(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053671
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】紡糸設備、及び紡糸巻取設備
(51)【国際特許分類】
D01D 5/08 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
D01D5/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162853
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】七山 大督
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045CA25
4L045CA28
4L045CA29
4L045CB00
4L045DA24
4L045DA46
4L045DA52
4L045DC05
4L045DC06
4L045DC40
(57)【要約】
【課題】糸の品質が安定しているか否かを人手によらず判定する。
【解決手段】紡糸設備は、紡糸装置2と第1制御部(制御装置5)とを備える。紡糸装置2は、糸Yの材料である溶融ポリマーを吐出するように構成された紡糸口金17を有する紡糸パック16と、紡糸口金17から吐出される糸Yの品質に関する情報を検知可能に構成された情報検知部60とを備える。制御装置5は、情報検知部60による検知結果に基づいて所定の判定パラメータを取得し、判定パラメータを利用して、糸Yの品質が安定しているか否かの良否判定を行う。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を紡出するように構成された紡糸装置を備える紡糸設備であって、
前記紡糸装置は、
前記糸の材料である溶融ポリマーを吐出するように構成された紡糸口金を有する紡糸パックと、
前記紡糸口金から吐出される前記糸の品質に関する情報を検知可能に構成された情報検知部と、を有し、
第1制御部を備え、
前記第1制御部は、
前記情報検知部による検知結果に基づいて所定の判定パラメータを取得し、
前記判定パラメータを利用して、前記糸の品質が安定しているか否かの良否判定を行うことを特徴とする紡糸設備。
【請求項2】
前記情報検知部は、
前記紡糸パックに流れ込む前記溶融ポリマーの圧力を検知するように構成された圧力検知部、及び、前記紡糸口金の表面温度を検知するように構成された温度検知部のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の紡糸設備。
【請求項3】
前記情報検知部は、前記圧力検知部を含むことを特徴とする請求項2に記載の紡糸設備。
【請求項4】
前記紡糸装置は、前記溶融ポリマーを前記紡糸パックへ向けて押し出す押出部を有し、
前記圧力検知部は、前記溶融ポリマーが流れる方向において、前記押出部と前記紡糸パックとの間に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の紡糸設備。
【請求項5】
前記第1制御部は、
前記判定パラメータが所定の基準条件を満たしている状態が所定の基準時間以上続いたときに、前記糸の品質が安定したと判定することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項6】
前記判定パラメータは、前記検知結果を示す数値に関する検知結果パラメータを含み、
前記基準条件は、前記検知結果パラメータが所定の基準検知範囲に収まっているか否かの基準検知条件を含み、
前記第1制御部は、前記検知結果パラメータが前記基準検知範囲に収まっているときに、前記検知結果パラメータが前記基準検知条件を満たしていると判定することを特徴とする請求項5に記載の紡糸設備。
【請求項7】
前記判定パラメータは、前記検知結果を示す数値のばらつきに関するばらつきパラメータを含み、
前記基準条件は、前記ばらつきパラメータが所定の基準ばらつき範囲に収まっているか否かの基準ばらつき条件を含み、
前記第1制御部は、前記ばらつきパラメータが前記基準ばらつき範囲の中に収まっているときに、前記ばらつきパラメータが前記基準ばらつき条件を満たしていると判定することを特徴とする請求項5又は6に記載の紡糸設備。
【請求項8】
前記情報検知部は、前記紡糸パックの内部の圧力を検知するように構成された圧力検知部を含み、
前記ばらつきパラメータは、前記圧力の変動係数を含むことを特徴とする請求項7に記載の紡糸設備。
【請求項9】
前記紡糸装置は、前記紡糸パックが着脱可能に収容されるパックハウジングが形成された紡糸ビームを備え、
前記パックハウジングは、前記紡糸パックとして、互いに異なる太さの糸を紡出するための複数の種類の紡糸パックのうち任意の1つの紡糸パックを収容可能であり、
前記第1制御部は、情報を記憶可能な記憶部を有し、
前記記憶部は、前記変動係数に係る前記基準ばらつき範囲の情報を、前記複数の種類の紡糸パック間で共通の情報として記憶することを特徴とする請求項8に記載の紡糸設備。
【請求項10】
前記紡糸装置は、前記紡糸パックが着脱可能に収容されるパックハウジングが形成された紡糸ビームを備え、
前記パックハウジングは、前記紡糸パックとして、互いに異なる太さの糸を紡出するための複数の種類の紡糸パックのうち任意の1つの紡糸パックを収容可能であり、
前記第1制御部は、情報を記憶可能な記憶部を有し、
前記記憶部は、前記基準時間の情報を、前記複数の種類の紡糸パック間で共通の情報として記憶することを特徴とする請求項5~9のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項11】
前記第1制御部は、
前記糸の品質が安定していると判定した後、前記判定パラメータが前記基準条件を満たさなくなった場合に、前記糸の品質が不安定になったと判定することを特徴とする請求項5~10のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項12】
前記紡糸装置は、複数の前記紡糸パックを備え、
前記複数の紡糸パックは、前記糸として第1の糸を紡出するように構成された第1紡糸パックと、前記第1の糸とは別の第2の糸を紡出するように構成された第2紡糸パックと、を含み、
前記第1の糸及び前記第2の糸を冷却風により冷却するように構成された冷却装置を備え、
前記冷却装置は、
前記第1の糸を囲うように設けられ、前記第1の糸を冷却する前記冷却風を通すように構成された第1冷却筒と、
前記第2の糸を囲うように設けられ、前記第2の糸を冷却する前記冷却風を通すように構成された第2冷却筒と、
前記冷却風が流れる流動方向において、前記第1冷却筒及び前記第2冷却筒の両方の上流側に配置された共通ダクトと、を有し、
前記第1冷却筒は、前記第2冷却筒よりも前記共通ダクトの前記流動方向における下流側の端に近い位置に配置され、
前記情報検知部は、前記第1紡糸パックに対応して設けられていることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項13】
前記紡糸装置は、複数の前記紡糸パックを備え、
前記複数の紡糸パックは、前記糸として第1の糸を紡出するように構成された第1紡糸パックと、前記第1の糸とは別の第2の糸を紡出するように構成された第2紡糸パックと、を含み、
前記情報検知部は、前記第1紡糸パックに対応して設けられた第1検知部と、前記第2紡糸パックに対応して設けられた第2検知部と、を含み、
前記第1制御部は、
前記良否判定として、
前記第1検知部による判定結果を利用して、前記第1の糸の品質が安定しているか否かの第1良否判定を行い、且つ、前記第2検知部による判定結果を利用して、前記第2の糸の品質が安定しているか否かの第2良否判定を行うことを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の紡糸設備と、
前記糸を巻き取ってパッケージを形成する紡糸巻取機と、
第2制御部と、を備える紡糸巻取設備であって、
前記第2制御部は、
前記第1制御部による前記良否判定の結果に基づいて、前記紡糸巻取機の制御、及び前記パッケージのグレードに関する判断のうち、少なくとも一方を実行することを特徴とする紡糸巻取設備。
【請求項15】
前記紡糸巻取機は、
前記糸が巻き取られるボビンを所定の第1ボビンから前記第1ボビンとは別の第2ボビンに切り換えるボビン切換動作を行うことが可能に構成されたボビン切換機構、を有し、
前記第2制御部は、
前記糸の品質が安定したと前記第1制御部によって判定されたときに、前記ボビン切換機構に前記ボビン切換動作を行わせることを特徴とする請求項14に記載の紡糸巻取設備。
【請求項16】
前記第2制御部は、
前記糸の品質が安定したと前記第1制御部によって判定された後で、前記糸の品質が再び不安定になったと前記第1制御部によって判定されたときに、前記ボビン切換機構に再び前記ボビン切換動作を行わせることを特徴とする請求項15に記載の紡糸巻取設備。
【請求項17】
情報を報知するように構成された報知部を備え、
前記第2制御部は、前記第1制御部による前記良否判定の結果に基づいて前記報知部を動作させることを特徴とする請求項14~16のいずれかに記載の紡糸巻取設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を紡出する紡糸設備、及び、紡糸設備によって紡出された糸を巻き取る紡糸巻取設備に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶融紡糸装置(紡糸装置)を有する紡糸設備と、紡糸引取機(紡糸巻取機)と、を備える紡糸巻取設備が開示されている。紡糸装置は、紡糸パックに供給された糸の材料(溶融ポリマー)を紡糸口金から吐出する(糸を紡出する)。紡糸巻取機は、紡糸装置から紡出された糸を巻き取ってパッケージを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紡糸装置から紡出される糸の品質(ある糸における糸の太さのばらつき等)は、紡糸口金の温度等の様々な要因によって変動しうる。特に、紡糸装置から糸が紡出され始めた直後においては紡糸口金の温度等がまだ安定していないため、糸の品質もまだ不安定である。紡糸装置から糸が紡出され始めてから糸の品質が安定するまでには、ある程度の時間がかかる。品質が安定する前に紡出された糸は、一般的にグレードが低いので、品質が安定した後の糸とは分けて取り扱うことが求められる。
【0005】
従来、紡糸装置から紡出され始めた糸の品質は、例えばオペレータの目視により判定され、又は糸が紡出され始めてから所定時間が経過したか否かに基づき管理されてきた。しかしながら、糸の品質が安定しているか否かの判定(以下、良否判定)がオペレータによって行われる場合、オペレータへの負担が大きい等の問題がある。また、時間の経過に基づく管理が行われる場合には、以下のような問題が生じうる。すなわち、糸が紡糸装置から紡出され始めてから糸の品質が安定するまでの所要時間は、糸の銘柄によって大きく異なりうる。このため、銘柄ごとに上記所定時間を管理し又は設定する必要が生じ、オペレータへの負担が大きくなりうる。或いは、糸の品質が実際に安定する前に上記所定時間が経過したとき、品質が安定したと誤判定されるおそれもある。
【0006】
本発明の目的は、糸の品質が安定しているか否かを人手によらず判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の紡糸設備は、糸を紡出するように構成された紡糸装置を備える紡糸設備であって、前記紡糸装置は、前記糸の材料である溶融ポリマーを吐出するように構成された紡糸口金を有する紡糸パックと、前記紡糸口金から吐出される前記糸の品質に関する情報を検知可能に構成された情報検知部と、を有し、第1制御部を備え、前記第1制御部は、前記情報検知部による検知結果に基づいて所定の判定パラメータを取得し、前記判定パラメータを利用して、前記糸の品質が安定しているか否かの良否判定を行うことを特徴とする。
【0008】
本発明では、情報検知部による検知結果を利用して、良否判定を制御部によって行うことができる。したがって、糸の品質が安定しているか否かを人手によらず判定できる。
【0009】
第2の発明の紡糸設備は、前記第2の発明において、前記情報検知部は、前記紡糸パックに流れ込む前記溶融ポリマーの圧力を検知するように構成された圧力検知部、及び、前記紡糸口金の表面温度を検知するように構成された温度検知部のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0010】
紡糸パックに流れ込む溶融ポリマーの圧力は、一般的に溶融ポリマーの粘度と相関する。溶融ポリマーの粘度が不安定である場合、紡糸口金から吐出される溶融ポリマーの吐出量が不安定になり、糸の太さが不安定になる(すなわち、糸の品質が不安定になる)。逆に言えば、溶融ポリマーの圧力が安定していると判定できる場合、糸の品質は安定していると判定できる。したがって、情報検知部として圧力検知部を用いることは有効である。
【0011】
また、溶融ポリマーの粘度は、溶融ポリマーの温度と相関する。溶融ポリマーの温度が不安定である場合、溶融ポリマーの粘度が不安定になり、上述したように糸の品質が不安定になる。紡糸口金の表面温度が安定していると判定できる場合、紡糸口金から吐出される溶融ポリマーの温度が安定しており、糸の品質が安定していると判定できる。したがって、情報検知部として温度検知部を用いることは有効である。
【0012】
第3の発明の紡糸設備は、前記第2の発明において、前記情報検知部は、前記圧力検知部を含むことを特徴とする。
【0013】
一般的に、清掃等のメンテナンスが紡糸口金に対して頻繁に行われるため、紡糸口金の近傍に温度検知部を設置すると、オペレータによる温度検知部の位置調整等の手間が大きくなりうる。一方、一般的に、紡糸パックは、糸の銘柄を変更するとき等の限られたタイミングにおいてのみ交換されるため、紡糸パックに対する作業の頻度は比較的少ない。したがって、圧力検知部を例えば紡糸パックの近傍に設置することにより、温度検知部を紡糸口金の近傍に設ける場合と比べて、オペレータへの負担を小さくすることができる。本発明では、圧力検知部が設けられているので、温度検知部の設置を省くことができる。したがって、情報検知部の設置によって生じうるオペレータへの負担の増大を抑えることができる。
【0014】
第4の発明の紡糸設備は、前記第3の発明において、前記紡糸装置は、前記溶融ポリマーを前記紡糸パックへ向けて押し出す押出部を有し、前記圧力検知部は、前記溶融ポリマーが流れる方向において、前記押出部と前記紡糸パックとの間に配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明では、例えば圧力検知部が紡糸パック内に設けられている場合と異なり、紡糸パックが交換されても圧力検知部を交換する必要が生じない。
【0016】
第5の発明の紡糸設備は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記第1制御部は、前記判定パラメータが所定の基準条件を満たしている状態が所定の基準時間以上続いたときに、前記糸の品質が安定したと判定することを特徴とする。
【0017】
前記判定パラメータが基準条件を満たした瞬間に、直ちに糸の品質が安定したと判定するのでは、誤判定が生じるおそれがある。本発明では、判定パラメータが基準条件を満たし始めてからある程度の時間が経ったときに、糸の品質が安定したと判定される。したがって、誤判定のリスクを低減できる。
【0018】
第6の発明の紡糸設備は、前記第5の発明において、前記判定パラメータは、前記検知結果を示す数値に関する検知結果パラメータを含み、前記基準条件は、前記検知結果パラメータが所定の基準検知範囲に収まっているか否かの基準検知条件を含み、前記第1制御部は、前記検知結果パラメータが前記基準検知範囲に収まっているときに、前記検知結果パラメータが前記基準検知条件を満たしていると判定することを特徴とする。
【0019】
検知結果パラメータは、情報検知部によって紡糸パックの内部の圧力が検知される場合には圧力の値を含み、情報検知部によって紡糸口金の表面温度が検知される場合には温度の値を含む。本発明では、糸の品質が安定しているか否かの簡易的な判定を行うことができる。
【0020】
第7の発明の紡糸設備は、前記第5又は第6の発明において、前記判定パラメータは、前記検知結果を示す数値のばらつきに関するばらつきパラメータを含み、前記基準条件は、前記ばらつきパラメータが所定の基準ばらつき範囲に収まっているか否かの基準ばらつき条件を含み、前記第1制御部は、前記ばらつきパラメータが前記基準ばらつき範囲の中に収まっているときに、前記ばらつきパラメータが前記基準ばらつき条件を満たしていると判定することを特徴とする。
【0021】
ばらつきパラメータは、例えば検知結果を示す数値の分散、標準偏差又は変動係数(標準偏差を平均値で割ることにより得られる値)等を含む。本発明では、糸の品質が安定したか否か精度良く判定できる。
【0022】
第8の発明の紡糸設備は、前記第7の発明において、前記情報検知部は、前記紡糸パックの内部の圧力を検知するように構成された圧力検知部を含み、前記ばらつきパラメータは、前記圧力の変動係数を含むことを特徴とする。
【0023】
ばらつきパラメータとして、例えば紡糸パックの内部の圧力の標準偏差を監視しても良い。しかしながら、一般的に、紡糸パック内の圧力は糸の銘柄(糸の太さ)によって大きく異なりうるため、標準偏差の基準ばらつき範囲も銘柄によって大きく異なりうる。この点、変動係数は、ばらつきの割合を示す値であるため、変動係数の基準ばらつき範囲として、糸の銘柄に依存しない共通の基準を設けることができる。
【0024】
第9の発明の紡糸設備は、前記第8の発明において、前記紡糸装置は、前記紡糸パックが着脱可能に収容されるパックハウジングが形成された紡糸ビームを備え、前記パックハウジングは、前記紡糸パックとして、互いに異なる太さの糸を紡出するための複数の種類の紡糸パックのうち任意の1つの紡糸パックを収容可能であり、前記第1制御部は、情報を記憶可能な記憶部を有し、前記記憶部は、前記変動係数に係る前記基準ばらつき範囲の情報を、前記複数の種類の紡糸パック間で共通の情報として記憶することを特徴とする。
【0025】
本発明では、糸の太さによらず基準ばらつき範囲を一定の範囲にすることができる。したがって、基準ばらつき範囲の管理を効果的に簡易化できる。
【0026】
第10の発明の紡糸設備は、前記第5~第9のいずれかの発明において、前記紡糸装置は、前記紡糸パックが着脱可能に収容されるパックハウジングが形成された紡糸ビームを備え、前記パックハウジングは、前記紡糸パックとして、互いに異なる太さの糸を紡出するための複数の種類の紡糸パックのうち任意の1つの紡糸パックを収容可能であり、前記第1制御部は、情報を記憶可能な記憶部を有し、前記記憶部は、前記基準時間の情報を、前記複数の種類の紡糸パック間で共通の情報として記憶することを特徴とする。
【0027】
本発明では、基準時間の管理を効果的に簡易化できる。
【0028】
第11の発明の紡糸設備は、前記第5~第10のいずれかの発明において、前記第1制御部は、前記糸の品質が安定していると判定した後、前記判定パラメータが前記基準条件を満たさなくなった場合に、前記糸の品質が不安定になったと判定することを特徴とする。
【0029】
本発明では、糸の品質が安定した後で再び不安定化した場合に、何らかの対処を行うことができる。
【0030】
第12の発明の紡糸設備は、前記第1~第11のいずれかの発明において、前記紡糸装置は、複数の前記紡糸パックを備え、前記複数の紡糸パックは、前記糸として第1の糸を紡出するように構成された第1紡糸パックと、前記第1の糸とは別の第2の糸を紡出するように構成された第2紡糸パックと、を含み、前記第1の糸及び前記第2の糸を冷却風により冷却するように構成された冷却装置を備え、前記冷却装置は、前記第1の糸を囲うように設けられ、前記第1の糸を冷却する前記冷却風を通すように構成された第1冷却筒と、前記第2の糸を囲うように設けられ、前記第2の糸を冷却する前記冷却風を通すように構成された第2冷却筒と、前記冷却風が流れる流動方向において、前記第1冷却筒及び前記第2冷却筒の両方の上流側に配置された共通ダクトと、を有し、前記第1冷却筒は、前記第2冷却筒よりも前記共通ダクトの前記流動方向における下流側の端に近い位置に配置され、前記情報検知部は、前記第1紡糸パックに対応して設けられていることを特徴とする。
【0031】
第1冷却筒が共通ダクトに近い位置に配置されている構成では、第1冷却筒に冷却風が比較的供給されやすい可能性がある。このため、第1紡糸パックの紡糸口金が第2紡糸パックの紡糸口金よりも比較的冷えやすい可能性がある。この場合、第1の糸の品質が第2の糸の品質と比べて安定しにくい可能性がある。本発明では、第1の糸の品質に関する情報を情報検知部によって検知することができる。このため、第1の糸の品質が安定していると判定されれば、他の糸の品質も安定していることを保証できる。
【0032】
第13の発明の紡糸設備は、前記第1~第12のいずれかの発明において、前記紡糸装置は、複数の前記紡糸パックを備え、前記複数の紡糸パックは、前記糸として第1の糸を紡出するように構成された第1紡糸パックと、前記第1の糸とは別の第2の糸を紡出するように構成された第2紡糸パックと、を含み、前記情報検知部は、前記第1紡糸パックに対応して設けられた第1検知部と、前記第2紡糸パックに対応して設けられた第2検知部と、を含み、前記第1制御部は、前記良否判定として、前記第1検知部による判定結果を利用して、前記第1の糸の品質が安定しているか否かの第1良否判定を行い、且つ、前記第2検知部による判定結果を利用して、前記第2の糸の品質が安定しているか否かの第2良否判定を行うことを特徴とする。
【0033】
複数の紡糸パックが備えられている構成において、複数の糸のうち2つ以上の糸について良否判定を行うことにより、良否判定の信用性をより高めることができる。
【0034】
第14の発明の紡糸巻取設備は、前記第1~第13のいずれかの発明の紡糸設備と、前記糸を巻き取ってパッケージを形成する紡糸巻取機と、第2制御部と、を備える紡糸巻取設備であって、前記第2制御部は、前記第1制御部による前記良否判定の結果に基づいて、前記紡糸巻取機の制御、及び前記パッケージのグレードに関する判断のうち、少なくとも一方を実行することを特徴とする。
【0035】
本発明では、良否判定の結果をパッケージの取り扱い方に反映させることができる。
【0036】
第15の発明の紡糸巻取設備は、前記第14の発明において、前記紡糸巻取機は、前記糸が巻き取られるボビンを所定の第1ボビンから前記第1ボビンとは別の第2ボビンに切り換えるボビン切換動作を行うことが可能に構成されたボビン切換機構、を有し、前記第2制御部は、前記第1制御部によって前記糸の品質が安定したと判定されたときに、前記ボビン切換機構に前記ボビン切換動作を行わせることを特徴とする。
【0037】
糸の品質が安定するまでの間に形成されたパッケージは、グレードの低いパッケージとして取り扱うことが求められる。本発明では、糸の品質が安定したときにボビン切換動作が行われる。これにより、第1ボビンに糸が巻き取られて形成されたパッケージをグレードの低いパッケージとして取り扱い、第2ボビンに糸が巻き取られて形成されたパッケージをグレードの高いパッケージとして取り扱うことができる。このように、紡糸巻取機の状態を、グレードの低いパッケージが形成されている状態から、グレードの高いパッケージが形成されている状態に自動的に変更することができる。
【0038】
第16の発明の紡糸巻取設備は、前記第15の発明において、前記第2制御部は、前記糸の品質が安定したと前記第1制御部によって判定された後で、前記糸の品質が再び不安定になったと前記第1制御部によって判定されたときに、前記ボビン切換機構に再び前記ボビン切換動作を行わせることを特徴とする。
【0039】
本発明では、何らかの原因によって糸の品質が不安定になってしまったときに、糸が巻き取られるボビンを再び切り換えることができる。これにより、グレードの高いパッケージに品質の悪い糸が混入してしまうことを回避できる。
【0040】
第17の発明の紡糸巻取設備は、前記第14~第16のいずれかの発明において、情報を報知するように構成された報知部を備え、前記第2制御部は、前記第1制御部による前記良否判定の結果に基づいて前記報知部を動作させることを特徴とする。
【0041】
本発明では、形成中のパッケージの品質に関する情報をオペレータ等に報知できる。したがって、パッケージのグレードの管理に関する行動をオペレータ等に促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本実施形態に係る紡糸巻取設備を示す模式的な側面図である。
【
図7】(a)、(b)は、ボビン切換動作を示す説明図である。
【
図8】(a)は、紡糸パックの内部の圧力の時間変化を示すグラフであり、(b)は、当該圧力の変動係数の時間変化を示すグラフである。
【
図10】変形例に係る紡糸装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、本発明の実施の形態について説明する。説明の便宜上、
図1に示す方向を上下方向及び前後方向とする。上下方向は、重力が作用する鉛直方向である。前後方向は、後述するボビンホルダ44が延びる方向である。上下方向及び前後方向の両方と直交する方向を左右方向とする。また、糸Yの走行する方向を糸走行方向とする。
【0044】
(紡糸巻取設備)
本実施形態に係る紡糸巻取設備1の概略について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る紡糸巻取設備1の模式的な側面図である。紡糸巻取設備1は、紡出される糸YをボビンBに巻き取ってパッケージPを形成するように構成されている。
【0045】
紡糸巻取設備1は、紡糸装置2と、冷却装置3と、紡糸巻取機4と、制御装置5(本発明の第1制御部及び第2制御部)とを備える。紡糸装置2は、合成繊維からなる複数の糸Yを紡出する。紡糸装置2は、各糸Yの材料である溶融ポリマーを1以上のフィラメントf(
図2参照)として吐出するように構成されている。冷却装置3は、1以上のフィラメントfを冷却風によって冷却して固化し、複数の糸Yを形成する。紡糸巻取機4は、複数の糸Yを複数のボビンBにそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを同時に形成する。制御装置5は、紡糸装置2、冷却装置3及び紡糸巻取機4の各部を制御するように構成されている。本実施形態では、紡糸装置2と冷却装置3と制御装置5とを合わせたものが紡糸設備100である。
【0046】
図1において、紡糸装置2、冷却装置3及び紡糸巻取機4及び制御装置5が1つずつ図示されている。しかしながら、これには限られない。紡糸巻取設備1は、複数の紡糸装置2、冷却装置3及び紡糸巻取機4及び制御装置5を備えていても良い。また、複数の制御装置5が設けられている場合、複数の制御装置5を統括的に制御する統括制御装置(不図示)が設けられていても良い。
【0047】
(紡糸装置)
紡糸装置2の構成について、主に
図2の概略図を参照しつつ説明する。紡糸装置2は、例えば、ホッパー11と、溶融押出装置12と、ポリマーライン13と、紡糸ビーム14と、複数のギアポンプ15(本発明の押出部。
図2には1つのみ図示されている)と、複数の紡糸パック16(
図4の二点鎖線参照)とを有する。概要として、ホッパー11に入れられた固体状の糸材料が、溶融押出装置12によって溶融されて溶融ポリマーとなり、ポリマーライン13へ押し出される。糸材料の種類として、例えばポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられる。ポリマーライン13へ押し出された溶融ポリマーは、紡糸ビーム14に収容された複数のギアポンプ15によって複数の紡糸パック16へそれぞれ押し出される。各ギアポンプ15に対応する紡糸パック16へ供給された溶融ポリマーは、紡糸パック16に設けられた紡糸口金17から吐出される。
【0048】
ホッパー11は、ポリマーが投入される漏斗状の装置である。溶融押出装置12、ポリマーライン13及び紡糸ビーム14は、それぞれ、不図示のヒータによって所定温度に加熱される。溶融押出装置12は、ポリマーを溶融させてポリマーライン13へ押し出すように構成されている。ポリマーライン13は、枝分かれした複数の流路(不図示)を有し、複数の紡糸パック16に溶融ポリマーを供給するように構成されている。紡糸ビーム14は、下向きに開口した複数の凹状のパックハウジング18を有する。各パックハウジング18の上側にギアポンプ15が配置されている。上下方向において、ギアポンプ15とパックハウジング18との間には、ギアポンプ15から押し出された溶融ポリマーが流れる流路14aが形成されている。複数の紡糸パック16は、複数のパックハウジング18にそれぞれ着脱可能に装着されている。各パックハウジング18は、1つの紡糸パック16を収容することが可能である。複数の紡糸パック16は、上下方向から見たときに、例えばジグザグ状に配置されている(
図4の二点鎖線参照)。各紡糸パック16の内部には、溶融ポリマーが流れ込む流入空間19が形成されている。流入空間19の下側には、溶融ポリマー内の不純物を除去するフィルター(不図示)が設けられている。フィルターの下側(紡糸パック16の下端部)には、溶融ポリマーを吐出するための紡糸口金17が設けられている。紡糸口金17には、紡糸口金17を上下方向に貫通する複数のノズル(不図示)が形成されている。ギアポンプ15によって流入空間19内に供給された溶融ポリマーが、紡糸口金17の複数のノズルを経て下方へ押し出され、1以上のフィラメントfとして吐出される。紡糸口金17から吐出されるフィラメントfの数及び太さ(言い換えると、糸Yの銘柄)は、主に、紡糸口金17に形成されたノズルの数及び開口面積に応じて変わる。つまり、各パックハウジング18に収容されている紡糸パック16を別の種類の紡糸パック16と取り換えることにより、紡出される糸Yの太さを変更することができる。言い換えると、各パックハウジング18は、互いに異なる太さの糸Yを紡出するための複数の種類の紡糸パック16のうち、任意の1つの紡糸パック16を収容可能である。
【0049】
(冷却装置)
冷却装置3の構成について、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
図3は、冷却装置3の側面図である。
図4は、
図3のIV-IV線断面図である。冷却装置3は、複数の紡糸パック16から紡出された溶融ポリマーを冷却して固化させるように構成されている。冷却装置3は、紡糸ビーム14の下方に配置されている。
【0050】
図3に示すように、冷却装置3は、箱体20と、複数の冷却筒21と、複数の仕切筒22とを有する。箱体20の内部空間は、整流板23によって上下に仕切られている。整流板23は、パンチングメタルなどの整流機能を有する材料で形成された部材である。整流板23は、略水平に配置されている。複数の冷却筒21は、箱体20内に収容されている。複数の冷却筒21は、整流板23よりも上側の空間(上部空間)に配置されている。複数の冷却筒21は、複数の紡糸パック16の下側に配置されている。
図4に示すように、複数の冷却筒21は、複数の紡糸パック16の配列に対応して、左右方向に沿ってジグザグ状に配列されている。冷却筒21の壁は、整流板23と同様、パンチングメタル等の整流機能を有する材料で形成されている。複数の仕切筒22は、箱体20内の整流板23よりも下側の空間(下部空間)に配置されている。複数の仕切筒22は、複数の冷却筒21の下側に配置されている。仕切筒22の壁は、冷却筒21とは異なり、空気を通過させない材料で形成されている。糸Yは、紡糸パック16の真下に配置された冷却筒21の内部空間と仕切筒22の内部空間を順に通過する。
【0051】
箱体20の下部の後側部分には、ダクト25(本発明の共通ダクト)が接続されている。ダクト25は、不図示の圧空源に接続されている。圧空源によって、糸Yを冷却するための空気がダクト25内に送られる。空気は、ダクト25内を通って箱体20の下部空間内に供給される。ダクト25は、冷却風が流れる流動方向において、複数の冷却筒21の上流側に(言い換えると、後述する冷却筒21A及び21Bの両方の上流側に)配置されている。
図4に示すように、複数の冷却筒21のうち後側に配置された冷却筒21(例えば冷却筒21A)は、複数の冷却筒21のうち前側に配置された冷却筒21(例えば冷却筒21B)と比べて、流動方向におけるダクト25の下流側の端に近い位置に配置されている。下流側の端は、例えば本実施形態では前側の端を意味する。冷却筒21Aが、本発明の第1冷却筒に相当する。冷却筒21Bが、本発明の第2冷却筒に相当する。また、上述した複数の紡糸パック16のうち、冷却筒21Aの真上に設けられた紡糸パック16Aが、本発明の第1紡糸パックに相当する。複数の紡糸パック16のうち、冷却筒21Bの真上に設けられた紡糸パック16Bが、本発明の第2紡糸パックに相当する。複数の糸Yのうち、紡糸パック16Aから紡出される糸YAが、本発明の第1の糸に相当する。複数の糸Yのうち、紡糸パック16Bから紡出される糸YBが、本発明の第2の糸に相当する。
【0052】
箱体20の下部空間に流入した冷却用の空気は、整流板23を通過して上向きに整流され、箱体20の上部空間へ流れる。箱体20の上部空間に流入した空気は、冷却筒21の壁を通過する際に整流されて、冷却筒21内へ流れ込む。これにより、冷却筒21内において、冷却筒21の外側全周から糸Yに空気が吹き付けられ、糸Yが冷却される。なお、仕切筒22の壁は空気を通過させないため、箱体20の下部空間から仕切筒22内へ直接空気が流れ込むことはない。
【0053】
また、冷却筒21及び仕切筒22の下方には、油剤ガイド26が設けられている(
図3参照)。油剤ガイド26は、糸Yをスムーズに走行させるための油剤を糸Yに付与するように構成されている。
【0054】
(紡糸巻取機)
紡糸巻取機4の構成について、
図1、
図5及び
図6を参照しつつ説明する。
図5は、紡糸巻取機4の正面図である。
図6は、後述する糸寄せ装置47(本発明のボビン切換機構)を示す説明図である。
【0055】
図1及び
図5に示すように、紡糸巻取機4は、第1ゴデットローラ31と、第2ゴデットローラ32と、巻取装置33とを備える。第1ゴデットローラ31は、複数の糸Yを引き取るためのローラである。第1ゴデットローラ31の軸方向は、左右方向と略平行である。第1ゴデットローラ31は、油剤ガイド26の糸走行方向における下流側に配置されている。第1ゴデットローラ31は、巻取装置33の前端部の上方に配置されている。第1ゴデットローラ31は、不図示のモータによって回転駆動される。第2ゴデットローラ32は、第1ゴデットローラ31によって引き取られた複数の糸Yを巻取装置33の上方へ走行させるためのローラである。第2ゴデットローラ32の軸方向は、左右方向と略平行である。第2ゴデットローラ32は、第1ゴデットローラ31よりも上方且つ後方に配置されている。第2ゴデットローラ32は、不図示のモータによって回転駆動される。
【0056】
巻取装置33は、複数の糸Yを複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージPを形成するように構成されている。巻取装置33は、第1ゴデットローラ31及び第2ゴデットローラ32の下側に配置されている。
図1及び
図5に示すように、巻取装置33は、複数の支点ガイド41と、複数のトラバースガイド42と、ターレット43と、2本のボビンホルダ44と、コンタクトローラ45とを備える。
【0057】
複数の支点ガイド41は、糸Yが各トラバースガイド42によって綾振りされる際の支点となるガイドである。複数の支点ガイド41は、前後方向に配列されている。複数の支点ガイド41は、複数の糸Yに対応して個別に設けられている。
【0058】
複数のトラバースガイド42は、複数の糸Yをそれぞれ綾振りするためのガイドである。複数のトラバースガイド42は、前後方向に配列されている。複数のトラバースガイド42は、複数の支点ガイド41に対応して個別に設けられている。各トラバースガイド42は、例えば公知の羽根式のトラバースガイドである。トラバースガイド42は、互いに反対向きに回転する2枚の羽根ガイド46(
図6参照)を有する。羽根ガイド46は、例えばトラバースモータ111(
図1参照)によって駆動される。これにより、糸Yが、支点ガイド41を支点として羽根ガイド46によって前後方向に綾振りされる。糸Yは、前後方向における所定の範囲内で綾振りされる(
図6の綾振り領域Tを参照)。複数のトラバースガイド42の近傍には、後述する糸寄せ装置47(
図6参照)が設けられている。
【0059】
ターレット43は、円板状の部材である。ターレット43の軸方向は、前後方向と略平行である。ターレット43は、ターレットモータ112(
図1参照)によって回転駆動される。2本のボビンホルダ44は、複数のボビンBを前後方向に並べて支持するように構成されている。各ボビンホルダ44の軸方向は、前後方向と略平行である。2本のボビンホルダ44は、ターレット43に回転可能に支持されている。2本のボビンホルダ44は、前後方向から見たときに、ターレット43の中心点を挟んで互いに反対側の位置に配置されている。より具体的には、例えば、一方のボビンホルダ44が最も上側に位置しているとき、他方のボビンホルダ44は最も下側に位置している。各ボビンホルダ44は、複数の糸Yに対して個別に設けられた複数のボビンBを回転可能に支持する。各ボビンホルダ44には、複数の糸Yに対して個別に設けられた複数のボビンBが前後方向に並べて装着されている。2つのボビンホルダ44は、それぞれ、個別の巻取モータ113(
図1参照)によって回転駆動される。コンタクトローラ45は、軸方向が前後方向と略平行なローラである。コンタクトローラ45は、上側のボビンホルダ44のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ45は、上側のボビンホルダ44に支持された複数のパッケージPの表面に接触することで、巻取中のパッケージPの表面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整える。
【0060】
上側のボビンホルダ44が回転駆動されると、トラバースガイド42によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される(巻取処理)。また、パッケージPが満巻きになった場合、ターレット43が回転させられることにより、2本のボビンホルダ44の上下の位置が入れ換わる。これにより、下側に位置していたボビンホルダ44が上側に移動し、このボビンホルダ44に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる。また、満巻きになったパッケージPが装着されたボビンホルダ44は下側に移動し、例えば不図示のパッケージ回収装置によってパッケージPが回収される。
【0061】
図6に示すように、糸寄せ装置47は、トラバースガイド42の近傍に配置されている。糸寄せ装置47は、糸Yが巻き取られるボビンBを切り換えることが可能に構成されている。例えば、
図5に示すように、巻取装置33において、一方のボビンホルダ44Aに装着された複数のボビンB1に複数の糸Yがそれぞれ巻き取られており、且つ、他方のボビンホルダ44Bに複数のボビンB2が装着されている状況を想定する。糸寄せ装置47は、ターレット43及びボビンホルダ44とともに所定の動作を行うことにより、巻取装置33の状態を、ボビンB1に糸Yが巻き取られている状態から、ボビンB2に糸Yが巻き取られている状態に切り換えることが可能である(詳細については後述する)。糸Yが巻き取られるボビンBを切り換えるための巻取装置33の動作を、説明の便宜上、ボビン切換動作と呼ぶ。
【0062】
図6に示すように、糸寄せ装置47は、前後方向に延びたガイド部材51と、複数の糸Yの各々に対応して設けられた複数の保持部材52とを有する。複数の保持部材52の各々は、糸Yを保持するための保持溝53を有する。複数の保持部材52は、例えばエアシリンダ114(
図6参照)によって同時に前後方向に移動駆動される。これにより、各保持部材52は、対応する綾振り領域Tの外側の退避位置(
図6の実線参照)と、当該綾振り領域Tの内側の捕捉位置(
図6の二点鎖線参照)との間で移動可能である。より厳密には、エアシリンダ114は、例えば、エアシリンダ114への圧縮空気の供給及び排出を行うための電磁弁(不図示)が開閉されることにより動作する。
【0063】
(制御装置)
制御装置5は、例えば一般的なコンピュータ装置である。
図1に示すように、制御装置5は、情報を入力するための入力部5aと、情報を出力するための出力部5bと、情報を記憶するための記憶部5cとを有する。入力部5aは、例えば、ボタン(不図示)、タッチパネル(不図示)及びキーボード(不図示)のうち少なくとも1つを有している。出力部5bは、例えばアラームランプ(不図示)及び/又はディスプレイ(不図示)を有している。出力部5bは、音声を出力可能なスピーカ(不図示)を有していても良い。記憶部5cは、紡糸巻取設備1を稼働させるための各種情報を記憶するように構成されている。
【0064】
制御装置5は、紡糸巻取設備1を構成する各部を制御可能に構成されている。例えば、制御装置5は、上述したトラバースモータ111、ターレットモータ112、巻取モータ113(
図1参照)及びエアシリンダ114(
図6参照)の動作を制御する。
【0065】
(ボビン切換動作)
次に、ボビン切換動作について、主に
図6、
図7(a)、(b)の説明図を参照しつつ説明する。
図6、
図7(a)、(b)においては、1つの保持部材52のみを図示しているが、実際には全ての保持部材52が同時に動作する。制御装置5は、例えばパッケージP(
図5参照)が完成したときに、ターレットモータ112、巻取モータ113及びエアシリンダ114の動作を制御し、以下のようなボビン切換動作をターレット43、ボビンホルダ44及び糸寄せ装置47に実行させる。本実施形態では、ターレット43、ボビンホルダ44及び糸寄せ装置47を合わせたものが、本発明のボビン切換機構に相当する。
【0066】
まず、
図5に示すパッケージPの形成(ボビンB1への糸Yの巻き取り)が完了したとき、制御装置5は、ターレットモータ112を制御してターレット43を回転させる。ターレット43が回転すると、
図6に示すように、ボビンB2がトラバースガイド42の近傍に位置する。この状態では、保持部材52は退避位置に位置している。また、糸YはまだパッケージPとつながっており、且つ、トラバースガイド42によって綾振りされている。また、制御装置5は、巻取モータ113を制御して、ボビンB2が装着されたボビンホルダ44Bを回転させる。次に、制御装置5は、エアシリンダ114の動作を制御して、保持部材52を退避位置から捕捉位置に移動させる(
図7(a)参照)。これにより、綾振りされている糸Yが保持部材52の保持溝53に入り込み、保持部材52によって糸Yが捕捉される。糸Yが保持部材52に保持されたとき、糸Yは、トラバースガイド42から外れる。次に、制御装置5は、エアシリンダ114の動作を制御して、保持部材52を捕捉位置から退避位置に移動させる(
図7(b)参照)。これにより、ボビンB2の軸方向における端部に形成されたスリットSに糸Yが引っ掛かる。スリットSに引っ掛かった糸Yの張力が大きくなると、糸Yが切れる。これにより、ボビンB1への糸の巻き取りが終了し、ボビンB2への糸Yの巻き取りを開始することが可能となる。さらに、制御装置5は、エアシリンダ114の動作を制御して、保持部材52を退避位置から捕捉位置へ移動させる(図示省略)。その途中で、糸Yが再びトラバースガイド42によって捕捉され、綾振りされ始める。これにより、ボビンB2への糸の巻き取りが開始される。以上のようにして、ボビン切換機構によるボビン切換動作が実行される。
【0067】
ここで、紡糸装置2から紡出される糸Yの品質(糸Yの太さのばらつき等)は、紡糸口金17の温度等の様々な要因によって変動しうる。特に、紡糸装置2から糸Yが紡出され始めた直後においては紡糸口金17の温度等がまだ安定していないため、糸Yの品質もまだ不安定である。具体的には、溶融ポリマーの温度は溶融ポリマーの粘度と相関する。溶融ポリマーの温度が不安定である場合、溶融ポリマーの粘度が不安定であり、紡糸口金17から吐出される各フィラメントfの太さが不安定になる。その結果、糸Yの品質が不安定になる。紡糸装置2から糸Yが紡出され始めてから糸Yの品質が安定するまでには、ある程度の時間がかかる。品質が安定する前に紡出された糸Yは、一般的にグレードが低いので、品質が安定した後の糸Yとは分けて取り扱うことが求められる。例えば、品質が安定する前の糸Yを上述したボビンB1に巻き取り、品質が安定した後の糸Yを上述したボビンB2に巻き取ると良い。この場合、ボビンB1に糸Yが巻き取られて形成されたパッケージPは、グレードの低いパッケージPとして取り扱われる。
【0068】
従来、紡糸装置2から紡出され始めた糸Yの品質は、例えばオペレータの目視により判定され、又は糸Yが紡出され始めてから所定時間が経過したか否かに基づき管理されてきた。しかしながら、糸Yの品質が安定しているか否かの判定(以下、良否判定)がオペレータによって行われる場合、オペレータへの負担が大きい等の問題がある。また、時間の経過に基づく管理が行われる場合には、以下のような問題が生じうる。すなわち、糸Yが紡糸装置2から紡出され始めてから糸Yの品質が安定するまでの所要時間は、糸Yの銘柄によって大きく異なりうる。このため、銘柄ごとに上記所定時間を管理し又は設定する必要が生じ、オペレータへの負担が大きくなりうる。或いは、糸Yの品質が実際に安定する前に上記所定時間が経過したとき、品質が安定したと誤判定されるおそれもある。そこで、本実施形態では、糸Yの品質が安定しているか否かを人手によらず判定するため、紡糸巻取設備1が以下の構成を備える。
【0069】
(詳細構成)
図2に示すように、紡糸装置2は、糸Yの品質に関する情報を検知可能に構成された情報検知部60を有する。情報検知部60は、例えば、ギアポンプ15から押し出されて紡糸パック16に流れ込む溶融ポリマーの圧力を検知するように構成された圧力センサ61(本発明の圧力検知部)を有する。圧力センサ61は、複数の紡糸パック16のうち、例えば冷却筒21Aの上側に配置された紡糸パック16A(
図4参照)の近傍に設けられている。圧力センサ61は、例えば、溶融ポリマーが流れる方向において、ギアポンプ15と紡糸パック16Aとの間(ギアポンプ15の下流側且つ紡糸パック16Aの上流側)に設けられている。圧力センサ61は、例えば、流路14a内あるいはその近傍に配置されていても良い。圧力センサ61は、検知結果を示す信号を制御装置5に送信するように構成されている。圧力センサ61は、例えば不図示のダイヤフラムと感圧素子とを有する公知のセンサであるが、圧力センサ61の構成はこれに限られない。
【0070】
溶融ポリマーの上記圧力(以下、単に圧力と呼ぶ)は、一般的に溶融ポリマーの粘度と相関する。溶融ポリマーの粘度が不安定である場合、紡糸口金17から吐出される溶融ポリマーの吐出量が不安定になり、糸Yの太さが不安定になる(すなわち、糸の品質が不安定になる)。逆に言えば、圧力が安定している場合、糸Yの品質は安定していると判定できる。
【0071】
制御装置5の記憶部5cには、例えば、糸Yの銘柄と圧力の目標値(上限及び下限)とが関連付けて記憶されている。また、記憶部5cには、例えば、圧力の変動係数(詳細については後述する)の上限値が記憶されている。これらの値は、例えばオペレータが入力部5aを操作することによって設定される。
【0072】
(良否判定)
次に、制御装置5による糸Yの品質の良否判定(圧力センサ61が近傍に設けられた紡糸パック16から紡出されている糸Yの品質が安定しているか否かの判定)の手順について、
図8(a)(b)及び
図9を参照しつつ説明する。本実施形態において、「糸Yの品質が安定している」とは、時間の経過に伴う糸Yの太さの変動が小さいことを意味する。
図8(a)は、紡糸パック16の内部の圧力の時間変化を示すグラフである。当該グラフの横軸は、時刻(具体的には時刻t00~時刻t20)を示している。当該グラフの縦軸は、紡糸パック16の内部の圧力を示している。
図8(b)は、紡糸パック16の内部の圧力の変動係数の時間変化を示すグラフである。当該グラフの横軸は、時刻(具体的には時刻t00~時刻t20)を示している。当該グラフの縦軸は、変動係数を示している。
図9は、良否判定の結果を説明するための表である。
図9には、時刻と、各時刻における検出値判定の結果、ばらつき判定の結果、連続OK回数、連続OK時間及び良否判定の結果が示されている(各項目の詳細については後述する)。
図9においては、説明の便宜上、時刻t00~t13における判定結果のみを示している。制御装置5は、良否判定を行うとき、本発明の第1制御部として機能する。
【0073】
記憶部5cには、上述したように、糸Yの銘柄に応じた圧力の上限値(
図8(a)に示すP1)及び下限値(
図8(a)に示すP2)が記憶されている。また、記憶部5cには、変動係数の上限値(
図8(b)に示すCV1)が記憶されている。CV1の情報は、複数の種類の紡糸パック16間で(つまり、複数の銘柄間で)共通の情報として記憶部5cに記憶されている。また、変動係数の下限値(例えばゼロ)も、記憶部5cに記憶されていても良い。なお、変動係数の下限値に関する情報は、必ずしも記憶部5cに記憶されていなくても良い。この場合、変動係数は一般的にゼロよりも大きいため、変動係数の下限値は実質的にゼロである。
【0074】
また、記憶部5cには、所定の基準時間が記憶されている。概要として、基準時間は、糸Yの品質が安定し始めてから、糸Yの品質が安定したと判定するための基準となる時間の長さである(詳細については後述する)。基準時間は、例えば、複数の種類の紡糸パック16間で(つまり、複数の銘柄間で)共通の情報として記憶部5cに記憶されている。
【0075】
初期状態として、紡糸装置2から糸Yが紡出され始め、紡糸巻取機4によって糸YがボビンB1に巻き取られ始めた状態を想定する。なお、紡糸装置2から糸Yが紡出され始めてから紡糸巻取機4によって糸Yが巻き取られ始めるまでの間には所定の糸掛作業が必要であるが、糸掛作業に関する説明は省略する。
【0076】
制御装置5は、糸掛作業が完了して糸YがボビンB1に巻き取られ始めてから、例えば所定の単位時間dt(
図8(a)、(b)参照)が経過する度に、圧力センサ61による検知結果の情報を取得する。制御装置5は、検知結果の情報に基づき、圧力の検出値(以下、検出圧力値と呼ぶ。本発明の判定パラメータ及び検知結果パラメータ)及び圧力の変動係数(本発明の判定パラメータ及びばらつきパラメータ)を算出して記憶する。検出圧力値は、圧力センサ61による検知結果を利用して算出される圧力の数値である。圧力の変動係数は、圧力の標準偏差を圧力の平均値で割って得られる数値であり、圧力のばらつきを示す値である。ここで、圧力の平均値は、例えば、所定の長さの時間において所定回数取得された複数の検出圧力値の平均値(言い換えれば、移動平均値)を意味する。具体例として、制御装置5は、時刻t00から時刻t04までの間に、圧力センサ61による検知結果の情報を5回取得する。制御装置5は、時刻t00から時刻t04までの間に得られた複数の(ここでは5つの)検出圧力値を算出し、当該複数の検出圧力値に基づいて時刻t04における圧力の平均値及び標準偏差を算出する。制御装置5は、当該平均値及び当該標準偏差に基づいて、時刻t04における圧力の変動係数を算出する。つまり、この例では、圧力の変動係数は、時刻t00~t04に係る検出圧力値が得られたときに初めて算出される(
図8(b)参照)。或いは、制御装置5は、時刻t00から時刻t04までの間に得られた5つの検出圧力値を利用して、圧力の変動係数を直接算出しても良い。その後、同様に、制御装置5は、時刻t01から時刻t05までの間に得られた5つの検出圧力値を利用して、時刻t05における圧力の変動係数を算出する。つまり、制御装置5は、所定の数の検出圧力値を利用して、各時刻における圧力の変動係数を算出する。
【0077】
制御装置5は、単位時間dtが経過する度に、最新の検出圧力値及び最新の変動係数がそれぞれ所定の範囲に収まっているか否か判定する。より具体的には、制御装置5は、検出圧力値が上限(
図8(a)に示すP1)と下限(
図8(b)に示すP2)との間の範囲(基準検知範囲)に収まっているか否か(言い換えると、基準検知条件を満たしているか否か)の検出値判定を行う。
図8(a)に示す例では、制御装置5は、時刻t00からt02までの間、検出圧力値が基準検知範囲に収まっていないため、検出圧力値が基準検知条件(本発明の基準条件)を満たしていない(つまり、検出圧力値が「NG」である)と判定する(
図9参照)。制御装置5は、時刻t03以降、検出圧力値が基準検知範囲に収まっているため、検出圧力値が基準検知条件を満たしている(つまり、検出圧力値が「OK」である)と判定する(
図9参照)。さらに、制御装置5は、変動係数が上限(
図8(b)に示すCV1)と下限(例えばゼロ)との間の範囲(基準ばらつき範囲)に収まっているか否か(つまり、基準条件を満たしているか否か)のばらつき判定を行う。
図8(b)に示す例では、制御装置5は、時刻t00からt03までの間、変動係数が取得されないため、ばらつき判定を行わない(
図9の「-」を参照)。制御装置5は、時刻t04からt07までの間、取得された変動係数が基準ばらつき範囲に収まっていないため、変動係数が基準ばらつき条件(本発明の基準条件)を満たしていない(つまり、変動係数が「NG」である)と判定する(
図9参照)。制御装置5は、時刻t08以降、変動係数が基準ばらつき範囲に収まっているため、変動係数が基準ばらつき条件を満たしている(つまり、変動係数が「OK」である)と判定する(
図9参照)。
【0078】
さらに、制御装置5は、検出圧力値の判定及び変動係数の判定の両方が「OK」であるときに、「OK」と連続的に判定した回数(
図9の「連続OK回数」)を積算する。制御装置5は、検出圧力値の判定及び変動係数の判定のうち少なくとも一方が「NG」である場合には、連続OK回数をゼロに戻す。
図9に示す例では、制御装置5は、時刻t00からt03までの間、変動係数の判定が行われないため、連続OK回数を算出しない。制御装置5は、時刻t04から時刻t07までの間、変動係数の判定が「NG」であるため、連続OK回数の積算値をゼロに維持する。制御装置5は、時刻t08以降、検出圧力値の判定及び変動係数の判定の両方が「OK」であるため、連続OK回数を更新する。なお、連続OK回数は、検出圧力値の判定及び変動係数の判定の両方が「OK」に維持された時間(連続OK時間)として考慮されることもできる。制御装置5は、例えば、単純に、単位時間dtに連続OK回数を掛けて得られる時間を連続OK時間として取得しても良い(
図9参照)。
【0079】
さらに、制御装置5は、連続OK回数が所定の基準回数以上であるか否か(或いは、連続OK時間が所定の基準時間以上であるか否か)に基づき、良否判定を行う。基準回数は、例えば、上述した基準時間を単位時間dtで割ることにより得られる値(整数値)である。ここでは、仮に基準回数を5として説明を進める。
図9に示す例では、制御装置5は、時刻t00からt03までの間、連続OK回数が算出されないため、良否判定を行わない。制御装置5は、時刻t04から時刻t11までの間、連続OK回数が5よりも小さいため、良否判定結果が「NG」であると判定する。制御装置5は、時刻t12以降、連続OK回数が5以上であるため、良否判定結果が「OK」であると判定する。良否判定結果が「OK」であることは、糸Yの品質が安定していることを意味する。連続OK回数が所定の基準回数以上であることは、上述した連続OK時間が基準時間以上続いていることと実質的に同義である。或いは、制御装置5は、連続OK回数に基づいて、実際に連続OK時間を算出しても良い。そして、連続OK時間が基準時間以上であるときに、良否判定結果が「OK」であると判定しても良い。つまり、「連続OK回数が基準回数以上であるとき」及び「連続OK時間が基準時間以上であるとき」のいずれも、本発明の「判定パラメータが所定の基準条件を満たしている状態が所定の基準時間以上続いたとき」に相当する。
【0080】
最後に、制御装置5は、良否判定結果が「OK」であると判定したとき、紡糸巻取機4を制御して、上述したボビン切換動作を紡糸巻取機4に実行させる。制御装置5は、紡糸巻取機4を制御しているとき、本発明の第2制御部として機能する。これにより、品質が安定する前の糸YをボビンB1(本発明の第1ボビン)に巻き取ることができ、品質が安定した後の糸YをボビンB2(本発明の第2ボビン)に巻き取ることができる。
【0081】
以上のように、圧力センサ61による検知結果を利用して、制御装置5によって良否判定を行うことができる。したがって、糸Yの品質が安定しているか否かを人手によらず判定できる。また、良否判定の結果をパッケージPの取り扱い方に反映させることができる。また、ボビンB1に糸Yが巻き取られて形成されたパッケージPをグレードの低いパッケージとして取り扱い、ボビンB2に糸が巻き取られて形成されたパッケージPをグレードの高いパッケージとして取り扱うことができる。このように、紡糸巻取機4の状態を、グレードの低いパッケージPが形成されている状態から、グレードの高いパッケージPが形成されている状態に自動的に変更することができる。
【0082】
また、溶融ポリマーの圧力は、一般的に溶融ポリマーの粘度と相関する。溶融ポリマーの粘度が不安定である場合、紡糸口金17から吐出される溶融ポリマーの吐出量が不安定になり、糸Yの太さが不安定になる(すなわち、糸Yの品質が不安定になる)。逆に言えば、溶融ポリマーの圧力が安定していると判定できる場合、糸Yの品質は安定していると判定できる。したがって、情報検知部60として圧力センサ61を用いることは有効である。
【0083】
また、一般的に、清掃等のメンテナンスが紡糸口金17に対して頻繁に行われるため、紡糸口金17の近傍に温度センサ(後述する温度センサ62)を設置すると、オペレータによる温度センサの位置調整等の手間が大きくなりうる。一方、一般的に、紡糸パック16は、糸Yの銘柄を変更するとき等の限られたタイミングにおいてのみ交換されるため、紡糸パック16に対する作業の頻度は比較的少ない。したがって、圧力センサ61を紡糸パック16の近傍に設置することにより、温度センサを紡糸口金17の近傍に設ける場合と比べて、オペレータへの負担を小さくすることができる。本発明では、圧力センサ61が設けられているので、温度センサの設置を省くことができる。したがって、情報検知部60の設置によって生じうるオペレータへの負担の増大を抑えることができる。
【0084】
また、本実施形態では、圧力センサ61が紡糸パック16に設けられている場合と異なり、紡糸パック16が交換されても圧力センサ61を交換する必要が生じない。
【0085】
また、判定パラメータが基準条件を満たし始めてからある程度の時間が経ったときに、糸Yの品質が安定したと判定される。したがって、誤判定のリスクを低減できる。
【0086】
また、判定パラメータが、検知結果パラメータである圧力検出値を含む。制御装置5は、圧力検出値が基準検知範囲に収まっているときに、圧力検出値が基準検知条件を満たしていると判定する。したがって、糸Yの品質が安定しているか否かの簡易的な判定を行うことができる。
【0087】
また、判定パラメータが、ばらつきパラメータである圧力の変動係数を含む。制御装置5は、圧力の変動係数が基準ばらつき範囲に収まっているときに、圧力の変動係数が基準ばらつき条件を満たしていると判定する。したがって、糸Yの品質が安定しているか否か精度よく判定できる。また、変動係数は、ばらつきの割合を示す値であるため、変動係数の基準ばらつき範囲として、糸の銘柄に依存しない共通の基準を設けることができる。つまり、糸の太さによらず基準ばらつき範囲を一定の範囲にすることができる。したがって、基準ばらつき範囲の管理を効果的に簡易化できる。
【0088】
また、基準時間が、複数の種類の紡糸パック16間で(つまり、複数の銘柄間で)共通の情報として記憶部5cに記憶されている。したがって、基準時間の管理を効果的に簡易化できる。
【0089】
また、圧力センサ61は、紡糸パック16Aに設けられている。紡糸パック16Aは、冷却風の流動方向においてダクト25の下流側の端に近い冷却筒21Aの真上に配置されている。冷却筒21Aがダクト25に近い位置に配置されている構成では、冷却筒21Aに冷却風が比較的供給されやすい可能性がある。このため、紡糸パック16A(
図4参照)の紡糸口金17が、紡糸パック16B(
図4参照)の紡糸口金17よりも比較的冷えやすい可能性がある。この場合、糸YA(
図4参照)の品質が糸YB(
図4参照)の品質と比べて安定しにくい可能性がある。本発明では、糸YAの品質に関する情報を圧力センサ61によって検知することができる。このため、糸YAの品質が安定していると判定されれば、他の糸Yの品質も安定していることを保証できる。
【0090】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0091】
(1)前記実施形態において、制御装置5は、圧力の変動係数をばらつきパラメータとして用いるものとした。しかしながら、これには限られない。制御装置5は、例えば圧力の標準偏差をばらつきパラメータとして用いても良い。なお、圧力の標準偏差は糸Yの銘柄ごとに大きく異なりうる。このため、制御装置5は、圧力の標準偏差をばらつきパラメータとして用いる場合、圧力の標準偏差の基準ばらつき範囲を糸Yの銘柄ごとに個別に設定可能に構成されていると好ましい。なお、制御装置5は、前記実施形態のように圧力の変動係数をばらつきパラメータとして用いる場合でも、基準ばらつき範囲を糸Yの銘柄ごとに個別に設定可能に構成されていても良い。
【0092】
(2)前記までの実施形態において、制御装置5は、判定パラメータとして、検知結果パラメータ及びばらつきパラメータの両方を用いるものとした。しかしながら、これには限られない。制御装置5は、判定パラメータとして、検知結果パラメータ及びばらつきパラメータのうちいずれか一方のみを用いても良い。例えば、制御装置5は、判定パラメータとして圧力の変動係数のみを用いても良い。この場合、糸Yの複数の銘柄間で共通の基準ばらつき範囲のみを基準条件として用いることができるので、基準条件の管理を特に簡易化できる。
【0093】
(3)前記までの実施形態において、情報検知部60が圧力センサ61のみを有するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、
図10に示すように、紡糸巻取設備1aにおいて、紡糸設備100aの紡糸装置2aが有する情報検知部60aは、圧力センサ61に加えて温度センサ62(本発明の温度検知部)を有していても良い。温度センサ62は、例えば公知の熱電対であっても良い。温度センサ62は、例えば紡糸パック16A(
図4参照)の紡糸口金17の下面又は側面に接触するように配置されていても良い。制御装置5は、温度センサ62による検知結果に基づいて、検知結果パラメータ及びばらつきパラメータの少なくとも一方を取得し、当該少なくとも一方を良否判定のために用いても良い。溶融ポリマーの粘度は、溶融ポリマーの温度と相関する。溶融ポリマーの温度が不安定である場合、溶融ポリマーの粘度が不安定になり、上述したように糸Yの品質が不安定になる。紡糸口金17の表面温度が安定していると判定できる場合、紡糸口金17から吐出される溶融ポリマーの温度が安定しており、糸Yの品質が安定していると判定できる。したがって、情報検知部60aとして温度センサ62を用いることは有効である。或いは、情報検知部60aは、温度センサ62のみを有していても良い。すなわち、情報検知部60aは、圧力センサ61及び温度センサ62の少なくとも一方を含んでいても良い。
【0094】
(4)前記までの実施形態において、情報検知部60(又は情報検知部60a)が、冷却筒21Aの真上に配置された紡糸パック16Aの近傍に設けられているものとした。しかしながら、これには限られない。情報検知部60(又は情報検知部60a)は、例えば紡糸パック16Bの近傍に設けられていても良い。或いは、情報検知部60(又は情報検知部60a)は、2つ以上の紡糸パック16(例えば、紡糸パック16A及び16B)のそれぞれの近傍に設けられていても良い。この場合、紡糸パック16Aの近傍に設けられた情報検知部60(又は情報検知部60a)が、本発明の第1検知部に相当する。紡糸パック16Bの近傍に設けられた情報検知部60(又は情報検知部60a)が、本発明の第2検知部に相当する。制御装置5は、紡糸パック16Aの近傍に設けられた情報検知部60(又は情報検知部60a)による検知結果に基づき、紡糸パック16Aから紡出される糸YAの品質が安定しているか否かの第1良否判定を行う。また、制御装置5は、紡糸パック16Bの近傍に設けられた情報検知部60(又は情報検知部60a)による検知結果に基づき、紡糸パック16Bから紡出される糸YBの品質が安定しているか否かの第2良否判定を行う。制御装置5は、第1良否判定及び第2良否判定の両方の結果が「OK」である場合にのみ、紡糸巻取機4にボビン切換動作を行わせても良い。これにより、良否判定の信用性をより高めることができる。或いは、情報検知部60(又は情報検知部60a)は、3つ以上の紡糸パック16の近傍に設けられていても良い。情報検知部60(又は情報検知部60a)は、全ての紡糸パック16の近傍に設けられていても良い。
【0095】
(5)前記までの実施形態において、圧力センサ61が溶融ポリマーの流れる方向においてギアポンプ15と紡糸パック16との間に設けられているものとした。しかしながら、これには限られない。圧力センサ61は、例えば紡糸パック16の内部に設けられていても良い。このような圧力センサ61によって検知される圧力の情報も、本発明の「紡糸パックに流れ込む溶融ポリマーの圧力」の情報に相当する。なお、この場合は、紡糸パック16が交換されるときに、圧力センサ61を有する紡糸パック16を新たに装着する必要が生じる。
【0096】
(6)前記までの実施形態において、制御装置5が、良否判定の結果が「NG」から「OK」に変わるときの例を示した。この他に、制御装置5は、良否判定として、糸Yの品質が安定した後に再び不安定になったことを示す判定を行っても良い。例えば、制御装置5は、判定パラメータのうちいずれか1以上が基準条件を満たさなくなったとき、連続OK回数(又は連続OK時間)をゼロに戻す。制御装置5は、連続OK回数(又は連続OK時間)がゼロに戻ったときに、直ちに良否判定の結果を「NG」としても良い。或いは、連続OK回数(又は連続OK時間)がゼロに戻った後、所定時間が経過するまで良否判定の結果を「OK」に維持しても良い。そして、例えば、所定時間が経過しても連続OK回数が基準回数以上にならなかったとき(又は、連続OK時間が基準時間以上にならなかったとき)、良否判定の結果を「NG」としても良い。これにより、糸Yの品質が安定した後で再び不安定化した場合に、何らかの対処を行うことができる。対処の例として、制御装置5は、良否判定の結果が「OK」から「NG」に変わったときに、紡糸巻取機4に再びボビン切換動作を行わせても良い。これにより、何らかの原因によって糸Yの品質が不安定になってしまったときに、糸Yが巻き取られるボビンBを再び切り換えることができる。したがって、グレードの高いパッケージに品質の悪い糸Yが混入してしまうことを回避できる。
【0097】
(7)制御装置5は、良否判定の結果に基づいて、形成中のパッケージPのグレードに関する判断を行っても良い。例えば、良否判定の結果が「OK」から「NG」に変わったときに、形成中のパッケージPのグレードが下がったと判断しても良い。制御装置5は、良否判定の結果又はパッケージPのグレードに関する判断の結果に基づいて、出力部5bを動作させても良い。制御装置5は、良否判定の結果が変わったときに、形成中のパッケージPのグレードが変わったことを示す出力を出力部5bに実行させても良い。これにより、形成中のパッケージPのグレードに関する情報をオペレータ等に報知できる。したがって、パッケージPのグレードの管理に関する行動をオペレータ等に促すことができる。或いは、制御装置5は、出力部5bの代わりに、例えば、紡糸巻取設備1の稼働状況を管理するための集中管理室(不図示)に設置されたコンピュータ装置(不図示)に良否判定の結果を送信しても良い。当該コンピュータ装置が、集中管理室内にいるオペレータに情報を報知しても良い。この場合、当該コンピュータ装置が本発明の報知部に相当する。制御装置5は、良否判定の結果又はパッケージPのグレードに関する判断の結果に基づいて出力部5bを動作させる場合、紡糸巻取機4に必ずしもボビン切換動作を行わせなくても良い。この場合、制御装置5は、オペレータによって入力部5aに対する入力操作が行われたとき、入力操作に応じて紡糸巻取機4にボビン切換動作を行わせても良い。
【0098】
(8)前記までの実施形態において、制御装置5が良否判定及び紡糸巻取機4の動作の制御を行うものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、上述した統括制御装置(不図示)が、複数の紡糸装置2から情報を取得して、各紡糸装置2に対応する紡糸巻取機4の動作を制御しても良い。この場合、統括制御装置が本発明の第1制御部及び第2制御部に相当する。
【0099】
(9)前記までの実施形態において、良否判定結果が「NG」であるときにも、ボビンBに糸Yが巻き取られているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、良否判定結果が「NG」であるとき、紡糸装置2から紡出される糸Yは、紡糸巻取機4によってボビンBに巻き取られる前に、不図示の吸引装置によって吸引除去されても良い。この場合、良否判定結果が「OK」になったときに、例えばオペレータによって紡糸巻取機4への糸掛作業が行われても良い。但し、糸Yの取り扱いやすさ等を考慮すると、前記までの実施形態のように、糸Yのグレードが低い場合でも、当該糸YをボビンBに巻き取らせる方が好ましい。
【0100】
(10)前記までの実施形態において、紡糸装置2と冷却装置3と制御装置5とを合わせたものが紡糸設備100であるものとした。しかしながら、これには限られない。単に紡糸装置2と制御装置5とを合わせたものが、紡糸設備100として取り扱われても良い。或いは、紡糸設備100は、紡糸装置2及び制御装置5に加えて他の構成要素を有していても良い。
【0101】
(11)前記までの実施形態において、制御装置5が良否判定を行うものとした。しかしながら、これには限られない。制御装置5とは別に、上述した良否判定を実施可能に構成されたコンピュータ装置(不図示)が設けられていても良い。この場合、当該コンピュータ装置が本発明の第1制御部として機能する。この場合、少なくとも紡糸装置2(又は紡糸装置2a)と当該コンピュータ装置とを合わせたものが、本発明の紡糸設備に相当する。また、この場合、制御装置5は本発明の第2制御部としてのみ機能しても良い。
【符号の説明】
【0102】
1 紡糸巻取設備
2 紡糸装置
3 冷却装置
4 紡糸巻取機
5 制御装置(第1制御部、第2制御部)
5b 出力部(報知部)
5c 記憶部
15 ギアポンプ(押出部)
16 紡糸パック
16A 紡糸パック(第1紡糸パック)
16B 紡糸パック(第2紡糸パック)
17 紡糸口金
21A 冷却筒(第1冷却筒)
21B 冷却筒(第2冷却筒)
25 ダクト(共通ダクト)
60 情報検知部
60a 情報検知部
61 圧力センサ(圧力検知部)
62 温度センサ(温度検知部)
B ボビン
B1 ボビン(第1ボビン)
B2 ボビン(第2ボビン)
P パッケージ
Y 糸
YA 糸(第1の糸)
YB 糸(第2の糸)
【手続補正書】
【提出日】2022-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
第2の発明の紡糸設備は、前記第1の発明において、前記情報検知部は、前記紡糸パックに流れ込む前記溶融ポリマーの圧力を検知するように構成された圧力検知部、及び、前記紡糸口金の表面温度を検知するように構成された温度検知部のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
本発明では、形成中のパッケージのグレードに関する情報をオペレータ等に報知できる。したがって、パッケージのグレードの管理に関する行動をオペレータ等に促すことができる。