(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052506
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】養子T細胞療法のためのセントラルメモリーT細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230404BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230404BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230404BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230404BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230404BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230404BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230404BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230404BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61P35/00
A61P37/04
A61K35/17
A61K39/395 L
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023006410
(22)【出願日】2023-01-19
(62)【分割の表示】P 2020093109の分割
【原出願日】2015-09-21
(31)【優先権主張番号】62/053,068
(32)【優先日】2014-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】598004424
【氏名又は名称】シティ・オブ・ホープ
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クリスティン イー
(72)【発明者】
【氏名】フォーマン,スティーブン ジェイ
(57)【要約】
【課題】
キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を備える遺伝子組換えT細胞の集団を調製する方法に関する。
【解決手段】
キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を、少なくとも50%がセントラルメモリーT細胞であり、(i)セントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ、(ii)セントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD8+である、ヒトT細胞の集団に導入することを含む、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を備える遺伝子組換えT細胞の集団を調製する方法に関する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を、少なくとも50%がセントラルメモリーT細胞であり、(i)前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ、(ii)前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD8+である、ヒトT細胞の集団に導入することを含む、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を備える遺伝子組換えT細胞の集団を調製する方法。
【請求項2】
ヒトT細胞の集団は、CD25、CD14及びCD45Raを発現するT細胞が枯渇されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、遺伝子組換えT細胞集団をCD3及び/又はCD28と接触させて、活性化及び増殖を刺激することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、遺伝子組換えT細胞集団を増殖することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子組換えT細胞集団を増殖することは、細胞をIL-2及びIL-15の一方又は両方に曝露することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも50%は、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、かつ、前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%はCD4+であり、かつ、前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%はCD8+である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも50%は、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、かつ、前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも20%はCD4+であり、かつ、前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも20%はCD8+である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
CD62Lを発現するT細胞が富化され、かつ、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子で形質導入されたヒトT細胞の集団であって、前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%は、セントラルメモリーT細胞であり、前記形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%はCD4+であり、かつ前記形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%はCD8+であり、かつ、
前記ヒトT細胞の集団ではCD25、CD14及びCD45Raを発現するT細胞が枯渇している、ヒトT細胞の集団。
【請求項9】
前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%はCD4+であり、かつ、前記セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%はCD8+である、請求項8に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項10】
前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%は、CD4+又はCD8+又はCD62L+である、請求項8に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項11】
前記形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%は、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、少なくとも10%はCD4+であり、かつ、少なくとも10%はCD8+である、キメラ抗原受容体をコードする核酸分子で形質導入されたヒトT細胞の集団。
【請求項12】
CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも10%がまたCD4+であり、前記CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも10%がまたCD8+である、請求項11に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項13】
CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも15%がまたCD4+であり、前記CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも15%がまたCD8+である、請求項11に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか一項に記載のヒトT細胞の集団を含む、医薬組成物。
【請求項15】
ヒトT細胞の集団は患者の自己由来である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
ヒトT細胞の集団は患者に対して同種異系である、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
改変T細胞を用いる治療を含む、腫瘍特異的T細胞に基づく免疫療法が、抗腫瘍治療について研究されている。当該療法に用いられるT細胞には、十分長期間、インビボで活性を維持しないものがある。T細胞の腫瘍特異性は比較的低い場合がある。したがって、当業界には、抗腫瘍作用がより長期にわたる腫瘍特異的がん治療の需要がある。
【背景技術】
【0002】
CAR T細胞は、抗原特異的な腫瘍集団を特異的に認識するように改変することができるので、キメラ抗原受容体(CAR)が改変されたT細胞を利用する養子(adoptive)T細胞療法(ACT)は、MGの再発率を低下させる安全かつ有効な方法を提供することができ(非特許文献1~5)、かつ、T細胞は脳実質を通過して標的に移動し、浸潤性悪性細胞を死滅させることができる(非特許文献6~9)。前臨床試験は、IL13Rα2標的化CAR+T細胞が、幹様及び分化した神経膠腫細胞に対して強力な主要組織適合複合体(MHC)非依存性のIL13Rα2特異的細胞溶解活性を示し、かつ、インビボで確立された神経膠腫異種移植の退縮を誘発することを実証した(非特許文献4及び10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Cartellieri et al.2010 J Biomed Biotechnol 2010:956304
【非特許文献2】Ahmed et al.2010 Clin Cancer Res 16:474
【非特許文献3】Sampson et al.2014 Clin Cancer Res 20:972
【非特許文献4】Brown et al.2012 Clin Cancer Res 18:2199
【非特許文献5】Chow et al.2013 Mol Ther 21:629
【非特許文献6】Hong et al.2010 Clin Cancer Res 16:4892
【非特許文献7】Brown et al.2007 J Immunol 179:3332
【非特許文献8】Hong et al.2010 Clin Cancer Res 16:4892
【非特許文献9】Yaghoubi 2009 Nat Clin PRact Oncol 6:53
【非特許文献10】Kahlon et al.2004 Cancer Res 64:9160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書には、セントラルメモリーT細胞(Tcm)を含む細胞集団が記載される。細胞集団は、CD4+T細胞及びCD8+T細胞をともに含む。細胞集団中の細胞は、細胞外ドメイン(例えば、選択された標的に結合するscFv)、膜貫通領域、及び細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、ヒトCD3複合体のζ鎖由来のシグナル伝達ドメイン(CD3ζ)及び1つ以上の共刺激ドメイン、例えば、4-1BB共刺激ドメイン、を含む細胞内ドメイン)を含むキメラ膜貫通免疫受容体(キメラ抗原レセプター又は「CAR」)を発現するのに有用である。細胞外ドメインは、T細胞の表面に発現されたときにCARがT細胞活性を細胞外ドメインによって認識される標的を発現する細胞に指向させることができる。細胞内領域にCD3ζと直列の4-1BB(CD137)共刺激ドメイン等の共刺激ドメインを含めることにより、T細胞は共刺激シグナルを受け取ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に記載のTcm細胞、例えば患者特異的、自己由来(autologous)又は同種異系の(allogenic)Tcm細胞は、所望のCARを発現するように改変することができ、改変された細胞はACTで増殖され、用いることができる。TCM細胞の集団はCD45RO+CD62Lであり、かつ、CD4+及びCD8+細胞を含む。
ある実施形態では、ヒトT細胞の集団は、キメラ抗原レセプターを発現するベクターを含み;
ヒトセントラルメモリーT細胞(Tcm細胞)の集団は、少なくとも10%のCD4+細胞及び少なくとも10%のCD8+細胞(例えば、細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%はTcm細胞であり;
Tcm細胞の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%がCD4+であり、かつ、Tcm細胞の少なくとも15%、20%、25%、30%、35%がCD8+細胞である)を含む。
【0006】
また、患者のがんを治療する方法であって、
キメラ抗原レセプターをコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入された自己由来又は同種異系のヒトT細胞の集団(例えば、Tcm細胞を含む自己又は同種異系のT細胞、例えば細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%がTcm細胞であり;Tcm細胞の少なくともの15%、20%、25%、30%、35%がCD4+であり、かつ、Tcm細胞の少なくともの15%、20%、25%、30%、35%がCD8+細胞である)を投与することを含む、
方法が記載される。
【0007】
本明細書において、形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がセントラルメモリーT細胞であるキメラ抗原レセプターを発現するベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団が記載される。ある実施形態では、形質導入された細胞のセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD4+であり;
形質導入されたセントラルメモリーT細胞の少なくとも10%がCD8+であり;
セントラルメモリーT細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ、少なくとも15%がCD8+であり;かつ、
形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD4+/CD8+/CD62L+である。
【0008】
本明細書にはまた、キメラ抗原受容体を発現するベクターで形質導入されたヒトT細胞の集団が記載される。ここで、形質導入されたヒトT細胞の少なくとも50%がCD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ、細胞の少なくとも10%がCD4+である。様々な実施形態では、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも10%もまたCD4+であり、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも10%もまたCD8+であり;かつ、
CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも15%もまたCD4+であり、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-である細胞の少なくとも15%もまたCD4+である。
【0009】
がんを治療する方法であって、それを必要とする患者に、本明細書中に記載されるセントラルメモリーT細胞を含む医薬組成物を投与することを含む方法もまた記載される。T細胞は、患者に対して自己由来であってもよいし、患者に対して同種異系であってもよい。
【0010】
セントラルメモリーT細胞の集団を調製するための方法であって、
ヒト被験体からT細胞の集団を得ることと;
枯渇したT細胞の集団を調製するため、CD25を発現する細胞、CD14を発現する細胞、及びCD45+を発現する細胞について、前記T細胞の集団を枯渇させることと;
CD62Lを発現する細胞について前記枯渇したT細胞集団を富化することであって、それによりセントラルメモリーT細胞の集団を調製することと;
を含み、当該方法は、CD4を発現する細胞について細胞集団を枯渇させる工程を含まず、CD8+を発現する細胞の細胞集団を枯渇させる工程を含まない、方法もまた記載される。ある実施形態では、
セントラルメモリーT細胞の集団における細胞の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%)が、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも10%がCD4+であり、かつ細胞の少なくとも10%がCD4+であり;
セントラルメモリーT細胞の集団における細胞の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%)が、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも15%がCD4+であり、かつ細胞の少なくとも15%がCD4+であり;
セントラルメモリーT細胞の集団における細胞の少なくとも50%が、CD45R0+、CD62L+及びCD45Ra-であり、細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、40%又は50%)がCD4+であり、かつ細胞の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、40%又は50%)がCD4+である。当該方法は、(例えば、セントラルメモリーT細胞の集団をCD3及び/又はCD28と接触させることによって)
セントラルメモリーT細胞の集団を刺激することをさらに含むことができ;
遺伝子改変されたセントラルメモリーT細胞の集団を作製するために組換えタンパク質を発現するベクターで細胞を形質導入することを含むことができ;
遺伝子改変されたセントラルメモリーT細胞の集団を増殖させること(例えば、IL-2及びIL-15の一方又は両方に細胞を曝露することによって、遺伝子改変されたセントラルメモリーT細胞の集団を拡大すること)を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面の説明
【
図1】IL13Rα2特異的ヒトIL13変異体(huIL-13(E13Y))、ヒトIgG4 Fcスペーサー(huγ4Fc)、ヒトCD3ζ鎖の細胞質(huCD3ζcyt)部分から構成される、IL13(E13Y)-ゼータカインCAR(左)の概略図である。また、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点突然変異L235E及びN297Q(赤で示されている)を除いてIL13(E13Y)-ゼータカインと同じIL13(EQ)BBζCAR、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)の添加も示されている。
【
図2】A~Cは、オープンリーディングフレームの特定のベクターを示す。Aは、2670ヌクレオチドIL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物のcDNAオープンリーディングフレームの図であり、ここで、IL13Rα2特異的リガンドIL13(E13Y)、IgG4(EQ)Fcヒンジ、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達、3つのグリシンリンカー、及びIL13(EQ)BBZ CARのCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン、並びにT2Aリボソームスキップ及び切断型CD19配列が示されている。IL13(EQ)BBζCAR及びCD19tの表面発現を駆動するヒトGM-CSF受容体α及びCD19シグナル配列もまた示される。Bは、宿主ゲノムに組み込まれるであろう長い末端反復(「R」で示される)が隣接(flanked)配列の図である。Cは、IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7プラスミドのマップである。
【
図5】IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCMの生産スキームを示す。
【
図6】A~Cは、表面トランスジーン及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1は、抗IL13-PE及び抗CD8-FITCで同時染色して、CD8+CAR+及びCD4+(すなわちCD8陰性)CAR+細胞(A)を検出するか、 抗CD19-PE及び抗CD4-FITCで、CD4+CD19t+及びCD8+(すなわちCD4陰性)CAR+細胞(B)を検出する。蛍光色素共役抗CD3、TCR、CD4、CD8、CD62L及びCD28(灰色ヒストグラム)又はアイソタイプ対照(黒色ヒストグラム)で染色したIL13(EQ)BBζ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1(C)。すべての場合において、生存可能なリンパ球に基づく比率(DAPI陰性)はアイソタイプより上に染色された。
【
図7】A及びBは、IL13(EQ)BBZ+TCMのIL13Rα2特異的エフェクター機能のインビトロ機能的特徴付けを示す。IL19(EQ)BBZ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1を、CD19t発現に基づく10:1のE:T比を用いた6時間51Cr放出アッセイにおいてエフェクターとして用いた。IL13Rα2陽性腫瘍標的は、IL13Rα2(K562-IL13Rα2)及び一次神経膠腫系統PBT030-2を発現するように改変されたK562であり、IL13Rα2陰性腫瘍標的対照はK562親系統であった(A)。IL13Rα2陽性及び陰性の標的との10:1のE:T比での一晩の同時培養後、IL13(EQ)BBZ/CD19t+TCM HD006.5及びHD187.1を抗原依存性サイトカイン産生について評価した。サイトカインレベルは、Bio-Plex ProヒトサイトカインTH1/TH2アッセイキットを用いて測定し、INF-γを報告した(B)。
【
図8】A~Cは、IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCMの養子移植後の確立された神経膠腫腫瘍異種移植片の退行を実証する研究の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2腫瘍細胞(1×10
5)を、NSGマウスの右前脳に定位固定した。5日目に、マウスは、2×10
6IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCM(1.1×10
6CAR+;n=6)、2×10
6モック(mock)TCM(CARなし、n=6)又はPBS(n=6)のいずれかを受けた。各群の代表的なマウスは、Xenogen Living Imageを用いて相対的な腫瘍負荷を示した(A)。ffLucフラックス(光子/秒)の定量化は、モック形質導入TCM及びPBSと比較してIL13BQζ/CD19t+TCMが腫瘍退縮を誘導することを示す(#p<0.02、*p<0.001、反復測定ANOVA)(B)。カプランマイヤー生存曲線(n=6/グループ)は、IL13(EQ)BBζ/CD19t+TCMで処置したマウスの有意に改善した生存率(p=0.0008;対数ランク検定)を示す(C)。
【
図9】A~Cは、IL13(EQ)BBZTCM及びIL13-ゼータカインCTLクローンの抗腫瘍効果を比較する研究の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2TSs(1×10
5)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。8日目に、マウスは、1.6×10
6モックTCM(CARなし)か、1.0×10
6CAR+IL13(EQ)BBζTCM(1.6×10
6総T細胞、63%CAR)か、1.0×10
6IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7(クローナルCAR+)か、処置なしのいずれかを受けた(1群当たりn=6)。各グループの代表的なマウスは、Xenogen Living Imageを用いて相対的な腫瘍負荷を示した(A)。経時的なffLucフラックス(光子/秒)の自然対数の線形回帰線であり、P値は、時間ごとの相互作用比較である(B)。IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7と比較してIL13(EQ)BBζTCMで処置したマウスについて、カプランマイヤー生存分析(1群あたりn=6)が有意に改善された生存を示した(p=0.02;対数ランク検定)(C)。
【
図10】A~Cは、IL13(EQ)BBζTCM及びIL13-ゼータカインCTLクローンの抗腫瘍効果を比較する研究の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2 TSs(1×10
5)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。8日目に、マウスは、1.3×10
6モックTCM(CARなし;n=6),1.0,0.3か、0.1×10
6CAR+IL13(EQ)BBζTCM(78%CAR+;n=6),1.0,0.3か、0.1×10
6 IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7(クローナルCAR+;n=6~7)か、処置なしのいずれかを受けた(n=5)。各グループの代表的なマウスのXenogen Living Imageは、相対的な腫瘍負荷を示した(A)。ffLucフラックス(光子/秒)の自然対数の線形回帰線は、IL13(EQ)BBζTCMは、第1世代のIL13-ゼータカインCTL cl.2D7、モック(mock)TCM及び腫瘍のみと比較して優れた腫瘍退縮を達成することが示されている(B)。腫瘍注射後27日の群あたりの平均フラックスは、0.1×10
6 IL13(EQ)BBζTCM用量が、IL13-ゼータカインCD8+CTL cl. 2D7の10倍高い1.0×10
6用量よりも優れていることを実証する(p=0.043;ウェルチ2試料t-検定)(C)。
【
図11】
図11は、IL13-ゼータカインCTLクローンと比較して改善された持続性を示すIL13(EQ)BBζTcmディスプレイを実証する研究の結果を示す。CD3免疫組織化学は、T細胞注入の7日後の腫瘍部位におけるT細胞持続性を評価する。有意な数のT細胞がIL13(EQ)BBζTcmについて検出される(上のパネル)。対照的に、生存可能なCD3+IL13-ゼータカインT細胞はごくわずかしか検出されない(下のパネル)。
【
図12】A~Dは、大きな確立された腫瘍についてのCAR+T細胞送達(i.c.対i.v.)の経路を比較する実験の結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2 TSs(1×10
5)をNSGマウスの右前脳内に移植した。19及び26日目に、マウスに5×10
6CAR+IL13(EQ)BBζ+Tcm(11.8×10
6全細胞;n=4)か、又はモックTcm(11.8×10
6細胞;n=4)のいずれかを、尾静脈を介してi.v.注入した。あるいは、19日目、22日目、26日目及び29日目に、マウスに、1×10
6CAR+IL13(EQ)BBζ+Tcm(2.4×10
6個の全細胞;n=4)か、又はモックTcm(2.4×10
6細胞;n=5)のいずれかを、i.c.注入した。経時的な平均ffLucフラックス(光子/秒)は、i.c.送達されたIL13(EQ)BBζTcmは、19日目の腫瘍の腫瘍退行を媒介する。比較すると、i.v.送達されたT細胞は、未処理又はモックTcm対照と比較して腫瘍負荷の減少を示さなかった(A)。カプランマイヤー生存曲線は、i.v.投与したCAR+Tcmで処置したマウスと比較して、IL13(EQ)BBZTcmでi.c.処置したマウスの生存率の改善を示す(p=0.0003対数ランク検定)(B)。IL13(EQ)BBZTcmでi.v.処置したマウス(C)対i.c.処置したマウス(D)の代表的なH&E及びCD3 IHC。CD3+T細胞は、i.c.処置した群においてのみ検出され、i.v.処置したマウスの場合、腫瘍又は周囲の脳実質においてCD3+細胞は検出されなかった。
【
図13】A及びBは、腫瘍内(i.c.t)か、又は脳室内(i.c.v.)のいずれかの頭蓋内に注入されたCAR+T細胞が、反対側の半球上の腫瘍に移動することができることを示す研究結果を示す図である。EGFP-ffLuc+ PBT030-2 TSs(1×10
5)をNSGマウスの左右の前脳部に定位移植した。6日目に、マウスに、1.0×10
6 IL13(EQ)BBζ+Tcmを、右腫瘍部位において、i.c.注入した(1.6×10
6全細胞;63%CAR;n=4)。多巣性神経膠腫実験モデルの模式図(A)。CD3 IHCは、左右の腫瘍部位の両方に浸潤するT細胞を示す(B)。
【
図14】IL13(EQ)BBζ/CD19t+のアミノ酸配列を示す(配列番号10)。
【
図15】IL13(EQ)41BBζ[IL13(EQ)41BBζT2A-CD19t_epHIV7; pF02630](配列番号12)及びCD19Rop_epHIV7(pJ01683)(配列番号13)の配列比較を示す。黄色の強調表示は、GMCSFシグナル配列(IL13op)を含むIL13最適化コドン領域を示す。強調表示は、IgG4最適化コドン領域(IgG4op[L235E、N297Q])を示す。強調表示は、IgG4ヒンジ領域(L235E及びN297Q)内の予想される2つのアミノ酸変化を示す。強調表示は、CD4膜貫通型の最適化コドン領域を示す。強調表示は41BB細胞質シグナル伝達領域(41BB cyto)を示す。灰強調表示は、3つのグリシンリンカー(g3)を示す。灰色の強調表示は、CD3ゼータ最適化コドン領域(zeta op)を示す。強調表示はT2A配列(T2A)を示す。強調表示は、切断型CD19配列(CD19t)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
CD4+細胞及びCD8+細胞(「TCM CD4+/CD8+」細胞集団)を含むTCM細胞集団を以下に記載する。TCM CD4+/CD8+細胞集団の細胞は、抗CD3/CD28で活性化され、かつ、遺伝子改変細胞を作製するため、例えばCARの発現を指示するSINレンチウイルスベクターで形質導入することができる。活性化/遺伝子改変された細胞は、IL-2/IL-15で、インビトロで増殖させることができ、かつ、その後用いるか、又は凍結保存した後で用いることができる。IL13Rα2を標的とするCARを発現するためのTCM CD4+/CD8+細胞集団の使用の例を記載する。
【0013】
以下の実施例で用いられるCARは、IL13(EQ)BBζと称される。このCARは、様々な重要な機能(features)を含み、IL13α2への結合の特異性を改善するアミノ酸改変があるIL13α2リガンド;有益な共刺激を提供するためのCD3ζと直列のCD137(4-1BB)のドメイン;Fc受容体(FcR)による結合を低下させるようにCH2領域(L235E;N297Q)内の2つの部位で変異したIgG4 Fc領域を含む。このCAR及び他のものは、CARオープンリーディングフレームの後にT2Aリボソームスキップ配列、及び細胞質シグナル伝達テイルが欠失している切断型CD19(CD19t)が続くベクター(アミノ酸323で切断された)を用いて作製することができる。この配置により、CD19tの同時発現で、遺伝子改変細胞を正確に測定することができ、かつ、遺伝子改変細胞をポジティブに選択しうる不活性で非免疫原性の表面マーカー、並びに、細胞の効率的な細胞追跡及び/又は、養子移植後のインビボでの治療用T細胞のイメージングを提供する。CD19tの共発現は、臨床的に利用可能な抗体及び/又は治療細胞を選択的に除去するため、それによって自殺スイッチとして機能する免疫毒試薬を用いて、インビボでの形質導入細胞の免疫学的標的化用マーカーを提供する。
【0014】
神経膠腫(グリオーマ)は、IL13受容体、及び特に高親和性IL13受容体を発現する。しかし、IL13受容体とは異なり、神経膠腫細胞は、IL4Rβ又はγc44の必要条件とは無関係にIL13に結合することができるユニークなIL13Rα2鎖を過剰発現する。そのホモログIL4と同様に、IL13にはCNSの外側に多面的(pleotropic)免疫調節活性がある。IL13及びIL4はともに、Bリンパ球によるIgE産生を刺激し、かつ、マクロファージによる前炎症性サイトカイン産生を抑制する。
【0015】
放射性標識IL13でのオートラジオグラフィーを用いた詳細な研究は、研究されたほとんどすべての悪性神経膠腫組織で富化されているIL13結合を示した。この結合は、腫瘍セクション内で及び単一細胞分析において極めて均一である。しかしながら、IL13Rα2mRNAに特異的な分子プローブ分析は、正常な脳要素による神経膠腫特異的受容体の発現を検出せず、かつ、放射性標識IL13によるオートラジオグラフィーも、正常なCNSにおける特異的IL13結合を検出できなかった。これらの研究は、共有されたIL13Rα1/IL4β/γc受容体が正常なCNSにおいて検出可能に発現されないことを示唆する。したがって、IL13Rα2は、神経膠腫の極めて特異的な細胞表面標的であり、かつ、神経膠腫の治療のために設計されたCARのための適当な標的である。
【0016】
しかし、広く発現されるIL13Rα1/IL4β/γc受容体複合体へのIL13ベースの治療分子の結合は、CNS外側の正常組織に対する望ましくない毒性を媒介する可能性があるため、これらの薬剤の全身投与が制限される。天然グルタミン酸に対するチロシンのアミノ酸13におけるIL13アルファヘリックスAにおけるアミノ酸置換は、IL13Rα1/IL4β/γc受容体に対するIL13の親和性を選択的に低下させる。しかしながら、この変異体(IL13(E13Y)という)のIL13Rα2への結合は、野生型IL13と比較して高まった。したがって、この最小限に改変されたIL13類似体は、グリオーマ細胞に対するIL13の特異性及び親和性を同時に高める。したがって、本明細書に記載されるCARは、アミノ酸13に変異(EからY又はEから何かほかのアミノ酸、例えばK又はR又はL又はVなど)を含むIL13を含む(Debinski et al.1999 Clin Cancer Res 5:3143sのナンバリングによる)。しかしながら、天然の配列であるIL13も用いることができ、及び特に、改変T細胞を腫瘍塊に直接注射する等の局所的に投与する場合に有用でありうる。
【0017】
本明細書中に記載されるCARは、当技術分野で公知のいかなる手段によって産生され得るが、好ましくは組換えDNA技術を用いて産生される。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸は、当該分野で公知の標準的な分子クローニング技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマーアシストライゲーション、部位特異的突然変異誘発など)によって調製され、完全なコード配列に組み立てることができる。得られたコード領域は、好ましくは発現ベクターに挿入され、適当な発現宿主細胞株、好ましくはTリンパ球細胞株、及び最も好ましくは自己Tリンパ球細胞株を形質転換するために用いられる。
【実施例0018】
IL13Rα2特異的CARの構築及び構造
有用なIL13Rα2特異的CARの構造を以下に記載する。コドン最適化CAR配列は、Fcレセプター媒介認識モデルを大きく低下させる2つの突然変異(L235E;N297Q)を含むIgG4FcスペーサーであるIL13Rα1への潜在的結合を低下させるために、単一部位で突然変異した膜結合(membrane-tethered)IL13リガンド(E13Y)、CD4膜貫通ドメイン、共刺激4-1BB細胞質シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメインを含む。T2Aリボソームスキップ配列は、このIL13(EQ)BBζCAR配列を、不活性で非免疫原性の細胞表面検出/選択マーカーであるCD19tから分離する。このT2A結合は、単一の転写産物からのIL13(EQ)BBζ及びCD19tの両方の座標発現をもたらす。
図1Aは、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物をコードする2670ヌクレオチドのオープンリーディングフレームの概略図である。この図では、IL13Rα2特異的リガンドIL13(E13Y)、IgG4(EQ)Fc、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達、3-グリシンリンカー及びIL13(EQ)BBZCARのCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン、並びにT2Aリボソームスキップ及びIL13(EQ)BBZCARの切断型CD19配列は、すべて示されている。IL13(EQ)BBZCAR及びCD19tの表面発現を駆動するヒトGM-CSF受容体α及びCD19シグナル配列も示される。したがって、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物は、IL13Rα2特異的ヒンジ最適化、共刺激性キメラ免疫レセプター配列(IL13(EQ)BBZという)、リボソームスキップT2A配列及びCD19t配列を含む。
【0019】
ヒトGM-CSF受容体αリーダーペプチドとIL13(E13Y)リガンド5L235E/N297Q改変IgG4Fcヒンジ(二重変異がFcR認識を妨害する)、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン配列との融合によりIL13(EQ)BBZ配列を生成した。この配列は、コドン最適化の後に新規にデノボ合成された。T2A配列は、T2A含有プラスミドの消化から得た。CD19t配列は、リーダーペプチド配列にまたがるものから、CD19含有プラスミドの膜貫通成分(すなわち、塩基対1~972)まで得られた。全3つの断片、1)IL13(EQ)BBZ、2)T2A、及び3)CD19tを、epHIV7レンチウイルスベクターの多重クローニング部位にクローン化した。適当な細胞にトランスフェクトされると、ベクターは
図1Bに模式的に示された配列を宿主細胞ゲノムに組み込む。
図1Cは、9515塩基対IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7プラスミドそれ自体の模式図を提供する。
【0020】
図2に概略的に示すように、IL13(EQ)BBZ CARは、いくつかの重要な点において、IL13(E13Y)R-ゼータカインというすでに報告されたIL13Rα2特異的CARとは異なる(非特許文献4)。IL13(E13Y)-ゼータカインは、示されるように、IL13Rα2特異的ヒトIL13ムテイン(huIL-13(E13Y))、ヒトIgG4 Fcスペーサー(huγ4Fc)、ヒトCD4膜貫通(huCD4 tm)及びヒトCD3ζ鎖細胞質huCD3ζcyt)部分から構成される。対照的に、IL13(EQ)BBζ)には、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点変異、L235E及びN297Q、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)がある。対照的に、IL13(EQ)BBζ)には、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点変異、L235E及びN297Q、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)がある。
ウイルスゲノムをベクターに効率的にパッケージングするためには、パッケージングシグナル、psiΨが必要である。RRE及びWPREは、RNA転写物の輸送及び導入遺伝子の発現を増強する。フラップ配列は、WPREと組み合わせて、哺乳類細胞におけるレンチウイルスベクターの形質導入効率を高めることが実証された。
野生型ウイルスの病原性に必要であり、標的細胞の生産的感染に必要なgag/pol及びrevが削除されたレンチウイルスゲノムをこの系から除いた。さらに、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t_epHIV7ベクター構築物はインタクトな3’LTRプロモーターを含有しないので、標的細胞における発現及び逆転写DNAプロウイルスゲノムには不活性LTRがある。この設計の結果、HIV-1由来配列はプロウイルスから転写されず、治療配列のみが各プロモーターから発現される。SINベクターにおいてLTRプロモーター活性を除去すると、宿主遺伝子が意図せず活性化されうることを有意に低下させることが期待される(56)。表4は、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t_epHIV7に存在する種々のレギュレーター要素をまとめたものである。