(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053492
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20230406BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230406BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162556
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】大森 恒嗣
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 悠太
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】伴 亜瑳美
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ09
5H029EJ03
5H029EJ12
5H029HJ02
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減しつつ出力を確保できる蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】蓄電デバイスは、順に、正極層、電解質層、負極層を含み、正極層、電解質層および負極層は、それぞれリチウムイオン伝導性を有する電解質を含む。正極層の電解質は固体電解質を含み、正極層は、さらに電解質に接する活物質を含む。正極層の電解質におけるLiの原子数濃度は、電解質層の電解質におけるLiの原子数濃度よりも高く、かつ、負極層の電解質におけるLiの原子数濃度よりも高い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に、正極層、電解質層、負極層を含み、
前記正極層、前記電解質層および前記負極層は、それぞれリチウムイオン伝導性を有する電解質を含み、
前記正極層の前記電解質は固体電解質を含み、
前記正極層は、さらに前記電解質に接する活物質を含む蓄電デバイスであって、
前記正極層の前記電解質におけるLiの原子数濃度は、前記電解質層の前記電解質におけるLiの原子数濃度よりも高く、かつ、前記負極層の前記電解質におけるLiの原子数濃度よりも高い蓄電デバイス。
【請求項2】
前記正極層の前記電解質は、リチウムイオン伝導性を有する有機化合物を含み、
前記有機化合物は前記活物質に接し、
前記有機化合物におけるLiの原子数濃度は、前記電解質層の前記電解質におけるLiの原子数濃度よりも高く、かつ、前記負極層の前記電解質におけるLiの原子数濃度よりも高い請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記有機化合物は電解液を含む請求項2記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオンを拡散種とする蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
正極層、電解質層および負極層を含む蓄電デバイスに係る先行技術として、正極層、電解質層および負極層がそれぞれリチウムイオン伝導性を有する電解質を含み、正極層は、さらに活物質を含むものが特許文献1に開示されている。正極層では充放電時に活物質と電解質との間をリチウムイオンが移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/033424号
【特許文献2】特開2011-216300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において、例えば正極層の温度が上昇すると、活物質と電解質との間のリチウムの濃度差を駆動力として、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散が生じることがある。充放電に関わらないリチウムイオンの拡散が生じると、蓄電デバイスの放電容量の低下や活物質の結晶構造の崩壊が生じるおそれがある。
【0005】
特許文献2にはリチウム含有金属粒子の表面を金属酸化物の粒子群で被覆する技術が開示されている。この技術は、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減できる可能性がある。しかし、リチウム含有金属粒子を被覆した金属酸化物の粒子群が抵抗となり、蓄電デバイスの出力が低下する。
【0006】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減しつつ出力を確保できる蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の蓄電デバイスは、順に、正極層、電解質層、負極層を含み、正極層、電解質層および負極層は、それぞれリチウムイオン伝導性を有する電解質を含む。正極層の電解質は固体電解質を含み、正極層は、さらに電解質に接する活物質を含む。正極層の電解質におけるLiの原子数濃度は、電解質層の電解質におけるLiの原子数濃度よりも高く、かつ、負極層の電解質におけるLiの原子数濃度よりも高い。
【発明の効果】
【0008】
第1の態様によれば、正極層の電解質におけるLiの原子数濃度(以下「Cp」と称す)は、電解質層の電解質におけるLiの原子数濃度(以下「Ce」と称す)よりも高く、かつ、負極層の電解質におけるLiの原子数濃度(以下「Cn」と称す)よりも高いので、Cp≦CeやCp≦Cnの場合と比較して、正極層に含まれる活物質のLiの原子数濃度(以下「Ca」と称す)とCpとの差を小さくできる。これにより正極層の活物質と電解質との間のリチウムの濃度差を駆動力とする、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減できる。さらにCp≦CeやCp≦Cnの場合と比較して、電解質層や負極層に含まれる電解質を最適なイオン伝導度に設定し易くできるので、蓄電デバイスの出力を確保できる。
【0009】
第2の態様によれば、第1の態様において、正極層の電解質は、リチウムイオン伝導性を有する有機化合物を含む。有機化合物は活物質に接するので、有機化合物と活物質との間をリチウムイオンが移動する。有機化合物におけるLiの原子数濃度(以下「Cpo」と称す)は、電解質層の電解質におけるLiの原子数濃度(Ce)よりも高く、かつ、負極層の電解質におけるLiの原子数濃度(Cn)よりも高いので、Cpo≦CeやCpo≦Cnの場合と比較して、CaとCpとの差を小さくできる。これにより正極層の活物質と有機化合物との間のリチウムの濃度差を駆動力とする、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減できる。さらにCpo≦CeやCpo≦Cnの場合と比較して、電解質層や負極層に含まれる電解質を最適なイオン伝導度に設定し易くできるので、蓄電デバイスの出力を確保できる。
【0010】
第3の態様によれば、第2の態様において有機化合物は電解液を含む。有機化合物が電解液を含まない場合と比較して、有機化合物と活物質との間の界面抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施の形態における蓄電デバイスが有する発電要素の断面図である。
【
図2】
図1のIIで示す部分を拡大した正極層の部分断面図である。
【
図3】
図1のIIIで示す部分を拡大した電解質層の部分断面図である。
【
図4】
図1のIVで示す部分を拡大した負極層の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態における蓄電デバイス1が有する発電要素10の模式的な断面図である。本実施形態における蓄電デバイス1は、ケース(図示せず)に発電要素10が収容されたものであり、発電要素10が固体で構成されたリチウムイオン固体電池である。発電要素10が固体で構成されているとは、発電要素10の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば骨格中に液体が含浸した形態を排除するものではない。
【0013】
図1に示すように発電要素10は、順に正極層11、電解質層14及び負極層15を含む。正極層11、電解質層14及び負極層15は固体電解質18を含む。
【0014】
正極層11は集電層12と活物質層13とが重ね合わされている。集電層12は導電性を有する部材である。集電層12の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの2種以上の元素を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0015】
活物質層13は固体電解質18及び活物質19を含む。活物質層13の抵抗を低くするために、活物質層13に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、Ni、Pt及びAgが例示される。
【0016】
活物質19は、遷移金属を有する金属酸化物が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、Mn,Co,Ni,Fe,Cr及びVの中から選択される1種以上の元素とLiとを含む酸化物が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、LiCoO2,LiNi0.8Co0.15Al0.05O2,LiMn2O4,LiNiVO4,LiNi0.5Mn1.5O4,LiNi1/3Mn1/3Co1/3O4及びLiFePO4が例示される。
【0017】
負極層15は集電層16と活物質層17とが重ね合わされている。集電層16は導電性を有する部材である。集電層16の材料はNi,Ti,Fe,Cu及びSiから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0018】
活物質層17は固体電解質18及び活物質20を含む。活物質層17の抵抗を低くするために、活物質層17に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、Ni、Pt及びAgが例示される。
【0019】
活物質20は、Li、Li-Al合金、Li4Ti5O12、黒鉛、In、Si、Sn、Si-Li合金、Sn-Li合金、及び、Siを含む酸化物が例示される。Siを含む酸化物はSiOX(X>0)が好ましい。特にSiOX(0<X<2)は放電容量が大きく、充放電サイクル性能が良好なので好適である。
【0020】
図2は、
図1のIIで示す部分を拡大した活物質層13(正極層11)の部分断面図である。活物質層13は活物質19及びリチウムイオン伝導性を有する電解質22を含む。本実施形態では電解質22は固体電解質18及び有機化合物21を含む。固体電解質18は、例えば酸化物系、硫化物系および水素化物系から選ばれる1種以上の無機化合物を含む。
【0021】
酸化物系の固体電解質18は、大気に暴露された際に有毒ガスの発生がないので好ましい。固体電解質18は、例えば酸化物の表面に水素化物が結合した複合体であっても良い。酸化物系の固体電解質18は、NASICON型構造を有する酸化物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型構造を有する酸化物が例示される。
【0022】
NASICON型構造を有する酸化物は、Li,M(MはTi,Zr及びGeから選ばれる1種以上の元素)及びPを少なくとも含む酸化物、例えばLi(Al,Ti)2(PO4)3及びLi(Al,Ge)2(PO4)3が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物は、Li,Ti及びLaを少なくとも含む酸化物、例えばLa2/3-XLi3XTiO3が挙げられる。
【0023】
ガーネット型構造の酸化物の基本組成はLi5La3M2O12(M=Nb,Ta)である。ガーネット型構造の酸化物からなる固体電解質18は、Li,La,Zr及びOを含むものが好ましい。固体電解質18は、基本組成の5価のMカチオンを4価のカチオンに置換したLi7La3Zr2O12が例示される。
【0024】
固体電解質18は、Li,La及びZr以外に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Ga,Sr,Y,Nb,Sn,Sb,Ba,Hf,Ta,W,Bi,Rb及びランタノイド(Laは除く)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。例えばLi6La3Zr1.5W0.5O12,Li6.15La3Zr1.75Ta0.25Al0.2O12,Li6.15La3Zr1.75Ta0.25Ga0.2O12,Li6.25La3Zr2Ga0.25O12,Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12,Li6.5La3Zr1.75Te0.25O12,Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12,Li6.9La3Zr1.675Ta0.289Bi0.036O12,Li6.46Ga0.23La3Zr1.85Y0.15O12,Li6.8La2.95Ca0.05Zr1.75Nb0.25O12,Li7.05La3.00Zr1.95Gd0.05O12,Li6.20Ba0.30La2.95Rb0.05Zr2O12が挙げられる。
【0025】
固体電解質18は、特にMg及び元素A(AはCa,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を含み、各元素のモル比が以下の(1)から(3)を全て満たすもの、又は、Mg及び元素Aの両方を含み、各元素のモル比が以下の(4)から(6)を全て満たすものが好適である。元素Aは、固体電解質18のイオン伝導率を高くするため、Srが好ましい。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
(4)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(5)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(6)0.04≦A/(La+A)≦0.17。
【0026】
硫化物系の固体電解質18は、結晶性のチオリシコン型、Li10GeP2S12型、アルジロダイト型、Li7P3S11型、Li2S-P2S5に代表されるガラスやガラスセラミック系が例示される。水素化物系の固体電解質18は、LiBH4とリチウムハライド化合物(LiI,LiBr,LiCl)及びリチウムアミド(LiNH2)との固溶体が例示される。
【0027】
有機化合物21はリチウムイオン伝導性を有する。有機化合物21は液体、ゲル状および固体から選ばれる1種以上を含む。有機化合物21は液体、ゲル状および固体から選ばれる2種以上の混合物であっても良い。有機化合物21は活物質19に接している。
【0028】
液体の有機化合物21は電解液が例示される。電解液は溶媒にリチウム塩が溶解している。溶媒はリチウム塩が溶解するものであれば特に制限がない。リチウム塩は、正極層11と負極層15との間で電子の授受を行うリチウムイオンを提供する。リチウム塩のアニオンは、ハロゲン化物イオン(I-、Cl-、Br-等)、SCN-、BF4-、BF3(CF3)―、BF3(C2F5)-、PF6
-、ClO4
-、SbF6
-、N(SO2F)2
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、B(C6H5)4
-、B(O2C2H4)2
-、C(SO2F)3
-、C(SO2CF3)3
-、CF3COO-、CF3SO2O-、C6F5SO2O-、B(O2C2O2)2
-が例示される。
【0029】
N(SO2F)2
-を略称で[FSI]-:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンと呼び、N(SO2CF3)2
-を略称で[TFSI]-:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンと呼び、B(O2C2O2)2
-を略称で[BOB]-:ビスオキサレートボラートアニオンと呼び、C(SO2F)3
-を略称で[F3C]-:トリス(フルオロスルホニル)カルボアニオンと呼ぶ場合がある。
【0030】
リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、Li[FSI]、Li[TFSI]、Li[F3C]、Li[BOB]、LiClO4、LiBF3(CF3)、LiBF3(C2F5)、LiBF3(C3F7)、LiBF3(C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiCF3SO2O、LiCF3COO、LiRCOO(Rは炭素数1-4のアルキル基、フェニル基又はナフチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種が例示される。
【0031】
電解液の溶媒は、炭酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、リン酸エステル、γ-ラクトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、フルオラス溶媒、イオン液体が例示される。これらの混合物であっても良い。
【0032】
炭酸エステルは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルが例示される。
【0033】
脂肪族カルボン酸エステルは、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルが例示される。リン酸エステルはリン酸トリメチルが例示される。γ-ラクトン類はγ-ブチロラクトンが例示される。エーテル類は、1,3-ジオキソラン、1,2-ジアルコキシエタン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテルが例示される。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリルが例示される。フルオラス溶媒は、炭化水素の水素原子をフッ素原子に置換した化合物およびその誘導体である。
【0034】
イオン液体はカチオン及びアニオンからなる化合物であり、常温常圧で液体である。電解液の溶媒がイオン液体であれば電解液の難燃性を向上できる。イオン液体は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムからなる群から選ばれる1種以上をカチオン成分とするものが例示される。
【0035】
イオン液体のアニオン成分は特に限定されない。アニオン成分はBF4
-,N(SO2F)2
-等の無機アニオン、B(C6H5)4
-,CH3SO3
-,CF3SO3
-,N(SO2CF3)2
-,N(SO2C4F9)2
-等の有機アニオンが例示される。電解液のアニオン成分が、リチウム塩のアニオン成分と同じであると、電解液に含まれるリチウムイオンとアニオンとの配位(相互作用)が制御し易くなるので好ましい。
【0036】
イオン液体は、例えばN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(DEME-FSI)、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME-TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、N-ブチル-N-メチルピペリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(P13-FSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(P13-TFSI)が挙げられる。
【0037】
電解液の各種物性および機能は、リチウム塩および溶媒の種類、塩濃度により決定される。電解液の塩濃度は、イオン伝導性を確保するため、例えば0.5-5mol/dm3である。特に塩濃度が3mol/dm3以上のときは揮発性および燃焼性の低下効果や電位窓の拡張効果がみられるので好ましい。
【0038】
ゲル状または固体の有機化合物21は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリルが例示される。活物質層13に固体電解質18等の粒子を結着するバインダーが含まれていても良い。電解液の溶媒にバインダーが溶解して半固形化したものはゲル状の有機化合物21の一種である。バインダーは、ポリイミド系、アクリル系、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及び、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が例示される。ゲル状および固体の有機化合物21は弾性を有する。
【0039】
図3は、
図1のIIIで示す部分を拡大した電解質層14の部分断面図である。電解質層14はリチウムイオン伝導性を有する電解質23を含む。本実施形態では電解質23は固体電解質18及び有機化合物21を含む。電解質層14に固体電解質18等の粒子を結着するバインダーが含まれていても良い。電解質層14に含まれる固体電解質18や有機化合物21は、正極層11に含まれる固体電解質18や有機化合物21と同じ種類であっても良いし、異なる種類であっても良い。電解質層14に含まれる有機化合物21が電解液を含む場合、電解液の塩濃度は、イオン伝導性を確保するため、例えば1mol/dm
3程度である。
【0040】
図4は、
図1のIVで示す部分を拡大した活物質層17(負極層15)の部分断面図である。活物質層17は活物質20及びリチウムイオン伝導性を有する電解質24を含む。本実施形態では電解質24は固体電解質18及び有機化合物21を含む。活物質層17に固体電解質18等の粒子を結着するバインダーが含まれていても良い。活物質層17に含まれる固体電解質18や有機化合物21は、正極層11や電解質層14に含まれる固体電解質18や有機化合物21と同じ種類であっても良いし、異なる種類であっても良い。活物質層17に含まれる有機化合物21が電解液を含む場合、電解液の塩濃度は、イオン伝導性を確保するため、例えば1mol/dm
3程度である。
【0041】
蓄電デバイス1は、例えば以下のように製造される。電解液と固体電解質18とを混合したものに、バインダーを溶解した溶液を混合し、スラリーを作る。テープ成形後、乾燥して電解質層14のためのグリーンシート(電解質シート)を得る。
【0042】
電解液と固体電解質18とを混合したものに活物質19を混合し、さらにバインダーを溶解した溶液を混合し、スラリーを作る。集電層12の上にテープ成形後、乾燥して正極層11のためのグリーンシート(正極シート)を得る。
【0043】
電解液と固体電解質18とを混合したものに活物質20を混合し、さらにバインダーを溶解した溶液を混合し、スラリーを作る。集電層16の上にテープ成形後、乾燥して負極層15のためのグリーンシート(負極シート)を得る。
【0044】
電解質シート、正極シート及び負極シートをそれぞれ所定の形に裁断した後、正極シート、電解質シート、負極シートの順に重ね、互いに圧着して発電要素10とする。集電層12,16にそれぞれ端子(図示せず)を接続しケース(図示せず)に封入して、順に正極層11、電解質層14及び負極層15を含む蓄電デバイス1が得られる。
【0045】
例えば蓄電デバイス1が高温下で使われると、蓄電デバイス1の周囲の温度の影響で正極層11の温度が上昇する。そうすると活物質19と電解質22との間のリチウムの濃度差を駆動力として、リチウムイオンの拡散が生じ易くなる。このリチウムイオンの拡散は蓄電デバイス1の充放電と無関係に生じるので、拡散が生じると蓄電デバイス1の放電容量の低下や活物質19の結晶構造の崩壊が生じるおそれがある。
【0046】
充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減するため、蓄電デバイス1は、正極層11の電解質22におけるLiの原子数濃度(Cp)が、電解質層14の電解質23におけるLiの原子数濃度(Ce)よりも高く(Cp>Ce)、かつ、負極層15の電解質24におけるLiの原子数濃度(Cn)よりも高くなるように設定されている(Cp>Cn)。
【0047】
本実施形態では、電解質22,23,24はイオン伝導の活性化障壁が固体電解質18に比べて一般的に低い有機化合物21を含むので、有機化合物21のLi原子数濃度を電解質22,23,24のLi原子数濃度とする。具体的には、電解質22の有機化合物21のLi原子数濃度を電解質22のLi原子数濃度(Cp)とし、電解質23の有機化合物21のLi原子数濃度を電解質23のLi原子数濃度(Ce)とし、電解質24の有機化合物21のLi原子数濃度を電解質24のLi原子数濃度(Cn)とする。
【0048】
これによりCp≦CeやCp≦Cnの場合と比較して、正極層11に含まれる活物質19のLiの原子数濃度(Ca)とCpとの差を小さくできる。よって活物質19と電解質22の有機化合物21との間のリチウムの濃度差を駆動力とする、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減できる。さらにCp≦CeやCp≦Cnの場合と比較して、電解質層14や負極層15に含まれる電解質23,24の制約が少なくなるので、電解質23,24を最適なイオン伝導度に設定し易くなる、よって蓄電デバイス1の出力を確保できる。
【0049】
電解質22,23,24のLiの原子数濃度は、エネルギー分散型X線分光器(EDS)が搭載された走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、蓄電デバイス1の断面を分析して求めることができる。蓄電デバイス1の断面は、蓄電デバイス1を凍結させ、又は、4官能性のエポキシ系樹脂などに蓄電デバイス1を埋め込み固めた後、切断・研磨したり集束イオンビーム(FIB)を照射したりして得ることができる。
【0050】
SEM-EDSによる分析は、始めに活物質層13,17及び電解質層14の断面上の縦45μm横60μmの矩形の視野を無作為にそれぞれ3か所選択し、元素の分布を特定したり反射電子像のコントラストを画像解析したりして、視野に現出する電解質22,23,24(固体電解質18及び有機化合物21)の位置を特定する。なお、電解質22,23,24(固体電解質18及び有機化合物21)の位置を特定できれば良いので、上記の矩形の視野としては、例えば縦30μm横40μmとしても良い。
【0051】
次いで視野の中の電解質22,23,24(本実施形態では有機化合物21)の5か所を無作為に選択し、点分析または面分析によって測定箇所ごとのLi原子数濃度(%)を求める。面分析の面積は、視野に現出する電解質22,23,24の中に収まるように、電解質22,23,24の大きさに応じて適宜設定する。求めた全ての値(Li原子数濃度)を足した合計を値の個数で除して電解質22,23,24毎に平均値を計算し、電解質22,23,24の平均値を比較する。
【0052】
SEM-EDSの検出限界よりもLiの原子数濃度が低い場合は、蓄電デバイス1から電解質22,23,24を取り出して、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって電解質22,23,24のLi原子数濃度を求めることができる。
【0053】
有機化合物21が電解液(バインダーが溶解して電解液が半固形化したものを含む)を含む場合には、有機化合物21が電解液を含まない場合と比較して、有機化合物21と活物質19との間の界面抵抗を低減できるので好ましい。電解液(液体またはゲル状)はSEM-EDSによる分析の画像解析によって特定できる。
【0054】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0055】
実施形態では、蓄電デバイス1として、集電層12の片面に活物質層13が設けられた正極層11、及び、集電層16の片面に活物質層17が設けられた負極層15を備える発電要素10を有するものを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電層12の両面に活物質層13と活物質層17とをそれぞれ設けた電極層(いわゆるバイポーラ電極)を備える蓄電デバイスに、実施形態における各要素を適用することは当然可能である。バイポーラ電極と電解質層14とを交互に積層した発電要素をケース(図示せず)に収容すれば、いわゆるバイポーラ構造の蓄電デバイスが得られる。
【0056】
実施形態では、電解質22,23,24が全て有機化合物21を含む場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。電解質22,23,24のいずれか1以上の有機化合物21を省略することは当然可能である。
【0057】
例えば正極層11の電解質22に有機化合物21が含まれていない場合、正極層11の固体電解質18のLi原子数濃度を測定し、それを正極層11の電解質22におけるLiの原子数濃度(Cp)とする。電解質層14の電解質23に有機化合物21が含まれていない場合、電解質層14の固体電解質18のLi原子数濃度を測定し、それを電解質層14の電解質23におけるLiの原子数濃度(Ce)とする。負極層15の電解質24に有機化合物21が含まれていない場合、負極層15の固体電解質18のLi原子数濃度を測定し、それを負極層15の電解質24におけるLiの原子数濃度(Co)とする。
【0058】
これらの場合も実施形態と同様に、正極層11の電解質22におけるLiの原子数濃度(Cp)が、電解質層14の電解質23におけるLiの原子数濃度(Ce)よりも高く、かつ、負極層15の電解質24におけるLiの原子数濃度(Cn)よりも高ければ、Cp≦CeやCp≦Cnの場合と比較して、正極層11に含まれる活物質19のLiの原子数濃度(Ca)とCpとの差を小さくできる。これにより正極層11の活物質19と電解質22との間のリチウムの濃度差を駆動力とする、充放電に関わらないリチウムイオンの拡散を低減できる。さらにCp≦CeやCp≦Cnの場合と比較して、電解質層14や負極層15に含まれる電解質23,24を最適なイオン伝導度に設定し易くできるので、蓄電デバイス1の出力を確保できる。
【0059】
実施形態では、リチウムイオン電池を例示して蓄電デバイス1を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の蓄電デバイスとしては、リチウム硫黄電池、リチウム酸素電池、リチウム空気電池などの他の二次電池、電解コンデンサが挙げられる。
【符号の説明】
【0060】
1 蓄電デバイス
11 正極層
14 電解質層
15 負極層
18 固体電解質
19 活物質
21 有機化合物
22,23,24 電解質