IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧 ▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ショックアブソーバ 図1
  • 特開-ショックアブソーバ 図2
  • 特開-ショックアブソーバ 図3
  • 特開-ショックアブソーバ 図4
  • 特開-ショックアブソーバ 図5
  • 特開-ショックアブソーバ 図6
  • 特開-ショックアブソーバ 図7
  • 特開-ショックアブソーバ 図8
  • 特開-ショックアブソーバ 図9
  • 特開-ショックアブソーバ 図10
  • 特開-ショックアブソーバ 図11
  • 特開-ショックアブソーバ 図12
  • 特開-ショックアブソーバ 図13
  • 特開-ショックアブソーバ 図14
  • 特開-ショックアブソーバ 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053540
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ショックアブソーバ
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/46 20060101AFI20230406BHJP
   F16F 9/508 20060101ALI20230406BHJP
   F16F 9/516 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
F16F9/46
F16F9/508
F16F9/516
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162631
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 和之
(72)【発明者】
【氏名】小林 義史
(72)【発明者】
【氏名】五味 瞭汰
(72)【発明者】
【氏名】横山 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】本城 祐太朗
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA53
3J069CC15
3J069EE06
3J069EE28
3J069EE39
(57)【要約】

【課題】作動液の流体力により回転バルブに加わるトルクを低減させることができるショックアブソーバを提供する。
【解決手段】本発明は、第1室21に開口したロッド孔41及びロッド孔41と第2室22とを連通させる内部液路42を有する中空ロッド4と、中空ロッド4の内側に回転可能に配置され、ロッド孔41とともに第1室21と内部液路42とを連通させるバルブ孔51を有する中空の回転バルブ5と、回転バルブ5の内周面の少なくとも一部を覆うように、回転バルブ5の内側に中空ロッド4に対して相対移動不能に配置された筒状部材7と、を備え、筒状部材7が、ロッド孔41に対向する位置に連通孔71を有し、筒状部材7の内周面が、内部液路42の少なくとも一部を構成し、第1室21と内部液路42とが、ロッド孔41、バルブ孔51、及び連通孔71により連通される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に摺動可能に配置され、前記シリンダ内を第1室と第2室に区画するピストンと、
前記ピストンを貫通するように配置され、前記第1室に開口したロッド孔及び前記ロッド孔と前記第2室とを連通させる内部液路を有する中空ロッドと、
前記中空ロッドの内側に回転可能に配置され、前記ロッド孔とともに前記第1室と前記内部液路とを連通させるバルブ孔を有する中空の回転バルブと、
前記回転バルブを回転させて、前記ロッド孔と前記バルブ孔とで構成される流路の断面積を調整するアクチュエータと、
を備えるショックアブソーバであって、
前記回転バルブの内周面の少なくとも一部を覆うように、前記回転バルブの内側に前記中空ロッドに対して相対移動不能に配置された筒状部材をさらに備え、
前記筒状部材が、前記ロッド孔に対向する位置に連通孔を有し、
前記筒状部材の内周面が、前記内部液路の少なくとも一部を構成し、
前記第1室と前記内部液路とが、前記ロッド孔、前記バルブ孔、及び前記連通孔により連通される、
ショックアブソーバ。
【請求項2】
前記回転バルブの回転軸が延びる方向を軸方向とし、前記ピストンから前記第1室に向かう方向を軸方向一方とし、前記ピストンから前記第2室に向かう方向を軸方向他方とすると、
前記筒状部材の軸方向一端部は、最も軸方向一方側に位置する前記バルブ孔の軸方向一端よりも軸方向一方側に位置し、
前記筒状部材の軸方向他端部は、前記回転バルブの軸方向他端よりも軸方向他方に位置している、
請求項1に記載のショックアブソーバ。
【請求項3】
前記回転バルブの回転軸が延びる方向を軸方向とし、前記ピストンから前記第1室に向かう方向を軸方向一方とし、前記ピストンから前記第2室に向かう方向を軸方向他方とすると、
前記筒状部材が、前記中空ロッドの軸方向他端部に固定されている、
請求項1又は2に記載のショックアブソーバ。
【請求項4】
前記連通孔の開口面積は、前記ロッド孔の開口面積よりも大きい、
請求項1~3の何れか一項に記載のショックアブソーバ。
【請求項5】
前記回転バルブの回転軸が延びる方向を軸方向とし、前記ピストンから前記第1室に向かう方向を軸方向一方とし、前記ピストンから前記第2室に向かう方向を軸方向他方とすると、
前記筒状部材は、軸方向一方の部分を構成する小径部と、軸方向他方の部分を構成する大径部と、を含んで構成され、
前記小径部の外径は、前記大径部の外径よりも小さく、
前記小径部の外径と前記大径部の外径との差は、前記回転バルブの板厚に相当し、
前記大径部は、前記中空ロッドの内周面に対向するように配置され、
前記回転バルブは、前記小径部の外周面と前記中空ロッドの内周面との間に配置されている、
請求項1~4の何れか一項に記載のショックアブソーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショックアブソーバに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ショックアブソーバは、シリンダと、シリンダ内を第1室と第2室に区画するピストンと、ピストンに設けられ第1室と第2室とを連通させる主連通路と、主連通路を開閉する主バルブと、を備えている。ショックアブソーバには、例えば特開平8-223994号公報に記載されているように、上記連通路とは別に、第1室と第2室とを連通させる副連通路と、副連通路の流路断面積を変更する回転バルブと、副連通路を開閉する副バルブと、を備えるものがある。回転バルブは、電動モータの駆動力によって回転する。この構成では、回転バルブの回転に応じて副連通路の流路断面積が調整され、ショックアブソーバの減衰力特性が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-223994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記回転バルブを備える構成において、作動液が副連通路を通過する際、回転バルブには、作動液の流動に応じた流体力によるトルクが加わる。これにより、回転バルブを回転させる電動モータの駆動負荷は大きくなる。回転バルブを備えるショックアブソーバにおいて、電動モータ等のアクチュエータの小型化や省電力化を可能とするためには、作動液の流体力により回転バルブに加わるトルクを低減させることが望まれる。
本発明の目的は、作動液の流体力により回転バルブに加わるトルクを低減させることができるショックアブソーバを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のショックアブソーバは、シリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に配置され、前記シリンダ内を第1室と第2室に区画するピストンと、前記ピストンを貫通するように配置され、前記第1室に開口したロッド孔及び前記ロッド孔と前記第2室とを連通させる内部液路を有する中空ロッドと、前記中空ロッドの内側に回転可能に配置され、前記ロッド孔とともに前記第1室と前記内部液路とを連通させるバルブ孔を有する中空の回転バルブと、前記回転バルブを回転させて、前記ロッド孔と前記バルブ孔とで構成される流路の断面積を調整するアクチュエータと、を備えるショックアブソーバであって、前記回転バルブの内周面の少なくとも一部を覆うように、前記回転バルブの内側に前記中空ロッドに対して相対移動不能に配置された筒状部材をさらに備え、前記筒状部材が、前記ロッド孔に対向する位置に連通孔を有し、前記筒状部材の内周面が、前記内部液路の少なくとも一部を構成し、前記第1室と前記内部液路とが、前記ロッド孔、前記バルブ孔、及び前記連通孔により連通される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、回転バルブの内側に筒状部材が配置されているため、回転バルブの内側(内部液路)で発生する流体力の少なくとも一部を筒状部材が受けることになり、その分、回転バルブが受けるトルクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態のショックアブソーバの概念図である。
図2】本実施形態のショックアブソーバの詳細構成(シリンダを除く)を示す断面概念図である。
図3】本実施形態のインナーパイプの概念図である。
図4】本実施形態の中空ロッド、回転バルブ、及びインナーパイプの軸方向に直交する断面を示す断面概念図である。
図5】インナーパイプがない従来構成の中空ロッド及び回転バルブの軸方向に直交する断面を示す断面概念図である。
図6図5の下方のロッド孔及びバルブ孔の部分拡大図である。
図7】本実施形態の伸び行程用バルブの概念図である。
図8】本実施形態の伸び行程用バルブの概念図である。
図9】本実施形態の伸び行程用バルブの概念図である。
図10】本実施形態の伸び行程用バルブの概念図である。
図11】本実施形態の伸び行程用バルブの概念図である。
図12】本実施形態における走行時間比率とピストン速度の関係を示す図である。
図13】ピストンの速度に対する減衰力とバルブ開閉速度との関係を示す図である。
図14】本実施形態の縮み行程用バルブの概念図である。
図15】本実施形態の伸び行程用バルブの変形態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施形態であるショックアブソーバ1を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施形態の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0009】
本実施形態のショックアブソーバ1は、ばね下の振動を減衰させるために、車両の各車輪に対して設けられている。図1図2、及び図3に示すように、ショックアブソーバ1は、シリンダ2と、ピストン3と、中空ロッド4と、回転バルブ5と、アクチュエータとしての電動モータ6と、筒状部材としてのインナーパイプ7と、主バルブ機構8と、副バルブ機構9と、を備えている。
【0010】
シリンダ2は、有底円筒状の部材であって、内部に作動液が充填されている。以下、説明において、シリンダ2の中心軸に平行な方向を軸方向とし、軸方向一方を上方とし、軸方向他方を下方とする。シリンダ2の上端部はエンドキャップ(図示略)により閉鎖されており、下端部にはガス室20が形成されている。ガス室20は、シリンダ2の底面を含む下端部とフリーピストン2aとで区画形成されている。ショックアブソーバ1の伸縮に伴ってシリンダ2内に存在するロッド部11の体積が変化するため、ガス室20がその体積変化を吸収する。
【0011】
なお、ロッド部11は、シリンダ2の上端のエンドキャップを貫通してシリンダ2の外部にまで延在している。図示しないが、ロッド部11の上端は車体に連結され、シリンダ2の下端は車両のばね下部材に連結されている。ロッド部11の外周側には、図示略のスプリングが配置されている。
【0012】
ピストン3は、シリンダ2内に摺動可能に配置され、シリンダ2内を第1室としての上室21と第2室としての下室22とに区画する円柱状部材である。ピストン3は、ピストン3の中心軸とシリンダ2の中心軸とが一致するように、且つ軸方向に摺動可能に配置されている。ピストン3は、中空ロッド4を介してロッド部11に接続されている。つまり、ピストン3、中空ロッド4、及びロッド部11は、一体的に移動する。
【0013】
上室21及び下室22は、それぞれシリンダ2とピストン3とにより区画形成されている。ショックアブソーバ1が車両に設置された状態で、上室21はピストン3の上側に位置し、下室22はピストン3の下側に位置する。ピストン3の外周面(摺動面)は、樹脂で形成されている。
【0014】
ピストン3には、それぞれ独立して上室21と下室22とを連通させる第1主連通路31及び第2主連通路32が形成されている。第1主連通路31は、上端が上室21に開口し、下端が下室22に開口した液路であって、当該下端開口は、第1主バルブ81により閉鎖されている。ショックアブソーバ1が伸びる伸び行程において、上室21が下室22よりも高圧となり、第1主バルブ81が開弁し、第1主連通路31を介して上室21と下室22とが連通する。第1主バルブ81は、中空ロッド4に固定された環状の板ばね部材で構成されている。弾性変形によって第1主バルブ81の外周部が下方に移動することで、第1主連通路31の下端が下室22に開口する。
【0015】
第2主連通路32は、上端が上室21に開口し、下端が下室22に開口した液路であって、当該上端開口は、第2主バルブ82により閉鎖されている。ショックアブソーバ1が縮む縮み行程において、下室22が上室21よりも高圧となり、第2主バルブ82が開弁し、第2主連通路32を介して上室21と下室22とが連通する。第2主バルブ82は、中空ロッド4に固定された環状の板ばね部材で構成されている。弾性変形によって第2主バルブ82の外周部が上方に移動することで、第2主連通路32の上端が上室21に開口する。このように、主バルブ機構8は、第1主バルブ81、第2主バルブ82、第1主連通路31、及び第2主連通路32により構成されている。
【0016】
中空ロッド4は、ピストン3を貫通するように配置された円筒状部材であって、上室21に開口したロッド孔41及びロッド孔41と下室22とを連通させる内部液路42を有する。中空ロッド4の上端部は、当該上端部に固定されたロッド部11により閉鎖されている。中空ロッド4の下端部は、下室22に開口している。ロッド孔41は、中空ロッド4の側面のうち上室21に位置する部分に、複数形成されている。本実施形態では、軸方向に離間して並んだ4つのロッド孔41により構成されたロッド孔41の列が、周方向に離間して2列中空ロッド4に形成されている(計8つ)。内部液路42は、中空ロッド4の内部に形成される、換言すると中空ロッド4の内部に位置する軸方向に延びる液路である。内部液路42は、中空ロッド4内で作動液が流通する部分といえる。
【0017】
回転バルブ5は、中空ロッド4の内側に回転可能に配置され、ロッド孔41とともに上室21と内部液路42とを連通させるバルブ孔51を有する中空部材(円筒状部材)である。回転バルブ5の外周面と中空ロッド4の内周面との間には、ほとんどクリアランスがなく、作動液は当該クリアランスを流通しない。当該クリアランスは、作動液が流通しない程度に存在するともいえる。回転バルブ5の上端部は、電動モータ6の出力軸部61に固定されている。回転バルブ5は、電動モータ6の駆動力により回転する。バルブ孔51は、ロッド孔41に対応して複数形成されている。つまり、本実施形態では、軸方向に離間して並んだ4つのバルブ孔51により構成されたバルブ孔51の列が、周方向に離間して2列回転バルブ5に形成されている(計8つ)。回転バルブ5の下端は、中空ロッド4の下端よりも上方に位置している。なお、「軸方向」については、下記のようにもいえる。すなわち、回転バルブ5の回転軸が延びる方向を軸方向とし、ピストン3から上室21に向かう方向を軸方向一方(上方)とし、ピストン3から下室22に向かう方向を軸方向他方(下方)とする。回転バルブ5の回転軸の延長線と、シリンダ2の中心軸の延長線とは一致する。
【0018】
電動モータ6は、回転バルブ5を回転させて、ロッド孔41とバルブ孔51とで構成される液路の断面積(流路断面積又は開口面積ともいえる)を調整するように構成されている。上室21と内部液路42とをつなぐ液路の流路断面積は、バルブ孔51の位相により変化する。なお、流路断面積は、作動液の流れ方向(孔の貫通方向)に直交する平面で対象を切断した断面の面積であるといえる。また、図2において、左右対称に配置されている各孔41、51、71は、紙面の都合上、左右のうち一方にのみ符号が付されている(すなわち8つの孔のうち4つの符号が省略されている)。
【0019】
電動モータ6の本体部60は、ロッド部11の内部に固定されている。電動モータ6は、例えばステッピングモータである。電動モータ6の出力軸部61は、本体部60から下方(軸方向他方)に延びており、複数の部材で構成されている。電動モータ6の駆動力は、出力軸部61により回転バルブ5に伝達される。電動モータ6の駆動は、コントローラ12によって制御される。コントローラ12は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニット(ECU)である。
【0020】
インナーパイプ7は、回転バルブ5の内周面の少なくとも一部を覆うように、回転バルブ5の内側に中空ロッド4に対して相対移動不能に配置された円筒状部材である。インナーパイプ7は、中空ロッド4に固定されている。インナーパイプ7の内周面は、内部液路42の少なくとも一部を構成している。本実施形態では、インナーパイプ7が回転バルブ5の上端部から中空ロッド4の下端まで延在しているため、内部液路42全体がインナーパイプ7の内周面で構成されている。
【0021】
インナーパイプ7は、ロッド孔41に対向する位置に連通孔71を有している。つまり、インナーパイプ7の側面には、ロッド孔41に対応して複数の連通孔71が形成されている。本実施形態では、軸方向に離間して並んだ4つの連通孔71により構成された連通孔71の列が、周方向に離間して2列インナーパイプ7に形成されている(計8つ)。
【0022】
図4に示すように、本実施形態において、径方向に見てロッド孔41が連通孔71内に配置されやすいように、換言すると径方向においてロッド孔41全体が連通孔71にオーバーラップしやすいように、連通孔71の開口面積(流路断面積)はロッド孔41の開口面積(流路断面積)よりも大きくなっている。ロッド孔41と連通孔71とは、同位相に形成されている。このように、上室21と内部液路42とは、ロッド孔41、バルブ孔51、及び連通孔71により連通される。なお、ロッド孔41の開口面積とバルブ孔51の開口面積とは同等である。
【0023】
より詳細に、インナーパイプ7は、上側(軸方向一方)部分を構成する小径部72と、下側(軸方向他方)部分を構成する大径部73と、を含んで構成されている。小径部72と大径部73とは一体的に形成されている。小径部72の外径は、大径部73の外径よりも小さい。両者の内径は同等である。小径部72の外径と大径部73の外径との差は、回転バルブ5の板厚(径方向の幅)に相当する。
【0024】
回転バルブ5は、小径部72の外周面と中空ロッド4の外周面との間に配置されている。つまり、小径部72の下端は、回転バルブ5の下端よりも下方に位置している。小径部72の上端は、回転バルブ5の上端部に対応する位置に位置している。小径部72の外周面と回転バルブ5の内周面との間には、ほとんどクリアランスがなく、作動液は当該クリアランスを流通しない。当該クリアランスは、作動液が流通しない程度に存在するともいえる。すべての連通孔71は、小径部72に形成されている。
【0025】
大径部73は、中空ロッド4の外周面に対向するように配置されている。大径部73は、回転バルブ5の下端よりも下方の位置から中空ロッド4の下端まで延在している。大径部73の外周面と中空ロッド4の内周面との間には、ほとんどクリアランスがなく、作動液は当該クリアランスを流通しない。当該クリアランスは、作動液が流通しない程度に存在するともいえる。大径部73の下端には、中空ロッド4の下端面に当接するフランジ部74が形成されている。インナーパイプ7の下端部と中空ロッド4の下端部とは、例えば、かしめ固定されている。インナーパイプ7が中空ロッド4の下端部に固定されることで、例えば中空ロッド4内に各部材を配置した後に固定作業を行うことができ、ショックアブソーバ1の製造及び組み付け作業が容易となる。なお、インナーパイプ7の中空ロッド4への固定は、かしめに限らず、周知の方法を適用できる。
【0026】
副バルブ機構9は、主バルブ機構8とは別にシリンダ2内に設けられた、回転バルブ5を含んで構成されるバルブ機構である。副バルブ機構9は、伸び行程用液路91と、縮み行程用液路92と、伸び行程用バルブ93と、縮み行程用バルブ94と、を備えている。伸び行程用液路91及び縮み行程用液路92は、主連通路31、32とは別に設けられた、それぞれ独立して上室21と下室22とを連通させる液路である。伸び行程用液路91の一部は第1液路形成部95により形成され、縮み行程用液路92の一部は第2液路形成部96により形成されている。
【0027】
第1液路形成部95は、中空ロッド4の外周面に固定された筒状部材951と、筒状部材951を包むように中空ロッド4の外周面に固定された有底筒状部材952と、有底筒状部材952の上部開口を塞ぐように中空ロッド4の外周面に固定された蓋部材953と、を備えている。
【0028】
筒状部材951は、円筒状であって、8つのロッド孔41のうちの上側の4つに対向するように配置されている。筒状部材951の側面のうちロッド孔41に対応する位置には、径方向に延びる2つの液路951aが周方向に離間して形成されている。また、筒状部材951の内周部には、2つの液路951aをつなぐ環状の液路951bが形成されている。筒状部材951内に位置する4つのロッド孔41は、すべて液路951bに開口している。液路951bは、筒状部材951の内周面と中空ロッド4の外周面と有底筒状部材952とで区画形成されている。
【0029】
有底筒状部材952は、筒状部材951よりも大径な有底円筒状に形成されている。有底筒状部材952の外周面とシリンダ2の内周面との間には、作動液が流通可能なクリアランスが形成されている。当該クリアランスは環状の液路といえる。有底筒状部材952の下端を構成する底面は、筒状部材951の下端面に当接している。有底筒状部材952の内側には、有底筒状部材952の内周面、筒状部材951の外周面、及び蓋部材953によって、環状の液室95aが形成されている。
【0030】
蓋部材953は、円筒状部材であって、上室21と液室95aとを連通させる1つ又は複数の貫通孔953a(ここでは3つ)が形成されている。3つの貫通孔953aは、それぞれ軸方向に延び、互いに周方向に離間して配置されている。各貫通孔953aの下端部は、周方向に広がる液室953a1を形成している。換言すると、貫通孔953aの下端開口部分は、周方向に延びるように拡がっており、流路断面積が相対的に大きい液室953a1を形成している。したがって、図2の蓋部材953のうち右側部分に記載されているように、伸び行程用バルブ93と蓋部材953との間の空間である液室953a1は、図示されていない貫通孔953aの一部である。このように、伸び行程用液路91は、貫通孔953a、液室95a、液路951a、液路951b、ロッド孔41、バルブ孔51、連通孔71、及び内部液路42により構成されている。
【0031】
伸び行程用バルブ93は、液室95a内で、貫通孔953aの下端開口を塞ぐように配置されている。伸び行程用バルブ93は、有底筒状部材952の内側で、筒状部材951と蓋部材953との間に配置され、中空ロッド4の外周面に固定されている。伸び行程用バルブ93は、伸び行程において、伸び行程用液路91を介した上室21から下室22への作動液の通過を許可し、縮み行程において伸び行程用液路91を介した下室22から上室21への作動液の通過を制限するように構成されている。以下、説明において、作動液の通過を許可する行程を許可行程ともいい、作動液の通過を制限する行程を制限行程ともいう。
【0032】
伸び行程において、ピストン3が上方に摺動し、上室21が下室22よりも高圧となり、伸び行程用バルブ93が下方に弾性変形して開弁すると、貫通孔953aの下端が液室95aに開口し、伸び行程用液路91を介して上室21から下室22に作動液が流動する。伸び行程用バルブ93の詳細構成は後述する。
【0033】
第2液路形成部96は、円筒状部材であって、第1液路形成部95とピストン3との間に配置されている。第2液路形成部96とシリンダ2との間には、作動液が通過可能な環状の液路(クリアランス)が形成されている。第2液路形成部96は、8つのロッド孔41のうちの下側の4つに対向するように、中空ロッド4の外周面に固定されている。第2液路形成部96には、上室21とロッド孔41とを連通させる液路96a、96bが形成されている。
【0034】
液路96aは、第2液路形成部96に1つ又は複数(ここでは周方向に離間して3つ)形成されており、下方に向かうほど径方向外側に向かうように軸方向に対して傾斜して延びている。液路96aの下端は上室21に開口し、上端は液路96bに開口している。液路96bは、すべての液路96aが連通するように、第2液路形成部96の内周部に形成された環状の液路である。第2液路形成部96内に位置する4つのロッド孔41は、すべて液路96bに開口している。液路96aの下端部は、周方向に延びた液室96a1を形成している。
【0035】
このように、縮み行程用液路92は、液路96a、液路96b、ロッド孔41、バルブ孔51、連通孔71、及び内部液路42により構成されている。内部液路42は、両液路91、92兼用の液路である。
【0036】
縮み行程用バルブ94は、第2液路形成部96の下方で、液路96a(液室96a1)の下端開口を塞ぐように配置されている。縮み行程用バルブ94は、縮み行程において縮み行程用液路92を介した下室22から上室21への作動液の通過を許可し、伸び行程において縮み行程用液路92を介した上室21から下室22への作動液の通過を制限するように構成されている。縮み行程において、ピストン3が下方に摺動し、下室22が上室21よりも高圧になり、縮み行程用バルブ94が下方に弾性変形して開弁すると、液路96aの下端が上室21に開口し、縮み行程用液路92を介して作動液が下室22から上室21に流動する。縮み行程用バルブ94の詳細構成は後述する。
【0037】
上記したショックアブソーバ1の各部(シリンダ2、ピストン3、中空ロッド4、回転バルブ5、出力軸部61、インナーパイプ7、バルブ81、82、93、94、液路形成部95、96等)は、自身の中心軸を含む直線が互いに一致するように配置されている。つまり、各部は同軸的に配置されている。
【0038】
(回転バルブに対するトルク)
回転バルブ5の回転により、ロッド孔41とバルブ孔51とで構成される液路の断面積が小さくなるほど、ショックアブソーバ1の伸縮時において、伸び行程用液路91又は縮み行程用液路92で作動液が流通しにくくなり、ドライブフィーリングは硬くなる。一方、液路の断面積が大きくなるほど、伸び行程用液路91又は縮み行程用液路92で作動液が流通しやすくなり、ドライブフィーリングは柔らかくなる。
【0039】
インナーパイプ7がない従来の構成(以下「従来構成」ともいう)において、回転バルブ5は、作動液の流通時に生じる流体力によってトルクを受ける。ここで、従来構成において、伸び行程で、作動液が、上室21からロッド孔41及びバルブ孔51を介して回転バルブ5内(内部液路42に相当)に流入する場合について、図5及び図6を参照して説明する。なお、図6は、図5の下方のロッド孔41及びバルブ孔51の部分拡大図(概念図)である。また、説明では、図6の右方向を正とする。
【0040】
作動液は、回転バルブ5内への流入に際して、図6の左方向の力を受けて減速する。一方、回転バルブ5は、作動液の流入により図6の右方向の力(反力)を受ける。つまり、回転バルブ5は、反時計回りのトルクを受ける。作動液がロッド孔41からバルブ孔51に流入する際の流速をVinとし、その際の作動液の流入角度をαとし、作動液がバルブ孔51から回転バルブ5内に流入する際の流速をVoutとし、その際の作動液の流入角度をβとし、回転バルブ5の内径をrとし、作動液の密度をρとし、作動液の流量をQとすると、回転バルブ5が受ける流体力F及びトルクTは以下の式で表される。
F=-ρQ(voutcosβ-vincosα)
=2rF
【0041】
さらに、回転バルブ5は、軸方向の長さLに応じて、反時計回りのトルクを受ける。回転バルブ5内に流入した作動液は、長さLの液路(回転バルブ5内)を通過するにあたり、旋回しながら流動する。このため、作動液は回転バルブ5の内周面の抵抗を受けて減速し、回転バルブ5には流体力が働く。回転バルブ5のバルブ孔51(入口)付近に発生する反時計回りの作動液の流れの回転速度をωinとし、回転バルブ5の下端部(出口)付近に発生する反時計回りの作動液の回転速度ωoutとすると、従来構成において回転バルブ5内での作動液の旋回により回転バルブ5が受けるトルクTは以下の式で表される。
=-rρQ(ωout-ωin
【0042】
(インナーパイプによる効果)
本実施形態によれば、インナーパイプ7が、回転バルブ5の内側に配置されて内部液路42を構成している。このため、回転バルブ5の内側で発生する流体力(トルクT)の少なくとも一部をインナーパイプ7が受けることになり、その分、回転バルブ5が受けるトルクを低減させることができる。このように、本実施形態によれば、回転バルブ5内に流入した作動液の旋回によるトルクTをインナーパイプ7が受けることとなり、回転バルブ5が受けるトルクを低減させ、電動モータ6の負荷を低減させることができる。また、作動液の流入出時のトルクTについては、回転バルブ5の板厚を小さくすることで、低減させることができる。インナーパイプ7の存在により、構成上の回転バルブ5の耐久性が向上し、板厚の縮小も可能になると考えられる。
【0043】
本実施形態のインナーパイプ7は、回転バルブ5の内周面のうち内部液路42に対応する部分に対して、軸方向全体にわたって覆うように配置されている。換言すると、インナーパイプ7の上端(軸方向一端部)は最も上方のバルブ孔51よりも上方に位置し、インナーパイプ7の下端(軸方向他端部)は回転バルブ5の下端よりも下方に位置している。この構成により、回転バルブ5のうち流体力を受ける部分の長さLを疑似的に0にする又は近づけることができ、回転バルブ5の壁面抵抗(内周面の抵抗)によるトルクの発生を0に近づけることができる(T≒0)。
【0044】
また、インナーパイプ7が小径部72を備えるため、中空ロッド4及び回転バルブ5をもつ既存の構成に対して、設計変更をすることなく、すなわち容易に、インナーパイプ7を組み付けることが可能となる。なお、一連の孔41、51、71の数や配置位置は、任意に設定可能である。
【0045】
(伸び行程用バルブの詳細構成)
伸び行程用バルブ93は、図2及び図7に示すように、リーフ弁要素931と、対向面932と、着座面933と、を備えて構成されている。リーフ弁要素931は、固定端931a及び自由端931bを有している。リーフ弁要素931の内周部が中空ロッド4に固定される固定端931aであって、外周部が自由端931bである。リーフ弁要素931は、1つ又は複数の環状の板ばね部材で構成されている。
【0046】
リーフ弁要素931は、貫通孔953a(液室953a1)の下端開口を塞ぐように、蓋部材953の下方に配置されている。リーフ弁要素931は、環状の板ばね部材が軸方向に複数重なって構成されており、板ばね部材の枚数や板厚により減衰特性を調整可能となっている。本実施形態のリーフ弁要素931は、3枚の板ばね部材が軸方向に重なって構成され、上から下に向かって外径が小さくなっている。上下の差圧により、リーフ弁要素931が弾性変形し、自由端931bが変位する。
【0047】
対向面932は、リーフ弁要素931の自由端931bに対向し、少なくともリーフ弁要素931が弾性変形していない状態において、リーフ弁要素931とともに、リーフ弁要素931が配置された液路(すなわち伸び行程用液路91)での作動液の通過を禁止する。リーフ弁要素931と対向面932とのクリアランスは、作動液が通過できないように設定されている。対向面932は、リーフ弁要素931の最も外径が大きい板ばね部材931dの外周面を囲むように、環状に形成されている。板ばね部材931dと対向面932との径方向でのオーバーラップ分(板ばね部材931dの板厚相当)は、伸び行程用バルブ93の閉弁から開弁への状態変化のしやすさに影響する。軸方向において、リーフ弁要素931の板ばね部材931dの下端位置と、対向面932の下端位置とは一致している。
【0048】
対向面932は、蓋部材953の下端部により形成されている。蓋部材953の下端の外周部には、環状に突出する環状部953cが形成されている。対向面932は、その環状部953cの内周面である。リーフ弁要素931の外周面は、全周にわたって、環状部953cの内周面(対向面932)に対向している。
【0049】
着座面933は、作動液の通過を制限する制限行程においてリーフ弁要素931が所定量弾性変形した場合、リーフ弁要素931と当接してリーフ弁要素931とともに、リーフ弁要素931が配置された液路(すなわち伸び行程用液路91)での作動液の通過を禁止する。着座面933は、リーフ弁要素931の自由端931bの上方に、リーフ弁要素931から離間して配置されている。着座面933は、平面状であり、リーフ弁要素931の自由端931bに全周にわたって対向するように環状に延在している。着座面933は、蓋部材953の下端面のうち、対向面932よりも径方向内側の部分で構成されている。
【0050】
リーフ弁要素931は、作動液の通過を許可する許可行程において、自由端931bと対向面932とのクリアランスを介して作動液が通過可能となるように、着座面933から離れる方向に弾性変形する。伸び行程用バルブ93において、許可行程は伸び行程であり、作動液の通過を制限する制限行程は縮み行程である。一方、縮み行程用バルブ94において、許可行程は縮み行程であり、制限行程は伸び行程である。
【0051】
ショックアブソーバ1が伸びる伸び行程(ピストン3が上方に摺動する行程)において、リーフ弁要素931の上方に位置する液室953a1の液圧は、リーフ弁要素931の下方に位置する液室95aの液圧よりも高くなる。この差圧により、図8に示すように、リーフ弁要素931が弾性変形して自由端931bが下方に移動し、図9に示すように、リーフ弁要素931の自由端931bと対向面932とのクリアランスが作動液通過可能にまで大きくなることで、伸び行程用バルブ93は開弁する。
【0052】
伸び行程用バルブ93が開弁すると、作動液は、伸び行程用液路91を介して上室21から下室22に流入する。作動液の流動により差圧が小さくなると、リーフ弁要素931は、自身の復元力により、図9の状態から図8の状態に移行し、図7の状態(初期状態)に戻る。図8の状態では、作動液の通過は禁止される。少なくとも板ばね部材931dの外周面が対向面932に対向する位置にある状態では、作動液の通過は制限又は禁止される。
【0053】
一方、ショックアブソーバ1が縮む縮み行程(ピストン3が下方に摺動する行程)においては、リーフ弁要素931の下方に位置する液室95aの液圧は、リーフ弁要素931の上方に位置する液室953a1の液圧よりも高くなる。この差圧により、リーフ弁要素931が弾性変形して自由端931bが上方に移動し、図7の状態から図10の状態に移行し、図11に示すように、リーフ弁要素931が所定量弾性変形すると自由端931bが着座面933に着座(当接)する。
【0054】
図10の状態において、自由端931bと対向面932とのクリアランスは小さい状態で保たれ、作動液は当該クリアランスをほとんど又は全く通過することができない。伸び行程用バルブ93は、図10の状態で、多少(無視できる程度)の作動液の上方への漏れを許容する構成となっている。図11の状態において、リーフ弁要素931が着座面933に当接して、作動液の通過は禁止される(通過不可な状態となる)。このように、伸び行程用バルブ93は、縮み行程における作動液の通過を制限又は禁止し、逆止弁としての機能を発揮する。
【0055】
図11の状態において、リーフ弁要素931は、図7の状態から所定量弾性変形している。この所定量は、制限行程(ここでは縮み行程)において、ピストン3の速度が所定の常用域の上限値を超えた場合に、リーフ弁要素931が着座面933に当接するように設定されている。つまり、リーフ弁要素931は、制限行程において、ピストン3の速度が常用域の上限値以下である場合、着座面933に当接しない。ピストン3の速度は、ストローク速度ともいえ、例えば棒状変位計又は加速度センサにより測定できる。なお、ピストン3の速度は、シミュレーションにより予測することも可能である。
【0056】
図12に示すように、良路(一般国道相当)走行時におけるピストン3の速度とその頻度の関係から、ほとんどの走行時間において、ピストン3の速度が0.1m/s以下であることが分かる。また、全走行時間の約7割はピストン3の速度が0.02m/s以下であり、全走行時間の約5割はピストン3の速度が0.01m/s以下であった。ピストン速度の常用域の上限値は、上記実験値に基づいて設定することができる。例えば全走行時間の5割を占めるピストン速度の範囲を常用域に設定してもよい。
【0057】
常用域の上限値は、例えば0.01m/s以上0.1m/s以下の数値であることが好ましい。これにより、計算上、全走行時間の約5割以上の時間でリーフ弁要素931と着座面933とが当接せず、且つ高いピストン速度が出る伸縮に対して両者の当接(着座)が実行される。さらに、常用域の上限値は、0.02m/s以上0.1m/s以下の数値であることが好ましい。これにより、計算上、全走行時間の7割以上の時間でリーフ弁要素931と着座面933とが当接しない。リーフ弁要素931と着座面933との当接頻度が低いほど、異音の発生頻度は低くなる。
【0058】
なお、ピストン速度の常用域は、車種に応じて設定してもよい。また、常用域の下限値は0である。また、図12において、横軸はピストン3の速度(m/s)であり、縦軸は全走行時間のうちの走行時間比率(棒グラフは走行時間比率、折れ線グラフは累積比率)である。この実験では、一般的な乗用車が用いられ、全走行時間は約18分である。
【0059】
伸び行程用バルブ93の減衰力Fdは、ピストン3の速度vの3分の2乗に比例することが知られている(Fd=Kv2/3)(Kは比例定数)。また、リーフ弁要素931のリフト量(変形量)xは、減衰力Fに比例する(x=kF)(kは比例定数)。したがって、図13に示すように、伸び行程用バルブ93の開閉速度は、ピストン3の速度の3分の1乗に反比例する(dx/dv=2/3kKv-1/3)。つまり、ピストン3の速度が高いほど、減衰力Fが大きくなり、伸び行程用バルブ93の開閉速度(バルブ開閉速度)は低くなる。伸び行程用バルブ93の開閉速度が低いほど、リーフ弁要素931が着座面933に着座したときに生じる音は小さくなる。
【0060】
例えば常用域の上限値が0.1m/sに設定されている場合、縮み行程において、リーフ弁要素931は、ピストン3の速度が0.1m/s以下である場合、図10の状態で作動液の通過を制限する。そして、ピストン3の速度が0.1m/sを超えるような縮み動作が起こると、リーフ弁要素931の弾性変形量(リフト量)が大きくなって作動液の上方への漏れ量が大きくなりかけるが、リーフ弁要素931が着座面933に着座して、確実に作動液の通過が禁止される。
【0061】
(縮み行程用バルブの詳細構成)
縮み行程用バルブ94は、伸び行程用バルブ93と同様の構成であり、図2及び図14に示すように、リーフ弁要素941と、対向面942と、着座面943と、を備えて構成されている。リーフ弁要素941の内周部は中空ロッド4に固定される固定端941aであって、外周部は自由端941bである。リーフ弁要素941は、1つ又は複数の環状板ばね部材で構成されている。
【0062】
リーフ弁要素941は、液路96a(液室96a1)の下端開口を塞ぐように、第2液路形成部96の下方に配置されている。リーフ弁要素941は、環状の板ばね部材が軸方向に複数重なって構成されており、板ばね部材の枚数や板厚により減衰特性を調整可能となっている。本実施形態のリーフ弁要素941は、3枚の板ばね部材が軸方向に重なって構成され、上から下に向かって外径が小さくなっている。上下の差圧により、リーフ弁要素941の外周部が弾性変形する。
【0063】
対向面942は、リーフ弁要素941の自由端941bに対向し、少なくともリーフ弁要素941が弾性変形していない状態において、リーフ弁要素941とともに、リーフ弁要素941が配置された液路(すなわち縮み行程用液路92)での作動液の通過を禁止する。リーフ弁要素941と対向面942とのクリアランスは、作動液が通過できないように設定されている。対向面942は、リーフ弁要素941の最も外径が大きい板ばね部材941dの外周面を囲むように、環状に形成されている。板ばね部材941dと対向面942との径方向でのオーバーラップ分(板ばね部材941dの板厚相当)は、縮み行程用バルブ94の閉弁から開弁への状態変化のしやすさに影響する。軸方向において、リーフ弁要素941の板ばね部材941dの下端位置と、対向面942の下端位置とは一致している。
【0064】
対向面942は、第2液路形成部96の下端部により形成されている。第2液路形成部96の下端の外周部には、環状に突出する環状部96cが形成されている。対向面942は、その環状部96cの内周面である。リーフ弁要素941の外周面は、全周にわたって、環状部96cの内周面(対向面942)に対向している。
【0065】
着座面943は、作動液の通過を制限する制限行程においてリーフ弁要素941が所定量弾性変形した場合、リーフ弁要素941と当接してリーフ弁要素941とともに、リーフ弁要素941が配置された液路(すなわち縮み行程用液路92)での作動液の通過を禁止する。着座面943は、リーフ弁要素941の自由端941bの上方に、リーフ弁要素941から離間して配置されている。着座面943は、平面状であり、リーフ弁要素941の自由端941bに全周にわたって対向するように環状に延在している。着座面943は、第2液路形成部96の下端面のうち、対向面942よりも径方向内側の部分で構成されている。
【0066】
リーフ弁要素941は、作動液の通過を許可する許可行程において、自由端941bと対向面942とのクリアランスを介して作動液が通過可能となるように、着座面943から離れる方向に弾性変形する。縮み行程用バルブ94において、許可行程は縮み行程であり、制限行程は伸び行程である。縮み行程用バルブ94の状態変化は、図7図11に示す伸び行程用バルブ93の状態変化と同じであり、図示は省略する。
【0067】
ショックアブソーバ1が縮む縮み行程(ピストン3が下方に摺動する行程)において、リーフ弁要素941の上方に位置する液室96a1の液圧は、リーフ弁要素941の下方に位置する上室21の液圧よりも高くなる。この差圧により、リーフ弁要素941が弾性変形し、自由端941bが下方に移動し、リーフ弁要素941の自由端941bと対向面942とのクリアランスが作動液通過可能にまで大きくなることで、縮み行程用バルブ94は開弁する。縮み行程用バルブ94が開弁すると、作動液は、縮み行程用液路92を介して下室22から上室21に流入する。作動液の流動により差圧が小さくなると、リーフ弁要素941は、自身の復元力により、初期状態に戻っていく。少なくとも板ばね部材941dの外周面が対向面942に対向する位置にある状態では、作動液の通過は制限又は禁止される。
【0068】
一方、ショックアブソーバ1が伸びる伸び行程(ピストン3が上方に摺動する行程)において、リーフ弁要素941の下方に位置する上室21の液圧は、リーフ弁要素941の上方に位置する液室96a1の液圧よりも高くなる。この差圧により、リーフ弁要素941は弾性変形し、自由端941bが上方に移動し、リーフ弁要素941が所定量弾性変形すると自由端931bが着座面933に着座(当接)する。
【0069】
自由端941bが上方に移動した状態(着座していない状態)では、自由端941bと対向面942とのクリアランスは小さい状態で保たれ、作動液は当該クリアランスをほとんど又は全く通過することができない。縮み行程用バルブ94は、多少(無視できる程度)の作動液の上方への漏れを許容する構成となっている。リーフ弁要素941が所定量弾性変形した状態では、リーフ弁要素941が着座面943に当接して、作動液の通過は禁止される(通過不可な状態となる)。このように、縮み行程用バルブ94は、伸び行程における作動液の通過を制限又は禁止し、逆止弁としての機能を発揮する。
【0070】
上記のように、リーフ弁要素941は、初期状態から所定量弾性変形して着座面943に着座する。この所定量は、制限行程(ここでは伸び行程)において、ピストン3の速度が所定の常用域の上限値を超えた場合に、リーフ弁要素941が着座面943に当接するように設定されている。ピストン速度の常用域の上限値は、伸び行程用バルブ93同様、例えば、0.01m/s以上0.1m/s以下の数値、又は0.02m/s以上0.1m/s以下の数値に設定される。
【0071】
(伸び行程用バルブ及び縮み行程用バルブによる効果)
本実施形態によれば、リーフ弁要素931、941は、ピストン3の速度が常用域の上限値以下である場合、作動液の通過を制限しつつ、対応する着座面933、943に当接することなく、異音の発生は抑制される。一方、ピストン3の速度が常用域の上限値を超えた場合、リーフ弁要素931、941は、対応する着座面933、943に当接して、作動液の通過を確実に禁止し、逆止弁として機能する。これにより、副バルブ機構9は、制限行程において、ピストン3の速度の常用域においては異音の発生を抑制しつつ液路91、92での作動液の通過を制限し、常用域外においては着座して精度良い逆止弁として機能する。常用域外、すなわちピストン3の速度が高い領域では、減衰力が大きくなり、リーフ弁要素の弾性変形速度は遅くなる。したがって、この構成によれば、着座により発生する異音の大きさは抑制される。このように、本実施形態によれば、異音の発生を抑制でき、且つ逆止弁機能を発揮できる副バルブ機構9を実現することができる。なお、伸び行程用バルブ93及び縮み行程用バルブ94の少なくとも一方が上記構成であることで、異音の発生を抑制することができる。
【0072】
また、ピストン速度の常用域の上限値が、0.01m/s以上0.1m/s以下の数値、又は0.02m/s以上0.1m/s以下の数値に設定されることで、全走行時間の5割以上の時間で異音の発生を抑制することができる。本実施形態では、伸び行程用バルブ93及び縮み行程用バルブ94の両方で、上記構成が採用されているため、減衰特性は、伸び行程と縮み行程とでほぼ同様となる。
【0073】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、図15に示すように、着座面933、943は、上記実施形態よりも径方向内側に形成されてもよい。図15では代表として伸び行程用バルブ93を示しているが、縮み行程用バルブ94でも同様である。図15の構成であっても、リーフ弁要素931、941が、ピストン速度の常用域に基づき設定された所定量だけ弾性変形することで、着座面933、943に当接する。伸び行程用バルブ93及び縮み行程用バルブ94の構成は、逆止弁機能を必要とするあらゆるバルブ機構に適用可能である。
【0074】
また、インナーパイプ7は、中空ロッド4における下端部以外の部分に固定されてもよい。また、インナーパイプ7は、内部液路42に対応する回転バルブ5の内周面の一部を覆うように配置されてもよく、例えば、インナーパイプ7の下端は、回転バルブ5の下端よりも上方に位置していてもよい。この場合、内部液路42は、例えば、インナーパイプ7の内周面と、回転バルブ5の内周面と、中空ロッド4の内周面とで区画形成される。インナーパイプ7が、内部液路42に対応する回転バルブ5の内周面の少なくとも一部を覆うことで、作動液の流体力による回転バルブ5が受けるトルクは低減する。インナーパイプ7を持つ構成は、回転バルブ5を持つあらゆるバルブ機構に適用可能である。アクチュエータは、電動モータ6に限らず、ロータリーソレノイドであってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1:ショックアブソーバ、2:シリンダ、21:上室(第1室)、22:下室(第2室)、3:ピストン、4:中空ロッド、41:ロッド孔、42:内部液路、5:回転バルブ、51:バルブ孔、6:電動モータ、7:インナーパイプ(筒状部材)、71:連通孔、72:小径部、73:大径部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15