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特開2023-53579膜劣化の判定方法及び装置、薬注制御方法及び装置、並びに水処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053579
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】膜劣化の判定方法及び装置、薬注制御方法及び装置、並びに水処理システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20230406BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B01D65/10
G01N21/27 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162705
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】兼重 麗弥
(72)【発明者】
【氏名】高田 明広
【テーマコード(参考)】
2G059
4D006
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB10
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH02
2G059MM01
2G059MM05
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006JA51C
4D006JA53Z
4D006JA57Z
4D006JA59Z
4D006JA63Z
4D006JA67Z
4D006KA33
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA55
4D006KA72
4D006KB11
4D006KB21
4D006KD01
4D006KD02
4D006KD24
4D006KD30
4D006KE22Q
4D006KE23Q
4D006KE30P
4D006LA06
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC29
4D006MC39
4D006MC54
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
(57)【要約】
【課題】薬品を使用することなく、オンラインでも分離膜の劣化のレベルを判定できる膜劣化の判定方法及び装置、薬注制御方法及び装置、並びに水処理システムを提供する。
【解決手段】本発明の膜劣化の判定方法は、試験水が通水される監視用分離膜に可視光を照射し、監視用分離膜で反射した可視光の反射強度または吸光度を可視光分光光度計で測定し、可視光分光光度計で測定した可視光の反射強度または吸光度に基づいて膜の酸化劣化のレベルを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験水が通水される監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を可視光分光光度計で測定し、
前記可視光分光光度計で測定した前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて膜の酸化劣化のレベルを判定する、膜劣化の判定方法。
【請求項2】
400~700nmの可視光範囲のうち、少なくとも一つの波長光の前記反射強度または前記吸光度を前記可視光分光光度計で測定する、請求項1に記載の膜劣化の判定方法。
【請求項3】
所定の基準値に対する、前記可視光分光光度計で測定した前記反射強度または前記吸光度の変化率が予め設定された閾値以上となった場合に、前記膜の酸化劣化のレベルが前記閾値以上であることを示す情報を出力する、請求項1または2に記載の膜劣化の判定方法。
【請求項4】
前記監視用分離膜に前記試験水が通水される前の前記反射強度または前記吸光度と、前記監視用分離膜に前記試験水が通水された後の前記反射強度または前記吸光度を測定し、前記監視用分離膜に前記試験水が通水される前の前記反射強度または前記吸光度を前記基準値として、前記監視用分離膜に前記試験水が通水された後の前記反射強度または前記吸光度の変化率が前記閾値以上となった場合に、前記膜の酸化劣化のレベルが前記閾値以上であることを示す情報を出力する、請求項3に記載の膜劣化の判定方法。
【請求項5】
試験水が通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を測定する可視光分光光度計と、
前記前記可視光分光光度計で測定された前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて膜の酸化劣化のレベルを判定する演算装置と、
を有する膜劣化の判定装置。
【請求項6】
前記可視光分光光度計は、
400~700nmの可視光範囲のうち、少なくとも一つの波長光の前記反射強度または前記吸光度を測定する、請求項5に記載の膜劣化の判定装置。
【請求項7】
前記演算装置は、
所定の基準値に対する、前記可視光分光光度計で測定した前記反射強度または前記吸光度の変化率が予め設定された閾値以上となった場合に、前記膜の酸化劣化のレベルが前記閾値以上であることを示す情報を出力する、請求項5または6に記載の膜劣化の判定装置。
【請求項8】
前記演算装置は、
前記監視用分離膜に前記試験水が通水される前の前記反射強度または前記吸光度と、前記監視用分離膜に前記試験水が通水された後の前記反射強度または前記吸光度を測定し、前記監視用分離膜に前記試験水が通水される前の前記反射強度または前記吸光度を前記基準値として、前記監視用分離膜に前記試験水が通水された後の前記反射強度または前記吸光度の変化率が前記閾値以上となった場合に、前記膜の酸化劣化のレベルが前記閾値以上であることを示す情報を出力する、請求項7に記載の膜劣化の判定装置。
【請求項9】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜の酸化劣化を抑制するために、前記被処理水に薬品を注入する薬注制御方法であって、
前記被処理水または前記濃縮水の一部が試験水として通水された監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を可視光分光光度計で測定し、
前記可視光分光光度計で測定した前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて前記分離膜の酸化劣化のレベルを判定し、
前記酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合に、予め設定された、前記透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行する、薬注制御方法。
【請求項10】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜の酸化劣化を抑制するために、前記被処理水に薬品を注入する薬注制御装置であって、
前記被処理水または前記濃縮水の一部が試験水として通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を測定する可視光分光光度計と、
前記可視光分光光度計で測定された前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて前記分離膜の酸化劣化のレベルを判定する演算装置と、
前記酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合に、予め設定された、前記透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行する制御装置と、
を有する薬注制御装置。
【請求項11】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜と、
前記被処理水または前記濃縮水の一部が試験水として通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を測定する可視光分光光度計と、
前記可視光分光光度計で測定された前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて前記分離膜の酸化劣化のレベルを判定する演算装置と、
前記酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合に、予め設定された、前記透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行する制御装置と、
を有する水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の膜劣化の判定方法及び装置、薬注制御方法及び装置、並びに水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な水処理システムにおいて、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜、ナノろ過(NF:Nano filtration)膜、限外ろ過(UF:ultrafiltration)膜、精密ろ過(MF:Microfiltration)膜等の分離膜が用いられている。分離膜を用いる水処理システムでは、分離膜のバイオファウリングを抑制するために、被処理水に次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素等の酸化剤を添加することが知られている。しかしながら、これらの酸化剤は強力な酸化分解作用があり、酸化剤が分離膜に接触すると膜の酸化による劣化(酸化劣化)が生じる。そのため、酸化剤を含む被処理水に対して分離膜の前段で重亜硫酸ソーダ、チオ硫酸ソーダ等の還元剤あるいは活性炭等を用い酸化剤を還元処理し、分離膜を保護することが一般的である。還元処理が不十分な状態で分離膜に被処理水を通水すると、該分離膜が徐々に劣化し、水処理システムで処理された処理水の水質が悪化する可能性がある。分離膜の酸化劣化を判定する方法は、例えば非特許文献1や特許文献1で提案されている。
【0003】
非特許文献1に記載された分離膜(RO膜)の酸化劣化の判定方法は「フジワラ法」と呼ばれる。フジワラ法では、判定対象のRO膜を所定の大きさで切り出し、試験管に入れて10mol/Lの水酸化ナトリウム10mLと同量のピリジンとを加えた後、試験管を封じ、沸騰ウォーターバス中で2分間保持した後、冷却し、試験管中の溶液の色を観察して評価を行う。溶液がピンク色に呈色している場合は判定対象のRO膜が酸化劣化していると判定する。
【0004】
特許文献1は、上記非特許文献1と同様にフジワラ法を利用し、切り出したRO膜を水酸化ナトリウム及びピリジンに浸し、その溶液における400~500nmの波長光の吸光度を測定することで、酸化劣化の有無を判定する方法を提案している。特許文献1に記載された判定方法は、目視ではなく吸光度に基づいてRO膜の劣化の有無を判定するため、フジワラ法のように不安定な人の判断に依存することなく劣化の有無を判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-6322号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alice Antony et al., Journal of Membrane Science 347(2010), 159-164
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、非特許文献1に記載されたフジワラ法は、ピリジンや水酸化ナトリウム等の薬品を使用する。ピリジンは、芳香族化合物の一つであり、毒性・引火性が強く、不快臭を発するため、取り扱いが難しく、作業者の健康を害する可能性がある。また、10mol/Lの水酸化ナトリウムは強いアルカリ性であるため、取り扱う際に薬傷等の危険が伴うという問題がある。特許文献1に記載された方法も、非特許文献1と同様にピリジンや水酸化ナトリウムを使用するため、これらの問題を回避できるものではない。
【0008】
また、非特許文献1及び特許文献1に記載された方法は、水処理システムの運転を停止し、分離膜(RO膜)を取り外して分析するため、分離膜の交換等の手間が発生すると共に、分析結果が得られるまでに時間を要するという課題がある。
【0009】
さらに、非特許文献1及び特許文献1に記載された方法は、水処理システムを運転させている状態(以下、オンラインと称す)で分離膜の劣化の進行度(劣化のレベル)を判定できないため、分離膜の適切な交換時期等を判断できないという課題もある。
【0010】
本発明は上述したような背景技術が有する課題を解決するためになされたものであり、薬品を使用することなく、オンラインでも分離膜の劣化のレベルを判定できる膜劣化の判定方法及び装置、薬注制御方法及び装置、並びに水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明の膜劣化の判定方法は、試験水が通水される監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を可視光分光光度計で測定し、
前記可視光分光光度計で測定した前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて膜の酸化劣化のレベルを判定する方法である。
【0012】
本発明の膜劣化の判定装置は、試験水が通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を測定する可視光分光光度計と、
前記前記可視光分光光度計で測定された前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて膜の酸化劣化のレベルを判定する演算装置と、
を有する。
【0013】
本発明の薬注制御方法は、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜の酸化劣化を抑制するために、前記被処理水に薬品を注入する薬注制御方法であって、
前記被処理水または前記濃縮水の一部が試験水として通水された監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を可視光分光光度計で測定し、
前記可視光分光光度計で測定した前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて前記分離膜の酸化劣化のレベルを判定し、
前記酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合に、予め設定された、前記透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行する方法である。
【0014】
本発明の薬注制御装置は、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜の酸化劣化を抑制するために、前記被処理水に薬品を注入する薬注制御装置であって、
前記被処理水または前記濃縮水の一部が試験水として通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を測定する可視光分光光度計と、
前記可視光分光光度計で測定された前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて前記分離膜の酸化劣化のレベルを判定する演算装置と、
前記酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合に、予め設定された、前記透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行する制御装置と、
を有する。
【0015】
本発明の水処理システムは、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜と、
前記被処理水または前記濃縮水の一部が試験水として通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度または吸光度を測定する可視光分光光度計と、
前記可視光分光光度計で測定された前記可視光の反射強度または吸光度に基づいて前記分離膜の酸化劣化のレベルを判定する演算装置と、
前記酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合に、予め設定された、前記透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行する制御装置と、
を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、薬品を使用することなく、オンラインでも分離膜の劣化のレベルを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の薬注制御装置を含む水処理システムの一構成例を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示した判定装置の一構成例を示す側断面図である。
図3図3は、本発明の薬注制御装置を含む水処理システムの変形例を示すブロック図である。
図4図4は、図1に示した判定装置が備える演算装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、酸化剤の溶液に8時間浸漬させたRO膜の反射強度のスペクトルの一例を示すグラフである。
図6図6は、酸化剤の溶液に24時間浸漬させたRO膜の反射強度のスペクトルの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0019】
本発明において、分離膜が「劣化」しているとは、未使用(新品)の状態と比べて分離性能が低下している状態を意味し、劣化の進行度(レベル)を限定するものではない。分離性能は、被処理水から分離膜を透過する物質を含む透過水と、該分離膜を透過しない物質を含む濃縮水とに分離する性能である。分離膜において、どの程度の劣化を検出したら、透過水の水質悪化を抑制するための処置を実行するかは、水処理の目的、被処理水の種類や含有成分、酸化剤や還元剤の種類、分離膜の材質、透過水に要求される純度等に応じて設定すればよい。透過水の水質悪化を抑制するための処置としては、例えば、被処理水に注入する還元剤の薬注量を増加させる、あるいは分離膜を新品に交換する等が考えられる。本発明が適用可能な分離膜としては、上述したRO膜、NF膜、UF膜、MF膜等がある。
【0020】
図1は、本発明の薬注制御装置を含む水処理システムの一構成例を示すブロック図であり、図2は、図1に示した判定装置の一構成例を示す側断面図である。図3は、本発明の薬注制御装置を含む水処理システムの変形例を示すブロック図である。
【0021】
図1で示すように、水処理システムは、被処理水を貯留する原水タンク1と、原水タンク1から供給される被処理水を濃縮水と透過水とに分離する分離膜を備えた膜分離装置2と、膜分離装置2が備える分離膜の酸化劣化のレベルを判定するための判定装置3と、薬液を貯留する薬液タンク4と、水処理システム全体の動作を制御する制御装置5とを有する。本発明の薬注制御装置は、判定装置3、制御装置5及び後述する試験水を判定装置3へ通水するための通水ラインを含む構成であり、分離膜を用いて被処理水を処理する水処理システムの一部を構成するものである。
【0022】
判定装置3には、被処理水の一部が試験水として供給される。薬液タンク4には、薬液として、例えば還元剤が貯留される。図1で示す薬注制御装置は、膜分離装置2が備える分離膜の酸化劣化のレベルを直接判定する構成ではなく、判定装置3が備える分離膜(後述する監視用分離膜33)の酸化劣化のレベルを判定することで、膜分離装置2が備える分離膜の酸化劣化のレベルを間接的に判定する構成である。
【0023】
図1で示す水処理システムは、上記の構成に加えて、原水タンク1から膜分離装置2に被処理水を供給するための原水ポンプ11と、薬液タンク4から水処理システムに薬液を注入するための薬注ポンプ12と、判定装置3に試験水を供給するための通水ライン、膜分離装置2で分離された濃縮水を排水または循環させるための通水ライン等に配置される複数のバルブ13とを備える。水処理システムが複数の薬液タンク4を備えている場合、該水処理システムは薬液タンク4毎に対応する複数の薬注ポンプ12を備えていてもよい。
【0024】
図1は、複数のバルブ13として、原水ポンプ11と判定装置3との間の通水ラインに配置される第1のバルブ13Aと、膜分離装置2と原水タンク1との間の通水ラインに配置される第2のバルブ13Bと、膜分離装置2で分離された濃縮水を外部へ排水するための第3のバルブ13Cとを備える構成例を示している。第2のバルブ13Bは、薬液の注入(薬注)時に、膜分離装置2で分離された濃縮水の通水ラインを介して該薬液を原水タンク1へ戻すために用いてもよく、通常運転時に、濃縮水を原水タンク1へ戻すために用いてもよい。水処理システムは、濃縮水または薬液を原水タンク1に戻す構成に限定する必要はない。複数のバルブ13は、水処理システムの構成や動作に応じて適宜備えていればよい。同様に、複数のポンプは、図1で示した原水ポンプ11及び薬注ポンプ12に限定されるものではなく、水処理システムの構成や動作に応じて適宜備えていればよい。
【0025】
原水タンク1に貯留された被処理水は、原水ポンプ11によって膜分離装置2及び判定装置3へそれぞれ供給される。膜分離装置2は、被処理水を、分離膜を透過する物質を含む透過水と、該分離膜を透過しない物質を含む濃縮水とに分離する。分離膜には、上述したようにRO膜、NF膜、UF膜、MF膜等が用いられる。分離膜の材質としては、例えば、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、PES(ポリエーテルサルフォン)がある。透過水は、処理水として排出される。または、透過水は、さらに別の膜分離装置あるいはイオン交換装置等で処理されて処理水として排出される。濃縮水は、排水として放流される。または、濃縮水は、さらに別の膜分離装置、あるいは生物処理装置、固液分離装置等で処理されて排出される。原水タンク1に貯留された被処理水は、バッチ式で膜分離装置2へ通水されてもよく、ワンパス式で膜分離装置2へ通水されてもよい。
【0026】
図1で示すように、薬液タンク4に貯留された薬液は、被処理液に注入される。薬液は、例えば、原水タンク1に注入されてもよく、原水ポンプ11と膜分離装置2との間の被処理水の通水ラインに注入されてもよい。上記第2のバルブ13Bを開き、第3のバルブ13Cを閉じることで注入した薬液を循環させる場合、薬液は膜分離装置2の濃縮水の通水ラインに注入することも可能である。
【0027】
制御装置5は、原水ポンプ11、薬注ポンプ12及び複数のバルブ13をそれぞれ制御することで水処理システム全体の動作を制御する。制御装置5は、被処理水に含まれる酸化剤が分離膜と接触しないよう、該酸化剤を分解するために、膜分離装置2の通水ラインや原水タンク1に薬注タンク4から還元剤を注入する。
【0028】
膜分離装置2の通水ラインに対する還元剤の注入時、制御装置5は、上記第2のバルブ13Bを開き、第3のバルブ13Cを閉じることで、還元剤を循環させてもよい。制御装置5は、薬液(還元剤)を注入する前に、純水等を用いて水処理システムが備える各通水ラインをそれぞれフラッシングしてもよい。還元剤としては、上記重亜硫酸ソーダ、チオ硫酸ソーダ等がある。
【0029】
制御装置5は、判定装置3から分離膜の酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上であることが通知されると、分離膜の酸化劣化による処理水の水質悪化を抑制するために、予め設定された処置を実行する。例えば、制御装置5は、薬液タンク4に貯留された還元剤の薬注量を予め設定された薬注量よりも増大させて被処理水における酸化剤の分解を促進させる。あるいは、制御装置5は、判定装置3から分離膜の酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上であることが通知されると、分離膜を交換するために、原水ポンプ11、薬注ポンプ12及び複数のバルブ13の動作を停止して膜分離装置2に対する通水を中断してもよい。水処理システムが、原水ポンプ11と膜分離装置2との通水ラインに分岐ラインを備える構成である場合、該分岐ラインを用いて被処理水を、例えば原水タンク1に戻すことで、膜分離装置2に対する通水を中断してもよい。
【0030】
制御装置5は、例えば、周知のPLC(Programmable Logic Controller)で実現できる。制御装置5は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置、I/Oインタフェース、通信装置等を備えた周知の情報処理装置(コンピュータ、スマートフォン等)で実現してもよい。制御装置5は、予め記憶装置に保存されたプログラムにしたがって、PLCまたは情報処理装置が備えるプロセッサが処理を実行することで、本発明の薬注制御方法を実現する。
【0031】
図2で示すように、判定装置3は、原水室31、透過水室32、監視用分離膜33、可視光分光光度計34及び演算装置35を備え、監視用分離膜33が原水室31と透過水室32とを隔てるように設けられた構成である。原水室31、透過水室32及び監視用分離膜33は、監視用セル30を構成する。
【0032】
監視用分離膜33には、原水タンク1で貯留された被処理水の一部が試験水として供給される。監視用分離膜33は、供給された試験水を濃縮水と透過水とに分離する。判定装置3は、監視用分離膜33の酸化劣化のレベルを演算装置35で判定する。上述したように、本発明では、監視用分離膜33の酸化劣化のレベルを判定することで、膜分離装置2が備える分離膜も同レベルに酸化劣化していると間接的に判定する。そのため、監視用分離膜33には、膜分離装置2が備える分離膜と同じ種類の分離膜を用いることが望ましく、膜分離装置2が備える分離膜と同じ銘柄の分離膜を用いることがより望ましい。
【0033】
原水室31は、上記試験水が供給されて、監視用分離膜33を透過しない物質を含む濃縮水を排出する。監視用分離膜33を透過した物質を含む透過水は透過水室32から排出される。原水室31及び透過水室32は、可視光を透過させる部材でそれぞれ構成され、監視用分離膜33の膜面と対向する原水室31の外壁面に可視光分光光度計34が配置される。原水室31及び透過水室32は、可視光を透過させる部材で構成すればよく、材質は特に指定するものではないが、PMMA(アクリル(ポリメタル酸メチル))を用いることが望ましい。原水室31及び透過水室32は、個別に形成されていてもよく、一体的に形成されていてもよい。監視用セル30は、可視光分光光度計34から照射される可視光の透過部位及び監視用分離膜33で反射した可視光の透過部位を除いて暗所となっていることが望ましく、光の透過率が低い黒色の材料(暗幕等)で覆われていることが望ましい。
【0034】
可視光分光光度計34は、可視光を照射する照明部と可視光の反射強度または吸光度を測定する測定部とを備え、照明部から監視用分離膜33の膜面に可視光を照射し、該膜面で反射した可視光の反射強度または吸光度を測定部でそれぞれ測定する。同一の測定条件(測定対象、測定波長、照射強度、照射角、反射角等)における反射強度と吸光度とは一定の関係(吸光度は反射強度の逆数の対数)であるため、可視光分光光度計34は可視光の反射強度または吸光度のいずれか一方を測定すればよい。可視光分光光度計34は、常時測定を行う必要は無く、所定の周期毎、例えば1時間毎に反射強度または吸光度を測定すればよい。測定周期は、一定である必要はなく、例えば分離膜の酸化劣化のレベルに応じて変化させてもよい。可視光分光光度計34が備える照明部と測定部とは、それぞれが独立した構成であってもよく、一体の構成であってもよい。また、可視光分光光度計34による可視光の反射角度及び測定角度は、特に制限するものでは無いが、照明部は監視用分離膜33に対して垂直な方向に可視光を照射し、測定部は監視用分離膜33に対して垂直な方向で可視光を受光することが望ましい。
【0035】
可視光分光光度計34の測定部は、いわゆる可視光領域のうち、予め設定された少なくとも1つ以上の波長光の反射強度または吸光度を測定する。ここで、日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)の規格番号JIS B 7079:2015の定義によれば、可視光とは、380~780nmの範囲の波長を有する電磁波である。例えば、測定部は、波長が400~700nmの可視光領域のうち、少なくとも1つ以上の波長光の反射強度または吸光度を測定すればよく、より望ましくは波長が420~550nmの可視光領域のうち、少なくとも1つ以上の波長光の反射強度または吸光度を測定すればよい。測定部は、波長が500~550nmの可視光領域のうち、少なくとも1つ以上の波長光の反射強度または吸光度を測定することがさらに望ましい。
【0036】
可視光分光光度計34には、照射時間やゲイン(反射強度または吸光度を示す測定値(電圧または電流)の増幅率)の調整機能を備えていることが望ましい。照明部は、可視光領域の波長光を照射できれば、周知のどのような構成でもよい。可視光分光光度計34は、例えば、予め設定された所定の周期毎に所定の波長の可視光を照射し、監視用分離膜33の膜面で反射した可視光の反射強度または吸光度を測定し、その値を示す測定データを演算装置35へ送信する。
【0037】
演算装置35は、可視光分光光度計34から反射強度または吸光度の測定データを受信すると、該測定データに基づいて監視用分離膜33の酸化劣化のレベルを判定する。また、演算装置35は、例えば、監視用分離膜33の酸化劣化のレベルが予め設定された閾値以上となった場合、酸化劣化のレベルが該閾値以上であることを示す情報を制御装置5へ出力する。演算装置35または制御装置5は、例えば、監視用分離膜33の酸化劣化のレベルが閾値以上である場合、ディスプレイ装置等の出力装置を用いて、水処理システムの管理者等に、その旨を通知してもよい。あるいは、演算装置35または制御装置5は、警報音や発光装置等を用いて、水処理システムの管理者等に、監視用分離膜33の酸化劣化のレベルが閾値以上である旨を通知してもよい。
【0038】
演算装置35は、例えば、CPU、記憶装置、I/Oインタフェース、通信装置等を備えた情報処理装置(コンピュータ)で実現すればよい。演算装置35は、予め記憶装置に保存されたプログラムにしたがってCPUが処理を実行することで、本発明の膜劣化の判定方法及び薬注制御方法を実現する。制御装置5が情報処理装置(コンピュータ)で実現されている場合、演算装置35の機能は制御装置5で実現してもよい。その場合、可視光分光光度計34は、波長光毎の反射強度または吸光度の測定データを制御装置5へ送信すればよい。可視光分光光度計34と演算装置35(または制御装置5)との通信手段、並びに演算装置35と制御装置5との通信手段は、周知の有線通信手段または無線通信手段のどちらを用いてもよく、その通信規格も周知のどのような規格を用いてもよい。
【0039】
上述したように、図1で示した薬注制御装置は、原水タンク1で貯留された被処理水の一部を試験水として判定装置3が備える監視用セル30へ供給する構成例を示している。本発明の薬注制御装置は、図3で示すように、膜分離装置2で分離された濃縮水の一部を試験水として監視用セル30に供給する構成としてもよい。その場合、第1のバルブ13Aは、例えば図3で示すように膜分離装置2と判定装置3との間の通水ラインに挿入すればよい。
【0040】
このような構成において、次に本発明の膜劣化の判定方法及び薬注制御方法について図面を用いて説明する。
【0041】
図4は、図1に示した判定装置が備える演算装置の処理の一例を示すフローチャートである。本発明の膜劣化の判定方法は演算装置35の処理によって実現され、本発明の薬注制御方法は演算装置35及び制御装置5の処理によって実現される。図4は、演算装置35で実現する本発明の膜劣化の判定方法の処理の一例を示している。
【0042】
図4で示すように、演算装置35は、膜分離装置2の分離膜及び監視用分離膜33に被処理水が通水される前に、可視光分光光度計34に監視用分離膜33の膜面の反射強度または吸光度を予め測定させる。そして、可視光分光光度計34で測定された、通水前の膜面の反射強度または吸光度を示す測定データ(以下、基準値と称す)を記憶装置で保存する(ステップS1)。基準値は、分離膜や監視用分離膜33を水処理システムに組み込む前に、水処理システムの管理者等が、予め可視光分光光度計34を用いて測定し、演算装置35に保持させておいてもよい。
【0043】
図1で示した薬注制御装置を含む水処理システムの運転が開始されると、演算装置35は、例えば制御装置5からの指示にしたがって、被処理水の通水時における可視光分光光度計34を用いた監視用分離膜33の膜面の反射強度または吸光度の測定を開始する。反射強度または吸光度は、予め設定されたタイミングで開始すればよい。反射強度または吸光度の測定開始タイミングは、例えば、水処理システムの運転スケジュール、酸化剤や還元剤の注入タイミング、分離膜の種類や材質、水処理の目的、被処理水の種類や含有成分、酸化剤や還元剤の種類、透過水(処理水)に要求される純度等に応じて予め設定すればよい。
【0044】
演算装置35は、所定の周期毎(例えば、1時間毎)に可視光分光光度計34に反射強度または吸光度を測定させ、測定された反射強度または吸光度を示す測定データ(以下、測定値と称す)を可視光分光光度計34から受信する(ステップS2)。演算装置35は、可視光分光光度計34から測定値を受信すると、上記基準値に対する該測定値の変化率を算出し(ステップS3)、該変化率が予め設定された閾値以上であるか否かを判定する(ステップS4)。変化率は、例えば(基準値-測定値)/基準値×100(%)で算出すればよい。変化率は、基準値に対する測定値の変化が判別できればどのような値を用いてもよく、例えば基準値と測定値の差を用いてもよい。
【0045】
可視光分光光度計34は、上述したように、波長が400~700nmの可視光領域、好ましくは420~550nmの可視光領域のうち、少なくとも1つ以上の波長光の反射強度または吸光度を測定する。1つの波長光の反射強度または吸光度を測定する場合、上記基準値及び測定値は同一の波長光における反射強度または吸光度とし、それらの値を用いて変化率を算出すればよい。一方、複数の波長光の反射強度または吸光度を測定する場合、同一の波長光毎の反射強度または吸光度の測定値を用いて複数の変化率を算出し、例えば、それらの平均値や合計値が閾値以上であるか否かを判定すればよい。
【0046】
閾値は、分離膜の酸化劣化が進行することで(酸化劣化のレベルが大きくなることで)、処理水の水質悪化を抑制するための処置が必要であるか否かを判定するために用いる指標である。閾値は、変化率の算出方法、分離膜の種類や材質、水処理の目的、被処理水の種類や含有成分、測定値の数、酸化剤や還元剤の種類、透過水(処理水)に要求される純度等に応じて予め設定すればよい。閾値は、一つである必要は無く、複数段の閾値を設定してもよい。
【0047】
演算装置35は、変化率が閾値よりも小さい場合、ステップS3の処理に戻って、次に可視光分光光度計34から送信される測定値を待ち受ける。一方、変化率が閾値以上である場合、演算装置35は、分離膜の酸化劣化のレベルが閾値以上であることを示す情報(判定結果)を制御装置5へ通知する(ステップS5)。
【0048】
制御装置5は、判定装置3から判定結果が通知されると、分離膜の酸化劣化による処理水の水質悪化を抑制するために、予め設定された処置を実行する。例えば、制御装置5は、薬液タンク4に貯留された還元剤の薬注量を予め設定された薬注量よりも増大させて酸化剤の分解を促進させればよい。あるいは、制御装置5は、分離膜を交換するために、水処理システムの動作を停止して膜分離装置2に対する通水を中断してもよい。演算装置35が複数段の閾値を備えている場合、制御装置5は、反射強度または吸光度の変化率が越えた閾値に応じて処置の内容を変えてもよい。例えば、反射強度または吸光度が第1段の閾値を越えたときは還元剤の薬注量を増大させ、第2段の閾値を越えたときは分離膜を交換するために水処理システムの動作を停止してもよい。
【0049】
なお、上記説明では、判定装置3を用いてオンラインで分離膜の酸化劣化のレベルを判定する例を示したが、本発明はオフラインで分離膜の酸化劣化のレベルを判定する場合にも適用可能である。具体的には、可視光分光光度計34及び演算装置35を用意しておき、予め新品の分離膜の膜面に可視光分光光度計34を押し当てて反射強度または吸光度を測定し、その値を基準値として演算装置35で保存する。水処理システムの運転時において、分離膜の酸化劣化が疑われる場合、膜分離装置2を分解して該分離膜を取り出し、所定の大きさに切り出して乾燥させる。そして、乾燥させた分離膜の膜面に可視光分光光度計34を押し当てて、400~700nmの可視光領域、好ましくは420~550nmの可視光領域のうち、少なくとも1つ以上の波長光の反射強度または吸光度を測定する。最後に、可視光分光光度計34で測定した反射強度または吸光度の値(測定値)を演算装置35へ転送し、演算装置35を用いて測定値及び予め保存した同一波長光における基準値から酸化劣化のレベルを判定すればよい。可視光分光光度計34を用いた測定では、照明部及び反射光の受光部と測定対象となる分離膜の膜面との距離が短い程、測定精度が向上する。上記オフラインで酸化劣化のレベルを判定する方法では、可視光分光光度計34の照明部及び反射光の受光部を分離膜の膜面に接触させて測定できるため、判定精度をより向上させることができる。
【0050】
本発明によれば、監視用分離膜33に可視光を照射し、監視用分離膜33で反射した可視光の反射強度または吸光度を可視光分光光度計で測定し、測定した可視光の反射強度または吸光度に基づいて膜(分離膜)の酸化劣化のレベルを判定するため、フジワラ法のように取り扱いが困難で危険な薬品を使用する必要がない。また、監視用分離膜33を用いて膜分離装置2が備える分離膜の酸化劣化のレベルを間接的に判定するため、オンラインでも分離膜の酸化劣化のレベルを判定できる。そのため、薬品を使用することなく、オンラインでも分離膜の劣化のレベルを判定できる膜劣化の判定方法及び装置、薬注制御方法及び装置、並びに水処理システムが得られる。
【0051】
オンラインで分離膜の膜劣化のレベルを判定する場合、背景技術として、被処理水(給水)と処理水(透過水)との間の導電率阻止率及びシリカ阻止率、並びに処理水(透過水)の透過係数等の水質を示す指標の変化から判定する方法が知られている。これらの指標は、分離膜の酸化劣化に伴って、徐々に劣化を示す値に変化するため、分離膜自体の酸化劣化のレベルを判定する本発明と比べて膜劣化のレベルを検出するまでに時間を要してしまう。すなわち、本発明では、これらの指標を用いた判定方法や上記フジワラ法による判定方法よりも早い段階で膜劣化のレベルを検出できる。したがって、水質分析よりも早期に膜劣化のレベルを判定できる本発明を用いれば、例えば前処理の改善等によって致命的な分離膜の劣化を未然に防止できるため、処理水の水質悪化や分離膜の交換コスト等の低減が期待できる。
【実施例0052】
次に本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0053】
本実施例では、本発明の膜劣化の判定方法及び装置を用いることで分離膜(RO膜)の酸化劣化のレベルが判定できることを具体的に説明する。分離膜には、ポリアミド系のRO膜(日東電工株式会社製「ES20」、φ75mmの平膜)を用いた。また、酸化剤には、次亜塩素酸、次亜臭素酸、安定化次亜臭素酸をそれぞれ用いた。
【0054】
本実施例では、有効塩素濃度が1mg-Cl/L、pH7に調整した酸化剤の溶液にRO膜を8時間または24時間浸漬させることで、上記の複数の酸化剤と接触した複数のRO膜をそれぞれ用意した。また、可視光分光光度計を用いて、酸化剤と接触する前(新品)のRO膜と、酸化剤と接触した後のRO膜の膜面の反射強度をそれぞれ測定した。可視光分光光度計には、測定範囲が400~700nmの小型分光測色計(VARIABLE製SPECTRO1)を用いた。測定結果を図5及び6で示す。
【0055】
図5は、酸化剤の溶液に8時間浸漬させたRO膜の反射強度のスペクトルの一例を示すグラフである。図6は、酸化剤の溶液に24時間浸漬させたRO膜の反射強度のスペクトルの一例を示すグラフである。図5及び図6は、400~700nmの波長光における、新品のRO膜と、上記の各酸化剤に接触させたRO膜との反射強度をそれぞれ示している。
【0056】
図5及び図6で示すように、小型分光測色計で測定可能な波長光400~700nmのうち、420~550nmの波長光では、上記の各酸化剤に接触させたRO膜の反射強度が、新品のRO膜の反射強度よりもそれぞれ低下している。そのため、420~550nmの波長光において、RO膜の反射強度を測定し、該測定値を新品のRO膜の反射強度(基準値)と比較すれば、RO膜が酸化剤と接触したか否かを判別できる。
【0057】
また、図5及び図6で示すように、酸化剤の溶液に8時間浸漬させたRO膜と比べて、酸化剤の溶液に24時間浸漬させたRO膜の方が反射強度の低下幅(変化率)が大きいことが分かる。そのため、基準値に対する反射強度の測定値の変化率によって、分離膜の酸化劣化の進行度(レベル)も判定できる。
【比較例】
【0058】
本比較例では、オンラインによる膜劣化のレベルの判定に利用できる、上記導電率阻止率及び透過係数の変化を監視する膜劣化の判定例(第1比較例)、並びに上記フジワラ法を用いた膜劣化の判定例(第2比較例)を示す。
(第1比較例)
第1比較例は、酸化剤と接触する前のRO膜と、上記実施例で示した各種の酸化剤と接触した後の複数のRO膜とを用いて、操作圧0.75MPa、水温25℃の条件で、各RO膜に純水を約1時間通水させてそれぞれの透過係数を算出した。また、操作圧0.75MPa、水温25℃、循環水量5L/min、導電率500μS/cm、pH7の条件で、導電率が該値となるように塩化ナトリウム(NaCl)を添加した溶液を各RO膜に約1時間通水させて導電率阻止率をそれぞれ算出した。このとき、。透過係数及び導電率阻止率の算出には、以下の計算式を用いた。
【0059】
透過係数[m3/m2/d/MPa]=透過水量÷膜面積÷操作圧
導電率阻止率[%]=100-透過水導電率÷給水導電率
測定結果を表1及び2で示す。表1は、酸化剤の溶液に8時間浸漬させたRO膜の導電率阻止率及び透過係数の変化を示し、表2は、酸化剤の溶液に24時間浸漬させたRO膜の導電率阻止率及び透過係数の変化を示している。
【0060】
表1で示すように、酸化剤との接触時間が8時間のRO膜では、酸化剤と接触する前のRO膜と比べて、導電率阻止率及び透過係数共に変化が見られず、酸化剤との接触の有無が判別できなかった。一方、表2で示すように、酸化剤との接触時間が24時間のRO膜では、酸化剤と接触する前のRO膜と比べて導電率阻止率が低下し、透過係数が上昇しており、酸化剤との接触が原因と思われるRO膜の劣化が判別できた。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
(第2比較例)
第2比較例では、上記実施例で示した酸化剤と接触する前のRO膜と酸化剤と接触した後のRO膜を用いて、フジワラ法を用いて酸化剤との接触の有無が判定できるか否かを確認した。
【0064】
フジワラ法は、以下の手順で行った。まず、RO膜を所定の大きさいに切り出して試験管に入れる。同量のピリジンと5N-NaOHの溶液をそれぞれ試験管内に加え、98℃の湯で試験管を1分間湯浴させる。試験管を湯浴から取り出し、試験管中の溶液の色を目視で観察した。ピンク色の呈色がある場合はRO膜が酸化剤と接触したと判断する。
【0065】
本比較例の手順で実施したフジワラ法では、各酸化剤と8時間または24時間接触させた全てのRO膜において、ピンク色の呈色は視認できず、酸化剤との接触の有無を判別できなかった。
【符号の説明】
【0066】
1 原水タンク
2 膜分離装置
3 判定装置
4 薬液タンク
5 制御装置
11 原水ポンプ
12 薬注ポンプ
13 バルブ
13A 第1のバルブ
13B 第2のバルブ
13C 第3のバルブ
30 監視用セル
31 原水室
32 透過水室
33 監視用分離膜
34 可視光分光光度計
35 演算装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6