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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053124
(43)【公開日】2023-04-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20230404BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230404BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230404BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230404BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/62 Z
H01M10/0568
H01M4/13
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018595
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2018187523の分割
【原出願日】2018-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】古谷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】原 富太郎
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた充放電特性・サイクル特性を有するリチウムイオン電池を製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層にイオン液体電解質を含浸させる工程を備える。前記イオン液体電解質は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩とを含む。前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンである。前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。前記イオン液体電解質は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含む。前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、予め50℃以上100℃以下の温度に昇温した前記イオン液体電解質を前記正極活物質層又は前記負極活物質層に含浸させる工程である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層にイオン液体電解質を含浸させる工程を備え、
前記イオン液体電解質は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩とを含み、
前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンであり、
前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであり、
前記カチオンは、ピロリジニウム系イオンであり、
前記イオン液体電解質は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含み、
前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、予め50℃以上100℃以下の温度に昇温した前記イオン液体電解質を、前記正極活物質層又は前記負極活物質層に含浸させる工程であることを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項2】
多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層にイオン液体電解質を含浸させる工程を備え、
前記イオン液体電解質は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩とを含み、
前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンであり、
前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであり、
前記カチオンは、イミダゾリウム系イオンであり、
前記イオン液体電解質は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含み、
前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、予め70℃以上100℃以下の温度に昇温した前記イオン液体電解質を、前記正極活物質層又は前記負極活物質層に含浸させる工程であることを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項3】
前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、含浸時の粘度が50mPa・s以下である前記イオン液体電解質を前記正極活物質層又は前記負極活物質層に含浸させる工程である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、前記正極活物質層又は前記負極活物質層を前記イオン液体電解質で満たした後も、含浸工程が終了するまで前記イオン液体の温度を予め昇温した温度に保つことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、減圧下で行われる請求項1~4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記カチオンは、メチルプロピルピロリジニウムイオンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記カチオンは、エチルメチルイミダゾリウムイオンである請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記正極活物質層内又は前記負極活物質層内の細孔の細孔径が10μm以下である請求項1~7のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
前記正極活物質層内の細孔の細孔径と細孔容積との関係を示すlog微分細孔容積分布曲線は、細孔径が0.6μm以下である範囲にピークを有する請求項1~8のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項10】
前記負極活物質層内の細孔の細孔径と細孔容積との関係を示すlog微分細孔容積分布曲線は、細孔径が1μm以下である範囲にピークを有する請求項1~9のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項11】
前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、前記正極活物質層を含む正極と、前記負極活物質層を含む負極と、セパレータとを含む電極集合体を電池ケースに入れた状態で行われる請求項1~10のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高いため、スマートフォン、ノートパソコンなどの電子・電気機器に幅広く搭載されている。リチウムイオン電池では一般的に電解液としてリチウム塩を非水溶媒に分散させた可燃性の非水電解液が用いられる。また、リチウムイオン電池では、過充電、正極-負極間の短絡などに起因して発熱する場合がある。さらに、正極活物質は、熱分解や過充電などにより結晶中の酸素を放出する場合がある。このため、リチウムイオン電池は、異常発熱や発火のおそれがある。
この異常発熱や発火による事故を防止するために、リチウムイオン電池の電解質溶媒にイオン液体を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。イオン液体は、アニオンとカチオンから構成される液体であり、一般的に蒸気圧が低く不燃性である。従って、イオン液体を電解質溶媒に用いることにより、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-195129号公報
【特許文献2】特開2018-116840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン液体は有機溶媒と比較して粘度が高い。このため、イオン液体電解質を用いる従来のリチウムイオン電池では、正極活物質層及び負極活物質層の細孔中をイオン液体電解質が移動する際の抵抗が高くなり、正極活物質層及び負極活物質層の隅々にまでイオン液体電解質を充填することが難しい。また、イオン液体電解質が充填されていない細孔が活物質層中にあると、正極又は負極の反応面積が狭くなり、リチウムイオン電池の充放電特性が低下する。また、イオン液体電解質を用いるリチウムイオン電池ではサイクル特性が低下する場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れた充放電特性・サイクル特性を有するリチウムイオン電池を製造することができる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層にイオン液体電解質を含浸させる工程を備え、前記イオン液体電解質は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩とを含み、前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンであり、前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであり、前記イオン液体電解質は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含み、前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、50℃以上100℃以下の温度の前記イオン液体電解質を前記正極活物質層又は前記負極活物質層に含浸させる工程であることを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法に用いるイオン液体電解質に含まれるイオン液体のアニオンはビス(フルオロスルホニル)イミドイオンである。このため、イオン液体電解質が低い粘性を有することができ、多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層の隅々にまでイオン液体電解質を含浸させることが可能である。
イオン液体に溶解したリチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。リチウム塩及びイオン液体が共にイミドアニオンを有するため、イオン液体電解質のリチウム塩濃度を高くすることができ、イオン液体電解質が高いイオン導電率を有することができる。この結果、リチウムイオン電池が優れた充放電特性を有することができる。
【0007】
イオン液体電解質を含浸させる工程は、50℃以上100℃以下の温度のイオン液体電解質を多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層に含浸させる工程である。イオン液体は温度が高くなるほど粘度が小さくなるため、イオン液体を50℃以上の温度とすることにより、イオン液体電解質の粘度を低下させることができ、イオン液体電解質が正極活物質層又は負極活物質層の細孔中に浸入する際の抵抗を小さくすることができる。このため、この粘度を低下させたイオン液体電解質を多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層に含浸させることにより、正極活物質層又は負極活物質層のほとんどの微細な細孔にイオン液体電解質を充填することができる。このため、正極活物質又は負極活物質とイオン液体電解質との間の電極反応が進行する電極の表面積を広くすることができ、リチウムイオン電池の充放電特性を向上させることができる。
イオン液体電解質は、リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含む。このため、リチウムイオン電池が優れた充放電特性・サイクル特性を有することができる。このことは、本願の発明者等が行った実験により明らかになった。実験では、リチウム塩濃度が0.8mol/Lであるイオン液体電解質を用いた電池ではサイクル特性の低下が見られた。このため、リチウム塩濃度を1.6mol/L以上とすることにより、イオン液体電解質の変性を防ぐことができ、サイクル特性を向上させることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の概略斜視図である。
図2図1の破線A-Aにおけるリチウムイオン電池の概略断面図である。
図3】(a)は本発明の一実施形態のリチウムイオン電池に含まれる正極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線B-Bにおける正極の概略断面図である。
図4】(a)は本発明の一実施形態のリチウムイオン電池に含まれる負極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線C-Cにおける負極の概略断面図である。
図5】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池に含まれる電極集合体の概略斜視図である。
図6】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の製造方法の説明図である。
図7】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の製造方法の説明図である。
図8】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の製造方法の説明図である。
図9】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の製造方法の説明図である。
図10】イオン液体の粘度の温度依存性を示すグラフである。
図11】正極活物質層の細孔分布である。
図12】負極活物質層の細孔分布である。
図13】DSC測定の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、多孔性の正極活物質層又は多孔性の負極活物質層にイオン液体電解質を含浸させる工程を備え、前記イオン液体電解質は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、前記イオン液体に溶解したリチウム塩とを含み、前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンであり、前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであり、前記イオン液体電解質は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含み、前記イオン液体電解質を含浸させる工程は、50℃以上100℃以下の温度の前記イオン液体電解質を前記正極活物質層又は前記負極活物質層に含浸させる工程であることを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法に含まれるイオン液体電解質を含浸させる工程は、50mPa・s以下の粘度を有するイオン液体電解質を正極活物質層又は負極活物質層に含浸させる工程であることが好ましい。また、イオン液体電解質を含浸させる工程は、減圧下で行われることが好ましい。このことにより、正極活物質層又は負極活物質層の隅々にまでイオン液体電解質を含浸させることができる。
イオン液体電解質に含まれるイオン液体のカチオンは、ピロリジニウム系イオン又はイミダゾリウム系イオンであることが好ましい。また、このカチオンは、メチルプロピルピロリジニウムイオン又はエチルメチルイミダゾリウムイオンであることが好ましい。このことにより、イオン液体電解質の粘度を小さくすることができる。
【0011】
正極活物質層内又は負極活物質層内の細孔の細孔径と細孔容積との関係を示すlog微分細孔容積分布曲線は、細孔径が0.6μm以下である範囲にピークを有することが好ましい。このことにより、正極反応が進行する正極表面又は負極反応が進行する負極表面を広くすることができ、リチウムイオン電池の充放電特性を向上させることができる。
本発明の製造方法に含まれるイオン液体電解質を含浸させる工程は、正極活物質層を含む正極と、負極活物質層を含む負極と、セパレータとを含む電極集合体を電池ケースに入れた状態で行われることが好ましい。このことにより、正極活物質層及び負極活物質層に同時にイオン液体電解質を含浸させることができる。
【0012】
本発明は、電極集合体と、イオン液体電解質と、前記電極集合体及び前記イオン液体電解質を収容する電池ケースとを備えるリチウムイオン電池も提供する。このリチウムイオン電池において、電極集合体は、多孔性の正極活物質層を含む正極と、多孔性の負極活物質層を有する負極と、セパレータとを含み、イオン液体電解質は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、イオン液体に溶解したリチウム塩とを含み、アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンであり、リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであり、イオン液体電解質は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含む。
【0013】
本実施形態のリチウムイオン電池に含まれる正極活物質層又は負極活物質層は、細孔径が0.6μm以下である細孔を有することが好ましく、イオン液体電解質は、前記細孔に充填されていることが好ましい。このことにより、リチウムイオン電池が優れた充放電特性を有することができる。
本実施形態のリチウムイオン電池に含まれるイオン液体のカチオンは、メチルプロピルピロリジニウムイオン又はエチルメチルイミダゾリウムイオンであることが好ましい。
本実施形態のリチウムイオン電池に含まれる正極活物質層又は負極活物質層は、35μm以上200μm以下の厚さを有することが好ましい。このことにより、正極活物質層又は負極活物質層の隅々までイオン液体電解質を含浸させることができる。
【0014】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
図1は本実施形態のリチウムイオン電池の概略斜視図であり、図2図1の破線A-Aにおけるリチウムイオン電池の概略断面図である。図3は正極の概略平面図及び概略断面図であり、図4は負極の概略平面図及び概略断面図であり、図5は電極集合体の概略斜視図である。図6~9は本実施形態のリチウムイオン電池の製造方法の説明図である。
【0016】
本実施形態のリチウムイオン電池50の製造方法は、多孔性の正極活物質層3又は多孔性の負極活物質層8にイオン液体電解質6を含浸させる工程を備える。イオン液体電解質6は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、イオン液体に溶解したリチウム塩とを含む。前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(FSI)である。前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)である。イオン液体電解質6は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含む。前記イオン液体電解質6を含浸させる工程は、50℃以上100℃以下の温度のイオン液体電解質6を正極活物質層3又は負極活物質層8に含浸させる工程である。
【0017】
本実施形態のリチウムイオン電池50は、電極集合体10と、イオン液体電解質6と、電極集合体10及びイオン液体電解質6を収容する電池ケース12とを備える。電極集合体10は、多孔性の正極活物質層3を含む正極2と、多孔性の負極活物質層8を有する負極7と、セパレータ11とを含む。イオン液体電解質6は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、イオン液体に溶解したリチウム塩とを含む。前記アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオンである。前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。イオン液体電解質6は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含む。
【0018】
電池ケース12は、電極集合体10(正極2と負極7とセパレータ11を含む)とイオン液体電解質6とを収容する電池外装体である。電池ケース12は、ラミネートフィルムを溶着部20において溶着することにより袋状にしたものであってもよい。この場合、リチウムイオン電池50は、パウチ電池である。また、電池ケース12は、金属製のケースであってもよく、硬質樹脂製のケースであってもよい。
【0019】
正極2は、多孔性の正極活物質層3を有する電極である。正極活物質層3は、例えば、シート状の正極集電体15上に設けられた正極活物質4を含む多孔質層である。正極2は、例えば、図3に示したような構造を有することができる。正極集電体15は正極端子18に電気的に接続する。正極集電体14は、例えば、アルミニウム箔である。
正極活物質4は、正極2における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。正極活物質4は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-x2(x=0.01~0.99)、LiMnO2、LiMn24、LiCoxMnyNiz2(x+y+z=1)又はオリビン型のLiFePO4やLixFe1-yyPO4(但し、0.05≦x≦1.2、0≦y≦0.8であり、MはMn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nbのうち少なくとも1種以上である)などである。正極活物質層3は、これらの正極活物質を一種単独で又は複数種混合で含むことができる。また、正極活物質は、表面に導電皮膜を有してもよい。このことにより、インターカレーション反応が進行する正極活物質表面の導電性を向上させることができ、正極2の内部抵抗を低くすることができる。導電皮膜は、例えば、炭素皮膜である。
【0020】
リチウムイオン電池50の充放電に伴う正極反応は、正極活物質4の表面において主に進行する。このため、正極活物質層3が多孔性を有することにより、正極活物質層3の細孔5の内壁面においても正極反応を進行させることができ、リチウムイオン電池50の充放電特性を向上させることができる。ただし、細孔5の内壁面において正極反応を進行させるためには、その細孔5がイオン液体電解質6で満たされている必要がある。
正極活物質層3は、正極活物質層3内の細孔5の細孔径と細孔容積との関係を示すlog微分細孔容積分布曲線が細孔径が0.6μm以下である範囲にピークを有するように設けることができる。
【0021】
正極活物質層3の細孔径が0.6μm以下である細孔5がイオン液体電解質6で満たされるように、イオン液体電解質6を正極活物質層3に含浸させることができる。このことにより、正極活物質層3は正極反応が進行する広い表面積を有することができ、リチウムイオン電池50の充放電特性を向上させることができる。イオン液体電解質6を正極活物質層3に含浸させる方法については後述する。
正極活物質層3は、35μm以上200μm以下の厚さを有することができる。このことにより、正極活物質層3の隅々までイオン液体電解質6を含浸することができ、正極活物質層3内の大部分の細孔5をイオン液体電解質6で満たすことができる。
【0022】
正極活物質層3は、導電助剤を含むことができる。このことにより、正極活物質層3の導電性を向上させることができ、正極2の内部抵抗を低減することができる。導電助剤は、例えば、アセチレンブラックである。また、導電助剤は、易黒鉛化性炭素であるコークス系ソフトカーボンの微粒子であってもよい。
正極活物質層3は、バインダーを含むことができる。バインダーは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アクリロニトリルゴム、又はアクリロニトリルゴム-PTFE混合体などである。
【0023】
例えば、正極活物質の粉末と、導電助剤と、バインダーとを混合してペーストを調製し、このペーストを正極集電体15上に塗布する。その後、塗布層を乾燥させ、プレス処理することにより正極活物質層3を形成することができる。ペーストの調製に用いる溶剤としては、水、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等が挙げられる。
【0024】
負極7は、多孔性の負極活物質層8を有する電極である。負極活物質層8は、例えば、シート状の負極集電体16上に設けられた負極活物質を含む多孔質層である。負極7は、例えば、図4に示したような構造を有することができる。負極集電体16は負極端子19に電気的に接続する。負極集電体16は、例えば、銅箔である。
負極活物質は、負極における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。負極活物質は、例えば、グラファイト、部分黒鉛化した炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、チタン酸リチウム(LTO)、Sn合金などである。負極活物質層8は、これらの負極活物質を一種単独で又は複数種混合で含むことができる。
【0025】
リチウムイオン電池50の充放電に伴う負極反応は、負極活物質の表面において主に進行する。このため、負極活物質層8が多孔性を有することにより、負極活物質層8の細孔の内壁面においても負極反応を進行させることができ、リチウムイオン電池50の充放電特性を向上させることができる。ただし、細孔の内壁面において負極反応を進行させるためには、その細孔がイオン液体電解質6で満たされている必要がある。
負極活物質層8は、負極活物質層8内の細孔の細孔径と細孔容積との関係を示すlog微分細孔容積分布曲線が細孔径が10μm以下である範囲にピークを有するように設けることができる。負極活物質層8は、負極活物質層8内の細孔の細孔径と細孔容積との関係を示すlog微分細孔容積分布曲線が1μm以下さらには、0.6μm以下である範囲にピークを有するように設けることが好ましい。
【0026】
負極活物質層8の細孔径が上記範囲内である細孔がイオン液体電解質6で満たされるように、イオン液体電解質6を負極活物質層8に含浸させることができる。このことにより、負極活物質層8は負極反応が進行する広い表面積を有することができ、リチウムイオン電池50の充放電特性を向上させることができる。イオン液体電解質6を負極活物質層8に含浸させる方法については後述する。
負極活物質層8は、35μm以上200μm以下の厚さを有することができる。このことにより、負極活物質層8の隅々までイオン液体電解質6を含浸することができ、負極活物質層8内の大部分の細孔をイオン液体電解質6で満たすことができる。
【0027】
負極活物質層8は、バインダーを含むことができる。バインダーは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アクリロニトリルゴム、又はアクリロニトリルゴム-PTFE混合体などである。
負極活物質層8は、適宜増粘剤等の添加物を含むことができる。
【0028】
例えば、負極活物質の粉末と、バインダーとを混合してペーストを調製し、このペーストを負極集電体16上に塗布する。その後、塗布層を乾燥させ、プレス処理することにより負極活物質層8を形成することができる。ペーストの調製に用いる溶剤としては、例えば、水、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等である。
【0029】
セパレータ11は、シート状であり、正極2と負極7との間に配置される。また、セパレータ11は、正極2、負極7と共に図5に示したような電極集合体10を構成することができる。セパレータ11を設けることにより、正極2と負極7との間に短絡電流が流れることを防止することができる。
セパレータ11は、短絡電流が流れることを防止でき、正極-負極間を伝導するイオンが透過可能なものであれば特に限定されないが、例えばポリオレフィンの微多孔性フィルム、セルロースシート、アラミドシートとすることができる。また、セパレータ11は、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、及びポリエチレンテレフタレート繊維のうち少なくとも1つを含む不織布であってもよい。
【0030】
電極集合体10は、図2図5に示したように、正極2と負極7とが交互に配置されるように複数の正極2と複数の負極7とが積層した構造を有することができる。また、電極集合体10は、隣接する正極2と負極7との間にセパレータ11が配置された構造を有することができる。
【0031】
イオン液体電解質6は、電池ケース12内に収容されて正極-負極間のイオン伝導媒体となる。イオン液体電解質6は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、イオン液体に溶解したリチウム塩とを含む。
イオン液体は、アニオンとカチオンから構成される液体である。イオン液体は一般的に蒸気圧が低く燃えにくいため、イオン液体電解質6を用いることにより、リチウムイオン電池50の安全性を向上させることができる。
【0032】
イオン液体電解質6に含まれるイオン液体は、例えば、アニオンであるビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(以下、FSIイオンという)と、カチオンであるピロリジニウム系イオンとから構成される。具体的には、イオン液体は、FSIイオンと、メチルプロピルピロリジニウムイオン(以下、MPPイオンという)とから構成される。このようなイオン液体を用いることにより、イオン液体電解質6が低い粘性を有することができる。また、負極活物質にソフトカーボンやハードカーボンなどの炭素系材料を用いた場合でも、充放電に伴い負極活物質にリチウムイオンを挿入脱離させることができる。
また、イオン液体電解質6に含まれるイオン液体は、例えば、アニオンであるFSIイオンと、カチオンであるイミダゾリウム系イオンとから構成される。具体的には、イオン液体は、FSIイオンと、エチルメチルイミダゾリウムイオン(以下、EMIイオンという)とから構成される。このようなイオン液体を用いることにより、イオン液体電解質6が低い粘性を有することができる。また、負極活物質にソフトカーボンやハードカーボンなどの炭素系材料を用いた場合でも、充放電に伴い負極活物質にリチウムイオンを挿入脱離させることができる。
【0033】
イオン液体電解質6に含まれるリチウム塩(イオン液体に溶解したリチウム塩)は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSIという)又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSIという)である。このようなリチウム塩を用いることにより、リチウム塩をイオン液体に比較的に高い濃度で溶解させることができる。
イオン液体電解質6は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.2mol/L以下の濃度で含む。また、イオン液体電解質6は、前記リチウム塩を1.6mol/L以上3.0mol/L以下の濃度で含んでもよい。
イオン液体電解質6は、リチウム塩濃度が3.2mol/L程度で飽和溶液になると考えられる。
【0034】
リチウム塩濃度を1.6mol/L以上とすることにより、イオン液体電解質6のイオン伝導率を大きくすることができ、リチウムイオン電池50の充放電特性を向上させることができる。
また、リチウム塩濃度を1.6mol/L以上とすることにより、リチウムイオン電池50が優れたサイクル特性を有することができる。このことは、本発明者等が行った実験により明らかになった。
リチウム塩濃度を1.6mol/L以上とすることにより、100℃以下の温度においてイオン液体とリチウム塩とが反応しイオン液体電解質6が変性することを抑制することができる。このため、リチウムイオン電池50の製造工程においてイオン液体電解質6を100℃以下の温度に昇温させることができる。
【0035】
次に、リチウムイオン電池50の製造工程に含まれる工程であり、正極活物質層3又は負極活物質層8にイオン液体電解質6を含浸させる工程(以下、含浸工程という)について説明する。含浸工程を行うことにより、正極活物質層3又は負極活物質層8の隅々にまでイオン液体電解質6を含浸させることができ、リチウムイオン電池50の充放電特性を向上させることができる。
含浸工程では、50℃以上100℃以下の温度のイオン液体電解質6を正極活物質層3又は負極活物質層8に含浸させる。このことにより、イオン液体電解質6の粘度を小さくすることができ、正極活物質層3又は負極活物質層8の隅々までイオン液体電解質6を含浸させることができる。また、50mPa・s以下の粘度を有するイオン液体電解質6を正極活物質層3又は負極活物質層8に含浸させてもよい。
【0036】
含浸工程は、減圧下において行うことができる。このことにより、正極活物質層3の細孔5内の空気及び負極活物質層8の細孔内の空気を排出することができ、これらの細孔をイオン液体電解質6で満たすことができる。
含浸工程は、電極集合体10及びイオン液体電解質6を収容した電池ケース12を真空オーブン22に入れて行うことができる。例えば、含浸工程は図6(a)~(e)のように行うことができる。
図6(a)のように、正極2、負極7、セパレータ11を積層した電極集合体10に正極端子18及び負極端子19を取り付ける。次に、図6(b)のように電極集合体10を電池ケース12に入れ、図6(c)のように電池ケース12に注入口27からイオン液体電解質6を入れる。この際、例えば、図7(a)のように、正極活物質層3の上端及び負極活物質層8の上端がイオン液体電解質6の液面よりも高くなるようにイオン液体電解質6を入れることができる。なお、図7は、正極活物質層3についての説明図であるが、負極活物質層8についても同じように説明することができる。
【0037】
次に、図6(d)のように、注入口27が開いた電池ケース12を真空オーブン22に入れ、真空オーブン22の内部温度が50℃以上100℃以下となるように真空オーブン22内をヒーター23で暖めながら、真空ポンプで真空オーブン22内の気体を吸引し、正極活物質層3の細孔内の気体及び負極活物質層8の細孔内の気体を脱気する。このため、イオン液体電解質6が正極活物質層3の細孔内及び負極活物質層8の細孔内に入りやすくなる。
また、イオン液体電解質6は真空オーブン22の内部温度まで昇温するため、イオン液体電解質6の粘度が小さくなり、イオン液体電解質6が正極活物質層3の細孔内及び負極活物質層8の細孔内を移動する際の抵抗が小さくなる。このため、図7(b)のように、正極活物質層3及び負極活物質層8へのイオン液体電解質6の含浸が進行し、正極活物質層3の細孔5及び負極活物質層8の細孔はイオン液体電解質6で満たされる。また、セパレータ11の細孔もイオン液体電解質6で満たされる。
真空オーブン22内での含浸時間は、例えば、1時間以上10時間以下とすることができる。
次に、図6(d)のように、電池ケース12を真空オーブン22から取り出し、注入口27を塞ぐことにより、リチウムイオン電池50が完成する。
【0038】
また、含浸工程は、電極集合体10を収容した電池ケース12内の気体を真空ポンプで吸引し正極活物質層3及び負極活物質層8を脱気した後、イオン液体電解質6を電池ケース12内に注入することにより行うことができる。また、50℃以上100℃以下のイオン液体電解質6を電池ケース12内に注入してもよい。
例えば、含浸工程は図8(a)~(d)のように行うことができる。図8(b)のように、電池ケース12内にイオン液体電解質6を入れる前に、真空ポンプで電池ケース12内を脱気することにより、正極活物質層3の細孔内の気体及び負極活物質層8の細孔内の気体をしっかりと除去することができる。そして、図8(c)のように、細孔内の気体が除去された正極活物質層3及び負極活物質層8を収容した電池ケース12内にイオン液体電解質6を注入することにより、正極活物質層3及び負極活物質層8にイオン液体電解質6をしっかりと含浸させることができる。この際、電池ケース12内に50℃以上100℃以下のイオン液体電解質6を注入することができる。また、図8(d)のように注入口27を塞いだ後、リチウムイオン電池50を50℃以上100℃以下の温度に調整されたオーブン内に入れてもよい。このことにより、正極活物質層3及び負極活物質層8へのイオン液体電解質6の含浸を進行させることができる。
【0039】
また、含浸工程は、電極集合体10を電池ケース12に入れる前に行ってもよい。例えば、含浸工程は図9(a)~(d)のように行うことができる。
図9(b)のように、電極集合体10及びイオン液体電解質6を収容した容器25を真空オーブン22に入れ、真空オーブン22の内部温度が50℃以上100℃以下となるように真空オーブン22内をヒーター23で暖めながら、真空ポンプで真空オーブン22内の気体を吸引し、正極活物質層3の細孔内の気体及び負極活物質層8の細孔内の気体を脱気する。このことにより、正極活物質層3及び負極活物質層8へのイオン液体電解質6の含浸を進行させ、正極活物質層3の細孔5及び負極活物質層8の細孔をイオン液体電解質6で満たす。真空オーブン22内での含浸時間は、例えば、1時間以上10時間以下とすることができる。そして、図9(c)のように、イオン液体電解質6及び容器25から取り出した電極集合体10を電池ケース12に入れ、図9(d)のように注入口27を塞ぐことによりリチウムイオン電池50が完成する。
【0040】
充放電実験
表1、2に示した電池1~31を作製し充放電実験を行った。
正極は、アルミニウム箔(正極集電体)の片面上に正極活物質のペーストを塗工し乾燥させることにより作製した。正極活物質層のサイズは、90.5mm×51.5mm、厚さ39μmとした。電池1~31のすべての電池で正極活物質にリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用い、同じように作製した正極を用いた。
負極は、銅箔(負極集電体)の片面上に負極活物質のペーストを塗工し乾燥させることにより作製した。負極活物質層のサイズは、93.5mm×55mm、厚さ45μmとした。電池1~28では負極活物質にソフトカーボン(SC)を用い、電池29、30では負極活物質にチタン酸リチウム(LTO)を用い、電池31では負極活物質にハードカーボン(HC)を用いた。
【0041】
正極活物質層と負極活物質層とが向かい合うように、作製した1枚の正極、セパレータ(不織布)、作製した1枚の負極をこの順で重ねて電極集合体を作製し、作製した電極集合体及びイオン液体電解質をラミネートフィルム製の電池ケースに入れた。イオン液体電解質には、イオン液体にリチウム塩を溶解させたものを用いた。
電池1~16、26、29~31では、MPPイオンとFSIイオンから構成されるイオン液体を用い、電池17~25では、EMIイオンとFSIイオンから構成されるイオン液体を用い、電池27ではEMIイオンとTFSIイオンから構成されるイオン液体を用い、電池28ではMPPイオンとTFSIイオンから構成されるイオン液体を用いた。
また、電池1~25、29~31ではリチウム塩としてLiFSIを用い、電池26~28ではリチウム塩としてLiTFSIを用いた。リチウム塩の濃度は、0.8M~3.2Mとし、詳細は表1、2に示した。
【0042】
次に、イオン液体電解質を正極活物質層及び負極活物質層に含浸させる含浸工程を行った。電池1、8、17、20では常温、常圧で含浸工程を行い、その他の電池では、真空含浸を行った。真空含浸は、図6(d)のように真空オーブンを用いて行った。各電池の真空含浸の時間及び温度は表1、2に示した。また、真空オーブン内の気体は、MAX減圧値が6.7×10-2Paである真空ポンプを用いて吸引した。
そして、電池ケースの内部を密閉状態にすることにより電池1~31を作製した。
【0043】
作製した電池1~31を用いて初期充放電を行った。初期充放電では、1、2回目の充放電を0.1C(3.75mA)で行い、3回目の充放電を1.0C(37.5mA)で行った(充電:CCCV、放電:CC)。
その後、充放電を繰り返すサイクル試験を行った(充放電電流:1.0C、充電:CCCV、放電:CC、サイクル回数:100回)。
初期充放電及びサイクル試験の測定結果から算出した各電池の放電容量を表1、2に示す。なお、電池3、6、15ではサイクル試験を行ってなく、電池5、7、16、21、27~31では、サイクル試験を100回目まで行っていない。
また、イオン液体の粘度の温度依存性を図10に示し、正極活物質層の細孔分布を図11に示し、負極活物質層(ソフトカーボン)の細孔分布を図12に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
電池1~4では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が0.8M LiFSIであり、含浸条件を常温~100℃とした。含浸条件を常温常圧とした電池1では、初期充放電における放電容量が20.7mAhであったのに対し、60℃以上の温度で真空含浸を行った電池2~4では、初期充放電における放電容量が29.9mAh~37.6mAhであり、電池1よりも大きくなった。
イオン液体は図10に示したように、室温では粘度が高く、温度が高くなるほど粘度が低下する。従って、常温常圧でイオン液体電解質を正極活物質層及び負極活物質層に含浸させた電池1では、イオン液体電解質の粘度が比較的高く真空引きしていないため、図11、12に示した10μm以下の微細な細孔にイオン液体電解質が十分に含浸されていないと考えられ、正極活物質層中又は負極活物質層中にイオン液体電解質が含浸されていない部分が存在すると考えられる。
また、60℃以上の真空オーブン中で含浸工程を行った電池2~4では、イオン液体電解質の粘度が比較的低く真空引きしているため、図11、12に示した10μm以下の微細な細孔にイオン液体電解質が含浸されていると考えられ、正極活物質層及び負極活物質層の隅々にまでイオン液体電解質が含浸されていると考えられる。この結果、電池2~4の放電容量が電池1よりも大きくなったと考えられる。
【0047】
また、イオン液体電解質の代わりに非水電解液(非水溶媒:EC / DEC / EMC = 27.5 / 5 / 67.5(添加剤VC0.7%、FEC0.3%)、リチウム塩:LiPF61.2mol/L)を用いた第1参考電池も作製した。電解液以外の構成、製造方法及び実験方法は、電池1と同じである。第1参考電池では、初期充放電(0.1C)における放電容量は、37.8mAhであり、第1サイクルの放電容量は33.7mAhであり、第100サイクルの放電容量は32.4mAhであった。
電池1~4と第1参考電池とを比較すると、電池1の初期充放電における放電容量は、第1参考電池の放電容量の50%程度であり、電池2の初期充放電における放電容量は、第1参考電池の放電容量の80%程度であり、電池3、4の初期充放電における放電容量は、第1参考電池の放電容量とほぼ同じであった。
また、電池1、2、4のサイクル試験では、サイクルを重ねるにつれて放電容量が低下し、第100サイクルでは放電容量が5mAh以下となった。従って、電池1、2、4では、サイクル特性がよくないことがわかった。
【0048】
電池5~7では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が1.6M LiFSIであり、含浸条件を60℃~100℃の真空含浸とした。これらの電池の初期充放電における放電容量は30mAh以上であり、これらの電池は十分に大きな放電容量を有していた。このため、電池5~7では、正極活物質層及び負極活物質層にイオン液体電解質を十分に含浸できていると考えられる。
【0049】
電池8~14では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が2.4M LiFSIであり、含浸条件を常温~100℃とした。
含浸条件を常温常圧とした電池8及び含浸条件を40℃、真空含浸とした電池9では、初期充放電における放電容量が25mAh以下であったのに対し、50℃以上の温度で真空含浸を行った電池10~14では、初期充放電における放電容量が34mAh以上であり、電池8、9よりも大きくなった。このため、電池10~14では、正極活物質層及び負極活物質層にイオン液体電解質を十分に含浸できていると考えられる。このため、50℃以上の温度で真空含浸をすることにより、正極活物質層及び負極活物質層にイオン液体電解質を十分に含浸できることがわかった。
また、電池8~14のサイクル試験では、電池1、2、4のサイクル試験と異なり、大きな放電容量の低下は生じなかった。従って、リチウム塩の濃度が2.4Mで真空含浸時の温度が100℃以下である電池8~14は優れたサイクル特性を有することがわかった。
【0050】
電池15では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が3M LiFSIであり、含浸条件を80℃とした。また、電池16では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が3.2M LiFSIであり、含浸条件を100℃とした。これらの電池の初期充放電における放電容量は33mAh以上であり、これらの電池は十分に大きな放電容量を有していた。このため、リチウム塩の濃度を3M以上としても放電容量が低下しないことがわかった。ただし、電池16では、室温のイオン液体電解質においてリチウム塩の析出が観察された。
【0051】
電池17~19では、イオン液体がEMI-FSIであり、リチウム塩が0.8M LiFSIであり、含浸条件を常温~100℃とした。含浸条件を常温常圧とした電池17及び含浸条件を60℃、真空含浸とした電池18では、初期充放電における放電容量が14mAh以下であったのに対し、100℃で真空含浸を行った電池19では、初期充放電における放電容量が29.6mAhであり、電池17、18よりも大きくなった。このため、電池19では、正極活物質層及び負極活物質層にイオン液体電解質を十分に含浸できていると考えられる。また、イオン液体電解質のイオン液体にEMI-FSIを用いても、電池は大きな放電容量を有することがわかった。
また、電池17~19のサイクル試験では、電池1、2、4と同様にサイクルを重ねるにつれて放電容量が低下した。従って、電池17~19では、サイクル特性がよくないことがわかった。
電池1、2、4、17~19は、リチウム塩の濃度が共に0.8Mであるため、サイクル特性の低下は、リチウム塩の濃度に起因することが示唆された。
【0052】
電池20~25では、イオン液体がEMI-FSIであり、リチウム塩が2.4M LiFSIであり、含浸条件を常温~100℃とした。含浸条件を常温常圧とした電池20及び含浸条件を60℃、真空含浸とした電池21では、初期充放電における放電容量が約25mAh以下であったのに対し、70℃以上の温度で真空含浸を行った電池22~25では、初期充放電における放電容量が39mAh以上であり、電池20、21よりも大きくなった。このため、電池22~25では、正極活物質層及び負極活物質層にイオン液体電解質を十分に含浸できていると考えられる。
また、電池20、22~25のサイクル試験では、電池17~19のサイクル試験と異なり、大きな放電容量の低下は生じなかった。従って、リチウム塩の濃度が2.4Mである電池20、22~25は優れたサイクル特性を有することがわかった。
【0053】
電池26では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が1.6M LiTFSIであり、含浸条件を80℃とした。この電池の初期充放電における放電容量は32.1mAh以上であり、この電池は十分に大きな放電容量を有していた。サイクル試験では放電容量が20mAh以下となったが、サイクル試験における放電容量の大きな低下は生じなかった。従って、リチウム塩にLiTFSIを用いた場合でも電池は優れたサイクル特性を有することがわかった。
【0054】
電池27では、イオン液体がEMI-TFSIであり、リチウム塩が1.6M LiTFSIであり、含浸条件を80℃とした。また、電池28では、イオン液体がMPP-TFSIであり、リチウム塩が1.6M LiTFSIであり、含浸条件を80℃とした。これらの電池の放電容量は6mAh以下の小さな値であった。このため、アニオンがTFSIイオンであるイオン液体を用いると、充放電特性が低下することがわかった。
【0055】
電池29、30では、負極活物質にチタン酸リチウム(LTO)を用いた。また、電池29、30では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が0.8M又は 2.4M LiFSIであり、含浸条件を100℃とした。電池29、30では、初期充放電における放電容量が43mAh以上であり、これらの電池は大きな放電容量を有していた。しかし、サイクル試験においてリチウム塩の濃度を0.8Mとした電池29では放電容量が大きく低下したのに対し、リチウム塩の濃度を2.4Mとした電池30ではこのような放電容量の低下は生じなかった。従って、負極活物質にLTOを用いた電池が、負極活物質にソフトカーボン(SC)を用いた電池と同様の傾向を示すことがわかった。
【0056】
また、イオン液体電解質の代わりに非水電解液(非水溶媒:EC / DEC / EMC = 27.5 / 5 / 67.5(添加剤VC0.7%、FEC0.3%)、リチウム塩:LiPF61.2mol/L)を用いた第2参考電池も作製した。電解液以外の構成及び実験方法は、電池29、30と同じである(含浸工程は常温、常圧)。第2参考電池では、初期充放電(0.1C)における放電容量は、44.3mAhであり、第1サイクルの放電容量は39.6mAhであった。従って、電池30は第2参考電池と同等の充放電特性を有することがわかった。
【0057】
電池31では、負極活物質にハードカーボン(HC)を用いた。また、電池31では、イオン液体がMPP-FSIであり、リチウム塩が2.4M LiFSIであり、含浸条件を100℃とした。電池31では、初期充放電における放電容量が52.6mAhであり、サイクル試験の第1サイクルの放電容量が47.4mAhであった。従って、負極活物質にHCを用いる電池が優れた充放電特性を有することがわかった。
また、イオン液体電解質の代わりに非水電解液(非水溶媒:EC / DEC / EMC = 27.5 / 5 / 67.5(添加剤VC0.7%、FEC0.3%)、リチウム塩:LiPF61.2mol/L)を用いた第3参考電池も作製した。電解液以外の構成及び実験方法は、電池31と同じである(含浸工程は常温、常圧)。第3参考電池では、初期充放電(0.1C)における放電容量は、51.9mAhであり、第1サイクルの放電容量は49.2mAhであった。従って、電池31は第3参考電池と同等の充放電特性を有することがわかった。
【0058】
DSC測定実験
示差走査熱量計(DSC)を用いてイオン液体及びイオン液体電解質の熱物性測定を行った。試料には、(a)リチウム塩を添加していないMPP-FSI(純MPP-FSI)、(b)0.8MのLiFSIが溶解したMPP-FSI、(c)1.2MのLiFSIが溶解したMPP-FSI、(d)1.6MのLiFSIが溶解したMPP-FSI、(e)2.4MのLiFSIが溶解したMPP-FSI、(f)3.0MのLiFSIが溶解したMPP-FSIを用いた。また、雰囲気ガスはアルゴンガスとし、昇温速度は2℃/minとした。
【0059】
測定結果を図13に示す。図13(a)に示した純MPP-FSIのDSC曲線では、試料の吸熱・発熱に伴う熱流の変化はほとんどなかったのに対し、図13(b)~(f)に示したLiFSI添加MPP-FSIのDSC曲線では、試料の吸熱・発熱に伴う熱流の変化が表れた。この変化は、LiFSIとMPP-FSIとの発熱反応又は吸熱反応に起因して生じていると考えられる。
また、図13(b)~(f)で用いたLiFSI添加MPP-FSIはDSC測定前では、少しだけ黄色のほぼ透明な液体であったのに対して、DSC測定後では黄色の度合いが強くなっていることが観察された。
【0060】
また、図13(b)に示した0.8M LiFSI/MPP-FSIのDSC曲線は、85℃から100℃の範囲にピークを有しているが、図13(d)(e)に示した1.6M LiFSI/MPP-FSIのDSC曲線及び2.4M LiFSI/MPP-FSIのDSC曲線は、100℃以下の範囲にピークを有していなかった。このため、0.8M LiFSI/MPP-FSIは、1.6M LiFSI/MPP-FSI及び2.4M LiFSI/MPP-FSIよりも熱安静性が低いのでLiFSIとMPP-FSIとが反応しやすいと考えられる。また、このことが0.8M LiFSI/MPP-FSIを用いたリチウムイオン電池(電池1、2、4、17~19)のサイクル特性の低下の原因の1つとなっていることが示唆された。
図13(f)に示した3.0M LiFSI/MPP-FSIのDSC曲線は100℃付近にピークを有している。このことから、3.0M LiFSI/MPP-FSIの方が0.8M LiFSI/MPP-FSIより熱安定性が高いことが分かり、このイオン液体電解質の濃度でも、安定した電池が作成できることが示唆された。
【符号の説明】
【0061】
2:正極 3:正極活物質層 4:正極活物質 5:細孔 6:イオン液体電解質 7:負極 8:負極活物質層 9:負極活物質 10:電極集合体 11:セパレータ 12:電池ケース 15:正極集電体 16:負極集電体 18:正極端子 19:負極端子 20:溶着部 22:真空オーブン 23:ヒーター 25:容器 27:注入口 50:リチウムイオン電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13