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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053708
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
F16K31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162909
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】志水 亮介
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062BB21
3H062BB33
3H062CC02
3H062FF40
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】 電動弁におけるシール性能を確保できる。
【解決手段】 電動弁1は、通路ボディ200とバルブユニット100とを組み付けて構成される。通路ボディ200は、取付孔216の内周面に雌ねじ部218を有する。バルブボディ5は、取付孔216に挿通される小径部9と、取付孔216の外部に露出しつつケース76に挿通される大径部7とを有し、小径部9の外周面に雌ねじ部218と螺合する雄ねじ部10が設けられる。電動弁1は、大径部7と通路ボディ200との軸線方向の対向面間に介装されるシールリング220により、通路ボディ200の内部から外部への流体の漏れを規制する第1シール構造と、大径部7の外周面とケース76の内周面との間に介装されるシールリング82により、外部からステータユニット92の内部への外気の侵入を規制する第2シール構造と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路が形成された通路ボディとバルブユニットとを組み付けて構成され、前記バルブユニットがロータユニットとステータユニットとを含む電動弁であって、
前記通路ボディは、前記流体通路と連通する取付孔を有し、
前記ロータユニットは、
前記取付孔に挿入されつつ前記通路ボディに組み付けられるバルブボディと、
前記バルブボディに設けられる弁部の開度を調整する弁体と、
前記弁体を前記弁部の開閉方向に駆動するためのロータと、
前記バルブボディに同軸状に固定され、前記ロータを内包する筒状部材であって、流体の圧力が作用する内部空間と作用しない外部空間とを画定するキャンと、
を含み、
前記ステータユニットは、
前記キャンに同軸状に外挿されるステータと、
前記ステータを内包するケースと、
を含み、
前記通路ボディは、前記取付孔の内周面に雌ねじ部を有し、
前記バルブボディは、前記取付孔に挿通される小径部と、前記取付孔の外部に露出しつつ前記ケースに挿通される大径部とを有し、前記小径部の外周面に前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部が設けられ、
前記小径部の前記取付孔への螺入により前記大径部が前記通路ボディに軸線方向に当接することにより、前記バルブボディの前記取付孔への挿入量が規制され、
前記大径部と前記通路ボディとの軸線方向の対向面間に介装される第1シールリングにより、前記通路ボディの内部から外部への流体の漏れを規制する第1シール構造と、
前記大径部の外周面と前記ケースの内周面との間に介装される第2シールリングにより、外部から前記ステータユニットの内部への外気の侵入を規制する第2シール構造と、
を備えることを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記大径部の外周面に設けられたシール収容部に前記第2シールリングが嵌着され、
前記大径部の前記小径部とは反対側に前記キャンが組み付けられ、
前記大径部の外径が、前記キャンの外径以下であり、
前記大径部における前記シール収容部よりも前記小径部側の軸線方向長さが、前記キャンの軸線方向長さより小さいことを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記キャンが前記大径部に対して溶接により気密に固定され、
前記キャンと前記大径部との溶接部が、前記ケースの内方において前記第2シールリングに対して前記小径部とは反対側に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁。
【請求項4】
前記ロータユニットと前記ステータユニットのそれぞれが前記通路ボディに固定され、
前記ロータユニットは、前記ステータユニットに直接には固定されていないことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電動弁。
【請求項5】
前記バルブボディが、ハウジング部材とバルブシート部材とを同軸状に含み、
前記ハウジング部材は、前記大径部と前記小径部を一体に有する段付円筒状をなし、
前記バルブシート部材は、前記流体通路の上流側に開口する入口ポートと、前記流体通路の下流側に開口する出口ポートと、前記入口ポートと前記出口ポートとを連通させる内部通路に設けられた弁孔と、を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電動弁。
【請求項6】
前記バルブシート部材は、前記小径部に対して内挿される挿通部と、前記小径部から露出する露出部とを有し、
前記挿通部の外径が前記露出部の外径以下であり、前記露出部の外径が前記雄ねじ部の外径よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の電動弁。
【請求項7】
前記露出部における前記挿通部との境界近傍の外周面に凹部が設けられ、
前記小径部の先端部が前記凹部に向けて加締められることで前記バルブシート部材が前記ハウジング部材に固定されていることを特徴とする請求項6に記載の電動弁。
【請求項8】
前記ロータユニットは、
先端部に前記弁体を有し、前記ロータにより駆動される作動ロッドと、
前記ハウジング部材に同軸状に組み付けられ、前記作動ロッドを軸線方向に摺動可能に支持するガイド部材と、
をさらに含み、
前記ガイド部材と前記バルブシート部材が、それぞれ前記ハウジング部材に同軸状に挿通され、前記ハウジング部材に形成された半径方向内向きのフランジ部を間に挟んで軸線方向に対向し、
前記フランジ部は、前記ガイド部材の前記ハウジング部材への挿通長さおよび前記バルブシート部材の前記ハウジング部材への挿通長さのいずれよりも軸線方向に小さいことを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の電動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁に関し、特に電動弁のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
蒸発器等の熱交換器に電動弁を設置する場合、熱交換器に固定される配管ボディに対してバルブユニットを組み付ける(特許文献1参照)。バルブユニットは、弁部を内包するロータユニットと、ステータを内包するステータユニットとを同軸状に組み付けて構成される。配管ボディには冷媒の通路が設けられ、その通路と連通するように取付孔が設けられている。
【0004】
ロータユニットを構成するバルブボディが取付孔に挿入される態様でバルブユニットが配管ボディに組み付けられる。バルブボディの外周面には雄ねじ部が設けられ、取付孔の内周面には雌ねじ部が設けられている。これらのねじ部を螺合させることで、バルブボディが配管ボディに対して締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-32295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような電動弁においてもシール性能は重要である。特許文献1の形態では、バルブボディの外周面に複数のシールリングが嵌着される。バルブボディの外周面と取付孔の内周面との間に第1シールリングが介装されることで、配管ボディの内部から外部への冷媒の漏れを規制する第1シール構造が実現される。また、バルブボディの外周面とステータユニットの内周面との間に第2シールリングが介装されることで、外部からステータユニットの内部への外気の侵入を規制する第2シール構造が実現される。
【0007】
しかしながら、特許文献1の形態では、ねじ部と第1シール構造とが軸線方向に隣接しており、第1シール構造が適用される取付孔の内径(つまりシール面の内径)と雄ねじ部の外径との寸法差が小さい。このため、バルブボディを取付孔に挿入する際に、雄ねじ部が取付孔に接触してシール面を傷つけ、第1シール構造の性能を低下させる虞があった。
【0008】
本発明の目的の一つは、電動弁におけるシール性能を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、流体通路が形成された通路ボディとバルブユニットとを組み付けて構成され、バルブユニットがロータユニットとステータユニットとを含む電動弁である。通路ボディは、流体通路と連通する取付孔を有する。ロータユニットは、取付孔に挿入されつつ通路ボディに組み付けられるバルブボディと、バルブボディに設けられる弁部の開度を調整する弁体と、弁体を弁部の開閉方向に駆動するためのロータと、バルブボディに同軸状に固定され、ロータを内包する筒状部材であって、流体の圧力が作用する内部空間と作用しない外部空間とを画定するキャンと、を含む。ステータユニットは、キャンに同軸状に外挿されるステータと、ステータを内包するケースと、を含む。
【0010】
通路ボディは、取付孔の内周面に雌ねじ部を有する。バルブボディは、取付孔に挿通される小径部と、取付孔の外部に露出しつつケースに挿通される大径部とを有し、小径部の外周面に雌ねじ部と螺合する雄ねじ部が設けられる。小径部の取付孔への螺入により大径部が通路ボディに軸線方向に当接することにより、バルブボディの取付孔への挿入量が規制される。この電動弁は、大径部と通路ボディとの軸線方向の対向面間に介装される第1シールリングにより、通路ボディの内部から外部への流体の漏れを規制する第1シール構造と、大径部の外周面とケースの内周面との間に介装される第2シールリングにより、外部からステータユニットの内部への外気の侵入を規制する第2シール構造と、を備える。
【0011】
この態様によると、第1シール構造および第2シール構造により、電動弁におけるシール性能が確保される。第1シールリングを取付孔の外部に配設するため、第1シールリングの対向面(シール面)が雄ねじ部によって傷つけられることもなく、第1シール構造の性能を良好に維持できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動弁におけるシール性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る電動弁の構造を表す断面図である。
図2】バルブユニットの構造を表す断面図である。
図3】ハウジング部材の構造を詳細に表す図である。
図4】電動弁の組立方法を表す図である。
図5】電動弁の組立方法を表す図である。
図6】ロータユニットの通路ボディへの組付過程詳細を表す図である。
図7図2のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る電動弁の構造を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その膨張弁として機能する。
【0016】
電動弁1は、バルブユニット100と通路ボディ200とを組み付けて構成される。バルブユニット100は、ロータユニット90とステータユニット92とを含む。詳細については後述するが、ロータユニット90とステータユニット92のそれぞれが、通路ボディ200に固定される。ステータユニット92は、接続部材101を介して通路ボディ200に固定される。接続部材101は、ステータユニット92に固着される金属プレート103と、金属プレート103を通路ボディ200に固定するためのねじ105を含む。
【0017】
通路ボディ200は、例えばアルミニウム合金などの金属からなり、概略角柱形状をなしている。通路ボディ200の側部には、導入ポート202、導出ポート204、導入ポート206および導出ポート208が設けられている。導入ポート202には凝縮器側から延びる配管が接続され、導出ポート204には蒸発器の入口につながる配管が接続される。導入ポート206には蒸発器の出口につながる配管が接続され、導出ポート208には圧縮機側へ延びる配管が接続される。
【0018】
通路ボディ200には、導入ポート202と導出ポート204とをつなぐ第1通路210と、導入ポート206と導出ポート208とをつなぐ第2通路212が形成されている。第1通路210および第2通路212は「流体通路」として機能する。第1通路210と第2通路212は、隔壁214により上下に離隔されている。通路ボディ200の上部には、取付孔216が上方に向けて開口している。取付孔216は、第1通路210と連通している。取付孔216の開口端近傍には、雌ねじ部218が形成されている。
【0019】
バルブユニット100は、弁部を収容するバルブボディ5を有する。バルブボディ5の外周面には、雌ねじ部218と螺合可能な雄ねじ部10が形成されている。バルブユニット100を通路ボディ200に組み付ける際には、シールリング20(Oリング)を取り付けたバルブボディ5を取付孔216に挿入する。雄ねじ部10と雌ねじ部218とを螺合させ、バルブボディ5を通路ボディ200に締結させる。
【0020】
通路ボディ200の上面には、取付孔216をとり囲むように環状のシール収容部222(環状溝)が設けられており、シールリング220(Oリング)が嵌着されている。バルブボディ5を通路ボディ200に締結させたとき、通路ボディ200の上面とバルブボディ5との間にシールリング220が介装される。シールリング220は「第1シールリング」として機能し、通路ボディ200の内部から外部への冷媒の漏れを規制する「第1シール構造」を構成する。シールリング20は、弁部の上流側通路と下流側通路との間をシールする。
【0021】
図2は、バルブユニット100の構造を表す断面図である。
バルブユニット100は、ロータユニット90とステータユニット92とを同軸状に組み付けて構成される。ロータユニット90とステータユニット92とは直接的には固定されておらず、それぞれが通路ボディ200に固定されることで間接的に固定される(詳細後述)。
【0022】
ロータユニット90がバルブボディ5を有する。バルブボディ5は、ハウジング部材6とバルブシート部材8とを同軸状に組み付けて構成される。ハウジング部材6およびバルブシート部材8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。バルブシート部材8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。ハウジング部材6はバルブシート部材8よりも溶接性に優れ、バルブシート部材8はハウジング部材6よりも加工性に優れている。
【0023】
ハウジング部材6は、大径部7と小径部9を一体に有し、外径が下方に向けて小さくなる段付円筒状をなす。小径部9は、大径部7よりも軸線方向に短い。大径部7の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。大径部7の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。小径部9の外周面に雄ねじ部10が形成されている。図1にも示したように、小径部9の取付孔216への螺入により大径部7が通路ボディ200に軸線方向に当接することにより、バルブボディ5の取付孔216への挿入量が規制される。
【0024】
ハウジング部材6の下部(小径部9の内方)には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。バルブシート部材8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に挿通されている。すなわち、バルブシート部材8は、小径部9に対して内挿される挿通部11と、小径部9から露出する露出部13とを有する。露出部13の外径は、雄ねじ部10の外径よりも小さい。
【0025】
本実施形態では、挿通部11の外径と露出部13の外径とが等しくされており、露出部13における挿通部11との境界近傍の外周面に環状の凹部15が設けられている。そして、小径部9の先端部が凹部15に向けて半径方向内向きに加締められることでバルブシート部材8がハウジング部材6に固定されている。
【0026】
バルブシート部材8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。バルブシート部材8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。
【0027】
バルブシート部材8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。入口ポート26が導入ポート202に連通し、出口ポート28が導出ポート204に連通する(図1参照)。バルブシート部材8には入口ポート26と出口ポート28とを連通させる内部通路が形成されている。ハウジング部材6およびバルブシート部材8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0028】
バルブボディ5の内方には、ロータユニット90のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱して弁部を開閉する。
【0029】
ハウジング部材6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ハウジング部材6の上部(大径部7の内方)には、円穴状の凹状嵌合部35が設けられている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が凹状嵌合部35の上部中央に挿入され、加締め接合により同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。回転軸62は非磁性金属からなる。
【0030】
ガイド部材36とバルブシート部材8は、それぞれハウジング部材6に同軸状に挿通され、ハウジング部材6に形成された半径方向内向きのフランジ部33を間に挟んで軸線方向に対向する。フランジ部33の厚み(軸線方向長さ)は、ガイド部材36のハウジング部材6への挿通長さよりも小さく、またバルブシート部材8のハウジング部材6への挿通長さよりも小さい。
【0031】
ロータユニット90のロータ60と、ステータユニット92のステータ64とは、二相ステッピングモータを構成する。ロータユニット90は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置する。キャン66の外方にステータ64が配置されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0032】
キャン66は、非磁性金属(例えばSUS)からなり、その下部がハウジング部材6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が規制される。キャン66の下端とハウジング部材6との境界に沿って溶接(全周溶接)が施されることにより(図示略)、バルブボディ5とキャン66との固定および気密性(シール)が実現されている。バルブボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0033】
ステータ64は、コイル68が巻回されたボビン70を、複数の極歯を有するヨーク72に組み付けて構成される。ステータ64は、ケース76に内包されている。ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」又は「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。ステータユニット92は、ステータ64とケース76との一体部品(本実施形態ではモールド成形品)である。
【0034】
ステータユニット92は、中空構造を有し、ステータ64がキャン66を同軸状に挿通しつつロータユニット90に組み付けられている。ハウジング部材6における係止部52のやや下方の外周面にシール収容部80が形成され、シールリング82が嵌着されている。大径部7の外周面とケース76の内周面との間にシールリング82が介装される。シールリング82は「第2シールリング」として機能し、外部からステータユニット92の内部への外気の侵入を規制する「第2シール構造」を構成する。
【0035】
キャン66は、大径部7の上端部、つまり小径部9とは反対側に組み付けられている。そして、キャン66と大径部7との溶接部が、ケース76の内方においてシールリング82に対して小径部9とは反対側に位置する。すなわち、その溶接部が第2シール構造よりもケース76の軸線方向内方に位置するため、外部から侵入する水分に触れることもなく、その腐食が防止される。
【0036】
本実施形態では、大径部7の外径をキャン66の外径と等しくしているが、キャン66の外径より小さくしてもよい。大径部7におけるシール収容部80よりも小径部9側の軸線方向長さが、キャン66の軸線方向長さよりも十分に小さい。このため、シールリング82をロータユニット90に取り付ける際には、シールリング82を小径部9側からバルブボディ5に外挿して組み付けることとなる。なお、大径部7におけるシール収容部80のやや下方には、いわゆるDカットによる一対の凹部84が設けられているが、これについては後述する。
【0037】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。センサマグネット106は円環状をなし、ロータコア102に同軸状に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。
【0038】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0039】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0040】
ステータユニット92は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、樹脂製の蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0041】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0042】
ボビン70からはコイル68につながる端子120が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子122」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部124が一体に設けられ、そのコネクタ部124の内方に接続端子122が配置されている。
【0043】
次に、本実施形態のシール性能を実現するための構造について詳細に説明する。
図3は、ハウジング部材6の構造を詳細に表す図である。(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は平面図、(D)は側面図である。(E)は(B)のC-C矢視断面図であり、(F)は(C)のD-D矢視断面図である。
【0044】
ハウジング部材6は、段付円筒状をなし、軸線Lに対して対称な構造を有する。シール収容部80は、円形の環状溝である。一対の凹部84は、いわゆるDカットにより互いに平行な面を有する。所定の工具で一対の凹部84を挟むようにしてハウジング部材6を把持し、軸線Lを中心に回転させることができる。なお、変形例においては、ハウジング部材6に横孔をあけ、その横孔に所定の工具を挿通させてもよい。それにより、工具とともにハウジング部材6を回転させてもよい。また、Dカットなどの凹部を設けることなく、工具によりハウジング部材6を把持して回転させてもよい。
【0045】
図4および図5は、電動弁1の組立方法を表す図である。各図(A),(B)はその組付過程を示す。
電動弁1の組立に際しては、通路ボディ200、ロータユニット90およびステータユニット92のそれぞれを個別に作製する。そして、ロータユニット90とステータユニット92のそれぞれを通路ボディ200に固定する。
【0046】
図4(A)に示すように、まず通路ボディ200のシール収容部222にシールリング220を嵌着する。ロータユニット90には、シールリング20,82を嵌着しておく。続いて、図4(B)に示すように、ロータユニット90をバルブボディ5の先端側から取付孔216に挿入する。このとき、雄ねじ部10を雌ねじ部218に螺合させ、ロータユニット90を回転させながら通路ボディ200に組み付ける。
【0047】
図5(A)に示すように、ロータユニット90を通路ボディ200に締結することで、シールリング220が適度に押し潰され、第1シール構造が有効に機能するようになる。また、シールリング20によるシール機能も有効に発揮される。そして、ステータユニット92をキャン66に同軸状に外挿させつつロータユニット90に組み付ける。なお、この組み付けに先立って、ステータユニット92のケース76には、金属プレート103が溶着等により固定されている。
【0048】
図5(B)に示すように、ねじ105により金属プレート103を通路ボディ200に締結することで、ステータユニット92が通路ボディ200に固定される。その結果、ロータユニット90とステータユニット92も間接的に固定される。このとき、シールリング82がバルブボディ5の外周面とケース76の内周面との間で適度に押し潰されることで、第2シール構造も有効に機能するようになる。
【0049】
図6は、ロータユニット90の通路ボディ200への組付過程詳細を表す図である。図6(A)~(C)は、図4(B)および図5(A)のE部拡大に対応する。
図6(A)および(B)に示すように、バルブボディ5が取付孔216に挿入される過程において、バルブボディ5は通路ボディ200に締結される直前までシールリング220には干渉しない。図6(C)に示すように、バルブボディ5が通路ボディ200に締結される直前からその締結が完了する僅かな間において、シールリング220がバルブボディ5により軸線方向に押し潰されることとなる。
【0050】
このため、ロータユニット90が通路ボディ200に組み付けられる過程において、シールリング220の反力がねじ部に作用することは実質的にない。すなわち、シールリング220の反力により雄ねじ部10と雌ねじ部218との摩擦を大きくすることがないため、ねじ部の摩耗を抑制できる。その結果、ねじ部の摩耗によるコンタミの発生ひいてはそのコンタミによる弁閉性能の低下を防止できる。
【0051】
図7は、図2のB部拡大図である。
本実施形態では、ステータユニット92のケース76内に回路基板118を簡易に固定する構造を採用する。
【0052】
図2にも示したように、ケース76の上部の特定位置には、軸線と平行に延びる挿通孔94が設けられている。この挿通孔94に収容したコイルスプリング96を利用し、回路基板118のグランドライン(図示略)とステータ64とを導通させることで、電動弁1による電磁干渉を低減している。このグランドラインは、グランド端子に接続されている。コイルスプリング96は、導電性を有するステンレス鋼(ばね鋼)からなり、「導電部材」および「弾性部材」として機能する。
【0053】
具体的には、回路基板118の下面に形成されたグランドラインとヨーク72の上端面とがコイルスプリング96を介して導通する。コイルスプリング96は、回路基板118およびヨーク72のそれぞれに対して弾性的に接触する。このため、導電部材の倒れ等が生じることもなく、その導通状態を安定に維持できる。
【0054】
このような構成において、回路基板118が、蓋体77とコイルスプリング96との間に挟まれるようにして安定に固定される。すなわち、図7(A)に示すように、回路基板118は、ケース76内のリブ79に載置されるところ、蓋体77を組み付ける前はコイルスプリング96の付勢力により、リブ79から若干浮いた状態となる。この状態から蓋体77をケース76に対して上方から組み付ける。
【0055】
蓋体77の下面の周縁部近傍には、ケース76の上端開口部と嵌合するリブ83が下方に突設されている。リブ83の下面において回路基板118を挟んでコイルスプリング96と対向する位置には、微小な突起85が設けられている。突起85は尖頭形状を有する。蓋体77をケース76に嵌合させたとき、蓋体77の周縁部は図示のように、ケース76の上面から若干浮いた状態となる。
【0056】
この状態から蓋体77をコイルスプリング96の付勢力に抗してケース76に押し付け、蓋体77とケース76との周縁部(当接部)に沿って上方からレーザを照射することで両者を溶着させる。このとき、図7(B)に示すように、突起85の先端が若干押し潰される態様で、回路基板118がリブ79とリブ83との間に挟持され、安定に固定される。すなわち、本実施形態では、加締めやねじ止め等の固定手段を要することなく、蓋体77のケース76への固定を利用して回路基板118を固定できる。
【0057】
以上のように構成された電動弁1は、ロータユニット90の駆動制御によってその弁開度を調整可能な電動膨張弁として機能する(図1図2参照)。すなわち、図示しない外部装置からの指令に基づき、制御部は、目標開度を実現するための制御量(モータの駆動ステップ数)を設定し、これを実現するための駆動信号を駆動回路に出力する。駆動回路は、各コイル68に設定されたタイミングで二相の駆動電流(駆動パルス)を供給する。それにより、ロータ60が高分解能にて回転する。このとき、弁体34が弁座24から離間した開弁状態であれば、スプリング116の付勢力によりストッパ114が回転軸62に当接し、作動ロッド32ひいては弁体34が、ロータ60と一体に動作する。
【0058】
ロータ60は、ガイド部材36との間のねじ送り機構109により上下方向に動作する。弁体34が弁部の開閉方向に並進し、弁部の開度が設定開度に調整される。このねじ送り機構109は、ロータ60の軸線周りの回転運動を作動ロッド32の軸線運動(直進運動)に変換し、弁体34を弁部の開閉方向に駆動する。電動弁1が膨張弁として機能するとき、弁部は小開度に制御される。制御部は、磁気センサ119の検出信号に基づいてセンサマグネット106の回転角度(ロータ60の回転角度)を検出し、弁開度を算出できる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、シールリング220による第1シール構造と、シールリング82による第2シール構造により、電動弁1におけるシール性能が確保される。シールリング220を取付孔216の外部に配設したため、シールリング220の対向面(シール面)が雄ねじ部10によって傷つけられることもなく、第1シール構造の性能を確保できる。また、バルブボディ5とキャン66との溶接部は水分によって腐食し易いところ、その溶接部をシールリング82よりもケース76の内方に配置したことで第2シール構造が有効に機能し、その腐食を防止できる。
【0060】
また、第1シール構造を取付孔216の外部に設けたことで、小径部9にシールリングを組み付ける必要がなくなり、その軸線方向の長さを小さくできる。すなわち、バルブボディ5を軸線方向にコンパクトに構成でき、材料コストの低減につながる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0062】
上記実施形態では、ロータユニット90およびステータユニット92のそれぞれを通路ボディ200に組み付けることで、両者を間接的に固定する構成を例示した。変形例においては、ロータユニットをステータユニットに直接固定してバルブユニットとし、そのバルブユニットを通路ボディに組み付けてもよい。ロータユニットとステータユニットとを接続部材を介するなどして固定してもよい。その場合にも、上記実施形態と同様の第1シール構造および第2シール構造が確保される。
【0063】
上記実施形態では、取付孔216の開口端近傍に雌ねじ部218を設けたが、その開口端から離隔した位置に設けてもよい。取付孔216の開口端部に段差を設け、その段差部に雌ねじ部を設けてもよい。ただし、バルブボディ5の小型化の観点からは、雌ねじ部218を取付孔216の開口端近傍に設けるのが好ましい。
【0064】
上記実施形態では、ハウジング部材6とバルブシート部材8とを同軸状に組み付けてバルブボディ5を構成する例を示した。変形例においては、単一部材を切削加工するなどしてバルブボディを成形してもよい。
【0065】
上記実施形態では、バルブシート部材8において挿通部11と露出部13の外径を等しくする構成を例示した。変形例においては、挿通部11の外径を露出部13の外径より小さくしてもよい。それにより、ハウジング部材6における小径部9の厚みを確保し、雄ねじ部10の強度を確保してもよい。あるいは、雄ねじ部10の強度が十分であることを前提に小径部9の外径をさらに小さくしてもよい。
【0066】
上記実施形態では、ハウジング部材6とバルブシート部材8とを加締め接合する構成を例示した。変形例においては、ハウジング部材6の凹状嵌合部16にバルブシート部材8の挿通部11を圧入して両者を固定してもよい。
【0067】
上記実施形態では、電動弁1として、弁体34が弁座24に着脱して弁部を開閉する構成を例示した。変形例においては、弁体が弁孔に挿抜されて弁部を開閉するスプール弁としてもよい。弁体は、弁孔に接離して弁部を開閉し、また弁部の開度を調整するものでよい。ここで、「接離」とは接近又は離間することを意味し、弁座に着脱する場合と弁孔に挿抜される場合の双方を含む。スプール弁とする場合、閉弁状態においても流体の漏洩を許容する所定のクリアランスが形成されるものでもよい。
【0068】
上記実施形態では、極歯を有するヨークを含むステータとした。変形例においては、積層コアを含むステータなどでもよい。
【0069】
上記実施形態では、ステータユニット92を二相ステッピングモータとしたが、三相ステッピングモータとして構成してもよい。
【0070】
上記実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁として構成してもよい。
【0071】
上記実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルにコンデンサに代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0072】
上記実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、給湯装置の湯水や油圧制御装置の作動液(作動油)など冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成してもよい。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 電動弁、5 バルブボディ、6 ハウジング部材、7 大径部、8 バルブシート部材、9 小径部、10 雄ねじ部、11 挿通部、13 露出部、15 凹部、16 凹状嵌合部、18 シール収容部、20 シールリング、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、33 フランジ部、34 弁体、35 凹状嵌合部、36 ガイド部材、60 ロータ、62 回転軸、64 ステータ、66 キャン、68 コイル、70 ボビン、72 ヨーク、76 ケース、77 蓋体、79 リブ、80 シール収容部、82 シールリング、83 リブ、84 凹部、85 突起、90 ロータユニット、92 ステータユニット、94 挿通孔、96 コイルスプリング、100 バルブユニット、101 接続部材、106 センサマグネット、109 ねじ送り機構、118 回路基板、119 磁気センサ、200 通路ボディ、202 導入ポート、204 導出ポート、206 導入ポート、208 導出ポート、210 第1通路、212 第2通路、216 取付孔、218 雌ねじ部、220 シールリング、222 シール収容部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7