(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052777
(43)【公開日】2023-04-12
(54)【発明の名称】末梢免疫機能を調節するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230404BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230404BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230404BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230404BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230404BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P29/00
A61P19/02
A61P9/00
A61P37/06
A61P25/00
A61P1/00
A61P11/00
A61P11/06
A61P17/00
A61P3/10
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012476
(22)【出願日】2023-01-31
(62)【分割の表示】P 2020150411の分割
【原出願日】2012-04-06
(31)【優先権主張番号】61/516,637
(32)【優先日】2011-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/541,248
(32)【優先日】2011-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503235673
【氏名又は名称】サンバイオ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】モー ダオ
(72)【発明者】
【氏名】ケイシー ケース
(57)【要約】
【課題】様々な末梢免疫機能を調節するために有用な細胞集団、前記細胞集団の調製方法、及びそれらの使用方法の提供。
【解決手段】様々な末梢免疫機能を調節するために有用な細胞集団、前記細胞集団の調製、及びそれらの使用。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における末梢炎症反応を阻害するための免疫抑制細胞を含む組成物であって;ここで前記免疫抑制細胞が以下:
(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;
(b)ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド(前記ポリヌクレオチドが、Notchタンパク質の全長をコードしない)とを接触させ;
(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び
(d)ステップ(c)の選択された細胞を、選択なしでさらに培養すること
により得られる、組成物。
【請求項2】
前記末梢炎症反応が関節リウマチに起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記末梢炎症反応が同種異系の移植に起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記末梢炎症反応が虚血に起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記末梢炎症反応が壊死に起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記末梢炎症反応が移植片対宿主病(GVHD)に起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記末梢炎症反応が移植による拒絶反応に起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記末梢炎症反応が自己免疫疾患に起因する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、狼瘡及び1型糖尿病からなる群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
対象における移植片対宿主病(GVHD)を処置するための免疫抑制細胞を含む組成物であって;ここで前記免疫抑制細胞が以下:
(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;
(b)ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド(前記ポリヌクレオチドが、Notchタンパク質の全長をコードしない)とを接触させ;
(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び
(d)ステップ(c)の選択された細胞を、選択なしでさらに培養すること
により得られる、組成物。
【請求項11】
前記対象がヒトである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
対象における末梢炎症反応を阻害するための医薬の調製方法であって、
(a)医薬的に許容される担体又は賦形剤と、
(b)免疫抑制細胞と
を組み合わせることを含み、
ここで前記免疫抑制細胞が以下:
(i)間葉系幹細胞の培養物を用意し;
(ii)ステップ(i)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド(前記ポリヌクレオチドが、Notchタンパク質の全長をコードしない)とを接触させ;
(iii)ステップ(ii)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び
(iv)ステップ(iii)の選択された細胞を、選択なしでさらに培養すること
により得られる、方法。
【請求項13】
前記末梢炎症反応が関節リウマチに起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記末梢炎症反応が同種異系の移植に起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記末梢炎症反応が虚血に起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記末梢炎症反応が壊死に起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記末梢炎症反応が移植片対宿主病(GVHD)に起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記末梢炎症反応が移植による拒絶反応に起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記末梢炎症反応が自己免疫疾患に起因する、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、狼瘡及び1型糖尿病からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象における移植片対宿主病(GVHD)を処置するための医薬の調製方法であって、
(a)医薬的に許容される担体又は賦形剤と、
(b)免疫抑制細胞と
を組み合わせることを含み、
ここで前記免疫抑制細胞が以下:
(i)間葉系幹細胞の培養物を用意し;
(ii)ステップ(i)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド(前記ポリヌクレオチドが、Notchタンパク質の全長をコードしない)とを接触させ;
(iii)ステップ(ii)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び
(iv)ステップ(iii)の選択された細胞を、選択なしでさらに培養すること
により得られる、方法。
【請求項22】
前記対象がヒトである、請求項12~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2011年4月6日に出願された米国仮特許出願第61/516,637号及び2011年9月30日に出願された米国仮特許出願第61/541,248号に基づく優先権を主張し、その開示は、すべての目的のために、本明細書全体において参照として組み込まれる。
【0002】
政府支援に関する陳述
適用なし。
【0003】
本開示は、免疫調節(例えば、免疫抑制)の分野である。
【背景技術】
【0004】
脊椎動物における末梢(すなわち、非CNS)免疫は、2つの系:自然免疫系及び適応免疫系によって媒介される。自然免疫系は、損傷及び/又は感染に対して、早期、非特異的反応を提供する。一方、適応免疫系は、損傷又は感染の過程の後半に活用され、そして侵入抗原体に特異的である。適応免疫系が、脊椎動物においてのみ活動性である一方で、より進化的に古い自然免疫系は、植物、無脊椎動物及び脊椎動物において活動性である。
【0005】
上記のように、自然免疫系は、感染直後に感染部位で活動性になり、そして感染性病原体に対する事前暴露に依存しない。従って、それは、任意の特定の病原体に特異的でない一連の一般的な防御機構を提供する。自然免疫系の細胞要素は、マクロファージ、樹状細胞、好中球及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。自然免疫系高分子成分デフェンシンペプチド及び補体系が挙げられる。自然免疫のさらなる要素は、感染に対する物的障壁(例えば、皮膚の角質化、上皮細胞、胃酸及び多くの上皮組織から分泌される粘液の間の密着結合)及び細胞固有の反応、例えば、貪食(場合により、貪食された物質のリソソーム融合と一緒に)及び2本鎖RNAの分解が挙げられる。
【0006】
自然免疫系の活性化は、一部分において、病原体関連分子、例えば、N‐ホルミルメチオニン含有ポリペプチド、細胞壁ペプチドグリカン、細菌の鞭毛、リポ多糖、テイコ酸、及び真菌特異的分子、例えば、マンナン、グルカン及びキチンの認識によって媒介される。また、微生物に共通する特定の核酸配列(例えば、非メチル化CpGジヌクレオチド)は、自然免疫反応を引き起こすことができる。そのような病原体関連免疫刺激物質の認識は、マクロファージ、好中球及び/樹状細胞による病原体の炎症反応及び貪食の増加をもたらす。
【0007】
上記の特定の病原体関連免疫刺激物質は、自然免疫系細胞の表面上のパターン認識受容体によって認識することができる病原体関連分子パターン(PAMPs)と呼ばれる繰り返しパターンで生じる。これらの受容体は、補体系の可溶性メンバー及び膜結合受容体、例えば、Toll様受容体ファミリー(TLRs)及びいわゆるNODタンパク質のメンバーが挙げられる。膜結合受容体は、貪食を刺激し、そしてさまざまな自然及び適応免疫反応に関与している遺伝子発現プログラムを活性化することができる。
【0008】
最終的に、自然免疫系は、一部分において、適応免疫系の細胞の増殖及び分化を刺激する細胞外シグナル伝達分子を分泌することによって、及び適応免疫系の細胞に抗原を加工しそして提示することによって適応免疫を活性化することに関与する。
【0009】
適応免疫系は、自然免疫系と対照的に、感染直後に活性化せず、そして病原体に対して特異的な、長期反応をもたらす。適応免疫系の活性化は、損傷部位ではなく、リンパ系器官で起こり、そして自然免疫系の成分による抗原の提示に依存して適応免疫系の細胞を活性化する。適応免疫系の主要な細胞は、抗体を合成し分泌する、Bリンパ球(B細胞)及びTリンパ球(T細胞)である。
【0010】
T細胞の3つの主要なクラス:細胞傷害性、ヘルパー及び制御(調節)性T細胞がある。細胞傷害性T細胞は、感染した宿主細胞を破壊することができる。ヘルパーT細胞は、サイトカインを分泌することにより及び/又は多数の異なる共刺激(co‐stimulatory)分子の1つの表面発現により、マクロファージ、樹状細胞、B細胞及び細胞傷害性T細胞の活性化に関与する。2つの種類のヘルパーT細胞があり:TH1細胞は、マクロファージ、傷害性T細胞及びB細胞の活性化に関与して、細胞内病原体に対する免疫を提供し、そしてマクロファージ‐活性化サイトカインインターフェロン‐ガンマ(IFN‐γ)及び腫瘍壊死因子‐アルファ(TNF‐α)を分泌する。TH1細胞はまた、炎症反応を刺激することができる。TH2細胞は、主に細胞外病原体に反応して、B細胞の活性化を促進して抗体を産生し、そしてサイトカインインターロイキン‐4(IL‐4)及びインターロイキン‐10(IL‐10)を分泌する。未感作ヘルパーT細胞のTH1細胞への成長は、インターロイキン‐12(IL‐12)によって刺激され;一方、樹状細胞によるジャグド(Jagged)タンパク質の病原体誘導発現は、未感作ヘルパーT細胞を誘導して、IL‐4を産生するTH2細胞を生じ、そしてそれは、B細胞による抗体産生を刺激する。調節性T細胞(Tregs)は、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞及び樹状細胞の機能を阻害し、そしてFoxp3転写因子の発現が独特である。従って、ヘルパーT細胞及び調節性T細胞の間の相互作用が、宿主に過度の損傷を与えることなく、侵入する病原体を除去するために十分な活性を伴って、免疫反応を適度なバランスに保つために役立つ。
【0011】
記憶細胞として公知の適応免疫系におけるリンパ球の種類は、感染及び除去の後、病原体に対する受容体を保持し、同じ病原体のその後の暴露に対してより迅速な適応免疫反応を備えることを可能にし、そして多くの感染症に対して天然又はワクチン接種誘導免疫の基礎を提供する。対照的に、自然免疫系は、そのような免疫記憶を保有しない。
【0012】
Notch細胞内ドメイン(NICD)を発現するプラスミドでトランスフェクトされた、間葉系幹細胞(MSC、また「骨髄幹細胞」又は「骨髄接着性幹細胞(marrow adherent stem cell)」として公知である)は、中枢及び末梢神経系の多数の疾患及び障害の処置のために有用である。例えば、米国特許第7,682,825号(2010年3月23日);米国特許出願公開第2006/0216276号(2006年9月28日);米国特許出願公開第2010/0034790号(2010年2月11日);米国特許出願公開第2010/0310523号(2010年12月9日);国際公開第08/102460号(2008年8月28日);Yasuharaら、(2009) Stem Cells and Development 18: 1501-1513及びGlavaski-Joksimovicら、(2009) Cell Transplantation 18: 801-814を参照。
【0013】
これらの細胞(SB623細胞として公知)の損傷神経組織を助ける能力は、一部分では、様々な栄養因子のそれらの分泌及び様々な細胞外マトリックス成分のそれらの同化と関連する。例えば、米国特許出願公開第2010/0266554号(2010年10月21日)及び米国特許出願公開第2010/0310529号(2010年12月9日)を参照。
【0014】
現在の細胞移植治療は、例えば、移植細胞に対する宿主末梢免疫反応を含む重大な不利益を有する。また、炎症は、多くの神経変性疾患、例えば、パーキンソン病及び多発性硬化症の特徴である。Villosladaら、(2008) Clin. Immunol. 128: 294-305を参照。MSCは、抗原提示細胞の産生を阻害すること及びヘルパーT細胞のサイトカインプロファイルを変化させることを含む機構を通じて、末梢免疫活性を低減することが報告されている。Kongら、(2009) J. Neuroimmunol. 207: 83-91を参照。しかしながら、MSCは、再生能を制限され、エクスビボ操作の後に、老化現象を示す。Wagnerら、(2008) PLoS One 3: e2213; Jinら、(2010) Biochem Biophys Res Commun. 391: 1471-1476を参照。老化細胞が、組織再生のために有益であろう多数のサイトカインを分泌するが、一般的な老化細胞分泌プロファイルは、炎症誘発性である。Rodierら、(2009) Nature Cell Biol. 11: 973-979; Coppeら、(2008) PLoS Biol. 6: 2853-2868; Freundら、(2010) Trends Mol. Med. 16(5): 238-246を参照。
【0015】
これら及び他の理由のために、宿主末梢免疫反応を誘発せず、及び/又は炎症、及び他の免疫反応を低減する細胞移植のための方法及び組成物の必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、Notch細胞内ドメインをコードする配列でトランスフェクトしたMSC及びそれらの子孫(すなわち、SB623細胞)の培養物内に、老化細胞の集団を同定した。SB623細胞が、多数の中枢神経系障害を処置することができることが示されているが、本出願は、多数の末梢免疫機能を調節するSB623の驚くべき能力を開示する。例えば、SB623細胞は、同種異系及び異種の両方の混合リンパ球反応におけるヒトT細胞の増殖を阻害し、T細胞によるIL‐10産生を刺激し、そして樹状細胞への単球の分化を阻止することができる。SB623細胞はまた、親MSCと比較して、樹状細胞の成熟を阻害し、そしてSB623細胞は、共刺激分子、CD86の表面発現のより大きな減少からも明らかなように、樹状細胞成熟に対してより大きな阻害を与える。SB623細胞はまた、T細胞集団のサイトカインプロファイルを、炎症誘発性のものから抗炎症性のものに変更することができる。SB623細胞のこれらの特性は、老化細胞が炎症誘発性サイトカインを分泌することを報告する研究を考慮すると、さらに驚くべきことでありそして予測しないことである。Orjaloら、(2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106: 17031-17036を参照。
【0017】
従って、SB623細胞、及び/又はそれらの老化細胞の亜集団は、以下の実施態様において例示されるように、多数の治療方法において有用である。
【0018】
1.対象における末梢免疫抑制のための方法であって、前記方法がSB623細胞の有効量を前記対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0019】
2.対象における末梢炎症反応を阻害するための方法であって、前記方法がSB623細胞の有効量を前記対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0020】
3.前記末梢炎症反応が、同種異系の移植、虚血又は壊死に起因する、実施態様2に記載の方法。
【0021】
4.対象における末梢T細胞活性化を抑制するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を前記対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0022】
5.前記末梢T細胞活性化が、前記T細胞によるCD69及び/又はHLA‐DRの発現を含む、実施態様4に記載の方法。
【0023】
6.前記末梢T細胞活性化が、前記T細胞のCD4+の増殖を含む、実施態様4に記載の方法。
【0024】
7.対象における末梢ヘルパーT細胞の機能を抑制するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を前記対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0025】
8.前記末梢ヘルパーT細胞機能がサイトカイン分泌である、実施態様7に記載の方法。
【0026】
9.前記末梢ヘルパーT細胞機能が関節リウマチの病状と関連する、実施態様7に記載の方法。
【0027】
10.対象における末梢調節性T細胞(Tregs)の集団を拡大するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を前記対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0028】
11.対象におけるサイトカインの末梢産生を調節するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を前記対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0029】
12.前記サイトカインが炎症誘発性サイトカインであり、及び前記サイトカインの産生が減少する、実施態様11に記載の方法。
【0030】
13.前記サイトカインがT細胞により産生される、実施態様12に記載の方法。
【0031】
14.前記サイトカインがインターフェロン‐ガンマ(IFN‐γ)である、実施態様13に記載の方法。
【0032】
15.前記サイトカインが単球により産生される、実施態様12に記載の方法。
【0033】
16.前記サイトカインが腫瘍壊死因子‐アルファ(TNF‐α)である。実施態様15に記載の方法。
【0034】
17.前記サイトカインが抗炎症性サイトカインであり、及び前記サイトカインの産生が刺激される、実施態様11に記載の方法。
【0035】
18.前記サイトカインがインターロイキン‐10(IL‐10)である、実施態様17に記載の方法。
【0036】
19.前記サイトカインがT細胞又は単球により産生される、実施態様18に記載の方法。
【0037】
20.前記T細胞がヘルパーT細胞である、実施態様19に記載の方法。
【0038】
21.前記ヘルパーT細胞がTH1細胞である、実施態様20に記載の方法。
【0039】
22.前記サイトカインが調節性T細胞により産生される、実施態様19に記載の方法。
【0040】
23.前記調節性T細胞がTR1細胞である、実施態様22に記載の方法。
【0041】
24.対象における末梢単球の樹状細胞への分化を阻害するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0042】
25.対象における末梢樹状細胞の成熟を阻害するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0043】
26.前記成熟が樹状細胞によるCD86の発現の増加を含む、実施態様25に記載の方法。
【0044】
27.対象におけるGVHD(graft versus host disease)を処置するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0045】
28.対象における移植による拒絶反応を阻害するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0046】
29.対象における末梢自己免疫疾患を処置するための方法であって;前記方法がSB623細胞の有効量を対象に投与することを含み;ここで前記SB623細胞が、(a)間葉系幹細胞の培養物を用意し;(b)前記ステップ(a)の細胞培養物と、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチド、ここで前記ポリヌクレオチドがNotchタンパク質の全長をコードしない、を接触し;(c)前記ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択し;及び(d)前記ステップ(c)の選択した細胞を、選択なしでさらに培養することにより得られる、方法。
【0047】
30.前記末梢自己免疫疾患が、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、狼瘡及び1型糖尿病からなる群から選択される、実施態様29に記載の方法。
【0048】
31.前記対象が実験動物である、実施態様1~30のいずれか1つに記載の方法。
【0049】
32.前記対象がヒトである、実施態様1~30のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、フローサイトメトリーによる、MSC及びSB623細胞におけるCFSE希釈の測定を示す。
【
図2】
図2は、培養3日後のトリパンブルー排除により決定される、MSC及びSB623細胞の培養物における細胞数の変化を示す。
【
図3】
図3は、MSC及びS623細胞の培養物のヨウ化プロピジウム染色の結果を示す(
図3A及び3B)。
図3Aは、代表的なFACSデータを示す。「M1」標識ピークは、休止期(G0/G1)細胞を示す。
図3Bは、
図3AにおけるM1ピークの面積を測定することにより決定される、MSC及びSB623細胞に関する、細胞周期の休止期における細胞の割合を示す。
【
図4】
図4は、MSC及びSB623細胞における、p16Ink4Aレベルの測定を示す。
【
図5】
図5は、MSC及びSB623細胞における、特定の表面マーカーのレベルを示す。
【
図6】
図6は、MSC及びSB623細胞における、CD54発現の測定を示す。
【
図7】
図7は、MSC及びSB623細胞における、特定のサイトカインのレベルを示す。
【
図8】
図8は、MSC及びSB623細胞における、形質変換成長因子ベータ‐1(TGF‐β‐1)及び血管内皮増殖因子‐A(VEGF‐A)のレベルを示す。
【
図9】
図9は,同種異系MLR(mixed lymphocyte reaction)における、SB623細胞及びMSCのT細胞活性化に対する影響を示す(
図9A及び9B)。
図9Aは、CFSE及びフィコエリトリン標識抗CD69でゲーティングした、代表的なFACSトレースを示し、非刺激のヒトT細胞(対照)(左上パネル、「‐」で示す);同種異系PBMCにより刺激したヒトT細胞(右上パネル、「MLR」で示す);10
4MSCを伴う以前に述べたようなMLR(左下パネル、「MLR+MSC」で示す)及び10
4SB623細胞を伴う以前に述べたようなMLR(右下パネル、「MLR+SB623」で示す)である。
図9Bは、MLR培養物におけるCD69発現の定量を示す。非刺激のT細胞培養物(対照)を、「血清」で示し;混合リンパ球反応におけるPBMC刺激T細胞を、「MLR」で示し;間葉系幹細胞の存在下での以前に述べたような混合リンパ球反応を、「MSC」で示し;及びSB623細胞の存在下での以前に述べたような混合リンパ球反応を、「SB623」で示す。「MSC」及び「SB623」の値は、異なるドナー由来のMSC又はSB623細胞をそれぞれ含む、3つの培養物の平均である。
【
図10】
図10は、CFSE希釈を測定することにより定量した、同種異系MLRにおけるT細胞の増殖率の比較を示す(
図10A及び10B)。
図10Aは、代表的なFACSトレースを示し、非刺激ヒトT細胞(対照)(左上パネル、「T細胞単独」で示す);同種異系PBMCにより刺激したヒトT細胞(右上パネル、「MLR」で示す);10
4MSC伴う以前に述べたようなMLR(左下パネル、「MLR+MSC」で示す)及び10
4SB623細胞を伴う以前に述べたようなMLR(右下パネル、「MLR+SB623」で示す)である。
図10Bは、MLR培養物におけるCSFE希釈の定量を示す。培養物の組成は、
図10Aに示されている通りである。
【
図11】
図11は、異なる培養条件下でのHLA‐DR発現の比較を示す。非刺激T細胞培養物(対照)を「血清」で表し;混合リンパ球反応におけるPBMC刺激T細胞を「MLR」で表し;間葉系幹細胞の存在下での混合リンパ球反応を「MSC」で表し;及びSB623細胞の存在下での混合リンパ球反応を「SB623」で表す。「MSC」及び「SB623」の値は、異なるドナーに由来するMSC又はSB623をそれぞれ含む、3つの培養物の平均である。
【
図12】
図12は、異種リンパ球刺激反応における、SB623細胞及びMSCのT細胞増殖に対する影響を示す。増殖をPKH26(細胞透過性色素)の希釈により測定した。PKH26を含有するCD32
+T細胞のパーセンテージを、非刺激T細胞(「T細胞単独」);グリア混合細胞と共培養したT細胞(「異種MLR」);グリア混合細胞及び間葉系幹細胞と共培養したT細胞(「異種MLR+MSC」)並びにグリア混合細胞及びSB623細胞と共培養したT細胞(異種MLR+SB623」)について測定した。図で示したように、MSC及びSB623細胞の調合物を、3つの異なるドナーから得た。
【
図13】
図13は、調節性T細胞(T
regs)のマーカーとしてCD4及びCD25の共発現を使用する、インビトロT細胞培養物におけるT
regsに関するアッセイを示す(
図13A及び13B)。
図13Aは、IL‐2刺激T細胞(「T細胞」)、間葉系幹細胞で7日間共培養したIL‐2刺激T細胞(「T細胞+MSC」)及びSB623細胞で7日間共培養したIL‐2刺激T細胞について、CD4及びCD25を測定する代表的なFACSトレースを示す。
図13Bは、5つの異なる対応するMSC及びSB623細胞のロットの平均CD4/CD25発現レベルを示す。「ドナー1PBL」について、CD4
+CD25
+細胞の有意な増加が、MSCとの共培養と比較して、SB623細胞との共培養において観察された(p<0.05)。
【
図14】
図14は、PE‐コンジュゲート抗FoxP3抗体で細胞内FoxP3について染色し、続いてフローサイトメトリー分析により分析した、IL‐2の存在下で培養したT細胞におけるFoxP3転写因子のレベルを示す(
図14A及び14B)。
図14Aは、IL‐2の非存在下で培養したT細胞(「RPMI/10%FBS」で示す)、10ng/mlのIL‐2において培養したT細胞(「+IL‐2」で示す)、上記IL‐2において培養し及びMSCで共培養したT細胞(「+MSC」で示す)、並びに上記IL‐2において培養し及びSB623細胞で共培養したT細胞(「+SB623」で示す)について、代表的なFACSトレースを示す。
図14Bは、IL‐2の存在下での培養後(「T細胞単独」)、IL‐2の存在下でのMSCでの共培養後(「T細胞+MSC」)又はIL‐2の存在下でのSB623細胞での共培養後(「T細胞+SB623」)の、FoxP3発現T細胞の平均パーセンテージを示す。共培養を、3つの異なる対応するMSC及びSB623細胞のロットで行った。
【
図15】
図15は、IL‐2の存在下で培養したCD4
+T細胞における細胞内IL‐10レベルの測定結果を示す(
図15A及び15B)。
図15Aは、IL‐2の存在下で培養したT細胞(「T細胞単独」)、上記のようにIL‐2において培養し及びMSCで共培養したT細胞(「T細胞+MSC」で示す)、並びに上記のようにIL‐2において培養し及びSB623細胞で共培養したT細胞(「T細胞+SB623」で示す)について、代表的なFACSトレースを示す。IL‐10レベルを示すAlexa 488蛍光を、横座標に示す。
図15Bは、共培養しないT細胞(「T細胞単独」)と比較した、T細胞と3つの異なる対応するMSC(「T細胞+MSC」)及びSB623細胞(「T細胞+SB623」)のロットとの共培養におけるIL‐10陽性細胞の平均パーセンテージを示す。
【
図16】
図16は、IL‐2の非存在下並びにPMA及びイオノマイシン非最大限誘導レベルの存在下で培養したT細胞におけるサイトカインのレベルを示す(
図16A及び16B)。
図16Aにおいて、インターフェロン‐ガンマ(IFN‐γ)のレベルを、培養前に新たに分離したT細胞(「新鮮な細胞」);他の細胞の非存在下で7日間培養したT細胞(「培養対照」);7日間SB623細胞と共培養したT細胞(「SB623」);及び7日間MSCと共培養したT細胞(「MSC」)について示す。
図16Bにおいて、インターロイキン‐10(IL‐10)のレベルを、培養前に新たに分離したT細胞(「新鮮な細胞」);他の細胞の非存在下で7日間培養したT細胞(「培養対照」);7日間SB623細胞と共培養したT細胞(「SB623」);及び7日間MSCと共培養したT細胞(「MSC」)について示す。「MSC」及び「SB623」についての値は、異なるドナー由来のMSC又はSB623細胞をそれぞれ含む、3つの培養物の平均である。
【
図17】
図17は、IL‐23刺激T細胞におけるIL‐17のレベルを示す。発現割合を、蛍光抗体でIL‐17について細胞を染色した後、フローサイトメトリーにより決定した。T細胞を、示したようにIL‐23あり又はなしで、及び示したように単独又はMSC若しくはSB623細胞と共培養において培養した。
【
図18】
図18は、7日間の培養又は共培養後の単球培養物におけるCD1a及びCD14のレベルを示す(
図18A及び18B)。
図18Aは、CD1A及びCD14について染色した細胞の代表的なFACSトレースを示す。単球は、CD1A
+CD14
+樹状細胞前駆体の集団を含む(左端のパネル)。単球をIL‐4及びGM‐CSFの存在下で7日間培養した場合、この樹状細胞前駆体集団は減少し、そしてCD1A
+CD14
-樹状細胞の集団と置き換わる(左から2番目のパネル)。単球を、IL‐4及びGM‐CSFの存在下、MSCで(左から3番目のパネル)又はSB623細胞で(右端のパネル)共培養した場合、CD1A
+CD14
-樹状細胞集団は減少し、そしてCD1A
+CD14
+前駆体細胞集団が増加する。
図18Bは、単球(左端の一対のバー)、IL‐4及びGM‐CSFの存在下で7日間培養した単球(左から2番目の一対のバー)、IL‐4及びGM‐CSFの存在下で7日間、MSCと共培養した単球(左から3番目の一対のバー)又はIL‐4及びGM‐CSFの存在下で7日間、SB623細胞と共培養した単球(右端の一対のバー)について、平均発現データを示す。共培養実験の結果を、3つの異なる対応するMSC及びSB623細胞のロットから得た。
【
図19】
図19は、TNF‐α刺激単球培養物における平均蛍光強度として表されるCD86のレベルを示す。「対照」で示される培養物は、IL‐4及びGM‐CSFの存在下で5日間、その後TNF‐αにおいてさらに48時間培養したPBMCを含む。「CsAあり」で示される培養物は、IL‐4及びGM‐CSFの存在下で5日間、その後TNF‐α+1μg/mlのシクロスポリンAにおいてさらに48時間培養したPBMCを含む。「MSC」で示される培養物は、IL‐4及びGM‐CSFの存在下で5日間、その後TNF‐α+10
4MSCにおいてさらに48時間培養したPBMCを含む。「SB623」で示される培養物は、IL‐4及びGM‐CSFの存在下で5日間、その後TNF‐α+10
4SB623細胞においてさらに48時間培養したPBMCを含む。MSC及びSB623細胞の結果は、異なるドナー由来のサンプルをそれぞれ使用する、3つの実験の平均である。単球ドナーは、すべての場合において同じであった。すべての培養物は、10
5PBMCで開始した。
【
図20】
図20は、単球におけるサイトカイン発現の測定を示す(
図20A及び20B)。
図20Aは、炎症性サイトカインTNF‐αを発現する培養物における単球のパーセンテージを示す。
図20Bは、抗炎症性サイトカインIL‐10を発現する培養物における単球のパーセンテージを示す。CD14の表面発現に基づいて選択される単球を、補充なし(「陰性」)、マクロファージコロニー刺激因子補充(「MCSF」)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子補充(「GMCSF」)、MSC補充又はSB623細胞補充で培養した。MSC及びSB623細胞を、図においてD52、D55及びD65として示す3つの異なるドナーから得た。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本開示の実行は、特に断らない限り、細胞生物学、毒物学、分子生物学、生化学、細胞培養、免疫学、腫瘍学、組換えDNAの分野及び当該技術分野の手法の範囲内である関連分野における標準的な方法及び従来の技術を利用する。そのような技術は、文献に記載されており、それによって当業者に利用可能である。例えば、Alberts, B.ら、"Molecular Biology of the Cell," 5th edition, Garland Science, New York, NY, 2008; Voet, D.ら、"Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level," 3rd edition, John Wiley & Sons, Hoboken, NJ, 2008; Sambrook, J.ら、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual," 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001; Ausubel, F.ら、"Current Protocols in Molecular Biology," John Wiley & Sons, New York, 1987 及び定期的更新; Freshney, R.I., "Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique," Fifth Edition, Wiley, New York, 2005; 及び"Methods in Enzymology"シリーズ、Academic Press, San Diego, CAを参照。免疫学の標準的な技術は、例えば、"Current Protocols in Immunology," (R. Coico, series editor), Wiley, updated August 2010に記載されている。
【0052】
本開示の目的のために、用語「末梢(peripheral)」は、中枢神経系の外側の体の部位を意味するために使用される。これらは、例えば、骨髄、末梢循環及びリンパ器官が挙げられる。
【0053】
SB623細胞の調製
間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄から接着細胞を選択することにより得ることができ、そして接着細胞においてNotch細胞内ドメイン(NICD)の発現によりSB623細胞を形成するように誘導することができる。1つの実施態様において、MSCの培養物は、NICDをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触し(例えば、トランスフェクションにより)、続いて薬剤選択により、トランスフェクトした細胞を濃縮しそしてさらに培養する。例えば、米国特許第7,682,825号(2010年3月23日);米国特許出願公開第2010/0266554号(2010年10月21日);及び国際公開第2009/023251号(2009年2月19日)を参照し;それらすべての開示は、間葉系幹細胞の分離及び間葉系幹細胞のSB623細胞(それらの文書において「神経前駆細胞(neural precursor cell)」及び「神経再生細胞(neural regenerating cell)」を意味する)への転換を記載する目的のために、それらの全体について、参照により組み込まれる。また以下の実施例1も参照。
【0054】
これらの方法において、Notch細胞内ドメインをコードする任意のポリヌクレオチド(例えば、ベクター)を使用することができ、そしてトランスフェクトされた細胞の選択及び濃縮のための任意の方法を使用することができる。例えば、特定の実施態様において、Notch細胞内ドメインをコードする配列を含むベクターはまた、薬剤耐性マーカー(例えば、G418に対する耐性)をコードする配列を含む。これらの実施態様において、選択は、ベクターでの細胞培養物のトランスフェクション後、細胞培養物に、ベクターを含まない細胞ではなくベクターを含む不十分な細胞を殺すために十分な量の選択薬剤(例えば、G418)を添加することにより、達成される。選択の非存在は、前記選択薬剤の除去又はベクターを含まない細胞を殺さないレベルへのその濃縮の減少を必要とする。
【0055】
SB623細胞における老化
上記のように、SB623細胞は、培養MSCにおいてNICDの発現によりMSCに由来する。培養において操作を受けているMSCは、しばしば老化するので;そこから由来するSB623細胞を、老化について試験した。
【0056】
SB623細胞は、軟寒天(soft agar)においてコロニーを形成せず、それらが形質転換細胞でないことを示す。また、SB623細胞を、細胞分裂により希釈される細胞透過性色素である、カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で前標識した場合、細胞の亜集団は、培養5日後、CFSEの高い濃度を保持した(
図1)。このゆっくりとした増殖(又は非増殖)亜集団は、MSC培養物において観察しなかった。SB623細胞集団における特定の細胞がまた、β‐ガラクトシダーゼ(細胞老化のマーカー)に関して強度に染色することを観察し、そしてそのような細胞は、MSC培養物よりもSB623培養物においてより豊富であった。これらの結果は、SB623細胞集団における非増殖、老化細胞のプールの存在と一致している。
【0057】
細胞増殖を、100万のMSC又はSB623細胞を播種し、培養3日後、トリパンブルー排除によって生細胞を測定することにより測定した。
図2は、より多くの生細胞をMSC培養物において観察し、SB623細胞に関してより低い増殖指数を示したことを示す。細胞周期状態をヨウ化プロピジウム染色により評価し、そしてそれは、SB623培養物において、休止期(G0/G1)における細胞のより大きい集団を示し(
図3)、SB623細胞における増殖率の低下に関するさらなる支持を提供する。
【0058】
老化の追加の評価を、p16Ink4Aタンパク質の発現に関して、SB623細胞集団を染色することにより行った。p16Ink4Aは、細胞周期のG1からS期への進行を阻害し、そして老化細胞において発現する。
図4は、より高いパーセンテージのp16Ink4A発現細胞を、MSCと比較して、SB623細胞の培養物において検出したことを示す。さらに、培養の5日後、高いCFSEレベルを保持するSB623培養物における細胞を、p16Ink4A発現に関して試験した場合、p16Ink4Aを発現するSB623細胞の亜集団は、高いCFSEレベルを含む分画と一致した。これらの結果は、総合すれば、SB623培養物内に、老化細胞の亜集団の存在を示す。
【0059】
表面マーカー及びサイトカイン発現
SB623細胞は、MSCと共通する多くの表面マーカーを発現する。これらは、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105及び血管内皮細胞接着分子‐1(VCAM‐1又はCD106)が挙げられる。MSCと比較して、SB623細胞においてCD44及びCD73のレベルが高く、そしてVCAM‐1レベルが低かった。SB623細胞はまた、細胞間接着分子‐1(ICAM‐1又はCD54)を発現し、そしてそれは、通常、MSCで発現していない。
図5及び6を参照。MSC及びSB623細胞は、表面マーカーCD31、CD34及びCD45を発現しない。
【0060】
SB623細胞はまた、多くのサイトカイン及び栄養因子を分泌する。これらの因子の特定の同一性を、ブレフェルジンAでタンパク質分泌を遮断し、そして抗体染色及びフローサイトメトリーにより細胞内サイトカインに関して試験することにより決定した。これらの試験は、SB623細胞が、いくつかある因子の中で特に、インターロイキン1α(IL‐1α)、インターロイキン‐6(IL‐6)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)、血管内皮増殖因子‐A(VEGF‐A)及び形質変換成長因子ベータ‐1(TGFβ‐1)を産生することを示した。
図7及び8を参照。SB623細胞により産生されるIL‐6及びGM‐CSFの量は、一般的に、MSCにより産生されるものよりも多い。
【0061】
老化細胞は、特定の成長刺激サイトカイン及び栄養因子を合成しそして分泌することが報告されているので(Orjaloら、(2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106: 17031-17036)、SB623培養物内の老化細胞の集団の存在は、様々な種類の組織再生を支持するためのSB623細胞移植の有用性を示唆した。しかしながら、老化細胞の分泌プロファイルは、炎症誘発性であることが報告され、仮にSB623細胞に関する場合であれば、細胞移植治療のためのSB623細胞の有用性を減少するかもしれない。
【0062】
驚くべきことに、そしてSB623細胞培養物における老化細胞の集団の存在にもかかわらず、SB623細胞は、本明細書において開示したように、多くの免疫抑制特性を有する。例えば、SB623は、T細胞の増殖及び活性化を抑制し、T細胞のサイトカインプロファイルを変化させ、単球の樹状細胞への分化を阻止し、そして樹状細胞の成熟の低下において、それらの親MSCよりも優れている。
【0063】
SB623細胞によるT細胞の活性化及びT細胞の増殖の抑制
SB623細胞を、非血縁ドナー由来の105CFSE標識末梢血T細胞及び105末梢血単核細胞を含む混合リンパ球反応(MLR)に添加した。T細胞活性化の初期マーカー、CD69のレベルを測定して、T細胞活性化を調節するSB623細胞の能力を調べた。対照混合リンパ球反応において、CD69の表面発現を強力に誘導した。しかしながら、104SB623細胞の存在下で1日後、表面CD69を発現する、MLRにおけるCD4+T細胞(すなわち、ヘルパーT細胞)の分画が、有意に減少した。実施例4を参照。
【0064】
SB623細胞の存在下で5日後、前標識CD4+T細胞におけるCFSEの希釈(細胞増殖の指標)は、MLRにおけるCD4+T細胞の増殖が、SB623細胞の存在下で減少することが示された。実施例4を参照。従って、SB623細胞は、T細胞増殖及びT細胞活性化の両方を抑制することができる。
【0065】
SB623細胞のT細胞機能に対するさらなる影響は、表面HLA‐DR発現の低下(本明細書の実施例4)、未感作のT細胞のインビトロ培養物における調節性T細胞の増加した産生(本明細書の実施例6)、及びサイトカイン分泌の変化(本明細書の実施例7及び8)が挙げられる。SB623細胞はまた、異種リンパ球活性化系におけるT細胞増殖の減少について有効であった。本明細書の実施例5を参照。
【0066】
SB623細胞による樹状細胞発生の阻害
単球の樹状細胞(抗原提示細胞の1種)への分化及びさらに樹状細胞の成熟は、単球の、サイトカイン、インターロイキン‐4(IL‐4)及び顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)への暴露によりインビトロにおいて刺激することができる。この分化は、インターロイキン‐6(IL‐6)又は血管内皮増殖因子(VEGF)により阻止することができ、そしてそれら両方は、SB623細胞により分泌されることが知られるサイトカインの中の1つである。例えば、Tateら、(2010) Cell Transplant. 19: 973-984及び国際公開第2009/023251号を参照。
【0067】
本発明者等は、単球とSB623細胞との共培養が、単球のCD1a+樹状細胞への分化及びCD86+状態への樹状細胞の成熟の両方を減少することを本明細書において示す。以下の実施例9及び10を参照。新たな樹状細胞の産生を低減し及び既存の樹状細胞の機能を阻害するそれらの能力のため、SB623細胞は、抗原提示細胞、例えば樹状細胞による、ペプチドの提示によるT細胞の活性化に起因する移植片対宿主病(GVHD)を処置及び/又は改善するために使用することができる。
【0068】
本明細書に記載されたようなそれらの様々な免疫抑制特性のため、SB623細胞は、他の生物学的及び化学的免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、インターフェロン。ミコフェノール酸、フィンゴリモド、ミリオシン、アザチオプリン、メルカプトプリン、ダクチノマイシン、ミトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、アントラサイクリン、メトトレキサート、FK506、シクロホスファミド、ニトロソウレア、白金化合物及びグルココルチコイド)の代わりに使用することができる。さらに、免疫抑制剤の使用は、例えば、神経系障害の神経再生及び処置のために、細胞治療においてSB623同種移植に伴って必要ではない。
【0069】
前駆細胞
SB623細胞に転換することができる前記細胞は、任意の種類の非最終分化細胞であってもよい。例えば、米国特許第5,843,780号;6,200,806号及び7,029,913号において開示されたような全能性幹細胞などが、前駆細胞として使用することができる。全能性幹細胞は、培養し(例えば、米国特許第6,602,711号及び7,005,252号)そして様々な種類の多能性細胞に分化することができ(例えば、米国特許第6,280,718号;6,613,568号及び6,887,706号)、それはまた、開示された方法の実施において前駆細胞として使用することができる。
【0070】
他の典型的な前駆細胞の種類は、骨髄接着間質細胞(MASC)、また骨髄接着幹細胞として知られ、骨髄間質細胞(BMSC)及び間葉系幹細胞(MSC)である。MASCの典型的な開示は、米国特許出願公開第2003/0003090号;Prockop (1997) Science 276: 71-74及びJiang (2002) Nature 418: 41-49において提供される。MASCの分離及び精製方法は、例えば、米国特許第5,486,359号;Pittenger ら、(1999) Science 284: 143-147及びDezawaら、(2001) Eur. J. Neurosci. 14: 1771-1776において見出すことができる。ヒトMASCは、市販されており(例えば、Bio Whittaker, Walkersville, MD)又は例えば、骨髄吸引、続いて接着骨髄細胞の選択によりドナーから得ることができる。例えば、国際公開第2005/100552号を参照。
【0071】
MASCは、また、臍帯血から分離することができる。例えば、Campagnoliら、(2001) Blood 98: 2396-2402; Ericesら、(2000) Br. J. Haematol. 109: 235-242及びHouら、(2003) Int. J. Hematol. 78: 256-261を参照。
【0072】
MSCのSB623細胞への転換は、例えば、米国特許第7,682,825号(2010年3月23日)及び国際公開第2009/023251号(2009年2月19日)において記載され、それら両方の開示は、間葉系幹細胞の分離及び間葉系幹細胞のSB623細胞への転換(これらの文書において、「神経前駆細胞(neural precursor cell)」及び「神経再生細胞(neural regenerating cell)」)を記載する目的のために、それら全体について、参照により組み込まれる。
【0073】
Notch細胞内ドメイン
Notchタンパク質は、すべての後生動物で見られる、細胞内シグナル伝達を通じて細胞分化に影響を及ぼす膜貫通受容体である。Notch細胞内ドメインのNotchリガンド(例えば、デルタ(Delta)、セレート(Serrate)、ジャグド(Jagged))との接触は、Notchタンパク質の2つのタンパク質分解切断をもたらし、その2番目は、γ‐セクレターゼにより触媒され、そして細胞質中にNotch細胞内ドメイン(NICD)を放出する。マウスNotchタンパク質において、この切断は、アミノ酸gly 1743及びval 1744の間で起こる。NICDは、核に移行し、そこで転写因子として働き、さらなる転写調節タンパク質(例えば、MAM、ヒストンアセチラーゼ)を漸加して、様々な標的遺伝子(例えば、Hes1)の転写抑制を緩和する。
【0074】
Notchシグナル伝達に関してさらなる詳細及び情報が、例えば、Artavanis-Tsakonasら、(1995) Science 268: 225-232; Mumm及びKopan (2000) Develop. Biol. 228: 151-165並びにEhebauerら、(2006) Sci. STKE 2006 (364), cm7. [DOI: 10.1126/stke.3642006cm7]において見出される。
【0075】
細胞培養及びトランスフェクション
細胞培養のための標準的な方法は、当該技術分野において公知である。例えば、R. I. Freshney "Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique," Fifth Edition, Wiley, New York, 2005を参照。
【0076】
外来性DNAの細胞への導入方法(すなわち、トランスフェクション)はまた、当該技術分野において周知である。例えば、Sambrookら、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual," Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001; Ausubelら、"Current Protocols in Molecular Biology," John Wiley & Sons, New York, 1987及び定期更新を参照。
【0077】
自己免疫疾患及びアレルギー反応
自己免疫疾患は、正常の健全な組織を攻撃する免疫反応に起因する。典型的な自己免疫疾患は、限定されないが、筋委縮性側索硬化症、強直性脊椎炎、血小板減少性紫斑病、橋本甲状腺炎、ギラン・バレー症候群、悪性貧血、皮膚筋炎(dermatosyositis)、アジソン病、1型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(「狼瘡」)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、多発性筋炎、胆汁性肝硬変、乾癬、反応性関節炎、グレーブス病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、血管炎、クローン病、及びセリアック病‐スプルー(グルテン過敏性腸疾患)が挙げられる。
【0078】
アレルギーは、免疫反応を通常は刺激しない外部物質に対する免疫過敏症に起因する。一般的なアレルギーは、花粉、カビ、ペットの鱗屑及び埃が挙げられる。特定の食品及び薬はまた、アレルギー反応を引き起こす可能性がある。
【0079】
本明細書に開示されるように、SB623細胞の免疫抑制特性は、免疫疾患及びアレルギーの処置のために有用である。
【0080】
製剤、キット及び投与経路
本明細書に開示されるように、SB623細胞を含む治療用組成物をまた提供する。そのような組成物は、典型的に細胞及び医薬的に許容される担体を含む。
【0081】
本明細書に開示された治療用組成物は、とりわけ、免疫調節(例えば、免疫活性化の低減)及び様々な免疫疾患の進行の逆転のために有用である。従って、SB623細胞を含む組成物の「治療有効量(therapeutically effective amount)」は、免疫活性化を防ぎ又は逆転する量であってもよい。例えば、体重、投与経路、疾患の重症度などに依存して、例えば、投与量は、約100;500;1,000;2,500;5,000;10,000;20,000;50,000;100,000;500,000;1,000,000;5,000,000;~10,000,000細胞以上で変化してもよく;例えば、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、1月に2回、1月に1回の投与頻度でもよい。
【0082】
補助的な活性化合物をまた、組成物中に組み込むことができる。例えば、SB623細胞は、他の免疫調節剤、例えば、自己免疫疾患の処置、又は移植による拒絶反応及び/又はGVHDを阻止するために、例えばシクロスポリンとの組み合わせが有用である。従って、本明細書に開示された治療用組成物は、SB623細胞及びシクロスポリン(又は任意の他の免疫抑制剤)の両方を含むことができる。SB623細胞の組成物が、他の治療薬と組み合わせて使用される場合、組み合わせの治療有効量に言及することができ、それは、免疫調節をもたらすSB623細胞及び他の薬剤の合わせた量であり、連続的に又は同時に、組み合わせて投与される。濃度の2つ以上の組み合わせが、治療に有効であるかもしれない。
【0083】
様々な医薬組成物並びにそれらの調製及び使用のための技術は、本開示に照らして、当業者に公知である。適切な薬理的な組成物の詳細なリスト及びそれらの投与のための技術に関して、テキスト、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. 1985; Bruntonら、"Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics," McGraw-Hill, 2005; University of the Sciences in Philadelphia (eds.), "Remington: The Science and Practice of Pharmacy," Lippincott Williams & Wilkins, 2005;及びUniversity of the Sciences in Philadelphia (eds.), "Remington: The Principles of Pharmacy Practice," Lippincott Williams & Wilkins, 2008を参照してもよい。
【0084】
本明細書に記載された細胞は、移植のための生理学的に適合性の担体中に懸濁してもよい。本明細書で使用される場合、用語「生理学的に適合性の担体(physiologically compatible carrier)」は、製剤の他の成分と適合し、そしてそのレシピエントに有害でない担体を意味する。当業者は、生理学的に適合性の担体に精通している。適切な担体の例は、細胞培地(例えば、イーグル最小必須培地)、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス平衡塩溶液+/-グルコース(HBSS)、及び複数の電解質溶液、例えば、Plasma‐Lyte(商標)A(Baxter)が挙げられる。
【0085】
患者に投与するSB623細胞懸濁液の用量は、移植部位、治療目標及び溶液中の細胞数に依存して変化する。典型的には、患者に投与する細胞の量は、治療有効量である。本明細書で使用される場合、「治療有効量(therapeutically effective amount)」又は「有効量(effective amount)」は、特定の疾患の処置を達成するために、すなわち疾患に関連する症状の量及び重症度の減少を生み出すために、必要とされる移植された細胞数を意味する。治療有効量は、関連のある医学的状態の症状の完全な又は部分的な改善、又はそのような状態の処置、治療、予防又は改善率の増加をもたらすのに十分な組成物の量をさらに意味する。例えば、移植片対宿主病に関する処置の場合、SB623細胞の治療有効量の移植は、典型的に、移植した細胞の免疫抑制をもたらす。仮に、疾患が移植による拒絶反応であるなら、例えば、治療有効量は、移植した場合、移植片が許容されるように宿主において十分な免疫抑制をもたらすSB623の数である。治療有効量は、疾患又は障害の種類、疾患又は障害の広範さ、及び疾患又は障害を患う器官の大きさで変化する。
【0086】
開示した治療用組成物は、医薬的に許容される材料、組成物又はビヒクル、例えば、液体又は固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒又は封入材料、すなわち、担体をさらに含む。これらの担体は、例えば、体内で、SB623細胞を安定させ及び/又はSB623細胞の生存を容易にすることができる。それぞれの担体は、製剤の他の成分に適合しそして対象に有害でない意味において「許容される(acceptable)」べきである。医薬的に許容される担体として役に立つことができる材料のいくつかの例は、糖、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン;セルロース及びその誘導体、例えば、カルボキシセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;トラガカント粉末;モルト;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、ココアバター及び坐薬ワックス;油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及び大豆油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱性物質除去水;等張食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;並びに医薬製剤に使用される他の無毒性適合物質が挙げられる。湿潤剤、乳化剤及び潤滑剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤及び芳香剤、保存剤及び抗酸化剤がまた、組成物中に存在してもよい。
【0087】
本開示の他の態様は、対象に、SB623細胞、任意により、他の治療剤と組み合わせた投与を実施するためのキットに関する。1つの実施態様において、キットは、任意により例えば、適切な、1つ以上の別々になった医薬品として処方されるシクロスポリン又は他の免疫抑制剤を含む、医薬担体において処方されるSB623細胞の組成物を含む。
【0088】
典型的な製剤は、限定されないが、非経口投与、例えば、肺内、静脈内、動脈内、眼内、頭蓋内、硬膜下(sub‐meningial)又は皮下投与に適切なもの、ミセル、リポソーム又は薬物放出カプセル(徐放のために設計された生体適合性コーティング中に組み込まれた活性薬剤)中に封入された製剤;摂取可能な製剤;局所使用のための製剤、例えば、点眼薬、クリーム、軟膏及びゲル;並びに他の製剤、例えば、吸入、エアロゾル及びスプレーが挙げられる。開示の組成物の投与量は、処置の必要性の程度及び重症度、投与された組成物の活性、対象の全体的な健康状態、及び当業者に周知の他の考慮に従って変化する。
【0089】
さらなる実施態様において、本明細書に記載される組成物は、局所的に送達される。局所送達は、非全身的に組成物を送達することを可能にし、それによって、全身送達と比較して、体に対する組成物の負担を軽減する。そのような局所送達は、例えば、様々な医療的な埋め込み装置、限定されないが、ステント及びカテーテルの使用を通じて達成でき、又は吸入、静脈切開術、注射若しくは手術によって達成できる。コーティング、移植、包埋方法、並びに医療装置、例えばステント及びカテーテルに所望する薬剤を取り付ける他の方法は、当該技術分野において確立され、そして本明細書において熟慮される。
【実施例0090】
実施例1:MSC及びSB623細胞の調製
成人ドナー由来の骨髄穿刺液を、Lonza Walkersville,Inc(Walkersville,MD)から入手し、そして10%ウシ胎児血清(Hyclone,Logan,UT)、2mMのL‐グルタミン(Invitrogen,Carlsbad,CA)及びペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を補充したα‐MEM(Mediatech,Herndon,VA)に播種した。細胞を、37℃、5%CO2で3日間培養し、接着細胞の単層を得た。非接着細胞の除去後、培養を同じ条件で2週間継続した。この間に、細胞を0.25%のトリプシン/EDTAを使用して、2回継代した。2代継代由来の細胞の一部をMSCとして凍結した。
【0091】
2代継代由来の残りの細胞を播種し、そしてサイトメガロウィルスプロモーター(pCMV‐hNICD1‐SV40‐NeoR)と作動可能に連結されたNotch細胞内ドメインをコードする配列を含むプラスミドで、Fugene6(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を使用してトランスフェクトした。このプラスミドはまた、SV40プロモーターの転写調節下、ネオマイシン及びG418に対する耐性をコードする配列を含む。トランスフェクトした細胞を、100μg/mlのG418(Invitrogen,Carlsbad,CA)を補充した前の段落で記載した生育培地中で、37℃、5%CO2で培養した。7日後、G418耐性クローンを増やし、そして培養物を2回継代した。2代継代後、細胞を採取しそしてSB623細胞として凍結した。
【0092】
本明細書に記載されたように調製したMSC及びSB623を、必要に応じて溶かし、そしてさらなる試験で使用した。
【0093】
実施例2:MSC及びSB623細胞の増殖能力
細胞増殖を定量するために、100万のMSC又はSB623細胞を播種し、そして3日間培養した。3日目に、生細胞をトリパンブルー排除によりカウントした。
図2は、より少ない生細胞が、MSC培養物と比較して、SB623培養物に存在したことを示す。
【0094】
MSC及びSB623培養物の細胞周期プロファイルを、ヨウ化プロピジウム染色により評価した。ヨウ化プロピジウムは、細胞周期の休止期における細胞を増殖期の細胞よりもより強力に染色するDNA挿入色素である。培養3日後、100万のMSC又はSB623細胞を、4℃で、70%エタノール中で一晩固定した。PBS/2%FBSで2回洗浄後、細胞を、暗所で、PBS/2%FBSにおける1mlの染色緩衝液(50μg/mlのヨウ化プロピジウム、50μg/mlのRNAse)(Sigma,St.Louis,MO)で、30分間インキュベートした。収集及び分析を、FL‐2リニアチャンネルで、CellQuestPro(商標)プログラム(BD Biosciences,San Jose,CA)を使用して、FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)上で行った。
図3は、MSCと比較して、SB623細胞のより大きいヨウ化プロピジウム染色を示し、SB623細胞培養物において細胞周期のG0/G1休止期における細胞のより高い分画を示す。
【0095】
細胞自律的な染色、5‐(‐6‐)カルボキシフルオレセインジアセテート(CFSE)の希釈を、増殖動態の追加測定として使用した。この分析において、同じ数のMSC及びSB623細胞を、5μMの5‐(‐6‐)カルボキシフルオレセインジアセテート(Invitrogen,Carlsbad,CA)で、室温で2分間標識し、次に、5日間培養した。フローサイトメトリー収集及び分析(CFSEに関する)を、FL‐1 logチャンネルを使用して、FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)上で行った。結果(
図1)は、SB623細胞培養物が、MSCと比較して、高いCFSE含量を有する細胞集団を含むことを示し、SB623細胞培養物において、非分裂又はゆっくりと分裂する細胞の集団の存在を示す。
【0096】
MSC及びSB623細胞における細胞内p16Ink4Aタンパク質のレベルを以下のように評価した。細胞を3日間培養し、次に4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%のTriton X‐100を含むPBSで透過処理した。2%のウシ胎児血清を含むPBS(PBS/2%FBS)で2回洗浄した後、細胞ペレットを、0.2mlのPBS/2%FBSに再懸濁し、そして2つのサンプルに分けた。1つの細胞サンプルを、フィコエリトリン(PE)‐コンジュゲート抗p16Ink4A抗体(BD Biosciences,San Jose,CA)で染色し、そして他のサンプルを、アイソタイプ対照として、PE‐コンジュゲートマウスIgGでインキュベートした。サンプルを、FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)上でフローサイトメトリーにより分析し、そしてデータをp16Ink4A陽性及びIgG陰性染色した細胞に関してゲーティングによりp16Ink4Aを発現する培養物における細胞のパーセンテージに変換した。
図4は、SB623細胞培養物が、p16Ink4Aを発現する細胞の有意に高い分画を含むことを示す。
【0097】
実施例3:MSC及びSB623細胞による表面マーカー及びサイトカイン発現
表面マーカーを測定するために、MSC又はSB623細胞を、0.25%のトリプシン/EDTA(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用して培地から採取し、PBS/2%FBSで洗浄し及び1mlのPBS/2%FBSに再懸濁した。細胞を、CD29、CD31、CD34、CD44、CD45、CD73、CD90への蛍光色素コンジュゲート抗体(すべてBD Biosciences,San Jose,CA)、又はCD105への蛍光色素コンジュゲート抗体(Invitrogen,Carlsbad,CA)で、氷上で15分間インキュベートした。細胞を、その後、PBS/2%FBSで1回洗浄し、そしてFACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences,San Jose,CA)を行った。CellQuestPro(商標)ソフトウェア(BD Biosciences)を、データ分析のために使用した。結果を、対照としてIgGを使用して、dMFI(「デルタ平均蛍光強度(delta mean fluorescence intensity)」として表し;すなわち、IgGに関するMFIを、所定の表面マーカーに関して取得したMFIから差し引き、dMFIを得た。
【0098】
結果を、
図5及び6に示す。
図5は、MSC及びSB623細胞の両方が、CD44、CD73及びCD105を発現するが、SB623細胞は、これらの表面マーカーをより高いレベルで常に発現することを示す。
図6は、SB623細胞がまた、MSCよりも、CD54のより高いレベルを常に発現することを示す。
【0099】
細胞内サイトカインの検出のために、細胞を3日間培養し、そして採取前に6時間、ブレフェルジンAの1:1,000希釈(eBioscience,San Diego,CA,最終濃度3μg/ml)で処理した。細胞を固定し、細胞内pInk4Aの測定のために上記のように透過処理し、そして蛍光色素コンジュゲート抗体(ヒトGM‐CSF(BD)、IL‐1α(eBioscience,San Diego,CA)、IL‐6(BD)又はTGFβ‐1(R&D Systems,Minneapolis,MN))で、1時間インキュベートし、続いてPBS/2%FBSで2回洗浄した。データ収集及び分析を、CellQuestPro(商標)ソフトウェアを使用して、BD FACSCalibur(商標)装置上で行った。
【0100】
図7に示すこれらの分析結果は、MSC及びSB623細胞によるIL‐1α、IL‐6及びGM‐CSFの発現の概ね同じレベルを示し;一方で、
図8は、同程度のレベルのTGF‐β‐1及びVEGF‐Aが、MSC及びSB623によって産生されることを示す。
【0101】
実施例4:同種異系混合リンパ球反応(allo‐MLR)
同種異系混合リンパ球反応のための細胞を、健康な、非血縁者由来の末梢血のサンプル10mlから得た。レスポンダー(responder)T細胞を得るために、RosetteSep T‐cell enrichment kit(Stemcell Technologies,Vancouver,BC,Canada)をメーカーの説明に従って使用した。濃縮したT細胞(レスポンダー細胞(responder cell))を5μMの5‐(‐6‐)カルボキシフルオレセインジアセテート(CFSE)で、室温で2分間標識した(Invitrogen,Carlsbad,CA)。血清クエンチング及びPBSで3回洗浄後、標識したレスポンダー細胞を、96穴U底プレートのウェル中に、105細胞を含んで、0.1mlの完全リンパ球培地(RPMI(Mediatech,Manassas,VA))+10%FBS(Lonza,Allendale,NJ)中に播種した。
【0102】
刺激細胞を調製するために、末梢血軟膜単核細胞を、Ficoll(商標)密度勾配遠心分離後、回収した。赤血球溶解緩衝液(Sigma‐Aldrich,St.Louis,MO)を、37℃で10分間添加し;次に、細胞をPBS/2%熱不活性化FBSで2回洗浄した。単核刺激細胞を、レスポンダー細胞を含むウェル(0.1ml中に105細胞)に添加するか、又は105の刺激細胞を、104のSB623細胞若しくは104のMSCと混合し、遠心しそしてペレット細胞を、その後、上記のように調製したCFSE標識レスポンダー細胞のウェルに添加した0.1mlの完全リンパ球培地(上記の通り)に再懸濁した。
【0103】
反応開始2日後、培養物におけるCD4+T細胞の表面上のCD69(初期T細胞活性化マーカー)の提示を、T細胞活性化のアッセイとして使用した。CD69発現の分析のために、細胞を、2日後、ピペットにより採取し、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)‐コンジュゲート抗CD69抗体(eBioscience,San Diego,CA)で染色し、そして、FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(Becton,Dickinson&Co.,San Jose,CA)を使用して、CD4+リンパ球でゲーティングして分析した。
【0104】
T細胞増殖の測定のために、培養7日後、細胞を採取し、そしてフィコエリトリン(PE)‐コンジュゲート抗CD4抗体(BD)で染色した。データ収集のために、BD FACSCaliburフローサイトメーターを使用した。
【0105】
allo‐MLRの対照について、CD4
+集団内のT細胞分画が、そしてそれは、表面CD69の発現が誘導されていたが、2日後に有意に増加した(
図9A及び9B)。
【0106】
MLRにおける、MSC及びSB623細胞との共培養のT細胞活性化に対する影響を、また評価した。これらの実験において、10,000のMSC又は10,000のSB623細胞を、MLRの開始時に培養物に添加した。これらの条件下、2日後、対照培養物において観察した表面CD69発現細胞の増加が、MSC又はSB623細胞との共培養で有意に減少した(p<0.05;
図9A及び9B)。
【0107】
T細胞活性化の他の測定として、CD4
+T細胞の増殖速度を、MLR開始7日後、アッセイした。これらの実験のために、細胞をピペットでMLRから採取し、そしてPE‐標識抗CD4抗体で染色した。フローサイトメトリーを、Becton‐Dickinson FACSCalibur(商標)装置を使用して、CD4
+細胞でゲーティングして行った;そしてCSFEの希釈を、CD4
+レスポンダーT細胞の増殖速度の指標として評価した。対照allo‐MLRにおいて、CD4
+レスポンダーT細胞の80%以上が、7日後増殖した。SB623細胞又はMSCの存在下で、T細胞増殖が、有意に減少した(すなわち、より高いレベルのCFSE染色を観察した(
図10))。
【0108】
表面HLA‐DR発現の誘導はまた、T細胞活性化の測定である。SB623細胞及びMSCの両方が、allo‐MLRにおいて、HLA‐DR発現T細胞のパーセンテージを減少した(
図11)。
【0109】
従って、多くの異なる独立した基準により、SB623細胞は、T細胞活性化を抑制する。T細胞活性化阻害能力は、免疫抑制のためのSB623細胞の有用性を示す。
【0110】
実施例5:異種リンパ球活性化反応
SB623細胞の免疫抑制特性を、また、異種移植モデル系において示した。異種リンパ球反応を、刺激細胞として、Sprague‐Dawleyラットグリア混合細胞(星状膠細胞及び小グリア細胞を含む)、並びにレスポンダー細胞として、メーカーの説明に従ってPKH26で標識した、ヒト末梢血T細胞を使用して確立した。グリア混合細胞を得るために、生後9日目のラットの脳を採取し、そして0.25%トリプシンで処理する前に、30分間粉砕した。細胞懸濁物を、70μMのセルストレーナーを通じて濾過し、そして遠心分離前にFicoll(商標)で覆った。グリア混合細胞を、アッセイにおいて使用する前に、DMEM/F12/10%FBS/pen‐strep中で14日間培養した。異種反応を、5日間にわたって、同種異系MLR(100,000グリア混合細胞:100,000CFSE標識ヒトT細胞;及び任意により、10,000MSC又はSB623細胞)において使用したものと同じ細胞比率を使用して行った。ヒトCD3ゲートT細胞(CD4+及びCD8+T細胞の両方を含む)におけるPKH26希釈を、フローサイトメトリーにより評価した。
【0111】
同種異系MLRのように、異種系へのSB623細胞又はMSCの添加は、別な方法ではグリア混合細胞による刺激後に観察したが、レスポンダーT細胞の増殖度を低減した(
図12)。従って、MSC及びSB623細胞の免疫抑制特性は、自己又は同種異系環境に限定されるものではない。
【0112】
実施例6:SB623細胞の調節性T細胞の成長に対する影響
調節性T細胞(Tregs)は、免疫反応を弱め又は抑制することができる。従って、Tregsの発生を支持するためのSB623細胞の能力を調べた。この目的を達成するために、実施例2で記載したように精製した、末梢血由来の濃縮T細胞をインターロイキン‐2(IL‐2)の存在下で培養し、そしてそれは、未感作T細胞のTregsへの分化を刺激することを示し、MSC又はSB623細胞との共培養のこのプロセスに対する影響を評価した。共培養物は、T細胞とSB623細胞の比率10:1又はT細胞とMSCの比率10:1(105T細胞:104MSC又はSB623細胞)を含む。表面マーカーCD4及びCD25の共発現、サイトカインインターロイキン‐10(IL‐10)の分泌、及び転写因子FoxP3の分子内産生を、Tregsのためのマーカーとして使用した。
【0113】
これらの実験のために、ヒトT細胞を、T細胞分離キット(StemCell Technologies,Vancouver,Canada)を、メーカーの説明に従って使用して末梢血から濃縮した。濃縮T細胞を、使用前にRPMI‐1640/10%熱不活性FBS/pen/strepにおいて一晩培養した。一日前に、10,000のMSC又はSB623細胞を、96穴U底プレートにウェルごとに播種した。共培養アッセイの当日、100,000の濃縮T細胞を、事前準備した10ng/mlのIL‐2をまた含む、MSC又はSB623細胞単層のそれぞれのウェルに移した。内部標準として、T細胞培養物をまた、MSC又はSB623細胞の非存在下で保持した。7日目に、細胞を表面CD4(ヘルパーT細胞マーカー)及びCD25(IL‐2受容体アルファ鎖)、及び細胞内FoxP3に関して染色した。
【0114】
表面マーカーCD4及びCD25に関するアッセイの結果を、
図13に示す。SB623細胞とIL‐2刺激T細胞との共培養は、CD4
+CD25
+T
reg細胞の数を有意に増加し(
図13Aの左端と右端パネルを比較)、そしてこのT
reg成長の刺激は、T細胞をMSCと共培養した場合よりも、T細胞をSB623細胞で共培養した場合の方が大きい(
図13Aの中央と右パネルを比較)。
【0115】
フォークヘッドボックスP3(FoxP3)タンパク質に関するアッセイは、これらの結果を裏付ける。FoxP3は、T
regSの成長及び機能を調節する転写因子である。細胞内FoxP3を、T細胞を7日間培養又は共培養し(上記の通り)、次に固定しそしてCytoFix/Perm(eBioscience,San Diego,CA)で細胞を透過処理することにより検出した。PE‐コンジュゲート抗FoxP3抗体(クローンPCH101,eBioscience,1:5希釈)を、細胞を染色するために30分間染色し、そして染色細胞を細胞の大きさに基づくリンパ球でゲーティングするフローサイトメトリーにより分析した。
図14に示す結果は、IL‐2の存在下、MSC及びSB623細胞との共培養物が、T細胞によるFoxP3発現を、共培養しなかったT細胞におけるその発現と比較して、増加したことを示す。
【0116】
Tregsによる免疫抑制の1つの機構は、抗炎症性サイトカイン、例えば、インターロイキン‐10(IL‐10)の分泌によるものである。従って、IL‐2を含むT細胞培養物又はMSC又はSB623細胞との共培養物におけるIL‐10産生T細胞のパーセンテージを、培養又は共培養の7日後、細胞内IL‐10を蛍光色素コンジュゲート抗IL‐10抗体で染色することにより測定した。
【0117】
従って、培養又は共培養の7日後、細胞をブレフェルジンA(eBioscience,San Diego California)の1:1,000希釈で、6時間処理し(細胞内タンパク質の分泌を防止するために)、2%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、その後、PBS/2%FBSにおける0.05%(v/v)Triton‐X‐100で、氷上で15分間透過処理した。Alexa488コンジュゲート抗ヒトIL‐10抗体(eBioscience,San Diego CA)を、その後添加し、そして培養物を、氷上で30分間インキュベートした。ウェルを、2%ウシ胎児血清/0.01%(v/v)Tween20で、2回洗浄し;細胞をピペットで得て、そしてFACSCalibur(商標)フローサイトメーター(Becton,Dickinson&Co.,San Jose,CA)を使用して分析した。データ分析を、CellQuestPro(商標)ソフトウェア(Becton,Dickinson&Co.,San Jose,CA)を使用して行った。
【0118】
この分析の結果は、IL‐2の存在下で培養したT細胞が、細胞内IL‐10を発現せず;一方で、それらをSB623細胞又はMSCのいずれかとIL‐2の存在下で共培養した場合、低いレベルのIL‐10を、CD4
+T細胞により産生し、若干多いIL‐10を、SB623細胞で共培養したT細胞によって産生したことを示す(
図15)。
【0119】
実施例7:SB623細胞による炎症性の抗炎症性サイトカインプロファイルへの転換
MSC及びSB623細胞の共培養の、T細胞により産生される炎症性及び抗炎症性サイトカインの相対量に対する影響を、ホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)及びイオノマイシンでの処理により準最適に活性化したT細胞におけるIL‐10(抗炎症性サイトカイン)及びインターフェロン‐ガンマ(INF‐γ、炎症性サイトカイン)を測定することにより評価した。これらの実験のために、T細胞を末梢血から濃縮して、IL‐2の非存在下で培養を行った以外は、上記のように(実施例6)MSC又はSB623と培養し、又は共培養した。7日目に、25ng/mlの非活性化用量のホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)/0.5μMイオノマイシン(Io)(両方ともSigma‐Aldrich,St Louis,MO)を、3μg/mlのブレフェルジンA(eBioscience,San Diego,CA)の存在下、添加し、そして6時間後、細胞を採取し、IL‐10及びIFN‐γの細胞内発現に関して分析した。これらの実験で使用したPMAの非活性化用量及びイオノマイシンは、T細胞増殖を誘導しなかったが、T細胞によるサイトカイン合成を誘導するためには十分であった。IL‐10レベルを、実施例6に記載したように、Alexa488‐コンジュゲート抗ヒトIL‐10抗体(eBioscience,San Diego,CA)を使用して測定した。IFN‐γレベルを、PE‐標識抗ヒトIFN‐γ抗体(eBioscience,San Diego,CA)を使用して、FACSにより測定した。
【0120】
この分析の結果を、
図16に示す。PAM/イオノマイシンで準最適刺激後、新しく分離したT細胞の20%超が、IFN‐γを発現した一方で、1%未満がIL‐10を発現した(すなわち、IFN‐γ又はIL‐10のいずれかを発現した細胞の、95%超がIFN‐γを発現し、そして5%未満がIL‐10を発現した)。しかしながら、SB623細胞又はMSCのいずれかで7日間培養後、INF‐γ又はIL‐10のいずれかを発現する細胞の、95%超がIL‐10を発現した一方で、5%未満がIFN‐γを発現した。従って、MSC又はSB623細胞のいずれかとの共培養は、炎症性のものから抗炎症性のものに、T細胞セクレトームを転換した。
【0121】
炎症性サイトカインIFN‐γの分泌は、ヘルパーT細胞のTH1サブセットの特徴を示し;一方で、IL‐10分泌は、TH2細胞及びTreg細胞の特徴を示す。従って、未感作T細胞とSB623細胞又はMSCの共培養に際して観察した、IFN‐γ分泌からIL‐10分泌への変更は、TH1の豊富な集団の、大量のTH2細胞、Treg細胞、又は両方を含む集団への転換と一致する。この結果はまた、SB623細胞、又はMSCとの共培養が、一部分において、T細胞によるサイトカイン産生の変更を通じて、炎症性集団(TH1細胞によって特徴付けられる)からより抗炎症性集団(TH2細胞及び/又はTreg細胞によって特徴付けられる)にT細胞の分化を向けることを示す。
【0122】
実施例8:MSC及びSB623細胞共培養のT細胞によるIL‐17の産生に対する影響
MSC及びSB623細胞により分泌される公知の2つのサイトカイン、TGFβ‐1及びIL‐6(上記実施例3を参照)は、また、Th17ヘルパーT細胞(すなわち、IL‐17を分泌するヘルパーT細胞)の成長に役割を果たす。従って、T細胞を、Th17ヘルパーT細胞の成長を刺激することが知られている、IL‐23の存在下培養し、そしてMSC又はSB623細胞との共培養のTh17細胞数に対する影響を測定した。
【0123】
これらの実験のために、実施例7に記載のように、ヒトT細胞を分離し、そして10ng/mlのIL‐23(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を添加して培養した。ブレフェルジンAで、6時間処理後、細胞を採取し、固定し実施例7に記載のように透過処理し、PE‐コンジュゲート抗IL‐17抗体(eBioscience)で染色し、そしてフローサイトメトリーにより分析した。結果は、IL‐23の存在下でのT細胞の培養が、IL‐17発現細胞の数を増加したことを示した。また、T細胞とMSC又はSB623細胞との共培養は、IL‐23の非存在下及び存在下の両方において、IL‐17発現細胞の数の小さな増加をもたらした。
【0124】
実施例9:SB623細胞との共培養による単球の樹状細胞への分化の阻害
単球(CD14を発現)の樹状細胞(CD1aを発現)への成長の通常の進行は、インターロイキン‐4(IL‐4)及び顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)の存在下、単球を培養することにより、インビトロにおいて再現することができる。インビトロにおける単球との共培養の場合、MSCは、単球の樹状細胞への分化を阻止することができ、一部分では、効果は、MSCによるインターロイキン‐6(IL‐6)の分泌により媒介される。Chomaratら、(2000)Nature Immunology 1:510-514; Djouadら、(2007) Stem Cells 25: 2025-2032。米国特許出願公開第2010/0266554号(2010年10月21日)を参照。MSC及びSB623によってまた分泌される、VEGFは、また、樹状細胞分化に関係する。従って、SB623細胞の単球分化に対する影響を調べた。
【0125】
単球を、10%ウシ胎児血清(Lonza,Allendale,NJ)、2mMのL‐グルタミン、2mMのL‐ピルビン酸ナトリウム、100ユニット/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、40ng/mlのGM‐CSF(Peprotech,Rocky Hill,NJ)及び20ng/mlのIL‐4(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を含むRPMI‐1640(Meidatech,Manassas,VA)において培養した。SB623細胞との共培養(又は対照として、MSC)を、単球とSB623細胞(又はMSC)の比率10:1;すなわち、100,000の単球対10,000のSB623細胞又はMSCで行った。培養(共培養)7日後、トリプシン/EDTA(上記のように)使用して細胞の一部を採取し、PE‐コンジュゲート抗CD‐14抗体及びFITC‐標識抗CD1a抗体(両方ともeBioscience,San Diego,CA)と一緒にインキュベートした。収集及び分析を、CellQuestPro(商標)ソフトフェアを使用して、FACSCalibur(商標)セルソーターを使用して(両方とも、Becton,Dickinson&Co.,San Jose,CA)行った。培養物の他の部分を、位相差顕微鏡によって観察した。
【0126】
セルソーティング分析の結果(
図18)は、SB623細胞又はMSCとの共培養の後に、CD14
+細胞(すなわち、単球のより高い分画)のより高いパーセンテージを示した。さらに、効果は、単球をSB623と培養した場合、MSCとの共培養と比較して、大きかった。また、より少ないCD1a
+樹状細胞を、共培養において観察した。これらの結果は、SB623細胞(及びより少ない程度にMSC)が単球の樹状細胞への分化を阻害することができることを示す。
【0127】
顕微鏡分析は、これらの観察結果を裏付けた。単球培養物において、樹状細胞の集団を、顕微鏡により容易に観察したが;MSC又はSB623細胞との共培養物において、そのような集団をほとんど観察しなかった。
【0128】
実施例10:SB623細胞との共培養による樹状細胞の成熟阻害
単球から分化後、樹状細胞は、CD86表面マーカーを発現する細胞へと成熟する。この成熟を、腫瘍壊死因子‐アルファ(TNF‐α)の存在下、樹状細胞を培養することによりインビトロで再現することができる。IL‐6及びVEGFが、樹状細胞の成熟を阻止することを示す。Parkら、(2004) J. Immunol. 173: 3844-3854; Takahashiら、(2004) Cancer Immunol. Immunother 53: 543-550。SB623細胞がこれらのサイトカインの両方を分泌するので、SB623共培養の樹状細胞分化に対する影響を調べた。
【0129】
SB623細胞の共培養の樹状細胞の成熟に対する影響を評価するために、単球を末梢血から取得し、実施例9に記載のように樹状細胞にインビトロで分化した。培養5日後、ヒトTNF‐α(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を、10ng/mlの最終濃度で培養物に添加した。いくつかの培養物において、SB623細胞又はMSCをまた、この時点で添加した。すべてのサンプルは、105単球及び、共培養物において104MSC又はSB623細胞を含んだ。対照として、樹状細胞のCD86+状態への成熟を阻害する、シクロスポリンAを、1μg/mlの最終濃度でTNF‐α刺激培養物に添加した。2日後、細胞をPE‐コンジュゲート抗CD86抗体(Becton Dickinson&Co.,San Jose,CA)で染色し、FACSCaliburセルソーターで行いそしてCellQuestPro(商標)ソフトウェアを使用して(両方とも、Becton Dickinson&Co.,San Jose,CA)分析した。
【0130】
図19に示す結果は、TNF‐α成熟樹状細胞の有意な分画が、CD86を発現し、そしてこの分画が、予想した通り、シクロスポリンでの処理により低下することを示す。SB623細胞及びMSCでの共培養がまた、CD86
+細胞の分画を低下する。特に、CD86発現により測定したように、SB623細胞は、MSCよりも樹状細胞成熟に対するより強い阻害効果を有する。
【0131】
実施例11:SB623細胞との共培養による単球/マクロファージの分泌プロファイルの変化
CD14細胞表面マーカーを発現するヒト末梢血単球(すなわち、マクロファージ前駆体)を、抗CD14コート磁気ビーズ(Miltenyi Biotec,Auburn,CA)を使用して、磁気選択により軟膜の細胞から得た。CD14+単球の分離培養物を、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)に暴露して、それらをM1(炎症性)マクロファージに転換し;又はマクロファージコロニー刺激因子に暴露して、それらをM2(抗炎症性)マクロファージに転換し;又はSB623細胞又はMSCのいずれかと共培養した。
【0132】
腫瘍壊死因子‐アルファ(TNF‐α、M1マクロファージを特徴付ける炎症性サイトカイン)及びインターロイキン10(IL‐10、M2マクロファージを特徴付ける抗炎症性サイトカイン)を発現する細胞のパーセンテージを、これらの培養物において、以下のように決定測定した。培養物を、100ng/mlの細菌性リポ多糖(LPS,Sigma,St.Louis,MO)に24時間暴露した。LPSに対する暴露の最後の6時間、ブレフェルジンA及びモネンシン(両方とも、eBioscience San Diego,CA;及び両方とも、1:1,000希釈で使用した)を培養物に添加した。細胞を、次に、PE‐コンジュゲート抗TNFα又はFITC‐コンジュゲート抗IL‐10のいずれかで染色し、そしてフローサイトメトリーで分析した。
【0133】
図20に示すこれらの研究結果は、MSC又はSB623細胞との共培養が、培養物において、抗炎症性サイトカインを産生した単球の分画を増加したことを示した。MSC及びSB623細胞との共培養は、GM‐CSFに対する暴露のように、TNF‐αを産生した細胞のパーセンテージを増加しなかった(
図20A)。特に、抗炎症性サイトカインIL‐10を発現する細胞のパーセンテージを、単球をMSCと共培養した場合、増加し、そしてSB623細胞と共培養した場合、さらにもっと増加した(
図20B)。