(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051807
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 2/10 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
C08G2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151788
(22)【出願日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2021162259
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 椋祐
(72)【発明者】
【氏名】山中 亨一
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032AA05
4J032AA35
4J032AB06
4J032AC02
4J032AD41
(57)【要約】
【課題】重合触媒起因のタール状析出物の発生を抑制し、ポリアセタール樹脂を長期間安定して連続生産できる、ポリアセタール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアセタール樹脂の製造方法であって、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールと、(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物と、(c)有機溶媒とを用いて重合反応を行う重合工程を含み、前記(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールが、少なくともトリオキサンを含み、前記(c)有機溶媒が、所定の式(1)で表される化合物である、ことを特徴とする、ポリアセタール樹脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂の製造方法であって、
(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールと、(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物と、(c)有機溶媒とを供給して重合反応を行う重合工程を含み、
前記(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールが、少なくともトリオキサンを含み、
前記(c)有機溶媒が、以下の式(1):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1又は2の炭化水素基であり、R
3は、炭素数2~5の炭化水素基であり、nは1である)で表される化合物である、ことを特徴とする、ポリアセタール樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記式(1)中のR1及びR2の炭素数が、いずれも1である、請求項1に記載のポリアセタール樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記(c)有機溶媒が、1,2-ジメトキシエタンである、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、剛性や靭性等の機械的強度、摺動性、及びクリープ性等に優れた樹脂であり、自動車部品や電気・電子機器及び各種機構部品を中心に広範にわたって使用されている。
前記ポリアセタール樹脂が使用される自動車部品や電気・電子機器及び各種機構部品は、重要な部品であることが多く、その品質安定化、すなわち成形して得られる部品の品質のバラツキが少ないことが重要である。そして、かかる品質安定化を図るためには、ポリアセタール樹脂の製造の際の長期安定運転が重要である。
【0003】
従来から、ポリアセタール樹脂の重合の際、長期安定運転の妨げになっていた原因としては、重合触媒起因のタール状析出物の発生による重合運転の不安定化が挙げられる。
【0004】
重合触媒起因のタール状析出物の発生を抑制する従来技術としては、重合触媒として錯化合物を含有する溶液において、錯化合物を形成していない有機化合物量に対する触媒量を規定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、別の手法として、例えば特許文献2には、一部の原料を重合触媒と予め混合するプレ混合工程を設け、特定の温度範囲で保ったまま重合反応器に供給する技術が開示されている。
いずれの技術も、ポリアセタール樹脂の製造において長期の重合安定運転が可能とされている技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-81722号公報
【特許文献2】特許第6034572号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている技術においても、重合触媒起因のタール状析出物の発生が十分に抑えられているとはいえず、ポリアセタール樹脂の長期間より一層安定した連続生産の実現という観点で改良の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、重合触媒起因のタール状析出物の発生を抑制し、ポリアセタール樹脂を長期間安定して連続生産できる、ポリアセタール樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂のモノマー成分と、重合触媒と、有機溶媒とを、重合反応機に供給して重合を行う際、上記有機溶媒として特定の化学構造を有する有機化合物を用いることにより、重合触媒に起因するタール状析出物の発生を低減でき、高純度のポリアセタール樹脂を長期間安定して連続生産できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕
ポリアセタール樹脂の製造方法であって、
(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールと、(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物と、(c)有機溶媒とを供給して重合反応を行う重合工程を含み、
前記(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールが、少なくともトリオキサンを含み、
前記(c)有機溶媒が、以下の式(1):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1又は2の炭化水素基であり、R
3は、炭素数2~5の炭化水素基であり、nは1である)で表される化合物であることを特徴とする、ポリアセタール樹脂の製造方法。
〔2〕
前記式(1)中のR
1及びR
2の炭素数が、いずれも1である、〔1〕に記載のポリアセタール樹脂の製造方法。
〔3〕
前記(c)有機溶媒が、1,2-ジメトキシエタンである、〔1〕又は〔2〕に記載のポリアセタール樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、ポリアセタール樹脂のモノマー成分と、重合触媒と、有機溶媒とを用いて重合を行う際、上記有機溶媒として特定の化学構造を有する化合物を用いることにより、重合触媒に起因するタール状析出物の発生を低減でき、高純度のポリアセタール樹脂を長期間安定して連続生産できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
〔ポリアセタール樹脂の製造方法〕
本実施形態のポリアセタール樹脂の製造方法は、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールと、(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物と、(c)有機溶媒とを用いて、重合反応を行う工程を含むポリアセタールの製造方法であり、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールが、少なくともトリオキサンを含むこと、及び、(c)有機溶媒が、所定の化合物であることを特徴とするものである。また、本実施形態のポリアセタール樹脂の製造方法では、上述の成分に加えて、低分子量アセタール化合物などの他の成分を更に用いることもできる。
【0013】
(材料)
本実施形態のポリアセタール樹脂の製造方法において用いる材料について説明する。
【0014】
<(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマール>
本実施形態では、モノマー成分として、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールを用いる。環状エーテル及び/又は環状ホルマールとは、炭素-酸素結合または炭素-酸素-炭素結合を少なくとも1つ有する環状化合物を指し、また、ホルムアルデヒドの多量体(三量体、四量体など)を含む。環状エーテル及び/又は環状ホルマールとしては、例えば、トリオキサン、テトラオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、エピクルロルヒドリン、エピブロモヒドリン、スチレンオキサイド、オキサタン、1,3-ジオキソラン、エチレングリコールホルマール、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール等が挙げられる。(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールは、1種のみ(即ち、トリオキサンのみ)を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本実施形態で用いる(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールは、上述の通り、少なくともトリオキサンを含む。なお、トリオキサンとは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルマリン水溶液を反応させることにより得られる。このトリオキサンは、水、メタノール、蟻酸、蟻酸メチル等の連鎖移動させる不純物を含有している場合があるので、例えば蒸留等の方法で、これら不純物をあらかじめ除去精製しておくことが好ましい。
【0016】
上記のようにトリオキサンを精製する場合には、連鎖移動させる不純物の合計量をトリオキサン1molに対して、1×10-3mol以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5×10-3mol以下とする。不純物の量を上記数値のように低減化することにより、重合反応速度を実用上十分に高めることができ、生成したポリマーにおける熱安定性等の諸特性を向上させることができる。
【0017】
トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールとしては、特に、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマールが好ましい。
【0018】
また、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールとして、トリオキサンと、トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールとを併用する場合、トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールの添加量は、トリオキサン1molに対して1~20mol%の範囲が好ましく、より好ましくは1~15mol%であり、さらに好ましくは1~10mol%であり、さらにより好ましくは1~5mol%である。
【0019】
<(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物>
本実施形態では、(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物(以下、(b)重合触媒と称することがある)を用いる。前記ポリアセタール樹脂はカチオン重合法により得ることができ、カチオン重合触媒としては、一般的にルイス酸、プロトン酸、及びそのエステル又は無水物等が挙げられるが、本実施形態では、重合触媒として、(b)三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物を用いる。(b)重合触媒は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記三フッ化ホウ素は、三フッ化ホウ素系水和物を含むものとする。また、上記錯化合物としては、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が挙げられる。
【0020】
(b)重合触媒の添加量は、例えば(a)成分としてトリオキサンを用いる場合には、前記トリオキサン1molに対して1×10-9~1×10-2molの範囲が好ましく、より好ましくは2×10-9~1×10-2molの範囲であり、さらに好ましくは5×10-9~1×10-3molの範囲である。(b)重合触媒の添加量が前記範囲内であるとき、より安定して長時間の重合反応を実施することができる。
【0021】
<低分子量アセタール化合物>
本実施形態では、低分子量アセタール化合物を更に用いてもよい。低分子量アセタール化合物は、後述する重合工程において連鎖移動剤として機能するものであり、分子量が200以下、好ましくは60~170のアセタール化合物である。低分子量アセタール化合物の好適例として、具体的には、メチラール、メトキシメチラール、ジメトキシメチラール、トリメトキシメチラールが挙げられる。低分子量アセタール化合物は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
モノマー成分として少なくともトリオキサンを用い、かつ低分子量アセタール化合物を用いる場合、該低分子量アセタール化合物の添加量は、ポリアセタール樹脂の分子量を好適な範囲に制御する観点から、トリオキサン1molに対して、0.1×10-4~0.6×10-2molの範囲が好ましい。
【0023】
<(c)有機溶媒>
本実施形態では、(c)有機溶媒を用いる。(c)有機溶媒としては、重合反応に関与したり悪影響を及ぼしたりするものではない、水酸基を有さないエーテル化合物であることが肝要であり、具体的には、下記の式(1):
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1又は2の炭化水素基であり、R
3は、炭素数2~5の炭化水素基であり、nは1である)で表される化合物を用いる。(c)有機溶媒は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本実施形態では、上述の化学構造を有する化合物を(c)有機溶媒として用いることで、(b)重合触媒(三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物)と(c)有機溶媒とが特有の錯体を形成して長期的に安定化され、重合触媒の変質に由来するタール状の析出物の発生が抑制される。その結果、重合反応中の重合触媒を含む溶液(触媒溶液)の流量が安定し、長期的な連続生産を実施することができる。
また、有機溶媒の一部は、ポリマー中に取り込まれ、残存し得る。ポリマー製品中に有機溶媒が残存すると、最終製品中にも有機溶媒が残存し、製品からの臭気の原因となる。この点、本実施形態においては、(c)有機溶媒として上述した化合物を用いることで、重合反応物中に残存する有機溶媒の量が少なく、高純度のポリマー(ポリアセタール樹脂)を得ることができる。
【0025】
式(1)中のnは、1である。かかる化合物として、具体的には、1,2-ジメトキシエタン、プロピレングリコールジメチルエーテル、ブタンジオールジメチルエーテル、ペンタンジオールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0026】
式(1)中のR1及びR2は、飽和の炭化水素基であることが好ましく、本実施形態では、メチル基、エチル基が挙げられる。また、式(1)中のR1及びR2は、炭素数がいずれも1であることがより好ましい。即ち、式(1)中のR1及びR2は、いずれもメチル基であることが好ましい。
【0027】
式(1)中のR3は、飽和炭化水素基であることが好ましく、例えば、エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、直鎖又は分岐の各種ブチレン基、直鎖又は分岐の各種ペンチレン基などが挙げられる。また、式(1)中のR3は、炭素数が2~3であることが好ましい。
【0028】
(c)有機溶媒として更に好ましいものは、1,2-ジメトキシエタン、プロピレングリコールジメチルエーテルである。(c)有機溶媒として最も好ましいものは、1,2-ジメトキシエタンである。
【0029】
(c)有機溶媒の添加量は、例えば(a)成分としてトリオキサンを用いる場合には、トリオキサン1molに対して0.1×10-3~0.2molの範囲が好ましく、より好ましくは0.2×10-3~0.1molの範囲である。(c)有機溶媒の添加量が前記範囲内であるとき、重合反応機の供給部におけるスケール発生量をより効果的に低減化でき、かつ高収率でポリアセタール樹脂が得られる。なお、有機溶媒の添加量が多すぎると、全体のモノマー濃度が相対的に下がり、反応が失速する虞がある。また、有機溶媒の添加量が少なすぎると、重合反応が急激に進行して、スケールの発生につながる虞がある。
【0030】
(b)重合触媒と(c)有機溶媒の比率に関し、(b)重合触媒と(c)有機溶媒を含む触媒溶液中の(b)重合触媒の濃度は、0.01質量%から10.0質量%であることが好ましい。触媒溶液中の(b)重合触媒の濃度が0.01質量%以上であれば、より確実に重合反応を進行させることができ、濃度が10.0質量%以下であれば、急激な反応を抑え、安定した長時間の重合反応をより効果的に実施することができる。
【0031】
(工程)
本実施形態のポリアセタール樹脂の製造方法に含まれる諸工程について説明する。
本実施形態のポリアセタール樹脂の製造方法は、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマール(少なくともトリオキサンを含む。)と、(b)重合触媒(三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素の錯化合物である。)と、(c)有機溶媒(式(1)で表される化合物である。)とを用いて重合反応を行う重合工程を含み、更に任意に、重合触媒を失活させる失活工程、乾燥工程などを適宜含むことができる。上述の通り、本実施形態の製造方法では、重合触媒に起因するタール状析出物の発生を低減でき、ポリアセタール樹脂を長期間安定して連続生産できる。また、本実施形態の製造方法では、従来と同等又はそれ以上の重合収率を達成することもできる。
【0032】
<重合工程>
重合工程における重合方法としては、塊状法、メルト法のいずれも採用することができる。また、重合工程は、重合反応機で行うことができるが、使用する重合反応機の形状(構造)は、特に制限されない。ただし、重合反応機としては、熱媒を通すことのできるジャケット付きで、2軸パドル式又はスクリュー式の撹拌混合型重合装置が、いずれも好適に使用される。
【0033】
重合工程では、(b)重合触媒を(c)有機溶媒に溶解させ((b)重合触媒を(c)有機溶媒で希釈して)、触媒溶液を調製し、適宜該触媒溶液を安定させた後、(a)環状エーテル及び/又は環状ホルマールを投入して重合反応を行うことが好ましい。この場合、重合触媒に起因するタール状析出物の発生をより一層低減でき、連続生産の更なる安定化を図ることができる。
【0034】
重合工程を実施する際の重合反応機の温度(反応系の保持温度)は、63~155℃の範囲が好ましく、より好ましくは70~145℃の範囲であり、さらに好ましくは70~140℃の範囲である。また、重合反応機内(反応系内)の滞留(反応)時間は、0.1~30分であることが好ましく、より好ましくは0.1~25分であり、さらに好ましくは0.1~20分である。温度及び滞留時間がそれぞれ上記範囲内であれば、安定した重合反応が継続される傾向にある。
【0035】
<失活工程>
上記重合工程により、粗ポリアセタール樹脂が得られ、その後、失活工程を実施することができる。重合触媒の失活方法としては、重合反応機から出た粗ポリアセタール樹脂を、アンモニア、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン等のアミン類、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩類、有機酸塩等の中和失活剤の少なくとも1種を含む水溶液又は有機溶液中に投入し、スラリー状態で数分~数時間、室温~100℃以下の範囲で連続撹拌する方法が挙げられる。この際、粗ポリアセタール樹脂が大きな塊状である場合は、重合工程後に一旦粉砕して処理することが好ましい。
【0036】
<乾燥工程>
また、得られた粗ポリアセタール樹脂を乾燥させる乾燥工程を実施することができる。具体的に、重合工程又は失活工程の後の粗ポリアセタール樹脂を遠心分離機でろ過し、窒素下で乾燥することができる。これにより、目的とするポリアセタール樹脂(重合体)が得られる。
【0037】
乾燥工程で粗ポリアセタール樹脂を乾燥状態とする方法としては、特に限定されない。例えば、熱風式乾燥機、真空乾燥機、または熱媒を通すことのできる撹拌機能を有する乾燥機などを用いて粗ポリアセタール樹脂を加熱することにより、乾燥状態とすることができる。
【0038】
乾燥温度としては、粗ポリアセタール樹脂のモノマーの沸点以上かつ粗ポリアセタール樹脂が溶解しない温度以下であればよい。つまり、115℃から165℃の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、120℃から155℃の範囲である。
【0039】
なお、本実施形態のポリアセタール樹脂の製造方法では、上記成分の他に、ブロック、分岐、架橋の構造を形成し得るその他のコモノマー成分を併用することも当然可能である。
【実施例0040】
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例における各種評価方法は、以下の通りとした。
【0041】
<重合収率>
重合反応機から排出された粗ポリアセタール樹脂の単位時間当りの排出量を、全モノマーの単位時間当りのフィード量で除し、重合収率を算出した。
なお、重合収率は、重合開始から1時間後において算出した。
【0042】
<触媒溶液中の析出物の状況>
連続運転終了後、重合触媒と有機溶媒とを含む触媒溶液中の析出物の状況を目視確認した。そして、目視確認において、溶液の2層分離や析出物がなければ、運転が安定していることを示すものと評価した。
【0043】
<触媒溶液の供給配管の壁面における付着物の状況>
連続運転終了後、重合反応機を開放し、触媒溶液の供給配管の壁面における付着物の有無の状況を目視確認した。そして、目視確認において、粘調のタール状物質等の付着物が少ないほど、運転が安定していることを示すものと評価した。
【0044】
<ポリマー中の残存溶媒量>
ガラス製密閉容器に、重合で得られた乾燥ポリマー(ポリアセタール樹脂)を入れ、その後、ポリマー1gに対して蒸留水(富士フィルム和光製)が1.5mlとなる量を添加し、容器を密閉した。ポリマー及び蒸留水の入った密閉容器を90℃で12h加熱し、ポリマー中に残存する(c)有機溶媒の成分を抽出した。その抽出液をガスクロマトグラフィーで測定し、ポリマー中の残存溶媒量を定量した。なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件は、以下の通りである。
装置:島津製作所製 GC-2014
カラム:ジーエルサイエンス製 TC-1(内径0.25mm×膜厚0.25μm×長さ30m)
キャリアガス:窒素
注入量:1μl
ガス流量:1.38ml/min
入口温度:250℃
カラム温度:50℃から300℃まで5℃/minで加熱
検出器:FID
【0045】
〔実施例1〕
熱媒を通すことのできるジャケット付き2軸パドル型連続重合反応機(栗本鐵工所製、
径2B、L/D=14.8)を80℃に調整した。
(b)重合触媒としての三フッ化ホウ素-ジエチルエーテラート(三フッ化ホウ素の錯化合物)及び(c)有機溶媒としての1,2-ジメトキシエタンを混合したものを触媒溶液とし、その際、触媒溶液中の重合触媒の濃度が3.0質量%になるよう調整した。
(a)成分としてのトリオキサンと、同様に(a)成分としての1,3-ジオキソラン(トリオキサン1molに対して4.2mol%)及び低分子量アセタール化合物としてのメチラールとを配管にて連続的に混合した混合液と、前記触媒溶液とを、別々の配管にて重合反応機に連続的に供給して重合反応を行い、粗ポリアセタール樹脂を得た。このとき、トリオキサン1molに対する重合触媒の量が2.0×10-5molとなるよう、流量を適宜調整した。
重合反応機から排出された粗ポリアセタール樹脂を、トリエチルアミン水溶液(0.5質量%)中にサンプリングし、その後、常温で1時間の撹拌を実施した後、遠心分離機でろ過し、窒素下で140℃×3時間乾燥し、ポリアセタール樹脂を得た。
得られたポリアセタール樹脂について、重合収率と、ポリマー中の残存溶媒量とを、前述の方法で算出した。また、重合開始から240時間後において、触媒溶液中の析出物の状況、及び、触媒溶液の供給配管の壁面における付着物の状況を評価した。評価結果を表1に示す。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1の(b)重合触媒を、三フッ化ホウ素-ジ-n-ブチルエーテラート(三フッ化ホウ素の錯化合物)に変更した。その他の条件は実施例1と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例3、5〕
実施例1の(c)有機溶媒を、表1に示す(c)有機溶媒に変更した。その他の条件は実施例1と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例4、6〕
実施例2の(c)有機溶媒を、表1に示す(c)有機溶媒に変更した。その他の条件は実施例2と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例1〕
実施例1の有機溶媒を、ベンゼンに変更した。その他の条件は実施例1と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0050】
〔比較例2〕
実施例2の有機溶媒を、シクロヘキサンに変更した。その他の条件は実施例2と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0051】
〔比較例3〕
実施例1の(c)有機溶媒を、表1に示すように、ジエチレングリコールジメチルエーテル(上記式(1)中、nが2である化合物に相当する。)に変更した。その他の条件は実施例1と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
〔比較例4〕
実施例2の(c)有機溶媒を、表1に示すように、ジエチレングリコールジメチルエーテル(上記式(1)中、nが2である化合物に相当する。)に変更した。その他の条件は実施例2と同様としてポリアセタール樹脂を得て、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1に示すように、実施例1~6においては、長期間運転した後でも、触媒溶液中に析出物が確認されず、供給配管の壁面に付着物が存在せず、長期間安定的にポリアセタール樹脂を製造することができた。また、ポリマー中の残存溶媒量も十分に少なく、ポリアセタール樹脂の高純度を達成することができた。
【0055】
一方、比較例1,2では、重合触媒と有機溶媒とを混合した直後の段階の触媒溶液は均一で透明であったが、運転終了後の触媒溶液は、底部に褐色の沈殿(タール状物質)や透明な析出物が生じていた。また、運転終了後の触媒溶液の供給配管の壁面には、褐色で粘調のタール状物質が全体に付着していた。よって、これらの比較例の条件では、240時間の運転後に析出物が生成したが、更に長期間となる産業的スケールでの運転においては、析出物の生成量も増加し、急な配管の閉塞による運転停止が起こる可能性が高くなる。
また、比較例3,4では、褐色で粘調のタール状物質の析出は発生しなかったものの、実施例1~6と比較して、ポリマー中の残存溶媒量が多くなり、純度が落ちる結果となった。