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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005209
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/40 20060101AFI20230111BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C23C14/40
H05H1/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106981
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】岸田 茂明
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
【Fターム(参考)】
2G084AA04
2G084BB02
2G084BB05
2G084BB14
2G084CC13
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD22
2G084DD25
2G084DD55
4K029CA06
4K029DC16
4K029DC29
4K029DC35
4K029EA01
4K029EA06
4K029JA01
4K029KA02
(57)【要約】
【課題】成膜の均一性をさらに向上させる。
【解決手段】スパッタリング装置(100)は、真空容器(2)内において基板保持部(3)に保持された基板(W)の表面に沿って配列され、プラズマを発生させる複数のアンテナ(5)を備え、前記基板保持部(3)に保持された基板(W)の端部(W1・W2)それぞれに接触または近接するように、当該基板(W)の成膜側の面を拡張する拡張板(20a・20b)が配されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置であって、
真空排気され且つガスが導入される真空容器と、
前記真空容器内で前記基板を保持する基板保持部と、
前記基板の成膜側の面を拡張する拡張部材と、を備え、
前記拡張部材は、前記基板が前記基板保持部に保持された状態のとき、当該基板の端部に接触または近接するように、当該基板保持部に配されている、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記基板保持部に配された前記拡張部材の表面は、当該基板保持部に保持された基板の成膜側の面と面一である、請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記拡張部材は、前記基板保持部に保持された前記基板の端部全てに接触または近接するように、当該基板保持部に配されている、請求項1または2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記基板保持部を往復走査する往復走査機構をさらに備えている、請求項1から3の何れか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記真空容器内で前記基板と対向して前記ターゲットを保持するターゲット保持部を複数有し、これら複数のターゲット保持部は等間隔に配列されており、
前記ターゲットのピッチ幅をY、前記拡張部材の幅をZとしたとき、以下の関係式(1)が成り立つ、
Y≦Z≦2Y・・・・・(1)
請求項1~4の何れか1項に記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置としては、マグネトロンスパッタリング装置の他に、例えば特許文献1、2に記載された、ターゲットの近傍にアンテナを配置して、当該アンテナに高周波電流を流すことでスパッタリング用のプラズマを生成するスパッタリング装置がある。このスパッタリング装置では、磁石を用いてプラズマを生成する、所謂マグネトロンスパッタリング装置に比べて、プラズマの粗密が小さくなる。プラズマの粗密が小さくなることによって、ターゲットの使用効率が上がるとともに、成膜の均一性も向上することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-154875号公報
【特許文献2】特開2014-37555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1、2に開示されたスパッタリング装置等では、成膜の均一性をある程度向上させることができるものの、まだ十分ではない。例えば、特許文献1の場合、スパッタリング対象となる基板の位置に応じて放電空間の容積が変動し、プラズマ密度分布も変動するため、基板の位置によっては成膜にバラツキが生じる。特に、基板の端部近傍は、基板の中央部よりも放電容積が大きくなり、プラズマの密度が低下し膜厚が低下する。また、特許文献2の場合、基板の後方への着膜防止のための防着板が基板よりターゲット側にあるため、この防着板によって必要以上にスパッタ粒子を遮蔽することになる。特に、防着板は、基板の後方への着膜防止のため基板の端部に少し重なるように設けられるため、基板の端部で膜厚が低下する。
【0005】
本発明の一態様は、アンテナにより生成されるプラズマを用いたスパッタリング装置において、成膜の均一性をさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るスパッタリング装置は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置であって、真空排気され且つガスが導入される真空容器と、前記真空容器内で前記基板を保持する基板保持部と、前記基板の成膜側の面を拡張する拡張部材と、を備え、前記拡張部材は、前記基板が前記基板保持部に保持された状態のとき、当該基板の端部に接触または近接するように、当該基板保持部に配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、基板における成膜の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態1に係るスパッタリング装置の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する縦断面図である。
図2図1に示すスパッタリング装置によって成膜される基板を基板保持部材によって保持された状態を示す斜視図である。
図3】同実施形態のアンテナ、ターゲット及び基板の位置関係を示す模式図である。
図4図3のAA’線矢視断面図である。
図5】同実施形態のスパッタ粒子の拡散分布を示す模式図である。
図6図1に示すスパッタリング装置の成膜時の真空容器内のスパッタ粒子の密度を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する縦断面図である。
図7図1に示すスパッタリング装置において、基板に拡張板を配さない場合の成膜時の真空容器内のスパッタ粒子の密度を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する縦断面図である。
図8】基板を走査方向に搬送させた状態での、図1に示すスパッタリング装置の成膜時の真空容器内のスパッタ粒子の密度を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する縦断面図である。
図9図1に示すスパッタリング装置において、基板に拡張板を配さない場合であって、基板を走査方向に搬送させた状態での成膜時の真空容器内のスパッタ粒子の密度を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する縦断面図である。
図10】拡張板の有無による膜厚分布を示すグラフである。
図11】拡張板の幅の違いによる膜厚分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
(スパッタリング装置の概要)
図1は、本実施形態に係るスパッタリング装置100の概略断面図である。スパッタリング装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いてターゲットTをスパッタリングして基板Wに成膜するものである。ここで、基板Wは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。
【0011】
スパッタリング装置100は、図1に示すように、真空容器2と、基板Wを保持する基板保持部3と、ターゲットTを保持するターゲット保持部4と、直線状をなす複数のアンテナ5と、複数のアンテナ5に高周波電力を印加する高周波電源6とを備えている。これにより、複数のアンテナ5に高周波電源6から高周波が印加されることによって、当該複数のアンテナ5に高周波電流IRが流れて、真空容器2内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0012】
真空容器2は、例えば金属製の容器であり、その内部は真空排気装置(図示せず)によって真空排気される。なお、真空容器2は電気的に接地されている。また、真空容器2内に、スパッタ用ガス又は反応性ガスが導入される。スパッタ用ガス及び反応性ガスは、基板Wに施す処理内容に応じたものにすれば良い。スパッタ用ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)等の不活性ガスである。反応性ガスとしては、例えば酸素(O)や窒素(N)等である。
【0013】
基板保持部3は、図2に示すように、平板状をなす基板Wを保持するホルダである。基板保持部3は、さらに、拡張板20a・20bも保持する。拡張板20a・20bは、基板Wの成膜側の面を拡張する拡張部材である。拡張板20a・20bは、基板Wが基板保持部3に保持された状態のとき、基板Wの端部W1・W2に接触または近接するように、基板保持部3に配されている。なお、この場合、端部W1・W2の両方に対して、拡張板20a・20bを接触するように配さなくても、端部W1・W2の両方に対して、拡張板20a・20bを近接するように配してもよい。また、端部W1・W2の両方に近接するように配さなくても、一方の端部W1(W2)に対して、拡張版20a(20b)を接触するように配し、他方の端部W2(W1)に対して、拡張板20b(20a)を近接するように配してもよい。拡張板20a・20bは、基板保持部3に対してネジ止めなどして着脱自在に固定されている。それ故、成膜完了後、基板保持部3から基板Wを都度取り外すが、拡張板20a・20bはそのままとする。基板保持部3は、真空容器2内において基板Wを、拡張板20a・20bと共に例えば水平状態となるように保持し、後述するように真空容器2内において直線状に往復走査されるように構成されている。
【0014】
拡張板20a・20bは、表面(ターゲットTに対向する面)が基板Wの表面(成膜側の面)と面一になるように、基板Wの両側に配される。本実施形態では、このように、拡張板20a・20bが基板Wの長手方向の端部W1・W2に接触するように配されている例について説明するが、基板Wの短手方向の端部を含めて全ての端部に接触または近接するように配されていてもよい。なお、この場合、全ての端部に対して、拡張板を接触するだけでなく、全ての端部に対して、拡張板を近接するように配してもよい。また、全ての端部に対して、拡張板を近接するように配さなくても、一部の端部に対して、拡張版を接触するように配し、残りの端部に対して、拡張板を近接するように配してもよい。
【0015】
ターゲット保持部4は、基板保持部3に保持された基板Wおよび拡張板20a・20bと対向してターゲットTを保持するものである。本実施形態のターゲットTは、平面視において矩形状をなす平板状のものである。このターゲット保持部4は、真空容器2を形成する側壁2a(例えば上側壁)に設けられている。また、ターゲット保持部4と真空容器2の側壁2aとの間には、真空シール機能を有する絶縁部9が設けられている。ターゲットTには、当該ターゲットTにターゲットバイアス電圧を印加するターゲットバイアス電源10が、ターゲット保持部4を介して接続されている。ターゲットバイアス電圧は、プラズマP中のイオンをターゲットTに引き込んでスパッタさせる電圧である。
【0016】
本実施形態では、ターゲット保持部4は複数設けられている。複数のターゲット保持部4は、真空容器2内における基板Wの表面側に、当該基板Wの表面に沿うように(例えば基板Wの裏面と実質的に平行に)同一平面上に並列に配置されている。複数のターゲット保持部4は、その長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されている。これにより、真空容器2内に配置された複数のターゲットTは、図1及び図4に示すように、基板Wの表面と実質的に平行であり、且つ、長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されることになる。なお、各ターゲット保持部4は同一構成である。
【0017】
複数のアンテナ5は、真空容器2内における基板Wの表面側に、当該基板Wの表面に沿うように(例えば、基板Wの表面と実質的に平行に)同一平面上に並列に配置されている。複数のアンテナ5は、その長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されている。なお、各アンテナ5は、図3に示すように、平面視において直線状で同一構成であり、その長さは数十cm以上である。
【0018】
本実施形態のアンテナ5は、図1及び図3に示すように、各ターゲット保持部4に保持されたターゲットTの両側にそれぞれ配置されている。つまり、アンテナ5とターゲットTとが交互に配置されており、1つのターゲットTは、2本のアンテナ5により挟まれた構成となる。ここで、各アンテナ5の長手方向と各ターゲット保持部4に保持されたターゲットTの長手方向とは同一方向である。また、特に図4に示すように、複数のターゲットTのピッチ幅と、複数のアンテナ5のピッチ幅とは同一(ともにピッチ幅Y)となるように配置されている。さらに、2つのターゲットTの間に配置されるアンテナ5はそれら2つのターゲットTから等距離の位置に配置されている。
【0019】
また、各アンテナ5の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金、ステンレス等であるが、これに限られるものではない。なお、アンテナ5を中空にして、その中に冷却水等の冷媒を流し、アンテナ5を冷却するようにしても良い。
【0020】
さらに、各アンテナ5において、真空容器2内に位置する部分は、絶縁物製で直管状の絶縁カバー12により覆われている。この絶縁カバー12の両端部と真空容器2との間はシールしなくても良い。絶縁カバー12内の空間にガスが入っても、当該空間は小さくて電子の移動距離は短いので、通常は当該空間にプラズマPは発生しないからである。なお、絶縁カバー12の材質は、例えば、石英、アルミナ、フッ素樹脂、窒化シリコン、炭化シリコン、シリコン等であるが、これらに限られるものではない。
【0021】
アンテナ5には、高周波電源6が接続されている。なお、アンテナ5に可変コンデンサ又は可変リアクトル等のインピーダンス調整回路を設けて、各アンテナ5のインピーダンスを調整するように構成しても良い。このように各アンテナ5のインピーダンスを調整することによって、アンテナ5の長手方向におけるプラズマPの密度分布を均一化することができ、アンテナ5の長手方向の膜厚を均一化することができる。
【0022】
上記構成によって、高周波電源6から、アンテナ5に高周波電流IRを流すことができる。高周波の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0023】
そして、本実施形態のスパッタリング装置100は、基板保持部3を往復走査する往復走査機構15を有している。往復走査機構15は、基板保持部3をアンテナ5の配列方向Xに沿って往復走査させることで、基板保持部3が保持しているに保持された基板Wおよび拡張板20a・20bをアンテナ5の配列方向Xに沿って往復走査させる。
【0024】
往復走査機構15は、基板保持部3をアンテナ5の配列方向Xに沿って機械的に往復走査させることにより、基板保持部3に保持された基板Wおよび拡張板20a・20bを配列方向Xに沿って同一平面上で往復走査させるものである。この往復走査機構15による基板Wの往路及び復路は直線移動であり、また、往路及び復路は互いに重複するように構成されている。なお、往復走査機構15は、例えば真空容器2外に設けられたアクチュエータと、基板保持部3に連結されるとともにアクチュエータにより駆動されるリニアガイドとを備えたもの等が考えられる。
【0025】
また、往復走査機構15は、図3および図4に示すように、基板Wおよび拡張板20a・20bの走査範囲SRが前記ピッチ幅Yとなるよう構成されている。具体的には、往復走査機構15を制御する制御装置(図示せず)によって、基板Wの走査範囲SRが前記ピッチ幅Yなるよう構成されている。つまり、基板Wおよび拡張板20a・20bは、初期位置を中心位置Oとして±Y/2の振幅で往復走査される。
【0026】
本実施形態のように複数のターゲットT及び複数のアンテナ5を交互に配置した構成の場合、各ターゲットTから飛び出すスパッタ粒子の拡散範囲は図5のように互いに重なる。一方、基板Wおよび拡張板20a・20bを走査しない場合には、基板表面には周期aの膜厚や膜質の分布が生じ得る。ここで、往復走査機構15による基板Wの走査範囲SRをターゲットTのピッチ幅Yと同じピッチ幅Yとしているので、基板表面に生じ得る周期aの膜厚や膜質の分布を均して、成膜の均一性を向上させることができる。なお、基板Wに拡張板20a・20bを設けることで、さらに、成膜の均一性を向上させることができる。この点について、以下に説明する。
【0027】
(成膜の均一性の向上)
図6に示すように、基板Wの端部(W1・W2)それぞれに拡張板20a・20bを配して、真空容器2のほぼ中央に配置した状態では、拡張板20a・20bによってプラズマPの拡がりが抑えられる。これにより、基板Wおよび拡張板20a・20bの表面に対するスパッタ粒子の密度(図中の太矢印)はほぼ同じである。この場合、基板Wの端部(W1・W2)それぞれに拡張板20a・20bが設けられていることで、基板Wの端部でプラズマPが拡がらないため、当該基板Wの端部(W1・W2)におけるスパッタ粒子の密度は低下しない。このため、基板Wの中央部から端部(W1・W2)に向かって成膜された膜の厚みが低下することを抑制することができ、その結果、成膜の均一性が向上する。
【0028】
一方、拡張板20a・20bを設けず、図7に示すように、基板Wを真空容器2のほぼ中央に配置した状態では、プラズマPが基板Wの端部(W1・W2)から当該基板Wの外側に拡がる。プラズマPが拡がることにより、基板Wの表面へのスパッタ粒子の密度(図中の太矢印)がほぼ同じ量であっても、基板Wの端部(W1・W2)から外側ではプラズマPが拡がるため、スパッタ粒子の密度が基板Wの中央部よりも若干低くなるため、基板Wの端部(W1・W2)に近づく程、成膜される膜の厚みも低下する。このため、基板Wに成膜される膜の膜厚にバラツキが生じる。
【0029】
また、基板Wの端部(W1・W2)それぞれに接触するように拡張板20a・20bを配した場合、図8に示すように、往復走査機構15によって真空容器2内を移動させながらスパッタリングを行っても、図6に示すように基板Wが静止している場合と同様に、基板Wの中央部から端部(W1・W2)に向かって膜厚の低下はない。つまり、基板Wが移動することでプラズマPが拡がり、スパッタ粒子の密度が低下しても、その影響は、基板Wの端部W1に接触するように配された拡張板20aが受けることになり、当該基板Wの端部W1側は受けない。
【0030】
一方、基板Wの端部(W1・W2)それぞれに拡張板20a・20bを配していない場合、図9に示すように、往復走査機構15によって真空容器2内を移動させながらスパッタリングを行えば、基板Wの中央部から端部(W1・W2)に向かって膜厚が低下する。つまり、基板Wが移動することでプラズマPが拡がり、スパッタ粒子の密度が低下し、その影響は、基板Wの端部W1側で受けるため、当該基板Wの端部W1側に成膜された膜の膜厚が低下する。
【0031】
しかも、基板Wの端部(W1・W2)のそれぞれに配された拡張板20a・20bの表面は、基板Wの成膜側の面と面一であるので、基板Wと拡張板20a・20bとの境界部分も面一となる。この境界部分に含まれる、基板Wの端部W1・W2における放電空間の容積変動を無くすことが可能となり、当該基板Wに成膜される膜の膜厚のバラツキを無くし、成膜の均一性をさらに向上させることができる。
【0032】
このように、成膜される膜厚のバラツキを無くして、成膜の均一性を向上させるには、拡張板20a・20bを、基板Wの端部(W1・W2)のそれぞれにできるだけ近づけて配するのが好ましい。このため、上述したように、拡張板20a・20bを、基板Wの端部(W1・W2)のそれぞれに接触するように配するのが最も好ましいが、拡張板20a・20bを、基板Wの端部(W1・W2)のそれぞれに対して、接触させずに、近接するように配してもよい。このように、拡張板20a・20bを基板Wの端部W1・W2に近接するように配する場合、当該基板Wの端部W1・W2において成膜される膜の膜厚にバラツキが生じない程度離して、拡張板を基板の端部に対して配すればよい。
【0033】
(成膜分布と拡張板との関係)
成膜時に基板Wの端部W1・W2に接触するように配される拡張板20a・20bの有無による成膜時の膜の膜厚分布にどれだけ違いがあるかを示すと、図10に示すグラフのようになる。図10に示すグラフは、横軸を成膜対象となる基板の中央を0として、そこから端部までの距離(並び位置(mm))とし、縦軸を各並び位置における膜厚を測定した値を示している。このグラフを得るための条件は、スパッタリング装置100において、アンテナ5に供給する電力が20kW、ターゲットTに印加するバイアス電圧が400V、真空容器2における圧力が0.5Pa、真空容器2における不活性ガスに対するO比が2.5%である。図10に示すグラフでは、拡張版20a・20b有りの場合と、無しの場合とにおける膜厚の分布を示している。
【0034】
図10に示すグラフから分るように、基板Wに拡張板20a・20bを配した場合(拡張板有り)の方が、基板Wに拡張板20a・20bを配していない場合(拡張板無し)よりも膜厚の分布にバラツキが少ない。つまり、基板Wに拡張板20a・20bを配した場合の方が、成膜の均一性に優れていることが分る。
【0035】
拡張板の幅の違いによる成膜時の膜の膜厚分布にどれだけ違いがあるかを示すと、図11に示すグラフのようになる。図11に示すグラフは、図10に示すグラフと同様に、横軸を成膜対象となる基板の中央を0として、そこから端部までの距離(並び位置(mm))とし、縦軸を各並び位置における膜厚を測定した値を示している。このグラフを得るための条件は、スパッタリング装置100において、アンテナ5に供給する電力が20kW、ターゲットTに印加するバイアス電圧が400V、真空容器2における圧力が0.5Pa、真空容器2における不活性ガスに対するO比が2.5%である。図11に示すグラフでは、拡張板20a・20bの幅(基板Wの端部W1・W2から遠ざかる方向に向かう長さ)が250mmの場合と、300mmの場合とにおける成膜の分布を示している。
【0036】
図11に示すグラフから分るように、拡張板20a・20bの幅の幅が広いほうが膜厚の分布にバラツキが少ない。つまり、拡張板20a・20bの幅の幅が広いほうが成膜の均一性に優れていることが分る。
【0037】
なお、基板Wの端部W1・W2側における膜厚低下を抑制するためには、拡張板20a・20bの幅は広いほうが好ましいが、スパッタ粒子の拡がりと同じ程度で有れば十分である。すなわち、図4に示すように、複数のターゲットTのピッチ幅をY、拡張板20a・20bの幅をZとしたとき、以下の関係式(1)が成り立つことが好ましい。
【0038】
Y≦Z≦2Y・・・・(1)
例えば、例えば、ターゲットTのピッチ幅Yを200mmとすると、拡張板20a・20bの幅Zは250~400mm程度となる。
【0039】
拡張板20a・20bの幅の上限値は、スパッタリング装置100の大きさを考慮して設定し、下限値は、基板Wの端部W1・W2における膜厚低下が生じないように設定すればよい。このように、拡張板20a・20bの幅は、ターゲットTのピッチ幅、スパッタリング装置100の大きさに基づき設定すればよい。
【0040】
また、本実施形態では、基板の端部に、当該基板の成膜側の面を拡張するために配された拡張部材として、板状の拡張板20a・20bの例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、拡張部材として、少なくとも一面が基板の成膜側の面を拡張する面である部材であれば、どのような形状であってもよい。
【0041】
さらに、基板Wの端部(W1・W2)のそれぞれに接触するように配された拡張板20a・20bの表面が、基板Wの成膜側の面と面一となる例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば拡張板20a・20bを、基板Wの後方、すなわちターゲットTから遠ざかる方向に配してもよい。また、拡張板20a・20bを、基板Wの端部W1・W2からそれぞれ斜め上方(ターゲットT側)に傾斜するように配してもよい。
【0042】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
2 真空容器
2a 側壁
3 基板保持部
4 ターゲット保持部
5 アンテナ
6 高周波電源
9 絶縁部
10 ターゲットバイアス電源
12 絶縁カバー
15 往復走査機構(走査機構)
20a、20b 拡張板(拡張部材)
100 スパッタリング装置
IR 高周波電流
P プラズマ
SR 走査範囲
T ターゲット
W 基板
W1、W2 端部
X 配列方向
Y ピッチ幅
Z 拡張板の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11