(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053511
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】新規な液体状医薬品の保存方法、及び、当該保存方法に用いられる容器
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20230406BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230406BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230406BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230406BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230406BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
A61J1/05 313
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K38/02
A61P35/00
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162586
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 喜子
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB11
4C047BB12
4C047BB19
4C047BB30
4C047CC04
4C047GG04
4C076AA12
4C076CC29
4C076DD23
4C076DD23D
4C076DD26
4C076DD26Z
4C076FF11
4C076FF36
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084MA17
4C084NA03
4C084ZC021
4C084ZC022
4C085AA14
4C085BB36
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
(57)【要約】
【課題】液体状の医薬品の保存安定性に優れた新規 な液体状医薬品の保存方法、及び、当該保存方法に用いられる容器を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含んで形成された容器に液体状の医薬品を保存する医薬品の保存方法であって、前記液体状の医薬品中の界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状医薬品の保存方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含んで形成された容器に液体状の医薬品を保存する医薬品の保存方法であって、前記液体状の医薬品中の界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状の医薬品の保存方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーから選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の液体状医薬品の保存方法。
【請求項3】
前記液体状の医薬品の主成分が、タンパク質である、請求項1又は請求項2に記載の液体状医薬品の保存方法。
【請求項4】
前記容器が、最内層、中間層及び最外層の少なくとも3層を有する酸素バリア性多層容器であって、前記中間層は酸素バリア性樹脂を含み、前記酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が、5cc・mm/m2・day・atm以下である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の液体状医薬品の保存方法。
【請求項5】
前記界面活性剤が、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ラウリル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の液体状医薬品の保存方法。
【請求項6】
前記容器が、バイアル又はプレフィルドシリンジ用容器である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の液体状医薬品の保存方法。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の保存方法に用いられる容器であって、熱可塑性樹脂を含んで形成され、且つ、界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状の医薬品を封入した容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な液体状医薬品の保存方法、及び、当該保存方法に用いられる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーの発達により、遺伝子組み換え、細胞増殖等によって、種々の活性タンパク質を用いた製剤の開発が進んでいる。これらタンパク質を用いた抗体製薬などは所謂バイオ医薬品(以下、これらを総じて単に「バイオ医薬品」と称することがある)とも称され、その発展は目ざましく、医薬品として大きな効果を達成している。
【0003】
一方、これらタンパク質を含むバイオ医薬品、特に液体状の医薬品においては、長期保存や輸送中など種々の過程において、薬液中に凝集物が発生することが確認されている。これら凝集物の発生は、薬液中のタンパク質の変位が原因であると推測されている。このため、バイオ医薬品の分野においては、これら凝集物の発生など保存安定性の問題を解決するために、一部の水分を除去することによって振とうストレス耐性を付与する技術(例えば、下記特許文献1参照)、熱、振動等の物理的ストレスや化学的ストレスから薬液中のタンパク質を保護するために、対環状分子や線状分子を用いることでチキソトロピー性を持たせた技術が開発されている(例えば、下記特許文献2参照)。
【0004】
また、バイオ医薬品の分野においては、タンパク質の凝集物の発生を抑制するために薬液に界面活性剤を用いた技術が知られている(例えば、下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/064591号
【特許文献2】国際公開第2014/115882号
【特許文献3】特開昭55-157518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、液状の医薬品を保存するために用いられる容器としては、例えば、ガラス製容器が多く用いられている。これらガラス製容器は内壁面の撥水性を高めるためにシリコンオイルによる表面処理が施される場合がある。しかし、シリコンオイル処理が施されたガラス製容器にタンパク質を含むバイオ医薬品に収容すると、経時に伴い壁面のシリコンオイルに薬液中のタンパク質が吸着し、タンパク質の凝集物が発生することがある。このようなガラス製容器を用いる場合に、上述のように薬液中に界面活性剤を用いると、効果的にタンパク質の凝集物の発生を抑制でき、薬液の保存安定性を向上させることができる。
【0007】
しかし、近年、薬液に含まれる界面活性剤が患者のアレルギー反応を引き起こす要因となることが懸念されており、界面活性剤を用いずにタンパク質を含む医薬品を安定して保存できる方法の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決すべく、液体状の医薬品の保存安定性に優れた新規な液体状医薬品の保存方法、及び、当該保存方法に用いられる容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、液状の医薬品の保存方法について鋭意研究を行った結果、熱可塑性樹脂製容器は、ガラス製容器に比して容器壁面へのタンパク質吸着性が低く、界面活性剤を使用しない医薬品薬液保存が可能なことを見出し、本発明を完成した。
【0010】
<1> 熱可塑性樹脂を含んで形成された容器に液体状の医薬品を保存する医薬品の保存方法であって、前記液体状の医薬品中の界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状の医薬品の保存方法。
<2> 前記熱可塑性樹脂が、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーから選ばれる少なくとも一種である、前記<1>に記載の液体状医薬品の保存方法。
<3> 前記液体状の医薬品の主成分が、タンパク質である、前記<1>又は前記<2>に記載の液体状医薬品の保存方法。
<4> 前記容器が、最内層、中間層及び最外層の少なくとも3層を有する酸素バリア性多層容器であって、前記中間層は酸素バリア性樹脂を含み、前記酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が、5cc・mm/m2・day・atm以下である、前記<1>~前記<3>のいずれか一つに記載の液体状医薬品の保存方法。
<5> 前記界面活性剤が、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ラウリル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、から選ばれる少なくとも1種である、前記<1>~前記<4>のいずれか一つに記載の液体状医薬品の保存方法。
<6> 前記容器が、バイアル又はプレフィルドシリンジ用容器である前記<1>~前記<5>のいずれか一つに記載の液体状医薬品の保存方法。
<7> 前記<1>~前記<6>のいずれか一つに記載の保存方法に用いられる容器であって、熱可塑性樹脂を含んで形成され、且つ、界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状の医薬品を封入した容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体状の医薬品の保存安定性に優れた新規な液体状医薬品の保存方法、及び、当該保存方法に用いられる容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態という)について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0013】
《液体状医薬品の保存方法》
本実施形態の液体状医薬品の保存方法(以下、単に「本実施形態の保存方法」と称することがある)は、熱可塑性樹脂を含んで形成された容器に液体状の医薬品を保存する医薬品の保存方法であって、前記液体状の医薬品中の界面活性剤濃度が10ppm以下である。
本実施形態の保存方法によれば、熱可塑性樹脂を含んで形成された容器を用いるため、ガラス製容器に比して容器壁面へのタンパク質吸着性が低く、界面活性剤を使用しなくてもタンパク質の凝集物の発生を効果的に抑制することができる。
本実施形態における液体状の医薬品としては、例えば、後述のタンパク質を含む医薬用タンパク質製剤等を用いることができる。
【0014】
〈液体状の医薬品〉
本実施形態の保存方法に用いられる液体状の医薬品(以下、単に「薬液」と称することがある)は、液体状の医薬品中の界面活性剤濃度が10ppm以下である。本実施形態において薬液中への存在が制限される「界面活性剤」は、一分子中に親水性部と疎水性部とを有し、物質の界面に作用してその性質を変化させる物質である。当該界面活性剤としては、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ラウリル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0015】
本実施形態において液体状の医薬品中の界面活性剤濃度は液体状の医薬品の総量を基準に10ppm以下であり、好ましくは2ppm以下であり、さらに好ましくは1ppm以下であり、特に好ましくは0ppmである。液体状の医薬品中の界面活性剤濃度は、実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0016】
(タンパク質)
本実施形態における液体状の医薬品としては、主成分がタンパク質であることが好ましく、少なくとも、タンパク質と稀釈剤とを含むことがさらに好ましい。本実施形態における液体状の医薬品に含まれるタンパク質の濃度は特に限定されるものではないが、例えば、薬液中で0.01mg/mL~500mg/mLであることが好ましく、0.1mg/mL~400mg/mL程度であってもよい。
【0017】
タンパク質としては、特に限定されるものではないが、例えば、医療用タンパク質として用いられる、酵素、血液凝固線溶系因子、血清蛋白質、ホルモン、ワクチン、インターフェロン類、エリスロポエチン類、サイトカイン類、抗体、融合タンパク質等が挙げられる。さらに具体的には、例えば、治療用ペプチド、ヒト成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、顆粒球-コロニー刺激因子、マクロファージ-コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子、インスリン、リゾチーム、アスパラギナーゼ、レプチン、エリスロポエチン、インスリン類似成長因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン、インターロイキン、組織プラスミノゲンアクチベーター及びウロキナーゼ、アルブミン、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体断片、融合タンパク質などが挙げられる。治療用ペプチドとしては、具体的には、ペプチドホルモン、がんペプチドワクチン、抗菌ペプチド等が挙げられる。
【0018】
また、本実施形態における医薬品として用いることのできるタンパク質製剤としては、例えば、以下が挙げられる。
【0019】
(酵素)
アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、イミグルセラーゼアスパラギナーゼ、ペグアスパラギナーゼ、コンドリアーゼ、ベラグルセラーゼアルファ、アガルシダーゼアルファ、アガルシダーゼベータ、ラロニダーゼ、アルグルコシダーゼアルファ、イデュルスルファーゼ、ガルスルファーゼ、ラスブリカーゼ、ドルナーゼアルファ
(血液凝固線溶系因子)
ボトロキソビン、オクトコグアルファ、ルリオクトコグアルファツロクトコグアルファ、エプタコグアルファ、ルナコグアルファ、エフトレノナコグアルファ、血液凝固因子、トロンボモジュリンアルファ
(血清タンパク質)
血清アルブミン
【0020】
(ホルモン)
ヒトインスリン、インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリジン、インスリンデグルデクペグビソマント、メカセルミン、カルペリチド、グルカゴン、ホリトロピンアルファ、ホリトロピンベータ、テリパラチド、メトレレプチン、リラグリチド、ソマトロピン
(ワクチン)
組換え沈降B型肝炎ワクチン、乾燥細胞培養不活化A型肝炎ワクチン組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン、組換え沈降2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン
(インターフェロン類)
インターフェロンアルファ、アルブミン修飾インターフェロンアルファ、インターフェロンアルファ-2b、インターフェロンアルファコン、インターフェロンベータ、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-2b、インターフェロンガンマ-1a、ペグインターフェロンアルファ-2a、ペグインターフェロンアルファ-2b
【0021】
(エリスロポエチン類)
エポエチンアルファ、エポエチンベータ、ダルベポエチンアルファ、エポエチンベータペゴル、エポエチンカッパ
(サイトカイン類)
フィルグラスチム、ペグフィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、セルモロイキン、テセロイキン、トラフェルミン
(抗体)
ムロモナブ-CD3、トラスツズマブ、リツキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、トシリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ベバシズマブ、イブリツモマブチウキセタン、アダリムマブ、セツキシマブ、ラニビズマブ、オマリズマブ、エクリズマブ、パニツムマブ、ウステキヌマブ、ゴリムマブ、カナキヌマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、セルトリズマブペゴル、オファツムマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、ブレンツキシマブベドチン、ナタリズマブ、ニボルマブ、アレムツズマブ、ヨウ素131修飾トシツモマブ、カツマキソマブ、アデカツムマブ、エドレコロマブ、アブシキシマブ、シルツキシマブ、ダクリズマブ、エファリズマブ、オビヌツズマブ、ベドリズマブ、ペムブロリズマブ、イクセキズマブ、ジリダブマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ラムシルマブ
(融合タンパク質)
エタネルセプト、アバタセプト、ロミプロスチム、アフリベルセプト
【0022】
タンパク質の分子量については特に限定はないが、例えば、3,000Da以上であることが好ましく、20,000Da以上がより好ましく、30,000Da以上がさらに好ましく、40,000Da以上が特に好ましい。タンパク質の分子量の上限についても特に限定はないが、例えば、1,000,000Da以下とすることができる。
【0023】
(稀釈剤)
本実施形態における液体状の医薬品に含むことのできる稀釈剤としては、例えば、水又は緩衝液を用いることができる。緩衝液としては、特に制限されず、例えば、タンパク質の種類などに応じて適宜選択することができる。緩衝液としては、緩衝能を有する従来公知の緩衝液組成物を含有する溶液であれば特に限定されず、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸、及びその塩類等を含有する溶液等;グリシン、グリシルグリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸、及びその塩類等を含有する溶液等を用いることができる。
【0024】
また、緩衝液は、使用するタンパク質の等電点等に応じて適宜設定することができる。例えば、使用するタンパク質に応じて、酢酸緩衝液;リン酸緩衝液(PBS等);クエン酸緩衝液;クエン酸-リン酸緩衝液;トリス緩衝液、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)-HCl緩衝液(トリス塩酸緩衝液)、トリス-グリシン緩衝液、トリス-トリシン緩衝液などのトリス系緩衝液;グリシン-塩酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-NaOH緩衝液、グリシルグリシン-KOH緩衝液などのアミノ酸系緩衝液;トリス-ホウ酸緩衝液、ホウ酸-NaOH緩衝液、ホウ酸緩衝液などのホウ酸系緩衝液;MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝液、MOPS-NaOH緩衝液、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)緩衝液、HEPES-NaOH緩衝液などのGOOD緩衝液;又はイミダゾール緩衝液等を用いることができる。
【0025】
緩衝液の濃度としては、特に制限されるものではないが、使用するタンパク質の種類に応じて、例えば、適宜選定することができる。また、緩衝液のpHも同様に、使用するタンパク質に応じて、例えば、pH3~11の範囲内(好ましくはpH4~10、さらに好ましくはpH5~9の範囲)で用いることができる。
【0026】
(その他の添加剤)
本実施形態における液体状の医薬品は、目的に応じてさらに、公知の安定化剤、等張化剤、pH調整剤、酸化防止剤、溶解補助剤等、界面活性剤以外の添加剤を含むことができる。これら添加剤の例としては、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン等のアミノ酸類;塩酸グアニジン、尿素等の変性剤;スクロース、グルコース、トレハロース、マンニトール等の糖類;NaCl、KCl、MgSO4、CaCl2、HCl、NaOH等の電解質類;プロピレングリコール等の溶解補助剤等が挙げられる。
【0027】
〈容器〉
本実施形態の保存方法に用いられる容器は、熱可塑性樹脂を含んで形成された容器であり、さらに具体的には、薬液と接する最内層(内壁)が熱可塑性樹脂で形成された容器である。
【0028】
本実施形態における容器は、タンパク質の凝集物発生抑制の観点に加え、成形性の観点から、壁面を構成する樹脂として熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではないが、例えば、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。本実施形態における容器に用いることのできる熱可塑性樹脂については後述する。
【0029】
[酸素バリア性多層容器]
前記容器は、最内層が熱可塑性樹脂で形成された層であればその構造は特に限定されるものではなく一般的な樹脂成形容器を用いることができるが、例えば、最内層、中間層及び最外層の少なくとも3層を有する酸素バリア性多層容器を用いることができる。
具体的には、前記酸素バリア性多層容器としては、例えば、最内層、中間層及び最外層の少なくとも3層を有する酸素バリア性多層容器であって、前記中間層は酸素バリア性樹脂を含み、前記酸素バリア性樹脂の酸素透過係数が、5cc・mm/m2・day・atm以下である容器を用いることができる。
【0030】
前記酸素バリア性多層容器は、少なくとも3層を有しており、最外層/中間層又は中間層/最内層との間にさらに1つ以上の層を有していてもよい。なお、「最外層」とは、容器外の系と接する最も外側に位置する層を指し、前記最内層とは、容器内の薬液と接する最も内側に位置する層を意味する。
【0031】
前記酸素バリア性多層容器の中間層は、酸素バリア性樹脂を含む樹脂層であり、特に限定はないが、当該酸素バリア性樹脂の酸素透過係数は、5.0cc・mm/m2・day・atm以下であることが好ましい。なお、“cc・mm/m2・day・atm”は、“cm3・mm/m2・24h・atm”と同義である。酸素透過係数が5.0cc・mm/m2・day・atm以下であると、酸素バリア性能が確保することができる。酸素透過係数は、好ましくは3.0cc・mm/m2・day・atm以下であり、より好ましくは2.0cc・mm/m2・day・atm以下であり、さらに好ましくは1.0cc・mm/m2・day・atm以下である。
酸素透過係数の下限値は、0cc・mm/m2・day・atmであることが理想であるが、0cc・mm/m2・day・atm超過であってもよく、0.01cc・mm/m2・day・atm以上であってもよく、0.05cc・mm/m2・day・atm以上であってもよい。
中間層における酸素透過係数は、酸素バリア性樹脂に配合する酸素吸収機能を有する物質の種類や配合量、酸素バリア性樹脂の種類を適宜選択することにより制御することができる。酸素透過係数は、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0032】
[酸素バリア性樹脂]
酸素バリア性樹脂としては、酸素透過性が小さい樹脂や酸素吸収性樹脂を用いることができ、JIS K 7126に準拠した手法で得られる酸素透過係数が5.0cc・mm/m2・day・atm以下である樹脂が好適に用いられる。酸素バリア性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸素バリア性樹脂としては、内容物を視認のため透明性の観点から、非晶性樹脂であると好ましい。
【0033】
薬液充填時に如何にガス置換操作を行ったとしても、充填時に混入した気泡に含まれる酸素や、内容物の液中に溶存する酸素は完全には取り除けない可能性がある。酸素バリア性樹脂として酸素吸収性樹脂を用いた場合は、容器の壁部を透過して外部から侵入してくる微量酸素の透過を抑制できることに加え、細胞充填時に混入した気泡に含まれる酸素や薬液中の溶存酸素をも吸収することができる。酸素吸収性樹脂としては、例えば、国際公開第2013/077436号に記載されたポリエステル化合物及び遷移金属触媒を含む酸素吸収性樹脂組成物を好適に挙げることができる。
【0034】
本実施形態における酸素バリア性多層容器は、酸素バリア性樹脂層及び熱可塑性樹脂層に加えて、所望する性能等に応じて任意の層を含んでいてもよい。そのような任意の層としては、例えば、接着層等が挙げられる。例えば、本実施形態における酸素バリア性多層容器では、隣接する2つの層の間で実用的な層間接着強度が得られない場合には、当該2つの層の間に接着層(層AD)を設けることが好ましい。接着層は、接着性を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。接着性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。接着層としては、接着性の観点から、熱可塑性樹脂と同種の樹脂を変性したものを用いることが好ましい。
【0035】
酸素バリア性多層容器における中間層の厚みは、特に限定されないが、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上900μm以下であることがより好ましく、50μm以上800μm以下であることがさらに好ましい。中間層の厚みが1μm以上1000μm以下であることにより、加工性や経済性を過度に損なうことなく、酸素バリア性多層容器の酸素バリア性能がより高められ、より長期の保存が可能になる傾向にある。
【0036】
[熱可塑性樹脂]
最内層及び最外層に用いられる熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を適宜用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィンを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、あるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダム又はブロック共重合体等のポリオレフィン;無水マレイン酸グラフトポリエチレンや無水マレイン酸グラフトポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やそのイオン架橋物(アイオノマー)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、α-メチルスチレン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物;ナイロン(R)6、ナイロン(R)66、ナイロン(R)610、ナイロン(R)12、ナイロン(R)6IT、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル等;ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体、及びテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体である環状オレフィンコポリマー(COC)、また、ノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物である環状オレフィンポリマー(COP)等あるいはこれらの混合物等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
また、熱可塑性樹脂は、保存のための薬液を収容する都合上、耐薬品性、耐溶出性及び耐衝撃性に優れた性質を有する熱可塑性樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂は水蒸気バリア性を有していることがさらに好ましく、JIS K 7126に準拠した手法で得られる水蒸気透過係数が1.0g・mm/m2・day以下である樹脂から選択することが好ましい。
【0038】
上述の熱可塑性樹脂としては、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体、及びテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体である環状オレフィンコポリマー(COC)、また、ノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物である環状オレフィンポリマー(COP)が好ましく、環状オレフィンポリマー(COP)及び環状オレフィンコポリマー(COC)から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。このようなCOP及びCOCとしては、例えば。特開平5-300939号公報、特開平5-317411号公報等に記載されている樹脂を使用することができる。
【0039】
[酸素バリア性多層容器の製造方法]
本実施形態における酸素バリア性多層容器の製造方法は特に限定されず、通常の射出成形法により製造することができる。酸素バリア性多層容器は、例えば、2台以上の射出機を備えた成形機及び射出用金型を用いて、酸素バリア性樹脂層(層A;中間層)を構成する樹脂及び熱可塑性樹脂層(層B;最外層及び最内層)を構成する樹脂をそれぞれの射出シリンダーから金型ホットランナーを通して、キャビティー内に射出して、射出用金型の形状に対応した形状の容器として、製造することができる。
【0040】
酸素バリア性多層容器の製造方法の一つとしては、3層構造:第一の層B/層A/第二の層Bを製造する場合、
先ず、層Bを構成する樹脂を射出シリンダーから射出し;
次いで、層Bを構成する樹脂を射出しながら、別の射出シリンダーから層Aを構成する樹脂を、第一及び第二の層Bが形成されるように層Bの樹脂の間に割って入るよう射出し;
さらに、第一及び第二の層Bを構成する樹脂を必要量射出してキャビティーを満たすこと;
により3層構造:第一の層B/層A/第二の層Bの多層容器を製造する方法が挙げられる。
【0041】
酸素バリア性多層容器の製造方法の一つとしては、5層構造:第一の層B/第一の層A/第二の層B/第二の層A/第三の層Bを製造する場合、
先ず、層Bを構成する樹脂を射出し;
次いで、層Aを構成する樹脂を単独で射出し;
最後に、層Bを構成する樹脂を必要量射出して金型キャビティーを満たすこと;
により5層構造:第一の層B/第一の層A/第二の層B/第二の層A/第三の層Bの多層容器を製造する方法が挙げられる。
【0042】
酸素バリア性多層容器の製造方法の一つとしては、5層構造:第一の層B1/第一の層B2/層A/第二の層B2/第二の層B1を製造する場合、
先ず、層B1を構成する樹脂を射出シリンダーから射出し;
次いで、層B1を構成する樹脂を射出しながら、別の射出シリンダーから層B2を構成する樹脂を、第一の層B1/層B2/第二の層B1が形成されるように層B1の樹脂の間に割って入るよう射出し;
次に、層B1、層B2を構成する樹脂を射出しながら、別の射出シリンダーから層Aを構成する樹脂を、第一の層B1/第一の層B2/層A/第二の層B2/第二の層B1が形成されるように層B2の樹脂の間に割って入るよう射出し;
最後に、第一及び第二の層B1並びに第一及び第二の層B2を構成する樹脂を必要量射出してキャビティーを満たすこと;
により5層構造:第一の層B1/第一の層B2/層A/第二の層B2/第二の層B1の多層容器を製造する方法が挙げられる。
【0043】
射出成形により得られた容器は、押出成形、圧縮成形(シート成形、ブロー成形)等の成形手段によって所望の容器形状に成形してもよい。該容器の形状は特に限定されるものではないが、例えば、バイアル、プレフィルドシリンジ等が挙げられる。
【0044】
(容器の形状)
本実施形態における容器は、熱可塑性樹脂を含んで形成され、且つ、界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状の医薬品を封入可能なものであれば特にその形状は限定されるものではないが、例えば、バイアル又はプレフィルドシリンジ用容器を用いることができる。
【0045】
-バイアル-
本実施形態におけるバイアルの構成は、一般的なバイアルとなんら変わるものではなく、注射剤を収容するための容器である。バイアルは、通常、ビン型の本体部と、ゴム等の弾性体等で形成された栓部とを有するが、当該態様に特に限定されるものではない。当該中間層として酸素バリア性樹脂を含む樹脂層であり、最内層及び最外層として熱可塑性樹脂を含む樹脂層を含む。
【0046】
本実施形態におけるバイアルは、射出ブロー成形、押出ブロー成形等の成形方法によって製造することができる。例えば、射出ブロー成形方法では、前記容器製造方法により得られた多層成形体をある程度加熱された状態を保ったまま最終形状金型(ブロー金型)に嵌め、空気を吹込み、膨らませて金型に密着させ、冷却固化させることによりバイアル状に成形することができる。
【0047】
-プレフィルドシリンジ用容器-
本実施形態におけるプレフィルドシリンジ用容器の構成は、一般的なプレフィルドシリンジ用容器となんら変わるものではなく、少なくとも薬液を充填するためのバレル、バレルの一端に注射針を接合するための接合部及び使用時に薬液を押出すためのプランジャーを備えたものを用いることができる。本実施形態における容器としてプレフィルトシリンジを用いる場合には、バレルが本実施形態における酸素バリア性多層容器として構成され、中間層として酸素バリア性樹脂を含む樹脂層であり、最内層及び最外層として熱可塑性樹脂を含む樹脂層を含む態様が好ましい。
【0048】
本実施形態におけるプレフィルドシリンジ用容器は、射出成形法によって製造することができる。多層成形体となるバレルは、例えば、先ず最内層又は最外層を構成する樹脂をキャビティー内に一定量射出し、次いで中間層を構成する樹脂を一定量射出し、再び最外層又は最内層を構成する樹脂を一定量射出することにより製造することができる。バレルと接合部とは一体の物として成形してもよく、別々に成形した物を接合してもよい。
【0049】
酸素バリア性多層容器の厚さは、使用目的や大きさに応じて適宜調整すればよく、通常0.5mm以上20mm以下程度であればよい。また、厚さは均一であっても、厚さを変えたものであってもいずれでもよい。処理されていない表面に長期保存安定の目的で、別のガスバリア膜や遮光膜が形成されていてもよい。かかる膜及びその形成方法としては、特開2004-323058号公報に記載された方法等を採用できる。
【0050】
(保存条件)
本実施形態の保存方法は、本実施形態における容器中に界面活性剤濃度が10ppm以下である液体状の医薬品を封入することで達成される。医薬品の封入方法、封入後の保存条件等は特に制限はなく、保存される医薬品の種類に応じて、これに適した方法及び条件を採用することができる。また、本実施形態における容器は、例えば、薬液の充填前後に、被保存物に適した形で、医療多層容器や被保存物の滅菌を施すことができる。滅菌方法としては、100℃以下での熱水処理、100℃以上の加圧熱水処理、121℃以上の高温加熱処理等の加熱滅菌;紫外線、マイクロ波、ガンマ線、電子等の電磁波滅菌;エチレンオキサイド等のガス処理、過酸化水素や次亜塩素酸等の薬液滅菌;等が挙げられる。
【0051】
以上、本発明の液体状医薬品の保存方法について実施形態を用いて適宜説明したが、本発明は前記態様に限定されるものではない。
【実施例0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0053】
なお、実施例ではプレフィルドシリンジ用容器を例に挙げているが、本願明細書に示したとおりバイアルに対する要求特性はプレフィルドシリンジ用容器に対するものと同じであるため、本発明がこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0054】
《評価方法》
<加速試験方法>
各実施例又は比較例に従い、薬液充填済みの容器を23±5℃の環境下で500rpmにて1週間の振とうを行った後、サイズ排除液体クロマトグラフィー、共振式質量測定、フローイメージング粒子画像解析によって、下記のようにタンパク質凝集評価を行った。各評価においては、振とう後の容器に含まれる各薬液を試料として用いた。
【0055】
(サイズ排除液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC))
・装置:「Alliance 1100 HPLC system」WATERS社製
・判定方法:
SEC-HPLCを用いて試料の可溶性凝集体の分子量の分布を測定した。SEC-HPLCの結果(試料モノマー面積値、試料トータル面積値)に基づき、以下の基準に従って、可溶性凝集体の形成を評価した。なお、対照サンプルは抗体医薬品薬液の振とう試験未実施品を用いた。以下の基準において、試料の“モノマー%”は、モノマー%=試料モノマー面積値÷試料トータル面積値×100から算出した。
また、モノマー%及びモノマー面積値の差についてはStudent-T検定をおこなって有意差の有無について判断した(P>0.05で有意差があるものと判断した)。
-基準-
〇:試料のモノマー%が対照サンプルのモノマー%と比較して有意差がなかった
△:モノマー%の有意差はなかったが、試料モノマー面積値/対照サンプルのモノマー面積値が1未満であり有意に減少していた。
×:モノマー%に有意差があり、且つ、試料モノマー面積値/対照サンプルのモノマー面積値が1以上であり面積値が優位に増加していた。
【0056】
(共振式質量測定(RMM))
・装置:「ARCHIMEDES」Malvern,Panaltyical社製
・条件:
500μLの試料を5μmのフィルターで濾過後,Micro electro‐mechanical systems(MEMS)製のMicroセンサを使用して測定時間300秒間にて試料中の粒径5μm以下の粒子濃度を測定した。当該測定は、測定試料の1.32μg/mLを使用して粒子径分布ごとの粒子濃度の解析を行った。なお、各試料につき1回測定を実施した。
・判定方法:
RMMの結果に基づき、以下の基準に従って、微粒子(タンパク質の凝集体)の増加程度を評価した。なお、対照サンプルは抗体医薬品薬液の振とう試験未実施品を用いた。なお、微粒子の増加についてはStudent-T検定をおこなって有意差の有無について判断した(P>0.05で有意増加していると判断した)。
-基準-
〇:対照サンプルと比較して有意に微粒子が増加しなかった。
×:対照と比較して有意に微粒子が増加していた。
【0057】
(フローイメージング粒子画像解析(FIA))
・装置:「FlowCam」Fluid Imaging Technologies社製
・条件:
FIAにより粒子径1μm以上の粒子濃度(タンパク質の凝集体の濃度)を測定した。粒子濃度を測定は150μLの試料を流速0.05mL/minで分析した。各試料につき1回測定を実施した。
・判定方法:
FIAの結果に基づき、以下の基準に従って、粒子濃度から微粒子(タンパク質の凝集体)の増加程度を評価した。なお、対照サンプルは抗体医薬品薬液の振とう試験未実施品を用いた。なお、微粒子の増加についてはStudent-T検定をおこなって有意差の有無について判断した(P>0.01で有意増加していると判断した)。
-基準-
〇:試料サンプルと比較して有意に微粒子が増加しなかった。
×:対照サンプルと比較して有意に微粒子が増加していた。
【0058】
以下に従って、モノマー及びポリマーを合成した。
<モノマー合成例>
内容積18Lのオートクレーブに、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ジメチル2.20kg、2-プロパノール11.0kg、及び5質量%パラジウムを活性炭に担持させた触媒350g(50質量%含水品)を仕込んだ。次いで、オートクレーブ内の空気を窒素と置換し、さらに窒素を水素と置換した後、オートクレーブ内の圧力が0.8MPaとなるまでオートクレーブ内に水素を供給した。
次に、オートクレーブに設置された撹拌機を起動し、該撹拌機の回転速度を500rpmに調整した。オートクレーブ内の混合物を撹拌しながら、30分かけて内温を100℃まで上げた後、さらにオートクレーブ内に水素を供給しオートクレーブ内の圧力を1MPaとした。その後、反応の進行による圧力低下に応じ、1MPaを維持するようオートクレーブ内への水素の供給を続けた。7時間後にオートクレーブ内の圧力低下が無くなったので、オートクレーブを冷却し、未反応の残存水素を放出した後、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液を濾過し、触媒を除去した後、分離濾液から2-プロパノールをエバポレーターで蒸発させて粗生成物を得た。得られた粗生成物に、2-プロパノールを4.40kg加え、再結晶により精製し、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを80%の収率で得た。精製したテトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルの融点は77℃であった。なお、NMRの分析結果は下記のとおりであった。
1H‐NMR(400MHz CDCl3) δ:7.67-7.96(2H,m)、7.15(1H, d)、3.89(3H,s)、3.70(3H,s)、2.70-3.09(5H,m)、2.19-2.26(1H,m)、1.80-1.95(1H,m).
【0059】
<ポリマー製造例>
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えたポリエステル樹脂製造装置に、前記モノマー合成例で得られたテトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル543g、エチレングリコール217g、テトラブチルチタネート0.038g、及び酢酸亜鉛0.15gを仕込み、装置内の混合物を窒素雰囲気下で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を90%以上とした後、昇温と減圧とを徐々に90分間かけて行い、275℃、133Pa以下で重縮合を1時間行い、テトラリン環含有ポリエステル化合物(以下「ポリエステル化合物」とも記す。)を得た。
【0060】
<酸素バリア性樹脂製造例>
ポリエステル化合物100質量部に対し、ステアリン酸コバルト(II)をコバルト量が0.00025質量部となるようドライブレンドして得られた混合物を、直径37mmのスクリューを2本有する2軸押出機に15kg/hの速度で供給し、シリンダー温度290℃の条件にて溶融混練を行い、押出機ヘッドからストランドを押し出し、冷却後、ペレタイジングすることにより、酸素吸収機能を有する酸素バリア性樹脂を得た。酸素バリア樹脂の酸素透過係数は、0.1cc・mm/m2・day・atmであった。
【0061】
<多層シリンジバレルの製造例>
射出成型機(Sodick株式会社製、型式:GL-150)を使用し、多層シリンジバレルを製造した。形状は、ISO11040-6に記載された内容量1mLに準拠した。また、スキン層の樹脂射出量に対するコア層の樹脂射出量の割合を30質量%とし、コア層の始端がガスケット挿入位置後端からフランジまでの範囲に位置し、かつ、コア層の終端は肩部からノズル部ゲート切断位置の範囲に位置するように成形条件を調整した。
まず、スキン層を構成するシクロオレフィンポリマー樹脂(日本ゼオン株式会社製、商品名「ZEONEX5000」)を射出シリンダーから射出し、次いでコア層を構成する酸素バリア性樹脂を別の射出シリンダーから一定量射出し、次いで酸素バリア性樹脂の射出を止め、次にシクロオレフィンポリマー樹脂を一定量射出して射出金型内キャビティーを満たすことにより、“ZEONEX5000”/酸素バリア性樹脂/“ZEONEX5000”の3層構成の「多層シリンジバレル」を製造した。
【0062】
[実施例1]
市販抗体(リツキシマブ、抗体含有量:10mg/mL)から界面活性剤(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン:70000ppm)を除去するために、陽イオン交換カラムを用いた精製(陽イオン交換クロマト装置:AKTA(GE Healthcare)を行った。その後、リン酸緩衝液(20mM リン酸、150mM塩化ナトリウム、pH7.0)を用いて抗体の濃度が1mg/mLとなるように抗体医薬品薬液A(界面活性剤含有量2ppm)を調製した。調製後の抗体医薬品薬液を滅菌環境下で、上述の多層シリンジに1mL充填し、ヘッドスペース5mmを設けてストッパーを打栓して密閉した。前述の加速試験に供した後に評価を行った。結果を表1に示す。なお、抗体医薬品薬液A中の界面活性剤含有量は、HPLC-DADで測定した。
【0063】
[実施例2]
“多層シリンジ”の代わりに、「ZEONEX5000」製のISO11040-6に従った形状の公称容量1mLの“単層シリンジ”を用いた以外は実施例1と同様に行い、前述の加速試験に供した後に同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
“多層シリンジ”の代わりに、ガラス製ISO11040-6に従った形状の公称容量1mLの“ガラス製シリンジ”を用いた以外は実施例1と同様に行い、前述の加速試験に供した後に評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
実施例1で用いた市販抗体(抗体含有量:10mg/mL)について、界面活性剤を除去せず、リン酸緩衝液(20mMリン酸、150mM塩化ナトリウム、pH7.0)を用いて抗体の濃度が1mg/mLとなるように抗体医薬品薬液Bを調製した。調製後の抗体医薬品薬液を滅菌環境下で「ZEONEX5000」よりなるISO11040-6に従った形状の“単層シリンジ”に1mL充填し、ヘッドスペース5mmを設けてストッパーを打栓して密閉した。前述の加速試験に供した後に評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例3]
“単層シリンジ”の代わりに、ZEONEX5000/酸素バリア性樹脂/ZEONEX5000の二種三層構成を有するISO11040-6に従った形状の公称容量1mLの“多層シリンジ”を用いた以外は比較例2と同様に行い、前述の加速試験に供した後に評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例4]
“単層シリンジ”の代わりに、ガラス製のISO11040-6に従った形状の公称容量1mL“ガラス製シリンジ”を用いた以外は比較例2と同様に行い、前述の加速試験に供した後に評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1の記載からわかるように実施例及び比較例で得られた結果から、熱可塑性樹脂製のシリンジを用いた実施例1及び2の保存方法は、薬液中に界面活性剤が添加されていなくても抗体医薬含有液のタンパク質凝集耐性が良好であることがわかった。このため、本実施形態の保存方法によれば、比較例に比して液体状の医薬品の保存安定性に優れていた。また、界面活性剤濃度が10ppm以下である薬液(抗体医薬品薬液A)を用いた実施例1及び2は、界面活性剤による患者のアレルギーの発生の可能性も低いことが分かる。