IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ギャズトランスポルト エ テクニギャズの特許一覧

特開2023-51806液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム
<>
  • 特開-液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム 図1
  • 特開-液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム 図2
  • 特開-液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム 図3
  • 特開-液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム 図4
  • 特開-液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051806
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
F17C13/02 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022151768
(22)【出願日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2110369
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボニセル マーク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液化ガスを輸送または貯蔵するときの蒸発損失を最小限に抑えるためのシステムを提供する。
【解決手段】液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するためのコンピュータ実装方法およびシステムであって、貯蔵媒体が、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク11を備え、遷移パラメータが、初期状態と最終状態との間の密封された非冷蔵タンク11に含まれる二相混合物13の変化を特徴付け、二相混合物13が、液相および気相を含み、前記遷移パラメータが、遷移の持続時間、液体抽気速度または蒸気抽気速度とすることができる、コンピュータ実装方法およびシステムとする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するためのコンピュータ実装方法であって、前記貯蔵媒体が、安全弁(20)を備えた少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)を備え、前記遷移パラメータが、初期状態(8)と最終状態(9)との間の前記密封された非冷蔵タンク内に含まれる二相混合物(13)の変化を特徴付け、前記二相混合物が、液相および気相を含み、前記遷移パラメータが、前記遷移の持続時間τ、液体抽気速度mおよび蒸気抽気速度mからなる群から選択され、前記方法が、
- 前記初期状態(8)の液相および気相について、初期液相温度Tl,i、初期気相温度Tv,i、初期気相圧力P、初期液相体積Vl,iおよび初期液相組成xl,iに基づいて、初期質量密度ρl,iおよびρv,iならびに初期内部質量エネルギーUl,iおよびUv,iを決定するステップと、
- 前記最終状態(9)の液相および気相について、状態方程式および最終気相圧力Pに基づいて、最終質量密度ρl,fおよびρv,f、最終内部質量エネルギーUl,fおよびUv,f、ならびに最終質量エンタルピーHl,fおよびHv,fを決定するステップであって、前記気相の最終圧力Pが、前記安全弁(20)の設定圧力以下であり、前記気相の初期圧力P以上である、決定するステップと、
- 以下の式を使用して前記遷移パラメータを計算するステップであって、
【数1】
式中、Qは、単位時間当たりのタンクの壁を通じた熱侵入によるエネルギー寄与に相当し、Vは、前記タンクの総容積に相当し、
【数2】
である、計算するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するためのコンピュータ実装方法であって、前記貯蔵媒体が、真空遮断弁(21)を備えた少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)を備え、前記遷移パラメータが、初期状態(8)と最終状態(9)との間の前記密封された非冷蔵タンク内に含まれる二相混合物(13)の変化を特徴付け、前記二相混合物が、液相および気相を含み、前記遷移パラメータが、遷移の持続時間τ、液体抽気速度mおよび蒸気抽気速度mからなる群から選択され、前記方法が、
- 前記初期状態(8)の液相および気相について、初期液相温度Tl,i、初期気相温度Tv,i、初期気相圧力P、初期液相体積Vl,iおよび初期液相組成xl,iに基づいて、初期質量密度ρl,iおよびρv,iならびに初期内部質量エネルギーUl,iおよびUv,iを決定するステップと、
- 前記最終状態(9)の液相および気相について、状態方程式および最終気相圧力Pに基づいて、最終質量密度ρl,fおよびρv,f、最終内部質量エネルギーUl,fおよびUv,f、ならびに最終質量エンタルピーHl,fおよびHv,fを決定するステップであって、前記気相の最終圧力Pが、前記真空遮断弁(21)の設定圧力以上であり、前記気相の初期圧力P以下である、決定するステップと、
- 以下の式を使用して前記遷移パラメータを計算するステップであって、
【数3】
式中、Qは、単位時間当たりのタンクの壁を通じた熱侵入によるエネルギー寄与に相当し、Vは、前記タンクの総容積に相当し、
【数4】
である、計算するステップと、を含む、方法。
【請求項3】
前記貯蔵媒体が複数のタンク(2、4、5、6、7および11)を備え、前記液相および前記気相について、前記初期および最終質量密度、前記初期および最終内部質量エネルギー、ならびに前記最終質量エンタルピーが各タンクについて決定され、前記遷移パラメータが、以下の式を使用して計算され、
【数5】
式中、指数jは、考慮されるタンクの指数を指す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移パラメータが前記遷移の持続時間τであり、前記蒸気抽気速度mおよび前記液体抽気速度mが予め決定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遷移パラメータが前記蒸気抽気速度mであり、前記液体抽気速度mおよび前記遷移の持続時間が予め決定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移パラメータが前記液体抽気速度mであり、前記蒸気抽気速度mおよび前記遷移の持続時間が予め決定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記貯蔵媒体が、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)内の前記液相の体積を決定するように構成された少なくとも1つのレベルセンサ(14)を備え、前記液相の初期体積Vl,iが、前記レベルセンサ14によって決定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記貯蔵媒体が、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)内の前記気相の温度を測定するように構成された少なくとも1つの温度センサ(151または152)と、前記液相の温度を測定するように構成された少なくとも1つの温度センサ(153、154または155)とを備え、前記気相の初期温度Tv,iおよび前記液相の初期温度Tl,iが、前記温度センサ(151から155)によって測定される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記貯蔵媒体が、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)内の前記気相の圧力を測定するように構成された少なくとも1つの圧力センサ(16)を備え、前記気相の初期圧力Pが、前記圧力センサ(16)によって測定される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記貯蔵媒体が、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)内の前記液相の組成を決定するように構成された少なくとも1つの組成センサ(17)を備え、前記液相の初期組成xl,iが、前記組成センサによって決定される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記貯蔵媒体が、密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)を出る蒸気抽気質量流量(18)または液体抽気質量流量(19)を測定するように構成された少なくとも1つの流量センサを備え、前記液体抽気速度mまたは前記蒸気抽気速度mが、前記流量センサ(18または19)によって決定される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記二相混合物(13)が可燃性混合物である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記可燃性混合物が、液化天然ガス、液化石油ガスおよび液化水素からなるリストから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記密封された非冷蔵タンクが、陸上、海洋、航空または宇宙車両を推進するための燃料リザーバである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
初期状態(8)と最終状態(9)との間の二相混合物(13)の変化を特徴付ける液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するためのシステム(10)であって、前記遷移パラメータが、遷移の持続時間τ、液体抽気速度mおよび蒸気抽気速度mからなる群から選択され、前記システムが、
- 前記二相混合物を収容する少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク(2、4、5、6、7または11)を含む貯蔵媒体であって、前記二相混合物が液相および気相を含む、貯蔵媒体と、
- 請求項1から14のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成された計算装置(22)と、
- 計算された遷移パラメータをオペレータに通知するために前記計算装置と相互作用するヒューマンマシンインターフェースと、を備える、システム。
【請求項16】
車両を推進するための燃料リザーバと、燃料タンクの遷移パラメータを計算するように構成された請求項15に記載のシステムと、を備える陸上、海洋、航空または宇宙車両。
【請求項17】
装置によって実行されると、前記装置に請求項1から14のいずれか一項に記載の方法を実行させるプログラム命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するための方法およびシステムに関する。より具体的には、遷移パラメータは、1つ以上の密封された非冷蔵タンクに含まれる液化ガスおよびその蒸気の二相混合物の熱力学的プロセスを特徴付ける。
【背景技術】
【0002】
液化ガスは、冷却または圧縮によって液体となる常温常圧の気体である。
【0003】
密封断熱非冷蔵タンクは、一般に、-50℃~0℃の範囲の温度で輸送される液化石油ガス(「LPG」とも呼ばれる)、-253℃の温度で輸送される液体水素(「LH2」とも呼ばれる)、または-162℃の温度で輸送される液化天然ガス(以下「LNG」と呼ばれる)などの低温液化ガスを輸送するために使用される。これらのタンクはまた、陸上、海洋または航空車両を推進するための燃料として使用される液化ガスを貯蔵することを意図することができる。
【0004】
低温に冷却された液化ガスを収容するタンクは、液体と、その蒸気、「ガス天井」によって覆われる液化ガスとの二相混合物として現れる。
【0005】
液化ガスを輸送または貯蔵するとき、タンクは、圧力変動を受ける可能性がある。タンク壁を通って熱が侵入すると、液化ガスが蒸発し、ガス天井の圧力が上昇する。逆に、例えば液化ガス推進車両のエンジンに燃料を供給するための任意の蒸気抽気は、ガス天井内の圧力を低下させる。
【0006】
しかしながら、圧力が低すぎると、タンクの密封膜を変形または分離(「崩壊」)させるリスクがある。圧力が高すぎると、ひいては密封膜を劣化させ、タンク自体に損傷を与えるリスクがある。しかしながら、膜および液化ガスを収容するタンクの構造的完全性は、LNGなどの輸送または貯蔵される液体の可燃性または爆発性を考慮すると、特に重要である。
【0007】
任意の過圧または負圧の損傷効果から保護するために、タンクには、設定圧力を超えて自動的に開く安全弁、および設定圧力を下回って自動的に開く真空遮断弁が装備されている。
【0008】
真空遮断弁および安全弁の設定圧力の範囲内でタンク内の圧力変動を制御するために、オペレータは、液体または蒸気の抽気を行うことを決定することができる。
【0009】
タンク内の圧力の上昇を制限するために、蒸発ガスは、規制条件によって許容される場合、オペレータの裁量で、燃やされてもよく、または排気されてもよい。他の状況では、液化ガス推進車両のエンジンが蒸気抽気によって供給される場合、オペレータは、液体抽気を促進することによってタンク内の圧力低下を制限することができ、その強制気化は、エンジン供給を補うことを可能にする。
【0010】
欧州特許第3390893号明細書は、LNGを含む非冷蔵タンクの圧力上昇の持続時間を安全弁の設定圧力までの反復法にしたがってリアルタイム計算するための方法およびシステムを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第3390893号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
液化ガスを輸送または貯蔵するときに高度の動作の柔軟性を有し、したがってサプライチェーンの柔軟性を得ることが有益である。したがって、本発明のいくつかの態様の根底にある1つの目的は、リアルタイムまたは事前に、遷移パラメータ、すなわち圧力変動の持続時間、液体抽気速度または蒸気抽気速度を計算することができ、密封された非冷蔵タンクに含まれる液化ガスの熱力学的挙動を特徴付けることである。この情報は、オペレータのための意思決定および最適化ツールであり、特に液化ガスを輸送または貯蔵するときの蒸発損失を最小限に抑えるためにオペレータが管理シナリオを開発することを可能にする。
【0013】
本発明の背後にある1つの着想は、オペレータによって指定された初期状態と最終状態との間のマスバランスおよびエネルギーバランスを完了することによって、1つ以上の密封された非冷蔵タンクに含まれる液化ガスおよびその蒸気の二相混合物の熱力学的プロセスを特徴付ける遷移パラメータを直接計算することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態によれば、本発明は、液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するためのコンピュータ実装方法であって、貯蔵媒体が、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンクを備え、遷移パラメータが、初期状態と最終状態との間の密封された非冷蔵タンクに含まれる二相混合物の変化を特徴付け、二相混合物が、液相および気相を含み、前記遷移パラメータが、遷移の持続時間τ、液体抽気速度mまたは蒸気抽気速度mとすることができる、コンピュータ実装方法を提供する。本方法は、
- 初期状態の液相および気相について、初期液相温度Tl,i、初期気相温度Tv,i、初期気相圧力P、初期液相体積Vl,iおよび初期液相組成xl,iに基づいて、初期質量密度ρl,iおよびρv,i、ならびに初期内部質量エネルギーUl,iおよびUv,iを決定するステップと、
- 最終状態の液相および気相について、状態方程式および最終気相圧力Pに基づいて、最終質量密度ρl,fおよびρv,f、最終内部質量エネルギーUl,fおよびUv,f、ならびに最終質量エンタルピーHl,fおよびHv,fを決定するステップと、
- 以下の式を使用して遷移パラメータを計算するステップであって、
【数1】
式中、Qは、単位時間当たりのタンクの壁を通じた熱侵入によるエネルギー寄与に相当し、Vは、タンクの総容積に相当し、
【数2】
である、計算するステップと、を含む。
【0015】
質量およびエネルギーは広範な特性であるため、マルチタンク内の質量およびエネルギーの保存方程式は、各タンクについて考慮されるこれらの同じ方程式の合計で特定される。したがって、別の実施形態によれば、貯蔵媒体は、複数のタンクを備え、液相および気相について、初期および最終質量密度、初期および最終内部質量エネルギー、ならびに最終質量エンタルピーは、各タンクについて決定され、遷移パラメータは、以下の式を使用して計算される。
【数3】
上記の式において、指数jは、考慮されるタンクの指数を指す。
【0016】
特定の実施形態によれば、遷移パラメータは、遷移持続時間τであり、蒸気抽気速度mおよび液体抽気速度mは予め決定される。
【0017】
代替的な実施形態によれば、遷移パラメータは、蒸気抽気速度mであり、液体抽気速度mおよび遷移時間tは予め決定される。
【0018】
別の代替の実施形態によれば、遷移パラメータは、液体抽気速度mであり、遷移時間tおよび蒸気抽気速度mは予め決定される。
【0019】
特定の実施形態によれば、貯蔵媒体は、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク内の液相の体積を決定するように構成された少なくとも1つのレベルセンサを備え、液相の初期体積Vl,iは、レベルセンサによって決定される。
【0020】
特定の実施形態によれば、貯蔵媒体は、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク内の気相の温度を測定するように構成された少なくとも1つの温度センサと、液相の温度を測定するように構成された少なくとも1つの温度センサとを備え、気相の初期温度Tv,iおよび液相の初期温度Tl,iは、温度センサによって測定される。
【0021】
特定の実施形態によれば、貯蔵媒体は、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク内の気相の圧力を測定するように構成された少なくとも1つの圧力センサを備え、気相の初期圧力Pは、圧力センサによって測定される。
【0022】
特定の実施形態によれば、貯蔵媒体は、少なくとも1つの密封された非冷蔵タンク内の液相の組成を決定するように構成された少なくとも1つの組成センサを備え、液相の初期組成xl,iは、組成センサによって決定される。
【0023】
特定の実施形態によれば、貯蔵媒体は、密封された非冷蔵タンクを出る蒸気抽気質量流量または液体抽気質量流量を測定するように構成された流量センサを備え、液体抽気速度mまたは蒸気抽気速度mは、流量センサによって決定される。
【0024】
一実施形態によれば、貯蔵媒体は、安全弁を備えた少なくとも1つの密封された非冷蔵タンクを備え、気相の最終圧力Pは、安全弁の設定圧力以下であり、気相の初期圧力P以上である。
【0025】
別の実施形態によれば、貯蔵媒体は、真空遮断弁を備えた少なくとも1つの密封された非冷蔵タンクを備え、気相の最終圧力Pは、真空遮断弁の設定圧力以上であり、気相の初期圧力P以下である。
【0026】
特定の実施形態によれば、二相混合物は、可燃性混合物である。
【0027】
別の特定の実施形態によれば、二相混合物は、液化天然ガスである。他の特定の実施形態によれば、二相混合物は、液化石油ガスまたは液化水素であってもよい。
【0028】
特定の実施形態によれば、密封された非冷蔵タンクは、陸上、海洋、航空または宇宙車両を推進するための燃料リザーバである。
【0029】
別の特定の実施形態によれば、海洋車両は、液化天然ガス推進タンカーまたは船舶である。
【0030】
実施形態によれば、本発明はまた、装置によって実行されると、装置に上述した方法を実行させるプログラム命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体を提供する。装置は、コンピュータまたは同様のハードウェアであってもよい。
【0031】
一実施形態によれば、本発明はまた、初期状態と最終状態との間の二相混合物の変化を特徴付ける液化ガス貯蔵媒体の遷移パラメータを計算するためのシステムであって、遷移パラメータが、遷移の持続時間τ、液体抽気速度mまたは蒸気抽気速度mとすることができる、システムを提供する。システムは、二相混合物を収容する少なくとも1つの密封された非冷蔵タンクを含む貯蔵媒体であって、前記二相混合物が液相および気相を含む、貯蔵媒体と、前述の方法のうちの1つを実施するように構成された計算装置と、計算された遷移パラメータをオペレータに通知するために計算装置と相互作用するヒューマンマシンインターフェースとを備える。
【0032】
一実施形態によれば、本発明はまた、車両を推進するための燃料リザーバと、燃料タンクの遷移パラメータを計算するように構成された上述したシステムとを備える陸上、海洋または航空車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明は、添付の図面を参照して、単に非限定的な例示として提供される本発明のいくつかの特定の実施形態の以下の説明を通して、よりよく理解され、さらなる目的、詳細、特徴および利点がより明確に明らかになるであろう。
【0034】
図1】液化ガス推進船の概略図である。
図2】液化ガス輸送船の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる遷移パラメータを計算する方法を示すフローチャートである。
図4図3の方法が実施されることができる液化ガス貯蔵システムの概略断面図である。
図5】貯蔵システムに固有の入力データおよび/または遷移パラメータをオペレータに伝達するために使用されることができるインターフェースを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の実施形態は、液化ガスを輸送するための、または車両の1つ以上のエンジンに液化ガスを供給するためのリザーバとして機能する少なくとも1つの密封された非冷蔵タンクを備える、動力付き海洋車両、液化ガス推進タンカーまたは船舶に関して説明される。
【0036】
密封された非冷蔵タンクの一般的な形状は、多面体(例えば、角柱状)、円筒形、球形、または他の形状が可能である様々なタイプを想定することができる。非冷蔵タンクは、単一または二重の密封膜を有することができる。密封膜は、一般に、薄いステンレス鋼板または不変鋼製である。一次膜は、一般に、非常に低温で液化ガスと直接接触している。
【0037】
図1は、そのエンジンに供給するように意図された液化ガスを貯蔵するためのリザーバとして作用する非冷蔵密封タンク2を備える液化ガス推進船1を示している。
【0038】
図2は、4つの密封された非冷蔵タンク4、5、6および7を備える液化ガス輸送船またはタンカー3を示している。
【0039】
密封された非冷蔵タンクの壁を通って熱が侵入すると、タンク内の温度が上昇し、その中に含まれる液化ガスが蒸発し、それに対応してガス天井の圧力が上昇することが知られている。
【0040】
LNGタンカーまたはLNG推進船では、蒸発ガス(BOGと略される「ボイルオフガス」)が使用されて、船を推進する主エンジン、および搭載電気を生成する補助エンジンに供給することができる。蒸発ガス流がエンジンの消費量よりも大きい場合、超過分は1つもしくは2つのボイラに向けられるか、または規制条件によって許容される場合、蒸発によって引き起こされる過圧を抑制するために排出される。逆に、蒸発ガスの流れがエンジンの消費量よりも小さい場合、LNG抽気が行われることができる。次いで、抽気された液化ガス(FBOGと略される「強制蒸発ガス」)の強制蒸発は、流量の差を自然蒸発とエンジンの消費との間で相殺することを可能にし、タンク2、4、5、6または7に含まれるガス天井の低下を制限する。
【0041】
過剰圧力の場合に蒸発した過剰ガスを燃やすかまたは排出することによる乾燥損失を回避するために、オペレータは、事前にまたはリアルタイムで、密封された非冷蔵タンク2、4、5、6または7に含まれるLNGの熱力学的挙動を特徴付ける遷移パラメータ、すなわち圧力変動の持続時間τ、蒸気抽気速度mおよび液体抽気速度mを知ることができなければならない。
【0042】
図3は、遷移パラメータを計算するための方法を示すフローチャートである。遷移パラメータは、密封された非冷蔵タンク2、4、5、6または7に含まれる液化ガスと蒸気との二相混合物の初期状態8と最終状態9との間の熱力学的変化を特徴付ける。所与の時点において、二相混合物の熱力学的状態は、その巨視的物理的特性を特徴付ける状態変数のセットによって記述される。初期状態8は、オペレータによって指定された二相混合物の熱力学的状態に対応するか、または遷移パラメータを計算するための方法が起動されたときの二相混合物の熱力学的状態に対応する。最終状態9は、オペレータによって指定された二相混合物の熱力学的状態に対応する。
【0043】
第1の実施形態によれば、初期状態8および最終状態9における液化ガスおよびその蒸気の温度、圧力、体積および組成を知ることによって、二相混合物の全ての物理的特性(質量密度、内部エネルギーおよびエンタルピー)が決定されることができる。
【0044】
初期状態8では、液相および気相について、計算データ82、すなわち質量密度ρl,iおよびρv,i、ならびに内部質量エネルギーUl,iおよびUv,iは、入力データ81、すなわち液相温度Tl,i、気相温度Tv,i、気相圧力P、液相体積Vl,iおよび液相組成xl,iに基づいて決定される。温度、圧力および体積は、センサによって測定されることができ、またはオペレータによって指定されることができる。液化ガスの組成xl,iは、その蒸気の組成xv,iを設定する。特に、液化ガスがLNGである場合、その組成xl,iは、密封された非冷蔵タンク2、4、5、6または7への積み込み時に発行された品質証明書および船荷証券において指定されるか、または組成センサを使用して測定されるか、またはLNGの「経年劣化」モデルを使用して事前に計算される。
【0045】
最終状態9では、オペレータは、入力データ91、すなわち気相Pの圧力を指定する。二相混合物は、熱力学的平衡状態にあると仮定され、液化ガスは、そのバブルポイントにあると仮定される。これらの仮定によれば、気相Pの圧力は、液化ガスTl,fの温度とタンク内のその蒸気Tv,fの温度の双方を設定し、これらは等しい。液化ガスの組成xl,fおよびその蒸気の組成xv,iは、状態方程式に基づいて決定される。好ましい実施形態では、この状態方程式は、Martin CismondiおよびJorgen Mollerup(「Development and application of a three-parameter RK-PR equation of state」、Fluid Phase Equilibria、232、2005、74~89ページ)によって開発されたRedlich-Kwong-Peng-Robinson方程式から導出された3パラメータ三次状態方程式である。液体および気相について、計算データ92、すなわち質量密度ρl,fおよびρv,f、内部質量エネルギーUl,fおよびUv,f、ならびに質量エンタルピーHl,fおよびHv,fは、オペレータによって指定された入力データ91に基づいて決定される。
【0046】
二相混合物が初期状態8と最終状態9との間で変化するとき、液体抽気速度m、蒸気抽気速度m、およびタンクの壁を通る熱侵入による寄与電力Qは一定であると仮定される。液体および蒸気抽気速度は、流量センサによって測定されることができ、またはオペレータによって指定されることができる。出力Qは、通常は製造業者によって提供されるタンクの蒸発速度(BOR)に基づいて決定される。このパラメータは、任意の熱侵入に対するタンク断熱材の熱抵抗を特徴付ける。好ましい実施形態では、BORは、タンクの充填レベルを考慮に入れることによって補正される。
【0047】
初期状態8と最終状態9との間の質量およびエネルギー方程式の保存系を解くことは、所望の遷移パラメータの値を直接計算することを可能にする。
【0048】
一実施形態によれば、設定蒸気の抽気速度mおよび液体の抽気速度mにおいて、オペレータは、密封された非冷蔵タンク2、4、5、6または7内の圧力上昇時間τを計算するために、初期圧力Pを上回る最終圧力Pを指定する。例えば、LNGタンカーまたはLNG推進船が、規則が主エンジンおよび補助エンジンを停止すること(その後船には陸上電気が供給される)、ならびに蒸発したLNGの燃焼または排出を禁止することを規定している港エリアに係留されている場合、オペレータは、タンクの操作性にとって許容可能な圧力レベルを維持しながら船舶が波止場付近に留まることができる時間を知る必要がある。
【0049】
別の実施形態によれば、蒸気の抽気速度mおよび液体の抽気速度mの設定時に、オペレータは、密封された非冷蔵タンク2、4、5、6または7内の圧力降下時間τを計算するために、初期圧力Pを下回る最終圧力Pを指定する。例えば、LNGタンカーまたはLNG推進船のエンジンが自然蒸発ガスの流れよりも多くを消費する場合、オペレータは、エンジンに供給し、タンクの操作性にとって許容可能なレベルの圧力を維持するために、液体抽気を実行する必要があるまでにどれだけの時間が利用可能であるかを知る必要がある。
【0050】
別の実施形態によれば、設定された遷移期間τおよび液体抽気速度mにおいて、オペレータは、密封された非冷蔵タンク2、4、5、6または7内の蒸気抽気速度mを計算するために最終圧力Pを指定する。例えば、LNGタンカーまたはLNG推進船の停止時間が予め決定されている場合、オペレータは、タンクの操作性のための許容値に圧力を維持しながら、搭載電気を生成する補助エンジンに供給するために適用されるべき蒸気抽気速度を知る必要があり得る。
【0051】
図4は、密封された非冷蔵タンク11内で、上述した方法を使用して遷移パラメータを計算するためのシステム10の概略断面図であり、その壁は、多面体形状を有する支持構造12に取り付けられている。密封された非冷蔵タンク11は、非常に低温で液化ガスと蒸気との二相混合物13を収容し、レベルセンサ14、温度センサ151から155、圧力センサ16、組成センサ17、蒸気抽気流量センサ18、液体抽気を可能にするタンクの底部に配置され、流量センサ19を備えたポンプを備える。密封された非冷蔵タンク11は、安全弁20および真空遮断弁21を備える。システム10は、遷移パラメータを計算するのに必要な物理量の測定値を得ることを可能にするために、上述したセンサ14、151から155、16、17、18および19と有線または無線リンクによって接続された計算装置22を備える。
【0052】
一実施形態によれば、タンク内の液化ガスの体積を決定するためのレベルセンサ14は、電気容量センサ、フロート、レーダまたはレーザとすることができる。好ましい実施形態では、温度センサ151から155もこの機能を果たすことができる。
【0053】
一実施形態によれば、温度センサ151~155は、温度プローブであり、一般に、既知の高度でタンクの全高にわたって分布する4つまたは5つのプローブがある。好ましい実施形態では、プローブは、少なくとも1つのプローブ153、154または155が液化ガスに浸漬され、少なくとも1つのプローブ151または152が気相のレベルに位置するように設置される。タンク内の液化ガスのレベルを測定することは、浸漬されたプローブおよび気相に位置するプローブを、各プローブの既知の高度に基づいて識別することを可能にする。いくつかのプローブが液化ガスに浸漬されると、液相の初期温度Tl,iを決定するために温度測定値が平均化される。同様に、いくつかのプローブが気相に位置するとき、温度測定値は、気相の初期温度Tv,iを決定するために平均化される。
【0054】
一実施形態によれば、圧力センサ16は、タンク内の気相の圧力を測定する圧力計である。次いで、ガス天井の初期圧力Pを決定するために、大気圧を考慮することによって圧力が補正される。
【0055】
一実施形態によれば、組成センサ17は、液相の初期組成xl,iを決定するために、再蒸発した液化ガスのサンプルを分析する気相クロマトグラフである。
【0056】
一実施形態によれば、蒸気抽気を測定するための流量センサ18は、ガスが供給されるボイラおよびエンジンの入口に設置された流量計である。液化ガス抽気の流量を測定するための流量センサ19は、ポンプ出口に配置された流量計である。好ましい実施形態では、流量計は、コリオリ効果質量流量計である。
【0057】
一実施形態では、タンクは、その設定圧力で自動的に開く安全弁20を備える。LNGを含むタンクの場合、設定圧力は、一般に700mbargまたは2bargに設定される。例えば、LNGタンカーまたはLNG推進船の主エンジンが停止され、補助エンジンの消費が蒸発ガスの流れを補償するのに不十分であり、規制条件が過剰ガスの燃焼または排出を禁止する場合、オペレータは、弁を自動的に開くための圧力に対するガス天井の圧力上昇時間τを知る必要がある。この場合、オペレータは、安全弁20の設定圧以下であるが初期気相圧力P以上である最終気相圧力Pを指定する。
【0058】
一実施形態によれば、タンクは、その設定圧力で自動的に開く真空遮断弁21を備える。LNGを含むタンクの場合、真空遮断弁の設定圧力は、一般に20mbargまたは50mbargに設定される。例えば、LNGタンカーまたはLNG推進船のエンジンが自然蒸発ガスの流量を超えて消費する場合、オペレータは、真空遮断弁を自動的に開くためにガス天井から圧力までの圧力降下時間τを知る必要がある。この場合、オペレータは、真空遮断弁21の設定圧力以上であるが初期気相圧力P以下である最終気相圧力Pを指定する。
【0059】
図5は、ガス貯蔵システムに固有の入力データ(圧力、温度、体積および組成)ならびに計算された遷移パラメータをオペレータに通知するインターフェースを概略的に示している。この例では、液化ガスは、-161.15℃の温度に冷却されたLNGである。タンクに収容される液化ガスの初期体積Vl,iは、充填率の百分率として表される。
【0060】
一実施形態によれば、オペレータは、最終圧力Pと、二相混合物13に固有の入力データとが、1つ以上のレベルセンサ14、温度センサ151から155、圧力センサ16、組成センサ17および流量センサ18および19によって測定された物理量であると指定する。測定された物理量は、計算装置22と相互作用するヒューマンマシンインターフェースを介してオペレータに伝達される。
【0061】
代替的な実施形態として、オペレータは、最終圧力Pと、既知である(例えば、品質証明書および船荷証券に示される液化ガスの積み込み時の液相の初期組成xl,i)かまたは事前計算されている(例えば、液化ガスの経年劣化モデルから決定された液相の初期組成xl,i)二相混合物13に固有の入力データの全部または一部とを指定する。
【0062】
示されている要素のいくつか、特に計算装置22は、ハードウェアおよび/またはソフトウェア構成要素によって、単一または分散方式で様々な形態で製造されることができる。使用可能なハードウェア構成要素は、特定のASIC、FPGA、またはマイクロプロセッサである。ソフトウェア構成要素は、様々なプログラミング言語、例えばC、C++、JavaまたはVHDLで記述されることができる。このリストは網羅的ではない。
【0063】
本発明をいくつかの特定の実施形態に関連して説明したが、本発明は、決してそれに限定されるものではなく、記載された手段の全ての技術的均等物、ならびにこれらが本発明の範囲内にある場合にはそれらの組み合わせを含むことは明らかである。
【0064】
動詞「備える(comprise)」または「含む(include)」およびそれらの活用形の使用は、特許請求の範囲に記載されているもの以外の要素またはステップの存在を排除するものではない。
【0065】
特許請求の範囲において、括弧内のいかなる参照符号も、特許請求の範囲の限定として解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】