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<図1>
  • 特開-PCBの処理装置 図1
  • 特開-PCBの処理装置 図2
  • 特開-PCBの処理装置 図3
  • 特開-PCBの処理装置 図4
  • 特開-PCBの処理装置 図5A
  • 特開-PCBの処理装置 図5B
  • 特開-PCBの処理装置 図5C
  • 特開-PCBの処理装置 図6
  • 特開-PCBの処理装置 図7
  • 特開-PCBの処理装置 図8
  • 特開-PCBの処理装置 図9A
  • 特開-PCBの処理装置 図9B
  • 特開-PCBの処理装置 図10
  • 特開-PCBの処理装置 図11
  • 特開-PCBの処理装置 図12
  • 特開-PCBの処理装置 図13
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005333
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】PCBの処理装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/20 20220101AFI20230111BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20230111BHJP
   B01F 23/60 20220101ALI20230111BHJP
   B01F 27/70 20220101ALI20230111BHJP
   A62D 3/36 20070101ALI20230111BHJP
   A62D 3/40 20070101ALI20230111BHJP
   A62D 3/34 20070101ALI20230111BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20230111BHJP
【FI】
B09B3/00 301B
B09B3/00 ZAB
B01F3/18
B01F7/04 A
A62D3/36
A62D3/40
A62D3/34
A62D101:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107165
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】519309887
【氏名又は名称】株式会社FDH
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 義孝
【テーマコード(参考)】
4D004
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4D004AA08
4D004CA15
4D004CA22
4D004CB21
4D004CB26
4D004CB28
4D004CC11
4G035AB48
4G078AA16
4G078AB11
4G078BA01
4G078BA09
4G078CA01
4G078DA01
4G078DB10
(57)【要約】
【課題】簡易な構造を示しつつも、処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下させる処理を行うことのできる装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るPCBの処理装置は、上面に開口部を有する本体容器と、本体容器の前記開口部を閉塞自在な蓋と、開口部内において本体容器の向かい合う内側面同士を連結する回転軸と、回転軸の軸方向に係る異なる位置において回転軸に対してそれぞれ螺合して配置された複数の羽根部材と、回転軸に対して回転運動を伝達するモータとを備え、複数の前記羽根部材は、それぞれ独立して回転軸の軸心を含み軸方向に平行な一の平面である基準平面に対する傾斜角度を調整可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBの処理装置であって、
上面に開口部を有する本体容器と、
前記本体容器の前記開口部を閉塞自在な蓋と、
前記開口部内において、前記本体容器の向かい合う内側面同士を連結する回転軸と、
前記回転軸の軸方向に係る異なる位置において、前記回転軸に対してそれぞれ螺合して配置された複数の羽根部材と、
前記回転軸に対して回転運動を伝達するモータとを備え、
複数の前記羽根部材は、それぞれ独立して前記回転軸の軸心を含み軸方向に平行な一の平面である基準平面に対する傾斜角度を調整可能であることを特徴とする、PCBの処理装置。
【請求項2】
複数の前記羽根部材のそれぞれは、長尺形状を呈すると共に、前記回転軸を跨ぐように配置されており、
前記複数の前記羽根部材のそれぞれの長手方向に係る長さをA1、前記本体容器の内側面のうち前記回転軸が連結されていない内側面同士の離間距離をA2としたとき、0.9≦A1/A2<1.0であることを特徴とする、請求項1に記載のPCBの処理装置。
【請求項3】
前記回転軸の前記軸方向に沿って、複数の前記羽根部材が配置されている領域の前記軸方向の長さをB1、前記回転軸が連結されている内側面同士の離間距離をB2としたとき、0.9≦B1/B2<1.0であることを特徴とする、請求項1に記載のPCBの処理装置。
【請求項4】
前記本体容器を少なくとも4箇所で支持する複数の脚部と、
前記本体容器よりも鉛直下方位置において、複数の前記脚部を連絡する枠体と、
前記枠体に対して着脱可能に構成された回収容器とを備え、
前記本体容器は、前記開口部の開口面が前記回収容器の側に向くように、所定の軸を回転軸として回転移動可能に構成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のPCBの処理装置。
【請求項5】
前記所定の軸を回転軸として前記本体容器を回転移動させるハンドルを備えたことを特徴とする、請求項4に記載のPCBの処理装置。
【請求項6】
前記複数の羽根部材は、前記回転軸の軸方向から見たときに、前記基準平面に対する傾斜角度が連続的に増加又は減少するように調整された状態で、前記回転軸に対して螺合されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のPCBの処理装置。
【請求項7】
複数の前記羽根部材は、前記回転軸の軸方向から見たときに前記基準平面に対する傾斜角度のずれが実質的に等間隔になるようにそれぞれの傾斜角度が調整された状態で前記回転軸に対して螺合されていることを特徴とする、請求項6に記載のPCBの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下させる処理を行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」という。)は、環境中で分解されにくく、人や野生生物等の体内に蓄積されやすく、地球上を長距離移動し、環境影響を及ぼすおそれがある化学物質に該当するとして、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)における規制対象物質の一つに挙げられている。
【0003】
PCBは、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていた。しかし、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油等についても、国内法(PCB特措法)等の規定によって、所定の期日までに処理を完了することが義務付けられているところである。
【0004】
PCBは化学安定性に優れているが故に、無害化処理が難しいとされている。現在、PCBの無害化処理の方法としては、高温下で燃焼処理を行う方法が一般的に知られており、この方法が広く利用されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6-006177号公報
【特許文献2】特開2013-184089号公報
【特許文献3】特開2011-56504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法によれば、1000℃以上の高温条件下で燃焼処理をする必要がある。また、特許文献2~3の方法においても、550℃~950℃程度の温度で燃焼処理する必要がある。このため、高温処理のための相当の設備及び高い処理コストが必要となり、例えばPCBを含む処理対象物の保有者が、他の処理業者に依頼等をする必要が生じることが考えられる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、簡易な構造を示しつつも、処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下させる処理を行うことのできる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPCBの処理装置は、
上面に開口部を有する本体容器と、
前記本体容器の前記開口部を閉塞自在な蓋と、
前記開口部内において、前記本体容器の向かい合う内側面同士を連結する回転軸と、
前記回転軸の軸方向に係る異なる位置において、前記回転軸に対してそれぞれ螺合して配置された複数の羽根部材と、
前記回転軸に対して回転運動を伝達するモータとを備え、
複数の前記羽根部材は、それぞれ独立して前記回転軸の軸心を含み軸方向に平行な一の平面である基準平面に対する傾斜角度を調整可能であることを特徴とする。
【0009】
上記のPCBの処理装置は、開口部より、PCBを含む処理対象物と、生石灰を含む所定の粉体と水を本体容器内に投入した後、蓋を閉塞して撹拌することで利用される。モータが稼働することで、回転軸に螺合して配置された複数の羽根部材が回転し、混合物が満遍なく撹拌される。この撹拌処理によって、生石灰と水の水和反応によって生じる熱(高々180℃程度)によって処理対象物に含まれるPCBが分解され、PCBの含有濃度を、最終処分が可能な程度にまで低下できる。よって、この装置によれば、別途の燃焼・加熱装置が不要となるため、簡易な設備によってPCBの処理が可能となる。
【0010】
好ましくは、前記複数の羽根部材は、前記回転軸の軸方向から見たときに、前記基準平面に対する傾斜角度が連続的に増加又は減少するように調整された状態で、前記回転軸に対して螺合されている。このように羽根部材を配置することで、本体容器内で混合物を満遍なく撹拌することができ、PCBの分解反応が促進される。
【0011】
より好ましくは、複数の前記羽根部材は、前記回転軸の軸方向から見たときに前記基準平面に対する傾斜角度のずれが実質的に等間隔になるようにそれぞれの傾斜角度が調整された状態で前記回転軸に対して螺合されている。なお、ここでいう「実質的に等間隔」とは、隣接する羽根部材の傾斜角度のずれ量の最大値と最小値の差が、隣接する羽根部材の傾斜角度のずれ量の平均値に対して20%未満であることを指す。
【0012】
例えば羽根部材が16枚である場合、羽根部材の太さを無視すれば、それぞれの羽根部材の基準平面に対する傾斜角度を22.5°ずつ異ならせて配置すれば、羽根部材が360°にわたって回転して配置されることになる。実際には、羽根部材の太さが存在するため、羽根部材の太さに応じて前記傾斜角度のずれ量は調整される。具体的な例としては、隣接する羽根部材の基準平面に対する傾斜角度のずれ量、すなわち隣接する羽根部材同士の角度が22.0°ずつとされる。
【0013】
ただし、製造時やネジ止めの作業時に、基準平面に対するそれぞれの羽根部材の傾斜角度には誤差が発生する可能性がある。よって、本明細書においては、隣接する羽根部材同士の角度をすべて測定して、最大値と最小値の差を角度平均値で除したときの値が20%未満である場合には、回転軸の軸方向から見たときにおける基準平面に対する複数の羽根部材の傾斜角度のずれが実質的に等間隔であるとする。
【0014】
複数の前記羽根部材のそれぞれは、長尺形状を呈すると共に、前記回転軸を跨ぐように配置されており、
前記複数の前記羽根部材のそれぞれの長手方向に係る長さをA1、前記本体容器の内側面のうち前記回転軸が連結されていない内側面同士の離間距離をA2としたとき、0.9≦A1/A2<1.0であるものとしても構わない。
【0015】
このように構成されることで、羽根部材の長手方向に関して、羽根部材と本体容器の内側面との間に混合物が留まることが抑制されるため、本体容器内に投入された混合物の全体を十分に撹拌でき、PCBの分解処理が促進される。
【0016】
前記回転軸の前記軸方向に沿って、複数の前記羽根部材が配置されている領域の前記軸方向の長さをB1、前記回転軸が連結されている内側面同士の離間距離をB2としたとき、0.9≦B1/B2<1.0であるものとしても構わない。
【0017】
このように構成されることで、回転軸の軸方向に関して、両端に位置する羽根部材の側部(エッジ)と本体容器の内側面との間に混合物が留まることが抑制されるため、本体容器内に投入された混合物の全体を十分に撹拌でき、PCBの分解処理が促進される。
【0018】
前記PCBの処理装置は、
前記本体容器を少なくとも4箇所で支持する複数の脚部と、
前記本体容器よりも鉛直下方位置において、複数の前記脚部を連絡する枠体と、
前記枠体に対して着脱可能に構成された回収容器とを備え、
前記本体容器は、前記開口部の開口面が前記回収容器の側に向くように、所定の軸を回転軸として回転移動可能に構成されているものとしても構わない。
【0019】
これによれば、処理完了後に、蓋部を取り外した状態で本体容器を回転させることで、処理済品を、開口部を通じて回収容器に向かって落下させることができ、容易に回収できる。
【0020】
前記PCBの処理装置は、前記所定の軸を回転軸として前記本体容器を回転移動させるハンドルを備えるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、加熱・燃焼設備を用いることなく、簡易な設備によって、処理対象物に含まれるPCBの含有率を低下できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】PCBの処理装置の外観を示す模式図であり、作業者と共に図示されている。
図2図1に示すPCBの処理装置の外観写真である。
図3図2に示すPCBの処理装置から、蓋を取り外した状態の写真である。
図4図3の状態のPCBの処理装置を、異なる方向から撮像した写真である。
図5A】複数の羽根部材の傾斜角度が調整された状態において、開口部に直交する方向から複数の羽根部材を見たときの模式的な平面図である。
図5B図5Aに示す複数の羽根部材を、回転軸の軸方向から見たときの模式的な平面図である。
図5C】複数の羽根部材の傾斜角度を調整する前段階において、開口部に直交する方向から複数の羽根部材を見たときの模式的な平面図である。
図6】複数の羽根部材の傾斜角度が調整された状態で、本体容器の収容空間を撮影した写真である。
図7】PCBの処理装置を用いてPCBを含む処理対象物を処理する手順例を模式的に示すフローチャートである。
図8】生石灰Q及び固定化剤Aが混合された状態の収容空間の写真である。
図9A】処理S4の実行中において蓋を開放したときの収容空間の写真である。
図9B】処理S4の実行後に、収容空間内の温度が低下した状態の収容空間の写真である。
図10図2に示すPCBの処理装置において、ハンドルの設置箇所の近傍を撮像した写真である。
図11図2に示すPCBの処理装置において、本体容器を回転させた状態の外観写真である。
図12図2に示すPCBの処理装置において、本体容器を図11の状態よりも更に回転させた状態の外観写真である。
図13】処理済品が収容された回収容器をPCBの処理装置から回収する様子を模式的に示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るPCBの処理装置の実施形態について、図面を参照して説明する。本発明に係るPCBの処理装置は、PCBを含有する処理対象物Xに対して、PCBの含有率を低下させる処理を行うために利用される。なお、このような処理対象物Xとしては、例えば変圧器等の電力機器に内蔵されていた絶縁油が挙げられる。
【0024】
図1は、本実施形態のPCBの処理装置の外観を示す模式図であり、作業者と共に図示されている。図2は、図1に示すPCBの処理装置1の外観写真である。図3及び図4は、図2から蓋3を取り外したときのPCBの処理装置1の外観写真である。
【0025】
図1図4に示すように、PCBの処理装置1は、収容空間4を有した本体容器5を有する。本体容器5は、例えば金属製であり、典型的にはSUS製である。本体容器5の具体的な寸法の一例は、長さ×幅×高さ=1200mm×600mm×900mmであり、収容空間4の容量は65Lである。ただし、本発明において、本体容器5の大きさは限定されない。
【0026】
図1の状態において、本体容器5は、上面に開口部4aを有している。PCBの処理装置1は、この開口部4aを閉塞するための蓋3を有する。蓋3は、本体容器5に対して取り外し可能に構成されている。蓋3は、例えば本体容器5と同様の材質で構成される。
【0027】
図2に示すように、本実施形態のPCBの処理装置1は、蓋3によって開口部4aを閉塞後、蓋3と本体容器5とを固定するための固定部材13を備えている。
【0028】
図2図4に示すように、PCBの処理装置1はモータ11を備える。図4に示すように、本体容器5の収容空間4内には、本体容器5の向かい合う内側面同士を連絡するように回転軸23が設けられている。モータ11による回転運動の回転軸がこの回転軸23に対応することで、モータ11の駆動により、回転軸23を中心とした回転運動が生じる。
【0029】
特に図4に示すように、PCBの処理装置1は、本体容器5の収容空間4内に、回転軸23に固定された状態で複数の羽根部材21を備えている。複数の羽根部材21は、回転軸23の軸方向に並べられて配置されており、いずれも回転軸23と固定されている。より詳細には、複数の羽根部材21は、回転軸23に対してネジ止めにより固定されている(螺合されている)。つまり、モータ11が駆動することで、本体容器5の収容空間4内では、複数の羽根部材21が回転する。
【0030】
羽根部材21は、例えばSUS等の金属材料で構成されている。本実施形態のPCBの処理装置1では、長尺状の一対の板状部材が回転軸23を跨ぐように連結されることで、羽根部材21が構成されている。板状部材の寸法は例えば、長さ×幅×厚み=154.5mm×35mm×3mmである。一対の板状部材が連結されて羽根部材21が構成されている。図4の例では、一対の板状部材からなる羽根部材21が16枚配置されている。つまり、32枚の板状部材が設けられている。
【0031】
複数の羽根部材21は、それぞれ独立して傾斜角度の調整が可能な構成である。この傾斜角度について、図5A図5Bを参照して説明する。図5Aは、複数の羽根部材21の傾斜角度が調整された状態において、開口部4aに直交する方向から複数の羽根部材21を見たときの模式的な平面図である。また、図5Bは、図5Aに示す複数の羽根部材21を、回転軸23の軸方向から見たときの模式的な平面図である。
【0032】
図5A及び図5Bでは、便宜上、回転軸23の軸方向をX方向とし、このX方向に直交する平面をYZ平面とする。図5A及び図5Bにおいて、+Z方向は例えば鉛直上方である。
【0033】
回転軸23の軸心を含み軸方向に平行な一の平面(例えばXY平面)を基準平面とすると、図5Bに示す複数の羽根部材21は、この基準平面に対する角度(傾斜角度)が全て異なるように調整されている。より詳細には、回転軸23の軸方向(X方向)から見たときに、羽根部材21の基準平面に対する傾斜角度は連続的に増加又は減少するように調整されている。実際には、それぞれの羽根部材21について、回転軸23の軸心を含む基準平面(例えばXY平面)に対する傾斜角度を調整した後に、回転軸23に対してネジ止めされる。
【0034】
特に、図5Bに示す例では、複数の羽根部材21の傾斜角度が実質的に等間隔でずれるように調整されている。上述したように、この例では、16枚の羽根部材21が設けられているため、隣接する羽根部材21同士の角度が360°/16の演算結果(=22.5°)及び羽根部材21の太さを考慮して、約22.0°となるように調整されている。
【0035】
複数の羽根部材21は、モータ11の回転運動が回転軸23に伝達されることで、回転軸23を中心とした回転運動を行う。つまり、複数の羽根部材21は、収容空間4内に存在する混合物の撹拌部材として機能する。後述されるように、本体容器5の収容空間4内には、PCBを含む処理対象物に加えて、所定の粉体及び水が投入される。収容空間4内において、これらの混合物が撹拌されることで、PCBの分解処理が行われる。分解反応を促進する観点から、収容空間4内において混合物を満遍なく撹拌することが好ましく、このためには、複数の羽根部材21の傾斜角度が実質的に等間隔となるように配置されるのが好ましい。
【0036】
図5Aは、図5Bのように複数の羽根部材21の傾斜角度が等間隔で配置された状態において、上述したように、開口部4aに直交する方向(Z方向)から複数の羽根部材21を見たときの模式的な平面図である。それぞれの羽根部材21の傾斜角度が調整されているため、Z方向から見た複数の羽根部材21は、その長さが異なるように描かれている。
【0037】
図5Cは、複数の羽根部材21の傾斜角度を調整する前段階において、開口部4aに直交する方向(Z方向)から複数の羽根部材21を見たときの模式的な平面図である。図5Cにおいて、符号25は、羽根部材21と回転軸23とを固定するための結合部材を示している。結合部材は、例えばネジによって締め付け固定が可能な部材である。
【0038】
混合物を満遍なく撹拌する観点からは、複数の羽根部材21が回転することにより、本体容器5の収容空間4内の殆どの位置をいずれかの羽根部材21が通過することが好ましい。つまり、図5Cにおいて、Z方向から見たときに、収容空間4のほぼ全体にわたって、複数の羽根部材21が位置するように配置されるのが好ましい。ただし、上述したように、複数の羽根部材21は傾斜角度の調整の必要があるため、調整作業のための自由度を確保する必要がある。また、収容空間4の内側寸法の長さと羽根部材21の長さをほとんど一致させてしまうと、製造時の誤差等により、羽根部材21の回転の際に収容空間4の内側の側壁に衝突して回転が阻害されるおそれもある。
【0039】
かかる観点から、図5Cに示すように、複数の羽根部材21のそれぞれの長手方向(Y方向)に係る長さをA1、本体容器5の収容空間4のY方向に係る寸法をA2としたとき、0.9≦A1/A2<1.0となるように設計されるのが好ましい。同様に、図5Cに示すように、複数の羽根部材21が配置されている領域の軸方向(X方向)の長さをB1、本体容器5の収容空間4のX方向に係る寸法をB2としたとき、0.9≦B1/B2<1.0となるように設計されるのが好ましい。
【0040】
図6は、図5A図5Bに示すように、複数の羽根部材21の傾斜角度が調整された状態で本体容器5の収容空間4を撮影した写真である。それぞれの羽根部材21は、傾斜角度が調整された後、結合部材25によって回転軸23に対して連結固定されている。
【0041】
以下、PCBの処理装置1の使用方法について説明する。図7は、PCBの処理装置1を用いてPCBを含む処理対象物を処理する手順の一例を模式的に示すフローチャートである。
【0042】
(混合処理S1)
処理対象物Xに対する処理に利用される生石灰Q及び固定化剤Aを準備し、これらを開口部4aから収容空間4内に投入する。そして、モータ11を稼働させて複数の羽根部材21を回転させることで、生石灰Q及び固定化剤Aの混合物を撹拌する。
【0043】
固定化剤Aは、生石灰Qを10質量部に対して、好ましくは3~5質量部混合される。以下、「質量部」は単に「部」と略記される。
【0044】
固定化剤Aは、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化鉄及び二酸化ケイ素を含む材料である。固定化剤Aの配合組成例としては、生石灰Qを10部に対して、酸化アルミニウム0.7~1.3部、酸化マグネシウム0.35~0.75部、酸化マンガン0.21~0.39部、酸化鉄0.35~0.75部、二酸化ケイ素1.4~2.6部の範囲とすることが、処理対象物Xに含まれるPCBを迅速に固定化し得る点で好ましい。ただし、本発明は、この配合割合の範囲に限定されない。以下の数値においても同様である。
【0045】
図8は、生石灰Q及び固定化剤Aが混合された状態の収容空間4の写真である。
【0046】
(混合処理S2)
処理対象物Xを開口部4aから収容空間4内に投入し、混合処理S1によって得られた混合物M1と混合する。処理対象物Xの処理量は適宜調整可能であるが、例えば、利用した生石灰Qを10部に対して、3.5部~6.5部の処理対象物Xが混合される。なお、処理対象物XがPCB廃油等の液体である場合には、高い反応性を維持する観点から、混合物M1に対して一定の流量で混合されるようにするのが好適である。
【0047】
例えば、処理対象物Xは、4.5mg/kgの濃度でPCBを含有している。
【0048】
(混合処理S3)
水Wを開口部4aから収容空間4内に投入し、混合処理S2によって得られた混合物M2と混合する。処理に利用される水Wの量は、例えば混合処理S1で利用された生石灰Qを10部に対して、7部~13部程度とすることができ、典型的には生石灰Qと実質的に同量とすることができる。
【0049】
生石灰と酸化マグネシウムを含む混合物M2に対して、水Wが混合されることで、水和反応が生じ、この混合物M3は発熱する。通常、生石灰と酸化マグネシウムのみを含む混合物に対して水が混合されると、200℃程度まで温度が上昇するが、固定化剤Aには酸化マンガン及び二酸化ケイ素が含まれているため、これらの成分が不活性成分として作用する結果、混合物M3は150℃~180℃程度の加熱に抑制される。このため、この混合処理S3の実行中に、処理対象物Xに含まれるPCBが高温下に晒されることで生じる有毒ガスが発生するおそれがない。
【0050】
なお、混合処理S1~S3を一括して行っても構わない。すなわち、生石灰Q、固定化剤A、処理対象物X、水Wを開口部4aから収容空間4内に順次又は同時に投入した後、モータ11を稼働させて複数の羽根部材21を回転させ、これらの混合物を撹拌するものとしても構わない。
【0051】
(混合・撹拌処理S4)
処理対象物Xに対する処理に利用されるコーティング剤Bを準備し、このコーティング剤Bを開口部4aから収容空間4内に投入して、混合処理S3によって得られた混合物M3に対して混合・撹拌する。撹拌に際しては、上述したのと同様に、モータ11を稼働させて複数の羽根部材21を回転させることで行われる。
【0052】
コーティング剤Bは、生石灰Qを10部に対して、例えば2.3~4.2部混合される。つまり、固定化剤Aを10部に対して、5.9部~10.9部程度混合される。典型的には、コーティング剤Bは固定化剤Aよりも1~2割程度少ない量で混合される。
【0053】
コーティング剤Bは、二酸化ケイ素を主成分とする粘土鉱物を焼成して得られる焼結セラミック粉を含み、他には、必要に応じて、酢酸マグネシウムと、有機酸金属塩と、水溶性高分子とを含む。有機酸金属塩としては、典型的にはステアリン酸カルシウムが利用でき、水溶性高分子としては、典型的にはカルボキシメチルセルロースが利用できる。焼結セラミック粉は、典型的には泥岩を焼成してできるセラミックを粉状に粉砕したものを利用できる。
【0054】
コーティング剤Bの配合組成例としては、焼結セラミック粉を1.5部に対して、酢酸マグネシウム、有機酸金属塩、及び水溶性高分子をそれぞれ、0.42部~0.78部程度とするのが好ましい。
【0055】
処理S3~S4を経て、混合物M3に含まれていた生石灰や酸化マグネシウムは、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムに変化する。特に、この処理S4において混合されるコーティング剤Bに、水溶性高分子が含有されている場合には、この水溶性高分子から水酸基の供給を受けることで、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムにより変化しやすくなる。
【0056】
そして、混合物M3に含まれていた処理対象物X内のPCBは、前記の水酸化カルシウムや水酸化マグネシウム等の固定化物に化学的又は物理的に吸着されることで、固定される。
【0057】
コーティング剤Bに含まれる焼結セラミック粉は、泥岩等の粘土鉱物の焼成物であり、微量にγ線を放出している。このため、混合物M3に対してコーティング剤Bが混合された状態で撹拌されることで、固定化物に固定化された状態のPCB分子に対して、γ線由来のエネルギーが作用し、PCB分子に含まれるC-Cl結合が切断される。この結果、PCBが分解される。
【0058】
なお、上述したように、混合処理S3において水Wが混合されたことで、混合物M3は反応熱によって150~180℃に加熱されている。この反応熱が生じている状態の下で、コーティング剤Bが混合されて撹拌されることで、PCBの分解が促進される。
【0059】
処理S3及び後述する処理S4の過程では、本体容器5の収容空間4から水蒸気が放出される。図9Aは、この処理S4の実行中において、蓋3を開放して収容空間4を撮像した写真である。図9Aによれば、収容空間4から水蒸気が放出されていることが確認される。
【0060】
撹拌処理は、上述したようにモータ11を稼働させて複数の羽根部材21を回転させることで行われる。この撹拌処理、すなわちモータ11の稼働は、本体容器5の収容空間4内の温度が低下する迄、行われるものとして構わない。典型的には、水蒸気の放出が停止し、収容空間4内の温度が常温程度になるまで撹拌処理が行われるものとしても構わない。図9Bは、処理S4を実行し、収容空間4内の温度が常温程度にまで低下した状態の収容空間4の写真である。図9Aと比較して水蒸気の放出が抑制されていることが分かる。
【0061】
処理S4を経て得られる処理済品Yは、溶出試験の結果、PCBの溶出量が検出限界の0.0005mg/L未満を示すことが確認された。この数値は、特別管理産業廃棄物の判定基準(廃棄物処理法施行規則第1条の2)に規定されている、0.003mg/Lの値を大幅に下回るものである。つまり、上記処理S1~S4を経て、処理対象物Xに含まれるPCBが分解される。
【0062】
得られた処理済品Yに含有されるPCBの濃度は、廃棄物処理法における「特別管理廃棄物」や「特定有害産業廃棄物」に規定された数値を大幅に下回るため、これらの廃棄物には該当しない。また、上記の方法では、処理に硫黄を利用していない。このため、得られた処理済品Yは、例えばコンクリート補助剤等に再利用することが可能である。
【0063】
(回収処理S5)
処理S1~S4を経て、PCBを含む処理対象物Xに対して処理が行われてPCBの濃度が極めて低下した処理済品Yは、本体容器5から回収される。
【0064】
図1に示すPCBの処理装置1は、本体容器5を複数の箇所で支持する脚部6と、本体容器5よりも鉛直下方の位置で脚部6同士を連絡する枠体7とを備える。枠体7で囲まれた空間8には、回収容器9(図12参照)を設置することができる。本実施形態のPCBの処理装置1は、本体容器5の4箇所の角付近にそれぞれ脚部6を設けている。ただし、本体容器5を安定的に保持できる限り、脚部6の本数は4本には限定されず、例えば5本以上の脚部6を備えていてもよい。
【0065】
PCBの処理装置1は、本体容器5にハンドル31とストッパー32とが設けられている(図1図10参照)。図10は、PCBの処理装置1において、ハンドル31及びストッパー32が設置されている箇所の近傍を撮像した写真である。ハンドル31は、本体容器5の全体を、所定の軸を回転軸として回転移動させるための操作子である。この回転軸は、好ましくは回転軸23と平行である。ストッパー32は、ハンドル31による回転操作を機能させないようにするための部材であり、伝達部材33の回転移動を阻害する目的で設けられている。ストッパー32は、着脱が可能な構成である。
【0066】
処理S1~S4の実行時には、混合・撹拌処理時に本体容器5が回転しないように、PCBの処理装置1にはストッパー32が取り付けられた状態で利用される。一方、処理S4が完了すると、処理済品Yを回収するために、ストッパー32が取り外された後、ハンドル31が操作される。これにより、本体容器5が回転する。具体的には、本体容器5の開口部4aが回収容器9の側を向くように、本体容器5を回転させる(図11図12参照)。なお、図11は、図12よりも本体容器5の回転が進行していない時点の写真である。
【0067】
図12の状態になると、本体容器5の開口部4aから処理済品Yが落下して、回収容器9内に移される。この回収容器9は、枠体7で囲まれた空間8から取り出される(図13参照)。回収容器9内の処理済品Yは、上述したようにPCB濃度が著しく低下されているため、一般的な処分方法により処分することもできるし、コンクリート補助剤等に再利用することもできる。
【0068】
[別実施形態]
以下に、PCBの処理装置の別実施形態について説明する。
【0069】
〈1〉本体容器5の底部に複数の孔が空いており、この孔を閉塞するための板材が別途設けられているものとしても構わない。この場合、処理済品Yの回収の際には、板材を抜き取ることで、底部の孔から処理済品Yを回収容器9に向けて落下させる。よって、この構成の場合には、ハンドル31を操作して開口部4a側から処理済品Yを回収する必要がない。すなわち、PCBの処理装置1がハンドル31及びストッパー32を備えるか否かは任意である。
【0070】
ただし、上述したように、PCBを含む油が処理対象物Xとされる場合があり、このとき、この処理対象物Xに対して水や粉体が混合して撹拌されることになる。つまり、処理済品Yは一定の粘度を有しているため、孔部を通じて落下させることが困難な場合がある。かかる観点から、開口面積の大きい開口部4aを鉛直下方に向けた状態で、処理済品Yを回収容器9に向かって落下させる方が、回収作業が容易化される。
【0071】
〈2〉処理S5において本体容器5を回転させる際、作業者がハンドル31を操作するものとしたが、モータ等によって本体容器5を自動的に回転させるものとしても構わない。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0073】
表1に、この実施例で利用された各材料の利用量を示す。表2は、コーティング剤Bに含まれる焼結セラミック粉末を、蛍光X線分析法によって成分分析した結果を示す表である。表3は、焼結セラミック粉末のγ線スペクトロメトリー核種分析表であり、キャンベラ社のゲルマニウム半導体検出器(GC-4020-7500SL)を用いて分析された。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
処理対象物XとしてのPCB廃油は、環境省に規定の「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル(第3班)」に則した方法で分析した結果、4.5mg/kgのPCBを含有していた。
【0078】
まず、生石灰Qと固定化剤Aとを開口部4aから収容空間4内に投入し、モータ11を稼働させて複数の羽根部材21を回転させることで混合した(混合処理S1)。
【0079】
次に、混合物M1(生石灰Qと固定化剤Aの混合物)が存在する収容空間4に対してPCB廃油を一定速度で投入した(混合処理S2)。投入後、複数の羽根部材21を回転させることで収容空間4内を撹拌した。
【0080】
次に、混合物M2(生石灰Qと固定化剤Aと処理対象物Xの混合物)が存在する収容空間4に対して水Wを一定速度で投入した(混合処理S3)。
【0081】
次に、混合物M3(生石灰Qと固定化剤Aと処理対象物Xと水Wの混合物)が存在する収容空間4に対して、コーティング剤Bを投入し、撹拌した(混合・撹拌処理S4)。表3に示すように、コーティング剤Bに含まれる焼結セラミック粉には、1000Bq/kg未満の微量のγ線を放出する物質が含まれていた。
【0082】
上述したように、処理S3~S4を経て、生石灰や酸化マグネシウムと水とが反応することで、本体容器5の収容空間4内は150℃~180℃程度に加熱されている。撹拌処理は、コーティング剤Bを投入後、収容空間4内の温度が低下するまで継続された。具体的には、水蒸気の放出が視認できなくなった時点で撹拌処理を停止させた。ただし、室温程度に低下するまで撹拌処理を続けても良い。
【0083】
上記条件でPCB廃油を2回にわたって処理し、得られた処理済品Yを、「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」(昭和48年2月環境庁告示第13号)に則した方法で溶出した後、S46環告第59号付表4に規定のGC法に基づいて分析した結果、どちらの処理済品Yについても、含有PCBの濃度は検出限界の0.0005mg/L未満であった。この結果、PCBの処理装置1を用いることで、PCB廃油に含まれるPCBを、燃焼・加熱装置を別途設けることなく、分解除去することができることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 :処理装置
3 :蓋
4 :収容空間
4a :開口部
5 :本体容器
6 :脚部
7 :枠体
8 :空間
9 :回収容器
11 :モータ
13 :固定部材
21 :羽根部材
23 :回転軸
25 :結合部材
31 :ハンドル
32 :ストッパー
33 :伝達部材
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13