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特開2023-52386非緩衝化次亜ハロゲン酸組成物による高耐性の感染性微生物及びタンパク質の不活性化
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  • 特開-非緩衝化次亜ハロゲン酸組成物による高耐性の感染性微生物及びタンパク質の不活性化 図1
  • 特開-非緩衝化次亜ハロゲン酸組成物による高耐性の感染性微生物及びタンパク質の不活性化 図2
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  • 特開-非緩衝化次亜ハロゲン酸組成物による高耐性の感染性微生物及びタンパク質の不活性化 図6
  • 特開-非緩衝化次亜ハロゲン酸組成物による高耐性の感染性微生物及びタンパク質の不活性化 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052386
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】非緩衝化次亜ハロゲン酸組成物による高耐性の感染性微生物及びタンパク質の不活性化
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20230404BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20230404BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20230404BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 33/20 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A61L2/18
A01N59/08 A
A01N59/00 Z
A01P3/00
A61K33/20
A61P31/00 171
A61P31/10
A61P31/12
A61P31/04
A61P21/02
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/04
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003622
(22)【出願日】2023-01-13
(62)【分割の表示】P 2018567621の分割
【原出願日】2017-06-22
(31)【優先権主張番号】62/353,483
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518451079
【氏名又は名称】ブリオテック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】テリー,ダニエル,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,ジェフリー,フランシス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】胞子、ウイルス及び多剤耐性栄養型の微生物病原体及び感染性タンパク質に対して一段階で高度の除染を達成できる方法を提供する。
【解決手段】無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物を用いる、対象の真の滅菌のための方法、感染性タンパク質を不活性化するための方法、及び微生物病原体を不活性化するための方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の真の滅菌のための方法であって、滅菌させる対象を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む、方法。
【請求項2】
対象は表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象は生体試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
感染性病原体を不活性化するための方法であって、感染性病原体を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む、方法。
【請求項5】
感染性病原体は感染性微生物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
感染性微生物はウイルス、細菌、真菌又は原虫である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
感染性病原体は感染性タンパク質である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
感染性タンパク質は自己複製タンパク質である、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
感染性病原体は浮遊粒子である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
浮遊粒子は空気中で不活性化される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
感染性タンパク質を不活性化するための方法であって、感染性タンパク質を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む、方法。
【請求項12】
感染性タンパク質は感染性自己複製タンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
感染性タンパク質はプリオンである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
プリオンは、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症、慢性消耗性疾患、スクレイピー、アルツハイマー病、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症の病原体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
微生物病原体を不活性化するための方法であって、微生物病原体を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む、方法。
【請求項16】
微生物病原体はグラム陰性細菌である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
微生物病原体はグラム陽性細菌である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
微生物病原体は真菌である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
微生物病原体はウイルスである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
組成物は溶液、液滴のスプレー又は霧又はミスト又はエアロゾル(例えば、サブミクロンサイズ範囲の微粒化液滴及びエアロゾル化液滴)、ゲル又は粘性液体である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
組成物との接触は1秒~数時間の接触を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
組成物との接触は室温での接触を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
組成物との接触は約室温~約80℃の範囲の温度での接触を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
次亜ハロゲン酸組成物は次亜塩素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
次亜ハロゲン酸組成物は、次亜塩素酸濃度が約5~約500mg/Lであり、pHが約3.2~約6.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜塩素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
次亜ハロゲン酸組成物は、次亜塩素酸濃度が約80~約300mg/Lであり、pHが約3.8~約5.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1100ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜塩素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
次亜ハロゲン酸組成物は、次亜塩素酸濃度が約80~約300mg/Lであり、pHが約4.0~約4.3であり、酸化還元電位(ORP)が約+1138ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜塩素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
次亜ハロゲン酸組成物は次亜臭素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
次亜ハロゲン酸組成物は、次亜臭素酸濃度が約10~約300mg/Lであり、pHが約3~約8.5であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜臭素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
次亜ハロゲン酸組成物は、次亜臭素酸濃度が約5~約350mg/Lであり、pHが約7~約8であり、酸化還元電位(ORP)が約+900ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜臭素酸組成物である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
塩化物塩は塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム及び塩化アンモニウムから選択される水溶性の塩化物塩である、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
塩化物塩は塩化ナトリウムである、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
組成物は、組成物の総重量に対して約2.0重量%の塩化物塩を含む、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
組成物は、組成物の総重量に対して約2.0重量%の塩化ナトリウムを含む、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
組成物は、次亜ハロゲン酸以外の検出可能量の水性酸化性塩素を含まない、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で最長約5年である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で約4週間~約6週間である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
次亜ハロゲン酸組成物は次亜ハロゲン酸安定剤を含まない、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
次亜ハロゲン酸組成物は、モノ又はジリン酸ナトリウム又はカリウム緩衝剤、炭酸緩衝剤、過ヨウ素酸塩、二価金属カチオン、有機複素環式化合物、塩酸、臭化水素酸、又は保存中の次亜ハロゲン酸溶液の安定性を高めるためにハロゲン安定剤として通常使用される化学物質を含まない、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物であって、次亜ハロゲン酸と、組成物の総重量に対して約0~約2.0重量%の量の塩化物塩とを含む、組成物。
【請求項41】
塩化物塩の量は組成物の総重量に対して約0.85~約2.0重量%である、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸である、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項43】
次亜塩素酸を約5~約500mg/Lの濃度で含み、pHが約3.2~約6.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトである、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項44】
次亜塩素酸を約80~約300mg/Lの濃度で含み、pHが約3.8~約5.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1100ミリボルトである、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項45】
次亜塩素酸を約80~約300mg/Lの濃度で含み、pHが約4.0~約4.3であり、酸化還元電位(ORP)が約+1138ミリボルトである、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項46】
次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸である、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項47】
次亜臭素酸を約10~約300mg/Lの濃度で含み、pHが約3~約8であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトである、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項48】
次亜臭素酸を約5~約350mg/Lの濃度で含み、pHが約7であり、酸化還元電位(ORP)が約+900ミリボルトである、請求項40又は41に記載の組成物。
【請求項49】
塩化物塩は塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム及び塩化アンモニウムから選択される水溶性の塩化物塩である、請求項40~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項50】
塩化物塩は塩化ナトリウムである、請求項40~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項51】
次亜ハロゲン酸以外の検出可能量の水性酸化性塩素を含まない、請求項40~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項52】
次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で最長約5年である、請求項40~45のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項53】
次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で約4週間~約6週間である、請求項40、41及び46~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項54】
次亜ハロゲン酸組成物は次亜ハロゲン酸安定剤を含まない、請求項40~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項55】
次亜ハロゲン酸組成物は、モノ又はジリン酸ナトリウム又はカリウム緩衝剤、炭酸緩衝剤、過ヨウ素酸塩、二価金属カチオン、有機複素環式化合物、塩酸、臭化水素酸、又は保存中の次亜ハロゲン酸溶液の安定性を高めるためにハロゲン安定剤として通常使用される化学物質を含まない、請求項40~48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項56】
溶液、液滴のスプレー又は霧又はミスト又はエアロゾル、ゲル又は粘性液体として処方された、請求項40~55のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2016年6月22日出願の米国特許出願第62/353,483号の利益を主張するものであり、この出願の全内容は参照によって明確に本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
過去数十年における多剤耐性疾患微生物の出現は、感染症の課題の新たな時代を迎えた。侵襲性病原微生物、特に環境下で長期間生存可能な侵襲性病原微生物又は従来の除染処置に抵抗可能な侵襲性病原微生物へ人々や動物が曝露されるのを防止及び制御する手段の改善については緊急の必要性がある。後者の侵襲性病原微生物は、表面、器具又は装置上での最も耐性のある感染性病原体の効果的且つ高水準の消毒に関しても不十分であり、操作者、患者及び環境に対する安全性に関しても不十分であることが証明されている。現在の対策は、長くて非実用的な曝露時間、高い温度又は圧力、又は有害又は腐食性の溶液や蒸気を組み込まないとうまくいかない。既知の全ての感染性病原体は、最終的には物理的及び化学的に極端な手段では死ぬが、そのような手段は実用的には不便又は危険でさえあり、高額機器に損害を与えることもある。このような手段からは、ヒト、家畜及び野生動物における神経変性疾患に付随することが多くなった、周知の病原性微生物又は自己複製タンパク質からの健康リスクの増大に対する迅速な解決策が得られない。このような不具合の結果、悲劇的で致命的な医原性感染の事故は、無防備な患者に使用される器具や装置に適用される無効な除染措置から生じている。
【0003】
病原体の不活性化における進歩にもかかわらず、今日の感染制御対策に課題をもたらす病原体を高レベルで除染/不活性化するのに適用可能な、便利で費用対効果が高く、完全に無害な方法が要求されている。本発明は、この要求を満たすことを目的とし、更なる関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0004】
短い曝露期間の後、表面、器具、機器及び操作人員に対して穏やかで無害な条件下で感染性病原体を高度に不活性化するための方法と組成物を開示する。このような方法と組成物は、高耐性の病原体を含有しているか又はそれに曝露されたと疑われる物品や表面の除染に従来適用されてきたものとは特性や持続期間が著しく異なる。過去において、全ての感染性病原体を完全に不活性化する上で適切な信頼度を得るには、苛性及び腐食性の化学薬品、例えば、2Nの水酸化ナトリウム又は濃縮次亜塩素酸ナトリウム溶液(10,000~40,000mg/L)に対して事前に浸漬を1~2時間行った後に過酷で長時間の高温処理(例えば、132℃で30分間の加圧蒸気使用)が必要であった。このような処置では、大量の危険な化学溶液を取り扱う人員や、除染対象の広範な熱処理によって生じる蒸気に高価なオートクレーブ装置を曝露する人員に対して重大な危険が生じる。これに対し、本明細書に開示の組成物は、室温(20℃)にて短い接触期間(数秒~1時間)で耐性病原体を不活性化することができ、化学的曝露後の更なる高温処理を必要としない。本明細書に開示の組成物は、高価で腐食性又は非実用的な組成物や処置を伴わない。従来の方法は全ての既知の病原体の感染力を低下させることが証明されているが、感染性病原体の全範囲に関する懸念が妥当な、医療又は他の領域(例えば、屠体処理や食品加工)での高度の除染、又は生物テロ対策の現実世界での実践における居場所を容易に見つけられない。
【0005】
6対数減少値(LRV)以上の感染力の低下を達成するため、不活性化成分は優先的には、汚染物品又は組織又は体液を20℃以上で最大1時間懸濁させる、純粋な次亜ハロゲン酸(次亜塩素酸又は次亜臭素酸)の安定な水溶液である。不活性化を最大にするのに必要な次亜ハロゲン酸濃度は150~300mg/Lの範囲が最適である。溶液の濃度がより低いか、又は曝露期間がより短くても、標的病原体の感染力を有意に低下させることができる。このような最適濃度では、不活性化溶液はインビトロで哺乳動物細胞に対して腐食性又は毒性ではなく、或いはヒト又は動物の皮膚や粘膜(例えば、鼻粘膜上皮、口腔粘膜上皮及び結膜上皮)に対して腐食性又は毒性ではない。高耐性の微生物病原体(例えば、細菌及び真菌胞子、無エンベロープのカプシドタンパク質被覆ウイルス、及び感染性タンパク質)の感染力を効果的に低下させるこれらの仕様は、健康管理や環境消毒及び除染の実際的な要求に対応する。この仕様によって、全ての耐性病原体の感染との戦いにおいて開示方法を広範に用いることができる。この仕様は、処理された表面、装置及び機器の完全性や有用性、又は日常的に本方法を実行する責任を負う人員の健康や安全性を心配することなく、日常使用のための本方法の実用化に対応する。
【0006】
本発明では、除染手段へ一次曝露させた後に従来の消毒用又は変性用製剤や処置の追加を必要とした以前のアプローチとは異なり、胞子、ウイルス及び多剤耐性栄養型の微生物病原体及び感染性タンパク質に対して一段階で高度の除染を達成できるという利点が得られる。
【0007】
安定した純粋な次亜ハロゲン酸溶液を使用することによって、限られた空間内で汚染表面、機器、装置、衣類又は人員をこの溶液の不活性化用霧又はミストに曝露させる非常に便利な方法が可能となる。この処置は、従来の方法に付随する毒性又は腐食性を気にせずに、感染性組織又は体液によって汚染されたと疑われる人員に対しても、活性組成物の隙間及び微小環境への分散を確実にする。また、不安定な次亜塩素酸製剤に常に伴う除染手段の確実な有効性についての懸念も取り除かれる。
【0008】
好ましい不活性化処置では次亜ハロゲン酸水溶液を150~300mg/Lの範囲の濃度で使用するが、活性成分はゲル又は粘性流体としての製剤と適合する。これらを標的表面に塗布して、必要レベルの活性ハロゲン種との長期に亘る密接な接触を確実にすることができる。
【0009】
本明細書に開示の病原体不活性化に使用される好ましい溶液の全体的な態様は、pHが3.2~6.0の範囲(優先的にはpH3.8~5.0、最適範囲はpH4.0~4.3)であり、酸化還元電位(ORP)が+1000、優先的には+1100、最適には+1138ミリボルト(mv)であり、塩化物塩(例えば、NaCl)を0~最大約2.0重量%(優先的には約0.85重量%~約2.0重量%)含んでいる次亜塩素酸溶液へ標的である表面、機器、装置、組織又は体液を最大1時間に亘って曝露することである。HOBrの溶液は、優先的にはpH3~8の範囲内であり、最適には約pH7であり、ORPは+900、優先的には+1000mvであり、塩化物塩(例えば、NaCl)を0~約2.0重量%、優先的には約0.85重量%~約2.0重量%含んでいる。HOCl溶液は十分に安定であり、密封容器に保存した場合に3~5年以上の期間に亘って最適な仕様がこのようなレベルに維持できるか、又は感染性病原体の不活性化において高い有効性を得るのに十分なレベルに維持できることが保証される。HOBrは、そのような安定なHOCl溶液から使用時に優先的に生成されるが、1当量のNaBr又はKBrを当量(HOCl)の安定なHOCl溶液に添加した後、その新規形成後4~6週間使用することができる。
【0010】
本発明の更なる利点は、角膜移植、硬膜移植等の移植処置において有用となり得る潜在的に汚染された組織の処置、レシピエント宿主での機能の回復に必要とされ得る他の組織又は器官の処置、又はレシピエントの美容的操作のために使用され得る処置(例えば、ウシコラーゲン注射又はインプラント)に対する不活性化溶液の適合性である。
【0011】
本発明の更なる利点は、レシピエント宿主において機能を回復する、又はその機能の維持を補助する目的で、人体に埋め込まれた装置、電極及びセンサー等の前処理に対する不活性化溶液の適合性である。
【0012】
本発明の更なる利点は、生物テロの手段として使用可能な感染性病原体の中和、及び化学兵器の実施に使用可能な特定の化学物質の中和に対する不活性化溶液の適合性である。
【0013】
本発明の更なる利点は、高濃度の次亜塩素酸塩漂白剤を含む従来の抗菌剤に耐性を有する微生物の接着性混合集団を破壊する上での安定で純粋な次亜ハロゲン酸の効力である。
【0014】
本発明の前述の態様及び付随する利点の多くは、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照してより把握されるにつれて、より容易に理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の方法に有用な代表的な次亜塩素酸製剤(BrioHOCL(商標))のラマンスペクトルである。
図2】室温(RT)又は70℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料中の酸化性塩素濃度(ppm)を比較するものである。
図3図3A図3B。室温(RT)又は70℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料におけるpH(3A)及びORP(3B)の連続測定値を比較するものである。
図4】52℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料(52個)中のCl(ppm、Logn)の連続測定値を比較するものである。
図5】70℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料(70個)中のCl(ppm、Logn)の連続測定値を比較するものである。
図6】水酸化ナトリウムでpH9に調整した本発明の方法に有用な代表的なHOBr溶液の紫外/可視吸収スペクトルである。
図7】本発明の方法に有用な代表的なHOBr溶液のラマンスペクトルであり、615cm-1で特徴的な波形ピークを示す。
図8】本発明の方法に有用な代表的なHOBr溶液をガラス容器中に室温で保存した後の時間に対する滴定臭素(Br)(ppm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、安定な非緩衝化次亜ハロゲン酸溶液を含む溶液、ゲル、ミスト又は蒸気に表面上、懸濁液中、生体液中又は組織中で曝露して、高耐性の感染性病原体を不活性化するための方法と組成物に関する。
【0017】
次亜ハロゲン酸組成物の使用方法
次亜ハロゲン酸組成物を使用するための方法が提供される。
【0018】
一態様では、本発明は、対象の真の滅菌のための方法であって、滅菌させる対象を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む方法を提供する。
【0019】
本明細書で使用される「真の滅菌」とは、従来の滅菌手段に抵抗する全ての形態の微生物(例えば、細菌、ウイルス、真菌又は原虫起源の微生物病原体の単独又は組み合わせ)及びプリオンタンパク質として知られる非生存感染性病原体の不活性化を意味する。従来の滅菌は、細菌、ウイルス、真菌又は原虫起源の微生物病原体を含む全ての形態の微生物の不活性化であることは理解されているが、感染性タンパク質の不活性化を含むとは理解されていない。本発明の方法と組成物は、微生物の生命及び非生存感染性病原体(例えば、プリオンタンパク質)の不活性化に有効であるため、この方法と組成物は真の滅菌に有効である。
【0020】
本明細書で使用される「消毒」とは、滅菌よりも低いレベルの抗菌不活性化を意味し、具体的には、ヒト、動物及び植物における感染に関与する病原体の数の減少に向けられるが、感染症のプロセスに関与しない生命体は包含しない。
【0021】
本明細書で使用される「無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物」という用語は、電解で生成される、緩衝されていない(pH緩衝剤を含まない)次亜ハロゲン酸の組成物を意味する。 本明細書で使用される「無緩衝の」と「非緩衝化」という用語は互換的に使用される。
【0022】
本発明の方法に有用な無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物としては、Briotech Inc.(ワシントン州ウッディンビル)からBrioHOCL(商標)及びBrioHOBR(商標)の名称で市販されている溶液(それぞれ、無緩衝の次亜塩素酸(HOCl)及び次亜臭素酸(HOBr)の電解溶液)が挙げられる。
【0023】
市販のBrioHOCL(商標)とBrioHOBR(商標)は、それぞれ本発明の方法に有用な代表的な無緩衝のHOCl溶液とHOBr溶液である。
【0024】
ある実施形態では、これらの代表的な無緩衝のHOCl溶液とHOBr溶液(それぞれBrioHOCL(商標)とBrioHOBR(商標))のイオン強度を高めて、プリオンの不活性化を増強するのに有効な新規のHOCl溶液とHOBr溶液を得る。イオン強度を高めた(例えば、組成物の総重量に対して約2重量%の塩化物塩)無緩衝のHOCl溶液とHOBr溶液は、所定の時間と曝露量でタンパク質の不活性化レベルをより高い程度まで上昇させるのに有用である。プリオン病は発症後一様に100%致命的であることを考えると、所定の曝露量と曝露時間でプリオン汚染された物品又は組織を可能な限り最高レベルで不活性化することが望ましい。
【0025】
ある実施形態では、対象は表面である。適切な表面としては、医療器具、外科用器具、実験室表面、埋め込み装置が挙げられる。本発明の方法で滅菌することができる他の表面としては、病室、実験室、診療所、手術室、歯科医院、検視室、霊安室、動物検死施設、食肉処理場、動物収容所、寝室、食肉加工施設等の限られた空間の環境表面、このような環境で使用される外科用又は診断用器具、装置、及び道具、治療又は診断目的のインプラントとして使用される無生物装置、及びこのような環境で処理される動物又は患者の屠体や死体又はその一部が挙げられる。
【0026】
他の実施形態では、対象は生体試料である。適切な生体試料としては、体液及び組織が挙げられる。代表的な生体試料としては、動物又はヒト起源の無傷組織、又は診断目的に使用される組織の派生物、又は治療用又は美容用の移植片やインプラント(例えば、皮膚、角膜、硬膜、コラーゲン)、又はこのような組織又はその派生物に通常関連する生体液、例えば、血液、唾液、痰、脳脊髄液、鼻汁、眼液、又は採取又は調製された組織又はその関連器官と接触する尿や排泄物が挙げられる。
【0027】
他の態様では、本発明は、感染性病原体を不活性化するための方法であって、感染性病原体を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む方法を提供する。
【0028】
本明細書で使用される「不活性化する」又は「不活性化」という用語は、感染性微生物又は他の感染性病原体の感染能力を実用的且つ統計的に重要な程度まで排除すること(例えば、実質的排除)を意味する。「不活性化された」という用語は、その感染能力が実質的に排除された感染性微生物又は他の感染性病原体を意味する。
【0029】
本明細書で使用される「感染性病原体」という用語は、感染性微生物因子及び微生物とは関連しない感染性病原体(例えば、プリオン等の非生存感染性病原体)を意味する。
【0030】
上述のように、感染性微生物因子は細菌、ウイルス、真菌又は原虫起源とすることができ、単独又は組み合わせて作用する。
【0031】
生命体として認識可能な微生物構造を伴わない感染性病原体としては、DNA又はRNAの形態の遺伝情報を持ってはいないが自己複製することができる感染性タンパク質が挙げられる。感染性タンパク質の例としてはプリオンが挙げられる。本発明の方法と組成物によって効果的に不活性化される代表的なプリオンとしては、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症、慢性消耗性疾患、スクレイピー及びヒト神経変性疾患(例えば、特にアルツハイマー病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症等)のプリオン病原体が挙げられる。
【0032】
本発明の組成物と方法によって効果的に不活性化される代表的な感染性病原体としては、ウイルス、細菌、真菌及び原虫が挙げられる。これらの微生物に加えて、本発明の組成物と方法によって効果的に不活性化される感染性病原体としては、自己複製タンパク質等の感染性タンパク質が挙げられる。
【0033】
一実施形態では、感染性病原体は感染性微生物である。代表的な微生物としては、ウイルス、細菌、真菌又は原虫が挙げられる。
【0034】
他の実施形態では、感染性病原体は感染性タンパク質である。代表的な感染性タンパク質としては、自己複製タンパク質が挙げられる。
【0035】
更なる実施形態では、感染性病原体は浮遊粒子である。これらの実施形態の幾つかでは、浮遊粒子は、例えば、無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物を含むスプレー、ミスト、霧又はエアロゾルによって空気中で不活性化される。
【0036】
更なる態様では、本発明は、感染性タンパク質を不活性化するための方法であって、感染性タンパク質を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む方法を提供する。
【0037】
一実施形態では、感染性タンパク質は感染性自己複製タンパク質である。
【0038】
一実施形態では、感染性タンパク質はプリオンである。ある実施形態では、プリオンは、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症、慢性消耗性疾患、スクレイピー、アルツハイマー病、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症の病原体である。
【0039】
更なる態様では、本発明は、微生物病原体を不活性化するための方法であって、微生物病原体を無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる段階を含む方法を提供する。
【0040】
本明細書で使用される「微生物病原体」という用語は微生物である病原体を意味し、例えば、グラム陰性細菌(例えば、アシネトバクター・バウマンニ、大腸菌、大腸菌O157、緑膿菌、サルモネラ・コレレスイス、シゲラ・フレックスネリ、大腸菌NDM-1、肺炎桿菌、エルシニア・エンテロコリチカ、プロテウス・ブルガリス、リステリア)、グラム陽性細菌(例えば、枯草菌、表皮ブドウ球菌、MRSA(黄色ブドウ球菌)、エンテロバクター・クロアカ、エンテロコッカスVRE)、真菌(例えば、カンジダ・アルビカンス、クロコウジカビ)及びウイルス(例えば、コロナウイルス[ヒト、OC43])が挙げられる。
【0041】
一実施形態では、微生物病原体はグラム陰性細菌である。他の実施形態では、微生物病原体はグラム陽性細菌である。更なる実施形態では、微生物病原体は真菌である。ある実施形態では、微生物病原体はウイルスである。
【0042】
上述の方法の幾つかでは、組成物は溶液、液滴のスプレー又は霧又はミスト又はエアロゾル(例えば、サブミクロンサイズ範囲の微粒化液滴及びエアロゾル化液滴)、ゲル又は粘性液体である。
【0043】
上述の方法の幾つかでは、組成物との接触は1秒~数時間(例えば、1~6時間)の接触を含む。
【0044】
上述の方法の幾つかでは、組成物との接触は室温での接触を含む。
【0045】
上述の方法の幾つかでは、組成物との接触は約室温~約80℃の範囲の温度での接触を含む。
【0046】
上述の方法の幾つかでは、次亜ハロゲン酸組成物は次亜塩素酸組成物である。
【0047】
これらの実施形態の幾つかでは、次亜ハロゲン酸組成物は、次亜塩素酸濃度が約5~約500mg/Lであり、pHが約3.2~約6.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜塩素酸組成物である。
【0048】
酸化還元電位(ORP)に関して、ある実施形態では、特定の値はORP範囲を規定し、例えば「約+1000ミリボルト」は±50ミリボルトの範囲を規定する。
【0049】
これらの実施形態の他では、次亜ハロゲン酸組成物は、次亜塩素酸濃度が約80~約300mg/Lであり、pHが約3.8~約5.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1100ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜塩素酸組成物である。
【0050】
これらの実施形態の更に他では、次亜ハロゲン酸組成物は、次亜塩素酸濃度が約80~約300mg/Lであり、pHが約4.0~約4.3であり、酸化還元電位(ORP)が約+1138ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜塩素酸組成物である。
【0051】
上述の方法の他では、次亜ハロゲン酸組成物は次亜臭素酸組成物である。
【0052】
これらの実施形態の幾つかでは、次亜ハロゲン酸組成物は、次亜臭素酸濃度が約10~約300mg/Lであり、pHが約3~約8.5であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜臭素酸組成物である。
【0053】
これらの実施形態の他では、次亜ハロゲン酸組成物は、次亜臭素酸濃度が約5~約350mg/Lであり、pHが約7~約8であり、酸化還元電位(ORP)が約+900ミリボルトであり、組成物の総重量に対して約0.85重量%~約2.0重量%の塩化物塩を含む水性次亜臭素酸組成物である。
【0054】
ある実施形態では、塩化物塩は塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム及び塩化アンモニウムから選択される水溶性の塩化物塩である。ある実施形態では、塩化物塩は塩化ナトリウムである。
【0055】
ある実施形態では、組成物は、組成物の総重量に対して約2.0重量%の塩化物塩を含む。ある実施形態では、組成物は、組成物の総重量に対して約2.0重量%の塩化ナトリウムを含む。
【0056】
組成物は、HOCl以外の検出可能量の水性酸化性塩素を含まない。本明細書で使用される「酸化性塩素」とは、例えば、反復走査型ラマン分光法で検出可能な全ての酸化性塩素種(例えば、HOCl、塩素分子、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩)を意味する。ある実施形態では、組成物は<200ppmの水性酸化性塩素を含む。他の実施形態では、組成物は<100ppmの水性酸化性塩素を含む。更なる実施形態では、組成物は<50ppmの水性酸化性塩素を含む。HOBr溶液に関しては、組成物は、例えば、反復走査型ラマン分光法で検出可能なHOBr以外の検出可能量の水性酸化性臭素を含まないこと(例えば、<200ppmの水性酸化性臭素、<100ppmの水性酸化性臭素、<50ppmの水性酸化性臭素)は理解されよう。
【0057】
ある実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で最長約5年である。他の実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で約4週間~約6週間である。本明細書で使用される「保存寿命」という用語は、組成物の酸化性次亜ハロゲン酸濃度及び/又はORPが十分に保持されており、感染性病原体が必要な用途で有効程度まで確実に不活性化されることを意味する。
【0058】
次亜ハロゲン酸組成物は次亜ハロゲン酸安定剤を含まない。次亜ハロゲン酸組成物は、モノ又はジリン酸ナトリウム又はカリウム緩衝剤、炭酸緩衝剤、過ヨウ素酸塩、二価金属カチオン、有機複素環式化合物、塩酸、臭化水素酸、又は保存中の次亜ハロゲン酸溶液の安定性を高めるためにハロゲン安定剤として通常使用される化学物質を含まない。
【0059】
次亜ハロゲン酸組成物
更なる態様では、本発明は無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物を提供する。
【0060】
ある実施形態では、無緩衝の電解次亜ハロゲン酸組成物は、次亜ハロゲン酸と組成物の総重量に対して約0~約2.0重量%の量の塩化物塩とを含む。これらの実施形態の幾つかでは、塩化物塩の量は組成物の総重量に対して約0.85~約2.0重量%である。
【0061】
ある実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸である。
【0062】
これらの実施形態の幾つかでは、組成物は次亜塩素酸を約5~約500mg/Lの濃度で含み、pHが約3.2~約6.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトである。
【0063】
これらの実施形態の他では、組成物は次亜塩素酸を約80~約300mg/Lの濃度で含み、pHが約3.8~約5.0であり、酸化還元電位(ORP)が約+1100ミリボルトである。
【0064】
これらの実施形態の更に他では、組成物は次亜塩素酸を約80~約300mg/Lの濃度で含み、pHが約4.0~約4.3であり、酸化還元電位(ORP)が約+1138ミリボルトである。
【0065】
他の実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸である。
【0066】
これらの実施形態の幾つかでは、組成物は次亜臭素酸を約10~約300mg/Lの濃度で含み、pHが約3~約8であり、酸化還元電位(ORP)が約+1000ミリボルトである。
【0067】
これらの実施形態の他では、組成物は次亜臭素酸を約5~約350mg/Lの濃度で含み、pHが約7であり、酸化還元電位(ORP)が約+900ミリボルトである。
【0068】
ある実施形態では、塩化物塩は塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム及び塩化アンモニウムから選択される水溶性の塩化物塩である。ある実施形態では、塩化物塩は塩化ナトリウムである。
【0069】
HOCl組成物は、HOCl以外の検出可能量の水性酸化性塩素を含まない。 HOBr組成物は、HOBr以外の検出可能量の水性酸化性臭素を含まない。
【0070】
ある実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜塩素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で最長約5年である。
【0071】
他の実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸であり、不活性化効率が有効である組成物の保存寿命は密閉容器中で約4週間~約6週間である。
【0072】
次亜ハロゲン酸組成物は次亜ハロゲン酸安定剤を含まない。次亜ハロゲン酸組成物は、モノ又はジリン酸ナトリウム又はカリウム緩衝剤、炭酸緩衝剤、過ヨウ素酸塩、二価金属カチオン、有機複素環式化合物、塩酸、臭化水素酸、又は保存中の次亜ハロゲン酸溶液の安定性を高めるためにハロゲン安定剤として通常使用される化学物質を含まない。
【0073】
組成物は所望の用途に適合するように処方することができる。ある実施形態では、組成物は、溶液、液滴のスプレー又は霧又はミスト又はエアロゾル(例えば、サブミクロンサイズ範囲の微粒化液滴及びエアロゾル化液滴)、ゲル又は粘性液体として処方する。
【0074】
以下、本発明の代表的な次亜ハロゲン酸組成物とその有用性について説明する。
【0075】
一般に、次亜塩素酸(HOCl)を他の水性塩素と共に含む製剤は、ヒトや動物の健康及び園芸に適用される消毒手段に有用であることが証明された抗ウイルス性、抗菌性、抗真菌性及び抗原虫性を有する有効な抗菌剤であることが知られている(後述の実施例1及び3)。HOClは従来の条件下で製造すると不安定で純度が低いが、HOClを含む粗混合物をこのような全ての使用分野での短期間の用途用に現地で生成することがある(USDA Directive 710.21,2017)。このような従来の電解調製溶液の有効寿命は数時間として測定されることが多い。安定化添加剤により、このような製剤の補助成分の性質やその保存に用いる方法に応じて、製剤の有効寿命を数日又は数週間に延ばすことができる。
【0076】
次亜塩素酸ナトリウムの純粋溶液のpHを注意深く調整することに依存する製造プロセスを精査することによって、最長2年の期間に亘る長期の保存をも可能にする安定性をHOClにもたらすことができる。この安定性によって特定の医療用途に対するその有用性が高まるが、必要とされる慎重なプロセス管理によって製品が高価となる。これによって、その使用が関連する医薬費レベルを支持できる医療処置に限定される。電解によるHOClの製造では、これまで、緩衝系及び/又は様々な安定化物質(例えば、金属カチオン、過ヨウ素酸塩、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びハロゲン安定化能を有する有機化合物)を配合せずに広範な実用途に十分な安定性を有する水性製剤を生成することができなかった。このような溶液の有用性は、保存を改善する特別な包装によって高めることができる。電解で生成したHOCl溶液に対してこのような調整を行う前には、非次亜ハロゲン酸成分又は他の水性ハロゲン種で汚染されていない純粋な溶液中でこの活性成分の安定化を成功させた製剤は存在しなかった。
【0077】
実用的に有効な保存期間に亘ってHOClを活性状態に維持することを支持するのに従来使用されている添加剤や化学安定剤は全て、選択される化学的介入に応じて、他の水性塩素種(例えば、次亜塩素酸塩及び亜塩素酸塩/塩素酸塩)又は塩素の存在に依存するか、或いは、崩壊の開始によって溶液中に出現することになる。このような構成成分の多くは、医療処置においてその有用性を制限する製剤へ細胞及び組織に対する毒性作用をもたらす。次亜ハロゲン酸、HOCl及びHOBr以外の水性ハロゲン種は全て、有害且つ多くの場合は腐食性の影響を環境表面にもたらし、その結果、実用目的には理想的とは言えなくなる。更に、通常最も望ましい次亜ハロゲン酸であるHOClを保存中にその保存寿命を延ばすため、特にHOClを取り巻く条件を調整することによって、HOCl成分の効力が低下する。従って、電解で生成したHOCl製品の抗菌有効性は、製品のpHを中性範囲以上に高く調整すると、HOCl、次亜塩素酸塩、塩素酸塩、二酸化塩素及び他の水性Cl種からの寄与の混合となる。オゾン、過酸化物等の他の酸化剤、又は溶液中の短寿命フリーラジカルに起因する塩素以外の活性を更に含むとされている製品もある。電解生成物を鉱酸又は炭酸を使用して低いpH範囲(約3以下)に調整する場合、抗菌有効性の主な源は水性塩素分子である。この状態は、ヒト及び全ての動物にとって危険な呼吸器毒である塩素分子ガスの排出によって生じる深刻な危険と関連している。最近の特許及び出願ではHOClの不安定性を強調しており、安定性を高めることを目的としたプロセス制御及び電解槽設計に対する調整を行って、HOCl以外の成分からの重要な積極的寄与が最終製品組成物に含まれるよう提案している。このような電解で生成したHOCl溶液の効力に対して相当する有害な影響があり、これによって、汚染されていない次亜ハロゲン酸の既知の効力と比較すると有効性が最適とは言えない。
【0078】
次亜塩素酸(HOCl)は次亜塩素酸塩(OCl)の共役酸であり、哺乳動物の好中球及び鳥の偽好酸球によってインビボで純粋な形態で天然に生成し、食作用性小胞内の病原体を不活性化する。溶液中のHOClは弱酸である(pKaが約7.5)。これは、高アルカリ度の家庭用次亜塩素酸塩漂白剤(約pH12)とは対照的である。従って、他の水性ハロゲン種で汚染されていないHOCl製剤は、漂白剤が利用者や適用表面に対して有害且つ危険となる用途に適合する。BrioHOCL(商標)の形態の安定且つ純粋なHOCl製剤は、皮膚及び粘膜(例えば、結膜、口腔粘膜及び生殖器粘膜)に直接適用することができ、化粧品として、更にはヒトや家畜用の局所治療剤として使用することができる。次亜臭素酸(HOBr)は次亜臭素酸塩の共役酸であり、HOClの生成に使用される酵素経路と同様の酵素経路を介して哺乳動物の好酸球で天然に生成する。この場合、細胞内臭化物イオンはHOBrに酸化され、HOClの場合の塩化物イオンとは異なる。HOBrはpKaがHOClよりも高い。これによって、HOClに適したpH値よりも高いpH値の溶液中でHOBrを使用することができ、この特性によってHOClよりもHOBrの適合性が高くなり得る条件が存在する(例えば、7.5~8.0未満のpHで不安定なゲル化剤の改質等)。
【0079】
水中のHOCl分子は中性であるが、水溶液は高い正の酸化還元電位(ORP)を維持し、これは、例えば、BrioHOCL(商標)の場合には、通常1100+の範囲でmv電位を記録するミリボルト計電極を挿入して確認できる。ORPの測定値は活性塩素溶液の消毒能力の指標として認められている。HOCl中の塩素原子の極端な反応性は、様々な化学基との既知で迅速な相互作用(例えば、アミノ酸、脂質及び硫黄含有構造との酸化及び塩素化反応)をもたらす。HOCl溶液が示す抗菌活性の機序に関して多くの異なる可能性が生じるが、特定の病原体の感染力を破壊する具体的な手段は未知のままである。しかし、重要な生化学文献に記載の様々なタンパク質や他の細胞成分におけるHOClに対して脆弱な複数の部位に関する十分な証拠が存在する。これによって合理的となることは、このような特定部位が現代の医療にて関心のある感染性病原体のタンパク性成分(例えば、耐性のある小さい非エンベロープウイルスのカプシド)で発現するか、又は感染性タンパク質それ自体の成分として発現する場合には、HOClがその特定部位と相互作用すべきであるという点である。
【0080】
HOClとHOBrは化学反応及び抗感染症因子反応において効力を示し、その効力はアルカリ性範囲のpH値で水溶液中に存在する、対応する次亜塩素酸塩と次亜臭素酸塩物質よりも2桁以上高くまで達することが知られている。次亜塩素酸塩溶液と次亜臭素酸塩溶液は、様々な病原体、例えば、細菌及び真菌胞子、非エンベロープウイルス粒子(その内の一部は不活性化が最も困難な微生物である)、原虫嚢胞、及び感染性タンパク質として機能するプリオンに対する除染に使用される。従って、濃縮した次亜塩素酸ナトリウム漂白剤中でプリオン汚染物品を長期間インキュベートすることは、この目的のための消毒手段として認められている。同様に、次亜臭素酸塩溶液は、ウシ伝染性海綿状脳症(BSE、狂牛病としても知られている)に関与するプリオンタンパク質に対して不活性化効力を有することが示されている。しかし、次亜塩素酸塩や次亜臭素酸塩の腐食性溶液に無生物の対象を長時間曝露すると損傷を引き起こすため、その実施が完全に許容できないものになるか、又は代替手段がない場合には最終手段としてのみ利用されることになる。同様に、このような溶液の腐食作用は利用者にとって危険であり、この不活性化エフェクターを医療機関や他の状況で日常的に使用する気がなくなる。
【0081】
一方、塩化ナトリウムの酸性化電解溶液は、様々な感染性粒子(例えば、細菌及び真菌胞子)に対して迅速且つ高レベルの不活性化能力を有することが示されている水性塩素種を含み、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の感染性プリオンタンパク質に対して明らかな活性が存在する。しかし、このようなプリオン除染処置に使用される極端なpH(2.6)では、塩酸(HCl)や一部の次亜塩素酸と共に、主要な酸化剤として水性元素状塩素が優位である。このような条件下での酸化剤効力の大部分は元素状塩素に起因し得ることが確認されている。従って、このような製剤の抗プリオン効力も推論によって水性塩素自体の機能である。塩酸製剤中に存在することに加えて、この製品の製造及び取り扱いに関する危険性(人員に対する危険性を含む)がある。
【0082】
プリオンに対する極端なアルカリ性溶液又は酸性溶液の有効性は、動物及びヒトにおける神経変性障害の数の増加の原因としてプリオンの重要性が浮上してきたため注目を集めている。プリオン病、即ち、伝染性海綿状脳症(TSE)は、致命的且つ強力な、多くの哺乳動物種における伝染性の神経変性疾患である。ヒトにおいては、プリオン病としては、孤発性、変異型及び遺伝型のクロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD、vCJD及びgCJD)、更には他の多くの障害が挙げられる。他種のプリオン病としては、古典的なウシ海綿状脳症(cBSE)、ヒツジ、ヤギ及び齧歯動物のスクレイピー、及びシカの慢性消耗性疾患が挙げられる。全ての哺乳動物プリオン病は、宿主の通常形態のプリオンタンパク質(例えば、PrP)からミスフォールドして凝集した感染且つ病理学的形態(例えば、PrPSc)への変換を伴う根本的な分子病理学を共有する。
【0083】
最近の認識では、立体構造が変化するタンパク質の病理学的形態は、伝染性プリオンに起因すると古典的に認識されている疾患(例えば、CJD、BSE、スクレイピー及びCWD)よりも広範囲の疾患と関連しているということである。従って、現在、立体構造が変化したタンパク質又はミスフォールドしたタンパク質に起因する可能性がある疾患の一覧には、アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症及び他の神経変性障害が含まれると共に、II型糖尿病、多発性全身性萎縮症、及び特定可能な異常に折り畳まれたタンパク質が原因となり得る他の病態が含まれる。
【0084】
このようなプリオンは全て、病原体特異的核酸ゲノムを欠いており、そして生化学的不活性化、化学的不活性化、物理的不活性化(例えば、熱、紫外光)又は放射線による不活性化に対して特に耐性があるという点で、他の種類の病原体と比較して珍しい。その結果、プリオンは、他種の病原体(例えば、グルタルアルデヒド、過酢酸、及び二酸化塩素又は気化過酸化水素等のガス状病原体)を不活性化するのに医療、食品産業及び農業で通常使用される条件下での完全な不活性化に抵抗する。実際、現在推奨されているのは、1~2Nの水酸化ナトリウム、20~40%の家庭用漂白剤(約12,000~24,000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム)、132℃の従来にない高温での長時間(最大60分間)のオートクレーブ、及び/又は焼却炉温度への長時間の曝露等の非常に過酷な化学処理を用い、プリオンで汚染されている可能性がある生体材料又は固体表面を除染することである。市販の消毒剤として開発されUSEPAに登録された抗プリオン試薬(Environ(商標)LpH(商標)、酸性フェノール系消毒剤)は広く使用するには実用的ではないことが証明され、米国市場から回収された。一般に、このような処理は全て利用者にとって危険であるだけでなく、プリオン除染を必要とされ得る器具、機器又は表面に適合しない又は適用されない可能性があるとも判断されている。全領域の耐性感染性病原体(伝染性タンパク質を含む)に対してより安全且つ広く適用可能である効果的な高度の除染方法への緊急の必要性がある。潜在的に汚染された道具、器具、組織及び環境表面で日常的に使用する効果的且つ実用的な不活性化方法の利用可能性は、医原性疾患伝播のリスクを著しく低下させるであろう。
【0085】
アルカリ液等の濃縮腐食性溶液又は濃縮家庭用漂白剤はゆっくりと作用して、タンパク質の形態を採る耐性病原体の感染力を低下させるに過ぎない。更に、感染症に関連する滅菌剤(例えば、過酢酸や安定化された過酸化水素やプラズマ等)だけでなく、既知のあらゆる形態の微生物生命を不活性化する薬剤として定義された伝統的に使用される滅菌剤の多くは、曝露を長時間行った後でも、プリオンの不活性化には無効である。従って、立体構造的に異常でミスフォールドしたプリオンは、ほぼ全方向からの積極的な化学攻撃に対して本質的に耐性があると一般に認められている。
【0086】
本明細書に開示の方法と組成物は、確立された地位からの重要且つ前例のない出発をもたらす。本発明の安定な非緩衝化HOCl製剤は、従来の消毒剤に耐性があるか又は長い接触時間後にのみ感受性となる様々な微生物や感染性病原体の懸濁液に対して迅速で強力な効力を示す。それを使用時にHOBrに変換することによって、高耐性の病原体に対する次亜ハロゲン酸溶液の効力を更に高めることができる(実施例3及び4参照)。
【0087】
HOClとHOBrは、次亜ハロゲン酸に曝露されるタンパク質の複数の異なるアミノ酸側鎖部分(例えば、チオール、アミン及び芳香族アミノ酸が挙げられ、これらは全て感染性プリオンタンパク質中に存在することが知られている)を共有結合的に修飾する。次亜ハロゲン酸は硫黄(S)含有アミノ酸に対して最も反応性が高く、S含有アミノ酸は、古典的な「スクレイピー」プリオンにおけるアミノ酸鎖間の単一分子内ジスルフィド結合を含むプリオンタンパク質中に存在する。タンパク質中のリジン及び他のアミノ酸残基は特に酸化されやすく、クロラミン及びブロマミンを生成する。例えば、チロシン側鎖はHOClによって塩素化されて3-Cl-Tyr及び3,5-Cl-Tyrを形成することがある。フェノキシラジカルが生成するため、チロシンのジ-Tyrへの二量化はHOCl曝露に起因する。二量化によって、フェノキシラジカルを有する分子内及び分子間でタンパク質架橋が生じる。このような変化によって、タンパク質の立体構造を変化させ、タンパク質が固有の生物学的機能を発現できないようにすることができる。これらは酵素活性からリガンド結合親和性、感染性タンパク質の場合にはテンプレートシーディング活性まで及ぶが、必ずしもタンパク質を変性させたり、その溶解性に影響を及ぼしたり、アミノ酸骨格を断片化することはない。感染性プリオンの立体構造及び播種能力に影響を及ぼす剤への感染性プリオンの曝露に起因する特定の変化は、環境中の無機塩のモル濃度によって影響を受ける。
【0088】
本発明は、今日の感染制御対策に課題をもたらす病原体を高度に除染/不活性化するのに適用可能な、便利で費用対効果の高い、完全に無害な方法と組成物を提供する。組成物を使用する場合、表面、装置、機器には損傷が生じず、熱、高圧、又は毒性又は腐食性の溶液や蒸気への長時間の曝露、又はその溶液や蒸気の浸漬を必要としない。本明細書に開示の純粋な次亜ハロゲン酸の好ましい水溶液は十分に安全且つ無毒であり、如何なる悪影響も及ぼさずに十分な強度でヒトの皮膚及び粘膜に適用することが可能である。
【0089】
ある実施形態では、本明細書に記載の組成物は特定の成分を「含む」。特定の成分を含む組成物は、他の不特定の成分を更に含み得ることが理解される。他の実施形態では、組成物は特定の成分「で本質的に構成され」ており、組成物の特性を大幅に変える不特定の成分を含まない。更なる実施形態では、組成物は特定の成分「で構成され」ており、如何なる不特定の成分も含まない。
【0090】
非緩衝化の電解調製した独自のHOCl及びHOBr溶液の実証可能な有用性を参照しながら本発明について説明したが、本発明の方法の精神と範囲を逸脱することなく特定の均等物に置換され得ることを当業者は理解すべきである。本発明の方法の目的、精神及び使用範囲を達成する上で、修正を加えて特定の消毒及び滅菌除染状況に適応させることができる。このような修正は全て本明細書に記載の本発明の範囲内に入るものとする。本発明は、外来の添加剤や他の水性ハロゲン種で汚染されていない非緩衝化の安定な次亜塩素酸又は次亜臭素酸溶液の使用を構成しており、その目的は、ヒトの皮膚又は粘膜に曝露しても完全に無害なこの溶液の水溶液、ゲル、又は微粒化液滴の蒸気を感染性病原体に曝露することによって全ての高耐性の微生物生命体や他の感染性病原体を非感染性とすることである。
【0091】
本明細書で使用される「約」という用語は、パラメータに対して指定された数値の±10%を意味する。
【0092】
以下の実施例は説明を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【0093】
実施例
材料及び方法
BrioHOCL(商標)はBriotech Inc.(ワシントン州ウッディンビル)によって提供された。簡潔に言えば、HOClを形成する反応生成物を招き寄せて安定化させる条件が陽極で得られるように塩化ナトリウム水溶液を強力に電解することによってHOClが生じる。最終製品は、倉庫環境温度(3.5℃~35℃)での包装及び保存時のpH範囲が3.8~4.5、ORPが+1100mv、塩(NaCl)濃度が0.85重量%又は1.8~2重量%、製造時の遊離塩素濃度が250~300mg/Lの溶液である。このHOCl溶液に対しては何ら調整を行っておらず、如何なる種類の緩衝剤、金属イオン、有機複素環式ハロゲン安定剤又はpH調整剤もどのレベルでも添加していない。純度と安定性を研究するための保存条件の詳細は以下の関連する実施例に記載されている。
【0094】
次亜臭素酸(HOBr)の調製は、1当量の水性臭化物イオン(NaBrとして)を1当量の非緩衝化電解生成HOClに曝露して行った。この溶液は高耐性微生物の不活性化試験での使用のために新たに調製した。
【0095】
活性塩素測定
33個の試料について手動ヨウ素滴定とデジタル滴定(各試料で6回反復)の結果を比較して検証した後、全塩素用Hach試薬キット(Hach Company、コロラド州ラブランド)を使用してBrioHOCL(商標)製剤の活性塩素(Cl)含有量を測定した。その後、デジタルHach装置を使用して(1試料当たり4回反復)、抗菌効力試験に使用した全ての試料中の活性Clを測定した。
【0096】
Briotech(ワシントン州ウッディンビル)で保管された市販の調製済製品サンプル(最古で34ヶ月)でも滴定可能な塩素(Cl)濃度を測定し、特にこの目的のために調製し、21℃でHDPEボトルに約100mLの分量で密閉して保存したBrioHOCL(商標)の連続採取ロットで滴定可能なClの傾向を確立した。これらの研究を通して使用した他の全てのBrioHOCL(商標)試料は製造工場での日常的な製造用電解を行って得た。各ロットからの製品は、非制御温度の倉庫環境(3.5℃~35℃)で様々な種類の容器(100ml~最大4Lのボトル、及び220Lの樽、全てHDPE)に保存した。小型容器をアルミニウムキャップで密封し、ドラムの蓋をしっかりと密封して空気(有害であることが知られている)への曝露を回避したが、本明細書で使用する材料については保存条件の最適化は試みなかった。
【0097】
pH、酸化還元電位(ORP、mv)及び導電率をHach多重パラメータ計(Model HQ40d)を使用して全ての試料について記録した。製造を対象としたORPはpH3.9で+1140mvであった。開始の活性Cl濃度は意図する用途に応じて電解中の製造ロットにおいて変動した。通常、これらの値は使用目的に応じて活性Clが175~350ppmの範囲であり、バックグラウンドNaCl濃度が0.85重量%又は1.8~最大2重量%のいずれかであった。
【0098】
紫外/可視分光光度法
試験溶液を1mLの石英キュベットに入れ、BioMate 3S 紫外可視分光光度計を使用してスペクトルを得た。ナノ純水を使用して機器をブランクとし、試験溶液は、室温で保存した製品を逐次採取するのに選択した時点での未希釈のBrioHOCL(商標)で構成した。吸光度を190~400nmで測定し、HOClのピーク吸光度を紫外領域の238nmで記録した。HOBrの試験溶液は260nmの紫外領域で吸光度ピークを示し、NaBrを添加して5分後には検出可能なHOClは存在しなかった。
【0099】
ラマン分光法
Renishaw InVia Raman顕微鏡を使用してスペクトルを得た。1mLの石英キュベット中で未希釈のBrioHOCL(商標)を使用し、785nmの励起波長によってスペクトルを観察した。各スキャンの取得時間は20秒で、取得100回分を蓄積した。脱イオン水ブランクを同じ方法でスキャンし、Igorソフトウェアを使用して試験試料データから差し引いた。この目的のために新たに調製したHOBr溶液の分光特性を調べる際にも同じ処置に従った。
【0100】
高度の消毒とバイオフィルム破壊の評価
Briotech次亜塩素酸溶液の高度消毒特性とバイオフィルム破壊特性の評価に用いる方法の詳細は、以下の関連する実施例セクションに記載する。
【0101】
実施例1~5
代表的な次亜ハロゲン製剤の特徴付け
以下に記載の実施例は、次亜ハロゲン酸溶液をその最も重要で新規且つ有用な特性に関して特徴付ける完全な説明を当業者に提供するためのものである。このような特性としては、製造時と保存後に汚染水性ハロゲン種又は外来の安定化物質が存在しないこと、種々の保存条件及び温度下での安定性、耐性感染性病原体の不活性化における有効性、及びヒトへ曝露する際の安全性が挙げられる。実施例は、本発明者らが本発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また本明細書に開示の方法の有用性を実証するために行われた全ての実験を示すものでもない。
【0102】
実施例1
代表的なHOCl溶液(BrioHOCL(商標))の純度と保存の影響
2年を超える期間に亘り、新たに調製した非緩衝化電解生成BrioHOCL(商標)の試料を約100mLのアリコートとして採取し、ラマン分光法で調べた。これらの試料は一貫してHOClのみに対応する波数728/cmへのシフトピークを示した(図1)(Nakagawara S,Goto T,Nara M,Ozawa Y,Hotta K,Arata Y(1998).Spectroscopic characterization and the pH dependence of bactericidal activity of the aqueous chlorine solution.Analytical Sciences,14(4):691-8)。室温で14ヶ月間保存した試料では、同様のプロファイルがラマン分光法で示された。
【0103】
これらの結果は製剤がHOClのみを含んでいたことを示す。Cl、ClO、OCl又はOCl等の他の塩素種に起因し得るピークは示されなかった。他の水性塩素種は、640と870の間で強度単位が>0.3のピークとして分光法の条件下で明らかになったであろう。代表的なHOCl製剤(Briotech製)の分光光度分析では、新たな製剤又は長期保存後に採取した製剤のいずれにおいても次亜塩素酸塩又は塩素酸塩の存在の証拠が示されなかった。これらの溶液には、如何なる性質の添加剤(例えば、緩衝物質又は安定化物質)も含まれていなかった。
【0104】
実施例2
代表的なHOCl溶液の安定性と保存の影響
最初の実験の目的は、従来の製剤を劣化させることが予想される高温に曝露したHOCl試料の測定可能な変化を確認することであった。3~9ヶ月前に調製し、非制御温度で倉庫保存したBrioHOCL(商標)(非緩衝化)のロット由来の6種の試料を約80℃のインキュベーター温度に24時間曝露した。各試料のORP電位(mv)は加熱前後でそれぞれ以下の通りであった。試料1:1029mv及び1020mv、試料2:1044mv及び1030mv、試料3:1060mv及び1040mv、試料4:1057mv及び1030mv、試料5:1040mv及び1040mv、試料6:1030mv及び1020mv。これらの加熱試料の遊離塩素含有量は平均で18.5%減少しただけであった。この結果から、電解生成した非緩衝化HOClが、従来の次亜ハロゲン酸溶液では急速な劣化をもたらすことが予想される高温に対して予想外の耐性を示すことが分かった。
【0105】
実施例3
代表的なHOCl溶液の安定性と保存の影響
次に、BrioHOCL(商標)の更なるアリコート(各々約100mL)を調製し、ガラス又はHDPE容器に密封して室温、52℃又は70℃で保存した。後者を水槽に浸漬し、水温をそれに応じて調整した。分析用に取り出したアリコートは試験後に廃棄し、更なる研究用の保存状態には戻さなかった。ラマン分光法、ヨウ素Cl滴定、紫外可視分光光度法及びORP測定を用いて、NaClと水のみから調製したこれらの電解生成した純粋な非緩衝化HOCl(pH4)の試料を連続的に特徴付けた。ガラス容器にて52℃で38日間保持したHOCl溶液中の酸化性Cl濃度(ppm)、ORP(+mv)又はpHに検出可能な変化はなかった。ガラス容器にて70℃で28日間保持した後、酸化性Cl(ppm)は190ppmから151ppmに低下したが、ORPは一定のままであり、pHは4.3に上昇した。比較すると、52℃のHDPEでは、活性塩素は38日間で53ppm低下し、pHは5.3に上昇したが、ORPは一定のままであった。分光分析又は分光光度分析では、どの保存試料中にもHOCl以外の酸化性水性Cl種は検出されなかった。
【0106】
図2は、室温(RT)又は70℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料中の酸化性塩素濃度(ppm)を比較するものである。
【0107】
図3A及び図3Bは、室温(RT)又は70℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料におけるpH(3A)及びORP(3B)の連続測定値を比較するものである。
【0108】
図4及び5に示す安定性の確認に使用される高温保存条件での反復分析から得たデータによって、52℃での半減期が460日、70℃での半減期が51日と計算することができる。この結果は、各々の場合で5年を超えるRTでの等価半減期に相当する(Nicoletti et al.(2009),Brazilian Dental Journal,20,No.1)。
【0109】
図4は、52℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料(52個)中のCl(ppm、Logn)の連続測定値を比較するものである。
【0110】
図5は、70℃で保存された本発明の方法に有用な代表的なHOCl製剤(BrioHOCL(商標))のアリコート試料(70個)中のCl(ppm、Logn)の連続測定値を比較するものである。
【0111】
実際の安定性により、十分な酸化性ハロゲンと十分に高いORPを保持且つ示すことができる溶液を確実に利用することができ、環境中又は他の対象となる適用部位(例えば、器具、組織試料又は移植片)の感染性病原汚染物質に対して使用する際に予想通りの抗菌効果を発揮することができる。
【0112】
製造時に約300ppmのClが含まれていたロットから保管された製造試料の場合、55ガロンのHDPE樽にて非制御温度でほぼ4年間に亘って倉庫保存した結果、58ppmまで低下した。しかし、ORP値はずっと高いままであった。2年余り保存しても変化しないものもあり、10%を超えて低下したものは殆どなかった。小型容器(約100mL)に密封せずに保存した試料では、Cl(ppm)が急激な低下を示し、6ヶ月でCl含有量の約90%が失われた。
【0113】
これらの知見から、長寿命で安定な非緩衝化の汚染されていないHOClが代表的なHOCl溶液に存在することが分かる。最適に保存且つ密封されたこれらの溶液では、高温でも長期保存による検出可能な変化を最小限に抑えることができ、塩素酸塩又は次亜塩素酸塩への劣化は生じない。
【0114】
実施例4
代表的なHOCl溶液の有効性
以下、様々な感染性病原体(例えば、真菌及び細菌胞子、感染性タンパク質)に対する有効性試験において、他の水性ハロゲン種で汚染されていない本発明の方法に有用な代表的なHOCl溶液(即ち、安定な非緩衝化HOCl溶液、BrioHOCL(商標))の有効性について記載する。
【0115】
表1は、他の水性ハロゲン種を含まない本発明の方法に有用な代表的なHOCl溶液(BrioHOCL(商標))の様々な感染性病原体に対する有効性試験のまとめを示す。ある状況下では、バックグラウンド無機塩のモル濃度がタンパク質性酸化標的の立体構造の重要な決定要因となり得ることが知られている。従って、このような安定な製剤の一部におけるNaClのモル濃度は、特定の試験病原体に対する消毒プロセスの速度と効力に寄与する場合がある。
【0116】
【表1】
【0117】
表1における有効性を確認するための懸濁試験プロトコルでは、修正ASTM E2315時間/殺傷試験を用いた。既知濃度の培養生物の懸濁液を、所定量のHOCl試験剤と所定の接触時間で直接混合した。その接触時間の終了時に、過剰の中和剤を添加して試験溶液の活性を停止させた。生物体に応じて室温又は37℃いずれかでインキュベートした後にコロニー形成単位のプレートカウントを行い、段階希釈によって標的微生物の不活性化の程度を求めた。
【0118】
感染性タンパク質に対するBrioHOCL(商標)の有効性の測定の全詳細については、Hughson,A.G.,Race,B.,Kraus,A.,Sangare,L.R.,Robins,L.,Contreras,L.,Groverman,B.R.,Terry,D.,Williams,J.,及びCaughey,B.(2016),Inactivation of Prions and Amyloid Seeds with Hypochlorous Acid.PLoS Pathogens,12(9),e1005914.http://doi.org/10.1371/journal.ppat.1005914に記載されており、この全内容は参照によって明確に本明細書に組み込まれる。簡潔に言えば、リアルタイム振動誘導変換(RT-QuIC)アッセイを用いて、BrioHOCL(商標)への浸漬が、ヒトクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)プリオン、ウシ海綿状脳症(BSE)プリオン、シカ慢性消耗性疾患(CWD)プリオン、及びヒツジスクレイピー及びハムスタースクレイピープリオンに関する検出可能なプリオンシーディング活性を全て排除し、5分~60分の曝露で>10~10倍の低下を引き起こすことを実証した。遺伝子導入マウスバイオアッセイによって、脳ホモジネート内又は鋼線上の検出可能なハムスター適合ヒツジスクレイピー感染性が全て排除されたことが示された。これらの結果は、それぞれ約10倍及び10倍の感染力の低下を示す。RT-QuIC活性の不活性化は、HOCl溶液中の遊離塩素濃度、及び通常プリオンタンパク質を含むタンパク質の高次の凝集及び/又は破壊と相関していた。約2%のNaClを含むこの非緩衝化BriotechHOCl製剤は、哺乳動物細胞と等張である溶液(即ち、約0.85%NaCl)よりも優れた有効性を示した。他の水性ハロゲン種の存在で汚染されていないこのような非緩衝化HOCl溶液は、ヒトαシヌクレイン及びヒトτタンパク質の断片から成る自己複製アミロイドタンパク質に対しても同様の効果を示した。
【0119】
これらの研究で実証された非緩衝化HOCl溶液の特性は明らかに新規であり、従来の水性ハロゲン製剤の一般に確認された消毒能力より優れており、更に今日の商業の流れに依存している特定の化学製剤に伴う滅菌効力より優れている。この結果は全体として、製剤を全ての形態の微生物の生命を排除する滅菌剤として特徴付けるために米国及び国際的な規制機関が使用する一般に認められた基準を満たすだけでなく、全ての感染性病原体の中で最も耐性のある、ヒト及び動物の神経変性疾患に関連するプリオンタンパク質を不活性化できることを実証するものである。
【0120】
実施例5
代表的なHOCl溶液の抗菌特性
以下、本発明の方法において有用な代表的なHOCl溶液(即ち、安定な非緩衝化HOCl溶液、BrioHOCL(商標))を長期保存した後のこの溶液の耐性病原体に対する抗菌特性について記載する。
【0121】
製造時から3~34ヶ月と保存期間の異なるBrioHOCL(商標)の試験試料は、枯草菌胞子を含む様々な標的微生物を不活性化するのに高度の有効性を示した(表2)。15~20秒という短時間の曝露は全体的に4~7の範囲のLRVをもたらすにはほぼ十分であり、効力は著しく低下したが、試験した最も古い材料では重大ではなかった。アスペルギルス胞子は最も感受性が低いことが証明されたが、最も新しい保存期間3ヶ月のBrioHOCL(商標)の試料を用いると60秒の曝露によってLRVが>6となった。製剤のpHは保存中で経時的に上昇する傾向にあり、製造開始目標レベルの3.9から、55ガロンのHDPE樽での2年間の保存によって約5まで上昇した(6個の試料の平均)。
【0122】
【表2】
【0123】
この結果から、他の汚染水性ハロゲン種又は他の外来の添加剤を含まない保存BrioHOCL(商標)溶液は、消毒抵抗性の細菌及び真菌胞子の不活性化剤として強力に活性のままであることが分かった。ほぼ3年間保存した後でも、数十秒の接触時間で高度の不活性化が得られた。このような微生物不活性化のレベルは溶液の滅菌剤としての特徴付けの基準を満たし、その結果、最も耐性のある微生物の生命体である嫌気性細菌の胞子も生存することができない。
【0124】
実施例6
バイオフィルム微生物集団に対する代表的なHOCl溶液の有効性
以下、定着したバイオフィルム微生物集団に対する、本発明の方法に有用な代表的なHOCl溶液(即ち、安定な非緩衝化HOCl溶液、BrioHOCL(商標))の有効性について記載する。
【0125】
これらの実験を行って、静的注入又は流動条件下のいずれかでBrioHOCL(商標)に曝露後、小口径ポリウレタンチューブ内に定着した微生物バイオフィルム集団の除去を測定した。溶液は電解で調製し、溶液にはHOCl以外の外来の添加剤又は検出可能な水性ハロゲン種は含まれていなかった。このような接着性集団は、従来の抗菌消毒剤及び抗生物質製剤に対して強い耐性があることが知られている。第1の実験では、様々な接触時間に亘って曝露は静的であった(即ち、広範な接着性バイオフィルム集団を発生させたチューブの内腔にBrioHOCL(商標)溶液を注入した)。第2の実験では、溶液を約1mL/秒で接着性バイオフィルム上に流した。このような曝露を行った後、残留集団をポリウレタンチューブ内壁の単位表面積当たりのコロニー形成単位として定量した。従属栄養細菌をR2A培地にて室温で優先的に培養した。
【0126】
【表3】
【0127】
表3に示す結果は、5分間でほぼ完全にバイオフィルムが除去されたことを実証している。
【0128】
【表4】
【0129】
表4に示す結果は、1分間流した後にほぼ完全にバイオフィルムが除去されたことを実証している。
【0130】
上述の結果は、耐性接着性の従属栄養細菌集団を迅速且つ非常に効果的に除去できること、更には遊離した微生物集団に対する顕著な消毒効果を示す。
【0131】
実施例7
代表的なHOBr溶液の調製と耐性微生物の不活性化における有効性
以下、本発明の方法に有用な代表的なHOBr溶液(即ち、安定な非緩衝化HOBr溶液)の調製と耐性微生物の不活性化におけるその有効性について記載する。
【0132】
代表的なHOCl溶液から代表的なHOBr溶液への変換は迅速に行われ、数十秒で出発HOCl溶液(BrioHOCL(商標))中ではHOClが分光学的に検出されなくなり、新たなHOBrピークが得られた。アルカリでpHを上方に調整することにより、HOBrは即座にOBrイオンに変換されるが、このイオンは水溶液中330nmで紫外領域に特徴的なピークを示す。
【0133】
図6は、上述のように調製し、水酸化ナトリウムでpH9に調整した代表的なHOBr溶液の紫外/可視吸収スペクトルである。
【0134】
図7は、上述のように調製した代表的なHOBr溶液のラマンスペクトルであり、615cm-1で特徴的な波形ピークを示す。これらの製剤のラマンスペクトルでは、HOClに対応するピークは存在せず、HOBrに起因する新たなピークが波数615cm-1に出現した。室温で保存するとこのピークは低下し、半減期は約18日であった。
【0135】
図8は、上述のように調製した代表的なHOBr溶液をガラス容器中に室温で保存した後の時間に対する滴定臭素(Br)(ppm)を示す。
【0136】
HOBrの比較的短い貯蔵寿命は、同様の状況下でのHOClの長期安定性とは著しく対照的である。しかし、このようにして調製した非緩衝化HOBr溶液は、従来調製されているHOBr(通常、様々な種類の活性Clを含む塩素水溶液に臭化物塩を添加して調製するHOBr)について文献に示されるよりも遥かに高い安定性を示した。このような種類のHOBr製剤は、本明細書に記載の実験で示される数週間の有効寿命と比較して、数分~数時間で測定される活性HOBrの減衰を示す。紫外分光法で検出可能なHOClを含まないHOBrの試験試料は、枯草菌胞子の不活性化において高度の有効性を示した。約25ppmのHOBrへの20秒という短時間の曝露は6というLRVを得るのに十分であった。同じ実験プロトコルでは、同じ接触時間で6というLRVを得るのに230ppmのHOClが必要であった。使用したHOCl濃度が230ppm未満になるとすぐに、LRVは2~4の範囲に入った。25ppmのHOClでは、20秒間の接触でバチルス胞子に対する検出可能な効果はなかった。HOBrによる感染性タンパク質の不活性化は、RTQuICプロトコルを用いた試験でHOClによって得られたレベルと同等のレベルに達した。
【0137】
これらの知見によって示されるのは、こうして形成されたHOBr溶液が、環境pHがHOClの存在には好ましくない(例えば、pH8)が、HOBrの全効力がその高いpKaのために利用可能と予想され得る状況下で、実際に有用となり得る耐性生物に対して強力な抗菌活性をもたらし得ることである。このような試験系における活性は、滅菌剤としてのHOBr溶液の特徴付けを可能にし、全ての形態の微生物を不活性化することができ、更には感染性プリオンタンパク質の不活性化をもたらす。
【0138】
実施例8
代表的なHOCl溶液のミストの抗菌特性
以下、本発明の方法に有用な代表的なHOCl溶液(即ち、安定な非緩衝化HOCl溶液、BrioHOCL(商標))のミストの抗菌特性について記載する。
【0139】
食品加工用施設の使用に関連した相当のシュードモナス微生物汚染堆積物とその他の環境汚染物質を有することが知られている密閉施設の80,000立方フィートの空間に20LのBrioHOCL(商標)をMF-1-001Aミストファン工業用遠心噴霧器によって散布した。ミストの散布は約350,000立方フィート/時の速度で行った。操作者は散布中も噴霧空間内に留まったが、悪影響を受けなかった。噴霧前に密閉空間の各隅にCl感受性試験片を配置して施設全体で活性Clを検出し、噴霧プロセスの終了時には全てが200ppmClのレベルでの変換を示した。壁及びダクト表面での追跡スワブ細菌培養により、微生物汚染物質に対して高い不活性化率をもたらすのに十分なHOClがHOCl溶液のミスト分散法によって効果的に分布されることが実証された。更にこの結果から、噴霧HOCl溶液(BrioHOCL(商標))が消毒除染をもたらすのに十分な活性Clを分散させるだけでなく、操作者が処置の間に活性ミストに完全に曝露されたままであっても、活性Clの分散が操作者の安全に対応するように行われることが分かる。
【0140】
実施例9
代表的なHOCl溶液とHOBr溶液の安全性
以下、本発明の方法に有用な代表的なHOCl溶液とHOBr溶液(即ち、非緩衝化HOCl溶液、BrioHOCL(商標)と非緩衝化HOBr溶液、BrioHOBR(商標))の安全性について記載する。
【0141】
BrioHOCL(商標)とBrioHOBR(商標)をヒトの皮膚と粘膜に塗布した。
【0142】
本明細書に記載の抗菌研究で使用されたロットに相当するロット由来のBrioHOCL(商標)を12ヶ月間に亘り、50人の健康な皮膚又は粘膜、又は様々な皮膚及び/又は粘膜病変に対して噴霧塗布した。使用パターンは完全にレシピエントの裁量で選択された。いずれの塗布(一部では、数日~数週間に亘って1日に複数回使用した)からも如何なる種類の有害反応の報告もなかった。感染プロセスに起因するものを含む多くの病態は、BrioHOCL(商標)への経皮曝露によって改善又は消失することが報告されている。この結果から、ヒトの皮膚と粘膜上皮に繰り返し曝露することは完全に安全であり、特定の病態を解消するのに有益に寄与し得ることが分かる。
【0143】
200ppmのClを含むHOCl溶液に当量のNaBrを添加して新たなHOBr溶液を調製した。この溶液もヒトの皮膚と粘膜に塗布したが、その上皮表面に対する悪影響は何ら示されなかった。
【0144】
例示的な実施形態について記載及び説明してきたが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができることは理解されよう。
【0145】
独占的な権利又は特権を主張する本発明の実施形態は以下のように定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-02-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無生物の対象上の感染性因子を不活性化するための方法であって、前記感染性因子は感染性タンパク質であり、
前記感染性タンパク質を、電解次亜ハロゲン酸組成物と接触させる工程であって、前記感染性タンパク質はプリオンタンパク質であり、前記電解次亜ハロゲン酸組成物は、ラマン分光法によって測定した際、次亜塩素酸又は前記次亜塩素酸以外の他の水性酸化性塩素の検出可能量を含まない、工程
を包含し、
前記無生物の対象には、医療器具、外科用器具、実験室表面、及びインプラント装置が含まれ、かつ
前記電解次亜ハロゲン酸組成物は、約4.0乃至約4.3の範囲のpHを有する水性次亜塩素酸組成物である
方法。
【請求項2】
前記感染性タンパク質は感染性の自己複製タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プリオンタンパク質は、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症、慢性消耗性疾患、スクレイピー、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症の病原体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電解次亜ハロゲン酸組成物は、溶液、微粒子化した液滴のスプレー、霧、ミスト、若しくはエアロゾル、ゲル、又は粘性の液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記次亜ハロゲン酸組成物は、約80~約300mg/Lの次亜塩素酸濃度を有する水性次亜塩素酸組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電解次亜ハロゲン酸組成物は、約+1138ミリボルトの酸化還元電位(ORP)を有する水性次亜塩素酸組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電解次亜ハロゲン酸組成物は、前記電解次亜ハロゲン酸組成物の総量に対して約0.85~約2.0重量%の塩化物塩を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩化物塩が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び塩化アンモニウムから選択される水性塩化物塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
無生物の対象上の感染性因子を不活性化するための電解した、次亜ハロゲン酸組成物であって、前記感染性因子は感染性タンパク質であり、前記次亜ハロゲン酸組成物は、
80~300mg/Lの濃度、及びpH4.0~4.3の範囲内の酸性度を有する水性次亜塩素酸組成物、
を含有し、
前記水性次亜塩素酸組成物は、ラマン分光法によって測定した際、次亜塩素酸又は前記次亜塩素酸以外の他の水性酸化性塩素の検出可能量を含まず、かつ前記感染性タンパク質はプリオンタンパク質であり、
前記無生物の対象には、医療器具、外科用器具、実験室表面、及びインプラント装置が含まれる、
次亜ハロゲン酸組成物。
【請求項10】
前記プリオンタンパク質は、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症、慢性消耗性疾患、スクレイピー、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症の病原体である
請求項9に記載の次亜ハロゲン酸組成物。
【請求項11】
前記次亜ハロゲン酸組成物は、溶液、微粒子化した液滴のスプレー、霧、ミスト、若しくはエアロゾル、ゲル、又は粘性の液体である、請求項9に記載の次亜ハロゲン酸組成物。
【請求項12】
前記次亜ハロゲン酸組成物は、約+1138ミリボルトの酸化還元電位(ORP)を有する水性次亜塩素酸組成物である、請求項9に記載の次亜ハロゲン酸組成物。
【請求項13】
前記次亜ハロゲン酸組成物は、前記次亜ハロゲン酸組成物の総量に対して約0.85~約2.0重量%の塩化物塩を含有する、請求項9に記載の次亜ハロゲン酸組成物。
【請求項14】
前記塩化物塩が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び塩化アンモニウムから選択される水性塩化物塩である、請求項13に記載の次亜ハロゲン酸組成物。