(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051797
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】フラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路実装基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20230404BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20230404BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20230404BHJP
C22C 13/02 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149630
(22)【出願日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021162028
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】菅 雄作
(72)【発明者】
【氏名】丸山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智紀
(57)【要約】
【課題】 印刷後のソルダペースト内及びフラックス組成物内に気泡が存在し難いフラックス組成物及びソルダペースト、並びにこれを用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路実装基板の提供。
【解決手段】 ベース樹脂(A)と、チクソ剤(B)と、活性剤(C)と、溶剤(D)とを含むフラックス組成物であって、
前記チクソ剤(B)は、水酸基を有するチクソ剤(B-1)をフラックス組成物全量に対して1.5質量%以上9.5質量%以下と、水酸基を有さないチクソ剤(B-2)をフラックス組成物全量に対して0.2質量%以上5.5質量%以下含むフラックス組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂(A)と、チクソ剤(B)と、活性剤(C)と、溶剤(D)とを含むフラックス組成物であって、
前記チクソ剤(B)は、
水酸基を有するチクソ剤(B-1)をフラックス組成物全量に対して1.5質量%以上9.5質量%以下と、
水酸基を有さないチクソ剤(B-2)をフラックス組成物全量に対して0.2質量%以上5.5質量%以下とを含む、フラックス組成物。
【請求項2】
前記チクソ剤(B-1)として、水酸基を有するビスアマイドを含む、請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記チクソ剤(B-2)として、水酸基を有さないビスアマイドを含む、請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
前記ベース樹脂(A)は、ロジン系樹脂とアクリル樹脂とを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
前記ロジン系樹脂と前記アクリル樹脂との配合比(質量%)は、前記ロジン系樹脂:前記アクリル樹脂で1:1.5~1:3である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金からなる粉末(E)とを含む、ソルダぺースト。
【請求項7】
請求項6に記載のソルダペーストを用いて形成されたはんだ接合部を有する、電子回路実装基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路実装基板に関する。
【背景技術】
【0002】
基板(プリント配線板やシリコンウエハ等)上に形成される電子回路と、電子部品とを接合する接合材料としては、はんだ合金が広く用いられている。
このはんだ合金を用いた接合方法としては、例えば、フラックス組成物とはんだ合金粉末とを混合したソルダペーストを用いる方法や、はんだ合金からなるはんだボールを用いる方法(いわゆる、Ball Grid Array(BGA)接合)が存在する。
【0003】
ソルダペーストを用いる場合も、はんだボールを用いる場合も、一般的には、印刷工程、加熱工程、必要に応じて洗浄工程を経てはんだ接合が行われる。
【0004】
即ち、ソルダペーストを用いる場合は、基板上にソルダペーストを所定のパターンとなるように印刷し(印刷工程)、基板上の所定位置に電子部品を載置し、これを所定の温度にて加熱し(加熱工程)、必要に応じて基板上に形成されたフラックス残渣を洗浄する(洗浄工程)ことにより、はんだ接合が行われる。
またはんだボールを用いる場合は、BGA基板(各電極にはんだボールを有するもの)を用意し、BGA基板を搭載する基板(接合用基板)上に、BGA基板の電極パターンに合わせてフラックスを印刷し(印刷工程)、接合用基板上の所定位置にBGA基板を載置し、これを所定の温度にて加熱し(加熱工程)、必要に応じて接合用基板上に形成されたフラックス残渣を洗浄する(洗浄工程)ことにより、はんだ接合が行われる。
【0005】
ところで、はんだ接合時にはんだ内に発生し残存するボイドは、はんだ接合部の接合不良や亀裂発生の原因となり、はんだ接合部の信頼性に影響を及ぼす。そのため、特に、加熱工程において発生するボイド、即ち、加熱により揮発したフラックス組成物(溶剤及び活性剤)を要因とした気泡の発生を問題とし、これを解決しようとするソルダペーストは多く存在する(特許文献1参照)。
また、加熱工程以外でも、例えば、印刷工程後、特に印刷工程直後の基板上のソルダペースト内やフラックス組成物内には、気泡が存在することがある。この気泡は、ソルダペースト作製時や印刷時にソルダペースト内やフラックス組成物内に取り込まれた空気と推測される。これに対し、電子部品やBGA基板に形成されるはんだバンプ(はんだボール)側にフラックスを塗布するに際し、特殊な構造・印刷方法とすることで、印刷工程でのフラックス内部における気泡発生を抑制し得るフラックス塗布装置が存在している(特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/117041号パンフレット
【特許文献2】特開2009-113104号公報
【特許文献3】特開2002-172460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した気泡は、ソルダペーストやフラックス組成物の印刷形状を変形させる要因となる。そのため、印刷されたソルダペーストやフラックス組成物に気泡が存在する基板は、外観検査にて不合格となる可能性があり、歩留まり率低下の要因となり得る。
また、外観検査にて合格となった場合であっても、気泡が含まれた状態でソルダペーストやフラックス組成物(とはんだボール)を加熱すると、印刷形状不良を要因としたソルダボールやはんだブリッジが発生し易くなる。
しかし、特許文献1に開示されるソルダペーストは、印刷工程後にソルダペースト内やフラックス組成物内に存在する気泡と、その解決手段については、言及も示唆もされていない。
【0008】
また特許文献2及び特許文献3に開示される塗布装置は、特殊な方法、構造を有しており、そのために当該問題を解決できているものである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、印刷後のソルダペースト内及びフラックス組成物内に気泡が存在し難いフラックス組成物及びソルダペースト、並びにこれを用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路実装基板を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフラックス組成物は、ベース樹脂(A)と、チクソ剤(B)と、活性剤(C)と、溶剤(D)とを含み、前記チクソ剤(B)は、水酸基を有するチクソ剤(B-1)をフラックス組成物全量に対して1.5質量%以上9.5質量%以下と、水酸基を有さないチクソ剤(B-2)をフラックス組成物全量に対して0.2質量%以上5.5質量%以下とを含む。
【0011】
本発明のフラックス組成物は、前記チクソ剤(B-1)として、水酸基を有するビスアマイドを含むことが好ましい。
【0012】
本発明のフラックス組成物は、前記チクソ剤(B-2)として、水酸基を有さないビスアマイドを含むことが好ましい。
【0013】
前記ベース樹脂(A)は、ロジン系樹脂とアクリル樹脂とを含むことが好ましい。
【0014】
前記ロジン系樹脂と前記アクリル樹脂との配合比(質量%)は、前記ロジン系樹脂:前記アクリル樹脂で1:1.5~1:3であることが好ましい。
【0015】
本発明のソルダペーストは、上記構成のフラックス組成物と、はんだ合金からなる粉末(E)とを含む。
【0016】
本発明の電子回路実装基板は、上記構成のソルダペーストを用いて形成されたはんだ接合部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフラックス組成物及びソルダペーストは、印刷後のソルダペースト内及びフラックス組成物内に気泡が存在し難い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】基板上に塗布したソルダペーストであって、その内部に気泡が発生している状態を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のフラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路実装基板の一実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0020】
1.フラックス組成物
本実施形態のフラックス組成物は、ベース樹脂(A)と、チクソ剤(B)と、活性剤(C)と、溶剤(D)とを含み、前記チクソ剤(B)は、水酸基を有するチクソ剤(B-1)をフラックス組成物全量に対して1.5質量%以上9.5質量%以下と、水酸基を有さないチクソ剤(B-2)をフラックス組成物全量に対して0.2質量%以上5.5質量%以下とを含む。
【0021】
このような構成である本実施形態のフラックス組成物は、消泡剤等を併用せずとも、印刷後、例えば印刷直後であっても、フラックス組成物内及びソルダペースト内に気泡が存在し難い。即ち、当該フラックス組成物は、フラックス組成物及びソルダペーストの作製時や印刷時において、フラックス組成物内及びソルダペースト内の気泡の発生を抑制することができ、また、印刷時にフラックス組成物内及びソルダペースト内に気泡が発生した場合であっても、気泡が外部に排出され易いため、印刷後のソルダペースト内及びフラックス組成物内に気泡が存在し難い。
そのため、本実施形態のフラックス組成物は、フラックス組成物やソルダペーストの印刷形状の変形を抑制でき、この印刷形状不良を要因としたソルダボールやはんだブリッジの発生を抑制し得る。
【0022】
また、本実施形態のフラックス組成物は、上記気泡の抜け易さと良好な印刷性とを両立させることができる。そのため、当該フラックス組成物及び当該フラックス組成物を含むソルダペーストは、印刷転写性に優れ、転写不良を原因とする印刷形状異常(印刷ツノ立ち)の発生を抑制することができる。
【0023】
ベース樹脂(A)
前記ベース樹脂(A)としては、例えば、ロジン系樹脂、アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
前記前記ベース樹脂(A)としては、ロジン系樹脂、アクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0024】
前記ロジン系樹脂としては、例えば、トール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン類;水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン、ホルミル化ロジン等のロジン系変性樹脂;並びにこれらの誘導体等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0025】
前記アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等の少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0026】
前記ベース樹脂(A)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は30質量%以上70質量%以下であり、40質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0027】
また前記ベース樹脂(A)として、ロジン系樹脂とアクリル樹脂とを併用することが好ましい。ロジン系樹脂とアクリル樹脂とを併用する場合、印刷後のソルダペースト内及びフラックス組成物内に更に気泡が存在し難くなる。
【0028】
前記ベース樹脂(A)として、前記ロジン系樹脂と前記アクリル樹脂とを併用する場合、その配合比(質量%)は、前記ロジン系樹脂:前記アクリル樹脂で1:1.5~1:3であることが好ましい。
【0029】
チクソ剤(B)
本実施形態のフラックス組成物は、チクソ剤(B)として、水酸基を有するチクソ剤(B-1)をフラックス組成物全量に対して1.5質量%以上9.5質量%以下と、水酸基を有さないチクソ剤(B-2)をフラックス組成物全量に対して0.2質量%以上5.5質量%以下とを含む。
【0030】
前記チクソ剤(B-1)としては、水酸基を有するチクソ剤であればよく、水酸基の位置及び水酸基の数は問わない。前記チクソ剤(B-1)としては、例えば、ビスアマイド系チクソ剤等であって、水酸基を有するものが挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0031】
また本実施形態のフラックス組成物は、前記チクソ剤(B-1)として、飽和脂肪酸構造を有する水酸基を有するチクソ剤を含むことが好ましい。
【0032】
また本実施形態のフラックス組成物は、前記チクソ剤(B-1)として、水酸基を有するビスアマイドを含むことが好ましい。当該水酸基を有するビスアマイドとしては、ヒドロキシステアリン酸ビスアマイドが好ましく、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイドが特に好ましい。
前記チクソ剤(B-1)としてエチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイドを含むフラックス組成物は、更に良好な印刷性を有するため、印刷転写性により優れ、転写不良を原因とする印刷形状異常の発生を更に抑制することができる。
【0033】
前記チクソ剤(B-2)としては、水酸基を有さないチクソ剤であればよい。前記チクソ剤(B-2)としては、例えば、ビスアマイド系チクソ剤等であって、水酸基を有さないものが挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0034】
また本実施形態のフラックス組成物は、前記チクソ剤(B-2)として、飽和脂肪酸構造を有する水酸基を有さないチクソ剤を含むことが好ましい。
【0035】
また本実施形態のフラックス組成物は、前記チクソ剤(B-2)として、水酸基を有さないビスアマイドを含むことが好ましい。当該水酸基を有さないビスアマイドとしては、ステアリン酸ビスアマイドが好ましく、エチレンビスステアリン酸アマイドが特に好ましい。
前記チクソ剤(B-2)としてエチレンビスステアリン酸アマイドを含むフラックス組成物は、更に良好な印刷性を有するため、印刷転写性により優れ、転写不良を原因とする印刷形状異常の発生を更に抑制することができる。
【0036】
また、前記水酸基を有するチクソ剤(B-1)としてエチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイドを含み、前記水酸基を有さないチクソ剤(B-2)としてエチレンビスステアリン酸アマイドを含むフラックス組成物は、特に良好な印刷性を有するため、印刷転写性により優れ、転写不良を原因とする印刷形状異常の発生を更に抑制することができる。
【0037】
前記チクソ剤(B)全体の配合量は、フラックス組成物全量に対して1.7質量%以上15質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は2.5質量%以上10.5質量%以下であり、3.5質量%以上8質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
前記チクソ剤(B-1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して2質量%以上7質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は3質量%以上6質量%以下である。
前記チクソ剤(B-1)の配合量を上記範囲とすることで、フラックス組成物に更に良好な印刷転写性を付与することができ、転写不良を原因とする印刷形状異常の発生を更に抑制することができる。
【0039】
前記チクソ剤(B-2)の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は0.5質量%以上2質量%以下である。
前記チクソ剤(B-2)の配合量を上記範囲とすることで、フラックス組成物に更に良好な印刷転写性を付与することができ、転写不良を原因とする印刷形状異常の発生を更に抑制することができる。
【0040】
活性剤(C)
前記活性剤(C)としては、例えば、有機酸、ハロゲン系活性剤、アミン系活性剤が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0041】
有機酸としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びその他の有機酸が挙げられる。
【0042】
モノカルボン酸としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、グリコール酸等が挙げられる。
【0043】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0044】
その他の有機酸としては、例えば、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、ピコリン酸、アントラニル酸等が挙げられる。
【0045】
ハロゲン系活性剤としては、例えば、ブロモ系活性剤、ヨウ素系活性剤等が挙げられる。これらの活性剤は、塩素化物、臭素化物、フッ化物のように塩素、臭素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物であっても、2つ以上の異なるハロゲン原子が共有結合で結合した化合物であってもよい。
【0046】
アミン系活性剤としては、例えば、有機アミン、有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸塩、有機アミン塩等が挙げられる。
【0047】
前記活性剤(C)の配合量は、フラックス組成物全量に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は1質量%以上15質量%以下であり、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
溶剤(D)
前記溶剤(D)としては、例えば、アルコール系、エタノール系、アセトン系、トルエン系、キシレン系、酢酸エチル系、エチルセロソルブ系、ブチルセロソルブ系、グリコールエーテル系、エステル系等の溶剤が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0049】
前記溶剤(D)の配合量は、フラックス組成物全量に対して20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は25質量%以上65質量%以下であり、30質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0050】
本実施形態のフラックス組成物には、更に酸化防止剤を配合することができる。
前記酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。
前記酸化防止剤はこれらに限定されるものではなく、またその配合量は特に限定されるものではない。その一般的な配合量は、フラックス組成物全量に対して0.5質量%から5質量%程度である。
【0051】
本実施形態のフラックス組成物には、更につや消し剤等の添加剤を加えてもよい。前記添加剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して10質量%以下であることが好ましく、更に好ましい配合量は5質量%以下である。
【0052】
2.ソルダペースト
本実施形態のソルダペーストは、上記フラックス組成物と、はんだ合金からなる合金粉末(E)とを公知の方法にて混合して作製し得る。
【0053】
前記はんだ合金からなる合金粉末(E)に使用されるはんだ合金としては、例えばSn、Ag、Cu、Bi、Zn、In、Ga、Sb、Au、Pd、Ge、Ni、Cr、Al、P、In等を複数組合せたものが挙げられる。
【0054】
前記はんだ合金からなる合金粉末の配合量は、ソルダペースト全量に対して80質量%以上94質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は84質量%以上92質量%以下であり、特に好ましいその配合量は88質量%以上90質量%以下である。
【0055】
本実施形態のソルダペーストは、上記フラックス組成物を用いることから、消泡剤等を併用せずとも、印刷後、例えば印刷直後であっても、ソルダペースト内に気泡が存在し難い。そのため、本実施形態のソルダペーストは、ソルダペーストの印刷形状の変形を抑制でき、この印刷形状不良を要因としたソルダボールやはんだブリッジの発生を抑制し得る。
また、上記フラックス組成物を用いる本実施形態のソルダペーストは、印刷転写性に優れ、転写不良を原因とする印刷形状異常の発生を抑制することができる。
よって、本実施形態のソルダペーストは、信頼性の高いはんだ接合部を形成することができる。
【0056】
3.電子回路実装基板
本実施形態の電子回路実装基板は、上記ソルダペーストや、上記フラックス組成物とはんだボールとを使用して形成されるはんだ接合部を有する。なお、本明細書において、はんだ接合部とは、例えば、基板上の電極と電子部品とを電気的に接合するもののような、被接合材同士を接合するものを意味する。
【0057】
上記ソルダペーストを用いてはんだ接合部を形成する場合は、例えば、基板上に形成された電極上にソルダペーストを所定のパターンとなるように印刷し、基板上の所定の位置に電子部品を載置し、これを所定の温度にて加熱することにより行われる。これにより、上記ソルダペーストを用いて形成されたはんだ接合部を有する電子回路実装基板が作製される。
なお必要に応じて、加熱後、基板上に形成されたフラックス残渣を洗浄する。
【0058】
また上記フラックス組成物とはんだボールとを用いてはんだ接合部を形成する場合は、例えば、BGA基板(各電極にはんだボールを有するもの)を用意し、BGA基板を搭載する基板(接合用基板)上に、BGA基板の電極パターンに合わせてフラックス組成物を印刷し、接合用基板上の所定の位置にBGA基板を載置し、これを所定の温度にて加熱することにより行われる。これにより、上記フラックス組成物とはんだボールとを用いて形成されたはんだ接合部を有する電子回路実装基板が作製される。
なお必要に応じて、加熱後、基板上に形成されたフラックス残渣を洗浄する。
また上記ソルダペーストを用いてはんだボールを形成してもよく、更には、BGA基板と接合用基板との接合に上記ソルダペーストを用いることもできる。
【0059】
このようなはんだ接合部は、上記ソルダペーストを用いて形成される。従って、消泡剤等を併用せずとも、印刷後、例えば印刷直後であっても、ソルダペースト内に気泡が存在し難い。そのため、はんだ接合部の形成において、ソルダペーストの印刷形状の変形を要因としたソルダボールやはんだブリッジの発生を抑制し得る。これは、はんだボールと上記フラックス組成物を用いて形成されたはんだ接合部においても同様である。
また、ソルダペーストを用いて形成される本実施形態のはんだ接合部は、ソルダペーストの転写不良を原因とする印刷形状異常が発生し難い。
このように、本実施形態のはんだ接合部は、高い信頼性を有する。
【実施例0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
アクリル樹脂の合成
撹拌機、還流管及び窒素導入管とを備えた500mlの4つ口フラスコに、ジエチルヘキシルグリコール200gを仕込み、これを110℃に加熱した。
また、メタクリル酸10質量%、2-エチルヘキシルメタクリレート51質量%及びラウリルアクリレート39質量%を混合したもの300gに、アゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(製品名:V-601、和光純薬(株)製)を0.2質量%から5質量%加えてこれを溶解させ、溶液を作製した。
次いで、前記4つ口フラスコに当該溶液を1.5時間かけて滴下し、当該4つ口フラスコ内にある成分を110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、アクリル樹脂を得た。なお、アクリル樹脂の重量平均分子量は7,800Mw、酸価は40mgKOH/g、ガラス転移温度は-47℃であった。
【0062】
フラックス組成物の作製
表1及び表2に示す組成及び配合にて各成分を混練し、実施例及び比較例に係る各フラックス組成物を作製した。なお、表1及び表2のうち、組成を表すものに係る数値の単位は、特に断り書きがない限り質量部である。
【0063】
ソルダペーストの作製
実施例1、比較例1及び2:各フラックス組成物11.0質量%とSn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(粉末粒径20μmから38μm)89.0質量%とを混合し、各ソルダペーストを得た。
実施例2から16、比較例3から9:各フラックス組成物11.0質量%とSn-3Ag-0.5Cu-5Sb-5In-0.02Niはんだ合金粉末(粉末粒径20μmから38μm)89.0質量%とを混合し、各ソルダペーストを得た。
【0064】
【0065】
【0066】
※1 水添酸変性ロジン 荒川化学工業(株)製
※2 エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド 三菱ケミカル(株)製
※3 水酸基を有するビスアマイド系チクソ剤 エレメンティス社製
※4 ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド 三菱ケミカル(株)製
※5 メチレンビスステアリン酸アマイド 三菱ケミカル(株)製
※6 エチレンビスステアリン酸アマイド 三菱ケミカル(株)製
※7 ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート] 白石カルシウム(株)製
【0067】
(1)気泡確認試験
実施例及び比較例毎に、以下の手順にて、気泡確認試験を行った。
以下の用具を用意した。
・プリント配線板(FR-4基板、145mm×105mm(0.8mmピッチ、80ピン)のCuランド部に前記ピンに対応するCuランド(3.0mm×0.45mm)を有する)
・上記Cuランド部に対応するパターンを有するメタルマスク(厚さ:150μm)
・メタルスキージ
前記メタルマスク及びメタルスキージを用い、前記プリント配線板上にソルダペーストを印刷した。印刷には、印刷機(製品名:SP60P-L、パナソニック(株)製)を用いた。なお印刷条件は、スキージ速度:80mm/秒、版離れ速度:5.0mm/秒に設定した。
印刷直後のプリント配線板の表面を、顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープ VHX-900、KEYENCE製)を用いて観察した。そして、当該プリント配線板上の各電極(ピン)に印刷されたソルダペースト内に
図1(丸で囲った領域)で示すような気泡が存在するか否かを確認し、以下の基準に基づき評価した。評価ピン数は、80ピンである。その結果を表3及び表4に示す。
○:気泡が存在しない
△:気泡の存在するピンの数が1以上10以下である
×:気泡の存在するピンの数が11以上である
【0068】
(2)印刷形状確認試験
実施例及び比較例毎に、以下の手順にて、印刷形状確認試験を行った。
上記(1)気泡確認試験の印刷直後のプリント配線板の表面観察時に、印刷されたソルダペーストの形状についても併せて確認し、以下の基準に基づき評価した。評価ピン数は、80ピンである。その結果を表3及び表4に示す。
○:形状に崩れがない
△:形状に崩れがあるものの、実装は可能である
×:形状の崩れが大きい
【0069】
(3)ソルダボール発生確認試験
実施例及び比較例毎に、以下の手順にて、ソルダボール発生確認試験を行った。
以下の用具を用意した。
・チップ部品(1.6mm×0.8mmサイズ、20個)
・プリント配線板(FR-4基板、上記チップ部品に対応するソルダレジストと電極(0.6mm×0.9mm)とが形成されたもの)
・メタルマスク(上記プリント配線板上のパターンに対応するもの。厚さ:150μm)
・メタルスキージ
前記メタルマスク及びメタルスキージを用い、前記プリント配線板上にソルダペーストを印刷した。印刷には、印刷機(製品名:SP60P-L、パナソニック(株)製)を用いた。なお印刷条件は、スキージ速度:80mm/秒、版離れ速度:5.0mm/秒に設定した。
印刷後のプリント配線板上に前記チップ部品を載置した。
次いで、前記プリント配線板をリフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)にて加熱し、試験用基板を作製した。なお、リフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を260℃とし、200℃以上の時間は70秒間、220℃以上の時間が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒とした。またリフロー炉内の酸素濃度は1,500±500ppmに設定した。
前記試験基板の表面を顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープ VHX-900、KEYENCE製)を用いて観察し、その周辺にソルダボールが発生したチップ部品数をカウントし、以下の基準に基づき評価した。その結果を表3及び表4に示す。
◎:0個
○:1個以上6個以下
△:7個以上12個以下
×:13個以上
【0070】
(4)印刷転写体積率確認試験
実施例及び比較例毎に、以下の手順にて、印刷転写体積率確認試験を行った。
以下の用具を用意した。
・プリント配線板(FR-4基板、0.6mm×0.5mmのCuランドを120箇所有するもの)
・上記Cuランドに対応するパターンを有するメタルマスク(厚さ:150μm)
前記メタルマスク及び前記メタルスキージを用い、6枚の前記プリント配線板に連続してソルダペーストを印刷した。印刷には、印刷機(製品名:SP60P-L、パナソニック(株)製)を用いた。なお印刷条件は、スキージ速度:80mm/秒、版離れ速度:3.0mm/秒に設定した。
印刷直後のプリント配線板の表面を、はんだ印刷検査装置(製品名:aSPIre2、KOHYOUNG TECHNOLOGY社製)を用いて観察した。そして、全てのCuランド(6枚×120箇所=720箇所)における印刷後のソルダペーストの体積の合計値(X)と、前記メタルマスクの開口部の体積の合計値(Y)とを算出し、以下の式に基づき、印刷転写体積率の平均を求めた。
印刷転写体積率(平均)(%)=(X/Y×100)/720
※Y=0.6mm×0.5mm(前記Cuランドの大きさ)×0.15mm(前記メタルマスクの厚さ)×720=16.2mm3
算出した各印刷転写体積率(平均)について、以下の基準に基づき評価した。その結果を表3及び表4に示す。
◎:印刷転写体積率(平均)が90%以上
○:印刷転写体積率(平均)が70%以上90%未満
△:印刷転写体積率(平均)が60%以上70%未満
×:印刷転写体積率(平均)が60%未満
【0071】
(5)印刷ツノ立ち確認試験
実施例及び比較例毎に、以下の手順にて、印刷ツノ立ち確認試験を行った。
上記(4)印刷転写体積率確認試験に用いたプリント配線板の表面を、はんだ印刷検査装置(製品名:aSPIre2、KOHYOUNG TECHNOLOGY社製)を用いて観察し、Cuランド毎に、印刷されたソルダペーストの高さの平均と、高さの最大値とを算出した。そして、720箇所のCuランドのうち、ソルダペーストの高さの平均と高さの最大値との差(高さの最大値-高さの平均)の値が最も大きいものを評価数値(μm)とし、以下の基準に基づき評価した。その結果を表3及び表4に示す。
◎:評価数値が100μm未満
○:評価数値が100μm以上120μm未満
△:評価数値が120μm以上200μm未満
×:評価数値が200μm以上
【0072】
(6)総合評価
実施例及び比較例毎に、上記(1)から(5)の試験結果を以下の基準にて点数付けし、その合計値を総合評価とした。その結果を表3及び表4に示す。
◎:5点
○:3点
△:1点
×:0点
【0073】
【0074】
【0075】
以上に示す通り、各実施例のソルダペーストは、チクソ剤(B)として、水酸基を有するチクソ剤(B-1)と、水酸基を有さないチクソ剤(B-2)とを所定量含むフラックス組成物を用いることから、印刷直後であってもソルダペースト内に気泡が存在し難く、印刷形状の変形を抑制できることが分かる。
また、各実施例のソルダペーストは、上記気泡の存在し難さと良好な印刷性とを両立させることができるため、面積・体積の小さいランドに対しても印刷転写性に優れ、転写不良を原因とする印刷形状異常(印刷ツノ立ち)の発生を抑制することができることが分かる。
このように各実施例のソルダペーストは、その印刷形状の変形を要因としたソルダボールやはんだブリッジの発生を抑制することができ、信頼性の高いはんだ接合部を提供することができる。
また各実施例のソルダペーストは、酸化し易いSbやInを含むはんだ合金からなるはんだ合金粉末を用いた場合においても、ソルダボールの発生を抑制できることが分かる。