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特開2023-51891樹脂組成物、シート、積層シート、および容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051891
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、シート、積層シート、および容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20230404BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 5/1575 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20230404BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230404BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20230404BHJP
   B65D 1/22 20060101ALI20230404BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230404BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08L53/02
C08K5/1575
C08K5/521
C08L57/02
B32B27/32
B65D1/00 111
B65D1/22
B65D65/40 D
B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158901
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021162356
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 湧平
(72)【発明者】
【氏名】是澤 峻人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆洋
【テーマコード(参考)】
3E033
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E033AA08
3E033BA13
3E033BA16
3E033BB08
3E033CA16
3E033CA20
3E033DA08
3E033FA04
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD24
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA29
3E086BA35
3E086BB05
3E086BB21
3E086BB35
3E086BB41
3E086BB42
3E086BB55
3E086BB58
3E086BB63
3E086BB74
3E086CA01
3E086CA11
3E086CA27
3E086CA28
3E086CA31
3E086CA40
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07E
4F100AK16
4F100AK21C
4F100AK51
4F100AK51B
4F100AK51D
4F100AK69
4F100AK69C
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100AL09D
4F100AL09E
4F100AR00C
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB00
4F100CB00B
4F100CB00D
4F100EH17
4F100EH46
4F100GB15
4F100JD01
4F100JD01C
4F100JK02
4F100JK07
4F100JK10
4J002BA014
4J002BB033
4J002BB052
4J002BB121
4J002BB141
4J002BH012
4J002BP021
4J002EL106
4J002EW046
4J002FD206
4J002GF00
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】剛性に優れた容器を形成できる樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を含有するシートおよび積層シートを提供すること。また、剛性に優れた容器を提供すること。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤を含有する、樹脂組成物。当該樹脂組成物を含有するシート。当該シートを含む積層シート。当該積層シートを成形してなる容器。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤を含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機系造核剤の含有量が、0.01質量%以上2質量%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機系造核剤が、ベンジリデンソルビトール系化合物およびリン酸エステル金属塩類化合物の少なくともいずれかである、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレンである、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチック・ペンタッド分率が、90モル%以上である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが、5.0g/10min以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記エラストマーが、エチレン-α-オレフィン共重合体およびスチレン系エラストマーの少なくともいずれかである、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記エラストマーを、1質量%以上、20質量%以下含有する、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記エラストマーのアスペクト比が、4.0以下である、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリプロピレン系樹脂を、48質量%以上、98質量%以下含有する、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
さらに、石油樹脂を含有する、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
さらに、ポリエチレンを含有する、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有するシート。
【請求項14】
複数の層を有し、前記複数の層のうちの少なくともいずれか一層が請求項13に記載のシートである、積層シート。
【請求項15】
一または複数の基材層と、一または複数の接着層と、バリア層とを有し、
前記基材層のうちの少なくとも一層が請求項13に記載のシートである、積層シート。
【請求項16】
前記複数の基材層として、2つの第一の基材層と、2つの第二の基材層と、を有し、
前記複数の接着層として、2つの接着層を有し、
前記2つの第一の基材層のうちの一方の第一の基材層と、
前記2つの第二の基材層のうちの一方の第二の基材層と、
前記2つの接着層のうちの一方の接着層と、
前記バリア層と、
前記2つの接着層のうちの他方の接着層と、
前記2つの第二の基材層のうちの他方の第二の基材層と、
前記2つの第一の基材層のうちの他方の第一の基材層と、
がこの順で積層された、
請求項15に記載の積層シート。
【請求項17】
表面層と、一または複数の基材層とを有し、
前記基材層のうちの少なくとも一層が請求項13に記載のシートである、積層シート。
【請求項18】
前記複数の基材層として、2つの第一の基材層と、2つの第二の基材層と、を有し、
さらに、2つの接着層と、バリア層とを有し、
前記表面層と、
前記2つの第一の基材層のうちの一方の第一の基材層と、
前記2つの第二の基材層のうちの一方の第二の基材層と、
前記2つの接着層のうちの一方の接着層と、
前記バリア層と、
前記2つの接着層のうちの他方の接着層と、
前記2つの第二の基材層のうちの他方の第二の基材層と、
前記2つの第一の基材層のうちの他方の第一の基材層と、
がこの順で積層された、
請求項17に記載の積層シート。
【請求項19】
請求項14から請求項18のいずれか一項に記載の積層シートを成形してなる容器。
【請求項20】
食品用容器である、請求項19に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、シート、積層シート、および容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医薬品、医療品、化粧品、食品、飲料、工業部材、および電子部品等の容器等に、単層のシートまたは積層シートが使用されている。このようなシート等では、耐衝撃性に優れた材料としてポリオレフィン樹脂が多く用いられている。特に食品や飲料等の容器に使用されるシート等では、耐油性、耐熱性、および透明性の高いポリプロピレン系樹脂が用いられている。
例えば、特許文献1には、下記(a)~(d)成分((b)成分のエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの密度が840~900kg/m)を含む無機系造核剤含有樹脂組成物(A)からなる層を少なくとも一層含む多層構造体が記載されている。
(a)プロピレン連鎖部分のアイソタクチック・ペンタッド分率が0.94以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン系ブロック共重合体
(b)(a)成分がプロピレン単独重合体の場合、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム0.5~15質量%、(a)成分がプロピレン系ブロック共重合体の場合、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム0質量%
(c)高密度ポリエチレン0~20質量%
(d)無機系造核剤としてタルク:(a)成分、(b)成分及び(c)成分の合計量100質量部に対し0.4~3.0質量部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/087864号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の多層構造体による容器も、高剛性でありながら、薄肉に形成できる。しかしながら、昨今の環境対応においては、さらなる減容化が求められている。特に、近年、環境対応として、化石燃料由来の樹脂について使用量削減の要求が大きい。当該要求に対し、樹脂の全部又は一部をバイオマス由来の樹脂原料に置き換える対応もあるが、焼却時の二酸化炭素排出量を低減する観点からは、樹脂そのものの使用量を削減することが好ましい。
その一方、減容化により剛性が低下してしまう問題もあった。
【0005】
本発明の目的は、剛性に優れた容器を形成できる樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を含有するシートおよび積層シートを提供することである。また、本発明の目的は、剛性に優れた容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、ポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤を含有する、樹脂組成物が提供される。
【0007】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、前記有機系造核剤の含有量が、0.01質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記有機系造核剤が、ベンジリデンソルビトール系化合物およびリン酸エステル金属塩類化合物の少なくともいずれかであってもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレンであってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチック・ペンタッド分率が、90モル%以上であってもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが、5.0g/10min以下であってもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記エラストマーが、エチレン-α-オレフィン共重合体およびスチレン系エラストマーの少なくともいずれかであってもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、前記エラストマーを、1質量%以上、20質量%以下含有してもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、前記エラストマーのアスペクト比が、4.0以下であってもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、前記ポリプロピレン系樹脂を、48質量%以上、98質量%以下含有してもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、さらに、石油樹脂を含有してもよい。
【0017】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、さらに、ポリエチレンを含有してもよい。
【0018】
本発明の一態様によれば、前記樹脂組成物を含有するシートが提供される。
【0019】
本発明の一態様によれば、複数の層を有し、前記複数の層のうちの少なくともいずれか一層が前記シートである、積層シートが提供される。
【0020】
また本発明の一態様によれば、一または複数の基材層と、一または複数の接着層と、バリア層とを有し、前記基材層のうちの少なくとも一層が前記シートである、積層シートが提供される。
【0021】
本発明の一態様に係る積層シートは、前記複数の基材層として、2つの第一の基材層と、2つの第二の基材層と、を有し、前記複数の接着層として、2つの接着層を有し、前記2つの第一の基材層のうちの一方の第一の基材層と、前記2つの第二の基材層のうちの一方の第二の基材層と、前記2つの接着層のうちの一方の接着層と、前記バリア層と、前記2つの接着層のうちの他方の接着層と、前記2つの第二の基材層のうちの他方の第二の基材層と、前記2つの第一の基材層のうちの他方の第一の基材層と、がこの順で積層されてもよい。
【0022】
また本発明の一態様によれば、表面層と、一または複数の基材層とを有し、前記基材層のうちの少なくとも一層が前記シートである、積層シートが提供される。
【0023】
本発明の一態様に係る積層シートは、前記複数の基材層として、2つの第一の基材層と、2つの第二の基材層と、を有し、さらに、2つの接着層と、バリア層とを有し、前記表面層と、前記2つの第一の基材層のうちの一方の第一の基材層と、前記2つの第二の基材層のうちの一方の第二の基材層と、前記2つの接着層のうちの一方の接着層と、前記バリア層と、前記2つの接着層のうちの他方の接着層と、前記2つの第二の基材層のうちの他方の第二の基材層と、前記2つの第一の基材層のうちの他方の第一の基材層と、がこの順で積層されてもよい。
【0024】
本発明の一態様によれば、前記積層シートを成形してなる容器が提供される。
【0025】
本発明の一態様に係る容器は、食品用容器であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、剛性に優れた容器を形成できる樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を含有するシートおよび積層シートを提供することができる。また、本発明によれば、剛性に優れた容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第一実施形態に係るシートの断面概略図である。
図2】本発明の第二実施形態に係る積層シートの断面概略図である。
図3】本発明の第三実施形態に係る積層シートの断面概略図である。
図4】本発明の第四実施形態に係る容器の斜視図である。
図5】本発明の第四実施形態に係る容器の部分断面図である。
図6】本発明の第五実施形態に係る容器の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0029】
〔第一実施形態〕
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤を含有する。
以下、本実施形態に係る樹脂組成物が含有する各成分について説明する。
【0030】
・ポリプロピレン系樹脂
本実施形態に係る樹脂組成物が含有するポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン(HPP)、ランダムポリプロピレン(RPP)、およびブロックポリプロピレン等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂は、その一部がバイオプラスチック(バイオポリプロピレン)であってもよい。バイオポリプロピレンは、例えば、非可食植物であるソルゴーの糖蜜を微生物で発酵させて中間素材を生成し、脱水することにより得られる。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂を1種単独で含有してもよく、2種以上のポリプロピレン系樹脂を含有してもよい。
剛性向上の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物が含有するポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンの少なくともいずれかが好ましく、ホモポリプロピレンがより好ましい。
【0031】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂を主成分として含有することが好ましい。この場合の「主成分」とは、本実施形態に係る樹脂組成物を形成する各々の材料において、ポリプロピレン系樹脂が他の成分と同等以上含まれていることを意味する。
より具体的には、樹脂組成物がn成分(nは2以上の整数)で構成されている場合、100/n%以上、好ましくは100/n×1.2倍%以上含有されている成分が主成分である。
【0032】
本実施形態に係る樹脂組成物が含有するポリプロピレン系樹脂は、アイソタクチック・ペンタッド分率が90モル%以上であることが好ましく、92モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。当該アイソタクチック・ペンタッド分率が90モル%以上であれば、樹脂組成物が高い剛性を有するとともに、当該樹脂組成物を用いて成形したシート、および当該シートを成形した容器も剛性に優れる。
また、本実施形態に係る樹脂組成物が含有するポリプロピレン系樹脂のアイソタクチック・ペンタッド分率の上限値は、特に限定はないが、通常99.9モル%である。
なお、アイソタクチック・ペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合した単位)でのアイソタクチック・ペンタッド分率である。この分率の測定法は、例えば、マクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)第687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。
【0033】
本実施形態に係る樹脂組成物の成形性向上の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物が含有するポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレートが5g/10min以下であることが好ましい。当該ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートの上限は、4g/10min以下であることが好ましく、3g/10min以下であることがより好ましく、1g/10min以下であることがさらに好ましい。当該ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートの下限は、0.1g/10min以上であることがより好ましく、0.3g/10min以上であることがさらに好ましく、0.4g/10min以上であることがさらにより好ましい。
なお、本明細書におけるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは、ASTM D1238-89に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定できる。
【0034】
剛性向上の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物におけるポリプロピレン系樹脂の含有量の下限は、48質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、剛性向上の観点から、シート1におけるポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
・エラストマー
本実施形態に係る樹脂組成物が含有するエラストマーとしては、例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体およびスチレン系エラストマー等が挙げられる。本実施形態に係る樹脂組成物は、エラストマーを1種単独で含有してもよく、エラストマーを2種以上含有してもよい。
後述のシート1および積層シート10,20を容器に成形した際の、弾性率および耐衝撃性、並びにさらなる減容化の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物が含有するエラストマーは、エチレン-α-オレフィン共重合体およびスチレン系エラストマーの少なくともいずれかであることが好ましい。また、当該エラストマーとしてのエチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン-1-ブテン共重合体であることがより好ましい。また、スチレン系エラストマーは、スチレン量の下限が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることがさらにより好ましい。また、スチレン系エラストマーは、スチレン量の上限が50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0036】
耐衝撃性向上の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物が含有するエラストマーは、メルトフローレートの上限が35g/10min未満であることが好ましく、25g/10min以下であることがより好ましく、10g/10min以下であることがさらに好ましく、5g/10min以下であることがさらにより好ましい。また、本実施形態に係る樹脂組成物が含有するエラストマーは、メルトフローレートの下限は、低い方が好ましく、特に限定はないが、例えば0g/minである。
なお、本明細書におけるエラストマーのメルトフローレートは、エチレン-α-オレフィン共重合体の場合には、ASTM D1238-89に準拠して、測定温度190℃、荷重2.16kgで測定でき、スチレン系エラストマーの場合には、ASTM D1238-89に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定できる。
【0037】
剛性と耐衝撃性との両立といった観点から、本実施形態に係る樹脂組成物におけるエラストマーの含有量の下限は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、剛性と耐衝撃性との両立といった観点から、本実施形態に係る樹脂組成物におけるエラストマーの含有量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0038】
耐衝撃性向上の観点から、樹脂組成物中のエラストマーの形状は、エラストマー粒子が内接する楕円の長軸の長さと短軸の長さとの比(アスペクト比(長軸/短軸))が、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2.0以下であることがさらにより好ましく、1.6以下であることがさらになお好ましい。下限値は1.0である。
なお、エラストマーのアスペクト比は、例えば、樹脂組成物をシート状に成形し、光学顕微鏡(偏光顕微鏡)により、シートの厚さ方向に200倍に拡大した明視野の中央において、100mm×100mmの枠を設定し、その枠内で観察されるそれぞれのエラストマー粒子が内接する楕円の長軸と短軸の比率(長軸/短軸)の測定値の相加平均として、測定できる。また、含有成分の種類により、あるいは含有成分の種類が多いことにより、光学顕微鏡ではエラストマーを区別できない場合には、測定を容易にするためにエラストマーを着色した上で、電子顕微鏡により測定してもよい。また、所定の枠内において、エラストマー粒子が20個に満たない場合は、20個以上が含まれるよう測定個所を変えて測定してもよい。
【0039】
・有機系造核剤
本実施形態に係る樹脂組成物が含有する有機系造核剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、アルミニウムジベンゾエート、カリウムベンゾエート、リチウムベンゾエート、ソジウムβ・ナフタレートソジウムシクロへキシサンカルボキシレート、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ポリ-3-メチルブテン-1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、ケプラー繊維、およびリン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウム等が挙げられる。市販品の有機系造核剤としては、例えば、アデカスタブ(登録商標、ADEKA株式会社)、ゲルオールDXR(新日本理化株式会社)、ゲルオールMD(新日本理化株式会社)、およびリケマスターFC-2(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。本実施形態に係る樹脂組成物は、有機系造核剤を1種単独で含有してもよく、2種以上の有機系造核剤を含有してもよい。
後述のシート1および積層シート10,20の容器成形時の剛性向上の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物は、有機系造核剤として、ベンジリデンソルビトール系化合物およびリン酸エステル金属塩類化合物の少なくともいずれかを含有することが好ましく、アデカスタブ(登録商標、ADEKA株式会社)またはゲルオールDXR(新日本理化株式会社)がより好ましい。
【0040】
剛性向上の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物における有機系造核剤の含有量の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.08質量%以上であることがさらに好ましい。また、成形性および耐衝撃性の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物における有機系造核剤の含有量の上限は、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以下であることがさらにより好ましい。なお、本明細書における造核剤の含有量は、造核剤マスターバッチを用いる場合はマスターバッチ中の造核剤の正味量である。
【0041】
従来、容器の高剛性化は、無機フィラーによる造核効果による結晶化度増加により達成されてきた。しかしながら、無機系造核剤の造核効果では容器成型した際のTD(Transverse Direction)の剛性向上が不十分であった。本発明では、有機系造核剤を用いることで、容器成型後のTDの剛性が、無機系造核剤を用いた際よりも向上する。これは、有機系造核剤は粒状であることから、結晶核から比較的等方的に結晶成長が起こるため、TDへの剛性が向上したと推察される。これにより、MD(Machine Direction)およびTDの剛性の平均値が向上し、容器の薄肉化が容易になる。一方、無機系造核剤は、板状平面であるがゆえに、結晶核からの異方的な結晶成長となるため、TDの剛性は上がらないと推察される。
【0042】
・その他の成分
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述のポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤の他にも、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂および公知の添加剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。また、本発明の効果を失わない範囲で、不純物を含むことができるものとする。
なお、この場合も、本実施形態に係る樹脂組成物におけるポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤の各々の含有量は、上述の含有量を満たすことが好ましい。
【0043】
例えば、後述のシート1および積層シート10,20の成形性、防湿性、および剛性を向上させるため、本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに石油樹脂を含有してもよい。
石油樹脂としては、例えば、シクロペンタジエン留分を熱重合したジシクロペンタジエン系樹脂、炭素数9の芳香族オレフィン類混合物をカチオン重合した芳香族系(C9系)石油樹脂、炭素数5の鎖状オレフィン類混合物をカチオン重合した脂肪族系(C5系)石油樹脂、スチレン系樹脂、アルキルフェノール樹脂、およびキシレン樹脂等が挙げられる。また、これら各樹脂のモノマーの少なくとも2種の共重合体、上記石油樹脂の混合物、これらを酸変性または水素添加した石油樹脂、および水素添加した石油樹脂の2種以上の混合物等が挙げられる。
石油樹脂としては、成形性の観点から芳香族成分を含む共重合系石油樹脂が好ましく、さらに芳香族成分とジシクロペンタジエンとの共重合系石油樹脂が好ましい。
【0044】
石油樹脂の軟化点の下限は、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、石油樹脂の軟化点の上限は、160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。軟化点が50℃以上であれば、耐熱性が低下することもなく、160℃以下であれば、ポリプロピレン系樹脂の融点を超えることもなく、本実施形態に係る樹脂組成物を用いてシートを成形する際、成形体が白化しない成形温度領域でのシートの軟化の効果を付与できる。軟化点は、JIS K2207:2006に準拠する方法により測定する。
【0045】
本実施形態に係る樹脂組成物における石油樹脂の含有量の下限は、通常、1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上である。また、本実施形態に係る樹脂組成物における石油樹脂の含有量の上限は、通常、20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下であり、さらに好ましくは11質量%以下である。なお、本明細書における石油樹脂の含有量は、マスターバッチを用いる場合はマスターバッチ中の石油樹脂の正味量である。
【0046】
また例えば、本実施形態に係る樹脂組成物は、成形性向上の観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)低密度ポリエチレン(LDPE)、および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレンのうち、一種または複数種類のポリエチレン等のポリエチレンを含有してもよい。この場合、本実施形態に係る樹脂組成物は、剛性の観点から、高密度ポリエチレンを含有することが好ましい。
この場合の本実施形態に係る樹脂組成物における当該ポリエチレンの含有量について、下限は例えば0.1質量%以上、好ましく3は質量%以上、より好ましくは7質量%以上である。上限は例えば80質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0047】
なお、環境に対する負荷を低減するため、本実施形態に係る樹脂組成物が含有する上述のポリプロピレン系樹脂および当該ポリエチレンの少なくとも一部が、バイオポリプロピレンおよびバイオポリエチレン等のバイオプラスチックのうち、少なくとも一種以上のバイオプラスチックであってもよい。
バイオポリエチレンの材料としては、例えば、トウモロコシ、キャッサバ、サトウキビ、さとう大根、パームヤシ、大豆、およびヒマ等が挙げられる。また、バイオポリエチレンは、発酵、菌発酵、化学変化、および培養抽出等、どのような方法で製造されたものであってもよい。バイオポリプロピレンは、例えば、上述の方法により得られる。
【0048】
また、例えば、本実施形態に係る樹脂組成物には、各種機能を付与するため、必要に応じて、例えば安定剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、および着色剤等のうち、一種以上が添加されてもよい。
【0049】
[シート]
次に本実施形態に係るシートについて説明する。
図1は、本実施形態に係るシートの断面概略図である。シート1は、本実施形態に係る樹脂組成物含有する。なお、シート1は、単層のシートとして用いてもよく、後述のように複数の層を有する積層シートの少なくとも一層としても用いてもよい。
【0050】
[シートの製造方法]
シート1の製造方法は、特に限定されない。
シート1の製造方法としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤と、所望によりその他の樹脂または樹脂組成物、および添加剤等とを含む組成物(シート用樹脂組成物)を調製し、このシート用樹脂組成物を押出成形する方法またはインフレーション成形する方法、並びに当該組成物を適当な溶媒に溶解または分散させてコーティング液を調製し、このコーティング液を支持体の上にコーティングする方法等が挙げられ、押出形成する方法が好ましい。
【0051】
〔第二実施形態〕
[積層シート]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態は、本発明のシートを積層シートに適用した形態である。
本実施形態に係る積層シートは、一または複数の基材層と、一または複数の接着層と、バリア層とを有する。本実施形態に係る積層シートは、基材層のうちの少なくとも一層が、第一実施形態に係るシートである。
本実施形態に係る積層シートは、バリア層の両方の面側に基材層を少なくとも一層ずつ有することが好ましい。なお、バリア層と基材層とは、互いに隣接して設けられていてもよく、他の層を介して設けられていてもよい。本実施形態に係る積層シートは、バリア層の両方の面側に基材層を少なくとも二層ずつ有することがより好ましい。
【0052】
以下、図面を用いて、本実施形態に係る積層シートをより詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る積層シート10の断面概略図である。
図2に示されるように、積層シート10は、複数の基材層としての第一の基材層12,15および第二の基材層13,14を有する。さらに積層シート10は、バリア層16と、接着層17とを有する。積層シート10は、第一の基材層12(表面下層)、第二の基材層13、接着層17、バリア層16、接着層17、第二の基材層14、および第一の基材層15の順で積層されている。
換言すれば、積層シート10は、第二の基材層13,14の間にバリア層16が位置し、第二の基材層13における、バリア層16が位置する側の面とは反対側の面に、第一の基材層12が積層されるとともに、第二の基材層14における、バリア層16が位置する側の面とは反対側の面に、第一の基材層15が積層される構造である。なお、バリア層16と第二の基材層13,14とは、各々接着層17を介して接着されている。
以下、各層の構成について説明する。なお、積層シート10は、容器を構成するのに適した厚さ、具体的には例えば0.2mm以上、1.4mm以下の厚さで形成されるが、この例には限定されない。
【0053】
(基材層)
第一の基材層12と第一の基材層15とは、同様の材料で形成されることが好ましい。
また、第二の基材層13と第二の基材層14とは、同様の材料で形成されることが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る積層シート10において、第一の基材層12,15と第二の基材層13,14とは、同じで組成であってもよく、異なっていてもよい。
換言すれば、第一の基材層12,15が含有するポリプロピレン系樹脂およびその含有量と、第二の基材層13,14が含有するポリプロピレン系樹脂およびその含有量とは、各々同じであってもよく、異なっていてもよい。また、第一の基材層12,15が含有するエラストマーおよびその含有量と、第二の基材層13,14が含有するエラストマーおよびその含有量とは、各々同じであってもよく、異なっていてもよい。また、第一の基材層12,15が含有する有機系造核剤およびその含有量と、第二の基材層13,14が含有する有機系造核剤およびその含有量とは、各々同じであってもよく、異なっていてもよい。
例えば、ポリプロピレン系樹脂について、第一の基材層12,15がホモポリプロピレンを80質量%含有する場合、第二の基材層13,14は、ホモポリプロピレンを80質量%またはそれ以外の量で含有してもよく、ホモポリプロピレン以外のポリプロピレン系樹脂を80質量%またはそれ以外の量で含有してもよい。
【0055】
第一の基材層12,15および第二の基材層13,14のうち、少なくとも一方の基材層が、上述の第一実施形態のシートである。一方の基材層が上述の第一実施形態のシートであり、他方の基材層が第一実施形態のシートではない場合、第一実施形態のシートではない方の基材層が含有する各成分についても、上述の第一実施形態に係るシートにおける各成分と同様の成分を用いることができる。
本実施形態に係る積層シート10は、第二の基材層13,14が、上述の第一実施形態のシートであることが好ましい。
【0056】
なお、石油樹脂を基材層の成分として用いる場合、第一の基材層(12,15)および第二の基材層(13,14)の石油樹脂含有量は、同じであっても異なっていてもよいが、総厚さがより厚い層の石油樹脂含有量が多い方が好ましい。本実施形態に係る積層シート10は、第二の基材層13,14の石油樹脂含有量が多い方がより好ましい。
第二の基材層13の厚さが第一の基材層12の厚さよりも厚い場合、第二の基材層13の石油樹脂含有量は、第一の基材層12の石油樹脂含有量よりも多いことが好ましい。また、第二の基材層14の厚さが第一の基材層15の厚さよりも厚い場合、第二の基材層14の石油樹脂含有量は、第一の基材層15の石油樹脂含有量よりも多いことが好ましい。
一方、第一の基材層12の厚さが第二の基材層13の厚さよりも厚い場合、第一の基材層12の石油樹脂含有量は、第二の基材層13の石油樹脂含有量よりも多いことが好ましい。また、第一の基材層15の厚さが第二の基材層14の厚さよりも厚い場合、第一の基材層15の石油樹脂含有量は、第二の基材層14の石油樹脂含有量よりも多いことが好ましい。
また、本実施形態に係る積層シート10を食品用途に使用する場合、第二の基材層13,14に石油樹脂を用い、第一の基材層12,15には第二の基材層13,14よりも少ない含有量で石油樹脂を用いることが好ましく、第二の基材層13,14に石油樹脂を用い、第一の基材層12,15には石油樹脂を用いないことがより好ましい。
なお、第一の基材層12における石油樹脂含有量と第一の基材層15における石油樹脂含有量とは、同じであっても異なっていてもよい。同様に、第二の基材層13における石油樹脂含有量と第二の基材層14における石油樹脂含有量とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0057】
第一の基材層12,15が、上述の第一実施形態のシートである場合、剛性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第一の基材層12,15各々におけるポリプロピレン系樹脂の含有量の下限は、48質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、剛性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第一の基材層12,15各々におけるポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
また、剛性と耐衝撃性との両立といった観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第一の基材層12,15各々におけるエラストマーの含有量の下限は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、剛性と耐衝撃性との両立といった観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第一の基材層12,15各々におけるエラストマーの含有量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることがさらにより好ましい。
また、剛性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第一の基材層12,15各々における有機系造核剤の含有量の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、成形性および耐衝撃性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第一の基材層12,15各々における有機系造核剤の含有量の上限は、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
第二の基材層13,14が、上述の第一実施形態のシートである場合、剛性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第二の基材層13,14各々におけるポリプロピレン系樹脂の含有量の下限は、48質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、剛性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第二の基材層13,14各々におけるポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
また、剛性と耐衝撃性との両立といった観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第二の基材層13,14各々におけるエラストマーの含有量の下限は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、剛性と耐衝撃性との両立といった観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第二の基材層13,14各々におけるエラストマーの含有量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることがさらにより好ましい。
また、剛性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第二の基材層13,14各々における有機系造核剤の含有量の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、成形性および耐衝撃性向上の観点から、第一実施形態のシート1(単層)と同様、第二の基材層13,14各々における有機系造核剤の含有量の上限は、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
第一の基材層12,15の各々の厚さTBM1は、積層シート10全体の厚さTに対する比率(層比)[(TBM1/T)×100]の下限を1%以上とすることが好ましく、2%以上とすることがより好ましく、5%以上とすることがさらに好ましい。また、第一の基材層12,15の各々の厚さTBM1は、当該比率の上限を40%以下とすることが好ましく、30%以下とすることがより好ましく、20%以下とすることがさらに好ましい。
積層シート10全体の厚さに対する第一の基材層12および第一の基材層15の合計の厚さの比率(層比)の下限は、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。また、積層シート10全体の厚さに対する第一の基材層12および第一の基材層15の合計の厚さの比率(層比)の上限は、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。
【0060】
第二の基材層13,14の各々の厚さTBM2は、積層シート10全体の厚さTに対する比率(層比)[(TBM2/T)×100]の下限を15%以上とすることが好ましく、17.5%以上とすることがより好ましく、20%以上とすることがさらに好ましい。また、第二の基材層13,14の各々の厚さTBM2は、当該比率の上限を49.5%以下とすることが好ましく、40%以下とすることがより好ましく、35%以下とすることがさらに好ましい。
積層シート10全体の厚さに対する第二の基材層13および第二の基材層14の合計の厚さの比率(層比)の下限は、30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。また、積層シート10全体の厚さに対する第二の基材層13および第二の基材層14の合計の厚さの比率(層比)の上限は、99%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0061】
(バリア層)
バリア層16は酸素バリア層である。バリア層16に用いられる材料としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、MXナイロン(MXNy)等のポリアミド系樹脂、およびポリアクリロニトリル樹脂(PAN)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。バリア層16は、上述の石油樹脂を含有してもよい。
また、酸素バリア層としてのバリア層16はコーティング法により形成することも可能であり、この場合に使用できる材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、アルミ、および窒化ケイ素等の無機系材料、ポリビニルアルコール(PVA)等の有機系材料、並びにシリカ/PVA等の有機無機ハイブリッド材料等からなる群から選択されるコート材料等が挙げられる。
【0062】
バリア層16の厚さTは、積層シート10全体の厚さTに対する比率(層比)[(T/T)×100]の下限を0.5%以上とすることが好ましく、1%以上とすることがより好ましく、2%以上とすることがさらに好ましい。また、バリア層16の厚さTは、当該比率の上限を20%以下とすることが好ましく、18%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることがさらに好ましい。
【0063】
(接着層)
接着層17は、例えば、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、またはエチレン酢酸ビニル(EVA)等で形成される。接着層17は、上述の石油樹脂を含有してもよい。
【0064】
接着層17の合計の厚さTは、積層シート10全体の厚さTに対する比率(層比)[(T/T)×100]の下限を0.5%以上とすることが好ましく、1%以上とすることがより好ましい。また、接着層17の合計の厚さTは、当該比率の上限を19%以下とすることが好ましく、7%以下とすることがより好ましい。
【0065】
[積層シートの製造方法]
積層シート10の製造方法は、特に限定されない。
積層シート10の製造方法としては、例えば、第一の基材層12,15の材料と、第二の基材層13,14の材料と、接着層17の材料と、バリア層16の材料とを、共押出し成形する方法(共押出成形)またはインフレーション成形する方法(インフレーション成形)等が挙げられ、共押出成形が好ましい。
【0066】
積層シート10の引張特性(弾性率)については、用途により求められる数値は異なるが、積層シート10を容器に用いる場合、容器薄肉化の観点から、当該容器とした際に引張特性が向上することが好ましい。また、容器の成形加工が容易となることから、積層シート10の引張特性(弾性率)は低い方が好ましい。
また、積層シート10の耐衝撃性および耐寒衝撃性も、用途により求められる数値は異なるが、いずれも高い方が好ましい。
【0067】
〔第三実施形態〕
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態も、本発明のシートを積層シートに適用した形態である。
本実施形態に係る積層シートは、表面層と、一または複数の基材層とを有する。本実施形態に係る積層シートは、基材層のうちの少なくとも一層が、第一実施形態に係るシートである。
【0068】
以下、図面を用いて、本実施形態に係る積層シートをより詳細に説明する。なお、以下で説明する点を除いて、本実施形態の構成等は上記の第二実施形態の構成と同様であるため、重複した説明は省略する。
図3は、本実施形態に係る積層シート20の断面概略図である。
図3に示されるように、積層シート20は、複数の基材層としての第一の基材層12,15および第二の基材層13,14を有する。さらに積層シート20は、表面層11と、バリア層16と、接着層17とを有する。積層シート20は、表面層11、第一の基材層12(表面下層)、第二の基材層13、接着層17、バリア層16、接着層17、第二の基材層14、および第一の基材層15の順で積層されている。
換言すれば、積層シート20は、第二の基材層13,14の間にバリア層16が位置し、第二の基材層13における、バリア層16が位置する側の面とは反対側の面に、第一の基材層12が積層されるとともに、第二の基材層14における、バリア層16が位置する側の面とは反対側の面に、第一の基材層15が積層され、さらに、第一の基材層12における、第二の基材層13と隣接する側の面とは反対側の面に、表面層11が積層される構造である。なお、バリア層16と第二の基材層13,14とは、各々接着層17を介して接着されている。
【0069】
(表面層)
表面層11は、例えば、積層シート20が容器に成形されたときに、ヒートシール等によって蓋体に接合される層である。
【0070】
表面層11は、例えば、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂等の、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される。
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ランダムポリプロピレン(RPP)、ブロックポリプロピレン(BPP)、およびホモポリプロピレン(HPP)等が挙げられる。
表面層11は、直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体等を含有してもよい。また、表面層11は、前述の石油樹脂を含有してもよい。
【0071】
表面層11は、バイオポリエチレンやバイオポリプロピレンなどのバイオプラスチックを含有してもよい。バイオプラスチックの含有量について、表面層11に対して、下限は例えば0.1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。上限は例えば100質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0072】
剛性の観点から、表面層11の厚さTは、積層シート20全体の厚さTに対する比率(層比)[(T/T)×100]の上限を30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることがさらに好ましい。下限は特に制限はないが、通常0.1%である。
また、限定的でない例として、容器の開封時に表面層11が破断される場合、表面層11の厚さTの下限を3μm以上にすることが好ましい。またこの場合、表面層11の厚さTの上限を40μm以下にすることが好ましく、30μm以下にすることがより好ましい。
【0073】
〔第四実施形態〕
[容器]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態は、本発明の積層シートを容器に適用した形態である。
図4は、本発明の第四実施形態に係る容器の斜視図である。図4に示されるように、容器100は、容器本体110と、蓋体130とを含む。容器本体110は、例えば図示されたような略円形の平面形状を有し、カップ状の凹部111と、凹部111の周縁部に形成されるフランジ部112とを含む。蓋体130は、凹部111の開口を覆うフィルム状の部材であり、フランジ部112に形成される環状の接合領域140でヒートシールまたは超音波シール等を用いて容器本体110に接合されることによって凹部111との間に内部空間SPを形成する。
【0074】
図5は、図4に示す容器の部分断面図である。図5に示されるように、容器本体110は、積層体10A(第一の基材層12、第二の基材層13、接着層17、バリア層16、接着層17、第二の基材層14、および第一の基材層15が、この順に積層された積層体)並びに表面層11を含む積層シート20を、真空成形または圧空成形等によって凹部111およびフランジ部112を含む形状に成形したものである。積層体10Aは、容器本体110の外側に位置し、容器本体110の形状の保持に必要とされる剛性を発揮する。表面層11は、容器本体110の内側、すなわち内部空間SPに面する側に位置する。接合領域140において、蓋体130は積層シート20の表面層11に接合される。後述するように、接合領域140における蓋体130と表面層11との間の接合強度は、積層シート20における積層体10Aと表面層11との間の層間接合強度よりも強い。
【0075】
さらに、本実施形態では、容器本体110のフランジ部112に、接合領域140に沿う切り込み115が形成される。切り込み115は、接合領域140よりも凹部111側のフランジ部112で、少なくとも積層シート20の表面層11に形成される。後述するように、切り込み115は、表面層11の欠落部の例である。図示された例では切り込み115がちょうど表面層11だけを貫通して積層体10Aには達していないが、切り込み115は積層体10Aの一部に達していてもよい。あるいは、切り込み115は表面層11を貫通せず、表面層11が容器の開封時に容易に破断できる程度の厚さで残されてもよい。なお、切り込み115の断面形状は図示された例ではV字形であるが、U字形またはI字形等の他の形状であってもよい。
【0076】
蓋体130は、外層131Aおよびシール層131Bを含むフィルム状の積層体131からなる。外層131Aは、蓋体130の表側、すなわち容器本体110に面しない側に位置し、蓋体130に必要とされる柔軟性や引張強度を発揮する。シール層131Bは、蓋体130の裏側、すなわち容器本体110に面する側に位置し、接合領域140で容器本体110を構成する積層シート20の表面層11に接合される。外層131Aとシール層131Bとは互いに接合されている。なお、積層体131に追加の層が含まれてもよい。
ここで、積層体131の外層131Aは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、または二軸延伸ナイロンフィルム(O-Ny)等で形成される。また、積層体131のシール層131Bは、例えば、ランダムポリプロピレン(RPP)、ブロックポリプロピレン(BPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、またはポリエチレン等を含む樹脂組成物で形成される。
【0077】
本実施形態に係る容器100の座屈強度は、好ましくは1N以上、より好ましくは10N以上、さらに好ましくは30N以上、さらに好ましくは40N以上、さらに好ましくは60N以上、さらに好ましくは100N以上、特に好ましくは140以上である。本明細書における座屈強度は、JIS K7181:2011に準拠し、万能材料試験機(例えばインストロン社製「5566型」等)を用いて、長辺13.5mm、短辺11mm、深さ3.1mmの長方形型容器について測定した値である。
【0078】
次に、図5に示した容器の開封動作について説明する。図5(A)および図5(B)に示すように、ユーザは延出した蓋体130の端部を摘持し、ここから蓋体130を引き剥がすことによって容器の開封を開始することができる。
【0079】
ここで、上述のように、接合領域140における蓋体130と表面層11との間の接合強度は、積層シート20の積層体10Aと表面層11との間の層間接合強度よりも強い。従って、上記のようにユーザが蓋体130を引き剥がすと、積層シート20の端部に近い接合領域140で蓋体130に接合された表面層11が蓋体130とともに引き剥がされる一方で、積層シート20の積層体10Aと表面層11との間は層間剥離する。
【0080】
さらにユーザが蓋体130を引き剥がすと、図5(B)に示すように、切り込み115で表面層11が蓋体130から離れ、そこから先は蓋体130だけが引き剥がされる。これは、上述のように、切り込み115が表面層11を貫通して形成されているか、または切り込み115によって表面層11が容易に破断できる程度の厚さにされているためである。
【0081】
本実施形態に係る容器は、上記のような手順によって開封される。積層シート20の積層体10Aと表面層11との間の層間接合強度を弱めれば、開封時にユーザが蓋体130を引き剥がす力が小さくて済み、開封が容易になる。その一方で、開封前、容器本体110と蓋体130とが互いに接合された状態では、内部空間SPの内圧は接合領域140、より具体的には接合領域140の凹部111側の端縁部に集中する。切り込み115は接合領域140の端縁部から離隔しているため、集中した内圧が切り込み115を起点にして積層シート20を層間剥離させるように作用することが防止される。それゆえ、上記のように層間接合強度を弱めることによって開封を容易にした場合であっても、蓋体130と表面層11との間の接合強度を強くすることによって高い内圧に対抗することができる。このようにして、本実施形態に係る容器では、開封性と耐内圧性とを両立させることができる。なお、密封性を保つために、層間剥離の表面層(上記の例では表面層11)の厚さは、一例として、その下限が10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、その上限が200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0082】
[容器の製造方法]
本実施形態に係る容器は、例えば、積層シート20を熱成形することにより製造できる。具体的には、実施例に記載の方法にて、本実施形態に係る包装体を製造すればよい。
【0083】
[容器の用途]
本実施形態に係る容器は、例えば、食品用、化粧品用、医薬品用、およびアルコール用等の容器として用いることができる。
【0084】
〔第五実施形態〕
次に、図6を参照して、本発明の第五実施形態について説明する。なお、以下で説明する点を除いて、本実施形態の構成は上記の第四実施形態の構成と同様であるため、重複した説明は省略する。
【0085】
図6は、本発明の第五実施形態に係る容器の部分断面図である。本実施形態において、容器本体110は、図6に示されるように、積層体10B(第二の基材層13、接着層17、バリア層16、接着層17、第二の基材層14、および第一の基材層15が、この順で積層された積層体)、第一の基材層12(表面下層)並びに表面層11を含む積層シート20を、真空成形または圧空成形等によって凹部111およびフランジ部112を含む形状に成形したものである。積層体10Bは、容器本体110の外側に位置し、容器本体110の形状の保持に必要とされる剛性を発揮する。第一の基材層12は、積層体10Bと表面層11との間にあり、それぞれの層に接合されている。表面層11は、容器本体110の内側、すなわち内部空間SPに面する側に位置し、フランジ部112に形成される接合領域140に面する。
【0086】
ここで、積層シート20の第一の基材層12,15と第二の基材層13,14は、第二実施形態の第一の基材層12,15と第二の基材層13,14と同様の構成とすることができる。
また、積層シート20の表面層11は、第三実施形態の表面層11と同様の構成とすることができる。
【0087】
蓋体130は、外層131Aおよびシール層131Bを含むフィルム状の積層体131からなる。積層体131の構成は、第四実施形態の積層体131と同様である。
【0088】
ここで、本実施形態において、積層シート20の表面層11の凝集強度は、接合領域140における蓋体130と容器本体110との間の接合強度よりも弱く、積層シート10および積層体131を構成する、表面層11以外の各層の凝集強度よりも弱く、また積層シート20および積層体131の各層の間の層間接合強度よりも弱い。つまり、例えば第一の基材層12を第1層、表面層11を第2層、シール層131Bを第3層、外層131Aを第4層とした場合に、第2層の凝集強度は、蓋体130と容器本体110との間の接合強度、第1層、第3層、および第4層の凝集強度、ならびに第1層と第2層との間および第3層と第4層との間の層間接合強度よりも弱い。これによって、後述するように、本実施形態では表面層11を凝集破壊層とすることによって容器を容易に開封することができる。なお、本明細書において、凝集強度は、積層体の各層を構成する樹脂を結合させている分子間力(凝集力)によって発揮される強度を意味する。
【0089】
さらに、本実施形態では、図6に示されるように、接合領域140の凹部111側の端縁部に、第一樹脂溜まり部121および第二樹脂溜まり部122が形成される。第一樹脂溜まり部121は、積層シート20の第一の基材層12および表面層11を形成する樹脂からなり、凹部111側に傾いた瘤状断面を有する。第二樹脂溜まり部122は、蓋体130のシール層131Bを形成する樹脂からなり、第一樹脂溜まり部121よりも凹部111側に位置する瘤状断面を有する。図示されているように、表面層11は、第一樹脂溜まり部121の表面に沿って、かつ第一樹脂溜まり部121と第二樹脂溜まり部122との隙間を通るように形成される。以下の本実施形態の説明では、第一樹脂溜まり部121および第二樹脂溜まり部122を総称して樹脂溜まり部120ともいう。
【0090】
次に、図6に示した容器の開封動作について説明する。図6(A)および図6(B)に示すように、ユーザは延出した蓋体130の端部を摘持し、ここから蓋体130を引き剥がすことによって容器の開封を開始することができる。
【0091】
ここで、上述のように、表面層11の凝集強度は、接合領域140における蓋体130と表面層11との間の接合強度、積層シート20および積層体131を構成する、表面層11以外の各層の凝集強度、並びに積層シート20および積層体131の各層の間の層間接合強度よりも弱い。従って、ユーザが蓋体130を引き剥がすと、接合領域140に対応する位置で蓋体130に引っ張られた表面層11が凝集破壊される。これによって、表面層11の一部が蓋体130とともに引き剥がされ、表面層11の残りの部分は第一の基材層12側に残る。
【0092】
さらにユーザが蓋体130を引き剥がすと、図6(B)に示すように、樹脂溜まり部120で表面層11の凝集破壊が途切れ、そこから先は蓋体130だけが引き剥がされる。これは、樹脂溜まり部120において、表面層11の凝集破壊が、第一樹脂溜まり部121の形状に沿って進行するためである。第一樹脂溜まり部121の表面と第二樹脂溜まり部122の表面とが互いに離反する接合領域140の端縁140E付近で表面層11は両側から引っ張られて破断し、蓋体130側から離れる。
【0093】
本実施形態に係る容器は、上記のような手順によって開封される。積層シート10の表面層11の凝集強度を弱めれば、開封時にユーザが蓋体130を引き剥がす力が小さくて済み、開封が容易になる。その一方で、開封前、容器本体110と蓋体130とが互いに接合された状態では、内部空間SPの内圧は接合領域140に作用する。接合領域140における蓋体130と容器本体110との間の接合強度は、表面層11の凝集強度よりも強くすることが可能であるため、上記のように表面層11の凝集強度を弱めることによって開封を容易にした場合であっても、蓋体130と容器本体110との間の接合強度は強いままにして高い内圧に対抗することができる。加えて、接合領域140では第一樹脂溜まり部121の凹部111側の根元付近に応力が集中するため、接合領域140はより樹脂溜まり部が形成されない場合よりも高い内圧に対抗することが可能である。このようにして、本実施形態に係る容器では、開封性と耐内圧性とを両立させることができる。なお、密封性を保つために、凝集剥離の表面層(上記の例では表面層11)の厚さは、一例として、その下限が10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、凝集剥離の表面層(上記の例では表面層11)の厚さの上限が200μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。また、上記で説明したような樹脂溜まり部120を形成することは必須ではなく、樹脂溜まり部が形成されない場合でも、上記のような凝集強度と層間接合強度との関係が成り立てば、上記の例と同様に開封性と耐内圧性とを両立させることができる。
【0094】
〔変形例〕
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
例えば、上記第二実施形態および第三実施形態において、第一の基材層12と第二の基材層13とが互いに隣接し、第一の基材層15と第二の基材層14とが互いに隣接する積層シート10,20を例示したが、第一の基材層12と第二の基材層13とは必ずしも隣接している必要はなく、他の層が介在してもよい。同様に、第一の基材層15と第二の基材層14とが必ずしも隣接している必要はなく、他の層が介在してもよい。
【0095】
また例えば、上記第二実施形態においては、第一の基材層12、第二の基材層13、接着層17、バリア層16、接着層17、第二の基材層14、および第一の基材層の7層構造の積層シート10を、上記第三実施形態においては、表面層11、第一の基材層12、第二の基材層13、接着層17、バリア層16、接着層17、第二の基材層14、および第一の基材層の8層構造の積層シート20を例示したが、これら以外の多層構造の積層シートであってもよい。これら以外の多層構造の積層シートは、ポリプロピレン系樹脂、エラストマー、および有機系造核剤を含有する層を、少なくとも一層有していればよい。
【0096】
また例えば、上記第二実施形態で説明した積層シート10および第三実施形態で説明した積層シート20において、バリア層16に対して、第一の基材層12,15と第二の基材層13,14とを対称的に配置したがこれに限定されない。例えば、バリア層16の一方側の面に第二の基材層13と第一の基材層12を積層し、バリア層16の他方側の面に第一の基材層15のみまたは第二の基材層14のみを積層する構成としてもよい。
【0097】
また例えば、必要とされる剛性およびバリア性等に応じて追加の層が含まれてもよく、またいずれかの層が省略されてもよい。
【0098】
また例えば、上記第二実施形態および第三実施形態において、第一の基材層12と第一の基材層15とが同様の材料で形成され、第二の基材層13と第二の基材層14とが同様の材料で形成される積層シート10を例示したが、第一の基材層12を形成する材料と第一の基材層15を形成する材料とは、異なっていてもよく、第二の基材層13と第二の基材層14を形成する材料とは、異なっていてもよい。
【0099】
また例えば、上記第四実施形態および第五実施形態において、本発明の一態様に係る積層シートを用いて形成された容器100等を例示したが、本発明の一態様に係る積層シートは、袋体等の包装体としても使用可能である。また、本発明の容器は、第一実施形態に係るシート1等の、単層のシートから成形された容器であってもよい。
【実施例0100】
以下、本発明に係る実施例を説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
〔実施例1~4および比較例1~2〕
実施例1~4および比較例1~2の各シートを、単層押出Tダイキャスト成形によって製造した。実施例1~4および比較例1~2では、タッチロール方式の引取機を用いた。
なお、各実施例および比較例におけるシートの原料は、以下の通りとし、各原料の配合量は表1に記載の通りとした。
また、各実施例および比較例におけるシートの厚さは、いずれも600μmとした。
【0101】
[実施例1]
・原料A-1:ホモポリプロピレン(アイソタクチック・ペンタッド分率:97mol%、メルトフローレート:0.4g/10min)
・原料A-2:エラストマー(エチレン-ブテン共重合体)(商品名:Engage(登録商標) HM7387/ダウ・東レ株式会社製、MFR:0.20g/10min、密度0.87g/cm
・原料A-3:有機系造核剤(商品名:アデカスタブ(登録商標)NA-27/株式会社ADEKA製、マスターバッチ中の正味量:5質量%)
・原料A-4:高密度ポリエチレン(MFR:0.37g/10min、密度:0.956g/cm
【0102】
[実施例2]
原料A-2を下記の通り変更した以外は、実施例1と同様にした。
・原料A-2:エラストマー(商品名:Engage(登録商標) EG8200/ダウ・東レ株式会社製、MFR:5.0g/10min、密度0.87g/cm
【0103】
[実施例3]
・原料A-1:ホモポリプロピレン(アイソタクチック・ペンタッド分率:97mol%、MFR:0.4g/10min)
・原料A-2:エラストマー(エチレン-ブテン共重合体)(商品名:Engage(登録商標) HM7387/ダウ・東レ株式会社製、MFR:0.20g/10min、密度0.87g/cm
・原料A-3:有機系造核剤(商品名:アデカスタブ(登録商標)NA-27/株式会社ADEKA製、マスターバッチ中の正味量:5質量%)
・原料A-4:高密度ポリエチレン(MFR:0.37g/10min、密度:0.956g/cm
・原料A-5:水添石油樹脂(商品名:アイマーブ(登録商標)P-140/株式会社プライムポリマー製、マスターバッチ中の正味量:50質量%)
【0104】
[実施例4]
原料A-3を下記の通りに変更した以外は、実施例3と同様の原料とした。
・原料A-3:有機系造核剤(商品名:ゲルオール(登録商標)DXR/新日本理化株式会社製、マスターバッチ中の正味量:10質量%)
【0105】
[比較例1]
原料A-3を下記の通りに変更した以外は、実施例1と同様の原料とした。
・原料A-3:無機系造核剤(商品名:CALP(登録商標)HMP460-1/出光ファインコンポジット株式会社製、マスターバッチ中の正味量:60質量%)
【0106】
[比較例2]
原料A-3を下記の通りに変更した以外は、実施例3と同様の原料とした。
・原料A-3:無機系造核剤(商品名:CALP(登録商標)HMP460-1/出光ファインコンポジット株式会社製、マスターバッチ中の正味量:60質量%)
【0107】
<容器の成形>
各実施例および比較例で製造した積層シートを、赤外線ヒーターにて基材層の樹脂の融点以下の温度に加熱し、金型に真空および圧縮空気にて押し付けて冷却することで、長辺13.5mm、短辺11mm、深さ3.1mmの長方形型容器を成形した。
【0108】
<各種評価>
・シートの評価
各実施例および比較例で成形したシートを用いて、以下の評価を行った。
【0109】
(引張特性:弾性率(MPa))
成形したシートから、JIS K7127:1999に準拠した試験片タイプ5(ダンベル形状のサンプル)を作製した。JIS K 7161:2014に基づき、引張試験機にてサンプルを50mm/分で引張試験を行い、MDおよびTDにおける引張特性としての弾性率(MPa)を測定した。また、MDおよびTDにおける弾性率から、平均値も算出した。結果を表1に示す。
【0110】
(耐衝撃性(J))
シートについて、-5℃環境下でJIS K5600-5-3:1999に規定するデュポン衝撃試験を実施し、50%破壊エネルギー(J)を、JIS K7211:2006に基づき算出して、耐衝撃性を評価した。結果を表1に示す。
【0111】
・容器の評価(薄肉化率(%))
実施例3および実施例5で製造したシートを成形した各々の容器について、以下の式により、比較例2で製造したシートを成形した容器に対する薄肉化率(%)を評価した。
薄肉化率(TRR)=(E/E1/3-1 (式)
但し、Eは評価対象の樹脂組成物の弾性率、Eは基準樹脂組成物(比較例2)の弾性率〔2549MPa(23℃)〕を示す。
その結果、比較例3に対する実施例3の薄肉化率は3.4%、実施例5の薄肉化率は3.0%であった。
なお、式の薄肉化率の値が大きいほど、成形品の厚みを薄肉化しても、成形品全体の剛性を維持できる可能性を示す。
【0112】
(座屈強度(N))
実施例3、実施例4、および比較例2の各々の容器について、次のようにして座屈強度を評価した。インストロン万能材料試験機 5965型(インストロンジャパンカンパニィリミテッド社製)に座屈用治具を取り付け、治具下側に容器開口を下にして置き、治具上側を10mm/minの速度で下降させ、容器の座屈を行った。一次座屈荷重が求められたら、治具上側の下降を停止し初期所定位置に上昇させた。
その結果、実施例3の容器の座屈強度は126Nであり、実施例4の容器の座屈強度は178Nであり、比較例2の容器の座屈強度は90Nであった。
【0113】
また、各実施例および比較例で製造したシートを成形した容器を用いて、以下の評価を行った。
【0114】
(引張特性:弾性率(MPa))
容器の底面部分から、JIS K7127:1999に準拠した試験片タイプ5(ダンベル形状のサンプル)を作製した。JIS K 7161:2014に基づき、引張試験機にてサンプルを50mm/分で引張試験を行い、MDおよびTDにおける引張特性としての弾性率(MPa)を測定した。また、MDおよびTDにおける弾性率から、平均値も算出した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1より明らかなように、実施例1および2は、比較例1と比べ、シートのTDの弾性率が劣るものの、容器とした際、TDの弾性率がいずれも200MPa以上向上する等、TDの弾性率の向上が比較例1よりも大きく、これにより実施例1および2ともに弾性率の平均値は、比較例1よりも優れた値となった。
また、実施例3は、比較例2と比べ、シートのTDの弾性率は同等であったものの、容器とした際、比較例2よりも大きく向上し、300MPa以上大きな値を示した。さらに実施例4は、比較例2と比べ、シートのTDの弾性率は劣るものの、容器とした際、TDの弾性率が比較例2よりも大きく向上し、300MPa以上大きな値を示した。これにより、実施例3および4ともに弾性率の平均値は、比較例2よりも優れた値となった。
【0117】
〔実施例5~18〕
実施例5~18の各シートを、単層押出Tダイキャスト成形によって製造した。実施例5~18ではエアナイフ方式の引取機を用いた。
なお、各実施例におけるシートの原料は、以下の通りとし、各原料の配合量は表2および表3に記載の通りとした。
また、各実施例におけるシートの厚さは、いずれも600μmとした。
【0118】
[実施例5]
・原料A-1:ホモポリプロピレン(アイソタクチック・ペンタッド分率:97mol%、メルトフローレート:0.4g/10min)
・原料A-2:エラストマー(エチレン-ブテン共重合体)(商品名:Engage(登録商標) HM7387/ダウ・東レ株式会社製、MFR:0.20g/10min、密度0.87g/cm
・原料A-3:有機系造核剤(商品名:ゲルオール(登録商標)DXR/新日本理化株式会社製、マスターバッチ中の正味量:10質量%)
・原料A-4:高密度ポリエチレン(MFR:0.37g/10min、密度:0.956g/cm
・原料A-5:水添石油樹脂(商品名:アイマーブ(登録商標)P-140/株式会社プライムポリマー製、マスターバッチ中の正味量:50質量%)
【0119】
[実施例6~18]
各々の実施例において、原料は実施例5と同様とし、配合量は表2および表3の通りに変更した。
【0120】
<各種評価>
各実施例で成形したシートを用いて、上述の評価方法と同様にして、シートの引張特性(弾性率(MPa))および耐衝撃性(J)の評価を行った。なお、引張特性はMDのみを評価した。結果を表2および表3に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属すると了解される。
【符号の説明】
【0124】
1…シート、10,20…積層シート、11…表面層、12,15…第一の基材層、13,14…第二の基材層、100…容器、111…凹部、112…フランジ部、SP…内部空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6