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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052792
(43)【公開日】2023-04-12
(54)【発明の名称】医薬製剤その五
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/551 20060101AFI20230404BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230404BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A61K31/551
A61P27/02
A61K9/08
A61P27/06
A61J1/05 313A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012898
(22)【出願日】2023-01-31
(62)【分割の表示】P 2021078646の分割
【原出願日】2015-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2014195279
(32)【優先日】2014-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 洋士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐喜
(57)【要約】
【課題】ハロゲン化イソキノリン誘導体の、水性組成物中での光に対する安定性を改善する技術を提供すること。
【解決手段】次の一般式(1)
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物が、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容されてなる、医薬製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
願書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬製剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の構造式:
【0003】
【化1】
【0004】
で表されるリパスジル(化学名:4-フルオロ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリン)や、以下の構造式:
【0005】
【化2】
【0006】
で表される4-ブロモ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリンなどのハロゲン化イソキノリン誘導体は、Rhoキナーゼ阻害作用等の薬理作用(例えば、特許文献1、2)を有し、眼疾患の予防や治療に有用であることが知られている。具体的には例えば、高眼圧症や緑内障等の予防又は治療(例えば、特許文献3)、あるいは加齢黄斑変性等の眼底疾患の予防又は治療(例えば、特許文献4)に有用であることが報告されている。
【0007】
そのため、これらのハロゲン化イソキノリン誘導体を、例えば眼科用剤等として安定的に製剤化する技術を確立することは、極めて有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4212149号公報
【特許文献2】国際公開第2006/115244号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/068208号パンフレット
【特許文献4】特許第5557408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、ハロゲン化イソキノリン誘導体であるリパスジルを眼科用剤等として製剤化するに当たり、まずはリパスジルの光安定性を評価した。しかるところ、リパスジルそのものは光に対して極めて安定であることが明らかとなった。有機化合物の光安定性はその構造に依存し、状態(固体、液体等)には依存しないと考えられる。眼科用剤等は、通常、水を含有する組成物(水性組成物)であるが、リパスジルは、水性組成物に配合しても光安定性に問題は生じないものと予想された。
【0010】
しかしながら、本発明者らが更に検討したところ、極めて意外なことに、リパスジル自体は光に対して安定であるにも拘わらず、これを水性組成物中に配合せしめることによって光に対して不安定化し、曝光によって徐々に分解物が増加することが明らかとなった。
そこで、本発明は、リパスジル等のハロゲン化イソキノリン誘導体の、水性組成物中での光に対する安定性を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため更に鋭意検討したところ、リパスジルの水性組成物中での光分解が300nm付近の波長の光線の照射に起因しており、水性組成物を当該波長の光線を遮断する包装体に収容することで、光安定性の改善された医薬製剤とすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<4>を提供するものである。
<1> 次の一般式(1)
【0013】
【化3】
【0014】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物が、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容されてなる、医薬製剤。
<2> 前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物を、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容する工程を含む、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の水性組成物中での光安定性を向上させる方法。
<3> 波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容されることを特徴とする、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物。
<4> 前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物を、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容する工程を含む、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の保存方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リパスジル等のハロゲン化イソキノリン誘導体の、水性組成物中での光に対する安定性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書は、これらに何ら限定されるものではないが、例えば以下の態様の発明を開示する。
[1]次の一般式(1)
【0017】
【化4】
【0018】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物が、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容されてなる、医薬製剤。
[2]前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、[1]記載の医薬製剤。
[3]前記包装体が、波長300~370nmの光線を遮断するものである、[1]又は[2]記載の医薬製剤。
[4]前記包装体が、波長300~395nmの光線を遮断するものである、[1]又は[2]記載の医薬製剤。
[5]前記包装体が、波長270~335nmの光線を遮断するものである、[1]又は[2]記載の医薬製剤。
[6]前記包装体が、波長270~370nmの光線を遮断するものである、[1]又は[2]記載の医薬製剤。
[7]前記包装体が、波長270~395nmの光線を遮断するものである、[1]又は[2]記載の医薬製剤。
[8]前記包装体の内部が視認可能である、[1]~[7]のいずれか記載の医薬製剤。
[9]一次包装体が、
紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を含有する容器(好適には、プラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の容器(好適には、点眼剤用容器))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);又は、
紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を含有する部材(好適には、熱収縮フィルム(シュリンクフィルム))を備えた容器(好適にはプラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、容器(好適には、点眼剤用容器))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);
である、[1]~[8]のいずれか記載の医薬製剤。
[10]二次包装体として、
紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を含有する袋(好適には、プラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、袋(好適には、点眼剤投薬袋))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);及び
紙製の箱
から選ばれる1種以上を備える、[1]~[9]のいずれか記載の医薬製剤。
[11]一次包装体が、ポリオレフィン系樹脂製容器である、[1]~[10]のいずれか記載の医薬製剤。
[12]一次包装体が、ポリエステル系樹脂製容器である、[1]~[10]のいずれか記載の医薬製剤。
【0019】
[13]前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物を、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容する工程を含む、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の水性組成物中での光安定性を向上させる方法。
[14]前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、[13]記載の方法。
[15]前記包装体が、波長300~370nmの光線を遮断するものである、[13]又は[14]記載の方法。
[16]前記包装体が、波長300~395nmの光線を遮断するものである、[13]又は[14]記載の方法。
[17]前記包装体が、波長270~335nmの光線を遮断するものである、[13]又は[14]記載の方法。
[18]前記包装体が、波長270~370nmの光線を遮断するものである、[13]又は[14]記載の方法。
[19]前記包装体が、波長270~395nmの光線を遮断するものである、[13]又は[14]記載の方法。
[20]前記包装体の内部が視認可能である、[13]~[19]のいずれか記載の方法。
[21]一次包装体が、
紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を含有する容器(好適には、プラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の容器(好適には、点眼剤用容器))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);又は、
紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を含有する部材(好適には、熱収縮フィルム(シュリンクフィルム))を備えた容器(好適にはプラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、容器(好適には、点眼剤用容器))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);
である、[13]~[20]のいずれか記載の方法。
[22]二次包装体として、
紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を含有する袋(好適には、プラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、袋(好適には、点眼剤投薬袋))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);及び
紙製の箱
から選ばれる1種以上を備える、[13]~[21]のいずれか記載の方法。
[23]一次包装体が、ポリオレフィン系樹脂製容器である、[13]~[22]のいずれか記載の方法。
[24]一次包装体が、ポリエステル系樹脂製容器である、[13]~[22]のいずれか記載の方法。
【0020】
[25]前記水性組成物が、さらにα1受容体遮断薬、α2受容体作動薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、プロスタグランジンF2α誘導体、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、カルシウム拮抗剤及びコリンエステラーゼ阻害剤よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[1]~[12]のいずれか記載の医薬製剤。
[26]前記水性組成物が、さらにラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド及びチモロール並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[1]~[12]のいずれか記載の医薬製剤。
[27]前記水性組成物が、さらにα1受容体遮断薬、α2受容体作動薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、プロスタグランジンF2α誘導体、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、カルシウム拮抗剤及びコリンエステラーゼ阻害剤よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[13]~[24]のいずれか記載の方法。
[28]前記水性組成物が、さらにラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド及びチモロール並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[13]~[24]のいずれか記載の方法。
【0021】
前記一般式(1)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記一般式(1)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
また、前記一般式(1)において、メチル基の置換したホモピペラジン環を構成する炭素原子は不斉炭素である。そのため、立体異性が生じるが、一般式(1)で表される化合物にはいずれの立体異性体も包含され、単一の立体異性体でもよく、各種立体異性体の任意の割合の混合物でもよい。前記一般式(1)で表される化合物としては、絶対配置がS配置である化合物が好ましい。
【0022】
前記一般式(1)で表される化合物の塩としては、薬学上許容される塩であれば特に限定されず、具体的には例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、フッ化水素酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、カンファ―スルホン酸塩等の有機酸塩等が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
さらに、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩は、水和物やアルコール和物等の溶媒和物であってもよく、水和物であるのが好ましい。
【0023】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、具体的には例えば、
リパスジル(化学名:4-フルオロ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリン)若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;
4-ブロモ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;
等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、4-ブロモ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が好ましく、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物がより好ましく、リパスジル若しくはその塩酸塩又はそれらの水和物がさらに好ましく、以下の構造式:
【0025】
【化5】
【0026】
で表されるリパスジル塩酸塩水和物(リパスジル1塩酸塩2水和物)が特に好ましい。
【0027】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知であり、公知の方法により製造できる。具体的には例えば、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、国際公開第1999/020620号パンフレット、国際公開第2006/057397号パンフレット記載の方法等により製造することが出来る。また、4-ブロモ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、国際公開第2006/115244号パンフレット記載の方法等により製造することが出来る。
【0028】
水性組成物中の前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の含有量は特に限定されず、適用疾患や患者の性別、年齢、症状等に応じて適宜検討して決定すればよいが、優れた薬理作用を得る観点から、水性組成物全容量に対して、一般式(1)で表される化合物のフリー体に換算して0.01~10w/v%含有するのが好ましく、0.02~8w/v%含有するのがより好ましく、0.04~6w/v%含有するのが特に好ましい。中でも、一般式(1)で表される化合物としてリパスジルを用いる場合においては、優れた薬理作用を得る観点から、水性組成物全容量に対して、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を、フリー体に換算して0.05~5w/v%含有するのが好ましく、0.1~3w/v%含有するのがより好ましく、0.1~2w/v%含有するのが特に好ましい。
【0029】
本明細書において「水性組成物」とは、少なくとも水を含有する組成物を意味し、その性状としては、液状(溶液又は懸濁液)、半固形状(軟膏)が挙げられる。なお、組成物中の水としては例えば、精製水、注射用水、滅菌精製水等を用いることができる。
水性組成物に含まれる水の含有量は特に限定されないが、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、90~99.8質量%が特に好ましい。
【0030】
水性組成物は、例えば、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、種々の剤形とすることができる。剤形としては、後述する包装体に収容可能なものである限り特に限定されないが、例えば、注射剤、吸入液剤、点眼剤、眼軟膏剤、点耳剤、点鼻液剤、注腸剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、ゲル剤、経口液剤、シロップ剤等が挙げられる。剤形としては、一般式(1)で表される化合物の有する薬理作用を有利に利用する観点から、眼疾患用剤、具体的には点眼剤、眼軟膏剤が好ましく、点眼剤が特に好ましい。
【0031】
水性組成物は、上記した以外に、剤形に応じて、医薬品や医薬部外品等で利用される添加物を含んでいても良い。このような添加物としては、例えば、無機塩類、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、清涼化剤、分散剤、保存剤、油性基剤、乳剤性基剤、水溶性基剤等が挙げられる。
【0032】
こうした添加物としては、具体的には例えば、アスコルビン酸、アスパラギン酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルギン酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、イプシロン-アミノカプロン酸、ウイキョウ油、エタノール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エデト酸ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液、カルボキシビニルポリマー、乾燥亜硫酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、d-カンフル、dl-カンフル、キシリトール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、グリセリン、グルコン酸、L-グルタミン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、クレアチニン、クロルヘキシジングルコン酸塩液、クロロブタノール、結晶リン酸二水素ナトリウム、ゲラニオール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム水和物、酸化チタン、ジェランガム、ジブチルヒドロキシトルエン、臭化カリウム、臭化べンゾドデシニウム、酒石酸、水酸化ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシル45、精製ラノリン、D-ソルビトール、ソルビトール液、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、タウリン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、チメロサール、チロキサポール、デヒドロ酢酸ナトリウム、トロメタモール、濃グリセリン、濃縮混合トコフェロール、白色ワセリン、ハッカ水、ハッカ油、濃ベンザルコニウム塩化物液50、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ヒアルロン酸ナトリウム、人血清アルブミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、氷酢酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、フェニルエチルアルコール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ベルガモット油、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム塩化物液、ベンジルアルコール、ベンゼトニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物液、ホウ砂、ホウ酸、ポビドン、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレングルコール(70)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、d-ボルネオール、マクロゴール4000、マクロゴール6000、D-マンニトール、無水クエン酸、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、メタンスルホン酸、メチルセルロース、l-メントール、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ユーカリ油、ヨウ化カリウム、硫酸、硫酸オキシキノリン、流動パラフィン、リュウノウ、リン酸、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リンゴ酸、ワセリン等が例示される。
【0033】
添加物としては、例えば、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、グリセリン、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム水和物、酒石酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、濃グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ホウ砂、ホウ酸、ポビドン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水クエン酸、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、メチルセルロース、モノエタノールアミン、リン酸、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、ヒアルロン酸ナトリウム、ブドウ糖、l-メントール等が好ましい。
【0034】
水性組成物は、さらに、上記した以外に、適用疾患等に応じて、他の薬効成分を含んでいても良い。このような薬効成分としては、例えば、ブナゾシン塩酸塩などのブナゾシン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むα1受容体遮断薬;ブリモニジン酒石酸塩などのブリモニジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アプラクロニジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むα2受容体作動薬;カルテオロール塩酸塩などのカルテオロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ニプラジロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、チモロールマレイン酸塩などのチモロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ベタキソロール塩酸塩などのベタキソロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、レボブノロール塩酸塩などのレボブノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ベフノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、メチプラノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むβ遮断薬;ドルゾラミド塩酸塩などのドルゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ブリンゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アセタゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ジクロルフェナミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、メタゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む炭酸脱水酵素阻害剤;イソプロピルウノプロストン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、タフルプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、トラボプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ビマトプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ラタノプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、クロプロステノール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、フルプロステノール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むプロスタグランジンF2α誘導体;ジピべフリン塩酸塩などのジピべフリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、エピネフリン、エピネフリンホウ酸塩、エピネフリン塩酸塩などのエピネフリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む交感神経作動薬;ジスチグミン臭化物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ピロカルピン、ピロカルピン塩酸塩、ピロカルピン硝酸塩などのピロカルピン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、カルバコール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む副交感神経作動薬;ロメリジン塩酸塩などのロメリジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むカルシウム拮抗薬;デメカリウム若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、エコチオフェート若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、フィゾスチグミン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むコリンエステラーゼ阻害剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合できる。
他の薬効成分としては、ラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド及びチモロール並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0035】
水性組成物のpHは特に限定されないが、4~9が好ましく、4.5~8がより好ましく、5~7が特に好ましい。また、生理食塩水に対する浸透圧比は特に限定されないが、0.6~3が好ましく、0.6~2が特に好ましい。
【0036】
本明細書において「包装体」とは、前記水性組成物を直接的又は間接的に収容する包装体を意味する。なお、包装体のうち、前記水性組成物を直接収容する容器(例えば、水性組成物を直接充填する点眼剤用容器等)を特に「一次包装体」と称する。また、包装体のうち、水性組成物を間接的に収容する包装体(すなわち、前記一次包装体を更に収容する包装体:例えば、点眼剤投薬袋(点眼剤容器を収容する袋)等)を特に「二次包装体」と称する。包装体は、医薬製剤について通常想定される保存状態において、後述する波長範囲の光線を遮断できればよく、その密閉性の有無は問わない。
なお、包装体は、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「密閉容器」、「気密容器」、「密封容器」のいずれをも包含する概念である。
【0037】
医薬製剤が二次包装体を備える態様である場合、一次包装体と二次包装体の少なくともいずれか一方で、後述する波長範囲の光線を遮断すればよい。流通時や保管時のみならず、使用時においても一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の分解を抑制する観点から、少なくとも一次包装体が、後述する波長範囲の光線を遮断するのが好ましい。
【0038】
当該包装体の形態は、前記水性組成物を収容可能であることを限度として特に限定されず、剤形、医薬製剤の用途、一次包装体又は二次包装体の別等に応じて適宜選択、設定すればよい。このような包装体の形態としては、具体的には例えば、一次包装体として注射剤用容器、吸入剤用容器、スプレー剤用容器、ボトル状容器、チューブ状容器、点眼剤用容器、点鼻剤用容器、点耳剤用容器、バッグ容器等が挙げられる。また、二次包装体として包装袋(例えば、点眼剤投薬袋等)、箱(例えば、紙箱等)、瓶(例えば、ガラス瓶等)、缶(例えば、アルミ缶等)等が挙げられる。
包装体として、一次包装体と二次包装体の両者を備える態様である場合は、一般式(1)で表される化合物の有する薬理作用を有利に利用する観点から、一次包装体が点眼剤用容器であり、二次包装体が点眼剤包装袋である態様が好ましい。
【0039】
包装体の材質(材料)は特に限定されず、包装体の形態に応じて適宜選択すればよい。具体的には例えば、ガラス、プラスチック、セルロース、パルプ、ゴム、金属等が挙げられる。
水性組成物を直接収容する一次包装体の材質としては、加工性、スクイズ性や耐久性等の観点から、プラスチック製等であるのが好ましい。
二次包装体の材質としては、加工性等の観点から、プラスチック製、セルロース製、パルプ製、紙製等であるのが好ましい。
【0040】
プラスチック製の包装体である場合の樹脂としては、合成樹脂、天然樹脂の別を問わず熱可塑性樹脂であるのが好ましく、具体的には例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組合わせて用いるのが好ましく、さらにこれらの混合体(ポリマーアロイ)であってもよい。
【0041】
一つの態様として、一次包装体の材質としては、ポリオレフィン系樹脂であるのが好ましい。後記試験例7、8に具体的に開示されるとおり、一次包装体に収容した水性組成物を高温で長期間保存した場合、変色が生じ得るところ、一次包装体の材質をポリオレフィン系樹脂とした場合、相対的にΔYIが低く抑えられ、保存安定性に優れることが判明した。
なお、斯かる態様においては、少なくとも一次包装体のうち水性組成物と接する部分がポリオレフィン系樹脂で構成されていればよく、さらにその外側等に別の材質が積層等されている場合であっても、「一次包装体が、ポリオレフィン系樹脂製」である場合に該当する。また、本明細書において「ポリオレフィン系樹脂製」とは、その材質の少なくとも一部にポリオレフィン系樹脂を含んでいることを意味し、例えば、ポリオレフィン系樹脂と他の樹脂との2種以上の樹脂の混合体(ポリマーアロイ)も「ポリオレフィン系樹脂製」に含まれる。
【0042】
ここで、ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、単一種のモノマーの重合体(ホモポリマー)であっても、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、コポリマーである場合においては、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい。さらに、その立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
このようなポリオレフィン系樹脂としては、具体的には例えば、ポリエチレン(より詳細には例えば低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組合わせて使用できる。ポリオレフィン系樹脂としては、ΔYI値を低く抑える観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0043】
また、別の態様として、一次包装体の材質としては、ポリエステル系樹脂であるのが好ましい。後記試験例9、10に具体的に開示されるとおり、一次包装体に収容した水性組成物を低温で保存した場合、結晶が析出し得るところ、一次包装体の材質をポリエステル系樹脂とした場合、斯かる結晶析出が相対的に生じ難く、保存安定性に優れることが判明した。
なお、斯かる態様においては、少なくとも一次包装体のうち水性組成物と接する部分がポリエステル系樹脂で構成されていればよく、さらにその外側等に別の材質が積層等されている場合であっても、「一次包装体が、ポリエステル系樹脂製」である場合に該当する。また、本明細書において「ポリエステル系樹脂製」とは、その材質の少なくとも一部にポリエステル系樹脂を含んでいることを意味し、例えば、ポリエステル系樹脂と他の樹脂との2種以上の樹脂の混合体(ポリマーアロイ)も「ポリエステル系樹脂製」に含まれる。
【0044】
ここで、ポリエステル系樹脂を構成するジカルボン酸、ジオールは特に限定されず、ジカルボン酸としては例えばフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが、ジオールとしては例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどが挙げられる。また、単一種のポリエステル単位の重合体であっても、複数種のポリエステル単位の重合体であってもよい。また、複数種のポリエステル単位の重合体の場合には、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい。さらに、その立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
このようなポリエステル系樹脂としては、具体的には例えば、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等)、ポリシクロアルキレンテレフタレート(例えば、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)等)、ポリアリレート(例えば、ビスフェノールとフタル酸で構成された樹脂等)等のホモポリエステルや、これらのホモポリエステル単位を主成分として含むコポリエステル、さらには前記ホモポリエステルの共重合体などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組合わせて使用できる。ポリエステル系樹脂としては、結晶の析出を抑制する観点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0045】
包装体により遮断する光線の波長範囲は、医薬製剤の通常の保存環境を考慮すれば300~335nmの範囲で十分であるが、光に対する安定性をより向上させる観点から、300~370nmが好ましく、300~395nmがより好ましい。また、特に300nm未満の波長に曝される危険性が高い保存条件下での利用を考慮すれば、270~335nmが好ましく、270~370nmがより好ましく、270~395nmが特に好ましい。
【0046】
本明細書において、前記波長範囲の「光線を遮断する」とは、当該波長範囲の光線の透過率の平均値が40%以下であることを意味する。従って、例えば「波長300~335nmの光線を遮断する包装体」とは、波長300~335nmの光透過率の平均値が40%以下である包装体を意味する。
なお、包装体の、前記波長範囲の光線の透過率の平均値は、光に対する安定性をより向上させる観点から、30%以下であるのが好ましく、25%以下であるのがより好ましく、20%以下であるのがさらに好ましく、15%以下であるのがさらにより好ましく、10%以下であるのがさらにより好ましく、5%以下であるのが特に好ましい。
なお、本明細書において、特定の波長範囲の光透過率の平均値の測定は、分光光度計を用いて当該範囲内において0.5nm毎に、空気中での包装体の光透過率を測定した後、その平均値を算出することにより測定することができる。分光光度計としては例えば、U-3900(日立ハイテクノロジーズ(株))が挙げられる。
【0047】
前記波長範囲の光線を遮断する具体的な手段としては特に限定されないが、例えば、前記波長範囲の光線を遮断する物質を利用する方法が挙げられ、より詳細には、例えば、
包装体中に、前記波長範囲の光線を遮断する物質を含有せしめる方法(例えば、ガラスや樹脂に前記波長範囲の光線を遮断する物質を添加し、これを容器形状に成形する方法等);
包装体の表面(包装体の内側、外側のうち少なくとも一方の面)に前記波長範囲の光線を遮断する物質を含有する部材(例えば、フィルム等)を備えさせる方法(例えば、樹脂に前記波長範囲の光線を遮断する物質を添加して熱収縮フィルムとし、これを容器外側面に巻き付ける方法等);
包装体の表面(包装体の内側、外側のうち少なくとも一方の面)に前記波長範囲の光線を遮断する物質を塗布する方法;
前記波長範囲の光線を遮断する物質を包装体の主な材料とする方法(例えば、容器を主に金属、厚紙で構成する方法等)
等が挙げられる。
【0048】
前記波長範囲の光線を遮断する物質としては特に限定されないが、包装体の内部を視認可能にし得る点から、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤などの紫外線の透過を妨げる物質が好ましい。具体的には例えば、紫外線散乱剤としては、酸化チタン;酸化亜鉛等が挙げられる。また、紫外線吸収剤としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール(例えば、Tinuvin P:BASF社)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(例えば、Tinuvin 234:BASF社)、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(例えば、Tinuvin320:BASF社)、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール(例えば、Tinuvin 326:BASF社)、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(例えば、Tinuvin327:BASF社)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール(例えば、Tinuvin PA328:BASF社)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(例えば、Tinuvin 329:BASF社)、2,2'-メチルレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(例えば、Tinuvin 360:BASF社)、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300の反応生成物(例えば、Tinuvin 213:BASF社)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(例えば、Tinuvin 571:BASF社)、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2'-ヒドロキシ-3'-(3'',4'',5'',6''-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5'-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2'-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,2-ビス{[2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイルオキシ]メチル}プロパン-1,3-ジイル=ビス(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート)(例えば、Uvinul 3030 FF:BASF社)、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸エチル(例えば、Uvinul 3035:BASF社)、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルへキシル(例えば、Uvinul 3039:BASF社)等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤;2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール(例えば、Tinuvin 1577 ED:BASF社)等のトリアジン系紫外線吸収剤;オクタベンゾン(例えば、Chimassorb 81:BASF社)、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン(例えば、Uvinul 3049:BASF社)、2,2'-4,4'-テトラヒドロベンゾフェノン(例えば、Uvinul 3050:BASF社)、オキシベンゾン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノンジスルホン酸ナトリウム、ジヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;ジイソプロピルケイ皮酸メチル、シノキサート、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル・ジイソプロピルケイ皮酸エステル混合物、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ケイ皮酸ベンジル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤;パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸エチル、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、4-[N,N-ジ(2-ヒドロキシプロピル)アミノ]安息香酸エチル等の安息香酸エステル系紫外線吸収剤;サリチル酸エチレングリコール、サリチル酸オクチル、サリチル酸ジプロピレングリコール、サリチル酸フェニル、サリチル酸ホモメンチル、サリチル酸メチル等のサリチル酸系紫外線吸収剤;グアイアズレン;ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル;2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン;パラヒドロキシアニソール;4-tert-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタン;フェニルベンズイミダゾールスルホン酸;2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)-安息香酸ヘキシルなどが挙げられる。前記波長範囲の光線を遮断する物質としては例えば、これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて前記波長範囲の光線を遮断し得るように設定すればよい。前記波長範囲の光線を遮断する物質としては、酸化チタン;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0049】
前記波長範囲の光線を遮断する物質を包装体の材料や部材に含有せしめる場合、その配合割合は、当該物質の種類や、包装体、別部材の材質等によって異なるが、例えば、包装体の材料や別部材中に、0.001~50質量%、好ましくは0.002~25質量%、特に好ましくは0.01~10質量%程度とすればよい。
【0050】
なお、本明細書において「光線を遮断する包装体」には、当該包装体の一部分のみが光線を遮断する場合も含まれる。このような包装体としては、その内表面を基準として、内表面の総面積に対し10%以上の部分が光線を遮断する部分であるのが好ましく、30%以上の部分が光線を遮断する部分であるのがより好ましく、50%以上の部分が光線を遮断する部分であるのがさらに好ましく、70%以上の部分が光線を遮断する部分であるのが特に好ましい。
【0051】
包装体は、その内部が肉眼等で視認可能(観察可能)であるのが好ましい。内部が視認可能であれば、医薬製剤の製造工程において異物混入の有無等の検査が可能となる、医薬製剤の使用者が内容物(水性組成物)の残量を確認できる等のメリットが生ずる。
本明細書において「内部が視認可能」とは、少なくとも包装体外表面の一部分から内部が視認可能な状態を言う(例えば、通常、略円柱状である点眼剤用容器の側面がシュリンクフィルム等により見通せなくなっていても、底面が視認可能であれば「内部が視認可能」と言える。)。
なお、視認可能性は、包装体が一定以上の透明性を有しておればよく、具体的には例えば、可視光領域(450~750nm)の光透過率の平均値が30%程度以上(より好適には、40%程度以上;特に好適には、50%程度以上)確保されていればよいが、これに限定されるものではない。
【0052】
包装体の具体的態様として、例えば以下の態様が好ましい。
1)一次包装体が、紫外線の透過を妨げる物質(より好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;特に好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を練り込んだ容器(プラスチック製、より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、容器(好適には、点眼剤用容器))である包装体(より好適には、内部が視認可能な包装体);
2)一次包装体が、紫外線の透過を妨げる物質(より好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;特に好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を練り込んだ部材(好適には、熱収縮フィルム(シュリンクフィルム))を側面に巻き付けた容器(好適には、プラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、容器(好適には、点眼剤用容器))である包装体(より好適には、内部が視認可能な包装体);
3)二次包装体が、紫外線の透過を妨げる物質(好適には、紫外線散乱剤及び紫外線吸収剤から選ばれる1種以上;より好適には、酸化亜鉛、酸化チタン及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれる1種以上)を練り込んだ袋(好適には、プラスチック製;より好適には、ポリオレフィン系樹脂製又はポリエステル系樹脂製の、袋(好適には、点眼剤投薬袋))である包装体(好適には、内部が視認可能な包装体);
4)二次包装体が、容器(好適には、点眼剤用容器)を収容する紙製の箱である包装体。
【0053】
包装体への水性組成物の収容手段は特に限定されず、包装体の形態等に従って常法により充填等すればよい。
【0054】
医薬製剤の適用疾患は特に限定されず、前記一般式(1)で表される化合物の有する薬理作用等に応じて適宜選択すればよい。
具体的には例えば、一般式(1)で表される化合物の有するRhoキナーゼ阻害作用や眼圧低下作用に基づき、高眼圧症や緑内障の予防又は治療剤として利用できる。ここで、緑内障としては、より詳細には例えば、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、房水産生過多緑内障、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、plateau iris syndrome、混合型緑内障、ステロイド緑内障、水晶体の嚢性緑内障、色素緑内障、アミロイド緑内障、血管新生緑内障、悪性緑内障などが挙げられる。
【0055】
また、日本国特許第5557408号公報に開示されるように、眼底疾患(主として網膜及び/又は脈絡膜に発現する病変。具体的には例えば、高血圧と動脈硬化による眼底変化、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion)や網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion)等の網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑症、イールズ病(Eales disease)、コーツ病(Coats disease)等の網膜血管先天異常、ヒッペル病(von Hippel disease)、脈なし病(pulseless disease)、黄斑疾患(中心性網脈絡膜症(central serous chorioretinopathy)、嚢胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema)、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration)、黄斑円孔(macular hole)、近視性黄斑萎縮(myopic macular degeneration)、網膜硝子体界面黄斑変性症、薬物毒性黄斑変性症、遺伝性黄斑変性等)、(裂孔原性、牽引性、滲出性等の)網膜剥離、網膜色素変性症、未熟児網膜症等が挙げられる。)の予防又は治療剤、より好適には糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫又は加齢黄斑変性の予防又は治療剤として利用できる。
【実施例0056】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
なお、以下の試験例において、リパスジル1塩酸塩2水和物は、例えば国際公開第2006/057397号パンフレット記載の方法により製造することが出来る。
また、以下の試験例において、HPLCを用いたリパスジル及びその類縁物質の測定は、カラムとしてODSカラムを、移動相として0.01モル/L リン酸緩衝液とアセトニトリルを、検出器として紫外吸光光度計(波長:280nm)をそれぞれ用いて行った。
【0057】
[試験例1]リパスジルの光安定性の評価
リパスジルの光に対する安定性を、曝光による分解物の生成の有無を確認することにより評価した。
すなわち、粉末状のリパスジル1塩酸塩2水和物をガラスシャーレに3mm以下の厚さになるように広げた後、光安定性試験装置(LT-120A:ナガノサイエンス(株))を用いて、D65蛍光ランプを光源として、25℃の条件下、4000luxの光を、積算照射量が40万、80万又は120万lux・hrとなるように照射した。
【0058】
リパスジルの光分解物の生成の有無を確認するため、曝光前後のサンプルにつきリパスジルの類縁物質の増加の有無を評価した。類縁物質は、HPLCを用いて、リパスジルのピーク面積に対する、類縁物質のピーク面積の比率(%)として評価した。
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1記載の結果の通り、積算照射量の増加にも拘わらず、リパスジルの類縁物質の量は実質的に増加せず、光分解物の生成は認められなかった。
以上の試験結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、光に対して極めて安定であることが明らかとなった。
【0061】
[試験例2]水性組成物中でのリパスジルの光安定性の評価
リパスジルを水性組成物中に配合した場合の光に対する安定性を、試験例1と同様、曝光による分解物の生成の有無を確認することにより評価した。
すなわち、100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、ベンザルコニウム塩化物 0.002g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、これをポリプロピレン製の透明の容器に収容した。その後、光安定性試験装置(LT-120A:ナガノサイエンス(株))を用いて、D65蛍光ランプを光源として、25℃の条件下、4000luxの光を、積算照射量が30万、60万又は120万lux・hrとなるように照射した。
【0062】
リパスジルの光分解物の生成の有無を確認するため、リパスジルの類縁物質の増加の有無を評価した。類縁物質は、HPLCを用いて、リパスジル及びその類縁物質に由来する総ピーク面積に対する面積百分率(%)として評価した。
結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2記載の結果の通り、積算照射量の増加に比例して類縁物質量が増加し、曝光による分解物が生成することが明らかとなった。なお、光源としたD65蛍光ランプは300nm以上の波長の光線を照射するものである。
有機化合物の光分解反応は化合物中の特定の結合の強度に依存し、ひいては化合物の構造に依存する。そのため、光に対する安定性(光分解のされ易さ)は、通常は有機化合物の状態(固体、液体等)によらず同様の傾向を示すはずである。しかしながら、試験例1及び2の結果から、意外なことにリパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、そのもの自体は光に対して安定であるが、水性組成物中に配合することによってはじめて光に対して不安定化する性質を有することが明らかとなった。
【0065】
[試験例3]水性組成物中でのリパスジルの分解の原因となる光線の波長の確認 その1
試験例2で確認された水性組成物中でのリパスジルの光分解につきその原因となる光線の波長を、特定の範囲の波長を有する光線を照射し、曝光による分解物の生成の有無を確認することにより確認した。
すなわち、100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.0612g(リパスジルのフリー体として0.05g)、ホウ酸 1.19g、塩化カリウム 0.42g、ベンザルコニウム塩化物 0.002g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.7)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、これをポリプロピレン製の透明の容器に収容した。その後、光学フィルターを備えた分光照射装置(分光ユニット:HSU-100S、光源:MAX-302FBD、いずれも朝日分光(株))を用いて、概ね270~335nm、320~395nm、370~435nm、430~470nm、470~530nm、525~575nm、570~630nm、625~675nm又は660~740nmの範囲の波長を有する光線を、25℃の条件下で照射した。なお、いずれの波長の光線も、照射エネルギーを約15W・h/m2とした。
【0066】
リパスジルの光分解物の生成の有無を確認するため、試験例1と同様の方法によりリパスジルの類縁物質の増加の有無を評価した。
結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3記載の結果の通り、370nm以上の波長の光線の照射では類縁物質の増加は認められず、それより短波長側、特に270~335nmの光線の照射で類縁物質の顕著な増加が認められた。
なお、医薬品の保存安定性を確認する試験の一つに光安定性試験があるが、当該試験のガイドラインでは光源としてD65光源を用いることが定められている。D65光源は、ISO10977(1993)に規定されている屋外の昼光の標準として国際的に認められたものであり、300~830nmの波長域の分光分布の値で規定されている。これらのことから、医薬品について通常想定される保存条件下においては、300nm以上の波長の光を考慮すれば十分であると考えられる。
以上の点から、リパスジルに代表される、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物の光安定性を確保するうえでは、特に300~335nmの波長の光線を遮断することが重要であると結論付けられた。
【0069】
[試験例4]水性組成物中でのリパスジルの分解の原因となる光線の波長の確認 その2
水性組成物を以下の2種のものに変更し、照射した光線の波長を270~335nm、320~395nm又は370~435nmとしたほかは試験例3と同様の方法により試験を実施した。
<水性組成物A>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.0612g(リパスジルのフリー体として0.05g)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、塩化カリウム 0.78g、ベンザルコニウム塩化物 0.002g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.7)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、水性組成物Aとした。
<水性組成物B>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.0612g(リパスジルのフリー体として0.05g)、塩化カリウム 0.98g、ベンザルコニウム塩化物 0.002g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.7)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、水性組成物Bとした。
結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4記載の結果の通り、水性組成物の組成の相違に拘わらず、370nm以上の波長の光線の照射では類縁物質の増加は認められず、それより短波長側、特に270~335nmの光線の照射で類縁物質の顕著な増加が認められた。
以上の試験例3及び4の試験結果から、リパスジルに代表される、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物の光安定性を確保するうえでは、その組成に拘わらず、特に300~335nmの波長の光線を遮断することが重要であると結論付けられた。
【0072】
[試験例5]紫外線吸収剤を配合したプラスチック製容器(一次包装体)に収容した水性組成物中のリパスジルの安定化の確認
試験例3及び4で得られた結果を基に、リパスジルを含有する水性組成物を、紫外線吸収剤を配合した容器に収容することにより安定化することを試みた。
すなわち、100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、ベンザルコニウム塩化物 0.002g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、これを下記の紫外線吸収剤を配合したポリプロピレン製の点眼剤用容器に収容し、光安定性試験装置(LT-120A:ナガノサイエンス社)を用いて、D65蛍光ランプを光源として、25℃の条件下、4000luxの光を、積算照射量が120万lux・hrとなるように照射した。
【0073】
曝光前後のサンプルにつきリパスジルの類縁物質を試験例1と同様の方法により評価した。
結果を表5に示す。
【0074】
<紫外線吸収剤を配合したプラスチック製容器>
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を練り込んだポリプロピレン製の点眼剤用容器を用いた。容器の光透過率の平均値は、300~335nmで平均7.2%(なお、300~370nmで平均6.7%;270~335nmで平均11.7%;270~370nmで平均9.8%;300~395nmで平均10.2%;270~395nmで平均11.8%)であった。
当該容器は外見上ほぼ透明であり、内容物を視認できる状態であった(例えば、可視光領域(450~750nm)での光透過率は全ての波長において65%を超えており、平均76.2%であった。)。
なお、光透過率は、分光光度計(U-3900:日立ハイテクノロジーズ)を用い、容器を切断して板状片とした後、光が略垂直に入射するよう光路上にセットしたうえで、0.5nm毎に測定した。光透過率の平均値は、所定の波長範囲内の0.5nm毎の光透過率の平均値として算出した。
【0075】
【表5】
【0076】
表5記載の結果より、リパスジルを含有する水性組成物を300~335nmでの光透過率の平均値が7.2%(なお、300~370nmで平均6.7%;270~335nmで平均11.7%;270~370nmで平均9.8%;300~395nmで平均10.2%;270~395nmで平均11.8%)の容器に収容することにより、水性組成物中のリパスジルの光安定性が改善することが明らかとなった。
【0077】
[試験例6]紫外線散乱剤を配合したシュリンクフィルムを備えた容器(一次包装体)に収容した水性組成物中のリパスジルの安定化の確認
試験例5と同様、リパスジルを含有する水性組成物を、紫外線散乱剤を配合した容器に収容することにより安定化することを試みた。
すなわち、紫外線吸収剤を配合した容器の代わりに下記の紫外線散乱剤を配合したシュリンクフィルムを備えた容器を使用し、また、光源としてD65蛍光ランプの代わりに白色蛍光灯(病院の調剤室等で利用されている。)を用いたほかは、試験例5と同様の方法により、試験を実施した。
結果を表6に示す。
【0078】
<紫外線散乱剤を配合したシュリンクフィルムを備えた容器>
紫外線散乱剤として酸化チタン40~45質量%を練り込んだ白色のシュリンクフィルム(熱収縮フィルム)((株)岩田レーベル)を、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤等を含有しない通常のポリプロピレン製点眼剤用容器の側面に、常法に従って巻きつけたものを用いた。酸化チタンを含有するシュリンクフィルムの光透過率の平均値は、300~335nmで平均0.3%(なお、300~370nmで平均0.4%;270~335nmで平均0.1%;270~370nmで平均0.3%;300~395nmで平均0.4%;270~395nmで平均0.3%)であった。
当該シュリンクフィルムは透明では無いため、そのままでは容器側面からは内容物を視認できる状態でなかった(例えば、可視光領域(450~750nm)での光透過率は、平均1.1%であった。)ため、容器側面の下半分に、幅5mm程のスリットを設け、内容物量を視認できるようにした(この部分では光線を遮断できない状態であった。)。また、容器底面にはシュリンクフィルムが巻きつけられていないため、底面からは内容物を視認できる状態にあった。
なお、光透過率は、分光光度計(U-3900:日立ハイテクノロジーズ)を用い、0.5nm毎に測定した。光透過率の平均値は、所定の波長範囲内の0.5nm毎の光透過率の平均値として算出した。
【0079】
【表6】
【0080】
表6記載の結果より、リパスジルを含有する水性組成物を300~335nmでの光透過率の平均値が0.3%(なお、300~370nmで平均0.4%;270~335nmで平均0.1%;270~370nmで平均0.3%;300~395nmで平均0.4%;270~395nmで平均0.3%)の容器に収容することにより、水性組成物中のリパスジルの光安定性が改善することが明らかとなった。
【0081】
試験例5、6の結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物を、波長300~335nmの光線を遮断する包装体に収容することにより、水性組成物中の一般式(1)で表される化合物の光安定性が改善することが確認された。
【0082】
なお、試験例5、6で使用した容器の代わりに、二次包装体として、紫外線吸収剤を配合したポリエチレン製の透明の点眼剤投薬袋((株)生産日本社)を用いても同様の結果を得ることができる。
なお、当該点眼剤投薬袋の光透過率の平均値は、300~335nmで平均0.4%;300~370nmで平均1.4%;270~335nmで平均0.2%;270~370nmで平均0.9%;300~395nmで平均3.6%;270~395nmで平均2.7%であった。
また、当該容器は外見上白色半透明であり、内容物を視認できる状態であった(例えば、可視光領域(450~750nm)での光透過率は全ての波長において45%を超えており、平均70.6%であった。)。
【0083】
[試験例7]保存試験 その1
表7に示す処方の水性組成物を常法により調製した後、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製、又はポリ塩化ビニル(PVC)製の容器に入れて医薬製剤を製した。
得られた各医薬製剤を、60℃で3ヶ月間保存し、保存前後での色差(ΔYI)を色差計(分光測色計CM-700d:コニカミノルタセンシング(株))を用いて測定し、ΔYIの値が5以上のものを×、5未満のものを○と評価した。
結果を表8に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
表8記載の結果の通り、リパスジルを含有する水性組成物をポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製等のポリオレフィン系樹脂製容器に収容した場合、高温で長期間保存した場合においてもΔYIの値は低く抑えられていたのに対し、ポリ塩化ビニル(PVC)製の容器に収容した場合、ΔYIの値は高くなった。
【0087】
[試験例8]保存試験 その2
表9に示す処方の水性組成物を常法により調製した後、ポリエチレン(PE)製又はポリプロピレン(PP)製の容器に入れて医薬製剤を製した。
得られた各医薬製剤を、60℃で3ヶ月間保存し、保存前後での色差(ΔYI)を色差計(分光測色計CM-700d:コニカミノルタセンシング(株))を用いて測定し、ΔYIの値が5以上のものを×、5未満のものを○と評価した。
結果を表10に示す。
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
表10記載の結果の通り、水性組成物の処方を変更した場合であっても、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製等のポリオレフィン系樹脂製容器に収容した場合、高温で長期間保存した場合においてもΔYIの値は低く抑えられていた。
【0091】
以上の試験例7、8の結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物をポリオレフィン系樹脂製容器に収容した場合、ΔYIが低く抑えられ、保存安定性に優れることが明らかとなった。
【0092】
[試験例9]保存試験 その3
表11に示す処方の水性組成物を常法により調製した後、ポリエチレンテレフタレート(PET)製、又はポリ塩化ビニル(PVC)製の容器に入れて医薬製剤を製した。
得られた各医薬製剤を、0℃で2日間保存した後、結晶析出の有無を目視により評価した。なお、結晶析出が認められない場合を○、結晶析出が認められた場合を×とした。
結果を表12に示す。
【0093】
【表11】
【0094】
【表12】
【0095】
表12記載の結果の通り、リパスジルを含有する水性組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)製等のポリエステル系樹脂製容器に収容した場合、低温で保存した場合においても結晶析出が認められなかったのに対し、ポリ塩化ビニル(PVC)製の容器に収容した場合、結晶析出が認められた。
【0096】
[試験例10]保存試験 その4
表13に示す水性組成物を常法により調製した後、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の容器に入れて医薬製剤を製した。
得られた医薬製剤を、0℃で21日間保存した後、結晶析出の有無を目視により評価した。なお、結晶析出が認められない場合を○、結晶析出が認められた場合を×とした。
結果を表14に示す。
【0097】
【表13】
【0098】
【表14】
【0099】
表14記載の結果の通り、水性組成物の処方を変更した場合であっても、ポリエチレンテレフタレート(PET)製等のポリエステル系樹脂製容器に収容した場合、低温で保存した場合においても結晶析出が認められなかった。
【0100】
以上の試験例9、10の結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する水性組成物をポリエステル系樹脂製容器に収容した場合、低温で保存した場合でも相対的に結晶が析出し難く、保存安定性に優れることが明らかとなった。
【0101】
[製造例1~27]
表15~表17に記載の成分及び分量(水性組成物100mL当たりの量(g))を含有する水性組成物を常法により調製し、これを試験例5で用いたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を練り込んだポリプロピレン製点眼剤用容器(一次包装体)に収容して、製造例1~27の医薬製剤を製造できる。
【0102】
【表15】
【0103】
【表16】
【0104】
【表17】
【0105】
[製造例28~54]
製造例1~27において、容器の材質をポリプロピレン製の代わりにポリエチレン製としたほかは試験例5で使用したのと同様の容器を用いて、製造例28~54の医薬製剤を製造できる。
【0106】
[製造例55~81]
製造例1~27において、容器としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を練り込んだポリプロピレン製点眼剤用容器の代わりに、試験例6で用いた酸化チタン含有シュリンクフィルムを側面に巻き付けたポリプロピレン製点眼剤用容器(一次包装体)を用いて、製造例55~81の医薬製剤を製造できる。
【0107】
[製造例82~108]
製造例1~27において、容器としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を練り込んだポリプロピレン製点眼剤用容器の代わりに、ポリエチレン製点眼剤用容器(波長300~335nmの範囲の光線を遮断しないもの)を用い、さらに、前記した紫外線吸収剤を配合したポリエチレン製の透明の点眼剤投薬袋((株)生産日本社)(二次包装体)に入れて、製造例82~108の医薬製剤を製造できる。
【0108】
[製造例109~135]
製造例1~27において、容器としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を練り込んだポリプロピレン製点眼剤用容器の代わりに、ポリエチレンテレフタレート製点眼剤用容器(波長300~335nmの範囲の光線を遮断しないもの)を用い、さらに、紙製の箱(二次包装体)に入れて、製造例109~135の医薬製剤を製造できる。
【0109】
[製造例136~270]
製造例1~135において、リパスジル1塩酸塩2水和物の代わりに同量の4-ブロモ-5-[[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル]イソキノリンを用いたものを、製造例136~270の医薬製剤として、常法により製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、安定性に優れた医薬製剤を提供でき、医薬品産業等において好適に利用できる。