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  • 特開-細胞内NAD+産生促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053658
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】細胞内NAD+産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20230406BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/122
A61K8/35
A61K8/49
A61P43/00 105
A61P43/00
A61P17/00
A61P43/00 121
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162834
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】599020586
【氏名又は名称】株式会社肌粧品科学開放研究所
(71)【出願人】
【識別番号】500571550
【氏名又は名称】アピオン・ジャパン有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴央
(72)【発明者】
【氏名】亀田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】山本 巧
(72)【発明者】
【氏名】田沼 靖一
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD551
4C083AD552
4C083CC02
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC19
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC52
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB25
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZC52
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】新規な細胞内NAD産生促進剤を提供すること。
【解決手段】ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩、を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤。
【請求項2】
ヒノキチオール又はその塩と同時に投与される、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤。
【請求項3】
ニコチン酸又はその塩と同時に投与される、ヒノキチオール又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤。
【請求項4】
投与されるヒノキチオール又はその塩とニコチン酸又はその塩のモル比が、1~3:1~60である、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞内NAD産生促進剤。
【請求項5】
皮膚の老化症状の予防剤又は改善剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞内NAD産生促進剤。
【請求項6】
皮膚の老化症状が、しわ、たるみ、しみ、そばかす、肌荒れ、又は、乾燥肌である、請求項5に記載の細胞内NAD産生促進剤。
【請求項7】
請求項1~6に記載の細胞内NAD産生促進剤を有効成分として含有する、化粧品組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の化粧品組成物を有効成分として含有する、化粧品
【請求項9】
請求項1~6に記載の細胞内NAD産生促進剤を有効成分として含有する、外用組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の外用組成物を有効成分として含有する、外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内NAD産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)は、生体内で酸化還元反応を媒介する補酵素であり、エネルギー代謝において中心的な役割を果たしている。NADの生合成経路としては、トリプトファンを出発物質としたデノボ経路と、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドリボシド(NR)のニコチンアミド環を再利用するサルベージ経路の二つがある。
【0003】
NADは、タンパク質の翻訳後修飾(例えば、脱アセチル化、ADP-リボシル化等)にも深く関わっており、分化・増殖等の様々な細胞内機能の調節を行っていることが知られている(特許文献1)。例えば、DNA一本鎖の損傷修復に関与する酵素であるポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)は、NADを利用してADP-リボシル化を行っている。また老化制御機構において重要な役割を果たしているサーチュイン(Sirtuin1~7)は、いずれもNAD依存性の脱アセチル化酵素であり、サーチュイン活性はアセチル基の受け取り手となるNADの濃度によっても制御されている。一般にサーチュイン活性が強くなることで、抗酸化系酵素遺伝子の発現が高まったり、炎症性タンパク質遺伝子の発現を抑えたりする等の変化を引き起こすことが知られている。
【0004】
他方で、細胞内NADレベルは、加齢とともに低下し、様々な老化症状、関連疾患を引き起こすことが分かってきている。例えば、NADレベルの低下により、代謝機能障害、DNA修復障害、炎症、細胞老化、酸化ストレス耐性低下、神経変性等の影響を与えることが知られている(非特許文献1)。これに対し、NAD生合成を促進したり、NAD分解を阻害したりすることで加齢に伴う疾患が治療できるケースも報告されている。例えば、動物モデルでは、細胞内NADレベルを上昇させることで、老化を遅らせること、筋肉機能を回復させること、代謝性疾患に対する保護作用をもたらすことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
特許文献2では、NADを増大させる前駆体として、ニコチン酸リボシド又はニコチンアミドリボシド誘導体、及びその還元誘導体を使用することが報告されている。
【0006】
近年では、細胞内のNADレベルを上昇させるためNADの生合成経路の中間体として知られるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の点滴療法やサプリメント等が、アンチエイジングのために使用されており、その効果の一つにしわ、たるみ、しみ、くすみといった老化によって起こる肌の衰えを抑えることが挙げられている。また、NMNを含有する化粧品は、NMNが表皮及び皮下の細胞内のNADを増加させることによってサーチュインを活性化し、天然保湿因子(NMF:Natural Moisturizing Factor)の産生を促し、皮膚の老化予防となることが期待されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2018-530614号公報
【特許文献2】特表2019-514874号公報
【特許文献3】国際公開第2019/054485号
【特許文献4】国際公開第2019/078177号
【0008】
【非特許文献1】NAD+ metabolism and its roles in cellular processes during ageing,Anthony J.Covarrubias et al.,Nature Reviews Molecular Cell Biology vol.22,pp.119-141,2021
【非特許文献2】De novo NAD+ synthesis enhances mitochondrial function and improves health,Elena Katsyuba et al.,Nature vol.563,pp.354-359,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な細胞内NAD産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩が細胞内NAD産生促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一実施形態である、ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤、ヒノキチオール又はその塩と同時に投与される、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤、並びに、ニコチン酸又はその塩と同時に投与される、ヒノキチオール又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤は、細胞内NAD濃度を上昇させる効果を有する。皮膚の表皮及び皮下の細胞内NAD濃度を上昇させることによってDNA修復、抗酸化ストレス等の機能を回復することができるため、上記細胞内NAD産生促進剤は、皮膚の老化症状の予防剤又は改善剤としても有用である。また上記細胞内NAD産生促進剤を含有させて化粧品組成物又は外用組成物とすることで、皮膚の表皮及び皮下の細胞内のNAD産生を促進し、エイジングケアに適した化粧品組成物又は外用組成物を提供することができる。
なお、本明細書で「同時に投与する」とは、一方が作用している間に他方を投与することによって両方を共に作用させることを意味する。投与は一緒に行っても、異なる時間に行ってもよい。また、両方を含む単剤で投与してもよく、それぞれを含む二つの剤で投与してもよい。同様に、「同時に添加する」とは、一方が作用している間に他方を添加することによって両方を共に作用させることを意味する。添加は一緒に行っても、異なる時間に行ってもよい。また、両方を含む単剤で添加してもよく、それぞれを含む二つの剤で添加してもよい。
【0012】
すなわち、本発明の実施態様は以下の[1]~[13]を含む。
[1]ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する、細胞内NAD産生促進剤。
[2]ヒノキチオール又はその塩と同時に投与される、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤。
[3]ニコチン酸又はその塩と同時に投与される、ヒノキチオール又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤。
[4]投与されるヒノキチオール又はその塩とニコチン酸又はその塩のモル比が、1~3:1~60である、[1]~[3]に記載の細胞内NAD産生促進剤。
[5]皮膚の老化症状の予防剤又は改善剤である、[1]~[4]に記載の細胞内NAD産生促進剤。
[6]皮膚の老化症状が、しわ、たるみ、しみ、そばかす、肌荒れ、又は、乾燥肌である、[5]に記載の細胞内NAD産生促進剤。
[7][1]~[6]に記載の細胞内NAD産生促進剤を有効成分として含有する、化粧品組成物。
[8][7]に記載の化粧品組成物を有効成分として含有する、化粧品。
[9][1]~[6]に記載の細胞内NAD産生促進剤を有効成分として含有する、外用組成物。
[10][9]に記載の外用組成物を有効成分として含有する、外用剤。
[11][1]~[6]に記載の細胞内NAD産生抑制剤をヒトに投与する工程を含む、皮膚の老化症状の予防又は改善方法。
[12]皮膚の老化症状の予防又は改善に使用される、[1]~[6]に記載の細胞内NAD産生抑制剤。
[13]皮膚の老化症状の予防剤又は改善剤を製造するための、[1]~[6]に記載の細胞内NAD産生抑制剤の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な細胞内NAD産生促進剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例において、NAD生合成の前駆体となる各化合物を単独で、又はヒノキチオールと共に添加した場合の細胞内NAD量を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図及び範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変及び修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、M. R. Green & J. Sambrook (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (4th edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2012); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0016】
本発明の一実施形態は、ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤、ヒノキチオール又はその塩と同時に投与される、ニコチン酸又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤、或いは、ニコチン酸又はその塩と同時に投与される、ヒノキチオール又はその塩を有効成分として含有する細胞内NAD産生促進剤である。
【0017】
<細胞内NAD産生促進剤>
ヒノキチオールは、公知の化合物で、不飽和七員環の単環式モノテルペンである。
ニコチン酸(NA)は、IUPAC命名法では3-ピリジンカルボン酸と命名されている公知の化合物である。
【0018】
ヒノキチオールの塩としては、医薬上、薬理学的に又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩等が挙げられる。
ヒノキチオール又はその塩を含む細胞内NAD産生促進剤は、1種類のヒノキチオール又はその塩を含んでもよく、2種類以上のヒノキチオール又はその塩を含んでもよい。特に、ヒノキチオール又はその塩として、ヒノキチオール、及びヒノキチオールナトリウムを含むことが好ましい。
【0019】
ニコチン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩等が挙げられる。
ニコチン酸又はその塩を含む細胞内NAD産生促進剤は、1種類のニコチン酸又はその塩を含んでもよく、2種類以上のニコチン酸又はその塩を含んでもよい。特に、ニコチン酸又はその塩として、ニコチン酸、及びニコチン酸ナトリウムを含むことが好ましい。
【0020】
細胞内NAD産生促進剤の製造に用いるヒノキチオール及びその塩は、天然物から抽出しても化学合成してもよく、市販品として入手してもよい。ヒノキチオール及びその塩の抽出物の原料植物としては、例えば、タイワンヒノキ、青森ヒバ、北米産のウエスタンレッドシダー等が挙げられる。抽出物の純度は特に限定されず、高度精製物であってもよく、細胞内NAD産生促進という効果を阻害しない粗精製物であってもよい。ヒノキチオールの粗精製物としては、例えば、原料植物からヒノキチオール及びその塩を抽出して精製する精製過程における中間物質を用いてもよい。
【0021】
細胞内NAD産生促進剤の製造に用いるニコチン酸及びその塩は、公知の方法により合成してもよく、市販品として入手してもよい。ニコチン酸及びその塩は、1種類の化合物を単独で使用してもよく、また2種類以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ニコチン酸又はその塩を含む細胞内NAD産生促進剤が液剤である場合、ニコチン酸又はその塩の濃度は特に制限されず、併用されるヒノキチオール又はその塩の濃度、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。また、ヒノキチオール又はその塩を含む細胞内NAD産生促進剤が液剤である場合、ヒノキチオール又はその塩の濃度も特に制限されず、併用されるニコチン酸又はその塩の濃度、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。
【0023】
ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩の両方を含む細胞内NAD産生促進剤に含まれる、ヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩のモル比は、特に制限されず、使用されるヒノキチオール又はその塩及びニコチン酸又はその塩の種類、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、各有効成分のモル比としては、ヒノキチオール又はその塩:ニコチン酸又はその塩=1~3:1~60であることが好ましく、1~3:2~30であることがより好ましく、1~3:6~20であることがさらに好ましい。
【0024】
本実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤は、細胞内でのNAD産生促進作用を阻害しない限り、例えば、賦形剤、希釈剤、保湿剤、pH調整剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、油脂類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、香料、粉体、色素等を含有していてもよい。
【0025】
本実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤の剤型は、特に制限されず、使用目的に応じて任意に選択でき、例えば、クリーム状、ペースト状、軟膏状、ローション状、乳液状、ムース状、溶液状、パウダー状、粉末状、パック状、ゲル状等であってもよい。
【0026】
細胞内NAD産生促進剤は、細胞内のNADの濃度を上昇させることにより、PARPによるDNA修復を促進したり、炎症性タンパク質遺伝子の発現を抑えたりすることができる(Nature Reviews Molecular Cell Biology Vol.22,pp.119-141,February 2021)。すなわち、細胞内のNADの濃度を上昇させることにより、皮膚における代謝機能を改善し、DNA修復を促進し、炎症を抑制し、細胞老化を抑制又は改善し、酸化ストレス耐性を強化することができる(Nature vol.563,pp.354-359,2018;国際公開第2019/078177号)。従って、本実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤は、細胞の老化予防剤又は改善剤(特に皮膚の老化の予防剤又は改善剤)、DNA修復促進剤、抗炎症剤、酸化ストレス耐性強化剤として好適に使用することができる。皮膚の老化の症状としては、例えば、しわ、たるみ、しみ、そばかす、肌荒れ、乾燥肌等を挙げることができる。
【0027】
<組成物>
本実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤は、化粧品組成物、食品組成物、試薬組成物及び医薬組成物に配合することができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤を含有する化粧品組成物は、例えば、皮膚の代謝機能改善用化粧品組成物、DNA修復促進用化粧品組成物、細胞老化抑制又は改善用化粧品組成物、酸化ストレス耐性強化用化粧品組成物等として用いることができる。
これらの化粧品組成物を有効成分として含有する化粧品の形態は、特に制限されず、例えば、化粧水、クリーム、乳液、軟膏、ローション、オイル、オールインワンジェル、パック、美容液、ファンデーション、クレンジング、洗顔料、洗浄料、シャンプーリンス、アイシャドウ、アイライナー等が挙げられる。これらの化粧品は、塗布剤として、皮膚に塗布して用いるのが好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤を含有する食品組成物は、例えば、代謝機能改善用の食品組成物、DNA修復促進用の食品組成物、細胞老化抑制又は改善用の食品組成物、酸化ストレス耐性強化用の食品組成物等として用いることができる。
当該食品組成物を有効成分として含有する食品の種類は、特に制限されず、例えば、一般食品、発酵食品(ヨーグルト、ローヤルゼリー等)、飲料(乳清飲料、茶、スポーツ飲料、果実ジュース、清涼飲料等)、菓子(ガム、ゼリー、飴等)、健康食品(錠剤、カプセル、タブレット等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)、サプリメント、栄養機能食品、機能性表示食品、保健用食品、特定保健用食品、ペットフード、動物用飼料等が挙げられる。
【0030】
本発明の一実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤を含有する試薬組成物は、試薬としてin vitroで用いることができる。この試薬を、例えば、培養細胞、培養組織、培養器官等の培養物に投与すると、その培養物において、細胞内のNAD産生促進、細胞内の活性酸素種の濃度上昇の抑制、代謝機能改善、DNA修復促進、細胞老化抑制又は改善、酸化ストレス耐性強化等の効果を生じる。試薬の使用方法としては、特に制限されず、例えば、培地にヒノキチオール又はその塩、及び、ニコチン酸又はその塩を同時に添加すればよい。
【0031】
本発明の一実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤を含有する医薬組成物は、例えば、代謝機能改善用医薬組成物、DNA修復促進用医薬組成物、細胞老化抑制又は改善用医薬組成物、酸化ストレス耐性強化用医薬組成物等として用いることができる。
当該医薬組成物を有効成分として含有する医薬は、ヒトまたはヒト以外の動物の個体に投与できる。投与形態は、特に制限されず、例えば、経口投与であっても、非経口投与であってもよい。経口投与のための剤型としては、特に制限されず、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、トローチ剤等が挙げられる。また非経口投与のための剤型としては、特に制限されず、例えば、注射剤(静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤等)、点滴剤、外用剤(軟膏剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、ゲル剤、乳液剤、クリーム剤、ローション剤、ムース剤、ゼリー剤、シート剤、スプレー剤等)、坐剤等が挙げられるが、外用剤として用いることが好ましい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る細胞内NAD産生促進剤は、特に表皮及び皮下の細胞内のNADの濃度を上昇させることができ、このためNADレベルの低下に起因する皮膚の老化症状の予防剤及び改善剤として有用である。また、これを含有する化粧品組成物及び外用組成物を提供することができる。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0034】
[試験例1:細胞内におけるNAD産生の促進作用の評価]
NAD生合成の前駆体となる化合物群である、ニコチン酸(NA)、ニコチン酸モノヌクレオチド(NAMN)、ニコチン酸リボシド(NAR)、ビタミンEニコチネート(NAVE)、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ニコチンアミドリボシド(NR)を、それぞれ単独で、又は、ヒノキチオールと併せてヒト正常表皮角化細胞(NHEK:Normal Human Epidermal Keratinocyte)に添加した場合の細胞内におけるNAD産生の促進作用を、以下の方法で評価した。
【0035】
NHEK(倉敷紡績株式会社製)を、1.0×10個/ウエルになるように96ウエルプレートに播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。1日後、NA、NAMN、NAR、NAVE、NAM、NMN、NRの各化合物を、単独で、又は、ヒノキチオールを併せて、以下の表1に示す終濃度になるようにそれぞれのウエルに添加した。37℃、5%CO条件下で6時間培養した後、細胞を回収し、Promega社のNAD/NADH-Glo(TM) Assayを用いて細胞内におけるNADの相対的な量を測定した。発光の測定にはSynergyHTXマルチプレートリーダー(BioTek社)を使用した。図1では、コントロールであるNT(化合物もヒノキチオールも添加せず)におけるNADの量を100%として、相対的な細胞内NAD量を縦軸として棒グラフで示した。グラフ中、NT以外では、白い棒グラフは各化合物を単独で添加した場合の相対的なNAD量を示しており、黒い棒グラフは各化合物に加えてヒノキチオールを添加した場合の相対的なNAD量を示している。また、NTでは、白い棒グラフは何も添加していない場合の基準とするNAD量を示しており、黒い棒グラフはヒノキチオールのみを添加した場合の相対的なNAD量を示している。
【0036】
【表1】
【0037】
図1に示すように、化合物を添加せず、ヒノキチオールのみを添加した場合、何も添加しなかった対照に比べて、細胞内のNAD量に有意な差は認められなかったが、NAと共にヒノキチオールを添加すると、NAを単独で添加した場合に比べて、細胞内のNAD量は増加し、NAとヒノキチオールとの相乗効果が認められた。しかし、他のニコチン酸類縁体では、ヒノキチオールとの相乗効果が認められなかった。
このように、細胞内におけるNAD産生に対し、NAとヒノキチオールは相乗的に促進作用を有する。
図1