(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005311
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ジブクレーンの制御方法および制御システム
(51)【国際特許分類】
B66C 23/00 20060101AFI20230111BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B66C23/00 C
B66C13/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107129
(22)【出願日】2021-06-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開者名 ホ ドゥク トオ、寺嶋一彦 刊行物名 2020 7th International Conference on Control,Decision and Information Technologies(CoDIT’20)(チェコ共和国、プラハ)166頁-171頁 発行日 令和2年6月29日 公開者名 ホ ドゥク トオ、寺嶋一彦 集会名および集会場所 集会名:2020 7th International Conference on Control,Decision and Information Technologies(CoDIT’20)(チェコ共和国、プラハ) 開催日 令和2年6月29日~7月2日 公開者名 ホ ドゥク トオ 刊行物名 国立大学法人豊橋技術科学大学博士論文アブストラクト 発行日 令和2年7月8日 公開者名 ホ ドゥク トオ 刊行物名 国立大学法人豊橋技術科学大学博士論文「Load Swing and Skew Vibration Suppression and Excitation Controls of Crane Systems」 111頁~123頁 発行日 令和2年8月19日 公開者名 ホ ドゥク トオ 集会名および集会場所 集会名:国立大学法人豊橋技術科学大学博士論文発表会(愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1) 発行日 令和2年8月19日 公開者名 株式会社相浦機械 刊行物名 海事プレスONLINE 発行日 令和2年12月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】310020482
【氏名又は名称】株式会社相浦機械
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 一彦
(72)【発明者】
【氏名】ホ ドゥク トオ
(72)【発明者】
【氏名】爪 光男
(72)【発明者】
【氏名】林 秀委
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健介
(72)【発明者】
【氏名】野中 眞治
(72)【発明者】
【氏名】木村 司
(72)【発明者】
【氏名】吉本 貴司
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA02
3F204CA03
3F204CA07
3F204EA03
3F204EA06
3F204EA11
3F204EA17
3F204EB02
3F204EB08
3F204GA01
3F204GA04
3F205AA03
3F205BA06
3F205CA01
3F205DA01
(57)【要約】
【課題】 ジブの俯仰に加えてロープ長が変化する場合の残留振動を吸収させることのできる制御方法および制御システムを提供する。
【解決手段】 ジブの先端から吊荷までのロープ長を一定としつつジブに対して俯仰角のみを変化させる線形モデルにおける非制御状態の入力を基本入力として予め定める。基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用して、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させる振動出力を参照振動出力とし、参照振動出力を得るための参照制御入力を導出する。参照制御入力および参照振動出力によって規定される制御モデルを規範制御モデルとして形成する。ロープ長を変化させつつジブの俯仰角を変化させるときの動力学モデルと、規範制御モデルにおける動力学モデルとを比較しつつ、両者の振動出力が同一であるとみなしたときの制御入力を最終制御入力として導出し、その入力に基づいてジブを作動させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブクレーンにおけるジブの俯仰およびロープの巻取りにより吊荷を所定の位置に移動させるときの吊荷に生じる残留振動を低減させるための制御方法であって、
ジブの先端から吊荷までのロープ長を一定としつつジブに対して俯仰角のみを変化させる線形モデルにおける非制御状態の入力を基本入力として予め定め、
前記基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用して、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させる振動出力を参照振動出力とし、その参照振動出力を得るための参照制御入力を導出し、
得られた参照制御入力および参照振動出力によって規定される制御モデルを規範制御モデルとして形成し、
ロープ長を変化させつつジブの俯仰角を変化させるときの動力学モデルと、前記規範制御モデルにおける動力学モデルとを比較しつつ、両者の振動出力が同一であるとみなしたときの制御入力を最終制御入力として導出し、
前記最終制御入力に基づいてジブを作動させる
ことを特徴とするジブクレーンの制御方法。
【請求項2】
前記参照振動出力を生じさせるときのロープ長は、ロープ長を変化させる予定長さの範囲における中間的長さとするものである請求項1に記載のジブクレーンの制御方法。
【請求項3】
前記基本入力は、ジブの俯仰角が変化するときの始動状態から連続するジブの作動時間のうち、始動状態から任意の途中の状態までの時間、その途中の状態から目標角に到達するまでの時間、目標角に到達した後の時間にそれぞれ区分し、その時間ごとに入力されるインパルスの大きさによって定義されるものであって、それぞれの時間におけるインパルスの大きさが、ゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法による吊荷の残留振動を吸収させることができる条件の範囲内に限定されるものである請求項1または2のいずれかに記載のジブクレーンの制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の制御方法により制御されるジブクレーンの制御システムであって、
ジブを俯仰させるための俯仰用駆動部と、
ジブの先端から吊荷を吊り下げるロープを巻取る巻取り駆動部と、
吊荷の移動先を指定する入力部とを備えるジブクレーンにおいて、
前記俯仰用駆動部および巻取り駆動部に対して制御信号を出力する出力部と、
前記入力部の信号の入力を受けて俯仰用駆動部および巻取り駆動部におけるそれぞれの変化量を制御する制御部と、
前記制御部の制御信号を前記俯仰用駆動部および前記巻取り駆動部に対して出力する出力部とを備え、
前記制御部は、さらに、演算部および記憶部を備え、
前記演算部は、
前記俯仰用駆動部および前記巻取り駆動部の状態に基づき吊荷の位置を算出し、
入力された吊荷の移動先情報から、ジブの先端から吊荷までのロープ長を一定としつつジブに対して俯仰角のみを変化させる線形モデルにおける非制御状態の入力を基本入力として算出し、
前記基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用して、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させるような参照振動出力を得るための参照制御入力を導出し、
前記参照制御入力および参照振動出力によって規定される制御モデルを規範制御モデルとして形成したうえで、ロープ長を変化させつつジブの俯仰角を変化させるときの動力学モデルと、前記規範制御モデルにおける動力学モデルとを比較しつつ、両者の振動出力が同一であるとみなしたときの制御入力を最終制御入力として導出するものであり、
前記記憶部は、前記演算部による演算結果を記憶するものである
ことを特徴とするジブクレーンの制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジブクレーンによるジブの俯仰および吊荷の巻上下を同時に作動させる際に、吊荷が非線形に移動するときの残留振動を吸収させる制御方法および制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジブクレーン(ロータリクレーンとも称される)は、港湾または船舶等で広く使用されており、大重量貨物の積み下ろしに使用されるものである。このクレーンは、旋回、俯仰、巻上下の3要素によって動作させるものであり、旋回動作によりクレーン全体が回転し、俯仰動作によりジブ(ブームとも称される)が傾動するものであり、巻上下動作は、吊荷を吊り下げるワイヤの巻取りによるものである。吊荷用のロープは柔軟であるため、上記の各動作によって吊荷に揺れを生じさせ、上記動作を停止した状態においても残留振動(荷揺れ)が生じる。この種の残留振動が発生すると、ジブの先端位置の直下において吊荷が吊下された状態とならず、吊荷の位置の把握が困難となり、次の動作に移行するために残留振動の収束を待つ必要性を招来させていた。その結果として、荷下ろし時間が大幅に長期化し、また、システムの安定性も低下することとなっていた。
【0003】
上記の残留振動を解消させるため、ジブを手動で操作する場合には、操作者がゆっくりとジブを操作し、その吊荷に対する振動の発生を抑制させていた。他方、振動制御システムに委ねる場合には、周知のとおり、フィードバック制御とフィードフォワード制御の二種類の手法が想定される。
【0004】
フィードバック制御による場合は、周知のとおり、吊荷の振れ角がリアルタイムに取得され、適切な制御入力を提供することにより、不確実性のある外乱の処理に優れている。しかしながら、システム構築には高度なセンサ構造が必要となり、高コストになるうえ、メンテナンスも必要となるものであった。
【0005】
そこで、フィードフォワード制御によることで、実装の容易性、測定システムの省略化から運用するうえで望ましいとされているところである。この場合、インプットシェーピング法(入力整形法)による制御方法が一般的である。このインプットシェーピング法は、入力シェーパと呼ばれるインパルスのシーケンスを畳み込むことで、元のコマンドをインテリジェントに変化させるものであり、入力シェーパは、全インパルスにより引き起こされる振動が自己キャンセルされるように設計されるものである(非特許文献1および2参照)。
【0006】
また、インプットシェーピング法に関し、ロバスト性のない(non-robust)ゼロ振動(ZV:Zero Vibration)入力シェーパと、ロバスト性のあるゼロ振動微分(ZVD:Zero Vibration Derivative)および指定無感度(SI:Specified Insensitivity)を含むシェーパを、俯仰動作のみのジブクレーンに実装することが提案されている(非特許文献3および4)。また、非初期状態での振動を制御することができるように設計された入力シェーパも提案されている(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N.C.Singer, and W.P.Seering, “Preshaping Command Inputs to Reduce System Vibrations”, ASME J. of Dynamic Systems, Measurement and Control, Vol. 112, 1990, pp.76-82
【非特許文献2】W.Singhose, “Command shaping for flexible systems: A review of the first 50 years.” Int. J. Precis. Eng. Manuf., Vol. 10, 2009, pp.153-168
【非特許文献3】J.Danielson, “Mobile boom cranes and advanced input shaping control”, Master’s thesis, School of Mechanical Engineering, Georgia Institute of Technology, Georgia, USA, 2008
【非特許文献4】E.Maleki and W.Singhose, “Dynamics and zero vibration input shaping control of small-scale boom crane,” in Proc. of the 2010 America Control Conf., Jun. 2010, pp.2296-2301
【非特許文献5】D.Newman and J.Vaughan, “Command shaping of a boom crane subject to nonzero initial conditions,” in 2017 IEEE Conf. on Control Technology and Applications (CCTA), Aug. 2017, pp.1189-1194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前掲の非特許文献に開示される技術は、残留振動を低減させるものであり、残留振動を限りなくゼロにするような制御ではなかった。また、二次元における時間不変の線形プラント用に設計された入力整形制御は、時間が変化する非線形システムに適用できないという問題点があった。すなわち、ジブの俯仰に加えてロープ長が変化する場合の残留振動の制御は非線形となるものであるが、このような非線形における制御方法については、未だに検証されていないものであった。
【0009】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ジブの俯仰に加えてロープ長が変化する場合の残留振動を吸収させることのできる制御方法および制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、ジブクレーンの制御方法に係る本発明は、ジブクレーンにおけるジブの俯仰およびロープの巻取りにより吊荷を所定の位置に移動させるときの吊荷に生じる残留振動を低減させるための制御方法であって、ジブの先端から吊荷までのロープ長を一定としつつジブに対して俯仰角のみを変化させる線形モデルにおける非制御状態の入力を基本入力として予め定め、前記基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用して、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させる振動出力を参照振動出力とし、その参照振動出力を得るための参照制御入力を導出し、得られた参照制御入力および参照振動出力によって規定される制御モデルを規範制御モデルとして形成し、ロープ長を変化させつつジブの俯仰角を変化させるときの動力学モデルと、前記規範制御モデルにおける動力学モデルとを比較しつつ、両者の振動出力が同一であるとみなしたときの制御入力を最終制御入力として導出し、前記最終制御入力に基づいてジブを作動させることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、ロープ長を変化させない線形モデルにおいて、残留振動を吸収させることができる制御入力と振動出力とを導出しておき、ロープ長が変化するときの非線形システムにおける制御入力に換算することで、想定する振動出力を得ることができる。すなわち、基本入力により出力される振動出力は、線形モデルにおける振動挙動であって、制御(残留振動)を考慮せずに目標位置まで吊荷を移動させるときの振動挙動である。そのため、この残留振動を打ち消すように制御させる参照制御入力を導出することにより、線形モデルにおける残留振動の吸収を可能にする規範モデルを構築することができる。そこで、これらの参照制御入力および参照振動出力を規範モデルとして形成しておき、ロープ長が変化する動力学モデルを規範モデルに当てはめることにより、非線形モデルにおける残留振動を、線形モデルのようにして吸収させることができるものとなる。
【0012】
上記構成の発明において、前記参照振動出力を生じさせるときのロープ長は、ロープ長を変化させる予定長さの範囲における中間的長さとすることができる。これにより、予定するロープ長の変化の全体における中間地点をもって参照振動出力を得ることができることから、ロープ長の変化の出発点から終点にわたる振動に対応させるものとみなすことができる。
【0013】
また、上記各構成の発明において、前記基本入力は、ジブの俯仰角が変化するときの始動状態から連続するジブの作動時間のうち、始動状態から任意の途中の状態までの時間、その途中の状態から目標角に到達するまでの時間、目標角に到達した後の時間にそれぞれ区分し、その時間ごとに入力されるインパルスの大きさによって定義されるものであって、それぞれの時間におけるインパルスの大きさは、ゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法による吊荷の残留振動を吸収させることができる条件の範囲内に限定されたものとすることができる。
【0014】
上記構成によれば、上記のように区分された時間ごとのインパルスの大きさが、所定の条件を満たす場合において、最終制御入力に基づく残留振動の吸収を可能とする。これは、所定の条件を満たさないような基本入力を前提として得られる参照制御入力および参照振動出力は、規範モデルとして使用しないことを意味する。そのような規範モデルを用いる場合には、結果的に残留振動を吸収し得ないこととなるからである。
【0015】
ジブクレーンの制御システムに係る本発明は、前述のいずれかの構成による制御方法により制御される制御システムであって、ジブを俯仰させるための俯仰用駆動部と、ジブの先端から吊荷を吊り下げるロープを巻取る巻取り駆動部と、吊荷の移動先を指定する入力部とを備えるジブクレーンにおいて、前記俯仰用駆動部および巻取り駆動部に対して制御信号を出力する出力部と、前記入力部の信号の入力を受けて俯仰用駆動部および巻取り駆動部におけるそれぞれの変化量を制御する制御部と、前記制御部の制御信号を前記俯仰用駆動部および前記巻取り駆動部に対して出力する出力部とを備え、前記制御部は、さらに、演算部および記憶部を備え、前記演算部は、前記俯仰用駆動部および前記巻取り駆動部の状態に基づき吊荷の位置を算出し、入力された吊荷の移動先情報から、ジブの先端から吊荷までのロープ長を一定としつつジブに対して俯仰角のみを変化させる線形モデルにおける非制御状態の入力を基本入力として算出し、前記基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用して、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させるような参照振動出力を得るための参照制御入力を導出し、前記参照制御入力および参照振動出力によって規定される制御モデルを規範制御モデルとして形成したうえで、ロープ長を変化させつつジブの俯仰角を変化させるときの動力学モデルと、前記規範制御モデルにおける動力学モデルとを比較しつつ、両者の振動出力が同一であるとみなしたときの制御入力を最終制御入力として導出するものであり、前記記憶部は、前記演算部による演算結果を記憶するものであることを特徴とする。
【0016】
上記構成の制御装置によれば、演算部により基本入力が算出され、さらに参照制御入力が導出されることより、線形モデルにおいて、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させるための参照制御入力およびそのときの参照振動出力を得ることができる。これらの参照制御入力および参照振動出力は、線形モデルにおける残留振動の吸収を可能にするものであるが、これらを規範モデルとして形成しておくことにより、ロープ長が変化する動力学モデルを規範モデルに当てはめ、非線形モデルにおける残留振動の吸収を可能にすることができるものとなる。
【発明の効果】
【0017】
ジブクレーンの制御方法に係る本発明によれば、線形モデルにおける残留振動の解消に使用される既存のインプットシェーピング法を使用しつつ、ジブの俯仰に加えてロープ長が変化する非線形システムにおける残留振動を吸収させることができる。この制御方法は、フィードフォワード制御であることから、フィードバック制御と比較して短時間による振動抑制を可能とし、また、低コストによる制御方法を提供するとともに、実装を容易な制御方法を実現することができる。
【0018】
また、ジブクレーンの制御システムに係る本発明によれば、現実のジブクレーンに実装することができるうえ、各種条件の異なる吊荷の移動に際しても適宜制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ジブクレーンの構成の概略を示す説明図である。
【
図4】制御方法を示す制御系のブロック線図である。
【
図6】制御システムの概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、制御対象となるジブクレーンの概略を説明する。
図1は、一般的なジブクレーンの概略図である。この図に示されるように、一般的なジブクレーン1は、クレーンポスト2の上部に設置される本体部3からジブ4が延出され、本体部3に搭載される駆動装置(ウインチ等のアクチュエータ)5による操作によって、ジブ4の俯仰および吊り下げロープ6の巻取りを行うものである。また、本体部3は、水平面上において旋回可能となっており、ジブクレーン1は全体として、旋回、俯仰および巻上下により吊荷7を三次元的に移動させるものである。
【0021】
図1のジブクレーン1は簡略化したものであるため、アクチュエータ(ウインチ等)5は単一のみ表示し、直線状のワイヤロープ41によってジブ4の俯仰角を変化させる構成を示しているが、現実のクレーンは、ワイヤロープ41には動滑車等の荷重減殺手段とともに波状に張設されるものであり、アクチュエータ(ウインチ等)5は、ジブ4の俯仰用のほか、吊り下げロープ6の巻取り用のものが搭載される。また、各ロープ6,41は1本で示しているが、複数のロープによって荷重を分散させる構成となっている場合もある。ここでは、装置構成の簡略化のため、直線により、かつ1本のロープとして示すこととしている。
【0022】
<制御方法に係る実施形態>
次に、ジブクレーンの制御方法に係る発明の実施形態について説明する。
図2および
図3は、ジブクレーンの一般的な構造をモデル化したものである。ここでは、吊り下げロープ6の巻取り装置は省略している。また、
図2は、吊り下げロープ6の長さ(以下、ロープ長と略称する場合がある)を変更しないモデル(線形モデル)を説明するための図であり、
図3は、ロープ長を変化させるモデル(非線形モデル)を説明するための図である。従って、線形モデルに係る説明は
図2を参照し、非線形モデルに係る説明は
図3を参照されたい。
【0023】
線形モデル(
図2参照)
本実施形態における制御方法は、予め線形モデルによる制御入力を算出しておき、その後に非線形モデルに応用することによるものである。そこで、まず線形モデルにおける振動挙動を導出する。線形モデルとは、吊り下げロープ6のロープ長lを一定とした状態において、俯仰のみを操作する状態であるから、ジブ4を目標の俯仰角までの動作する場合、すなわち、当該俯仰のみによって目標とする位置へ吊荷7を移動させる場合、ジブ4に対して俯仰角を変化させるためのウインチ等のアクチュエータ5を作動させることとなる。この場合における伝達関数は下式のような一般式で示すことができる。
【0024】
【0025】
ここで、ジブ4を目標とする俯仰角まで変化させるときの入力(基本入力)をur(t)とすると、その基本入力Ur(t)は、下式のように表すことができる。
【0026】
【0027】
上記のような基本入力が与えられる際には、ジブ4の変化に伴って吊荷7は振動することとなる。従って、想定される振動出力(基本振動出力)が生じることとなる。このときの振動出力は、残留振動の抑制を考慮せず、ジブ4の俯仰の状態のみを変化させるものであるため、当然のことながら、終端において残留振動は残存するものである。
【0028】
参照制御入力の導出および規範モデルの形成
そこで、移動中の吊荷に対する振動を打ち消すように制御することにより振動を吸収させ、終端における残留振動を抑制することができる。このとき、ジブ4の作動に対する制御によって残留振動を抑制させるためには、吊り下げロープ6のロープ長が一定の場合における吊り下げロープ6の角度(鉛直方向との角度)を制限するように出力される必要があり、その出力をえるための制御入力は、下式によって表すことができる。
【0029】
【0030】
このような参照入力によるロープ角の状態を規範モデルとして形成するのである。そして、上記のような制御を可能にするための制御入力(参照制御入力)は、下式に示すように、基本入力に対してゼロ入力シェーパを畳み込むインプットシェーピング法によって導出することができる。
【0031】
【0032】
上式(3)に示すように、参照制御入力は、基本入力にゼロ入力シェーパを畳み込むことにより導出される。なお、基本入力の条件は、前記式(2)であり、参照制御入力により、基本振動が抑制されることとなる。このときの振動状態(目標振動状態)は下式となる。
【0033】
【0034】
非線形モデル(
図3参照)
本発明は、ジブ4の俯仰と吊り下げロープ6の変化を同時に生じさせる場合の非線形モデルに係る制御方法に関する。そこで、次に、非線形モデルにおける振動挙動について説明する。まず、ジブ4の角度φおよびロープ長lが変化するときに振動(θ)を生じさせる場合の制御入力(最終制御入力u(t))に係る動力学モデル(運動方程式)は、下式のとおりである。ただし、ジブ4の旋回は考慮しないものとする。
【0035】
【0036】
ここで、ジブ4の角度およびロープ長は、時間が0から有限終了時間(τ)まで変化することから、有限終了時間(τ)で実現する場合、次の条件を満たす必要がある。
【0037】
【0038】
上記の条件において、非線形モデルにおける振動出力(振動挙動(θの変化))が、線形モデルにおける振動出力(振動挙動(ξの変化))と一致するものと想定する。この場合、下記の用に示すことができる。
【0039】
【0040】
そうすると、前述の規範モデル(前記式(3))は、次式(10)のとおりとなり、非線形における動力学モデル(運動方程式(7))は、下式(11)のとおりとなる。
【0041】
【0042】
そして、上式(10)および(11)について、上記(9)の定義を用いて整理すると下式(12)となり、さらに制御入力(u(t))を求めると、下式(13)を得ることができる。
【0043】
【0044】
従って、非線形モデルに対し、上記に示す制御入力(u(t))を導入することにより、振動挙動(θの変化)下式(14)のとおり制御されることとなる。そして、このときのジブ4の俯仰角についても下式(15)に示す状態となっている。
【0045】
【0046】
ところで、上記式(13)には、規範モデルを形成する参照制御入力が含まれていることから、前記式(4)および前記式(7)を用いて、上式(13)は、下式(16)のように記載される。
【0047】
【0048】
上式(13)つまり上式(16)より、制御入力(u(t))を得るには、上式(16)がφに関する微分積分方程式であるため、これを解くことが必要となるところ、解析的には困難なため、数値解法を用いるものである。上記の制御入力(u(t))を得るためには、線形モデルにおける基本入力(ur(t))(前記式(2)参照)に含まれる設計パラメータ(a、t1)が定められなければならない。このとき、当然のことながら、実際に基本入力を入力してクレーンを作動させることはできないことから、上記式(16)に示される非線形の微分積分方程式の解を求めることとなる。その際、下式に示す方法により設計パラメータ(a、t1)の最小値を求めるもとする。
【0049】
【0050】
なお、上記式(17)における重み付け係数は、ω1=103、ω2=105とする。また、上記式(17)は、MATLAB(登録商標)のコマンドfminconを用いることにより計算することができる。
【0051】
以上のとおり、規範モデルは、前記式(3)に示すように、線形モデルにおける参照制御入力によるロープ角の状態によって形成しておき、線形モデルと非線形モデルとの間で、同じ振動挙動(振動出力)を得られるものとすることにより、非線形モデル(すなわちジブ4の俯仰角およびロープ長lが同時に変化する場合)における制御入力(最終制御入力)を得ることができるものである。
【0052】
このときの参照制御入力は、基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用するのであるが、この基本入力は現実に入力されるものではなく、不明な設計パラメータを含む仮想の入力であり、与えられた目標値に対して、最小値によって残留振動を吸収させる値を想定し、その想定のもとでさらに非線形モデルに展開するものである。
【0053】
従って、吊荷7の移動(搬送)は、初期位置から目標位置までを設定し、その移動に必要な条件によって残留振動を抑制した移動制御を実行することができる。このときの吊荷の初期位置および目標位置は、それぞれジブ4の俯仰角およびロープ長(ジブ先端から吊荷までの距離)によって特定することができる。つまり、ジブ4の俯仰にける角度およびロープ長は、ウインチ等のアクチュエータ5の巻取り状態によって把握することができ、当該ウインチ等のアクチュエータ5の巻取り数・巻取り角の検出によって行うことができる。
【0054】
<アクチュエータの制御>
上述のとおり、制御入力(最終制御入力)を得ることができた場合、実際にクレーンを作動させる場合には、ウインチ等のアクチュエータ5を作動させ、ジブ4を俯仰させ、吊り下げロープ6を巻取ることとなる。
【0055】
そこで、
図3に示すように、アクチュエータ(ウインチ等)5により、ジブ4の俯仰角を変化させる際の動力学について説明する。この動力学はアクチュエータ5によるジブ4の俯仰角の変更(起伏)にかかるものであり、ロープ6の巻取りは図示せぬアクチュエータ(ウインチ等)によって略等速で巻取られるものとする。
【0056】
図3の三角形FTJに着目するとき、FTの長さDは、下式(18)のように表すことができる。また、アクチュエータ5によって変化する巻取りドラムAの角度は、下式(19)により、そのときの角速度は下式(20)により、角加速度は下式(21)により示される。なお、各式中のα
1はFJが水平との間の角、b
1は巻取りドラムの半径、d
1はFJの長さを示す。
【0057】
【0058】
このように、ジブ4の俯仰角は、アクチュエータ5の巻取りドラムの角度を制御することにより実行することができるものである。ただし、現実の制御においては、実際にジブクレーンに搭載されるアクチュエータの出力により角速度および角加速度は上限を有する。その一例として、角速度の上限が5.47(rad/s)であり、角加速度の上限が(rad/s2)であるアクチュエータが使用される場合がある。また、吊り下げロープ6の巻取りに際しても同様であり、一例としてロープ長の巻取り速度の上限が1.5(m/s)であり、加速度が0.6(m/s2)のものが使用される場合がある。いずれにおいても、最終制御入力を算出する際には、上記の上限以下の速度・加速度により変化し得る範囲で設定されるものとなる。
【0059】
<制御法(制御設計法)>
以上のように、本実施形態による制御方法によれば、
図4に示す制御系のブロック線図に示すことができる。すなわち、基本入力(u
r(t))に対する入力シェーパ(IS)の畳み込みにより、参照制御入力(uバー)を導出させ、その参照制御入力に基づいて出力される振動挙動(参照振動出力(ξ))とともに規範モデルを形成するものである。このときの規範モデルは線形モデルによるものである。そして、これらの入出力は、制御法に組み入れられる。このとき、線形モデルにおける初期入力時のロープ長(lバー)および非線形時(ロープ長変化時)の変化速度等も制御法に組み入れられることにより、上述のように、線形モデルによる振動挙動(参照振動出力(ξ))と同じ振動挙動となることを前提に制御信号(最終制御入力(u))を導出し、サーボドライバ等を介してジブクレーンに出力することで、振動挙動(θ)をゼロに抑制するものである。このときの振動制御はフィードフォワード制御としており、振動挙動(θ)をゼロに抑制するとの意味は、吊荷が目標位置まで移動終了時において、振動を収束させる(残留振動をゼロにする)ことであり、移動の過程において残留振動を含む振動を吸収させる制御方法である。
【0060】
<まとめ>
上記のような本実施形態をフローチャートにまとめると、
図5に示すことできる。そこで、このフローチャートに沿って制御方法を説明する。制御の開始により、アクチュエータの状態から吊荷の位置を確認する(S101)。この吊荷の位置情報は、逐次記憶手段に記憶した情報を読み出すものでもよく、アクチュエータを構成するドラムの角度を検出して吊荷の位置を割り出してもよい。次に、吊荷を移動すべき目標位置が入力(操作者によって入力)されると(S102)、その目標位置までの移動に関する参照制御入力が導出される(S103)。参照制御入力には、前述のとおり基本入力が使用される。また、参照制御入力の導出と同時に参照振動出力も導出されることから、両者をもって規範モデルが形成される(S104)。規範モデルが形成されると、これを参照して(同じ振動出力とみなして)設計パラメータが演算される(S105)。設計パラメータは、前述の基本入力を形成するもの(a,t
1)であるが、評価関数(前記式(17))を最小値とするために、この段階で決定される(S106)。設計パラメータ(a,t
1)が決定することにより、最終制御入力が決定することから、その制御入力を算出し(S107)、フィードフォワード制御としてアクチュエータに制御信号を出力するのである(S108)。このようにフィードフォワード制御の実行により、吊荷の移動は終了することとなる。
【0061】
<制御装置>
本実施形態の制御方法は、上記のような構成であるから、これを使用する制御システムとしては、
図6に示すような制御装置8を使用することとなる。制御装置8は一般的なPCによって構成することができるが、少なくとも所定情報の入出力を行う入出力部、演算部、記憶部を要する。入出力部は、アクチュエータの巻取りドラムの角度情報を入力するとともに、アクチュエータに制御信号を出力するためのものである。アクチュエータの巻取りドラムの角度情報は、俯仰角およびロープ長から吊荷の位置を検出するためであり、具体的にはエンコーダ等によって検出される検出値が入力される。出力される制御信号は、サーボドライバ82を経由してサーボモータ(アクチュエータ)に制御信号が出力されるものとしている。サーボモータにより、駆動の大きさおよびタイミングが出力されるものである。なお、本実施形態の制御方法はフィードバック制御ではなく、フィードフォワード制御であるため、エンコーダ情報は、吊荷の位置の算出のためにのみ用いられるものである。また、それぞれの入出力は、俯仰角のためのものとロープ長のためのものとに分けて設けられている。
【0062】
ところで、上記入力信号は、それぞれ演算部によって所定の演算がなされる。まず、ジブ用アクチュエータ(俯仰用駆動部)およびロープ長用アクチュエータ(巻取り駆動部)の状態(エンコーダ情報)に基づき吊荷の位置を算出する。また、操作者が吊荷の移動を入力するときの入力された吊荷の移動先情報に基づき、ロープ長を一定としつつジブに対して俯仰角のみを変化させる線形モデルにおける非制御状態の入力(基本入力)を算出する。さらに、基本入力に対してゼロ振動入力シェーパを用いたインプットシェーピング法を適用して、俯仰の変化終了時に吊荷の残留振動を吸収させるような参照振動出力を得るための参照制御入力を導出するのである。この参照制御入力は、規範制御モデルを形成するため、記憶部に一時的記憶されるものである。また、参照振動出力は参照制御入力による振動挙動であるが、これも演算部において算出可能であり、規範モデルを形成するものとして記憶部に記憶することができる。
【0063】
そのうえで、演算部は、さらに、ロープ長を変化させつつジブの俯仰角を変化させるときの動力学モデルと、規範制御モデルにおける動力学モデルとを比較しつつ、両者の振動出力が同一であるとみなしたときの制御入力を最終制御入力として導出する。導出された最終制御入力は、俯仰を制御するため、俯仰制御部によって俯仰角を変化させるための出力信号を導出し、また、ロープ長を制御するため、ロープ制御部によってロープ長を変化させるための出力信号を導出するものとしている。
【0064】
<実験例1>
上述した制御方法により、シミュレーションを行った。ジブの長さ(LB)を3mとし、ジブの角度およびロープ長を同時に変化しつつ吊荷を移動した。そのときの条件は下表のとおりである。
【0065】
【0066】
上記条件により、吊荷の到達時間(tf)は、二分法により、ウインチ等のアクチュエータの制限を満たす最小値((tf)min)を求めることとした。その結果による設計パラメータ(a、t1)および到達時間の最小値((tf)min)として、下表の結果を得た。
【0067】
【0068】
上記に基づき、振動挙動に関するシミュレーションを行ったところ、
図7に示す結果を得ることができた。
図7には、比較のために、本実施形態による制御の場合(図中MRISと記載)、ロバスト入力整形法(ZVDD入力整形制御:非特許文献1参照)に基づくZVDD入力シェーパを使用した場合(図中ZVDDと記載)、および制御を行わない場合(図中Non Controlと記載)についても同一条件でシミュレーションしたものを示している。なお、図中に表示の「MRIS」とは、モデルリファレンス型のインプットシェイイング法を意味する「Mode Reference Input Shaping」の略語であり、本願の発明者らが提案する制御方法である。
【0069】
また、
図7には、アクチュエータの作動に伴うドラム角の変化およびロープ長の変化を右欄に示しており、本実施形態による制御方法により制御されるアクチュエータの状態が示されている。ただし、ロープ長の変化速度および加速度は、巻上のため、マイナスの方向に変化するものとして示されている。
【0070】
この
図7に示されているように、本実施形態による制御の場合には、ジブの俯仰角およびロープ長を、ともに円滑に変化させることができ、吊荷の移動終了時において吊荷の振動挙動(θ)は収束した状態(残留振動はゼロ(θ=0)の状態)となっている。これに対し、ZVDD入力シェーパを用いた場合は、振動が収束していないことが分かった。これは、線形制御の方法を、そのまま非線形制御に使用したためであり、ロバスト性入力シェーパを単純に用いる方法では残留振動を抑制させることができないことを示している。
【0071】
なお、このシミュレーションでは、設計パラメータ(a,t1)の算出のために、インテル社製の2.7GHZ Intel Core(登録商標) i5-4310Mおよび8GBのRAMを搭載したPCを使用した。そのときの算出速度は、10.76秒であった。従って、目標値の入力後から吊荷を目標位置への移動を終了するまでの時間は、30秒未満という極めて短時間で達成させることが可能となるという結果を得た。この制御時間は、フィードバック制御によって振動を抑制させる場合に比較すれば、短時間であるということができる。
【0072】
<実験例2>
上記と異なる条件(ただし、ジブの長さ(LB)は3mで同じ)により、ジブの角度およびロープ長を変化させつつ吊荷を移動するシミュレーションを行った。そのときの条件は下表のとおりである。
【0073】
【0074】
上記条件により、吊荷の到達時間(tf)は、二分法により、ウインチ等のアクチュエータの制限を満たす最小値((tf)min)を求めることとした。その結果による設計パラメータ(a、t1)および到達時間の最小値((tf)min)として、下表の結果を得た。
【0075】
【0076】
上記のシミュレーション結果を
図8に示す。図中の内容については、実験例1と同様である。
【0077】
この結果からも明らかなとおり、本実施形態による制御方法を用いる場合には、ジブの俯仰角およびロープ長の変化は円滑であり、吊荷の移動終了時の振動挙動(θ)も収束している(残留振動がゼロ(θ=0)となっている)。他方、ZVDD入力シェーパを用いる振動が収束していないことも同様であった。
【0078】
また、実験例1と同様に、設計パラメータ(a,t1)の算出は、インテル社製の2.7GHZ Intel Core(登録商標) i5-4310Mおよび8GBのRAMを搭載したPCを使用した。実験例2においても算出速度は、9.53秒という短時間での算出が可能であった。実験1の場合も同様であるが、十秒前後の計算時間であれば、本発明のようにフィードフォワード制御の場合には、条件変更に対して現場で計算し、かつクレーンを操業することに使用できることから、十分に実用的な範囲である。
【0079】
従って、実験例1および2を総合すると、本実施形態による制御方法により制御する場合には、吊荷の移動に係る時間は、入力から終了までに30秒を要しないものと言うことができる。
【0080】
<変形例等>
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、実施形態は本発明の一例であり、本発明が実施形態に限定されるものではない。従って、本発明の要素の一部を変更し、または他の要素を追加することは可能である。
【0081】
例えば、上記実施形態においては、クレーンの旋回(本体部の回転)による吊荷の移動については特に説明していないが、本実施形態の適用され得るジブクレーンは旋回も可能なものであり、旋回については別途制御させることができる。この場合、旋回操作と、俯仰およびロープ長の操作とは、安全上の観点から同時に実行しないこととされているため、それぞれが個別に操作・制御されることとなる。すなわち、俯仰およびロープ長のための振動制御とは別に旋回のための振動制御が行われることとなるのである。
【0082】
また、当然のことながら、俯仰のみ、またはロープ長のみの変化により吊荷を移動させることができる場合は、非線形モデルを採用することなく、線形モデルの状態で振動制御を行えばよいものである。
【符号の説明】
【0083】
1 ジブクレーン
2 クレーンポスト
3 本体部
4 ジブ
5 アクチュエータ(ウインチ等)
6 吊り下げロープ
7 吊荷
8 制御装置
41 ワイヤロープ
81 処理部
82 サーボドライバ