(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051895
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】制電性海島繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D01F8/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159137
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021162349
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原 健太郎
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA16
4L041BA17
4L041BC08
4L041CA06
4L041CB13
4L041CB17
4L041CB18
4L041CB28
4L041DD01
4L041DD22
(57)【要約】
【課題】紡糸操業性が良好で、低コストで十分な制電性能を有する制電性海島繊維を得ることを目的とする。
【解決手段】島部がポリエステル、海部がポリエステルと制電剤を含む制電性海島繊維であって、繊維表面に露出していない複数の島部と、島部を覆う海部とから構成され、繊維全体における制電剤の含有量が2.2~3.3質量%であり、海部の制電剤の含有量が4.5~6.0質量%であり、繊維横断面における海部が占める面積の割合が40~70%であることを特徴とする制電性海島繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
島部がポリエステル、海部がポリエステルと制電剤を含む制電性海島繊維であって、繊維表面に露出していない複数の島部と、島部を覆う海部とから構成され、繊維全体における制電剤の含有量が2.2~3.3質量%であり、海部における制電剤の含有量が4.5~6.0質量%であり、繊維横断面における海部が占める面積の割合が40~70%であることを特徴とする制電性海島繊維。
【請求項2】
前記制電剤が、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含むことを特徴とする請求項1記載の制電性海島繊維。
【請求項3】
総繊度が10dtex以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の制電性海島繊維。
【請求項4】
単糸繊度が1~10dtexであることを特徴とする請求項1~3記載の制電性海島繊維。
【請求項5】
島部の数が10~40個であることを特徴とする請求項1~4記載の制電性海島繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有する海島繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維はコストが安価であり、機械的特性に優れているため、幅広い用途で用いられている。しかし、ポリエステルは本質的に疎水性であり、また電気抵抗が高いことから、ポリエステル繊維は静電気が発生しやすい傾向にある。この欠点を解消するためにポリエステル繊維に制電性を付与する方法について、これまでに種々の提案がなされている。制電性を付与する方法として、ポリエステルへの親水性化合物の添加が挙げられる。代表的なものとしてポリアルキレングリコールがあり、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物を添加したポリエステル繊維が提案されており、特許文献1には、制電剤としてポリエチレングリコールを含有するポリエステル繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の繊維は、繊維全体に制電剤としてのポリエチレングリコールが分散しているため、制電剤の含有量の割に制電性能が不十分である。制電性能を高くするために、制電剤の含有量を増やすとコストが高くなり、紡糸操業性も悪くなる問題があった。
また、ポリアルキレングリコールは粘度が低く、繊維を形成する樹脂と混合しにくいため、圧入機により口金内に注入する方法が好ましく用いられる。この方法は、計量ギアポンプに至る前に、圧入機によりポリアルキレングリコールを注入し、ポリエステルと静止混合器にて混合し、その混合物を計量ギアポンプにて計量し、口金から吐出するものであり、装置の煩雑さなどから管理にもコストがかかり、圧入量が安定せず紡糸操業性が悪い等の問題があった。また、ポリアルキレングリコールは粘度が低いため繊維表面にブリードアウトしやすく、洗濯すると剤抜けして制電性能が低下してしまう。
上記の理由から、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外の制電剤を使用した制電性繊維が求められている。
したがって、本発明はポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外の制電剤を使用しても、紡糸操業性に優れ、十分な制電性能を有する制電性繊維を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、海部のみ特定量の制電剤を含有する海島繊維であれば、コストを抑えつつ、十分な制電性能を発揮し、操業性も良い繊維を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)島部がポリエステル、海部がポリエステルと制電剤を含む制電性海島繊維であって、繊維表面に露出していない複数の島部と、島部を覆う海部とから構成され、繊維全体における制電剤の含有量が2.2~3.3質量%であり、海部における制電剤の含有量が4.5~6.0質量%であり、繊維横断面における海部が占める面積の割合が40~70%である制電性海島繊維。
【0006】
(2)前記制電剤が、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを含むことを特徴とする(1)記載の制電性海島繊維。
【0007】
(3)総繊度が10dtex以上である(1)又は(2)記載の制電性海島繊維。
【0008】
(4)単糸繊度が1~10dtexである(1)~(3)記載の制電性海島繊維。
【0009】
(5)島部の数が10~40個である前記(1)~(4)記載の制電性海島繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紡糸操業性に優れ、低コストで制電性のある制電性海島繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の制電性海島繊維とは異なる繊維横断面の一例
【
図2】本発明の制電性海島繊維とは異なる繊維横断面の一例
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の制電性海島繊維は、繊維表面に露出していない複数の島部と、島部を覆う海部とから構成される。
【0013】
本発明の制電性海島繊維は、島部がポリエステル、海部がポリエステルと制電剤を含む制電性海島繊維である。海部にのみ制電剤を含有していることで、少ない制電剤の量でも制電性能が高い。
【0014】
本発明におけるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ―p―エチレンオキシベンゾエートから選ばれる少なくとも1種のポリマーからなることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0015】
本発明における制電剤は、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールを主成分とする樹脂組成物以外であれば特に限定されないが、アルキルスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルブロックアミド共重合体、有機金属塩を含む帯電防止剤から適宜選定することができる。制電性能発現に温度依存性がない、また、繊維の透明性を維持できることから特に有機金属塩を含む帯電防止剤を用いるのが好ましい。有機金属塩を含む帯電防止剤としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムを有機金属塩として含むものが好ましい。
【0016】
本発明における制電剤の含有量は、繊維全体中で2.2~3.3質量%であることが好ましい。繊維全体中の制電剤の含有量が2.2質量%以上であれば、制電性能が高い繊維を得ることができ、3.3質量%以下であれば紡糸操業性も良好である。また、海部中で4.5~6.0質量%であることが好ましい。海部中の制電剤の含有量が4.5質量%以上であれば、制電性能が高い繊維を得ることができ、6.0質量%以下であれば、繊維化が可能である。
【0017】
本発明の制電性海島繊維の海部の繊維横断面積は、繊維全体の横断面積に対して40~70%であることが好ましく、50~67%であることがより好ましい。40~70%であれば、紡糸操業性が優れ、十分な制電性能も得られる。
【0018】
本発明の制電性海島繊維の島部の数は、10~40個であることが好ましい。島部の数が10個以上であれば、制電性能が発現しやすくなる。島部の数が40個以下であれば紡糸過程で島部が融合しにくく、紡糸操業性が安定する。
【0019】
本発明の制電性海島繊維の総繊度は、10dtex以上であることが好ましい。総繊度が10dtex以上であれば繊維化が容易となる。
【0020】
本発明の制電性海島繊維の単糸繊度は、1~10dtexであることが好ましい。単糸繊度が1dtex以上であれば、繊維化が容易であり、単糸繊度が10dtex以下であれば、制電性能に優れる。また、布帛としたときに柔らかな衣類の製造が可能となる。
【0021】
本発明に使用されるポリエステル及び制電剤の水分率は、紡糸操業性の観点から、50ppm以下が好ましい。単糸繊度が細いほど乾燥を強化することが好ましい。
【0022】
本発明の制電性海島繊維の破断強度は、織編加工等で糸切れが少なく、後加工の工程通過性を良好に保つ点から、3.5cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは4.0cN/dtex以上である。
【0023】
本発明の制電性海島繊維の破断伸度は、織編加工等で糸切れが少なく、後加工の工程通過性が良好である点から、30%以上が好ましい。より好ましくは35%以上である。
【0024】
本発明の制電性海島繊維は、下記制電性評価試験により測定した初期摩擦帯電圧の値が、-8000Vより大きいことが好ましい。-8000Vより大きいと、制電糸として十分な性能を持たせることができる。
<制電性評価試験>
JIS L 1094 2014 D法(摩擦帯電減衰測定法)にてサンプルの初期摩擦帯電圧を測定する。測定条件は以下の通りである。
摩擦帯電測定:インテック株式会社 摩擦帯電減衰測定装置(EST-8)
摩擦布:羊毛
摩擦方向:縦方向
洗濯処理:洗濯あり
温湿度:20℃ 40%RH
【0025】
本発明の制電性海島繊維の製造方法としては、例えばコンベ方式、POY方式、SPD方式が挙げられるが、省力化、生産性の観点から、SPD方式を採用することが好ましい。
【0026】
SPD方式において、紡糸温度は、280℃以上が好ましい。より好ましくは、紡糸温度が290℃以上である。上限は、紡糸温度300℃程度が好ましい。
【0027】
本発明の制電性海島繊維を含む布帛を、衣料の裏地品、シーツ等の材料とすることにより、これらの製品に制電性を付与することができる。
【実施例0028】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
物性の測定及び評価は、以下の通り実施した。
【0029】
<制電性評価試験>
筒編生地を炭酸ナトリウム:2g/L、エマルゲン707:2g/Lの水溶液で70℃、20分精練処理後、前述したJIS L 1094 2014 D法(摩擦帯電圧減衰測定法)により初期摩擦耐電圧を測定した。なお、測定条件については前述した通りである。制電性を以下の基準で評価した。
◎:初期摩擦帯電圧が-7000V以上
〇:初期摩擦帯電圧が-8000V以上~-7000V未満
×:初期摩擦帯電圧が-8000V未満
【0030】
<破断強度、破断伸度の測定>
JIS L 1013に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ(登録商標)引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張試験20cm/minの条件で測定した。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とした。
【0031】
<紡糸操業性評価>
紡糸操業性を以下の基準で評価した。
◎:10時間の紡糸で糸切れなし
〇:10時間の紡糸で糸切れが1~2回
×:10時間の紡糸で糸切れ3回以上
【0032】
〔実施例1〕
制電剤として、有機金属塩(トリフルオロメタンスルホン酸カリウム)を含む帯電防止剤(クローダジャパン製「IonPhase hSTAT2」)を用い、ポリエチレンテレフタレート及び制電剤を真空乾燥機にて乾燥させ、水分率を40ppmとした。海部にポリエチレンテレフタレートと制電剤をチップブレンドして用い、島部にポリエチレンテレフタレートを用い、繊維表面に露出していない島部(島数19個)と、島部を覆う海部とから構成される海島断面を形成しうる口金を用い、溶融複合紡糸を行った。繊維横断面における海部が占める面積の割合を50%とし、海部における制電剤の含有量を5質量%とし、繊維全体における制電剤の含有量が2.5質量%になるようにした。280℃に調整された2つのエクストルーダ―で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートと制電剤をチップブレンドしたものをそれぞれ別々に押し出し、ギアポンプで計量したのち口金内で会合し、吐出された糸条を、油剤付与ガイドを通過させ、速度980m/min、温度83℃に設定した第1ゴデッドローラー、速度3600m/min、温度135℃に設定した第2ゴデッドローラーを介し、得られる糸の破断伸度が20~40%となるよう連続的に延伸し、さらに速度3570m/minのワインダーで巻き取り、33dtex/12fの制電性海島繊維を得た。
得られた制電性海島繊維の破断強度及び破断伸度の測定をした。
また、得られた制電性海島繊維のマルチフィラメントを2本合わせ、筒編機にて筒編み(32ゲージ)し、得られた筒編生地を用いて制電性評価を行った。
【0033】
〔実施例2〕
海部における制電剤の含有量が6.0質量%であり、繊維全体における制電剤の含有量が3.0質量%であること以外は、実施例1と同様にして制電性海島繊維を得た。得られた制電性海島繊維を用いて破断強度及び破断伸度の測定をした。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0034】
〔実施例3〕
海部における制電剤の含有量が4.5質量%であり、繊維全体における制電剤の含有量が2.3質量%であること以外は、実施例1と同様にして制電性海島繊維を得た。得られた制電性海島繊維を用いて破断強度及び破断伸度の測定をした。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0035】
〔実施例4〕
繊維横断面における海部が占める面積の割合を67%とし、繊維全体における制電剤の含有量が3.3質量%であること以外は、実施例1と同様にして制電性海島繊維を得た。得られた制電性海島繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0036】
〔比較例1〕
繊維横断面が、繊維表面に露出していない一つの芯部と、芯部を覆う鞘部から構成される芯鞘形となるような口金を用い、実施例1の海部を鞘部に、また島部を芯部としたこと以外は実施例1と同様にして制電性繊維を得た。得られた制電性繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0037】
〔比較例2〕
ポリエチレンテレフタレートと制電剤のチップブレンドしたものを、繊維横断面が丸断面となるような口金を用いて紡糸し、繊維全体における制電剤の含有量を3.0質量%としたこと以外は実施例1と同様にして制電性繊維を得た。得られた制電性繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0038】
〔比較例3〕
繊維横断面が十字形部1/扇形部2となるような口金を用い、実施例1の海部が十字形部1に、島部が扇形部2となるように変更する以外は実施例1と同様にし、
図1に示す形状の制電性繊維を得た。得られた制電性繊維を用いて破断強及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0039】
〔比較例4〕
繊維横断面が米字形部3/扇形部4となるような口金を用い、実施例1の海部が米字形部3に、島部が扇形部4となるように変更する以外は実施例1と同様にし、
図2に示す形状の制電性繊維を得た。得られた制電性繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0040】
〔比較例5〕
海部における制電剤の含有量が4.0質量%であり、繊維全体における制電剤の含有量が2.0質量%であること以外は、実施例1と同様にして制電性繊維を得た。得られた制電性繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0041】
〔比較例6〕
制電剤含有ポリエチレンテレフタレートにおける制電剤の含有量が7.0質量%であり、繊維全体における制電剤の含有量が3.5質量%であること以外は、実施例1と同様に制電性海島繊維を得た。得られた制電性海島繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
【0042】
〔比較例7〕
繊維横断面における海部が占める面積の割合を33%とし、繊維全体における制電剤の含有量が1.7質量%であること以外は、実施例1と同様にして制電性海島繊維を得た。得られた制電性海島繊維を用いて破断強度及び破断伸度を測定した。
また、実施例1と同様にして筒編生地を作製して制電性評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
実施例1~4から得られた制電性海島繊維はいずれも初期摩擦帯電圧が-7000V以上で、制電性能の高いものであり、制電性能として十分満足のいくものであった。
本発明の制電性海島繊維は、紡糸操業性が良好であり、制電性能が優れており、ポリエステル織編物に混用して制電性生地とした際に、裏地に好適に用いることができる。