IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドーの特許一覧 ▶ サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィクの特許一覧 ▶ アンスティテュ・ドプティーク・テオリク・エ・アプリケの特許一覧

特開2023-52084神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用
<>
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図1
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図2
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図3
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図4A
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図4B
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図4C
  • 特開-神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用 図4D
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052084
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】神経組織ユニットおよび哺乳類の神経系への埋め込みのための該ユニットの使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20230404BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20230404BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230404BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20230404BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61K35/30
A61L27/36 130
A61L27/36 400
A61L27/38 200
A61L27/38 300
A61L27/44
A61L27/52
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022208482
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2019547790の分割
【原出願日】2017-11-23
(31)【優先権主張番号】1661378
(32)【優先日】2016-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】519183782
【氏名又は名称】アンスティテュ・ドプティーク・テオリク・エ・アプリケ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT D’OPTIQUE THEORIQUE ET APPLIQUEE
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】マクシム・フェイユー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・アレッサンドリ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ナソワ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・コニェ
(72)【発明者】
【氏名】アブデルハミド・ベナゾーズ
(72)【発明者】
【氏名】エルワン・ベザール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】埋め込まれた細胞の生存率を改善するため、特に神経変性疾患の患者において改変されたニューロンを永続的に置き換えるための、ニューロン埋め込み系を提供する。
【解決手段】ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系への埋め込みにおける使用のための神経組織ユニットであって、該神経組織ユニットが、細胞外マトリックス中に分化した有糸分裂後ニューロンを含み、該ユニットが、単一の神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、神経組織ユニットの使用前に、少なくとも部分的に除去される、神経組織ユニットを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系への埋め込みにおける使用のための神経組織ユニットであって、該神経組織ユニットが、細胞外マトリックス中に分化した有糸分裂後ニューロンを含み、該ユニットが、単一の神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、該神経組織ユニットの使用前に、少なくとも部分的に除去される、神経組織ユニット。
【請求項2】
該神経組織ユニットが、ヒドロゲルを含まない、請求項1に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項3】
神経系細胞が、好ましくは50μm~500μm±10%、優先的には150μm~400μm±10%、さらにより優先的には200μm~300μm±10%の最も小さい寸法を有する、一群の神経系細胞を形成する、請求項1または2に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項4】
該神経系細胞ユニットが、神経系細胞およびグリア細胞を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項5】
該ユニットが、目的の表現型の有糸分裂後ニューロンの10~100%、優先的には50~100%、より優先的には90%超を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項6】
該ユニットが、100~100,000個の神経系細胞を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項7】
神経変性疾患、例えばパーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病または神経セロイドリポフスチン症、例えばバッテン病の処置のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項8】
該神経組織ユニットが、有利には、パーキンソン病の処置のためにドーパミン作動性ニューロンを含む、請求項7に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項9】
該神経組織ユニットが、ハンチントン病の処置のためにGABA作動性ニューロンを含む、請求項7に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項10】
該神経組織ユニットが、遺伝子組み換え神経系細胞を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項11】
認知および/または行動機能を補助、改善または修復する、請求項10に記載の使用のための神経組織ユニット。
【請求項12】
対象体の神経系へ埋め込まれることが意図される、請求項1~11のいずれか一項に記載の神経組織ユニットの製造方法であって、該方法が、下記工程:
(1)ヒドロゲルカプセル内に、細胞外マトリックス、および神経系細胞へ分化することができるヒトまたはヒト以外の哺乳類の細胞を含み、有利には、神経組織ユニットを与えられることが意図される哺乳類と免疫適合性である、細胞内マイクロコンパートメントを製造すること;
(2)少なくとも1つの目的の表現型を有する有糸分裂後ニューロンを得るために、細胞内マイクロコンパートメント内で細胞分化を誘導すること;
(3)神経組織ユニットとしてニューロンを回収するために、ヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去すること
を含む、製造方法。
【請求項13】
下記の更なる工程:
(4)外科用埋め込みデバイスに、少なくとも1個の神経組織ユニット、優先的には少なくとも10~1000個の神経組織ユニット、より優先的には10~100個のユニットを装填すること
を含む、請求項12に記載の神経組織ユニットの製造方法。
【請求項14】
下記の更なる工程:
- ヒドロゲルカプセルの少なくとも部分的除去の前または後に、組織ユニットとして神経系細胞を凍結すること
を含む、請求項12または13に記載の神経組織ユニットの製造方法。
【請求項15】
工程(1)で用いられる細胞が、神経組織ユニットが埋め込まれるヒトまたはヒト以外の哺乳類から予め採取されている、請求項12~14のいずれか一項に記載の神経組織ユニットの製造方法。
【請求項16】
下記の中間工程:
- 工程(2)の細胞分化後に、ヒドロゲルカプセルに含まれる神経系細胞の表現型を確認すること
含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の神経組織ユニットの製造方法。
【請求項17】
細胞が、ドーパミン作動性細胞またはGABA作動性細胞へ分化する、請求項12~16のいずれか一項に記載の神経組織ユニットの製造方法。
【請求項18】
請求項1~11のいずれか一項に記載の神経組織ユニットを包み込む少なくとも1つのヒドロゲルカプセルを含む少なくとも1つの細胞内マイクロコンパートメント、およびヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去する手段を含む、神経組織ユニット埋め込みキット。
【請求項19】
神経組織ユニットを哺乳類の神経系へ埋め込むことができる外科用埋め込みデバイスをさらに含む、請求項18に記載の神経組織ユニット埋め込みキット。
【請求項20】
神経組織ユニットを哺乳類の神経系へ埋め込むことに適合する外科用埋め込みデバイス中に、少なくとも1個の請求項1~11のいずれか一項に記載の神経組織ユニット、優先的には1~10,000、より優先的には10~1,000個の神経組織ユニットを含む、神経組織ユニット埋め込みキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外マトリックスにおいて3次元(3D)ネットワークに編成される、複数の有糸分裂後ニューロン(neuronal cell)、および所望によりグリア細胞を含む神経組織ユニット、ならびに哺乳類の神経系へ埋め込まれる(implanted)ユニットとしてのその使用に関する。このような神経組織ユニットは、神経変性疾患を処置するために目的の表現型を有するニューロンを対象体の神経系へ移植する(transplant)のに特に用いられ得る。
【背景技術】
【0002】
過去数十年にわたり、神経変性疾患は、関連する生理学的現象の理解および処置の両方の点で主な社会的課題であった。これらの疾患の影響を受ける人はますます増え、患者ならびに患者の家族および友人への結果は劇的である。
【0003】
総称「神経変性疾患」は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症などを含む、通常の加齢より速いニューロン死により主に特徴付けられる極めて多くの疾患を包括する。神経系は、様々な方法で影響を受け、運動、バランス、行動および/または認知障害を含む、様々な症状をもたらし得る。
【0004】
現在、神経変性疾患の原因およびメカニズムは、多くの場合よく理解されておらず、その処置をなおさら複雑にしている。これらの疾患を治す有力な処置は現在ない。
【0005】
近年、開発優先事項は、脳内細胞治療、より具体的には神経変性疾患を患っている患者の脳の損傷領域へニューロンを移植する(graft)ことに焦点が当てられている。この移植の目的は、疾患により破壊されたニューロンを永続的に置き換えることである。したがって、胚細胞または組織の局所移植は、数名のパーキンソン病の患者において成功裏に実施されている。しかしながら、このアプローチは、中絶胎児からの組織の使用を含み、これは倫理的および論理的問題を生じる。また、多くの研究室は、高品質ヒト細胞の可能な代替供給源としてヒト人工多能性幹(hIPS)細胞に目を向けた。患者により失われたニューロンを置き換えるのに必要な表現型を有するニューロンへのhIPSの効果的な分化は、極めて活発な研究領域である。しかしながら、ニューロンは、極めて脆弱な細胞である。ニューロン懸濁液の注入は、一般的に、アノイキスにより該ニューロンの98%超の死を生じる。あるいは、ニューロンほど脆弱でないことが知られるニューロン前駆体を移植することが考えられた。この解決法もまた不十分である。実際、埋め込み後のニューロン前駆体の細胞分化は、制御されず、埋め込まれた細胞が適切におよび/または所望のニューロン型へ分化することが確実でない。
【0006】
したがって、埋め込まれた細胞の生存率を改善するため、特に神経変性疾患の患者において改変されたニューロンを永続的に置き換えるために、ニューロン埋め込み系が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
細胞の3次元(3D)培養に取り組んでいる間に、本発明者らは、ニューロンなどの特に脆弱な細胞を扱うときに、細胞懸濁液としてではなく3次元細胞ネットワークとして培養し、扱うことにより、生存率を改善することが可能であることを発見した。彼らは、ニューロン懸濁液を注入するときに得られるものより極めて高い生存率でニューロンを神経系に組み込むために、患者の神経系に注入され得る目的の表現型を有するニューロンを含む神経組織ユニットを開発した。開発された神経系細胞(neural cell)ユニットは、3Dネットワークに予め編成され、細胞外マトリックス中に埋め込まれたニューロンを含み、これは、注入後の神経系における細胞の組込みおよび生存を促進する。実際、神経系細胞は、局所環境の完全性、特に細胞間および神経組織ユニット内で発達した細胞外マトリックスとの相互作用を維持しながら、宿主神経系に移植される。また、本発明による神経組織ユニットは、分化の程度が完全に制御された有糸分裂後ニューロンを含み、そして、奇形腫および腫瘍の増殖の原因となる望ましくない細胞型を導入する危険性を制限する。興味深いことに、本発明による神経組織ユニットは、宿主組織へ軸索を投射でき、該宿主組織への細胞の良好な組込みを促進し、明確な機能的利益を生じることが観察された。
【0008】
したがって、本発明は、ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系への埋め込みにおける使用のための神経組織ユニットであって、該神経組織ユニットが、細胞外マトリックス中に分化した有糸分裂後ニューロンを含み、該ユニットが、単一の神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、該神経組織ユニットの埋め込み前に、少なくとも部分的に除去される、神経組織ユニットに関する。
【0009】
したがって、本発明は、細胞外マトリックス中に分化した有糸分裂後ニューロンを含む少なくとも1つの神経組織ユニットを、神経変性疾患を有するヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系へ埋め込むことによる、神経変性疾患の処置における使用のための神経組織ユニットであって、該ユニットが、該神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、神経組織ユニットの埋め込み前に、少なくとも部分的に除去される、神経組織ユニットに関する。
【0010】
特に、本発明は、細胞外マトリックス中にドーパミン作動性ニューロンへ分化した有糸分裂後ニューロンを含む少なくとも1つの神経ユニットを、パーキンソン病を有するヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系へ埋め込むことによる、パーキンソン病の処置における使用のための神経組織ユニットであって、該ユニットが、該神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、神経組織ユニットの埋め込み前に、少なくとも部分的に除去される、神経組織ユニットに関する。
【0011】
本発明はまた、パーキンソン病を有する患者の神経系へ埋め込まれる細胞外マトリックス中にドーパミン作動性ニューロンへ分化した有糸分裂後ニューロンを含む少なくとも1つの神経組織ユニットによるパーキンソン病の処置方法であって、該ユニットが、該神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、神経組織ユニットの埋め込み前に、少なくとも部分的に除去される、処置方法に関する。
【0012】
同様に、本発明は、細胞外マトリックス中にGABA作動性ニューロンへ分化した有糸分裂後ニューロンを含む少なくとも1つの神経組織ユニットを、ハンチントン病を有するヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系へ埋め込むことによる、ハンチントン病の処置における使用のための神経組織ユニットであって、該ユニットが、該神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、神経組織ユニットの埋め込み前に、少なくとも部分的に除去される、神経組織ユニットに関する。
【0013】
本発明はまた、ハンチントン病を有する患者の神経系へ埋め込まれる細胞外マトリックス中にGABA作動性ニューロンへ分化した有糸分裂後ニューロンを含む少なくとも1つの神経組織ユニットによるハンチントン病の処置方法であって、該ユニットが、該神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントから得られ、該ヒドロゲルカプセルが、神経組織ユニットの埋め込み前に、少なくとも部分的に除去される、処置方法に関する。
【0014】
同様に、本発明は、ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系への埋め込みにおける使用のための神経組織ユニットであって、該神経組織ユニットが、遺伝子組み換えニューロンを含む、神経組織ユニットに関する。このような神経組織ユニットは、ヒトまたはヒト以外の哺乳類において認知および/または行動の機能を補助、改善または修復するのに特に用いられ得る。
【0015】
本発明はまた、ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系へ埋め込まれることが意図される、このような神経組織ユニットの製造方法であって、該方法が、下記工程:
(1)ヒドロゲルカプセル内に、細胞外マトリックスおよび神経系細胞へ分化することができるヒトまたはヒト以外の哺乳類の細胞を含み、有利には、神経組織ユニットを受けることが意図される哺乳類と免疫適合性である、細胞内マイクロコンパートメントを製造すること;
(2)少なくとも1つの目的の有糸分裂後表現型を有するニューロンを得るために、細胞内マイクロコンパートメント内で細胞分化を誘導すること;
(3)神経組織ユニットとしてニューロンを回収するために、ヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去すること
を含む、製造方法に関する。
【0016】
本発明はまた、本発明による神経組織ユニットを囲む少なくとも1つのヒドロゲルカプセルを含む少なくとも1つの細胞内マイクロコンパートメント、およびヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去する手段を含む、神経組織ユニット埋め込みキットに関する。
【0017】
本発明はまた、少なくとも1個、優先的には10~100個および最大1000個の本発明による神経組織ユニットを含む神経組織ユニット埋め込みキットであって、該神経組織ユニットが、神経組織ユニットを哺乳類の神経系へ埋め込むことができる外科用埋め込みデバイスに装填される、キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、パーキンソン病にさせ、本発明による神経組織の注入によって処置されたかまたはされていない異なるラットを調製するための手順の略図である。擬似:対照ラット;6-OHDA:パーキンソン病にされたラット(陰性対照);6-OHDA封入前駆体(またはPro encap):パーキンソン病にされ、市販のニューロン前駆体細胞が封入された細胞内マイクロコンパートメントから本発明による神経組織ユニットを与えられたラット;6-OHDA CNO(制御神経系オルガノイド):パーキンソン病にされ、ドーパミン作動性ニューロンを含む、ニューロンへの分化前に多能性細胞が封入された細胞内マイクロコンパートメントから本発明による神経組織ユニット(この実施例ではCNOに対応する)を与えられたラット;
図2】パーキンソン病ラットを得るためおよび本発明によるニューロン組織を移植するために適用される病変(2A)および移植(2B)手順を示す;
図3図3は、本発明による埋め込み可能な神経ユニット(この実施例ではCNO型)をパーキンソン病にされたラットの中枢神経系へ埋め込んだ(6-OHDA CNO)6日後におけるヒトニューロンのマルチミリメートルの軸索投射を示す顕微鏡写真である。これは、固定され、凍結され、クライオスタットで切断され、ヒト細胞質(HCM)に対する抗体を用いる組織化学により明らかにされた、移植領域におけるラット線条体の切片の共焦点画像である;
図4A図4A~Eは、パーキンソン病にされ、本発明による神経組織ユニットの移植を受けたかまたは受けていないラットにおいて実施された行動試験について得られた結果を示す。(4A)シリンダー試験;(4B)ステッピング試験;(4C)ロータメーター試験;(4D)不安試験。
図4B図4A~Eは、パーキンソン病にされ、本発明による神経組織ユニットの移植を受けたかまたは受けていないラットにおいて実施された行動試験について得られた結果を示す。(4A)シリンダー試験;(4B)ステッピング試験;(4C)ロータメーター試験;(4D)不安試験。
図4C図4A~Eは、パーキンソン病にされ、本発明による神経組織ユニットの移植を受けたかまたは受けていないラットにおいて実施された行動試験について得られた結果を示す。(4A)シリンダー試験;(4B)ステッピング試験;(4C)ロータメーター試験;(4D)不安試験。
図4D図4A~Eは、パーキンソン病にされ、本発明による神経組織ユニットの移植を受けたかまたは受けていないラットにおいて実施された行動試験について得られた結果を示す。(4A)シリンダー試験;(4B)ステッピング試験;(4C)ロータメーター試験;(4D)不安試験。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、神経系細胞が3Dネットワークに編成される神経組織ユニットを、哺乳類の神経系へ埋め込むまたは移植するための方法を開示する。密な球の形態での神経系細胞の移植は、宿主神経系への埋め込みまたは組込みを促進する。本発明による埋め込み方法、より一般的には本発明により開発された神経組織ユニットは、ヒトまたはヒト以外の哺乳類、より優先的にはヒト対象体における使用が意図される。
【0020】
神経組織ユニット
本発明はまた、すべての種類の神経変性疾患を処置する、および/または対象体において認知または行動機能を補助、改善、修復するために、ニューロン懸濁液の代わりに、対象体の神経系へ埋め込むための神経組織ユニットを用いることを提案する。
【0021】
本発明によれば、埋め込まれる神経組織ユニットは、有利には、細胞外マトリックスに分化した有糸分裂後ニューロンおよびグリア細胞、例えばアストロサイトおよび/またはオリゴデンドロサイトを含む。
【0022】
「有糸分裂後」ニューロンは、分裂する能力を失ったニューロンである。マイクロコンパートメントに含まれるニューロンは、特定の表現型を有するという意味で区別される。
【0023】
本発明によれば、神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルは、対象体の神経系へ埋め込む前に少なくとも部分的に除去される。
【0024】
本発明に関連して、「ヒドロゲルカプセル」は、液体、優先的には水により膨潤したポリマー鎖のマトリックスから形成される3次元構造を指す。有利には、用いられるヒドロゲルは、細胞に毒性ではないという意味で生体適合性である。また、ヒドロゲルカプセルは、マイクロコンパートメントに含まれる細胞に供給されるために酸素または栄養素の拡散を可能にし、それらが生存するのを可能にしなければならない。例えば、ヒドロゲルカプセルは、アルギン酸を含む。優先的には、カプセルは、アルギン酸のみを含む。本発明に関連して、「アルギン酸」は、β-D-マンヌロン酸およびα-L-グルロン酸、その塩および誘導体から形成される線状多糖類を指す。有利には、アルギン酸は、アルギン酸ナトリウムであり、80%のα-L-グルロン酸および20%のβ-D-マンヌロン酸から構成され、平均分子量が100~400 KDa(例えば、PRONOVATM SLG100)であり、総濃度が0.5質量%~5質量%である。
【0025】
神経組織ユニットが製造される時点で、ヒドロゲルカプセルは、1つ以上の目的のニューロン型へ制御された分化を可能にしながら、細胞外環境から細胞を保護する。本発明によれば、ヒドロゲルカプセルは、単一の神経組織ユニットを囲む。したがって、各神経組織ユニットは、ヒドロゲルカプセルで個々に囲まれる。1つ以上の所望の細胞型が得られ、カプセルにおける神経組織のサイズが十分になると、該カプセルは、少なくとも部分的に除去される。「少なくとも部分的に除去される」は、該ユニットの少なくともいくつかの神経系細胞の少なくも軸索がカプセルから出ることを可能にするために、ヒドロゲルカプセルが、少なくとも部分的に加水分解、溶解、穿孔または断裂されることを意味する。ヒドロゲルカプセルの加水分解、溶解、穿孔および/または少なくとも部分的な断裂を可能にする、任意の生体適合性手段、すなわち細胞に無毒性である手段が、用いられ得る。例えば、リン酸緩衝生理食塩水、二価イオンキレート剤、アルギン酸分解酵素などの酵素、レーザーマイクロダイセクション、ヒドロゲルへ組み込まれる可溶性ビーズなどを用いることが可能である。
【0026】
有利には、カプセルは、完全に除去され、それ故に、対象体の神経系へ埋め込まれることが意図される神経組織ユニットは、ヒドロゲルを有しない。
【0027】
優先的には、神経組織ユニットの細胞外マトリックス層は、ゲルを形成する。細胞外マトリックス層は、細胞培養、より具体的には神経系細胞培養に必要なタンパク質と細胞外化合物の混合物を含む。優先的には、細胞外マトリックスは、構造タンパク質、例えばα1またはα4またはα5およびβ1またはβ2およびγ1またはγ3サブユニットを含むラミニン、エンタクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、ならびに増殖因子、例えばTGF-βおよび/またはEGFを含む。一実施態様において、細胞外マトリックス層は、Matrigel(登録商標)および/またはGeltrex(登録商標)からなるか、またはそれらを含む。
【0028】
本発明による神経組織ユニットは、細胞と細胞外マトリックス間の相互作用が既に存在する3Dネットワークに構成される神経系細胞を含むという利点を有する。
【0029】
有利には、神経組織ユニットの神経系細胞は、好ましくは10μm~1000μm±10%、優先的には150μm~400μm±10%、さらにより優先的には200μm~300μm±10%から構成される最も小さい寸法を有する、特に卵形、管状または球状形状の、一群の神経系細胞を形成する。これらの寸法は、神経組織ユニット内のニューロンの生存に特に好ましく、埋め込み後の移植片の再構築および血管新生を最適化する。「最も小さい寸法」は、細胞集合の両側の2点間の最小距離を意味する。
【0030】
優先的には、本発明による神経組織ユニットは、100~100,000個の神経系細胞を含む。
【0031】
神経組織内において、ニューロンは、神経組織ユニットの意図される使用に従って選択された、目的の1つ以上の表現型を有利には有する。本発明によれば、埋め込まれた神経組織ユニットは、1つ以上の選択および制御された表現型に従って分化したニューロンを含む。優先的には、神経組織ユニットは、目的の表現型の有糸分裂後ニューロンの10~100%、優先的には50~100%、より優先的には90%超を含む。神経組織ユニットに存在する他の細胞は、特に、その表現型が目的の表現型と異なるグリア細胞および/または有糸分裂後ニューロンであり得る。有利には、神経組織ユニットは、同一表現型を有する有糸分裂後ニューロンから本質的になる。
【0032】
有糸分裂後ニューロンの目的の表現型は、該ユニットの用途に依存する。したがって、細胞治療の使用の場合、ニューロンの表現型は、有利には、置き換えられる不全細胞の表現型に対応する。
【0033】
実際、本発明による神経組織ユニットは、有利には、神経変性疾患、例えばパーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病または神経セロイドリポフスチン症、例えばバッテン病の処置のために、細胞治療において用いられ得る。
【0034】
したがって、パーキンソン病の処置のために、神経組織ユニットは、有利にはドーパミン作動性ニューロンを含む。優先的には、このような神経組織ユニットに含まれる有糸分裂後ニューロンは、本質的にドーパミン作動性ニューロンである。
【0035】
本発明に関連して、「本質的に」は、細胞の少なくとも90%、優先的には少なくとも95%、さらにより優先的には少なくとも99%を意味する。
【0036】
ハンチントン病の処置のために、神経組織ユニットは、有利にはGABA作動性ニューロンを含む。優先的には、このような神経組織ユニットに含まれる有糸分裂後ニューロンは、本質的にGABA作動性ニューロンである。
【0037】
本発明による神経組織ユニットはまた、遺伝子組み換え神経系細胞を含み得る。したがって、1つ以上の遺伝子の発現が抑制されたかまたは増加した神経系細胞を対象体の神経系へ埋め込むことが可能である。通常存在しない機能を神経系へ導入するために、異種遺伝子が導入された神経系細胞を埋め込むこともまた可能である。
【0038】
遺伝子組み換え細胞を含むこのような神経組織ユニットは、認知および/または行動機能、例えば考慮される対象体における障害のあるまたは不十分な認知および/または行動機能を補助、改善または修復するために特に興味深い。
【0039】
例えば、遺伝子原因(huntingtinをコードする遺伝子内にCAGトリプレットリピートの発現)が知られている、ハンチントン病の処置において、患者から細胞を取り除き、神経組織ユニットの自己移植を実施する前に、欠損遺伝子が修正されたGABA作動性ニューロンを含む本発明による神経組織ユニットを製造することが可能である。
【0040】
パーキンソン病の患者のために、光感受性チャネル、例えばロドプシンチャネルを発現し、脳深部刺激に類似するが侵襲性が低い方法で、単純な照明により移植された神経組織の活性を制御するように改変されたドーパミン作動性ニューロンを含む神経組織ユニットを製造することが可能である。一般的に、特に光感受性チャネルの発現よって、移植された神経組織の活性を制御することは、すべての潜在的用途に有益であり得る。
【0041】
神経組織ユニット埋め込みキット
本発明はまた、本発明による神経組織ユニットを囲むヒドロゲルカプセルを含む少なくとも1つの細胞内マイクロコンパートメント、およびヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去する手段(加水分解、溶解、穿孔および/または断裂)を含む、神経組織ユニット埋め込みキットを提案する。
【0042】
したがって、本発明による神経組織ユニットを用いなければならない実施者は、使用時に必要に応じて、ヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去し、対象体の神経系へ埋め込まれる準備ができている神経組織ユニットを得る。
【0043】
また、本発明による埋め込みキットは、神経組織ユニットを哺乳類の神経系へ埋め込むことができる外科用埋め込みデバイスを含み得る。
【0044】
本発明はまた、神経組織ユニットを哺乳類の神経系へ埋め込むことができる外科用埋め込みデバイスに装填される、少なくとも1個の本発明による神経組織ユニット、優先的には1~10,000、より優先的には10~1000個の神経組織ユニットを含む、神経組織ユニット埋め込みキットを提案する。有利には、埋め込まれる神経組織ユニットの量は、宿主脳のサイズおよび用途に依存する。
【0045】
神経組織ユニットは、所望により、外科用埋め込みデバイスへ導入される前に凍結さてもよく、および/または外科用埋め込みデバイスと同時に凍結されてもよい。当然ながら、その後融解工程は、神経組織ユニットが対象体の神経系へ埋め込まれる前に必要である。
【0046】
製造方法
本発明はまた、哺乳類の神経系へ埋め込まれることができる神経組織ユニットの製造方法に関する。より具体的には、本発明は、その表現型が、神経組織ユニットの意図される使用に依存する、有糸分裂後ニューロンを含む神経組織ユニットを製造することを提案する。本発明によれば、特に、封入の前または後に再プログラムされ、その後ヒドロゲルカプセル内で1つ以上の神経型へ分化される分化哺乳類細胞から、神経系細胞を囲むヒドロゲルカプセルを含む細胞内マイクロコンパートメントを製造することが可能である。その後、カプセルは、少なくとも部分的に除去され、埋め込み後宿主組織へ神経系細胞を埋め込むことを可能にする。
【0047】
一般的に、本発明による、ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系へ埋め込まれることが意図される、このような神経組織ユニットの製造方法は、下記工程:
(1)ヒドロゲルカプセル内に、細胞外マトリックスおよび神経系細胞へ分化することができるヒトまたはヒト以外の哺乳類の細胞を含み、有利には、神経組織ユニットを受けることが意図される哺乳類と免疫適合性である、細胞内マイクロコンパートメントを製造すること;
(2)少なくとも1つの目的の表現型を有する有糸分裂後ニューロンを得るために、細胞内マイクロコンパートメント内で細胞分化を誘導すること;
(3)神経組織ユニットとして神経系細胞を回収するために、ヒドロゲルカプセルを少なくとも部分的に除去すること
を含む。
【0048】
細胞外マトリックスおよび神経系細胞を生じさせることができる細胞をヒドロゲルカプセル内に含む細胞内マイクロコンパートメントを製造するための任意の方法が使用され得る。特に、Alessandri et al. 2016 ("A 3D printed microfluidic device for production of functionalized hydrogel microcapsules for culture and differentiation of human Neuronal Stem Cells (hNSC)", Lab on a Chip, 2016, vol. 16, no. 9, pp. 1593-1604)に記載のマイクロ流体デバイスを用いてマイクロコンパートメントを製造することが可能である。
【0049】
特定の実施態様において、封入される細胞は、多能性幹細胞、例えば人工多能性幹(IPS)細胞、または胚性幹(ES)細胞である。本発明に関連して、「人工多能性幹細胞」(IPS細胞)は、分化した体細胞の遺伝子再プログラミングにより得られ、胚性幹細胞に部分的に類似する形態ならびに自己再生能および多能性を有する、多能性幹細胞と定義される。これらの細胞は、多能性マーカー、例えばアルカリホスファターゼ染色ならびにタンパク質NANOG、SOX2、OCT4およびSSEA3/4の発現に対して特に陽性である。人工多能性幹細胞を得るための方法は、当業者に周知であり、Yuら(Science, 2007, 318 (5858): 1917-1920)、Takahashiら(Cell, 2007, 131(5): 861-872)およびNakagawaら(Nat Biotechnol, 2008, 26(1): 101-106)の文献に特に記載されている。胚性幹細胞の場合、該多能性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来し、生物体のすべての組織の形成を引き起こす能力を有する細胞である。胚性幹細胞の多能性は、マーカー、例えば転写因子OCT4およびNANOGおよび表面マーカー、例えばSSEA3/4、Tra-1-60およびTra-1-81の存在により評価され得る。胚性幹細胞は、例えばChungら(Cell Stem Cell, 2008, 2(2): 113-117)により説明された技術を用いることにより、それらが由来する胚を破壊することなく得られることができる。特定の実施態様において、法的または倫理的理由から、幹細胞は、ヒト胚性幹細胞を除外するものとして定義される。
【0050】
あるいは、ニューロン前駆細胞、すなわち神経系細胞への細胞分化に既に関与している幹細胞を封入することが可能である。別の一実施態様において、分化転換により神経系細胞への分化させられるであろう分化した細胞を封入することが可能である。グリア細胞、例えば体細胞を形成できる細胞を封入することもまた可能である。
【0051】
別の一実施態様において、封入の前または後に多能性幹細胞へ再プログラムされる、分化した細胞を用いることが可能である。神経組織ユニットが、患者の神経系に長期間埋め込まれることができなければならないので、拒絶の危険性を回避するため、該対象体と免疫適合する細胞から始めることが好ましい。特定の実施態様において、神経組織ユニットを製造するのに用いられる細胞は、該神経組織ユニットが埋め込まれるヒトまたはヒト以外の哺乳類から予め採取されている。
【0052】
すべての場合において、細胞内マイクロコンパートメントが得られると、それに含まれる細胞は、1つ以上の所望の表現型に従ってニューロンへそれらを分化するために細胞分化を受けなければならない。
【0053】
細胞分化させるために2D培養(ペトリ皿など)で従来用いられる任意の方法が用いられ得て、例えばChambersら("Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling", Nature Biotechnology 27, 275-280 (2009))、またはLippmannら("Defined human pluripotent stem cell culture enables highly efficient neuroepithelium derivation without small molecule inhibitors", Stem Cells 2014)の記載する方法である。特定の実施態様において、分化培地は、ドーパミン作動性分化を向上させるために24(S),25-エポキシコレステロールを含む。
【0054】
優先的には、細胞内マイクロコンパートメントは、分化培地中で少なくとも3週間およびヒドロゲルカプセルの除去前に培養される。
【0055】
一般的に、多能性細胞内マイクロコンパートメントは、使用前に凍結され、必要に応じて融解され得る。
【0056】
一の例示的実施態様において、細胞を細胞内マイクロコンパートメント内でドーパミン作動性細胞へ分化させるように、細胞分化を誘導することが可能である("Generating regionalized neuronal cells from pluripotency, a step-by-step protocol" Kirkeby et al. Frontiers in Cellular Neuroscience 2012)。その後、このような細胞内マイクロコンパートメントに由来する神経組織ユニットは、パーキンソン病の対象体の神経系へ、該対象体の不全ドーパミン作動性ニューロンを少なくとも部分的に置き換えるために埋め込まれ得る。
【0057】
別の一の例示的実施態様において、細胞を細胞内マイクロコンパートメント内でGABA作動性細胞へ分化させるように、細胞分化を誘導することが可能である("Derivation of striatal neurons from human stem cells" Viegas et al. Prog Brain Res 2012)。その後、このような細胞内マイクロコンパートメントに由来する神経組織ユニットは、ハンチントン舞踏病の対象体の神経系へ、該対象体の障害GABA作動性ニューロンを少なくとも部分的に置き換えるために埋め込まれ得る。
【0058】
本発明による神経組織ユニットの製造方法はまた、下記の更なる工程:
- 外科用埋め込みデバイスに、少なくとも1個の神経組織ユニット、優先的には10~1000、より優先的には10~100個の神経組織ユニットを装填すること
を含み得る。
【0059】
したがって、埋め込みデバイスは、神経系細胞を対象体の神経系へ移植するのに用いられる準備ができている。
【0060】
本発明によれば、ヒドロゲルカプセルの少なくとも部分的除去の前または後に、神経組織ユニットとして神経系細胞を凍結することが可能である。当然ながら、神経組織ユニットは、最初に凍結されることなく製造過程後直接用いられ得る。
【0061】
有利には、本発明による製造方法は、下記の中間工程:
- 細胞分化工程後に、ヒドロゲルカプセルに含まれる神経系細胞の表現型を確認すること
を含む。
【0062】
例えば、ドーパミン作動性ニューロンを含む1つ以上の神経組織ユニットの場合、培養培地から上清を除去し、HPLCとつないだマイクロダイアリシス分析を実施することにより、埋め込む前に埋め込み可能な神経ユニットの活性を非侵襲的に測定することが可能である。
【0063】
より一般的には、細胞膜を通過するイオン電流の記録に基づくいわゆる「パッチクランプ」技術によって試料を代表するニューロンの電気的活性を特徴付けることが有利であり得る。
【0064】
神経組織ユニットは、有利には同一条件下バッチで培養され、分化の正確な質を保証するために、考慮される神経組織ユニット集団の代表的な試料について、特に免疫細胞化学、RNAおよび/またはプロテオミクス配列決定により、より詳細な分析を実施することも可能である。例えば、ドーパミン作動性ニューロンを含む神経組織ユニットの場合、チロシンヒドロキシラーゼFOXA2および/またはNURR1を標的とする免疫細胞化学分析を実施することが可能である("Dopamine neurons derived from human ES cells efficiently engraft in animal models of Parkinson's disease" Kriks et al. 2012)。
【0065】
したがって、対象体の神経系へ埋め込む工程の前に、有糸分裂後ニューロンおよび/または神経系細胞が、実際に所望の表現型を有することを確認することが可能である。
【0066】
ヒトまたはヒト以外の哺乳類の神経系への神経組織ユニットの埋め込み
本発明はまた、必要とする対象体、特にヒトの神経系へ神経組織ユニットを埋め込むかまたは移植するための方法を提案する。実際、本発明による神経組織ユニットは、有利には、神経変性疾患の処置のために用いられ得る。本発明に関連して、用語「処置」は、治療的、対症的または予防的処置を指す。本明細書で用いられる疾患の「処置」なる用語は、患者の質および/または寿命を広げることが意図される任意の行為を指す。処置は、疾患を根絶する、疾患の進行を停止または遅延させるおよび/または疾患の退縮を促進するように設計され得る。疾患の「処置」なる用語はまた、疾患に関連する症状を軽減することが意図される任意の行為を指す。処置される患者は、任意の哺乳類、好ましくはヒトである。
【0067】
一般的に、いずれかの神経系細胞の埋め込み方法は、対象体の神経系へ神経組織ユニットを埋め込むのに用いられ得る。特に、予め神経組織ユニットが装填されているカニューレ、例えばガラスカニューレを用いることが可能である。
【0068】
特定の実施態様において、埋め込みは、下記工程
- 神経組織ユニットを受ける対象体を麻酔および/または固定すること;
- 対象体の頭蓋を開くこと;
- 例えばいわゆる「定位」装置を用いて、移植領域上に神経組織ユニットを含む埋め込みデバイスを配置すること;
- 移植領域へ埋め込みデバイスを挿入すること;
- 移植領域から埋め込みデバイスを徐々に除去しながら神経組織ユニットを注入することを含む。
【0069】
有利には、注入工程は、対象体の神経系への埋め込みデバイスの挿入深さを管理し、該神経系における神経組織ユニットに必要な空間を提供するために、マイクロ流体ポンプおよび電動化システムにより制御され、これにより埋め込みデバイスの引き抜き経路に沈着する。
【0070】
特定の実施態様において、埋め込みデバイスは、内径が0.3~2 mm、優先的には0.4 mmであり、外径が0.4~3 mm、優先的には0.55 mmである、ガラスカニューレからなる。カニューレを挿入するときに組織損傷の危険性を減少させるため、および血栓による閉塞の危険性を減少させるために、カニューレは、有利には丸いまたは面取りされた先端を有し、その表面は、フッ素化化合物でシラン化される。神経組織ユニットは、例えば前面からカニューレ内へ装填される。カニューレは、対象体の頭蓋の位置に挿入される。
【0071】
有利には、同じ移植中に、10~40個の神経組織ユニットが埋め込まれ、ここで、各神経組織ユニットは、優先的には1000~10,000個の神経系細胞を含む。当然ながら、埋め込まれる神経組織ユニットの数は、処置される対象体および疾患および/または改変される認知または行動機能に従って適合している。時間的に多少離れているいくつかの移植もまた、考えられ得る。同様に、移植は、対象体の神経系の異なる領域において同時にまたは短時間で実施され得る。
【実施例0072】
1. パーキンソン病の処置のための埋め込み可能な神経組織ユニットの製造:
前駆体は、Kriksらにより公表された方法("Dopamine neurons derived from human ES cells efficiently engraft in animal models of Parkinson's disease" Kriks et al. 2012)に従って、ヒト人工多能性幹細胞に由来する培養物において24(S),25-エポキシコレステロール(1~10μMの濃度)を用いて得られ、ドーパミン作動性ニューロンへの分化を最適化する。
【0073】
したがって、得られた前駆体は、Alessandriらにより公表された方法("A 3D printed microfluidic device for production of functionalized hydrogel microcapsules for culture and differentiation of human Neuronal Stem Cells (hNSC)", Lab on a Chip, 2016)に従って封入される。
【0074】
前駆体を含む細胞内マイクロコンパートメントが得られると、ドーパミン作動性ニューロンへのいわゆる「最終」分化が、Kriksらにより公表された方法("Dopamine neurons derived from human ES cells efficiently engraft in animal models of Parkinson’s disease" Kriks et al. 2012)に従って、再び24(S),25-エポキシコレステロール(1~10μMの濃度)を用いて実施される。
【0075】
細胞内マイクロコンパートメントにおける細胞の増殖は、その製造中に埋め込み可能な神経ユニットによって培地が消費される速度を増加させるため、培養培地の交換に特に注意が払われる。
【0076】
すべての分化は細胞内マイクロコンパートメントで生じるが、細胞が単一細胞懸濁液の解離をサポートする限り(γセクレターゼ阻害剤および/またはNotchシグナル、例えばDAPT、CoumpoundEまたは最終分化を促進する他の分子を添加した後最大1週間まで)、細胞を脱カプセル化および再封入することが可能である。
【0077】
したがって、分化の3週間後に得られた細胞内マイクロコンパートメントを、PBS溶液中で連続的にすすぐことにより処理して、ヒドロゲルシェルを溶解させ、注入前に神経組織ユニットを回収する。
【0078】
注入カニューレの製造:
ホウケイ酸キャピラリー(内径:0.4mm、外径:0.55mm)を5cmの長さでセラミックブレードによって切断した。
【0079】
キャピラリーの前面を、12μmの酸化アルミニウム研磨紙で丸め、その後1μmの光ファイバーで丸めた。
【0080】
硝子をプラズマ処理により5分間活性化させ、その後、密閉ペトリ皿に配置したチップの近くの1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルトリクロロシラン20μlの沈着によりガス層中でシラン化する。
【0081】
30分の反応後、注入カニューレを準備し、そして10μlシリンジ(Hamilton)に連結し、シリンジポンプ(Harvard Apparatus)を電力源とする、標準的な定位装置に取り付ける。定位装置の注入アームもまた電動化される(PI)。
【0082】
手術:
その後、標準的な神経埋め込み手術をラットに行った。このような手術方法は、下記工程を含む:
1)投薬(ケタミン)睡眠および麻酔を動物に導入する。
2)定位装置を用いて動物を正確に配置する。
3)動物の頭部を剃毛し、その後ベタジンで処理し、その後メスで開いて頭蓋から皮膚を除去し、その後マイクロドリルを用いて頭蓋骨に窓を形成して、カニューレを通過させる。真下に露出する皮質を損傷することなく髄膜を注意深く広げる。
4)シリンジに接続したカニューレを、定位装置を用いて移植領域上に配置する。
5)神経組織ユニットは、前面からカニューレ内へ装填される(約80カプセルまたは10,000~800,000個の細胞)。移植は、合計4μlまたはカニューレの4cmの高さに相当する。ラットにおいて線条体へ約1mmの距離で2つの部位に片側注射する。
6)カニューレを腹側線条体内の第1部位の動物の頭蓋へ挿入する。2μl注入中に、カニューレを、マイクロ流体ポンプシステムおよびカニューレ深さの電動管理を用いた注入と同時に除去し、移植に必要なスペースを解放し、これにより回収軌道に約2mm沈着する。
7)カニューレを、静かに除去する前に1分間そのままにする。
8)その後、第2部位に同じ手順を用いて埋め込む。
9)ラットの皮膚を、ベタジンで創傷をすすいだ後、縫合する(3~5針)。
【0083】
移植結果:
成熟ヒトニューロンの埋め込み過程の生存を実証するために、移植経路においてビブラトームで切断される脳のスライスの免疫細胞化学により移植の生存および埋め込みを試験するために手術の1週間後に動物を屠殺する。
【0084】
移植サイズ(埋め込む前に知っている)に基づいて推定される生存は、懸濁液中成熟ドーパミン作動性ニューロンを移植する方法で得られる2%の生存率と比較して、84%±33%超である(D. M. Marchionini et al., "Interference with anoikis-induced cell death of dopamine neurons: implications for augmenting embryonic graft survival in a rat model of Parkinson's disease." J Comp Neurol 464, 172-179 (2003))。ニューロンの表現型は維持される(チロシンヒドロキシラーゼ陽性)。また、数ミリメートルの軸索突起が見られ、これは、ニューロンが直ちにラットの脳に統合し始めたことを示している。
【0085】
2. パーキンソン病の処置のためのニューロンを含む神経組織ユニットの埋め込み
2.1- 手術手順
ラット(7/8週齢)を12時間の明暗サイクルの温度制御室で飼料および水を自由に摂取させながら飼育する。
【0086】
図1は、パーキンソン病ラットであってその後本発明による神経組織の移植が適用されるラットを得るためにこれらのラットで実施される種々の手順を要約する。
【0087】
パーキンソン病ラットの調製
動物を手術前に絶食させる。栄養補充食品を含む飼料および水は保持される。
【0088】
空気(0.3L/分)+酸素(0.3L/分)および2%イソフルランの連続流が供給される麻酔チャンバーに各動物を入れる。キシロカイン(7 mg/kg、s.c.)、ボルガル(7.5%、i.m.)およびブプレノルフィン(0.1 mg/kg、s.c.)を注射する。その後、容量制御人工呼吸器により投与されるイソフルランベースの麻酔薬を用いて麻酔下に動物を維持する。中心温度は、手術中直腸を通して記録される。必要に応じて、体温を維持するために加熱パッドを用いる。眼用軟膏剤(リポ眼用ゲル剤)を各眼に投与する。毛皮を頭蓋から首までカットする。意識喪失後、動物を定位枠(Kopf)に配置し、イヤーバーを用いて位置にその頭を固定する。
【0089】
Legato 101自動注入器(KD scientific)につないだHamilton 1702Nシリンジ(Ga22s/51mm/PST3)を用いて、2.5μlの6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)(Sigma、滅菌0.9%NaCl中5mg/ml)を0.1%アスコルビン酸と共に内側前脳束(MFB)において前後方向-2.8 mm、外側2 mmおよび背側8.4 mmの座標にてPaxinosとWatsonの脳地図に従って1μl/分の速度で片側に定位注入することよりラットを擬似パーキンソン病にする(図2A)。
【0090】
注入後、針を、脳からゆっくり除去する前に5分間そのままにする。手術30分前に、0.9%NaClに溶解させたデシプラミン(25 mg/kg、5 ml/kg)の腹腔内(i.p.)注射を動物に与え、ノルアドレナリン系を保護する。
【0091】
注入が完了したとき、皮膚を縫合し閉じる。その後、動物を麻酔から回復させる。
【0092】
移植
移植手順を通じて成熟ニューロンの微小環境を維持することは、宿主脳の生存および結合を可能にする。
【0093】
一群のラット(6-OHDA封入前駆体)は、使用前にインビトロで2週間封入し、成熟させた、市販ニューロン前駆細胞(Cellular Dynamics iCell DopaNeurons)を含む本発明による神経組織ユニットの移植を与えられる。
【0094】
第2群のラット(6-OHDA CNO)は、本研究室で製造され、保存された、制御神経系オルガノイド(CNO)を含む本発明による神経組織ユニットの移植を受ける。
【0095】
CNO細胞を含む神経組織ユニットは、多能性細胞または未処理多能性細胞をアルギン酸に封入し、ニューロン前駆細胞へ下記手順に従って分化することにより得られた:
【0096】
全培養を37℃、5%CO2および湿度95%超で実施する。
【0097】
D0-D3(0日目から3日目):N2B27(500mLの培地について:250mLのNeurobasal培地+250mLのglutamax添加Dmem F12培地+1 N2サプリメント+1 B27サプリメント+0.5μM LDN-193189+10 μM SB431542+100ng/mL Shh(Sonic Hedgehog)+100ng/mL FGF-8(線維芽細胞増殖因子8)+2μMパルモルファミン+10μM 24(S),25-エポキシコレステロール
D3-D9:N2B27+LDN+SB+Shh+FGF-8+パルモルファミン+CHIR+24(S),25-エポキシコレステロール
D9-D10:N2B27+LDN+CHIR+24(S),25-エポキシコレステロール
D10-D15以降:N2B27+cAMP+AA+GDNF+BDNF+FGF-20+TGFβ+トリコスタチン+CpE+24(S),25-エポキシコレステロール
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
神経組織ユニット(6-OHDA封入前駆体および6-OHDA CNO)の注入前に、単に培地をPBSと交換することにより細胞内マイクロコンパートメントのアルギン酸カプセルに溶解させる。
【0101】
注入の構成は、定位装置に取り付けられたシリンジまたはカニューレである。神経組織ユニットは、注入容量(25 CNO 約1μL)をカニューレ本体内へ引き込むことにより注入カニューレ内へ装填される。
【0102】
2つの軌道上の4つの注入部位へ注入するために(図2B):前駆体(群3)、封入前駆体(6-OHDA前駆体)またはCNO(6-OHDA CNO)を含む4μlを、次の座標にて線条体に注入する:A/P+1.2;M/L-2.6;D/V-5.0(3μl)および-4.0(3μl);およびA/P+0.5;M/L-3.0;D/V-5.0(3μl)および-4.0(3μl);トゥースバー-2.4(Grealish et al., 2014)。
【0103】
手術手順後
4群のラットは、免疫不全ラット(NRまたはヌードラット)から形成される:
-「擬似」:非病変ラット
-「6-OHDA」:右半球のドーパミン作動性ニューロンが化学的に殺され、埋め込みはないラット(対照実験)
-「CNO」または「6-OHDA CNO」:右半球のドーパミン作動性ニューロンが化学的に殺され、約250,000個の細胞を含む本発明による神経組織ユニットを右線条体へ移植されるラット
-「Pro encap」または「6-OHDA封入前駆体」:右半球のドーパミン作動性ニューロンが化学的に殺され、カプセル中で2週間成熟化される約250,000個のCellular Dynamics iDopaneurons細胞を含む本発明による神経組織ユニットを右線条体へ移植されるラット
【0104】
正向反射および嚥下反射が回復するまで各動物を入念に観察し、暖かく保つ。動物は、経験豊富な獣医学的支援を容易に利用できる経験豊富な技術者により世話をされる。
【0105】
動物の臨床管理のための他の薬物は必要に応じて用いられる。各薬物、用量、経路、投与部位を手術記録書に記録する。
【0106】
手術切開部を感染、炎症および一般的完全性の兆候について少なくとも1日1回(切開部が治癒するまで)モニターする。なされるすべての観察および結果を手術記録書に記録する。試験コーディネーターは、あらゆる異常を知らされる。試験モニターは、あらゆる異常を、合理的に可能な限り迅速に知らされるものとする。
【0107】
動物の状態の確認を1日(11amから10pmまで)に2回行う。
【0108】
動物を、公平で人道的な処置の基準に従って評価する。適切な獣医学的支援が必要に応じて提供される。持続する可能性のある激しい痛みおよび苦痛の兆候を示す動物はいずれも速やかに安楽死させる。その後、それらは粗い検死に供される。検死に加えて、脳を組織学的検査のために取り除き、安楽死のセクションに示すように処理する。公平で人道的な処置の基準を適用し動物が死亡して発見されるのを防ぐためにあらゆる合理的な努力がなされる。
【0109】
2.2- 行動研究
アンフェタミン誘発回転(Grealish et al., 2014から改変)。
中央部終脳束への6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)の注入後1分当たり5回超の回転を有する動物のみを成功裏に病変を起こしたとみなした。アンフェタミン(2.5 mg/kg、腹腔内、Apoteksbolaget)の全身注射後の回転バイアスを、自動化システム(Omnitech Electronics)を用いて記録した。動物の回転を90分間記録し、完全な体の回転のみを数え、その後1分間当たりの正味回転で表し、病変側への回転(右回り)を正に数えた。
【0110】
ステッピング試験
各ラットを平らな面に置く;前足のみが台に触れるように尾を優しく持つことによりその後足をあげる。実験者は一定の速度でラットを1m後ろに引っ張る。反対側および同側の前足の調節運動をそれぞれの経路で独立して数える。反対側/(反対側+同側)の比を計算することにより足を用いる調節運動のパーセンテージとしてデータを表す。
【0111】
シリンダー試験
各動物をガラスシリンダーに置き、同側および反対側の足の5分間のシリンダーの壁への接触数を数えることによりシリンダー試験を行い、反対側/(反対側+同側)の比を計算することにより結果を表し、最大20回接触である。
【0112】
「オープンフィールド」アクティメーター
光電子アクティメーターを用いて任意の自発運動量を測定する(Actitrack, Panlab, S.L., Barcelona, Spain)。装置は、光電池に接続した透明なケージからなる。光ビームは動きを検出し、各ラットの水平方向の動き検出の総数を、2回連続した10分間のセクションにわたって毎日記録する。すべてのアクティメーター試験を孤立した部屋で8:00 amから1:00 pmに実施する。最初の3日の段階は馴化させる。4日目を試験日とみなす。第2の10分間のセクション中に記録される自発運動量のみをデータ分析に用いる。
【0113】
2.3- 死後研究評価 - 組織学的分析
実験終了後、ラットを4%パラホルムアルデヒドの心臓内注入により屠殺し、脳を採取し、イソペンタン中で-45℃にて凍結し、-80℃にて貯蔵する。注入された脳をクライオスタットで50μmの冠状切片に切断する。
【0114】
ドーパミン作動性(DA)病変の確認
中枢神経系におけるDA細胞の損失および線条体におけるDA繊維の損失を、上記のようにチロシンヒドロキシラーゼ(TH)の免疫組織化学により確認する(Bouali-Benazzouz et al., 2009)。チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫反応性細胞の数を、Mercator Pro software(ExploraNova, version 7.9.8)と共にLeica DM6000B顕微鏡を用いて光分画法を適用することにより得る。
【0115】
移植の確認
細胞生存、増殖可能性および移植の表現型成熟(ヒト細胞質マーカー(HCM)を用いて同定)を分析するために抗体を用いる免疫組織化学アッセイにラット脳切片およびCNOを供し、従来のDAマーカー(TH、DAT、FOXA2)で特徴付ける。全体のニューロンマーカー(MAP2、NeuN)、セロトニン(FOXG1)、増殖マーカーKi-67/PCNAおよびグリアマーカー(ヒト特異的GFAP)。
【0116】
ニューロンの生存試験
6 CNOラットを埋め込み6日後に屠殺し、埋め込み後のニューロンの生存を評価する。
【0117】
結果
行動試験の結果
行動修正が、ステッピング試験(図4B)およびシリンダー試験(図4A)について4~6週間、ならびにロータメーター試験(図4C)について2週間得られるため、移植されたラット(6Pro-encapsおよびCNO)において本発明による移植の極めて陽性の効果を行動試験は示し、一方、前駆体移植の文献で示されたわずかな効果は約20週間後に行動改善を示す(Kriks et al. 2011、Grealish et al. 2014、Kirkeby et al. 2017、Doi et al. 2014)。
【0118】
予想されたように、本発明による移植は、他方で、不安の結果に対して影響を有しない(図4D)。
【0119】
組織学的結果
2つのCNOおよびPro-encap群で実施された移植の組織学的分析は、移植中に10~15%THニューロンの存在を示す。比較として、先に公表されている研究では、前駆体埋め込み後のTHニューロンレベルを約5%(Kirkeby et al. 2017)または6%(Kriks et al. 2011)と記載されている。
【0120】
ニューロンの生存の分析は、埋め込みの6日後、マルチミリメートルの軸索投射がCNOラットの脳で観察される(図3)ことを示し、これは本発明による埋め込み後のニューロンの顕著な生存を確認する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
【手続補正書】
【提出日】2023-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書または図面に記載された発明。
【外国語明細書】