(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000053
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】シンクロナスリラクタンスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 19/10 20060101AFI20221222BHJP
H02K 17/16 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100641
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】顔 聖展
(72)【発明者】
【氏名】羅 大殷
(72)【発明者】
【氏名】徐 豫偉
(72)【発明者】
【氏名】顔 國智
(72)【発明者】
【氏名】▲ご▼ 友績
(72)【発明者】
【氏名】施 佩均
(72)【発明者】
【氏名】劉 承宗
【テーマコード(参考)】
5H013
5H619
【Fターム(参考)】
5H013LL01
5H619BB01
5H619PP02
5H619PP15
(57)【要約】
【課題】フラックスバリアに挿入された導電部材の軸方向一方側の導電性を向上させる。
【解決手段】シンクロナスリラクタンスモータの一態様は、ロータコアの各極に設けられたフラックスバリアと、軸方向一方側から分岐され、互いに異なるフラックスバリア内に位置する導電部材とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアの各極に設けられたフラックスバリアと、
軸方向一方側から分岐され、互いに異なるフラックスバリア内に位置する導電部材とを備えることを特徴とするシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項2】
Pを前記ロータコアの極数、Nを(各極のバリアチャネル数-1)とすると、前記軸方向一方側における前記導電部材の分岐数Mは、2≦M≦P・Nであることを特徴とする請求項1に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項3】
前記導電部材は、前記軸方向一方側で折り返されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項4】
前記導電部材は、前記軸方向一方側で前記軸方向に垂直に折り曲げられ、
前記導電部材の前記軸方向一方側の折り曲げ位置は、前記導電部材が位置する互いに異なるフラックスバリア間のフラックスセグメントを跨ぐ位置に設定されることを特徴とする請求項3に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項5】
前記導電部材は、同一極の複数のフラックスバリア内に位置することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項6】
前記導電部材は、互いに異なる極の複数のフラックスバリア内に位置することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項7】
前記導電部材の断面形状は矩形であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項8】
前記導電部材は、前記軸方向他方側で前記フラックスバリアごとに突出し、
前記突出した部分は、前記軸方向他方側の端部が互いに近づく方向に折り曲げられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項9】
前記導電部材の材料は銅であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項10】
前記導電部材の軸方向端部に設けられ、前記導電部材を固定するエンドリングを備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項11】
前記エンドリングは、前記導電部材の軸方向一方側および軸方向他方側に設けられ、前記導電部材の軸方向一方側および軸方向他方側は、前記エンドリングを介して短絡されることを特徴とする請求項10に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【請求項12】
前記エンドリングはアルミ鋳造で形成されることを特徴とする請求項10または11に記載のシンクロナスリラクタンスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクロナスリラクタンスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転子の外側に配置された複数のスロットに設けた一次コイルを有する固定子と、回転子に設けた二次コイルとを有し、二次コイルは、回転子の外周から該回転子の半径の5%~10%内側に離間して配置された導電バーを含む同期リラクタンスモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された同期リラクタンスモータでは、フラックスバリアスリットに挿入された導電バーの軸方向両端は、L字金具によって端板の外面に締結固定される。導電バーの軸方向両側のそれぞれにおいて、L字金具によって導電バー同士を接続する方法では、導電バー同士の接続箇所における導電性の低下を招くおそれがあった。
そこで、本発明は、フラックスバリアに挿入された導電部材の軸方向一方側の導電性を向上させることが可能なシンクロナスリラクタンスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシンクロナスリラクタンスモータの一態様は、ロータコアの各極に設けられたフラックスバリアと、軸方向一方側から分岐され、互いに異なるフラックスバリア内に位置する導電部材とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フラックスバリアに挿入された導電部材の軸方向一方側の導電性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向一方側から見た斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向他方側から見た斜視図である。
【
図2C】
図2Cは、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータを軸方向に沿って切断した構成を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、
図1のシンクロナスリラクタンスモータの1つの極のフラックスバリアに導電部材が挿入されていない構成を示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、
図1のシンクロナスリラクタンスモータの1つの極の1つのフラックスバリアに導電部材が挿入されている構成を示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、
図1のシンクロナスリラクタンスモータの1つの極の2つのフラックスバリアに導電部材が挿入されている構成を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、第2実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向一方側から見た斜視図である。
【
図4B】
図4Bは、第2実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向他方側から見た斜視図である。
【
図5A】
図5Aは、第3実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入される前の状態を示す斜視図である。
【
図5B】
図5Bは、第3実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入された後の状態を示す斜視図である。
【
図5C】
図5Cは、第3実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータのエンドリングの形成後の状態を示す斜視図である。
【
図6A】
図6Aは、第4実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入された後の状態を示す斜視図である。
【
図6B】
図6Bは、第4実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに挿入された導電部材の折り曲げ後の状態を示す斜視図である。
【
図6C】
図6Cは、第4実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータのエンドリングの形成後の状態を示す斜視図である。
【
図7A】
図7Aは、第5実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入される前の状態を示す斜視図である。
【
図7B】
図7Bは、第5実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入された後の状態を示す斜視図である。
【
図7C】
図7Cは、第5実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータのエンドリングの形成後の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0009】
また、以下の実施形態では、シンクロナスリラクタンスモータの極数Pが4である場合を例にとるが、シンクロナスリラクタンスモータの極数Pは2以上であればよい。
【0010】
図1は、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を示す断面図、
図2Aは、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向一方側から見た斜視図、
図2Bは、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向他方側から見た斜視図、
図2Cは、第1実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータを軸方向に沿って切断した構成を示す断面図である。なお、
図1は、
図2CのA1-A1線に沿った位置で切断した構成を示す。また、
図2A(a)は、導電部材の挿入後のロータの状態を示す斜視図、
図2A(b)および
図2A(c)は、導電部材の挿入前の形状を示す斜視図である。
【0011】
図1および
図2Aから
図2Cにおいて、シンクロナスリラクタンスモータSynRMは、ステータ1およびロータ2Aを備える。ロータ2Aには、回転軸C1の軸方向にシャフト3が挿入される。ロータ2Aは、ステータ1で発生される回転磁界に基づいて、シャフト3の周りに回転可能である。このとき、ロータ2Aのロータコアは、ステータ1で発生される磁界に沿って磁化される。そして、ロータコアの極性の方向がステータ1で発生される磁界に沿うようにロータコアが力をうけることでロータ2Aは回転することができる。このとき、ロータコアは、薄い板状の磁性材料、例えば珪素鋼板等の強磁性体を筒状に積層して構成することができる。このとき、ステータ1で発生される回転磁界に基づいてロータ2Aを回転させるために、ロータコアに誘導電流を流す必要がないし、ロータコアに希土類磁石を用いる必要がない。このため、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの損失を低減することができ、誘導電動機に比べて効率を向上させることが可能となるとともに、コバルト、サマリウムまたはネオジウムなどのレアメタルを不要として、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの需要に弾力的に対応することができる。
【0012】
ステータ1は、スロット11が内周側に等間隔で配置され、スロット11間にはティース12が設けられる。各ティース12には巻線13が巻き付けられる。
【0013】
ロータ2Aのロータコアには、フラックスセグメント21が各極に配置されるとともに、各極のフラックスセグメント21はフラックスバリア22にて分離される。このとき、各極のフラックスバリア22のそれぞれは、フラックスセグメント21に隣接するスリット状の間隙で構成することができる。各極のフラックスバリア22のそれぞれは、各極のq軸上では、q軸と直交する方向に延びるとともに、d軸に沿ってスロット11の内周側に向かうように折り曲げることができる。なお、q軸は各極の磁極の中心に位置し、d軸は各極の磁極の境界に位置する。このとき、巻線13に電流を流した時に生じる磁界は、ティース12の先端を介してフラックスセグメント21に沿って導かれ、フラックスセグメント21に極性を付与することができる。
【0014】
また、シンクロナスリラクタンスモータSynRMは、導電部材B1~B4およびエンドリングE1、E2を備える。各導電部材B1~B4は、軸方向一方側から分岐され、互いに異なるフラックスバリア22内に位置する。なお、本明細書では、回転軸C1の軸方向一方側または回転軸C1の軸方向他方側を、単に軸方向一方側または軸方向他方側と言うことがある。
【0015】
このとき、各導電部材B1~B4は、同一極の複数のフラックスバリア22内に位置することができる。
図2Aでは、各導電部材B1~B4は、同一極の2つのフラックスバリア22内に位置する例を示した。ここで、各導電部材B1~B4は、軸方向一方側で接続された状態で、同一極の2つのフラックスバリア22内に挿入可能とするために、各極の軸方向一方側で折り返すことができる。このとき、各導電部材B1~B4は、軸方向一方側で軸方向に垂直に折り曲げることができる。各導電部材B1~B4の軸方向一方側の折り曲げ位置は、各導電部材B1~B4が位置する互いに異なるフラックスバリア22間のフラックスセグメント21を跨ぐ位置に設定することができる。このとき、各導電部材B1~B4は、例えば、ヘアピン状に折り曲げてもよい。各導電部材B1~B4の断面形状は矩形、各導電部材B1~B4の材料は銅であるのが好ましい。このとき、銅バーを折り曲げることで各導電部材B1~B4を構成することができる。また、各導電部材B1~B4の軸方向の長さは、各導電部材B1~B4をフラックスバリア22内に挿入した後に、軸方向他方側で各導電部材B1~B4が突出するように設定することができる。
【0016】
エンドリングE1は、導電部材B1~B4の軸方向一方側に設けられ、エンドリングE2は、導電部材B1~B4の軸方向他方側に設けられる。このとき、エンドリングE1、E2は、導電部材B1~B4の軸方向一方側および軸方向他方側を短絡させるとともに、導電部材B1~B4を固定することができる。各導電部材B1~B4の軸方向一方側の突出量は、各導電部材B1~B4の分岐箇所がエンドリングE1内に収容されるように設定し、各導電部材B1~B4の軸方向他方側の突出量は、各導電部材B1~B4の端部がエンドリングE2内に収容されるように設定することができる。また、各エンドリングE1、E2は、動釣り合わせに使用することができる。このとき、各エンドリングE1、E2のネジをロックしてロータ2Aのバランスを取るために、各エンドリングE1、E2は、回転軸C1の軸方向に突出した突起31、32を外面側に備えてもよい。各エンドリングE1、E2は、例えば、アルミ鋳造で作製することができる。
【0017】
ここで、軸方向一方側で各導電部材B1~B4を分岐させることにより、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を挿入することを可能としつつ、軸方向一方側の各導電部材B1~B4の繋ぎ目をなくすことができる。このため、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を挿入する際の作業性の低下を抑制しつつ、互いに異なるフラックスバリア22に挿入された各導電部材B1~B4の軸方向一方側の導電性を向上させることが可能となる。
【0018】
また、軸方向一方側で各導電部材B1~B4を折り返すことにより、軸方向一方側で導電部材が短絡された状態で互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を挿入することが可能となるとともに、軸方向一方側で各導電部材B1~B4を接続するために、異種金属を用いる必要がなくなり、コストアップを抑制しつつ、軸方向一方側の各導電部材B1~B4の導電性の低下を防止することができる。
【0019】
また、各導電部材B1~B4の軸方向一方側の折り曲げ位置を、各導電部材B1~B4が位置する互いに異なるフラックスバリア22間のフラックスセグメント21を跨ぐ位置に設定することにより、軸方向一方側で導電部材が短絡された状態を維持するとともに、フラックスセグメント21および各導電部材B1~B4の変形を伴うことなく、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を挿入することが可能となる。このため、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を挿入する際の作業性を低下させることなく、互いに異なるフラックスバリア22に挿入された各導電部材B1~B4の軸方向一方側の導電性を向上させることが可能となるとともに、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの効率の低下を抑制することができる。
【0020】
また、同一極の複数のフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を設けることにより、軸方向一方側で各導電部材B1~B4が短絡された状態を維持しつつ、互いに異なるフラックスバリア22内に挿入される各導電部材B1~B4の個数を増大させることができる。このため、起動にインバータを不要としつつ、起動能力を向上させることができ、シンクロナスリラクタンスモータSynRMを商用電源で動作させることが可能となるとともに、誘導モータよりも高い効率を維持することができ、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの適用範囲を拡大することができる。
【0021】
また、各導電部材B1~B4の断面形状を矩形とすることにより、フラックスバリア22が位置するフラックスセグメント21の間隔に各導電部材B1~B4の厚さを一致させつつ、軸方向一方側で各導電部材B1~B4を折り曲げやすくすることができる。このため、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B1~B4を挿入する際の作業性を低下させることなく、フラックスバリア22内に挿入された各導電部材B1~B4による導電性を増大させることが可能となり、起動にインバータを不要としつつ、起動能力を向上させることができる。
【0022】
また、各導電部材B1~B4の材料に銅を用いることにより、導電率が銀に次いで2番目に高い金属を各導電部材B1~B4の材料として用いることが可能となるとともに、銀を用いた場合に比べてコストアップを抑制することができる。
【0023】
また、各導電部材B1~B4の軸方向一方側および軸方向他方側をエンドリングE1、E2を介して短絡することにより、誘導電動機よりも高い効率を維持しつつ、かご型の導体構造をロータ2Aに付加することができる。このため、誘導電動機と同様にシンクロナスリラクタンスモータSynRMを商用電源に接続すれば、シンクロナスリラクタンスモータSynRMを起動することができ、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの適用範囲を拡大することができる。
【0024】
また、各エンドリングE1、E2をアルミ鋳造で形成することにより、溶融したアルミニウムを型に流して固化させることで、エンドリングE1、E2を介して導電部材の軸方向一方側および軸方向他方側を短絡させつつ、各導電部材B1~B4を固定することができる。このため、コストアップを抑制しつつ、かご型の導体構造をロータ2Aに付加することが可能となるとともに、ロータ2Aに付加されたかご型の導体構造の導電性を向上させることができる。この結果、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの効率を低下させることなく、起動能力を向上させることができ、シンクロナスリラクタンスモータSynRMの適用範囲を拡大することができる。
【0025】
図3Aは、
図1のシンクロナスリラクタンスモータの1つの極のフラックスバリアに導電部材が挿入されていない構成を示す断面図、
図3Bは、
図1のシンクロナスリラクタンスモータの1つの極の1つのフラックスバリアに導電部材が挿入されている構成を示す断面図、
図3Cは、
図1のシンクロナスリラクタンスモータの1つの極の2つのフラックスバリアに導電部材が挿入されている構成を示す断面図である。
【0026】
図3Aのロータ2A´´のロータコアでは、各極のフラックスバリア22に導電部材が挿入されてない。
図3Bのロータ2A´のロータコアでは、各極の1つのフラックスバリア22に導電部材B1´が挿入されている。
図3Cのロータ2Aのロータコアでは、各極の2つのフラックスバリア22に導電部材B1が挿入されている。
【0027】
図3Aから
図3Cの構成の効率および起動能力についてシミュレーションを実施した。
図3Bの構成では、
図3Aの構成に比べて、効率を変化させることなく、起動能力を2.2倍に向上させることができた。
図3Cの構成では、
図3Aの構成に比べて、効率を変化させることなく、起動能力を2.6倍に向上させることができた。
【0028】
なお、上述した実施形態では、ロータコアの極数が4、各導電部材B1~B4の分岐数が2の場合を例にとった。ただし、Pをロータコアの極数、Nを(各極のバリアチャネル数-1)とすると、軸方向一方側における導電部材の分岐数Mは、2≦M≦P・Nであってもよい。これにより、極数およびバリアチャネル数に応じて軸方向一方側における導電部材の分岐数を設定しつつ、軸方向一方側で短絡された導電部材を互いに異なるフラックスバリア内に挿入することが可能となる。
【0029】
図4Aは、第2実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向一方側から見た斜視図、
図4Bは、第2実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの構成を軸方向他方側から見た斜視図である。なお、
図4A(a)は、導電部材の挿入後のロータの状態を示す斜視図、
図4A(b)は、導電部材の挿入前の形状を示す斜視図である。
【0030】
図4Aおよび
図4Bにおいて、このシンクロナスリラクタンスモータは、
図1のロータ2Aの代わりにロータ2Bを備える。ロータ2Bは、
図2Aの導電部材B1~B4の代わりに導電部材B11、B12を備える。ロータ2Bのそれ以外の点については、ロータ2Aと同様に構成することができる。
【0031】
各導電部材B11、B12は、互いに異なる極の複数のフラックスバリア22内に位置することができる。
図4Aでは、各導電部材B11、B12は、互いに異なる2つの極の1つのフラックスバリア22内に位置する例を示した。ここで、各導電部材B11、B12は、軸方向一方側で接続された状態で、互いに異なる2つの極の1つのフラックスバリア22内に挿入可能とするために、各極の軸方向一方側で折り返すことができる。このとき、各導電部材B11、B12は、軸方向一方側で軸方向に垂直に折り曲げることができる。各導電部材B11、B12の軸方向一方側の折り曲げ位置は、各導電部材B11、B12が位置する互いに異なるフラックスバリア22間のフラックスセグメント21を跨ぐ位置に設定することができる。フラックスバリア22内に位置する各導電部材B11、B12の断面形状は矩形、各導電部材B11、B12の材料は銅であるのが好ましい。
【0032】
ここで、互いに異なる極の複数のフラックスバリア22内に各導電部材B11、B12を設けることにより、軸方向一方側で各導電部材B11、B12が短絡された状態を維持しつつ、互いに異なるフラックスバリア22内に挿入される導電部材B11、B12の個数を増大させることができる。このため、起動にインバータを不要としつつ、起動能力を向上させることができ、シンクロナスリラクタンスモータを商用電源で動作させることが可能となるとともに、誘導モータよりも高い効率を維持することができ、シンクロナスリラクタンスモータの適用範囲を拡大することができる。
【0033】
図5Aは、第3実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入される前の状態を示す斜視図、
図5Bは、第3実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入された後の状態を示す斜視図、
図5Cは、第3実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータのエンドリングの形成後の状態を示す斜視図である。
【0034】
図5Aから
図5Cにおいて、このシンクロナスリラクタンスモータは、
図1のロータ2Aの代わりにロータ2Cを備える。ロータ2Cは、
図2Aの導電部材B1~B4およびエンドリングE1、E2の代わりに導電部材B21~B24およびエンドリングE21、E22を備える。ロータ2Cのそれ以外の点については、ロータ2Aと同様に構成することができる。
【0035】
各導電部材B21~B24は、互いに異なる極の複数のフラックスバリア22内に位置することができる。
図5Bでは、各導電部材B21~B24は、互いに異なる極の2つのフラックスバリア22内に位置する例を示した。ここで、各導電部材B21~B24は、軸方向一方側で接続された状態で、互いに異なる極の2つのフラックスバリア22内に挿入可能とするために、各極の軸方向一方側で折り返すことができる。このとき、各導電部材B21~B24は、
図5Aに示すように、軸方向一方側で軸方向に垂直に折り曲げることができる。各導電部材B21~B24の軸方向一方側の折り曲げ位置は、
図5Bに示すように、各導電部材B21~B24が位置する互いに異なるフラックスバリア22間のフラックスセグメント21を跨ぐ位置に設定することができる。このとき、各導電部材B21~B24は、互いに異なる極の2つのフラックスバリア22内にそれぞれ挿入される2本の導電バーを備えることができる。そして、各極の同一のフラックスバリア22には、互いに異なる2つの導電部材B21~B24の導電バーが挿入される。フラックスバリア22内に位置する各導電部材B21~B24の断面形状は矩形、各導電部材B21~B24の材料は銅であるのが好ましい。
【0036】
ここで、各極の同一のフラックスバリア22に互いに異なる2つの導電部材B21~B24の導電バーを挿入することにより、各導電部材B21~B24の導電バーを細くすることができる。このため、1本の導電バーの折り曲げ加工に基づいて各導電部材B21~B24を作製することができ、導電部材B21~B24の作製にかかるコストを抑制することができる。
【0037】
図5Cに示すように、導電部材B21~B24の軸方向一方側にはエンドリングE21が設けられ、導電部材B21~B24の軸方向他方側にエンドリングE22が設けられる。このとき、エンドリングE21、E22は、導電部材B21~B24の軸方向一方側および軸方向他方側を短絡させるとともに、導電部材B21~B24を固定することができる。
【0038】
エンドリングE21、E22は、互いに異なる極の複数のフラックスバリア22内に導電部材B21~B24を挿入した後、アルミ鋳造で作製することができる。なお、エンドリングE21、E22と導電部材B21~B24との密着性を向上させるために、導電部材B21~B24を金属でコーティングしてもよい。導電部材B21~B24の金属コーティングの位置は、各導電部材B21~B24とエンドリングE21、E22との接触位置を含めばよい。コーティング方法は、例えば、めっき処理でもよいし、溶射でもよい。この金属は、例えば、銀である。
【0039】
ここで、互いに異なる極の複数のフラックスバリア22内に各導電部材B21~B24を設けることにより、軸方向一方側で各導電部材B21~B24が短絡された状態を維持しつつ、互いに異なるフラックスバリア22内に挿入される導電部材B21~B24の個数を増大させることができる。このため、起動にインバータを不要としつつ、起動能力を向上させることができ、シンクロナスリラクタンスモータを商用電源で動作させることが可能となるとともに、誘導モータよりも高い効率を維持することができ、シンクロナスリラクタンスモータの適用範囲を拡大することができる。
【0040】
図6Aは、第4実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入された後の状態を示す斜視図、
図6Bは、第4実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに挿入された導電部材の折り曲げ後の状態を示す斜視図、
図6Cは、第4実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータのエンドリングの形成後の状態を示す斜視図である。
【0041】
図6Aから
図6Cにおいて、このシンクロナスリラクタンスモータは、
図5Aから
図5Cのロータ2Cの代わりにロータ2Dを備える。ロータ2Dは、
図5Aから
図5Cの導電部材B21~B24およびエンドリングE21、E22の代わりに導電部材B31~B34およびエンドリングE31、E32を備える。ロータ2Dのそれ以外の点については、ロータ2Cと同様に構成することができる。
【0042】
各導電部材B31~B34が各導電部材B21~B24と異なる点は、
図6Bに示すように、各導電部材B31~B34の軸方向他方側で突出した突出部の端部が互いに近づく方向に折り曲げられている点である。このとき、
図6Aに示すように、各導電部材B31~B34の導電バーの軸方向の長さを各導電部材B21~B24の導電バーの軸方向の長さより長くすることができる。そして、各導電部材B31~B34の直線状の導電バーをフラックスバリア22内に挿入した後、
図6Bに示すように、各導電部材B31~B34の軸方向他方側で導電バーの先端を折り曲げることができる。
【0043】
また、
図6Cに示すように、導電部材B31~B34の軸方向一方側にはエンドリングE31が設けられ、導電部材B31~B34の軸方向他方側にエンドリングE32が設けられる。このとき、エンドリングE31、E32は、導電部材B31~B34の軸方向一方側および軸方向他方側を短絡させるとともに、導電部材B31~B34を固定することができる。エンドリングE31、E32は、互いに異なる極の複数のフラックスバリア22内に導電部材B31~B34を挿入した後、アルミ鋳造で作製することができる。
【0044】
ここで、各導電部材B31~B34の軸方向他方側で突出した突出部の端部が互いに近づく方向に折り曲げることにより、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B31~B34を挿入する際の作業性を低下させることなく、互いに異なるフラックスバリア22内に挿入された軸方向他方側での導電部材B31~B34の接続の導電率を向上させることができる。
【0045】
図7Aは、第5実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入される前の状態を示す斜視図、
図7Bは、第5実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータの各極のフラックスバリアに導電部材が挿入された後の状態を示す斜視図、
図7Cは、第5実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータのエンドリングの形成後の状態を示す斜視図である。
【0046】
図7Aから
図7Cにおいて、このシンクロナスリラクタンスモータは、
図5Aから
図5Cのロータ2Cの代わりにロータ2Eを備える。ロータ2Eは、
図5Aから
図5Cの導電部材B21~B24およびエンドリングE21、E22の代わりに導電部材B41~B44およびエンドリングE41、E42を備える。ロータ2Eのそれ以外の点については、ロータ2Cと同様に構成することができる。
【0047】
各導電部材B41~B44が各導電部材B21~B24と異なる点は、各導電部材B21~B24の軸方向一方側での分岐数が2であるのに対して、
図7Aに示すように、各導電部材B41~B44の軸方向一方側での分岐数が4である点である。このとき、各導電部材B41~B44は、互いに異なる4つフラックスバリア22内に挿入することができる。
図7Aから
図7Cでは、各導電部材B41~B44は、互いに異なる2つの極のそれぞれの2つのフラックスバリア22内に位置する例を示した。このとき、各導電部材B41~B44の軸方向一方側の分岐位置は、各導電部材B41~B44が位置する互いに異なるフラックスバリア22間のフラックスセグメント21を跨ぐ位置に設定することができる。このとき、各導電部材B41~B44は、例えば、櫛状に構成してもよい。なお、各導電部材B41~B44は、例えば、銅板の打ち抜き加工で作製してもよいし、銅バーの溶接で作製してもよい。
【0048】
また、
図7Cに示すように、導電部材B41~B44の軸方向一方側にはエンドリングE41が設けられ、導電部材B41~B44の軸方向他方側にエンドリングE42が設けられる。このとき、エンドリングE41、E42は、導電部材B41~B44の軸方向一方側および軸方向他方側を短絡させるとともに、導電部材B41~B44を固定することができる。エンドリングE41、E42は、互いに異なる極の複数のフラックスバリア42内に導電部材B41~B44を挿入した後、アルミ鋳造で作製することができる。
【0049】
ここで、各導電部材B41~B44の軸方向一方側での分岐数を増大させることにより、互いに異なるフラックスバリア22内に各導電部材B41~B44を挿入する際の作業性を低下させることなく、ロータ2Eに付加されるかご型の導体構造の導電性を向上させることが可能となり、起動能力を向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
SynRM シンクロナスリラクタンスモータ、1 ステータ、2A ロータ、3 シャフト、11 スロット、12 ティース、13 巻線、21 フラックスセグメント、 22 フラックスバリア、B1~B4 導電部材