(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053405
(43)【公開日】2023-04-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/26 20160101AFI20230404BHJP
H02P 21/18 20160101ALI20230404BHJP
H02P 6/185 20160101ALI20230404BHJP
【FI】
H02P21/26
H02P21/18
H02P6/185
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023488
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2018162808の分割
【原出願日】2018-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友哉
(72)【発明者】
【氏名】河村 光
(57)【要約】
【課題】相固定処理の実行によってロータの位置を特定の位置に向けて変化させることができないという事象を発生させにくくすることができるモータ制御装置を提供すること。
【解決手段】モータ制御装置10は、推定d軸上に電圧ベクトルが発生するようにブラシレスモータ100に給電が行われているときに回転座標上で発生する電流ベクトルのうち、推定q軸の方向の電流成分であるq軸電流成分を取得する電流成分取得部163と、取得されたq軸電流成分を基に、特定の位置を決定する特定位置決定部165と、決定された特定の位置までブラシレスモータ100のロータ回転角θを変化させる相固定処理を実行する通電制御部166とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相を有するブラシレスモータに適用され、
ベクトル制御の回転座標上の制御軸のうち、d軸と推定されている推定d軸上に電圧ベクトルが発生するように前記ブラシレスモータに給電が行われているときに前記回転座標上で発生する電流ベクトルのうち、前記回転座標上で前記推定d軸と直交する制御軸である推定q軸の方向の電流成分であるq軸電流成分を取得する電流成分取得部と、
取得された前記q軸電流成分を基に、特定の位置を決定する特定位置決定部と、
決定された前記特定の位置まで前記ブラシレスモータのロータの位置を変化させる相固定処理を実行する通電制御部と、を備える
モータ制御装置。
【請求項2】
前記特定位置決定部は、前記電流成分取得部によって取得された前記q軸電流成分を基に、前記複数の相の中から特定の相を選択し、前記特定の相に応じた位置を前記特定の位置とする
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記相固定処理の実行後に、前記回転座標上の実際のd軸である実d軸の方向に前記推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する修正処理を実行する修正部を備える
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突極性を有するブラシレスモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、U相、V相及びW相のうちの特定の相(例えば、U相)のコイルに対応する位置を特定の位置と固定し、この特定の位置までロータの位置を変化させることにより、ロータの磁極を特定する相固定処理を実行する装置が記載されている。特許文献1に記載の相固定処理では、特定の相のコイルに通電することにより、ロータの位置を特定の位置まで変化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
相固定処理の開始前におけるロータの位置と上記特定の位置との位相差が「180°」である場合、特定の相のコイルへの通電によって発生する磁束と、永久磁石を有するロータで発生する磁束とが平行となる。その結果、相固定処理を実行しても、ロータの位置を特定の位置に向けて変化させることができない。つまり、相固定処理の開始前におけるロータの位置と特定の位置との関係によっては、相固定処理を実行してもロータ位置を特定の位置に変化させることができないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのモータ制御装置は、複数の相を有するブラシレスモータに適用される装置である。ベクトル制御の回転座標上の制御軸のうち、d軸と推定されている軸を推定d軸とし、推定d軸と直交する軸を推定q軸とする。この場合、モータ制御装置は、推定d軸上に電圧ベクトルが発生するようにブラシレスモータに給電が行われているときに回転座標上で発生する電流ベクトルのうち、推定q軸の方向の電流成分であるq軸電流成分を取得する電流成分取得部と、取得されたq軸電流成分を基に、特定の位置を決定する特定位置決定部と、決定された特定の位置までブラシレスモータのロータの位置を変化させる相固定処理を実行する通電制御部と、を備える。
【0006】
突極性を有するブラシレスモータへの給電によって推定d軸上に電圧ベクトルを発生させた場合、そのときのq軸電流成分と、ロータの位置との間には相関がある。
上記構成によれば、ブラシレスモータへの給電によって推定d軸上に電圧ベクトルを発生させることにより、q軸電流成分が取得される。そして、取得したq軸電流成分を基に、相固定処理によって固定すべきロータの位置である特定の位置が決定される。すなわち、相固定処理の開始前におけるq軸電流成分との相関関係から推測されるロータの位置を基に、特定の位置が決定される。そのため、特定の位置が予め決定されている場合とは異なり、相固定処理の実行によってロータの位置を特定の位置に向けて変化させることができないという事象を発生させにくくすることが可能である。
【0007】
例えば、特定位置決定部は、電流成分取得部によって取得されたq軸電流成分を基に、複数の相の中から特定の相を選択し、同特定の相に応じた位置を特定の位置とするようにしてもよい。
【0008】
なお、回転座標上において、ロータの回転中心から複数の相の位置に向けて延びる仮想線を相仮想線とし、推定q軸の方向に延びる仮想線を規定線とする。この場合、特定位置決定部は、複数の相仮想線のうち、規定線となす角が最大となる相仮想線以外の相仮想線に対応する相を、特定の相として選択することが好ましい。
【0009】
複数の相仮想線のうち、規定線となす角が最大となる相仮想線に対応する相である最離間相を特定の相とした場合、最離間相に対応する位置に向けてロータの位置を変化させることとなり、ロータの位置を特定の位置とする、又はロータの位置を特定の位置近傍の位置とするまでに要する時間が長くなりやすい。
【0010】
この点、上記構成によれば、複数の相仮想線のうち、規定線となす角が最大となる相仮想線以外の相仮想線に対応する相が特定の相として選択される。すると、相固定処理では、この特定の相に対応する位置に向けてロータの位置が変化することとなる。その結果、最離間相に対応する位置に向けてロータの位置を変化させる場合と比較し、相固定処理の実行時間の長期化を抑制することが可能となる。
【0011】
より好ましくは、特定位置決定部は、複数の相仮想線のうち、規定線となす角が最小となる相仮想線に対応する相を、特定の相として選択することである。
なお、モータ制御装置は、相固定処理の実行後に、回転座標上の実際のd軸である実d軸の方向に推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する修正処理を実行する修正部を備えることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、相固定処理の実行後に修正処理を実行することにより、推定d軸の向きと実際のd軸の向きとの位相差を小さくした上で、その後のモータ制御を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態のモータ制御装置と、同モータ制御装置によって制御されるブラシレスモータとを示す概略構成図。
【
図2】実d軸と推定d軸とがずれている状況下で推定d軸に電圧ベクトルを発生させた際に、同電圧ベクトルと電流ベクトルとがずれている様子を示すグラフ。
【
図3】ベクトル制御の回転座標における制御軸を連続的に変化させた際における推定q軸高周波電流の推移を示すグラフ。
【
図4】規定線と各相仮想線との位置関係の一例を示すグラフ。
【
図5】修正処理、相固定処理、修正処理の順に各処理が実行された場合に各相のコイルに流れる電流の推移の一例を示すタイミングチャート。
【
図6】規定線と各相仮想線との位置関係の一例を示す模式図。
【
図7】規定線と各相仮想線との位置関係の一例を示す模式図。
【
図8】規定線と各相仮想線との位置関係の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、モータ制御装置の一実施形態を
図1~
図8に従って説明する。
図1には、本実施形態のモータ制御装置10と、モータ制御装置10によって制御されるブラシレスモータ100とが図示されている。ブラシレスモータ100は、車載のブレーキ装置におけるブレーキ液の吐出用の動力源として用いられる。ブラシレスモータ100は、永久磁石埋込型同期モータである。ブラシレスモータ100は、複数の相(U相、V相及びW相)のコイル101,102,103と、突極性を有するロータ105とを備えている。ロータ105としては、例えば、N極とS極とが一極ずつ着磁されている2極ロータを挙げることができる。
【0015】
モータ制御装置10は、ベクトル制御によってブラシレスモータ100を駆動させる。このようなモータ制御装置10は、指令電流算出部11、指令電圧算出部12、2相/3相変換部13、インバータ14、3相/2相変換部15及びロータ位置推定部16を有している。
【0016】
指令電流算出部11は、ブラシレスモータ100に対する要求トルクTR*に基づき、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出する。d軸指令電流Id*は、ベクトル制御の回転座標におけるd軸の方向の電流成分の指令値である。q軸指令電流Iq*は、回転座標におけるq軸の方向の電流成分の指令値である。d軸及びq軸は、回転座標上で互いに直交している。
【0017】
指令電圧算出部12は、d軸指令電流Id*と、d軸電流Idとに基づいたフィードバック制御によって、d軸指令電圧Vd*を算出する。d軸電流Idとは、ブラシレスモータ100の各コイル101~103への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定d軸の方向の電流成分を示す値である。また、指令電圧算出部12は、q軸指令電流Iq*と、q軸電流Iqとに基づいたフィードバック制御によって、q軸指令電圧Vq*を算出する。q軸電流Iqとは、各コイル101~103への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定q軸の方向の電流成分を示す値である。
【0018】
なお、推定d軸とは、ベクトル制御の回転座標上の制御軸のうち、d軸と推定されている軸のことである。回転座標上での実際のd軸のことを実d軸という。また、回転座標上での実際のq軸のことを実q軸といい、回転座標上の制御軸のうちのq軸と推定されている軸のことを推定q軸という。
【0019】
2相/3相変換部13は、ロータ105の位置(すなわち、回転角)であるロータ回転角θを基に、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を、U相指令電圧VU*と、V相指令電圧VV*と、W相指令電圧VW*とに変換する。U相指令電圧VU*は、U相のコイル101に印加する電圧の指令値である。V相指令電圧VV*は、V相のコイル102に印加する電圧の指令値である。W相指令電圧VW*は、W相のコイル103に印加する電圧の指令値である。
【0020】
インバータ14は、複数のスイッチング素子を有している。インバータ14は、2相/3相変換部13から入力されたU相指令電圧VU*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってU相信号を生成する。また、インバータ14は、入力されたV相指令電圧VV*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってV相信号を生成する。また、インバータ14は、入力されたW相指令電圧VW*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってW相信号を生成する。すると、U相信号がブラシレスモータ100のU相のコイル101に入力され、V相信号がV相のコイル102に入力され、W相信号がW相のコイル103に入力される。
【0021】
3相/2相変換部15には、ブラシレスモータ100のU相のコイル101に流れた電流であるU相電流IUが入力され、V相のコイル102に流れた電流であるV相電流IVが入力され、W相のコイル103に流れた電流であるW相電流IWが入力される。そして、3相/2相変換部15は、ロータ回転角θを基に、U相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWを、d軸の方向の電流成分であるd軸電流Id及びq軸の方向の電流成分であるq軸電流Iqに変換する。
【0022】
ロータ位置推定部16は、ロータ回転角θを推定する。本実施形態では、ロータ回転角θは、U相のコイル101の位置を基準とする回転角である。こうしたロータ位置推定部16は、機能部として、交流電圧発生部161、修正部162、電流成分取得部163、ロータ位置導出部164、特定位置決定部165及び通電制御部166を有している。
【0023】
交流電圧発生部161は、回転座標上で実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させる際に、高周波で電圧を振動させる外乱電圧信号Vdh*を生成して第1の加算器17に出力する外乱出力処理を実行する。外乱出力処理が交流電圧発生部161によって実行されている場合、指令電圧算出部12によって算出されたd軸指令電圧Vd*に外乱電圧信号Vdh*が加算され、加算後のd軸指令電圧Vd*が2相/3相変換部13に入力される。
【0024】
修正部162は、交流電圧発生部161によって外乱出力処理が実行されているときに、推定d軸の向きを修正し、推定d軸の方向を実d軸の方向に接近させる修正処理を実行する。すなわち、修正処理は、ブラシレスモータ100のロータ105の突極性を利用し、推定d軸の向きの修正を通じて実d軸の向きと推定d軸の向きとの位相差Δθをほぼ「0°」又はほぼ「180°」とする処理である。ここでいう位相差Δθとは、推定d軸の向きから実d軸の向きを引いた値である。
【0025】
電流成分取得部163は、交流電圧発生部161によって外乱出力処理が実行されており、且つ、修正部162によって修正処理が実行されているときの推定q軸高周波電流Iqhを取得する。すなわち、電流成分取得部163は、3相/2相変換部15から入力されたq軸電流Iqをバンドパスフィルタに通すことにより、q軸電流Iqの高周波成分である推定q軸高周波電流Iqhを取得する。
【0026】
なお、ブラシレスモータ100のロータ105が突極性を有しているため、d軸の方向のインダクタンスが最小となり、q軸の方向のインダクタンスが最大となる。このため、実d軸の方向とは異なる方向に電圧ベクトルが発生するようにブラシレスモータ100に給電すると、当該方向よりも実d軸側に偏角した方向に電流ベクトルが発生する。
【0027】
詳しくは、
図2に示すように、推定d軸が実d軸に対して偏角する場合、推定d軸の方向に電圧ベクトルが発生するようにブラシレスモータ100に給電が行われると、回転座標上では、推定d軸に対して偏角して電流ベクトルが発生する。このため、推定d軸が実d軸に対して偏角している場合、推定q軸の方向の電流成分である推定q軸高周波電流Iqhが生じる。この推定q軸高周波電流Iqhが、推定d軸上に電圧ベクトルが発生するようにブラシレスモータ100に給電が行われているときに回転座標上で発生する電流ベクトルのうち、推定q軸の方向の電流成分であるq軸電流成分に相当する。推定q軸高周波電流Iqhは、推定q軸の方向に発生する電流ベクトルであるということもできる。すなわち、推定q軸高周波電流Iqhの絶対値が、推定q軸の方向の電流の大きさに相当する。また、推定q軸高周波電流Iqhの正負が、推定q軸の方向に流れる電流の向き、すなわち正向き又は負向きを表している。本実施形態では、推定q軸高周波電流Iqhが正の値である場合とは、推定q軸の方向の電流成分の向きが正向きである場合である。一方、推定q軸高周波電流Iqhが負の値である場合とは、推定q軸の方向の電流成分の向きが負向きである場合である。
【0028】
一方、推定d軸が実d軸と一致する場合、推定d軸の方向に電圧ベクトルが発生するようにブラシレスモータ100に給電が行われると、回転座標上で発生する電流ベクトルが推定d軸に対して偏角しない。よって、推定d軸が実d軸に対して傾いていない場合、推定q軸の方向に電流が流れない。すなわち、推定q軸高周波電流Iqhの大きさが「0」となる。
【0029】
図3には、推定d軸上に電圧ベクトルを発生させつつ、推定d軸の向きと実d軸の向きとの位相差Δθを連続的に変化させた場合における推定q軸高周波電流Iqhの推移が図示されている。
図3に示すように、位相差Δθの変化に応じて、推定q軸高周波電流Iqhの正負、すなわち推定q軸の方向の電流の向きが変化したり、推定q軸高周波電流Iqhの絶対値、すなわち推定q軸の方向の電流の大きさが変化したりする。
【0030】
図3を参照し、修正処理の一例について説明する。外乱出力処理が実行されると、推定d軸上には、外乱電圧信号Vdh*に基づいた電圧ベクトルが発生する。すると、回転座標には、推定d軸の方向に対して偏角した電流ベクトルが発生する。この電流ベクトルのうちの推定q軸の方向の電流成分が、推定q軸高周波電流Iqhに相当する。
【0031】
図3に示すように、修正部162は、修正処理では、電流成分取得部163によって取得される推定q軸高周波電流Iqhが正の値である場合、推定q軸の方向の電流成分の向きが正向きであるため、推定d軸の向きを進角させる方向である図中の第1の方向C1に推定d軸の向きを修正する。一方、修正部162は、修正処理では、電流成分取得部163によって取得される推定q軸高周波電流Iqhが負の値である場合、推定q軸の方向の電流成分の向きが負向きであるため、推定d軸を遅角させる方向である図中の第2の方向C2に推定d軸の向きを修正する。そして、修正部162は、電流成分取得部163によって取得される推定q軸高周波電流Iqhの絶対値が所定の閾値以下になると、回転座標上に発生した電流ベクトルのうちの推定d軸の方向の電流成分の大きさが閾値以下であると判断できるため、修正処理を終了する。また、修正部162は、外乱出力処理の停止を交流電圧発生部161に指示する。これにより、位相差Δθをほぼ「0°」又はほぼ「180°」とすることができる。
【0032】
図1に戻り、ロータ位置導出部164は、修正部162による修正処理が終了されると、ロータ回転角θを取得する。修正処理の終了時点では、回転座標上で推定d軸が実d軸と重なっていると判断することができる。そのため、ロータ位置導出部164は、修正処理の終了時点での推定d軸の向きを基に、ロータ回転角θを導出する。よって、ロータ位置導出部164によって導出されたロータ回転角θは、実際の回転角とは「180°」ずれている可能性がある。
【0033】
特定位置決定部165は、ロータ位置導出部164によってロータ回転角θが導出されると、特定の位置θTrを決定する。ロータ位置導出部164によって導出されたロータ回転角θは、電流成分取得部163によって取得された、修正処理の終了時点の推定q軸高周波電流Iqhに応じた位置(すなわち、回転角)である。そのため、特定の位置θTrの決定は、電流成分取得部163によって取得された、修正処理の終了時点の推定q軸高周波電流Iqhを基に行われるということができる。
【0034】
図4を参照し、特定の位置θTrを決定する処理について説明する。すなわち、特定位置決定部165は、回転座標上におけるコイル101~103と同数の相仮想線LIU,LIV,LIWと、規定線LIAとを用い、特定の位置θTrを決定する。相仮想線LIU,LIV,LIWとは、ロータ105の回転中心と各相のコイル101~103の位置とを通過する仮想的な直線のことである。各相仮想線LIU,LIV,LIWのうち、U相のコイル101の位置を通過する相仮想線がU相仮想線LIUであり、V相のコイル102の位置を通過する相仮想線がV相仮想線LIVであり、W相のコイル103の位置を通過する相仮想線がW相仮想線LIWである。規定線LIAは、推定d軸の方向の直交方向に延びる仮想的な直線である。すなわち、規定線LIAは、ロータ105の回転中心を通過するとともに、ロータ105のN極とS極とが並ぶ方向の直交方向、つまり推定q軸の方向に延びる仮想的な直線である。
【0035】
そして、特定位置決定部165は、各相仮想線LIU,LIV,LIWのうち、規定線LIAとなす角αが最大となる相仮想線以外の相仮想線に対応する相を特定の相PSとして選択する。より具体的には、特定位置決定部165は、各相仮想線LIU,LIV,LIWのうち、規定線LIAとなす角αが最小となる相仮想線に対応する相を特定の相PSとして選択する。
【0036】
続いて、特定位置決定部165は、特定の相PSに応じた位置を、特定の位置θTrとする。具体的には、特定位置決定部165は、特定の相PSのコイルの位置を特定の位置θTrとする。例えば、U相が特定の相PSとして選択された場合、U相のコイル101の位置が、特定の位置θTrとされる。
【0037】
通電制御部166は、特定位置決定部165によって決定された特定の位置θTrまでロータ回転角θを変化させる相固定処理を実行する。例えば、U相のコイル101の位置が特定の位置θTrである場合、相固定処理では、U相のコイル101に正の電流が流れ、V相のコイル102及びW相のコイル103には負の電流が流れるように、通電制御部166は、第1の加算器17及び第2の加算器18に信号を出力する。なお、この際にV相のコイル102に流れるV相電流IVは、W相のコイル103に流れるW相電流IWと同等である。また、V相電流IVとW相電流IWとの和の絶対値が、U相のコイル101に流れるU相電流IUと同じとなる。そして、通電制御部166は、予め設定された規定時間の間、相固定処理を実行すると、ロータ回転角θが特定の位置θTrとほぼ一致していると判断できるため、相固定処理を終了する。
【0038】
なお、修正部162は、通電制御部166による相固定処理の実行の終了後にも修正処理を実行する。本実施形態では、特定の位置θTrを決定する処理の実行に先立って実行される修正処理を第1の修正処理とし、相固定処理の実行の終了後に実行される修正処理のことを第2の修正処理という。第2の修正処理は、第1の修正処理と同様に、電流成分取得部163によって取得される推定q軸高周波電流Iqhの絶対値が所定の閾値以下になると、終了される。
【0039】
次に、
図5~
図8を参照し、本実施形態の作用及び効果について説明する。
ブラシレスモータ100の駆動開始が指示されると、第1の修正処理が実行される。第1の修正処理が実行されると、
図5に示すように、ブラシレスモータ100の各コイル101~103に流れる電流IU,IV,IWは、外乱電圧信号Vdh*の振動周期に応じた周期で振動する。そして、タイミングt11で、推定q軸高周波電流Iqhの絶対値が所定の閾値以下になる。すると、実d軸の向きと推定d軸の向きとの位相差Δθがほぼ「0°」又はほぼ「180°」となったと判断できるため、第1の修正処理が終了される。
【0040】
このように第1の修正処理が終了されると、特定の位置θTrが決定される。すなわち、第1の修正処理の終了時点での推定d軸の向きに基づいてロータ回転角θが導出される。そして、このロータ回転角θを基に特定の相PSが選択される。そして、特定の相PSのコイルに応じた位置が特定の位置θTrとされる。
【0041】
例えばロータ回転角θが「60°」から「120°」の範囲の値、又は、ロータ回転角θが「240°」から「300°」の範囲の値である場合、
図6に示すように、3つの相仮想線LIU,LIV,LIWのうち、規定線LIAとなす角αが最小となる相仮想線は、U相仮想線LIUとなる。そのため、U相が特定の相PSとして選択され、U相のコイル101に応じた位置が特定の位置θTrとされる。
【0042】
また、例えばロータ回転角θが「0°」から「60°」の範囲の値、又は、ロータ回転角θが「180°」から「240°」の範囲の値である場合、
図7に示すように、3つの相仮想線LIU,LIV,LIWのうち、規定線LIAとなす角αが最小となる相仮想線は、V相仮想線LIVとなる。そのため、V相が特定の相PSとして選択され、V相のコイル102に応じた位置が特定の位置θTrとされる。
【0043】
また、例えばロータ回転角θが「120°」から「180°」の範囲の値、又は、ロータ回転角θが「300°」から「360°」の範囲の値である場合、
図8に示すように、3つの相仮想線LIU,LIV,LIWのうち、規定線LIAとなす角αが最小となる相仮想線は、W相仮想線LIWとなる。そのため、W相が特定の相PSとして選択され、W相のコイル103に応じた位置が特定の位置θTrとされる。
【0044】
このように決定された特定の位置θTrと、相固定処理の開始前の実際のロータ回転角との差が「180°」となることはない。そのため、タイミングt11から相固定処理を実行することにより、ロータ回転角θを特定の位置θTrに向けて変化させることができる。すなわち、相固定処理を実行してもロータ回転角θを特定の位置θTrに向けて変化させることができないという事象の発生を抑制することができる。
【0045】
例えばロータ回転角θが「60°」から「120°」の範囲の値である場合に、W相のコイル103の位置を特定の位置θTrとした上で相固定処理を実行した場合、ロータ105を「200°」以上回転させることとなる。この場合、ロータ回転角θを特定の位置θTr近傍の位置とするまでに要する時間が長くなりやすい。この点、本実施形態では、規定線LIAとのなす角αが最小となる相仮想線に対応する相のコイルの位置が特定の位置θTrとされる。そのため、相固定処理の実行によってロータ105を「200°」以上回転させなくてもよい。このようにロータ105の回転量の増大を抑制できる分、相固定処理に要する時間が長くなることを抑制できる。
【0046】
そして、タイミングt12で相固定処理が終了される。ロータ回転角θが特定の位置θTrに近くづくにつれ、ロータ105に作用するトルクは小さくなる。したがって、相固定処理の終了時点では、ロータ回転角θが特定の位置θTrと一致していないことも考えられる。すなわち、実d軸の向きと推定d軸の向きとが多少ずれていることがあり得る。そこで、本実施形態では、相固定処理が終了されると、第2の修正処理が実行される。
【0047】
第2の修正処理の実行によって、位相差Δθがより「0°」に近づくように推定d軸の向きが修正される。そして、タイミングt13で、推定q軸高周波電流Iqhの絶対値が所定の閾値以下になる。すると、位相差Δθがほぼ「0°」になったと判断できるため、第2の修正処理の実行が終了される。すなわち、位相差Δθを「0°」又はより「0°」に近い値とした上でその後のモータ制御を実施することができる。その結果、その後のモータ制御を適切に実施することができる。
【0048】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第2の修正処理は、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることができるのであれば、上記実施形態で説明した内容となる異なる内容の処理であってもよい。
【0049】
・第1の修正処理は、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることができるのであれば、上記実施形態で説明した内容となる異なる内容の処理であってもよい。
・第1の修正処理及び第2の修正処理を、推定q軸高周波電流Iqhの絶対値と所定の閾値との比較に基づいて終了させなくてもよい。例えば、第1の修正処理及び第2の修正処理の実行開始から所定の時間が経過したことを条件に、第1の修正処理及び第2の修正処理を終了するようにしてもよい。また、第1の修正処理及び第2の修正処理の実行開始からの推定d軸の変化量が所定値以上となったことを条件に、第1の修正処理及び第2の修正処理を終了するようにしてもよい。第1の修正処理の終了条件と第2の修正処理の終了条件とは異なっていてもよい。
【0050】
・相固定処理の開始時点からの経過時間が規定時間に達することを条件に、相固定処理を終了させなくてもよい。ロータ回転角θが特定の位置θTrである場合、ブラシレスモータ100の各コイル101~103に流れる電流の変化量は安定する。そのため例えば、ブラシレスモータ100に流れる電流の変化量が所定の範囲内であることを条件に、相固定処理を終了させるようにしてもよい。
【0051】
・相固定処理の終了後に第2の修正処理を実行しなくてもよい。この場合、相固定処理の終了時点での位相差Δθが、モータ制御の実行の上での許容範囲内の値であることが推定されていることが好ましい。
【0052】
・特定の相PSを選択するに際し、規定線LIAとなす角αが最大となる相仮想線に対応する相以外の相を特定の相PSとして選択できるのであれば、上記実施形態で説明した方法とは異なる方法で特定の相PSを選択するようにしてもよい。例えば、規定線LIAとなす角αが2番目に大きい角度となる相仮想線に対応する相を、特定の相PSとして選択するようにしてもよい。
【0053】
・特定の位置θTrは、特定の相PSの位置とは異なる位置であってもよい。例えば、特定の相PSと、特定の相PSと隣り合う他の相との中間位置を特定の位置θTrと設定するようにしてもよい。
【0054】
・モータ制御装置10は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0055】
・ブラシレスモータ100に適用されるロータ105は、2極ロータではなく、4極ロータであってもよい。
・モータ制御装置10が適用されるブラシレスモータは、車載のブレーキ装置とは別のアクチュエータの動力源であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…モータ制御装置、16…ロータ位置推定部、162…修正部、163…電流成分取得部、165…特定位置決定部、166…通電制御部、100…ブラシレスモータ、101~103…コイル、105…ロータ。