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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053534
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】放電測定方法および放電測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20230406BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20230406BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162625
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坪 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】廣島 聡
(72)【発明者】
【氏名】花井 隆
(72)【発明者】
【氏名】松原 正克
(72)【発明者】
【氏名】新川 尚登
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕典
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴
(72)【発明者】
【氏名】河上 哲哉
【テーマコード(参考)】
2G015
2G116
【Fターム(参考)】
2G015AA14
2G015BA04
2G015BA06
2G015CA01
2G015CA08
2G116BA03
2G116BB09
2G116BC02
2G116BD07
2G116BD08
2G116BD09
2G116BD12
(57)【要約】
【課題】絶縁性を確認するための放電測定方法および放電測定装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、放電測定方法は、固定子コイルの第4コイルU1Dが挿通されたスロット30を間に挟んで対向する一対のティース28に磁性体72を当接させ、一対のティースを磁性体を介して短絡した状態で、固定子コイルにパルス電圧を印加し、固定子コイルで発生した放電電流を検出し、検出した放電電流に基づいて放電の有無を測定することを特徴としている。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心に三相のコイルを巻装して構成される回転電機の固定子コイルにおいて、前記固定子コイルで発生する部分放電を測定することで、前記固定子コイルの絶縁状態を評価する放電測定方法であって、
前記固定子コイルの各相は、k個の単位コイルを直列接続して構成されており、前記単位コイルのうち電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルが挿通されたスロットを間に挟んで対向する一対のティースに磁性体を当接させ、前記一対のティースを前記磁性体を介して短絡し、
前記固定子コイルにパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を放電測定装置により確認することを特徴とする放電測定方法。
【請求項2】
前記固定子コイルに印加するパルス電圧は、パルス電圧を印加した際に印加した相の前記k個の単位コイルの中の評価するコイルに対して、電圧が前記回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となるようにパルス電圧の値を決定することを特徴とする請求項1に記載の放電測定方法。
【請求項3】
第1相のコイルの電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルが挿通されたスロットを間に挟んで対向する一対のティースに前記磁性体を当接させ、前記一対のティースを前記磁性体を介して短絡し、前記第1相の電源端子にパルス電圧を印加し、前記放電測定装置で前記第1相のコイルの部分放電の発生の有無を確認し、
第2相のコイルの電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルが挿通されたスロットを間に挟んで対向する一対のティースに前記磁性体を当接させ、前記一対のティースを前記磁性体を介して短絡し、前記第2相の電源端子にパルス電圧を印加し、前記放電測定装置で前記第2相のコイルの部分放電の発生の有無を確認し、
第3相のコイルの電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルが挿通されたスロットを間に挟んで対向する一対のティースに前記磁性体を当接させ、前記一対のティースを前記磁性体を介して短絡し、前記第3相の電源端子にパルス電圧を印加し、前記放電測定装置で前記第3相のコイルの部分放電の発生の有無を確認する、請求項1に記載の放電測定方法。
【請求項4】
鉄心に三相のコイルを巻装して構成される回転電機の固定子コイルにおいて、前記固定子コイルで発生する部分放電を測定することで、前記固定子コイルの絶縁状態を評価する放電測定装置であって、
当接面を有する磁性体と、前記磁性体を移動可能に支持するアームと、前記固定子コイルの各相はk個の単位コイルを直列接続して構成されており前記単位コイルのうち電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルが挿通されたスロットを間に挟んで対向する一対のティースに前記磁性体の当接面が当接する位置に前記磁性体および前記アームを移動させるアーム駆動機構と、を有するコア押圧装置と、
前記固定子コイルにパルス電圧を印加する電源と、
前記固定子コイルで発生する放電信号を検出する放電検出器と、
を備えた放電測定装置。
【請求項5】
前記電源は、パルス電圧を印加した際に印加した相の前記k個の単位コイルの中の評価するコイルに対して、電圧が前記回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となるように電圧値を決定したパルス電圧を印加する電源である請求項4に記載の放電測定装置。
【請求項6】
前記放電検出器で検出された放電電流を増幅する部分放電測定器と、前記部分放電測定器で増幅された放電電流の電流波形を表示する表示器と、を更に備える請求項4に記載の放電測定装置。
【請求項7】
前記コア押圧装置は、固定子が載置される載置台と、前記載置台を装填位置と測定位置との間を移動可能に支持した支持テーブルと、前記アームおよび前記磁性体を前記鉄心の内面に対向する下降位置と前記固定子から離間する上昇位置との間で昇降する昇降機構と、前記下降位置において前記アームおよび前記磁性体を前記ティースに当接する位置に移動させる前記アーム駆動機構と、を備えている請求項4に記載の放電測定装置。
【請求項8】
前記アーム駆動機構は、前記アームおよび前記磁性体を前記固定子鉄心の内面に対して周方向に回動する回転機構を含んでいる請求項7に記載の放電測定装置。
【請求項9】
前記コア押圧装置は、前記アームに揺動可能に支持されたホルダを有し、前記磁性体は、前記ホルダに固定されている請求項7に記載の放電測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、回転電機の固定子コイルの放電を測定する放電測定方法および放電測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機をインバータ駆動する際、インバータにおける高速スイッチングに起因したサージ電圧が発生し、回転電機の固定子コイルの絶縁に影響が及ぶということが広く知られている。このようなサージ電圧は、インバータサージと呼ばれ、回転電機の定格電圧の2倍以上に達することもある。インバータサージが固定子コイルに加わると、固定子コイルの内部や外部において部分放電が発生することが懸念される。このような部分放電は、固定子コイルを構成するエナメル線の被覆を劣化させる原因となる。被覆が劣化すると、やがては絶縁破壊に至ることから、回転電機においては、固定子コイルにインバータサージが加わったとしても部分放電が発生しないような絶縁設計を行うことが望まれている。
従来、回転電機の固定子コイルの絶縁性能は、交流電圧の印加による部分放電特性、特に部分放電開始電圧を通して評価されてきた。ただし、交流電圧が印加される場合とサージ電圧が印加される場合では、固定子コイルにおける電位分布が異なる。そのため、インバータ駆動される回転電機の絶縁性能は、サージ電圧を模擬したパルス電圧の印加により評価することが望ましい。
このようなことから、パルス電圧を印加した場合の放電測定方法について種々の検討がなされている。特許文献1では、回転電機の固定子コイルにパルス電圧を印加して異相間の絶縁異常を検出しようとするものであり、予め異相間の絶縁状態が正常なコイル、および、絶縁異常を模擬的に生じさせた複数のテスト用コイルにて放電発生電圧を測定することで、放電発生の検出が可能な必要最低限の大きさの電圧が設定でき、放電測定における印加電圧を適切なものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-8199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、パルス電圧を印加した際の固定子コイルにおける電位分布は固定子コイルのインダクタンスや静電容量などの電気的なパラメータで決まるため、固定子コイルで評価したい部位の分担電圧が低い場合は印加電圧を上昇せざるを得なく、高い電圧を印加することにより評価対象でない健全なコイルで放電が発生して異常と判断されたり、健全なコイルにダメージを与えたりする虞があった。
本発明は以上の事情に鑑みてなされたもので、回転電機の固定子コイルの絶縁性を確認するための放電測定方法および放電測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、放電測定方法は、鉄心に三相のコイルを巻装して構成される回転電機の固定子コイルにおいて、前記固定子コイルで発生する部分放電を測定することで、前記固定子コイルの絶縁状態を評価する放電測定方法であって、
前記固定子コイルの各相は、k個の単位コイルを直列接続して構成されており、前記単位コイルのうち電源端子側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイルが挿通されたスロットを間に挟んで対向する一対のティースに磁性体を当接させ、前記一対のティースを前記磁性体を介して短絡し、前記固定子コイルにパルス電圧を印加し、その際の部分放電の発生の有無を放電測定装置により確認することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態にかかる放電測定装置を概略的に示す図。
図2図2は、測定対象となる固定子の一例を示す斜視図。
図3図3は、固定子コイルのスター結線図。
図4図4は、放電測定装置のコア押圧装置を示す斜視図。
図5図5は、前記コア押圧装置のフェライトコア支持部を示す斜視図。
図6図6は、前記フェライトコアおよびアームを当接位置に移動した状態を示す斜視図。
図7図7は、前記コア押圧装置のパレットを示す斜視図。
図8図8は、前記フェライトコアおよびアームに対して前記パレットを芯合わせする工程を示す斜視図。
図9図9は、前記パレットと支持枠との係合状態を示す斜視図。
図10図10は、放電測定工程を示すフローチャート。
図11図11は、前記パレットに固定子を載置した状態を示す平面図。
図12図12は、固定子をフェライトコアの押圧位置にセットした状態を示す平面図。
図13図13は、前記アームおよびフェライトコアが下降位置に移動した状態を示す側面図。
図14図14は、前記アームおよびフェライトコアを当接位置に移動した状態を示す側面図。
図15図15は、フェライトコアに対して固定子鉄心が傾斜している場合の当接状態を示す側面図。
図16図16は、固定子鉄心のティースおよびフェライトコアの接触状態を模式的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下図面を参照しながら、実施形態に係る放電測定方法および放電測定装置について説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略あるいは簡略化することがある。
【0008】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る放電測定装置の一例を模式的に示す図である。
図示のように、放電測定装置10は、固定子のコイル間に三角波のパルス電圧を印加するパルス電源12と、コイルで発生した放電信号(電流)を検出する放電検出器14と、放電検出器14で検出された部分放電電流を増幅する部分放電測定器16と、増幅された放電電流信号を波形表示する表示器、例えば、オシロスコープ18と、を備えている。オシロスコープ18は、高圧プローブを介して固定子コイルに接続されている。放電測定装置10は、後述する、磁性体を固定子鉄心のティースに当接させティース間を短絡するコア押圧装置50を更に備えている。
【0009】
測定対象となる固定子の一例について説明する。
図2は、固定子の一例を概略的に示す斜視図である。
図2に示すように、一例に係る固定子20は、三相分布巻きの固定子を構成している。固定子20は、円筒状の固定子鉄心22と固定子鉄心22に巻き付けられた三相のコイル(U相コイル24U、V相コイル24V、W相コイル24W)を含む固定子コイルとを備えている。
【0010】
固定子鉄心22は、円環状の電磁鋼板を多数枚、同芯状に積層して構成された積層鉄心を用いている。固定子鉄心22は、外周面および内周面を有する環状のヨーク26と、それぞれヨーク26の内周から径方向の内方に向かって延出しているとともに周方向に隙間をおいて並んだ複数のティース28と、を一体に有している。固定子鉄心22は、軸方向一端に位置する第1端面27a、および軸方向他端に位置する第2端面27bを有している。
周方向に隣合う2つのティース28間の隙間は、スロット30を形成している。複数のスロット30は、それぞれ径方向に延びているとともに、ヨーク26の周方向に等間隔を置いて並んでいる。各ティース28の内周の側の端面は、固定子鉄心22の軸方向の全長に亘って延びている。
【0011】
3相のコイル24U、24V、24Wは、それぞれ固定子鉄心22の複数のスロット30に挿通され、複数のティース28に巻き付けられている。コイル24U、24V、24Wの一端側の部分は、スロット30から固定子鉄心22の第1端面27aの側に引き出され、周方向に引き回された後、入力端子(電源端子)25U、25V、25Wにそれぞれに接続されている。コイル24U、24V、24Wの他端側の部分は、スロット30から固定子鉄心22の第2端面27bの側に引き出され、周方向に引き回された後、中性点に接続される。
【0012】
図3は、固定子の3相コイルのスター結線図である。図示のように、各相のコイルは、k個の単位コイルを直列接続して構成されている。一例では、U相コイル24Uは、入力端子25Uから中性点N1まで順番に連続するU1側の第1コイルU1A、第2コイルU1B、第3コイルU1C、第4コイルU1Dと、入力端子25Uから中性点N2まで順番に連続するU2側の第1コイルU2A、第2コイルU2B、第3コイルU2C、第4コイルU2Dと、を有している。
V相コイル24Vは、入力端子25Vから中性点N1まで順番に連続するV1側の第1コイルV1A、第2コイルV1B、第3コイルV1C、第4コイルV1Dと、入力端子25Vから中性点N2まで順番に連続するV2側の第1コイルV2A、第2コイルV2B、第3コイルV2C、第4コイルV2Dと、を有している。
W相コイル24Wは、入力端子25Wから中性点N1まで順番に連続するW1側の第1コイルW1A、第2コイルW1B、第3コイルW1C、第4コイルW1Dと、入力端子25Wから中性点N2まで順番に連続するW2側の第1コイルW2A、第2コイルW2B、第3コイルW2C、第4コイルW2Dと、を有している。
【0013】
コア押圧装置について説明する。図4は、コア押圧装置を示す斜視図である。
図示のように、コア押圧装置50は、水平方向に延びるベース部52aおよびベース部52aの一端側にほぼ垂直に立設された起立部52bを有する支持枠54と、ベース部52aの上に設けられ水平方向に延びる支持テーブル56と、を有している。支持テーブル56には、複数の搬送ローラ58が設けられ、支持テーブル56の表面に露出している。搬送ローラ58は、それぞれ搬送方向Xと直交する方向に延びているとともに、搬送方向Xに間隔を置いて並んでいる。各搬送ローラ58は、搬送方向Xと直交する中心軸の回りで回転可能に支持されている。
コア押圧装置50は、支持テーブル56の上に載置されるパレット(載置台)60を有し、このパレット60に測定対象となる固定子20が載置される。パレット60は、搬送ローラ58の上に載った状態で、支持テーブル56の一端側の装填位置と他端側の測定位置との間を搬送方向Xに移動される。
【0014】
コア押圧装置50は、先端部に磁性体、例えば、フェライトコア72が取り付けられた複数本のアーム70と、複数本のアーム70を搬送方向Xと直交する垂直方向Yに昇降させる昇降機構80と、アーム70を押圧位置に移動するアーム駆動機構90と、を備えている。
昇降機構80は、支持枠54の起立部52bに固定され垂直方向Yに配置されたベースパネル82と、ベースパネル82に固定され垂直方向Yに延びる一対の平行なガイドレール84と、ガイドレール84に沿って垂直方向Yに昇降可能に支持された支持台86と、支持台86を垂直方向Yに昇降駆動する図示しない駆動手段、例えば、エアシリンダと、垂直方向Yに延びる中心軸線Cの回りで回動可能に支持台86に取り付けられた円盤状の回転テーブル88と、を有している。
【0015】
コア押圧装置50は、複数本、例えば、4本のアーム70を有している。これらのアーム70は、一端部が回転テーブル88に支持され、回転テーブル88から垂直方向Yの下方に延出している。4本のアーム70は、中心軸線Cを中心とする同一円上に配置され、かつ、円周方向に所定の間隔を置いて配置されている。更に、各アーム70の一端(上端)は、上記同一円に対して接線方向に延びる枢軸の回りで回動可能に支持されている。
アーム駆動機構90は、アーム70と共に回転テーブル88を回転させる図示しない駆動手段、例えば、エアシリンダと、支持台86あるいは回転テーブル88に回動可能に設けられた図示しないカム部材と、カム部材を回転させる図示しない駆動手段と、を備えている。カム部材は、アーム70の上端部、内周に接触して設けられ、回動することにより、アーム70を径方向の外側に押し広げる。回転テーブル88およびエアシリンダは、アーム70およびフェライトコア72を固定子鉄心22の内周面に対して周方向に回動する回転機構を構成している。
【0016】
図5は、アームの下端部およびフェライトコアを示す斜視図である。
図示のように、各アーム70は、例えば、所定長さを有するU字鋼で構成され、径方向内側を向いた底壁と互いに間隔を置いて対向する一対の側壁と径方向の外側に向いた開口とを有している。アーム70の下端部において、一対の側壁間にほぼ矩形状のホルダ74が設けられている。ホルダ74は一対の側壁に対して枢軸75の回りで揺動可能に支持されている。更に、ホルダ74は、枢軸75の両側に設けられた付勢部材、例えば、コイルばね77(図13参照)により、揺動方向の一方向および反対方向に付勢されている。
【0017】
磁性体としてのフェライトコア72は、一例では、細長い直方体形状に形成されている。フェライトコア72は、ホルダ74に固定され、ホルダ74から径方向の外側に突出している。フェライトコア72は、矩形状の当接面72aを有している。当接面72aは、ほぼ垂直方向Yに延在しているとともに、径方向の外側を向いている。当接面72aは、固定子鉄心22の軸方向長さとほぼ等しい長さ、およびスロット30の周方向の幅よりも大きな幅を有し、隣接対向する2つのティース28の先端面に当接可能な大きさとしている。
【0018】
図6は、4本のアーム70を開いた状態を示す斜視図である。図示のように、前述したアーム駆動機構90により4本のアーム70を径方向の外側に押し広げると、フェライトコア72は、固定子鉄心22のティース先端面に当接可能な当接位置に移動される。
【0019】
図7は、パレットおよび位置決め治具を示す斜視図である。
図示のように、パレット60は、例えば、正方形状の平板で構成されている。パレット60の各辺には、位置決め用の一対の切欠き61が形成されている。一対の切欠き61は、各辺の長手方向に互いに離間して設けられている。パレット60の中央部に、円形の内孔62が設けられている。パレット60の表面に、複数本、例えば、4本の支持ピン64がほぼ垂直に立設されている。4本の支持ピン64は、内孔62の周縁に隣接して設けられ、円周方向に互いに等間隔離間して配置されている。各支持ピン64は、段付きのピンであり、高さ方向のほぼ中央部に環状の段差64aを有している。
【0020】
位置決め治具66は、円形の皿状に形成されている。位置決め治具66は、固定子鉄心22の外径と等しい外径を有する環状のフランジ67と、フランジ67と同軸の位置に設けられた円柱形状のボス部68と、を一体に有している。位置決め治具66は、4本の支持ピン64の内側に配置され、フランジ67が支持ピン64の段差64aに載った状態で、パレット60に支持されている。
【0021】
パレット60は、以下の工程により、昇降機構80および複数本のアーム70の中心軸線Cに対して、芯出し調整される。
図8に示すように、位置決め治具66が載置されたパレット60を支持テーブル56の上に配置した後、パレット60を搬送ローラ58に載った状態でアーム70と対向する終端位置(測定位置)まで移動する。次いで、複数本のアーム70の底壁の側でボス部68の外周面を外周側から内周に向かって挟み込むことで、位置決め治具66およびパレット60を中心軸線Cと同芯の位置(測定位置)に位置合わせする。
次いで、位置合わせされたパレット60に対して、エンドプレート55を位置調整して支持枠54に固定する。すなわち、図9に示すように、支持テーブル56の終端にエンドプレート55を配置し、エンドプレート55の一対の突部55aがパレット60の一対の切欠き61にそれぞれ嵌合する位置にエンドプレート55を位置調整した後、ボルト57によりエンドプレート55を支持枠54に固定する。
測定作業工程において、パレット60をエンドプレート55と係合する位置に移動させることにより、パレット60は所望の測定位置に位置決めされる。
【0022】
以上のように構成された放電測定装置を用いて固定子の放電を測定する測定方法について説明する。
図10は、測定工程を概略的に示すフローチャート、図11は、初期位置にあるパレットに固定子を載置した状態を示す平面図、図12は、パレットおよび固定子を測定位置に配置した状態を示す平面図である。
図10に示すように、始めに、測定対象となる三相分布巻きの固定子20を用意し、パレット60に載置にする(S1)。この場合、図11に示すように、位置決め治具66を取り外した状態で、固定子鉄心22を4本の支持ピン64の内側に配置し、固定子鉄心22の一端面の外周部を支持ピン64の段差64aに載置する。これにより、固定子鉄心22は、パレット60と同芯に位置決めされた状態でパレット60の上に装填される。
次いで、図10および図12に示すように、パレット60をエンドプレート55と係合する位置まで移動し、パレット60および固定子20を図示の測定位置に位置決めする(S3)。測定位置において、固定子20は、昇降機構80およびアーム70の中心軸線Cと同軸に位置している。
装填位置あるいは測定位置のいずれかにおいて、固定子コイル24の入力端子25U、25V、25Wにパルス電源12を接続する。更に、固定子コイル24の所定位置に放電検出器14を接続する(S2)。本実施形態では、始めに、第1相(例えば、U相)と第2相(例えば、V相)との間にパルス電圧を印加することから、パルス電源12は入力端子25U、25Vに接続される。
【0023】
図10および図12に示すように、4本のアーム70およびフェライトコア72が所望のコイルと対向する第1測定位置に位置するように、アーム駆動機構90により回転テーブル88を所定角度、回動し、固定する(S4)。図13に示すように、昇降機構80により、各フェライトコア72の当接面72aがティース28の先端面と対向する下降位置まで、アーム70を垂直方向Yに下降する。更に、図14に示すように、アーム駆動機構90により、4本のアーム70を径方向の外側に広げる、すなわち、拡径する(S5)。これにより、各フェライトコア72の当接面72aは、固定子鉄心22の所望の一対のティース28の先端面に当接、あるいは接触する。一対のティース28はフェライトコア72を介して短絡される(S6)。
なお、図15に示すように、測定位置にある固定子鉄心22が、中心軸線Cに対して僅かに傾斜している場合でも、ホルダ74が傾斜に合わせて揺動するため、フェライトコア72の当接面72aは、傾斜に合わせて傾斜し、ティース28の先端面に密着することができる。
【0024】
フェライトコア72の設置位置について詳しく説明する。
図16は、固定子鉄心のティースおよびフェライトコアを概略的に示す平面図である。
各相の固定子コイルの単位コイルは、それぞれスロット30に挿通された状態でティース28に巻き付けられている。
図16および前述した図3に示すように、U相コイル24Uのうち、入力端子25Uの側からn番目(n=1,2,‥,k)の単位コイル、例えば、n=4番目の第4コイルU1Dは、スロット30に挿通された状態でティース28に巻き付けられている。図に示していないが、第4コイルU1Dを挿通したスロット30は2箇所ある。第4コイルU2Dも同様に、スロット30に挿通された状態でティース28に巻き付けられている。第4コイルU2Dを挿通したスロット30も2箇所ある。1つ目のフェライトコア72は、第4コイルU1Dを挿通しているスロット30のうち1箇所を間に挟んで対向する一対のティース28の先端面に当接するように配置及び押圧されている。2つ目のフェライトコア72は、第4コイルU1Dを挿通しているスロット30のうち残りの1箇所を間に挟んで対向する一対のティース28の先端面に当接するように配置及び押圧されている。3つ目のフェライトコア72は、第4コイルU2Dを挿通しているスロット30のうち1箇所を間に挟んで対向する一対のティース28の先端面に当接するように配置及び押圧されている。4つ目のフェライトコア72は、第4コイルU2Dを挿通しているスロット30のうち残りの1箇所を間に挟んで対向する一対のティース28の先端面に当接するように配置及び押圧されている。
【0025】
図16に示すように、フェライトコア72の当接面72aが一対のティース28の先端面に当接することにより、一対のティース28はフェライトコア72を介して短絡する。これにより、一方のティース28からフェライトコア72を通って他方のティース28に流れる磁路が形成される。そのため、スロット30に挿通されている第4コイルU1Dに鎖交する磁束量が増加し、第4コイルU1Dのインダクタンスが上昇する。同様に、第4コイルU2Dについても鎖交する磁束量が増加し、第4コイルU2Dのインダクタンスが上昇する。これにより、固定子コイルにパルス電圧を印加した際に電位分布が比較的低くなり易い第4コイルU1D、U2Dの分担電圧を他の第1、第2、第3コイルU1A、U1B、U1C、U2A、U2B、U2Cと同様に上げることが可能となる。
【0026】
図10に示すように、フェライトコア72をティース28に当接させた状態で、パルス電源12からU相コイル24UとV相コイル24Vとの間に所望のパルス電圧を印加する(S7)。パルス電圧は、印加する2相の単位コイルの中の評価するコイルに対して、電圧が回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となるようにパルス電圧の値を設定することが望ましい。安全係数は、例えば、放電測定時の室温と回転電機の運転時の高温で放電の発生電圧の違いを考慮した係数が使用される。上記により設定したパルス電圧を印加することにより、U相コイル24Uの第1コイルU1A、U2A、第2コイルU1B、U2B、第3コイルU1C、U2C、第4コイルU1D、U2Dの評価するコイルに対して、それぞれに回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となる分担電圧が印加される。
パルス電圧を印加した状態で、放電検出器14によりU相コイル24Uからの放電信号(放電電流)を検出する(S8)。検出した放電信号を部分放電測定器16により増幅した後、オシロスコープ18により電流波形を表示する(S9)。表示される電流波形に基づいて、U相コイル24Uで発生する放電の有無を測定する(S10)。
【0027】
続いて、上記と同様の工程により、V相コイル24V、W相コイル24Wについて順次、放電測定を行う。すなわち、3相の測定が終了していない場合(S11)、更に、3相目のコイルの測定でない場合(S12)、2相目のV相コイル24Vの放電測定を行う。
初めに、アーム駆動機構90によりフェライトコア72が固定子鉄心22から離間する方向にアーム70を回動させ(縮径させ)た後、昇降機構80によりアーム70およびフェライトコア72を初期位置(上昇位置)に引き上げる(S13)。アーム駆動機構90により回転テーブル88を所定角度回動し、アーム70およびフェライトコア72を第2測定位置に移動する(S14)。なお、アーム70の上昇動作を省略し、アーム70が下降位置にある状態で第2測定位置に移動することも可能である。
【0028】
昇降機構80により、各フェライトコア72の当接面72aがティース28の先端面と対向する下降位置まで、アーム70を垂直方向Yに下降する。更に、アーム駆動機構90により4本のアーム70を径方向の外側に広げる、すなわち、拡径する(S15)。これにより、4つのフェライトコア72の当接面72aは、V相コイル24Vのうち、第4コイルV1D、V2Dが挿通された4つのスロットにそれぞれ対向し、各スロットの周方向の両側に位置する一対のティース28の先端面に当接する。これにより、各一対のティース28はフェライトコア72を介して短絡する(S16)。
【0029】
フェライトコア72をティース28に当接させた状態で、パルス電源12からV相コイル24VとW相コイル24Wとの間に所望のパルス電圧を印加する(S17)。パルス電圧を印加することにより、V相コイル24Vの第1コイルV1A、V2A、第2コイルV1B、V2B、第3コイルV1C、V2C、第4コイルV1D、V2Dの評価するコイルに対して、それぞれに回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となる分担電圧が印加される。
パルス電圧を印加した状態で、放電検出器14によりV相コイル24Vからの放電信号(放電電流)を検出する(S18)。検出した放電信号を部分放電測定器16により増幅した後、オシロスコープ18により電流波形を表示する(S9)。表示される電流波形に基づいて、V相コイル24Vで発生する放電の有無を測定する(S10)。
【0030】
続いて、上記と同様の工程により、W相コイル24Wについて放電測定を行う。すなわち、3相目のコイルの測定の場合(S12)、アーム駆動機構90によりフェライトコア72が固定子鉄心22から離間する方向にアーム70を回動させ(縮径させ)た後、昇降機構80によりアーム70およびフェライトコア72を上昇位置に引き上げる(S19)。アーム駆動機構90により回転テーブル88を所定角度回動し、アーム70およびフェライトコア72を第3測定位置に移動する(S20)。なお、アーム70の上昇動作を省略し、アーム70が下降位置にある状態で第3測定位置に移動することも可能である。
【0031】
昇降機構80により、各フェライトコア72の当接面72aがティース28の先端面と対向する下降位置まで、アーム70を垂直方向Yに下降する。アーム駆動機構90により4本のアーム70を径方向の外側に広げる、すなわち、拡径する(S21)。これにより、4つのフェライトコア72の当接面72aは、W相コイル24Wのうち、第4コイルW1D、W2Dが挿通された4つのスロットにそれぞれ対向し、各スロットの周方向の両側に位置する一対のティース28の先端面に当接する。各一対のティース28はフェライトコア72を介して短絡する(S22)。
【0032】
フェライトコア72をティース28に当接させた状態で、パルス電源12からW相コイル24WとU相コイル24Uとの間に所望のパルス電圧を印加する(S23)。パルス電圧を印加することにより、W相コイル24Wの第1コイルW1A、W2A、第2コイルW1B、W2B、第3コイルW1C、W2C、第4コイルW1D、W2Dの評価するコイルに対して、それぞれに回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となる分担電圧が印加される。
パルス電圧を印加した状態で、放電検出器14によりW相コイル24Wからの放電信号(放電電流)を検出する(S24)。検出した放電信号を部分放電測定器16により増幅した後、オシロスコープ18により電流波形を表示する(S9)。表示される電流波形に基づいて、W相コイル24Wで発生する放電の有無を測定する(S10)。
3相コイルについて放電測定が完了した時点で、測定工程が終了する。
上述した放電測定において、各コイルから放電が検出されない場合は、固定子コイルの絶縁性が担保されているものと判定され、固定子20の絶縁が健全であることを確認することができる。
【0033】
以上のように構成された本実施形態に係る放電測定装置および放電測定方法によれば、3相コイルの各々の第4コイルが挿通されているスロットを間に挟んで対向する一対のティース28をフェライトコア72で短絡することにより、第4コイルに鎖交する磁束量が増加し、第4コイルのインダクタンスを上げることができる。そのため、固定子コイルにパルス電圧を印加した際に第4コイルの分担電圧が上昇し、電位分布が比較的低くなり易い第4コイルについても、回転電機を運転する際に加わる電圧に所定の安全係数を掛けた値以上となる分担電圧を印加することが可能となる。これにより、各相のコイルに所望の分担電圧を印加した状態で放電測定を行い、正確な放電測定、絶縁の健全性の検査を実施することが可能となる。
第4コイルの分担電圧を上げるために、高い電圧を印加する必要が無く、高電圧印加による固定子の損傷を防止することができる。
以上により、本実施形態によれば、回転電機の固定子コイルの絶縁性を確認するための放電測定方法および放電測定装置を提供することができる。
【0034】
本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、磁性体は、フェライトコアに限らず、電磁鋼板等の他の磁性体コアを用いてもよい。磁性体コアの形状は、実施形態に限定されることなく、適宜、変更可能である。n番目のコイルは、第4コイルに限定されることなく、2番目、3番目のコイルとしても良く、5個以上のコイルを含んでいる場合は、nは5以上としてもよい。また、n番目のコイルのみに限らず、更に、n±1番目のコイルが挿通されているスロットを挟んで対向する一対のティースに同一あるいは別の磁性体を当接させ、一対のティースを磁性体を介して短絡した状態で放電測定をする構成としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10…放電測定装置、12…パルス電源、14…放電検出器、20…固定子、
22…固定子鉄心、24U…U相コイル、24V…V相コイル、24W…W相コイル、
26…ヨーク、28…ティース、30…スロット、50…コア押圧装置、
56…支持テーブル、60…パレット、70…アーム、72…フェライトコア、
72a…当接面、80…昇降機構、90…アーム駆動機構
図1
図2
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