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特開2023-51847乳酸菌を利用した体内消化酵素活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051847
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】乳酸菌を利用した体内消化酵素活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20230404BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230404BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 9/48 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A23L33/135
A61P43/00 105
A61K35/747
A61P3/02
C12N9/24
C12N9/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155441
(22)【出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021161712
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505164690
【氏名又は名称】有限会社バイオ研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】生天目 由里子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018ME11
4B050CC10
4B050DD11
4B050HH01
4B050KK20
4B050LL01
4B050LL02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】体内に所在する消化酵素を活性化することができる機能性素材を提供する。
【解決手段】乳酸菌を有効成分とする体内消化酵素活性化剤である。この体内消化酵素活性化剤は、体内のスクラーゼ、マルターゼ、アミノペプチダーゼを活性化させるためのものであってよい。また、栄養吸収促進ために用いられてよい。乳酸菌としては、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属に属する乳酸菌であってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を有効成分とする体内消化酵素活性化剤。
【請求項2】
体内のスクラーゼ、マルターゼ、アミノペプチダーゼを活性化させるためのものである、請求項1記載の体内消化酵素活性化剤。
【請求項3】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス属に属する乳酸菌、ラクトコッカス属に属する乳酸菌、及びエンテロコッカス属に属する乳酸菌からなる群から選択された1種又は2種以上である、請求項1記載の体内消化酵素活性化剤。
【請求項4】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトコッカス・ラクチス、及びエンテロコッカス・フェカリスからなる群から選択された1種又は2種以上である、請求項1記載の体内消化酵素活性化剤。
【請求項5】
前記乳酸菌は死菌体である、請求項1記載の体内消化酵素活性化剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載された体内消化酵素活性化剤を含有する栄養吸収促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を利用した体内消化酵素活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食事からの栄養は健康維持のため重要であり、これが不調になると栄養状態に支障をきたすばかりか、精神的なストレスともなり、望ましくない。特に高齢者では、身体や心のはたらきや社会とのつながりが弱くなった状態、いわゆるフレイルと呼ばれる状態が放置されると身体機能障害につながる危険があるといわれている。
【0003】
従来、飲食した食物の消化を助けて栄養やエネルギー吸収を高めようとする消化酵素製剤が知られていた。例えば、特許文献1には、消化酵素と、該消化酵素とは異なる成分であって、フルーツの処理物若しくはフレーバー、糖質又は乳酸菌から選ばれる少なくとも一種と、を含有する経口用組成物の発明が開示されている。そして、乳酸菌が消化酵素であるアミラーゼやプロテアーゼの活性を試験管内において向上させることができるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-171045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
小腸では胃酸で消化した食物から栄養成分を吸収するため、その小腸粘膜中に各種の消化酵素が分泌され、胃酸で消化した食物を更に分解して小腸からの吸収を助けている。この点、特許文献1に記載されているような消化酵素を含有してなる消化酵素製剤では、体内に所在する消化酵素を活性化できるかどうか明らかではない。また、含有する消化酵素の酵素活性がpHや熱によって影響を受けやすく、その製品形態も限られるという問題がある。そこで、体内に所在する消化酵素の生体機能性を活性化させる素材の提供が望まれていた。
【0006】
本発明の目的は、従来技術にかんがみ、体内に所在する消化酵素を活性化することができる機能性素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは、種々研究した結果、乳酸菌には体内消化酵素を活性化する作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、乳酸菌を有効成分とする体内消化酵素活性化剤を提供するものである。
【0009】
本発明による体内消化酵素活性化剤においては、体内のスクラーゼ、マルターゼ、アミノペプチダーゼを活性化させるためのものであることが好ましい。
【0010】
本発明による体内消化酵素活性化剤においては、前記乳酸菌は、ラクトバチルス属に属する乳酸菌、ラクトコッカス属に属する乳酸菌、及びエンテロコッカス属に属する乳酸菌からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0011】
本発明による体内消化酵素活性化剤においては、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトコッカス・ラクチス、及びエンテロコッカス・フェカリスからなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0012】
本発明による体内消化酵素活性化剤においては、前記乳酸菌は死菌体であることが好ましい。
【0013】
一方、本発明は、別の観点では、上記体内消化酵素活性化剤を含有する栄養吸収促進用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乳酸菌を利用して、体内に所在する消化酵素を活性化する、新たな機能性素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1において、乳酸菌を飼料に混ぜてマウスに3ヵ月間(12週間)自由摂取させた後、空腸及び回腸のスクラーゼ活性を測定した結果を示す図表である。
図2】試験例1において、乳酸菌を飼料に混ぜてマウスに3ヵ月間(12週間)自由摂取させた後、空腸及び回腸のマルターゼ活性を測定した結果を示す図表である。
図3】試験例1において、乳酸菌を飼料に混ぜてマウスに3ヵ月間(12週間)自由摂取させた後、空腸及び回腸のアミノペプチダーゼ活性を測定した結果を示す図表である。
図4】試験例1において、乳酸菌を飼料に混ぜてマウスに自由摂取させ、摂取開始から試験終了時までの体重の増加量から一日当たりの体重の増加量を求めた結果を示す図表である。
図5】試験例2において、ヒト小腸上皮細胞モデルであるCaco-2細胞に乳酸菌を作用させた後、Caco-2細胞のアミノペプチダーゼ活性を測定した結果を示す図表である。
図6】試験例3において、ヒト小腸上皮細胞モデルであるCaco-2細胞に乳酸菌を作用させた後、Caco-2細胞のアミノペプチダーゼ又はマルターゼの活性を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いる乳酸菌は、特に限定されず、例えば、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)等のラクトバチルス属に属する乳酸菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する乳酸菌、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する乳酸菌、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)等のロイコノストック属に属する乳酸菌、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等のテトラジェノコッカス属に属する乳酸菌、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)等のビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌などが挙げられる。なかでも、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、及びエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましく、特に好ましくはラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、及びエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)からなる群から選択された1種又は2種以上である。乳酸菌は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
上記乳酸菌の培養、維持等は、通常の技術によって行うことができる。例えば、乳酸菌の培養に適した培地としては、脱脂粉乳培地が挙げられ、あるいは、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、塩類、ミネラル類等を含む液体培地が挙げられる。市販の培地として「MRSブイヨン MERCK」(商品名、Chemicals社)、「Difco Lactobacilli MRS Broth」(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)などがあり、そのような市販の培地を用いてもよい。
【0018】
上記乳酸菌の培養方法は、限定されないが、例えば、静置培養で行なうことができる。また、乳酸菌の代謝産物(乳酸等)によるpHの低下を抑制するように、培地にアルカリ剤を添加してpH調整しながら、培養(中和培養)を行ってもよい。その場合、添加するアルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水溶液や、アンモニアなどを用いることができる。培養におけるpHは、pH5.0~7.5の範囲であってよく、あるいはpH6.0~7.0の範囲であってよく、そのpHに調整、維持することが好ましい。pH調整は手動で行ってもよいが、pH自動制御装置(pHスタット)などを利用すれば簡便で正確である。
【0019】
本発明に用いる乳酸菌は、培養液の状態から菌体が濃縮された菌体濃縮液を調製してもよく、あるいは、好ましくは賦形剤を加えたうえ凍結乾燥してもよい。菌体濃縮液は、培養液をそのまま濃縮して調製することもできるが、好ましくは、遠心分離やろ過などの手段によって集菌し、この菌体を更に精製水などによって洗浄し、所定の菌体濃度になるように精製水などに懸濁させることによって調製することができる。菌体濃縮液100質量%中の乳酸菌の菌体の含有量は、乾燥菌体換算で0.1~30質量%の範囲であってよく、0.5~20質量%の範囲であってよく、1~10質量%の範囲であってよい。
【0020】
また、菌体濃縮液には賦形剤を含有せしめてもよい。これによれば、凍結したり、凍結乾燥したりした後にも、水と再構成した後に生きた菌としての性質が維持されやすくなる。また、別の態様として、菌体を粉砕・分散した場合、得られる乳酸菌末の再凝集を防止することができる。賦形剤の含有量としては、乾燥物換算で10~99質量%の範囲であってよく、20~95質量%の範囲であってよく、50~90質量%の範囲であってよい。
【0021】
賦形剤としては、特に限定されず、例えば、デキストリン;マルトデキストリン;キサンタンガム;ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類;デキストロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、ショ糖等の糖類;アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸類等が挙げられる。
【0022】
上記乳酸菌は、粉砕・分散の処理を施してもよい。例えば、菌体濃縮液を、攪拌、ミキサー、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ジェネレーター等の手段を用いて粉砕・分散することができる。
【0023】
本発明に用いる乳酸菌は、上記のようにして調製され得る乳酸菌であって、その死菌体を用いることが好ましい。死菌体を使用することで、保存安定性がよく、品質が安定した製品とすることができる。例えば、菌体濃縮液を粉砕・分散する工程の前又は後に、菌体濃縮液に加熱処理を施すことができる。更に、菌体濃縮液を粉砕・分散する工程の後に、乾燥粉末化することができる。乾燥粉末化方法としては、凍結乾燥、減圧噴霧乾燥、熱風を用いた噴霧乾燥等の手法が挙げられる。なお、熱風を用いた噴霧乾燥(スプレードライ)を行うことで、通常、乳酸菌は滅失し、死菌体を得ることができる。
【0024】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤は、上記のようにして調製することができる乳酸菌を有効成分として用いて、これをヒト又はヒト以外の動物に投与することで、体内の消化酵素を活性化するものである。投与方法は、特に限定されず、例えば、経口的に摂取するようにしてもよい。体内の消化酵素とは、具体的には、スクラーゼ、マルターゼ、アミノペプチダーゼ、ペプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ、グリコシダーゼ、ラクターゼ、トレハラーゼ、リパーゼ等である。特に好ましくはスクラーゼ、マルターゼ、アミノペプチダーゼである。これらは、小腸の粘膜中に存在して、胃酸で消化した食物を更に分解して小腸からの吸収を助ける。よって、これにより、栄養成分の体内への吸収能力を高めることができる。
【0025】
一方、本発明は、別の観点では、上記体内消化酵素活性化剤を含有する栄養吸収促進用組成物を提供するものである。この栄養吸収促進用組成物では、上記した乳酸菌を含有することにより体内消化酵素の活性化に有効であり、これをヒト又はヒト以外の動物に投与することで、栄養成分の体内への吸収能力を高めることができる。
【0026】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤又は栄養吸収促進用組成物の投与量は、対象者の健康状態や年齢、あるいはどの程度の栄養吸収促進の作用効果を必要としているかなどに応じて、適宜設定すればよい。典型的には、乳酸菌の乾燥物換算での摂取量にして、0.001mg~100mg/日/kg体重の範囲であってよく、0.01mg~20mg/日/kg体重の範囲であってよく、0.1mg~10mg/日/kg体重の範囲であってよい。
【0027】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤又は栄養吸収促進用組成物は、食品の形態で提供するようにしてもよい。すなわち、上記した乳酸菌を、そのまま、あるいは他の飲食品用原料を組み合わせて、体内消化酵素活性化用の飲食品と成してもよい。上記した乳酸菌と組み合わせる飲食品用原料としては、例えば、各種糖質や乳化剤、甘味料、酸味料、果汁、フレーバー等が挙げられる。より具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、イソマルトオリゴ糖等のオリゴ糖、食物繊維、難消化性デキストリン、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、βグルカン、イヌリン、グルコマンナン、カラギーナン、フコイダン、グアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ペクチン、結晶セルロース等の多糖類、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やハーブエキス、穀物成分、野菜成分、乳成分等が挙げられる。
【0028】
飲食品としては、例えば、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、飲食品の他の例としては、体内消化酵素活性化用の健康食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品などが挙げられる。また、例えば、錠剤、顆粒、粉末、カプセル、ドリンク、ゼリーなどの形態で提供されてもよい。
【0029】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤又は栄養吸収促進用組成物は、医薬組成物の形態で提供されてもよい。すなわち、上記した乳酸菌を、そのまま、あるいは他の医薬用原料と組み合わせて、体内消化酵素活性化用の医薬組成物と成してもよい。上記した乳酸菌に組み合わせる他の医薬用原料に特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤等の形態にして、これを経口剤として利用することができる。
【0030】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤又は栄養吸収促進用組成物は、動物食餌組成物の形態で提供されてもよい。すなわち、上記した乳酸菌を、そのまま、あるいは他の動物飼料用原料と組み合わせて、体内消化酵素活性化用の動物食餌組成物と成してもよい。例えば、家畜、競走馬、鑑賞用動物、ペット等、動物用の飼料に利用してもよい。
【0031】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤又は栄養吸収促進用組成物において、上記した乳酸菌の含有量は、各種の形態とした場合に、それが使用される量と有効投与量との関係を勘案して適宜定めればよい。典型的には、乳酸菌の乾燥物換算での含有量にして、0.001~99.9質量%の範囲であってよく、0.1~50質量%の範囲であってよく、10~30質量%の範囲であってよい。また、菌体数に換算した含有量にして、1×10~1×10cfu/gの範囲であってよく、1×10~5×10cfu/gの範囲であってよく、1×10~3.3×10cfu/gの範囲であってよい。
【0032】
本発明にかかる体内消化酵素活性化剤又は栄養吸収促進用組成物は、限定されないが、例えば、50歳以上、好ましくは60歳以上の高齢者(ヒト以外の動物について、それに相当する年齢)を対象にして適用されることが好ましい。これによれば、そのような特定の対象では、加齢にともなう栄養吸収器官の衰えがあるため、本発明によってこれを補って、それらの対象の栄養摂取能力を補うことができる。
【実施例0033】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
<試験例1>
乳酸菌を摂取することで栄養吸収に影響があるかどうか、消化酵素活性及び体重の増加量によって検証した。具体的には、以下のようにして動物試験を行った。
【0035】
(被験試料の摂取)
標準飼料(「AIN-93G」、日本クレア株式会社製)を使用し、これに乳酸菌(死菌体)としてLactobacillus plantarum SNK12(受託番号:NITE P-1445)を0.04質量%配合して、マウス(71週齢、C57BL6J、雄性、各群6匹)に3ヵ月間(12週間)自由摂取させた。
【0036】
(小腸粘膜ホモジネート上清の調製)
自由摂取の開始から3ヵ月経過後、マウスを炭酸ガス噴射により安楽死させ、小腸(空腸及び回腸)をそれぞれ10cmずつ採取した。採取した小腸(空腸及び回腸)を縦に切開して、消化管内容物をリン酸緩衝液中で洗浄・除去し、ペーパータオルを用いて水分を除去したのち、スライドガラスを用いて粘膜を剥ぎ取った。剥ぎ取った粘膜をマイクロチューブに移し、500μLのリン酸緩衝液で懸濁し、ホモジナイザーを用いて粘膜の懸濁液をホモジナイズした。ホモジネートを遠心分離し(12000g、10分、4℃)、上清100μLを新しいマイクロチューブに回収し、アルミバス上で加温・静置した(37℃、30分)。
【0037】
(スクラーゼ活性及びマルターゼ活性の測定)
上記小腸粘膜ホモジネート上清100μLに、基質液として、100μLの56mMマルトース溶液又はスクロース溶液を混合し、その混合液を37℃で1時間静置して、粘膜上清中のマルターゼ又はスクラーゼの酵素反応を進めた。静置後、混合液を沸騰水中で2分間処理して酵素反応を停止させ、混合液中のスクラーゼ又はマルターゼの作用により遊離したグルコース量を測定キット(商品名「グルコーステストワコー」、富士フィルム和光純薬株式会社)により測定した。小腸粘膜中のマルターゼ活性又はスクラーゼ活性を以下の式(1)により算出した。
【0038】
・酵素活性(nmol/分/cm)=混合液中のグルコース量(nmol)/反応時間(60分)/供試した小腸の長さ(10cm) …(1)
【0039】
(アミノペプチダーゼ活性の測定)
上記と同様に調製した小腸粘膜ホモジネート上清50μLに、基質液として、50μLの10mM ANH(L-Alanine 4-nitroanilide hydrochloride)溶液を混合し、その混合液を遮光下37℃で30分間静置した。ANHはアミノペプチダーゼの作用により、色素分子である4-ニトロアニリンを生成するので、生成された4-ニトロアニリンによる405nmの吸光度を測定することにより、アミノペプチダーゼ活性を定量することができる。具体的には、5mMから段階的に希釈した4-ニトロアニリン溶液を標準液として準備し、静置後の混合液とともに405nmの吸光度を測定した。標準液の吸光度及び4-ニトロアニリン濃度から検量線を作成し、混合液中の4-ニトロアニリン量を定量した。小腸粘膜中のアミノペプチダーゼ活性を以下の式(2)により算出した。
【0040】
・酵素活性(nmol/分/cm)=混合液中の4-ニトロアニリン量(nmol)/反応時間(30分)/供試した小腸の長さ(10cm) …(2)
【0041】
[評価1](空腸及び回腸の消化酵素活性)
空腸及び回腸の消化酵素活性について、乳酸菌投与群と非投与群とで比較したところ、図1に示すように、スクラーゼ活性は、乳酸菌投与群のほうが空腸ではやや亢進し、回腸で顕著に亢進していた。また、図2に示すように、マルターゼ活性は、乳酸菌投与群のほうが空腸で顕著に亢進しており、回腸ではやや亢進していた。また、図3に示すように、アミノペプチダーゼ活性は、乳酸菌投与群のほうが空腸、回腸ともに顕著に亢進していた。
【0042】
[評価2](体重の増加量)
試験期間中の体重の増加量について、一日当たりの増加量に換算して、乳酸菌投与群と非投与群とで比較した。その結果、図4に示すように、一日当たりの体重の増加量が乳酸菌投与群においで顕著に増加した。
【0043】
以上から、乳酸菌を摂取することにより、小腸粘膜に所在する消化酵素(スクラーゼ、マルターゼ、アミノペプチダーゼ)を活性化して、栄養成分の吸収性が高められるものと考えられた。そして、その体内に所在する消化酵素の活性化により体重増加がもたらされたものと考えられた。
【0044】
<試験例2>
ヒト小腸上皮細胞モデルであるCaco-2細胞のアミノペプチダーゼ活性について、乳酸菌を接触させることによる効果を検証した。具体的には、常法に従い、DMEM培地により培養中のCaco-2細胞に、乳酸菌(死菌体)としてLactobacillus plantarum SNK12(受託番号:NITE P-1445)を、80μg、160μg、240μg/800μL培地の濃度となるよう添加し、37℃で2日間培養後、培地をPBSに置換した後、アミノペプチダーゼの基質として10mMのANH(L-Alanine 4-nitroanilide hydrochloride)を300μL添加した。1時間後、アミノペプチダーゼにより分解・生成した4-ニトロアニリン量を試験例1と同様にして定量し、アミノペプチダーゼ活性を評価した。
【0045】
その結果、図5に示すように、乳酸菌の添加量の増加にともないCaco-2細胞のアミノペプチダーゼ活性が増加した。したがって、乳酸菌は直接的に小腸上皮細胞に作用してアミノペプチダーゼ活性を高めているものと考えられた。
【0046】
<試験例3>
試験例2において培地に添加する乳酸菌(死菌体)として、以下のもの用いた以外、試験例2と同様にして、これらの乳酸菌をヒト小腸上皮細胞モデルであるCaco-2細胞に接触させることによる効果を検証した。
(1)Lactobacillus brevis BK012(社内で保有する典型株)
(2)Lactococcus lactis BK013(社内で保有する典型株)
(3)Enterococcus faecalis KH2(受託番号:NITE P-1444)
【0047】
具体的には、各乳酸菌(死菌体)を培地に480μg/800μL培地の濃度となるよう添加し、37℃で2日間培養後、アミノペプチダーゼ及びマルターゼの活性を測定した。アミノペプチダーゼ活性の測定は、試験例2と同様にして行った。また、マルターゼの活性の測定は、培養後に培地をPBSに置換した後に、マルターゼ活性の基質として10mMの4NPαDGlc(4-ニトロフェニルα-D-グルコピラノシド)を300μL添加することに行った。基質の添加から2時間後、マルターゼにより分解・生成した4-ニトロフェノール量を試験例1と同様にして定量した。
【0048】
その結果、図6に示すように、各種の乳酸菌の添加にともないCaco-2細胞のアミノペプチダーゼ及びマルターゼの活性が増加した。したがって、これらの乳酸菌は直接的に小腸上皮細胞に作用してアミノペプチダーゼ及びマルターゼの活性を高めているものと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6