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  • 特開-骨再生材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053301
(43)【公開日】2023-04-12
(54)【発明の名称】骨再生材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/46 20060101AFI20230405BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20230405BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230405BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
A61L27/46
A61L27/12
A61L27/18
A61L27/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020778
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2020120455の分割
【原出願日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2020027115
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】501415752
【氏名又は名称】日本ファインセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治
(72)【発明者】
【氏名】濱井 瞭
(72)【発明者】
【氏名】宮武 尚央
(72)【発明者】
【氏名】井樋 栄二
(72)【発明者】
【氏名】馬場 一慈
(72)【発明者】
【氏名】大泉 樹
(72)【発明者】
【氏名】林 智洋
(72)【発明者】
【氏名】田辺 元
(57)【要約】
【課題】優れた骨伝導性を有する骨再生材料を提供する。
【解決方法】リン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)(OCP)と、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とを含むように、骨再生材料を構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)(OCP)と、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とを含み、
前記OCP及び前記PLGAの総量を基準として、前記OCPを20質量%以上60質量%未満 、前記PLGAを80質量%以下40質量%超の割合で含有することを特徴とする、骨再生材料。
【請求項2】
前記OCP及び前記PLGAの総量を基準として、前記OCPを20質量%以上40質量%以下、前記PLGAを80質量%以下60質量%以上の割合で含有することを特徴とする、請求項1に記載の骨再生材料。
【請求項3】
多孔構造を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の骨再生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH):以下「HA」と略記する場合がある)の前駆体であるリン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO:以下「OCP」と略記する場合がある)は、これまでの研究により優れた生体吸収性及び優れた骨再生能を有することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、非晶質リン酸カルシウム(Ca(PO・nHO:以下、「ACP」と略記する場合がある)は、骨石灰化における別のHAの前駆体であると考えられており、生理的条件下でOCPよりも高い溶解度を有することが報告されている(非特許文献2参照)。ACPはカルシウム及びリン酸の過飽和溶液から生じる最初の無機固体相であり、これがOCPを経由し、続いてHAへと変換される。
【0004】
特許文献1には、リン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)と、非晶質リン酸カルシウム(Ca(PO・nHO)、リン酸水素カルシウム(第2リン酸カルシウム無水和物)(CaHPO)、リン酸水素カルシウム二水和物(第2リン酸カルシウム2水和物)(CaHPO・2HO)、低結晶性のハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))又は低結晶性のリン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)からなる混合リン酸カルシウムを含むことを特徴とする人工骨材について記載している。
【0005】
一方、骨の治療において、例えば骨接合ピンのような金属製の固定治具が用いられている。また、生体適合性高分子からなる固定治具が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-110404号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Suzuki O.et al., Tohoku J. Exp. Med., 1991, 164: 37-50.
【非特許文献2】Meyer JL et al., Calcif. Tissue Res. 1978, 25, 59-68,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の金属または生体適合性高分子からなる骨接合ピンといった固定治具は、骨伝導性に劣るものであり、骨の再生という観点からは十分なものとは言えなかった。また、リン八酸カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)は、非特許文献1に記載されたリン酸カルシウムのなかで最も高い骨伝導性を示したが、骨の再生や成形性の観点から骨再生材料としての改善の余地があった。
【0009】
本発明は、優れた骨伝導性を有する骨再生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、OCPに対して所定量の乳酸-グリコール酸共重合体(以下、「PLGA」と略記する場合がある)を配合して骨再生材料を得ることにより、骨伝導性に優れた骨再生材料を得ることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)リン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)(OCP)と、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とを含み、
前記OCP及び前記PLGAの総量を基準として、前記OCPを20質量%以上60質量%未満、前記PLGAを80質量%以下40質量%超の割合で含有することを特徴とする、骨再生材料。
(2)前記OCP及び前記PLGAの総量を基準として、前記OCPを20質量%以上40質量%以下、前記PLGAを80質量%以下60質量%以上の割合で含有することを特徴とする、(1)に記載の骨再生材料。
(3)多孔構造を有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の骨再生材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PLGAが生体吸収性に優れるため、骨伝導性に優れるOCPと混合して骨再生材料とすることにより、PLGAの生体吸収性とOCPとの骨伝導性との相乗効果によって、優れた骨伝導性を有する骨再生材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】骨再生材料を埋入した際の新生骨面積の割合を示すグラフである。
図2A】ラットの大腿骨の骨欠損部に骨再生材料を埋入した際の横断面を示すμ‐CT像である。
図2B】ラットの大腿骨の骨欠損部に骨再生材料を埋入した際の前頭断面を示すμ‐CT像である。
図3】PLGA/OCPをリン酸緩衝液に浸漬した場合のpH変化を示すグラフである。
図4】PLGA/OCPをリン酸緩衝液に浸漬した場合の重量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の骨再生材料において、OCPとPLGAとの割合は、特に限定されないが、例えばOCPとPLGAの総量を基準として、OCPを20~65質量%、好ましくは20~40質量%含有する。また、PLGAを80~35質量%、好ましくは80~60質量%含有する。これにより、OCPの骨伝導性とPLGAの生体吸収性とがバランスし、優れた骨伝導性を有する骨再生材料を得ることができる。
【0015】
本発明の骨再生材料中は、本発明の効果が阻害されない範囲内で、一般的に骨再生材料に含まれる成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン、生体吸収性高分子(ポリ乳酸、ポリ乳酸-ポリエチレングリコール共重合体など)、生体吸収性リン酸カルシウム(β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)、リン酸四カルシウム(Ca(POO;TTCP)、リン酸水素カルシウム(CaHPO;DCP)、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPOO;DCPD)、低結晶性HA、ナノHA、炭酸含有HAなど)、生体非吸収性材料(HAセラミックスなど)が挙げられる。
【0016】
本発明の骨再生材料は、任意の形態のものを使用可能である。例えば、骨再生材料はOCP顆粒及びPLGA顆粒を混合したもの、OCPとPLGAの共沈物等であってよいが、好ましくは多孔構造である。この場合、新生骨が多孔質内にまで埋入するので、骨伝導性に優れた骨再生材料を得ることができる。
【0017】
多孔構造の骨再生材料は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0018】
市販のPLGAと、その他の生分解性高分子(ポリカプロラクトン(PCL),ポリ-L-乳酸(PLLA)等)を溶媒である1,4-ジオキサンに45℃以上で完全に溶解させ、生分解性高分子溶液を得る。PLGA等の分子量は特に指定されないが、好ましくは重量平均分子量が10,000以上200,000以下、さらに好ましくは20,000以上150,000以下のものを使用する。また、PLGAにおける乳酸の割合は5~85mol%の範囲から選択する。
【0019】
次に、得ようとする骨再生材料におけるOCPの含有量が例えば20~65質量%となる割合で、上記生分解性高分子溶液に当該OCPを顆粒の状態で加える。なお、OCP顆粒の粒径は例えば53~300μmである。
【0020】
次いで、OCPを加えた生分解性高分子溶液を10℃以下で1日間撹拌し、OCP顆粒を分散させるとともに生分解性高分子溶液を凍結させる。次いで、凍結後、さらに0℃以下で最低一晩冷却する。
【0021】
次いで、12時間以上凍結乾燥し、溶媒である1,4-ジオキサンを除去する。これにより、多孔質のOCP/生分解性高分子複合体からなる骨再生材料を得る。
【0022】
骨再生材料の孔径は、例えば10~500μmであり、気孔率は0~95%である。
【0023】
次いで、上述の骨再生材料は、適宜成形して使用することができる。成形手段としては、特に限定されない。例えば、骨再生材料を適当な型に入れて固める方法、固める際に圧力を加える方法が挙げられる。成形体の形状としては、特に限定されない。例えば、ディスク、ブロック、シートが挙げられる。ディスクの大きさとしては、特に限定されない。例えば、直径は、通常3~20mm、好ましくは5~10mmである。例えば、厚みは、通常0.5~5mm、好ましく1~2mmである。ブロックの大きさとしては、特に限定されない。例えば、長さ5~15mm、幅5~50mm、高さ5~100mm、好ましくは、長さ8~12mm、幅10~30mm、高さ10~50mmである。
【0024】
成形体は、骨欠損部の形状に応じて適宜成形され、例えば、エチレンオキサイドガズ滅菌、放射線滅菌、高圧蒸気滅菌などにより滅菌処理後、骨欠損部に埋入される。ただし、高圧蒸気滅菌は、OCPあるいはPLGAの結晶相に影響を及ぼすので、その場合は骨欠損の適用部位を考慮する。
【実施例0025】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0026】
最初に、上述した製造方法にしたがって、PLGAの生分解性高分子溶液を得た。次いで、この溶液中に骨再生材料中のOCPの含有量が20,30,40質量%となるようにOCP顆粒を含有させ、凍結及び乾燥の後、1,4-ジオキサンを除去し、多孔質のOCP/生分解性高分子複合体からなる骨再生材料を得た。なお、得られた骨再生材料の気孔率は75~85%であり(ピクノメーターを用いて測定)、平均気孔径は40~70μmであった(SEMを用いて測定)。
【0027】
なお、参考のために、OCP顆粒を含有させることなく、PLGAのみからなる骨再生材料を得た。この時の気孔率は84.9%であり(ピクノメーターを用いて測定)、平均気孔径は58.9±1.9μmであった(走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定)。
【0028】
次いで、ラット大腿骨に作製した貫通孔(直径3mm)に、上記骨再生材料(Φ3×5mm)を4週及び8週間埋入し、μ-CTおよび組織学的に骨再生能を評価した。
【0029】
図1は、上記骨再生材料をラット大腿骨に埋入し、4週及び8週経過した後の、新生骨面積(%)を示すグラフである。図1から明らかなように、PLGA単体の骨再生材料に比較してOCPを含む骨再生材料は新生骨面積の割合が高く、特にOCPの含有割合が40質量%の場合に最も高いことが判明した。
【0030】
図2は、OCPの含有量が40%の骨再生材料のμ‐CT像である。横断面及び前頭断面のいずれにおいても、新生骨が骨再生材料の内部まで侵入し、特に8週後において石灰化組織に起因する不透過性の領域が増大していることが分かる。すなわち、本実施例の骨再生材料は、骨伝導性に優れることが分かる。
【0031】
図3は、メンブレンフィルターで隔離した40質量%のOCPと60質量%のPLGA、メンブレンフィルターで隔離した20質量%のOCP顆粒と80質量%のPLGA、単独のPLGA及び単独のOCP顆粒(40質量%相当量のOCP)をリン酸緩衝液(PBS)(pH7.4、温度37℃)に浸漬した後の、PBS上清のpH値を示すグラフである。図4は、メンブレンフィルターで隔離した40質量%のOCPと60質量%のPLGA、メンブレンフィルターで隔離した20質量%のOCP顆粒と80質量%のPLGA及び、単独のPLGAをリン酸緩衝液(PBS)(pH7.4、温度37℃)に浸漬した後の、PLGAの重量変化を示すグラフである。
【0032】
図3から明らかなように、フィルターで隔離した40質量%もしくは20質量%のOCP顆粒とPLGAを浸漬したPBSは、浸漬時間の経過とともにpH値が減少し、図4から明らかなように、OCPが共存した状態にあるPLGAは、PLGA単独の場合よりも浸漬時間の経過とともにその重量を減少させていることが分かる。すなわち、PLGAにOCPを含有させて複合体とすることにより、PLGAの分解性(吸収性)が増大することが分かる。すなわち、PLGAの生体吸収性とOCPとの骨伝導性との相乗効果によって、優れた骨置換性を有する骨再生材料が得られることが分かる。
【0033】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)(OCP)と、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とを含み、
前記OCP及び前記PLGAの総量を基準として、前記OCPを20質量%以上40質量%以下、前記PLGAを80質量%以下60質量%以上の割合で含有することを特徴とする、骨再生材料。
【請求項2】
多孔構造を有することを特徴とする、請求項に記載の骨再生材料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)リン酸八カルシウム(第8リン酸カルシウム)(Ca(PO・5HO)(OCP)と、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とを含み、
前記OCP及び前記PLGAの総量を基準として、前記OCPを20質量%以上40質量%以下、前記PLGAを80質量%以下60質量%以上の割合で含有することを特徴とする、骨再生材料。
)多孔構造を有することを特徴とする、(1)に記載の骨再生材料。