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特開2023-52465常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052465
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230404BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20230404BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/12
C21D9/46 J
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005694
(22)【出願日】2023-01-18
(62)【分割の表示】P 2020534945の分割
【原出願日】2018-11-23
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178923
(32)【優先日】2017-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ-ウン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-ホ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含み、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、特定の関係式を満足し、上記素地鋼板の1/4*t地点における断面で測定した組織はフェライト単相組織であり、上記フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合は、上記素地鋼板の断面に対する面積比率で76.1%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板、及び前記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含み、
前記素地鋼板は、
重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物からなり、
記関係式2のRが1.28以上であり、
前記素地鋼板の1/4*t地点(但し、tは試験片の厚さを意味する)における断面で測定した組織は、フェライト単相組織であり、
前記フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合は、前記素地鋼板の断面に対する面積比率で76.1%以上である、常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
前記関係式2のR(BH)は、前記亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、前記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、前記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味し、
前記関係式2のR(AI)は、前記亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、前記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、前記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味する。
【請求項2】
前記素地鋼板は冷延鋼板である、請求項1に記載の常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
100℃で60分間熱処理した後、圧延方向に対する直角方向に沿って引張試験を行い 、降伏点における伸び率(YP-EL)で測定した前記めっき鋼板の時効指数(AI)は0.2%以下である、請求項1又は2に記載の常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき鋼板の降伏強度は210MPa以上であり、前記めっき鋼板の伸び率は35%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関し、詳細には、常温耐時効性及び焼付硬化性に優れ、自動車外板用として特に適した亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の外板用素材には、一定レベルの焼付硬化性及び耐時効性が要求される。焼付硬化現象とは、鋼板の加工中に形成された転位に、塗装焼付時に活性化した固溶炭素及び窒素が固着されて鋼板の降伏強度が増加する現象を意味する。焼付硬化性に優れた鋼は、塗装焼付前の鋼板の成形が容易であり、最終製品では耐デント性を向上させる特性を有するため、自動車の外板用素材として非常に理想的な特性を有する。但し、鋼板の焼付硬化性が増加する場合には、逆に鋼板の耐時効特性が低下する傾向を示すため、鋼板の焼付硬化性を確保しても、一定の時間が経過するにつれて時効が発生し、それに応じて、部品加工時に表面欠陥などが発生する可能性が高くなりうる。したがって、自動車の外板用素材として適正レベル以上の焼付硬化性を確保するとともに、適正レベル以上の耐時効特性が確保された素材の開発が要求されるのが実情である。
【0003】
特許文献1では、成形性及び焼付硬化性に優れた鋼材の製造方法を提案したが、熱延析出物の制御及び焼鈍温度などの操業条件の最適化が不十分であるため平面異方性(△r)指数が過度に高く、それに応じて、自動車の外板成形時にハンドル部分にシワ欠陥が頻繁に発生するという問題点が存在する。
【0004】
特許文献2では、主相のフェライト、2相の残留オーステナイト、及び低温変態相であるベイナイト及びマルテンサイトを含む複合組織として備えられ、延性及び伸びフランジ性が改善された鋼板を提案する。但し、特許文献2には、残留オーステナイト相を確保するために多量のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)を添加するため、製鋼及び連続鋳造時に鋼板の表面品質の確保が難しく、めっき品質も確保することが難しくなるという問題が存在する。また、変態誘起塑性によって初期YS値が上昇するため、降伏比が高いという欠点が存在する。
【0005】
特許文献3では、軟質フェライト及び硬質マルテンサイトを微細組織として含み、伸び率及びr値(異方性係数)が改善された加工性が良好な高張力溶融亜鉛めっき鋼板を提案する。しかし、特許文献3には、多量のシリコン(Si)を添加することにより、優れためっき品質を確保することが難しいだけでなく、多量のチタン(Ti)及びモリブデン(Mo)の添加によって製造原価が上昇しすぎるという問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2000-0038789号公報(2000.07.05.公開)
【特許文献2】特開2004-292891号公報(2004.10.21.公開)
【特許文献3】韓国公開特許第10-2002-0073564号公報(2002.09.27.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。当業者であれば、本明細書の全体的な内容から、本発明の追加的な課題を理解することは難しいことではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含み、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1のCが0.0002~0.002%の範囲を満たすことができる。
[関係式1]
=[C]-(12/93)*[Nb]
上記関係式1の[C]及び[Nb]はそれぞれ、上記素地鋼板のC及びNbの含有量(wt%)を意味する。
【0010】
上記素地鋼板は冷延鋼板であることができる。
【0011】
上記素地鋼板の微細組織はフェライト単相組織であり、上記フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合は、上記素地鋼板の断面に対する面積比率で70%以上であることができる。
【0012】
上記めっき鋼板の下部焼付硬化(L-BH)の値は30MPa以上であり、上記めっき鋼板の時効指数(AI)は0.2%以下であることができる。
【0013】
上記めっき鋼板の降伏強度は210MPa以上であり、上記めっき鋼板の伸び率は35%以上であることができる。
【0014】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含み、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式2のRが1.2以上であることができる。
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
上記関係式2のR(BH)は、上記亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味し、上記関係式2のR(AI)は、上記亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味する。
【0015】
上記素地鋼板は冷延鋼板であることができる。
【0016】
上記素地鋼板の微細組織はフェライト単相組織であり、上記フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合は、上記素地鋼板の断面に対する面積比率で70%以上であることができる。
【0017】
上記めっき鋼板の下部焼付硬化(L-BH)の値は30MPa以上であり、上記めっき鋼板の時効指数(AI)は0.2%以下であることができる。
【0018】
上記めっき鋼板の降伏強度は210MPa以上であり、上記めっき鋼板の伸び率は35%以上であることができる。
【0019】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含み、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含み、下記関係式1のCが0.0002~0.002%の範囲を満たし、下記関係式2のRが1.2以上であることができる。
[関係式1]
=[C]-(12/93)*[Nb]
上記関係式1の[C]及び[Nb]はそれぞれ、上記素地鋼板のC及びNbの含有量(wt%)を意味する。
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
上記関係式2のR(BH)は、上記亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味し、上記関係式2のR(AI)は、上記亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味する。
【0020】
上記素地鋼板は冷延鋼板であってもよい。
【0021】
上記素地鋼板の微細組織はフェライト単相組織であり、上記フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合は、上記素地鋼板の断面に対する面積比率で70%以上であってもよい。
【0022】
上記めっき鋼板の下部焼付硬化(L-BH)の値は30MPa以上であり、上記めっき鋼板の時効指数(AI)は0.2%以下であってもよい。
【0023】
上記めっき鋼板の降伏強度は210MPa以上であり、上記めっき鋼板の伸び率は35%以上であってもよい。
【0024】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含むスラブを1160~1250℃の温度範囲で再加熱し、上記再加熱されたスラブを850~1150℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を提供し、上記熱延鋼板を10~70℃/sの平均冷却速度で冷却して500~750℃の温度範囲で巻取り、上記巻取られた熱延鋼板を70~90%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を提供し、上記冷延鋼板を水素濃度3~30%の炉内雰囲気下において750~860℃の温度範囲で加熱して連続焼鈍し、上記連続焼鈍された冷延鋼板を冷却し、上記冷延鋼板を素地鋼板として提供して亜鉛系溶融めっき浴に浸漬することにより製造することができる。
【0025】
この際、上記冷間圧延は、複数の圧延ロールによって順に圧下されて行われ、上記圧延ロールのうち最初の圧延ロールの圧下率は20~40%であり、上記素地鋼板は、下記関係式1のCが0.0002~0.002%の範囲を満たし、下記関係式2のRが1.2以上であることができる。
[関係式1]
=[C]-(12/93)*[Nb]
上記関係式1の[C]及び[Nb]はそれぞれ、上記素地鋼板のC及びNbの含有量(wt%)を意味する。
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
上記関係式2のR(BH)は、上記亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味し、上記関係式2のR(AI)は、上記亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味する。
【0026】
上記焼鈍された冷延鋼板は、2~10℃/sの平均冷却速度で630~670℃まで1次冷却され、上記1次冷却された冷延鋼板は、3~20℃/sの平均冷却速度で440~480℃まで2次冷却されてもよい。
【0027】
上記冷延鋼板は440~480℃の亜鉛系溶融めっき浴に浸漬されてもよい。
【0028】
上記亜鉛系めっき鋼板は0.3~1.6%の圧下率で調質圧延されてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一側面によると、降伏強度が210MPa以上であり、常温耐時効性を評価する時効指数(AI、Aging Index)が0.2以下であり、焼付硬化性を評価する下部焼付硬化(L-BH、Lower-Bake Hardening)の値が30MPa以上であることから、常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関する。以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されると解釈されてはいけない。本実施例は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0031】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、素地鋼板、及び上記素地鋼板の表面に形成された亜鉛系めっき層を含む。
【0032】
上記素地鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含む。
【0033】
本発明の素地鋼板は冷延鋼板であってもよいが、本発明の素地鋼板が必ずしも冷延鋼板に限定されるものと解釈されてはいけない。また、本発明の亜鉛系めっき層は、溶融亜鉛系めっき層及び溶融亜鉛系合金めっき層を含んでもよいが、本発明の亜鉛系めっき層が必ずしも亜鉛系めっき層及び溶融亜鉛系合金めっき層に限定されるものと解釈されてはいけない。
【0034】
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に異なって示さない限り、各元素の含有量を示す%は重量を基準にする。
【0035】
炭素(C):0.005%以下(0%を除く)
炭素(C)は、侵入型固溶元素であって、鋼材内に固溶された炭素(C)が調質圧延によって形成された転位と相互作用(Locking)して焼付硬化能を発揮するため、炭素(C)の含有量が高いほど焼付硬化能は向上する。本発明は、かかる効果を達成するために、炭素(C)を必須的に添加するため、炭素(C)の含有量の下限から0%を除外することができる。しかし、過量の固溶炭素(C)が鋼材内に存在する場合には、部品成形時にオレンジピール(Orange Peel)という表面欠陥を引き起こし、それに応じて、時効不良をもたらす可能性があるため、本発明は、炭素(C)の含有量の上限を0.005%に制限することができる。本発明において、炭素(C)の含有量の下限は特に限定しないが、製鋼工程上不可避的に含まれる範囲を考慮して、好ましい炭素(C)の含有量の下限を0.001%に制限することができる。
【0036】
マンガン(Mn):0.1~1.0%
マンガン(Mn)は、固溶強化元素であって、鋼材の強度上昇に寄与するだけでなく、鋼材内の硫黄(S)をMnSとして析出させる役割を果たす。本発明は、MnSの析出による絞り性向上の効果を達成するために、マンガン(Mn)の含有量の下限を0.1%に制限することができる。但し、マンガン(Mn)が過多に添加される場合には、降伏強度が増加することとは別に、過度なマンガン(Mn)の固溶によって絞り性が低下する可能性があることから、本発明は、マンガン(Mn)の含有量の上限を1.0%に制限することができる。したがって、本発明のマンガン(Mn)の含有量は、0.1~1.0%の範囲であることができ、より好ましいマンガン(Mn)の含有量は、0.2~0.9%の範囲であることができる。
【0037】
シリコン(Si):0.3%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は、固溶強化により鋼材の強度上昇に寄与する元素である。但し、本発明におけるシリコン(Si)は、強度確保のために意図的に添加する元素に該当しない。これは、本発明においてシリコン(Si)を添加しなくても、目標とする物性の確保の面において大きな支障がないためである。但し、製鋼工程上、不可避的に含まれる範囲を考慮して、本発明のシリコン(Si)の含有量から0%は除外されることができる。一方、シリコン(Si)が過多に添加される場合には、めっき表面の特性が低下するという問題が発生するため、本発明は、シリコン(Si)の含有量の下限を0.3%に制限することができ、より好ましいシリコン(Si)の含有量の下限は0.2%であることができる。
【0038】
リン(P):0.01~0.08%
リン(P)は、固溶効果に優れ、絞り性を大きく阻害することなく鋼の強度を確保するのに最も効果的な元素である。特に、リン(P)は、結晶粒界に容易に偏析され、焼鈍時の結晶粒成長を阻害して結晶粒微細化に寄与する。それに応じて、常温耐時効性の向上に役立つことができる元素でもある。本発明は、かかる強度及び常温耐時効性の向上効果を達成するために、リン(P)の含有量の下限を0.01%に制限することができる。これに対し、リン(P)が過多に添加される場合には、過量の固溶Pが粒界に偏析されて、本発明で要求されるB及びCの粒界偏析の機会を失う可能性が存在する。それに応じて、本発明が目的とする常温耐時効性を確保できない可能性が存在する。また、リン(P)が過多に添加される場合には、リン(P)の粒界偏析が増加するにつれて2次加工脆性の問題が発生する可能性があることから、本発明は、リン(P)の含有量の上限を0.08%に制限することができる。したがって、本発明のリン(P)の含有量は、0.01~0.08%の範囲であることができ、より好ましいリン(P)の含有量は、0.015~0.075%の範囲であることができる。
【0039】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、製鋼工程上、不可避的に含まれる不純物であって、可能な限りその含有量を低く管理することが好ましい。特に、鋼中の硫黄(S)は、赤熱脆性が発生する可能性を高める元素であるため、本発明は、硫黄(S)の含有量の上限を0.01%に制限することができる。より好ましい硫黄(S)の含有量の上限は0.008%であることができる。
【0040】
窒素(N):0.01%以下
窒素(N)も製鋼工程上、不可避的に含まれる不純物であって、可能な限りその含有量を低く管理することが好ましい。但し、窒素(N)の含有量を低レベルに管理するためには精錬コストが上昇しすぎることから、本発明は、窒素(N)の含有量の上限を操業可能範囲である0.01%に制限することができ、より好ましい窒素(N)の含有量の上限は0.008%であることができる。
【0041】
可溶性アルミニウム(sol.Al):0.01~0.06%
可溶性アルミニウム(sol.Al)は粒度微細化及び脱酸のために添加される元素であり、本発明は、アルミニウムキルド(Al-killed)鋼を製造するために可溶性アルミニウム(sol.Al)の下限を0.01%に制限することができる。但し、可溶性アルミニウム(sol.Al)が過多に添加される場合には、結晶粒微細化の効果により、鋼材の強度上昇には有利であるのに対し、製鋼連続鋳造操業時に介在物が過多に形成されて、めっき鋼板の表面不良が発生する可能性が高くなるだけでなく、製造原価の急激な上昇をもたらす可能性があるため、本発明は、可溶性アルミニウム(sol.Al)の含有量の上限を0.06%に制限することができる。したがって、本発明の可溶性アルミニウム(sol.Al)の含有量は、0.01~0.06%の範囲であることができ、より好ましい可溶性アルミニウム(sol.Al)の含有量は、0.02~0.55%の範囲であることができる。
【0042】
ニオブ(Nb):0.002~0.02%
ニオブ(Nb)は、本発明において鋼材の焼付硬化性及び耐時効性に影響を与える主な元素である。鋼材内部に固溶された炭素(C)の含有量が増加するほど耐時効性は向上する一方で焼付硬化性は減少する傾向を示す。これは、ニオブ(Nb)は、熱間圧延時に鋼材内部の炭素(C)と結合してNbC析出物を形成するため、固溶された炭素(C)の含有量を制御することができるためである。したがって、本発明では、ニオブ(Nb)の含有量を適正レベルに調整して鋼材内の固溶炭素(C)の含有量を適正レベルに制御し、それに応じて、適正レベル以上の焼付硬化性及び耐時効性を確保する。
ニオブ(Nb)の含有量が0.002%未満の場合には、NbCとして析出される炭素(C)の含有量が不十分であって、鋼材内部の炭素(C)の大部分は固溶炭素(C)の形で残存するようになり、それに応じて、常温耐時効性を十分に確保することができなくなる。これに対し、ニオブ(Nb)の含有量が0.02%を超えると、鋼中の炭素(C)の大部分はNbCとして析出されることから、鋼材内部に固溶された炭素(C)の含有量が絶対的に不足するようになり、それに応じて、要求される焼付硬化特性を確保することができなくなる。したがって、本発明のニオブ(Nb)の含有量は、0.002~0.02%の範囲であることができる。好ましいニオブ(Nb)の含有量は、0.003~0.02%の範囲であることができ、より好ましいニオブ(Nb)の含有量は、0.004~0.015%の範囲であることができる。
【0043】
ボロン(B):0.001~0.004%(0.001%を除く)
ボロン(B)は、本発明において鋼材の焼付硬化性及び耐時効性に影響を与える重要な元素である。ボロン(B)は、リン(P)を多量に含有した極低炭素鋼において粒界脆化による2次加工脆性を防止するために添加される元素として知られている。通常、ボロン(B)は、その他の元素に比べて粒界偏析の傾向が高い元素であるため、ボロン(B)の添加によってリン(P)の粒界偏析を抑制させて2次加工脆性を防止する役割を果たすことができる。しかし、本発明者は、かかるボロン(B)の粒界偏析特性を用いることにより、常温耐時効性及び焼付硬化性と関連する数多くの実験を行い、その結果をもとに、本発明のボロン(B)の含有量を導出するに至った。
【0044】
時効性及び焼付硬化性は同様のメカニズムであって、固溶元素(C、Bなど)と転位(Dislocation)の相互作用(locking)によって発生する機構である。すなわち、固溶元素と転位の相互作用が増加するほど時効性及び焼付硬化性は同時に増加するようになる。これに対し、自動車の外板用素材として用いられる焼付硬化鋼は、時効硬化性に優れ、且つ時効性が低いほど、すなわち、時効硬化性及び耐時効性に優れるほど有利であるため、適正レベルの合金成分の制御を介して時効硬化性及び耐時効性を一定レベル以上に確保することが重要である。
【0045】
鋼材の焼鈍中にボロン(B)を結晶粒界に偏析させて常温で安定化させると、ボロン(B)は、低い時効評価温度(約100℃)で大部分が結晶粒界にそのまま残存し、結晶粒内のボロン(B)の拡散が抑制される。したがって、転位とボロン(B)の相互作用が抑制され、それに応じて、常温耐時効性を効果的に確保することができる。これに対し、粒界に偏析されたボロン(B)は、比較的高温である焼付温度(約170℃)で結晶粒内に容易に拡散されて固溶されることができ、結晶粒内の固溶ボロン(B)と転位が相互に作用して、焼付硬化性を確保することができる。すなわち、本発明では、時効評価温度(約100℃)及び焼付温度(170℃)で異なるように示されるボロン(B)の挙動特性を用いることで、耐時効性及び時効硬化性を一定レベル以上に確保する。
【0046】
本発明は、焼付硬化性を確保するために、焼付温度で結晶粒内に拡散されるボロン(B)の含有量を一定レベル以上に確保しようとするものであって、ボロン(B)の含有量の下限を0.001%を超える範囲に制限することができる。これに対し、ボロン(B)が過多に添加される場合には、ボロン(B)が結晶粒界に過度に偏析されて焼付硬化性の増加とは別に、耐時効性の低下が必ず伴い、それに応じて、めっき鋼板のめっき層の剥離が発生する可能性が高くなるため、本発明は、ボロン(B)の含有量の上限を0.004%に制限することができる。したがって、本発明のボロン(B)の含有量は、0.001%超過0.004%以下の範囲であることができる。好ましいボロン(B)の含有量は、0.001%超過0.003%以下の範囲であることができ、さらに好ましいボロン(B)の含有量は、0.0013%超過0.0025%以下の範囲であることができる。
【0047】
本発明は、上述した鋼組成に加えて、残りはFe及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図されないように混入する可能性があるため、これを全面的に排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野における当業者であればその意味を容易に理解することができる。また、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0048】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板に含まれる素地鋼板は、下記関係式1で表されるCが0.0002~0.002%の範囲を満たすように炭素(C)及びニオブ(Nb)の含有量が制限されることができる。
[関係式1]
=[C]-(12/93)*[Nb]
関係式1の[C]及び[Nb]はそれぞれ、上記素地鋼板の炭素(C)及びニオブ(Nb)の含有量(wt%)を意味する。
【0049】
また、本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板に含まれる素地鋼板は、下記関係式2で表されるRが1.2以上であることができる。
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
関係式2のR(BH)は、本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、素地鋼板に含まれるボロン(B)の濃度を意味し、上記関係式2のR(AI)は、本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、素地鋼板に含まれるボロン(B)の濃度を意味する。
【0050】
以下、本発明の関係式についてより詳細に説明する。
【0051】
[関係式1]
=[C]-(12/93)*[Nb]
関係式1の[C]及び[Nb]はそれぞれ、上記素地鋼板の炭素(C)及びニオブ(Nb)の含有量(wt%)を意味し、本発明は、関係式1を介して算出されるCの値が0.0002~0.002%を満たすように素地鋼板の炭素(C)及びニオブ(Nb)の含有量を制御する。
【0052】
関係式1のCは、ニオブ(Nb)の添加により、鋼材に含まれた炭素(C)がNbCとして析出され、鋼内に残存する固溶炭素(C)の含有量を意味する。本発明の発明者らは、関係式1によって算出されるCの値を一定レベルに制御する場合には、耐時効性及び焼付硬化性を一定レベル以上に確保することができることを実験的に確認し、関係式1によって算出されるCの値が0.0002~0.002%を満たすように素地鋼板内に含まれる炭素(C)及びニオブ(Nb)の含有量を制御する場合には、本発明が目標とする耐時効性及び焼付硬化性を確保することができることを確認した。
【0053】
の値が0.0002%未満の場合には、素地鋼板内に固溶された炭素(C)がほとんど存在しないことから、本発明で要求される30MPa以上の下部焼付硬化(L-BH)の値を確保することができない。また、Cの値が0.0002%未満の場合には、ボロン(B)を過量添加して、固溶ボロン(B)による焼付硬化性を確保することはできるが、ボロン(B)の過量添加により製造工程における主組成が劣化し、最終製品において素地鋼板と亜鉛系めっき層の間に過量のボロン(B)酸化物が存在してめっき剥離の問題が発生する可能性がある。また、Cの値が0.002%を超えると、素地鋼板内に固溶された炭素(C)によって耐時効性の問題が発生する可能性があり、顧客社で要求する6ヶ月以上の時効の保証において問題が発生するおそれがある。したがって、本発明の関係式1は、最適な耐時効性及び焼付硬化性を確保するための条件を提示し、本発明の素地鋼板内に含まれる炭素(C)及びニオブ(Nb)の含有量は、関係式1のCの値が0.0002~0.002%の範囲を満たすように制御することができる。
【0054】
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
関係式2のR(BH)は、本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、素地鋼板に含まれるボロン(B)の濃度を意味し、上記関係式2のR(AI)は、本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、素地鋼板に含まれるボロン(B)の濃度を意味する。本発明の素地鋼板は関係式2によるRの値が1.2以上の範囲を満たすことができる。
【0055】
関係式2は、温度による素地鋼板の結晶粒界、及び結晶粒内のボロン(B)濃度の挙動を示す関係式であって、時効評価温度(約100℃)における結晶粒内に分布するボロン(B)の濃度と焼付温度(約170℃)における結晶粒界に分布するボロン(B)の濃度の割合を意味する。本発明の発明者らは、様々な実験条件を介してボロン(B)の粒界偏析及び拡散移動を検討し、関係式2のRの値が一定レベル以上の場合に限って特定レベル以上の焼付硬化性及び耐時効性を確保することができることを確認した。特に、ボロン(B)の粒界偏析及び拡散移動に関連し、素地鋼板内の結晶粒サイズやボロン(B)の含有量などの様々な要素が影響を与えるが、関係式2は、低温条件での熱処理時に粒界に偏析されたボロン(B)の含有量と高温条件での熱処理時に粒内に拡散移動したボロン(B)の含有量の割合を用いることで一本化された結果を導出することができるという点に技術的意義が存在する。すなわち、関係式2によって算出されるRの値が1.2未満の場合、当該鋼板は本発明で要求される特性に適さず、ボロン(B)の含有量が比較的小さいか、又は結晶粒が粗大な場合には、1.2未満のRの値が導出されて、特定レベル以上の焼付硬化性及び耐時効性を確保することができないことを確認した。
【0056】
本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板は、下部焼付硬化(L-BH)の値が30MPa以上を満たすとともに、0.2%以上の時効指数(AI)を満たすことができる。また、本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板は、210MPa以上の降伏強度、35%以上の伸び率を有することから、自動車外板用板材として適した物性を確保することができる。
【0057】
本発明の一側面による亜鉛系めっき鋼板の素地鋼板は、フェライト単相組織を微細組織として備え、フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合は、素地鋼板の断面に対する面積比率で70%以上であることができる。すなわち、微細組織の結晶粒が粗大な場合には、ボロン(B)の添加にも関わらず、その効果が不十分に実現される可能性があることから、本発明の素地鋼板は、一定レベル以下の結晶粒サイズを有する微細化された結晶粒として備えられることが好ましい。
【0058】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、上述した組成及び条件で備えられる素地鋼板を亜鉛系溶融めっき浴に浸漬してめっきを行うことによりめっき鋼板を提供することができる。
【0059】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
【0060】
本発明の一側面による常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除く)、Mn:0.1~1.0%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.01~0.08%、S:0.01%以下、N:0.01%以下、sol.Al:0.01~0.06%、Nb:0.002~0.02%、B:0.001~0.004%(0.001%を除く)、残りのFe及びその他の不可避不純物を含むスラブを1160~1250℃の温度範囲で再加熱し、上記再加熱されたスラブを850~1150℃の温度範囲で熱間圧延して熱延鋼板を提供し、上記熱延鋼板を10~70℃/sの平均冷却速度で冷却して500~750℃の温度範囲で巻取り、上記巻取られた熱延鋼板を70~90%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を提供し、上記冷延鋼板を水素濃度3~30%の炉内雰囲気下において750~860℃の温度範囲で加熱して連続焼鈍し、上記連続焼鈍された冷延鋼板を冷却し、上記冷延鋼板を素地鋼板として提供して亜鉛系溶融めっき浴に浸漬することにより製造することができる。
【0061】
この際、上記冷間圧延は、複数の圧延ロールによって順に圧下されて行われ、上記圧延ロールのうち最初の圧延ロールの圧下率は20~40%であり、上記素地鋼板は、下記関係式1のCが0.0002~0.002%の範囲を満たし、下記関係式2のRが1.2以上であることができる。
[関係式1]
=[C]-(12/93)*[Nb]
上記関係式1の[C]及び[Nb]はそれぞれ、上記素地鋼板のC及びNbの含有量(wt%)を意味する。
[関係式2]
=R(BH)/R(AI)
上記関係式2のR(BH)は、上記亜鉛系めっき鋼板を170℃で20分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味し、上記関係式2のR(AI)は、上記亜鉛系めっき鋼板を100℃で60分間熱処理時に、上記素地鋼板内のフェライト結晶粒界から結晶粒内の方向において20nm以内の、上記素地鋼板に含まれるBの濃度を意味する。
【0062】
スラブ再加熱
本発明のスラブの鋼組成は、上述した鋼板の鋼組成と対応するため、本発明のスラブ鋼組成についての説明は上述した鋼板の鋼組成についての説明に代替される。上述した鋼組成で備えられるスラブは一定の温度範囲で再加熱することができる。再加熱温度が1160℃未満の場合には、スラブ介在物などが十分に再溶解されず、熱間圧延後に表面欠陥及び材質偏差の発生の原因となりうる。これに対し、再加熱温度が1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒の異常成長によって最終鋼材の強度が低下する可能性がある。したがって、本発明のスラブ再加熱の温度範囲は、1160~1250℃であることができる。
【0063】
熱間圧延
再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を提供することができる。熱間圧延の開始温度が1150℃を超えると、熱延鋼板の温度が過度に高くなり、結晶粒サイズが粗大化して熱延鋼板の表面品質が劣化する可能性がある。また、熱間圧延の終了温度が850℃未満の場合には、過度な再結晶遅延によって延伸された結晶粒が発達し、高降伏比が得られるため、冷間圧延性及びせん断加工性が低下する可能性がある。したがって、本発明の熱間圧延は、850~1150℃の温度範囲で行うことができる。
【0064】
冷却及び巻取り
熱間圧延後の熱延鋼板を500~750℃の温度範囲まで10~70℃/sの平均冷却速度で冷却し、500~750℃の温度範囲で巻取って熱延コイルを提供することができる。平均冷却速度が10℃/s未満の場合には、粗大なフェライト結晶粒が形成されて微細組織が不均一になり、平均冷却速度が70℃/sを超えると、鋼板の形状が劣化するだけでなく、鋼板の厚さ方向に沿って微細組織の不均一性が誘発され、鋼板のせん断加工性が低下する可能性がある。熱延鋼板の巻取り温度が500℃未満の場合には、過度に低い巻取り温度が原因となって鋼板の形状が劣化し、熱延鋼板の巻取り温度が750℃を超えると、粗大なフェライト結晶粒が形成され、粗大な炭化物及び窒化物が形成されて鋼の材質が劣化するおそれがある。
【0065】
冷間圧延
冷間圧延は、70~90%の圧下率で行われることができる。冷間圧延の圧下率が70%未満の場合には、最終製品の目標厚さの確保が難しい可能性があり、鋼板の形状矯正が難しいおそれがある。また、冷間圧延の圧下率が90%を超えると、鋼板のエッジ(edge)部においてクラックが発生する可能性があり、冷間圧延設備の過度な負荷が問題になりうる。
【0066】
本発明の冷間圧延は、一方向に沿って順に配置される複数の圧延ロールによって行われることができ、最初の圧延ロールによる圧下率が一定の範囲に制限されることができる。最初の圧延ロールによる圧下率が20%未満の場合には、鋼板の形状制御及び微細組織の確保に限界が存在する。特に、最初の圧延ロールによる圧下率が20%未満の場合には、フェライト単相組織の結晶粒のうち直径が8μm以下の結晶粒が占める割合が素地鋼板の断面に対する面積比率で70%以上を確保することができない。また、最初の圧延ロールによる圧下率が40%を超えると、設備負荷が発生するおそれが存在することから、本発明の最初の圧延ロールの圧下率は20~40%に制限することができる。より好ましい最初の圧延ロールの圧下率は25~35%であることができる。
【0067】
連続焼鈍
冷間圧延後の冷延鋼板を750~860℃の温度範囲で加熱して連続焼鈍することができる。焼鈍温度が750℃未満の場合には、再結晶が十分に完了せず、混粒組織が発生する可能性が高く、焼鈍温度が860℃を超えると、焼鈍炉に設備負荷が発生するおそれが高い。したがって、本発明の連続焼鈍温度は750~860℃であることができ、より好ましい焼鈍温度は770~830℃であることができる。
【0068】
また、本発明の連続焼鈍は、水素濃度3~30%の炉内雰囲気下で行われることができる。水素濃度が3%未満の場合には、鋼中に含有されるシリコン(Si)、マンガン(Mn)、及びボロン(B)のような酸素親和力が大きい元素の表面濃化物が発生する可能性が高くなり、デント欠陥及びめっき欠陥の原因となりうる。これに対し、水素濃度が30%を超えると、Si、Mn、及びBによる欠陥抑制効果が限界に達するだけでなく、過度な製造コストの増加を誘発する可能性がある。したがって、本発明の連続焼鈍は、水素濃度3~30%の炉内雰囲気下で行われることができ、より好ましい水素濃度の範囲は、5~20%であることができる。
【0069】
1次冷却
連続焼鈍後の冷延鋼板を630~670℃の温度範囲まで2~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却することができる。1次冷却の平均冷却速度が2℃/s未満であるか、又は1次冷却の冷却終了温度が670℃を超えると、フェライト単相組織の結晶粒が過度に粗大化して、ボロン(B)の粒界偏析効果を十分に発揮することができなくなる。すなわち、直径が8μm以下の結晶粒が占める割合が素地鋼板の断面に対する面積比率で70%に達することができないため、一定量以上のボロン(B)を添加しても、ボロン(B)の粒界偏析効果を十分に発揮することができなくなる。また、1次冷却の平均冷却速度が10℃/sを超えるか、又は1次冷却の冷却終了温度が630℃未満の場合には、フェライト単相組織の結晶粒が微細化されてボロン(B)の粒界偏析効果を増大させることができるが、鋼板の形状に歪みが発生する可能性があり、冷却工程前後に過度な設備温度の不均衡が発生し、設備負荷を誘発するおそれがある。
【0070】
2次冷却
1次冷却後の冷延鋼板を3~20℃/sの平均冷却速度で440~480℃の温度範囲まで2次冷却することができる。本発明における2次冷却の冷却速度は、鋼板の物性に大きな影響を与えないが、優れた鋼板の形状を確保するために、2次冷却速度を一定の範囲に制御する。2次冷却の冷却速度が20℃/sを超えると、鋼板の形状に歪みなどの問題が発生する可能性があり、2次冷却の冷却速度が3℃/s未満の場合には、遅すぎる冷却速度により、経済性の面において不利になりうる。
【0071】
めっき浴への浸漬
2次冷却後の冷延鋼板を440~480℃の溶融亜鉛系めっき浴に浸漬して亜鉛系めっき層を形成することができる。亜鉛系めっき浴は、純粋な亜鉛(Zn)めっき浴であるか、又はシリコン(Si)、アルミニウム(Al)、及びマグネシウム(Mg)などを含む亜鉛系合金めっき浴であることができる。また、必要に応じて、亜鉛系めっき鋼板に対して合金化熱処理を行うことができる。ここで、合金化熱処理は、500~540℃の温度範囲で行うことができる。
【0072】
調質圧延
亜鉛系めっき鋼板に焼付硬化性をさらに付与するために、必要に応じて、調質圧延を行うことができる。調質圧延の圧下率が0.3%未満の場合には、焼付硬化性の確保に必要な十分な転位が形成されない可能性が高く、圧下率が1.6%を超えると、めっき表面に欠陥が発生するおそれがあるため、本発明の調質圧延における圧下率は0.3~1.6%に制限されることができる。より好ましい調質圧延における圧下率は、0.5~1.4%であることができる。
【実施例0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。
【0074】
下記表1に記載された合金組成で備えられる鋼スラブを製造した後、下記表2に記載された製造工程を介して亜鉛系めっき鋼板試験片を製造した。参考として、下記表1の鋼種1、2、4及び5は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)に該当し、鋼種3及び6は、溶融亜鉛めっき鋼板に該当する。鋼種7及び8は通常の極低炭素鋼を用いたBH鋼を意味する。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
上記表1の組成で備えられるスラブを用いて、上記表2の条件で亜鉛系合金めっき鋼板試験片を製造し、それぞれの試験片に対する物性などを評価して下記表3に示した。引張強度はASTM規格に基づいて試験片の長さ方向に沿って引張試験を行って測定し、時効指数(AI、Aging Index)は、それぞれの試験片を100℃で60分間熱処理した後、圧延方向に対する直角方向に沿って引張試験を行い、降伏点における伸び率(YP-EL)で測定した。微細組織は、それぞれの試験片の切断面に対して、素地鋼板の1/4*tの地点(但し、tは試験片の厚さを意味する)を光学顕微鏡で観察して調査した。また、関係式2と関連するR(BH)及びR(AI)の値は、それぞれの試験片の切断面に対して、素地鋼板の1/4*tの地点(但し、tは試験片の厚さを意味する)でAPT(Atom Probe Tomography)を用いてBを原子単位で観察し、その濃度を測定した。
【0078】
【表3】
【0079】
本発明で要求される特性は、基本的に降伏強度が210MPaであり、下部焼付硬化(L-BH)の値が30MPa以上であり、常温で6ヶ月以上の耐時効保証を有するように、時効指数(AI、YP-EL)が0.2%以下を満たす必要がある。発明例1~7は、本発明で要求される特性をすべて満たすものの、比較例1~7は、本発明で要求される特性のうちいずれか1つ以上を満たさないため、高強度性、常温耐時効性、又は焼付硬化性のうちいずれか1つの特性を満たさないことを確認することができる。
【0080】
また、上記表1~3から確認できるように、本発明が制限する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~7の場合には、素地鋼板の断面における8μm以下の平均結晶粒サイズを有する結晶粒の面積比率が70%以上確保され、この場合、下部焼付硬化(L-BH)の値が30MPa以上であり、時効指数(AI、YP-EL)が0.2%以下を満たすことを確認することができる。
【0081】
これに対し、比較例1~3の場合には、本発明の合金組成を満たすものの、本発明の工程条件を満たさないため、素地鋼板の結晶粒が粗大に形成され、関係式2によって算出されるRの値が1.2未満と、目的とする時効指数を確保できないことを確認することができる。また、比較例4及び5は、本発明の合金組成を満たすか、又は関係式1によって算出されるCの値が0.002を超えるため、時効指数(AI、YP-EL)が2.0を超え、耐時効特性が劣化することを確認することができる。尚、比較例4の場合には、最初の圧延ロールの圧下率が20%未満であるため、素地鋼板の断面において8μm以下の平均結晶粒サイズを有する結晶粒の面積比率が70%に達しないことを確認することができる。
【0082】
比較例6及び7の場合には、Bの含有量が本発明のBの含有量に達していないため焼付硬化特性が低下することを確認することができる。特に、比較例6は、関係式1を介して算出されるCの値が本発明の範囲を満たすものの、Bの含有量が0.0007%レベルに過ぎず、本発明で要求される焼付硬化特性を満たさないことを確認することができる。
【0083】
したがって、本発明の一側面によると、降伏強度が210MPa以上であり、常温耐時効性を評価する時効指数(AI、Aging Index)が0.2以下であり、焼付硬化性を評価する下部焼付硬化(L-BH、Lower-Bake Hardening)の値が30MPa以上である常温耐時効性及び焼付硬化性に優れた亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0084】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、特許請求の範囲に記載された請求項の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。