作が行われ、電流検出値IRに代えて適切な推定値IRHが、または、電流検出値ISに代えて適切な推定値ISHが出力される。
【0236】
<インバータ側出力推定器75の構成例>
インバータ側出力推定器75に関してもコンバータ側出力推定器74の場合と同様の構成とされ、インバータ側出力推定器75においてR相をU相に、S相をV相に、T相をW相に読み替えた構成とすればよい。
図35では、W相電流検出器36に異常がある場合についての構成を示した。インバータ側出力推定器75は、3相交流のU相、V相、W相に対応する複数の電流検出器34,35,36からの電流検出値I
U,I
V,I
Wに基づいて、異常を示す電流検出器が正常な場合に検出されるべき本来の電流検出値を推定する。本来の電流検出値を推定する方法は、コンバータ側出力推定器74における場合と同様である。
【0237】
すなわち、U相電流検出器34の電流検出値IUとV相電流検出器27の電流検出値IVとの和をゼロから減算して、W相電流検出器28が正常な場合に検出されると推定される推定値IWHを算出する。選択部75aは、IW異常情報の入力がある場合には推定値IWHを選択して出力し、IW異常情報の入力がない場合には電流検出値IWを選択して出力する。インバータ側出力推定器75は、IW異常情報が入力されている場合には電流検出値IU,IVおよび推定値IWHをコンバータ制御装置5へ出力し、IW異常情報が入力されていない場合には電流検出値IU,IV,IWをコンバータ制御装置5へ出力する。
【0238】
なお、
図34の電力変換装置103は3レベルのシステムであるが、第5の実施の形態における構成は、
図33に示した2レベルのシステムにおいても同様に適用することができる。また、コンバータ側異常判断器71およびコンバータ側出力推定器74で行われる処理、インバータ側異常判断器72およびインバータ側出力推定器75で行われる処理は、例えば、図示しないプロセッサがメモリに格納されたプログラムを実行するソフトウェアにより行われる。
【0239】
第5の実施の形態による電力変換装置103では、電流検出器に異常があると判断した場合に、異常がある電流検出器以外の健全な電流検出器の電流検出値に基づいて、異常がある電流検出器が正常な場合の電流検出値としての推定値を算出するようにした。このような構成とすることにより、異常がある電流検出器を交換せずに電力変換装置103の使用を継続することができる。例えば、次の定期点検時までの所定期間、電力変換装置203を継続して運転させることができる。なお、このような運転方法を「しのぎ運転」と呼称する。この「しのぎ運転」を行うことにより、電流検出器の異常による電力変換装置103の「計画外停止」を避けることができる。
【0240】
≪第5の実施の形態の変形例≫
次に、第5の実施の形態の変形例について
図36を用いて説明する。第5の実施の形態の変形例では、コンバータ側出力推定器74およびインバータ側出力推定器75の構成を、
図35に示す構成から
図36に示す構成に置き換える。この変形例においても、
図35に示す第5の実施の形態の場合と同様に、
図36のコンバータ側出力推定器74とインバータ側出力推定器75とは同様の機能を備えるものである。
【0241】
そして、コンバータ側異常判断器71からコンバータ側出力推定器74へ出力される異常度情報、および、インバータ側異常判断器72からインバータ側出力推定器75へ出力される異常度情報として、各電流検出器の絶対異常度の推定値が入力される。異常度の推定値としては、例えば、第2の実施の形態に記載の絶対異常度の推定値A
U2,A
V2,A
W2が用いられる。
図36に示す例では、コンバータ側異常判断器71およびインバータ側異常判断器72として、第2の実施の形態に記載のコンバータ側異常判断器71およびインバータ側異常判断器72が適用されるものとする。以下では、代表して、インバータ側出力推定器75を例に説明する。
【0242】
第2の実施の形態で説明したように、インバータ側異常判断器72が備える異常判断部727の演算部7280では、規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0とJ(t)とに基づいて、絶対異常度の推定値A
U2,A
V2,A
W2が算出される。第5の実施の形態の変形例では、
図36に示すように、絶対異常度の推定値A
U2,A
V2,A
W2が異常度情報としてインバータ側異常判断器72からインバータ側出力推定器75へ出力される。同様に、コンバータ側異常判断器71からコンバータ側出力推定器74へは、絶対異常度の推定値A
R2,A
S2,A
T2が異常度情報として出力される。
【0243】
インバータ側出力推定器75は、入力された電流検出値IU,IV,IWおよび絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2に基づいて、電流検出器34,35,36が正常と仮定した場合の電流検出値として、推定値IUH,IVH,IWHを次式(83)~(85)のように計算する。
IUH=IU×(1+AU2) …(83)
IVH=IV×(1+AV2) …(84)
IWH=IW×(1+AW2) …(85)
そして、インバータ側出力推定器75は、算出された推定値IUH,IVH,IWHをインバータ制御装置6に出力する。
【0244】
なお、コンバータ側出力推定器74については、上述の説明のU相をR相に、V相をS相に、W相をT相に読み替えた構成とすればよい。すなわち、コンバータ側出力推定器74は、入力された電流検出値IR,IS,ITおよび絶対異常度の推定値AR2,AS2,AT2に基づいて推定値IRH,ISH,ITHを計算し、推定値IRH,ISH,ITHをコンバータ制御装置5に出力する。
【0245】
上述したように、第5の実施の形態の変形例の電力変換装置103では、例えば、電流検出器34,35,36の内の1つまたは複数に異常があると判断した場合に、絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2に基づいて、電流検出器34,35,36が正常であると仮定した場合の電流検出値(すなわち、推定値IUH,IVH,IWH)を推定するような構成としている。その結果、複数の電流検出器に異常が生じた場合でも、推定値IUH,IVH,IWHを使用することで、異常がある電流検出器を交換せずに電力変換装置103を使用することが可能となる。例えば、次の定期点検時までの所定期間、電力変換装置を継続して運転させることができる。
【0246】
上述した第1~5の実施の形態では、交流電源1と負荷としての電動機4との間に介在する電力変換装置における電流検出器の、異常判断について説明した。しかしながら、そのような構成に限らず、例えば、交流を交流に電圧変換する交流変換器(例えば変圧器)を、交流電源1とコンバータユニット2の間に設けてもよい。または、交流を交流に電圧変換する交流変換器(例えば変圧器)を、インバータユニット3と電動機4の間に設けてもよい。
本発明は、以上の構成における、電力変換器(コンバータユニット2)と電源との間、または電力変換器(インバータユニット3)と負荷(電動機4)との間におけるすべての相(例えば、3相)に配置された電流検出器の、異常判断にも適用できる。
【0247】
《電力変換装置を備えない構成における異常判断について》
上述した第1~5の実施の形態では、電力変換装置の3相交流配線の各相の電流を検出する電流検出器26~28および34~36の異常判断について説明した。しかし、第1~第4の実施の形態での説明における異常判断の方法については、電力変換装置が備える電流検出器に限らず適用可能である。
【0248】
図37は、そのような構成の一例を示す図である。
図37は、交流電源1の3相交流電力を、3相負荷である電動機4に直接供給する構成であって、電動機4に入力する3相交流配線にU相電流検出器34、V相電流検出器35、W相電流検出器36が設けられている。電流検出器34,35,36で検出された電流検出値I
U,I
V,I
Wは、異常判断器72Bに入力される。異常判断器72Bは電流検出ループを含む電流検出器34,35,36の異常を判断する装置であり、上述した第1~3の実施の形態のいずれかに記載されたインバータ側異常判断器72と、同様の構成および機能を備えている。
【0249】
なお、電動機4は、スター結線やデルタ結線でもよい。また、
図37では、負荷として3相負荷の電動機4を例示したが、負荷としては電動機に限定されない。また、
図37では、3相交流の場合を例示しているが必ずしも3相に限定されず、3相以外の多相であってもよい。
【0250】
さらに、
図37では、交流電源1の3相交流電力を3相負荷の電動機4に直接供給しているが、交流変換器(例えば、変圧器、交流-交流電力変換器)を交流電源1と電動機4の間に設ける構成にしてもよい。この場合には、交流電源1が供給する3相交流電圧と3相負荷である電動機4との適正な電圧が調整しやすくなる。
【0251】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0252】
(C1)
図1,5に示すように、交流電源1と負荷装置である電動機4との間に設けられる電力変換装置100は、交流電源1と電力変換装置100との間、または、電力変換装置100と電動機4との間に流れる複数相の交流電流を、相毎に検出する電流検出器34,35,36と、電流検出器34,35,36が検出した複数相の電流検出値I
U,I
V,I
Wの第1の総和I
I0(=I
U+I
V+I
W)を計算する加算器721と、第1の総和I
I0と電流検出値I
U,I
V,I
Wとの積である第1の積D
U,D
V,D
Wを、U相,V相,W相の各々について計算する乗算器722U~722Wと、複数の第1の積D
U,D
V,D
Wに含まれる高調波成分をそれぞれ低減または除去するフィルタ723U~723Wと、相の異なる2つの電流検出値の積である第2の積I
VI
W,I
WI
U,I
UI
Vをそれぞれ計算する乗算器724CU~724CWと、複数の第2の積I
VI
W,I
WI
U,I
UI
Vについての第2の総和(I
UI
V+I
VI
W+I
WI
U)を計算する加算器725Cと、第2の総和(I
UI
V+I
VI
W+I
WI
U)に含まれる高調波成分を減少または除去するフィルタ726Cと、電流検出値I
U,I
V,I
Wの自乗I
U
2,I
V
2,I
W
2を相毎にそれぞれ計算する乗算器724U~724Wと、複数の前記自乗についての第3の総和(I
U
2+I
V
2+I
W
2)を計算する加算器725と、第3の総和(I
U
2+I
V
2+I
W
2)に含まれる高調波成分を低減または除去するフィルタ726と、フィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
W、フィルタ726Cの出力K
Iおよびフィルタ726の出力H
Iに基づいて電流検出器34,35,36の異常度合いをそれぞれ生成し、異常度合いに基づいて電流検出器34,35,36の異常を判断する異常判断部727と、を備える。
【0253】
上記構成においては、乗算器722U~722Wで計算された積DU,DV,DWを用いることにより、電力変換装置100に接続される3相負荷(電動機4)が不平衡であっても、電力変換装置100における電流検出器の異常を適切に検出できる。また、フィルタ723U,723V,723W,726,726Cは入力信号に含まれる高調波成分を低減または除去するので、電流脈動の周波数が電流波形の基本波周波数と近接している場合であっても、電流脈動を十分に除去できる。よって、出力FU,FV,FW,KIおよびHIに基づく異常度合いにより電流検出器34,35,36の異常判断をすることで、3相負荷が不平衡である場合や電流波形に無視できない大きさの電流脈動または電流基本波周波数と近い周波数の電流脈動が含まれる場合であっても、電流検出器34,35,36の異常を正しく判定できる。
【0254】
なお、
図1に示す構成では、交流電源1と電力変換装置100との間にも電流検出器26,27,28が設けられており、コンバータ側異常判断器71はインバータ側異常判断器72と同様の構成及び機能を有している。そのため、コンバータ側の構成に関しても、上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0255】
(C2)さらに、
図6に示すように、電力変換装置100は、フィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
W、フィルタ726Cの出力K
Iおよびフィルタ726の出力H
Iに基づいて、電流検出器34,35,36の異常度合いであって、複数の相に関しての総和(A
U0C0+A
V0C0+A
W0C0)が常にゼロとなるように設定される相対的異常度である規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0を、それぞれ計算する演算部7275をさらに備え、異常判断部727は、複数の規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0の各々の絶対値の内の最大値が、予め設定した異常判定閾値(所定値α)よりも大きい場合に、すなわち、式(64)が成立する場合に、複数の電流検出器34,35,36の少なくとも一つが異常であると判断する。
MAX(|A
U0C0|,|A
V0C0|,|A
W0C0|) > 所定値α …(64)
【0256】
出力FU,FV,FW,HI,KIに基づいて規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を計算することにより、複数の電流検出器34,35,36の異常をそれぞれ判断することができる。また、規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0を少ない誤差で計算することができる。
【0257】
(C3)
図7に示すように、異常判断部727は、複数の規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0を、類似度の高い2つの要素と、それら2つの要素とは類似度が低い1つの要素とに分類できるか否かを、すなわち、上述した式(65)が成立するか否かを判定する。式(65)が成立し、分類ができる場合には、複数の電流検出器34,35,36の1つのみが異常であると判断し、式(65)が成立せず、分類ができない場合には、電流検出器34,35,36の内の2以上が異常であると判断する。その結果、異常な電流検出器が1なのか2以上なのかを特定することができる。
【0258】
(C4)
図7に示すように、異常判断部727は、複数の規格化異常度計算値A
U0C0,A
V0C0,A
W0C0の各々の絶対値の大きさを比較し、絶対値が最大である規格化異常度計算値に対応する電流検出器が異常であると判断する。その結果、どの電流検出器が異常であるのかを特定することができる。
【0259】
(C5)
図20~23に示すように、電力変換装置101は、電流検出器34,35,36が正常な場合における検出ゲインの平均値(G
U+G
V+G
W)/3と電流振幅I
IAとの積(B
I(t
1))が、負荷装置4の運転条件S
I(t
1)と関連付けて記憶される記憶部7278と、フィルタ726,726Cの出力H
I,K
Iに基づいて、電流検出器34,35,36の検出ゲインの平均値と電流振幅との積に相当する物理量(B
I(t))を、式(72)により計算する演算部7276と、B
I(t
1),運転条件S
I(t
1)と同一運転条件において演算部7276により計算されるB
I(t),フィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
W,フィルタ726Cの出力K
Iおよびフィルタ726の出力H
Iに基づいて、電流検出器34,35,36の異常度合いの絶対量を表す絶対異常度の推定値A
U2(t),A
V2(t),A
W2(t)をそれぞれ計算する演算部7279,7280と、をさらに備える。異常判断部727は、絶対異常度の推定値A
U2(t),A
V2(t),A
W2(t)に基づいて電流検出器34,35,36の異常を判断する。
【0260】
BIは、電流検出器34,35,36の検出ゲインの平均値に比例する量である。そのため、電流検出器34,35,36が正常な場合のBI(t1)を予め記憶させておき、BI(t1),BI(t1)の電動機運転条件と等しい運転条件の計算値BI(t)を用いることで、絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)を算出することができる。そのため、1つまたは複数の電流検出器が異常になった場合においても、絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2を高精度に計算でき、算出された推定値AU2,AV2,AW2を用いることで電流検出器34,35,36の異常を精度良く判断することができる。
【0261】
なお、
図20に示す構成では、交流電源1と電力変換装置101との間にも電流検出器26,27,28が設けられており、コンバータ側異常判断器71はインバータ側異常判断器72と同様の構成及び機能を有している。そして、コンバータ側異常判断器71が備える不図示の記憶部には、電流検出器26,27,28が正常な場合における検出ゲインの平均値と電流振幅との積が、交流電源1の運転条件と関連付けて記憶されている。そのため、コンバータ側の構成に関しても、上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0262】
(C6)さらに、フィルタ723U~723Wの出力FU,FV,FW、フィルタ726Cの出力KIおよびフィルタ726の出力HIに基づいて、電流検出器34,35,36のそれぞれの異常度合いを表し、かつ、複数の相に関しての総和が常にゼロとなるように設定される規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0をそれぞれ計算する演算部7275を備え、演算部7279,7280は、演算部7276で計算されるBI(t)とBI(t1)との比、および、演算部7275で計算される規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0に基づいて、絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)を計算するようにしても良い。BI(t)とBI(t1)との比は、正常な場合を基準とした現在(時刻t)の検出ゲインの平均値の変化度合いを表している。
【0263】
(C7)例えば、
図1に示すフィルタ、すなわち、フィルタ723U~723W、フィルタ726Cおよびフィルタ726の内の少なくとも1つのフィルタ設定(例えば、時定数やカットオフ周波数)を、電流検出器34,35,36に流れる交流電流の周波数に応じて変更するのが望ましい。好ましくは、全てのフィルタの設定を変更するのが良い。交流電流の周波数が変化した場合にも、フィルタ入力に含まれる交流成分を適切に低減または除去することができる。
【0264】
(C8)異常判定閾値である式(64)右辺の所定値αは、電流検出器34,35,36に流れる交流電流の大きさに応じて変更するのが好ましい。例えば、原理上、電流=0の場合には電流検出器の異常度合いが見えなくなり、異常診断が困難になる。そのような電流値が小さい場合に誤判断しないように、電流検出値IU,IV,IWの大きさに応じて所定値αを変更する。
【0265】
(C9)
図31に示すように、複数の電流検出器の少なくとも一つに関して、電流検出値に含まれる直流成分を除去または減少させるフィルタとして機能するフィルタ728U~728Wおよび加減算器729U~729Wをさらに備え、電流検出値I
U,I
V,I
Wに代えて加減算器729U~729Wの出力を用いても良い。上記フィルタ機能は
図31に示すようにU相,V相,W相の全てに設けるのが好ましいが、少なくとも1相に設ける構成でも良い。また、フィルタ728Uと加減算器729Uとから成るフィルタ機能の代わりに、ハイパスフィルタなどを用いて直流以外の周波数を通すようにしても良い。
【0266】
(C10)
図34,35に示すように、電力変換装置103は、異常判断部717(
図4参照)が電流検出器26,27,28の異常を判断した場合に、異常と判断されていない電流検出器26,27の電流検出値I
R,I
Sに基づいて、異常と判断された電流検出器28が正常であると仮定した場合の電流検出値I
THを推定するコンバータ側出力推定器74をさらに備え、異常と判断されていない電流検出器26,27の電流検出値I
R,I
Sと、コンバータ側出力推定器74で推定した電流検出値I
THとに基づいて、運転動作を継続する。その結果、出力される電流検出値I
R,I
Sおよび推定値I
THに基づいて、例えば、次の定期点検時までの所定期間、電力変換装置203を継続して運転させることができる。なお、電動機4が接続されるインバータ側においても同様の構成とすることができ、同様の作用効果を奏する。
【0267】
(C11)
図34,36に示すように、電力変換装置103は、異常判断部727(
図5参照)が電流検出器34,35,36の異常を判断した場合に、電流検出器34,35,36の絶対異常度の推定値A
U2(t),A
V2(t),A
W2(t)と電流検出器34,35,36の電流検出値I
U,I
V,I
Wとに基づいて、電流検出器34,35,36が正常であると仮定した場合の電流検出値(すなわち、推定値I
UH,I
VH,I
WH)をそれぞれ推定するインバータ側出力推定器75をさらに備え、電流検出器34,35,36の電流検出値I
U,I
V,I
Wに代えて、インバータ側出力推定器75で推定した推定値I
UH,I
VH,I
WHに基づいて、運転動作を継続する。
【0268】
その結果、電流検出器34,35,36の内の複数に異常が生じた場合でも、推定値IUH,IVH,IWHを使用することで、異常がある電流検出器を交換せずに電力変換装置103を使用することが可能となる。例えば、次の定期点検時までの所定期間、電力変換装置を継続して運転させることができる。なお、交流電源1が接続されるコンバータ側においても同様の構成とすることができ、同様の作用効果を奏する。
【0269】
(C12)
図1に示すように、電力変換装置100は、異常判断部727が電流検出器34,35,36の異常を判断した場合に異常情報を提示する情報提示部としての表示器73を、さらに備える。表示器73に異常情報を表示することで、例えば、電力変換装置100の異常発生や異常内容を素早く報知することができ、異常に対して迅速に対応することができる。
【0270】
なお、上述した実施の形態では、異常情報を提示する情報提示部として表示器73を設ける構成について例示したが、表示器73に限定されない。例えば、異常情報を電力変換装置100の上位装置(例えば、メインコントローラ)に送信するようにしても良い。以上情報が入力された上位装置が自動的に異常対策処理を行うことで、より迅速な対応を行うことができる。
【0271】
(C13)さらに、異常情報を提示する情報提示部としての表示器73を備え、異常判断部727は、複数の異常度合いの履歴、例えば、絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)の絶対値|AU2(t)|,|AV2(t)|,|AW2(t)|や前述した規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0の時系列データである履歴を生成し、その履歴に基づいて電流検出器34,35,36の異常発生までの期間を予測し、予測結果を異常情報として表示器73に提示させる。その結果、異常発生の予兆を前もって把握することができ、異常発生の予防や、異常発生時の対応の準備を予め行うことができる。
【0272】
(C14)
図5に示すように、交流電源1と交流電源1の電力が供給される電動機4との間に流れる複数相の電流を、相毎に検出する電流検出器34,35,36の異常判断方法であって、電流検出器34,35,36によりそれぞれ検出された電流検出値I
U,I
V,I
Wの第1の総和(I
U+I
V+I
W)を計算し、第1の総和(I
U+I
V+I
W)と電流検出値I
U,I
V,I
Wとの積である第1の積(D
U,D
V,D
W)を、前記複数相の各々について計算し、複数の第1の積(D
U,D
V,D
W)にフィルタ処理を施して高調波成分をそれぞれ低減または除去し、相の異なる2つの電流検出値の積である第2の積I
VI
W,I
WI
U,I
UI
Vをそれぞれ計算し、複数の前記第2の積I
VI
W,I
WI
U,I
UI
Vについての第2の総和(I
UI
V+I
VI
W+I
WI
U)を計算し、第2の総和(I
UI
V+I
VI
W+I
WI
U)にフィルタ処理を施して高調波成分を減少または除去し、電流検出値I
U,I
V,I
Wの自乗I
U
2,I
V
2,I
W
2を相毎にそれぞれ計算し、複数の自乗I
U
2,I
V
2,I
W
2についての第3の総和(I
U
2+I
V
2+I
W
2)を計算し、第3の総和(I
U
2+I
V
2+I
W
2)にフィルタ処理を施して高調波成分を低減または除去し、複数の第1の積(D
U,D
V,D
W)のフィルタ処理結果F
U,F
V,F
Wと、第2の総和(I
UI
V+I
VI
W+I
WI
U)のフィルタ処理結果K
Iと、第3の総和(I
U
2+I
V
2+I
W
2)のフィルタ処理結果H
Iとに基づいて電流検出器34,35,36の異常度合いをそれぞれ生成し、その異常度合いに基づいて電流検出器34,35,36の異常を判断する。
【0273】
第1の積DU,DV,DWを用いることにより、電力変換装置100に接続される3相負荷(電動機4)が不平衡であっても、電力変換装置100における電流検出器の異常を適切に検出できる。また、高調波成分を低減または除去した結果であるフィルタ処理結果FU,FV,FW,KI,HIを用いることで、電流脈動の周波数が電流波形の基本波周波数と近接している場合であっても、電流脈動を十分に除去できる。よって、フィルタ処理結果FU,FV,FW,KI,HIに基づく異常度合いにより電流検出器34,35,36の異常判断をすることで、3相負荷が不平衡である場合や電流波形に無視できない大きさの電流脈動または電流基本波周波数と近い周波数の電流脈動が含まれる場合であっても、電流検出器34,35,36の異常を正しく判定できる。
【0274】
なお、本発明は、以上に説明した実施の形態に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために、例示したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部で置き換えることが可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部または全部を追加、削除、置換をすることも可能である。
【0275】
例えば、以下に記載のような各種構成も可能である。
《電流検出器の他の例》
図1に示す例では、インバータユニット3と負荷である電動機4との間に電流検出器34,35,36を設け、インバータ側異常判断器72で電流検出器34,35,36の異常判断をしている。しかしながら、電流検出器の配置は、インバータユニットと電動機との間に限定されない。例えば、
図38に示すように、インバータユニット31の直流電源側にシャント抵抗34B,35B,36Bを設けて、電流検出器とする3シャント方式の回路構成としても良い。
【0276】
交流電流測定用のシャント抵抗34B,35B,36Bは、各インバータ電力変換部31U,31V,31WのN配線42側にそれぞれ設けられている。インバータ電力変換部31U,31V,31Wが動作してシャント抵抗34B,35B,36Bのそれぞれに交流電流が流れると、各シャント抵抗34B,35B,36Bが3相交流のU相、V相、W相の交流電流をそれぞれ検出して測定する。なお、シャント抵抗34B,35B,36BをP配線40側に設けて交流電流を検出するようにしても良い。また、
図38では、インバータユニット31にシャント抵抗を備える構成について説明したが、
図1におけるコンバータユニット2の3台のコンバータ電力変換部21R,21S,21Tにおいても、電流検出器26,27,28に代えてシャント抵抗の電流検出器を備えるようにしても良い。
【0277】
《電流検出器と異常判断器の配置箇所について》
上述した実施の形態では、コンバータ側異常判断器71で電流検出器26,27,28の異常判断を行い、かつ、インバータ側異常判断器72で電流検出器34,35,36の異常判断を行う構成とした。しかしながら、上記のようにコンバータ側およびインバータ側の両方に設けることは必須ではなく、状況に応じてコンバータ側およびインバータ側のいずれか一方に設ける構成としても良い。その場合においても、上述した実施の形態で説明した異常判断方法を適用することができる。
【0278】
《トランジスタ》
上述した電力変換装置100~103において、コンバータ電力変換部やインバータ電力変換部を構成するトランジスタをIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を例として説明した。しかし、トランジスタはIGBTに限定されず、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)やスーパージャンクションMOSFETでもよい。
【0279】
《電力変換装置のレベル数》
図1に示す第1の実施の形態や
図33に示す第4の実施の形態では、3レベル変換器または2レベル変換器を例として示した。しかし、レベル変換器のレベル数は、3レベルと2レベルに限定されない。本発明における電流検出器の異常判断処理は、任意の多レベル変換器(例えば5レベル、7レベル)における電力変換器と電源の間、または、電力変換器と負荷の間、における全ての相に配置された電流検出器の異常判断にも適用できる。
【0280】
《ソフトウェアとハードウェアの処理》
上述したコンバータ側異常判断器71、コンバータ側出力推定器74、インバータ側異常判断器72およびインバータ側出力推定器75が行っていた処理については、図示しないプロセッサがメモリに格納されたプログラムを実行するソフトウェアによる処理されるものとした。しかし、これらの構成はソフトウェアによる処理に限定されず、それららの処理の一部または全部を、ハードウェア回路で行うようにしてもよい。
【0281】
≪第2の実施の形態の変形例≫
第2の実施の形態の変形例について説明する。第2の実施の形態の変形例では、任意の制御が有効な運転中においても、絶対異常度を算出し、算出した絶対異常度に基づいて異常な電流検出器を判定する。第2の実施の形態の変形例では、運転中の任意の制御により電流検出器正常時のパルス指令と電流検出器異常時のパルス指令とが不一致である場合においても、絶対異常度を算出可能な効果を有する。
【0282】
以下に説明する第2の実施の形態の変形例では、絶対異常度を算出し、算出した絶対異常度に基づいて異常な電流検出器を判定する。
【0283】
図39は、本発明の第2の実施の形態の変形例に係る電力変換装置104の構成の一例を示す図である。なお、
図39において、
図20に示す第2の実施の形態に係る電力変換装置101と同様な構成については同一の符号を付した。
【0284】
第2の実施の形態の変形例の電力変換装置104は、主に、以下の構成が第2の実施の形態の電力変換装置101と異なる。コンバータ側異常判断器71には、コンバータ制御装置5から出力される交流電源1の運転条件に関する信号(交流電力運転条件SC(t))に加えて、インバータ制御装置6から出力される電動機4の運転条件に関する信号(電動機運転条件SI(t))が入力される。また、インバータ側異常判断器72には、電動機運転条件SI(t)に加えて、交流電力運転条件SC(t)が入力される。
【0285】
第2の実施の形態の変形例において、コンバータ側異常判断器71は、
図4に示した第1の実施の形態のコンバータ側異常判断器71と同様の構成を有している。また、インバータ側異常判断器72は、
図21に示した第2の実施の形態のインバータ側異常判断器72と同様の構成を有している。ただし後述するように、異常判断部717,727の構成がそれぞれ異なっている。
【0286】
図40は、第2の実施の形態の変形例に係る電力変換装置104のインバータ側異常判断器72における異常判断部727のブロック図である。第2の実施の形態の変形例では、異常判断部727において、
図22の演算部7276,7279,7280、運転条件判断部7277および記憶部7278に替えて、演算部7276B,7279B,7280B、運転条件判断部7277Bおよび記憶部7278Bを有する点が、
図22に示した第2の実施の形態の異常判断部727と異なっている。
【0287】
図41は、第2の実施の形態の変形例に係る電力変換装置104のコンバータ側異常判断器71における異常判断部717のブロック図である。図示していないが、第2の実施の形態の異常判断部717は、
図22に示したインバータ側異常判断器72における異常判断部727と同様の構成を有している。これに対して、第2の実施の形態の変形例では、異常判断部717において、
図40に示した異常判断部727と同様に、演算部7176B,7179B,7180B、運転条件判断部7177Bおよび記憶部7178Bを有する点が、第2の実施の形態の異常判断部717と異なっている。
【0288】
なお、第2の実施の形態の変形例においても、
図39に示すコンバータ側異常判断器71とインバータ側異常判断器72とは類似の構成を有している。また、
図40に示すインバータ側異常判断器72における異常判断部727の各ブロックと、
図41に示すコンバータ側異常判断器71における異常判断部717の各ブロックとは、それぞれ類似の機能を有する。そのため、第2の実施の形態の場合と同様に、インバータ側異常判断器72における異常判断部727の演算部7276B,7279B,7280B、運転条件判断部7277Bおよび記憶部7278Bを代表として説明し、コンバータ側異常判断器71における異常判断部717の演算部7176B,7179B,7180B、運転条件判断部7177Bおよび記憶部7178Bについては説明を省略する。なお、説明は省略するが、コンバータ側異常判断器71に関連する構成や関係式についても、以下に記載のインバータ側異常判断器72に関連する構成や関係式において添え字U,V,WをR,S,Tに置き換えることで、同様に説明できる。
【0289】
<演算部7276B>
演算部7276Bは、インバータ制御装置6からの電動機運転条件に関する信号SIに基づき、インバータユニット3が電動機4に出力する交流電力の推定値(インバータ電力推定値)PIを計算する。例えば、速度制御器62が出力するインバータ出力電流指令値と、電流制御器63が出力するインバータ電圧指令値とを、電動機運転条件SI(t)としてインバータ制御装置6から取得し、これらの積に基づき、インバータ電力推定値PIを計算する。なお、速度制御器62が出力する電流指令値を用いる代わりに、各電流検出器34,35,36で検出された電流検出値を用いてもよい。また、インバータユニット3が電動機4に出力する交流電力の推定値(インバータ電力推定値)PIの計算方法は上記の例に限定されるものではない。例えば、複数相の電流値(電流検出値、電流推定値または電流指令のうち少なくとも1つ)と、複数相の電圧値(電圧検出値、電圧推定値または電圧指令のうち少なくとも1つ)とのいずれか一方または両方を、電動機運転条件SI(t)としてインバータ制御装置6からそれぞれ取得し、これらを用いた任意の方法で、複数相を通過するインバータ電力推定値PIを計算できればよい。
【0290】
<運転条件判断部7277B>
運転条件判断部7277Bには、インバータ制御装置6からの電動機運転条件SI(t)、コンバータ制御装置5からの交流電力運転条件SC(t)、および、演算部7276Bで算出されたPI(t)がそれぞれ入力される。運転条件判断部7277Bは、入力された電動機運転条件SI(t)および交流電力運転条件SC(t)と、記憶部7278Bに記憶されているPI(t1)の電動機運転条件SI(t1)および交流電力運転条件SC(t1)とが、それぞれ同一運転条件であるか否かを判定する。SI(t)=SI(t1)かつSC(t)=SC(t1)であった場合には、判定結果SDI=YESと記憶部7278Bに記憶されているPI(t1)を出力する。一方、SI(t)≠SI(t1)またはSC(t)≠SC(t1)であった場合、または、記憶部7278BにPI(t1)が記憶されていない場合には、判定結果SDI=NOのみを出力する。なお、運転条件判断部7277Bにおける判定には、電動機運転条件SI(t)および交流電力運転条件SC(t)の両方を用いることに限定するものではなく、例えば電動機運転条件SI(t)または交流電力運転条件SC(t)の一方のみを運転条件の判断に用いても良い。なお、記憶部7278Bには、複数の電動機運転条件SI(t)または交流電力運転条件SC(t)と、複数の電動機運転条件SI(t)または交流電力運転条件SC(t)にそれぞれ対応するインバータ電力推定値PIとを記憶しても良い。
【0291】
<運転条件判断部7277Bにおける判定方法>
運転条件判断部7277Bにおける上記判定には、例えばインバータ制御装置6からの電動機運転条件S
I(t)に含まれる電動機4の速度および電動機4の負荷の推定値を用いればよい。
図42は、電動機4の速度、速度変化率(加速度)および負荷の時間変化の一例を示す図である。
図42において、時刻t
3~t
4、時刻t
7~t
8および時刻t
11~t
12では、速度が一定(加速度が0)かつ同一であり、かつ負荷が同一であるため、運転条件判断部7277Bは、これらの時刻間において電動機運転条件が同一運転条件と判定する。また、時刻t
5~t
6および時刻t
9~t
10においても、速度が一定(加速度が0)かつ同一であり、かつ負荷が同一であるため、運転条件判断部7277Bは、これらの時刻間において電動機運転条件が同一運転条件と判定する。また、速度が変化する時刻t
4~t
5および時刻t
12~t
13においても、
図42(b)に示す速度の変化率(加速度)が同一であるため、運転条件判断部7277Bは、0<Δt
A<t
5-t
4を満たすように定義される任意のΔt
Aに関して、時刻t
4+Δt
Aおよび時刻t
12+Δt
Aにおいて(すなわち速度が同一である時刻において)電動機運転条件が同一運転条件と判定する。一方、時刻t
4~t
5および時刻t
8~t
9においては、加速度が一致しないため、運転条件判断部7277Bは、これらの時刻間において電動機運転条件は同一ではないと判断する。なお、説明の都合により
図42(c)において負荷は時間変化せず一定と仮定したが、例えば、もし
図42の時刻t
5~t
6および時刻t
9~t
10において負荷が不一致である場合、運転条件判断部7277Bは、これらの時刻間において電動機運転条件は同一ではないと判断する。
【0292】
なお、運転条件判断部7277Bの判定において、コンバータ制御装置5から入力される交流電力運転条件SC(t)に基づく運転条件の判断についても、上記と同様の方法で行うことができる。例えば、電源1がコンバータユニット2に出力する交流電力の推定値(コンバータ電力推定値)PC(t)を、交流電力運転条件SC(t)としてコンバータ制御装置5から運転条件判断部7277Bに入力し、記憶部7278Bに記憶されているSC(t1)とSC(t)とが一致するか否かを判定することで、運転条件の判断を行っても良い。これ以外にも、コンバータユニット2の運転状態に係る任意の情報を交流電力運転条件SC(t)としてコンバータ制御装置5から運転条件判断部7277Bに入力し、その情報に基づいて、運転条件判断部7277Bが同一運転条件であるか否かの判定を行うことができる。
【0293】
<演算部7279B>
演算部7279Bには、演算部7276Bで算出されたPI(t)と、運転条件判断部7277Bから出力されたPI(t1)とが入力される。演算部7279Bは、PI(t)とPI(t1)とに基づいて、後述する式(86)で表されるJI(t)を算出し、算出されたJI(t)を出力する。
【0294】
ある時刻t2において、その時の電動機運転条件(電動機4の速度およびトルク)SI(t2)が、基準時刻t1の電動機運転条件SI(t1)と等しいと仮定する。時刻t2における電力推定値PI(t2)を、上述した基準時刻t1における正常時の電力推定値PI(t1)を用いて次式(86)のように表す。
PI(t2)=JI(t2)×PI(t1) …(86)
ただし、式(86)におけるJI(t2)は、すべての電流検出器が正常である基準時刻t1における電力推定値PI(t1)を基準とする、ある時刻t2における電力推定値PI(t2)の割合を表す係数である。
【0295】
また、任意の時刻tにおける絶対ゲインの平均値GIMEAN(t)を次式(87)で定義する。
GIMEAN(t)=(GU(t)+GV(t)+GW(t))/3 …(87)
【0296】
また、インバータユニット3が電動機4に出力する真の電力をPITRUEと定義する。電動機4を同一の速度かつ同一のトルクかつ同一の加速度で回転させるのに必要な電力は殆ど等しいため、SI(t2)=SI(t1)である場合には、真の電力PITRUEに対して次式(88)が成立する。
PITRUE(t2)=PITRUE(t1) …(88)
【0297】
ある時刻t2において、真の電力PITRUE(t2)と電力推定値PI(t2)との関係は、平均ゲインGIMEANを用いて式(89)で表される。電流検出器が全て正常(平均ゲインGIMEANは1)である基準時刻t1においては、真の電力PITRUE(t1)と電力推定値PI(t1)の関係は、式(90)で表される。
PI(t2)=GIMEAN(t2)×PITRUE(t2) …(89)
PI(t1)=PITRUE(t1) …(90)
【0298】
式(88)~(90)より、ある時刻t2における電力推定値PI(t2)と、上述した基準時刻t1における正常時の電力推定値PI(t1)との関係は、式(91)で表される。
PI(t2)=GIMEAN(t2)×PI(t1) …(91)
【0299】
すなわち、基準時刻t1の正常状態におけるPI(t1)と、基準時刻t1と電動機運転条件が等しい(SI(t2)=SI(t1))ある時刻t2におけるPI(t2)を式(86)に代入して求まるJI(t2)とにより、時刻t2における検出ゲインGU(t2),GV(t2),GW(t2)の平均値GIMEAN(t2)を算出することができる。
【0300】
<演算部7280B>
演算部7280Bには、演算部7275で算出された規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)と、演算部7279Bで算出されたJI(t)とが入力される。演算部7280Bは、規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)とJI(t)とに基づいて、時刻tにおける絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)を算出する。なお、絶対異常度の推定値の計算方法は、第2の実施の形態で説明した式(77)~(79)におけるJをJIに置き換えればよい。
【0301】
したがって、全ての電流検出器34,35,36が正常な場合のPI(t1)を予め記憶させておき、時刻t1と運転条件が等しい時刻tにおけるPI(t)を用いてJIが計算できれば、時刻tにおける各電流検出器34,35,36の絶対異常度を計算することができる。
【0302】
<異常判断部727の処理動作について>
図43は、
図40の異常判断部727における異常判断処理の一例を示すフローチャートである。以下では、
図43のフローチャートにしたがって異常判断処理の手順を説明する。
【0303】
《ステップS301~S304》
ステップS301~S304の処理は、
図23のステップS201~S204と同様の処理である。すなわち、ステップS201~S204をステップS301~S304に読み替えれば良く、ここでは説明を省略する。
【0304】
《ステップS305》
ステップS305では、異常判断部727は、演算部7271~7275による現在の時刻tにおける規格化異常度計算値AU0C0(t),AV0C0(t),AW0C0(t)の算出と、演算部7276BによるPI(t)の算出を行う。
【0305】
《ステップS306》
ステップS306では、異常判断部727は、運転条件判断部7277Bから出力された判定結果SDIがYESかNOかを判定し、SDI=YESの場合にはステップS307へ進み、SDI=NOの場合には一連の異常判断処理を終了する。
【0306】
《ステップS307》
ステップS307では、異常判断部727は、演算部7279B,7280BによりJI(t),AU2(t),AV2(t),AW2(t)を計算する。
【0307】
《ステップS308~ステップS315》
ステップS308~S315の処理は、
図23のステップS208~S215と同様の処理である。すなわち、ステップS208~S215をステップS308~S315に読み替えれば良く、ここでは説明を省略する。
【0308】
なお、
図43に示す一連の異常判断処理は、例えば、所定の時間間隔で実行される。また、記憶部7278BへのP
I(t
1)、電動機運転条件S
I(t
1)および交流電力運転条件S
C(t
1)の記憶は、例えば、運転開始前に、予め所定のP
I、電動機運転条件S
Iおよび交流電力運転条件S
Cを記憶させる。または、
図43のステップS315に、運転条件判断部7277Bに入力されるS
I(t)、S
C(t)およびP
I(t)を記憶部7278Bに記憶させる処理を追加して、運転開始後のまだ正常であるタイミングt
1において取得される電動機運転条件S
I(t
1)、交流電力運転条件S
C(t
1)およびP
I(t
1)を、記憶部7278Bに記憶させるようにしても良い。
【0309】
また、第2の実施の形態の代わりに第2の実施の形態の変形例を用いた場合においても、第3の実施の形態以降と同様の形態に適用可能である。
【0310】
以上説明した本発明の第2の実施の形態の変形例によれば、以下の作用効果を奏する。
【0311】
(C15)
図39~43に示すように、電力変換装置104は、複数相における電流値および電圧値のうち少なくとも1つに基づき複数相を通過する電力の推定値であるインバータ電力推定値P
Iを演算する演算部7276Bと、電流検出器34,35,36が正常な場合におけるインバータ電力推定値P
I(t
1)が、交流電源1および電動機4の少なくとも一方の運転条件(電動機運転条件S
I(t
1)、交流電力運転条件S
C(t
1))と関連付けて記憶される記憶部7278Bと、電動機運転条件S
I(t
1)、交流電力運転条件S
C(t
1)と関連付けて記憶部7278Bに記憶されているインバータ電力推定値P
I(t
1)と、運転条件S
I(t
1)、S
C(t
1)と同一運転条件において演算部7276Bにより演算されるインバータ電力推定値P
I(t
1)との比J
Iに基づいて、電流検出器34,35,36の検出ゲインの平均値G
IMEAN(t)を計算する演算部7279Bと、J
I、フィルタ723U~723Wの出力F
U,F
V,F
W、フィルタ726Cの出力K
Iおよびフィルタ726の出力H
Iに基づいて、電流検出器34,35,36の異常度合いの絶対量を表す絶対異常度の推定値A
U2(t),A
V2(t),A
W2(t)をそれぞれ計算する演算部7279B,7280Bと、をさらに備える。異常判断部727は、絶対異常度の推定値A
U2(t),A
V2(t),A
W2(t)に基づいて電流検出器34,35,36の異常を判断する。
【0312】
PIは、電流検出器34,35,36の検出ゲインの平均値に比例する量である。そのため、電流検出器34,35,36が正常な場合のPI(t1)を予め記憶させておき、PI(t1),PI(t1)の電動機運転条件と等しい運転条件の計算値PI(t)を用いることで、絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)を算出することができる。そのため、第2の実施の形態と同様に、1つまたは複数の電流検出器が異常になった場合においても、絶対異常度の推定値AU2,AV2,AW2を高精度に計算でき、算出された推定値AU2,AV2,AW2を用いることで電流検出器34,35,36の異常を精度良く判断することができる。
【0313】
なお、
図39に示す構成では、交流電源1と電力変換装置104との間にも電流検出器26,27,28が設けられており、コンバータ側異常判断器71はインバータ側異常判断器72と同様の構成及び機能を有している。そして、コンバータ側異常判断器71が備える記憶部7179Bには、電流検出器26,27,28が正常な場合におけるコンバータ電力の推定値が、交流電源1および電動機4の少なくとも一方の運転条件と関連付けて記憶されている。そのため、コンバータ側の構成に関しても、上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0314】
(C16)さらに、フィルタ723U~723Wの出力FU,FV,FW、フィルタ726Cの出力KIおよびフィルタ726の出力HIに基づいて、電流検出器34,35,36のそれぞれの異常度合いを表し、かつ、複数の相に関しての総和が常にゼロとなるように設定される規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0をそれぞれ計算する演算部7275を備え、演算部7279B,7280Bは、JIおよび演算部7275で計算される規格化異常度計算値AU0C0,AV0C0,AW0C0に基づいて、絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)を計算するようにしても良い。JIは、正常な場合を基準とした現在(時刻t)の検出ゲインの平均値の変化度合いを表している。
【0315】
(C17)なお、電力変換装置104は、第5の実施の形態による電力変換装置103と同様に、異常判断部727が電流検出器34,35,36の異常を判断した場合に、電流検出器34,35,36の絶対異常度の推定値AU2(t),AV2(t),AW2(t)と電流検出器34,35,36の電流検出値IU,IV,IWとに基づいて、電流検出器34,35,36が正常であると仮定した場合の電流検出値(すなわち、推定値IUH,IVH,IWH)をそれぞれ推定するインバータ側出力推定器75をさらに備え、電流検出器34,35,36の電流検出値IU,IV,IWに代えて、インバータ側出力推定器75で推定した推定値IUH,IVH,IWHに基づいて、運転動作を継続しても良い。
【0316】
その結果、電流検出器34,35,36の内の複数に異常が生じた場合でも、推定値IUH,IVH,IWHを使用することで、異常がある電流検出器を交換せずに電力変換装置104を使用することが可能となる。例えば、次の定期点検時までの所定期間、電力変換装置を継続して運転させることができる。なお、交流電源1が接続されるコンバータ側においても同様の構成とすることができ、同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0317】
1…交流電源、
2,2B…コンバータユニット、
3,3B…インバータユニット、
4…電動機、
5…コンバータ制御装置、
6…インバータ制御装置、
7…速度検出器、
26~28,34~36…電流検出器、
21R~21T,21BR~21BT…コンバータ電力変換部、
31U~31W…インバータ電力変換部、
34B,35B,36B…シャント抵抗、
71,71D…コンバータ側異常判断器、
72,72D…インバータ側異常判断器、
72B…異常判断器、
73…表示器、
74…コンバータ側出力推定器、
75…インバータ側出力推定器、
100,101,102,103,104…電力変換装置、
711,715,715C,721,725,725C…加算器、
712R~712T,714R~714T,714CR~714CT,722U~722W,724U~724W,724CU~724CW…乗算器、
713R~713T,716,716C,718R~718T,723U~723W,726,726C,728U~728W…フィルタ、
717,727,717D,727D…異常判断部、
719R~719T,729U~729W…加減算器、
7271~7276,7276B,7279,7279B,7280,7280B…演算部、
7277,7277B…運転条件判断部、
7278,7278B…記憶部