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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051894
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】制電性合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20230404BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20230404BHJP
   C08G 69/44 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
D01F6/90 311
D01F6/90 301
D01F6/90 311B
D01F6/90 311C
C08K5/42
C08L77/12
C08L33/10
C08L67/02
C08G69/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159136
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021162441
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕之
(72)【発明者】
【氏名】原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 颯太
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4J001DA03
4J001DB05
4J001DC03
4J001EA08
4J001EA44
4J001ED64
4J001EE72E
4J001FA03
4J001FB01
4J001FC01
4J001JA10
4J001JB23
4J001JB36
4J001JB50
4J002BG06Y
4J002CF06X
4J002CL08W
4J002EV256
4J002FD106
4J002FD206
4J002GK01
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE05
4L035EE13
4L035JJ14
4L035JJ23
4L035LC04
4L035LC07
(57)【要約】
【課題】 ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外の制電剤を使用し、紡糸操業性に優れ、十分な制電性能と耐光堅牢度を有する制電性合成繊維を得る。
【解決手段】 トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含有する制電性合成繊維である。トリフルオロメタンスルホン酸カリウム及びポリアミド12、ポリエチレングリコール、セバシン酸を繰り返し単位として含む共重合樹脂から構成される樹脂組成物と、合成樹脂とを含有する制電性合成繊維であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含有する制電性合成繊維。
【請求項2】
トリフルオロメタンスルホン酸カリウム及びポリアミド12、ポリエチレングリコール、セバシン酸を繰り返し単位として含む共重合樹脂から構成される樹脂組成物と、合成樹脂とを含有する制電性合成繊維。
【請求項3】
樹脂組成物において、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを1~10質量%含む請求項2記載の制電性合成繊維。
【請求項4】
樹脂組成物に、さらにポリメタクリル酸メチルを含有する請求項2または3記載の制電性合成繊維。
【請求項5】
樹脂組成物に、さらにポリエチレンテレフタレートを含有する請求項2~4いずれか1項記載の制電性複合繊維。
【請求項6】
合成樹脂と樹脂組成物との比率(質量比)が、7:1~100:1である請求項2~5いずれか1項記載の制電性合成繊維。
【請求項7】
合成繊維を構成する主たる樹脂がポリエステルである請求項1~6いずれか1項記載の制電性合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有する繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維はコストが安価であり、機械的特性に優れているため、幅広い用途で用いられている。しかし、ポリエステルは本質的に疎水性であり、また電気抵抗が高いことから、静電気が発生しやすい傾向にある。この欠点を解消するためにポリエステル繊維に制電性を付与する方法は、これまでに種々の提案がなされている。制電性を付与する方法として、ポリエステルへの親水性化合物の添加が挙げられる。代表的なものとしてポリアルキレングリコールがあり、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物を添加したポリエステル繊維が提案されている。特許文献1には、重量平均分子量が15000~50000で分子量分布(Mw/Mn)が1.7以上好ましくは1.8~2.0のポリエチレングリコールを6~16重量%含有しており、かつ含有されているポリエチレングリコールのうち未反応のものが40重量%以下である制電性ポリエステル繊維が提案されている。
また、繊維表面に後加工で制電性を付与する方法提案されている。特許文献2には、単糸繊度が1.0デシテックス以上5.0デシテックス以下である繊維表層に導電性高分子が付着し導電性が付与された繊維からなる織編物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-148132号公報
【特許文献2】特開2007-113132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の繊維は、繊維全体にポリエチレングリコールが分散しているため、制電性能が不十分である。制電性能を高くするために、制電剤の含有量を増やすとコストが高くなり、紡糸操業性も悪くなる問題があった。
また、ポリアルキレングリコールは粘度が低く、繊維を形成する樹脂と混合しにくいため、圧入機により口金内に注入する方法が好ましく用いられる。この方法は、計量ギアポンプに至る前に、圧入機によりポリアルキレングリコールを注入し、ポリエステルと静止混合器にて混合し、その混合物を計量ギアポンプにて計量し、口金から吐出するものであり、装置の煩雑さなどから管理にもコストがかかり、圧入量が安定せず紡糸操業性が悪い等の問題があった。また、ポリアルキレングリコールは粘度が低いため繊維表面にブリードアウトしやすく、洗濯すると剤抜けして制電性能が低下してしまう。
上記の理由から、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外の制電剤を使用した制電性繊維が求められている。
特許文献2記載の繊維は、繊維表層に導電性高分子を付着させ、制電性を付与しているため、数回の洗濯を実施した際に、剥げてしまうことによって、制電性・導電性が低下してしまう。
したがって、本発明はポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外の制電剤を使用して、制電成分を繊維中に含有させることのできる制電性繊維を得ることを目的とする。
また、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外の制電剤を使用し、紡糸操業性に優れ、十分な制電性能と耐光堅牢度を有する制電性合成繊維を得ることを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含む合成繊維とすることにより、ポリアルキレングリコール以外の樹脂組成物を用いて制電成分を繊維中に含有する制電性繊維を得ることを見出し、本発明に到達した。
特に、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムと、ポリアミド12、ポリエチレングリコール、セバシン酸などの共重合で構成される樹脂組成物を使用することによって、制電剤を繊維内に均一に分散させることができ、コストを抑えつつ、十分な制電性能、耐光堅牢度を発揮し、操業性も良い繊維を得ることができる。
すなわち、上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。
第1に、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含有する制電性合成繊維である。
第2に、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム及びポリアミド12、ポリエチレングリコール、セバシン酸を繰り返し単位として含む共重合樹脂から構成される樹脂組成物と、合成樹脂とを含有する制電性合成繊維である。
第3に、樹脂組成物において、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを1~10質量%含む上記制電性合成繊維である。
第4,5に、樹脂組成物に、さらにポリメタクリル酸メチルやポリエチレンテレフタレートを含有する上記制電性複合繊維である。
第6に、合成樹脂と樹脂組成物との比率(質量比)が、7:1~100:1の制電性合成繊維である。
第7に、合成繊維を構成する主たる樹脂がポリエステルである上記制電性合成繊維である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリアルキレングリコール以外を主成分とする制電性繊維を得ることができる。中でも、ポリアミド12を主成分として、ポリアルキレングリコール、及びセバシン酸との樹脂組成物からなり、制電成分であるトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを組み合わせることにより特に優れた制電性繊維を得ることができる。
また、紡糸操業性に優れ、生産コストを抑えて繊維内への制電剤を均一分散することができるため、制電性が良好で、耐光堅牢度の優れた制電性合成繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の制電性合成繊維は、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含有する。
具体的には、本発明の制電性合成繊維は、熱可塑性樹脂にポリアミド共重合樹脂等とトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含む樹脂組成物を合成樹脂にブレンドして得られる制電性合成繊維であることが好ましい。
【0008】
本発明において、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムは、樹脂組成物の制電性成分として、用いられることが好ましい。
樹脂組成物に含まれるトリフルオロメタンスルホン酸カリウムの添加濃度(含有量)としては、制電性の発現し易い点から、樹脂組成物に対し、1~10質量%が好ましい。さらに好ましくは、1.2~5質量%である。1質量%未満では、制電性が発現しにくく、10質量%を超えると、強伸度低下、耐光堅牢度が悪くなる傾向がある。
【0009】
以下、上記樹脂組成物を制電成分として用いる場合についてさらに詳しく説明する。
本発明の制電性合成繊維は、主たる合成樹脂にトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含有する樹脂組成物をブレンドして得られる繊維であることが好ましい。
【0010】
上記合成樹脂としては、ポリエステルが好適に挙げられる。具体的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートやそれらからなる、共重合ポリエステルが挙げられる。
【0011】
本発明における樹脂組成物は、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム及び熱可塑性樹脂を含む。
【0012】
本発明における樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂として、共重合樹脂を含むことが好ましい。上記共重合樹脂としては、ポリアミド系共重合樹脂であることが好ましい。具体的な共重合樹脂としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムの制電性を補助し易い観点から、ポリアミド12、ポリエチレングリコール、セバシン酸の共重合体であることが好ましい。ポリエチレングリコールとしては、分子量1200~1800の範囲であるPEG1540であることが好ましく、特に、ポリアミド12、PEG1540、セバシン酸の共重合体であることが好ましい。
【0013】
上記共重合樹脂は、主成分としてポリアミド12、副成分としてポリエチレングリコール及びセバシン酸を含むことが好ましく、具体的な組成比としては、ポリアミド12は、共重合樹脂全体の60~90モル%、副成分はそれぞれ5~20モル%とすることが好ましい。具体的には、ポリアミド12:ポリエチレングリコール:セバシン酸=60:20:20、80:10:10及び90:5:5などが挙げられる。上記の範囲であれば、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムの制電性を特に効率良く発揮できる。この範囲の組成比とする場合、ポリエチレングリコールをPEG1540とすることが特に好適である。
特に好適な態様として、具体的には、ポリアミド12:ポリエチレングルコール:セバシン酸=60:20:20、80:10:10及び90:5:5などが挙げられる。
【0014】
本発明における樹脂組成物の熱可塑性樹脂としては、上記共重合樹脂にその他の樹脂を混合したものであってもよい。その他の樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられ、ブレンドする合成樹脂との親和性を補助する目的で含有させるとよい。その他の樹脂の添加量(含有量)としては、制電性を損なわないようにする点から、PMMAの場合は、樹脂組成物に対し、30質量%未満の添加量(含有量)が好ましい。また、PETの場合は、樹脂組成物に対し、40%以下の添加量(含有量)が好ましい。
【0015】
上記合成樹脂と上記樹脂組成物との混合比は、制電性と耐光堅牢度とのバランスの点から、合成樹脂:樹脂組成物=7:1~100:1であることが好ましく、合成樹脂:樹脂組成物=10:1~100:1であることがより好ましい。さらに好ましくは、20:1~60:1である。7:1より合成樹脂が少ない場合は、十分な制電性を有するものとなるが、耐光堅牢度が悪くなる傾向がある。また100:1より合成樹脂が多い場合、制電性が低くなる傾向がある。
【0016】
本発明の制電性合成繊維は、上記合成樹脂及び上記樹脂組成物で構成する単独繊維であっても、複合繊維の一部の成分として、上記合成樹脂及び上記樹脂組成物を用いた複合繊維であってもよい。複合繊維の場合、樹脂組成物を含む層が繊維表面の層にあることが好ましい。その樹脂組成物が添加されている層が表面に露出している割合は、40%以上あることが好ましい。40%未満の場合は、十分な制電性能が発揮されない傾向がある。
【0017】
本発明に用いる合成樹脂および樹脂組成物の水分率は、ポリエステルの場合、紡糸操業性の観点から、50ppm以下が好ましい。単糸繊度が細いほど水分率を低くすることが好ましい。
【0018】
本発明の制電性合成繊維は、本発明の効果を損なわない範囲であれば一般的に使用される添加剤、滑剤、艶消し剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、制電剤、耐光剤などが含まれていてもよい。
【0019】
本発明の制電性合成繊維の総繊度は、10dtex以上であることが好ましい。総繊度が10dtex以上であれば繊維化が容易となる。
【0020】
本発明の制電性合成繊維の破断強度は、織編加工等で糸切れ無く、後加工の工程通過性を良好に保つ点から、3.0cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは3.5cN/dtex以上である。
【0021】
本発明の制電性合成繊維の破断伸度は、織編加工等で糸切れ無く、後加工の工程通過性が良好である点から、28~45%が好ましい。より好ましくは30~37%である。
【0022】
本発明の制電性合成繊維の製造方法は、例えばコンベ方式、POY方式、SPD方式が挙げられるが、省力化、生産性の観点から、SPD方式(直接紡糸延伸法)が好ましく、意匠糸を得たい場合、POY-仮撚方式(POY方式で半延伸糸を仮撚加工する方式)を採用することが好ましい。
【0023】
SPD方式において、紡糸温度は、280℃以上が好ましい。より好ましくは、紡糸温度が290℃以上である。上限は、紡糸温度300℃程度が好ましい。
【0024】
本発明の制電性合成繊維は、織物、編物などの布帛に好適に用いることができる。
本発明の制電性合成繊維を用いた布帛としては、制電性を十分発揮し易い点から、本発明の制電性合成繊維を40質量%以上含むことが好ましい。
また、本発明の制電性合成繊維を用いた制電性布帛は、織物や編物の場合、衣服とした際の着用時、静電気を防御し易い点から、経糸、緯糸のどちらかに少なくとも40質量%以上の制電性合成繊維を使用することが好ましい。
【0025】
本発明の制電性合成繊維を用いた布帛の摩擦耐電圧(B法)は、標準状態において、3kV以下であることが好ましく、さらに好ましくは1kV以下である。制電剤の添加されていない一般のポリエステルでは、通常5~7kV程度であり、用途によって、求められる摩擦耐電圧は異なるものの上記のように本発明の制電性合成繊維を用いた布帛とすることにより、3kV以下とすることができ、制電性生地として使用できる。
【0026】
本発明の制電性合成繊維を用いた布帛の耐光堅牢度は、3級以上あればよく、さらに良くは4級以上である。3級未満では、黄変が発生し、見た目が悪くなる傾向がみられる。
【0027】
本発明の制電性合成繊維を含む布帛を、衣料の裏地品、シーツ等の材料とすることにより、これらの製品に十分な制電性機能を持たせることができる。
【実施例0028】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
物性の測定および評価は、以下の通り実施した。
A.繊度
JIS-L-1013に準じ、試料を枠周1.125mの検尺機を用い、120回/minの速度で捲き取り、その質量を量り、繊度を求めた。これを5回測定し、平均値を出した。
B.破断強度、破断伸度
JIS-L-1013に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ(登録商標)引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、その時の伸び率を破断伸度(%)とする。
C.紡糸性
紡糸に時点で、ボビンの採取、捲き付け不可、また、サッカーで糸を吸うとノズル直下で切れる「×」、24時間操業し、糸切れ回数が1,2回のものを「△」、24時間操業し、糸切れ回数が0回のものを「〇」とした。
D.摩擦耐電圧試験
20℃、40%RH(または30%RH)の環境下で、JIS L 1094(2014) のB法(摩擦帯電圧測定法)に準じて、摩擦帯電圧測定機を使用し、試験片を回転させながら摩擦布(綿または毛)と摩擦し、摩擦した際に発生する帯電圧(V)を測定する。摩擦開始60秒後に試験片が帯電した電圧を測定する。
E.耐光堅牢度
紫外線を照射する紫外線カーボンアーク灯光(JIS-L-0842)に準じ、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機株式会社製)を用い、測定をする。試験片を小窓の開いた厚紙に挟み、試料ホルダに取り付ける。紫外線カーボンアーク灯光を用いて、目的のブルースケール(3級試験では3級ブルースケール、4級試験では4級ブルースケール)が標準退色するまで光を当てる。照射後、試験片を取り出し、光が当たった部分と当たらなかった部分の色の差を、標準退色したブルースケールと比較し、判定する。
F.総合評価
紡糸性、摩擦帯電圧、耐光堅牢度の3点の総合評価で決定し、△以上であれば合格とする。このとき、紡糸性は上記の通り〇、△、×とし、摩擦耐電圧は2kV以下=○、2kV超~3kV以下=△、3kV超=×、耐光堅牢度は3-4級以上=○、3級=△、2級以下=×とする。3項目すべて○なら○とする。3項目で×を除いて、一つでも△があれば△とし、3項目で一つでも×があれば×とする。
【0029】
〔実施例1〕
制電性のある樹脂組成物として、ポリアミド12、PEG1540及びセバシン酸が8:1:1の割合(モル比)の共重合樹脂に対しトリフルオロメタンスルホン酸カリウムが1.5質量%含有したものを用い、合成樹脂として、ポリエチレンテレフタレートを用いた。樹脂組成物および合成樹脂を真空乾燥機にて乾燥させ、それぞれの水分率を40ppmとした。ポリエチレンテレフタレートと樹脂組成物を混合比率7.3:1で攪拌し、溶融紡糸を行った。ポリマーの融点より高い温度に調整されたエクストルーダーでポリマーを押し出し、ギアポンプで計量したのち、口金から吐出された糸条を、油剤付与ガイドを通過させ、直接紡糸延伸法にて、84dtex/36fの制電性合成繊維を得た(繊度80.9dtex、破断強度3.29%、破断伸度28.6%)。紡糸性の評価は△であった。
得られた制電性複合繊維を緯糸とし、56dtex/36fのセミダルのポリエチレンテレフタレート繊維を経糸として、経密度97本/2.54cm、緯密度83本/2.54cmで平織の織物を製織した。その後、精練、セット工程、分散染色、水仕上げ加工を実施し、制電性加工生地を得た。得られた摩擦耐電圧を測定したところ、0.2kV、耐光堅牢度は2級であった。
実施例1から得られた制電性合成繊維は、ポリアルキレングリコール以外を主成分とするにも拘わらず、得られた制電性合成繊維及び加工生地はいずれも摩擦帯電圧が低く、制電性能の高いものであり、制電性能は十分満足のいくものであった。
【0030】
〔実施例2~6〕
合成樹脂であるポリエチレンテレフタレートと樹脂組成物の混合比を表1の通りとする以外は、実施例1と同様に制電性合成繊維及び制電性加工生地を得た。
【0031】
〔比較例1〕
制電性のある樹脂組成物を添加しない以外は実施例1と同様に合成繊維及び加工生地を得た。
【0032】
〔比較例2〕
トリフルオロメタンスルホン酸カリウムが未添加である以外は、実施例5と同様に合成繊維と加工生地を得た。
【0033】
〔実施例7〕
制電性のある樹脂組成物の共重合樹脂(ポリアミド12:PEG1540:セバシン酸)の共重合組成比率を6:2:2とする以外は、実施例5と同様に制電性合成繊維と制電性加工生地を得た。
【0034】
〔実施例8、9〕
共重合樹脂に対しトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを5質量%、10質量%含有した樹脂組成物とする以外は、実施例5と同様に制電性合成繊維と制電性加工生地を得た。
【0035】
〔実施例10〕
制電性のある樹脂組成物として、ポリアミド12、PEG1540及びセバシン酸がそれぞれ、8:1:1の割合で共重合樹脂にトリフルオロメタンスルホン酸カリウムが1.5質量%含有したものを用いた。また、合成樹脂として、セミダルのポリエチレンテレフタレートを準備した。樹脂組成物及びポリエチレンテレフタレートを乾燥させ、水分率を40ppmとした。鞘成分として、樹脂組成物及びポリエチレンテレフタレートを準備し、撹拌機を用いて39:1で混合したものを用い、芯成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、溶融紡糸を行った。それぞれポリマーの融点より高い温度に調整されたエクストルーダ―でポリマーを押し出し、ギアポンプで計量したのち、口金内で会合し、吐出された糸条を、油剤付与ガイドを通過させ、直接紡糸延伸法にて、84dtex/36fの制電性合成繊維を得た。次いで、実施例5と同様に制電性加工生地を得た。
【0036】
〔実施例11〕
制電性のある樹脂組成物として、共重合樹脂及びトリフルオロメタンスルホン酸カリウムに加え、PMMAをブレンドして含有させたものを用いる以外は、実施例5と同様に制電性合成繊維及び制電性加工生地を得た。混合比率(質量比)は、共重合樹脂:PMMA=80:20とした。
【0037】
〔実施例12〕
制電性のある樹脂組成物として、共重合樹脂及びトリフルオロメタンスルホン酸カリウムに加え、PETをブレンドして含有させたものを用いる以外は、実施例5と同様に合成繊維及び制電性加工生地を得た。混合比率(質量比)は、共重合樹脂:PET=70:30とした。
【0038】
〔比較例3、4〕
トリフルオロメタンスルホン酸カリウムが未添加である以外は、実施例11、12と同様に合成繊維と加工生地を得た。
【0039】
〔実施例13〕
合成樹脂として、PBTを用いる以外は、実施例5と同様に制電性合成繊維と制電性加工生地を得た。
【0040】
〔比較例5〕
トリフルオロメタンスルホン酸カリウムが未添加である以外は、実施例13と同様に合成繊維と加工生地を得た。
実施例2~13、比較例1~5の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例2~13から得られた制電性合成繊維及び加工生地はいずれも摩擦帯電圧が3kV以下で、制電性能の高いものであり、耐光堅牢度が3級以上で、制電性能として十分満足のいくものであった。特に、実施例3~5、8~10、12、13は、摩擦耐電圧2kV以下、耐光堅牢度3-4級以上でさらに、制電性能としても十分満足のいくものであった。
比較例1は、制電性のある樹脂組成物を含まないため、制電性の無い繊維、生地となった。
比較例2~5は、樹脂組成物にトリフルオロスルホン酸を含まないため、充分な制電性を得られない繊維、生地となったため、静電気が発生しやすい、着心地の悪い生地となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の制電性合成繊維は、紡糸操業性が良好であり、制電性能が優れており、ポリエステル織編物に混用して制電性生地とした際に、裏地に好適に用いることができる。