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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052112
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】配列検出システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230404BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230404BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230404BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12M1/00 A
C12Q1/6869 Z
C12Q1/48 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022209729
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2019568597の分割
【原出願日】2018-09-14
(31)【優先権主張番号】62/559,202
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500358711
【氏名又は名称】イルミナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・ジー・マンデル
(72)【発明者】
【氏名】ケビン・エル・ガンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・グレゴリー・キーハン
(72)【発明者】
【氏名】エリン・クリスティン・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ハー・グントラッハ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】配列検出システムを提供する。
【解決手段】ターゲット内のエンティティと特異的に相互作用する場合に1つ以上の機械的変化を示す機械的変化センサー、ここに各々のエンティティはタイプを有し;1つ以上の機械的変化を信号に変換する機械的変化-信号トランスデューサー;および信号を用いてターゲット内のエンティティのタイプを決定する分析サブシステムを含む検出システムとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット内のエンティティと特異的に相互作用する場合に1つ以上の機械的変化を示す機械的変化センサー、ここに各々のエンティティはタイプを有し;
1つ以上の機械的変化を信号に変換する機械的変化-信号トランスデューサー;および
信号を用いてターゲット内のエンティティのタイプを決定する分析サブシステム
を含む検出システム。
【請求項2】
分析サブシステムは、
ターゲット内の特定のエンティティに対応する電気信号の各々の部分について、
電気信号の一部分からn派生値を計算し、ここにnは2以上の整数であり、
特定のエンティティのタイプに対応するn次元レンジのボリュームに2以上の派生値をマッピングし、および
エンティティに特定のエンティティのタイプに割り当てる
ことによって電気信号を用いてターゲット内のエンティティのタイプを決定する、請求項1に記載の配列検出システム。
【請求項3】
n派生値は、以下:
複数の信号の大きさのサンプルの平均;
複数の信号の大きさのサンプルの分散;および
複数の信号の大きさのサンプルの標準偏差
の1つ以上を含む、請求項2に記載の配列検出システム。
【請求項4】
分析サブシステムは、後の検索、送信、表示、およびさらなる分析の少なくとも1つのために、メモリ中のターゲット内のエンティティの対応する配列に割り当てられたエンティティのタイプの配列の表示を保存する、請求項2に記載の配列検出システム。
【請求項5】
機械的変化-信号トランスデューサーは、
電流のフローを調節する可変レジスター;
機械的変化コンポーネントを可変レジスターに結合する機械的カプラー;および
電流のフローの割合に応じて変化する電圧信号を出力する電流-電圧コンバーター
をさらに含む、請求項1に記載の配列検出システム。
【請求項6】
ターゲットはプライマー会合DNAテンプレートポリマーであり;
機械的変化コンポーネントはDNAポリメラーゼであり;
機械的カプラーは、一端がDNAポリメラーゼに結合したDNAポリマーテザーであり;および
可変レジスターは、ポリンチャネル内の狭窄部内にあるDNAポリマーテザーのレポーター領域である、請求項5に記載の配列検出システム。
【請求項7】
活性部位内のヌクレオチドポリリン酸と特異的に会合する場合に機械的変化を示す核酸-ポリメラーゼの機械的変化コンポーネント;
核酸ポリメラーゼの機械的変化コンポーネントの機械的変化を出力信号に変換する機械的変化-信号トランスデューサー;および
出力信号を使用して、核酸ポリマーターゲット内のモノマーのタイプの配列を決定する分析サブシステム
を含む配列検出システム。
【請求項8】
機械的変化-信号トランスデューサーは:
一端が核酸ポリメラーゼの機械的変化コンポーネントに結合し、核酸ポリメラーゼの機械的変化コンポーネントが機械的変化を受ける場合にポリンチャネルの狭窄部を通って移動するレポーター領域を含み、電流を構成するポリンチャネルを通るイオンのフローを可変的に調整するテザー;および
ポリンチャネルを通る電流フローの割合に対応して変化する電圧信号を出力する電流-電圧コンバーター
をさらに含む、請求項7に記載の配列検出システム。
【請求項9】
レポーター領域はオリゴヌクレオチドであり、レポーター領域内の異なるヌクレオチドサブ配列は、ポリンチャネルの狭窄部内に位置する場合に電流フローに異なる抵抗を提供する、請求項8に記載の配列検出システム。
【請求項10】
レポーター領域はオリゴデオキシヌクレオチドであり、レポーター領域は同様の長さのオリゴデオキシヌクレオチドに対する平均抵抗よりも大きい電流フローに対する抵抗を示す、請求項9に記載の配列検出システム。
【請求項11】
レポーター領域はオリゴデオキシヌクレオチドであり、レポーター領域は同様の長さのオリゴデオキシヌクレオチドに対する平均抵抗より低い電流フローに対する抵抗を示す、請求項9に記載の配列検出システム。
【請求項12】
核酸ポリメラーゼの機械的変化コンポーネントのコンホメーションの変化に対する出力信号の感度は、レポーター領域によって提供される電流フローに対する抵抗の空間的変化率の増加とともに増加し;および
レポートされた領域は、特定の出力電圧信号の信号応答を生成する抵抗の空間的変化率を有する、請求項9に記載の配列検出システム。
【請求項13】
テザーは寸法の柔軟性を示し;および
ポリンチャネルを横切って印加する電圧の調整は、ポリンチャネル内のレポーター領域を移動させる、請求項9に記載の配列検出システム。
【請求項14】
電流フローに対するレポーター領域の抵抗は空間的周期性を有し;および
配列検出システムは、ポリンチャネルを横切って印加する電圧を調整することにより、特定の出力電圧信号の信号応答を有するように較正される、請求項13に記載の配列検出システム。
【請求項15】
ロックコンポーネントは、DNAポリメラーゼの機械的変化コンポーネントからポリンチャネルの反対側のポリンチャネルを超えて伸長するポリマーテザーの一部分と会合して、ポリンチャネル内にポリマーテザーをつなぎ止める(secure)、請求項13に記載の配列検出システム。
【請求項16】
ポリンチャネルを横切って印加する電圧の極性が周期的に反転して出力信号中のノイズを低減する、請求項15に記載の配列検出システム。
【請求項17】
イオン化塩の緩衝溶液、デオキシヌクレオチドポリリン酸、およびプライマー会合DNAテンプレートポリマーを含む第1のチャンバー、
イオン化塩の緩衝溶液を含む第2のチャンバー、および
ポリンチャネルが第1のチャンバーと第2のチャンバーとの間の流体連通を供する、第2のチャンバーから第1のチャンバーを隔離するバリア
を含む2-チャンバーセル;
第1のチャンバー中の緩衝溶液と流体接触し、電流-電圧コンバーターに接続された第1の電極;および
第2のチャンバー中の緩衝溶液と流体接触し、電流-電圧コンバーターに接続された第2の電極
をさらに含む、請求項7に記載の配列検出システム。
【請求項18】
配列検出システムによって出力された信号からモノマー配列を決定する方法であって:
モノマーの配列中の異なるモノマーに各々が対応する信号の部分を同定し;
各々の信号部分について、
信号部分からn派生値を計算し、ここにnは2以上の整数であり、
n派生値をモノマーの特定のタイプに対応するn次元レンジのボリュームにマッピングし、および
モノマーの特定のタイプを信号部分に割り当て;および
信号部分に割り当てたモノマーのタイプに相補的なモノマーのタイプの配列の象徴的な表示を生成および保存する
ことを含む方法。
【請求項19】
n派生値が:
複数の信号の大きさのサンプルの平均;
複数の信号の大きさのサンプルの分散;および
複数の信号の大きさのサンプルの標準偏差
の1つ以上を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
モノマーの配列がデオキシヌクレオチドモノマーの配列であり、それらのうちの1つ以上がデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジンおよびデオキシシチジンとは化学的に異なる、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
産業および研究環境では、さまざまな種類のオブジェクトまたはエンティティの配列に遭遇する。DNA配列決定およびRNA配列決定は、多くの異なる研究、診断、法医学、および製薬のプロセスと応用で採用されている。多くの配列検出システムは、複数のタイプの検出器と、検出器から出力される複数のタイプの信号を使用して、入力ターゲット配列内のエンティティとオブジェクトのタイプを識別する。多くの場合、電磁気センサーは、電磁気センサーを通過するオブジェクトやエンティティの寸法および電気特性によって異なる電気信号を生成するために使用される。特定の配列検出システムでは、光学センサーを使用して、オブジェクトまたはエンティティによって吸収される光の波長によって、またはオブジェクトまたはエンティティから生成される光学画像の計算処理によって、ターゲット配列内のエンティティおよびオブジェクトを識別および分類する。さらなる検出器には、重量検出器、体積検出器、および磁化率検出器が含まれる。
【0002】
配列検出器は、多くの場合、入力ターゲットのオブジェクトまたはエンティティの配列を決定および報告する信頼性および精度によって、入力ターゲット配列を同定する速度によって、および配列検出器のコストおよび複雑さによって特徴付けられる。多くの場合、信頼性および精度の増大は費用および複雑さの増大を伴う。現実世界の適用において配列検出器を最適に使用するために、システムおよびプロセスエンジニアは、特定の適用に使用するためのさまざまなタイプの配列検出器を評価および比較しようとしている。このため、システムおよびプロセスエンジニア、研究者、診断士、および配列検出器のその他のユーザーは、配列検出パラメータおよび特定の適用の目標を最適に満たす特定の配列検出プロセスおよびシステムの同定および展開を促進するために、新しい異なるタイプの配列検出器を継続的に探している。
【発明の概要】
【0003】
概要
本明細書では、ターゲット内のエンティティと特異的に相互作用する場合に1つまたはそれを超える機械的変化を示す機械的変化センサーを含む検出システムを論じる。各エンティティは、タイプ、1つまたはそれを超える機械的変化を信号に変換する機械的変化-信号変換器、および信号を使用してターゲット内のエンティティのタイプを決定する分析サブシステムを有する。本明細書は、活性部位内のヌクレオチドポリリン酸と特異的に会合する場合に機械的変化を示す核酸-ポリメラーゼ機械的変化コンポーネント;核酸-ポリメラーゼ機械的変化コンポーネントにおける機械的変化を出力信号に変換する機械的変化-信号変換器、および核酸ポリマーターゲット内のモノマーのタイプの配列を外部信号を使用して決定する分析サブシステムを含む、配列検出システムをさらに論じる。本明細書は、さらに、配列検出システムによって信号出力からモノマー配列を決定する方法を論じ、この方法には、モノマーの配列中の異なるモノマーに各々対応する信号の部分を各信号部分について同定し、信号部分からn派生値(n derived value)(nは2以上の整数)を計算し、n派生値を特定のタイプのモノマーに対応するn次元レンジボリューム(n-dimensional range volume)にマッピングし、信号部分に割り当てられたモノマーのタイプに相補的なモノマーのタイプの配列の象徴的な表示を発生および保存することが含まれる。ある種の場合において、信号派生値は、モノマーの配列中の異なるモノマーを同定するのに十分となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1図1は、1つの例において、第1のタイプの機械的変化ベースの配列検出器へのターゲット入力、およびそれによる決定した配列表示出力を示す。
【0005】
図2図2は、第1のタイプの機械的変化ベースの配列検出器に基づく配列検出システムの1つの実施を示す。
【0006】
図3A-3F】図3A~3Fは、1つの例において、図2に示す配列検出システムの機械的変化センサーコンポーネントを示す。
【0007】
図4図4は、1つの例において、図2に示す配列検出システム内の機械的変化-検出サブシステムによる機械的変化センサーコンポーネントの形状の変化からの電圧信号の生成を示す。
【0008】
図5図5は、1つの例において、図2に示す機械的変化ベースの配列検出器204の内部コンポーネントを示す。
【0009】
図6A-6D】図6A~6Dは、1つの例において、ターゲット内で生じる4つの異なるタイプのオブジェクトのそれぞれによって生成された電圧信号を示す。
【0010】
図7図7は、4つのオブジェクトタイプa、b、c、dそれぞれの10個のオブジェクトを含む試験ターゲットから配列検出システムによって生成された仮想分析結果を示す。
【0011】
図8図8は、図7に示すデータ表に含まれる平均電圧-大きさデータのプロットを示す。
【0012】
図9図9は、図7に示す表に含まれるデータの2次元プロットを示す。
【0013】
図10図10は、1つの例において、オブジェクトタイプの決定に3つの派生値を使用することを示す。
【0014】
図11図11は、図1~10を参照して先に論じた配列検出システムをまとめたものである。
【0015】
図12図12は、図1~11を参照して先に論じた1つの例の第1の配列-決定システム、および本明細書のこのサブセクションで論じる第2の配列-決定システムを比較する表を提供する。
【0016】
図13図13は、1つの例において、第2の配列検出システムに含まれる機械的変化ベースの配列検出器を示す。
【0017】
図14A図14A~14Bは、第2の配列検出システムのさまざまな実施態様で別々にまたは一緒に使用される2つの異なる電流-電圧コンバーター回路を示す。
【0018】
図14B図14A~14Bは、第2の配列検出システムのさまざまな実施態様で別々にまたは一緒に使用される2つの異なる電流-電圧コンバーター回路を示す。
【0019】
図15図15は、1つの例において、並列配列決定を提供するセルのアレイを示す。
【0020】
図16図16は短いDNAポリマーを示す。
【0021】
図17A図17A~17Bは、2つの対向する平行DNA鎖のプリン塩基およびピリミジン塩基間の水素結合を示す。
【0022】
図17B図17A~17Bは、2つの対向する平行DNA鎖のプリン塩基およびピリミジン塩基間の水素結合を示す。
【0023】
図18A-18B】図18A~18Bは二本鎖DNAを示す。
【0024】
図19図19は、20種類の一般的なアミノ酸の名前と化学構造を示す。
【0025】
図20図20は、第2の配列検出システムで機械的変化センサーコンポーネントとして使用するE.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒される重合反応を示す。
【0026】
図21A図21A~21Eは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒されるコピー鎖伸長を示す。
【0027】
図21B図21A~21Eは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒されるコピー鎖伸長を示す。
【0028】
図21C図21A~21Eは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒されるコピー鎖伸長を示す。
【0029】
図21D図21A~21Eは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒されるコピー鎖伸長を示す。
【0030】
図21E図21A~21Eは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒されるコピー鎖伸長を示す。
【0031】
図22A-22B】図22A~22Bは、1つの例において、第2の配列検出システムの可変抵抗コンポーネントを示す。
【0032】
図23A図23A~23Bは、DNAポリマーテザーをDNAポリメラーゼ機械的変化センサー構成要素1304に取り付けるための1つの方法を示す。
【0033】
図23B図23A~23Bは、DNAポリマーテザーをDNAポリメラーゼ機械的変化センサー構成要素1304に取り付けるための1つの方法を示す。
【0034】
図24図24は、1つの例において、DNAポリメラーゼを可変抵抗コンポーネントに機械的に結合し、さらに可変抵抗コンポーネントの一部分を形成するDNAポリマーテザーのいくつかの特徴機能を示す。
【0035】
図25図25は、低電流で高抵抗の4つのデオキシヌクレオチド-モノマー配列および高電流で低抵抗の4つのデオキシヌクレオチド-モノマー配列の多数の例を示す。
【0036】
図26A図26A~26Bは、1つの例において、DNAポリマーテザー配列設計を介した機械的-電気的信号変換の応答性を仕立てることを示す。
【0037】
図26B図26A~26Bは、1つの例において、DNAポリマーテザー配列設計を介した機械的-電気的信号変換の応答性を仕立てることを示す。
【0038】
図27図27は、1つの例において、DNA反復デオキシヌクレオチド配列を特徴とするDNAポリマーテザーを示す。
【0039】
図28A-28C】図28A~28Cは、1つの例において、第2の配列検出システムのある種の実施形態において、DNAポリメラーゼによってコピー鎖に付加された異なるデオキシヌクレオチドを識別するために用いたアプローチを示す。
【0040】
図29A図29A~29Cは、1つの例において、ポリンチャネル内にDNAポリマーテザーを確実に保持するためのロックオリゴヌクレオチド(locking oligonucleotide)の使用を示す。
【0041】
図29B図29A~29Cは、1つの例において、ポリンチャネル内にDNAポリマーテザーを確実に保持するためのロックオリゴヌクレオチド(locking oligonucleotide)の使用を示す。
【0042】
図29C図29A~29Cは、1つの例において、ポリンチャネル内にDNAポリマーテザーを確実に保持するためのロックオリゴヌクレオチド(locking oligonucleotide)の使用を示す。
【0043】
図30図30は、1つの実施形態において、出力電圧信号における混乱を起こす(disruptive)ノイズの出現を防ぐために用いた印加-電圧のサイクルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書では、ターゲット内のエンティティのタイプの配列を決定し得る信号を生成する配列検出器を論じる。本明細書に記載する配列検出器は、例えば、電気機械装置であってもよい。電気機械装置とは、電気コンポーネントと機械コンポーネントの両方を含む装置であり、追加の光学コンポーネント、流体コンポーネント、およびその他のコンポーネントを含んでいてもよい。配列検出器の例は、ターゲットのエンティティタイプの配列を決定できる信号を生成することにより配列を検出する。配列検出器は、信号を分析してエンティティタイプの配列を決定する、マイクロプロセッサ制御の信号分析コンポーネントなどのコンポーネントを含んでもよい。ターゲットにはエンティティの配列が含まれ、各エンティティにはタイプがある。配列検出器は、ターゲットと物理的に相互作用し、配列検出器内の機械的変化センサーがターゲット中の異なるタイプのエンティティと特異的に相互作用するときに変化する信号を生成する。特異的な相互作用は、機械的変化センサーと、機械的変化-信号変換器によって対応する信号に変換されるエンティティが属するエンティティタイプの機械的変化センサー特性における機械的変化を決定論的に生成するエンティティとの間の相互作用であり、対応する信号はエンティティが属するエンティティタイプの特性でもある。機械的変化には、機械的変化-信号変換器の形状および/またはサイズの変化、他のコンポーネントに対する機械的変化-信号変換器のポジションの変化、他のコンポーネントに対する機械的変化-信号変換器の向きの変化、および他のそのような機械的変化が含まれ得る。本明細書においては、ターゲットおよび対応する配列検出器の2つの異なる例について、以下の2つのサブセクションで論じている。第1の例のターゲットは、ストリングまたはワイヤで一緒に接続されたマクロスケールオブジェクトの線形配列である。各オブジェクトは、4つの異なる形状のいずれか1つを有する。オブジェクトのタイプは、オブジェクトの形状に対応する。第1の対応する配列検出器は、ターゲットが機械的変化センサーを通過し、機械的変化センサーが各オブジェクトと特異的に相互作用し、可変レジスターによるオブジェクトの形状の電気信号特性に変換される機械的変化センサーにおける機械的変化を生じる際に、時間変化する電気信号を生成する。第2の例のターゲットは、共有結合によって互いに結合したモノマーの配列を含む生体高分子である。以下の説明で例として使用するDNAおよびRNAポリマーにおいては、化学組成および構造が互いに異なる4つの一般的に発生する異なるタイプのモノマーがあり、追加のタイプのモノマーはあまり発生しない。第2の対応する配列検出器は、ターゲット生体高分子が機械的変化センサーを通過し、機械的変化センサーがモノマーと特異的に会合して機械的変化センサー内における機械的変化を生じ、ついでそれがカップラーによって可変レジスターに連絡される際に、時間変化する電気信号を生成する。これらの2つのタイプの検出器は例であって、他の構成も存在し、実施し得る。

第1のタイプの機械的変化ベースの電気機械的配列検出器
【0045】
図1は、1つの例において、最初の(タイプの)機械的変化ベースの配列検出器、へのターゲット入力、および決定された配列表示出力を示す。ターゲット102は、オブジェクト104~116の線形配列である。この例では、ターゲットに含まれるオブジェクトには4つの異なるタイプが存在する:(1)タイプaという円筒形オブジェクトタイプ120;(2)タイプbという立方体オブジェクトタイプ122;(3)タイプcという球体オブジェクトタイプ124;および(4)タイプdという四角錐オブジェクトタイプ126。ターゲット102は、オブジェクト104~116がしっかりと取り付けられるワイヤまたはコードなどの線形間隔部材130を含む。ターゲットは、ターゲット内のオブジェクトタイプ132の配列の記号表示を出力する第1のタイプの配列検出器に機械的に入力される。
【0046】
図2は、第1のタイプの機械的変化ベースの配列検出器をベースとする配列検出システムの1つの実施形態を示す。配列検出システム202には、ターゲット206が機械的に入力される機械的変化ベースの配列検出器204が含まれる。機械的変化ベースの配列検出器は、ターゲット208を機械的に出力し、電気信号210を分析サブシステムに出力する。分析サブシステムは、特定の配列検出器のコンピュータシステム212で実行されるコンピュータプログラムとして実装され、電気信号を処理してターゲット内のオブジェクトタイプの配列を決定し、オブジェクトタイプ214の決定した配列をコンピュータディスプレイデバイス216上に出力する。別の実施形態においては、分析サブシステムは、汎用コンピュータシステム以外のプロセッサー制御サブシステムによって実装される。コンピュータシステムはさらに、1つまたはそれを超えるメモリおよび/または1つまたはそれを超えるマスストレージデバイスに配列の符号化した表示を保存してもよい。配列の符号化された表示は、リモートコンピュータシステムに送信され、その後、ユーザーへの表示およびさらなる分析のために検索することができる。
【0047】
図3A~3Fは、1つの例において、図2に示す配列検出システムの機械的変化センサーコンポーネントを示す。図3Aに示すように、機械的変化センサーコンポーネント302は、タイン306を含む多数の柔軟なバネ状のタインが取り付けられた剛性の円形リング304を含む漏斗型デバイスである。タインは、図3Bの上方から下方への投影図に示すように、内側に放射状の向きで円錐部の表面にあるかのように配置される。図3Cは、機械的変化センサーコンポーネント310のロジカル表示を示す。図3D~3Fを含む一連の図には、機械的変化センサーコンポーネントの操作が示されている。タイプbのオブジェクト312(図1の122)は、図3Dの機械的変化センサーコンポーネント302の背後に配置されて示されている。図3E~3Fにおいては、オブジェクトは、機械的変化センサーコンポーネント302を通して機械的に翻訳されている。機械的変化センサーコンポーネントを通過すると、オブジェクトは図3Fに示すように柔軟なタインを外側に押し、機械的変化コンポーネントの漏斗形状をゆがめる。
【0048】
図4は、1つの例において、図2に示す配列検出システム内の機械的変化-検出サブシステムによる機械的変化センサーコンポーネントの形状の変化からの電圧信号の生成を示す。図4の左手側には、機械的変化センサーコンポーネントの漏斗様形状が歪んでいない場合の機械的変化-検出サブシステム402が示されている。図4の右側には、機械的変化センサーコンポーネントの漏斗様形状が、機械的変化-センサーコンポーネント内のオブジェクトの存在によって歪んだ場合の、機械的変化-検出サブシステム404が示されている。機械的変化-検出サブシステム402には、機械的変化センサーコンポーネント302、ポテンショメーター406、および電圧計408が含まれる。機械的変化センサーコンポーネント302は、一端が機械的変化センサーコンポーネントのタイン412の1つに取り付けられ、もう1つの端が摺動可能なポテンショメーターアーム414に取り付けられたコードまたはワイヤ410によってポテンショメーター406に機械的に接続されている。コードまたはワイヤ410は、3つの自由に回転するプーリー416~418を通過する。摺動可能なポテンショメーターアーム414は、ポテンショメーターアームシリンダ422内の弱いバネ420の力に抗してタイン412によって第1の位置に保持される。図4の右手側に示すように、オブジェクトの存在によって機械的変化センサーコンポーネントが歪むと、タイン412が下向きに押され、その結果、摺動可能なポテンショメーターアーム414がポテンショメーターアームシリンダー422内のバネ420によって上向きに引っ張られる。この例では、ポテンショメーター406は可変レジスターとして機能する。可変レジスターは、変更可能な電流フローに対する抵抗を備えた回路エレメントであり、ポテンショメーターは可変レジスターの一例である。図4の左手側に示す位置では、ポテンショメーターアームは抵抗426下方のポテンショメーター回路424に接続されており、その結果、電圧計408を通過する場合に電圧の低下はほとんどまたは全くない。しかしながら、ポテンショメーターアームが図4の右手側に示す位置にある場合、ポテンショメーターアームは抵抗428の途中のポイントでポテンショメーター回路424に接続され、その結果、電圧計を通過する場合に著しい電圧降下が存在する。したがって、機械的変化-検出サブシステムは、機械的変化センサーコンポーネントの形状の歪みの程度に応じて、変化する電圧信号を生成する。出力電圧信号の大きさは、機械的変化センサーコンポーネントの歪みの程度に対応する。
【0049】
図5は、1つの例において、図2に示す機械的変化ベースの配列検出器204の内部コンポーネントを示す。機械的変化ベースの配列検出器には、図4に示す機械的変化-検出サブシステム402と、機械的変化センサーコンポーネント302を介してターゲット506のオブジェクトを供給する2つの電気モーター駆動の一対の反転ギアドラム502および504が含まれる。一対の反転ギアドラムは、機械的変化センサーコンポーネント302を介してターゲット506のオブジェクトを供給する。ターゲットが機械的変化センサーコンポーネントを通して引っ張られると、電圧計は分析サブシステム(図2の212)に入力される電圧信号210を出力する。
【0050】
図6A~6Dは、1つの例において、ターゲット内で発生する4種類のオブジェクトの各々によって生成される電圧信号を示す。図6Aは、タイプdのオブジェクト604が機械的変化センサーコンポーネントを通過する場合に生成された電圧信号のプロット602を示す。出力信号の電圧は垂直軸606で表され、水平方向のオブジェクトの位置はプロットの水平軸608で表される。位置は、ターゲットがセンサーを一定の速度で移動すると仮定して、水平変位または時間のいずれかで表現し得ることには注意されたい。タイプdのオブジェクトは、上部頂点と基部の中心を通る内部軸に対して回転が不安定であるため、タイプdのオブジェクトは、機械的変化センサーコンポーネントを通過する場合にこの軸を中心に前後に回転する傾向がある。また、4つの内部水平軸を中心に回転する傾向がある。その結果、オブジェクトが機械的変化センサーを通過する際に、電圧信号610は振動する傾向がある。タイプcのオブジェクト612は、図6Bに示すように、滑らかで対照的な信号614を生成する。タイプbのオブジェクト616は、図6Cに示すように、わずかな回転の不安定性によるわずかな振動を伴う対照的な信号618を示す。タイプaのオブジェクト620も、図6Dに示すように、わずかな振動を伴う対照的な出力信号622を生成する。出力された電圧信号は、計算分析サブシステム(図2の212)によって分析される。データは、矢印624などの矢印、および垂直破線626および628などの垂直破線によって図6A-6Dの各プロットに示すように、電圧信号がピーク高さの半分まで上昇したときに開始し、信号がピーク高さの半分まで戻ったときに終了する各電圧-信号曲線の領域から収集される。分析サブシステムは、各々のオブジェクト表示電圧-信号曲線、平均電圧大きさ630のような平均電圧の大きさμ、分散632のような分散σ2、および面積634のような電圧-信号曲線下の面積Aから計算する。
【0051】
計算値は、電圧-信号曲線の中央部分内の異なる時点または変位からn個のサンプル電圧振幅viを収集することによって得られる。種々の異なる実施形態においては、現在の大きさまたは他の値が代わりにサンプリングされる場合がある。例えば、1 KHzのサンプリング頻度では、1000個のサンプル電圧の大きさが得られる。面積Aは、離散積分:
【数1】
により計算される。
平均電圧の大きさは:
【数2】
として計算される。
標準偏差は:
【数3】
として計算される。
最終的に標準偏差は:
【数4】
として計算される。
【0052】
図7は、4つのオブジェクトタイプa、b、c、dそれぞれの10個のオブジェクトを含む試験ターゲットから配列検出システムによって生成された仮想分析結果を示す。4種類のオブジェクトのそれぞれの分析結果を表702~705に示す。各表には、機械的変化ベースの配列検出器によって出力された各電圧-信号曲線の計算された電圧-大きさの平均、分散、および面積に対応する3つの列が含まれる。実験データでよく見られるように、3つの計算値は、4つの異なる種類のオブジェクトの10個の例間で変動している。分析サブシステムは、出力電圧-信号曲線を使用して、機械的変化センサーコンポーネントを通過する各オブジェクトのタイプを一意的に識別しようとする。
【0053】
出力電圧信号を使用する一般的な方法は、平均電圧の大きさなどの単一の計算値を選択して、各タイプのオブジェクトを残りのタイプのオブジェクトから区別することである。図8図7に示すデータ表に含まれる平均電圧-大きさデータのプロットを示す。キー802は図8の左手上部部分に示す。キーは、さまざまな種類のオブジェクトごとに平均電圧の大きさの値をプロットするために使用されるさまざまな記号を記述する。図8の下部は、電圧の大きさを表す水平軸806に対する平均電圧大きさのデータのプロット804を示す。各種類のオブジェクトの平均電圧振幅値は、破線楕円808~811によって図8に示すように水平軸のサブ領域内に密集している。タイプcのオブジェクトの平均電圧の大きさは、例えば、楕円808で示される電圧-大きさの範囲内に収っている。図8に示すデータプロットから、この例ではタイプcのオブジェクトの平均電圧の大きさの範囲と、タイプa、b、およびdのオブジェクトの平均電圧の大きさの範囲との間にはオーバーラップがないため、タイプcのオブジェクトは、平均電圧の大きさのみに基づいて残りのオブジェクトタイプと一意的に区別できる。同様に、タイプbのオブジェクト、楕円811で表される範囲内にある平均電圧の大きさの値は、平均電圧の大きさのみに基づいて、残りのタイプのオブジェクトと一意的に区別できる。しかしながら、楕円809~810で表されるタイプdおよびaのオブジェクトの平均電圧の大きさの範囲は、互いにほぼ完全に重なり、その結果として、平均電圧の大きさの値のみを用いてはタイプdおよびaのオブジェクトを区別することはできない。
【0054】
いくつかの例では、特定の出力信号が配列中の異なるタイプのオブジェクトを区別するのに不十分な場合は、配列検出器の設計者は、複数の出力信号の組み合わせが、オブジェクトを互いに区別するための十分な情報を提供するように追加の出力信号を生成するために、追加の種類のセンサーを配列検出器に組み込むことを求める。例えば、変化カウンターは、個別のサイズ検出センサー、重量検出器、および磁気感受性検出器(magnetic-susceptibility detector)を使用して、コインの種類ごとに明確な出力信号由来の痕跡を一緒に提供する個別の出力信号を生成する。対照的に、本明細書に記載する例の配列検出システムは、ターゲット内の各タイプのオブジェクトを区別するために、単一の出力電圧信号から複数の派生値を計算する。図6A~6Dおよび図7を参照して先に論じたように、分析サブシステムは、オブジェクトに対応する電圧-信号曲線からの平均電圧の大きさのみならず、分散も計算する。図9は、図7に示す表に含まれるデータの2次元プロットを示す。水平軸902は、図8のように、電圧-信号曲線から得られた平均電圧の大きさを表し、垂直軸904は、電圧-信号曲線から得られた分散を表す。図8のように、破線の楕円906~909は、異なるオブジェクトタイプごとにプロットされたデータポイントのクラスターを囲んでいる。図9で簡単にわかるように、これらの楕円内に含まれる2次元の領域は重なっていない。したがって、特定のオブジェクトの単一の出力電圧信号から計算された平均電圧の大きさおよび分散値のペアには、オブジェクトにタイプを明確に割り当てるのに十分な情報が含まれている。換言すれば、この例では、機械的変化-検出サブシステムによって生成された単一の出力電圧信号には、各オブジェクトにタイプを割り当てるのに十分な情報が含まれているが、各電圧-信号曲線内の情報は、ある意味で、2次元である。
【0055】
図9を参照して論じたように、配列検出システムの分析サブシステムによる平均電圧の大きさおよび分散を含む2つの派生値の使用は、図1を参照して記載するターゲットが各オブジェクトまたはターゲット内のエンティティを同定するのに十分である。分析システムは、2つの派生値を座標として使用して、2つの派生値を特定のオブジェクトまたはエンティティタイプに対応する範囲エリアにマッピングする。範囲領域が重複している場合、電圧-信号曲線の下の計算された領域などの追加の派生値を使用して、ターゲット内のオブジェクトのタイプを一意的に区別し得る。図10は、1つの例において、オブジェクトタイプの決定に3つの派生値を使用することを示す。図10においては、3つの異なる派生値のそれぞれが、3つの軸1002、1004、および1006で表されている。4つの異なるオブジェクトタイプのプロットされたデータポイントは、4つの個別の重複しない楕円範囲ボリューム1010~1013に入る。一般に、派生値の数が増えると、派生信号が適度に直交し、オブジェクトタイプの違いに敏感な場合に、異なるオブジェクトタイプの派生値の範囲でオーバーラップする確率が低下する。
【0056】
図11は、図1~10を参照して先に論じた配列検出システムをまとめたものである。オブジェクトまたはエンティティの配列1102を含むターゲットは、配列検出システム1104に入力され、機械翻訳コンポーネント1108によって機械的変化コンポーネント1106を介して機械的に翻訳される。電源1110は、機械翻訳のための電力を提供する。機械的変化コンポーネント1106は、カプラー1112によって可変抵抗コンポーネント1114に機械的に結合されている。機械的カプラーは、マクロスケールデバイスではストリングやコードなどの物理的カプラー、あるいはナノスケールおよびマイクロスケールデバイスではDNAポリマーなどの線形分子によって2つ以上のエンティティを結合する。可変抵抗コンポーネント1114は、機械的変化コンポーネント1106の形状の変化によって引き起こされるカプラー1112の動きに応答して、電流1116に対する可変抵抗を提供する。電源1118は、電流フロー1116を駆動する。測定コンポーネント1120は、機械的変化コンポーネント1106の形状の変化とともに変化する出力電気信号1122を生成するために、電流フローチャネルまたは電流フロー自体の電位を測定する。出力信号は、図11には示されていない分析サブシステムによって計算処理され、ターゲット1102中のオブジェクトタイプの配列の表示を生成する。図1~11を参照して先に論じた配列検出システムは、ターゲット内のマクロスケールオブジェクトタイプの配列を決定するマクロスケールデバイスである。

第2のタイプの機械的変化ベースの電気機械配列検出器
【0057】
本明細書で論じている第2の(タイプの)配列検出システムは、マクロスケール、マイクロスケール、およびナノスケールのコンポーネントを含む混合スケールのデバイスである。第2の配列検出システムは、核酸ポリマー内のデオキシヌクレオチドモノマーの配列を決定する。
【0058】
図12は、図1~11を参照して先に論じた第1の配列検出システムと、本明細書のこのサブセクションで論じる第2の配列検出システムとを比較する表である。表の第1の列1202には、図11を参照して先に論じた配列検出システムコンポーネントがリストされている。表の第2の列1204は、第1の配列検出システムに関して第1の列にリストされている各コンポーネントをさらに説明している。第3列1206は、第2の配列検出システムに関して第1の列にリストされた各コンポーネントをさらに説明し、以下でさらに説明する。第1の配列検出システムでは、ターゲットの機械翻訳の電源はバッテリーまたは線電流から得られる電流であるのに対し、第2の配列検出システムでは、ターゲットの機械翻訳の電源はホスホアンヒドリド結合の加水分解および無機ピロリン酸塩の加水分解により生成された化学エネルギーである。第1の配列検出システムでは、ターゲットを翻訳する機械翻訳器は2対の逆回転電気モーター駆動ギアドラムであり、表2の行1210に示されているとおり、第2の配列検出システムでは、機械翻訳器はE.coli DNAポリメラーゼのクレノウ・フラグメントである。第1の配列検出システムにおいては、機械的変化コンポーネントは一連の漏斗様のばねまたは剛毛であり、第2の配列検出システムでは、表の3行目1212に示すように、機械的変化コンポーネントはDNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントである。第1の配列検出システムにおいては、カプラーはコードまたはワイヤであり、第2の配列検出システムでは、表の4行目1214に示すように、カプラーはDNAポリマーである。第1の配列検出システムでは、可変レジスターはポテンショメーターであり、第2の配列検出システムでは、表の5行目1216に示すように、可変レジスターはMspA-ポリンチャネル内に存在するDNAポリマーカップラーの一部分である。両方の配列検出システムにおいて、流通しているのは電流である。第1の配列検出システムでは、電荷キャリアは金属線を流れる伝導帯電子であり、第2の配列検出システムでは、表の6行目1218に示すように、電荷キャリアは正および負に帯電したイオンである。しかし、もちろん、電極は通電ワイヤで接続されている。第1の配列検出システムにおいて、電流を駆動する電源はバッテリーまたは線電流から取得され、第2の配列検出システムでは、表の7行目1220に示すように、電流を駆動する電源は線電流から取得される。第1の配列検出システムでは、電流または電位測定デバイスは電圧計であり、第2の配列検出システムでは、表の8行目1222に示すように、電流または電圧測定デバイスは電流-電圧コンバーターである。したがって、第1および第2の配列検出システムは、構成と操作が互いに似ているが、異なる特定のタイプのコンポーネントを含む。
【0059】
図13は、1つの例において、第2の配列検出システムに含まれる機械的変化ベースの配列検出器を示す。以下の議論では、機械的変化ベースの配列検出器1302を「セル」という。図13の図は、さまざまなコンポーネントの相対的なサイズおよび体積を反映していない。多くの実施形態においては、セル1302はマクロスケールまたはマイクロスケールのデバイスであるが、機械的変化センサーコンポーネント1304はナノスケールのコンポーネントである。図13は、コンポーネントの相対的なスケールを正確に描写するのではなく、機械的変化ベースの配列検出器のさまざまなコンポーネントの全体的な構成ならびに相対的な位置および向きを示すことを目的としている。
【0060】
セル1302は、テフロンバリア1312および脂質二重層1314によって第2の溶液含有チャンバー1310から分離された第1の溶液含有チャンバー1308を備えた2部分容器1306を含む。1つの実施形態において、脂質二重層は、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリンを含む。テフロンバリアは、脂質二重層で覆われた開口部1316を含むため、第1の溶液含有チャンバー1308および第2の溶液含有チャンバー1310は、開口部1316内の脂質二重層のみによって分離される。脂質二重層を通る狭いチャネル1316は、マイコバクテリアのポリン(「MspAポリン」)、8回転対称性を有する8量体のタンパク質凝集体によって提供される。狭いチャネルは、2つの溶液含有チャンバー間でイオンの受動拡散を可能にするのに十分な幅である。第1および第2の溶液含有チャンバー1308および1310は、pH 8.0の緩衝液を含む。1つの実施形態において、緩衝液は、50 mMの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(「HEPES」)、150 mM KCl、1 mM ジチオトレイトール(「DDT」)、および3 mM MgCl2を含む。HEPESは、両性イオンの緩衝化合物である。KClは、イオン電流を運ぶイオンを提供する。ジチオトレイトールは、タンパク質の遊離スルフヒドリル基を促進する還元剤である。MgCl2は、以下に論じる機械的変化センサーコンポーネント1304の触媒活性を支援するMg2+イオンに寄与する。第1の溶液含有チャンバー1308には、デオキシヌクレオチド三リン酸およびプライマー関連デオキシリボ核酸テンプレートがさらに含まれる。プライマー関連デオキシリボ核酸テンプレート1318~1319は、第2の配列検出システムによってデオキシヌクレオチドモノマーの配列が決定されるターゲットである。ある種の実施形態において、第2の溶液含有チャンバー1310には、以下に論じるロックコンポーネントがさらに含まれる。第2の溶液含有チャンバー1310内の溶液は正電極または参照電極1320と流体接触し、第1の溶液含有チャンバー1308内の溶液は、負電極1322と流体接触する。1つの実施形態において、銀/塩化銀電極を用いる。電極を通してセルに電圧が印加されると、負イオンはポリンチャネルを通って正の陽極に向かって流れ、正イオンはポリンチャネルを通って負の電極に向かって流れる。1つの例において、DNAまたはRNAポリマーが細孔内に存在する場合、マイナスイオンの下向きの流れを抑制し得る。換言すれば、2つの電極1320および1322に電圧を印加することにより、ポリンチャネル内に電流が確立される。以下でさらに論じるように、セルの動作中のさまざまな時点で、電極の極性を反転させることにより、印加電圧の極性を一時的に反転させることができる。
【0061】
別の実施形態において、テフロンバリアおよび脂質二重層を使用するのではなく、フォトリソグラフィプロセスを使用してシリコン基板または他のタイプの基板に開口部を作成し、ポリンチャネルを介する以外の2つのチャンバー間の流体連通を防ぐために合成ポリマー膜が使用する。1つの例において、トリブロックコポリマーを膜に使用し得る。別の実施形態において、単一鎖バージョンまたは8個未満または8個を超えるサブユニットを含むバージョンを含む、MspA-ポリン変異体を使用し得る。ある種の変異体は、配列が異なる複数のサブユニットを含み得る。他のタイプの細孔含有生体高分子および合成ポリマーは、別の実施形態で代替的に使用し得る。別の実施形態において、Mn2+を含む追加のタイプの二価金属イオンも使用し得る。特定の状況では、Ca2+およびSr2+を含む非触媒金属イオンも使用し得る。
【0062】
1つの実施形態において、機械的変化センサーコンポーネント1304は、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントである。クレノウ・フラグメントは、プロテアーゼで処理するかまたは遺伝子組み換え細菌株から目的の断片を発現させることにより、E.coli DNAポリメラーゼIから5'→3'エキソヌクレアーゼ構造ドメインを除去することにより得られる。クレノウ・フラグメントは、5'→3'重合機能を保持している。さらに後述するように、プライマー関連DNAテンプレートおよびデオキシヌクレオチド三リン酸を供給すると、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントは、デオキシヌクレオチド三リン酸の逐次重合を触媒して、配列に相補的なコピーDNA鎖をテンプレートDNA鎖に形成する。結合成分1324は、DNAポリマーテザーである。それは、DNAポリマーは負に帯電し、印加電圧下で正極に向かって移動するため、機械的変化センサーコンポーネント1304に取り付き、電極に印加される電圧によってポリンチャネルに引き込まれる。以下にさらに論じるように、ポリンチャネル内の狭いくびれにまたがるDNAポリマーテザーの小さな領域は、狭いくびれに沿って、2つの溶液含有チャンバー間のイオンの流れを調整する可変レジスターとして、狭いくびれに対するDNA-ポリマーテザーの小さな領域の位置に依存して異なる程度で一緒に作用する。E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントおよびポリンを含むシステムはE.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント内の活性部位を占める各々の異なるタイプのデオキシヌクレオチド三リン酸に対して差異を示すため、異なるデオキシヌクレオチド三リン酸が活性部位と特異的に会合した場合にDNA-ポリマーテザーはポリンチャネル内の狭いくびれに対して異なる動的位置を有し、それは伸長するDNAポリマー鎖内に逐次的に取り込まれる各々の異なるタイプのデオキシヌクレオチド三リン酸についてポリンチャネルを通る異なる動的電流に反映される。分子と活性部位との間の特異的な会合にはキーインロックまたは誘導適合型の会合が含まれ、そこでは、分子の特定の静電気的および化学的な特徴が相補的な静電気的および化学的特徴の活性部位と関連して、活性部位と特異的に会合しない分子に対してよりも分子または分子のクラスに対してより大きな結合親和性に通じる。違いは、1つまたはそれを超えるコンホメーション変化、ポリンチャネルに対するクレノウ・フラグメントの動き、およびその他の変化に起因し得る。以下に論じる電流検出回路は、ポリンチャネルを流れる電流の変化に対応して変化する電圧信号を生成する。別の実施形態においては、上記のクレノウ・フラグメントの代わりに、多くの異なるポリメラーゼ、ポリメラーゼフラグメント、および配列決定のために生体高分子ターゲットと相互作用する他のタイプの生体分子を使用できる。デオキシヌクレオチドヘキサホスフェートなどのより大きなリン酸エステル、異なる炭水化物成分、異なる塩基、および異なる官能基を有するヌクレオチドなど、さまざまなタイプの天然および合成ヌクレオチドを使用できる。多くのさらなるタイプの機械的変化コンポーネントを使用して、さまざまな種類のターゲット生体高分子および合成ポリマーを配列決定することができる。これには、酵素やその他のタンパク質、配列特異的な様式でターゲットタンパク質と相互作用するタンパク質/核酸複合体が含まれる。また、第2の配列検出システムに適用する場合のフレーズ「機械的変化センサーコンポーネント」は、第2の配列検出システムに適用する場合、1つの例として、信号生成が、ポリメラーゼフラグメントの形状の変化、ポリンに関するポリメラーゼフラグメントの相対的位置の変化、および/またはポリンに関するポリメラーゼフラグメントの向きの変化を示すことを示すことに注意されたい。ある種の実施形態において、ポリメラーゼフラグメントの形状の変化は、可変レジスターの動きに通じる機械的変化を提供する。最終的に、機械的変化センサーコンポーネント、および機械的変化センサーコンポーネントとターゲットおよび細孔含有成分との相互作用により、可変レジスターの位置に機械的変化が生じる。別の実施形態において、DNAポリマー以外の結合コネクタおよび可変レジスターを使用できる。
【0063】
第1の配列検出システムはマクロスケールシステムであり、第2の配列検出システムはマクロスケールおよびナノスケールのコンポーネントを含む混合スケールシステムであるが、第2の配列検出システムは第1の配列検出システムに類似している。両方の配列検出システムは、機械的変化センサーコンポーネントを使用して、機械的変化センサーコンポーネントによって現在処理または関連付けられているオブジェクトまたはエンティティの種類によって異なる機械的信号を生成する。両方の配列検出システムは、機械的変化センサーコンポーネントによって処理する、またはそれと会合する現在のオブジェクトまたはエンティティのタイプで変化する機械的信号を生成するために機械的変化センサーコンポーネントを用いる。両方の配列検出システムは、可変抵抗コンポーネントに機械的変化センサーコンポーネントを結合するために機械的結合を採用する。両方の配列検出システムは、機械的変化センサーコンポーネントによって生成された機械信号を電気信号に変換することにより、出力電圧信号を生成する。両方の配列検出システムは、出力信号の計算分析を使用して、ターゲット配列内のオブジェクトまたはエンティティのタイプの配列を識別するために一緒に使用される複数の派生値を生成する。第2の配列検出システムでは、検出したデオキシヌクレオチド-モノマーのタイプの配列は、テンプレート鎖ターゲット内のデオキシヌクレオチド-モノマーのタイプの配列に相補的であり、逆の極性を有している。
【0064】
図14A~14Bは、第2の配列検出システムの種々の実施形態において別々にまたは一緒に使用される2つの異なる電流-電圧コンバーター回路を示す。図14Aでは、電圧源1402がセル1404に電圧を印加している。フィードバックレジスター1410を含むフィードバックループ1408を備えた反転増幅器、またはオペアンプ1406は、セルを流れる電流に比例する電圧信号を出力する。第2のオペアンプ1412は、入力の電圧差を増幅して増幅された電圧信号を生成し、それは周波数補正回路1414を通過して、セル1404を流れる電流に比例する最終出力電圧信号1416を生成する。図14Bは、フィードバック抵抗ではなくフィードバックコンデンサを使用する電流-電圧コンバーターを示す。
【0065】
図15は、1つの例において、並列配列決定を提供するセルのアレイを示す。並列配列決定は、システムの配列決定スループットを増大するために使用できる。セルのアレイには、セル1502などの複数のセルと、複数のセルからの電圧信号出力を並行して処理および分析する分析サブシステム1504が含まれる。一般に、配列検出システムによって出力される配列には、機械的変化センサーコンポーネント、機械的に結合し可変抵抗コンポーネント、および電流または電位測定回路を含む、配列検出システムコンポーネントにしばしば存在する種々の異なる操作エラーソースによるエラーが含まれ得る。したがって、望ましい精度のレベルに応じて、複数の同一のターゲットを配列決定し、複数の同一のターゲットについて決定した複数の配列からコンセンサス配列を計算で生成できる。多くの場合、複数のターゲットの配列が望ましい。図15に示すセルのアレイでは、各セルに複数の異なるタイプのターゲットのそれぞれの複数のコピーをロードし得る。セルは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントとプライマー会合テンプレートとのランダムな会合に基づいて非決定的な順序で処理され、複数のタイプのターゲットから配列情報を連続的に生成する。分析サブシステム1502は、セル1504などの複数のセルから配列情報を連続的に収集し、各配列を特定のターゲットによって生成された配列のグループに割り当て、その後、各ターゲットのタイプから得られた配列のグループから各々の異なるタイプのターゲットについてコンセンサス配列を集める。並列処理を使用すると、複数のターゲットについて迅速かつ効率的なコンセンサス配列決定ができる。
【0066】
図16~19は、デオキシリボ核酸およびペプチドを示す。図16は短いDNAポリマーを示す。デオキシリボ核酸(「DNA」)は、ポリマーに組み込まれた場合にデオキシヌクレオチドモノマーと呼ばれる4種類の異なるデオキシヌクレオチド三リン酸から合成される線状ポリマーである。デオキシヌクレオチドモノマーには、次のものが含まれる:(1)デオキシアデニル酸、略称「A」、プリン含有デオキシヌクレオチド;(2)デオキシチミジジル酸、略称「T」、ピリミジンを含むデオキシヌクレオチド;(3)デオキシシチジル酸、略称「C」、ピリミジン含有デオキシヌクレオチド;および (4)デオキシグアニジレート、略称「G」、プリン含有デオキシヌクレオチド。対応するヌクレオシドは、ホスホジエステル結合を介してリボースヒドロキシル酸素に結合するリン酸基を欠いており、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシシチジン、およびデオキシグアノシンと呼ばれる。図16は、「オリゴマー」または「オリゴヌクレオチド」と呼ばれる短いDNAポリマー1600であり、以下のサブユニットからなる:(1)デオキシアデニル酸1602;(2)デオキシチミジジル酸1604;(3)デオキシシチジル酸1606;および(4)デオキシグアニジル酸1608。デオキシヌクレオチドサブユニットは、ホスホジエステル結合1610~1615を介して一緒に連結し、DNAポリマーを形成する。図16に示すオリゴマーなどの線状DNA分子には、5'末端1618および3'末端1620がある。しばしば、5'末端1618は、リン酸エステル結合を介して5'ヒドロキシル酸素に結合したリン酸基を含む。DNAポリマーは、5'末端から3'末端までの配列に、DNAポリマーを一緒に構成するデオキシヌクレオチドサブユニットの1文字略語を書くことによって化学的に特徴付けることができる。例えば、図16に示すオリゴマー1600は、「ATCG」として象徴的に表すことができる。デオキシヌクレオチドは、プリンまたはピリミジン塩基(例えば、デオキシアデニル酸1602のアデニン1622)、デオキシリボース糖(例えば、デオキシアデニル酸1602のデオキシリボース1624)、およびDNAポリマー中の1つのデオキシヌクレオチドを別のデオキシヌクレオチドに連結するリン酸基(例えば、リン酸1626)を含む。多くの非天然ヌクレオチドは、DNA様およびRNA様ポリヌクレオチドに組み込まれ得る。ポリヌクレオチドに含まれ得る修飾ヌクレオチドの例は、天然の骨格または類似体構造を有するかどうかにかかわらず、イノシン、キサタニン、ヒポキサタニン、イソシトシン、イソグアニン、2-アミノプリン、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、2-アミノアデニン、6-メチルアデニン、6-メチルグアニン、2-プロピルグアニン、2-プロピルアデニン、2-チオリラシル、2-チオチミン、2-チオシトシン、15-ハロウラシル、15-ハロシトシン、5-プロピニルウラシル、5-プロピニルシトシン、6-アゾウラシル、6-アゾシトシン、6-アゾチミン、5-ウラシル、4-チオウラシル、8-ハロアデニンまたはグアニン、8-アミノアデニンまたはグアニン、8-チオールアデニンまたはグアニン、8-チオアルキルアデニンまたはグアニン、8-ヒドロキシルアデニンまたはグアニン、5-ハロ置換ウラシルまたはシトシン、7-メチルグアニン、7-メチルアデニン、8-アザグアニン、8-アザアデニン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、3-デアザグアニン、3-デアザアデニンなどが含まれる。特定のヌクレオチド類似体、例えばアデノシン5'-ホスホ硫酸などのヌクレオチド類似体は、ポリヌクレオチドに組み込むことができない。
どのヌクレオチド類似体は、ポリヌクレオチドに組み込むことができない。
【0067】
生物の組織情報を含むDNAポリマーは、細胞の核内で対で発生し、二本鎖DNAヘリックスを形成する。対の1つのポリマーは5'から3'方向にレイアウトされ、3'から5'方向にレイアウトされた相補的なポリマーと対を形成する。したがって、二本鎖DNAヘリックスの2つのDNAポリマーは、反平行であると説明される。二本鎖DNAヘリックス内の2つのDNAポリマー、または鎖は、積み重なったプリンおよびピリミジン塩基間の疎水性相互作用、およびプリンおよびピリミジン塩基間の水素結合、DNAポリマーのコンホメーション制約によって強調される引力を介して互いに結合する。多くの化学的および形状的な制約のため、二本鎖DNAヘリックスは、一方の鎖のデオキシアデニル化サブユニットが他方の鎖のデオキシチミジル酸サブユニットに水素結合し、一方の鎖のデオキシグアニル酸サブユニットが他方の鎖の対応するデオキシシチジル酸サブユニットに水素結合する場合に最も安定する。
【0068】
図17A~17Bは、2つの逆平行DNA鎖のプリン塩基およびピリミジン塩基の間の水素結合を示す。図17Aは、対応するデオキシアデニル酸およびデオキシチミジジル酸サブユニットのアデニン塩基およびチミン塩基の間の水素結合を示し、図17Bは、対応するデオキシグアニジル酸およびデオキシシチジル酸サブユニットのグアニン塩基およびシトシン塩基間の水素結合を示す。アデニン/チミン塩基対には2つの水素結合1002および1003があり、グアノシン/シトシン塩基対には3つの水素結合1004~1006があることに注意されたい。その結果、GC塩基対はAT塩基対よりもDNA二重鎖に大きな熱力学的安定性をもたらす。図10A~Bに示すATおよびGC塩基対は、Watson-Crick(「WC」)塩基対として知られている。
【0069】
図18A~18Bは二本鎖DNAを示す。図18Aに示すように、相補配列を持つDNAポリマー1802および1804の2つの鎖は、2つの鎖の相補的な塩基間の水素結合を介して逆平行2本鎖複合体を形成する。2本鎖は反対の5'-3'の方向または極性を持つため、二本鎖複合体は逆平行である。一方の鎖1806のアデニン塩基は、他方の鎖のチミン塩基1808と対になり、一方の鎖1810のグアニン塩基は、他方の鎖のシトシン塩基1812と対になる。一方の鎖に沿った5'-3'方向のデオキシヌクレオチドの配列は、もう一方の鎖に沿った3'-5'方向のデオキシヌクレオチドの配列と相補的である。DNAポリメラーゼがテンプレート鎖へのコピー鎖の重合を触媒すると、逆平行二本鎖DNAポリマー内の2つの鎖の相補性が生成される。図18Bは、生理的温度、圧力、pH、イオン濃度の下で発生するおなじみの二本鎖DNAのコンホメーションを示す。
【0070】
図19は、20種類の一般的なアミノ酸の名前と化学構造を示す。アミノ酸は、リボソームを介した翻訳プロセスで重合してタンパク質を形成する。アミノ酸は、リボソームを介した翻訳プロセスで重合してタンパク質を形成する。図19は、アラニン、グルタミン酸、グリシンおよびリシンモノマーを含む「ペプチド」という短い4アミノ酸のポリマー1902を示す。タンパク質ポリマーは、通常、数百から数千のアミノ酸モノマーを有する。MspAポリンのような多くのタンパク質は、複数のタンパク質ポリマーを含んでいる。生理学的条件下では、タンパク質は一般的にMspAポリンオクタマーのゴブレット様コンホメーションのような複雑な三次元コンホメーションを有する。
【0071】
図20は、第2の配列検出システムで機械的変化センサーコンポーネントとして使用するE.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒される重合反応を示す。この重合反応により、成長するコピー鎖2004の3'末端にヌクレオチド三リン酸2002が追加される。図20では、コピー鎖の残りのデオキシヌクレオチドモノマーは、矢印2006および5'ラベル2008で示されている。コピー鎖の3'末端デオキシヌクレオチドモノマーの脱プロトン化された3'ヒドロキシル2010は、デオキシヌクレオチド三リン酸2002のαリン酸2012に対して求核攻撃を行い、ホスホジエステル結合2014を形成し、無機ピロリン酸2016を置換する。この反応は、標準的な生理学的条件下では、自由エネルギーの変化が比較的小さくなるが、ピロリン酸2018のその後の加水分解によって引き起こされ、大きな自由エネルギーの変化を伴う。ピロリン酸の加水分解により放出される化学エネルギーは、重合反応を促進するだけでなく、プライマー会合テンプレート鎖に対するDNAポリメラーゼの翻訳も促進し、異なるデオキシヌクレオチド三リン酸が活性部位と特異的に会合し、テンプレート鎖中の相補的なデオキシヌクレオチドモノマーと水素結合を形成する場合にDNAポリメラーゼによって示される異なる動的コンホメーションに寄与し得るプライマー会合テンプレート鎖に対するDNAポリメラーゼの翻訳も駆動する。
【0072】
図21A~21Eは、E.coli DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメントによって触媒されるコピー鎖伸長を示す。図21A~Eはすべて、図21Aを参照して次に説明する同じ図の規則を使用している。DNAポリメラーゼは、断面が円形に見える球体2102で表される。DNAポリメラーゼ内の活性部位は、垂直方向の影付きの長方形2104で表される。テンプレートDNA鎖2106およびコピーDNA鎖2108は、一連の長方形および円盤によって表される。プリンおよびピリミジンの塩基は、グアニン塩基を表す長方形2110などの、垂直方向の長い、ラベル付き長方形で表される。各デオキシヌクレオチドモノマー内のリボース部分は、小さな正方形2112などの小さな正方形で表される。鎖内のデオキシヌクレオチドモノマーに結合するホスホジエステル結合は、円2114などの円で表される。曲線矢印2116などの曲線矢印は、鎖が指示した方向に続くことを示す。
【0073】
図21Aは、活性部位を占めるデオキシヌクレオチド三リン酸を含まないDNAポリメラーゼを示す。DNAポリメラーゼは、コピー鎖の3'末端に追加するために次のデオキシヌクレオチド三リン酸を受け取る準備ができている。DNAポリメラーゼの活性部位は、いくつかの結合マグネシウムイオンとアミノ酸モノマー側鎖の多数の官能基を含む複雑な化学環境であり、すべてがテンプレートとコピー鎖の特異的結合、図20に示す反応を介してコピー鎖の3'末端に付加するためのデオキシヌクレオチド三リン酸の特異的結合、および1つまたはそれを超える遷移状態の安定化を含む、重合反応の触媒に寄与する。図21Bでは、デオキシヌクレオチド三リン酸がDNAポリメラーゼのチャネルを通って活性部位に向かって拡散する。少なくとも1つの例において、4つの異なるタイプのデオキシヌクレオチド三リン酸のいずれかが活性部位に接近する可能性があるが、活性部位内のテンプレート鎖の不対のデオキシヌクレオチドモノマーに相補的なデオキシヌクレオチド三リン酸のみが、図21Cに示すように、不対の活性部位に存在するテンプレート鎖デオキシヌクレオチドモノマーとの水素結合のために活性部位に安定して会合する。デオキシヌクレオチド三リン酸と活性部位の安定した会合は、図21Cの楕円形で表されるDNAポリメラーゼのコンホメーションの変化に関連する。実際のコンホメーション変化は複雑であり、DNAポリメラーゼ内の複数の異なるドメインに影響を及す。DNAポリメラーゼのコンホメーションは動的であり、一般的に、種々のタイプの微妙な振動モードおよび種々の構造ドメインの相対運動に関連付けられる。異なるタイプのデオキシヌクレオチド三リン酸と活性部位との特異的な会合は、異なる動的DNAポリメラーゼコンホメーション、DNAポリメラーゼとポリンの相対的な位置または方向の変化、および/または第2の配列検出システムの機械的変化センサーコンポーネントとして作用するDNAポリメラーゼによって生成される機械的変化の機械的信号のソースであると考えられる他の変化を誘導する。
【0074】
図21C~21Dを含む図の配列では、図20に示す重合反応が起こり、新しいデオキシヌクレオチドモノマーをコピー鎖に組み込んだホスホジエステル結合ブリッジ2120が形成される。ピロリン酸塩2122は活性部位から放出される。図21C~21Eを含む図の配列では、DNAポリメラーゼがテンプレートとコピー鎖に関連して翻訳し、ヌクレオチド三リン酸のない活性部位2126を再び形成し、後続のデオキシヌクレオチド三リン酸を特異的に取り込む準備ができる。DNAポリメラーゼのコンホメーションは元のコンホメーションに戻り、図21Eでは球形2128で表していることに注意されたい。ある種の実施形態において、デオキシヌクレオチドモノマーと活性部位との特異的な会合は、単独で、組み込まれずに、ターゲット配列を決定できる信号に変換できるポリメラーゼの機械的変化につながり得ることに注意されたい。これらの実施形態において、ヌクレオチドがコピー鎖に組み込まれる必要はない。
【0075】
図22A~22Bは、1つの例において、第2の配列検出システムの可変抵抗コンポーネントを示す。図22Aに示すように、DNA-ポリマーテザー2202はDNAポリメラーゼ2204に付着し、ポリンチャネルを通って脂質二重層2206の下方のセルの第2の溶液含有チャンバー1310まで伸びている。デオキシヌクレオチド三リン酸は、コピー鎖伸長の間にDNAポリメラーゼの活性部位に特異的に会合しているため、DNAポリメラーゼの動的コンホメーションの変化は、ポリンチャネルの狭い構造2208と比較してDNA-ポリマーテザーの翻訳をもたらす。
【0076】
図22Bは、ポリンチャネルの狭い狭窄に関するDNA-ポリマーテザーの翻訳が、ポリンチャネルを通るイオンの流れに対する抵抗を変化させることを示す。図22Bは、ポリンチャネル2210~2213内のDNAポリマーテザーの4つの異なる位置を示す。DNA-ポリマーテザーは、直径の異なる一連の円として表される。円2216などの大径の円は、1つまたはそれを超えるデオキシヌクレオチドモノマーを表し、それは生まれたチャネルの狭い狭窄2218内に位置する場合に、ポリンチャネルを通るイオン流に高い抵抗を与える。直径が次第に小さくなる円は、1つまたはそれを超えるデオキシヌクレオチドモノマーを表し、狭い狭窄部内に位置する場合にポリンチャネルを通るイオン流に対する抵抗がますます小さくなる。第1の位置2210では、1つまたはそれを超える低抵抗のデオキシヌクレオチドモノマーは狭い狭窄部2218内に位置し、その結果、ポリンチャネルを通るイオン電流の割合が比較的高くなる。ポリンチャネルに入る多数の正の2220および負の2222イオン記号が示されている。DNAポリマーテザーが狭い狭窄に対して上方に移動すると、位置2211~2213で、イオン流に対してますます大きな抵抗を与える1つまたはそれを超えるデオキシヌクレオチドモノマーが狭い狭窄に移動し、ポリンチャネルを通るイオン-電流の割合がますます小さくなる。したがって、ポリンチャネル内のDNAポリマーテザーの位置付けは、ポリンチャネルを通るイオン流に対する抵抗を変化させ、DNAポリメラーゼの活性側へのデオキシヌクレオチド三リン酸の特異的な取り込みによって生成される機械的な機械的-変化信号を、図14A~14Bを参照して先に論じた電流-電圧変換回路により、出力電圧信号に変換される。

第2のタイプの機械的変化ベースの電気機械的配列検出器の詳細
【0077】
図23A~23Bは、DNAポリマーテザーをDNAポリメラーゼ機械的変化センサー構成要素1304に取り付けるための1つの方法を示す。野生型大腸菌DNAポリメラーゼIでは、ロイシンモノマー2302がアミノ酸モノマー位置790を占めている。図23A~23Bシステインモノマー2304は、遺伝子工学およびバイオテクノロジー技術によって位置790のロイシンモノマーの代わりに使用され、図23A~23Bにおいて「P」という単一の遊離スルフヒドリル部分2305を有する変異大腸菌DNAポリメラーゼIを生成する。これは、DNAポリマーテザーの付着部位である。リンカー分子2306を含む様々なリンカー分子のいずれも、DNA-ポリマーテザーの一端に組み込むことができる。多くの実施形態において、1つまたはいくつかのデオキシヌクレオチドモノマーがDNA-ポリマーテザーの5'部分2308を構成し、数十のデオキシヌクレオチドモノマーがDNA-ポリマーテザーの3'部分2310を構成する。第一級アミン官能基2312は、DNAポリマーテザーの結合点を提供する。第一級アミンは、スルフヒドリル反応性マレイミド部分2316を含む架橋分子2314に付着して、図23A~23Bにおいて「L」という活性化テザー2318を生成する。図23Bに示すように、単一の遊離スルフヒドリル部分2305、Pおよび活性化テザー2318、Lを有する突然変異大腸菌DNAポリメラーゼIは、テザーをDNAポリメラーゼ2320に共有結合するように反応する。活性化されたテザーのマレイミド部分2316は、変異DNAポリメラーゼの遊離スルフヒドリル部分2304と反応して、DNA-ポリマーテザー2318をDNAポリメラーゼ2320に結合する。これは、DNAポリマーテザーをDNAポリメラーゼに結合するための多くの異なる可能な方法のほんの一例である。
【0078】
図24は、DNAポリメラーゼを可変抵抗コンポーネントに機械的に結合し、さらに可変抵抗コンポーネントの一部分を形成するDNAポリマーテザーのいくつかの特徴を示している。DNAポリマーテザー2402には、ある種の実施形態において、介してDNAポリマーテザーがDNAポリメラーゼに結合するリンカー2404、ポリメラーゼフラグメントがポリン内に落ち着いた(seat)場合にポリメラーゼフラグメントおよびレポーター領域上の結合点からの距離に広がる十分な数のデオキシヌクレオチドモノマーを含むプレレポーター領域2406、一般に少なくとも4つのデオキシヌクレオチドモノマーを含むレポーター領域2408、および数個から数十個のデオキシヌクレオチドモノマー2410を含み得るポスト-レポーター領域が含まれる。レポーター領域2408は、DNAポリメラーゼが種々の異なるコンホメーションを示し、ポリンに対して異なる位置を示し、および/または第2の配列検出システムの機械的変化センサーコンポーネントによって示される機械的変化を一緒に含むポリンに対して異なる方向を示す場合にポリンチャネル内の狭窄部内にある領域である。種々のDNAポリマーテザー領域の長さは、異なるポリンおよび/または異なるDNAポリメラーゼを用いる実施形態によって変化し得る。領域は、DNAポリメラーゼに対するDNAポリマーテザーの結合点とポリンチャネル中の狭い狭窄部との間の距離、ならびにDNAポリメラーゼのコンホメーション変化によって誘導されるDNAポリマーテザーの位置の変位によって定義される。
【0079】
図24の下部に示すように、DNAポリマーテザーは、機械的システムの弾性部材またはバネ部材と同様に、ある程度の量の寸法柔軟性を有している。セル2412に比較的低い電圧が印加される場合、DNAポリマーテザーが伸張状態または緊縮状態2418にある場合、ポリンチャネル狭窄部内のDNAポリマーテザーの部分は、より高い電圧がセル2416に印加される場合のポリンチャネル狭窄部内のテザーの部分と異なり得る。所定のデオキシヌクレオチドモノマー2420は、リラックス状態ではプレレポーター領域とレポーター領域との境界に存在する可能性があるが、伸張状態または緊縮状態では、同じデオキシヌクレオチドモノマーがレポーター領域内に十分に存在する可能性がある。セルへの印加電圧を変えることにより、DNAテザーの静止位置またはベースライン位置、特にポリンチャネルの狭い狭窄部に対するレポーター領域の静止位置またはベースライン位置に対して、比較的細かい調整が行われる。これにより、出力電圧の大きさ、およびセルの機械信号から電気信号への変換応答性に関してセルを較正する機構が提供される。
【0080】
レポーター領域内のデオキシヌクレオチドモノマーの異なる配列は、ポリンチャネルを通るイオン-電流フローに対して異なる抵抗を与える。異なるレポーター領域デオキシヌクレオチドモノマー配列を有するDNA-ポリマーテザーを用いた実験は、多数の低電流で高抵抗のレポーター領域配列および多数の高電流で低抵抗のレポーター領域配列の同定につながった。図25に、低電流、高抵抗の4デオキシヌクレオチドモノマー配列および高電流、低抵抗の4デオキシヌクレオチドモノマー配列の多数の例を示す。低電流配列は第1列2502に示され、高電流配列は第2列2504に示されている。「X」は塩基を有さない(baseless)、破壊されたデオキシヌクレオチド2506を表す。したがって、レポーター領域のデオキシヌクレオチド-モノマー配列を変化させることによって、ポリンチャネル内のDNA-ポリマーテザーに関する可変抵抗コンポーネントの抵抗プロフィールを正確に設計し得る。高抵抗デオキシヌクレオチド-モノマー配列は、さまざまな異なる可能性のあるデオキシヌクレオチド-モノマー配列により示される平均抵抗よりも大きいポリンチャネルを通る電流に対する抵抗を示し、一方、低抵抗デオキシヌクレオチド-モノマー配列はさまざまな異なる可能性のあるデオキシヌクレオチドモノマー配列によって示される平均抵抗よりも少ないポリンチャネルを通る電流に抵抗を示すことは注意すべきである。
【0081】
図26A~26Bは、1つの例において、DNAポリマーテザー配列設計を介した機械的-電気的信号変換の応答性の調整を示している。図26Aおよび図26Bの両方で、図の左手側にレポーター領域2602および2632が示され、図2604および2605の右手側部分の対応する出力信号がプロットされている。一対の矢印2606~2607などの矢印のペアは、基準位置にあるレポーター領域に対するポリンチャネル内の狭い狭窄部の位置を示している。この例では、レポーター領域は、両方向矢印2608で示されるように、さまざまな距離または変位でポリンチャネル内を上下に移動し得る。電流信号プロット2604は、基準位置に対するレポーター領域の変位を表す水平軸2610と、ポリンチャネルを通る電流フローの大きさを表す垂直軸2612とを有する。レポーター領域2602は、正方形2614などの一連の標識した正方形で表される。各正方形は、単一のデオキシヌクレオチドモノマーまたはデオキシヌクレオチドモノマーの短い配列を表す。文字「L」は低電流を表し、文字「M」は中電流を表し、文字「H」は高電流を表す。図26Aのレポーター領域2602は、低電流高抵抗部2616から高電流低抵抗部2618へ、そして低電流高抵抗部2620へと抵抗がゆっくりと対称的に変化する。結果として、電流信号は、小さな負の変位、または上向きの変位2620から、より大きな正または下向きの変位2624まで比較的ゆっくりと増大する。セルの操作中、レポーターの変位がdmin 2626からdmax 2628まで変化すると仮定すると、電流フローの大きさは両方向矢印2630で示される応答レンジ内に収まる。対照的に、図26Bのレポーター領域2632は、抵抗の急激な低下と上昇を特徴としており、したがって、同様の変位範囲2636および2638で非常に急な電流増加2634とそれに対応するより大きな電流応答範囲2640を生成する。したがって、DNAポリメラーゼのコンホメーション変化に起因するレポーター領域の変位に対する電流フロー応答は、DNAポリマーテザーレポーター領域内のデオキシヌクレオチドの注意深い設計を通して正確に仕立てることができる。一般に、急勾配および非線形の応答曲線は、DNAポリメラーゼのコンホメーション変化に対する感度を高め、DNAポリメラーゼおよびMspAポリン間の相互作用によってさらに修飾され得るDNAポリメラーゼによる動的振動および相対的ドメイン間運動の検出が可能となる。
【0082】
図27は、1つの例において、反復デオキシヌクレオチド配列を特徴とするDNAポリマーテザーを示している。図27では、図26A~26Bで使用したのと同じ図の規則を使用している。DNA-ポリマー-テザー配列2702は、低電流、中電流、および高電流のデオキシヌクレオチドテザー部分の繰り返し配列を含む。矢印2704~2706は、繰り返し配列間の境界を示している。矢印2708は、ポリンチャネル狭窄に対するDNAポリマーテザーの基準位置を表す。DNAポリマーテザーを基準変位2708から上下に変位させることにより生成される電流信号のプロット2710は、対応する繰り返し信号形態2712を示す。繰り返し抵抗配列テザーの利点は、図24を参照して先に論じたように、セルに印加される電圧を調整することにより、出力信号曲線の所望の位置に対応する電流フローを、ポリンチャネル内のDNAポリマーテザーのおおまかな位置にかかわりなく出力信号曲線上の望ましい位置に対応する電流フローが得られることである。換言すれば、印加電圧の調整は、セル応答の微調整とみなすことができ、DNAポリマーテザーの繰り返し配列の性質のため、微調整はポリンチャネル内のDNAポリマーテザーの絶対的な位置を決定することが困難または不可能な場合であっても、DNAポリマーテザーの多くの同じ最適なベースライン位置の1つを選択するのに十分である。
【0083】
図6A図10に参照して先に論じたごとく、ターゲット内のオブジェクトまたはエンティティを同定するのに使用するために、配列検出システムの分析サブシステムによって種々の派生値が生成する。第2の配列検出システムのある種の実施形態については、図14A~14Bに参照して先に論じた、電流-電圧変換器回路によって生成される電圧信号の中央部分内の平均電流の大きさおよび標準偏差は、コピー鎖に付加した各デオキシヌクレオチドについて生成された電圧-信号曲線の解析サブシステムによって生成される。しかしながら、付加された各デオキシヌクレオチドを識別するには、さらなる技術が必要である。
【0084】
図28A~28Cは、1つの例において、第2の配列検出システムのある種の実施形態におけるDNAポリメラーゼによりコピー鎖に付加された異なるデオキシヌクレオチドを識別するために使用されるアプローチを示す。図28Aは、DNAポリメラーゼの活性側内にある4タイプのデオキシヌクレオチド三リン酸の平均電圧範囲(mean-voltage-magnitude range)のプロットを示している。4つの範囲すべてがある程度重複しており、デオキシチミジン三リン酸、デオキシアデノシン三リン酸、およびデオキシシトシン三リン酸の平均電圧信号範囲(average voltage-signal-magnitude range)は互いに大きく重複している。図28Bは、先に論じた図9のように、平均電圧と標準偏差の両方を使用した2次元プロットを示している。2次元プロットは、デオキシグアノシン三リン酸2802をデオキシシトシン三リン酸2804から効果的に区別するが、デオキシチミジン三リン酸およびデオキシアデノシン三リン酸の面積範囲は本質的に同一の広がり2806である。4つのデオキシヌクレオチド三リン酸を完全に区別するために、アデニン2812の代わりに、修飾アデニン塩基2810、7-デアザアデニンが使用される。修飾デオキシアデノシン様三リン酸がDNAポリメラーゼの活性部位内に存在する場合、DNAポリメラーゼは、デオキシアデノシン三リン酸が活性部位内に存在する場合にDNAポリメラーゼが占めるコンホメーションとは著しく異なるコンホメーションを占める。その結果、2次元プロット2816の修飾デオキシアデノシン様三リン酸2814の面積範囲は、デオキシチミジン三リン酸2818の面積範囲ともはや同一の広がりを有さず、それが活性部位に存在する場合に生成する出力電圧信号から生成する平均電圧信号および標準偏差派生値に基づいて4つの異なるデオキシヌクレオチド三リン酸すべてが明確に識別できる。
【0085】
図29A~29Cは、1つの例において、ポリンチャネル内にDNAポリマーテザーをしっかりと保持するためのロックコンポーネントとしてのロックオリゴヌクレオチドの使用を示している。図29Aは、図24で以前に使用したのと同じ図の規則を使用して、ロックオリゴヌクレオチドを有するDNAポリマーテザーを示している。図29Aに示すように、ロックオリゴヌクレオチド2902は、DNAポリマーテザー2904のデオキシヌクレオチドモノマー配列の一部分に相補的なデオキシヌクレオチド-モノマー配列を有し、水素結合および塩基スタッキングを介してDNAポリマーテザーの一部分とハイブリダイズする。図29B~29Cは、セル操作中のロックオリゴヌクレオチドの使用を示している。最初に、DNAポリメラーゼ2906およびDNAポリマーテザー2908は、ポリン2910と会合していない。セル2912を横切って電圧を印加すると、DNAポリマーテザーがポリンチャネル2914に通され、それを通ってポア2916内にDNAポリメラーゼを落ち着かせる。ついで、ロックオリゴヌクレオチドは、セルの第2の溶液含有チャンバーに延びるDNA-ポリマーテザー2918の部分と会合する。図29Cに示すように、ロックオリゴヌクレオチドは、逆極性の電圧2922がセルに印加された場合に、DNAポリマーテザーがポリンチャネル2920から引き出されるのを防ぐ。結果として、印加電圧2924の元の極性を回復すると、ポリン2926内にDNAポリメラーゼを再び落ち着かせる(reseat)。しかしながら、はるかに大きな電圧2928の印加は、DNAポリマーテザー2932からロックオリゴヌクレオチド2930を剥ぎ取り、DNAポリメラーゼおよびDNAポリマーテザーをポートから完全に解離させるのに十分な力を生成する。ある種の実施形態において、ロックオリゴヌクレオチド以外のロックコンポーネントを使用し得る。例えば、ビオチン部分をテザーに結合し、ストレプトアビジンをロックコンポーネントとして使用できる。他のタイプの生体高分子ロックコンポーネントも別の実施形態において使用し得る。
【0086】
ロックオリゴヌクレオチドを使用して、ポリンチャネル内にDNAポリマーテザーつなぐことによって、いくつかの重要な利点が得られる。ある種のタイプのDNAポリメラーゼでは、DNAポリメラーゼとDNAポリマーテザーベースの可変抵抗コンポーネントによって生成される電圧信号は、ノイズの増加期間が長くなり、DNAポリメラーゼの活性部位に特異的に結合した異なるタイプのデオキシヌクレオチド三リン酸を区別するために使用される電流信号の変動をマスクする。DNAポリメラーゼの活性部位に特異的に結合します。このタイプのノイズの発生を防ぐために、ある種の実施形態において、DNAポリメラーゼをポリンから外すために、印加電圧の極性が定期的に反転する。その後、印加電圧の極性が再び反転して配列検出の次の間隔を開始する。図30は、1つの実施形態において、出力電圧信号に混乱を引き起こすノイズの発生を防ぐために使用される印加電圧サイクルを示す。図30に示すプロットでは、横軸3002は時間を表し、縦軸3004は印加電圧を表す。印加電圧は、図13に示すように、間隔3006などの通常の第1の極性の比較的大きな印加電圧の比較的長い期間と、間隔3008などの印加電圧の極性が反転する比較的短い期間の間で交互に切り替わる。
【0087】
本明細書に開示する配列検出器などのシステムは、特定の実施形態の観点から説明しているが、本発明をこれらの実施形態実装に限定することは意図していない。本発明の精神内での修飾は、当業者に明らかであろう。例えば、ある種の配列検出システムは、さまざまな種類の機械的変化センサーコンポーネント、機械的カプラー、可変抵抗コンポーネント、および電気信号生成コンポーネントおよび回路を使用できる。例えば、上記した第2の配列検出システムは、異なるDNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼフラグメントを使用し、異なるポリンを使用し、異なるタイプのポリマーを含む異なるタイプの機械的カプラーを使用し、多くの異なる形状、サイズ、および構成のセルを使用し得る。MspA-ポリンの代わりに使用できるポリペプチドポアの例には、α-ヘモリシン、マイコバクテリウム・スメグマチス ポリンA、グラミシジンA、マルトポリン、OmpF、OmpC、PhoE、Tsx、F-ピリ、SP1、ミトコンドリアポリン(VDAC)、Tom40、外膜ホスホリパーゼA、およびナイセリア自動輸送体リポタンパク質(NaIP)が含まれる。先に論じたクレノウ・フラグメントの代わりに使用できるポリメラーゼまたはそのフラグメントの例には、T7 DNAポリメラーゼ、真核生物ミトコンドリアDNAポリメラーゼγ、大腸菌DNA Pol I、サーマス・アクアティカスPol I、バチルス・ステアロサーモフィルスPol I、真核生物DNAポリメラーゼα、δ、およびε、DNAポリメラーゼζ、T4 DNAポリメラーゼ、Phi29 DNAポリメラーゼ、RB69バクテリオファージDNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIIIアルファサブユニット、古細菌Euryarchaeotaサブドメイン由来のポリメラーゼ、真核生物ポリメラーゼPolβ、Polσ、およびPolμ、S.cerevisiae Pol4、Polη、Pol iota、Pol kappa、E.coli Pol IV(DINB)、E.coli Pol V(UmuD’2C)、レトロウイルス逆転写酵素および真核生物テロメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼなどのウイルスRNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII、RNAポリメラーゼIII、RNAポリメラーゼIV、RNAポリメラーゼV、および古細菌RNAポリメラーゼなどの真核生物RNAポリメラーゼが含まれる。別のテザーの例には、PEG(ポリエチレングリコール)、PPG(ポリプロピレングリコール)、PVA(ポリビニルアルコール)、PE(ポリエチレン)などの合成ポリマーが含まれる。さらに、DNA、RNA、PNAまたはLNAラベル、モルホリノ、または鏡像異性DNAなどが含まれる。さらに、例示的な実施形態では、イソGおよびイソC塩基がテザー上に存在し得る。出力電圧信号に由来する種々の異なる値は、ターゲット配列内のオブジェクトまたはエンティティのタイプを一意に識別するための異なるディメンションとして使用できる。平均電圧信号の大きさ、信号電圧から計算される分散、および標準偏差は、オブジェクトまたはエンティティのタイプの識別に使用できるさまざまなタイプの派生値のほんの数例である。7-デアザデオキシアデノシン三リン酸に加えて、多くの異なるタイプの修飾デオキシヌクレオチド三リン酸をコピー鎖伸長に使用できる。コピー鎖伸長はテンプレート鎖配列を決定するためにのみ使用するため、配列決定中に生成されるコピー鎖の化学組成は第2の配列検出システムの正常な動作とは無関係である。論じたコンセプト、コンポーネント、および方法のすべての組み合わせが考慮され、理解される。
【0088】
前述の概念および追加の概念のすべての組み合わせ(そのような概念が相互に矛盾しない限り)は、本明細書で開示される本発明の主題の一部として企図されることを理解されたい。特に、本開示の最後に現れる特許請求する主題のすべての組み合わせは、本明細書に開示された本発明の主題の一部であると考えられる。
図1
図2
図3A-3F】
図4
図5
図6A-6D】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17A
図17B
図18A-18B】
図19
図20
図21A
図21B
図21C
図21D
図21E
図22A-22B】
図23A
図23B
図24
図25
図26A
図26B
図27
図28A-28C】
図29A
図29B
図29C
図30
【外国語明細書】