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▶ ヴェセイェ・ビヨンテクノロジ・ヴェ・イラチ・サナイ・アノニム・シルケティの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052663
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】眼科多焦点回折レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20230404BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20230404BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20230404BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20230404BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G02C7/06
G02B13/00
G02B13/18
G02B5/18
A61F2/16
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023010404
(22)【出願日】2023-01-26
(62)【分割の表示】P 2020503894の分割
【原出願日】2018-07-17
(31)【優先権主張番号】17183354.4
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518090959
【氏名又は名称】ヴェセイェ・ビヨテクノロジ・ヴェ・イラチ・サナイ・アノニム・シルケティ
【氏名又は名称原語表記】VSY BIYOTEKNOLOJI VE ILAC SANAYI ANONIM SIRKETI
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン・ターゲ・シーグヴァルド・ホルムストレム
(72)【発明者】
【氏名】イサ・チム
(72)【発明者】
【氏名】ハカン・ウレイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズおよびその製造方法。
【解決手段】レンズは、屈折焦点(164)を提供する光透過性レンズ本体と、レンズ本体の表面の少なくとも一部に同心円状に延びて、回折焦点セット(162,63)を提供する周期的光透過性回折格子とを備える。回折格子は、光波スプリッタとして動作するように設計され、屈折焦点は、中間視力(164)のための焦点を提供し、回折焦点は、近視力(163)および遠視力(162)のための焦点を提供する。回折格子は、レンズ本体の光軸までの半径距離(r)の関数(165)として変調される引数を有する連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数(160)を有し、これにより焦点(162,163,164)での光分布を調整する。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズであって、
光軸を備え、屈折焦点を提供する光透過性レンズ本体と、
前記レンズ本体の少なくとも1つの表面の少なくとも一部に渡って半径方向に同心円状に延びて、回折焦点セットを提供する周期的光透過性回折格子とを有し、
前記回折格子は、前記屈折焦点および前記回折焦点で前記レンズ本体に入射する光を分布させるための光波スプリッタとして動作するように設計され、
前記屈折焦点は、中間視力のための前記焦点を提供し、前記回折焦点は、近視力および遠視力のための前記焦点を提供し、
前記回折格子は、前記レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数を有し、
前記連続周期的位相プロファイル関数は、前記レンズ本体の前記光軸までの半径距離の関数として変調される引数を含み、これにより前記レンズ本体に入射する光の前記分布を調整している、眼科多焦点レンズ。
【請求項2】
前記引数は、前記連続周期的位相プロファイル関数に周期的で円滑な遷移を提供するように変調される、請求項1に記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項3】
各遷移は、前記連続周期的位相プロファイル関数の周期の一部に渡って延びており、これにより前記回折焦点における前記光分布を調整しており、
各遷移は、下記の少なくとも1つを備える、請求項2に記載の眼科多焦点レンズ。
・前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を、前記レンズ本体の半径方向に提供する遷移。
・前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を、前記レンズ本体の前記少なくとも1つの表面を横断する方向に提供する遷移。
【請求項4】
前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を、前記レンズ本体の半径方向に提供する遷移が、前記連続周期的位相プロファイル関数の前縁または前側面および後縁または後側面の少なくとも一方の位置に配置され、
そして、前記連続周期的位相プロファイル関数の変位を、前記レンズ本体の少なくとも1つの表面を横断する方向に提供する遷移が、前記連続周期的位相プロファイル関数の山および谷の少なくとも一方の位置に配置される、請求項3に記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項5】
前記遷移は、下記の少なくとも1つを備える、請求項2~4のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
・前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期において、前記連続周期的位相プロファイル関数に同一の変位を提供する遷移。
・前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の期間に渡って増加する、前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を提供する遷移。
・前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の期間に渡って減少する、前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を提供する遷移。
【請求項6】
前記引数は、前記連続周期的位相プロファイル関数の同じ周期長で、前記レンズ本体の半径方向に離間した第1遷移および第2遷移を提供すように変調され、
前記第2遷移は、前記第1遷移の作用を少なくとも部分的に打ち消す、請求項2~5のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項7】
前記引数は、引数変調関数に従って変調され、特に前記引数変調関数は、前記連続周期位相プロファイル関数の周期に等しい周期を有し、連続関数、連続三角関数、三角形関数および台形関数のうちの1つを含む周期関数である、請求項1~6のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項8】
前記連続周期的位相プロファイル関数の前記引数は、前記レンズ本体に渡って異なって変調され、これにより異なる瞳サイズについて前記レンズ本体に入射する光の前記分布を異なるように調整し、特に、前記引数は、前記レンズ本体の少なくとも1つの領域をカバーする前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の連続周期において変調され、前記引数の連続周期の数および変調は、前記レンズ本体を横断するの様々な領域で相違する、請求項1~7のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項9】
前記回折格子は、光波スプリッタとして動作するように配置され、回折次数+1および-1で回折焦点を含み、
前記連続周期位相プロファイル関数は、下記に従って表され、
【数1】

ここで、φ(r)は、前記回折格子の連続周期位相プロファイル関数、
rは、前記レンズ本体の前記光軸から外向きの半径距離または半径、[mm]、
A(r)は、レンズ本体の半径方向での連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数、
F[α*G]は、前記光波スプリッタ動作を提供する前記レンズ本体の半径方向の関数、
G(r)は、r空間での連続周期関数、
α(r)は、Gの引数マグニチュード変調関数、
S(r)は、r空間でのGの引数角度変調関数、[mm]、
Tは、r空間での前記回折格子の周期またはピッチ、[mm]、
B(r)は、前記連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数であり、
前記引数マグニチュード変調関数α(r)および前記引数角度変調関数S(r)の少なくとも1つは、前記レンズ本体の前記光軸までの半径距離の関数として変調される前記引数を含む、請求項1~8のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項10】
前記回折焦点および前記屈折焦点での前記光分布は、前記連続周期的位相プロファイル関数の前記振幅変調関数A(r)および前記振幅変調関数B(r)の少なくとも一方の適応によってさらに調整される、請求項9に記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項11】
Fは逆正接関数であり、Gは正弦関数であり、
前記引数マグニチュード変調関数α(r)は、2.5と3の間の範囲の一定値を有し、
前記引数角度変調関数S(r)は、r空間で-0.5*Tと0.5*Tの間の範囲の一定値を有し、特にS(r)は、r空間で0.30*Tと0.50*Tの間の範囲の一定値を有し、より特にS(r)は、r空間で-0.05*Tと-0.15*Tの間の範囲の一定値を有し、さらに特にr空間でS(r)=0.42*Tである、請求項9または10に記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項12】
前記連続周期位相プロファイル関数の前記引数は、前記光軸を含み、半径方向に延びる前記レンズの前記表面の第1領域に第1三重焦点特性を提供するために変調され、前記第1三重焦点は、近視力のための前記焦点に分布する光を強調するものであり、そして、前記レンズの半径方向に前記レンズ本体の外周エッジに向かって前記第1領域を超えて延びる前記レンズの前記表面の第2領域に第2三重焦点特性を提供するために変調され、前記第2三重焦点特性は、遠視力のための前記焦点に分布する光を強調する、請求項1~11のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項13】
近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズを製造する方法であって、
該レンズは、光軸を備え、屈折焦点を提供する光透過性レンズ本体と、
前記レンズ本体の表面の少なくとも一部に渡って半径方向に同心円状に延びて、回折焦点セットを提供する周期的光透過性回折格子とを有し、
前記回折格子は、前記屈折焦点および前記回折焦点で前記レンズ本体に入射する光を分布させるための光波スプリッタとして動作するように設計され、
前記屈折焦点は、中間視力のための前記焦点を提供し、前記回折焦点は、近視力および遠視力のための前記焦点を提供し、
前記方法は、
・近視力、中間視力および遠視力のためのターゲット焦点を決定するステップと、
・前記ターゲット焦点における入射光のターゲット光分布を決定するステップと、
・中間視力のための前記ターゲット焦点を提供する屈折焦点を有する前記光透過性レンズ本体を提供するステップと、
・前記レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数を有する前記回折格子を設けて、近視力および遠視力のための前記ターゲット焦点および前記ターゲット焦点での光分布を提供するステップと、を含み、
・前記レンズ本体の前記光軸までの半径距離の関数として、モジュラー引数を有する前記連続周期的位相プロファイル関数を提供するステップと、
・前記レンズ本体に渡って前記引数を変調し、変調された引数を提供することによって、前記ターゲット光分布を提供するために前記ターゲット焦点での前記光分布を調整するステップと、
・前記変調された引数を含む前記周期的な位相プロファイル関数に従って、前記回折格子の高さプロファイルを提供するステップと、
・前記レンズ本体での前記高さプロファイルに従う回折格子を付与することによって、前記眼科多焦点レンズを製造するステップとによって特徴付けられる、方法。
【請求項14】
前記連続周期的位相プロファイル関数の前記引数は、請求項2~12のいずれかに記載の前記眼科多焦点レンズを製造するために変調される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
コンタクトレンズ、眼内レンズ、無水晶体コンタクトレンズ、無水晶体眼内レンズおよび眼鏡レンズのうちの1つとして配置される、請求項1~14のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般には眼科レンズに関し、詳細には様々な瞳サイズのために調整された光分布を備えた回折次数を提供する眼科コンタクトおよび眼内多焦点回折レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科学は、解剖学、生理学および人間の眼の疾患を対象とする医学分野である。
【0003】
人間の眼の解剖学はかなり複雑である。眼の主要な構造は、角膜(cornea)と、眼の外側前方における球面透明組織と、眼の着色部分である虹彩(iris)と、瞳(pupil)と、眼に受ける光量を調節する虹彩内の適応性アパーチャと、水晶体と、網膜(retina)上に光線を集光する眼の内部にある小さな透明ディスクとを含み、網膜は、眼の後面または裏面を形成する層であり、感知した光を、視神経を通って脳に伝わる電気インパルスに変換する。後房、即ち、網膜とレンズとの間の空間は、房水で充填され、前房、即ち、レンズと角膜との間の空間は、硝子体液、透明でゼリー状の物質で充填される。
【0004】
天然の水晶体は、可撓性かつ透明で両凸形状の構造を有し、角膜とともに光を屈折させて網膜上に集光させるように動作する。レンズは、その後側よりもその前側でより平坦であり、その曲率は、小帯と呼ばれる提靱帯によってレンズが接続する毛様筋によって制御される。レンズの曲率を変化させることによって、眼の焦点距離は、種々の距離にある物体に合焦するように変更される。物体を眼の短い距離で見るために、毛様筋は収縮し、眼は厚くなり、より丸い形状で高い屈折力をもたらす。より大きな距離にある物体に焦点を変化させることは、レンズの緩和を必要とし、よって焦点距離を増加させる。曲率を変更し、眼の焦点距離を順応させて、物体の鮮明な画像を網膜に形成するこのプロセスは、遠近調節(accommodation)と呼ばれる。
【0005】
人間において、その自然環境における水晶体の屈折力は、約18~20ジオプタであり、眼の全光学パワーの約3分の1である。角膜は、眼の全光学パワーの残りの40ジオプタを提供する。
【0006】
眼の老化とともに、レンズの不透明度は減少し、白内障と呼ばれる。糖尿病、外傷などの幾つかの疾患、幾つかの投薬治療および過度のUV光露出も白内障を引き起こすことがある。白内障は、無痛であり、曇ったぼやけた視界をもたらす。白内障の治療は、濁ったレンズを除去し、一般に眼内レンズ(IOL)と呼ばれる人工的なもので置換する手術を含む。
【0007】
他の年齢に関連した影響は、老眼と呼ばれ、これは、小さな活字を読んだり、近くの絵を明瞭に見たりする場合の困難さで明らかになる。老眼は、一般に眼の内部の自然レンズの肥厚および柔軟性の損失によって生ずると考えられている。年齢に関連した変化は、レンズの周囲にある毛様筋にも生ずる。弾力性が少なくなると、眼の近くにある物体に合焦することがより難しくなる。
【0008】
種々の眼内レンズが、他の視覚障害、例えば、眼が遠くの物体を見ることができない場合、例えば、大き過ぎる曲率を有する角膜によって生ずる近視または近眼を矯正するためにも採用される。近視の効果は、遠くの光線が網膜の表面に直接ではなく、網膜の前方にある点で合焦することである。遠視または遠眼は、異常に平坦な角膜によって生じ、眼に入射する光線が網膜の後方に合焦し、近くにある物体に合焦できなくなり、そして乱視は、視覚的困難の他の一般的な原因であり、不規則な形状になった角膜に起因して画像がぼける。
【0009】
多くの場合、眼内レンズが白内障手術中に患者の眼に埋め込まれ、除去したレンズの光学パワーの損失を補償する。現代のIOL光学系は、物体の短距離視力、中距離視力および遠距離視力を提供するための多焦点光学系を持つように設計され、多焦点IOL、MIOLまたはより具体的な三重焦点(trifocal)レンズとも呼ばれる。老眼は、眼鏡またはコンタクトレンズによって矯正され、多焦点光学系を選択することもある。多焦点眼科レンズは、屈折および回折という2つの光学原理を利用する。
【0010】
これらの原理間の物理的な相違点を説明するために、本説明では、光の波動モデルを採用する。このモデルでは、電磁波が特定の方向に特定の速度で伝搬し、特定の波長、振幅および位相を有する。
【0011】
屈折は、ある媒体、例えば、空気または液体から、光波の異なる伝搬速度を有する別の媒体、例えば、ガラスまたはプラスチックの中に進む場合に光波が受ける偏向である。
【0012】
回折は、最も基本的な形態において、光波が物体の凹凸に衝突した場合、二次光波源になるという物理的効果に基づく。これらの二次波動は、建設的および破壊的な方法で互いに干渉し得る。特定のポイントに到達する波間の光路差がその波長の整数倍である場合、建設的な干渉が発生し、その結果、振幅が強化される方法で加算する。これは、波が同相(in-phase)であるとも呼ばれる。破壊的干渉は、干渉する光波が進む光路長の差が波長の半分の奇数倍である場合に発生し、そのため1つの波の頂点(crest)が別の波の谷と出会って、波が互いに部分的または完全に消滅する。これは、波が位相ずれ(out-of-phase)であるとも呼ばれる。
【0013】
多焦点眼科レンズは、一般に、両凸形状もしくは平凸形状、または両凹形状もしくは平凹形状を有し、その曲率および厚さは、屈折によってその光軸に第1焦点を提供するように構成される。レンズの前面および後面の一方または両方において、透過性表面レリーフ(relief)または回折格子(grating:グレーティング)が設置でき、これは透過光を回折するように設計され、レンズの個々の表面において同心円状のリングまたはゾーンに配置された規則的または周期的に離間したリッジ及び/又は溝で構成される。リッジ及び/又は溝の周期的な間隔またはピッチは、レンズの光軸での破壊的干渉および建設的干渉のポイントを実質的に決定する。リッジ及び/又は溝の形状および高さは、回折による建設的干渉のポイントに提供される入射光量を制御する。建設的干渉のポイントは、一般に回折次数または焦点と呼ばれる。回折レリーフは、例えば、屈折焦点とは異なる、三重焦点レンズの第2焦点および第3焦点を提供するように設計できる。
【0014】
この多焦点眼科レンズは、一般に2つの周知のタイプの基本回折格子またはレリーフ、即ち、鋸歯型およびバイナリ型の格子またはレリーフを用いて設計される。この説明において、鋸歯型またはギザギザ(jagged)型という用語は、単調な傾斜した受光面、例えば、直線的または曲線的な単調な傾斜した受光面を有する複数の反復した隣接配置されたプリズム形状の透明な回折光学素子DOEで構成された透過回折格子またはレリーフのクラスを指す。バイナリ型レリーフという用語は、本説明のために、複数の反復した離間した矩形状またはプリズム形状の透明DOEで構成される透過回折レリーフのクラスを指す。
【0015】
レンズとして動作するために、ギザギザ(jagged)格子の繰り返し周期またはピッチは、レンズの中心または光軸から半径方向rに単調に減少する必要がある。より詳細には、第1周期がレンズの中心でスタートし、第2周期が(1*k)0.5でスタートする場合(kは定数)、第3周期は(2*k)0.5でスタートし、第4周期は(3*k)0.5でスタートし、以下同様である。従って、回折光学系において、いわゆるr空間内で格子を表現することが好都合である。即ち、水平軸に沿ったパラメータは、rで変化し、周期は等間隔の繰り返しで生ずるようになる。
【0016】
こうした基本レリーフの焦点、即ち、回折次数の計算は広く知られており、回折光学レンズの当業者にとって簡単である。一般に、眼科レンズとして使用する場合、基本レリーフまたは格子の周期またはピッチは、ターゲット焦点を提供するために第1及び/又は第2の回折次数を持つように選択される。これは、これらの基本レリーフでは、光の多くがより低い回折次数で回折されるためである。この設計プロセスにおいて、レリーフが構築され、屈折焦点で結合され、そしてこれらの基本格子またはレリーフの1次及び/又は2次回折で回折される光の所望の強度プロファイルに到達するような振幅プロファイルを有する。しかしながら、こうしたアプローチは、レンズに入射する光の最適な分布を自動的には導かない。理由は、光量が、使用しないより高い回折次数にも分布するためであり、このことは、レンズの焦点間での相対的な光分布の調整または制御を、異なる瞳サイズでは困難になり、多焦点レンズの全体的な効率を著しく減少させることがある。
【0017】
例えば、欧州特許第2377493号および欧州特許第2503962号は、レンズのターゲット回折焦点の1つを個別に提供するようにそれぞれ設計された回折レリーフまたは回折格子を重ね合わせることによって、三重焦点眼内レンズのこの効率の損失を解消しようとしている。レリーフまたは格子のピッチは、1つのプロファイルの第2回折次数が他のプロファイルの第1回折次数と一致するように選択する必要がある。こうした眼内レンズの設計自由度が、異なるレリーフの第1および第2回折次数が一致する特定の焦点距離に制限されることの他に、より高い回折次数に回折し、ターゲット焦点の1つに寄与しない光が損失となることが理解されよう。従って、これらの設計は、眼内レンズの回折損失に対する有効な改善策を提供しない。
【0018】
国際特許出願第2017/055503号は、異なるタイプの基本回折レリーフまたは格子、例えば、鋸歯型およびバイナリ型などの重ね合わせを開示しており、それぞれ同じ1次焦点を有する。このジョイント焦点は、レンズのターゲット回折焦点の1つを提供する。しかしながら、多焦点レンズ、例えば、三重焦点レンズを設計する目的のため、この設計は複雑になり、レンズの他のターゲット焦点が重ね合わせプロファイルの合算で生ずるためであり、よって、事前に個別に計算および目標設定できない。
【0019】
欧州特許出願第2375276号は、回折格子の光学伝達関数の形状および高さまたは振幅を変化させることによって、鋸歯型およびバイナリ型のDOE(例えば、一般に段差状DOEとして指定される)で構成される回折レリーフまたは回折格子の焦点における光分布を制御または調整することは、その高さプロファイルに鋭いエッジを有する回折格子をもたらすことがあることを論評しており、これは製造するのが困難である。
【0020】
このため欧州特許第2375276号は、サイン関数およびコサイン関数を用いた曲線近似、多項式表現、スーパーガウス関数を用いたフィルタリングまたは畳み込み(convolution)積分のいずれかによって、段差状の回折レリーフまたは格子の鋭いエッジの平滑化を開示する。平滑化は、鋸歯型またはバイナリ型のDOEの鋭いエッジまたは段差がレンズの半径方向に伸長したり、広がったりするという効果を有する。しかしながら、欧州特許第2375276号は、ターゲット焦点の所定セットについて異なる瞳サイズについて異なる光分布を提供することについて沈黙している。
【0021】
公開された米国特許出願第2006/0116764号は、回折構造が実質的に存在しない表面の周辺部分によって包囲された、レンズ表面の一部の内部に配置できる回折ゾーン(アポダイゼーション(apodization)ゾーンと呼ばれる)を開示する。回折ゾーンは、実質的に均一な高さを有するゾーン境界に位置する複数の段差によって互いに分離可能である。代替として、段差高さは不均一でもよい。例えば、段差高さは、レンズの光軸からの距離が増加する関数として徐々に減少できる。このアポダイゼーションによって、回折焦点に対する屈折焦点での光分布が調整される。
【0022】
上述した先行技術の刊行物のいずれも、例えば、異なる瞳サイズについて個別に異なるように、ターゲット焦点での光分布の調整を可能にしていない。従って、改善した眼科レンズ設計のニーズが存在しており、ターゲットとする回折次数または焦点での自由度を提供し、特に異なる瞳サイズについて全てのターゲット焦点での相対光強度を調整または制御し、ターゲット焦点に寄与しない回折次数で回折される光を可能な限り回避し、これにより改善した全体ユーザ体験を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
(要旨)
第1態様において、本開示は、近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズを提供するものであり、該レンズは、
光軸を備え、屈折焦点を提供する光透過性レンズ本体と、
レンズ本体の少なくとも1つの表面の少なくとも一部に渡って半径方向に同心円状に延びて、回折焦点セットを提供する周期的光透過性回折格子とを有し、
回折格子は、屈折焦点および回折焦点でレンズ本体に入射する光を分布させるための光波スプリッタとして動作するように設計され、
屈折焦点は、中間視力のための焦点を提供し、回折焦点は、近視力および遠視力のための焦点を提供し、
回折格子は、レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数を有し、
連続周期的位相プロファイル関数は、レンズ本体の光軸までの半径距離の関数として変調される引数(argument)を含み、これによりレンズ本体に入射する光の分布を調整している。
【0024】
本開示は、レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を有する眼科レンズが、不連続またはギザギザ型の位相プロファイル関数を有するレンズよりも視力の不快感および障害をあまり引き起こさないという洞察に基づいている。関数は、その引数(即ち、関数が動作する変数、項または式)の各ポイントまたは値において、下記の場合に「連続」と呼ばれる。
(i)こうしたポイントで関数が定義される。
(ii)引数がそのポイントに右手と左手から接近する場合に関数の極限が存在し、そして等しい。
(iii)引数がそのポイントに接近する際の関数の極限が、そのポイントの関数の値に等しい。
【0025】
本開示によれば、回折格子の光学伝達関数または光透過関数の位相プロファイル関数を、連続周期的位相プロファイル関数として設計することは、ターゲット焦点の選択およびターゲット焦点での光の分布の制御における自由度を提供し、回折焦点及び/又は屈折焦点での相対的光分布は、位相プロファイル関数の引数を、レンズ本体の光軸までの半径または半径距離の関数として変調することによって調整可能である。
【0026】
連続周期的位相プロファイル関数を有するレンズは、とりわけ、ジオプタ誤計算に対してあまり敏感でない。即ち、例えば、眼内レンズを装着する場合の医者または医師、あるいはコンタクトレンズを装着する場合の検眼医(optometrist)の低い精度の測定機器に起因して、特定のユーザに要求される必要な光学パワー矯正での誤計算。さらに、眼内レンズの場合のレンズ変位(偏心)(これは、レンズの傾斜および転位(dislocation)によってレンズの装着後に生ずることがある)についての感度は、連続周期的位相プロファイル関数を有するレンズでは無視できると報告されている。また、こうしたレンズは、眩しさ(glare)、即ち、直射日光や反射日光などの明るい光、または夜間の車のヘッドランプなどの人工光の存在下で見ることの困難さ、入射光がレンズを通過する経路での不均一性に起因した散乱を生成する可能性が低く、そして、ハロー、即ち、薄明かり、即ち、薄明視条件下で見られる白色または着色した光のリングまたはスポットをあまり生成しないことが論評されている。
【0027】
連続周期的位相プロファイル関数を有するレンズは、特に滑らかな曲線で構成される場合、計算されたプロファイルに従って製造することがより容易であるという利点を有する。突然の変位および鋭いポイントを含むプロファイルは、常に製造誤差の増加をもたらすことになる。
【0028】
上記の利点は、より大きな部分について、連続周期的位相プロファイル関数を有する回折格子において鋭いエッジを有する同心リングまたは同心ゾーンが存在しないことに起因する。本開示では、特に、連続周期的位相プロファイル関数の引数を変調することによって、周期的位相プロファイル関数のターゲット焦点の各々において相対的な光分布またはエネルギー分布を有効に適応または調整することがここでは可能になる。よって、本開示は、上述した利点を有し、その関連しまたは使用可能な焦点の全てにおける個々の光分布に関して調整可能な多焦点眼科用レンズを提供する。
【0029】
本開示の一実施形態によれば、引数は、連続周期的位相プロファイル関数に周期的で円滑化された遷移、即ち、連続周期的位相プロファイル関数に含まれる回折格子の対応する高さプロファイルまたは光学伝達関数によって変調される。
【0030】
連続周期的位相プロファイル関数、即ち、対応する高さプロファイルに周期的で円滑化した遷移を導入することによって、こうした位相プロファイル関数を含む光学伝達関数の製造は、機械加工の問題を構成しない。遷移の円滑化によって、回折格子にアーチファクト(artefact:疑似物)が全く導入されず、または無視でき、不要な光学効果、例えば、迷光、色収差、ハロー、グレア、散乱などが少ない連続周期位相プロファイル関数を含む調整済レンズの特性が維持される。
【0031】
本開示に係る眼科多焦点レンズの更なる実施形態において、各遷移での光分布は、連続周期的位相プロファイル関数の周期の一部に渡って延びており、これにより回折焦点における光分布を調整しており、各遷移は、下記の少なくとも1つを備える。
・連続周期的位相プロファイル関数での変位を、レンズ本体の半径方向に提供する遷移。
・連続周期的位相プロファイル関数での変位を、レンズ本体の少なくとも1つの表面を横断する方向に提供する遷移。
【0032】
レンズ本体の半径方向及び/又はレンズ本体の少なくとも1つの表面を横断する方向での連続周期的位相プロファイル関数のある周期での局所変位を提供する遷移が、こうした引数変調のない連続周期的位相プロファイル関数と比較して、回折焦点、即ち、近視力および遠視力のための焦点の間の相対的な光分布の変化を生じさせることが判明した。近視力のための焦点または遠視力のための焦点において相対的な光分布が促進されるか否かは、連続周期的位相プロファイル関数のある周期における局所変位の方向に依存する。
【0033】
本開示に係る眼科多焦点レンズの他の実施形態において、連続周期的位相プロファイル関数での変位を、レンズ本体の半径方向に提供する遷移は、連続周期的位相プロファイル関数の前縁または前側面(flank)および後縁または後側面の少なくとも一方の位置に配置され、そして、連続周期的位相プロファイル関数の変位を、レンズ本体の少なくとも1つの表面を横断する方向に提供する遷移は、連続周期的位相プロファイル関数の山(crest)および谷(trough)の少なくとも一方の位置に配置される。
【0034】
前縁および後縁の一方または両方に配置された、レンズ本体の半径方向での充分小さい変位、そして、山および谷の一方または両方での半径方向を横切る比較的小さい変位が、回折焦点間に分布する光の比率に極めて効率的に影響することが判明した。
【0035】
引数は、遷移が連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期に設けられるように変調されてもよい。それは、光分布の必要な調整に応じて、複数の連続的な周期または複数の不連続な周期である。さらに、異なる変調タイプの組み合わせも可能である。それは、連続周期的位相プロファイル関数の前縁および後縁または側面での遷移と、連続周期的位相プロファイル関数の山または谷またはその近傍での遷移との組合せである。
【0036】
本開示の更なる実施形態によれば、連続周期的位相プロファイル関数の遷移は、下記を含んでもよい。
・連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期において、連続周期的位相プロファイル関数に同一の変位を提供する遷移。
・連続周期的位相プロファイル関数の複数の期間に渡って増加する、連続周期的位相プロファイル関数での変位を提供する遷移。
・連続周期的位相プロファイル関数の複数の期間に渡って減少する、連続周期的位相プロファイル関数での変位を提供する遷移。
【0037】
「同一」という用語は、連続周期的位相プロファイル関数に実質的に同一の変位を周期的に提供する遷移を参照する。「増加」または「減少」という用語は、レンズ本体の半径方向の複数の周期に渡って、連続周期的位相プロファイル関数の変位がそれぞれ増加または減少する遷移を参照する。
【0038】
連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期における同一の変位の場合、焦点での光分布は、レンズ本体のある領域、即ち、遷移が発生する連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期に渡って本質的に一定のままである。レンズ本体に幾つかの、例えば、隣接する領域に互いに異なる変位を提供することによって、異なる瞳サイズについて異なる光分布が提供できる。
【0039】
レンズ本体の表面に渡って、即ち、光軸から半径方向に連続周期的位相プロファイル関数の引数の変調を変化させることによって、焦点での光分布は、入射光に露出されるレンズ本体の表面の面積に応じて変化するようになる。こうして焦点での相対的光分布は、ユーザの瞳サイズに依存するようになる。一般に、本などを読んでいるときの瞳のサイズは小さく、これは典型的には明るい環境で行われるためである。しかしながら、より暗い状態はより広い瞳をもたらし、車や自転車の運転などの重大な状況でしばしば発生する。これらの後者の場合、比較的小さな瞳サイズで予想される状況と比較して、遠視力のための焦点により多くの光を有することが望ましい。
【0040】
レンズ本体のある領域、即ち、遷移が発生する連続周期的位相プロファイル関数の幾つかの周期に渡って延びる複数の周期での増加または減少する変位の一方を提供する遷移では、回折焦点での相対的光分布は、瞳サイズが変化すると徐々に変化するようになる。
【0041】
例えば、連続周期的位相プロファイル関数の例えば、3~5個の連続周期の引数を変調することによって、これらの周期が延びるレンズのある領域に入射する光について、回折焦点での相対的光分布を調整する際に多大な寄与が達成されることが観察されている。
【0042】
即ち、例えば、比較的小さい瞳サイズに対応するレンズ本体の光軸から始まる連続周期的位相プロファイル関数の第1の複数の3~5個の連続周期の引数は、周期的に変調でき、そのため近視力焦点に分布する光は、中間視力および遠視力のための焦点と比較して増強される。一方、第1の複数に隣接するか、第1の複数から半径方向にある距離だけ離間した連続周期的位相プロファイル関数の更なる複数の3~5個の連続周期の引数の変調により、近視力および中間視力のための焦点と比較して、遠視力のための焦点に分布する光が増強される。
【0043】
従って、連続周期的位相プロファイル関数の空間的に分布した引数変調は、即ち、レンズ本体のある領域または表面に渡って延びる異なる変調を有することによって、即ち、レンズ本体の光軸までの半径距離の関数として連続的または区分的または離散的に変化することによって、異なる瞳サイズについて焦点での光分布の有効な調整を提供する。
【0044】
本開示に係る眼科多焦点レンズの更なる実施形態において、連続周期的位相プロファイル関数の引数は、レンズ本体に渡って異なって変調され、これにより異なる瞳サイズについてレンズ本体に入射する光の分布を異なるように調整する。特に、引数が、レンズ本体の少なくとも1つの領域をカバーする連続周期的位相プロファイル関数の複数の連続周期において変調され、引数の連続周期の数、変調強度及び/又は変調タイプは、レンズ本体を横断する様々な領域で相違する。
【0045】
本開示の実施形態において、眼科用多焦点レンズが提供され、連続周期位相プロファイル関数の引数は、光軸を含み、半径方向に延びるレンズの表面の第1領域に第1三重焦点特性を提供するために変調され、第1三重焦点は、近視力のための焦点に分布する光を強調するものであり、そして、レンズの半径方向にレンズ本体の外周エッジに向かって第1領域を超えて延びるレンズの表面の第2領域に第2三重焦点特性を提供するために変調され、第2三重焦点特性は、遠視力のための焦点に分布する光を強調する。
【0046】
本開示に係る眼科多焦点レンズの他の実施形態において、引数は、連続周期的位相プロファイル関数の同じ周期長で、レンズ本体の半径方向に離間した第1遷移および第2遷移を提供すように変調され、第2遷移は、第1遷移の作用を少なくとも部分的に打ち消す。
【0047】
連続周期的位相プロファイル関数のある周期長において第1遷移および第2遷移を実質的に打ち消すことは、連続周期的位相プロファイル関数の周期、そしてこれによりターゲット焦点の位置での偏差が有効に防止される。さらに、こうして連続周期的位相プロファイル関数の各周期を独立に制御された方法で変更して、強度分布への所望の局所的寄与を得ることが可能である。屈折焦点に分布する光の量は、こうした遷移によって本質的に影響されず、遷移なしの連続周期的位相プロファイル関数と比較して本質的に同じままになる。
【0048】
本開示に係る眼科多焦点レンズのさらに他の実施形態において、引数は、引数変調関数に従って変調され、特に引数変調関数は、連続周期位相プロファイル関数の周期に等しい周期を有する周期関数であり、特に連続関数、連続三角関数、三角形関数および台形関数のうちの1つを含む、光軸周りに対称な周期関数である。こうした周期的引数変調は、例えば、上記で議論したような連続周期的位相プロファイル関数の滑らかな遷移を提供できる。
【0049】
回折格子は周期構造を有するため、光学伝達関数の位相プロファイル関数は周期関数であり、よってフーリエ級数に展開できる。ターゲットの屈折焦点および回折焦点での光分布の全体効率の最適化は、ターゲット焦点に関連する回折次数の光エネルギーの合計が最大とすべきことを要求する。各次数の光エネルギーは、個々の回折次数kのフーリエ係数τの絶対値の2乗に対応する。
【0050】
例えば、波動分割型三重焦点眼科レンズの場合、屈折焦点は、中間視力の焦点を表し、回折焦点は、それぞれ近視力および遠視力の焦点を表し、|τ-m+|τ+|τを最適化すべきであり、指数-m,0,pは、それぞれ近視力のための焦点を提供する回折次数、中間視力を提供する屈折焦点、遠視力のための焦点を提供する回折次数を表す。
【0051】
回折次数-m,pの値は等しい必要はない。本開示において、mの値がpの値と等しい、例えば、m=p=1の場合、波動スプリッタは対称波動スプリッタと呼ばれ、一方、mとpの値が異なる場合、波動スプリッタは非対称と呼ばれる。
【0052】
ターゲット屈折焦点および回折焦点での光分布の全体効率を最適化して、ターゲット焦点に関連する回折次数の光エネルギーの合計が最大にすべきことの上記制約は、ターゲット屈折焦点および回折焦点の各々での光エネルギーが等しくすべきであることを意味しない。従って、最適な位相関数は、ターゲット焦点および、該ターゲット焦点でのターゲット光強度または光エネルギーの両方に依存して導出できる。
【0053】
本開示に従って、回折格子の繰り返しDOEの個々において同心円状という用語は、同心円または環状ゾーンに限定されず、例えば、同心の楕円または長円形状ゾーン、またはさらに一般には、任意のタイプの同心回転ゾーン形状を含む。
【0054】
文献("Analytical derivation of the optimum triplicator", by F. Gori et al., in Optics Communication 157 (1998), p. 13-16)(この文献は参照によりここにに組み込まれる)によれば、回折次数+1,-1の2つの回折焦点および次数0の屈折焦点を含む平面対称波動スプリッタでは、位相プロファイル関数は、最適な全体効率を提供し、即ち、±1の回折次数と0次の焦点において入射光ビームを想定できる最大効率で分割し、単一の連続した閉形式の式または関数で表現できる。
【0055】
本開示による多焦点眼科用レンズの実施形態において、回折格子は、波動スプリッタとして動作するように配置され、回折次数+1および-1で2つの回折焦点を含み、連続周期位相プロファイル関数は、下記に従って単一の連続した閉形式の式または関数で表される。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、φ(r)は、回折格子の連続周期位相プロファイル関数、
rは、レンズ本体の光軸から外向きの半径距離または半径、[mm]、
A(r)は、レンズ本体の半径方向での連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数、
F[α*G]は、光波スプリッタ動作を提供するレンズ本体の半径方向の関数、
G(r)は、r空間での連続周期関数、
α(r)は、Gの引数マグニチュード (magnitude:大きさ)変調関数、
S(r)は、r空間でのGの引数 角度変調関数、[mm]、
Tは、r空間での回折格子の周期またはピッチ、[mm]、
B(r)は、連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数であり、
引数マグニチュード変調関数α(r)および引数角度変調関数S(r)の少なくとも1つは、レンズ本体の光軸までの半径距離の関数として変調される引数を含む。
【0058】
α(r)およびS(r)の両方は、様々な瞳サイズについて、ターゲット焦点での光分布を調整するための連続周期的位相プロファイル関数の引数を変調するために独立して選択してもよい。
【0059】
本開示によれば、回折焦点および屈折焦点での光分布は、連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数A(r)および振幅変調関数B(r)の少なくとも一方の適応(adaptation)によってさらに調整できる。
【0060】
振幅変調関数A(r),B(r)は、瞳サイズに応じて、±1回折次数と0次数との間で分配される光の量の更なる制御を提供する。一般に、位相プロファイルの最大位相遅延(retardation)が設計波長未満であれば、振幅変調関数の何れかまたは両方の増加が、0次数または屈折焦点と比較して、±1の回折次数(即ち、回折焦点)で回折する光の量を増加させるようになり、一方、振幅変調機能の何れかまたは両方の減少が、回折焦点と比較して、屈折焦点に提供される光の量を増加させるようになる。
【0061】
振幅変調関数は、アポダイズ(apodize)目的のために、レンズの中心または光軸からの半径距離の関数として変化してもよい。振幅を変化させることは、中間、即ち、屈折焦点での相対的光強度を制御する方法である。実際の実施形態では、本開示によれば、振幅変調関数A(r),B(r)は、レンズ本体の一部に渡って一定でもよい。
【0062】
文献(Gori et al.)に開示されるように、式(1)の位相プロファイル関数φ(r)は、F[α*G]は逆正接関数であり、G(r)が正弦関数であり、S(r)=0、A(r)=1、B(r)=0で、±1回折次数および0次数の焦点において想定できる最高効率で入射光ビームを分割する平面回折格子の連続周期位相プロファイル関数を表すことが証明できる。
【0063】
文献(Gori et al.)によれば、引数マグニチュード変調関数または光分布パラメータα(r)は、±1回折次数および0次数の間で分配される光の量を決定する。平面回折格子のこうした位相プロファイル関数φ(r)の全体効率は0.925以上である。α(r)=2.65718の一定値の場合、平面回折格子での光エネルギーは、ターゲット焦点の間で均等に分配される。
【0064】
よって、上述した利点に加えて、周期的連続位相プロファイル関数が、ターゲットの屈折焦点および回折焦点での光分布の全体効率の最適化を提供し、ターゲット焦点に寄与しない回折次数で回折する光を可能な限り回避し、これにより改善した全体ユーザ体験を提供する。
【0065】
文献(Gori et al.)による最適なトリプリケータ(triplicator)が、リニアまたは平面位相格子について計算され、それをレンズに変換し、その結果、平方根依存性を有する位相プロファイル関数の周期間の距離、例えば、焦点での等しい光分布が連続周期的位相プロファイル関数の引数の変調による本開示とともに達成される。レンズ本体のある領域での焦点におけるほぼ均等な光分布が、例えば、引数角度変調S(r)=0.33の値の場合に提供され、レンズ本体の一部での引数マグニチュード変調関数または光分布パラメータα(r)の値は、2.65718の値に等しく、振幅変調関数はA(r)=0.96およびB(r)=0の一定値を有する。当業者は、上述した変調関数または変調パラメータの他の値が、レンズの焦点でのほぼ均等な光分布を生じさせることを理解するであろう。
【0066】
一般に、光分布を調整するために、引数角度変調関数S(r)は、レンズ本体の一部または全体に渡って一定の値を有してもよい。実際、S(r)の値は、r空間で-0.5*Tと0.5*Tの間の範囲に及んでもよい。特に、S(r)は、0.35*Tと0.5*Tの間、及び/又は、-0.05*Tと-0.15*Tの間の範囲の一定値を有してもよく、特にr空間でS(r)=0.42*Tである。0.35Tと0.50Tの間の範囲の領域は、3つの焦点について良好な強度分布を提供し、どの程度の遠視力優位性が望ましいかに応じて調整できる可能性がある。S(r)=0.42*Tの値が、眼科レンズのための焦点の良好なバランスを提供する。-0.05T~-0.15Tの範囲の領域は、比較的均一な光分布を示す。さらに、この領域は、遠視力焦点を(局所的にまたはレンズ全体に渡って)促進する引数変調に極めて適している。これは、こうした変調によって生じる外乱が無視できるためである。いくつかの地域では、引数変調が実装された場合、より高次の小さな増加があることがある。
【0067】
引数角度変調関数S(r)の一定値が、連続周期的位相プロファイル関数の位相シフトを表し、位相プロファイル関数の勾配の開始を決定し、これにより位相シフトの符号および値に応じて、+1回折次数でより多くの光が回折されるか否か、または-1回折次数でより多くの光が回折されるか否かを決定する。この位相シフトSを格子の周期Tの一部として、例えば、S=±0.25*Tとして表現することが好都合である。当業者は、回折格子の周期Tの整数値を含む特定の位相シフトが、単一周期T内での対応する位相シフトと同じ効果を発揮することは理解するであろう。
【0068】
引数マグニチュード変調関数または光分布パラメータα(r)の適切な選択により、0次、即ち、本開示の中間視力の焦点に分布する光量は調整できる。本開示によれば、α(r)は、レンズ本体の一部に渡ってまたは全体に渡って一定の値を有してもよい。実際、α(r)の値は、例えば、2~3の範囲でもよい。
【0069】
実際の実施形態では、本開示によれば、振幅変調関数A(r),B(r)もレンズ本体の一部に渡ってまたは全体に渡って一定の値を有してもよく、即ち、統合された振幅変調パラメータを提供し、これは、例えば、1.4~0.6の範囲でもよい。
【0070】
変調変数α(r),S(r),A(r),B(r)の何れかまたは全てをその半径方向にレンズ本体の一部に渡って個々の値に設定することによって、例えば、三重焦点眼内レンズの光強度プロファイルは、様々な瞳サイズについて有効に調整できる。
【0071】
レンズ本体の表面はまた、カーネルとのフーリエフィルタリングまたは畳み込み(convolution)を適用することによって変更でき、あるいは、他の既知の信号処理方法を適用して、レンズプロファイルを円滑化または僅かに整形して、回折次数間のエネルギー分布を変化させたり、または不要な迷光を除去できる。こうした変更は、しばしばr空間において適用するのがより容易である。
【0072】
本開示に係る眼科多焦点レンズの実施形態において、上記の式(1)に開示された位相プロファイル関数φ(r)に基づいて、レンズの回折格子の高さプロファイルH(r)は、下記によって定義される単一の連続した閉形式関数で表される。
【0073】
【数2】
【0074】
ここで、H(r)はレンズの回折格子の高さプロファイル、[nm]、
λは、レンズの設計波長、[nm]
nは、レンズ本体の屈折率、
は、レンズ本体を包囲する媒体の屈折率、
【0075】
【数3】
【0076】
式(1)の位相プロファイル関数φ(r)では、F[α*G]は逆正接関数、G(r)は正弦関数であり、例えば、A(r)=1およびB(r)=0であり、上記の式(2)に開示されるレンズの回折格子の高さプロファイルH(r)は、正弦関数および余弦関数に基づく閉形式の連続幾何関数であり、従って、レンズ本体を製造するのが困難である鋭い遷移はない。従って、高さプロファイルまたは高さ関数H(r)は、最適な効率を提供するだけでなく、レンズの正確な製造そして正確な調整も可能になり、ターゲット焦点および、ターゲット焦点間のターゲット光分布を提供する。
【0077】
本開示に係る眼科レンズの三重焦点特性は、光軸を含むレンズ本体の表面の半径方向での第1領域に制限されることがある。第1領域を越えてその外周エッジに向かうレンズの半径方向のさらに外側に、レンズは、例えば、二重焦点特性を有する第2領域を備えてもよい。例えば、この第2領域では、中間視力および遠視力のための焦点を提供するだけである。
【0078】
実際、位相関数または位相プロファイル関数を計算するために数値的方法が必要になることがあり、上述したように、第1回折次数±1とは異なる近視力および遠視用の焦点を有する対称または非対称ビームスプリッタの屈折焦点および回折焦点での光分布の全体的な効率を最適化する。
【0079】
さらに、本開示に係る教示は、4つのターゲット焦点を有する多焦点眼科用レンズ、即ち、いわゆる四重焦点レンズ、または5つのターゲット焦点を有する多焦点眼科用レンズ、即ち、いわゆる五重焦点レンズの光分布を設計し調整するために等しく適用可能であることにさらに留意されよう。
【0080】
第2態様において、本開示は、近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズを製造する方法を提供するものであり、
該レンズは、光軸を備え、屈折焦点を提供する光透過性レンズ本体と、
レンズ本体の表面の少なくとも一部に渡って半径方向に同心円状に延びて、回折焦点セットを提供する周期的光透過性回折格子とを有し、
回折格子は、屈折焦点および回折焦点でレンズ本体に入射する光を分配するための光波スプリッタとして動作するように設計され、
屈折焦点は、中間視力のための焦点を提供し、回折焦点は、近視力および遠視力のための焦点を提供し、
該方法は、
・近視力、中間視力および遠視力のためのターゲット焦点を決定するステップと、
・ターゲット焦点における入射光のターゲット光分布を決定するステップと、
・中間視力のためのターゲット焦点を提供する屈折焦点を有する光透過性レンズ本体を提供するステップと、
・レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数を有する回折格子を設けて、近視力および遠視力のためのターゲット焦点およびターゲット焦点での光分布を提供するステップと、を含み、
・レンズ本体の光軸までの半径距離の関数として、モジュラー(modular)引数を有する連続周期的位相プロファイル関数を提供するステップと、
・レンズ本体に渡って引数を変調し、変調された引数を提供することによって、ターゲット光分布を提供するためにターゲット焦点での光分布を調整するステップと、
・変調された引数を含む周期的な位相プロファイル関数に従って、回折格子の高さプロファイルを提供するステップと、
・レンズ本体での高さプロファイルに従う回折格子を付与することによって、眼科多焦点レンズを製造するステップとによって特徴付けられる。
【0081】
レンズの回折格子の高さプロファイルは、レンズの光軸または中心と同心円状であるレンズの表面でのリング状、楕円形状または他の回転形状のゾーンとして延びる種々のDOEの高さおよび位置を特定し、例えば、レーザマイクロ加工、ダイヤモンド旋盤、3D印刷、または他の機械加工またはリソグラフ表面処理技術のいずれかによってレンズ本体に付与できる。同じ光学効果を持つレンズが、ホログラフィック光学素子を用いて光を所望の焦点に広げるホログラフィック手段によっても作成できる。
【0082】
レンズ本体は、疎水性アクリル、親水性アクリル、シリコーン材料、または他の適切な光透過性材料のいずれかを含んでもよい。
【0083】
本開示に係る方法では、連続周期的位相プロファイル関数の引数は、本開示の第1態様に係る眼科多焦点レンズを製造するために、特に、異なる瞳サイズのためにターゲット焦点での様々な光分布を有するレンズを提供するために変調してもよい。
【0084】
連続周期的位相プロファイル関数は、数学的に解析的に計算してもよいが、本開示によれば、レンズの回折格子の位相プロファイル関数は、コンピュータ計算により提供でき、位相プロファイル関数は、フーリエ級数で表され、各回折次数は、個々のフーリエ係数で表される。位相プロファイル関数は、ターゲット焦点と関連付けられた回折次数のフーリエ係数の二乗絶対値または重み付け二乗絶対値の合計が最大になるように計算してもよい。
【0085】
本開示に係る方法におけるレンズの連続位相プロファイル関数および高さプロファイルは、レンズを製造するための機器から遠隔的に提供されてもよい。レンズの回折格子の高さプロファイルの詳細は、例えば、インターネットなど、実際に利用可能な遠隔通信ネットワークを通じたデータ転送により、製造現場または製造設備に転送してもよい。
【0086】
ターゲット屈折焦点および回折焦点における光学特性および光分布の調整および平滑化が、特定の焦点または次数で回折した光の量が光軸の一部に渡って広がるか、または滲んで(smear out)、強化された焦点深度(ED)特性を有する眼科レンズを提供するように適用してもよい。
【0087】
第3態様において、本開示は、コンタクトレンズ、眼内レンズ、無水晶体コンタクトレンズ、無水晶体眼内レンズおよび眼鏡レンズのうちの1つとして配置される、上記の眼科多焦点レンズを提供する。眼内レンズの場合、レンズ本体は、一般に、両凸または平凸の光学的に透明なディスクの形態をとることに留意されたい。コンタクトレンズまたは眼鏡または眼鏡レンズの場合、光学的に透明な本体に配置された追加の光学補正によって強化されるか否かに拘らず、レンズ本体は、両凸または平凸または両凹または平凹の形状、またはこれらの組合せのいずれかをとれる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
本開示のこれらの態様および他の態様は、下記に記載される実施例を参照して明らかになり説明されるであろう。
【0089】
図1】人間の眼において複数の距離からの光ビームの集光を図式的に示す。
図2a】典型的な先行技術の多焦点無水晶体眼内レンズの上面図を図式的に示す。
図2b図2aに示す多焦点無水晶体眼内レンズの側面図を図式的に示す。
図3】両凸光透過性本体および光透過性回折格子を含む先行技術の回折レンズの光学的動作を断面図で図式的に示す。
図4】一定の引数マグニチュード変調関数α(r)の関数として、最適効率の対称平面ビームスプリッタについてターゲット回折次数間の相対エネルギー分布を図式的にグラフで示す。
図5】本開示に係る両凸レンズ本体上にある回折格子の高さプロファイル、引数変調パラメータおよび引数変調関数、ならびに対応するコンピュータシミュレーション光強度分布の例を概略的にグラフで示す。
図6】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図7】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図8】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図9】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図10】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図11】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図12】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図13】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図14】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図15】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図16】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図17】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図18】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図19】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図20】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図21a-c】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図21d-h】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図22】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図23】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図24】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図25】コンピュータシミュレーションの例を概略的にグラフで示す。
図26】眼科多焦点レンズを製造するための本開示に係る方法のステップを簡略化したフローチャートで示す。
【発明を実施するための形態】
【0090】
図1は、本開示を説明する目的のため、人間の眼10の生体構造を簡略化した方法で示す。眼10の前部は、角膜11、瞳12を覆う球状の透明組織によって形成される。瞳12は、眼10で受光される光の量を制御する眼10の適応可能な受光部である。瞳12を通過する光線は眼10の内側にある、天然の水晶体13、小さな透明で柔軟性のあるディスクで受光され、眼10の後部にある網膜14上に光線を集光させる。網膜14は、眼10による画像形成に役立つ。後房15、即ち、網膜14とレンズ13との間の空間は房水で充填され、前房16、即ち、レンズ13と角膜11との間の空間は、硝子体液、透明でゼリー状の物質で充填される。参照符号20は、眼10の光軸を示す。
【0091】
眼10による鮮明で明瞭な遠視野では、レンズ13は、比較的平坦になる必要があり、一方、鮮明で明瞭な近視野では、レンズ13は、比較的湾曲している必要がある。レンズ13の曲率は、人間の脳から順に制御される毛様筋(不図示)によって制御される。健康な眼10が、遠視野と近視野との間で角膜11の前方の任意の距離にある画像の明瞭かつ鮮明な視野を提供する方法で、レンズ13を遠近調節し、即ち、制御できる。
【0092】
眼科レンズまたは人工レンズは、レンズ13と組み合わせて眼10による視力を矯正するために装着され、この場合、眼科レンズは、角膜11の前方に位置決めされ、あるいはレンズ13を交換する。後者の場合、無水晶体眼科レンズとしても示される。
【0093】
多焦点眼科レンズは、種々の距離について眼10による視力を強化または矯正するために使用される。例えば、三重焦点眼科レンズの場合、眼科レンズは、図1中の参照符号17,18,19でそれぞれ示す、一般には遠視力、中間視力および近視力と呼ばれるほぼ3つの別々の距離または焦点において鮮明で明瞭な視界のために配置される。これらの距離または焦点17,18,19にまたはそれらの近傍に配置された物体から発せられる光線は、網膜14に正しく焦点が合い、即ち、これらの物体の鮮明で明瞭な画像が投影される。焦点17,18,19は、実際には、それぞれ数メートルから数十センチメートルまで、数センチメートルまでの範囲にある焦点距離に対応できる。
【0094】
眼科レンズが提供する補正量は、光学パワーOPと呼ばれ、ジオプタDで表される。光学パワーOPは、メートル単位で測定した焦点距離fの逆数として計算される。即ち、OP=1/f、ここで、fは、レンズから、遠視力17、中間視力18および近視力19についての個々の焦点までの個々の焦点距離である。例えば、複数レンズのカスケード(直列)の光学パワーは、構成レンズの光学パワーを加算することによって求まる。健康な人間のレンズ13の光学パワーは約20Dである。
【0095】
図2aは、典型的な眼科多焦点無水晶体眼内レンズ30の上面図を示し、図2bは、レンズ30の側面図を示す。レンズ30は、光透過性の円形ディスク状レンズ本体31と、レンズ30を人間の眼内に支持するためにレンズ本体31から外向きに延びる一対のハプティック(haptic)32とを備える。レンズ本体31は、中心部33と、フロント面または前面34と、リア面または後面35とを含む両凸形状を有する。レンズ本体31はさらに、前面34および後面35を横切って中心部33の中心を通って延びる光軸29を含む。当業者は、レンズ30の光学特性を参照する目的のために光軸29が仮想軸であることを理解されよう。凸レンズ本体31は、実際の実施形態では約20Dの屈折光学パワーを提供する。
【0096】
図示した実施形態において、レンズ本体31の前面34には、レンズ本体31の前面34の少なくとも一部に渡って、中心部33を通る光軸29に対して同心円状に延びるリングまたはゾーンからなる周期的な光透過性回折格子またはレリーフ36が配置される。回折格子またはレリーフ36は、回折焦点のセットを提供する。図示していないが、回折格子またはレリーフ36は、レンズ本体31の後面35または両方の面34,35に配置されてもよい。実際、回折格子36は、同心円状または環状リング状のゾーンに限定されないが、同心の楕円形状または長円形状のゾーン、たとえば、より一般的には任意のタイプの同心回転ゾーン形状を含む。
【0097】
実際、レンズ本体31の光学直径37は、約5~7mmであり、ハプティック31を含むレンズ30の総外径38は約12~14mmである。レンズ30は、約1mmの中心厚39を有してもよい。眼科多焦点コンタクトレンズおよび眼鏡または眼鏡レンズの場合、レンズ本体31でのハプティック32は設けられないが、レンズ本体31は、平凸形状、両凹形状または平凹形状、または凸形状と凹形状の組合せを有してもよい。レンズ本体は、疎水性アクリル、親水性アクリル、シリコーン材料、または無水晶体眼科レンズの場合に人間の眼に使用するための他の適切な光透過性材料のいずれかを含んでもよい。
【0098】
図3は、両凸光透過円形ディスク状レンズ本体41を含むレンズ40の既知の周期的光透過回折格子またはレリーフ42の光学的動作を概略的に示す。レンズ40は、レンズ本体の半径方向での断面図で示される。回折格子またはレリーフ42は、複数の繰り返しの隣接配置されたプリズム状の透明な回折光学素子DOE43を含む。DOE43は、レンズ本体41の中心部45の周りの同心円ゾーンで、図2aに示す格子またはレリーフ36のリングまたはゾーンに類似した方法で延びている。説明目的のために、回折格子42のDOE43は、直線的または湾曲した傾斜受光面44などの連続的な傾斜受光面44を含む、周知のギザギザ(jagged)型または鋸歯型エレメントとして示される。DOE43がレンズ本体41の半径方向に離間している格子またはレリーフは、バイナリ型のレリーフ(不図示)と呼ばれる。DOE43の繰り返し周期またはピッチは、レンズの中心または光軸から半径方向に単調に減少し、半径距離の二乗で変化する。
【0099】
格子42およびレンズ本体41を通過する入射光線または一次光線46は、それぞれ回折および屈折され、出力光線または二次光線47を生じさせる。屈折し回折した光線47は、光波47の建設的干渉に起因して、レンズ40の光軸48において複数の焦点を形成する。特定の焦点においてレンズ本体41から到達する光波47の間の光路差がその波長の整数倍である場合、建設的干渉が生じ、即ち、光波は同相であり、その振幅は増強するように加算する。レンズ本体41からの光波47を干渉させることによって進行する光路長の差が波長の半分の奇数倍である場合、ある波の山が他の波の谷に出会って、光波47は互いに部分的または完全に消滅し、即ち、光波は位相がずれており、レンズ本体41の光軸48に焦点を生じさせない。
【0100】
レンズ本体41から種々の距離にある建設的干渉のポイントは、一般に回折次数と呼ばれる。レンズ40の曲率の屈折動作に起因する焦点に対応する焦点は、次数ゼロ、0で示される。他の焦点は、個々の焦点が、図面の紙面内で見たときにゼロ次数の左側、即ち、レンズ本体41に向かう方向のある距離で発生した場合、次数+1、+2、+3などと呼ばれ、そして、個々の焦点が、図面の紙面内で見たときにゼロ次数の右側、即ち、レンズ本体41から遠ざかる方向のある距離で発生した場合、次数-1、-2、-3などと呼ばれる。例えば、図3に示すように。
【0101】
回折レリーフ42は、レンズ本体41から様々な距離に焦点を提供するように設計できる。DOE43の周期的な間隔またはピッチは、破壊的および建設的干渉のポイントがレンズの光軸48で生じる場所、即ち、光軸48での回折次数の位置を実質的に決定する。DOE43の形状および高さにより、建設的干渉のポイント、即ち、特定の回折次数で提供される入射光の量が制御される。
【0102】
0次数の両側で規則的に離間した回折次数を提供する回折格子またはレリーフ42の場合、格子またはレリーフは対称波スプリッタと呼ばれ、入射光線45は、ゼロ次数に対して対称に回折または分割される。+1,+2,-3,-5など、回折次数の不規則な間隔を生成する格子またはレリーフは、非対称ビームスプリッタと呼ばれる。
【0103】
人間の眼10の網膜14での画像形成に寄与しない焦点または次数で集光または回折される光波47の光エネルギーは失われ、レンズ40の全体効率を減少させ、そしてこうしたレンズを用いて人間が認識する画像の品質を減少させる。実際、レンズを最適に設計するために、例えば、図1に示すように、人間の眼に近視力、中間視力および遠視力を提供または矯正するための焦点が事前に設定可能であれば好都合である。これらの予め設定された焦点において入射光線46から受ける光エネルギーの全体効率を最大化する回折格子42が設けられる。
【0104】
科学文献において、予め設定されまたはターゲットの屈折焦点および回折焦点または次数での光分布の全体効率を最適化する回折格子が、これら全てのターゲット次数の正規化した光エネルギーの合計として定義される全体効率ηまたは性能指数が最大となるターゲット回折次数を発生する、位相のみの関数または位相プロファイルを決定することから見つかる。
【0105】
当業者は、レンズ本体41が、平凸、両凹または平凹形状、ならびに凸状および凹状の形状または曲率の組合せ(不図示)を含んでもよいことを理解するであろう。
【0106】
例えば、図2a、図2bおよび図3に示すような回折格子を有する円形のディスク状レンズを想定する。回折格子の位相プロファイル関数がφ(r)で示される場合、決定すべき格子の光学伝達関数は、下記の式で与えられる。
T(r)=exp[iφ(r)]
ここで、expは指数関数を表し、iは単位虚数を表し、rは繰り返しDOEが延びるレンズ本体の中心または光軸からの半径距離または半径を表す。
【0107】
回折格子は周期的な繰り返し構造であるため、T(r)は、下記のようにそのフーリエ級数に展開できる。
【0108】
【数4】
【0109】
ここで、τはn次回折次数のフーリエ係数を表し、Pは回折格子の周期またはピッチであり、nはゼロを含む正の整数値である。
【0110】
全体効率を最大化するには、ターゲット焦点または次数の正規化エネルギーの合計が1に等しいことが必要である。即ち、
【0111】
【数5】
【0112】
例えば、波動分割型三重焦点眼科レンズの場合、屈折焦点は中間視力の焦点を表し、回折焦点は近視力および遠視力のための焦点を表す。|τ-m+|τ+|τを最適化する必要がある。添字-m,0,pは、それぞれ近視力のための焦点を提供する回折次数、中間視力を提供する屈折焦点、遠視力のための焦点を提供する回折次数を表す。最適な位相関数は、ターゲット焦点の重み付け光強度または光エネルギーに応じて導出できる。
【0113】
回折次数-m,pの値は等しい必要はない。本開示では、mの値がpの値と等しい場合、例えば、m=p=1の場合、波スプリッタは対称波スプリッタと呼ばれ、一方、mとpの値が異なる場合、波スプリッタは非対称と呼ばれる。
【0114】
本開示によれば、連続周期的位相プロファイル関数の一般表現は、下記によって提供される。
【0115】
【数6】
【0116】
ここで、φ(r)は、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数、
rは、レンズ本体の光軸から外向きの半径距離または半径、[mm]、
A(r)は、レンズ本体の半径方向での連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数、
F[α*G]は、波スプリッタ動作を提供するレンズ本体の半径方向の関数、
G(r)は、r空間での周期関数、
α(r)は、Gの引数マグニチュード変調関数、
S(r)はr空間でのGの引数角度変調関数、[mm]、
Tは、r空間での回折格子の周期またはピッチ、[mm]、
B(r)は、連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数である。
【0117】
本開示に従って、焦点に分布する光の量を制御または調整するために、レンズ本体での半径または半径距離の関数として、連続周期的関数F[α*G]の引数変調が、G(r)の引数マグニチュード変調関数α(r)およびG(r)の引数角度変調関数S(r)によって提供される。振幅変調関数A(r),B(r)は、回折の焦点と屈折の焦点の間に分布する光量の追加の制御または調整を提供する。
【0118】
図4は、連続周期的位相プロファイル関数を有するリニアまたは平面状の最適トリプリケータ回折格子についての引数マグニチュード変調関数α(r)が一定値の場合、点線|τ|で表される第1回折次数±1と、実線|τ|で表されるゼロ次数との間の相対エネルギー分布をグラフで示す。
【0119】
【数7】
【0120】
式(5)は、文献("Analytical derivation of the optimum triplicator",in Optics Communication 157 (1998), p. 13-16)においてGori et al.によって提示されている。
【0121】
光分布パラメータα(r)は、±1回折次数および0次数に分配される光の量を決定する。式(5)に従って、図4の参照符号49で示すα=2.65718の値では、光エネルギーは、全てのターゲット焦点、即ち、±1回折次数および0次数に均等に分配される。こうした位相プロファイル関数φ(r)で達成できる全体効率ηは、0.925より大きい。
【0122】
本開示に係る眼科多焦点レンズの実施形態において、上記の式(1),(2)に開示された位相プロファイル関数φ(r)に基づいて、実際のレンズの回折格子の高さプロファイルまたは高さ関数H(r)は、下記によって定義される単一の連続閉形式関数で表される。
【0123】
【数8】

ここで、H(r)は、レンズの高さプロファイル、[nm]、
λは、レンズの設計波長、[nm]、
nは、レンズ本体の屈折率、
は、レンズ本体を周囲する媒体の屈折率である。
【0124】
図5a~図22fは、図2a,図2bに示したタイプの眼科レンズ30の両凸レンズ本体31の、式(6)の高さプロファイルまたは高さ関数H(r)およびコンピュータシミュレーション光強度分布の例を概略的にグラフで示すもので、こうした高さプロファイルを含む。レンズ30は、20ジオプタDでのゼロ次数焦点、ならびに、ゼロ次数に関して対称的に位置決めされた、21.5Dおよび18.5Dでの一次焦点を目標とするように設計される。即ち、0次焦点について20Dでの中間視力のための焦点を提供し、回折次数-1によって18.5Dでの遠視力のための焦点を提供し、+1回折次数によって21.5Dでの近視力のための焦点を提供する。当業者は、これらの光学パワーまたは焦点が、ターゲット焦点に応じて実際のレンズについて異なってもよいことは理解するであろう。該例は、MATLAB(登録商標)ベースのシミュレーションソフトウェアを用いて計算される。
【0125】
高さプロファイルH(r)の高さは、垂直軸に沿ってμmスケールで示される。レンズ本体の中心を通る光軸は、半径位置r=0であると仮定し、光軸から外向き方向に測定される半径距離rは、垂直軸に沿って単位mmで表される。強度プロファイルでは、回折光の強度Iは、水平軸に沿って描かれるジオプタDの光学パワーの関数として、垂直軸に沿った任意単位で表される。
【0126】
これらの設計において、レンズの設計波長λは550nmと仮定し、レンズ本体の屈折率nは1.4618に設定し、レンズ本体を包囲する媒体の屈折率nは1.336と仮定する。他に示していなければ、振幅変調関数A(r)=1、振幅変調関数B(r)=0、引数マグニチュード変調関数α(r)=2.65718である。r空間での周期T=0.733mm
【0127】
図5aの参照符号50は、r空間での式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)を示し、mmで表される。図5bは、半径距離rの関数としてリニアスケールに沿った同じ高さ関数を示す。この例では、引数角度変調関数S(r)=0、即ち、位相シフトまたは引数角度変調はない。
【0128】
参照符号51は、回折プロファイル関数H(r)50を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。図2aと図2bを参照。
【0129】
図5aから判るように、r空間では、高さプロファイルH(r)50の各周期Tは、等しいまたは等距離の長さで描かれる。高さプロファイルまたは高さ関数H(r)は、レンズ本体に製造するのが困難である鋭い遷移を有していない同心円状に配置されたDOEを定義する単一の閉形式連続幾何関数である。従って、回折格子の高さプロファイルH(r)50は、最適な効率を提供するだけでなく、正確な製造を可能にし、そしてターゲット焦点およびターゲット焦点間のターゲット光分布を提供するレンズの正確な調整を可能にする。
【0130】
高さプロファイルH(r)50を有するレンズによって回折される光の量は、図5cの強度シミュレーションに示される。参照符号54は、回折次数0を参照し、中間視力のための焦点を提供し、参照符号52は、回折次数-1を参照し、遠視力のための焦点を提供し、参照符号53は、+1回折次数を参照し、遠視力のための焦点を提供する。図5cから判るように、文献(Gori et al.)による平面最適トリプリケータについて計算されたレンズ位相プロファイルとは異なり、α(r)=2.65718では、湾曲したレンズ本体に入射する光の量は、ターゲット焦点に均等に分配されない。これは、文献(Gori et al.)による最適なトリプリケータの周期的位相プロファイル関数は、周期間の距離が線形依存性を示すリニアまたは平面位相格子レンズについて計算されるが、それをレンズに変換することによって、位相プロファイル関数の周期間の距離は、平方根依存性を含むためである。
【0131】
図6aは、半径距離rの関数としての上記式(6)による高さプロファイルH(r)を示すが、参照符号60で示す一定の引数角度変調S=0.25*Tによって変調される。参照符号61は、レンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0132】
レンズによって回折した光の量は、図6bのシミュレーションに示される。参照符号64は、回折次数0を参照し、参照符号62は回折次数-1を参照し、参照符号63は+1回折次数を参照する。図6aから判るように、この引数角度変調Sにより、引数角度変調Sを有していない高さプロファイル50と比較して、+1次数で回折する光が比較的多くなる。
【0133】
他の方向の引数角度変調、即ち、図7aに示す高さプロファイル70によって示されるS=-0.25*Tは、図7bの強度プロファイルに示すように、比較的大部分の光が近視力のための焦点73に対応する次数+1で回折されることを示す。図7bから、-1次数72で回折される光が比較的少なく、この変調は、近視力のための光強度の比較的強い促進を提供することが判る。参照符号71は、回折プロファイル関数H(r)70を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0134】
位相関数、即ち、高さプロファイルのシフトによって、回折次数間の相対的な光量が制御または調整可能であり、レンズのターゲット光分布を提供し、及び/又は、例えば、レンズを製造する際の許容誤差および他の製造偏差を補正できる。
【0135】
上述したように、引数角度変調Sを、r空間における格子の周期Tの割合として表現することが好都合である。実際の実施形態では、引数角度変調は、近視力焦点、中間視力焦点および遠視力焦点の間の光の必要な補正に応じて、周期Tの整数倍を含む、r空間で約S=-0.5*Tと約S=0.5*Tの間の範囲に及んでもよい。
【0136】
図8aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの実施形態における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)を示すもので、参照符号80で示す。図8bは、r空間における高さプロファイル80を示す。回折格子の高さプロファイル80の引数角度は、固定値S=0.315*Tと振幅変調関数A(r)=1.013を有する変調関数S(r)によって変調される。参照符号81は、回折プロファイル関数H(r)80を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0137】
高さプロファイル80を有する回折格子によって達成される光分布は、図8cに示される。図8cから判るように、遠視力82および近視力83のための焦点では、均一な量の光が回折されるが、中間視力のための焦点84では、比較的少ない光が分配される。
【0138】
図9aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの実施形態における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)を示すもので、参照符号90で示される。高さプロファイル90の引数角度は、固定値S=0.33*Tおよび振幅変調関数A(r)=0.96を有する変調関数S(r)によって変調される。参照符号91は、回折プロファイル関数H(r)90を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0139】
高さプロファイル90を有する回折格子によって達成される光分布は、図9bに示される。図9bから判るように、上述した引数変調パラメータを用いて、遠視力92、近視力93および中間視力94のための焦点では、均一な量の光が分配される。
【0140】
引数角度変調関数S(r)及び/又は引数マグニチュード変調関数または光分布パラメータα(r)、および振幅変調関数A(r)およびB(r)のいずれかまたは両方の固定値の代わりに、上述したように、本開示に従って、それぞれ、引数角度変調関数S(r)及び/又は引数マグニチュード変調関数α(r)、ならびに振幅変調関数A(r)およびB(r)は、ターゲット焦点またはターゲット焦点での光分布を調整することによって、個々のターゲット光分布または焦点増強を達成するために、特に、焦点において瞳依存の光分布を提供するために、レンズ本体の光軸までの半径距離に渡って、それとともに変化する変調関数を含んでもよい。
【0141】
図10a~図13cは、本開示に係る眼科多焦点レンズの光分布に対する効果を示すように提供され、連続周期的プロファイル関数の引数は、周期的引数角度変調関数または周期的引数マグニチュード変調関数により変調され、連続周期的位相プロファイル関数、即ち、レンズの高さプロファイルにおいて周期的遷移を提供する。
【0142】
図10aは、本開示に係る三重焦点眼内レンズの例において回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)100を示し、図10bに示す周期的引数角度変調関数S(r)105により変調されている。引数角度変調関数105は、連続周期的高さ関数100の周期に等しい周期を有する周期的矩形波関数である。S(r)105の値は、図10bの縦軸に沿って示すように、S=±0.07*Tの範囲に及ぶ。参照符号101は、回折プロファイル関数H(r)100を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0143】
図示した例において、引数角度変調関数105の上向きエッジまたは前縁106が、高さプロファイル関数100の前縁または上向き側面に位置する、レンズ本体の外向き半径方向rに、高さプロファイル関数100、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の変位を提供する遷移108を生じさせる。引数角度変調関数105の下向きエッジまたは後縁107が、遷移108による変位を打ち消し、高さプロファイル関数100の後縁または下向き側面に位置する、レンズ本体の内向き半径方向に高さプロファイル関数100の変位を提供する遷移109を生じさせる。
【0144】
高さプロファイル100を有する回折格子によって達成される光分布は、図10cに示される。図10cから判るように、上記の引数角度変調関数105では、近視力のための焦点103と比較して、遠視力のための焦点102に比較的多くの光が分布または結合される。中間視力のための焦点104に分布する光の量は、図5に示す高さプロファイル50の中間視力のための焦点54に分布する光の量と実質的に等しく、引数角度変調はない。
【0145】
従って、引数角度調関数105を用いると、遠視力のための焦点102での相対的光量の強力な促進が達成される。
【0146】
図11aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)110を示し、図11bに示す周期的引数角度変調関数S(r)115により変調されている。引数角度変調関数115は、連続周期的高さ関数110の周期に等しい周期を有する周期的矩形波関数である。S(r)115の値は、図11bの縦軸に沿って示すように、S=±0.07*Tの範囲に及ぶ。参照符号111は、回折プロファイル関数H(r)110を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0147】
図示した例において、引数角度変調関数115の上向きエッジまたは前縁116が、高さプロファイル関数110の後縁または上向き側面に位置する、レンズ本体の外向き半径方向rに、高さプロファイル関数110、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の変位を提供する遷移118を生じさせる。引数角度変調関数105の下向きエッジまたは後縁107が、遷移118による変位にを打ち消し、高さプロファイル関数110の後縁または下向き側面に位置する、レンズ本体の内向き半径方向に高さプロファイル関数100の変位を提供する遷移109を生じさせる。
【0148】
高さプロファイル110を有する回折格子によって達成される光分布は、図11cに示される。図11cから判るように、上記の引数角度変調関数115では、遠視力のための焦点112と比較して、近視力のための焦点113に比較的多くの光が分布または結合される。中間視力のための焦点114に分布する光の量は、図5に示す高さプロファイル50の中間視力のための焦点54に分布する光の量と実質的に等しく、引数角度変調はない。
【0149】
従って、引数角度変調関数115を用いると、近視力のための焦点113での相対的光量の強力な促進が達成される。
【0150】
図12aは、本開示に係る三重焦点眼内レンズの例において回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)120を示し、図12bに示す周期的引数マグニチュード変調関数α(r)125により変調されている。引数マグニチュード変調関数125は、連続周期的高さ関数120の周期に等しい周期を有する周期的矩形波関数である。α(r)125の値は、図12bの縦軸に沿って示すように、α=2.65718の値に関して正規化され、1.4≧α(r)/2.65718≧0.7の範囲に及ぶ。高さプロファイル関数120について引数角度変調関数S(r)=0。参照符号121は、回折プロファイル関数H(r)120を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0151】
図示した例において、引数マグニチュード変調関数125の上向きエッジまたは前縁126が、遷移128は、高さプロファイル関数120の上部または頂点に位置する、レンズ本体の少なくとも1つの表面34に横断する下向き方向に、そして外周121に対して上向き方向に、高さプロファイル関数120、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の変位を提供する遷移128を生じさせる。引数マグニチュード変調関数125の下向きエッジまたは後縁127が、レンズ本体30の少なくとも1つの表面34に横断する下向き方向に、即ち、外周121から遠ざかる方向に、高さプロファイル関数120、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイルの変位を提供する遷移129を生じさせる。遷移129は、高さプロファイル関数120の下部または谷に位置し、遷移128による変位を打ち消す。
【0152】
高さプロファイル120を有する回折格子によって達成される光分布は、図12cに示される。図12cから判るように、上記の引数マグニチュード変調関数125では、近視力のための焦点123と比較して、遠視力のための焦点122に比較的多くの光が分布または結合される。中間視力のための焦点124に分布する光の量は、図5に示す高さプロファイル50の中間視力のための焦点54に分布する光の量に実質的に等しく、引数角度変調および固定された引数マグニチュード変調はない。
【0153】
従って、引数角度変調関数125を用いると、遠視力のための焦点122での相対光量の強力な促進が達成される。
【0154】
図13aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例において回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)130を示し、図13bに示す周期的引数マグニチュード変調関数α(r)135により変調されている。引数マグニチュード変調関数135は、連続周期的高さ関数130の周期に等しい周期を有する周期的矩形波関数である。α(r)135の値は、図13bの縦軸に沿って示すように、α=2.65718の値に関して正規化され、1.4≧α(r)/2.65718≧0.7の範囲に及ぶ。高さプロファイル関数130について引数角度変調関数S(r)=0。参照符号131は、回折プロファイル関数H(r)130を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0155】
図示した例において、引数マグニチュード変調関数135の下向きエッジまたは後縁136が、レンズ本体の少なくとも1つの表面34に横断する下向き方向に、即ち、外周131から遠ざかる方向に、高さプロファイル関数130、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の変位を提供する遷移138を生じさせる。遷移138は、高さプロファイル関数130の上部または頂点に位置する。引数マグニチュード変調関数135の上向きエッジまたは前縁137が、レンズ本体30の少なくとも1つの表面34に横断する上向き方向に、即ち、外周131に向かうように、高さプロファイル関数130、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイルの変位を提供する遷移139を生じさせる。遷移139は、高さプロファイル関数130の下部または谷に位置し、遷移138による変位を打ち消す。
【0156】
高さプロファイル130を有する回折格子によって達成される光分布は、図13cに示される。図13cから判るように、上記の引数マグニチュード変調関数135では、遠視力のための焦点132と比較して、近視力のための焦点133に比較的多くの光が分布または結合される。中間視力のための焦点134に分布する光の量は、図5に示す高さプロファイル50の中間視力のための焦点54に分布する光の量に実質的に等しく、引数角度変調および固定された引数マグニチュード変調はない。
【0157】
従って、引数角変調関数135を用いると、近視力のための焦点133での相対光量の強力な促進が達成される。当業者は、例えば、図10図11で説明したように、少なくとも1つの表面34を横断する方向にある高さプロファイル関数の周期的変位を、図12図13に説明したように、レンズ本体の半径方向と平行な高さプロファイルの変位と組み合わせて、調整の効果を強化することが可能であることを理解するであろう。こうして回折焦点の相対強度は、極めて大幅に変更できる。
【0158】
図10a、図11a、図12aおよび図13aから、図10b、図11b、図12bおよび図13cに示す個々の変調関数によって提供される遷移は、高さまたは位相プロファイル関数の急激な変位を生じさせることが判る。この変位は、実際、こうした高さプロファイルを有するレンズを製造する際に機械加工問題を生じさせることがある。
【0159】
本開示によれば、連続周期的位相プロファイル関数において周期的な平滑化された遷移または変位を生じさせる連続周期的位相プロファイル関数の引数、即ち、連続周期的位相プロファイル関数で構成される回折格子の対応する高さプロファイルまたは光学伝達関数を変調することが好都合である。
【0160】
図14aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例において回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)140を示し、図14bに示す周期的引数角度関数S(r)145により変調されている。図10bに示す矩形波引数角度変調関数105とは異なり、周期的引数角度変調関数S(r)145は、連続周期的高さ関数140の周期に等しい周期を有する台形関数である。S(r)145の最大値は、図14bの縦軸に沿って示すように、S=±0.08*Tの範囲に及ぶ。参照符号141は、回折プロファイル関数H(r)140を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0161】
図示した例において、引数角度変調関数145の上向きエッジまたは前縁146が、高さプロファイル関数140の前縁または上向き側面に位置する、レンズ本体の外向き半径方向rに、高さプロファイル関数140、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の線形段階的変位を提供する遷移148を生じさせる。引数角度変調関数145の下向きエッジまたは後縁147が、遷移148による変位を打ち消し、高さプロファイル関数140の後縁または下向き側面に位置する、レンズ本体の内向き半径方向に、高さプロファイル関数140の線形段階的変位を提供する遷移149を生じさせる。S(r)関数145によって提供される遷移は、遠視力のための焦点に分布する光の促進を提供する。
【0162】
図15aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例において回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)150を示し、図15bに示す周期的引数角度関数S(r)155により変調されている。図11bに示す矩形波引数角度変調関数115とは異なり、周期的引数角度変調関数S(r)155は、連続周期的高さ関数150の周期に等しい周期を有する台形関数である。S(r)145の最大値は、図14bの縦軸に沿って示すように、S=±0.08*Tの範囲に及ぶ。参照符号151は、回折プロファイル関数H(r)150を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。
【0163】
図示した例において、引数角度変調関数155の上向きエッジまたは前縁156が、高さプロファイル関数140の後縁または下向き側面に位置する、レンズ本体の外向き半径方向rに、高さプロファイル関数150、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の線形段階的変位を提供する円滑な遷移158を生じさせる。引数角度変調関数155の下向きエッジまたは後縁157が、遷移118による変位を打ち消し、高さプロファイル関数110の前縁または上向き側面に位置する、レンズ本体の内向き半径方向に、高さプロファイル関数150の線形段階的変位を提供する円滑な遷移159を生じさせる。
S(r)関数155によって提供される遷移は、近視力のための焦点に分布する光の促進を提供する。
【0164】
連続周期的位相プロファイル関数、即ち、それぞれ対応する高さプロファイル140,150において周期的で円滑化された遷移148,149および158,159を導入することによって、こうした位相プロファイル関数を含む光学伝達関数の製造は機械加工問題を構成しない。遷移の円滑化によって、回折格子に導入されるアーチファクトが全く無くなりまたは無視できるようになり、その結果、不要な光学効果、例えば、迷光、色収差、ハロー、グレア、散乱などが少ない連続周期位相プロファイル関数を含む調整済レンズの特性が維持される。
【0165】
当業者は、図12bと図13bにそれぞれ示される引数マグニチュード変調関数125,135も、台形状の引数マグニチュード変調関数で置換してもよく、それにより円滑な遷移、即ち、個々の回折格子(不図示)を含むレンズ本体の表面に横断する方向での段階的変位を提供する。本開示によれば、連続関数、連続三角関数、三角形関数などの1つを含む他の周期的引数角度及び/又はマグニチュード関数が適用でき、例えば、非線形の段階的変位を提供できる。
【0166】
図16aは、一例として、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)160を示す。図16bに示す周期的引数角度変調関数S(r)165によって変調されている。図15に示す線形平滑化とは異なり、この例では、平滑化は3次スプライン補間によって提供される。引数マグニチュード変調は、S=0.33*Tで選択されるいわゆるベースライン位相値で提供されるが、S(r)の最大値は、図16bの縦軸に示すように、0.41*T≧S(r)≧0.25*Tの範囲に及ぶ。参照符号161は、回折プロファイル関数H(r)160を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。他のベースライン位相値が選択できることは理解されよう。
【0167】
図示した例において、引数角度変調関数165の下向きエッジまたは後縁166が、高さプロファイル関数160の前縁または上向き側面に位置する、レンズ本体の外向き半径方向rに、高さプロファイル関数160、即ち、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数の線形段階的変位を提供する遷移168を生じさせる。引数角度変調関数165の上向きエッジまたは前縁167が、遷移168による変位を打ち消し、高さプロファイル関数160の後縁または下向き側面に位置する、レンズ本体の内向き半径方向に、高さプロファイル関数160の線形段階的変位を提供する円滑な遷移169を生じさせる。S(r)関数165によって提供される遷移は、図16cの強度または光エネルギー分布図に示すように、遠視力のための焦点162と比較して近視力のための焦点163に分布する光の促進を提供する。参照符号164は、中間視力のための焦点に分布する光の量を参照する。
【0168】
当業者は、前の図に示した引数角度変調関数および引数マグニチュード変調関数は、最初に設計または選択された連続周期的位相または高さ関数を提供し、即ち、その調整のために、ターゲット焦点でのターゲットまたは必要な光分布に到達するように、相互に交換および組合せ可能であることを理解するであろう。
【0169】
本開示は、ターゲット焦点に瞳依存の光分布を提供するのに特に適している。これは、連続周期的位相プロファイル関数の適切な引数変調により、いくつかの方法で達成できる。
【0170】
図17aは、一例として、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)170を示す。図17bに示す周期的引数角度変調関数S(r)175によって変調されている。この例では、周期的引数角度関数S(r)175は、光軸から1.7mmの半径距離に渡って延びる第1部分(参照符号176で示す)と、1.7mmの半径距離からレンズ本体の外周に向けて延びる第2部分177とを備える。
【0171】
引数角度変調関数の第1部分176は、連続周期的高さ関数170の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、高さプロファイル関数170の前縁/後縁に円滑な遷移を提供する。この第1部分では、図17bの縦軸に沿って示すように、S(r)の値はS=±0.02*Tの範囲に及ぶ。
【0172】
引数角度変調関数の第2部分177は、連続周期的高さ関数170の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、同様に、高さプロファイル関数170の前縁/後縁に円滑な遷移を提供する。この第2部分では、図17bの縦軸に沿って示すように、S(r)の値はS=±0.1*Tの範囲に及ぶ。
【0173】
図17c~図17fは、光軸からのいくつかの距離についてレンズ本体に部分的に入射する光の強度プロファイルを示し、これによりいくつかの瞳距離を模倣している。図17cは3mmの瞳直径を示し、図17dは3.75mmの瞳直径を示し、図17eは4.5mmの瞳直径を示し、図17fは6mmの瞳直径を示す。約3mmの瞳直径が、近視力の焦点での光量が比較的増強させる必要がある状況に対応ており、約6mmの瞳直径が、遠視力の焦点で相対的により多くの光が好ましい状況に対応する。
【0174】
図17c~図17fにおいて、強度値は、中間視力の強度、即ち、20Dに関して正規化され、Inで示している。近視力の焦点は21.5Dに設定され、遠視力の焦点は18.5Dに設定される。各強度グラフについて、遠視力および近視力のための焦点に結合される光の量の光分布比率R、即ち、R=In-far(遠視)/In-near(近視)が示される。Rが1に等しい場合、等しい光量が回折焦点に結合される。R<1の場合、遠視力の焦点と比較して、近視力の焦点に比較的多くの光が分布する。R>1の場合、近視力の焦点と比較して、遠視力の焦点に比較的多くの光が分布する。
【0175】
シミュレーションした正規化光強度および計算した光分布比率から、引数角度変調関数175の第1部分176は、その第2部分177と比較して、小さい瞳直径(即ち、3mmと3.75mmで、1.08と1.04のR値をそれぞれ提供する)での近視力を増強または促進し、一方、より大きい瞳直径(即ち、4.5mmと6mmで、1.18と1.46のR値をそれぞれ提供する)では、遠視力が増強または促進されることが判る。
【0176】
図18aは、一例として、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)180を示す。図18bに示す周期的引数角度変調関数S(r)185によって変調されている。この例では、周期的引数角度変調関数S(r)185は、連続周期的高さ関数180の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、高さプロファイル関数180の前縁/後縁に円滑な遷移を提供する。S(r)185の値は、図18bの縦軸に沿って示すように、S=0からS=±0.1*Tの値まで、レンズ本体の外周に向かって半径方向に指数関数的に増加する。
【0177】
図18c~図18fは、それぞれ図17c~図17fに従って、光軸からいくつかの距離についてレンズ本体に部分的に入射する光の正規化強度プロファイルを示す。シミュレーションした正規化光強度および計算した光分布比率Rから、引数角度変調185は、3mmの小さな瞳直径について近視力を適度に増強または促進し、1.74のR値を提供しており、6mmの瞳直径での1.90のR値と比較して、遠視力を促進することが判る。
【0178】
図19aは、一例として、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)190を示す。図19bに示す周期的引数角度変調関数S(r)195によって変調されている。この例では、周期的引数角度変調関数S(r)195は、連続周期的高さ関数190の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、高さプロファイル関数190の前縁/後縁に円滑な遷移を提供する。S(r)195の値は、図19bの縦軸に沿って示すように、0.38*T≧S(r)≧0.2*Tの値から、S=0.33*Tのベースライン位相シフトに関して、レンズ本体の外周に向かって半径方向に指数関数的に減少する。
【0179】
図19c~図19fは、それぞれ図17c~図17fに従って、光軸からいくつかの距離についてレンズ本体に部分的に入射する光の正規化強度プロファイルを示す。シミュレーションした正規化光強度および計算した光分布比率Rから、引数角度変調195は、前の例とは対照的に、3mmと3.75mmの小さい瞳直径で遠視力を促進または増強し、1.6と1.67のR値をそれぞれ提供する。小さな瞳サイズと比較して、より大きな瞳直径では近視力が増強され、4.5mmの瞳直径ではそれぞれ1.44のR値を提供し、6mmの瞳直径では1.27のR値を提供する。このタイプのレンズは特別な場合を構成し、従来にないパワー矯正を提供するために使用できることが理解されよう。
【0180】
図18a~図18fおよび図19a~図19fで説明し図示した本発明の実施形態は、例えば、図17bに示されるように、異なるゾーン間の急激な変化なしに、異なる瞳サイズについて徐々に変化する強度分布を提供するという利点を有しており、これにより不快感が少なくなり、よってユーザの経験が向上する。
【0181】
図20aは、一例として、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)200を示し、図20bに示す周期的引数角度変調関数S(r)205によって変調されている。この例では、周期的引数角度変調関数S(r)205は、光軸から1.5mmの半径距離に渡って延びる第1部分(参照符号206で示す)と、1.5mmの半径距離からレンズ本体の外周に向けて延びる第2部分207とを含む。
【0182】
引数角度変調関数205の第1部分206は、連続周期的高さ関数200の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、高さプロファイル関数200の前縁/後縁で円滑な遷移を提供する。この第1部分では、S(r)の値は、S=0.33*Tベースライン位相シフトに関して、レンズ本体の外周に向かって半径方向に指数関数的に減少する。引数角度変調関数205の第2部分207は、連続周期的高さ関数200の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、同様に、高さプロファイル関数170の前縁/後縁に円滑な遷移を提供する。この第2部分では、S(r)の値は、S=0.33*Tのベースライン位相シフトに関して、レンズ本体の外周に向かって半径方向外側に指数関数的に増加する。第1部分では、S(r)205の最大値は、図20bの縦軸に沿って示すように、0.44*T≧S(r)≧0.28*Tの範囲に及び、第2部分207ではS=±0.20*Tの範囲に及ぶ。
【0183】
図20c~図20fは、それぞれ図17c~図17fに従って、光軸からいくつかの距離についてレンズ本体に部分的に入射する光の正規化強度プロファイルを示す。シミュレーションした正規化光強度および計算した光分布比率Rから、引数角度変調205は、3mmと3.75mmのより小さい瞳直径、そして4.5mmの瞳直径について近視力のための焦点での光分布を強く促進することが判る。それぞれ0.68,0.89および0.93のR値を提供する。より小さい瞳サイズと比較して、6mmのより大きい瞳直径では遠視力がわずかに増強され、個々のR値1.08を提供する。
【0184】
図21aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)210を示す。図21bに示す周期的引数マグニチュード変調関数α(r)216および引数角度変調関数S(r)215によって変調されている。
【0185】
引数マグニチュード変調関数216は、レンズ本体の半径外向き方向に段差的または区分的に増加する関数である。区分または段差の幅は、連続周期的高さ関数210の周期に等しい。図21bの縦軸に沿って示すように、α(r)216の値は、α=2.65718の値に関して正規化され、2≧α(r)/2.65718≧0.9の範囲に及ぶ。図示した例では、引数マグニチュード変調関数216は、光軸からの距離が増加するにつれて、高さプロファイルまたは高さ関数210の高さの周期的な増加を生じさせ、高さプロファイル210のアポダイゼーションの効果を有する。
【0186】
引数角度変調関数S(r)215は、連続周期的高さ関数180の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、高さプロファイル関数210の前縁/後縁に円滑な遷移を提供する。S(r)215の値は、図21cの縦軸に沿って示すように、S=0の値からS=±0.1*Tまでレンズ本体の外周に向かって半径方向に指数関数的に増加する。
【0187】
図21hは、高さプロファイル関数210を有する回折格子を備えるレンズについての光分布または強度プロファイルを示す。図21hから判るように、引数角度変調関数S(r)215に起因して、遠視力のための焦点212に分布する入射光の量は、近視力のための焦点213に結合される入射光の量を大きく超える。さらに、例えば、図5bの強度プロファイルと比較して、角度マグニチュード変調関数α(r)216に起因して、中間視力のための焦点214での光量は減少する。
【0188】
図21d~図21gは、図17c~図17fに従って、光軸からいくつかの距離についてレンズ本体に部分的に入射する光の正規化強度プロファイルをそれぞれ示す。シミュレーションした正規化光強度および計算した光分布比率Rから、引数マグニチュード変調関数216は、3mm、3.75mm、4.5mm、6mmの瞳直径の全てについて遠視力を強く促進または増強し、前回の例のR値と比較して、2.03、2.07、2.05、2.13の比較的高いR値をそれぞれ提供する。図21fと図21gの正規化強度プロファイルから、中間視力のための焦点に分布する光の量は、α(r)216の増加とともに減少することが判る。
【0189】
図22aは、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(6)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)220を示し、図22bに示す周期的引数角度変調関数S(r)225によって変調されており、この周期的引数角度変調関数S(r)225は、図21bに示す周期的引数角度変調関数S(r)215に等しい。さらに、高さアポダイゼーションは、レンズの光軸までの半径距離(不図示)とともに指数関数的に増加する振幅変調関数A(r)によって、高さプロファイル関数220で適用される。高さプロファイル関数220は、前回の例の高さプロファイル関数と比較してより大きな縮尺で描かれていることに留意されたい。
【0190】
図22c~図22fに示す正規化強度プロファイルから、とりわけ、中間視力のための焦点に分布する入射光の量は、振幅変調A(r)の増加とともに減少することが導出できる。計算した光分布比率Rは、3mmと3.75mmのより小さい瞳直径ではそれぞれR=1.97とR=2.01で近視力が相対的に促進され、一方、4.5mmと6mmのより大きい瞳直径では、遠視力が促進され、それぞれ2.05と2.27の比較的高いR値を提供することを示す。
【0191】
よって、図21aと図22aで例示のプロファイルにより、アポダイゼーションによって、引数マグニチュード変調および振幅変調の一方または両方のいずれかにより、中間視力のために焦点、即ち、屈折焦点に分布する光の量は、有効に調整できる。回折焦点での光分布の調整は、瞳依存の調整を含めて、引数角度変調の種々の例によって実証されている。
【0192】
さらに、調整の点で類似した効果を達成するために、引数マグニチュード変調を用いたアポダイゼーションは、レンズ本体の半径方向の高さ関数H(r)の高さの増加を必要とせず、振幅変調によるアポダイゼーションと比較して、光軸からレンズ本体の外周までレンズ本体上での高さ関数の絶対高さ差が少ないことが観察された。製造上の観点からは、絶対高さの差は小さい方が好ましい。さらに、こうしたプロファイルは、ほこり、汚れ、水分などの蓄積に対してあまり敏感ではない。従って、高さ関数または高さプロファイルの振幅変調よりも、引数マグニチュード変調によるアポダイゼーションが好ましい。
【0193】
前回の例では、上記の式(6)に基づいて連続周期的位相プロファイル関数に係る高さプロファイルを有する回折格子を含むレンズの焦点での光分布の調整を示したが、本開示の教示は、この特定タイプの連続周期的位相プロファイル関数に限定されない。
【0194】
図23aと図23bは、一例として、下記の式(7)による真の正弦波連続周期的位相プロファイル関数の高さプロファイルまたは高さ関数H(r)を示す。
【0195】
【数9】
【0196】
ここで、H(r)は、レンズの高さプロファイル、[nm]
A(r)は、レンズ本体の半径方向の連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数、
λは、レンズの設計波長、[nm]、
nは、レンズ本体の屈折率、
は、レンズ本体を包囲する媒体の屈折率、
S(r)は、r空間での引数角度変調関数、[mm]、
Tは、r空間での回折格子の周期またはピッチ、[mm]。
【0197】
図23aは、r空間(単位mmで表す)における高さプロファイルまたは高さ関数H(r)230を示し、図23bは、半径距離rの関数としてリニアスケールに沿った同じ高さ関数230を示す。この例では、引数角度変調関数S(r)=0であり、即ち、位相シフトまたは引数角度変調がない。
【0198】
高さプロファイルH(r)の高さは、縦軸に沿ってμmスケールで描かれる。レンズ本体の中心を通る光軸は、半径位置r=0であると想定し、光軸から外向き方向に測定される半径距離rは、縦軸に沿って単位mmで表される。参照符号231は、回折プロファイル関数H(r)230を含む回折格子またはレリーフ36を有するレンズ本体30の前面34の外周を参照する。図2aと図2bを参照。
【0199】
この設計では、レンズの設計波長λは550nmであると想定し、レンズ本体の屈折率nは1.4618に設定され、レンズ本体を包囲する媒体の屈折率nは1.336と想定した。振幅変調関数A(r)=0.225。A(r)=0.5の場合、1波長λの最大位相遅延(retardation)が得られる。周期T=0.55mm(r空間)。
【0200】
図23cは、高さプロファイル230を有する回折格子を含む、図2aと図2bに示したタイプの眼科レンズ30の両凸レンズ本体31のコンピュータシミュレーションした光強度分布を示す。強度プロファイルにおいて、回折光の強度Iは、横軸に沿って描かれた単位ジオプタDの光学パワーの関数として、縦軸に沿った任意単位で描いている。
【0201】
例示の目的のために、レンズは、20ジオプタDの0次数焦点、および0次数に関して対称に位置決めされる22Dと18Dの第1次数焦点を目標として設計される。即ち、0次数焦点には20Dの中間視力のための焦点234を提供し、回折次数-1による18Dの遠視力のための焦点232を提供し、+1回折次数による22Dの近視力のための焦点233を提供する。
【0202】
図24aは、一例として、本開示に係る三重焦点眼内眼科レンズの例における回折格子の半径距離rの関数として、上記式(7)による高さプロファイルまたは高さ関数H(r)240を示し、図24bに示す本開示に係る周期的引数角度変調関数S(r)245によって変調されている。この例では、周期的引数角度変調関数S(r)245は、光軸から1.75mmの半径距離に渡って延びる第1部分(参照符号246で示す)と、1.75mmの半径距離からレンズ本体の外周に向けて延びる第2部分247とを含む。
【0203】
引数角度変調関数の第1部分246は、連続周期的高さ関数240の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、高さプロファイル関数240の前縁/後縁で円滑な遷移を提供する。この第1部分では、図24bの縦軸に沿って示すように、S(r)の値は、S=±0.045*Tの範囲に及ぶ。
【0204】
引数角度変調関数の第2部分247は、連続周期的高さ関数240の周期に等しい周期を有する台形関数で構成され、同様に、高さプロファイル関数240の前縁/後縁で円滑な遷移を提供する。この第2部分では、図24bの縦軸に沿って示すように、S(r)の値は、S=±0.1*Tの範囲に及ぶ。
【0205】
図24c~図24fは、図17c~図17fに従って、光軸からのいくつかの距離について、高さ関数240を含むレンズ本体に部分的に入射する光の正規化強度プロファイルを示す。シミュレーションした正規化光強度および計算した光分布比率から、引数角度変調関数245の第1部分246は、小さい瞳直径、即ち、3mmと3.75mmでは近視力を増強または促進し、それぞれ0.92と0.90のR値を提供し、一方、第2部分247によって、より大きい瞳直径、即ち、4.5mmと6mmでは遠視力が増強または促進され、それぞれ1.05と1.24のR値を提供する。
【0206】
本開示における光学伝達関数または光透過関数は、レンズの半径方向rに変化する光透過特性を有してもよい。特に、レンズの中心から外向き方向に約2~3mmの距離に渡って、光学伝達関数または光透過関数は、三重焦点特性を提供するとともに、約2~3mmの半径距離から約r=5~7mmでのレンズの外周エッジまで二重焦点特性を含む位相プロファイルを有する。図2aを参照。
【0207】
さらに、上述した教示は、非対称回折格子、及び/又は、4つのターゲット焦点、即ち、いわゆる四重(quad)焦点レンズ、または5つのターゲット焦点、即ち、いわゆる五重(penta)焦点レンズを有する多焦点眼科レンズを設計するために等しく適用可能であることに留意されたい。
【0208】
図25は、一例として、下記の式(8)に係る連続周期的位相プロファイル関数に基づいて、回折格子を含む、半径距離rの関数としてリニアスケールに沿って五重焦点レンズの連続周期的高さプロファイル関数H(r)を示す。
【0209】
【数10】
【0210】
ここで、φ(r)は、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数、
rは、レンズ本体の光軸から外向きの半径距離または半径、[mm]、
atan2は、2引数の逆正接、
A(r)は、レンズ本体の半径方向での連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数、
γ(r)およびδ(r)は、引数変調関数、
S(r)は、r空間での引数角度変調関数、[mm]、
Tは、r空間での回折格子の周期またはピッチ、[mm]。
【0211】
連続周期的位相プロファイル関数(8)は、本開示の教示および文献(Romero, Louis A, and Fred M. Dickey, "Theory of optimal beam splitting by phase gratings. II . Square and hexagonal gratings." JOSA A 24.8 (2007): 2296-2312)に基づいている。
【0212】
高さプロファイルH(r)250を含む回折プロファイルを有するレンズによって回折した光の量は、図25bの強度シミュレーション図に示されている。参照符号254は、回折次数0を参照し、中間視力のための焦点を提供し、参照符号252,255は、回折次数-1,-2をそれぞれ参照し、遠視力のための焦点を提供し、参照符号253,256は、+1,+2の回折次数を参照し、近視力のための焦点を提供する。本決定では、中間視力のための焦点は20Dに設定され、遠視力のための焦点は18.5Dと17Dに設定され、近視力のための焦点は21.5Dと23Dに設定される。
【0213】
本開示によれば、焦点での入射光の分布は、A(r),S(r),γ(r),δ(r)の1つ以上によって適用される振幅および引数変調によって調整できる。例示の高さ関数250では、下記の設定が適用される。A(r)=1、S(r)=0、γ(r)=0.459、δ(r)=0.899、r空間でT=0.733mm、レンズの設計波長λは550nmを想定し、レンズ本体の屈折率nは1.4618に設定され、レンズ本体を包囲する媒体の屈折率nは1.336を想定している。
【0214】
図26の簡略化したフローチャート260は、本開示に係る眼科多焦点レンズを製造する方法のステップを概略的に示す。フローの方向は、図面の上部から下部である。
【0215】
第1ステップにおいて、レンズの近視力、中間視力および遠視力のための少なくともターゲット焦点が設定され、即ち、ブロック261「ターゲット焦点を設定する」。第2ステップにおいて、ユーザの様々な瞳サイズについて異なる焦点間のターゲット相対光分布が決定され、即ち、ブロック262「相対光分布を設定する」。選択された瞳サイズは、例えば、0~3mm、0~4.5mmおよび0~6mmの直径値の範囲に及んでもよい。6mmを超えると、レンズは、例えば、二焦点特性を示すことがあり、即ち、中間視力および遠視力に関係する。
【0216】
次に、中間視力のためのターゲット焦点を提供する屈折焦点を有する光透過性のレンズ本体が選択され、即ち、ブロック263「レンズ本体を選択する」。回折焦点を提供するために、回折格子の連続周期的位相プロファイル関数が、適切なプログラム付きプロセッサまたはコンピュータを用いて数学的にまたは数値的に計算される。連続周期的位相プロファイル関数は、例えば、完全なレンズ本体上でターゲット屈折焦点および回折焦点での光分布の全体効率を最適化するために、または、例えば、6mmの瞳直径サイズについて計算してもよく、即ち、ブロック264「位相プロファイルを計算する」。
【0217】
次のステップにおいて、計算した位相プロファイル関数は、ターゲット焦点間の所望の相対的光分布など、レンズの所望またはターゲットの光学特性の微調整及び/又は平滑化のために適応される。即ち、ステップ265「強度調整」。この強度調整は、適切にプログラムされたプロセッサまたはコンピュータによって同様に処理してもよく、例えば、図6a~図25bの例において上述し図示したような変調を含んでもよい。これは、例えば、レンズの機械加工または製造における許容誤差などの結果として、ターゲット焦点およびプロファイルでの光学偏差を考慮するためでもある。
【0218】
最後に、レンズを製造するために、回折格子の幾何学的高さプロファイルが計算され、即ち、ステップ266「高さプロファイルの処理」。再び適切にプログラムされたプロセッサを使用する。最後に、光軸またはその中心と同心円状である、レンズの表面に延びる種々のDOEの高さおよび位置を特定する回折格子の高さプロファイルまたは高さ関数は、例えば、レーザマイクロ加工、ダイヤモンド旋盤、3D印刷、またはその他の機械加工またはリソグラフ表面処理技術のいずれかによってレンズ本体に付与される。それがステップ267「機械加工」である。
【0219】
ステップ264での計算は、回折格子のフーリエ級数表現からのパワースペクトル計算に基づいてもよく、ターゲット焦点に関連する回折次数のフーリエ係数の二乗絶対値の合計が最大になるようする。上述のように、この計算は、ターゲット焦点での等しいまたは重み付けされたターゲット光強度の制約の下で実施してもよい。
【0220】
本開示に係る方法においてレンズの光学伝達関数または光透過関数の連続周期的位相プロファイル関数および回折格子の高さプロファイルの計算は、レンズを機械加工する設備から遠隔的に提供されてもよい。計算された回折格子の詳細は、例えば、インターネット(不図示)など、実際に利用可能な遠隔通信ネットワークを通じたデータ転送により、機械加工設備に転送してもよい。
【0221】
開示した例および実施形態に対する他の変形例が、図面、開示および添付の請求項の研究から本発明を実施する当業者によって理解でき実施できる。請求項において、用語「備える、含む(comprising)」は、他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。特定の測定値が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの測定値の組合せが有利に使用できないことを示すものではない。請求項中の参照符号は、その範囲を限定するものとして解釈すべきでない。同じ参照記号は、等しいまたは等価の要素または動作を参照する。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21a-c】
図21d-h】
図22
図23
図24
図25
図26
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズであって、
光軸を備え、屈折焦点を提供する光透過性レンズ本体と、
前記レンズ本体の少なくとも1つの表面の少なくとも一部に渡って心円状に延びて、回折焦点セットを提供する周期的光透過性回折格子とを有し、
前記回折格子は、前記屈折焦点および前記回折焦点で前記レンズ本体に入射する光を分布させるための光波スプリッタとして動作するように設計され、
前記屈折焦点は、中間視力のための前記焦点を提供し、前記回折焦点は、近視力および遠視力のための前記焦点を提供し、
前記回折格子は、前記レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数を有し、
前記連続周期的位相プロファイル関数は、前記レンズ本体の前記光軸までの半径距離の関数として変調される引数を含み、これにより前記レンズ本体に入射する光の前記分布を調整しており
前記引数は、前記連続周期的位相プロファイル関数に周期的で、鋭いエッジが無い遷移を提供するように変調され、
各遷移は、前記連続周期的位相プロファイル関数の周期の一部に渡って延びており、これにより前記回折焦点における前記光分布を調整しており、
各遷移は、下記の少なくとも1つを備える、眼科多焦点レンズ。
・前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を、前記レンズ本体の半径方向に提供する遷移。
・前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を、前記レンズ本体の前記少なくとも1つの表面を横断する方向に提供する遷移。
【請求項2】
前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を、前記レンズ本体の半径方向に提供する遷移が、前記連続周期的位相プロファイル関数の前縁または前側面および後縁または後側面の少なくとも一方の位置に配置され、
そして、前記連続周期的位相プロファイル関数の変位を、前記レンズ本体の少なくとも1つの表面を横断する方向に提供する遷移が、前記連続周期的位相プロファイル関数の山および谷の少なくとも一方の位置に配置される、請求項に記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項3】
前記遷移は、下記の少なくとも1つを備える、請求項1または2に記載の眼科多焦点レンズ。
・前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期において、前記連続周期的位相プロファイル関数に同一の変位を提供する遷移。
・前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期に渡って増加する、前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を提供する遷移。
・前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の周期に渡って減少する、前記連続周期的位相プロファイル関数での変位を提供する遷移。
【請求項4】
前記引数は、前記連続周期的位相プロファイル関数の同じ周期長で、前記レンズ本体の半径方向に離間した第1遷移および第2遷移を提供すように変調され、
前記第2遷移は、前記第1遷移の作用を少なくとも部分的に打ち消す、請求項1~3のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項5】
前記引数は、引数変調関数に従って変調され、記引数変調関数は、前記連続周期位相プロファイル関数の周期に等しい周期を有し、連続関数、連続三角関数、三角形関数および台形関数のうちの1つを含む周期関数である、請求項1~のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項6】
前記連続周期的位相プロファイル関数の前記引数は、前記レンズ本体に渡って異なって変調され、これにより異なる瞳サイズについて前記レンズ本体に入射する光の前記分布を異なるように調整し、記引数は、前記レンズ本体の少なくとも1つの領域をカバーする前記連続周期的位相プロファイル関数の複数の連続周期において変調され、前記引数の連続周期の数および変調は、前記レンズ本体を横断する々な領域で相違する、請求項1~のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項7】
前記回折格子は、光波スプリッタとして動作するように配置され、回折次数+1および-1で回折焦点を含み、
前記連続周期位相プロファイル関数は、下記に従って表され、
(数1)
ここで、φ(r)は、前記回折格子の連続周期位相プロファイル関数、
rは、前記レンズ本体の前記光軸から外向きの半径距離または半径、[mm]、
A(r)は、レンズ本体の半径方向での連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数、
F[α*G]は、前記光波スプリッタ動作を提供する前記レンズ本体の半径方向の関数、
G(r)は、r空間での連続周期関数、
α(r)は、Gの引数マグニチュード変調関数、
S(r)は、r空間でのGの引数角度変調関数、[mm]、
Tは、r空間での前記回折格子の周期またはピッチ、[mm]、
B(r)は、前記連続周期的位相プロファイル関数の振幅変調関数であり、
前記引数マグニチュード変調関数α(r)および前記引数角度変調関数S(r)の少なくとも1つは、前記レンズ本体の前記光軸までの半径距離の関数として変調される前記引数を含む、請求項1~のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項8】
Fは逆正接関数であり、Gは正弦関数であり、
前記引数マグニチュード変調関数α(r)は、2.5と3の間の範囲の一定値を有し、
前記引数角度変調関数S(r)は、r空間で-0.5*Tと0.5*Tの間の範囲の一定値を有し、特にS(r)は、r空間で0.30*Tと0.50*Tの間の範囲の一定値を有し、より特にS(r)は、r空間で-0.05*Tと-0.15*Tの間の範囲の一定値を有し、さらに特にr空間でS(r)=0.42*Tである、請求項に記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項9】
前記連続周期位相プロファイル関数の前記引数は、前記光軸を含み、半径方向に延びる前記レンズの前記表面の第1領域に第1三重焦点特性を提供するために変調され、前記第1三重焦点は、近視力のための前記焦点に分布する光を強調するものであり、そして、前記レンズの半径方向に前記レンズ本体の外周エッジに向かって前記第1領域を超えて延びる前記レンズの前記表面の第2領域に第2三重焦点特性を提供するために変調され、前記第2三重焦点特性は、遠視力のための前記焦点に分布する光を強調する、請求項1~のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【請求項10】
近視力、中間視力および遠視力のための焦点を少なくとも含む眼科多焦点レンズを製造する方法であって、
該レンズは、光軸を備え、屈折焦点を提供する光透過性レンズ本体と、
前記レンズ本体の表面の少なくとも一部に渡って心円状に延びて、回折焦点セットを提供する周期的光透過性回折格子とを有し、
前記回折格子は、前記屈折焦点および前記回折焦点で前記レンズ本体に入射する光を分布させるための光波スプリッタとして動作するように設計され、
前記屈折焦点は、中間視力のための前記焦点を提供し、前記回折焦点は、近視力および遠視力のための前記焦点を提供し、
前記方法は、
・近視力、中間視力および遠視力のためのターゲット焦点を決定するステップと、
・前記ターゲット焦点における入射光のターゲット光分布を決定するステップと、
・中間視力のための前記ターゲット焦点を提供する屈折焦点を有する前記光透過性レンズ本体を提供するステップと、
・前記レンズ本体の半径方向に延びる連続周期的位相プロファイル関数を備えた光学伝達関数を有する前記回折格子を設けて、近視力および遠視力のための前記ターゲット焦点および前記ターゲット焦点での光分布を提供するステップと、を含み、
・前記レンズ本体の前記光軸までの半径距離の関数として、モジュラー引数を有する前記連続周期的位相プロファイル関数を提供するステップと、
・前記レンズ本体に渡って前記引数を変調し、変調された引数を提供することによって、前記ターゲット光分布を提供するために前記ターゲット焦点での前記光分布を調整するステップと、
・前記変調された引数を含む前記周期的な位相プロファイル関数に従って、前記回折格子の高さプロファイルを提供するステップと、
・前記レンズ本体での前記高さプロファイルに従う回折格子を付与することによって、前記眼科多焦点レンズを製造するステップとによって特徴付けられる、方法。
【請求項11】
前記連続周期的位相プロファイル関数の前記引数は、請求項1~9のいずれかに記載の前記眼科多焦点レンズを製造するために変調される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
コンタクトレンズ、眼内レンズ、無水晶体コンタクトレンズ、無水晶体眼内レンズおよび眼鏡レンズのうちの1つとして配置される、請求項1~11のいずれかに記載の眼科多焦点レンズ。
【外国語明細書】