(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005371
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】車両用ダクト
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
B60H1/00 102R
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107231
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229069
【氏名又は名称】株式会社セキソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 専治
(72)【発明者】
【氏名】間 亮介
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA14
3L211BA21
3L211DA14
(57)【要約】
【課題】 外面に生じる結露を抑制でき、且つ車室内へ伝搬する騒音を低減させた安価な車両用ダクトを提供する。
【解決手段】 車両用ダクト1は、不織布から構成された管状部10を有し、管状部10の周壁部の通気抵抗値Rが、1.5kPa・m/s以上であり、且つ8kPa・m/s以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布から構成された管状部を有し、
前記管状部の周壁部の通気抵抗値が、1.5kPa・m/s以上であり、且つ8kPa・m/s以下である、車両用ダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の空気調和装置の本体部から吐出された温度調整済の空気を車室内へ導入するための車両用ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の空気調和装置から吐出された温度調整済の空気を車室内へ導入するための車両用ダクト(以下、「従来装置」と称呼する。)が知られている(下記特許文献1を参照)。従来装置は、所定の方向に延びる管状部と、当該管状部を覆う被覆部を有する。管状部は、合成樹脂製であり、被覆部は、ポリウレタン製である。すなわち、被覆部は、発泡体である。このような発泡体は、断熱性及び吸音性を有する。よって、従来装置によれば、管状部の外周面に結露が生じることを抑制するとともに、従来装置の周囲の装置から発生された騒音が管状部を介して車室へ伝搬することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
(発明が解決しようとする課題)
上記のように、従来装置は、主に2つの部品(つまり、管状部及び被覆部)から構成されている。よって、管状部のみからなる車両用ダクト(被覆部を有しない車両用ダクト)に比べて、部品点数が多く、その製造コストが高い。また、空気調和装置から吐出された空気が管状部内を流通することに起因する気柱共鳴、及び空気調和装置(ブロワー)自体の動作音、振動などに起因する騒音を抑制する手段を有していない。すなわち、従来装置を用いた場合、騒音が車室内へ伝搬される。
【0005】
本発明は上記課題に対処するためになされたもので、その目的は、外面に生じる結露を抑制でき、且つ車室内へ伝搬する騒音を低減させた安価な車両用ダクトを提供することにある。
【0006】
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用ダクトは、不織布から構成された管状部を有し、管状部の周壁部の通気抵抗値が、1.5kPa・m/s以上であり、且つ8kPa・m/s以下である。
【0007】
上記のように、本発明に係る車両用ダクトの管状部は、不織布から構成されている。すなわち、管状部は、微細な通気孔を有している。よって、管状部内を流通する空気の一部が通気孔から外側へ漏れる。管状部内の空気柱が振動している状態において、管状部内の空気の一部が通気孔から漏れ出す際、空気の粘性抵抗(摩擦)の作用により、空気柱の振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて消散される。さらに、従来装置のような合成樹脂製の管状部に比べて、本発明に係る管状部の内壁面の面粗度が大きい。よって、管状部内の空気柱が振動している状態において、当該空気柱の外周側の空気層と、管状部の内壁面との間の摩擦の作用により、空気柱の振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて消散される。
【0008】
ここで、上記の振動エネルギーの熱エネルギーへの変換効率は、管状部の周壁部の通気抵抗値(通気し難さ)に相関している。すなわち、車両用ダクトの吹き出し口における騒音の音量(車室内に伝搬する騒音の音量)は、通気抵抗値に相関している。
【0009】
また、上記のように、管状部内を流通する空気の一部が、通気孔から外側へ漏れ出るので、吹き出し口から吐出される風量は、空気調和装置の吐出口から吐出された風量に比べて少ない。この風量低減率(空気調和装置の吐出口から吐出された風量に対する、吹き出し口から吐出される風量の比は、通気抵抗値に相関している。
【0010】
通気抵抗値と、騒音の音量及び風量低減率との関係を検討した結果、管状部の周壁部の通気抵抗値を「1.5kPa・m/s以上、且つ8kPa・m/s」に設定することにより、空気漏れを許容範囲内に抑制しつつ、騒音の音量を低減できた。すなわち、本発明に係る車両用ダクトの管状部自体が車内へ伝搬する騒音を抑制する機能を有している。よって、合成樹脂製の管状部に気柱共鳴を抑制するための専用の装置(部品)を付加した場合に比べて、本発明に係る車両用ダクトの部品点数が少ない。
【0011】
また、不織布を構成する繊維間の空気の層が断熱層として機能する。そのため、管状部が合成樹脂製である場合に比べて、不織布製である本発明に係る管状部の外周面における結露量が少ない。すなわち、本発明に係る車両用ダクトの管状部自体が結露を抑制する機能を有している。よって、合成樹脂製の管状部に結露を抑制するための専用の装置(部品)を付加した場合に比べて、本発明に係る車両用ダクトの部品点数が少ない。
【0012】
なお、車両用ダクトの周囲の装置から騒音が生じた場合、その騒音(空気振動)が車両用ダクトの外周面に到達する。その空気と、面粗度の比較的大きい管状部の外周面との間に生じる摩擦の作用により、当該騒音のエネルギー(空気の振動エネルギー)が熱エネルギーに変換されて消散される。よって、本発明によれば、車両用ダクトの周囲の装置から発生された騒音が管状部を介して車室へ伝搬することを抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用ダクトの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用ダクト1について説明する。車両用ダクト1は、車両のダッシュボードの前側(車室とは反対面側)に配置される。車両用ダクト1は、車両の空気調和装置から吐出された温度調整済の空気を車室へ導入するための管体である。
【0015】
車両用ダクト1は、管状部10を有する。管状部10は、車幅方向に略直線状に延びる直線部11と、直線部11の両端から後方(ダッシュボード側)へそれぞれ延びる湾曲部12a,12bを有する。湾曲部12aの先端は、下方へ向けて開放されており、湾曲部12bの先端は、後方へ向けて開放されている。
【0016】
湾曲部12aの先端部が、空気調和装置の吐出口の周辺部に固定され、湾曲部12bの先端部が、ダッシュボードの端部に設けられた吹き出し口の周辺部に固定される。管状部10の両端部が上記のように固定された状態において、管状部10の一端が、空気調和装置の吐出口に連通し、管状部10の他端が、ダッシュボードの吹き出し口に連通している。空気調和装置から吐出された温度調整済の空気が、
図1に示したように、湾曲部12a、直線部11及び湾曲部12bの順に流通し、吹き出し口から車室内へ供給される。
【0017】
車両用ダクト1は、不織布製であり、一体的に形成されている。なお、管状部10の外周面には、従来装置のような被覆部は設けられず、管状部10が露出している。
【0018】
上記のように、車両用ダクト1(管状部10の周壁部)は、不織布から構成されている。すなわち、当該周壁部は、微細な通気孔H(
図2を参照)を有しているため、管状部10内を流通する空気の一部が通気孔Hから外側へ漏れる。管状部10内の空気柱が振動している状態において、管状部10内の空気の一部が通気孔Hから漏れ出す際、空気の粘性抵抗(摩擦)の作用により、空気柱の振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて消散される。すなわち、気柱共鳴の音量が低減される。
【0019】
ここで、上記の振動エネルギーの熱エネルギーへの変換効率は、管状部10の周壁部の通気抵抗値R(通気し難さ)に相関している。すなわち、吹き出し口における騒音の音量(車室内に伝搬する騒音の音量)Nは、通気抵抗値R(不織布を構成する繊維の密度)に相関している。
【0020】
また、上記のように、管状部10内を流通する空気の一部が、通気孔Hから外側へ漏れ出るので、吹き出し口から吐出される風量は、空気調和装置の吐出口から吐出された風量に比べて減少している。この風量低減率(空気調和装置の吐出口から吐出された風量W0に対する、吹き出し口から吐出される風量Wの比(=W/W0))は、通気抵抗値Rに相関している。
【0021】
そこで、管状部10の通気抵抗値Rの異なる複数の車両用ダクト1(1a,1b,1c,1d,1e,1f)を製造し、これらのダクトに通気した場合の騒音の音量N、風量低減率W/W0及び結露量Cをそれぞれ測定した。また、管状部10を合成樹脂材で構成した車両用ダクトXも製造し、そのダクトに通気した場合の騒音の音量N及び風量低減率W/W0を測定した。
【0022】
車両用ダクト1a乃至車両用ダクト1g、及び車両用ダクトXの一端から所定の風量(1m
3/min)の空気を供給して各ダクト内に空気を流通させ、各ダクトの他端における音量(音圧)を、騒音計を用いて計測した。その結果を
図3に示す。同図に示したように、通気抵抗値Rが「8kPa・m/s」以下である車両用ダクト1(1a乃至1g)を用いた場合の騒音の音量Nは、目標値である車両用ダクトXを用いた場合の音量N(「99dB(A)」)以下であった。すなわち、車両用ダクトXを用いた場合に比べて、騒音の音量Nを1.7~5.5dB(A)程度低減できた。
【0023】
なお、
図4に示したように、車両用ダクト1d(通気抵抗値R=3,3kPa・m/s)を用いた場合、車両用ダクトXを用いた場合に比べて、可聴帯域の略全体に亘り、騒音が低減されている。
【0024】
また、車両用ダクト1a乃至車両用ダクト1gの一端から所定の風量W0(1m
3/min)の空気を供給して各ダクト内に空気を流通させ、各ダクトの他端における風量Wをそれぞれ測定し、風量低減率W/W0を計算した。その結果を
図5に示す。同図に示したように、通気抵抗値Rが「1.5kPa・m/s」未満である車両用ダクト1(1a)の風量低減率W/W0は、「3%」以上であった。すなわち、この場合、不織布を構成する繊維間の空隙が比較的大きく、当該空隙から、比較的多量の空気が外側へ漏れ出てしまっている。一方、通気抵抗値Rが「1.5kPa・m/s」以上である車両用ダクト1(1b乃至1g)の風量低減率W/W0は、目標値である「3%以下」であった。
【0025】
上記の実験結果から、管状部10の周壁部の通気抵抗値Rを「1.5kPa・m/s以上、且つ8kPa・m/s」(好ましくは、「3kPa・m/s以上、且つ6kPa・m/s」以下)に設定することにより、空気漏れを許容範囲内に抑制しつつ、騒音の音量N(気柱共鳴)を低減できることが分かった。すなわち、車両用ダクト1b乃至車両用ダクト1gの管状部自体が気柱共鳴を抑制する機能を有している。よって、合成樹脂製の管状部に気柱共鳴を抑制するための専用の装置(部品)を付加した場合に比べて、本発明に係る車両用ダクトの部品点数が少ない。
【0026】
また、不織布を構成する繊維間の空気の層が断熱層として機能する。そのため、管状部10が合成樹脂製である場合に比べて、不織布製である本実施形態の管状部10の外周面における結露量Cを低減できた。
【0027】
具体的には、以下のようにして結露量Cを測定した。車両用ダクト1d及び車両用ダクトXの一端から所定の風量(1m
3/min)の空気を供給して各ダクト内に空気を流通させた。その空気の温度は0℃である。また、外気(ダクトの周囲)の温度を40℃に設定するとともに、湿度を95%に設定した。空気を流通させる前のダクトの重量M0を測定しておき、空気の流通を開始してから20分後のダクトの重量Mを再測定した。重量Mと重量M0との差分が、結露量Cである。このようにして求めた結露量Cを
図6に示す。同図に示したように、車両用ダクト1dの結露量Cは、車両用ダクトXの結露量Cの「28%(=5.9g/20.6g」程度であった。すなわち、本実施形態に係る車両用ダクト1dの管状部10自体が結露を抑制する機能を有している。よって、合成樹脂製の管状部に結露を抑制するための専用の装置(部品)を付加した場合に比べて、車両用ダクト1dの部品点数が少ない。
【0028】
なお、車両用ダクト1dへの空気の流通を開始してから20分後において、車両用ダクト1dの外表面が湿っている状態であった。車両用ダクトXへの空気の流通を開始してから20分後において、車両用ダクトXの外表面に水滴が付着している状態であった。また、いずれのダクトからも水滴が滴下するには至らなかった。
【0029】
なお、車両用ダクト1(1b乃至1g)の周囲の装置から発生された騒音が生じた場合、その騒音(空気振動)が車両用ダクト1の外周面に到達する。その空気と、面粗度の比較的大きい管状部10の外周面との間に生じる摩擦の作用により、前記騒音のエネルギー(空気の振動エネルギー)が熱エネルギーに変換されて消散される。よって、本実施形態によれば、車両用ダクト1の周囲の装置から発生された騒音が管状部10を介して車室へ伝搬することを抑制することもできる。
【0030】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0031】
図1に示した車両用ダクト1は一例であり、管状部10の形状は、上記実施形態(
図1)に限られず、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…車両用ダクト、10…管状部、C…結露量、H…通気孔、N…音量、R…通気抵抗値