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特開2023-52647標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ
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  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図1A
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図1B-D
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図2
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図3
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図4
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図5
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図6
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図7
  • 特開-標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052647
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】標的治療免疫調節のためのMHCクラスIb分子及びペプチドの組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230404BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230404BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230404BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20230404BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P37/02
A61P37/08
A61P37/06
A61P25/00
A61P19/02
A61P17/00
A61P1/04
A61P27/02
A61P9/00
A61P7/00
A61P17/06
A61P3/10
A61K48/00
C07K14/74 ZNA
C12N15/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/00 C
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023010057
(22)【出願日】2023-01-26
(62)【分割の表示】P 2020515282の分割
【原出願日】2018-05-18
(31)【優先権主張番号】17172444.6
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519417621
【氏名又は名称】ブリュッテル, ヴァレンティン
(71)【出願人】
【識別番号】510232393
【氏名又は名称】ユリウス・マクシミリアンス-ウニヴェルジテート・ヴュルツブルク
【氏名又は名称原語表記】Julius Maximilians-Universitaet Wuerzburg
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ブリュッテル, ヴァレンティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィシュフーセン,ヨルク
(57)【要約】
【課題】
本発明は、MHCクラスIb分子としても知られる、非古典的主要組織適合性複合体(MHC)の特定のペプチドとの組合せによる、治療的使用に関する。
【解決手段】
本発明は、より具体的には、非古典的MHCクラスIb分子の1又はそれ以上のドメインを含むタンパク質との組合せ、又はMHCクラスIb分子とその受容体との相互作用を妨げる分子との組合せによる、特定のペプチドの標的免疫調節作用に関する。本発明はまた、当該タンパク質の産生方法、当該タンパク質を含む医薬組成物、並びに、がん及び感染症を含む抗原特異的免疫反応が有益であるか、又は自己免疫疾患、器官/組織拒絶、医薬化合物に対する免疫反応又は生殖障害を含む抗原特異的免疫反応が有害な、病状の治療のためのその使用に関する。さらに、本発明はまた、抗原特異的寛容誘導中のMHCクラスIb分子に対する新規な作用機序を解明したものであるため、抗原特異的免疫寛容の誘導が望まれるが、それがこのメカニズムにより生理学的に阻害される場合に、当該メカニズムを阻害する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)単離ヒトMHCクラスIb分子、又はペプチド抗原をT細胞に提示しうる単離ポリペプチドであって、ここで、前記ポリペプチドは、ヒトMHCクラスIb分子の[α]3ドメイン又はヒトMHCクラスIb分子の[α]3ドメインの誘導体を含み、前記誘導体はILT2又はILT4に結合することができ、
b)前記a)のMHCクラスIb分子又はポリペプチドにより提示されるペプチド抗原、
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドを含み、かつ、前記ポリペプチドが、好ましくは、N末端からC末端に、MHCクラスIa分子の[α]1ドメイン及び[α]2ドメイン、その後に、前記[α]3ドメイン又は前記誘導体をその順序で含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の同一性を有するか、又は、
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも92%の同一性を有するか、又は、
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも94%の同一性を有するか、又は、
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも96%の同一性を有するか、又は、
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも98%の同一性を有するか、又は、
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも99%の同一性を有するか、又は、
前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、表面プラズモン共鳴分光法による測定で40μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうるか、又は、
前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、表面プラズモン共鳴分光法による測定で20μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、か、又は、
前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、表面プラズモン共鳴分光法による測定で10μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
さらに、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%、又は95%、又は98%同一である配列、を含むポリペプチドドメインを含むか、又は前記ポリペプチドドメインは、好ましくは、前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドに含まれる;及び/又は、
前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうる前記ポリペプチドが、さらに、1又はそれ以上のリンカー配列、又は、(GGGS)nリンカー配列を含むか、又は
前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、二量体又は多量体である;及び/あるいは、
前記ペプチド抗原の長さが、7~11アミノ酸長、又は、8~10アミノ酸長である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記a)のMHCクラスIb分子を含み、かつ、前記MHCクラスIb分子がHLA-E、HLA-F又はHLA-Gであり、又は、前記MHCクラスIb分子は、ヒトMHCクラスIb分子である、請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記b)のペプチド抗原が、前記a)のMHCクラスIb分子又はポリペプチドと共有結合するか、又は、
前記b)のペプチド抗原及び前記a)のMHCクラスIb分子又はポリペプチドがペプチド結合を介して共有結合し、かつ、単一のポリペプチド鎖の部分である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ペプチド抗原を提示しうる単離組換えポリペプチドであって、N末端からC末端に、以下に、
i)前記組換えポリペプチドにより提示されるペプチド抗原;
ii)場合によっては、第1のリンカー配列;
iii)場合によっては、ヒトβ2-マイクログロブリンの配列、又は配列番号6で表されるヒトβ2-マイクログロブリンのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列、を含むヒトポリペプチドドメインの配列;
iv)場合によっては、第2のリンカー配列;
v)場合によっては、MHC分子の[α]1ドメイン;
vi)場合によっては、MHC分子の[α]2ドメイン;
vii)MHCクラスIb分子の[α]3ドメイン、又はMHCクラスIb分子の[α]3ドメインのILT2又はILT4に結合しうる誘導体;かつ、
viii)場合によっては、プロテアーゼ切断部位;かつ、
ix)場合によっては、アフィニティータグ;
をその順序で含む、組換えポリペプチド。
【請求項9】
前記v)の前記[α]1ドメイン及び前記vi)の[α]2ドメインが、MHCクラスIa分子由来である、請求項8に記載の組換えポリペプチド。
【請求項10】
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の同一性を有するか、又は、
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも92%の同一性を有するか、又は、
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも94%の同一性を有するか、又は、
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも96%の同一性を有するか、又は、
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも98%の同一性を有するか、又は、
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも99%の同一性を有するか、又は、
前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一である、請求項8又は9に記載の組換えポリペプチド。
【請求項11】
前記ポリペプチドが、表面プラズモン共鳴による測定で40μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうるか、又は、
前記ポリペプチドが、表面プラズモン共鳴による測定で20μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうるか、又は、
前記ポリペプチドが、表面プラズモン共鳴による測定で10μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、請求項8~10のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項12】
前記ポリペプチドが二量体又は多量体である;及び/又は、
前記i)のペプチド抗原配列の長さが7~11アミノ酸長、又は8~10アミノ酸長である;及び/又は、
前記i)~vii)を全て含むか、又は、前記viii)~ix)を含まず、又は前記i)~ix)を全て含み;及び/又は、
さらに、N末端分泌シグナルペプチド配列を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
【請求項13】
医薬に用いるための、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物、又は請求項8~12のいずれか一項に記載の単離組換えポリペプチド。
【請求項14】
被験体におけるペプチド抗原特異的免疫調節のための方法に用いる、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物、又は請求項8~12のいずれか一項に記載の単離組換えポリペプチドであって、前記免疫調節は、前記医薬組成物又は前記組換えポリペプチドに含まれる前記ペプチド抗原に特異的であり、場合によっては、
前記免疫調節のための方法が、前記医薬組成物又は前記組換えポリペプチドに含まれる前記ペプチド抗原に対する免疫学的寛容を誘導する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物、又は請求項8~12のいずれか一項に記載の単離組換えポリペプチド。
【請求項15】
免疫調節のための方法が、免疫寛容を誘導する方法、免疫自己免疫疾患の抑制のための方法、アレルギーの抑制のための方法、生物学的製剤に対する免疫反応の抑制のための方法、胚性抗原に対する免疫反応の抑制のための方法、又は移植された細胞、組織若しくは器官に対する免疫反応、を抑制する方法であり、ここで、
前記自己免疫疾患が複数の器官、ホルモン産生器官、神経、関節、皮膚、胃腸系、眼、血液成分又は血管に影響を及ぼす、
請求項13又は14に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
【請求項16】
前記方法が、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、強皮症、視神経脊髄炎又は1型糖尿病の免疫応答を抑制する方法である、請求項14に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
【請求項17】
組換え宿主細胞を、前記核酸分子を発現させうる条件下で培養し、産生したポリペプチドを回収することを含む、請求項8~12のいずれか一項に記載の単離ポリペプチドの製造方法であって、ここで、前記組換え宿主細胞は、請求項8~12のいずれか一項に記載の単離組換えポリペプチドをコードする核酸分子を含み、場合によっては、前記核酸はベクターである、製造方法。
【請求項18】
A)ペプチド抗原に対する免疫学的寛容を誘導する方法が、さらに、ペプチド薬物の治療を含み、前記ペプチド抗原が:1)前記ペプチド薬物と同一であるか、又は2)前記ペプチド薬物の断片であるか、又は3)前記ペプチド薬物に対する免疫学的寛容を誘導しうる前記ペプチド薬物の断片の誘導体であり、ここで、前記ペプチド薬物は、前記ペプチド薬物そのものの形態で投与されるか、若しくは、前記ペプチド薬物をコードする遺伝子による遺伝子治療により投与されるか;又は、
B)ペプチド抗原に対する免疫学的寛容を誘導する方法が、さらに、タンパク質薬物の治療を含み、前記ペプチド抗原が1)前記タンパク質薬物の断片であるか、又は2)前記タンパク質薬物に対する免疫学的寛容を誘導しうる前記タンパク質薬物の断片の誘導体であり;ここで、前記ペプチド薬物は、前記ペプチド薬物そのものの形態で投与されるか、若しくは、前記ペプチド薬物をコードする遺伝子による遺伝子治療により投与される;
請求項14に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド抗原と組合せた非古典的ヒト主要組織適合複合体(MHC)分子(MHCクラスIb分子ともいう)の治療上の使用に関する。本発明は、より具体的には、非古典的MHCクラスIb分子の1又はそれ以上のドメインを含むタンパク質と併用する、又は、MHCクラスIb分子のその受容体への結合を阻害する分子と併用する、ペプチド抗原に関する。本発明はまた、当該タンパク質の産生方法、当該タンパク質を含む医薬組成物、並びに、がん及び感染症を含む抗原特異的免疫反応が有益であるか、又は自己免疫疾患、器官/組織拒絶、医薬化合物に対する免疫反応又は生殖障害を含む抗原特異的免疫反応が有害な、病状の治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
主要組織適合性複合体(MHC)抗原には、クラスI抗原(HLA-A、B、C、E、F、G)、クラスII抗原(HLA-DP、HLA-DQ及びHLA-DR)、クラスIII抗原の3種類が知られている。クラスI抗原としては、従来型/古典型MHC Ia抗原、HLA-A、HLA-B及びHLA-C、並びに非古典的MHC Ib抗原であるHLA-E、HLA-F及びHLA-Gがあげられる。クラスI抗原は3つの球状ドメイン([α]1、[α]2及び[α]3)を含む。MHC I複合体は、さらに、β2-マイクログロブリンと、[α]1ドメイン及び[α]2ドメインを含むペプチド結合溝に結合した提示されたペプチドとを含む。このように、ペプチド添加された従来のMHC Ia分子は、提示細胞の溶解をもたらす可能性があるペプチド特異的T細胞媒介免疫応答を開始しうる。このメカニズムはワクチン接種戦略に不可欠であり、特定の抗原に対する免疫反応を誘導するために、より短い又は長いペプチド(非特許文献1)、抗原をコードする核酸(非特許文献2)、タンパク質、又はしばしば弱毒化生物が開発され、臨床的に用いられている。抗原としては、ウイルス性、細菌性、又は腫瘍関連抗原があげられてよい。
【0003】
ほとんどのヒト組織で発現する従来型のMHC Ia分子とは異なり、HLA-G等の非古典的なMHC Ib抗原は著しく限定された組織でしか発現を示さない。生理学的に、高レベルのHLA-Gは、正常なヒト胎盤の絨毛外栄養膜により発現され、母体の免疫系から胎児を保護する免疫調節剤として機能する可能性が高い(母親による拒絶反応の欠如)。この仮説に従って、従前の研究では、HLA-Gタンパク質は増殖性Tリンパ球細胞応答、細胞傷害性Tリンパ球媒介細胞溶解、及びNK細胞媒介細胞溶解等の同種応答を阻害しうることが示されてきた(非特許文献3;非特許文献4)。
【0004】
HLA-G遺伝子の配列が記載されており(例えば、非特許文献5及び6)、4396塩基対を含む。この遺伝子は、8のエクソン、7のイントロン及び3’非翻訳末端から構成され、これは各々エクソン1:シグナル配列、エクソン2:[α]1細胞外ドメイン、エクソン3:[α]2細胞外ドメイン、エクソン4:[α]3細胞外ドメイン、エクソン5:膜貫通領域、エクソン6:細胞質ドメインI、エクソン7:細胞質ドメインII(非翻訳)、エクソン8:細胞質ドメインIII(非翻訳)及び3’非翻訳領域に対応する。HLA-Gの7つのアイソフォームが同定されており、そのうち4つは膜結合型(HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3及びHLA-G4)、3つは可溶性(HLA-G5、HLA-G6及びHLA-G7)である(例えば、非特許文献7参照)。成熟HLA-G1タンパク質アイソフォームは、3つの外部ドメイン(α1-α3)、膜貫通領域及び細胞質ドメインを含み、成熟HLA-G5タンパク質アイソフォームは、3つの外部ドメイン(α1-α3)及びイントロン4がコードする短い配列を含むが、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインはない。全ての可溶性HLA-Gアイソフォームには膜貫通ドメインと細胞質ドメインがなく、膜結合型アイソフォームの切断によっても産生される。
【0005】
HLA-Gは、Kir2DL4、ILT2(LILRB1)及びILT4(LILRB2、非特許文献8)等の特異的受容体とペプチド非依存的に相互作用する。T細胞に対するHLA-Gの最も顕著な免疫抑制作用には、ILT2及びILT4が介在する。当該受容体は、HLA-Gに含まれる[α]-3ドメイン及びHLA-F(非特許文献9)等の他のMHCクラスIb分子と相互作用するため、代表的なMHCクラスIb分子HLA-Gで観察される[α]-3ドメイン依存性の効果は、代替するMHCクラスIb分子によって誘導されうる。
【0006】
さらに、MHCクラスIb分子は、それらの[α]1及び[α]2ドメインを介してペプチドを提示することが知られている。当該ペプチドは、通常、8~10個のアミノ酸からなり、特定のアンカー残基を含有する(非特許文献10、非特許文献11)。しかしながら、本発明者らの知る限り、ヒトMHCクラスIb分子と同種のT細胞受容体とのペプチド特異的相互作用は、まだ研究されていない。同様に、動物モデルの明確なデータはない。Swansonらは、マウスMHC Ib分子がペプチド特異的免疫応答を誘導する可能性を示唆し(非特許文献12)、Wangらは、マウスQa2分子によるペプチド特異的免疫応答の抑制について報告する。(非特許文献13)。しかしながら、ヒトとマウスのMHC Ib分子は著しく異なる(非特許文献14)。HLA-G及びQa-2は、UniProtKB参照配列Q5RJ85(Q5RJ85_HUMAN)及びP79568(P79568_MOUSE)のプロテインブラストを用いて解析した配列同一性のわずか67%しか共有していないため、Qa-2から導かれた結論は細心の注意を払って取り扱わなければならず、ヒトHLA-Gには適用できるか否かの予測はできない。基礎科学及び前臨床研究におけるHLA-G機能の研究に適するマウスモデルを特定する著しい困難性が、最近総説論文(非特許文献15)に概説されている。
【0007】
すでに利用可能なデータに基づいて、HLA-Gタンパク質は、同種又は異種の臓器(器官)/組織移植における移植片拒絶反応の治療に用いうることが提唱されている。HLA-Gタンパク質はまた、血液悪性腫瘍(特許文献1)、炎症性疾患(特許文献2)、及びより一般的には免疫関連疾患の治療にも提案されている。さらに、HLA-Gは、しばしばヒト腫瘍により発現され(非特許文献16)、腫瘍微小環境において非特異的に免疫応答を抑制する免疫抑制性免疫チェックポイント分子のように機能すると考えられている(非特許文献17)。しかし、これらの研究のうち、HLA-Gに提示されたペプチドを分析したものはない。その結果、提示されたペプチドが観察されたMHCクラスIb介在効果を誘導しうるか否かという疑問は提起されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1054688号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1189627号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Slingluff,Cancer J.2011 Sep;17(5):343-350
【非特許文献2】Restifo et al.,Gene Ther.2000 Jan;7(2):89-92
【非特許文献3】Rouas-Freiss N.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,1997,94,5249-5254
【非特許文献4】Rouas-Freiss N.et al.,Semin Cancer Biol 1999,vol9,3
【非特許文献5】Geraghty et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1987,84,9145-9149
【非特許文献6】Ellis; et al.,J.Immunol.,1990,144,731-735
【非特許文献7】Carosella et al.,Blood 2008,vol.111,p4862
【非特許文献8】Clements et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2005 Mar1;102(9):3360-5
【非特許文献9】Lepin et al.,Eur.J.Immunol.2000.30:3552-3561
【非特許文献10】Diehl et al.Curr Biol.1996 Mar1;6(3):305-14
【非特許文献11】Lee et al.Immunity.1995 Nov;3(5):591-600
【非特許文献12】Swanson et al.,An MHC class Ib-restricted CD8 T cell response confers antiviral immunity,JEM 2008
【非特許文献13】Wang et al.,Sci.Rep.36064,31.Oct.2016
【非特許文献14】Pratheek et al.,Indian J Hum Genet.2014 Apr-Jun;20(2):129-141
【非特許文献15】Nguyen-Lefebvre et al.,2016
【非特許文献16】Carosella et al. Trends Immunol.2008 Mar;29(3):125-32
【非特許文献17】Carosella ED et al.,Adv Immunol.2015;127:33-144
【発明の概要】
【発明を解決しようとする課題】
【0010】
ヒトMHCクラスIb分子を研究する全てのマウスモデルに固有の限界を考慮すると、生体内でMHCクラスIb依存性機能を予測しうる機構を理解するためには、当該分子のヒトT細胞への作用をインビトロで探索する必要がある。抗原特異的免疫応答との関連では、細胞傷害性T細胞及び寛容原性T細胞の調節が重要である。細胞傷害性CD8+エフェクタT細胞(細胞傷害性Tリンパ球、CTLs)及び調節性T細胞(Treg)はいずれもMHC分子上に提示された抗原ペプチドを検出しうるが、CTLはそれらの同種抗原を発現する細胞を破壊でき、一方、調節性T細胞は、特にそれらの同種抗原が各組織により提示された場合に、組織防御的である(Wright et al.,2009 PNAS vol.106 no.45,19078-83)。重要なことは、抗原特異的調節性T細胞が標的組織中の同種抗原により活性化されると、バイスタンダー効果を発揮し、他の抗原に対する免疫応答を抑制しうることである。従って、CTLは、がん患者に有益でありうるが(Gajewski et al.,Nat.Immunol.14,1014-1022,2013)、自己免疫疾患では有害である。免疫応答を抑制するTreg細胞の機能はその反対である。Tregの不十分な活性又は機能は、マウスで重度の自己免疫疾患を引き起こし、ヒトの自己免疫疾患にも関連している可能性がある(Bluestone et al.,J Clin Invest.2015;125(6):2250-2260)。したがって、細胞傷害性T細胞の阻害(又は阻害解除)及びTregの誘導(又は阻害)のための戦略が必要である。
【0011】
現在の臨床診療では、病理学的免疫応答により引き起こされる疾患(例えば、自己免疫疾患)は、通常、標的抗原とは無関係に免疫応答を抑制する治療薬で治療されるが、これは、重篤で、しばしば用量を制限する副作用を誘発し、日和見感染のリスクが高まる。従って、当該疾患の治療のための手段及び使用が改善される必要がある。その結果、当技術分野では、より標的化された抗原特異的な手段による免疫系の治療的調節のための改良された手段及び用途が必要とされている。
【0012】
一方、がんを含む、特定の抗原に対する免疫応答が望まれる疾患の治療のための手段及び使用も改善される必要である。例えば、がん免疫療法について報告されているワクチン接種アプローチの多くは、がんにより発揮される免疫抑制メカニズムのために効果がないことが示されている。従って、がんを含む当該疾患の治療のための手段及び使用も改善される必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは驚くべきことに、HLA-G等のヒトMHCクラスIb分子には、提示されたペプチド抗原に対して抗原特異的寛容の誘導能があることを見出した。従って、抗原ペプチド特異的免疫応答を誘導する古典的なヒトMHCクラスIa分子の構造及び配列は同様であるが、本発明によれば、MHCクラスIb分子を有利に用いることができ、抗原特異的に免疫応答を抑制しうる。特定の抗原に対する免疫応答の抗原特異的抑制は、抗原特異的細胞傷害性T細胞を除去するか、又は、自己免疫攻撃を受けやすい組織で発現する各々の自己抗原又は他の標的抗原のいずれかを認識する抗原特異的調節性T細胞を誘導することにより誘導しうる。上記によれば、本発明者らは、例示的なヒトMHCクラスIb分子を用いて、(図1に例示的に示すように)細胞傷害性エフェクタT細胞を除去することができ、(図7に例示的に示すように)寛容性調節T細胞を抗原ペプチド特異的に誘導しうることを示した。非限定的な実施形態では、当該効果は、特定のペプチド抗原を膜結合MHCクラスIb分子又は可溶性MHCクラスIb分子のいずれかと組合せることで達成しうる。一方、抗原特異的免疫応答の誘導が望まれる状況では、MHCクラスIb関連免疫寛容を破壊する必要がある。本発明者らは、ヒトMHC Ib分子の当該受容体への結合を遮断する薬剤を介してこれを達成しうることを見出した。
【0014】
従って、本発明によれば、MHCクラスIb分子と組み合わされたペプチドは、有利には、抗原特異的又は組織特異的な免疫応答を抑制するために用いられうる。標的抗原によらず免疫応答を抑制する多くの従来の治療薬では、その特異性の欠如により重度で用量制限的な副作用が誘発され、日和見感染のリスクが高まるため、それらと比較すると、これは有意な利点である。
【0015】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、本発明による免疫応答の抑制のために、天然に存在するMHCクラスIb分子以外の分子、特に、MHCクラスIb分子の少なくとも1つのドメイン、好ましくは、MHCクラスIb分子の少なくとも[α]3ドメインのみを含むポリペプチドを用いうることを見出した。図7及び図8に例示するように、可変クラスIa分子の[α]1及び[α]2ドメインは、ヒトMHCクラスIb分子の[α]3ドメインと生産的に組合せることができ、それにより当該抗原により提示されるペプチドに対する免疫応答が抑制される。
【0016】
従って、本発明によれば、例えば、MHCクラスIb分子の免疫抑制性[α]3ドメインを、例えば、MHCクラスI[α]1及び2ドメインにより提示される標的抗原と組合せて用いることは、多くの自己免疫疾患において有益であろう。
【0017】
一方、本発明者らの新たな驚くべき知見は、MHCクラスIb分子により誘導される抗原特異的免疫応答の抑制が、MHCクラスIb分子の受容体への結合を妨げる薬剤により回復されうることも示す。従って、本発明によれば、MHCクラスIb分子に対する抗体(図2に例示)又はILT2及びILT4を含むそれらの受容体(図1に例示)等の阻害剤は、有利には、特定の抗原に対する免疫応答が望まれる疾患の治療に用いうる。これらには、胃がん、胃腸間質がん、頭頸部がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、子宮頸がん、外陰部がん、膣がん、尿路上皮がん、精巣がん、大腸がん、膵臓がん、皮膚がん及び肉腫(例えば、http://medicalgenome.kribb.re.kr/GENT/search/view_result.phpを参照)等のがん、並びにトリパノソーマ症(例えば、Gineau et al.,Clin Infect Dis.2016 Nov.1;63(9):1189-1197を参照)、サイトメガロウイルス感染(例えば、Cosman et al.,Immunity.1997 Aug;(2):273-82を参照)、HTLV-1感染(例えば、Ciliao Alves et al.,J Gen Virol.2016 Oct;97(10):2742-2752を参照)、C型肝炎感染(例えば、Ding et al.,Med Sci Monit.2016 Apr 26;22:1398-402を参照)、又は熱帯熱マラリア感染(例えば、Garcia et al.,Infect Genet Evol.2013 Jun;16:263-9参照)を含むが、感染症はこれらに限定されない。
【0018】
選択された抗原に対する特異的免疫応答を最初に誘導する必要がある状況では、ペプチド若しくはタンパク質、若しくは弱毒化病原体、又はタンパク質をコードするDNA若しくはRNAを含むワクチンが、当技術分野で通常用いられる。しかし、当該ワクチン接種は、反応を誘発できないか、望ましくない耐性を誘発する場合すらある(非特許文献1)。腫瘍細胞(非特許文献16)及びウイルス感染細胞(Rizzo et al.,Front Immunol.2014;5:592)は、MHCクラスIb分子上のHLA-G抗原提示等のMHCクラスIb分子を発現することから、MHCクラスIb分子の提示はこの障害の原因となりうる。従って、本発明によれば、MHCクラスIb分子の受容体への結合を特異的に遮断する薬剤を用いて、特異的抗原性タンパク質又はペプチドを用いてペプチド特異的又はタンパク質特異的免疫応答を誘導する治療の有効性を高めることができる。これには、外部から与えられたワクチンに基づく治療を含むが、死にかけている腫瘍細胞から放出された抗原性物質が、放射線療法又は化学療法等の抗原特異的T細胞応答を誘導しうる治療にも拡張することができる(例えば、当該治療については、Zitvogel et al.,Nature Reviews Immunology 8,59-73,January 2008を参照)。一方、生物学的製剤による治療又は遺伝子治療で誘発される望ましくないワクチン接種効果は、抗薬物抗体の発生を防止するためにMHCクラスIbベースの構築物を添加することにより相殺されうる。
【0019】
したがって、本発明は、以下の好ましい実施形態に関する。
(1)a)ヒトMHCクラスIb分子、又はペプチド抗原をT細胞に提示しうるポリペプチドであって、ここで、前記ポリペプチドがヒトMHCクラスIb分子の[α]3ドメイン、又は、ヒトMHCクラスIb分子の[α]3ドメインのILT2又はILT4に結合しうる誘導体を含み;
b)前記a)のMHCクラスIb分子又はポリペプチドにより提示されるペプチド抗原;
を含む、医薬組成物。
(2)前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドを含み、かつ、前記ポリペプチドが、好ましくは、N末端からC末端に、MHCクラスIa分子の[α]1ドメイン及び[α]2ドメイン、その後に、前記[α]3ドメイン又は前記誘導体をその順序で含む、(1)に記載の医薬組成物。
(3)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の同一性を有する、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(4)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも92%の同一性を有する、(3)に記載の医薬組成物。
(5)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも94%の同一性を有する、(3)に記載の医薬組成物。
(6)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも96%の同一性を有する、(3)に記載の医薬組成物。
(7)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか又は少なくとも98%の同一性を有する、(3)に記載の医薬組成物。
(8)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも99%の同一性を有する、(3)に記載の医薬組成物。
(9)前記MHCクラスIb分子又はポリペプチドに含まれる前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一である、(3)に記載の医薬組成物。
(10)前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、表面プラズモン共鳴分光法による測定で40μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(11)前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、表面プラズモン共鳴分光法による測定で20μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(12)前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、表面プラズモン共鳴分光法による測定で10μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(13)前記医薬組成物が、さらに、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%同一である配列、を含むポリペプチドドメインを含み、かつ、ここで前記ポリペプチドドメインは、好ましくは、前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドに含まれる、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(14)前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうる前記ポリペプチドが、さらに、1又はそれ以上のリンカー配列、好ましくは(GGGS)nリンカー配列を含む、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(15)前記a)のMHCクラスIb分子又は前記a)のペプチド抗原を提示しうるポリペプチドが、二量体又は多量体である、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(16)前記ペプチド抗原の長さが、7~11アミノ酸長、好ましくは8~10アミノ酸長である、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(17)前記医薬組成物が、前記a)のMHCクラスIb分子を含み、かつ、前記MHCクラスIb分子がHLA-E、HLA-F又はHLA-Gである、(1)及び(3)~(16)のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(18)前記MHCクラスIb分子がHLA-Gである、(17)に記載の医薬組成物。
(19)前記MHCクラスIb分子がヒトMHCクラスIb分子である、(17)又は(18)に記載の医薬組成物。
(20)前記b)のペプチド抗原が、前記a)のMHCクラスIb分子又はポリペプチドと共有結合している、上記のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(21)前記b)のペプチド抗原及び前記a)のMHCクラスIb分子又はポリペプチドがペプチド結合を介して共有結合し、かつ、単一のポリペプチド鎖の部分である、(20)に記載の医薬組成物。
(22)ペプチド抗原を提示しうる組換えポリペプチドであって、N末端からC末端に、
i)前記組換えポリペプチドにより提示されるペプチド抗原;
ii)場合によっては、第1のリンカー配列;
iii)場合によっては、ヒトβ2-マイクログロブリンの配列、又は配列番号6で表されるヒトβ2-マイクログロブリンのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列、を含むヒトポリペプチドドメインの配列;
iv)場合によっては、第2のリンカー配列;
v)場合によっては、MHC分子の[α]1ドメイン;
vi)場合によっては、MHC分子の[α]2ドメイン;
vii)MHCクラスIb分子の[α]3ドメイン、又はMHCクラスIb分子の[α]3ドメインのILT2又はILT4に結合しうる誘導体;かつ、
viii)場合によっては、プロテアーゼ切断部位;
ix)場合によっては、アフィニティータグ;
をその順序で含む、組換えポリペプチド。
(23)前記v)の前記[α]1ドメイン及び前記vi)の[α]2ドメインが、MHCクラスIa分子由来である、(22)に記載の組換えポリペプチド。
(24)前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の同一性を有する、(22)又は(23)に記載の組換えポリペプチド。
(25)前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも92%の同一性を有する、(24)に記載の組換えポリペプチド。
(26)前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも94%の同一性を有する、(24)に記載の組換えポリペプチド。
(27)前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも96%の同一性を有する、(24)に記載の組換えポリペプチド。
(28)前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも98%の同一性を有する、(24)に記載の組換えポリペプチド。
(29)前記[α]3ドメイン又は誘導体のアミノ酸配列が、配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも99%の同一性を有する、(24)に記載の組換えポリペプチド。
(30)前記[α]3ドメインのアミノ酸配列が配列番号11の[α]3ドメインのアミノ酸配列と同一である、(24)に記載の組換えポリペプチド。
(31)前記ポリペプチドが、表面プラズモン共鳴による測定で40μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(32)前記ポリペプチドが、表面プラズモン共鳴による測定で20μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(33)前記ポリペプチドが、表面プラズモン共鳴による測定で10μM未満の親和定数KdでILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(34)前記ポリペプチドが二量体又は多量体である、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(35)前記i)のペプチド抗原配列の長さが7~11アミノ酸長、好ましくは8~10アミノ酸長である、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(36)前記i)~vii)を全て含むが、好ましくは前記viii)~ix)を含まない、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(37)前記i)~ix)を全て含む、(22)~(35)のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(38)さらに、N末端分泌シグナルペプチド配列を含む、上記のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(39)医薬に用いる、(1)~(21)のいずれか一項に記載の医薬組成物、又は(22)~(38)のいずれか一項に記載の組換えポリペプチド。
(40)被験体に対するペプチド抗原特異的免疫調節の方法に用いる、(1)~(21)のいずれか一項に記載の医薬組成物、又は(22)~(38)のいずれか一項に記載の組換えポリペプチドであって、前記免疫調節は、前記医薬組成物又は前記組換えポリペプチドに含まれる前記ペプチド抗原に特異的である、医薬組成物又は組み換えポリペプチド。
(41)前記免疫調節の方法が、前記医薬組成物又は前記組換えポリペプチドに含まれる前記ペプチド抗原に対する免疫学的寛容を誘導する、(40)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(42)免疫調節の方法が、免疫自己免疫疾患、アレルギー、生物学的製剤に対する免疫反応、胚性抗原に対する免疫反応、又は移植された細胞、組織若しくは器官に対する免疫反応、を抑制する方法である、(40)又は(41)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(43)免疫調節の方法が免疫寛容を誘導する方法であり、ここで、前記自己免疫疾患が複数の器官、ホルモン産生器官、神経、関節、皮膚、胃腸系、眼、血液成分又は血管に影響を及ぼす、(42)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(44)前記方法が、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、強皮症、視神経脊髄炎又は1型糖尿病の免疫応答を抑制する方法である、(41)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(45)(22)~(38)のいずれか一項に記載のポリペプチド又は(1)~(21)のいずれか一項に記載のポリペプチド若しくはMHCクラスIb分子をコードする核酸。
(46)前記核酸がベクターである、(45)に記載の核酸。
(47)(45)又は(46)に記載の核酸を含む医薬組成物。
(48)(45)又は(46)に記載の核酸分子又はベクターを含む組換え宿主細胞。
(49)(48)に記載の組換え宿主細胞を、前記核酸分子を発現させうる条件下で培養し、産生されたポリペプチドを回収することを含む、(22)~(38)のいずれか一項に記載のポリペプチドの製造方法。
(50)a1)抗原性タンパク質若しくはペプチド抗原、又は前記抗原性タンパク質若しくはペプチド抗原をコードする核酸、又は前記抗原性タンパク質若しくはペプチド抗原を含む弱毒化生物;又は、
a2)前記a1)のペプチド抗原を提示する細胞;及び、
b)MHCクラスIb分子とその受容体の結合を遮断しうる薬剤、
の組合せであって、
ヒト被験体の前記抗原性タンパク質又はペプチド抗原に対する免疫応答を誘導する方法で用いる、組合せ。
(51)前記薬剤が、前記ヒトMHCクラスIb分子及び/又はその受容体に結合しうる、(50)に記載の組合せ。
(52)前記薬剤がHLA-Gに結合しうる、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(53)前記薬剤が、HLA-Gに結合しうる抗体、好ましくはモノクローナル抗体である、(50)~(52)のいずれか一項に記載の組合せ。
(54)前記薬剤がILT2又はILT4に結合しうる、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(55)前記薬剤が、ILT2又はILT4に結合しうる抗体、好ましくはモノクローナル抗体である、上記のいずれかに記載の組合せ。
(56)前記薬剤が、抗体のFcドメイン又はその断片を含む、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(57)前記薬剤がMHCクラスIb分子の[α]3ドメインを含む、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(58)前記薬剤が、ILT2又はILT4受容体の1又はそれ以上の細胞外ドメイン、好ましくは、ILT2又はILT4受容体の少なくとも2のN末端細胞外ドメインを含み、かつ、ここで、前記薬剤が、より好ましくは、可溶性ILT2又はILT4受容体を含む、上記のいずれかに記載の組合せ。
(59)前記薬剤が、前記抗原性タンパク質若しくはペプチド抗原、又は前記抗原性タンパク質若しくはペプチド抗原をコードする前記核酸、又は前記抗原性タンパク質若しくはペプチド抗原を含む前記弱毒化生物と同時、それ以前、又はそれ以後に、投与される、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(60)前記組合せが、a)抗原性タンパク質又はペプチド抗原;及び、b)前記MHCクラスIb分子とその受容体の結合を遮断しうる薬剤の組合せである、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(61)前記組合せが、a)抗原性タンパク質又はペプチド抗原をコードする核酸;及び、b)前記MHCクラスIb分子とその受容体の結合を遮断しうる薬剤の組合せである、(50)~(59)のいずれか一項に記載の組合せ。
(62)前記組合せが、a)抗原性タンパク質又はペプチド抗原を含む弱毒化生物;及び、b)前記MHCクラスIb分子とその受容体の結合を遮断しうる薬剤の組合せである、(50)~(59)のいずれか一項に記載の組合せ。
(63)前記抗原性タンパク質又はペプチド抗原を含む前記弱毒化生物が弱毒化ウイルスである、(62)に記載の組合せ。
(64)前記a)の抗原性タンパク質又はペプチド抗原が、腫瘍抗原又は前記腫瘍抗原と少なくとも77%同一であり、前記抗原に対する交差防御を誘導しうる抗原である、(50)~(62)のいずれか一項に記載の組合せ。
(65)前記方法が、T細胞ベースの免疫療法のための方法である、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(66)前記抗原性タンパク質又はペプチド抗原が病原性の微生物又はウイルスにおいて検出可能である、(50)~(63)及び(65)のいずれか一項に記載の組合せ。
(67)前記方法が、感染症又は悪性疾患の治療又は予防の方法である、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(68)前記疾患ががんであり、ペプチド抗原が腫瘍抗原である、(67)に記載の組合せ。
(69)前記がんが、メラノーマ、腎がん、卵巣がん、結腸直腸がん、乳がん、胃がん、膵管腺がん、前立腺がん、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、及び肺がんからなる群より選択される、(68)に記載の組合せ。
(70)前記組合せが1の医薬組成物中に存在する、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(71)前記抗原性タンパク質又はペプチド抗原に対する前記免疫応答が、前記抗原性タンパク質又はペプチド抗原に特異的である、上記のいずれか一項に記載の組合せ。
(72)ヒト被験体に対するがんの治療方法で用いられる、(50)~(62)のいずれか一項に記載のMHCクラスIb分子とその受容体との結合を遮断しうる薬剤であって、前記方法が、前記がんの細胞からがん抗原の放出をもたらす治療を含む、薬剤。
(73)前記がん抗原の放出をもたらす治療が、化学療法又は放射線療法である、(72)に記載の薬剤。
(74)ペプチド抗原に対する免疫学的寛容を誘導する方法が、さらに、ペプチド薬物の治療を含み、前記ペプチド抗原が:1)前記ペプチド薬物と同一であるか、又は2)前記ペプチド薬物の断片であるか、又は3)前記ペプチド薬物に対する免疫学的寛容を誘導しうる前記ペプチド薬物の断片の誘導体である、(41)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(75)ペプチド抗原に対する免疫学的寛容を誘導する方法が、さらに、タンパク質薬物の治療を含み、前記ペプチド抗原が1)前記タンパク質薬物の断片であるか、又は2)前記タンパク質薬物に対する免疫学的寛容を誘導しうる前記タンパク質薬物の断片の誘導体である、(41)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(76)前記ペプチド薬物は、前記ペプチド薬物そのものの形態で投与される、(74)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(77)前記タンパク質薬物は、タンパク質薬物そのものの形態で投与される、(75)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(78)前記ペプチド薬物は、前記ペプチド薬物をコードする遺伝子による遺伝子治療により投与される、(74)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
(79)前記タンパク質薬物は、前記タンパク質薬物をコードする遺伝子による遺伝子治療により投与される、(75)に記載の医薬組成物又は組換えポリペプチド。
【0020】
本発明は、いかなる哺乳動物被験体、好ましくはヒト被験体に用いられてよい。
【0021】
好ましくは、MHCクラスIb又はILT2/4に対する遮断剤を用いた免疫刺激性T細胞指向性治療の上記組合せが用いられるべき適応症としては、腫瘍滲出液、血液試料、生検、又は悪性細胞又は非悪性細胞の他の手段において、ポリメラーゼ連鎖反応、ELISA、ウェスタンブロッティング、免疫蛍光、免疫組織化学、及びその他の方法(Paul et al.,Hum Immunol.2000 Nov;61(11):1177-95の記載)により、HLA-G又は他のMHCクラスIb分子のレベルの上昇が検出可能である、ウイルス感染及び腫瘍があげられる。HLA-Gは多くの組織では発現されないが、少量でも著しく強力であるため、他の点ではHLA-G欠損組織での検出可能なレベルの発現、又は基礎(basal)HLA-G発現を示す組織での生理学的レベルを50%上回るレベルの発現は、本発明によれば好ましい上昇レベルと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】特定のペプチドが添加されたMHC Ib分子を発現する細胞は、提示されたペプチドに特異的なCTLを選択的に除去することを示す図である。(A)及び(B)モデル抗原STEAP1(CD8st)を認識するHLA-A2制限CD8+エフェクタT細胞は、その同種ペプチドが、非古典的MHCクラス1b分子HLA-Gの高発現を示す腫瘍細胞株JEG-3上に提示されるが、古典的MHCクラス1a分子はほとんど検出されない場合、選択的に除去されうる。STEAP1は、本明細書では一般に「STEAP」、「steap」、又は「st」と記載されることに留意されたい。これらの用語は同義で用いられ、互換性がある。抗原PRAME(CD8pr)に特異的な共培養CD8+エフェクタT細胞は影響を受けない。(C)STEAP1特異的T細胞に同種ペプチドを添加しても、JEG-3を発現するHLA-G腫瘍細胞は、このプロセスでは除去されない。これは、腫瘍又は感染細胞により発現されたMHC Ib分子が、これらの細胞を、通常はペプチドベースのワクチン接種戦略の主要なエフェクタである抗原特異的T細胞による標的化に対して耐性にする可能性があることを示す。(D)HLA-Gに提示されたSTEAP1ペプチドによるSTEAP1特異的T細胞におけるアポトーシスの誘導は、T細胞上に発現されるHLA-G相互作用パートナーILT-2に対する中和抗体により強力に減弱されうる。
図2】特定のペプチドが添加されたMHC Ib分子は、抗原及びHLA-G依存的に同種CTLの細胞毒性能を損なうことを示す図である。STEAP1又はPRAME各々に特異的なHLA-A2制限T細胞クローンを混合し、対照(+)又はSTEAP1ペプチド添加(st)JEG-3細胞で前処理した。示される場合には、中和抗ヒトHLA-G抗体(クローン87G)を10μg/mlで添加した。16時間後、ルシフェラーゼ発現ナイーブ(灰色バー)又はHLA-A2+ UACC-257を添加したSTEAP1-ペプチド(黒色バー)メラノーマ細胞に対するSTEAP1特異的T細胞の細胞毒性能を2:1の比で試験した。8時間後、D-ルシフェリンを添加し、生体光生存率アッセイ(Brown et al.,J Immunol Methods.2005 Feb;297(1-2):39-52)を用いて、標的細胞の生存率をルミノメーターで測定した。HLA-G発現JEG-3にSTEAP1ペプチドを添加した場合、STEAP1特異的CTLの溶解能を90%以上低下させたが、ナイーブJEG-3細胞でおこった阻害は有意ではなかった。この効果は、部分的に中和するHLA-G抗体の存在により有意に減弱されうるため、ペプチド添加HLA-Gを用いて選択された抗原に対するT細胞媒介性免疫反応を阻害しうると結論できる。本発明によれば、この効果は、さらなるMHCクラスIb分子に拡張しうる。一方、本発明による抗原特異的T細胞媒介性免疫応答の誘導は、MHC Ibを遮断する薬剤により達成しうる。
図3】特定のペプチドと組み合わされたMHC Ib分子は同種CTLを阻害するが、他の抗原に対する免疫応答はほとんど影響を受けないことを示す図である。STEAP1に特異的なHLA-A2制限T細胞クローン、HLA-A2-STEAP1及びHLA-A2-PRAMEに特異的PRAME T細胞クローンを混合し、未処理(ctrl)又は対照(JEG-3)又はSTEAP1ペプチド添加(JEG-3st)JEG-3細胞で前処理した。8時間後、ルシフェラーゼ発現PRAME-ペプチド(濃灰色バー)又はHLA-A2+UACC-257メラノーマ細胞を発現するSTEAP1-ペプチド添加ルシフェラーゼ(薄灰色バー)に対する両T細胞クローンのペプチド特異的細胞毒性能を1:1の比で試験した。STEAP1-ペプチド添加JEG-3細胞による前処理は、STEAP1ペプチド特異的T細胞介在免疫応答を約50%阻害したが、PRAME特異的免疫反応はナイーブ又はSTEAP1-ペプチド添加JEG-3細胞によりほとんど変化しなかった。
図4】治療抗原特異的免疫調節の達成に適するペプチド添加可溶性MHC Ib分子を示す図である。提示されたペプチド抗原は点球体で示し、HLA-Gα1-3ドメインは薄灰色で、β2-マイクログロブリンドメインは濃灰色で示す。抗原ペプチドとβ2-マイクログロブリン分子とを連結する任意のリンカーを灰色棒状で示し、場合によっては存在してよいジスルフィドトラップを黒球体で示す。この図は非特許文献8及びHansen et al.,Trends Immunol. 2010 Oct;31(10):363-9に開示されているPymolを用いて作成された。
図5】治療用ペプチド特異的免疫調節に適した単鎖MHC Ib分子をコードするベクターベースの構築物の例を示す図である。HLA-G1及びHLA-G5は各々、3つの[α]ドメイン(ここでは黒)、非共有結合的に結合したβ2-マイクログロブリンサブユニット(ここでは濃灰色)、及びHLA-G上に提示された抗原ペプチド(短い黒矢印)からなる。HLA-G1は、膜貫通ドメインと短い細胞内鎖をさらに含む(ここには表示せず)。本明細書に示すように、[α]-3ドメインは、免疫細胞上の受容体ILT2(Shiroishi et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2003 July 22;100(15):8856-8861を参照のこと)及びILT4(Shiroishi et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2006 Oct 31;103(44):16412-7を参照のこと)に結合しうる。生理学的には、これらの配列は非共有結合的に結合したMHCクラス1複合体を形成する。2つのタンパク質タグ(myc及びHis(6x))が導入され、Xa因子の切断による後の除去が可能になり、複合体MHC Ib分子の精製が簡素化された。さらに、抗原ペプチド、β2-マイクログロブリン及びMHC Ib[α]鎖を連結して安定性を高めることができる。ベクターマップはSnapgene Viewer Softwareを用いて作成した。
図6】可溶性ペプチドHLA-G/ペプチド-MHC Ib複合体を樹状細胞(DC-10)と組み合わせて、提示された標的抗原を認識するCD8+エフェクタT細胞を選択的に除去しうることを示す図である。GM-CSF、IL4及びIL10(DC-10)の存在下で単球から樹状細胞を作製した後、可溶性ペプチドMHC Ib構築物を含む細胞培養上清を4時間添加した。提示されたMelan-A/MART1(dtGmelA)ペプチド又はSTEAP1(dtGsteap)ペプチドを含むジスルフィドトラップ安定化単鎖HLA-G5構築物を用いた。これらの構築物がDC-10細胞に結合することは、以前に確認されていた。次いで、添加されたDC-10細胞を洗浄し、対照CTL(PRAME特異的、CD8pr)又は標的CTL(STEAP1特異的、CD8st)と1:1の比で48時間共培養した。これらのデータは、可溶性MHC Ib-ペプチド構築物を添加された樹状細胞が同種T細胞クローンをほぼ完全に枯渇させるが、非同種CTLは影響を受けないことを示唆する。
図7】ペプチド添加MHC Ib複合体は提示されたペプチドを認識するヒト抗原特異的調節性T細胞を誘導することを示す図である。A)末梢血単核細胞(PBMC)を様々な健常ドナーから採取し、Melan‐A/MART1(MART1)ペプチド又はSTEAP1(STEAP)ペプチドを添加した照射JEG‐3細胞と共に、5%hAB血清、5ng/ml TGFβ1、20ng/ml IL2(Treg培地)を含むRPMI1640培地中で14日間共培養した。7日目に、PBMCを新鮮な培地に移し、照射し、ペプチド添加JEG-3細胞を再度添加した。Miltenyi Biotec(抗CD3、抗CD28及び抗CD2)由来のTreg拡張ビーズを陽性対照として用いた。得られた細胞を、ヒトCD4及びCD25に対する抗体、HLA-A2 STEAP1ペプチドデキストラマー(STEAP1 dex)で染色し、フローサイトメトリーにより分析した。STEAP1添加JEG-3細胞が存在した場合には、CD4+ CD25高Treg集団内のSTEAP1特異的細胞の有意な濃縮が観察された。B)図6に記載のように、Melan-A(dtGmelA)ペプチド又はSTEAP1(dtGsteap)ペプチドを提示するジスルフィドトラップ単鎖HLA-G構築物をウェル当たり4×10個のDC-10細胞に添加し、その後、同じドナー由来の4×10個のPBLを添加し、細胞をTreg培地中で7日間培養した。次いで、4×10と同一量のDC-10を各ウェルに添加した。合計14日後、メランA特異的IL-10産生Treg細胞をフローサイトメトリーにより定量した。メランA特異的Tregの数は、対照分子(STEAP1)又は未処理PBLと比較して、PBLが単鎖Melan A HLA‐G分子を添加したDC‐10と共培養された条件で大幅に増加した。
図8】ヒトMHC Ibα3ドメインをDCと組合せて含む単鎖ペプチドMHC構築物は、提示されたペプチドに特異的なマウスTreg細胞を誘導することを示す図である。マウスDC(mDC)は、マウスGM-CSF遺伝子をトランスフェクトしたAg8653骨髄腫細胞由来の10% GM-CSF含有上清を添加した完全RPMI-1640中で、骨髄由来細胞を7日間培養して生成した。mDCに、対照CHO上清(CHO/ctrl)又はヒトHLA-Gα3ドメインを含む単鎖ペプチドMHC分子とマウスH-2Kbα1及び2ドメイン(H2Kb)により提示されるオボアルブミンペプチドをコードするプラスミドをトランスフェクトしたCHO細胞の上清を添加した。マウスH-2Kbα1及び2ドメインの代わりにヒトHLA-A2α1及び2ドメイン(A2G)を含む同様の構築物を対照として含めた。構築物の発現は、上清のウエスタンブロット法により確認した。A及びB:H-2Kb呈示OVAペプチド(SIINFEKL)を認識するトランスジェニックT細胞受容体のみを発現するOT1マウス由来の脾細胞を、Treg許容培地(完全RPMI,5ng/ml IL-2,5ng/ml TGF-β1)中で、添加したmDCと2.5:1の比で14日間培養した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義と一般技術
以下に別途定義されない限り、本発明で用いられる用語は、当業者に知られているそれらの共通の意味に従って理解されるものとする。本明細書で引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
本発明によるポリペプチド及びMHC分子を含む、本発明による全てのタンパク質は、当技術分野で公知の方法により産生されうる。当該方法には、組換えタンパク質の製造方法が含まれる。本発明によるポリペプチド及びMHC分子を含む本発明によるタンパク質は、場合によっては分泌シグナルペプチド配列を含むことを意味することが理解されるであろう。同様に、本発明によるタンパク質は、例えば精製を容易にするためのアフィニティータグ、及び場合によっては、例えばプロテアーゼ切断によるタグの除去を容易にするための当該タグとタンパク質との間のプロテアーゼ切断部位を含むことも意味する。
同様に、本発明によるポリペプチド及びMHC分子を含む本発明によるタンパク質は、各々のプロペプチドを含むことが理解されるであろう。
本発明のポリペプチド及びMHC分子は、それらの可溶性形態又は膜結合形態でありうることも理解されるであろう。
【0025】
本発明によれば、MHC分子は、好ましくはヒトMHC分子である。
本発明により用いられるMHC分子、本発明のポリペプチド、及び本発明による抗体を含む、本発明のタンパク質及びポリペプチドは、好ましくは単離される。
本発明により用いられるMHC分子、本発明のポリペプチド、及び本発明による抗体を含む、本発明のタンパク質及びポリペプチドは、好ましくは組換え体である。
【0026】
本発明のペプチド抗原に結合し、提示しうるポリペプチドの調製方法は理解されるであろう。例えば、[α]1及び[α]2ドメイン等のペプチド抗原結合ドメインは知られており、当該ドメインを修飾しうる。本発明のポリペプチド及びMHC分子への結合するペプチド抗原の結合能は、MHCペプチド溶出及びその後の質量分析及びインシリコバイオインフォマティック予測等の探索的方法、並びにMHCペプチド多量体結合法及び刺激アッセイ等の確認的方法を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の技術で決定しうる。
本発明で用いられるペプチド抗原に関して、本明細書に記載されたこれらのペプチド抗原のいかなる長さ(例えば、「7~11アミノ酸長」)も、ペプチド抗原自体の長さを意味することが理解されるであろう。従って、本明細書に記載されたペプチド抗原の長さは、考えられるリンカー配列からの追加のアミノ酸等のペプチド抗原の部分ではない追加アミノ酸により付与される長さを含まない。
【0027】
本明細書中で用いられる、用語「自己免疫疾患」は、当業者に公知のその共通の意味により、特定の自己免疫疾患には限定されない。本発明の全ての実施形態では、自己免疫疾患は、好ましくは、ペプチド自己抗原に対する自己免疫反応を含む自己免疫疾患である。
【0028】
本発明の用語「含む(comprising)」は、場合によっては用語「からなる(consisted of)」で置換されてよい。
【0029】
〔方法及び技術〕
一般に、本明細書に別段の定義がない限り、本発明で用いられる方法(例えば、クローニング方法又は抗体に関する方法)は、当該分野で公知の方法、例えば、全て参照により本明細書に組み込まれる、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.”,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York 1989)、Ausubelら(“Current Protocols in Molecular Biology.”Greene Publishing Associates and Wiley Interscience;New York 1992)、並びにHarlow及びLane(“Antibodies:A Laboratory Manual”Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York 1988)に記載される。
【0030】
各々の標的タンパク質に対する抗体の結合等のタンパク質-タンパク質結合は、当技術分野で公知の方法で評価しうる。各々の標的タンパク質に対する抗体の結合等のタンパク質-タンパク質結合は、好ましくは、表面プラズモン共鳴分光法による測定で評価される。
例えば、本発明によるMHCクラスIb分子又はポリペプチドの、それらのILT2及びILT4を含む受容体への結合は、好ましくは、表面プラズモン共鳴スペクトル測定により評価される。より好ましくは、本発明によるMHCクラスIb分子又はポリペプチドのそれらの受容体への結合は、25℃での表面プラズモン共鳴分光法による測定で評価される。当該表面プラズモン共鳴分光法測定ための適切な条件は、Shiroishi et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2003 July22;100(15):8856-8861により記載されている。
【0031】
本発明の配列のシークエンスアラインメントは、BLASTアルゴリズム(Altschul et al.(1990)“Basic local alignment search tool.”Journal of Molecular Biology 215.p.403-410.;Altschul et al.:(1997)Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs.Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照)を用いて実施される。BLASTアルゴリズムによる、本発明によるペプチド抗原に適した短ペプチドのシークエンスアラインメントの適切なパラメータは、当技術分野で公知である。BLASTアルゴリズムを用いるソフトウェアツールはほとんど、短い入力シークエンスに対するシークエンスアラインメントのパラメータを自動的に調整する。一実施形態では、以下のパラメータ:最大標的配列10;ワードサイズ3;BLOSUM62マトリックス;ギャップコスト:存在11,拡張1;条件付き構成スコア行列の調整;が用いられる。従って、配列に関して用いられる用語「同一性」又は「同一性」等は、BLASTアルゴリズムを用いることにより得られる同一性値を指すことが好ましい。
【0032】
〔本発明の組成物の調製〕
本発明による組成物は、医薬組成物の調製のための公知の標準に従って調製される。
例えば、組成物は、適切に保存及び投与されうるように調製されるが、それは例えば、担体、賦形剤及び/又は安定剤等の医薬的に許容される成分を用いることによる。
当該医薬的に許容される成分は、医薬組成物を患者に投与するときに用いられる量で毒性とはならない。医薬組成物に添加される医薬上許容される成分は、当該組成物中に存在する活性成分の化学的性質、医薬組成物の特定の用途及び投与経路に依存しうる。
一般に、本発明に関連して用いられる医薬的に許容される成分は、当技術分野で利用可能な知識、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Ed.AR Gennaro,20th edition,2000,Williams&Wilkins,PA,USAから入手可能な知識に従って用いられる。
【0033】
〔発明のペプチド抗原〕
上記で特定されたペプチド抗原を含む、本発明で用いうるペプチド抗原は、MHC分子上への提示能以外には特に限定されない。MHC分子上に提示されうるペプチドは、当技術分野において公知の方法で作製しうる(例えば、Rammensee,Bachmann,Emmerich,Bachor,Stevanovic.SYFPEITHI:database for MHC ligands and peptide motifs.Immunogenetics.1999 Nov;50(3-4):213-9;Pearson et al.MHC class I-associated peptides derive from selective regions of the human genome.J Clin Invest.2016 Dec 1;126(12):4690-4701;and Rock,Reits,Neefjes.Present Yourself! By MHC Class I and MHC Class II Molecules.Trends Immunol.2016 Nov;37(11):724-737)。
ペプチド抗原は、一般に当技術分野において公知である。一般に、本発明のペプチド抗原は、MHCクラスIタンパク質に結合しうる。当業者であれば、本発明のペプチドを提示しうるMHCクラスIb分子又はポリペプチドの各々について、当該MHCクラスIb分子又はポリペプチドに結合しうるペプチド抗原が好ましく用いられることを理解しうるであろう。これらのペプチド抗原は、当技術分野で公知の方法に基づいて選択されうる。
【0034】
本発明のMHCクラスIb分子又はペプチド抗原結合能を有するポリペプチドへのペプチド抗原の結合は、当技術分野で公知の方法、例えば、以下の方法:
-Rammensee,Bachmann,Emmerich,Bachor,Stevanovic.SYFPEITHI:database for MHC ligands and peptide motifs.Immunogenetics.1999 Nov;50(3-4):213-9;
-Pearson et al.MHC class I-associated peptides derive from selective regions of the human genome.J Clin Invest. 2016 Dec 1;126(12):4690-4701;かつ、
-Rock,Reits,Neefjes.Present Yourself!By MHC Class I and MHC Class II Molecules. Trends Immunol.2016 Nov;37(11):724-737;
で評価しうる。
そのような方法としては、実験的方法及びペプチド抗原結合の予測方法があげられる。
ペプチド抗原をMHCクラスI分子に固定し、ペプチド抗原のMHCクラスI分子への結合を確実にするアンカー残基が、当技術分野で公知である。
本発明の全ての実施形態の好ましい態様では、本発明により用いられるペプチド抗原は、MHCクラスI分子に対して予測される位置に、いかなるアンカー残基又は好ましいアミノ酸残基をも含む。
このような予測は、好ましくは、以下の刊行物のいずれかに記載されている方法で行いうる。
-Rammensee et al, SYFPEITHI: database for MHC ligands and peptide motifs.Immunogenetics(1999)50:213-219;
- Nielsen et al,Protein Sci(2003)12:1007-1017;
- Neefjes et al.Nat Rev Immunol.2011 Nov 11;11(12):823-36;
- 非特許文献10;
- 非特許文献11;
- Desai&Kulkarni-Kale,T-cell epitope prediction methods:an overview.Methods Mol Biol.2014;1184:333-64。
【0035】
本発明の全ての実施形態の好ましい態様では、ペプチド抗原はヒトタンパク質由来である。
あるいは、本発明のペプチド抗原の非アンカーアミノ酸残基は、ヒトタンパク質由来のペプチド抗原の対応するアミノ酸残基と同一であってもよく、又は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有してもよい。あるいは、本発明のペプチド抗原の非アンカーアミノ酸残基は、ヒトタンパク質由来のペプチド抗原の対応するアミノ酸残基に関して、保存的置換、好ましくは2以下の保存的置換、より好ましくは1の保存的置換を含んでよい。好ましい態様では、前記ヒトタンパク質は、病理的免疫反応の影響を受ける組織又は細胞で発現するタンパク質である。
【0036】
本発明のペプチド抗原は、天然に存在するペプチド又は天然に存在しないペプチドでありうる。本発明のペプチド抗原は、好ましくは、天然に存在するアミノ酸からなる。しかしながら、修飾アミノ酸等の天然に存在しないアミノ酸を用いうる。例えば、一実施形態では、本発明により用いられるペプチド抗原は、ペプチド模倣物でありうる。
本発明のペプチド抗原を含むペプチド抗原の合成方法は、当技術分野で周知である。
【0037】
〔配列〕
本出願において記載される好ましいアミノ酸配列は、以下の配列から独立して選択されうる。当該配列はN末端からC末端の順序で表され、1文字のアミノ酸コードで表される。
リーダーペプチド:例
【0038】
【化1】
(配列番号1)
ペプチド抗原:MHCクラスI[α]1及び2ドメインに対応するいかなるMHCクラスIペプチド、例えば、
【0039】
【化2】
(配列番号2)又は
【0040】
【化3】
(Ova)(配列番号3)

リンカー1(ジスルフィドトラップ安定化):例
【0041】
【化4】
(配列番号4)又は
【0042】
【化5】
(配列番号5)
例えば、ヒト又は他の種に由来するβ2-マイクログロブリン:
【0043】
【化6】
(配列番号6、ヒトβ3マイクログロブリン)
例えば、リンカー2
【0044】
【化7】
(配列番号7)

選択された抗原ペプチドを提示するのに適した、ヒトHLA-G又は他のMHCクラスI[α]1及び2ドメインのいずれか由来の[α]1及び2ドメインであって、Y84は、DT変異体でCでありうる。
【0045】
【化8】
(配列番号8)
例、マウスH2Kb[α]1及び2ドメイン(Y84C)
【0046】
【化9】
(配列番号9)
又は:ヒトHLA-A2[α]1及び2ドメイン
【0047】
【化10】
(配列番号10)
ヒトHLA-G [α]3ドメイン(又は、ILT2及びILT4受容体と相互作用するHLA-F等のいかなるMHC Ib[α]3ドメイン)であって、例えば、
【0048】
【化11】
(配列番号11;HLA-G[α]3の配列)。上記の配列のうち、以下で下線で示したアミノ酸は、ILT2又はILT4受容体相互作用に関連していることに注意。
【0049】
【化12】
第Xa因子制限部位:
【0050】
【化13】
(配列番号12)
Mycタグ:
【0051】
【化14】
(配列番号13)
追加配列:NSAVD
Hisタグ:HHHHHH*(配列番号14)。
【0052】
本発明の成熟全長タンパク質の例:
disulfide trap_Ova_Linker1_humanbeta2microglobulin_Linker2_H2Kbalpha1&2_HLA-Galpha3_XaSite_myc&hisTAG
(dtH2Gova)
【0053】
【化15】
(配列番号15)
上記全長タンパク質のペプチド抗原(ここでは、「SIINFEKL」)の配列は、本発明によるいかなるペプチド抗原配列によっても置換されうることに留意されたい。
【0054】
【化16】
(配列番号16)
上記の全長タンパク質のペプチド抗原(ここでは、MLAVFLPIV)の配列は、本発明によるいかなるペプチド抗原配列によっても置換されうることに留意されたい。
【0055】
受容体ILT2(LILRB1としても知られる)及びILT4(LILRB2としても知られる)は、当技術分野で公知である。本発明による当該受容体の好ましい配列は、以下の通りである:
【0056】
【化17】
(配列番号17)
【0057】
【化18】
(配列番号18)
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに例示される。
【0058】
〔一般的注釈〕
全ての工程は滅菌条件下で行われ、保護容器は層流フード下でのみ開放した。特に明記しない限り、細胞は常に350×gで5分間遠心分離した。全ての生細胞を、37℃、5% CO、及び>95%湿度のインキュベーター中に維持した。37℃に設定した水浴を用いて、細胞に添加する培地、PBS又は他の溶液を予め加温した。細胞計数にはノイバウアーチャンバーを用いた。統計解析にはStudent’sT検定を用いて、p値が0.05未満の場合を有意とした。
【実施例0059】
特定のペプチドが添加されたMHC Ib分子を発現する細胞は、提示されたペプチドに特異的なCTLを選択的に除去する。
〔材料及び方法〕
JEG-3は、高レベルのHLA-Gを高レベルに発現するものの、古典的MHCクラスI分子をほとんど発現しない、ヒト絨毛がん細胞株である(Rinke de Wit et.al.,J Immunol.1990 Feb 1;144(3):1080-7)。JEG-3細胞を、10%ウシ胎仔血清、0.5%ピルビン酸ナトリウム溶液(100mM)及び1%ペニシリン(10kU/ml)及びストレプトマイシン(10mg/ml)溶液を含む完全RPMI1640培地(「完全RPMI」)で培養した。3×10個のJEG-3細胞を、12ウェルプレートに1mlの完全RPMIで播種した。
【0060】
示されている場合は、STEAP1(292.2L-9mer、MLAVFLPIV)ペプチド(5μg/μl)又はPRAME(435-9mer、NLTHVLYPV)ペプチド(5μg/μl)を含む1μlのストック溶液を添加した。翌日、JEG-3細胞をPBSで3回洗浄し、300μlのCellGro DC添加培地(5%ヒト血清型AB血清、25~50U/ml IL-2、5ng/ml IL-15)を各ウェルに添加した。
【0061】
クローンHLA-A*02(HLA-A2)制限下のSTEAP1(st)ペプチド又はPRAME(pr)ペプチド特異的CD8+T細胞(STEAP1-/PRAME「特異的」)を、Woelfl et al,Nat Protoc.2014 Apr;9(4):950-66に従って作製した。STEAP1特異的CD8+T細胞を、製造業者の指示に従って細胞増殖色素eFluor(登録商標)670で染色し、上記完全RPMI1640培地に再懸濁する。300μlの培地中の1.5×10個の細胞を、ペプチド添加JEG-3とともに各ウェルに添加する。同様に、未染色のPRAME特異的CD8+T細胞をペレット化し、再懸濁し、各ウェルに添加した。Dに示す実験では、抗ILT-2抗体(クローンHP-F1)又はアイソタイプ対照抗体を最終濃度10μg/mlまで添加した。
【0062】
16時間後、細胞を収集し、製造業者の指示に従って5μM CellEvent Caspase-3/7 Green(Life Technologies)で染色した。次いで、非付着性細胞を収集し、抗ヒトCD8(PE/Cy7、クローンRPA-T8)及び抗ヒトCD4(PE/Dye647、クローンMEM-241)抗体の1:100希釈液で、氷上で30分間染色し、フローサイトメトリーで分析した。CTLはCD8+CD4-であるので、CD4染色は、潜在的なCD4+/CD8+二重陽性細胞及び自己蛍光細胞を排除しえた。総細胞数は、μl当たりの細胞数に基づいて決定した。接着性JEG‐3細胞の生存をクリスタルバイオレットアッセイで定量した。
【0063】
〔結果〕A)JEG‐3細胞非存在対照条件又はHLA‐G+DMSO処理した対照JEG‐3細胞の対照条件において、アポトーシスが検出されたカスパーゼ3/7+eFluor670PRAME特異的又はeFluor670+STEAP1特異的CD8+T細胞は5%未満であった。対照的に、STEAP1添加JEG-3細胞との共培養後、STEAP1特異的CD8+T細胞の90%以上が消失又はアポトーシスを示したが、PRAME特異的T細胞に対する有意な影響は観察されなかった。STEAP1特異的CD8+T細胞は、明るいeFluor670染色により、PRAME特異的T細胞から容易に識別しえた。このドットプロットは、3つの実験のうちの1つの代表的な結果である。B)3つの独立した実験の統計学的解析から、これらの効果は著しく有意であり、STEAP1特異的T細胞は、同種ペプチドを添加したHLA-G+JEG-3細胞との共培養で選択的に除去できることが示された。C)J EG-3細胞の生存は、共培養されたT細胞により認識されるペプチドが添加されても減少しない。D)同じ条件下で、HLA-G受容体を阻害する抗体ILT2を添加すると、STEAP1特異的T細胞の標的細胞からの消失が部分的に抑制された。
【0064】
〔結論〕この実験は、ペプチド特異的CD8+T細胞が、その同種抗原を提示するJEG‐3細胞等のヒトMHC Ib+細胞と接触すると、選択的に除去されうることを示す。これは驚くべきことである。なぜなら、活性化されたCD8+T細胞に同種ペプチドを提示するMHC Ia+標的細胞は、通常、T細胞が生存する間に除去されるからである。MHC Ia+標的とは対照的に、JEG-3細胞へペプチドを添加しても、生存率は低下しなかったことから、MHC Ib分子の機能はMHC Ia分子の機能とは相反する可能性があることが示唆される。さらに、MHC Ib分子とその受容体であるILT2は、ILT2ブロッキング抗体等の相互作用を遮断する薬剤により達成される当該効果を阻害することで示すように、当該効果を協働して達成する。従って、本発明によれば、当該遮断剤を用いて、MHC Ib分子の存在下でペプチド特異的免疫応答の誘導を促進しうる。
【実施例0065】
特定のペプチドが添加されたMHC Ib分子を用いると、抗原特異的方法で同種CTLの潜在的な細胞毒性を阻害しうる。
〔材料及び方法〕 1×10個のJEG-3細胞を未処理か、又は、6ウェルプレートに、1mlの完全RPMI1640のSTEAP1ペプチド(「st」、実施例1参照)で添加した。5×10 STEAP1特異的CD8+ T細胞を、5×10 PRAME特異的CD8+T細胞(エフェクタ)と混合し、これらを未処理のままか又はJEG-3と共培養した。10μg/mlの中和抗ヒトHLA-G抗体(クローン87G、BioLegend ドイツ)を、指示された場所に添加した。翌日、HLA-A2+ UACC-257メラノーマ細胞(標的)を発現するホタルルシフェラーゼを、アキュターゼ溶液(PAA ドイツ)を用いて分離し、STEAP1ペプチド(5μg/ml、「st loaded」)又は同量のDMSO(「unloaded」)を37℃のシェーカー上で4時間洗浄し、次いで、ウェル当たり1×10個のUACC細胞を白色の丸底96ウェルプレートに播種した。次いで、非接着性混合T細胞を収集し、4×10個の初期T細胞(各々2×10個)の同等物及びホタルD-ルシフェリン(PJKドイツ、最終濃度140μg/ml)を添加した。8時間後に標的細胞の生存をルミノメーターで測定した(方法の詳細はBrown et al.,J Immunol Methods.2005 Feb;297(1-2):39-52)。
【0066】
〔結果〕HLA‐G+JEG‐3細胞のペプチド抗原の提示は、この特異的ペプチド抗原をMHC‐Ib依存的に認識するCD8+ T細胞クローンの細胞毒性能を阻害した。記載の設定では、STEAP1特異的対照CTL又はHLA-G+JEG-3細胞で前処理したCTLは、同種ペプチドを添加した全標的細胞の約90%を溶解したが、ナイーブ標的細胞は除去されなかった。対照的に、JEG-3細胞及び同種ペプチドによる前処理により、抗原提示標的細胞をほぼ完全に保護された。HLA-G依存性効果(87G)を部分的に遮断できる抗体は、このペプチド特異的免疫抑制効果を部分的に逆転させた。これは、ペプチド添加MHCクラスIb分子が、臨床環境において提示された抗原に対する望ましくない細胞傷害性(自己)免疫反応も抑制しうることを意味する。
【0067】
さらに、ペプチドと(例えば、放射線、化学療法又はペプチドワクチン接種レジメンを介して)接触するMHC Ib陽性腫瘍細胞は、CD8+T細胞が介在する抗腫瘍免疫応答を特異的に抑制する可能性がある。しかし、この効果はMHC Ib分子とその受容体との相互作用を阻害する薬剤で阻止されうる。
【実施例0068】
MHC Ib分子を特定のペプチドと組み合わせると同種CTLを阻害するが、他の抗原に対する免疫応答にはほとんど影響を与えない。
〔材料及び方法〕
図3に示す実験では、HLA-A2 STEAP1特異的CD8+T細胞(CD8st)及びPRAME特異的CD8+T細胞(CD8pr)を混合し、未処理のまま放置するか、又はSTEAP1ペプチドを添加した、又は添加しなかったJEG-3細胞と8時間共培養した(方法は図2を参照のこと)。次いで、懸濁液中のT細胞を収集し、ルシフェラーゼ発現PRAME-ペプチド(濃灰色バー)又はHLA-A2+UACC-257黒色腫細胞(T細胞は前処理後には計測せず、初期エフェクタ:標的比1:1)を添加したSTEAP1-ペプチド(薄灰色バー)と組合せた。
【0069】
〔結果〕
MHC Ib陽性細胞株に関連して、混合CD8 T細胞クローンを1の同種ペプチドに事前に曝露すると、同種T細胞の細胞毒性ポテンシャルは約50%に低下したが、他方、他のT細胞クローンの細胞毒性活性は約90%にとどまり、これは、HLA-G+JEG-3細胞単独のペプチド非依存性免疫抑制作用に匹敵した。その結果、このアプローチは、異なる(例えば、ウイルス)抗原に対する望ましい免疫応答を同時に損なうことなく、特異的(自己)免疫関連標的抗原に対して寛容を誘導しうることを示す。JEG-3細胞により示されたMHCパターン及び中和抗体を用いた以前の実験に基づき、これらのペプチド特異的効果はHLA-Gを介して介在されることが理解されるであろう。この実験は、MHC Ib分子上の抗原ペプチドの提示が、同種CD8+T細胞の細胞溶解能を阻害する可能性を示唆する。
【実施例0070】
治療薬の構築計画:抗原ペプチド、MHCクラス1ベースの[α]1ドメイン及び[α]2ドメイン、HLA-G(又は他のMHCクラスIb分子)由来の[α]3ドメイン及び[β]2-マイクログロブリンを含む可溶性単鎖構築物
〔MHC Ibペプチド複合体の設計〕
HLA-G等のMHCクラスIb分子は、天然に、1つの複合体中に3つのポリペプチド分子からなる。図4に示すように、これらをリンカーで連結すると、安定性を改善しうる。
あるいは、図5に示すように、全ての構成要素を直線的に表示しうる。
特定の実施形態で用いられる配列を、以下に列挙する。
コード配列の構成要素:
リーダーペプチド:例えば、
【0071】
【化19】
(配列番号:1)等の分泌誘導リーダーペプチド
提示されたペプチド抗原:MHCクラスI[α]1ドメイン及び2ドメイン、例えば
【0072】
【化20】
(STEAP1)(配列番号:2)又は
【0073】
【化21】
SIINFEKL(Ova)(配列番号:3)による提示を可能にする、8~12個のアミノ酸のアンカー残基のいかなるペプチド
(ジスルフィドトラップ安定化された(下線部))リンカー1:
【0074】
【化22】
(配列番号:4)又は
【0075】
【化23】
(配列番号:5)
ヒト又は他種に由来のβ2-マイクログロブリン
【0076】
【化24】
(配列番号:6)
リンカー2
【0077】
【化25】
(配列番号:7)
ヒトHLA-G由来又は選択された抗原ペプチドを提示するのに適するあらゆる他のMHCクラスI[α]1及び2ドメイン由来の[α]1及び2ドメイン、Y84は、DT変異体においてCであってよい
【0078】
【化26】
(配列番号:8)
例えば、マウスH2Kb[α]1及び2ドメイン(Y84C
【0079】
【化27】
(配列番号:9)
又は:ヒトHLA-A2[α]1及び2ドメイン
【0080】
【化28】
(配列番号10)
ヒトHLA-G[α]3ドメイン(又は、ILT2及びILT4受容体とも相互作用するHLA-F等のいかなるMHC Ib[α]3ドメイン、下線のアミノ酸は、ILT-2又はILT-4との相互作用に関連がある)
【0081】
【化29】
(配列番号11)
第Xa因子制限部位:(配列番号12)
Mycタグ:(配列番号13)
追加配列: NSAVD
Hisタグ: HHHHHH*(配列番号14)
成熟全長タンパク質の例:
【0082】
【化30】
【実施例0083】
樹状細胞(DC-10)と組合せた可溶性ペプチド-MHC Ib複合体は、提示された標的抗原を認識するCD8+エフェクタT細胞を選択的に除去しうる。
〔材料及び方法〕
可溶性ペプチドMHC Ib構築物が抗原依存的にエフェクタT細胞を除去できるかどうかを検討するため、当該構築物を、IL-4、GM-CSF及びIL-10(DC-10)の存在下で増殖させた樹状細胞に添加した。DC-10-Medium(完全RPMI1640培地、10ng/ml IL-4、10ng/ml IL-10、100ng/ml GM-CSF)中で、健康なドナーから精製した5x10 MACS精製(CD14ビーズ、Miltenyi、ドイツ)CD14+細胞/mlを7日間培養してDC-10を生成した。3日目と5日目に新しい培地を添加した。得られたDC-10細胞は細胞培養皿に付着しなかった。次いで、1ml当たり4x10個のDC-10細胞を、STEAP1ペプチド(dtGsteap、配列は実施例4参照)、Melan A/MART-1ペプチド(ELAGIGILTV、dtGmelA)、又は対照上清を含む単鎖ジスルフィドトラップペプチドHLA-G構築物用のpCDNA3.1発現ベクターを用いて、Lipofectionで一過性トランスフェクションされたCHO細胞(1x10/ml)由来の同量の細胞培養5日目の上清と4時間混合した。次いで、DC-10をPBSで3回洗浄し、5hAB血清+IL-2(10 DC-10/ml)を含む50μlのRPMI 1640培地に再懸濁した。次いで、5×10ペプチド-MHC Ib添加DC-10細胞を、STEAP1(CD8st)又はPRAME(CD8pr)のいずれかを認識する、HLA-A2制限抗原特異的CD8+ T細胞と16時間、1:1の比で組合せた。次に、製造業者の指示に従いCellEvent Caspase-3/7 Green(5μM、Life Technologies)、並びにヒトCD4(クローンEDU-2)及びCD8(クローンRPA-T8)に特異的な抗体で、細胞を染色した(実施例2を参照)。CD8+CD4 Caspase-3/7細胞をフローサイトメトリーで定量した。
〔結果〕
図6に示すように、2つの独立した実験にて、STEAP1特異的T細胞は、同種ペプチドを提示する単鎖MHC Ib構築物を添加したDC-10細胞と組み合わされると、16時間以内にほぼ完全に消失した。同条件は対照ペプチド(CD8pr)に特異的なT細胞の生存に悪影響を及ぼさなかった。対照ペプチド(dtGmelA)を含む対照は、STEAP1特異的CD8+ T細胞の生存をわずかに低下させた。このことは、可溶性MHC Ib分子が特異的ペプチドと結合すると、提示されたペプチドに特異的なエフェクタT細胞を選択的に除去し、すなわち、特定抗原に対する免疫応答を選択的に調節しうることを示す。
【実施例0084】
ペプチド添加MHC Ib複合体は提示されたペプチドを認識するヒト抗原特異的調節性T細胞を誘導する
図7Aに示す実験では、5×10末梢血単核細胞(PBMC)を、2人の独立した健常ドナーから採取し、Melan-Aペプチド又はSTEAP1ペプチドのいずれかを添加した1×10照射JEG-3細胞の存在下で、5%ヒト血清型AB血清、5ng/ml TGF-β1、20ng/ml IL-2(Treg培地)を含む2mlのRPMI1640培地中で14日間共培養した(上記のように添加)。3日目に新鮮な培地を添加した。7日目に培地を交換し、PBMCを新たに照射し、ペプチド添加した1×10個のJEG-3細胞に移した。Treg拡張ビーズ(Miltenyi Biotec、抗CD3/CD28)を、陽性対照として製造業者の指示に従って用いた。得られた細胞を、ヒトCD4(クローンEDU-2、Immunotools)及びCD25(Miltenyi 120-001-311)に対する抗体、並びにHLA-A2 STEAP1デキストラマー(STEAP1 dex、Immudex Denmark、全ての希釈物1:100)で氷上で30分間染色した。CD4+CD25高Treg細胞中のSTEAP1特異的T細胞の頻度を、フローサイトメトリーにより定量した(Shevach et al.,2002,Nat.Rev.Immunol.2:389)。STEAP1特異的CD4+ CD25高Treg細胞は、PBMCを単独(ctrl)又は対照ペプチド(melA)の存在下で培養した場合には検出されなかったが、PBMCを同種抗原を提示するJEG-3細胞と共培養した場合、有意な集団が繰り返し観察され、陽性対照設定(aCD3/28)の範囲はより低くなった。
【0085】
図7Bに示す実験では、4x10個のDC-10細胞/ウェルに、図6に記載のように、提示されたMELAN-A(dtGmelA)ペプチド又はSTEAP1(dtGsteap)ペプチドを含むジスルフィドトラップ単鎖HLA-G構築物を添加した。次に、同じドナー由来の4x10個のPBLを添加し、細胞を12ウェルプレートの2mlのTreg培地で7日間培養し、3日目に1mlの培地を交換した。7日目、4×10の新鮮で添加されたのと同一のDC-10を各ウェルに添加し、10日目に培地を再度交換した。14日目に、細胞を収集し、洗浄し、CD4(クローンMEM-241)、CD8(クローンRPA-T8)、及びHLA-A2-Melan Aペプチドデキストラマー(Immudex)に対する蛍光標識抗体で染色した。細胞内染色キット(eBiosciences)を用いて、IL-10(クローンJES3-9D7)の細胞内染色を行った。MELAN-A特異的IL‐10+Tregの数は、対照分子(dtGsteap)又は未処理PBLと比較して、単鎖Melan A HLA‐G分子(dtGmelA)を添加したDC‐10とPBLを共培養した条件下で著しく増加した。
【実施例0086】
ヒトMHC Ibα3ドメインとDCの組合せを含む単鎖ペプチドMHC構築物は、提示されたペプチドに特異的なマウスTreg細胞を誘導する(図8)。
マウスDC(mDC)は、野生型C57BL/6マウス由来の骨髄細胞を、マウスGM-CSF遺伝子をトランスフェクトしたAg8653骨髄腫細胞株由来の10% GM-CSF上清を添加した完全RPMI-1640中で7日間培養して作製した(詳細なプロトコル:Lutz et al.,J Immunol Methods1999,223(1):77-92)。500μlの完全RPMIの4×10mDCを、模擬トランスフェクト細胞(CHO)由来、又は、一本鎖オボアルブミンペプチド(SIINFEKL)、マウスH-2Kb α1ドメイン及びマウスH-2Kb α2ドメイン、並びにヒトHLA-Gα3ドメイン(H2Kb、配列は実施例4のdtH2KbGova)又はヒトHLA-A2 α1及びヒトHLA-A2 α2ドメイン(A2G)をコードするpCDNA3.1ベクターでトランスフェクトされたCHO細胞由来の500μlの「第5日CHO上清」と4時間混合した。上清中の各構築物の存在をウエスタンブロット法により確認した。予備的な結果では、精製した構築物でも誘導が可能であることを示唆する。ここでは、cOmplete His-Tag精製樹脂(Sigma Aldrich)を用いて、ペプチド添加MHC構築物を精製して構築物を結合した後、PBS(3回)及び第Xa因子プロテアーゼ消化(1U/100μl、20℃、6時間、Qiagen)で洗浄して構築物を放出した。その後、第Xa因子は、第Xa因子除去樹脂(Qiagen、全て製造業者の指示に従う)を用いて除去しうる。配列は実施例4に記載されている。その後、mDCを次にPBSで洗浄した。
【0087】
C57BL/6 RAG-/-OT1マウスは、H-2Kbで提示されるovaペプチドと相互作用するT細胞受容体をほぼ独占的に発現する。これらのマウス由来の2×10脾細胞を、記載のようにTreg誘導培地(完全RPMI培地、5ng/ml IL-2、5ng/ml TGF-β1)中で、(mDC A2G/CHO/H2Kb OT1)を含むか又は(OT1 ctrl)を含まない、4×10mDCで14日間培養した。次いで、細胞を、マウスCD3(クローンKT3、Serotec)、Foxp3(3G3、Miltenyi Biotec)及びIL10(JES5-16E3)に特異的な蛍光色素標識抗体で染色し、フローサイトメトリーで定量した(マウス及びプロトコルについてはHuenig et al.,Brain.2008Sep;131(Pt9):2353-65を参照)。抗原特異的Tregが、T細胞がMHC Ib分子の同種ペプチド/MHC α1ドメイン及びMHC α2ドメイン並びに免疫抑制性α3ドメインと組み合わされた全ての条件下での著しく有意に増加したことが観察された。精製構築物の誘導が中等度であることは、精製プロセス中のタンパク質が消失することにより説明されうる。
【0088】
これらの実施例は、MHCクラスIb分子上のペプチド提示により同種Tregの拡大が促進されることを意味する。このようなTregは、抗原が存在する組織のT細胞受容体を介して優先的に活性化され、すなわち、適当な組織特異的抗原が利用しうる場合、標的組織特異的自己免疫反応が抑制されうるはずである。抗原特異的Tregのバイスタンダー阻害能のため、選択された組織特異的「Treg活性化抗原」は、病理学的免疫応答を駆動する自己抗原と同一である必要はないことに留意されたい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の組成物、ポリペプチド、核酸、細胞、組合せ及び方法は、産業上利用可能である。例えば、医薬品の製造又は医薬品として用いうる。
図1A
図1B-D】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【外国語明細書】