(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051760
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】熱交換器などの熱伝導部品を製造するためのアルミニウム-ニッケル合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20230404BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230404BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230404BHJP
【FI】
C22C21/00 N
B22F10/28
B22F1/00 N
C22C21/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132442
(22)【出願日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】21200292
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510294128
【氏名又は名称】エアバス エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】ダービッド シンベック
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA15
4K018BA08
4K018CA44
4K018EA51
4K018KA23
(57)【要約】
【課題】熱交換器など、軽量で高熱伝導性の航空機用部品の積層造形に適しているアルミニウム合金を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミニウム、ニッケル、スカンジウム、および任意に1つ、2つまたはそれ以上のさらなる金属からなる合金に関する。第1のステップでは、本発明によるアルミニウム合金の粉末が、レーザー粉末床溶融結合(L-PBF; Laser Powder Bed Fusion)プロセスにおけるレーザー溶融などの積層造形法(AM技術;additive manufacturing)によって製造される。大きな粒子はビルド方向に沿ってエピタキシャル成長することができるため、ビルド方向に沿ったフォノンと電子の移動度が増加する。これにより、より高い熱伝導率を実現することができる。第2のステップでは、250℃から400℃で二次相を析出させることにより、予備的な部品を硬化させて硬化された部品を形成する。熱伝導率の高い3Dプリント軽量部品が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(Al)合金であって、
0.1重量%~5.5重量%の割合のニッケル(Ni)と、
残量のAlと、トータルで0.5重量%未満の不可避的な不純物と、
任意選択的な、0.1重量%~3.0重量%の割合のスカンジウム(Sc)と、
任意選択的な、Scを補完または置換するのに適した少なくとも一つの第1の追加合金元素であって、個々の第1の追加合金元素の個々の割合が2.0重量%を超えず、第1の追加合金元素のトータルの割合が3.0重量%を超えないものと、
任意選択的な、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、及びコバルト(Co)からなる群より選択される少なくとも一つの第2の追加合金元素であって、個々の第2の追加合金元素の個々の割合が3.0重量%を超えず、好ましくは2.0重量%を超えず、第2の追加合金元素のトータルの割合が3.0重量%を超えないものと、
任意選択的な、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、およびカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも一つの第3の追加合金元素であって、個々の第3の追加の合金元素の個々の割合が2.0重量%を超えず、第3の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えないものと、からなるアルミニウム(Al)合金。
【請求項2】
Niの割合が、0.3重量%~5.5重量%、より好ましくは0.5重量%~5.5重量%、より好ましくは0.6重量%~5.5重量%、より好ましくは1.0重量%~5.5重量%、より好ましくは2.0重量%超で5.5重量%まで、より好ましくは2.1重量%~5.5重量%、より好ましくは2.5重量%~5.5重量%、より好ましくは2.5重量%超で5.5重量%まで、より好ましくは2.6重量%~5.5重量%、より好ましくは2.6重量%~5.0重量%、より好ましくは2.6重量%~4.0重量%である、請求項1に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項3】
Scの割合が、0.1重量%~1.5重量%、より好ましくは0.1重量%~1.0重量%、より好ましくは0.1重量%~0.8重量%、より好ましくは0.1重量%~0.7重量%、より好ましくは0.1重量%~0.60重量%、より好ましくは0.1重量%~0.55重量%未満、より好ましくは0.1重量%~0.50重量%である、請求項1または2に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項4】
合金がAl、Ni、及びScからなり、
Niの割合が0.3重量%~5.5重量%であり、Scの割合が0.1重量%~1.5重量%の割合を有し、
好ましくは、Niの割合が0.6重量%~5.5重量%であって、Scの割合が0.1重量%~0.7重量%であり、より好ましくは、Niの割合が1.0重量%~5.5重量%であって、Scの割合が0.1重量%~0.7重量%であり、より好ましくは、Niの割合が2.0重量%よりも大きく5.5重量%までであって、Scの割合が0.1重量%~0.7重量%である、請求項2または3に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項5】
第1の追加合金元素が、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、及びエルビウム(Er)からなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項6】
個々の第1の追加合金元素の個々の割合が、0.1重量%~1.0重量%、より好ましくは0.1重量%~0.7重量%、より好ましくは0.1重量%~0.60重量%、より好ましくは0.1重量%~0.55重量%、より好ましくは0.1重量%~0.50重量%である、請求項1~5のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項7】
Zrが選択され、Zrの個々の割合が0.3重量%未満である、請求項5または6に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項8】
Zr、Ti、Mg、及び/またはCaを含まない、請求項1~7のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項9】
Al、Ni、Sc、及びCaからなり、Caの割合が0.5重量%~5重量%であるか、または、
Al、Ni、Sc、及びCrからなり、Crの割合が、0.2重量%~3重量%、好ましくは0.5重量%~2.7重量%であるか、または、
Al、Ni、Sc、及びZrからなり、Zrの割合が、0.1重量%~1重量%、好ましくは0.1重量%~0.5重量%、より好ましくは0.1重量%~0.2重量%であり、または、
Al、Ni、Sc、Zr、及びCaからなり、Zrの割合が、0.1重量%~0.5重量%、好ましくは0.1重量%~0.2重量であり、Caの割合が0.5重量%~5重量%であり、または、
Al、Ni、Sc、Zr、及びCrからなり、Zrの割合が、0.1重量%~0.5重量%、好ましくは0.1重量%~0.2重量%であり、Crの割合が、0.2重量%~3重量%、好ましくは0.5重量%~2.7重量%である、請求項1~7のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項10】
予備的な部品、好ましくは予備熱交換器などの熱伝導予備部品を製造する積層造形法であって、
a)請求項1~9のいずれかに記載の合金で作られた金属粉末を含む粉末層、またはこのような金属粉末からなる粉末層から、粉末床を形成することと、
b)粉末床および/または粉末層を、200℃から金属粉末の融点未満の温度まで、好ましくは200℃から400℃まで全体的に加熱しつつ、粉末層を局部的に溶融させた直後に固化が行われることと、
c)予備的な部品が仕上げられていない場合、前の粉末層の上に別の粉末層を追加し、予備的な部品が仕上げられまでb)およびc)のステップを繰り返すことと、を含む積層造形法。
【請求項11】
前記粉末床が、エピタキシャル成長を可能にする格子定数を有する単結晶材料で作られたビルドプレートを含み、ステップa)において、第1の粉末層が前記ビルドプレート上に堆積される、請求項10に記載の積層造形法。
【請求項12】
前記ビルドプレートは、請求項1~9のいずれかに記載の合金から作られる、請求項11に記載の積層造形法。
【請求項13】
ステップb)において、前記粉末床を全体的に加熱することは、前記ビルドプレートを加熱することによって行われる、請求項10~11に記載の積層造形法。
【請求項14】
d)予備的な部品を仕上げた後、予備的な部品を200℃から450℃、好ましくは210℃から300℃、より好ましくは225℃から275℃の温度に加熱して、析出硬化により、予備的な部品から硬化された部品へと変換されることをさらに含む、請求項10~13のいずれかに記載の積層造形法。
【請求項15】
好ましくは航空機用の熱伝導部品または熱交換器であって、
前記熱伝導部品または熱交換器は、請求項1~8のいずれかに記載の合金から作られる部分を含むか、または、
前記熱伝導部品または熱交換器は、請求項9~13のいずれかに記載の積層造形法によって得ることができる、
熱伝導部品または熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金に関する。本発明は、さらに、アルミニウム合金を用いる積層造形(AM技術;additive manufacturing)の方法、及び、製造された部品(もしくは部分)、好ましくは航空機用の熱交換器などの熱伝導部品(もしくは熱伝導部分)に関する。
【0002】
本開示を通じて、「重量%」という表現は「重量パーセント」を意味することに留意されたい。
【背景技術】
【0003】
DE 10 2007 018 123 B4は、ラピッドプロトタイピング法に適したアルミニウム-スカンジウム(AlSc)合金を開示している。スカンジウムの質量比率は0.4重量%以上である。
【0004】
EP 2 646 587 B1は、アルミニウム-スカンジウム-カルシウム(AlScCa)合金を開示しており、これは、低密度による軽量構造と、改善された引張強度とを組み合わせることができる。
【0005】
ドイツ特許出願 10 2020 131 823.5は、出願日に未公開であり、ヨーロッパ特許条約(EPC)54条(2)または(3)によると先行技術を構成するものでないが、アルミニウム-スカンジウム-チタン(AlScTi)合金を開示している。この合金は、レーザー粉末床溶融結合(L-PBF; Laser Powder Bed Fusion)などの積層造形法で示されるように、急速な加熱および冷却のために改良された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、改善された熱特性および/または強度特性を有する改善された合金を提供することである。
【0007】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム(Al)合金であって、
0.1重量%から5.5重量%の割合のニッケル(Ni)と、
残量のAlと、トータルで0.5重量%未満の不可避的な不純物と、
任意選択的な、0.1重量%から3.0重量%の割合のスカンジウム(Sc)と、
任意選択的な、Scを補完または置換するのに適した少なくとも一つの第1の追加合金元素であって、個々の第1の追加合金元素の個々の割合が2.0重量%を超えず、第1の追加合金元素のトータルの割合が3.0重量%を超えないものと、
任意選択的な、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、及びコバルト(Co)からなる群より選択される少なくとも一つの第2の追加合金元素であって、個々の第2の追加合金元素の個々の割合が3.0重量%を超えず、好ましくは2.0重量%を超えず、第2の追加合金元素のトータルの割合が3.0重量%を超えないものと、
任意選択的な、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、およびカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも一つの第3の追加合金元素であって、個々の第3の追加の合金元素の個々の割合が2.0重量%を超えず、第3の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えないものと、からなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましくは、Niの割合が、0.3重量%~5.5重量%、より好ましくは0.5重量%~5.5重量%、より好ましくは0.6重量%~5.5重量%、より好ましくは1.0重量%~5.5重量%、より好ましくは1.0重量%~5.5重量%、より好ましくは2.0重量%超~5.5重量%、より好ましくは2.1重量%~5.5重量%、より好ましくは2.5重量%~5.5重量%、より好ましくは2.5重量%超~5.5重量%、より好ましくは2.6重量%~5.5重量%、より好ましくは2.6重量%~5.0重量%、より好ましくは2.6重量%~4.0重量%である。
【0010】
好ましくは、Scの割合が、0.1重量%~1.5重量%、より好ましくは0.1重量%~1.0重量%、より好ましくは0.1重量%~0.8重量%、より好ましくは0.1重量%~0.7重量%、より好ましくは0.1重量%~0.7重量%、0.1重量%~0.60重量%、より好ましくは0.1重量%~0.55重量%未満、より好ましくは0.1重量%~0.50重量%である。
【0011】
好ましくは、第1の追加合金元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、及びエルビウム(Er)からなる群から選択される。
【0012】
好ましくは、個々の第1の追加合金元素の個々の割合は、0.1重量%から1.0重量%、より好ましくは0.1重量%から0.7重量%、より好ましくは0.1重量%から0.60重量%、より好ましくは0.1~0.55重量%、より好ましくは0.1重量%~0.50重量%である。
【0013】
好ましくは、Zrが選択され、Zrの個々の割合が、0.3重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満である。
【0014】
好ましくは、合金がZrを含まない。好ましくは、合金がTiを含まない。好ましくは、合金がMgを含まない。好ましくは、合金がCaを含まない。
【0015】
好ましくは、合金は、Al、Ni、Sc、及びCaからなり、Caの割合が0.5重量%~5重量%である。
【0016】
好ましくは、合金は、Al、Ni、Sc、及びCrからなり、Crの割合が、0.2重量%~3重量%、好ましくは0.5重量%~2.7重量%である。
【0017】
好ましくは、合金は、Al、Ni、Sc、及びZrからなり、Zrの割合が、0.1重量%~0.5重量%、好ましくは0.1重量%~0.2重量%である。
【0018】
好ましくは、合金は、Al、Ni、Sc、Zr、およびCaからなり、Zrの割合が、0.1重量%~0.5重量%、好ましくは0.1重量%~0.2重量%であり、Caの割合が、0.5重量%~5重量%である。
【0019】
好ましくは、合金は、Al、Ni、Sc、Zr、およびCrからなり、Zrの割合が、0.1重量%から0.5重量%、好ましくは0.1重量%~0.2重量%であり、Crの割合が、0.2重量%~3重量%、好ましくは0.5重量%~2.7重量%である。
【0020】
本発明は、予備的な部品、好ましくは予備熱交換器などの熱伝導予備部品を製造する積層造形法を提供し、この方法は、下記a)~c)のステップを含む。
a)上記の好ましい合金から作られた金属粉末を含むか、またはこの金属粉末からなる粉末層から、粉末層を形成する。
b)粉末床および/または粉末層を200℃から金属粉末の融点未満まで、好ましくは200℃~400℃までの温度に全体的に加熱しつつ、粉末層を局部的に溶融させ、その直後に固化が行われる。
c)予備的な部品が仕上げられていない場合、前の粉末層の上に別の粉末層を追加し、予備的な部品が仕上げられるまでステップb)およびc)を繰り返す。
【0021】
好ましくは、粉末床は、エピタキシャル成長を可能にする格子定数を有する単結晶材料で作られたビルドプレート(build plate)を含み、ステップa)において、第1の粉末層がビルドプレート上に堆積される。好ましくは、単結晶材料がアルミニウム合金である。
【0022】
好ましくは、ビルドプレートが、上述の好ましい合金から作られる。好ましくは、ビルドプレートが単結晶である。好ましくは、単結晶は、その<100>方向が、粉末層が構築される方向と平行になるように配向される。
【0023】
好ましくは、ステップb)において、粉体床の全体的な加熱は、ビルドプレートを加熱することによって行われる。
【0024】
好ましくは、上記方法は、さらに以下を含む:
d)予備的な部品を仕上げた後、予備的な部品を200℃から450℃、好ましくは210℃から300℃、より好ましくは225℃から275℃の温度に加熱して、析出硬化により、予備的な部品から硬化された部品へと変換される。
【0025】
本発明は、好ましくは航空機用の熱伝導部品または熱交換器を提供する。ここでの熱伝導部品または熱交換器は、上記の好ましい合金から作られる部分を含むか、または、上記の好ましい方法によって取得可能なものである。
【0026】
本発明は、熱交換器に適用する際における改善された熱特性に特に注目した場合であって、同時に十分な強度レベルでの熱交換器に適用する際における場合に、積層造形法の分野における、特定の新しく開発されたAl合金(Al-xNi-ySc;ここで、xおよびyは、それぞれの合金元素の重量%を規定する)についての、改良された製造技術を扱う。特には、ゼロエミッション航空機やアーバン・エア・モビリティ(Urban air mobility)機などの将来のモビリティシナリオでは、合金と製造技術のそれぞれにより、熱用途向けの軽量構造を実現できる。
【0027】
現在、積層造形法(AM技術;additive manufacturing)は、エピタキシャル結晶粒成長の抑制を目的とした製造技術である。これは、非エピタキシャル微細構造から進化する等方性材料特性を可能にするためのものである。一方、基本的に結晶粒界密度の低い準単結晶材料を形成する粗い結晶粒は、より優れた熱的特性のために有利である。結晶粒界は通常、いわゆるフォノン(量子力学的アプローチで準粒子(quasi-particles)として記述される格子振動)の障害となる。本発明は、準粒子に対するこれらの障害を減らし、材料の熱伝導率を改善することを目的としている。結晶粒界に隣接する箇所では、固溶体の硬化とインコヒーレントな析出物が、フォノンと電子の散乱を引き起こし、それによってそれらの移動が妨げられる可能性がある。
【0028】
結果として、この目的の矛盾を解決できる新しい合金が必要とされている。本開示の目的は、準単結晶部分の出現を可能にし、それぞれの利点を積層造形法(AM)プロセスの設計自由度と組み合わせることによって、例えば熱交換器用途のために、少なくとも一方向に沿ってエピタキシャル結晶粒成長を促進することである。
【0029】
熱交換器の材料には、高い熱伝導率が重要であり、特には、将来のモビリティコンセプトに関連する高性能熱交換器では重要である。この材料特性は、材料の微細構造の影響を強く受ける可能性があり、たとえば銅で作られた通常の構造と比較して、最終的に、より軽量な構造が可能になる。
【0030】
本願で想定されるレーザー粉末床溶融結合(L-PBF; Laser Powder Bed Fusion)などの積層造形(AM技術;additive manufacturing)プロセスは、Si単結晶を製造するためのゾーン溶融技術と、ある程度、比較可能・同等である。好ましくは、使用される基板プレートは、<100>方向などの有利な結晶成長方向を刺激するための、単結晶Al合金である。
【0031】
適合されたAl合金は、結晶粒(grain)の微細化を抑制するために、好ましくは、凝固中に高い組成的過冷却(constitutional supercooling)を示さない合金元素のみを含む(例えば、Al-1Ni-0.7Sc)。このことは、製造方向に沿って並外れた結晶粒成長を促進するとともに、準単結晶微細構造を持つ高強度合金を可能にする。
【0032】
全体的な加熱により、方向性凝固が可能になり、ビルド方向に沿った細長い準結晶粒の生成がサポートされる。通常の観念とは対照的に、結晶粒成長制限因子(GRF)は反対の方法で使用される。換言すれば、本発明によれば、結晶粒を特定の方向に沿ってエピタキシャル成長させることが好ましい。したがって、低いGRFを有する元素が好ましい。結晶粒微細化剤として機能する元素は、他の有利な特性に必要な範囲でのみ使用され、高すぎる結晶粒微細化の程度は回避される。
【0033】
さらに、固溶体の硬化(hardening)に起因して合金の強度に寄与する可能性のある元素は避けるべきである。
【0034】
Al3NiやAl3Scなどの、一次的な、ナノサイズのコヒーレント析出物の析出は、その結晶粒微細化特性のために避ける必要がある。一次析出物は、初期加熱後の凝固中に現れるものである。
【0035】
Al3NiまたはAl3Scなどの、二次的な、ナノサイズのコヒーレント析出物の析出は、好ましい。二次析出物は、熱処理中に発生するものである。
【0036】
一般に、Al-Ni合金は、低GRFを示し、溶接層の全体でエピタキシャル結晶粒成長を引き起こすか、少なくとも可能にする。Al3Niのコヒーレントな析出物の形成に起因して、強度の増加が得られうるが、電子またはフォノンの移動への影響は比較的小さい。また、固溶性もほとんどない。凝固温度範囲が小さいと、高温割れを回避するのに有利である。したがって、この合金は、積層造形(AM)に特に適している。積層造形(AM)は、このプロセスに関連して加熱速度と冷却速度が大きい。
【0037】
ナノサイズの析出物の析出硬化により合金強度を高めるために、Scまたはその補完物または代替物を使用することが好ましい。
【実施例0038】
A)アルミニウム合金の製造方法
<実施例1: 粉末アルミニウム合金の製造>
不活性のるつぼの中にて、0.5重量%のNiと99.5重量%のAlが溶融される。溶融物は、さらに加工処理の前に、均質化処理がなされうる。
【0039】
溶融物の第1の部分を別の不活性のるつぼの中に注ぎ、この中で、冷却して固化させる。冷却中に、一次的なAl3Ni相が析出する。得られた材料は、粉砕されて、粉末床(パウダーベッド;powder bed)における選択的レーザー溶融に使用可能な粉末とされる。
【0040】
溶融物の第2の部分が、溶融紡糸プロセスにて、水で冷却された回転する銅ロールに注がれる。溶融物は、1,000,000K/sの速度で冷却され、ストリップを形成する。このリボンは、短いフレークにカットされる。
【0041】
いずれかまたは両方の冷却プロセスから得られた合金材料は、粉末床における選択的レーザー溶融に使用可能な粉末に粉砕される。
【0042】
<実施例2: ニッケル含量の異なる粉末アルミニウム合金の製造>
Niの割合を、それぞれ0.6重量%、1.0重量%、2.1重量%、2.6重量%、3.0重量%、4.0重量%、5.0重量%、及び5.45重量%に増加させ、これに応じてAlの割合を減少させつつ、上記のプロセスを繰り返す。なお、Niの割合は、好ましくは、5.5重量%に近づけつつも5.5重量%未満であるように増加させるのであり、これに応じてAlの割合が減少する。
【0043】
<実施例3: 添加元素としてスカンジウムを含む粉末アルミニウム合金の製造>
るつぼに、それぞれ0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、1.0重量%、1.2重量%、及び1.5重量%の追加のScを加えて、実施例1または2のプロセスを繰り返す。この際、Niは一定に保たれ、それに応じてAlの割合が減少する。
【0044】
<実施例4: スカンジウムを補完または置換する追加元素を含む粉末アルミニウム合金の製造>
るつぼに、それぞれ0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、及び0.5重量%の追加のZrを加えて、実施例1、2、または3のプロセスを繰り返す。この際、Niの含量は一定に保たれ、適用可能ならばScの含量も一定に保たれるのであり、Zrの増加に応じてAlの割合が減少する。通常、Zrの代わりに、またはZrに加えて、Tiを追加可能である。しかしながら、その結晶粒微細化の特性のゆえに、合金はTiを含まないことが好ましい。
【0045】
<実施例5: 追加元素としてマグネシウムおよび/またはカルシウムを含む粉末アルミニウム合金の製造>
るつぼに、それぞれ0.5重量%、1.0重量%、2.4重量%、及び5.0重量%の追加のCaまたはMgを加えて、実施例1、2、3、または4のプロセスを繰り返す。この際、Niの含量は一定に保たれ、適用可能ならばSc及びZrの含量も一定に保たれるのであり、CaまたはMgの増加に応じてAlの割合が減少する。
【0046】
<実施例6: 種々の金属を追加した粉末アルミニウム合金の製造>
るつぼに、それぞれ0.5重量%、1.4重量%、1.7重量%、及び2.0重量%の、追加のV、Nb、Cr、Mo、Si、Fe、Co、Ta、Hf、Y、またはErを加えて、実施例1、2、3、4、または5のプロセスを繰り返す。Niの含量は一定に保たれ、適用可能ならばScおよびZrの含量も一定に保たれるのであり、それに応じてAlの割合が減少する。
【0047】
B)熱伝導部品等の部品の製造方法
いずれの場合も、上記の実施例1~6の1つからのアルミニウム合金粉末が、選択的レーザー溶融による積層造形(AM技術;additive manufacturing)のためのシステムに加えられ、粉末床を形成する。粉末床は、上記の実施例1~6の1つによるアルミニウム合金またはアルミニウムの単結晶で作られたビルドプレート(build plate)を含む。単結晶は、その<100>方向が層ごとに形成されるように配向される。
【0048】
粉末床が、具体的にはビルドプレートが、200℃から金属粉末の融点未満の温度に、好ましくは200℃から400℃までの温度に加熱される。
【0049】
レーザービームは、デジタル情報に従って粉末床上を移動する。この際、ビルドプレートを含む粉末床が段階的に下降し、新しいパウダー層が適用される。デジタル情報は、熱交換器またはその他の熱伝導部品を描き出すのでありうる。
【0050】
合金は、ビルド方向(build direction; 積層方向)、つまり粉末層に対して垂直に整列した細長い準結晶粒を形成する。スポット状に溶融したアルミニウム合金の冷却は非常に速いため、スカンジウム、ジルコニウム、および/またはチタンは、完全に、または、実質的に、または過半が、固溶体中にて凍結される。このことは、アルミニウム合金の他の組成に関係なく、また、粉末が、通常の冷却で生成されるか、または急速冷却で、たとえば1,000,000K/秒の速度で生成されるかどうかに関係なく行われる。スキャニングプロセスの完了後、この予備的な部品(もしくは部分)が粉末床から取り除かれる。
【0051】
予備的な部品(もしくは部分)は、200℃から450℃の範囲内、好ましくは210℃から300℃の範囲内、より好ましくは225℃から275℃の範囲内といった温度に加熱され、この温度にて、種々のAl3X相(X=Ni、Sc、Zr、または、いずれかの、個々の元素の非化学量論的混合物)の析出が生ずる。これらの相の析出は、部品(もしくは部分)の強度を高めるが、電子とフォノンの移動には、比較的小さい影響のみ与える。
【0052】
本発明は、アルミニウム、ニッケル、及びスカンジウムからなるか、これらの金属と、任意選択的な1つ、2つまたはそれ以上のさらなる金属とからなる合金に関する。このアルミニウム合金は、熱交換器など、軽量で高熱伝導性の航空機用コンポーネントを積層造形(AM技術;additive manufacturing)で製造するのに適している。第1のステップでは、本発明によるアルミニウム合金の粉末が、レーザー粉末床溶融結合(L-PBF; Laser Powder Bed Fusion)プロセスでのレーザー溶融といった、積層造形法によって製造される。大きなグレイン(結晶粒)は、ビルド方向に沿ってエピタキシャル成長することができるため、ビルド方向に沿ったフォノンと電子の移動度が増加する。これに伴い、より高い熱伝導率が達成されうる。第2のステップでは、250℃から400℃で二次相を析出させることにより、予備的な部品を硬化させて硬化部品を形成する。熱伝導率の高い3Dプリント軽量部品が得られる。