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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005359
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】架空線損傷判定システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20230111BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107208
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000141015
【氏名又は名称】株式会社かんでんエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真部 晃一
(72)【発明者】
【氏名】北野 誠
(72)【発明者】
【氏名】久保 宏行
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA04
5L096DA02
5L096EA12
5L096EA18
5L096FA66
5L096FA69
5L096GA06
5L096GA51
5L096HA11
5L096JA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】従来よりも損傷検知に要する工数を削減することのできる、架空線損傷判定システムを提供する。
【解決手段】本発明の架空線損傷判定システムは、判定対象架空線に対して線路方向に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ撮像された動画データの入力を受け付けるデータ入力受付部と;動画データを時分割すると共に画像処理が施されることで生成される複数の学習用画像データを入力層とし、エンコード処理及びデコード処理を経て復元される複数の復元済画像データを出力層とする学習済モデルを生成するモデル生成部と;複数の学習用画像データとモデル生成部によって得られた複数の復元済画像データとをそれぞれ対比すると共に、両データの差分値が所定の閾値を超える場合には該当する学習用画像データに対応する判定対象架空線の箇所の特定が可能な態様で損傷箇所が存在する旨を出力する結果出力部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによる演算処理によって架空線に損傷が存在するか否かを検知する架空線損傷判定システムであって、
損傷判定を行う対象の架空線である判定対象架空線に対して、線路方向に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ前記判定対象架空線の外側から撮像された動画データの入力を受け付ける、データ入力受付部と、
前記データ入力受付部において入力が受け付けられた前記動画データを時分割すると共に画像処理が施されることで生成される、複数の学習用画像データを入力層とし、エンコード処理及びデコード処理を経て復元される複数の復元済画像データを出力層とする、学習済モデルを生成するモデル生成部と、
前記複数の学習用画像データと前記モデル生成部によって得られた前記複数の復元済画像データとをそれぞれ対比すると共に、前記複数の学習用画像データと前記複数の復元済画像データとの差分値が所定の閾値を超える場合には、該当する前記学習用画像データに対応する前記判定対象架空線の箇所の特定が可能な態様で前記判定対象架空線に損傷箇所が存在する旨を出力する結果出力部と、を備えたことを特徴とする、架空線損傷判定システム。
【請求項2】
前記結果出力部は、前記複数の学習用画像データと前記複数の復元済画像データとの差分値の変化の推移を、前記データ入力受付部において入力が受け付けられた前記動画データの撮像開始からの経過時間又は当該経過時間に基づいて一意に特定される値に関連付けて得られるグラフを作成して出力することを特徴とする、請求項1に記載の架空線損傷判定システム。
【請求項3】
前記結果出力部は、利用者によって前記グラフ上の箇所が指定されると、当該指定された箇所に対応する位置である指定位置の前記判定対象架空線の撮像静止画データを、前記動画データから自動的に切り出して出力することを特徴とする、請求項2に記載の架空線損傷判定システム。
【請求項4】
前記結果出力部は、報告書の作成指示に関する情報が入力されると、前記指定位置に対応する、前記判定対象架空線の端部に位置する支持体からの前記判定対象架空線の前記線路方向の離間距離に関する情報と、前記指定位置の前記判定対象架空線の前記撮像静止画データと、を含む報告書を自動的に作成することを特徴とする、請求項3に記載の架空線損傷判定システム。
【請求項5】
前記判定対象架空線に難着雪リングが設置されている旨の情報の入力を受け付ける、難着雪リング設置情報入力受付部を備え、
前記モデル生成部は、前記難着雪リング設置情報入力受付部から前記判定対象架空線に難着雪リングが設置されている旨の情報が入力されると、前記複数の学習用画像データを生成する際に、前記動画データを時分割して得られる画像データのうち、難着雪リングの設置箇所の前後の箇所の撮像データに対応する画像データに対して前記判定対象架空線の軸心方向に関する揺れの補正処理を行うことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の架空線損傷判定システム。
【請求項6】
利用者の指示に基づいて前記閾値の値を変更する閾値変更部を備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の架空線損傷判定システム。
【請求項7】
前記データ入力受付部が入力を受け付ける前記動画データは、前記判定対象架空線に対して、前記線路方向に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ軸心に向かう異なる2以上の方向から撮像された動画データであり、
前記モデル生成部は、前記データ入力受付部において入力が受け付けられた前記動画データを撮像方向毎にそれぞれ時分割すると共に画像処理が施されることで生成される、複数の前記学習用画像データを前記入力層とし、エンコード処理及びデコード処理を経て復元される複数の前記復元済画像データを前記出力層とする、前記学習済モデルを生成することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の架空線損傷判定システム。
【請求項8】
前記データ入力受付部は、自走式撮像装置を用いて自走しながら周方向に関して異なる3方向から前記判定対象架空線が撮像されることで得られた前記動画データの入力を受け付けることを特徴とする、請求項7に記載の架空線損傷判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空線の損傷を判定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔等の支持体によって支持されている架空送電線(架空電力線)や架空地線は、落雷等によって損傷を受ける場合がある。これらの架空線は、極めて高所に設置されているため、目視で損傷の有無を確認することは不可能である。
【0003】
下記特許文献1には、活線状態において、撮像対象となる架空線を自走しながら、架空線を複数の方向から撮像することのできる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3207366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の自走式の撮像装置を用いて得られた動画データは、検査対象となる架空線に対して3方向から撮像された情報が含まれる。鉄塔間の距離は200mを超える箇所もある。このような箇所に設置された架空線を上記の撮像装置を用いて自走しながら撮像して得られる動画データは、装置の自走速度にも依存するが、1時間を超える場合が少なくない。
【0006】
3方向から撮像された動画データは、点検作業時に再生される。この際、3名の作業員がそれぞれ異なる方向からの撮像動画を目視で確認することで、損傷箇所の有無を検知する。
【0007】
つまり、この方法によれば、動画再生時間と作業員数の積の値に対応する工数が必要であった。
【0008】
本発明は、従来よりも損傷検知に要する工数を削減することのできる、架空線損傷判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コンピュータによる演算処理によって架空線に損傷が存在するか否かを検知する架空線損傷判定システムであって、
損傷判定を行う対象の架空線である判定対象架空線に対して、線路方向に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ前記判定対象架空線の外側から撮像された動画データの入力を受け付ける、データ入力受付部と、
前記データ入力受付部において入力が受け付けられた前記動画データを時分割すると共に画像処理が施されることで生成される、複数の学習用画像データを入力層とし、エンコード処理及びデコード処理を経て復元される複数の復元済画像データを出力層とする、学習済モデルを生成するモデル生成部と、
前記複数の学習用画像データと前記モデル生成部によって得られた前記複数の復元済画像データとをそれぞれ対比すると共に、前記複数の学習用画像データと前記複数の復元済画像データとの差分値が所定の閾値を超える場合には、該当する前記学習用画像データに対応する前記判定対象架空線の箇所の特定が可能な態様で前記判定対象架空線に損傷箇所が存在する旨を出力する結果出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
上記方法によれば、事前に撮像された判定対象架空線の動画データがデータ入力受付部を介して入力されると、動画データを時分割して得られる複数の静止画データ(学習用画像データ)に基づいて、モデル生成部において学習済モデルが自動的に生成される。
【0011】
架空線を線路方向に沿って撮像された動画データは、損傷箇所が存在しない限り、ほぼ同一の傾向を示す画像データ(静止画データ)の集合体である。従って、この動画データを時分割して得られる複数の画像データを、学習用画像データとして入力層に配置して学習させることで、特徴量を潜在変数として抽出できる。ただし、単に動画データを時分割して得られる複数の画像データをそのまま入力層として用いると、架空線以外の背景や、架空線の一部箇所の塗装等、学習に不要な情報が含まれるため、学習精度が低下するおそれがある。そこで、動画データを時分割して得られる複数の画像データに対して、所定の画像処理を施して得られたデータが、学習用画像データとして利用される。
【0012】
前記画像処理としては、傾き補正、領域の抽出(切り出し)、モノクロ処理化、ヒストグラム平坦化、明度正規化、及び三角フィルタ適用等の一以上の処理が利用可能である。
【0013】
判定対象架空線が仮に損傷を有していても、その損傷箇所は判定対象架空線の全体から見れば極めて限定的である。言い換えれば、各学習用画像データの殆どは、同様の傾向を示すデータである。このため、生成された学習済モデルに対して各学習用画像データが適用されることで得られる復元済データの殆どは、適用前の学習用画像データとほぼ一致する。このため、学習用画像データと復元済データの差分値は、極めて小さい値となる。
【0014】
一方、損傷箇所の撮像データに基づく学習用画像データが、生成された学習済モデルに対して適用されると、損傷箇所はいわばノイズとして扱われ、損傷が存在しないような復元済データが得られる。このとき、学習用画像データと復元済データとを比較すると、損傷の有無の相違となって現れるため、両者の差分値は損傷が存在しない場合と比べて大きくなる。
【0015】
つまり、モデル生成部で生成された学習済モデルを適用して得られた復元済データと、復元前の画像データである学習用画像データとの差分値が閾値よりも上回っている場合には、当該学習用画像データに対応する判定対象架空線の箇所に損傷が存在すると判定できる。
【0016】
上記架空線損傷判定システムは、事前に撮像された判定対象架空線の線路方向に沿った動画データをデータ入力受付部を通じて入力されることで、当該判定対象架空線に対応した学習済モデルを生成すると共に、この学習済モデルを適用して損傷箇所の特定を行う。つまり、従来のように、動画データを作業者が目視で確認して行う場合と比べて、工数を大幅に削減できる。例えば、動画データを事前に入手できていれば、夜間や休日等の営業時間外であっても、この架空線損傷判定システムに対して動画データを読み込ませて学習させることで、判定対象架空線に損傷が存在するか否か、並びに損傷が存在する場合にはその損傷箇所の情報を、自動的に出力できる。更に、異なる現場の複数の判定対象架空線に係る動画データが存在する場合には、この架空線損傷判定システムが導入された複数のコンピュータを準備することで、同時並行的に複数の判定対象架空線についての、損傷判定処理を行うこともできる。このような方法を採用することで、従来よりも大幅に工数が削減される。
【0017】
なお、前記架空線損傷判定システムが利用する動画データとしては、従来の自走式撮像装置によって撮像された動画データが好適に利用されるが、これには限定されない。例えば高制御での走行が可能なドローンを架空線の線路方向に沿って飛行しつつ撮像して得られた動画データを用いることも可能である。
【0018】
なお、前者の場合、前記データ入力受付部が入力を受け付ける前記動画データは、前記判定対象架空線に対して、前記線路方向に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ軸心に向かう異なる2以上の方向から撮像された動画データであり、
前記モデル生成部は、前記データ入力受付部において入力が受け付けられた前記動画データを撮像方向毎にそれぞれ時分割すると共に画像処理が施されることで生成される、複数の前記学習用画像データを前記入力層とし、エンコード処理及びデコード処理を経て復元される複数の前記復元済画像データを前記出力層とする、前記学習済モデルを生成するものとしても構わない。
【0019】
前記結果出力部は、前記複数の学習用画像データと前記複数の復元済画像データとの差分値の変化の推移を、前記データ入力受付部において入力が受け付けられた前記動画データの撮像開始からの経過時間又は当該経過時間に基づいて一意に特定される値に関連付けて得られるグラフを作成して出力するものとしても構わない。
【0020】
上記の構成によれば、グラフを単に確認するだけで、判定対象架空線の線路方向に係るどの箇所に損傷が存在するかを、俯瞰的且つ直感的に把握できる。
【0021】
前記結果出力部は、利用者によって前記グラフ上の箇所が指定されると、当該指定された箇所に対応する位置である指定位置の前記判定対象架空線の撮像静止画データを、前記動画データから自動的に切り出して出力するものとしても構わない。
【0022】
上記の構成によれば、特に利用者が確認を希望すると考えられる、閾値の高い箇所の実際の写真を、簡易な方法で出力することができる。また、損傷箇所との対比のために、閾値の低い箇所の写真を確認したい場合であっても、グラフ上の閾値の低い箇所を指定することで、当該箇所に対応した判定対象架空線の写真を、出力することができる。
【0023】
前記結果出力部は、報告書の作成指示に関する情報が入力されると、前記指定位置に対応する、前記判定対象架空線の端部に位置する支持体からの前記判定対象架空線の前記線路方向の離間距離に関する情報と、前記指定位置の前記判定対象架空線の前記撮像静止画データと、を含む報告書を自動的に作成するものとしても構わない。
【0024】
従来の方法では、作業員が目視によって再生された判定対象架空線の動画データを確認した後、損傷が疑わしい箇所を発見した場合には、再生画面を当該箇所の画面が表示されるまでいったん巻き戻して前後の画像と比較しながら確認しつつ、該当画面を画像データ(静止画データ)として抽出した上、所定のフォーマットの報告書に貼り付けるという作業を行っていた。このため、単に再生動画を確認する工数だけでなく、更に報告書作成のための工数が掛かっていた。
【0025】
これに対し、上記の構成によれば、閾値が高い箇所をグラフ上で選択して指定するだけで、自動的に該当箇所の写真情報(静止画データ)を含む報告書が自動的に作成されるため、作業員の工数を大幅に削減できる。
【0026】
前記判定対象架空線に難着雪リングが設置されている旨の情報の入力を受け付ける、難着雪リング設置情報入力受付部を備え、
前記モデル生成部は、前記難着雪リング設置情報入力受付部から前記判定対象架空線に難着雪リングが設置されている旨の情報が入力されると、前記複数の学習用画像データを生成する際に、前記動画データを撮像方向毎にそれぞれ時分割して得られる画像データのうち、難着雪リングの設置箇所の前後の箇所の撮像データに対応する画像データに対して前記判定対象架空線の軸心方向に関する揺れの補正処理を行うものとしても構わない。
【0027】
架空電力線や架空地線の中には、着雪を防止するための難着雪リングが設置されている場合がある。このような難着雪リングが設置されている架空線上を自走式の撮像装置によって走行させながら撮像した場合、難着雪リングの設置箇所では撮像装置が乗り上げるため、その前後の撮像箇所で撮像点が上下に揺れることが想定される。この場合、撮像された動画データを単に時分割し、且つ所定の画像処理を行うだけでは、正しい学習済モデルが生成されなかったり、又は、復元済画像データとの対比結果として、誤って閾値が高く判定されるおそれがある。
【0028】
難着雪リングは、規定により定められた離間距離を保って設置される。このため、判定対象架空線に予め難着雪リングが設定されていることが把握できている場合には、その旨の情報を上記架空線損傷判定システムに入力しておくことで、当該箇所の前後は撮像点が上下に変動していることが、架空線損傷判定システム側で把握できる。この構成によれば、動画データから学習用画像データを作成する際に、難着雪リングの設置箇所の前後の地点においては、対象領域を上下方向に補正する処理を行われ、この結果、架空線の表面が正しく撮像された状態の画像データに基づいて学習用画像データが作成される。
【0029】
なお、難着雪リングは、架空線とは明らかに異なる色及び形状であるため、動画データを時分割して得られた画像データから、難着雪リングが設置されている箇所のデータであることをシステム側で検知することができる。
【0030】
前記架空線損傷判定システムは、利用者の指示に基づいて前記閾値の値を変更する閾値変更部を備えるものとしても構わない。
【0031】
判定対象架空線に明らかな損傷が存在している場合、損傷が存在していない箇所と比べて、差分値が極端に高くなるため、事前に設定された閾値を大きく超えることが想定され、自動的に損傷の存在が判定される。しかし、損傷の程度が小さい場合には、事前に設定された閾値が大きい場合には、損傷が存在しないと判断される可能性もある。
【0032】
上記の構成によれば、特に判定対象架空線に事前に設定された閾値の下では損傷が存在しないと判断された場合においても、閾値を少し小さい値に設定して再確認することができるため、必要に応じて小さな損傷の有無についても確認できる。
【0033】
前記データ入力受付部は、自走式撮像装置を用いて自走しながら周方向に関して異なる3方向から前記判定対象架空線が撮像されることで得られた前記動画データの入力を受け付けるものとしても構わない。
【0034】
判定対象架空線を3方向から撮像した動画データによれば、判定対象架空線が周方向の全域にわたって撮像されることが可能となる。よって、この動画データに基づいて損傷判定を行うことで、漏れのない損傷判定が可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の架空線損傷判定システムによれば、従来よりも損傷検知に要する工数を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】架空線損傷判定システムの構成を模式的に示すブロック図である。
図2】架空線の表面状態を自走式撮像装置を用いて撮像する様子を模式的に示す図面である。
図3】自走式撮像装置の構造の一例を模式的に示す図面である。
図4】自走式撮像装置によって撮像された判定対象架空線の動画データに含まれる、ある時点における画像の一例である。
図5】架空線損傷判定システムにおける処理手順を模式的に示すフローチャートである。
図6】動画データに対して事前処理が完了した後に表示されるモニタ画面の一例である。
図7】範囲指定領域を判定対象架空線の箇所に対応させる処理を説明するためのモニタ画面の一例である。
図8】範囲指定領域の箇所を切り出される前の静止画像と、切り出された後の画像とを併記した図面である。
図9】判定対象架空線の識別情報の入力フォーマットが表示されているモニタ画面の一例である。
図10】範囲指定領域が切り出された後における画像処理の実行前の画像(a)と、画像処理の実行後の画像(b)とを併記した図面である。
図11】モデル生成部が生成する学習済モデルの構成例を模式的に示す図面である。
図12】難着雪リングが設置されている箇所における架空線の撮像写真の例である。
図13】難着雪リングが設置されている場合における判定対象架空線の揺れを模式的に示す図面である。
図14】判定結果が表示されたモニタ画面の一例である。
図15図14の一部拡大図である。
図16図14の一部拡大図であり、図15とは異なる箇所の拡大図に対応する。
図17図14の一部拡大図であり、図14及び図15とは異なる箇所の拡大図に対応する。
図18】切り出し後の画像データ、学習用画像データ、及び復元済画像データを列挙した図面である。
図19】架空線損傷判定システムによって自動的に作成される判定結果の報告書の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る架空線損傷判定システムの実施形態について、以下において適宜図面を参照しながら説明する。
【0038】
図1は、本発明に係る架空線損傷判定システムの構成を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、架空線損傷判定システム10は、データ入力受付部11、モデル生成部13、結果出力部15、難着雪リング設置情報入力受付部16、及び閾値変更部17を備える。ただし、後述するように、難着雪リング設置情報入力受付部16及び閾値変更部17については、架空線損傷判定システム10が備えるか否かは任意である。
【0039】
架空線損傷判定システム10は、損傷判定を行う対象となる架空線(以下、「判定対象架空線」という。)に対して、損傷が存在するか否か、及び損傷が存在する場合にはその損傷箇所がどこにあるかを、コンピュータによる演算処理によって判定するシステムである。なお、判定対象架空線には、架空送電線及び架空地線が含まれる。
【0040】
架空線損傷判定システム10は、汎用のコンピュータやスマートフォン等、演算処理機能と情報表示機能を搭載した機器に導入することができる。
【0041】
データ入力受付部11は、判定対象架空線の表面を撮像した動画データの入力を受け付けるインタフェースである。動画データとしては、mp4、avi、mpeg等の既存のフォーマット形式が利用できる。
【0042】
図2は、判定対象架空線30の表面を自走式撮像装置20を用いて撮像する様子を模式的に示す図面である。自走式撮像装置20は、撮像カメラ21を内蔵しており、走行用ローラ22が付設されている。自走式撮像装置20は、走行用ローラ22によって判定対象架空線30上を線路方向d1に沿って走行しながら、判定対象架空線30の表面を動画撮影し、内蔵するメモリに動画データを記録する。
【0043】
図3は、自走式撮像装置20の構造の一例を模式的に示す図面である。自走式撮像装置20は、撮像カメラ21と反射ミラー26とを備える。図3の例では、撮像カメラ21にから直接出射される撮像光L1によって判定対象架空線30の表面の一部領域を撮像し、更に、反射ミラー26で反射した撮像光(L2,L3)によって、判定対象架空線30の表面の別の領域を撮像する。これにより、自走式撮像装置20によって、判定対象架空線30の周方向の全周にわたる表面状態が撮像される。
【0044】
図4は、図2及び図3に示す自走式撮像装置20によって撮像された判定対象架空線30の動画データdM1の、ある時点における静止画像の一例である。図4に示す画像dm1_iによれば、図3に示した3方向からの判定対象架空線30を撮像した情報が示されている(撮像光L1、撮像光L2、撮像光L3)。図4内の符号26は、反射ミラーを表している。
【0045】
図2及び図3に示す自走式撮像装置20によって撮像された判定対象架空線30の表面の画像情報が、動画データdM1として、データ入力受付部11を通じて架空線損傷判定システム10内に取り込まれる。ただし、データ入力受付部11を通じて入力される動画データdM1としては、必ずしも図2及び図3に示す自走式撮像装置20によって撮像されたデータには限定されない。本発明に係る架空線損傷判定システム10は、判定対象架空線30の表面が、判定対象架空線30の線路方向d1に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ、周方向のほぼ全周にわたって撮像された動画データdM1であれば利用可能である。判定対象架空線30のの表面のほぼ全周にわたって撮像する観点からは、軸心に向かう異なる2以上の方向から撮像されるのが好ましく、3以上の方向から撮像されるのがより好ましい。
【0046】
モデル生成部13は、データ入力受付部11を通じて入力された動画データdM1を解析することで、学習済モデルを生成する演算処理手段であり、例えばCPUやMPUで構成される。結果出力部15は、動画データdM1に基づいて得られる複数の画像情報を、学習済モデルに適用することで、損傷の有無及び損傷箇所を判定し、その結果を出力する機能的手段であり、モデル生成部13と同様に例えばCPUやMPUで構成される。また、結果出力部15は、判定結果を表示する表示用モニタを含むものとしても構わない。
【0047】
以下、モデル生成部13及び結果出力部15における処理内容について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下のステップ符号S1~S8は、図5のフローチャート上の符号に対応する。
【0048】
架空線損傷判定システム10は、判定対象架空線30の表面状態が撮像された動画データdM1がデータ入力受付部11を通じて入力されると(ステップS1)、この動画データdM1に対して、本システム10での利用が可能な形式に変換する処理を行う(ステップS2)。この処理は、事前処理に対応する。図6は、事前処理が完了した後に表示されるモニタ画面の一例である。
【0049】
事前処理が完了すると、画像データ上の領域指定が要求される(ステップS3)。図6に示すように、動画データdM1には、判定対象架空線30以外の背景も映り込んでいる。このため、本ステップS3では、モニタ画面上に表示されている矩形状の範囲指定領域A1の位置及び大きさを調整して判定対象架空線30の箇所を指定することで、架空線損傷判定システム10に対して判定対象架空線30の位置を認識させる処理が行われる。一例としては、利用者が範囲指定領域A1の頂点や辺をクリックしつつマウスによる操作を行うことで、範囲指定領域A1と判定対象架空線30の像とをほぼ一致させる。この結果、図7に示すように、範囲指定領域A1が判定対象架空線30の箇所に対応するように変形される。
【0050】
なお、図6及び図7の例では、利用者が範囲指定領域A1の形状を直感的に変形操作することで、判定対象架空線30の箇所を指定するものとしたが、この領域指定の処理自体を自動化しても構わない。例えば、架空線損傷判定システム10に搭載された画像処理プログラムが、撮像画像に含まれる画素の色情報の大幅な変化点を検知することで、判定対象架空線30とそれ以外との境界点(外縁)を認識し、この認識結果に基づいて範囲指定領域A1が特定される。
【0051】
範囲指定領域A1が判定対象架空線30の箇所になるように指定された後、架空線損傷判定システム10は、動画データdM1を時分割して得られる複数の静止画データの、当該範囲指定領域A1に対応する箇所を切り出す。図8は、切り出される前の画像(a)と、切り出された後の画像(b)とを併記した図面である。
【0052】
次に、架空線損傷判定システム10は、判定対象架空線30の識別情報の入力を受け付ける(ステップS4)。図9は、判定対象架空線30の識別情報の入力フォーマットが表示されているモニタ画面の一例である。利用者は、図9に示すような表示情報51を参照しながら、判定対象架空線30の識別情報に関する情報を入力する。識別情報としては、判定対象架空線30が存在する系統名や、判定対象架空線30を保持する鉄塔番号が例示される。なお、この入力フォーマットを通じて、利用者(作業員)の氏名等の入力が要求されるものとしても構わない。
【0053】
ただし、ステップS4が実行されるタイミングは任意である。例えば、ステップS4は、領域指定が行われるステップS3よりも前であっても構わないし、後述するステップS5以後に行われても構わない。
【0054】
モデル生成部13は、ステップS3で指定された領域が切り出されて得られる、複数の静止画像に対して、学習のための事前処理としての画像処理を行う(ステップS5)。ここでは、モノクロ処理化、ヒストグラム平坦化、明度正規化、及び三角フィルタ適用等かからなる処理群に含まれる一以上の処理が実行される。図10は、範囲指定領域A1内を切り出した画像、すなわち事前処理としての画像処理の実行前の画像(a)と、画像処理の実行後の画像(b)とを併記した図面である。図10(b)に示されるような処理後の画像が、学習に利用される。つまり、このステップS5は、学習に利用される画像データ(学習用画像データ)を生成する処理に対応する。
【0055】
判定対象架空線30によっては、導体の捻じれの視認容易化のために赤色等の色で塗装が施されている場合がある。この塗装は損傷には当たらないため、塗装の存在による損傷の誤認識を抑制する観点から、必要に応じて画像データに対するモノクロ処理が行われる。
【0056】
判定対象架空線30を撮像して得られた動画データdM1の撮像環境によっては、太陽光が撮像装置20の撮像点に差し込んでいる場合がある。このとき、太陽光線の存在により一部の明度が際立つことで、判定対象架空線30の撮像画像上の特徴が見えにくくなる場合がある。太陽光線による外乱を抑制する観点から、必要に応じて画像データに対するヒストグラム平坦化及び明度正規化が実行される。
【0057】
判定対象架空線30を撮像して得られた動画データdM1には、反射ミラー26上に判定対象架空線30の周囲の風景が映り込む。このとき、判定対象架空線30の周囲の風景が山林の場合には場所による変化は極めて小さいが、風景が街並みの場合には場所による変化が大きくなる場合がある。後者の場合、この風景の変化を損傷と御認識するおそれがあり、この誤認識を抑制する観点から、必要に応じて画像データに対する三角フィルタの適用が実行される。
【0058】
このように、動画データdM1を時分割して得られる複数の連続画像データに対し、切り出し処理及び画像処理が行われることで学習用画像データが得られる。モデル生成部13は、この学習用画像データを用いて学習済モデルを生成する(ステップS6)。具体的には、図11に示すように、学習用画像データを入力層とし、エンコード処理及びデコード処理を経て復元される複数の復元済画像データを出力層とする、学習済モデル(ニューラルネットワーク)を生成する。
【0059】
モデル生成部13は、オードエンコーダ(AE)又は変分オートエンコーダ(VAE)を利用して学習済モデルを生成する。いずれも、ニューラルネットワークによる教師なしの学習済モデルであって、中間層のニューロン数を入力層の次元数よりも少なくすることによって、少ない次元数で入力層に配置された情報を再現するように構成される。
【0060】
モデル生成部13は、入力層から入力された学習用画像データに対して、中間層において潜在変数zに次元圧縮し(エンコード処理)、中間層から出力層の間で潜在変数zを元の画像になるように復元する(デコード処理)。なお、図11には、VAEを利用する場合が図示されており、この場合は、n次元のガウス分布の平均μと分散σによって潜在変数zが規定される。
【0061】
モデル生成部13は、入力層から入力された学習用画像データと、出力層から出力される復元済画像データとの誤差(復元誤差)を最小化するように、パラメータ(重み)を調整・最適化することで機械学習を行う。これにより、モデル生成部13は、学習用画像データから復元済画像データを生成する学習済モデルを生成する。
【0062】
なお、ステップS4において、判定対象架空線30が難着雪リングを有しているか否かを示す情報(以下、「難着雪リング設置情報dR」という。)を入力するものとしてもよい。この場合、難着雪リング設置情報dRの入力を受け付ける手段が、図1に示す難着雪リング設置情報入力受付部16に対応する。図9に示す表示情報51には、難着雪リング設置情報dRをクリックによって入力可能な例が表示されている。
【0063】
図12は、判定対象架空線30に難着雪リングが存在している場合の撮像写真の例である。難着雪リング31は、架空線に対して着雪を防止するために取り付けられる部材であるが、架空線によっては取り付けられる場合と取り付けられない場合がある。
【0064】
図2及び図3を参照して説明したような、自走式の撮像装置20を用いて判定対象架空線30の表面を撮像した場合、難着雪リング31が存在する箇所を通過すると、撮像装置20が難着雪リング31を乗り上げながら進行することで、判定対象架空線30に揺れが生じ、撮像装置20による撮像点が変化する。図13は、判定対象架空線30の揺れを模式的に示す図面である。図13に示すように、難着雪リング31の設置箇所の前後において、特に反射ミラー26を通じた撮像光(L2,L3)による撮像点が変化する。
【0065】
判定対象架空線30に難着雪リング31が設置されている旨の難着雪リング設置情報dRが入力されている場合、モデル生成部13は、学習用画像データの作成に際し、難着雪リング31の設置箇所の前後の画像について、揺れの補正処理を事前に行う。揺れの補正量は、事前に登録された情報を用いることができる。また、図13に示すように、動画データdM1が3方向から判定対象架空線30が撮像されたデータである場合には、撮像データのうちの反射ミラー26を通じた撮像光(L2,L3)に基づくデータに対し、それぞれ、揺れに伴って変動する撮像点の方向とは反対方向に注目点を移動させる処理を行う。そして、この処理後に得られた画像データが、学習用画像データの作成に利用される。
【0066】
結果出力部15は、モデル生成部13によって生成された学習済モデルに対して、学習用画像データを入力し、出力層から得られた復元済画像データと学習用画像データとの差分を対比する(ステップS7)。この対比を、動画データdM1の全体に対応する、すなわち判定対象架空線30の線路方向d1に係る全体に対応する各学習用画像データに対して行い、その結果を出力する(ステップS8)。
【0067】
図14は、判定結果が表示されたモニタ画面の一例である。図14に示す表示情報52には、前記差分値の変化の推移がグラフの態様で示されている。このグラフによれば、差分値が局所的に大きい箇所が視覚的に直感で認識できる。図14において、横軸は動画データdM1の撮像開始からの経過時間に対応し、縦軸は差分値に対応する。ただし、撮像時における自走式撮像装置20の移動速度が既知の場合には、横軸の値は、判定対象架空線30が支持されている端部の支持物(鉄塔等)からの線路方向d1に係る進行距離であってもよい。
【0068】
上述したように、学習用画像データは、判定対象架空線30を線路方向d1に沿って撮像された動画データdM1に由来する静止画像の集合体であり、損傷箇所が存在しない限りほぼ同一の傾向(特徴量)を示すデータの集合体である。また、仮に判定対象架空線30が損傷を有していても、その損傷箇所は判定対象架空線30の全体から見れば極めて限定的である。言い換えれば、各学習用画像データの殆どは、同様の傾向を示すデータである。
【0069】
従って、この学習済モデルは、非損傷箇所が撮像された画像が入力された場合であっても、損傷箇所が撮像された画像が入力された場合であっても、損傷が存在しない画像データを復元済画像データとして生成し、出力する。つまり、損傷箇所の撮像画像が学習済モデルに入力された場合、入力された画像データ(学習用画像データ)と出力された画像データ(復元済画像データ)との間には、損傷に由来する画像情報が相違点として現れる。すなわち、これらの差分値が大きくなる。
【0070】
図14では、閾値が1.0に設定された場合における差分値の推移のグラフが示されている。閾値1.0を超えるような差分値を示す箇所にピークが現れており、この箇所に損傷が存在することが分かる。
【0071】
図15は、図14に示す表示情報の一部拡大図である。図14では、方向の異なる各撮像光(L1,L2,L3)由来の動画データに基づく結果がそれぞれ重ね合わせられた状態でグラフ化されている。図14及び図15に示すように、前記各動画データに対しては、「Upper」、「Middle」、「Lower」と表記されて区別されている。
【0072】
図15に示すように、これら「Upper」、「Middle」、「Lower」の表記箇所がクリックされることで、表示用モニタに表示する対象となるグラフ線を選択することができる。つまり、図14に示す表示情報52は、全ての表記箇所がクリックされることで、3方向からの撮像光由来の差分値の推移情報が重ね合わせられたものである。
【0073】
図16は、図14に示す表示情報の一部拡大図であり、図15とは異なる箇所を拡大した図面である。図16に示すように、グラフ上の点が選択可能に構成されているものとして構わない。グラフ上の点を選択すると、当該箇所の差分値(図16では「異常度」という名称が記載されている。)が示される。更に、この点をクリックすることで、判定対象架空線30の当該箇所に対応する撮像画像が、表示用モニタ上に自動的に表示されるものとして構わない。これにより、作業者は、指定箇所の写真によっても損傷が存在することを確認できる。
【0074】
図17は、図14に示す表示情報の一部拡大図であり、図15及び図16とは異なる場所の拡大図に対応する。図17に示すように、閾値として設定される値は変更できるものとしても構わない。この例では、表示用モニタに表示される画面(表示情報52)に、閾値の変更値を入力するフォームが示されている。この例では、閾値の入力フォームが、閾値変更部17(図1参照)に対応する。
【0075】
閾値によっては、判定対象架空線30の全体にわたって前記差分値が閾値未満に留まる場合も想定される。このような場合に、閾値を少し小さく変更して確認することで、小さな損傷が存在していないかどうかを確認することができる。特に、上述したように、グラフ上の点をクリックすることで判定対象架空線30の当該箇所に対応する撮像画像が自動的に表示用モニタに表示されることで、この撮像画像を目視により確認することで、損傷の有無を肉眼でも検知できる。
【0076】
図18は、判定対象架空線30の動画データdM1から時刻tで抽出された画像であって、範囲指定領域A1が切り出された後の画像データdIと、この画像データdIから得られた学習用画像データdLと、学習用画像データdLを学習済モデルに適用して得られた復元済画像データdDとを列挙した図面である。図18の例では、3方向からの撮像光(L1,L2,L3)によって撮像されたデータが併記されている。
【0077】
画像データdI及び学習用画像データdLによれば、撮像光L3による撮像画像には、損傷由来の黒い影が映し出されているのに対し、他の撮像光(L1,L2)による撮像画像にはそのような影が映し出されていないことが分かる。しかし、復元済画像データdDによれば、全ての撮像光(L1,L2,L3)由来の画像データに、黒い影が表示されていないことが分かる。このことは、撮像光L3由来の画像データによれば、学習用画像データと復元済画像データとの差分値が1.3を超える大きな値を示していることにも現れている。
【0078】
結果出力部15は、判定結果に関する情報を記載した報告書を作成するものとしても構わない。具体的には、図示しない報告書作成指示ボタンを利用者がクリックすることで、結果出力部15が報告書を作成する。図19は、このような報告書の一例を模式的に示す図面である。報告書61には、動画データdM1から切り出された該当箇所の撮像写真(撮像静止画データ)、ステップS4で入力された判定対象架空線30の識別情報、及び必要に応じて報告者の情報が記載される。また、必要に応じて、該当箇所が、判定対象架空線30内のどの位置にあたるかを示す情報が記載される。この情報としては、動画データdM1の撮像開始からの経過時間に関する情報であっても構わないし、判定対象架空線30が支持されている端部の鉄塔等の支持物からの線路方向d1に係る進行距離(離間距離)に関する情報であってもよい。
【0079】
報告書61の形式に関する情報は、架空線損傷判定システム10に搭載されたメモリに事前に格納されているものとして構わない。また、報告書61は、汎用的なワープロソフトや表計算ソフト等のソフトウェアを通じて読み込み可能な形式で作成され、同ソフト上で利用者による編集が可能であるものとしても構わない。
【0080】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0081】
〈1〉ステップS1において、異なる判定対象架空線30が撮像された複数の動画データdM1、又は同一の判定対象架空線30上の異なる区間が撮像された複数の動画データdM1を、同時並行的にデータ入力受付部11を通じて入力しても構わない。この場合、ステップS2以後の処理も、同時並行的に行われる。
【0082】
〈2〉上記実施形態では、架空線損傷判定システム10が、判定対象架空線30の表面が、判定対象架空線30の線路方向d1に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ、周方向のほぼ全周にわたって撮像された動画データdM1を用いて判定を行うものとした。しかし、特に雷等の被害を考慮すると、損傷が生じる可能性が高い場所が架空線の特定の方向(例えば軸心に対して鉛直上方)に限定される場合がある。かかる場合には、判定に利用される動画データdM1は、必ずしも判定対象架空線30の周方向のほぼ全周にわたって撮像されたデータである必要はない。言い換えれば、本発明は、判定対象架空線30の線路方向d1に沿って撮像箇所を連続的に移動しつつ判定対象架空線30の外側から特定の方向に撮像された動画データdM1を用いて判定対象架空線30の損傷判定を行う場合についても、その射程範囲に含むものである。
【符号の説明】
【0083】
10 :架空線損傷判定システム
11 :データ入力受付部
13 :モデル生成部
15 :結果出力部
16 :難着雪リング設置情報入力受付部
17 :閾値変更部
20 :自走式撮像装置
21 :撮像カメラ
22 :走行用ローラ
26 :反射ミラー
30 :判定対象架空線
31 :難着雪リング
51 :表示情報
52 :表示情報
61 :報告書
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図12
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